(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123368
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/06 20060101AFI20240905BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240905BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240905BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20240905BHJP
【FI】
C01B33/06
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030710
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
【テーマコード(参考)】
4G072
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA50
4G072BB05
4G072MM22
4G072MM23
4G072RR12
4G072RR22
4G072RR23
4G072TT08
4G072TT17
4G072UU01
5E078AA03
5E078AB01
5E078BA30
5E078BA31
5E078BA32
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
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5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050HA06
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示の多孔質シリコン材料は、コア部と前記コア部の周囲に存在し前記コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Si相とAl相とCrシリサイド相とを含み、下記(1)及び(2)のうちの少なくとも一方を満たすものである。(1)Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む。(2)SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と前記コア部の周囲に存在し前記コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Si相とAl相とCrシリサイド相とを含み、下記(1)~(2)のうちの1以上を満たす、多孔質シリコン材料。
(1)Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む。
(2)SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む。
【請求項2】
前記Crシリサイド相は、Al13Si4Cr4及びCr(Al,Si)2のうちの1以上である、請求項1に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項3】
水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上含む、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項4】
水銀圧入法による平均細孔径が100nm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項5】
抵抗率が500Ωcm以下である、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項6】
前記多孔化部は、前記コア部よりもAlの含有量が少ない、請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項7】
正極活物質を含む正極と、
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項8】
平衡状態図において室温でAl相とSi相とCrシリサイド相とが現れる組成のAl-Si-Cr三元系合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して前記多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含み、
前記多孔化工程は、Alの減少量が、Alを完全除去した場合のAlの減少量の20%以上90%以下となる条件で行う、多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項9】
前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する除去処理を行う、請求項8に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項10】
下記(3)~(5)のうちの1以上を満たす、請求項8又は9に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
(3)前記除去処理は、0.1mol/L以上3mol/L以下の濃度の酸又はアルカリで行う。
(4)前記除去処理は、30℃以下の温度で行う。
(5)前記除去処理は、2時間以上24時間以下行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、AlSiCu合金粉末を塩酸などで処理することにより、Alを除去して得られた多孔質シリコン材料が提案されている(例えば、非特許文献1)。この多孔質シリコン材料では、多孔質シリコン材料に銅を組み込むことで、シリコンの良好な電子伝導性を確保し、充放電時の体積膨張を抑制できるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 455 (2020) 227967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1の多孔質シリコン材料では、銅によって電子伝導性を確保しているが、抵抗率をより低減させるためには、比較的多くの銅が必要であるという問題があった。このため、抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、抵抗をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、多孔質シリコン材料にAl相及びCrシリサイド相を導入すると、抵抗率をより低減させることができ、特に、コア部と、コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Al及びCrの含有量[at%]や、Al相及びCrシリサイド相の割合[mol%]を所定の範囲とすると、抵抗率をより低減させることができることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料は、
コア部と前記コア部の周囲に存在し前記コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Si相とAl相とCrシリサイド相とを含み、下記(1)~(2)のうちの1以上を満たすものである。
(1)Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む。
(2)SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む。
【0008】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
平衡状態図において室温でAl相とSi相とCrシリサイド相とが現れる組成のAl-Si-Cr三元系合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して前記多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含み、
前記多孔化工程は、Alの減少量が、Alを完全除去した場合のAlの減少量の20%以上90%以下となる条件で行うものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、抵抗率をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、多孔質シリコン材料にAl相及びCrシリサイド相を導入すると、これらは、導電相として機能する。特に、こうした多孔質シリコン材料において、例えば、コア部と、コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む場合や、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む場合には、Al相やCrシリサイド相が多孔質シリコン材料中に好適な状態で存在するため、抵抗率をより低減させることができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】25at%SiにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図2】融液液滴の冷却過程における最表面層の微細組織形成過程の模式図。
【
図3】Al
85-ySi
15Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図4】Al
80-ySi
20Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図5】Al
75-ySi
25Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図6】Al
70-ySi
30Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図7】Al
60-ySi
40Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図。
【
図8】Al-Si-Cr系組成における共晶組成の範囲の説明図。
【
図9】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図10】実験例1,2,7,4,8の多孔質シリコン材料のXRD測定結果。
【
図11】実験例1,4の多孔質シリコン材料を加熱処理した試料のXRD測定結果。
【
図12】酸処理温度がAl減少量に及ぼす影響を示すグラフ。
【
図13】酸濃度がAl減少量に及ぼす影響を示すグラフ。
【
図14】酸濃度がCr減少量に及ぼす影響を示すグラフ。
【
図15】実験例1~4の多孔質シリコン粉末の断面SEM像。
【
図16】酸処理時間と平均浸透深さとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、多孔化工程とを含む。前駆体工程では、平衡状態図において室温でAl相とSi相とCrシリサイド相とが現れる組成のAl-Si-Cr三元系合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。Crシリサイド相は、SiとCrとを含むSiCr化合物でもよいし、AlとSiとCrとを含むAlSiCr化合物としてもよい。多孔化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して多孔質シリコン材料を得る処理を行う。この多孔質シリコンの製造方法で得られる多孔質シリコン材料は、例えば、Si相とCrシリサイド相とが共存した骨格を有するものとしてもよい。こうした骨格を有する構造を、共存型構造とも称する。CrSi2やAl13Si4Cr4などのCrシリサイド相は、導電性を有するため、伝導パスであるSi骨格に導電相としてCrシリサイドを共存させることで、導電性を向上させることができる。また、Crシリサイドの強度はSiの2倍程度あるため、Si骨格中に強化相としてCrシリサイドを共存させることで、骨格強度を向上することもできる。
【0013】
図1は、25at%SiにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図2は、融液液滴の冷却過程における最表面層の微細組織形成過程の模式図である。Cr添加による共存型構造の形成は、Al-Si-Cr系の状態図の特徴が影響している。ここでは、合金融液をガスアトマイズ法で冷却する場合を一例として説明する。ガスアトマイズ法ではノズル先端の穴から高温の融液を高圧ガス中に噴射して冷却する。この時、融液(
図1(1))を冷却し
図1(2)の温度になると温度の低い液滴表面から最初にCrSi
2が晶出するが(
図2(2))、CrSi
2は融液との共存温度領域(
図1(3))で徐々に粗大化する(
図2(3))。その際、CrSi
2があまりに粗大化すると生成するシリコン粉末の周囲を殻状に不活性なCrSi
2が覆うことになり(
図2(3-2))、活物質表面にキャリアイオン(Li)の伝導パスが少なくなるため好ましくない。しかし、AlSiCr系の状態図では
図1(4)の温度まで冷却されるとCrSi
2が分解される(包晶反応)と同時にSiとAl
13Si
4Cr
4が析出するので(共晶反応)、活物質表面に活性なキャリアイオンの伝導パス(即ち、Si相)が形成されるためより好ましい。更に、この包晶反応は一般に、L+CrSi
2⇒Al
13Si
4Cr
4の様に、融液と固相とが反応して、別の固相が生成する反応を指すが、固相粒子の表面から反応が進行するため、
図2(4)に示すように、微細なCrSi
2粒子の周りを、Al
13Si
4Cr
4とSiの殻が被覆するような組織が形成される。こうして、
図1(4)の温度領域で、CrSi
2(実際にはCr(Al,Si)
2である場合もある)がAl
13Cr
4Si
4とSiとに分解する反応が生じるため、最初に生成したCrSi
2結晶核の位置を中心として、SiとAl
13Cr
4Si
4ナノ粒子が極めて近距離で共存するクラスター粒子が融液中に分散した状態が生じる(
図2(5))。そして、Al融液が最後に固化することでクラスターのSiとAl
13Cr
4Si
4ナノ粒子とが連結して、骨格部分にSiとCrシリサイドとが共存した組織が形成され、ここから酸処理でAlを除去することで共存型構造の複合多孔質材料が得られる。なお、冷却速度が十分に大きい場合には、上記包晶反応が完了する前に冷却されるため、粒子表面付近の一部のCrSi
2は非平衡相として残存すると考えられる。上述の冷却過程では、包晶反応で、微細なCrSi
2粒子の周りをAl
13Si
4Cr
4とSiの核が被覆するような組織が形成されるため、より細かい微細構造が実現される。即ち、Si粒子やCrSi
2、Al
13Si
4Cr
4の細かさに加えて、細孔源となるAl合金も微細化される。更に、CrSi
2やSi、Al
13Si
4Cr
4、Alの析出温度差が比較的小さいため(~350℃)、それらの粒子の結晶成長が小さく、ナノサイズの微細構造を実現できる。なお、凝固組織はSiCr化合物、AlSiCr化合物、AlCr化合物、共晶Si、初晶Si、初晶Alからなるラメラ組織を形成する。酸に溶出する化合物としては、初晶Al、AlSiCr化合物、AlCr化合物が挙げられ、酸処理後の構造は、残存するSiCr化合物、共晶Si、初晶Siのほか、未溶出の初晶Al、AlSiCr化合物、AlCr化合物などからなる骨格状の多孔体が得られるものと推察される。
【0014】
図3~
図7は、Si及びCrの含有量を変化させた場合のAl-Si-Cr系合金の状態図である。
図3は、Al
85-ySi
15Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図4は、Al
80-ySi
20Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図5は、Al
75-ySi
25Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図6は、Al
70-ySi
30Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図7は、Al
60-ySi
40Cr
yにおけるAl-Si-Cr状態図である。
図8は、Al-Si-Cr系組成における共晶組成の範囲の説明図である。共存型構造を実現するには、例えば上述したように、Al融液中にSiとCrシリサイドとのクラスター粒子が分散した状態やそれに近い状態を経ることが必要であり、SiとCrシリサイドとが共晶反応で同時析出する組成範囲が理想的である。
図3~7に示すように、Al
100-x-ySi
xCr
yの基本組成において、Si量xが18at%未満の場合、Siとシリサイドとが共晶反応で晶出する組成を示さない一方、Si量xが18at%以上、特に25at%以上の組成では、Cr量yに依存してL⇒Si+CrSi
2(共晶反応1)と、L⇒Si+Al
13Si
4Cr
4(共晶反応2)の共晶反応を生じる組成が存在する。
図8は、これらの共晶反応1,2を生じるSi量x及びCr量yの関係図であるが、斜線で示した組成領域では、SiとCrSi
2とが比較的近い温度で晶出することに加えて、CrSi
2+L⇒Al
13Si
4Cr
4の包晶反応が生じるため、より微細な細孔構造が実現でき、より好ましい組成範囲であると推察される。このような組成範囲は、基本組成式Al
100-x-ySi
xCr
yにおいて、18≦x≦40、0.1≦y≦15の範囲である。また、
図8に基づくと、Crは、Al及びSiとの全体に対して、0.1at%以上、更には0.5at%以上が好ましく、1at%以上がより好ましい。さらに、
図8において、斜線で示した組成領域のうち、Crが10at%以下の組成領域、つまり、太線で囲われグレーに着色された組成領域では、充放電反応に寄与しないシリサイドが多くなり過ぎないため、蓄電デバイスの容量を高める観点でより好ましい。
【0015】
(前駆体工程)
前駆体工程では、室温でAl相とSi相とCrシリサイド相とが現れる組成のAl-Si-Cr三元系合金の原料を溶融し急冷凝固させ、シリコン合金の前駆体を得る。シリコン合金の前駆体は、例えば、細孔を形成する骨格部分にSiと、Crシリサイドとが共存したものとしてもよい。この工程では、SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Crを0.1at%以上20at%以下の範囲で含み、Alを40at%以上90at%以下の範囲で含み、残部をSiとする原料を用いるものとしてもよい。原料組成において、Crは、0.1at%以上、更には0.5at%以上が好ましく、1at%以上がより好ましい。また、原料組成は、上述したように、基本組成式Al100-x-ySixCryにおいて、18≦x≦40、0.1≦y≦15の範囲であることが、より好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si、Cr、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとCrとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Crの配合比は、例えば、0.1at%以上が好ましく、0.5at%以上としてもよい。また、Crの配合比は、10at%以下が好ましく、5at%以下としてもよいし、3at%以下としてもよい。Alの配合比は、50at%以上が好ましく、55at%以上や60at%以上としてもよい。また、Alの配合比は、85at%以下が好ましく、80at%以下がより好ましく、77.5at%以下としてもよい。Siの配合比は、例えば、15at%以上が好ましく、18at%以上がより好ましく、20at%以上や25at%以上としてもよい。また、Siの配合比は、例えば、59at%以下が好ましく、50at%以下がより好ましく、40at%以下や30at%以下としてもよい。AlやCrをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。
【0016】
この工程において、原料を溶融する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波るつぼ溶融が好ましいが、いかなる溶融手法を用いても構わない。母合金の作製には、原料粉末の溶解が必要であり、均一な試料を作製するためには高周波溶解がより好ましいが、単純に電気炉などの加熱溶解や、電子ビームなどを用いて溶解してもよい。前駆体工程では、原料から得られた合金を粒子化するものとしてもよい。この粒子化処理では、シリコン合金の原料の溶湯を金型に鋳造して、得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。また、シリコン合金を粒子化する方法は、シリコン合金の溶湯をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法などのうち1以上としてもよい。ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法では合金粉末が得られる。一方、ロール急冷法では薄帯合金が得られることから、その後粉砕して粉末にするものとしてもよい。ロール急冷法で得られた粉末は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。
【0017】
前駆体工程では、粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。このシリコン合金粒子は、例えば、平均粒径が0.5μm以上10μm以下の範囲であることが好ましく、1μm以上5μm以下の範囲や2μm以上5μm以下の範囲としてもよい。この工程では、分級により、シリコン合金粒子の粒径を100μm以下としたり、10μm以下としたり、5μm以下としてもよい。また、この工程では、分級により、シリコン合金粒子の粒径を0.1μm以上としたり、0.5μm以上としたり、1μm以上としたり、2μm以上としてもよい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。この粒子化処理で得られた粒子は、最終的に得ようとする多孔質粒子の集合体の平均粒径となる。
【0018】
この前駆体工程では、AlとCrとSiとに加えCa、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやCrの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲より好ましい。この前駆体工程では、Crの一部を他の遷移金属元素Mに置き換えた組成の原料を用いてもよい。その場合、遷移金属元素Mは、モル比でCrの半分以下としてもよく、20%以下としてもよく、10%以下としてもよい。遷移金属元素Mとしては、Ti、V、Nb、Mo、Ni、Mn、Fe、Co、Znなどが挙げられる。
【0019】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去する除去処理を行う。この工程で除去するAl成分としては、例えば、Alやその化合物などが挙げられる。この多孔化工程は、Alの減少量が、Alを完全除去した場合のAlの減少量の20%以上90%以下となる条件で行う。Alの減少量が少ないほど導電率の高い多孔質シリコン材料が得られ、Alの減少量が多いほど細孔率の高い多孔質シリコン材料が得られる。Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量の85%以下とすることが好ましく、80%以下とすることが好ましい。また、Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量の30%以上としてもよく、40%以上としてもよい。また、多孔化工程では、Alの減少量が、Alを完全除去した場合のAlの減少量よりも5at%以上少なくなる条件で行うものとしてもよい。Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量よりも10at%以上少なくしてもよく、20at%以上少なくしてもよい。また、Alの減少量は、Alを完全除去した場合のAlの減少量よりも50at%以下少なくしてもよく、45at%以下少なくしてもよく、40at%以下少なくしてもよい。Alの減少量は、例えば、-20at%以上-62at%以下としてもよく、-30at%以上-60at%以下としてもよい。また、多孔化工程は、Crの減少量ができるだけ少なくなる条件で行うことが好ましい。例えば、多孔化工程では、Crの減少量が、Crを完全除去した場合のCrの減少量の60%以下となる条件で行うものとしてもよい。なお、Alの減少量が20%以上90%以下となるような緩和な条件で多孔化工程を行えば、Crの減少量は60%以下程度となると推察される。Crの減少量は、Crを完全除去した場合のCrの減少量の55%以下としてもよく、50%以下としてもよい。また、Crの減少量は、Crを完全除去した場合のCrの減少量の20%以上としてもよく、30%以上としてもよい。また、多孔化工程では、Crの減少量が、Crを完全除去した場合のCrの減少量よりも0.5at%以上少なくなる条件で行うものとしてもよい。Crの減少量は、Crを完全除去した場合のCrの減少量よりも0.6at%以上少なくしてもよく、0.7at%以上少なくしてもよい。また、Crの減少量は、Crを完全除去した場合のCrの減少量よりも1.0at%以下少なくしてもよく、0.9at%以下少なくしてもよく、0.8at%以下少なくしてもよい。Crの減少量は、例えば、-0.6at%以下としてもよい。Crの減少量は、例えば、-0.3at%以上としてもよく、-0.4at%以上としてもよい。
【0020】
ここで、Alの減少量及びCrの減少量は、例えば、除去処理前後でSiの量が不変と仮定できる場合には、除去処理前のSiの量(元素比)を基準として、除去処理後のAlやCrの量(元素比)とSiの量(元素比)の比率から、AlやCrの変化量を算出してもよい。具体的には、Alの減少量LA[at%]は、LA=A2×S1/S2-A1の式から求めた値とし、Crの減少量LC[at%]は、LC=C2×S1/S2-C1の式により求めた値とする。ただし、除去処理前のシリコン合金についてEDXで求めたAl、Si、Crの元素比をそれぞれA1[at%]、S1[at%]、C1[at%](ただし、A1+S1+C1=100)とし、除去処理後の多孔質シリコン材料についてEDXで求めたAl、Si、Crの元素比をそれぞれA2[at%]、S2[at%]、C2[at%](ただし、A2+S2+C2=100)とする。なお、例えば、Siは塩酸には溶けないため、塩酸での酸処理により除去処理を行った場合などには、除去処理前後でSiの量が不変と仮定できる。
【0021】
多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。なお、酸を用いた除去処理を酸処理、アルカリを用いた除去処理をアルカリ処理とも称する。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Al成分を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、0.1mol/L以上としてもよいし、0.2mol/L以上としてもよいし、0.5mol/L以上としてもよい。酸又はアルカリの濃度は、例えば、5mol/L以下としてもよいし、3mol/L以下としてもよいし、1.5mol/L以下としてもよい。除去処理を行う際の温度は、例えば、40℃未満としてもよいし、35℃以下としてもよいし、30℃以下としてもよい。また、除去処理を行う際の温度は、例えば、0℃以上としてもよいし、5℃以上としてもよいし、10℃以上としてもよい。除去処理を行う時間は、例えば、1時間以上としてもよいし、2時間以上としてもよい。また、除去処理を行う時間は、例えば、24時間以下としてもよいし、12時間以下としてもよいし、10時間以下としてもよい。この除去処理は、シリコン合金を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、必要に応じて撹拌して行うことが好ましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0022】
多孔化工程では、酸やアルカリを用いて除去処理を行う場合、シリコン合金の表面から酸やアルカリが浸透してAl成分が溶解し、Al成分の一部が除去されて多孔化すると考えられる。多孔化工程では、シリコン合金の表面から酸やアルカリが浸透して多孔化した部分の深さを除去処理浸透深さとし、その平均値を平均浸透深さとしたときに、平均浸透深さが100nm以上1500nm以下となる条件で除去処理を行うものとしてもよい。この平均浸透深さは、200nm以上としてもよく、300nm以上としてもよい。また、平均浸透深さは、1250nm以下としてもよく、1000nm以下としてもよい。また、平均浸透深さは、粒子状のシリコン合金を用いた場合、その平均粒径の2%以上45%以下であるものとしてもよい。この平均浸透深さは、平均粒径の3%以上としてもよいし、平均粒径の5%以上としてもよい。また、平均浸透深さは、平均粒径の40%以下としてもよいし、35%以下としてもよい。なお、平均浸透深さは、棒状のシリコン合金を用いた場合には上記平均粒径を平均直径に読み替え、板状のシリコン合金を用いた場合には上記平均粒径を平均厚さに読み替えて定めることができる。
【0023】
多孔化工程では、コア部と、コア部の周囲に存在しコア部よりも多孔化された多孔化部とを有する多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この工程では、Si相とAl相とCrシリサイド相とを含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この工程では、(1)Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。また、(2)SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。多孔化工程では、以下に詳述する多孔質シリコン材料を得るものとしてもよく、以下に詳述する多孔質シリコン材料が得られる条件で行うものとしてもよい。
【0024】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、コア部と、コア部の周囲に存在しコア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Si相とAl相とCrシリサイド相とを含む。この多孔質シリコン材料は、(1)Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含むものとしてもよい。この各相は、X線回折のピーク強度比から求められた値とする。また、この多孔質シリコン材料は、(2)SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含むものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、Si骨格の周辺に導電相としてAl及びCrシリサイドを有するものとしてもよい。Crシリサイドは比較的導電率の高い半導体であるため、抵抗低減の効果が期待できる。また、Alは金属相として高い導電率を有するため、抵抗低減の効果が期待できる。さらに、Alは、蓄電デバイスの活物質として充放電容量を有するため、Cuのように活物質としての充放電容量を有さない導電相を導入した場合に比して、導電相共存による容量の低下を緩和する効果が期待できる。Crシリサイド相は、CrSi化合物としてもよいし、AlCrSi化合物としてもよいが、AlCrSi化合物が好ましい。Crシリサイド相は、例えば、Al13Si4Cr4及びCr(Al,Si)2のうちの1以上としてもよい。
【0025】
この多孔質シリコン材料において、抵抗率を低減する観点からは、Al相が多いことが好ましく、例えば、Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相は15mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましい。また、この多孔質シリコン材料において、導電性や強度を高める観点からは、Crシリサイド相が多いことが好ましく、例えば、Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Crシリサイド相は0.7mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましい。なお、Crシリサイド相は、例えば、2mol%以下としてもよく、1.8mol%以下としてもよい。この多孔質シリコン材料は、Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Si相を40mol%以上95mol%以下の範囲で含むものとしてもよく、45mol%以上90mol%以下の範囲で含むものとしてもよい。Crシリサイド相は、Al13Si4Cr4及びCr(Al,Si)2のうちの1以上としてもよく、少なくともAl13Si4Cr4を含むことが好ましい。Crシリサイド相は、アモルファスとして存在するものとしてもよい。
【0026】
この多孔質シリコン材料において、抵抗率を低減する観点からは、Alの含有量が多いことが好ましく、例えば、SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alは15at%超過が好ましく、20at%以上がより好ましく、25at%以上としてもよい。このAlの含有量は、例えば、55at%以下としてもよく、50at%以下としてもよい。また、多孔質シリコン材料において、強度を高める観点からは、Crの含有量が多いことが好ましく、例えば、SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、0.7at%以上としてもよいし、1at%以上としてもよい。このCrの含有量は、例えば、2.5at%以下としてもよく、2at%以下としてもよく、1.5at%以下としてもよい。このシリコン材料において、Siの含有量は、例えば、SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、35at%以上85at%以下としてもよく、40at%以上80at%以下としてもよい。
【0027】
この多孔質シリコン材料は、上述のとおり、コア部と、コア部の周囲に存在しコア部よりも多孔化された多孔化部とを有する。この多孔質シリコン材料は、その表面からコア部に至るまでの距離を多孔化深さとし、その平均値を平均多孔化深さとしたときに、平均多孔化深さが100nm以上1500nm以下であるものとしてもよい。なお、多孔化深さ及び平均多孔化深さは、上述の多孔化工程における浸透深さ及び平均浸透深さに対応する。平均多孔化深さは、200nm以上としてもよく、300nm以上としてもよい。また、平均多孔化深さは、1250nm以下としてもよく、1000nm以下としてもよい。また、平均多孔化深さは、多孔質シリコン材料が粒子状の場合、多孔質シリコン材料の平均粒径の2%以上45%以下であるものとしてもよい。この平均多孔化深さは、平均粒径の3%以上としてもよいし、平均粒径の5%以上としてもよい。また、平均多孔化深さは、平均粒径の40%以下としてもよいし、35%以下としてもよい。なお、平均多孔化深さは、多孔質シリコン材料が棒状の場合には上記平均粒径を平均直径に読み替え、多孔質シリコン材料が板状の場合には上記平均粒径を平均厚さに読み替えて定めることができる。この多孔質シリコン材料において多孔化部は、コア部よりもAl相が少ないものとしてもよい。この多孔質シリコン材料において、コア部では、20000倍の倍率でSEM観察したときに空隙が観察されないものとしてもよい。この多孔質シリコン材料は、その全体にわたってSiとCrシリサイドとを含む骨格構造を有し、内部ではこの骨格構造で規定された空間にAlが充填された構造を有しているものとしてもよい。
【0028】
この多孔質シリコン材料において、細孔率は30体積%以上であることが好ましい。この細孔率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この細孔率は、例えば、35体積%以上であることが好ましく、45体積%以上としてもよく、50体積%以上としてもよい。また、細孔率は、例えば、85体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、77.5体積%以下としてもよく、75体積%以下としてもよい。細孔率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0029】
この多孔質シリコン材料において、平均細孔径は、100nm以下であるものとしてもよい。また、この多孔質シリコン材料において、細孔径の範囲は、1nm以上300nm以下であるものとしてもよい。平均細孔径及び細孔径は、水銀ポロシメータで測定した値とする。平均細孔径は、65nm以下としてもよく、60nm以下としてもよい。また、平均細孔径は、40nm以上としてもよく、50nm以上としてもよい。細孔径の範囲は、例えば、5nm以上としてもよく、10nm以上としてもよく、20nm以上としてもよい。また、この細孔径の範囲は、例えば200nm以下としてもよく、100nm以下としてもよい。細孔径が小さいと細孔がつぶれにくく好ましい。また、細孔径が大きいと、キャリアイオンを吸蔵した際に体積変化をより抑制でき好ましい。
【0030】
この多孔質シリコン材料は、抵抗率が500Ω以下であるものとしてもよい。多孔質シリコン材料の抵抗率は、4端子法により求めた抵抗率とする。多孔質シリコン材料が粉末の場合、多孔質シリコン粉末を200MPaで加圧して圧粉体を作製し、この圧粉体について4端子法により求めた抵抗率を、多孔質シリコン材料の抵抗率とする。この抵抗率は300Ωcm以下としてもよく、250Ωcm以下としてもよい。
【0031】
多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、CrシリサイドとしてSiCr化合物及び/又はAlSiCr化合物を含むものとしてもよい。Crシリサイドは、シリコン骨格の補強を担うものと推察される。Crシリサイドは、骨格の補強を補う観点からはより多いことが好ましく、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。
【0032】
多孔質シリコン材料は、水銀圧入法による1μm以下の細孔が20体積%以上であることが好ましい。多孔質シリコン材料では、このような微細な細孔がより多くあることが好ましい。この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法による1μm以下の細孔が30体積%以上あることがより好ましく、40体積%以上あることが更に好ましく、45体積%以上であることが一層好ましい。また、この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法による1μm以下の細孔が90体積%以下であるものとしてもよい。
【0033】
多孔質シリコン材料は、電極として1GPaの拘束圧を受けた際に、細孔変化量が25体積%よりも小さいことが好ましく、20体積%よりも小さいことがより好ましく、10体積%よりも小さいことが更に好ましい。多孔質シリコン材料は、拘束圧を受けた際に細孔の減少量がより小さいことが、骨格強度の観点から好ましい。
【0034】
この多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Si,Al,Crの他に、不可避的不純物を含むものとしてもよい。なお、第2元素や不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。また、この多孔質シリコン材料は、Crの一部が他の遷移金属元素Mに置換されていてもよい。その場合、遷移金属元素Mは、モル比でCrの半分以下としてもよく、20%以下としてもよく、10%以下としてもよい。遷移金属元素Mとしては、Ti、V、Nb、Mo、Ni、Mn、Fe、Co、Znなどが挙げられる。
【0035】
(蓄電デバイス用電極)
蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の細孔率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の細孔率が減少したものとしてもよい。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、5体積%以上や、10体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、例えば、30体積%以下や、20体積%以下としてもよい。
【0036】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0037】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料やLi4Ti5O12などが含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0038】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、CrS2、CrS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0039】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0040】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0041】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0042】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図9は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料21であり、コア部22と、コア部22よりも多孔化された多孔化部23と、空隙24とを有する。空隙24は、主に多孔化部23に存在するが、コア部22に存在していてもよい。多孔質シリコン材料21は、伝導パスであるシリコン骨格25に、導電相であるCrシリサイド26が共存して存在する共存型構造を有することが好ましい。伝導パスであるシリコン骨格25に沿って導電相が存在するため、より少ない導電相量で抵抗率を下げることができ、また、電池容量の低減も抑制できるからである。Al-Si-Cr系の母合金組成は、こうした共存型構造をとる多孔質シリコン材料21の作製に適している。なお、例えば、Al-Si-Cr系の母合金組成のCrの一部を他の遷移金属元素M(Tiなど)に置き換えてもよい。その場合、多孔質シリコン材料21は、上述の共存型構造をとるのに加えて、遷移金属元素Mのシリサイドが、シリコン骨格25どうしの間に分散配置される分散型構造をとるものとしてもよい。
【0043】
この蓄電デバイスは、充放電サイクルを行った際の容量維持率がより高いことが好ましく、例えば、10サイクルでの容量維持率は95%以上が好ましく、97.5%以上がより好ましく、98%以上であることが更に好ましい。
【0044】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した多孔質シリコン材料を負極活物質とする負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した多孔質シリコン材料を負極活物質とするものとすることができる。
【0045】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Zr2-yTy)O12や、(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Y2-yTy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0046】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO4)4、硫化物のLi3.25Ge0.25P0.75S4、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5CrO3、(La2/3Li3x□1/3-2x)CrO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr2O12、NASICON型と呼ばれるLiCr2(PO4)3、Li1.3M0.3Cr1.7(PO3)4(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P2S5(mol%)組成のガラスから得られたLi7P3S11、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P2S5、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B2O3、P2O5をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga2S2系、Li2S-GeS2-Ga2S3系、Li2S-GeS2-P2S5系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al2S3系、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S5系、Li2S-Al2S3系、LiS-SiS2-Al2S3系、Li2S-SiS2-P2S5系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0047】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0048】
以上詳述したように、本開示は、抵抗率をより低減させた新規な多孔質シリコン材料、蓄電デバイス及び多孔質シリコン材料の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、多孔質シリコン材料にAl相及びCrシリサイド相を導入すると、これらは、導電相として機能する。特に、こうした多孔質シリコン材料において、例えば、コア部と、コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む場合や、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む場合には、Al相やCrシリサイド相が多孔質シリコン材料中に好適な状態で存在するため、抵抗率をより低減させることができると推察される。また、抵抗率の低減により、レート特性の向上や、長期サイクル特性の安定化も期待される。
【0049】
また、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、母合金としてAl-Si-Cr三元系合金を用いている。Al-Si-Cr三元系合金は、室温でAl相とSi相とCrシリサイド相に相分離するが、その晶出順が、先にSi相とCrシリサイド相とが晶出し、その後Al相が晶出するという順であるため、合金融液を冷却する過程で、Al融液中にSiとCrシリサイドとのクラスター粒子が分散した状態が生じ、Al融液が固化する際に、そのクラスター粒子同士が連結した組織が形成される。ここから、Alの一部を選択除去することで、Si骨格部分にCrシリサイドが偏析した複合多孔体が形成されると考えられる。Crシリサイドは比較的導電率の高い半導体であるため、Crシリサイドの共存により抵抗率の低減が期待できる。また、Alは金属相として高い導電率を有するため、Alの共存は抵抗率の低減効果を高めることができる。また、Alは負極として比較的電池容量が高いため、容量を持たないCuなどの導電相と比べて導電相共存による容量の低下の緩和も期待される。なお、従来、シリコンの膨張収縮を緩和する観点で、シリコン粒子の多孔化が検討されているが、一般的に、多孔化したシリコンは、多孔化していないシリコンよりも抵抗が大きい傾向がある。これを解消するために、導電相との複合化により抵抗を低減させることも検討されているが、一般的な手法では、導電相の量が増えるほど抵抗が低減する一方で、電池容量が犠牲になることが多い。これに対して、Al-Si-Cr三元系合金を用いた本開示では、伝導パスであるシリコン骨格に沿って導電相であるCrシリサイドが存在するため、より少ない導電相量で抵抗率を低減でき、しかも、電池容量を損なわないと推察される。
【0050】
更に、本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することも期待される。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。高容量のSi負極は、充放電時の膨張収縮で集電性が壊れて容量が低下することがある。本開示の多孔質シリコン材料では、ナノ細孔を有し、これが充放電時のシリコンの膨張、収縮に伴う応力を緩和することができる。同時に、シリコン骨格中にキャリアイオンに対して不活性なCrシリサイド相を導入することにより、骨格強度を向上させ、充放電時の膨張、収縮に伴う応力でシリコンの細孔構造が潰れるのを防ぐことができる。このため、更にサイクル特性の改善が見込める。更に、粒子の強度向上によって、合材電極作製時のロールプレス等で細孔が潰れるのを抑制することができる。このため、本開示では、体積の膨張、収縮が緩和され、サイクル特性を向上するなど、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【0051】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0052】
例えば、本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] コア部と前記コア部の周囲に存在し前記コア部よりも多孔化された多孔化部とを有し、Si相とAl相とCrシリサイド相とを含み、下記(1)~(2)のうちの1以上を満たす、多孔質シリコン材料。
(1)Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む。
(2)SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む。
[2] 前記Crシリサイド相は、Al13Si4Cr4及びCr(Al,Si)2のうちの1以上である、[1]に記載の多孔質シリコン材料。
[3] 水銀圧入法による1μm以下の細孔を45体積%以上含む、[1]又は[2]に記載の多孔質シリコン材料。
[4] 水銀圧入法による平均細孔径が100nm以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料。
[5] 抵抗率が500Ωcm以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料。
[6] 前記多孔化部は、前記コア部よりもAlの含有量が少ない、[1]~[5]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料。
[7] 正極活物質を含む正極と、
[1]~[6]のいずれか1つに記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
[8] 平衡状態図において室温でAl相とSi相とCrシリサイド相とが現れる組成のAl-Si-Cr三元系合金の原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分の一部を除去して前記多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含み、
前記多孔化工程は、Alの減少量が、Alを完全除去した場合のAlの減少量の20%以上90%以下となる条件で行う、多孔質シリコン材料の製造方法。
[9] 前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する除去処理を行う、[8]に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
[10] 下記(3)~(5)のうちの1以上を満たす、[8]又は[9]に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
(3)前記除去処理は、0.1mol/L以上3mol/L以下の濃度の酸又はアルカリで行う。
(4)前記除去処理は、30℃以下の温度で行う。
(5)前記除去処理は、2時間以上24時間以下行う。
【実施例0053】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~3,15が本開示の実施例に相当し、実験例4~5,6~14,16~18が比較例に相当する。
【0054】
[多孔質シリコン材料の作製]
Al、SiおよびCrの原料を基本組成式Al100-x-ySixCryの組成になる様に秤量し、アーク溶融炉で溶融した。溶融前にアーク溶融炉内は8×10-3Pa以下まで減圧後、Arガス置換した。母合金の作製には、原料粉末の溶融が必要であり、均一な試料を作製するために高周波溶融を行った。得られた母合金をAr雰囲気中で1000~1300℃に加熱して溶融し、ガスアトマイズ法を用いて102K/sec以上の速度で急冷凝固処理しAlSiCr合金粉末を得た(前駆体工程)。得られた合金を、5μmのふるいに通した後、1~3mol/Lの塩酸水溶液に浸漬し、25~80℃の任意の温度で1~24時間酸処理(除去処理)して、Al成分を選択除去した。残渣をろ過フィルターに移し、減圧濾過法により処理後の酸を除去した後で、蒸留水で4回以上洗浄し、同様の減圧濾過法で洗浄水を除去して多孔質シリコンを得た(多孔化工程)。
【0055】
(実験例1~4)
母合金組成を上記基本組成式のx=30、y=1の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例1とした。酸処理時間を5時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例2とした。酸処理時間を8時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例3とした。酸処理時間を18時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例4とした。
【0056】
(実験例5)
母合金組成を上記基本組成式のx=20、y=0の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間18時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例5とした。
【0057】
(実験例6~8)
酸処理時間を10時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例6とした。酸処理時間を12時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例7とした。酸処理時間を24時間とした以外は実験例1と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例8とした。
【0058】
(実験例9~11)
母合金組成を上記基本組成式のx=30、y=1の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度40℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例9とした。酸処理時間を4時間とした以外は実験例9と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例10とした。酸処理時間を8時間とした以外は実験例9と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例11とした。
【0059】
(実験例12~14)
母合金組成を上記基本組成式のx=30、y=1の組成とし、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度60℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例12とした。酸処理時間を4時間とした以外は実験例12と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例13とした。酸処理時間を8時間とした以外は実験例12と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例14とした。
【0060】
(実験例15~18)
母合金組成を上記基本組成式のx=30、y=1の組成とし、塩酸濃度3mol/L、酸処理温度25℃、酸処理時間2時間の条件で作製した多孔質シリコン材料を実験例15とした。酸処理時間を5時間とした以外は実験例15と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例16とした。酸処理時間を12時間とした以外は実験例15と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例17とした。酸処理時間を24時間とした以外は実験例15と同様に作製した多孔質シリコン材料を実験例18とした。
【0061】
(XRD測定)
酸処理前のアトマイズ粉末及び酸処理後の多孔質シリコン粉末について、X線回折装置(リガク社製UltimaIV)を使用し、Cu管球で、2θ=20°~60°の範囲で、20°/分の速度でX線回折測定を行った。Si相、Al相、Al13Cr4Si4相、Cr(Al,Si)2相、の各相の割合は、アルミナ標準物質を用いて各相のXRDピーク強度比から質量割合で計算した。表1に、実験例1~5のAl相及びCrシリサイド相の割合[mol%]を示した。また、表2に、実験例6~18のAl相及びCrシリサイド相の割合[mol%]を示した。なお、表1,2では、Al相及びCrシリサイド相の割合は、400℃で加熱処理してアモルファスを結晶化させた後の試料を測定した値とした。また、Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100%としたときの割合とした。また、Al13Cr4Si4相の割合及びCr(Al,Si)2相の割合の合計をCrシリサイド相の割合としてまとめて示した。
【0062】
図10は、実験例1,2,7,4,8の多孔質シリコン材料のXRD測定結果である。このうち、
図10Aは2θ=20~60°のXRD測定結果であり、
図10Bは2θ=35~43°の測定結果である。
図10には、酸処理前のアトマイズ粉末のXRD測定結果も示した。
図11は、実験例1,4の多孔質シリコン材料を加熱処理した試料のXRD測定結果である。このうち、
図11Aは、実験例1の多孔質シリコン材料を、アルゴン雰囲気中200℃、400℃、500℃で加熱処理した試料の測定結果であり、
図11Bは、実験例4の多孔質シリコン材料を、アルゴン雰囲気中600℃で加熱した試料の測定結果である。
図11には、加熱処理前の多孔質シリコン材料の測定結果も示した。
図10,11に示すように、加熱処理前のアトマイズ粉末及び多孔質シリコン材料では、いずれも、Al相とSi相のみが確認されたのに対し、200℃以上で加熱処理した試料では、Al相とSi相以外の回折ピークが出現し、状態図における室温平衡相が存在していることがわかった。このことは、アトマイズ粉末及び多孔質シリコン材料において、Al相とSi相以外の相は、急冷凝固段階でアモルファスとなり、アモルファスとして存在していることを示唆していると推察された。
【0063】
図10に示すように、酸処理時間が長くなると、Al相のピーク強度が低下し、Al相が除去されることが確認された。酸処理時間が12時間では、わずかなAl相のピークが確認されたが、それよりも処理時間が長い場合には、Al相のピークが完全に消滅した。このことから、Al相を残存させるためには、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃の条件では、酸処理時間を12時間以内とする必要があることがわかった。
【0064】
図11Aに示すように、実験例1の多孔質シリコン材料は、加熱処理前の試料では、Al相とSi相のみが確認されたが、200℃以上で加熱処理した試料では、Al
13Si
4Cr
4相のピークが確認され、処理温度の増加でそのピーク強度も増加する傾向が確認された。他方、
図11Bに示すように、実験例4の多孔質シリコン材料は、加熱処理前の試料では、Si相のみが確認されたが、600℃で加熱処理した試料では、Cr(Al,Si)
2 のピークが確認された。このことから、Al含有量が多い多孔質シリコン材料では、加熱により、Crシリサイド相としてAl
13Si
4Cr
4が安定化するが、Al含有量が少ない多孔質シリコン材料では、加熱により、Crシリサイド相としてCr(Al,Si)
2相が安定化することがわかった。
【0065】
(EDX測定)
酸処理前のアトマイズ粉末及び酸処理後の多孔質シリコン粉末について、超硬金型で円板状に加圧成形し、加圧面を、走査電子顕微鏡(SEM,HITACHI製S-4300)およびエネルギー分散型X線分析(EDX,HITACHI製S-4300)で観察し、組成分析を行った。表1に、実験例1~5のAl、Si、Crの元素比[at%]を示した。また、表2に、実験例6~18のAl、Si、Crの元素比[at%]を示した。
【0066】
図12は、実験例1~4,6~7,9~14のEDX測定結果に基づいて作成した、酸処理温度がAl減少量に及ぼす影響を示すグラフである。
図12に示すように、塩酸濃度が1mol/Lの条件において、酸処理温度が25℃の場合、酸処理時間が増えて多孔化していく過程で、Al量が徐々に減少することがわかった。他方、それよりも酸処理温度が高くなると溶解速度が速くなり、酸処理温度が40℃では4時間以内、酸処理温度が60℃では2時間以内にAlの溶解が完了してしまい、Al残存量の制御が難しくなることがわかった。
【0067】
図13は、実験例1~4,6~8,15~18のEDX測定結果に基づいて作成した、酸濃度がAl減少量に及ぼす影響を示すグラフである。
図13に示すように、酸処理温度が25℃の条件において、塩酸濃度が1mol/Lの場合、酸処理時間が増えて多孔化していく過程で、Al量が徐々に減少することがわかった。他方、それよりも塩酸濃度が高くなると溶解速度が速くなり、塩酸濃度が3mol/Lの場合には、5時間以内にAlの溶解が完了してしまい、Al残存量の制御が難しくなることがわかった。
【0068】
図14は、実験例1~4,6~8,15~18のEDX測定結果に基づいて作成した、酸濃度がCr減少量に及ぼす影響を示すグラフである。
図14に示すように、酸処理温度が25℃の条件において、塩酸濃度が低い方がCrの溶解が抑制され、塩酸濃度が1mol/Lの場合、塩酸濃度が3mol/Lの場合よりもCrの減少量が0.1~0.3at%程度少ないことがわかった。
【0069】
(SEM観察)
酸処理後の多孔質シリコン粉末について、樹脂に埋め込み、研磨により断面出しを行い、上述の走査電子顕微鏡を用いてSEM観察を行った。
【0070】
図15は、実験例1~4の多孔質シリコン粉末の断面SEM像である。
図15に示すように、実験例1~3では、コア部とコア部よりも多孔化された多孔化部とを有する一方、実験例4では、全体が多孔化されていた。このことから、塩酸濃度が1mol/L、酸処理温度が25℃の条件において、酸処理時間が長くなるにつれて、球状粒子の外周部から中心部に向けて多孔化が進み、酸処理時間18時間では、粒子の中心部分まで多孔化が進むことが確認された。これは、酸処理により、球状粒子の周囲から徐々に塩酸が浸透しAlが溶解して多孔化したことを示していると推察された。
図15には、塩酸が浸透しAlが溶解して多孔化した部分の深さである、酸処理浸透深さも示した。なお、
図15の断面SEM像では、多孔質シリコン粉末の最表面に緻密な膜のようなものが見えるが、これは、奥行き方向の情報を拾って膜にように見えるだけで、膜が形成されているのではないと推察された。図示は省略するが、多孔質シリコン粉末の表面をSEMで観察した場合にはこのような膜はなく、空隙を有するネットワーク構造が確認された。ただし、膜のように見える部分のなかで、粗大な粒子は初晶Siであると推察された。
【0071】
実験例1~4の多孔質シリコン粉末について、それぞれ、直径3μm程度の断面を有する任意の10個の粒子を抽出し、1個の粒子あたり10箇所の酸処理浸透深さを測定し、その平均値である平均浸透深さを求めた。なお、断面SEM像には、粒子の中心部分付近を外れた断面も現れるが、アトマイズ粉末の平均粒径が3μm程度であるため、直径3μm程度の断面は粒子の中心部分付近を通る断面と仮定できる。
【0072】
図16は、実験例1~4の断面SEM像に基づいて作成した、酸処理時間と平均浸透深さとの関係を示すグラフである。
図16に示すように、酸処理時間の増加に伴い浸透深さは増加するが、酸処理時間が長くなると飽和する傾向が見られた。このグラフを外挿することで、3μm以上の粒径の粒子に関しても、浸透深さを推測できると考えられる。また、アトマイズ粉末の外周部と中心部での組成差が小さいと仮定すると、母合金の組成と、浸透深さから、Alの除去量を推測し、多孔質シリコン粉末の組成を推測できる。
【0073】
(細孔分布測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末について、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POREMASTER60GT)で細孔分布を測定した。また、細孔径分布データ中の各サイズの細孔の体積分率の値から平均細孔径を求めた。一般に、多孔質材料の粉末には粒子内の細孔と粒子間の細孔が含まれるが、細孔径分布のデータでは、両者を区別することができない。ここでは、300nm以下の細孔率を粒子内細孔と判断して両者を区別し、粒子内の細孔率及び平均細孔径を求めた。図示は省略するが、細孔径分布では、500~600nmと、100nm付近にピークがあった。酸処理前のアトマイズ粉末の細孔径分布データや、SEMとの比較により100nm付近のピークを粒子内細孔のピークと判断し、両ピークの境界である300nmを基準にして、上述のように300nm以下の細孔を粒子内細孔と判断した。なお、酸処理前の試料と酸処理後の試料の細孔径分布のデータを比較することにより、粒子内の細孔と粒子間の細孔とを区別し、粒子内の細孔率及び平均細孔径を求めてもよい。
【0074】
表1に、実験例1~5の細孔率及び平均細孔径をまとめた。また、表2に、実験例6~18の細孔率及び平均細孔径をまとめた。表1に示すように、母合金組成をAl69Si30Cr1とした実験例1~4では、平均細孔径は、酸処理時間が長くなるほど大きくなった一方で、細孔率は、8時間までは大きくなったが、その後は小さくなった。これは、酸処理時間が8時間を超えると、粒子が壊れやすくなることを示していると推察された。このことから、多孔質シリコン粉末の細孔構造を維持する観点から、塩酸濃度1mol/L、酸処理温度25℃の条件では、酸処理時間は8時間以下が好ましいと推察された。
【0075】
(抵抗率測定)
酸処理後の多孔質シリコン粉末について、200MPaで加圧し、圧粉体を作製し、銀ペーストで銅線を焼きつけて、4端子法により抵抗率を評価した。なお、加圧前後の細孔率を水銀ポロシメータにより評価したところ、200MPaの加圧では細孔率の変化がほとんどなく、多孔質シリコン粉末の細孔構造が維持されていると推察された。なお、抵抗率の測定は、25℃で行った。
【0076】
表1に、実験例1~5の抵抗率をまとめた。また、表2に、実験例6~18の抵抗率をまとめた。表1に示すように、Si相とAl相とCrシリサイド相との全体を100mol%としたときに、Al相を10mol%以上55mol%以下の範囲で含み、Crシリサイド相を0.5mol%以上3mol%以下の範囲で含む実験例1~3では、抵抗率を500Ωcm以下に低減できることがわかった。また、SiとAlとCrとの全体を100at%としたときに、Alを15at%以上60at%以下の範囲で含み、Crを0.5at%以上3at%以下の範囲で含む実験例1~3では、抵抗率を500Ωcm以下に低減できることがわかった。
【0077】
【0078】
【0079】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、22 コア部、23 多孔化部、24 空隙、25 シリコン骨格、26 Crシリサイド。