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特開2024-123352創薬スクリーニング方法及び脊椎動物細胞への遺伝子導入方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123352
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】創薬スクリーニング方法及び脊椎動物細胞への遺伝子導入方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/85 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240905BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240905BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240905BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240905BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240905BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240905BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C12N15/85 Z
C12N5/10
C12Q1/02
C12N15/09 100
C12N15/31
C12N15/12
C12N15/55
C12N15/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030686
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】521240929
【氏名又は名称】川上 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良知
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ43
4B063QS38
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の組織特異的な発現を、生きている脊椎動物の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供する。
【解決手段】本発明は、DNA構築物を脊椎動物細胞に導入する工程と、目的タンパク質の組織特異的な発現の程度を観察する工程とを含む創薬スクリーニング方法である。DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA構築物を脊椎動物細胞に導入する工程と、
目的タンパク質の組織特異的な発現の程度を観察する工程を含み、
前記DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、前記目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、前記外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する、創薬スクリーニング方法。
【請求項2】
前記遺伝子断片は、前記外来遺伝子断片の下流に、蛍光タンパク質遺伝子、発光タンパク質遺伝子、活性酸素産生遺伝子及び薬剤耐性遺伝子から選択される選択マーカー遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項3】
前記遺伝子断片は、前記外来遺伝子断片の下流に、酵母転写因子GAL4をコードするGAL4遺伝子をさらに含み、
前記選択マーカー遺伝子は、前記GAL4遺伝子の下流に配される、請求項2に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項4】
ゲノム編集法によって前記DNA構築物を構築する工程をさらに含む、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項5】
前記ゲノム編集法は、CRISPRを介した遺伝子編集、Base Editor(塩基エディター)を介した遺伝子編集、Cre/loxPを介した遺伝子編集、及びPrime editorから選択される1種以上を含む、請求項4に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項6】
前記ゲノム編集法は、CRISPRを介した遺伝子編集であり、
前記CRISPRを介した遺伝子編集は、CRISPR/Cas9を介した遺伝子編集、CRISPR/Cas9nを介した遺伝子編集、及びCRISPR/Cas12aを介した遺伝子編集から選択される1種以上を含む、請求項5に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項7】
前記外来遺伝子断片がアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)をコードするDNA断片である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項8】
前記一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち、5’側の塩基配列の長さが180bp以上である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項9】
前記一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち、3’側の塩基配列の長さが140bp以上である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項10】
前記外来遺伝子断片の長さが700bp以上164kbp以下である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項11】
前記DNA構築物を用いて前記脊椎動物内で配列番号2のアミノ酸配列であるトランスポゼースを提供するDNA配列のコドンは、導入する前記脊椎動物の種類に最適化したものである、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項12】
前記DNA構築物を用いてゼブラフィッシュDanio rerio内でTol2トランスポゾンを転移誘導するトランスポゼースのアミノ酸配列において、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比べたときのN末端の欠失は、3アミノ酸残基以下である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項13】
前記DNA構築物を用いてゼブラフィッシュDanio rerio内でTol2トランスポゾンを転移誘導するトランスポゼースのアミノ酸配列において、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比べたときのC末端の欠失は、9アミノ酸残基以下である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項14】
前記脊椎動物細胞は、魚類の受精卵、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)、ヒト由来HeLa細胞、ヒト由来子宮内膜細胞、ヒトリンパ細胞、及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から選択される1種以上である、請求項1に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項15】
前記脊椎動物細胞が魚類の受精卵である、請求項13に記載の創薬スクリーニング方法。
【請求項16】
DNA構築物を脊椎動物細胞に導入する工程を含み、
前記DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、前記外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する、脊椎動物細胞への遺伝子導入方法。
【請求項17】
魚類の受精卵、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)、ヒト由来HeLa細胞、ヒト由来子宮内膜細胞、ヒトリンパ細胞、及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から選択される1種以上にDNA構築物が導入されており、
前記DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、前記目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、前記外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する、組換え脊椎動物細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬スクリーニング方法及び脊椎動物細胞への遺伝子導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19を引き起こすウイルスSARS-CoV-2のヒト細胞への感染は、ウイルス外膜のスパイクタンパク質(Sタンパク質)とヒト細胞表面に存在するACE2(angiotensin-converting enzyme 2)受容体との結合が引き金となる。ACE2受容体に結合したSタンパク質は、タンパク質分解酵素であるTMPRSS2により切断されて活性化され、ウイルス外膜と細胞膜との融合を促進することにより、ウイルスはヒト細胞へと侵入する。このようにSARS-CoV-2への感染はACE2とTMPRSS2を発現する細胞において起こるが、TMPRSS2は広汎な細胞に発現が見られており、ACE2の発現が主にSARS-CoV-2への感染を規定している。
【0003】
ヒトACE2遺伝子は、小腸・十二指腸・大腸の腸上皮細胞や、腎臓、精巣、胆嚢、心臓などの一部の細胞に特に強く発現するが、一部の鼻粘膜上皮細胞や肺胞細胞にも発現している。COVID-19の主な症状である呼吸器系の症状はこの鼻粘膜上皮細胞や肺胞細胞への感染を通じて生じると考えられるが、下痢などの症状が出るケースもあり、SARS-CoV-2はACE2の発現を利用して種々の細胞に入り込み増殖し、その機能を撹乱するものと考えられている。
【0004】
また、ACE2は角膜で強く発現されていることも報告されており、眼がSARS-CoV-2感染の入り口になりうる可能性も提唱されている。小児では鼻粘膜上皮細胞におけるACE2の発現が低いという報告もあり、このACE2の低発現が小児での流行が抑制されている理由である可能性もある。
【0005】
このように、ある特定の組織におけるACE2の発現を調節することが可能であれば、感染リスクの低減、重症化の抑制につながるものと考えられる。
【0006】
ここで、ACE2の発現と機能についてマウスを用いた個体レベルでの研究が進められている(特許文献1/非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hongpeng Jia et al., ACE2 mouse models: a toolbox for cardiovascular and pulmonary research, Nature Communications 11, 5165 (2020)
【非特許文献2】Koga, et al., Transposable element in fish, Nature, 383, 30 (1996)
【非特許文献3】Kawakami, K., Shima, A., and Kawakami, Identification of a functional transposase of the Tol2 element, an Ac-like element from the Japanese medaka fish, and its transposition in the zebrafish germ lineage, N. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 11403-11408 (2000)
【非特許文献4】Kawakami, K. and Noda, T., Transposition of the Tol2 element, an Ac-like element from the Japanese medaka fish Oryzias latipes, in mouse embryonic stem cells. Genetics 166, 895-899 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の研究は、マウスACE2プロモーターで行われたものであり、ヒトプロモーターを用いて行われたものではない。また、ACE2の発現を、個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価するシステムは存在しなかった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の組織特異的な発現を、生きている脊椎動物の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
メダカ(Oryzias latipes)は、東アジアに生息する魚である。メダカのi遺伝子座の変異は、メラニン欠乏症及び赤目を生じさせる。このi遺伝子座は、チロシナーゼの遺伝子をコードしていることが知られている。図1は、トランスポゾンの全体構造を示す。図1の太線部分がトランスポゾンを表し、網掛け部分が転移酵素遺伝子のエキソンを表し、矢印が転移酵素遺伝子の転写を表す。白抜き三角はトランスポゾン両端の繰り返し配列を表し、網掛け三角はトランスポゾンに隣接するゲノム上の繰り返し配列を表す。また、ATGは開始であり、TAGは終止コドンである。
【0011】
図1に示すように、i遺伝子座のアレル変異体のひとつであるiから約4.7kbのDNAがクローニングされ、トランスポゾン様の配列を有しているとされていた。即ち、ショウジョウバエのhobo、トウモロコシの実のAcやキンギョソウのTam3などのhATファミリーのトランスポゾンのトランスポザーゼ(transposases)に類似したオープンリーディングフレーム及び両端に逆転した配列の繰り返し(terminal inverted repeats)を有していた。メダカのこのエレメントは、Tol2と命名された。実験室で使用されるメダカは、一倍体(haploid)のゲノム当たり約10コピー有している(上述の非特許文献2)。また、Tol2トランスポゾンは、ゼブラフィッシュ細胞(上述の非特許文献3)及びマウスES細胞(上述の非特許文献4)において転移することが確認されている。
【0012】
そこで、本発明者らは、トランスポゾンを用いて脊椎動物の遺伝子構造を改変する技術を使用することで上記の課題を解決できる可能性を見出し、実際に鋭意研究を重ねた結果、上記の課題を解決できることの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明者らは、ACE2遺伝子の発現を誘導するプロモーター領域の単離に成功した。図2は、ヒトとゼブラフィッシュのACE2遺伝子のプロモーター領域を示す。図2のうち、上の図は、ゼブラフィッシュACE遺伝子とプロモーター領域の模式図であり、下の図は、ヒトACE遺伝子とプロモーター領域の模式図である。図2において、緑色がタンパク質をコードする遺伝子のエキソン-イントロン構造を示し、水色が転写を制御するプロモーター領域を示す。魚類においてace2遺伝子は消化管上皮細胞に特異的に発現するが、本発明者らは、魚類の一つであるゼブラフィッシュace2遺伝子の翻訳開始点より上流4,630bpからなるプロモーター領域、及びヒトACE2遺伝子の翻訳開始点より上流5,770bpからなるプロモーター領域が、共にゼブラフィッシュにおいて消化管上皮細胞に選択的な発現を誘導することの知見を得、ヒトACE2プロモーターを用いたACE2の発現を、個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価するシステムを提供できるに至った。
【0014】
具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0015】
第1の特徴に係る発明は、DNA構築物を脊椎動物細胞に導入する工程と、目的タンパク質の組織特異的な発現の程度を観察する工程を含み、前記DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、前記目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、前記外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0016】
第1の特徴に係る発明によると、外来遺伝子断片の配列に含まれる組織特異的プロモーター配列が脊椎動物の所定細胞に目的タンパク質の選択的な発現を誘導する。これにより、ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の発現を、生きている脊椎動物の個体レベル、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【0017】
第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記遺伝子断片は、前記外来遺伝子断片の下流に、蛍光タンパク質遺伝子、発光タンパク質遺伝子、活性酸素産生遺伝子及び薬剤耐性遺伝子から選択される選択マーカー遺伝子をさらに含む、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0018】
第2の特徴に係る発明によると、脊椎動物の所定細胞において、組織特異的な発光、活性酸素の酸性又は薬剤耐性がみられるため、目的タンパク質の発現の程度をより短時間で評価可能な創薬スクリーニングシステムを、脊椎動物の個体レベルで提供できる。
【0019】
第3の特徴に係る発明は、第2の特徴に係る発明であって、前記遺伝子断片は、前記外来遺伝子断片の下流に、酵母転写因子GAL4をコードするGAL4遺伝子をさらに含み、前記選択マーカー遺伝子は、前記GAL4遺伝子の下流に配される、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0020】
第3の特徴に係る発明によると、目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片に、酵母転写因子GAL4のDNA結合配列をコードするGAL4又はGAL4を改変した遺伝子を組み込むことができる。脊椎動物の所定細胞において、当該転写因子に誘導された選択マーカーが組織特異的に発現する。
【0021】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれか1つの特徴に係る発明であって、ゲノム編集法によって前記DNA構築物を構築する工程をさらに含む、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0022】
第5の特徴に係る発明は、第4の特徴に係る発明であって、前記ゲノム編集法は、CRISPRを介した遺伝子編集、Base Editor(塩基エディター)を介した遺伝子編集、Cre/loxPを介した遺伝子編集、及びPrime editorから選択される1種以上を含む、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0023】
第6の特徴に係る発明は、第5の特徴に係る発明であって、前記ゲノム編集法は、CRISPRを介した遺伝子編集であり、前記CRISPRを介した遺伝子編集は、CRISPR/Cas9を介した遺伝子編集、CRISPR/Cas9nを介した遺伝子編集、及びCRISPR/Cas12aを介した遺伝子編集から選択される1種以上を含む、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0024】
第4から第6の特徴に係る発明によると、ゲノム編集法を用いた遺伝子ノックインによって目的タンパク質の発現の程度をより短時間で評価可能な創薬スクリーニングシステムを、脊椎動物の個体レベルにてより低毒性に、かつ、ハイスループットで提供できる。
【0025】
第7の特徴に係る発明は、第1から第6のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記外来遺伝子断片がアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)をコードするDNA断片である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0026】
第7の特徴に係る発明によると、外来遺伝子断片の配列に含まれる組織特異的プロモーター配列が脊椎動物の所定細胞にアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)の選択的な発現を誘導する。これにより、ヒトゲノムDNAプロモーターを用いたACE2の発現を、脊椎動物の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【0027】
ACE2遺伝子は、元々アンジオテンシンIIの不活性化に関わる酵素として同定された。レニン-アンジオテンシン・アルドステロン系は、主に血圧や細胞外容量の調節に関わり、アンジオテンシンIIは血圧の上昇を引き起こす。アンジオテンシンIIの活性化を担うAce遺伝子の阻害剤やアンジオテンシンII受容体であるAT1R遺伝子のブロッカーは、高血圧やアテローム動脈硬化性心血管疾患に治療に使用されている。Ace2ノックアウトマウスでは心不全等の異常が生じることが知られており、これはアンジオテンシンIIの恒常的活性化によるものと考えられている。
【0028】
このことから、第7の特徴に係る発明によると、消化管特異的ace2プロモーター活性を利用した細胞、又は遺伝子組換え動物を用いて、ace2遺伝子の発現制御を指標にした、COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2への感染抑制薬の開発や、血圧調節薬、及び心血管疾患治療薬の開発に繋がり得る。
【0029】
第8の特徴に係る発明は、第1から第7のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち、5’側の塩基配列の長さが180bp以上である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0030】
第9の特徴に係る発明は、第1から第8のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち、3’側の塩基配列の長さが140bp以上である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0031】
第8及び第9の特徴に係る発明によると、脊椎動物の所定細胞に目的タンパク質を選択的に発現可能な創薬スクリーニングシステムを、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の長さを不必要に長くすることなく提供できる。
【0032】
第10の特徴に係る発明は、第1から第9のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記外来遺伝子断片の長さが700bp以上164kbp以下である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0033】
第10の特徴に係る発明によると、外来遺伝子断片が、700bp程度の相対的に短い場合であっても、あるいは164kbp程度の非常に長い場合であっても、個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能なシステムを利用可能である。これにより、第10の特徴に係る発明によると、挿入可能な外来遺伝子断片の汎用性が非常に高い評価システムを提供できる。
【0034】
第11の特徴に係る発明は、第1から第10のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記DNA構築物を用いて前記脊椎動物内で配列番号2のアミノ酸配列であるトランスポゼースを提供するDNA配列のコドンは、導入する前記脊椎動物の種類に最適化したものである創薬スクリーニング方法を提供する。
【0035】
第12の特徴に係る発明は、第1から第11のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記DNA構築物を用いてゼブラフィッシュDanio rerio内でTol2トランスポゾンを転移誘導するトランスポゼースのアミノ酸配列において、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比べたときのN末端の欠失は、3アミノ酸残基以下である創薬スクリーニング方法を提供する。
【0036】
第13の特徴に係る発明は、第1から第12のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記DNA構築物を用いてゼブラフィッシュDanio rerio内でTol2トランスポゾンを転移誘導するトランスポゼースのアミノ酸配列において、配列番号2に記載のアミノ酸配列と比べたときのC末端の欠失は、9アミノ酸残基以下である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0037】
トランスポゼース活性は、転移酵素遺伝子のcDNAを鋳型とし試験管内で転写したmRNA、転移酵素遺伝子のcDNAを組み込んだ発現プラスミド、又は転移酵素遺伝子のcDNAをゲノムに組み込んだトランスジェニック動物などの方法で供給される。
【0038】
第11から第13の特徴に係る発明によると、脊椎動物の任意の細胞でトランスポゾン転移酵素の活性(転移活性)が認められるシステムを、脊椎動物の種類に最適化し、また、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の長さをできるだけ短くしつつ提供できる。
【0039】
第14の特徴に係る発明は、第1から第13のいずれか1つの特徴に係る発明であって、前記脊椎動物細胞は、魚類の受精卵、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)、ヒト由来HeLa細胞、ヒト由来子宮内膜細胞、ヒトリンパ細胞、及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から選択される1種以上である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0040】
第15の特徴に係る発明は、第14の特徴に係る発明であって、前記脊椎動物細胞が魚類の受精卵である、創薬スクリーニング方法を提供する。
【0041】
第14及び第15の特徴に係る発明によると、ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の発現を、生きている脊椎動物である魚類等の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【0042】
第16の特徴に係る発明は、DNA構築物を脊椎動物細胞に導入する工程を含み、前記DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、前記外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する、脊椎動物細胞への遺伝子導入方法を提供する。
【0043】
第17の特徴に係る発明は、魚類の受精卵、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)、ヒト由来HeLa細胞、ヒト由来子宮内膜細胞、ヒトリンパ細胞、及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から選択される1種以上にDNA構築物が導入されており、前記DNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、前記目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む遺伝子断片が挿入され、前記外来遺伝子断片の配列が脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する、組換え脊椎動物細胞を提供する。
【0044】
第16及び第17の特徴に係る発明によると、外来遺伝子断片の配列に含まれる組織特異的プロモーター配列が脊椎動物の所定細胞に目的タンパク質の選択的な発現を誘導する。これにより、ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の発現を、生きている脊椎動物の個体レベル、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によると、ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の組織特異的な発現を、生きている脊椎動物の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、トランスポゾンの全体構造である。
図2図2は、ヒトとゼブラフィッシュのACE2遺伝子のプロモーター領域を説明するための模式図である。図2のうち、上の図は、ゼブラフィッシュACE遺伝子とプロモーター領域の模式図であり、下の図は、ヒトACE遺伝子とプロモーター領域の模式図である。
図3図3は、ノックイントランスジェニックゼブラフィッシュにおいて、ゼブラフィッシュace2遺伝子がゼブラフィッシュの消化管上皮細胞に特異的に発現したことを示す図である。図3のうち、上の図は、ノックイントランスジェニックフィッシュ5日胚の明視野画像であり、下の図は、ノックイントランスジェニックフィッシュ5日胚の蛍光画像である。
図4図4は、ゼブラフィッシュace2プロモーター活性によってゼブラフィッシュace2遺伝子がゼブラフィッシュの消化管上皮細胞に特異的に発現したことを示す図である。図4のうち、上の図は、トランスジェニックフィッシュ5日胚の明視野画像であり、下の図は、トランスジェニックフィッシュ5日胚の蛍光画像である。
図5図5は、ヒトace2プロモーター活性によってヒトACE2遺伝子がゼブラフィッシュの消化管上皮細胞に特異的に発現したことを示す図である。
図6図6は、試験例1-4において、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子ノックインの概要を説明するための図である。図6のうち、上の図は、ゼブラフィッシュACE2遺伝子の構造を示し、下の図は、ノックインに用いたプラスミドの構造を示す。
図7図7は、試験例2において、5’末端側を内側から短くしたことを説明するための図である。
図8図8は、試験例2において、5’末端側の長さと転移活性との関係を示す図である。
図9図9は、試験例2において、3’末端側を内側から短くしたことを説明するための図である。
図10図10は、試験例2において、3’末端側の長さと転移活性との関係を示す図である。
図11図11は、試験例3において、5’末端側を外側から欠失させたことを説明するための図である。
図12図12は、試験例3において、5’末端側の長さと転移活性との関係を示す図である。
図13図13は、試験例4の概要を説明するための図である。
図14図14は、試験例4において、プラスミドに挿入したDNAの長さと転移活性との関係を示す図である。
図15図15は、試験例5の概要を説明するための図である。
図16図16は、試験例5において、ダイレクトリピートの有無と転移活性との関係を示す図である。
図17図17は、試験例6において、N端からアミノ酸基を欠失させたことを説明するための図である。
図18図18は、試験例6において、N端側の長さと転移活性との関係を示す図である。
図19図19は、試験例6において、C端からアミノ酸基を欠失させたことを説明するための図である。
図20図20は、試験例6において、C端側の長さと転移活性との関係を示す図である。
図21図21は、試験例7において、ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とTol2トランスポゾンドナーベクターをヒト由来細胞HeLa細胞に導入することを説明するための図である。
図22図22は、試験例7において、転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とTol2トランスポゾンドナーベクターをヒト由来細胞子宮内膜細胞に導入することを説明するための図である。
図23図23は、試験例7において、転移酵素発現プラスミドの存在下において、ヒト由来細胞子宮内膜細胞ゲノムへの組み込み頻度が上昇することを示す図である。
図24図24は、試験例7において、哺乳動物用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とGFP遺伝子をもつTol2トランスポゾンドナーベクターをCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)に導入することを説明するための図である。
図25図25は、試験例7において、転移酵素発現プラスミドの存在下において、Tol2トランスポゾンドナーベクターをCHO細胞に導入した際にGFP陽性細胞が得られることを示す図である。
図26図26は、試験例7において、ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とCD19-Car遺伝子をもつTol2トランスポゾンドナーベクターヒト由来の抹消血リンパ球に導入することを説明するための図である。
図27図27は、試験例7において、ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号19)とCD19-Car遺伝子をもつTol2トランスポゾンドナーベクターをヒト由来の抹消血リンパ球に導入した後のCD19陽性細胞の増殖特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0048】
<DNA構築物>
本実施形態に記載のDNA構築物は、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の間に、目的タンパク質をコードするヒトゲノムDNA断片を含む遺伝子断片が挿入されたものである。
【0049】
〔トランスポゾン〕
本実施形態において、「トランスポゾン」とは、転移性遺伝要素であり、一定の構造を保ったまま染色体上を、又は染色体から別の染色体へ転移(transposition)する遺伝子単位を意味する。
【0050】
トランスポゾンは、遺伝子単位の両端に逆向き又は同じ向きの繰り返しのトランスポゾン配列、及び該トランスポゾン配列を認識して、該トランスポゾン配列の間に存在する遺伝子を転移させるトランスポゼース(転移酵素と同じ)をコードする塩基配列を含む。
【0051】
トランスポゾンから翻訳されたトランスポゼースは、トランスポゾンの両端のトランスポゾン配列を認識し、一対のトランスポゾン配列の間に挿入されたDNA断片を切り出し、転移先へ挿入することで、DNAの転移を行うことができる。
【0052】
本実施形態において、「トランスポゾン配列」とは、トランスポゼースによって認識されるトランスポゾンの塩基配列を意味する。該塩基配列を含むDNAは、トランスポゼースの作用により転移(ゲノム中のほかの位置に挿入)可能であれば、不完全な繰り返し部分を含んでいてもよく、トランスポゼースに特異的なトランスポゾン配列が存在する。
【0053】
[自律的Tol2トランスポゾン]
通常、トランスポゾンの転移には、トランスポジションを誘導する酵素(トランスポゼース)とこのトランスポゼースにより認識されて転移するDNA配列(トランスポゾンシスエレメント)が必要になる。Tol2トランスポゾンは、この両者を備えたDNA型のトランスポゾンである。なお、本願明細書においては、自らトランスポゼースを発現して転移し得るということから、このTol2トランスポゾンを自律的Tol2トランスポゾンとも称する。
【0054】
メダカ(Oryzias latipes)は、東アジアに生息する魚である。メダカのi遺伝子座の変異は、メラニン欠乏症及び赤目を生じさせる。このi遺伝子座はチロシナーゼの遺伝子をコードしていることが知られている。このi遺伝子座のアレル変異体のひとつであるi4から約4.7kbのDNAがクローニングされている。このDNAは、トランスポゾン様の配列を有している。即ち、ショウジョウバエのhobo、トウモロコシの実のAcやキンギョソウのTam3などのhATファミリーのトランスポゾンのトランスポザーゼ(transposases)に類似したオープンリーディイングフレームや短い逆転した配列の繰り返し(terminal inverted repeats)を有している。メダカのこのエレメントは、Tol2と称される。
【0055】
配列番号1は、メダカのゲノムDNAから得られるTol2の全長配列である。本実施形態に記載の自律的Tol2トランスポゾンDNAの代表としては、配列番号1に記載の塩基配列を挙げることができるが、Tol2トランスポゾンと同様に宿主動物において転移し得るTol2トランスポゾンと類似のDNAも含まれる。このような類似のトランスポゾンDNAとしては配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA等を挙げることができる。Tol2トランスポゾンと機能的に同等なDNAを単離するためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。
【0056】
Tol2トランスポゾンはメダカで見出されたことから、メダカのゲノムDNAより得ることができるが、簡便には、Tol2トランスポゾンを保持した形質転換体から生成することができる。また、Tol2トランスポゾンの類似体は、配列番号1に記載の配列からDNAを人工的に改変することにより、また、メダカ以外の生物種から上記ハイブリダイゼーション法により得ることもできる。
【0057】
[非自律的Tol2トランスポゾン]
ここで、Tol2トランスポゾンは、上述した自律的Tol2トランスポゾンであってもよいが、トランスポゼースが欠損していることにより自律的には対象動物内で転移し得ないTol2トランスポゾンであり、Tol2トランスポゼースの供給により転移し得る非自律的Tol2トランスポゾンであることが好ましい。
【0058】
Tol2トランスポゾンは自律的に転移し得るため、一旦、対象動物の染色体内にTol2トランスポゾンが転移した後に、これが切り出され、別の部位に転移する可能性がある。このような自律的トランスポゾンは、単独で哺乳動物の染色体変異を導入し得るが、転移した位置から別の位置へ転移する可能性がある点では不安定といえる。そのため、Tol2トランスポゾンにおいて、トランスポゼースを欠損させて自律的に転移する能力を欠損させることにより、染色体に転移した後の再転移を抑制し、安定して染色体内に変異を導入して、遺伝子改変を行うことができる。こうした非自律的Tol2トランスポゾンは、上述した配列番号1に記載の塩基配列を有するトランスポゾンDNAあるいは同等の機能を有する類似のDNA中、トランスポゼースをコードした領域に塩基配列の欠失、挿入又は置換が加えられ、トランスポゼース活性を失ったDNAが挙げられる。
【0059】
[トランスポゼースのアミノ酸配列]
対象動物内でTol2トランスポゾンを転移誘導し得るトランスポゼースの例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるTol2トランスポゼースが挙げられる。トランスポゼースの配列は、この配列に限定されるものではない。例えば、対象動物内でTol2トランスポゼースと同様の活性を有し、配列番号2記載のアミノ酸配列に類似したタンパク質も含まれる。この類似したタンパク質としては、配列番号2と比べ1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列を有したトランスポゼース活性を有するタンパク質、他の生物由来のTol2トランスポゼースに類似したタンパク質及び人工的に創製したTol2トランスポゼース変異体が含まれる。
【0060】
上記「アミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列」の語において、アミノ酸の変異数や変異部位はTol2トランスポゼースにおけるトランスポジション誘導活性が保持される範囲内であれば制限はない。アミノ酸の変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内であると考えられる。
【0061】
配列番号2のアミノ酸配列であるトランスポゼースを提供するDNA配列のコドンは、任意に変更することが可能で、導入する動物種に最適化したものに改変することが望ましい。
【0062】
Tol2トランスポゾンを転移誘導し得るトランスポゼースの特性について明らかすることが好ましい。そこで、トランスポゼースのアミノ酸配列について、N末端及びC末端に着目する。本実施形態に記載の発明において、DNA構築物を用いてゼブラフィッシュDanio rerio内でTol2トランスポゾンを転移誘導するトランスポゼースのアミノ酸配列において、N末端は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のN末端から4アミノ酸残基以上欠失すると、トランスポゼースの活性(転移活性)が失活する。そのため、N末端のアミノ酸配列において、欠失は3アミノ酸残基以下であり、2アミノ酸残基以下であることがより好ましく、1アミノ酸残基以下であることがさらに好ましい。したがって、Tol2トランスポゾン由来の塩基配列を構成する際、生成されるアミノ酸のN末端側については、配列番号2に記載のアミノ酸配列のN末端と一致するよう、Tol2トランスポゾン由来の塩基配列を構成することが好ましい。
【0063】
また、C末端についてみると、DNA構築物を用いてゼブラフィッシュDanio rerio内でTol2トランスポゾンを転移誘導するトランスポゼースのアミノ酸配列において、C末端は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のC末端から10アミノ酸残基以上欠失すると、トランスポゼースの活性(転移活性)が失活する。そのため、C末端のアミノ酸配列において、欠失は9アミノ酸残基以下である。したがって、Tol2トランスポゾン由来の塩基配列を構成する際、生成されるアミノ酸のC末端側については、長さにある程度の自由度をもたせることができる。
【0064】
Tol2トランスポゼースの調製は、メダカを用いて行うこともできるが、簡便には、Tol2トランスポゼースをコードしたDNAを担持したプラスミド(ベクターとも称される。)により形質転換された形質転換体を用いて生成することができる。また、ゲノム編集法によってTol2トランスポゼースをコードしたDNA構築物を構築することによって生成することもできる。
【0065】
ゲノム編集法は、CRISPRを介した遺伝子編集、Base Editor(塩基エディター)を介した遺伝子編集、Cre/loxPを介した遺伝子編集、及びPrime editorから選択される1種以上を含む。中でも、ゲノム編集法がCRISPRを介した遺伝子編集である場合、CRISPRを介した遺伝子編集は、CRISPR/Cas9を介した遺伝子編集、CRISPR/Cas9nを介した遺伝子編集、及びCRISPR/Cas12aを介した遺伝子編集から選択される1種以上を含む。
【0066】
トランスポゼースをコードした領域における塩基配列の欠失、挿入又は置換は、トランスポゼース活性を失い得る変異であれば、変異領域の塩基数、種類などには限定されない。また、トランスポゼースをコードした領域に限られず非コード領域の欠失、挿入、置換などの変異によりトランスポゼースの発現を阻害し得る変異をも含めることができる。但し、これら変異はトランスポゾンとして転移し得る能力を担保し得るためにトランスポジションのシスエレメントを欠損しない範囲に限られる。このようなトランスポジションのシスエレメントは、配列番号1に記載の塩基配列を系統的に欠失させたシリーズを当業者に公知の方法あるいは市販のディリーションキットなどを用いて作製し、転移に必要な領域を解析することにより同定することができる。
【0067】
トランスポゼースコード領域の欠失変異の一例としては、図1に示すようなTol2トランスポゾンDNAにおいてエキソン2の5’側からエキソン4の中央付近(具体的には配列番号1における第2230塩基から第4146塩基)にかけて欠失を有するものを挙げることができるが、これよりも長い欠失、あるいは短い欠失であってもよく、また欠失部位は複数に分断されていてもよい。
【0068】
また、挿入変異の一例としては、Tol2トランスポゾン上のトランスポゼースがコードされた領域等に、リンカー配列、制限酵素認識配列、マルチクローニングサイトあるいは任意の遺伝子を挿入することにより、トランスポゼース活性を欠損させるような変異が挙げられる。
【0069】
また、置換変異の一例としては、トランスポゼースコード領域等の塩基配列を他の塩基配列に置換して、トランスポゼースの転移誘導活性を欠損させる置換変異が挙げられる。これら欠失、挿入、置換変異は単独でも組み合わせて用いてもよい。このような変異の組合せの一例を挙げれば、配列番号3に記載の塩基配列からなる非自律的トランスポゾンDNAを示すことができる。このDNAは、配列番号1に記載のTol2トランスポゾンDNA中、第2230塩基から第4146塩基が欠失され、この欠失領域に「AGATCTC ATATGCTCGA GGGCCC」からなるXhoI認識配列を含むリンカー配列が挿入されている。
【0070】
[塩基配列]
一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列としては、配列表の配列番号1で表されるTol2トランスポゾンの塩基配列の1番目から2229番目の塩基配列及び4148番目から4682番目の塩基配列が挙げられる。
【0071】
本実施形態に記載の発明に用いるトランスポゾン配列には、上記のトランスポゾン由来のトランスポゾン配列の部分配列を用いること、塩基配列の長さを調節すること、及び塩基配列の付加、欠失又は置換による改変を行うことにより、転移反応が制御されたトランスポゾン配列も含まれる。
【0072】
トランスポゾンベクターの操作が容易になる点、及びトランスポゾンベクター内にクローニングされた外来遺伝子の発現や、トランスポゾン集積部位(transposon integration site)近傍の染色体遺伝子の発現に及ぼすTol2配列の影響を最小限に抑える点で、ベクターから不要な部分を除去することが好ましい。
【0073】
(5’末端)
活性のある目的タンパク質を発現させる観点から、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち5’末端の塩基配列は、180bp以上であることを要する。すなわち、5’末端の塩基配列は、配列表の配列番号1で表されるTol2トランスポゾンの塩基配列における、1番目から180番目の塩基配列(配列番号4)を含むことを要する。
【0074】
5’末端の塩基配列の長さは、短いほど好ましいため、特に限定されない。5’末端の塩基配列の長さは、2229bp以下であり、1000bp以下であることが好ましく、500bp以下であることがより好ましく、300bp以下であることがさらに好ましく、200bp以下であることがよりさらに好ましく、190bp以下であることが特に好ましい。これにより、脊椎動物の所定細胞に目的タンパク質を選択的に発現可能な創薬スクリーニングシステムを、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の長さを不必要に長くすることなく提供できる。
【0075】
一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち5’末端の塩基配列のことを、以下「Tol2-L配列」とも称する。
【0076】
なお、5’末端の塩基配列を外側から19bp、6bpと欠失させると、いずれも転移活性を失う。そのため、5’末端の塩基配列を外側から欠失させることは、できない。
【0077】
(3’末端)
5’末端と同様、3’末端についてもまた、ベクターから不要な部分を除去することが好ましい。
【0078】
活性のある目的タンパク質を発現させる観点から、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち3’末端の塩基配列は、140bp以上であることを要する。すなわち、3’末端の塩基配列は、配列表の配列番号1で表されるTol2トランスポゾンの塩基配列における、4543番目から4682番目の塩基配列(配列番号5)を含むことを要する。
【0079】
3’末端の塩基配列の長さは、短いほど好ましいため、特に限定されない。3’末端の塩基配列の長さは、535bp以下であり、300bp以下であることが好ましく、200bp以下であることがより好ましく、170bp以下であることがさらに好ましく、160bp以下であることがよりさらに好ましく、150bp以下であることが特に好ましい。これにより、脊椎動物の所定細胞に目的タンパク質を選択的に発現可能な創薬スクリーニングシステムを、一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列の長さを不必要に長くすることなく提供できる。
【0080】
上述したとおり、トランスポゾンの転移反応は、一対(二つ)のトランスポゾン配列の間に含まれる塩基配列の長さを短くすることでその転移反応を増加させることができ、長くすることで転移反応を低下させることができる。本実施形態に記載の発明によると、5’末端の塩基配列は、180bp以上であればよく、3’末端の塩基配列は、140bp以上であればよいため、転移反応の効率を自在に変更することができる。
【0081】
一対のTol2トランスポゾン由来の塩基配列のうち3’末端の塩基配列のことを、以下「Tol2-R配列」とも称する。
【0082】
このような塩基配列を用いて染色体に変異導入を行った場合、本DNA自体はトランスポゼース活性を保持しないため、トランスポゼースが外部から供給されない限り、本DNAは染色体上に安定的にとどまることができる。そのため、この変異導入による機能遺伝子の同定や、安定したトランスジェニック個体の作製に有利となる。
【0083】
(末端反復配列:ダイレクトリピート配列)
本実施形態に記載の発明では、5’末端及び3’末端の両端における8bpの末端反復配列(ダイレクトリピート配列)を欠いたTol2ベクターであっても、活性(転移活性)が見られる。よって、ダイレクトリピート配列は、転移反応に不要である。
【0084】
しかしながら、切り出し後の塩基配列は、
野生型:ggcatatg GTTCTTGA ccccctac
欠失型:ggcatat CTTGA ccccctac
となっており、正確な転移反応のためには、ダイレクトリピートが必要である。
【0085】
〔トランスポゾンの転移反応〕
トランスポゾンの転移反応の制御は、トランスポゼースによるトランスポゾン配列の認識を促進又は抑制することによって、転移反応を促進又は抑制することができる。
【0086】
本明細書において「トランスポゼース」とは、トランスポゾン配列を有する塩基配列を認識して、該塩基配列の間に存在するDNAを染色体上、又は染色体から別の染色体へ転移させる酵素を意味する。
【0087】
トランスポゼース活性は、転移酵素遺伝子のcDNAを鋳型とし試験管内で転写したmRNA、転移酵素遺伝子のcDNAを組み込んだ発現プラスミド、又は転移酵素遺伝子のcDNAをゲノムに組み込んだトランスジェニック動物等の方法で供給される。
【0088】
トランスポゼースは、天然型の酵素を用いてもいいし、トランスポゼースと同様の転移活性を保持していれば、その一部のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されていてもよい。トランスポゼースの酵素活性を制御することで、トランスポゾン配列の間に存在するDNAの転移反応を制御することができる。
【0089】
トランスポゼースと同様の転移活性を保持するかを解析するには、2-コンポーネント解析システムにより測定することができる。具体的には、別々の、Tol2トランスポゼースを欠損したTol2トランスポゾン(Tol2由来非自律性トランスポゾン)を含むプラスミドとTol2トランスポゼースを含むプラスミドとを用いて、トランスポゼースの作用により非自律性Tol2エレメントが対象動物細胞の染色体内に転移、挿入し得るかを解析することができる。
【0090】
〔遺伝子断片〕
遺伝子断片は、目的タンパク質をコードする外来遺伝子断片を含む。また、必須ではないが、遺伝子断片は、外来遺伝子断片の下流に選択マーカー遺伝子をさらに含むことが好ましい。
【0091】
また、遺伝子断片は、外来遺伝子断片の下流に、酵母転写因子GAL4をコードするGAL4遺伝子をさらに含むことが好ましい。この場合、選択マーカー遺伝子をGAL4遺伝子の下流に配することができる。
【0092】
本明細書において「発現プラスミド」とは、目的タンパク質を発現させるために、対象動物細胞を形質転換させるために用いる発現プラスミドを意味する。本発明で用いる発現プラスミドは、発現カセットの両側に少なくとも1対のトランスポゾン配列が存在する構造を有する。
【0093】
本明細書において「発現カセット」とは、目的タンパク質を発現させるために必要な遺伝子発現制御領域及び目的タンパク質をコードする配列を有する核酸配列を意味する。該遺伝子発現制御領域としては、例えば、エンハンサー、プロモーター及びターミネーターなどが挙げられる。発現カセットには、選択マーカー遺伝子を含んでいても良い。
【0094】
[外来遺伝子断片]
本実施形態において、外来遺伝子断片とは、DNA構築物を導入する対象となる脊椎動物とは異なる生物に由来するゲノムDNA断片をいう。ここで、生物は、脊椎動物を含み、脊椎動物に限らず、真核生物(動物、植物、菌類、原生生物)、細菌(バクテリア)及び古細菌(アーキア)のいずれも含み得る。
【0095】
(目的タンパク質)
外来遺伝子断片は、目的タンパク質をコードする。
【0096】
目的タンパク質は、脊椎動物の所定細胞に組織特異的に発現可能であれば、特に限定されない。このような目的タンパク質の例として、ヒト由来アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)のほか、GFP、人工抗体等が挙げられる。
【0097】
(組織特異的プロモーター配列)
外来遺伝子断片は、魚類の所定細胞に組織特異的に発現する組織特異的プロモーター配列を有する。
【0098】
例えば、ヒト由来アンジオテンシン転換酵素2(ACE2)をコードするDNA断片は、ヒトACE2遺伝子の翻訳開始点より上流5770bpからなるプロモーター領域を含み、哺乳動物(ヒト)及び魚類(ゼブラフィッシュ)の双方で消化管上皮細胞に選択的な発現を誘導する。
【0099】
(外来遺伝子断片の大きさ)
本実施形態に記載の発明では、外来遺伝子断片の大きさに関して汎用性が非常に高いことを特徴とする。
【0100】
例えば、外来遺伝子断片は、700bp程度の相対的に短い場合であってもよい。また、外来遺伝子断片は、164kbp程度の非常に長い場合であってもよい。本実施形態に記載の発明によると、外来遺伝子断片が、700bp程度の相対的に短い場合であっても、あるいは164kbp程度の非常に長い場合であっても、個体レベル、かつ、ハイスループットで評価可能なシステムを利用可能である。これにより、挿入可能な外来遺伝子断片の汎用性が非常に高い評価システムを提供できる。
【0101】
[選択マーカー遺伝子]
「選択マーカー遺伝子」とは、人工的に構築されたプラスミド(ベクター)が導入された細胞と該ベクターを欠く細胞とを区別するために使用することができる任意のマーカー遺伝子を意味する。
【0102】
選択マーカー遺伝子は、蛍光タンパク質遺伝子、発光タンパク質遺伝子、活性酸素産生遺伝子及び薬剤耐性遺伝子から選択される。
【0103】
蛍光タンパク質とは、紫外線等の短波長の光を照射すると蛍光を発する蛋白質をいい、蛍光タンパク質遺伝子とは、当該蛍光タンパク質をコードする遺伝子をいう。蛍光タンパク質として、緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)、黄色蛍光タンパク質YFP(Yellow Fluorescent Protein)、シアン色蛍光タンパク質CFP(Cyan Fluorescent Protein)、及び赤色蛍光タンパク質RFP(Red Fluorescent Protein)等が挙げられる。
【0104】
発光タンパク質とは、短波長の光といった外部光源を要することなく自ら発光するタンパク質をいい、発光タンパク質遺伝子とは、当該発光タンパク質をコードする遺伝子をいう。発光タンパク質として、イクオリン等が挙げられる。
【0105】
活性酸素産生遺伝子とは、活性酸素生成酵素をコードする遺伝子をいう。活性酸素産生遺伝子の例として、キサンチンオキシダーゼ遺伝子及び一酸化窒素合成酵素遺伝子等が挙げられる。
【0106】
薬剤耐性遺伝子とは、タンパク質合成の阻害剤に対する耐性をコードする遺伝子をいう。薬剤耐性遺伝子の例として、ネオマイシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、及びシクロヘキシミド耐性遺伝子等が挙げられる。
【0107】
本実施形態では、脊椎動物の所定細胞において、目的タンパク質の発現の程度を視覚的により短時間で評価可能なシステムを脊椎動物の個体レベルで提供できることから、選択マーカー遺伝子は、蛍光タンパク質遺伝子又は発光タンパク質遺伝子であることが好ましい。
【0108】
[誘導性プロモーターシステム]
必須ではないが、遺伝子断片は、誘導性プロモーターシステムをコードする遺伝子を含むことが好ましい。誘導性プロモーターシステムにより、目的タンパク質及び選択マーカーの発現を人為的にコントロールすることができる。
【0109】
誘導性プロモーターシステムの種類は特に限定されず、GAL4/UASシステム、テトラサイクリン依存性プロモーター調節システム、メタロチオニンプロモーターシステム、IPTG/lacIプロモーターシステム、及びエクジソンプロモーターシステム等が挙げられる。
【0110】
中でも、脊椎動物の所定細胞において、選択マーカーの発現を組織特異的にかつ低毒性で誘導できることから、プロモーターシステムは、GAL4/UASシステムであることが好ましい。プロモーターシステムとしてGAL4/UASシステムを採用する場合、遺伝子断片は、前記ヒトゲノムDNA断片の下流に、酵母転写因子GAL4をコードするGAL4遺伝子をさらに含み、選択マーカー遺伝子は、GAL4遺伝子の下流に配される。
【0111】
GAL4タンパク質は酵母由来の転写因子で、認識配列(UAS)に結合することにより、転写を活性化する。細胞・組織特異的にGAL4を発現する系統とUASの下流に興味の対象となる遺伝子をもつ系統をかけ合わせることにより、特異的な細胞・組織において標的遺伝子の発現を誘導できる。
【0112】
〔プラスミド〕
プラスミドとしては特に限定はなく、トランスポゼース遺伝子を組み込んだプラスミドを導入する宿主細胞、用途などに応じて、当業者において知られている発現プラスミドから適宜選択して使用することができる。
【0113】
Tol2トランスポゾンDNAそのままをトランスポゾンドナー(供与体)として用いることもできるが、トランスポゾンプラスミドを導入する対象動物あるいはその細胞に導入する場合などにおいては、端部からのデグラデーションを防止等するために、このDNAをプラスミド(ベクター)につなぐことができる。このプラスミドは、導入する宿主や目的に応じて選択することができる。
【0114】
<遺伝子導入方法>
本実施形態において、遺伝子導入方法は、上述したDNA構築物を脊椎動物細胞に導入する工程を含む。
【0115】
〔DNA構築物の導入対象〕
DNA構築物の導入対象となる宿主は、脊椎動物であれば特に限定されるものでなく、魚類、チャイニーズハムスター、マウス、ヒト等が挙げられる。中でも、細胞の倍化時間が短く、細胞の継代培養が可能で安定的に目的タンパク質を発現できる細胞をもつ宿主であることが好ましく、その観点から、宿主は、魚類であることが好ましく、分類Cyprinidae(コイ科)、Cichlidae(シクリッド科,カワスズメ科とも称される)、Salmonidae(サケ科)、Clariidae(ヒレナマズ科)及びIctaluridae(アメリカナマズ科)等に属する魚類であることがより好ましい。
【0116】
Cyprinidae(コイ科)に属する魚類として、ゼブラフィッシュ(Danino rerio)及びコイ(Cyprinus carpio)等が挙げられる。Cichlidae(シクリッド科)に属する魚類として、ティラピア(Oreochromis niloticus)等が挙げられる。Salmonidae(サケ科)に属する魚類として、ニジマス(Orcorhynchus mykiss)等が挙げられる。Clariidae(ヒレナマズ科)に属する魚類として、アフリカナマズ(Clarias gariepinus)等が挙げられる。また、Ictaluridae(アメリカナマズ科)に属する魚類として、アメリカナマズ(Ictalurus punctatus)等が挙げられる。
【0117】
中でも、(1)雑食で繁殖、大量飼育が容易である、(2)多産で1組の雌雄が一度に数百の卵を産み、世代時間が比較的短い、(3)胚が透明で、体外で発生が進むため初期発生過程の観察、操作が容易であることから、宿主は、ゼブラフィッシュ(Danino rerio)であることが好ましい。
【0118】
細胞の種類は特に限定されないが、細胞の倍化時間が短いことが好ましく、例えば、魚類の受精卵、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)、ヒト由来HeLa細胞、ヒト由来子宮内膜細胞、ヒトリンパ細胞、及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)から選択される1種以上であることが好ましい。中でも、いったん遺伝子を導入すれば、その後に成長する個体の細胞には全て遺伝子が導入された状態になるため、個体への導入の際には細胞の種類は、受精卵であることが好ましい。
【0119】
宿主細胞に、上記のトランスポゾン配列を含むDNA構築物を導入する方法は、特に限定はなく、例えば、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、ジーンガン法及びリポフェクション法などを用いることができる。
【0120】
宿主細胞は、染色体DNAの改変及び外来性遺伝子の導入等により、タンパク質の発現に適するように改変してもよい。
【0121】
宿主細胞に導入する転移酵素発現プラスミドの量に応じて、細胞ゲノムへの組み込み頻度が上昇する。ただし、発現プラスミドの量には最適値があり、発現プラスミドの量が多いことが好ましい。なお、発現プラスミドの量が多すぎると細胞ゲノムへの組み込み頻度が下がることに留意する必要がある。
【0122】
本実施形態に記載の発明は、Tol2トランスポゾン由来の塩基配列を用いることで、魚類から哺乳類まで種々の脊椎動物にて目的タンパク質を発現させることができる。実際、魚類細胞のみならず、チャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese hamster ovary cells、CHO細胞)、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞)、ヒト由来HeLa細胞、ヒト由来子宮内膜細胞、ヒトリンパ細胞、及び人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells、iPS細胞)等にも応用可能である。そのため、本実施形態に記載の発明によると、目的タンパク質の発現を、共通の手法にて、生きている脊椎動物である魚類の個体レベル、かつ、ハイスループットで評価した後、哺乳動物での評価に迅速に移行できるため、創薬スクリーニングシステムの効率が高まる。
【0123】
<創薬スクリーニング方法>
本実施形態において、創薬スクリーニング方法は、上述した遺伝子導入方法を経て目的タンパク質の組織特異的な発現の程度を観察することを含む。この方法によると、ゲノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の発現を、生きている脊椎動物の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【0124】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【実施例0125】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、上述の説明及び以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、請求の範囲によってのみ限定される。
【0126】
以降に記述するクローニング等、遺伝子組換えに関する各種実験技術については、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラークローニング第4版(Molecular Cloning 4th edition)及びFrederick M.Ausubelら編、Current Protocols発行、Current Protocols in Molecular Biology等に記載の遺伝子工学的方法に準じて行った。
【0127】
<試験例1> ゼブラフィッシュace2遺伝子及びヒトACE2遺伝子の発現解析
本試験では、ゼブラフィッシュのace2プロモーターとヒトのACE2プロモーターの活性を、個体レベルでのハイスループットな解析が容易なゼブラフィッシュ幼生を用いて評価した。
【0128】
〔試験例1-1〕 予備試験
まず、ゼブラフィッシュ幼生においてace2遺伝子座にリポーター遺伝子をノックインし、発現解析を行った。図3は、その結果である。図3のうち、上の図は、ノックイントランスジェニックフィッシュ5日胚の明視野画像であり、下の図は、ノックイントランスジェニックフィッシュ5日胚の蛍光画像である。図3から、ace2遺伝子が消化管上皮細胞特異的に発現していることが確認された。
【0129】
〔試験例1-2〕 ゼブラフィッシュace2遺伝子の発現解析
ゼブラフィッシュace2遺伝子の発現を誘導するゲノムDNA領域を単離した。単離は、ゼブラフィッシュace2遺伝子の翻訳開始点より上流4,630bpからなるプロモーターをPCR反応により単離することで行なった。用いた遺伝子のDNAは、その両端配列のプライマーを作製し、適当なDNAソースを鋳型としてPCRを行うことにより取得した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。取得したDNAの塩基配列を配列番号6に示す。
【0130】
次に、ゼブラフィッシュゲノムからace2上流領域をクローニングし、リポーター遺伝子に接続しトランスジェニックゼブラフィッシュを作製した。具体的には、プロモーター領域のDNAをTol2トランスポゾンベクターにクローニングして転移酵素をコードするmRNAと共に、ゼブラフィッシュ受精卵にマイクロインジェクションし、トランスジェニックゼブラフィッシュを作製した。
【0131】
タンパク質発現用プラスミドには、一対のTol2トランスポゾン配列の間に挿入された、ace2遺伝子の発現を誘導するゲノムDNA断片及び蛍光タンパク質遺伝子を含む、遺伝子発現カセットを含むプラスミドを用いた。
【0132】
トランスポゾン配列は、非自律性Tol2トランスポゾンの塩基配列(配列番号3)のうち、1番目から200番目の塩基配列(Tol2-L配列)(配列番号7)と、2639番目から2788番目の塩基配列(Tol2-R配列)(配列番号8)の塩基配列を用いた。
【0133】
ace2プロモーターの発現解析を行ったところ、消化管上皮細胞特異的に発現を誘導する活性をしていた。結果を図4に示す。図4のうち、上の図は、トランスジェニックフィッシュ5日胚の明視野画像であり、下の図は、トランスジェニックフィッシュ5日胚の蛍光画像である。図4から、トランスジェニックゼブラフィッシュにおいて、リポーター遺伝子GFPが消化管上皮細胞に組織特異的に発現することを発見した。
【0134】
〔試験例1-3〕 ヒトACE2遺伝子の発現解析 その1
ヒトACE2遺伝子の発現を誘導するゲノムDNA領域を単離した。単離は、ヒトACE2遺伝子の翻訳開始点より上流5,770bpからなるプロモーター領域をPCR反応により単離することで行なった。用いた遺伝子のDNAは、その両端配列のプライマーを作製し、適当なDNAソースを鋳型としてPCRを行うことにより取得した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。取得したDNAの塩基配列を配列番号9に示す。
【0135】
次に、ヒトゲノムからace2上流領域をクローニングし、リポーター遺伝子に接続しトランスジェニックゼブラフィッシュ作製により、活性の評価を行った。結果を図5に示す。図5は、トランスジェニックフィッシュ5日胚の蛍光画像である。ace2プロモーターの発現解析を行ったところ、消化管上皮細胞特異的に発現を誘導する活性をしていた。このことから、ACE2プロモーターの消化管上皮細胞での発現活性は進化的に保存されていること、その活性はクローニングした領域に限定されていることを発見した。
【0136】
この発見は、ace2プロモーター活性をターゲットにした創薬の可能性の道を拓くものである。本発明のプロモーター活性を利用し、アッセイ用の細胞の作製や、本発明に含まれるace2プロモーター活性を利用したトランスジェニックゼブラフィッシュを用いるアッセイ系により、ace2遺伝子の発現制御に影響を与える低分子化合物や因子を、ハイスループットで評価することを可能にするものである。
【0137】
〔試験例1-4〕 ヒトACE2遺伝子の発現解析 その2
図6のうち、上の図は、ゼブラフィッシュACE2遺伝子の構造を示し、下の図は、ノックインに用いたプラスミドの構造を示す。図6に示すように、GFP遺伝子を、CRISPR/Cas9法(ゲノム編集法)でゼブラフィッシュACE2遺伝子に酵母転写因子GAL4を組み込み、トランスジェニックフィッシュを作製した。M baitの配列をCRISPR/Cas9を用いて切断し、第2エキソン部分に組み込む。このトランスジェニックフィッシュにおいて、GAL4に誘導されたGFPが、組織特異的に、消化管上皮細胞に、選択的に発現することを発見した。
【0138】
本試験によると、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子ノックインによって、生きている脊椎動物である魚類の個体レベル、かつ、ハイスループットで評価可能な創薬スクリーニングシステムを提供できる。
【0139】
<試験例2> Tol2の長さ
〔5’末端側の転移活性〕
図7は、トランスポゾンの全体の構造と、転移活性を調べるために構築したプラスミドの構造を表す。左端からそれぞれ200bp、190bp、180bp、170bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にGFPを組み込んだプラスミドを構築した。そして、図7に示したトランスポゾンコンストラクトを有するプラスミドを、転移酵素mRNAとともにゼブラフィッシュ受精卵に微量注入したのち、10~24時間後にDNAを回収し、PCRにより転移活性(切り出し活性)を調べた。切り出し活性を調べる方法は、以下文献に記載のとおりである。
Kawakami, K., and Shima, A. Identification of the Tol2 transposase of the medaka fish Oryzias latipes that catalyzes excision of a nonautonomous Tol2 element in zebrafish Danio rerio. Gene 240, 239-244 (1999).
【0140】
図8は、転移活性(切り出し活性)の結果である。5’末端側を200-bp、190-bp、180-bp、170-bpと短くしていくと、200-bp、190-bp、180-bpに活性(転移活性)が見られた。一方、170bpでは転移活性が見られなかった。
【0141】
〔3’末端側の転移活性〕
図9は、トランスポゾンの全体の構造と、転移活性を調べるために構築したプラスミドの構造を表す。右端からそれぞれ150bp、140bp、130bp、120bpのDNA、右端から200bpのDNAをもち、その間にGFPを組み込んだプラスミドを構築した。そして、図9に示したトランスポゾンコンストラクトを有するプラスミドについて、5’末端側での測定と同様の手法によって転移活性(切り出し活性)を調べた。
【0142】
図10は、転移活性(切り出し活性)の結果である。3’末端側150-bp、140-bp、130-bp、120-bpと短くしていくと、150-bp、140-bpに活性(転移活性)が見られた。一方、130bp、120bpでは転移活性が見られなかった。
【0143】
<試験例3> Tol2の外側からの欠失
〔5’末端側の外側からの欠失〕
図11は、トランスポゾンの全体の構造と、転移活性を調べるために構築したプラスミドの構造を表す。左端から200bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にGFPを組み込んだプラスミドを構築した。また、そのプラスミドの左端の外側から19bp、6bp欠失させたものを構築した。そして、図11に示したトランスポゾンコンストラクトを有するプラスミドについて、試験例2での測定と同様の手法によって転移活性を調べた。
【0144】
図12は、転移活性の結果である。左端(5’末端)の外側から19bp、6bp欠失させると転移活性が失われた。
【0145】
<試験例4> Tol2ベクターに組み込むDNAの長さ
〔最小長さ〕
Tol2ベクターに組み込むDNAの長さを短くしていき、転移活性を調べた。図13は、トランスポゾンの全体の構造と、転移活性を調べるために構築したプラスミドの構造を表す。左端から200bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にさまざまな長さのDNAを組み込んだプラスミドを構築した。そして、図13に示したトランスポゾンコンストラクトを有するプラスミドについて、試験例2での測定と同様の手法によって転移活性を調べた。
【0146】
図14は、転移活性の結果である。5’末端に200bp、3’末端に150bpをもつベクターに異なる長さのDNAを挿入したところ、700bp以上で転移活性が見られた。なお、当該DNAは、トランスポゾンの内部の配列である。
【0147】
〔最大長さ〕
また、トランスポゾンベクターに163.61kbのDNAを挿入させ転移反応を行ったところ、転移活性が認められたことを確認した。なお、当該DNAは、Fgf24遺伝子を含むゲノム領域である。
【0148】
<試験例5> ダイレクトリピートの必要性
Tol2を組み込む際に両端にできる8-bpのダイレクトリピートの必要性について調べた。図15は、トランスポゾンの全体の構造と、転移活性を調べるために構築したプラスミドの構造を表す。左端から200bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にGFPを組み込んだプラスミドを構築した。また、そのプラスミドの左端に隣接する繰り返し配列(8bp)を除去したものを構築した。そして、図15に示したトランスポゾンコンストラクトを有するプラスミドについて、試験例2での測定と同様の手法によって転移活性を調べた。
【0149】
図16は、転移活性の結果である。トランスポゾンが転移する際に、トランスポゾンの外側に作られるダイレクトリピートを欠いても、転移活性は失われなかった。すなわち、これは転移に不要である。
【0150】
ただし、切り出し後の塩基配列は、
野生型:ggcatatg GTTCTTGA ccccctac
欠失型:ggcatat CTTGA ccccctac
となっており、正確な転移反応のためには、ダイレクトリピートが必要である。
【0151】
<試験例6> 転移酵素の末端
〔N端側〕
図17に示す通り、左端から200bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にGFPを組み込んだプラスミドを構築し、野生型の転移酵素あるいは変異型の転移酵素をコードするmRNAとともに、ゼブラフィッシュ受精卵にマイクロインジェクションで導入し、試験例2での測定と同様の手法によって転移活性を調べた。変異型の転移酵素としては、N端から1アミノ酸欠失および4アミノ酸欠失を作製した。
【0152】
図18は、転移活性の結果である。1アミノ酸欠失では転移活性が見られたが、4アミノ酸欠失では転移活性が見られなかった。
【0153】
〔C端側〕
図19に示す通り、左端から200bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にGFPを組み込んだプラスミドを構築し、野生型の転移酵素あるいは変異型の転移酵素をコードするmRNAとともに、ゼブラフィッシュ受精卵にマイクロインジェクションで導入し、試験例2での測定と同様の手法によって転移活性を調べた。変異型の転移酵素としては、C端から1アミノ酸欠失、5アミノ酸欠失、10アミノ酸欠失および15アミノ酸欠失を作製した。
【0154】
図20は、転移活性の結果である。1アミノ酸、5アミノ酸欠失では転移活性が見られたが、10アミノ酸、15アミノ酸酸欠失では転移活性が見られなかった。
【0155】
<試験例7> 哺乳動物細胞への導入
〔ヒト由来細胞HeLa細胞への導入〕
図21に示す、ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とTol2トランスポゾンドナーベクターをヒト由来細胞HeLa細胞に導入した。トランスポゾンドナーベクターは、左端から200bpのDNA、右端から150bpのDNAをもち、その間にG418耐性遺伝子が組み込まれている。転移酵素発現プラスミドは、CAGプロモーターの下流に転移酵素遺伝子cDNAが組み込まれている。導入した結果、転移酵素発現プラスミドの量に応じて、細胞ゲノムへの組み込み頻度が上昇することが分かった(表1)。また、発現プラスミドの量には最適値があることが分かった(表1)。
【表1】
【0156】
〔ヒト由来細胞子宮内膜細胞への導入〕
図22に示す、転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とTol2トランスポゾンドナーベクターをヒト由来細胞子宮内膜細胞に導入した。トランスポゾンドナーベクターは、左端から約2kbのDNA、右端から約0.5kbのDNAをもち、その間にG418耐性遺伝子が組み込まれている。転移酵素発現プラスミドは、CAGプロモーターの下流に転移酵素遺伝子cDNAが組み込まれている。
【0157】
図23は、導入した結果を示す。ヒト由来細胞子宮内膜細胞へ、トランスポゾンドナーベクター単独あるいはトランスポゾンドナーベクターと転移酵素発現プラスミドを導入したところ、転移酵素発現プラスミドとともに導入したときに薬剤耐性コロニーがより多く出現した。
【0158】
〔CHO細胞への導入〕
図24に示す、ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号10)と右端の配列を175-bp及び145-bpとGFP遺伝子をもつTol2トランスポゾンドナーベクターをCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)に導入した。トランスポゾンドナーベクターは、左端から200bpのDNA、右端から175bp又は145bpのDNAをもち、その間にGFP遺伝子が組み込まれている。転移酵素発現プラスミドは、CAGプロモーターの下流に転移酵素遺伝子cDNAが組み込まれている。
【0159】
図25は、導入した結果を示す。CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)へ、トランスポゾンドナーベクターと転移酵素発現プラスミドを導入したところ、GFP発現コロニーが多数出現した。
【0160】
〔ヒト由来の抹消血リンパ球への導入〕
図26に示す、ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミド(配列番号10)とCD19-Car遺伝子をもつTol2トランスポゾンドナーベクターをヒト由来の抹消血リンパ球に導入した。トランスポゾンドナーベクターは、左端から200bpのDNA、右端から175bpのDNAをもち、その間にCD19-Car遺伝子が組み込まれている。転移酵素発現プラスミドは、CAGプロモーターの下流に転移酵素遺伝子cDNAが組み込まれている。
【0161】
図27及び表2は、導入した結果を示す。図27の白丸(TPase(-)は、ヒト由来の抹消血リンパ球へトランスポゾンドナーベクターを単独で導入したときの増殖特性を示し、黒丸(TPase(+))は、トランスポゾンドナーベクターと転移酵素発現プラスミドとともに導入したときの増殖特性を示す。導入した結果、転移酵素発現プラスミドの存在下において、CD19陽性細胞が増加することが明らかになった(培養21日目で約10倍以上)。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明により、ノムDNAプロモーターを用いた目的タンパク質の組織特異的な発現を、生きている脊椎動物の個体レベルで簡便に可視化し、かつ、ハイスループットで評価可能なシステムを提供できる。
【0163】
具体的に、以下の利点が得られる。
(1)魚類から哺乳類まで種々の脊椎動物にて目的タンパク質を発現させることができる。
(2)トランスポゾンベクターの大きさを比較的小さく抑えることができる。
(3)目的タンパク質の大きさは、小さいものから大きいものまで比較的自在に扱うことができる。
(4)目的タンパク質の発現を、共通の手法にて、生きている脊椎動物(例えば、魚類)の個体レベル、かつ、ハイスループットで評価した後、哺乳動物での評価を進められ、創薬スクリーニングシステムの効率が高まる。
【配列表フリーテキスト】
【0164】
配列番号1-メダカのゲノムDNAから得られるTol2の全長配列
配列番号2-対象動物内でTol2トランスポゾンを転移誘導し得るTol2トランスポゼースのアミノ酸配列
配列番号3-人工配列の説明;非自律性Tol2トランスポゾンの塩基配列
配列番号4-人工配列の説明;Tol2-L配列(180bp)
配列番号5-人工配列の説明;Tol2-R配列(140bp)
配列番号6-人工配列の説明;ゼブラフィッシュace2遺伝子の発現をコードする塩基配列
配列番号7-人工配列の説明;Tol2-L配列(200bp)
配列番号8-人工配列の説明;Tol2-R配列(150bp)
配列番号9-人工配列の説明;ヒトACE2遺伝子の発現をコードする塩基配列
配列番号10-人工配列の説明;ヒト用にコドンを最適化した転移酵素発現プラスミドの塩基配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
【配列表】
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