(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123369
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】喫水管理システム、喫水管理装置、及び喫水管理方法
(51)【国際特許分類】
B63B 43/06 20060101AFI20240905BHJP
B63B 79/30 20200101ALI20240905BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240905BHJP
B63B 79/15 20200101ALI20240905BHJP
B63B 39/12 20060101ALI20240905BHJP
B63B 11/04 20060101ALI20240905BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B63B43/06 A
B63B79/30
B63B79/40
B63B79/15
B63B39/12
B63B11/04 Z
B63B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030712
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】592050814
【氏名又は名称】株式会社中北製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 沙織
(72)【発明者】
【氏名】藤 将司
(72)【発明者】
【氏名】植木 正
(72)【発明者】
【氏名】有岡 秀寿
(72)【発明者】
【氏名】平田 研二
(57)【要約】 (修正有)
【課題】船舶の航行における安全性を確保すると共に、燃料消費量を最適に保つことができる喫水管理システムを提供する。
【解決手段】喫水管理システムは、喫水取得部50と、船体中央喫水取得部50Mと、GM算出部10と、海象データ取得部15と、海象データ6Aを判定する海象判定部20と、安全航行に必要なGM値及び中央喫水Dmの関係を規定したGM曲線を設定するGM曲線設定部25と、GM曲線に基づき目標喫水を設定する目標喫水設定部30とを備える。海象判定基準は、船舶2が安全に航行できない海象荒れ基準を有し、海象データ6Aが海象荒れ基準以上と判定されることを条件に、目標喫水が安全喫水に設定され、海象データ6Aが海象荒れ基準を下回ると判定されることを条件に、目標喫水が、安全に航行できる喫水の範囲内で、最小値に設定される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶における喫水を管理する喫水管理システムであって、
前記喫水を取得する少なくとも1つの喫水取得部と、
前記喫水取得部のうち、前記船舶の船体中央部における前記喫水を中央喫水として直接的又は間接的に取得する船体中央喫水取得部と、
前記船体中央部におけるGM値を算出するGM算出部と、
前記船舶の周辺海域の気象に関する海象データを取得する海象データ取得部と、
取得した前記海象データを、所定の海象判定基準に基づいて判定する海象判定部と、
前記船舶における複数のトリム毎に予め設定され、前記船舶が安全に航行するために必要な前記GM値及び前記中央喫水の関係を規定したGM曲線を設定するGM曲線設定部と、
設定された前記GM曲線に基づいて、前記船舶が航行するための目標となる目標喫水を設定する目標喫水設定部と、
を備え、
前記海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有しており、
前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準以上であると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記海象データにおける気象条件下において、前記船舶が安全に航行できる安全喫水に設定されるものであり、
前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記船舶が安全に航行できる前記喫水の範囲内で、最小値に設定されるものであること、を特徴とする喫水管理システム。
【請求項2】
前記目標喫水設定部で設定された前記目標喫水に基づいて、前記船舶における複数のバラストタンクに配分するバラスト水の配分量を算出するバラスト水配分量算出部を備えていること、を特徴とする請求項1に記載の喫水管理システム。
【請求項3】
前記中央喫水及び前記目標喫水を比較する喫水状態判定部を有しており、
前記船体中央喫水取得部は、複数の前記バラストタンクへの前記バラスト水の配分が少なくとも終了した後に、前記中央喫水を取得できるものであり、
前記バラスト水の配分の終了後に取得された前記中央喫水が、前記喫水状態判定部において、前記目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差が減じられるように前記バラスト水配分量算出部において、再度、前記バラスト水の配分量が算出されること、を特徴とする請求項2に記載の喫水管理システム。
【請求項4】
前記喫水取得部によって時系列に取得される前記喫水を含む船体状態量に基づいて、前記船舶の横揺れ周期を検出する横揺れ周期算出部を有しており、
前記GM算出部は、前記横揺れ周期及び前記船舶の船幅に基づいて、前記GM値を算出するものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の喫水管理システム。
【請求項5】
前記喫水取得部が、
船首側の前記喫水を船首喫水として取得する船首喫水取得部と、
船尾側の前記喫水を船尾喫水として取得する船尾喫水取得部と、
を有しており、
前記中央喫水は、前記船首喫水及び前記船尾喫水を平均化することにより算出されること、を特徴とする請求項1又は2に記載の喫水管理システム。
【請求項6】
予め複数の前記目標喫水と、前記バラスト水を複数の前記バラストタンクに配分するための配分量と、の関係を定めたバラスト水配置テーブルを有しており、
前記バラスト水配置テーブル及び前記喫水取得部で取得された前記喫水に基づいて、前記バラスト水の配分量が算出されること、を特徴とする請求項2又は3に記載の喫水管理システム。
【請求項7】
前記海象データは、前記船舶の予定航路において予想される海洋気象に係る予測海象データ、及び前記船舶が遭遇している海洋気象に係る現状海象データのいずれか一方又は双方を含むこと、を特徴とする請求項1又は2に記載の喫水管理システム。
【請求項8】
前記海象判定基準は、前記GM値において許容される上限基準を有しており、
前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準を下回るものであり、かつ、前記GM値が、前記上限基準以内であると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、予め設定された前記目標喫水のまま維持されるものであること、を特徴とする請求項1又は2に記載の喫水管理システム。
【請求項9】
船舶における喫水を管理する喫水管理装置であって、
前記喫水を取得する少なくとも1つの喫水取得部と、
前記喫水取得部のうち、前記船舶の船体中央部における前記喫水を中央喫水として直接的又は間接的に取得する船体中央喫水取得部と、
前記船体中央部におけるGM値を算出するGM算出部と、
前記船舶の周辺海域の気象に関する海象データを取得する海象データ取得部と、
取得した前記海象データを、所定の海象判定基準に基づいて判定する海象判定部と、
前記船舶における複数のトリム毎に予め設定され、前記船舶が安全に航行するために必要な前記GM値及び前記中央喫水の関係を規定したGM曲線を設定するGM曲線設定部と、
設定された前記GM曲線に基づいて、前記船舶が航行するための目標となる目標喫水を設定する目標喫水設定部と、
を備え、
前記海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有しており、
前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準以上であると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記海象データにおける気象条件下において、前記船舶が安全に航行できる安全喫水に設定されるものであり、
前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記船舶が安全に航行できる前記喫水の範囲内で、最小値に設定されるものであること、を特徴とする喫水管理装置。
【請求項10】
前記船舶が、
バラスト水を貯留するための複数のバラストタンクと、
前記目標喫水となるように複数の前記バラストタンクに前記バラスト水を配分するための切替バルブと、
を有しており、
前記切替バルブが、前記目標喫水設定部において設定された前記目標喫水に基づいて、前記バラスト水を複数の前記バラストタンクに配分するよう切り替えられること、を特徴とする請求項9に記載の喫水管理装置。
【請求項11】
前記中央喫水及び前記目標喫水を比較する喫水状態判定部を有しており、
前記船体中央喫水取得部は、複数の前記バラストタンクへの前記バラスト水の配分が少なくとも終了した後に、前記中央喫水を取得できるものであり、
前記バラスト水の配分の終了後に取得された前記中央喫水が、前記喫水状態判定部において、前記目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差が減じられるように前記切替バルブが切り替えられ、前記バラスト水が複数の前記バラストタンクに再配分されること、を特徴とする請求項10に記載の喫水管理装置。
【請求項12】
前記切替バルブに制御部が接続されており、
前記切替バルブが、前記制御部の指令によって切り替えられること、を特徴とする請求項11又は10に記載の喫水管理装置。
【請求項13】
船舶における喫水を管理する喫水管理方法であって、
予め前記船舶が航行するための目標となる目標トリムを設定する目標トリム設定ステップと、
前記船舶における船体中央部のGM値を算出するGM値算出ステップと、
前記船舶における複数のトリム毎に予め設定され、前記船舶が安全に航行するために必要な前記GM値、及び前記船体中央部において取得される中央喫水の関係を規定したGM曲線を抽出するGM曲線抽出ステップと、
前記GM曲線に基づいて前記目標トリムと対応する前記船舶の航行のための目標喫水を抽出する目標喫水抽出ステップと、
前記中央喫水を直接的又は間接的に取得する船体中央喫水取得ステップと、
前記船舶の周辺海域の気象に関する海象データを取得する海象データ取得ステップと、
取得した前記海象データを、所定の海象判定基準に基づいて判定する海象判定ステップと、
を実行し、
前記海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有しており、
前記海象データ取得ステップで取得された前記海象データが、前記海象判定ステップにおいて、前記海象荒れ基準以上であると判定されることを条件として、前記目標喫水が、前記海象データにおける気象条件下において、前記船舶が安全に航行できる安全喫水に設定される安全目標喫水設定ステップが実行されるものであり、
前記海象データ取得ステップで取得された前記海象データが、前記海象判定ステップにおいて、前記海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、前記目標喫水が、前記船舶が安全に航行できる前記喫水の範囲内で、最小値に設定される最小目標喫水設定ステップが実行されること、を特徴とする喫水管理方法。
【請求項14】
前記安全目標喫水設定ステップ又は前記最小目標喫水設定ステップにおいて設定された前記目標喫水に基づいて、前記船舶における複数のバラストタンクにバラスト水を配分するバラスト水配分ステップが実行されること、を特徴とする請求項13に記載の喫水管理方法。
【請求項15】
前記船舶が、前記中央喫水及び前記目標喫水を比較する喫水状態判定ステップを実行可能であり、
前記船体中央喫水取得ステップは、少なくとも前記バラスト水配分ステップが実行された後に、前記中央喫水を取得できるものであり、
前記バラスト水配分ステップの実行後に取得された前記中央喫水が、前記喫水状態判定ステップにおいて、前記目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差を減じるように前記バラスト水を複数の前記バラストタンクに再配分するバラスト水再配分ステップが実行されること、を特徴とする請求項14に記載の喫水管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等における喫水管理システム、喫水管理装置、及び喫水管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一定規模以上の船舶では、船体のバランスを保つためにバラスト制御が行われている。前記バラスト制御においては、船舶の積荷の状況に応じて、バラストタンク内へのバラスト水の量を変更する制御が行われている(例えば、特許文献1)。前記船舶では、一般的に船体の外壁側に複数のバラストタンクが設けられている。また、前記船舶では、右舷及び左舷、又は、船首側及び船尾側において船体のバランスが保たれるよう、複数のバラストタンクへのバラスト水の張排水量(配分量)が制御されている。
【0003】
ところで、上述したバラスト制御は、海洋における気象(以下、海象とも称する)が悪いときは、船体を安定させるために喫水を深くする制御を行うものとされている。かかる場合は、安全性を重視するあまり、バラスト水をバラストタンクに張水し過ぎる(喫水を深くし過ぎる)懸念があった。このように、然るべきときに然るべき喫水で船舶を航行させることができるか否かは、当該船舶の船長、航海士の能力に依存している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、積荷に対して必要以上に喫水を深めてしまう(深くし過ぎる)と、例えば、海象が改善したときに、船舶の航行における負荷が高まり、燃料消費量が増大する問題があった。また、上述したように、船舶の航行において、喫水を適正に保つためには、船長や航海士の能力に依存しており、安全性と燃料消費量とのバランスを定量的に保つことが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、船舶の航行における安全性を確保できると共に、燃料消費量を最適に保つことができる喫水管理システム、喫水管理装置、及び喫水管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の喫水管理システムは、船舶における喫水を管理する喫水管理システムであって、前記喫水を取得する少なくとも1つの喫水取得部と、前記喫水取得部のうち、前記船舶の船体中央部における前記喫水を中央喫水として直接的又は間接的に取得する船体中央喫水取得部と、前記船体中央部におけるGM値を算出するGM算出部と、前記船舶の周辺海域の気象に関する海象データを取得する海象データ取得部と、取得した前記海象データを、所定の海象判定基準に基づいて判定する海象判定部と、前記船舶における複数のトリム毎に予め設定され、前記船舶が安全に航行するために必要な前記GM値及び前記中央喫水の関係を規定したGM曲線を設定するGM曲線設定部と、設定された前記GM曲線に基づいて、前記船舶が航行するための目標となる目標喫水を設定する目標喫水設定部と、を備え、前記海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有しており、前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準以上であると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記海象データにおける気象条件下において、前記船舶が安全に航行できる安全喫水に設定されるものであり、前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記船舶が安全に航行できる前記喫水の範囲内で、最小値に設定されるものであること、を特徴とするものである。
【0008】
上述した喫水管理システムは、複数のトリム毎に予め設定され、船舶が安全に航行するために必要なGM値及び中央喫水の関係を規定したGM曲線を設定するGM曲線設定部と、設定されたGM曲線に基づいて、船舶が航行するための目標となる目標喫水を設定する目標喫水設定部と、を備えるものとされている。また、上述した喫水管理システムは、取得した海象データ(海洋気象データとも称する)を、所定の海象判定基準に基づいて判定するものとされている。ここで、上述した海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準(例えば、風速、波高に関する閾値)を有するものとされている。また、海象荒れ基準には、例えば、ジャイロセンサや加速度センサを用いて計測した船体の揺れ度合いを閾値化したものを含めることができる。
【0009】
また、上述した喫水管理システムは、取得された海象データが、海象判定部において、海象荒れ基準を超えるもの(海象が荒れている状態)と判断されることを条件として、目標喫水設定部において、目標喫水が、海象データにおける気象条件下において、船舶が安全に航行できる安全喫水に設定されるものとされている。したがって、上述した喫水管理システムによれば、海象が荒れている際に、目標喫水が確実に安全喫水に設定されるので、船舶が安定して航行できる。一方、上述した喫水管理システムは、取得された海象データが、海象判定部において、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水設定部において、目標喫水が、船舶が安全に航行できる喫水の範囲内で、最小値に設定されるものとされている。言い換えると、目標喫水が、船舶が安全に航行できる喫水の範囲内で、燃料消費量が最小となるように設定される。このように、上述した喫水管理システムは、船舶の航行における安全性を確保できると共に、燃料消費量(燃費とも称する)を最適に保つことができる。なお、上述した喫水管理システムは、例えば、プログラムとして提供されるものでもよい。
【0010】
(2)上述した本発明の喫水管理システムは、前記目標喫水設定部で設定された前記目標喫水に基づいて、前記船舶における複数のバラストタンクに配分するバラスト水の配分量を算出するバラスト水配分量算出部を備えていること、を特徴とするとよい。
【0011】
上述した喫水管理システムは、バラスト水配分量算出部を備えているので、船舶におけるバラストタンクに的確にバラスト水を配分(割付)することができる。そのため、上述したバラスト水配分量算出部で算出されたバラスト水の配分量に基づいて、例えば、バラストタンクの切替バルブを切り替えるようにすれば、海象状態に応じて迅速、かつ正確にバラスト水の張排水を行える効果が期待できる。
【0012】
(3)上述した本発明の喫水管理システムは、前記中央喫水及び前記目標喫水を比較する喫水状態判定部を有しており、前記船体中央喫水取得部は、複数の前記バラストタンクへの前記バラスト水の配分が少なくとも終了した後に、前記中央喫水を取得できるものであり、前記バラスト水の配分の終了後に取得された前記中央喫水が、前記喫水状態判定部において、前記目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差が減じられるように前記バラスト水配分量算出部において、再度、前記バラスト水の配分量が算出されること、を特徴とするとよい。
【0013】
上述した喫水管理システムは、バラストタンクへのバラスト水の配分が少なくとも終了した後に、中央喫水を取得し、当該中央喫水が、喫水状態判定部において、目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差が減じられるようにバラスト水配分量算出部において、再度、前記バラスト水の配分量が算出される。すなわち、上述した喫水管理システムは、バラストタンクへのバラスト水の配分を中央喫水の状態に応じて最適化できる。そのため、上述した喫水管理システムは、喫水に応じて安定に航行できると共に、最小限の燃費で航行できる。なお、上述した喫水管理システムにおいて、バラスト水配分量の算出がフィードバックされながら行われてもよい。
【0014】
(4)上述した本発明の喫水管理システムは、前記喫水取得部によって時系列に取得される前記喫水を含む船体状態量に基づいて、前記船舶の横揺れ周期を検出する横揺れ周期算出部を有しており、前記GM算出部は、前記横揺れ周期及び前記船舶の船幅に基づいて、前記GM値を算出するものであること、を特徴とするとよい。
【0015】
上述した喫水管理システムは、かかる構成とすることにより、横揺れ周期に基づいてGM値を算出できる。ここで、横揺れ周期は、[T=2R/√GM]で算出できる。また、Rは、慣動半径を表しており、船幅に比例すると考えられるから、R=0.4B(一般的な船舶の慣動半径の目安)と仮定すると、横揺れ周期は、[T=0.8×B/√GM]と表すことができる。ここで、Bは、船幅(m)、GMは、復元力(m)、Tは、横揺れ周期(s)とする。また、Gは、船体の重心、Mは、船舶の横揺れ中心を表すものとする。このように、GM算出部は、横揺れ周期及び船舶の船幅からGM値を算出できる。したがって、上述した喫水管理システムは、算出されたGM値及びGM曲線に基づいて、最適な目標喫水を設定できる。これにより、上述した喫水管理システムは、船舶を安定に航行させつつ、最適な燃費を保つことができる。
【0016】
(5)上述した本発明の喫水管理システムは、前記喫水取得部が、船首側の前記喫水を船首喫水として取得する船首喫水取得部と、船尾側の前記喫水を船尾喫水として取得する船尾喫水取得部と、を有しており、前記中央喫水は、前記船首喫水及び前記船尾喫水を平均化することにより算出されること、を特徴とするとよい。
【0017】
上述した喫水管理システムは、かかる構成とすることにより、船首と船尾にしか喫水計を備えない船舶であっても、中央喫水を取得できる。これにより、上述した喫水管理システムは、汎用性を高めることができる。
【0018】
(6)上述した本発明の喫水管理システムは、予め複数の前記目標喫水と、前記バラスト水を複数の前記バラストタンクに配分するための配分量と、の関係を定めたバラスト水配置テーブルを有しており、前記バラスト水配置テーブル及び前記喫水取得部で取得された前記喫水に基づいて、前記バラスト水の配分量が算出されること、を特徴とするとよい。
【0019】
上述した喫水管理システムは、かかる構成とすることにより、バラスト水の配分量(割付量)を迅速に算出できる。そのため、上述した喫水管理システムは、船舶を安定に航行させつつ、最適な燃費を保つことができる。
【0020】
(7)上述した本発明の喫水管理システムにおいて、前記海象データは、前記船舶の予定航路において予想される海洋気象に係る予測海象データ、及び前記船舶が遭遇している海洋気象に係る現状海象データのいずれか一方又は双方を含むこと、を特徴とするとよい。
【0021】
上述した喫水管理システムは、かかる構成とすることにより、船舶が現在遭遇している海象だけではなく、船舶の予定航路において予想される海象も含めた目標喫水の設定を行うことができる。そのため、上述した喫水管理システムは、船舶をより安定に航行させつつ、より最適な燃費を保つことができる。
【0022】
(8)上述した本発明の喫水管理システムにおいて、前記海象判定基準は、前記GM値において許容される上限基準を有しており、前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準を下回るものであり、かつ、前記上限基準以内であると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、予め設定された前記目標喫水のまま維持されるものであること、を特徴とするとよい。
【0023】
上述した喫水管理システムは、かかる構成とすることにより、必要以上に目標喫水の探索(目標喫水の再設定)が行われることを抑制できる。これにより、喫水管理システムの負担が軽減される。
【0024】
(9)上述した課題を解決すべく提供される本発明の喫水管理装置は、船舶における喫水を管理する喫水管理装置であって、前記喫水を取得する少なくとも1つの喫水取得部と、前記喫水取得部のうち、前記船舶の船体中央部における前記喫水を中央喫水として直接的又は間接的に取得する船体中央喫水取得部と、前記船体中央部におけるGM値を算出するGM算出部と、前記船舶の周辺海域の気象に関する海象データを取得する海象データ取得部と、取得した前記海象データを、所定の海象判定基準に基づいて判定する海象判定部と、前記船舶における複数のトリム毎に予め設定され、前記船舶が安全に航行するために必要な前記GM値及び前記中央喫水の関係を規定したGM曲線を設定するGM曲線設定部と、設定された前記GM曲線に基づいて、前記船舶が航行するための目標となる目標喫水を設定する目標喫水設定部と、を備え、前記海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有しており、前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準以上であると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記海象データにおける気象条件下において、前記船舶が安全に航行できる安全喫水に設定されるものであり、前記海象データ取得部で取得された前記海象データが、前記海象判定部において、前記海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、前記目標喫水設定部において、前記目標喫水が、前記船舶が安全に航行できる前記喫水の範囲内で、最小値に設定されるものであること、を特徴とするものである。
【0025】
上述した喫水管理装置は、取得された海象データが、海象判定部において、海象荒れ基準を超えるもの(海象が荒れている状態)と判断されることを条件として、目標喫水設定部において、目標喫水が、海象データにおける気象条件下において、船舶が安全に航行できる安全喫水に設定されるものとされている。したがって、上述した喫水管理装置によれば、海象が荒れている際に、目標喫水が確実に安全喫水に設定されるので、船舶が安定して航行できる。一方、上述した喫水管理装置は、取得された海象データが、海象判定部において、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水設定部において、目標喫水が、船舶が安全に航行できる喫水の範囲内で、最小値に設定されるものとされている。言い換えると、目標喫水が、船舶が安全に航行できる喫水の範囲内で、燃料消費量が最小となるように設定される。このように、上述した喫水管理装置は、船舶の航行における安全性を確保できると共に、燃費を最適に保つことができる。
【0026】
(10)上述した本発明の喫水管理装置は、前記船舶が、バラスト水を貯留するための複数のバラストタンクと、前記目標喫水となるように複数の前記バラストタンクに前記バラスト水を配分するための切替バルブと、を有しており、前記切替バルブが、前記目標喫水設定部において設定された前記目標喫水に基づいて、前記バラスト水を複数の前記バラストタンクに配分するよう切り替えられること、を特徴とするとよい。
【0027】
上述した喫水管理装置は、かかる構成とすることにより、目標喫水設定部において設定された目標喫水に基づいて、バラストタンクの切替バルブを的確に切り替えることができる。これにより、複数のバラストタンクへのバラスト水の配分が適正に行われる。したがって、上述した喫水管理装置は、船舶の航行における安全性を確保できると共に、燃費を最適に保つことができる。なお、切替バルブは、自動又は手動にて行うことができる。
【0028】
(11)上述した本発明の喫水管理装置は、前記中央喫水及び前記目標喫水を比較する喫水状態判定部を有しており、前記船体中央喫水取得部は、複数の前記バラストタンクへの前記バラスト水の配分が少なくとも終了した後に、前記中央喫水を取得できるものであり、取得された前記中央喫水が、前記喫水状態判定部において、前記目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差が減じられるように前記切替バルブが切り替えられ、前記バラスト水が複数の前記バラストタンクに再配分されること、を特徴とするとよい。
【0029】
上述した喫水管理装置は、バラストタンクへのバラスト水の配分の少なくとも終了した後に、中央喫水を取得し、当該中央喫水が、喫水状態判定部において、目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差が減じられるようにバラスト水配分量算出部において、再度、前記バラスト水の配分量が算出される。すなわち、上述した喫水管理装置は、バラストタンクへのバラスト水の配分を中央喫水の状態に応じて最適化できる。そのため、上述した喫水管理システムは、喫水に応じて安定に航行できると共に、最小限の燃費で航行できる。なお、上述した喫水管理システムにおいて、バラスト水配分量の算出がフィードバックされながら行われてもよい。
【0030】
(12)上述した本発明の喫水管理装置は、前記切替バルブに制御部が接続されており、前記切替バルブが、前記制御部の指令によって切り替えられること、を特徴とするとよい。
【0031】
上述した喫水管理装置は、かかる構成とすることにより、切替バルブを自動で的確に切り替えることができる。これにより、上述した喫水管理システムは、迅速にバラスト水を複数のバラストタンクに張排水できる。
【0032】
(13)上述した課題を解決すべく提供される本発明の喫水管理方法は、船舶における喫水を管理する喫水管理方法であって、予め前記船舶が航行するための目標となる目標トリムを設定する目標トリム設定ステップと、前記船舶における船体中央部のGM値を算出するGM値算出ステップと、前記船舶における複数のトリム毎に予め設定され、前記船舶が安全に航行するために必要な前記GM値、及び前記船体中央部において取得される中央喫水の関係を規定したGM曲線を抽出するGM曲線抽出ステップと、前記GM曲線に基づいて前記目標トリムと対応する前記船舶の航行のための目標喫水を抽出する目標喫水抽出ステップと、前記中央喫水を直接的又は間接的に取得する船体中央喫水取得ステップと、前記船舶の周辺海域の気象に関する海象データを取得する海象データ取得ステップと、取得した前記海象データを、所定の海象判定基準に基づいて判定する海象判定ステップと、を実行し、前記海象判定基準は、少なくとも前記船舶が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有しており、前記海象データ取得ステップで取得された前記海象データが、前記海象判定ステップにおいて、前記海象荒れ基準以上であると判定されることを条件として、前記目標喫水が、前記海象データにおける気象条件下において、前記船舶が安全に航行できる安全喫水に設定される安全目標喫水設定ステップが実行されるものであり、前記海象データ取得ステップで取得された前記海象データが、前記海象判定ステップにおいて、前記海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、前記目標喫水が、前記船舶が安全に航行できる前記喫水の範囲内で、最小値に設定される最小目標喫水設定ステップが実行されること、を特徴とするものである。
【0033】
上述した喫水管理方法は、海象判定ステップにおいて、海象データが、海象荒れ基準を超えるもの(海象が荒れている状態)と判断されることを条件として、目標喫水が、海象データにおける気象条件下において、船舶が安全に航行できる安全喫水に設定される安全目標喫水設定ステップが実行されるものとされている。したがって、上述した喫水管理方法によれば、海象が荒れている際に、目標喫水が確実に安全喫水に設定されるので、船舶が安定して航行できる。一方、上述した喫水管理方法は、取得された海象データが、海象判定ステップにおいて、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水設定部において、目標喫水が、船舶が安全に航行できる喫水の範囲内で、最小値に設定される最小目標喫水設定ステップが実行されものとされている。言い換えると、目標喫水が、船舶が安全に航行できる喫水の範囲内で、燃費が最小となるように設定される。このように、上述した喫水管理方法は、船舶の航行における安全性を確保できると共に、燃費を最適に保つことができる。
【0034】
(14)上述した本発明の喫水管理方法は、前記安全目標喫水設定ステップ又は前記最小目標喫水設定ステップにおいて設定された前記目標喫水に基づいて、前記船舶における複数のバラストタンクにバラスト水を配分するバラスト水配分ステップが実行されること、を特徴とするとよい。
【0035】
上述した喫水管理方法は、かかる構成とすることにより、船舶におけるバラストタンクに的確にバラスト水を配分(割付)することができる。そのため、上述した給水管理方法によれば、海象状態に応じて迅速、かつ正確にバラスト水の張排水を行える効果が期待できる。
【0036】
(15)上述した本発明の喫水管理方法は、前記船舶が、前記中央喫水及び前記目標喫水を比較する喫水状態判定ステップを実行可能であり、前記船体中央喫水取得ステップは、少なくとも前記バラスト水配分ステップが実行された後に、前記中央喫水を取得できるものであり、前記バラスト水配分ステップの実行後に取得された前記中央喫水が、前記喫水状態判定ステップにおいて、前記目標喫水と異なることを条件として、前記目標喫水と前記中央喫水との差を減じるように前記バラスト水を複数の前記バラストタンクに再配分するバラスト水再配分ステップが実行されること、を特徴とするとよい。
【0037】
上述した喫水管理方法は、かかる構成とすることにより、バラストタンクへのバラスト水の配分を中央喫水の状態に応じて最適化できる。そのため、上述した喫水管理方法は、喫水に応じて安定に航行できると共に、最小限の燃費で航行できる。なお、上述した喫水管理方法において、バラスト水配分量の算出がフィードバックされながら行われてもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、船舶の航行における安全性を確保できると共に、燃料消費量を最適に保つことができる喫水管理システム、喫水管理装置、及び喫水管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の一実施形態に係る喫水管理システム及び喫水管理装置の構成図である。
【
図2】(a)は、本発明の一実施形態に係る喫水管理システムを搭載する船舶の概略平面図であり、(b)は、船舶を側面側から見たものであり、喫水やトリムを説明する概略説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る喫水管理システムの全体の概略動作を説明するブロック図である。
【
図4】本発明の喫水管理システムを構成するGM曲線の一例である。
【
図5】本発明の喫水管理システム及び喫水管理装置の利用シーンを説明する説明図である。
【
図6】本発明の喫水管理システム及び喫水管理装置の概略処理を示す概略フロー図である。
【
図7】本発明の喫水管理システム及び喫水管理装置における喫水の最適化に係る動作フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る喫水管理システム1A及び喫水管理装置1Bの詳細を説明する。これらの図は模式図であって、必ずしも大きさを正確な比率で記したものではない。また、図中、同様の構成部品は、同様の符号を付して示す。また、本実施形態では、喫水管理システム1Aが船舶2に搭載されることにより喫水管理装置1Bが構成されるものとして説明する。すなわち、本実施形態では、喫水管理システム1Aが、船舶2とは独立して設けられる場合を例として説明する。また、喫水管理システム1Aが船舶2に搭載されることにより、喫水管理装置1Bが構成される。
【0041】
まず、喫水管理システム1Aが搭載された船舶2についての概要を、
図2(a)を参照しながら説明する。
【0042】
図2(a)に示すように、喫水管理装置1Bの一部を構成する船舶2は、複数のバラストタンク3と、複数のバラストタンク3毎に設けられた切替バルブ4と、船首側に設けられた喫水計5Fと、船体中央部2Mの左右両舷に設けられた一対の喫水計5M(5Mp,5Ms、ここで添字pは左舷:Port側、sは右舷:Starboard側を示す。以下、喫水Dにおいても同様。)と、船尾側に設けられた喫水計5Rと、を備えている。船舶2には、前記の他、海象センサ6等が設けられている。
【0043】
複数のバラストタンク3は、船舶2に積載される積荷7(
図2(b)参照)に応じて、船体のバランスが保たれるよう、船舶2の左右や前後の適宜の位置に配置されている。バラストタンク3には、後述するバラスト水配分量算出部70で算出されたバラスト水(図示せず)の配分量に応じて、バラスト水が張排水される。
【0044】
切替バルブ4は、複数のバラストタンク3毎に設けられており、それぞれの切替バルブ4を開閉操作することで、バラスト水の流入量、流出量を調整できる。切替バルブ4は、必要に応じ、バラスト水の流入用のものと、バラスト水の排出用のものとを分けて設けてもよい。また、本実施形態では、切替バルブ4が後述する制御部55(
図1参照)に接続されており、制御部55からの指令により、切替バルブ4が自動的に開閉制御される。なお、切替バルブ4は、手動で切り替えるものでもよい。
【0045】
喫水計5F,5M(5Mp, 5Ms),5R(総称して、喫水計5とも称する)は、船舶2における喫水を計測するものとされている。喫水計5Fは、船首側に設けられており、
図2(b)に示すように、船首側の喫水(船首喫水Dfとも称する)を計測できる。また、喫水計5M(5Mp, 5Ms)は、左右両舷における喫水D(Dm・p,Dm・s)を計測して平均化することにより、船体中央部2Mの喫水D(中央喫水Dmとも称する)を求めることができる。なお、中央喫水Dmは、左右いずれか一方側の喫水計5Mで計測するものでもよい。喫水計5Rは、船尾側に設けられており、船尾側の喫水(船尾喫水Drとも称する)を計測できる。なお、必要に応じて、船首喫水Dfや船尾喫水Drは、中央喫水Dmと同様に左右両舷の喫水D(Df・p, Df・s または Dr・p, Dr・s)を計測して平均化することにより求めるようにしてもよい。
【0046】
なお、喫水計5F,5Rのみが船舶2に設けられている場合は、喫水計5F,5Mで計測したそれぞれの喫水Dを平均化することにより、中央喫水Dmを求めてもよい。かかる構成とすることにより、上述した喫水管理システム1Aは、船首と船尾にしか喫水計5を備えない船舶2であっても、中央喫水Dmを取得できる。これにより、上述した喫水管理システム1は、汎用性を高めることができる。
【0047】
また、本実施形態では、船首喫水Df及び船尾喫水Drの差により、船舶2におけるトリムTrが求められる。また、詳細は後述するが、
図1に示すように、喫水計5F,5M,5Rは、それぞれ喫水管理システム1Aにおける船首喫水取得部50F、船体中央喫水取得部50M、船尾喫水取得部50Rに接続されている。
【0048】
海象センサ6は、船舶2の周辺海域における気象に関する海象データ6Aを計測するものとされている。海象センサ6は、例えば、風速計や波高計で構成されており、船舶2の周辺海域における風速や波高を計測することができる。海象センサ6には、上記の他、例えば、ジャイロセンサや加速度センサ、あるいは、ジャイロセンサと加速度センサとを組み合わせたものなど、各種のセンサを利用することができる。ここで、ジャイロセンサや加速度センサを用いる場合は、例えば、船体の揺れ度合いを計測すればよい。すなわち、海象センサ6によって計測される海象データ6Aは、船舶2が遭遇している海洋気象に係る現状海象データとされている。海象センサ6で計測された海象データ6Aは、後述する海象データ取得部15に送られ、海象判定に供される。
【0049】
以上が、喫水管理システム1Aが搭載される船舶2の概要であり、次に、本発明の一実施形態に係る喫水管理システム1Aの詳細について説明する。
【0050】
図1に示すように、喫水管理システム1Aは、船舶2における喫水Dを管理するものとされている。喫水管理システム1Aは、例えば、情報処理装置等のコンピュータ上で実行可能なプログラムとして構成することができる。喫水管理システム1Aは、喫水取得部50、喫水取得部50に含まれる船体中央喫水取得部50M、GM算出部10、海象データ取得部15、及び海象判定部20を備えている。また、喫水管理システム1Aは、前記の他、GM曲線設定部25、目標喫水設定部30、バラスト水配分量算出部35、喫水状態判定部40、及び横揺れ周期算出部45、制御部55等を備えている。
【0051】
喫水取得部50は、船首喫水取得部50F、船体中央喫水取得部50M、及び船尾喫水取得部50Rを備えている。船首喫水取得部50F、船体中央喫水取得部50M、及び船尾喫水取得部50Rは、それぞれ喫水計5F、5M、5Rに接続されている。したがって、船首喫水取得部50Fは、喫水計5Fで計測された船首喫水Dfを取得でき、船体中央喫水取得部50Mは、喫水計5Mで計測された中央喫水Dmを取得でき、船尾喫水取得部50Rは、喫水計5Rで計測された船尾喫水Drを取得できる。なお、上述したように、船体中央部2Mに喫水計5Mが設けられていない船舶2の場合は、船首喫水Df及び船尾喫水Drを平均化することにより、間接的に中央喫水Dmを取得できる。また、本実施形態では、喫水計5F,5M,5Rによって計測された喫水Dが、喫水取得部50により、間接的に取得されているが、喫水取得部50により喫水Dが直接的に取得されてもよい。
【0052】
GM算出部10は、船体中央部2MにおけるGM値を算出することができる。ここで、GM値とは、船舶2のおける船体の復元力(m)を表すものである。本実施形態において、GM値は、横揺れ周期算出部45で算出された横揺れ周期T(s)及び船舶2の船幅B(m)に基づいて算出することができる。
【0053】
横揺れ周期算出部45は、喫水取得部50によって時系列に取得される喫水Dを含む船体状態量に基づいて、船舶2の横揺れ周期を検出するものとされている。ここで、船体状態量には、船舶2の船幅Bや、喫水D、トリムTr、船体の重心G等を含めることができる。横揺れ周期T(s)は、横揺れ周期算出部45において、次の式1に基づいて、算出される。
(式1)T=2R/√(GM)
上記Rは、慣動半径(m)、GMは、復原力(m)、Gは、船体の重心、Mは、船舶2の横揺れ中心を表すものである。ここで、Rは、船幅に比例すると考えられるから、R=0.4B(一般的な船舶の慣動半径の目安)と仮定すると、(式1)は、次の(式2)として表すことができる。
(式2)T=0.8×B/√(GM)
【0054】
海象データ取得部15は、船舶2の周辺海域の気象に関する海象データ6Aを取得するものとされている。本実施形態では、海象データ取得部15は、上述した海象センサ6によって計測された海象データ6Aを間接的に取得するものとされている。なお、海象データ取得部15は、直接的に海象データ6Aを取得するように構成されていてもよい。また、海象データ6Aは、例えば、気象予報などの公開されたデータを含めることができる。
【0055】
海象判定部20は、取得した海象データ6Aを、所定の海象判定基準に基づいて判定するものとされている。ここで、海象判定基準は、少なくとも船舶2が安全に航行できない海象状態にある場合の下限基準となる海象荒れ基準を有するものとされている。海象荒れ基準は、例えば、海象データ6Aにおける風速や波高などの閾値として規定されている。ここで、一般的には風速が、5.5~8.0m/s以上となると、白波が多く現れるレベルになるとされている。そのため、海象荒れ基準は、例えば、船舶2が進行し難くなる風速8M/sを閾値として規定するとよい。海象判定部20は、海象データ6Aが、海象荒れ基準を超えるものである場合に海象荒れが有るものと判定する。なお、海象荒れ基準は、例えば、風速の閾値と対応するGM値のGM下限基準θlwrとして定められていてもよい。
【0056】
また、本実施形態では、海象判定基準が、GM値において許容されるGM上限基準θuprを有するものとされている。詳細は後述するが、海象データ取得部15で取得された海象データ6Aが、海象判定部20において、海象荒れ基準を下回るものであり、かつ、GM値が、上限基準θuprを超えるものと判定されることを条件として、後述する目標喫水設定部30において、予め設定された目標喫水Dtのまま維持される。これにより、必要以上に目標喫水Dtが繰り返し行われることを抑制でき、喫水管理システム1Aにおける負荷が軽減される。
【0057】
GM曲線設定部25は、船舶2における複数のトリムTr毎に予め設定され、船舶2が安全に航行するために必要なGM値及び中央喫水Dmの関係を規定したGM曲線26(
図4参照)を設定(記憶)するものとされている。言い換えると、GM曲線設定部25は、予め規定されたトリムTr毎の複数のGM曲線26を記憶するデータベース的な役割を果たすものとされている。
【0058】
GM曲線26は、
図4に示すように、縦軸に喫水D(中央喫水Dm)、横軸にGM値を設定し、船舶2における複数のトリムTr毎に設計上危険な範囲を境界として規定したグラフである。GM曲線26には、海象荒れ基準に相当するGM下限基準θlwrと、GM値において許容されるGM上限基準θuprと、が規定(設定)されている。
【0059】
目標喫水設定部30(
図1参照)は、
図4に示すように、設定されたGM曲線26に基づいて、船舶2が航行するための目標となる目標喫水Dtを設定するものとされている。目標喫水設定部30は、海象データ6Aが、海象判定部20において、海象荒れ基準を超えるものであると判定されることを条件として、目標喫水Dtを、海象データ6Aにおける気象条件下において、船舶2が安全に航行できる安全喫水Dsに設定する。言い換えると、上述した喫水管理システム1Aは、取得された現状の喫水D(喫水D0とも称する)から算出されるGM値と、海象データ6Aと、に基づいて、目標喫水Dtが設定される。
【0060】
一方、目標喫水設定部30は、取得された海象データ6Aが、海象判定部20において、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水Dtを、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、最小値に設定する。具体的には、
図4に示すように、目標喫水Dtが、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、最小値に近付くよう、現状の喫水D0から順次ΔD、ΔD2、ΔD3が減じられる。
【0061】
図1に示すように、バラスト水配分量算出部35は、目標喫水設定部30で設定された目標喫水Dtに基づいて、船舶2における複数のバラストタンク3に配分するバラスト水の配分量を算出するものとされている。
【0062】
このように、上述した喫水管理システム1Aは、バラスト水配分量算出部35を備えているので、船舶2におけるバラストタンク3に的確にバラスト水を配分(割付)することができる。そのため、上述したバラスト水配分量算出部35で算出されたバラスト水の配分量に基づいて、例えば、バラストタンク3の切替バルブ4を切り替えるようにすれば、海象状態に応じて迅速、かつ正確にバラスト水の張排水を行える効果が期待できる。
【0063】
また、本実施形態では、バラスト水配分量算出部35が、予め定められたバラスト水配置テーブル(図示せず)及び取得された喫水Dに基づいて、バラスト水の配分量を算出するものとされている。ここで、バラスト水配置テーブルとは、予め複数の目標喫水Dtと、バラスト水を複数のバラストタンク3に配分するための配分量との関係を定めたものとされている。
【0064】
これにより、上述した喫水管理システム1Aは、バラスト水の配分量(割付量)を迅速に算出できる。そのため、上述した喫水管理システム1Aは、船舶2を安定に航行させつつ、最適な燃費を保つことができる。
【0065】
喫水状態判定部40は、中央喫水Dm及び目標喫水Dtを比較するものとされている。また、喫水状態判定部40は、中央喫水Dm及び目標喫水Dtが異なるものであるか否かを判定することができる。具体的には、複数のバラストタンク3へのバラスト水の配分が少なくとも終了した後に、船体中央喫水取得部50Mによって取得された中央喫水Dmが、喫水状態判定部40において、目標喫水Dtと異なることを条件として、目標喫水Dtと中央喫水Dmとの差が減じられるようにバラスト水配分量算出部35において、再度、バラスト水の配分量が算出される。言い換えると、複数のバラストタンク3へのバラスト水の配分が終了した後に、喫水状態判定部40によって中央喫水Dm及び目標喫水Dtの相違が判定され、中央喫水Dm及び目標喫水Dtが相違する場合は、これを補正するようにバラスト水の配分量が再度算出される。さらに言い換えると、上述した喫水管理システム1Aは、中央喫水Dmが目標喫水Dtに近付くように、最適な喫水Dを連続的又は間欠的に探索することができる。なお、上述した喫水管理システム1Aにおいて、バラスト水配分量の算出がフィードバックされながら行われてもよい。
【0066】
このように、上述した喫水管理システム1Aは、バラストタンク3へのバラスト水の配分を中央喫水Dmの状態に応じて最適化できる。そのため、上述した喫水管理システム1Aは、喫水に応じて安定に航行できると共に、最小限の燃費で航行できる。
【0067】
制御部55は、喫水管理システム1Aにおける制御の全体を担うものとされている。また、本実施形態では、制御部55が、切替バルブ4と接続されており、切替バルブ4が、制御部55の指令によって切り替えられるものとされている。すなわち、制御部55により、切替バルブ4の開閉の制御が行われる。これにより、上述した喫水管理システム1A(喫水管理装置1B)は、切替バルブ4を自動で的確に切り替えることができる。また、上述した喫水管理システム1Aは、迅速にバラスト水を複数のバラストタンク3に張排水できる。なお、制御部55は、喫水管理システム1Aに設けられるものだけではなく、船舶2に設けられていてもよい。また、制御部55は、単一のものだけではなく、例えば、制御する部位毎に、複数設けられていてもよい。
【0068】
以上が、本発明の一実施形態に係る喫水管理システム1A(喫水管理装置1B)の構成であり、次に、喫水管理システム1A(喫水管理装置1B)の全体の概略動作を
図3のブロック図を参照しながら説明する。
【0069】
まず、喫水管理システム1Aは、船舶2において取得された海象データ6Aの海象判定、中央喫水Dmの算出、及び横揺れ周期Tの算出を行う。また、これらと共に、トリムTr等が取得される。これらが終了すると、目標喫水Dtの探索が実行される。目標喫水Dtの探索については、後述する動作フローにおいて、詳細を説明する。
【0070】
目標喫水Dtの探索が実行されると、続いて、複数のバラストタンク3へのバラスト水の配分量の算出が行われる。ここで、バラスト水の配分量の算出は、バラスト水配置テーブル(バラストタンク割付表とも称する)に基づいて行われる。バラスト水の配分量が算出されると、当該配分量に基づいて切替バルブ4が制御され、各バラストタンク3において、バラスト水が張排水される。以上の各動作が、必要に応じて、適宜、繰り返し実行される。
【0071】
次に、喫水管理システム1A及び喫水管理装置1B(単に、喫水管理システム1Aとも称する)に係る利用シーンについて、
図5を参照しながら、以下に説明する。
【0072】
図5は、船舶2の航行(出港から入港)に合わせて、喫水管理システム1Aが利用される利用シーンを説明する説明図である。まず、(1)船舶2が出港すると、(2)港の周辺海域では、喫水Dの高さが、港指定の高さに設定されると共に、トリムTrがイーブン(船首喫水Df及び船尾喫水Drが同等)に設定される。
【0073】
船舶2が出港してから、所定の航海時間が経過すると、(3)船舶2が広い海域に達することにより、船舶2が、エンジンを停止したり、後進にかけたりという操作をしない状態(無操作状態とも称する)となる。(4)船舶2が無操作状態となると、トリムTrが例えば、船長によって船長指定の値に設定される。
【0074】
(5)トリムTrが設定されると、喫水管理システム1Aの利用が開始され、喫水Dが最適な喫水Dに変更される。(6)継続してリアルタイムで船舶2における船体状態が監視されながら、喫水管理システム1Aによる制御が行われ、航海が継続される。
【0075】
(7)入港する港の周辺海域に船舶2が達すると、トリムTrがイーブンに戻され、喫水Dも入港する港指定の高さに変更される。(8)船舶2が目的地である港に入港する。
【0076】
以上のように、喫水管理システム1Aは、船舶2が広い海域に達した後の上記(5)及び(6)において好ましく利用されるものとされている。
【0077】
次に、
図6を参照しながら、喫水管理システム1Aにおける目標喫水Dtの探索に係る概略フローについて、以下に説明する。
【0078】
まず、喫水管理システム1Aの処理が開始されると、例えば、船員により船舶2のトリムTrが設定(入力)される(ステップS1)。続いて、目標喫水Dtの探索が行われる(ステップS2)。ステップS2が実行されると、バラスト水を各バラストタンク3に配分するためのバラスト水の配分量が算出される(ステップS3)。
【0079】
ステップS3において、バラスト水の配分量が算出されると、配分量にしたがって、切替バルブ4の制御が行われる(ステップS4)。ステップS4が実行されると、喫水Dが十分に低いか(GMに余裕がないか)否かの判定が行われる(ステップS5)。
【0080】
ステップS5において、喫水Dが十分に低くない場合(所定値より高い場合)は、ステップS2における目標喫水の探索に処理が戻される。すなわち、ステップS5において、GMに余裕がある場合は、ステップS2における目標喫水Dtの探索に処理が戻される。一方、ステップS5において、喫水Dが十分に低い場合(所定値以下の場合)は、処理が終了する。すなわち、ステップS5において、GMに余裕がない場合は、処理が終了する。なお、処理を終了させずに、ステップS1からの処理が自動的に繰り返し行われるようにすることもできる。
【0081】
次に、喫水管理システム1A及び喫水管理装置1Bに係る喫水管理方法における喫水Dの最適化に係る動作フローについて、
図7及び
図8に基づいて、以下に説明する。
【0082】
図7に示すように、処理が開始されると、船舶2における目標喫水DtやGM曲線26などの初期設定(初期パラメータの抽出)が行われているか否かの判定が行われる(ステップS10)。
【0083】
ステップS10において、初期設定が行われている場合は、後述するステップS13における現状の船体状態量の取得が行われる。ステップS10において、初期設定が行われていない場合は、予め船舶2が航行するための目標となる目標トリムを設定する目標トリム設定ステップ(図示せず)が実行され、トリムTrが設定され、設定されたトリムTrに対応するGM曲線26が抽出(取得)される(ステップS11、GM曲線抽出ステップとも称する)。GM曲線抽出ステップでは、船舶2における複数のトリムTr毎に予め設定され、船舶2が安全に航行するために必要なGM値、及び船体中央部2Mにおいて取得される中央喫水Dmの関係を規定したGM曲線26が抽出される。
【0084】
続いて、目標喫水Dtに近付けるための差分としての喫水ΔD、海象荒れ基準に相当するGM値であるθlwr、GM値において許容される最大値であるθuprが抽出(取得)される(ステップS12)。すなわち、ステップS12では、GM曲線26に基づいて目標トリムと対応する船舶2の航行のための目標喫水Dtを抽出する目標喫水抽出ステップと、中央喫水Dmを取得する船体中央喫水取得ステップと、船舶2の周辺海域の気象に関する海象データ6Aを取得する海象データ取得ステップと、が実行される。
【0085】
ステップS12における処理が実行されると、船舶2における船体中央部2MのGM値である現状のGM(θ0)が算出される(GM値算出ステップとも称する)。また、現状の喫水D0及び海象データ6Aの取得が併せて行われる(ステップS13)。
【0086】
ステップS13での処理が完了すると、
図8に示すように、海象荒れが無いか否かの判定(海象判定)が行われる。海象判定では、海象荒れ基準を下回るか否か(海象荒れが無いか)が判定される(ステップS14、海象判定ステップとも称する)。海象データ6Aが、海象荒れ基準以上の場合(海象荒れと判断される場合)は、後述するステップS16が実行される。
【0087】
ステップS14において、海象データ6Aが、海象荒れ基準を下回る場合(海象荒れが無いと判断される場合)は、現状のGM(θ0)が、海象荒れ基準に相当するGM値であるθlwrよりも大きいか否かの判定が行われる(ステップS15)。
【0088】
ステップS14において、海象データ6Aが、海象荒れ基準以上であると判定される場合(海象荒れが有ると判定される場合)は、目標喫水Dtが、海象データ6Aにおける気象条件下において、船舶2が安全に航行できる安全喫水Dsに設定される(ステップS16,安全目標喫水設定ステップとも称する)。また、ステップS16が実行されると、後述するステップS20に処理が進められる。
【0089】
ステップS15において、取得された現状のGM(θ0)が、θlwr以下である場合は、ステップS16において安全目標喫水設定目標ステップが実行され目標喫水Dtが、安全喫水Dsに設定される。すなわち、現状のGMが、船舶2の航行に危険である領域にあるものとして、目標喫水Dtが、安全喫水Dsに設定される。
【0090】
ステップS15において、取得された現状のGM(θ0)が、θlwrを超える場合は、取得された現状のGM(θ0)が、GM値において許容される上限基準θuprを下回るか否かの判定が行われる(ステップS17、喫水状態判定ステップとも称する)。
【0091】
ステップS17において、現状のGM値(θ0)が、上限基準θupr以上である場合は、目標喫水Dtが、予め設定された目標喫水Dtのまま維持される(ステップS18)。すなわち、目標喫水Dtの変更が行われない。このように、上述した喫水管理システム1Aは、GM値が、上限基準θuprを基準に目標喫水Dtの再探索を行うか否かを決定できるので、必要以上に目標喫水Dtの探索(目標喫水Dtの再設定)が行われることを抑制できる。これにより、喫水管理システム1Aの負担が軽減される。
【0092】
ステップS17において、現状のGM値(θ0)が、上限基準θuprを下回る場合は、現状の喫水D0から所定の喫水ΔDを減じた喫水Dが、目標喫水Dtとして設定される(ステップS19、最小目標喫水設定ステップとも称する)。
【0093】
ステップS16、ステップS18、又はステップS19の処理が完了すると、目標喫水Dtが出力される(ステップS20、最小目標喫水設定ステップに含まれる)。本実施形態においては、目標喫水Dtが、制御部55に出力される。これにより、切替バルブ4が切り替えられ、バラスト水が、配分量にしたがって各バラストタンク3に配分される(バラスト水配分ステップとも称する)。ステップS20の処理が完了すると、処理がステップS10に戻され、目標喫水Dtの探索に係る処理が繰り返し実行される。ここで、2回目以降の目標喫水Dtの探索において行われるバラスト水の再配分は、バラスト水再配分ステップとして実行される。なお、ステップS20の処理が完了した後、処理の実行を終了させてもよい。ステップS20の実行後、ステップS10に戻すか、処理を終了させるかは、船舶2の航行状態等に応じて適宜行えばよい。例えば、ステップS20の実行後にステップS10に戻すか、処理を終了させるかの判定は、目標喫水Dtの更新が行われた回数や、下限基準θlwr及び上限基準θuprの間の領域から外側に外れる手前に、GM値が位置した場合などを判定基準として行うことができる。
【0094】
以上が、本発明の一実施形態に係る喫水管理システム1A、喫水管理装置1B、及び喫水管理方法の構成であり、次に喫水管理システム1A及び喫水管理装置1B(以下、特に区別が必要でない場合は、両者を総称して喫水管理システム1Aと称する)並びに喫水管理方法の作用効果について説明する。
【0095】
上述した喫水管理システム1Aは、取得された海象データ6Aが、海象判定部20において、海象荒れ基準を超えるもの(海象が荒れている状態)と判断されることを条件として、目標喫水設定部30において、目標喫水Dtが、海象データ6Aにおける気象条件下において、船舶2が安全に航行できる安全喫水Dsに設定されるものとされている。したがって、上述した喫水管理システム1Aによれば、海象が荒れている際に、目標喫水Dtが確実に安全喫水Dsに設定されるので、船舶2が安定して航行できる。一方、上述した喫水管理システム1Aは、取得された海象データ6Aが、海象判定部20において、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水設定部30において、目標喫水Dtが、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、最小値に設定されるものとされている。言い換えると、目標喫水Dtが、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、燃料消費量が最小となるように設定される。このように、上述した喫水管理システム1Aは、船舶2の航行における安全性を確保できると共に、燃料消費量(燃費とも称する)を最適に保つことができる。なお、上述した喫水管理システム1Aは、例えば、プログラムとして提供されるものでもよい。
【0096】
また、上述した喫水管理システム1Aは、横揺れ周期算出部45を設ける構成とすることにより、算出された船舶2の横揺れ周期及び船舶2の船幅に基づいて、GM値を算出することができる。したがって、上述した喫水管理システム1Aは、算出されたGM値及びGM曲線26に基づいて、最適な目標喫水Dtを設定できる。これにより、上述した喫水管理システム1Aは、船舶2を安定に航行させつつ、最適な燃費を保つことができる。
【0097】
また、上述した喫水管理システム1Aは、海象データ6Aに、予測海象データを含めることにより、船舶2が現在遭遇している海象だけではなく、船舶2の予定航路において予想される海象も含めた目標喫水Dtの設定を行うことができる。そのため、上述した喫水管理システム1Aは、船舶2をより安定に航行させつつ、より最適な燃費を保つことができる。
【0098】
また、上述した喫水管理システム1Aは、複数のバラストタンク3毎に設けられた切替バルブ4の開閉を制御する制御部55を設ける構成とすることにより、目標喫水設定部30において設定された目標喫水Dtに基づいて、バラストタンク3の切替バルブ4を的確に切り替えることができる。これにより、複数のバラストタンク3へのバラスト水の配分が適正に行われる。したがって、上述した喫水管理システム1Aは、船舶2の航行における安全性を確保できると共に、燃費を最適に保つことができる。
【0099】
上述した喫水管理方法は、海象判定ステップにおいて、海象データ6Aが、海象荒れ基準を超えるもの(海象が荒れている状態)と判断されることを条件として、目標喫水Dtが、海象データ6Aにおける気象条件下において、船舶2が安全に航行できる安全喫水Dsに設定される安全目標喫水設定ステップが実行されるものとされている。したがって、上述した喫水管理方法によれば、海象が荒れている際に、目標喫水Dtが確実に安全喫水Dsに設定されるので、船舶2が安定して航行できる。一方、上述した喫水管理方法は、取得された海象データ6Aが、海象判定ステップにおいて、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水設定部30において、目標喫水Dtが、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、最小値に設定される最小目標喫水設定ステップが実行されるものとされている。言い換えると、目標喫水Dtが、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、燃費が最小となるように設定される。このように、上述した喫水管理方法は、船舶2の航行における安全性を確保できると共に、燃費を最適に保つことができる。
【0100】
以上が、本発明の一実施形態に係る喫水管理システム1A、喫水管理装置1B、及び喫水管理方法の構成及び作用効果であるが、本発明の喫水管理システム1A、喫水管理装置1B、及び喫水管理方法は、上述した実施形態には限定されず、各種の変形を行うことができる。
【0101】
本実施形態では、喫水取得部50が、喫水計5とは、独立して設けられているが、喫水取得部50は、喫水計5と一体的に設けられていてもよい。また、喫水取得部50は、船舶2の形状や大きさに応じて、適宜の位置に各種の個数のものを配置することができる。また、本実施形態では、中央喫水Dmに基づいて、目標喫水Dtを算出しているが、船舶2の形状や大きさに応じて、船体中央部2Mと外れた位置の喫水Dに基づいて、目標喫水Dtが算出されてもよい。また、本実施形態では、船体中央部2Mに設けられた喫水計5Mにより中央喫水Dmを計測することにより、中央喫水Dmを取得しているが、中央喫水Dmは、直接的に求めるものだけではなく、船首喫水Df及び船尾喫水Drなどから間接的に求めるものであってもよい。
【0102】
また、本実施形態では、海象データ取得部15が、海象センサ6で取得された海象データ6Aを直接的に取得するものとしたが、海象データ取得部15は、例えば、公開された気象予報などを取得するものとしてもよい。また、海象データ取得部15は、海象センサ6と独立して設けられるものだけではなく、海象データ取得部15及び海象センサ6が一体的に構成されていてもよい。また、海象センサ6は、風速計や波高計、ジャイロセンサ、加速度センサ、振動センサ、あるいは、これらの2種以上の組み合わせなど、各種のセンサを用いることができる。また、海象判定部20における海象判定基準も船舶2の形状や大きさ等に応じて、適宜変更することができる。
【0103】
本実施形態では、GM算出部10におけるGM算出が、横揺れ周期に基づいて算出されるものとしたが、本発明は、これには限定されず、各種の方法でGM値を算出することができる。例えば、GM値が横揺れ周期を用いない方法で算出されてもよい。また、予め定められるGM曲線26は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各種のトリムTr毎に設定でき、船舶2に応じて各種の形態で設定できる。また、GM値の上限基準θuprや下限基準θlwrは、各種の値に設定できる。また、上限基準θuprは、必要に応じて設定すればよく、上限基準θuprを設けないものとすることもできる。また、目標喫水Dtや安全喫水Dsは、船舶2の大きさや形状等に応じて、各種の喫水Dに設定できる。
【0104】
また、本実施形態では、単一の安全喫水Dsが設定されているが、例えば、安全喫水Dsが海象に応じて、段階的に複数設定されていてもよい。また、本実施形態では、取得された海象データ6Aが、海象判定部20において、海象荒れ基準を下回るものであると判定されることを条件として、目標喫水Dtが、船舶2が安全に航行できる喫水Dの範囲内で、最小値に設定されるものとしているが、前記最小値は、船舶2の形状や大きさ等に応じて、各種の値に変更できる。また、喫水Dの前記最小値は、一気に最小値として設定されるものだけではなく、段階的に最小値に近付くよう、複数段階に分けて設定されるものでもよい。また、本実施形態では、目標喫水Dtの探索が、単一回行われるものとしたが、目標喫水Dtの探索は、
図4に示すように複数回行われてもよい。
【0105】
また、船舶2におけるバラストタンク3は、各種の形状や大きさのものが利用できる。例えば、単一のバラストタンク3が、複数に仕切られているようなものでもよい。また、バラストタンク3は、各種の位置に配置することができる。また、バラストタンク3へのバラスト水の配分量は、船舶2に応じて、適宜、変更することができる。また、本実施形態では、バラストタンク3の切替バルブ4が、制御部55によって開閉制御されるものとしたが、切替バルブ4は、自動制御されるものだけではなく、手動で行うものであってもよい。また、本実施形態では、バラスト水配置テーブルを用いてバラスト水の配分量が算出されているが、バラスト水配置テーブルは、必要に応じて利用すればよく、バラスト水配置テーブルを用いずにバラスト水の配分量が算出されてもよい。
【0106】
また、本実施形態では、喫水管理システム1Aが、船舶2に搭載されることにより、喫水管理装置1Bが構成されるものとしたが、喫水管理システム1Aは、船舶2と独立して、例えば、プログラムとして提供されるものでもよい。
【0107】
以上が、本発明に係る喫水管理システム、喫水管理装置、及び喫水管理方法の各種の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の喫水管理システム、喫水管理装置、及び喫水管理方法は、各種の船舶や水上を浮遊する浮遊物等の喫水管理に利用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1A:喫水管理システム
1B:喫水管理装置
2 :船舶
3 :バラストタンク
4 :切替バルブ
6A:海象データ
10 :GM算出部
15 :海象データ取得部
20 :海象判定部
25 :GM曲線設定部
26 :GM曲線
30 :目標喫水設定部
35 :バラスト水配分量算出部
40 :喫水状態判定部
45 :横揺れ周期算出部
50 :喫水取得部
50F:船首喫水取得部
50M:船体中央喫水取得部
50R:船尾喫水取得部
D :喫水
Dt :目標喫水
Dm :中央喫水
Tr :トリム