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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123356
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】金属洗浄用の電解水溶液
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/18 20060101AFI20240905BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20240905BHJP
   C11D 7/04 20060101ALI20240905BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C23G1/18
C11D17/08
C11D7/04
C11D7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030692
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】592250414
【氏名又は名称】株式会社テックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】中本 義範
【テーマコード(参考)】
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
4H003BA12
4H003DA09
4H003EA16
4H003EB04
4H003EB05
4H003FA15
4H003FA28
4H003FA30
4K053PA02
4K053QA04
4K053QA06
4K053RA07
4K053RA28
4K053RA40
4K053RA63
4K053SA03
4K053TA12
4K053TA20
(57)【要約】
【課題】有機溶媒の使用をせずとも金属の洗浄を行うことができるとともに、金属の錆発生を抑制できる新規な技術を提供する。
【解決手段】アルカリ性電解水と、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有し、粘度が1.3~2.8センチポアズである、電解水溶液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性電解水と、
グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有し、
粘度が1.3~2.8センチポアズである、電解水溶液。
【請求項2】
グリセリンを含有する、請求項1に記載の電解水溶液。
【請求項3】
前記電解水溶液の粘度が1.9~2.1センチポアズである、請求項1または2に記載の電解水溶液。
【請求項4】
前記電解水溶液のBrix値が2.0~25%である、請求項1または2に記載の電解水溶液。
【請求項5】
前記電解水溶液のBrix値が2.0~25%である、請求項3に記載の電解水溶液。
【請求項6】
前記電解水溶液が金属洗浄用の電解水溶液である、請求項1または2に記載の電解水溶液。
【請求項7】
アルカリ性電解水と、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有し、粘度が1.3~2.8センチポアズである、金属の錆発生抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物などの金属加工品においては、鋳造した後に必要によりねじきりなどの切削等が施され、次いで一般に錆止め剤(保護油)を塗布する防錆処理をして出荷される。
塗布された錆止め剤は、その金属加工品の使用前のほか、定期的に除去(脱脂)される(定期的に錆止め剤の除去を行わないと油汚れが錆発生につながり商品価値を悪くする)。錆止め剤を効率良く落とすのに使用しているものにパーツクリーナーがある。一般的にはスプレー式パーツクリーナーが主流であり、その成分としてはヘキサン、エタノール、およびブタンなどの有機溶媒が使用されている。ただし、これら有機溶媒への対応や保管などには手間やコストがかかる。
金属を洗浄する方法としては例えば特許文献1に記載の方法も知られている。特許文献1の方法においては噴霧灯油、マシン油、スルホン酸塩、金属石けんなどを主成分として構成される保護油を使用し、該保護油と親和する水溶性洗浄液によって金属を脱脂する。水溶性洗浄液としては、石けん型陰イオン界面活性剤、脂肪酸エステル、非イオン系界面活性剤を含む洗浄液が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-316859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機溶媒の使用をせずとも金属の洗浄を行うことができるとともに、金属の錆発生を抑制できる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
金属は加工後、時間の経過とともに温度と空気中の水分、ならびに酸素等の影響で徐々に酸化腐食される。そのため、金属の洗浄液についても錆の生成を抑制できることが好ましい。
本発明者は鋭意研究の結果、アルカリ性電解水とグリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含み、所定の粘度を有するように電解水溶液を構成することで、該電解水溶液の処理により金属から錆止め剤を除去できるとともに錆の発生も抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、例えば以下の通りである。
[1] アルカリ性電解水と、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有し、粘度が1.3~2.8センチポアズである、電解水溶液。
[2] グリセリンを含有する、[1]に記載の電解水溶液。
[3] 前記電解水溶液の粘度が1.9~2.1センチポアズである、[1]または[2]に記載の電解水溶液。
[4] 前記電解水溶液のBrix値が2.0~25%である、[1]から[3]のいずれか一つに記載の電解水溶液。
[5] 前記電解水溶液が金属洗浄用の電解水溶液である、[1]から[4]のいずれか一つに記載の電解水溶液。

[6] アルカリ性電解水と、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有し、粘度が1.3~2.8センチポアズである、金属の錆発生抑制用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶媒の使用をせずとも金属の洗浄を行うことができるとともに、金属の錆発生を抑制できる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態は電解水溶液に関し、アルカリ性電解水と、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有する。また、本実施形態の電解水溶液は、粘度が1.3~2.8センチポアズである。
【0009】
アルカリ性電解水とは、電解質が溶解している水溶液を電気分解することにより得ることができる、pHが9.0~13.8のアルカリ性を示す水を意味する。
アルカリ性電解水は、例えば公知の方法により得られたものを用いることができ、電解質水溶液を2室または3室型の電解槽を用いて電気分解させて陰極側に生成した水を例示できる。
電解質としては特に限定されないが、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、およびこれらの混合物のうちいずれかを挙げることができ、錆発生をより抑制できる観点から炭酸カリウムを含む電解質が好ましい。
【0010】
本実施形態の電解水溶液は、グリセリン、プロピレングリコール、またはその両方を含有する。錆の発生をより抑制することができ、また、処理後の析出物の生成を抑制することができるため、本実施形態の電解水溶液はグリセリンを含有することが好ましい。
【0011】
グリセリンは、グリセロール、1,2,3- propanetriolとも称される化合物である。本実施形態の電解水溶液においてグリセリンを含有する場合のその含有量は特に限定されず、当業者が適宜設定することができるが、例えば電解水溶液あたり0.5~25重量%とすることができる。
【0012】
プロピレングリコールは、1,2-propanediolとも称される化合物である。本実施形態の電解水溶液において、プロピレングリコールを含有する場合のその含有量も特に限定されず、当業者が適宜設定することができ、例えば電解水溶液あたり0.5~25重量%とすることができる。
【0013】
本実施形態の電解水溶液においては、上述のとおり、粘度が1.3~2.8センチポアズ(cP)である。また、錆の発生をより抑制する観点から、本実施形態の電解水溶液の粘度が1.9~2.1センチポアズ(cP)であることが好ましい。
センチポアズとは粘度測定の単位である。本明細書でいうところの粘度は、ブルックフィールド(BL)粘度計を用いて測定することができ、具体的には、BLローターとしてLアダプタを組み合わせたBII形粘度計を使用し、60r.p.mで、16~18℃で測定して決定される。
粘度の調整方法については特に限定されず当業者が適宜設定でき、例えばグリセリンやプロピレングリコールの含有量の調整によって行うことができるほか、粘度調整剤を添加するなどして行うこともできる。
粘度調整剤としては、例えば水ガラス、キサンタンガム、デキストリン、ブチレングリコール、エチルセルロース、カルボマー、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。水ガラスとは可溶性のケイ酸化合物の水溶液である。可溶性のケイ酸化合物としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸アンモニウム等を例示できる。
【0014】
また、錆の発生をより抑制する観点から、本実施形態の電解水溶液は、Brix値が2.0~25%であることが好ましく、より好ましくは5.0~25%である。
Brix値とは電解水溶液中の可溶性固形分濃度を表す単位である。Brix値の測定は、公知の方法、装置を用いて行うことができる。本明細書の実施例では京都電子工業(株)製 RA-620を用いて、溶液温度20.0℃でBrix値(±0.014%)を測定した。
Brix値の調整方法も特に限定されず、例えばグリセリンやプロピレングリコール、および必要に応じて添加される他の成分の含有量の調整などにより行うことができる。
なお、粘度およびBrix値はアルカリ性電解水のpHなどによっても多少変化するため、本実施形態の電解水溶液調製に当たっては調製ごとに粘度およびBrix値を測定することが好ましい。
【0015】
本実施形態においては、本発明の効果を得ることができる範囲で必要に応じて他の成分を適宜、水溶液中に含ませることができる。他の成分としては、例えば、上述の水ガラス、キサンタンガム、デキストリン、ブチレングリコール、エチルセルロース、カルボマー、ポリビニルアルコール等の粘度調整剤などを挙げることができる。
【0016】
本実施形態の電解水溶液の製造方法は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
例えば公知の方法により得られたアルカリ性電解水にグリセリンおよび/またはプロピレングリコール、および必要に応じて含有される他の成分を電解水溶液の粘度が1.3~2.8センチポアズとなるようにして混合、溶解することにより得ることができる。
含有成分をアルカリ性電解水に添加する順番などは特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0017】
得られた本実施形態の電解水溶液は、金属洗浄のために用いることができる。
例えば、ねじきり、一般家庭のコンロ、レンジフードなどの金属、あるいは、油汚れや油脂やタンパク質等によって汚れた床面の金属でできた部分などの、洗浄対象となる部分に本実施形態の電解水溶液を処理すればよい。
具体的な処理方法としては、手動吹き付け器や電動吹き付け器などを用いての金属の洗浄対象箇所への吹き付けや、洗浄対象箇所への塗布などを挙げることができる。本実施形態の電解水溶液の処理量や処理時間、処理するときの本実施形態の電解水溶液の温度などは特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
また、本実施形態の電解水溶液を対象部分に処理した後、拭き取り処理を行うようにしてもよい。拭き取り処理は例えば布を用いての処理を例示でき、該布としては木綿、麻、絹、レイヨンなどの生地の布が挙げられる。
【0018】
以上、本実施形態によれば、有機溶媒の使用をせずとも金属の洗浄を行うことができるとともに、金属の錆発生を抑制できる金属の洗浄液を提供することができる。
【0019】
本発明の別の態様として、アルカリ性電解水と、グリセリンおよび/またはプロピレングリコールとを含有し、粘度が1.3~2.8センチポアズである、金属の錆発生抑制用組成物を提供することができる。
該錆発生抑制用組成物は例えば上述の電解水溶液と同様の方法で調製することができる。
また、該錆発生抑制用組成物は錆止め剤が処理されている金属の箇所に対して処理されてもよく、また、錆止め剤が処理されていない金属の箇所に対して処理されるようにしてもよい。
【実施例0020】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0021】
[試験1:グリセリン添加]
炭酸カリウム(K2CO3)を電気分解して生成したアルカリ性電解水に1~20重量%の濃度のグリセリンを添加し、実施例の電解水溶液を調製した。
【0022】
電解水溶液の粘度測定:ブルックフィールド(BL)粘度計(東機産業(株)製)を用いて測定を行った。具体的には、実施例の電解水溶液の粘度(cP)をBLローターとしてLアダプタを組み合わせたBII形粘度計で回転速度を60r.p.mとして測定した。試料量はいずれも20mLとし、電解水溶液の温度が16~18℃の範囲内にあるようにして測定を行った。
電解水溶液のBrix値および屈折率測定:京都電子工業(株)製 RA-620を用いて、電解水溶液の温度20.0℃でBrix値(±0.014%)および屈折率を測定した。
【0023】
調製した実施例の電解水溶液を可鍛鋳鉄製の配管用ねじ込み六角ニップル(二面幅:39mm,内径:24mm,長さ:52mm)のねじ切りされたV字型の溝の斜面と底面に均一に塗布した後、室温(25±2℃)で放置した。塗布後のニップル表面の経時変化を1か月室内で観察した。
対照(比較例)として、炭酸カリウムを電気分解して得られたアルカリ性電解水を用いた。
結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1から理解できるとおり、実施例の電解水溶液を塗布したニップル表面においてはいずれも錆が発生しなかった。比較例2については、錆は発生しなかったが、拭き取り操作後にニップル表面に付着物が残存した。
【0026】
[試験2:グリセリン添加]
炭酸カリウム(K2CO3)を電気分解して生成したアルカリ性電解水に20重量%の濃度のグリセリンを添加し、実施例1-6の電解水溶液を調製した。
実施例1-6の電解水溶液と、実施例1-6の電解水溶液に水ガラス(ケイ酸ナトリウム(1号)(キシダ化学(株)製))0.1重量%または0.3重量%を添加して調製した実施例1-7、1-8の電解水溶液を試験1と同様にニップルに塗布した。塗布したニップルを1年間室外で放置した。
結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2から理解できるとおり、1年間室外に放置しても、実施例の電解水溶液を処理したニップルにおいては錆の発生が見られなかった。
【0029】
[試験3:プロピレングリコール添加]
炭酸カリウム(K2CO3)を電気分解して生成したアルカリ性電解水に1~20重量%の濃度のプロピレングリコールを添加し、実施例の電解水溶液を調製した。
【0030】
得られた実施例の電解水溶液について粘度、Brix値の測定を試験例1と同様の方法で行った。
【0031】
また、試験例1と同様に、実施例の電解水溶液についてニップルへの塗布を行った。塗布後のニップル表面の経時変化を1か月室内で観察した。
結果を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3から理解できるとおり、実施例の電解水溶液を塗布したニップル表面においてはいずれも錆が発生しなかった。比較例3については、錆は発生しなかったが、拭き取り操作後にニップル表面に付着物が残存した。
また、実施例の電解水溶液を塗布した場合に生じた析出物は拭き取りにより除去可能であった。
【0034】
[試験4:プロピレングリコール添加]
炭酸カリウム(K2CO3)を電気分解して生成したアルカリ性電解水に20重量%の濃度となる量のプロピレングリコールを添加し、実施例2-6の電解水溶液を調製した。
実施例2-6の電解水溶液と、実施例2-6の電解水溶液に水ガラス(ケイ酸ナトリウム(1号)(キシダ化学(株)製))0.1重量%または0.3重量%を添加して調製した実施例2-7、2-8の電解水溶液を試験3と同様にニップルに塗布した。塗布したニップルを1年間室外で放置した。
結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
表4から理解できるとおり、1年間室外に放置しても、実施例2-7、2-8の電解水溶液を処理したニップルにおいては錆の発生が見られなかった。試験3の場合と同様、実施例2-5~8とも析出物が生じたが、該析出物は拭き取りにより除去可能であった。
【0037】
[試験5:電解水溶液処理による洗浄]
錆止め剤(保護油)が処理されている金属に対し実施例1-6および実施例2-6の電解水溶液および比較例1の電解水溶液を処理した。
具体的には、保護油(ノンラスターP313(ユシロ化学工業株式会社製))を均一に塗布した可鍛鋳鉄製の配管用ねじ込み六角ニップル(二面幅:39mm,内径:24mm,長さ:52mm)のねじ切りされたV字型の溝の斜面と底面に対し、実施例1-6および実施例2-6の電解水溶液および比較例1の電解水溶液を手動吹き付け器を用いて吹き付けを行った(処理量:スプレーボトル1プッシュ(0.5mL程度)、処理温度:室温)。
電解水溶液を処理した後、木綿を素地とする布を用いて保護油の拭き取り処理を行った。
なお、対照として、電解水溶液の吹き付け処理を行っていないものについても保護油の拭き取り処理を行った。
【0038】
対照については拭き取り処理のみによっては保護油を除去できなかった。
一方、実施例1-6および実施例2-6の電解水溶液、ならびに比較例1の電解水溶液のいずれを用いた場合も、電解水溶液の吹き付け処理と拭き取り処理により保護油が除去できたことが、目視により確認できた。