(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123365
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】金属構造体およびその製造方法、金属構造体を用いた蒸着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240905BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240905BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240905BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20240905BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
C23C14/24 E
C22C21/00 M
C22F1/04 F
C22C1/02 503J
C22F1/00 613
C22F1/00 622
C22F1/00 625
C22F1/00 673
C22F1/00 681
C22F1/00 685Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030705
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】石井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】坂本 桂太郎
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA11
4K029AA25
4K029BA03
4K029CA01
4K029DA10
4K029DB03
4K029DB18
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】
真空状態で溶融アルミニウムが蒸発するときに発生するスプラッシュが減少し、高いフィルム搬送速度が得られ、蒸着膜表面に穴あき欠陥がない特性を有する金属構造体および金属構造体の製造方法、その金属構造体を用いた蒸着フィルムの製造方法を得る。
【解決手段】
99質量%以上のアルミニウムを含み、残部が少なくとも鉄を含む成分であり、鉄の粒子径が2.0μm以上5.0μm以下である金属構造体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
99質量%以上のアルミニウムを含み、残部が少なくとも鉄を含む成分であり、鉄の粒子径が2.0μm以上5.0μm以下である金属構造体。
【請求項2】
鉄の粒子径2.0μm以上の個数占有率が50%以上である請求項1に記載の金属構造体。
【請求項3】
融解熱量が250J/g以上である請求項1に記載の金属構造体。
【請求項4】
請求項1に記載の金属構造体の製造方法であって、溶解工程、保持工程、鋳造工程、圧延工程、および、伸線工程を有する金属構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属構造体を用いる蒸着フィルムの製造方法であって、真空槽内に基材フィルム操出軸、巻取軸、および、蒸発源を具備する長尺フィルムの連続蒸着装置において、蒸着材料として前記金属構造体を用いる蒸着フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造体およびその製造方法、金属構造体を用いた蒸着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルムの表面に金属薄膜を形成した蒸着フィルムは、金属光沢による意匠性に加え、優れたガスバリア性能、光遮断性を有することから、食品用包装材料などの用途に広く使用されている。蒸着フィルムは、例えばアルミニウムなどの金属薄膜の材料となる金属からなる構造体を真空中で溶融、気化して高分子フィルムに付着させて所望の薄膜を得る真空蒸着法により製造されることが多い。真空蒸着用金属構造体として形状は特に限定されないが、昨今の高速連続蒸着装置においては、連続的に安定して搬送・供給することができる線形状が好ましく、また高速で連続供給するためにはその断面形状は円であることが好ましい。
【0003】
真空蒸着用金属構造体としてアルミニウム線を用いる場合、一般的に純度の高いアルミニウム線が用いられる。アルミニウムは延伸性や柔軟性が強く、鉄と比べても機械強度が低いことは一般的に知られている。また、耐熱性も低いため、金属構造体を溶融させるための熱源からの輻射熱影響による変形のため安定に供給できず蒸着できなくなる可能性がある。そこで、真空蒸着用金属構造体として、機械的特性を改善したアルミニウム線を使用すればよいと考えられる。例えば、電線用導体に適したアルミニウム合金を特定の組成とすれば、高強度で高靭性であり導電率も高く、端子部との固着性にも優れるアルミニウム合金線が得られることが示されている(特許文献1)。また、電線に備える導体などに利用される線材として、耐衝撃性に優れる上に、疲労特性にも優れるアルミニウム合金線が示されている(特許文献2)。
【0004】
昨今、世界の包装業界全体がコスト削減必須となり、従来のアルミニウムインゴットをるつぼに投入して誘導加熱蒸着させる方法では高速蒸着するためのアルミニウムの蒸発レートを稼ぐことができないため、高速で蒸着するボート加熱技術が主流となってきており、蒸着材料としては線(ワイヤー)形状が世界的に使用されている。
【0005】
真空蒸着用金属構造体として用いるアルミニウム線の直径は、連続蒸着装置メーカーによって様々なサイズが展開しており、一般的には0.4~4.0mmで、好ましくは1.2~2.4mm、より好ましくは一般的にアルミニウム線の搬送が安定する1.6~2.2mmが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-12869号公報
【特許文献2】特開2018-70992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1および2に記載の合金線を真空蒸着用金属構造体として用いた場合、機械強度が高い反面、不純物が多く、真空蒸着時にスプラッシュが多発してしまう欠点を有している。また、フィルムの穴あきによる品質悪化という問題が発生している。
【0008】
本発明の目的は、アルミニウム蒸着フィルムを連続加工するにあたり、溶融アルミニウムが蒸発する際に発生するスプラッシュが減少する特性を有する金属構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の金属構造体は、99質量%以上のアルミニウムを含み、残部が少なくとも鉄を含む成分であり、鉄の粒子径が2.0μm以上5.0μm以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルミニウム蒸着フィルムを連続加工するにあたり、溶融アルミが蒸発する際に発生するスプラッシュが減少する特性を有する金属構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の蒸着フィルムの製造方法に用いられる製造装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の金属構造体は、99質量%以上のアルミニウムを含み、残部が少なくとも鉄を含む成分であることが好ましい。
【0014】
鉄以外の成分として、銅、マグネシウム、珪素、亜鉛、クロム、マンガン、チタンなどが存在しても良い。金属構造体のアルミニウムが99質量%未満となると、アルミニウム以外の不純物の割合が高くなり、溶融アルミニウムの蒸発を阻害するため、蒸発に過剰なエネルギーが必要となり、結果的に蒸発源が高温になるため、ピンホールに寄与するスプラッシュが多発するため好ましくない。例えば、90質量%のアルミニウム、3質量%の鉄、2質量%の珪素、3質量%の銅等を含む金属構造体を使用すると、スプラッシュが多発することが判明している。
【0015】
金属構造体中の鉄の粒子径は、2.0μm以上5.0μm以下であることが好ましい。鉄の粒子径は、後述する方法で測定することができる。鉄の粒子径が5.0μmを超えると、金属構造体中の鉄の結晶粒が大きくなり、金属構造体中に分散しにくく、局所的に集合している鉄の結晶粒へ熱エネルギーが集中し、アルミニウムの均一な蒸発が阻害され、ピンホールに寄与するスプラッシュが多発する。
2.0μm未満では鉄の結晶粒が小さくなり、金属構造体中に分散しやすく、十分な機械強度が得られる一方で、金属構造体中の組織が微細化しているため比較的軟化しやすく、輻射熱影響を受けやすく、蒸発源到達前に変形してしまい、蒸着材料には不向きである。
【0016】
金属構造体の鉄において、鉄の粒子径2.0μm以上の個数占有率は50%以上であることが好ましい。個数占有率は、後述する方法で測定することができる。
【0017】
鉄の粒子径2.0μm以上の個数占有率が50%未満では、アルミニウムの結晶組織が微細化していることがあり、輻射熱影響によるアルミニウムの軟化や溶融しやすさが増え、蒸発源上に溶融アルミニウムが過剰供給となり、スプラッシュが多発することがある。一方、ワイヤー搬送速度を下げることで過剰供給は回避できるが、その分蒸発源直上に停滞する時間が長くなり、輻射熱影響が増大しワイヤーが軟化してしまい、蒸発源に到達することができず蒸着できない症状が出てくることがある。
【0018】
金属構造体の融解熱量は250J/g以上であることが好ましい。金属構造体の融解熱量は、後述する方法で測定することができる。金属構造体の融解熱量が、250J/g未満では蒸発源上で溶融しやすく、蒸発源が高温状態になりやすいことがある。そのため、溶融状態から蒸発しやすくスプラッシュが多発することがある。
【0019】
本発明の金属構造体の製造方法は、アルミニウムの溶解、保持、鋳造、圧延、伸線工程を有することが好ましい。金属構造体の製造方法として特に限定されないが、アルミニウムの溶解においては、アルミナの溶融塩電解製錬法(ホール・エルー法)によって得られる一次電解アルミニウムや更に精製する三相電解法や偏析法を用いることにより得られる高純度アルミニウム、また、スクラップから得られる再生地金がある。食品包装材料用途となると、食品に直接接触することを想定する必要があり、再生地金の使用は好ましくなく、比較的高純度なアルミニウムの使用が好ましい。高純度アルミニウムの溶解方法としては、一時電解アルミニウムや三相電解法や偏析法が好ましい。昨今のボーキサイトの価格高騰や燃料価格高騰を考慮すると、三相電解法や偏析法では、膨大な電力を使用しても、超高純度アルミニウムが少量しか得られず価格も高く溶解方法として効率が悪い。そのため、比較的安価に高純度アルミニウムを溶解することができる溶融塩電解製錬法(ホール・エルー法)がより好ましい。
【0020】
アルミニウムの保持処理は、水素ガス、介在物を低減させることが重要であり、保持処理方法は特に限定されない。ここでは一般的な保持処理を例示する。アルミニウムに中に含まれる水素ガスは、雰囲気中の水蒸気と反応することにより、アルミニウム溶湯中に入り込むことが一般的に知られている。溶湯アルミニウム中の水素ガスが著しく多い場合、凝固過程で濃縮した水素ガスが鋳塊に残り、欠陥の原因となる。そこで脱ガス処理を行う。脱ガス処理は回転翼を用いて脱ガス用ガスを細かく分断し、気液界面面積を増加させる。脱ガス効率を上げる方式(SNIF、GBF等)が広く使用されている。アルミニウム溶湯中の介在物は、一時電解アルミニウムで得られた地金に含まれるAl2O3やAl4C3が主である。介在物除去にはフラックス処理が行われる。フラックスの主な構成成分は、塩化物、フッ化物、硫酸化物であり、酸化物との濡れ性が良く、浮上分離された酸化物を燃焼させる。
【0021】
アルミニウムの鋳造方法としては、鋳造圧延法(プロペルチ法)、DC鋳造法、水平連続鋳造法、ダイカスト法などがある。高純度アルミニウムを連続的に効率良く鋳造圧延および伸線加工できるプロペルチ法がより好ましい。伸線工程として、特に限定されないが伸線加工時のダイス数を多く設けて、伸線加工時の加工硬化による歪みを低減することや金属構造体はできる限り加熱せずに、伸線時の発熱のみで伸線することが好ましい(アルミニウム大全参照書籍)。
【0022】
本発明の蒸着フィルムの製造方法は、真空層内に基材フィルム繰出軸、巻取軸、蒸発源を具備する長尺フィルムの連続蒸着装置において、蒸着材料として前記のいずれかに記載の金属構造体を用いることが好ましい。
【0023】
基材フィルムを巻き出した後、蒸着材料を蒸発源により蒸発させ、基材フィルムに蒸発した成分を付着させる。蒸着材料の蒸発方式は、特に限定されないが、るつぼ加熱方式、電子ビーム加熱方式、ボート加熱方式が好ましい。るつぼ・電子ビーム加熱方式では蒸発源と基材フィルム間の距離が遠く、高速蒸着における蒸着レートを保持することが不可能であったため、より好ましくは、フィルムと蒸発源との距離が近く、高速で蒸着することが可能となるボート加熱方式が有効である。また、蒸気中に酸素ガスを導入しながら、無機酸化物層を形成する方法、酸化アルミニウムを蒸発させ、無機酸化物層を形成する方法、アルミニウムを蒸発させアルミニウム層を形成した後に、酸素イオンを注入する方法、酸化アルミニウムをターゲットとして、スパッタにより無機酸化物層を形成する方法、酸化アルミニウムを含熱する塗布液を塗布した後に、乾燥する方法などが挙げられるが、コストなどを考慮すると、基材フィルムを巻き出した後、アルミニウムを蒸発させ、上記中に酸素ガスを導入しながら、無機酸化物層を形成する方法が好ましい。前記バリア性皮膜を用意する工程としては、上述のバリア性皮膜を形成する方法が好ましい。
【0024】
金属アルミニウム層の厚みは5nm以上100nm以下、好ましくは10nm以上70nm以下、さらに好ましくは15nm以上50nm以下程度であることが実用的である。光学濃度で言えば1.5以上、金属光沢で言えば600%以上が実用的である。金属アルミニウム層の厚みが20nm以下では光学濃度が1.5以下、金属光沢が600%以下となり、遮光性、金属光沢が失われ、外観が実用に耐えない状態になることがある。金属アルミニウム層の厚みが50nm以上では光学濃度が1.5以上、金属光沢が600%以上となり、遮光性及び金属光沢には問題ないが、金属アルミニウム層が厚くなることで、蒸着層にクラックが入りやすくなり、酸素ガスバリア性及びラミネート強度が低下することがある。
【0025】
基材フィルムとしては、用途により機械強度、耐熱性、耐光性などの特性を考慮する限り特に限定されないが、代表的な例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン2,6-ナフタレートなどのポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、6ナイロン、12ナイロンなどのポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリイミドなどの単独重合体または共重合体からなるフィルム、シートが挙げられる。上述のいずれの原料もメカニカルリサイクルあるいはケミカルリサイクルなどのリサイクル原料を用いても良い。
【0026】
さらには本発明において、ポリプロピレン系フィルムに植物由来の低密度ポリエチレンが含有されていてもよい。前記植物由来の低密度ポリエチレンとは、バイオマス由来のポリエチレンの原料から製造されたフィルムである。エチレンの製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により得ることができる。例えば、バイオマス由来のポリエチレンの製造方法として、バイオマス由来のエタノールを原料として製造することができる。特に、植物原料から得られるバイオマス由来の発酵エタノールを用い、植物原料は特に限定されず、従来公知の植物を用いることができる。例えば、トウモロコシ、サトウキビ、ビート、およびマニオクを挙げることができる。植物由来のバイオマスポリエチレン系樹脂を用いることによりバイオマス度の高いフィルムを提供することができる。また、本発明に用いられるポリプロピレン系フィルムには、本発明の目的とする光沢度、酸素透過率、密着強度を阻害しない範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、帯電防止剤、塩酸吸収剤、耐ブロッキング剤、滑剤等を含むことができる。これらの添加剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例0027】
以下、本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0028】
[特性の評価方法]
(1)2軸平均径測定方法
断面を機械研磨で鏡面出しした金属構造体を用いて、日立ハイテク社製の走査型電子顕微鏡(S-4800)を使用して、加速電圧15kV、エミッション電流20±2μA、WD(ワーキングディスタンス)15mmの条件下で、倍率2,000倍(測定面積:3,000μm
2)視野にて、HORIBA製エネルギー分散型微小部X線分析装置(EDS):EMAX X-Max検出器およびEMAX Evolutionソフトウェア Version3.2を用いて、5×5画素スムージング、ピニング係数2、検出元素は鉄を選択したうえでマッピング分析を行い、カラーバーのホワイトを50、ブラックを49に画像処理観察した。画像処理観察した2軸平均径とは、画像処理した鉄に対して、全て同じ方向に統一した長方形が外接するようにし、長方形の長辺を長軸径a、短辺を短軸径bとして2辺の長さの平均値のことをいう。一例として、
図2に2軸平均径の測定箇所を示す。
(2)鉄の粒子径
(1)の方法を3視野で測定を行い、複数の2軸平均径が求められ、それらの平均値を鉄の粒子径とした。鉄の粒子径が2.0μm以上5.0μm以下であれば合格とした。
【0029】
(3)鉄の粒子径個数占有率計算方法
(1)の方法を3視野で測定を行い、画像処理観察で得られた複数の鉄の3視野合計総個数を分母とし、鉄の粒子径が2.0μm以上の個数を分子として割り返し、鉄の粒子径個数占有率を求めた。その鉄の粒子径個数占有率が50%以上であれば合格とした。
【0030】
(4)融解熱量測定方法
金属構造体を5.0mg採取し、理学電気株式会社製の示差走査熱量計(DSC8230)を使用して、窒素ガスを50mL/min.加熱チャンバー内に導入し、10℃/min.で660℃まで加熱したときの融解開始温度、融解ピーク温度、融解終了温度の3点の面積から融解熱量(J/g)を算出し、その値が250J/g以上であれば合格とした。
【0031】
(5)ピンホール評価
蒸着フィルムを0.5m/min.で巻き返しながら、蒸着面側から目視で穴あきの個数を調査した。フィルム上の穴あきは、LEICA製実体顕微鏡(M205C)を用いて観察し、ソフトウェアLEICA LAS Version3.6.0を用いて面積を測定し、その面積が2.0mm2以上のものを穴あき欠点として、スプラッシュによる穴あきの個数が10個未満のものを合格(〇)、10個以上のものを不合格(×)とした。
【0032】
(6)アルミニウム蒸着層の膜厚測定
全自動走査型X線光電子分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社社製K-Alpha)を用いて、X線源AlKα、X線出力25.1W、光電子取り出し角45°で分析を行った。バリア性皮膜側から、Arイオンを用いて、Arイオンエネルギー1keVでスパッタを行ない、一定スパッタ時間毎に炭素、酸素、アルミニウムの元素について狭域光電子スペクトル測定を行い、C1s、O1s、Al2pの狭域光電子ピーク面積強度比と相対感度係数から各元素の組成比を算出し、深さ方向のO、C、Al元素の原子濃度分布、すなわち、デプス分析を行った。1.0keVでエッチング処理しながら、深さ方向組成分析評価を行い、ポリプロピレンフィルム/アルミニウムの組成比をエッチングレートSiO2で換算して確認した。SiO2のエッチングレートは、SiO2膜100nmをエッチングする際に11.7min.要したことから、8.55nm/min.と定義した上で膜厚測定した。アルミニウム層の表層からArイオンエッチングを行いながらデータを収集し、基材フィルムの炭素濃度が50%になるエッチング時間をアルミニウム層と基材フィルムとの界面に達したエッチング時間とした。このエッチング時間をエッチングレートSiO2で8.55nm/min.換算して、アルミニウム層厚みを算出した。
【0033】
(実施例1)
金属構造体は直径1.8mmであり、99質量%以上のアルミニウムを含み、残部が鉄であり、鉄の粒子径が2.0μm、鉄の粒子径における2.0μm以上の個数占有率が50%以上であり、融解熱量が250J/gである金属構造体を用いた。基材フィルムとして、無延伸ポリプロピレンフィルム(東レフィルム加工(株)製“トレファン(登録商標)”9041)厚さ25μm、幅2000mm、長さ24600mを使用した。通常のフィルム搬送室および蒸着室からなるロール・ツー・ロール型の真空蒸着機により、ボート式抵抗加熱方式のアルミニウム蒸発源を用いて蒸着し、アルミニウム層を連続的に形成した。
【0034】
基材フィルムには、半径300mmの冷却ドラム上で、フィルム搬送速度、アルミニウム蒸発源、冷却ドラム、防着板の位置を調整し、アルミニウム層50nmとなるアルミニウム蒸着無延伸ポリプロピレンフィルムを得た。実体顕微鏡を用いて目視検査したところ、スプラッシュ現象は発生しなかった。
【0035】
(実施例2)
実施例1において、鉄の粒子径が3.5μmであり、鉄の粒子径における2.0μm以上の個数占有率が80%以上であり、融解熱量が280J/gである金属構造体を用いて実施例1と同様に蒸着を行った。スプラッシュ現象は発生しなかった。
【0036】
(実施例3)
鉄の粒子径が5.0μmであり、鉄の粒子径における2.0μm以上の個数占有率が95%以上であり、融解熱量が280J/gである金属構造体を用いて実施例1と同様に蒸着を行った。スプラッシュ現象は発生しなかった。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、鉄の粒子径が1.3μmであり、鉄の粒子径における2.0μm以上の個数占有率が30%以上であり、融解熱量が180J/gである金属構造体を用いて実施例1と同様に蒸着を行った。スプラッシュ現象が多発し、実用的ではなかった。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、鉄の粒子径が1.8μmであり、鉄の粒子径おける2.0μm以上の個数占有率が40%以上であり、融解熱量が190J/gである金属構造体を用いて実施例1と同様に蒸着を行った。スプラッシュ現象が多発し、実用的ではなかった。
【0039】
(比較例3)
実施例1において、鉄の粒子径が1.0μmであり、鉄の粒子径における2.0μm以上の個数占有率が5%以上であり、融解熱量が150J/gである金属構造体を用いて実施例1と同様に蒸着を行った。スプラッシュ現象が多発し、実用的ではなかった。
【0040】
(比較例4)
実施例1において、鉄の粒子径が7.0μmであり、鉄の粒子径における2.0μm以上の個数占有率が95%以上であり、融解熱量が280J/gである金属構造体を用いて実施例1と同様に蒸着を行った。スプラッシュ現象が多発し、実用的ではなかった。
【0041】
【0042】
以上の各実施例、比較例の結果より明らかなように、本発明の蒸着フィルムの製造方法により、遮光性、金属光沢、ガスバリア性能、密着強度いずれも良好なアルミニウム蒸着フィルムを製造することができる。
本発明の金属構造体は、溶融アルミニウムが蒸発する際に発生するスプラッシュが減少する特性を有するため、アルミニウム蒸着フィルムを製造した際にフィルム品質が安定的に製造する材料として有用である。