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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123357
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】導電性塗膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H01B13/00 503Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030693
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】笹村 悟
(72)【発明者】
【氏名】玉村 志織
【テーマコード(参考)】
5G323
【Fターム(参考)】
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、導電膜の比抵抗が高くなることをなるべく抑えつつ、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られることを可能とした、導電性塗膜複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性フィラーと、バインダー樹脂と、染料とを含む導電膜の上に、バインダー樹脂と、溶剤とを含む塗料組成物を塗布し、未乾燥状態の塗膜を前記導電膜の少なくとも一部の表面に接触させて積層することにより、前記導電膜に含まれる前記染料の少なくとも一部を前記塗膜に移行させた後、前記塗膜を乾燥して、前記導電膜上に前記染料が含まれたオーバーコート層を形成する、導電性塗膜複合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性フィラーと、バインダー樹脂と、染料とを含む導電膜の上に、
バインダー樹脂と、溶剤とを含む塗料組成物を塗布し、未乾燥状態の塗膜を前記導電膜の少なくとも一部の表面に接触させて積層することにより、
前記導電膜に含まれる前記染料の少なくとも一部を前記塗膜に移行させた後、
前記塗膜を乾燥して、前記導電膜上に前記染料が含まれたオーバーコート層を形成する、導電性塗膜複合体の製造方法。
【請求項2】
前記塗料組成物を塗布する前の前記導電膜において、前記導電性フィラーと前記バインダー樹脂の含有比率は、質量基準で、(導電性フィラー/バインダー樹脂)=(98~60/2~40)である、請求項1に記載の導電性塗膜複合体の製造方法。
【請求項3】
前記塗料組成物を塗布する前の前記導電膜において、前記導電性フィラーと前記バインダー樹脂の合計100質量部に対する、前記染料の含有量が0.1~15質量部である、請求項1に記載の導電性塗膜複合体の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤の性質として、前記溶剤100gに対する前記染料の溶解可能な質量が、0.10g以上である、請求項1に記載の導電性塗膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性塗膜複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷やディスペンスによって回路形成が可能な導電性組成物は、発熱体やアンテナ線の形成などに使用されることが増えている(例えば特許文献1)。従来の導電性組成物で形成した導電膜では、十分な抵抗値を確保するために導電性フィラーとして抵抗値の低い銀粉を主材料として使用することがある。この場合、形成された導電膜の色が銀白色や灰色となる。これらの色のままでは、審美性や目立ちすぎるといった理由から、導電膜上に着色したいという要求が高まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/121141号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電膜上に着色する方法として、着色剤が予め配合されたオーバーコート層を導電膜上に形成することが考えられる。しかし、導電膜が例えば回路として透明なガラスやフィルム上に形成されていて、全体として透明性を確保したい場合、オーバーコート層の着色が邪魔になることがある。導電膜の回路の真上のみに着色したオーバーコート層を形成できれば邪魔にはならないが、この技術的な難度は高い。
また、特許文献1で提案されているように、導電性組成物に着色顔料を配合する場合、目視で着色が判別できるほど十分に配合すると、導電膜の導電性が大幅に悪化してしまう。
さらに、導電膜の露出した表面には微細な凹凸が存在するので、光がその凹凸で散乱して全体的に白っぽく見える。このため、導電膜に着色剤を配合しても、導電膜そのものを意図した色で着色することが困難であった。
【0005】
本発明は、導電膜の比抵抗が高くなることをなるべく抑えつつ、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られることを可能とした、導電性塗膜複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 導電性フィラーと、バインダー樹脂と、染料とを含む導電膜の上に、バインダー樹脂と、溶剤とを含む塗料組成物を塗布し、未乾燥状態の塗膜を前記導電膜の少なくとも一部の表面に接触させて積層することにより、前記導電膜に含まれる前記染料の少なくとも一部を前記塗膜に移行させた後、前記塗膜を乾燥して、前記導電膜上に前記染料が含まれたオーバーコート層を形成する、導電性塗膜複合体の製造方法。
[2] 前記塗料組成物を塗布する前の前記導電膜において、前記導電性フィラーと前記バインダー樹脂の含有比率は、質量基準で、(導電性フィラー/バインダー樹脂)=(98~60/2~40)である、[1]に記載の導電性塗膜複合体の製造方法。
[3] 前記塗料組成物を塗布する前の前記導電膜において、前記導電性フィラーと前記バインダー樹脂の合計100質量部に対する、前記染料の含有量が0.1~15質量部である、[1]又は[2]に記載の導電性塗膜複合体の製造方法。
[4] 前記溶剤の性質として、前記溶剤100gに対する前記染料の溶解可能な質量が、0.10g以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の導電性塗膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導電膜の比抵抗が高くなることをなるべく抑えつつ、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分にある導電性塗膜複合体を製造方法することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの両方を示し、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示し、「(メタ)アクリル樹脂」とは、メタクリル樹脂とアクリル樹脂の両方を示す。
【0009】
≪導電性塗膜複合体の製造方法≫
本発明の第一態様は、導電膜に接触するオーバーコート層を積層し、導電性塗膜複合体を得る製造方法である。
【0010】
[導電膜]
導電膜は導電性フィラーと、バインダー樹脂と、染料とを含む。
導電膜は基材の表面の少なくとも一部に形成されている。基材としては、ガラス、プラスチック等の絶縁基材が挙げられる。基材は透明であってもよいし、不透明であってもよい。ここで、透明とは入射した光の少なくとも一部が透過する性質をいう。
導電膜の形状は特に制限されず、例えば、単数若しくは複数の細線からなる導電パターンであってもよいし、多角形、楕円、円等の幾何学的な模様の電極であってもよい。
【0011】
オーバーコート層を形成する前の導電膜の厚さは、特に制限されないが、例えば0.5~50μmが挙げられる。
ここで、導電膜の厚さは、オーバーコート層を形成する予定の任意の5箇所以上の断面を電子顕微鏡等の拡大観察手段で測定した平均値とする。
上記範囲の下限値以上であると、比抵抗を充分に下げることができ、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られる。
上記範囲の上限値以下であると、基材に対する密着性が高まるというメリットがある。
【0012】
(導電性フィラー)
導電性フィラーは、導電性を有する粒子の集合であり、公知の導電性組成物に含まれる導電性フィラーが適用できる。具体的には、例えば、金属粉、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。金属粉のなかでは、導電膜の比抵抗を下げる観点から、銀粉が好ましい。銀粉等の金属粉とともに、カーボンブラックやグラファイト等の炭素粒子を混合して併用してもよい。金属粉の平均粒子径は例えば0.02~15μmが挙げられる。
【0013】
銀粉等の金属粉の個々の粒子の形状は、例えば、球状、鱗片状、フレーク状、樹枝状、繊維状、及びこれら以外の不定形状(特定の形状として説明し難い形状)が挙げられる。これらの中でも、導電膜の比抵抗を下げる観点や導電回路に適している観点から、鱗片状の金属粉が好ましく、鱗片状の銀粉がより好ましい。
導電膜に含まれる導電性フィラーは1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0014】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、導電性フィラー同士を結着させるとともに、基材の表面に対して導電膜を密着させる樹脂成分である。
バインダー樹脂は、導電膜の製造を容易にする観点から、溶剤に溶解又は分散可能な樹脂成分が好ましい。このようなバインダー樹脂は公知の導電性組成物や樹脂組成物に含まれるものが適用できる。具体的には、例えば、ポリエステル、ポリエステルポリオール、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル、フェノキシ、ブチラール、フェノール等の樹脂が好ましいものとして挙げられる。これらの好ましいバインダー樹脂であると、導電膜に含まれる染料が、オーバーコート層を形成する塗料組成物へ拡散することが容易になる。
導電膜に含まれるバインダー樹脂は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0015】
導電膜に含まれるバインダー樹脂は、導電膜の製造時に配合された硬化剤によって硬化されていてもよい。このような硬化剤は公知の導電性組成物や樹脂組成物に含まれるものが適用できる。具体的には、公知の種々のイソシアネート類が好ましい。
【0016】
(染料)
染料は、一般に、有機溶剤又は水に安定に溶解する着色物質である。導電膜に含まれる染料は、油溶性であってもよいし、水溶性であってもよいが、油溶性が好ましい。油溶性であると、導電膜に含まれる染料が、オーバーコート層を形成する塗料組成物へ拡散することが容易になる。
染料が油溶性である場合、任意の有機溶剤100gに対する溶解性が0.1g以上であることが好ましい。ここで、有機溶剤は後述の塗料組成物に含まれる溶剤であることが好ましい。
染料が水溶性である場合、イオン交換水(20℃)100gに対する溶解性が0.1g以上であることが好ましい。
染料の色は特に制限されず、所望の色を選択すればよい。
導電膜に含まれる染料は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0017】
(各成分の含有割合)
本態様の製造方法で用いる導電膜において、オーバーコート層を形成する前の各成分の含有割合は以下が好ましい。
【0018】
導電性フィラーとバインダー樹脂の含有比率は、質量基準で、(導電性フィラー/バインダー樹脂)=(98~60/2~40)の範囲が好ましい。
上記範囲は、導電性フィラー98~60質量部に対して、バインダー樹脂2~40質量部の範囲を示す。
上記の好適な範囲であると、導電膜の比抵抗を充分に下げることが容易である。
【0019】
導電性フィラーとバインダー樹脂の合計100質量部に対して、染料の含有量は0.1~15質量部の範囲が好ましく、1~10質量部の範囲がより好ましく、2~9質量部の範囲がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電膜からオーバーコート層への染料の移行が充分となり、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られる。
上記範囲の上限値以下であると、導電膜の比抵抗の上昇を抑制することができる。
【0020】
導電性フィラー100質量部に対して、染料の含有量は、0.1~20質量部が好ましく、0.5~15質量部がより好ましく、1.0~10質量部がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電膜からオーバーコート層への染料の移行が充分となり、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られる。
上記範囲の上限値以下であると、導電膜の比抵抗の上昇を抑制することができる。
【0021】
バインダー樹脂100質量部に対して、染料の含有量は、2~200質量部が好ましく、20~150質量部がより好ましく、30~100質量部がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電膜からオーバーコート層への染料の移行が充分となり、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られる。
上記範囲の上限値以下であると、導電膜の比抵抗の上昇を抑制することができる。
【0022】
(導電膜の形成方法)
本態様の導電膜は、導電膜形成用の塗料組成物(以下、導電性ペーストということがある。)を基材の表面の所望の領域に所望の厚さで塗布し、乾燥・硬化させて形成することができる。塗布、乾燥、硬化の各方法は常法を適用できる。
導電性ペーストを乾燥・硬化させる温度としては150℃以下が好ましい。150℃を超える温度で導電性ペーストを乾燥・硬化させると染料が昇華あるいは分解してしまい、オーバーコート層を形成した時の発色が弱くなることがある。
【0023】
導電性ペーストは、導電性フィラーと、バインダー樹脂と、染料とを含み、必要に応じてさらに硬化剤、溶剤を含むことが好ましい。導電性ペーストの粘度は、各成分の配合量、特に溶剤の配合量に応じて調整することができる。導電性ペーストは、各成分を常法により混合し、調製される。
【0024】
導電性ペーストに含まれる導電性フィラーとバインダー樹脂の含有比率は、前述の導電膜に関する質量基準の範囲であることが好ましい。
導電性ペーストに含まれる導電性フィラーとバインダー樹脂の合計に対する染料の含有割合は、前述の導電膜に関する質量基準の範囲であることが好ましい。
導電性ペーストに含まれる導電性フィラーとバインダー樹脂と硬化剤の合計100質量部に対する染料の含有割合は、例えば1.0~30質量部が好ましく、1.0~20質量部がより好ましく、1.0~10質量部がさらに好ましい。
導電性ペーストに含まれる導電性フィラーとバインダー樹脂と硬化剤の合計100質量部における、硬化剤の含有割合は、例えば0.1~10質量部が好ましく、0.5~5.0質量部が好ましく、1.0~3.0質量部がさらに好ましい。
導電性ペーストに含まれる導電性フィラーとバインダー樹脂と硬化剤の合計100質量部に対する溶剤の含有割合は、塗布可能なペースト粘度に調整し易い観点から、例えば1.0~30質量部が好ましく、5.0~20質量部がより好ましく、8.0~15質量部がさらに好ましい。
【0025】
導電性ペーストに含まれる溶剤の種類は特に制限されず、バインダー樹脂との相溶性、染料との相溶性、硬化剤との相溶性、導電性フィラーの分散性を考慮し、従来の導電性組成物に適用される種々の溶剤の1種以上を適用できる。具体的には、例えば、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0026】
導電ペーストの粘度の調整が容易であることから、ブチルジグリコールアセテート(ブチルカルビトールアセテート;略称:BCA)、ターピネオール、イソホロン、γブチロラクトン、ジエチレングリコールから選択される1種以上が好ましい。導電性ペーストに含まれる溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0027】
[オーバーコート層の形成]
オーバーコート層形成用の塗料組成物(以下、オーバーコート塗料ということがある。)は、バインダー樹脂と溶剤とを含み、基材上の導電膜が形成された領域に対して塗布される。塗布により形成した未乾燥状態の塗膜の少なくとも一部は、導電膜の少なくとも一部の真上に接触して積層する。この状態において、導電膜に含まれる染料の少なくとも一部が、塗膜に含まれる溶剤に抽出される。つまり、導電膜に含まれる染料の少なくとも一部が、塗膜に移行し、導電膜の真上の塗膜に拡散する。続いて、染料が移行した塗膜を乾燥することにより、導電膜の真上に染料によって着色されたオーバーコート層を形成することができる。
【0028】
オーバーコート塗料は、バインダー樹脂と、溶剤とを含み、必要に応じてさらに硬化剤を含むことが好ましい。オーバーコート塗料の粘度は、各成分の配合量、特に溶剤の配合量に応じて調整できる。オーバーコート塗料は、各成分を常法により混合し、調製される。
【0029】
オーバーコート塗料の総質量に対するバインダー樹脂(不揮発成分)の含有比率は、例えば、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、30~40質量%がさらに好ましい。
オーバーコート塗料の総質量に対する硬化剤の含有比率は、例えば、1.0~18質量%が好ましく、4.0~14質量%がより好ましく、7.0~10質量%がさらに好ましい。
オーバーコート塗料に含まれるバインダー樹脂100質量部に対する、硬化剤の含有割合は、例えば10~40質量部が好ましく、15~35質量部が好ましく、20~30質量部がさらに好ましい。
オーバーコート塗料の総質量に対する溶剤の含有比率は、例えば、40~70質量%が好ましく、45~65質量%がより好ましく、50~60質量%がさらに好ましい。
【0030】
オーバーコート塗料に含まれる溶剤の種類は、バインダー樹脂との相溶性、染料との相溶性、硬化剤との相溶性を考慮し、従来の導電性組成物に適用される種々の溶剤の1種以上を適用できる。具体的には、例えば、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0031】
オーバーコート塗料に含まれる溶剤は、導電膜に含まれる染料の抽出が容易であることから、ブチルジグリコールアセテート(BCA)、ブチルジグリコール(ブチルカルビトール;略称:BC)、ターピネオール、イソホロン、カルビトールアセテート(略称:CA)、N-メチルピロリドン、ドデカンから選択される1種以上が好ましい。オーバーコート塗料に含まれる溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0032】
オーバーコート塗料に含まれる1種以上の溶剤のうち、少なくとも1種の溶剤は、次の性質(溶剤単独の特性)を有することが好ましい。すなわち、当該溶剤100gに対する、オーバーコート塗料を塗布する導電膜に含まれる少なくとも1種の染料の溶解可能な質量が、0.10g以上であることが好ましい。この性質を有すると、導電膜に含まれる染料が、塗布されたオーバーコート塗料へ移行することが容易になる(導電膜から染料を抽出することが容易になる)。
【0033】
オーバーコート塗料に含まれるバインダー樹脂の例示としては、前述の導電膜、導電性ペーストに含まれるバインダー樹脂と同じものが挙げられる。基材及び導電膜に対する密着性が良好なものが好ましい。
オーバーコート塗料に含まれるバインダー樹脂は、導電膜に含まれるバインダー樹脂と同じでもよいし、異なっていてもよい。
オーバーコート塗料に含まれるバインダー樹脂は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0034】
[オーバーコート層]
本態様の製造方法によって形成したオーバーコート層は、バインダー樹脂と、導電膜から抽出された染料とを含む。
オーバーコート層の形状は、導電膜の少なくとも一部の上に接触して積層していれば特に制限されず、例えば、単数若しくは複数の細線からなるパターンであってもよいし、多角形、楕円、円等の幾何学的な模様であってもよい。
【0035】
本態様の製造方法によって得た導電性塗膜複合体の積層方向に見て、オーバーコート層と導電膜とが重ならない領域のオーバーコート層は、透明であることが好ましい。ここで、透明とは入射した光の少なくとも一部が透過する性質をいう。
【0036】
本態様の製造方法によって得た導電性塗膜複合体の積層方向に見て、導電膜の真上に形成したオーバーコート層の厚さは、例えば1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましい。
ここで、オーバーコート層の厚さは、導電膜の真上に積層されたオーバーコート層の任意の5箇所以上の断面を電子顕微鏡等の拡大観察手段で測定した平均値とする。
上記範囲の下限値以上であると、オーバーコート層を設けたことによる色差が充分に得られる。
上記範囲の上限値以下であると、高い絶縁性が得られるというメリットがある。
【実施例0037】
<塗料組成物の調製>
各実施例及び各比較例について、後述の表に示す固形分比率(質量比)で各材料を混合し、導電性ペーストと、オーバーコート塗料を調製した。
【0038】
<導電膜の形成>
まず、表1に記載の質量比率でバインダー樹脂と溶剤を混合した後、銀粉を三本ロールで分散し、その後、染料と硬化剤を混合し、導電性ペーストを作成した。
次に、スライドガラスの表面に、導電性ペーストを3cm×10cmの帯状に、厚さ50μmで塗布後、所定の温度条件で30分乾燥させ、導電膜を形成した。
形成した導電膜について、JIS C 2525:1999の方法で比抵抗を測定し、測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM26d)によりL*a*b*を測定した。その結果を「オーバーコート前」として表3に示す。
【0039】
<オーバーコート層の形成>
まず、表2に記載の質量比率でバインダー樹脂、硬化剤および溶剤を混合し、塗料組成物を得た。
次に、上記で導電膜を形成した領域の上に、長手方向に3cmの長さで、厚さ50μmで塗布し、所定の温度条件で30分乾燥させ、光透過性を有するオーバーコート層を形成した。これにより、導電膜の少なくとも一部の上にオーバーコート層が積層された、導電性塗膜複合体を得た。
形成した導電性塗膜複合体のオーバーコート層の表面について、JIS C 2525:1999の方法で比抵抗を測定し、前記測色計によりL*a*b*を測定した。その結果を「オーバーコート後」として表3に示す。
【0040】
<導電性塗膜複合体の評価>
比抵抗の測定値が6.50-E05(6.50×10-5)Ω・m以下を合格とした。
オーバーコート層を形成する前と後の測色値の色差(△E*)を次の式群で算出し、△E*が10以上を合格とした。
式1… {(後のL*)-(前のL*)}=Ls
式2… {(後のa*)-(前のa*)}=as
式3… {(後のb*)-(前のb*)}=bs
式4… △E*=√(Ls+as+bs)
【0041】
【表1A】
【0042】
【表1B】
【0043】
【表2A】
【0044】
【表2B】
【0045】
【表3A】
【0046】
【表3B】
【0047】
各表の略号や商品名は、下記化合物を意味する。
・「ニカノール1440M」:キシレン樹脂:フドー株式会社製
・「クラレポリオールF-3010」:ポリエステルポリオール:株式会社クラレ製
・「バイロンGK130」:ポリエステルポリオール:東洋紡株式会社製
・「エリーテルUE-3500」:ポリエステルポリオール:ユニチカ株式会社製
・「エスレックBX-5」:アルキルアセタール化ポリビニルアルコール:積水化学工業株式会社製
・「PKHH」:フェノキシ樹脂:巴工業株式会社
・「TPA-B80E」:ヘキサメチレンジイソシアネート:旭化成株式会社製
・「SF70M」:銀粉:Ames Advanced Materials Corporation製
・「OIL BLACK 860」:染料:オリエント化学工業株式会社製
・「OIL BLUE 613」:染料:オリエント化学工業株式会社製
・「VALIFAST RED 3304」:染料:オリエント化学工業株式会社製
・「VALIFAST BLACK 3870」:染料:オリエント化学工業株式会社製
・「WATER YELLOW 6」:染料:オリエント化学工業株式会社製
・「BL-100HP」:顔料:チタン工業株式会社製
・「BCA」:ブチルジグリコールアセテート(ブチルカルビトールアセテート)
・「BC」:ブチルジグリコール(ブチルカルビトール)
・「CA」:カルビトールアセテート
【0048】
上記で用いた「染料」は、溶媒である有機溶剤又はイオン交換水に溶解した。その溶解性は、溶媒100gに対して0.1g以上であった。
上記で用いた「顔料」は、分散媒である有機溶剤又はイオン交換水に溶解しなかった。その溶解性は、溶媒100gに対して0.1g未満であった。
【0049】
<考察>
導電膜に染料を含有させた各実施例の導電性塗膜複合体の色差(△E*)は、導電膜に染料を含有させなかった比較例1の色差に比べて大きく、着色効果が向上していることが確認された。また、染料の代わりに、顔料を導電膜に含有させた比較例2の色差は極めて小さかった。これらの結果から、各実施例にあっては、導電膜の上に塗布したオーバーコート塗料に染料が移行し、オーバーコート層中に拡散したことにより、色差が大きくなったことが分かった。
なお、導電膜に比較的多量の染料を含有させた実施例17にあっては、色差は大きくなったが、他の実施例に比べて比抵抗が大きく、導電性に劣っていた。