(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123370
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20240905BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240905BHJP
H01M 50/497 20210101ALI20240905BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20240905BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20240905BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M10/36 A
H01M50/489
H01M50/497
H01M50/449
H01M50/423
H01M50/414
H01M10/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030713
(22)【出願日】2023-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和三年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】榮村 弘希
(72)【発明者】
【氏名】生駒 啓
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE07
5H021HH00
5H021HH03
5H021HH05
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ08
5H029HJ10
5H029HJ20
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、高寿命で、高エネルギー密度な二次電池を提供することにある。
【解決手段】
正極、水系電解液、セパレータおよび負極を含む二次電池であって、水系電解液中の電解質濃度が3mol/Lより高く、セパレータの密度が2.0g/cm3以下であり、セパレータの透気度が1000秒/100cc以上であり、セパレータのイオン伝導度が1.0×10-5S/cm以上である二次電池とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、水系電解液、セパレータおよび負極を含む二次電池であって、
水系電解液中の電解質濃度が3mol/Lより高く、セパレータの密度が2.0g/cm3以下であり、セパレータの透気度が1000秒/100cc以上であり、セパレータのイオン伝導度が1.0×10-5S/cm以上である二次電池。
【請求項2】
前記セパレータの厚みが50μm以下である請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記セパレータの水に対する膨潤度が1.5以下である請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記セパレータの少なくとも一方の面が水に対する接触角が50°以上である請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項5】
前記セパレータの自由体積半径が、前記水系電解液中のイオンのストークス半径より小さい請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項6】
有機系電解液を含む請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項7】
前記有機系電解液に含む溶媒の水溶解度が50g/L以下である請求項6に記載の二次電池。
【請求項8】
前記有機系電解液の電解質濃度が3mol/Lより高い請求項6に記載の二次電池。
【請求項9】
前記セパレータの自由体積半径が、前記有機系電解液中のイオンのストークス半径より小さい請求項6に記載の二次電池。
【請求項10】
前記セパレータが無孔層と微多孔層で構成される請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項11】
前記負極が水反応性の金属化合物を含む請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項12】
前記負極が金属リチウムを含む請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項13】
前記正極が空気極である請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項14】
前記セパレータが前記負極の少なくとも該正極に対向する面を被覆してなる請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項15】
前記セパレータを構成するポリマーに芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項16】
前記無孔層を構成するポリマーに芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む請求項10に記載の二次電池。
【請求項17】
前記セパレータのLi濃度が50μg/g以上100000μg/g以下である請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項18】
請求項1または2に記載の二次電池を含む乗り物、無人輸送機、電子機器または定置電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池のような二次電池は、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ゲーム機などのポータブルデジタル機器、電動工具、電動バイク、電動アシスト補助自転車などのポータブル機器、および電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの自動車用途など、幅広く使用されている。
【0003】
二次電池は、一般的に、正極活物質を集電体に積層した正極と、負極活物質を集電体に積層した負極との間に、セパレータと電解液とが介在した構成を有している。
【0004】
セパレータとしては、一般にポリオレフィン系多孔質基材が用いられている。セパレータに求められる特性としては、多孔構造中に電解液を含み、イオン移動を可能にする特性と、非水電解液二次電池が異常発熱した場合に、熱で溶融することで多孔構造が閉鎖され、イオン移動を停止させることで、発電を停止させるシャットダウン特性が挙げられる。
【0005】
電解液は、イオン性の電解質と有機溶媒で構成される非水電解液が一般的である。可燃性の有機溶媒から不燃性の水溶液にすることで,安全性を高めることでき、水系電解液も検討されている。例えば、特許文献1では、水系電解液中の水の電気分解を抑制するために、リチウムイオン伝導性高分子固体電解質を充填した微多孔性セパレータを負極、正極間に配設されたリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0006】
また、水系電解液は、リチウム空気電池にも使用することが可能である。リチウム空気電池は正極が空気をエネルギー源とする空気極、負極をリチウム金属とである。その理論エネルギー密度は、3,000Wh/kg以上であり、リチウム空気電池は、高いエネルギー密度を有している。特許文献2は、水酸化リチウムとリチウムハライドとを含む水系電解質とリチウムイオン伝導性固体電解質膜を具備するリチウム空気電池が提案されている。特許文献2に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質膜は、水系電解質内に含まれた水が、負極に含まれたリチウムと直接に反応できないように保護する保護膜の役割を果たしている。特許文献3では、水溶液リチウム空気電池を構成する部材の1つとして、NASICON型結晶構造を備えた固体電解質とその空隙に熱硬化性樹脂が充填された固体電解質が提案されている。特許文献4では、2種類の電解液をポリマー膜で隔てたリチウムイオン電池を提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-1198131号公報
【特許文献2】特開2012-33490号公報
【特許文献3】特開2022-22805号公報
【特許文献4】国際公開第2022/215235号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、水の電気分解の抑制に効果があるが、負極と水と副反応の抑制は不十分であり、電池寿命に課題がある。また、用いる負極が限定される。特許文献2及び3の記載の電池は、無機固体電解質を含む構成であるが、負極を保護することができるが、重量が重いため、電池のエネルギー密度が低下する。特許文献4の記載の電池は、無機固体電解質を用いるのと比較して、電池寿命の観点から改善する余地がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、上記問題に鑑み、水系電解液を含む二次電池において、高寿命で、高エネルギー密度な二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の二次電池は次の構成を有する。
[I]
正極、水系電解液、セパレータおよび負極を含む二次電池であって、
水系電解液中の電解質濃度が3mol/Lより高く、セパレータの密度が2.0g/cm3以下であり、セパレータの透気度が1000秒/100cc以上であり、セパレータのイオン伝導度が1.0×10-5S/cm以上である二次電池。
[II]
前記セパレータの厚みが50μm以下である[I]に記載の二次電池。
[III]
前記セパレータの水に対する膨潤度が1.5以下である[I]または[II]に記載の二次電池。
[IV]
前記セパレータの少なくとも一方の面が水に対する接触角が50°以上である[I]~[III]のいずれかに記載の二次電池。
[V]
前記セパレータの自由体積半径が、前記水系電解液中のイオンのストークス半径より小さい[I]~[IV]のいずれかに記載の二次電池。
[VI]
有機系電解液を含む[I]~[V]のいずれかに記載の二次電池。
[VII]
前記有機系電解液に含む溶媒の水溶解度が50g/L以下である[VI]に記載の二次電池。
[VIII]
前記有機系電解液の電解質濃度が3mol/Lより高い[VI]または[VII]に記載の二次電池。
[IX]
前記セパレータの自由体積半径が、前記有機系電解液中のイオンのストークス半径より小さい[VI]~[VIII]のいずれかに記載の二次電池。
[X]
前記セパレータが無孔層と微多孔層で構成される[I]~[IX]のいずれかに記載の二次電池。
[XI]
前記負極が水反応性の金属化合物を含む[I]~[X]のいずれかに記載の二次電池。
[XII]
前記負極が金属リチウムを含む[I]~[XI]に記載の二次電池。
[XIII]
前記正極が空気極である[I]~[XII]に記載の二次電池。
[XIV]
前記セパレータが前記負極の少なくとも該正極に対向する面を被覆してなる[I]~[XIII]に記載の二次電池。
[XV]
前記セパレータを構成するポリマーに芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む[I]~[XIV]に記載の二次電池。
[XVI]
前記無孔層を構成するポリマーに芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む[X]に記載の二次電池。
[XVII]
前記セパレータのLi濃度が50μg/g以上100000μg/g以下である[I]~[XVI]のいずれかに記載の二次電池。
[XVIII]
[I]~[XVII]のいずれかに記載の二次電池を含む乗り物、無人輸送機、電子機器または定置電源。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高寿命で、高エネルギー密度な二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態にかかる二次電池について、以下詳細に説明する。
本発明の実施形態にかかる二次電池は、正極、水系電解液、セパレータおよび負極を含む二次電池であって、水系電解液中の電解質濃度が3mol/Lより高く、セパレータの密度が2.0g/cm3以下であり、セパレータの透気度が1000秒/100cc以上であり、セパレータのイオン伝導度が10-5S/cm以上である二次電池である。
【0013】
[正極]
正極は、正極集電体と、正極集電体の上に形成された正極合剤層とを含む正極や、空気をエネルギー減とする空気極を用いることができる。正極集電体は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなどを用いることができる。また正極合剤層は、正極活物質と、バインダとを含む構造となっているものが挙げられる。空気極は、例えば多孔質カーボンシートに白金などの酸素還元触媒を担持した構成や、触媒活性の高いカーボン、例えば、グラフェンやカーボンナノチューブなどのシート構成が挙げられる。多孔質カーボンシートは、例えば、カーボンペーパーやカーボンブラック、アセチレンブラックシートなどである。エネルギー密度の観点から、正極は空気極であることが好ましい。
【0014】
本発明の実施形態において、正極活物質は、一般式LixMyOz(MはNi、Co、Mn、Al、Mg、Moからなる群より選択される少なくとも1種の元素、0.8≦x≦1.3、0.5≦y≦2、1≦z≦4)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物やLiFePO4等のオリビン構造を備えるリン酸鉄リチウム等が挙げられる。例えば、LiCoO2、LiMn2O4、Li(Ni0.5Co0.2Mn0.3)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2、Li(Ni0.9Co0.1)O2、LiNiO2、Li(Ni0.9Co0.05Mn0.025Mg0.025)O2、Li(Ni0.9Co0.05Al0.05)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.08Al0.01Mg0.01)O2、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.08Mo0.02)O2等が挙げられる。
【0015】
正極は、例えば、以下のようにして製造される。正極活物質をグラファイトやカーボンブラック等の導電剤とポリフッ化ビニリデン等のバインダと共に混合して、正極合剤とする。そして、この正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶媒に分散させてスラリーとする。これを正極集電体の両面に塗布、乾燥後、ロールプレス等により圧縮平滑化して正極が製造される。
【0016】
[負極]
負極は、負極集電体と、負極集電体の上に形成された負極合剤層とを含む。負極集電体は、例えば、銅、ニッケル、又はステンレス製の負極集電体を用いることができる。また負極合剤層は、負極活物質と、バインダとを含む構造となっているものが挙げられる。
【0017】
本発明において、負極活物質は、C系化合物、Si系化合物、Sn系化合物、金属リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムからなる群より選択される一つ以上の成分を含むことができる。エネルギー密度を高くするために、水反応性の金属化合物を用いることが好ましい。水反応性の金属化合物とは、水や水蒸気と反応して、水素が発生する金属化合物である。具体的には、金属リチウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムやそれらを含む化合物である。電池の電位を高くするために、金属リチウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムがより好ましい。また、エネルギー密度の観点から、金属リチウムが特に好ましい。
【0018】
Sn系化合物としては、例えば、Sn、SnO2、Sn-R(前記Rは、アルカリ金属、アルカリ土金属、13族乃至16族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの組み合わせであり、Snではない)などが挙げられる。
【0019】
Si系化合物としては、例えば、Si、SiOx(0<x<2)、Si-C複合体、Si-Q合金(Qは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族乃至16族から選択される元素(周期表第13族~第16族に属する元素から選択される元素)、ただしSiを除く、遷移金属、希土類元素およびこれらの組み合わせからなる群より選択される)などが挙げられる。ここで、前記QおよびRの具体的な元素としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Rf、V、Nb、Ta、Db、Cr、Mo、W、Sg、Tc、Re、Bh、Fe、Pb、Ru、Os、Hs、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、Sn、In、Ti、Ge、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Poおよびこれらの組み合わせから選択される一つであってもよい。この中で好ましいのはSi系化合物であり、さらに好ましいのは、SiOx(0<x<2)である。
【0020】
C系化合物は、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが上げられる。
【0021】
負極は、例えば、以下のようにして製造される。C系化合物、Si系化合物、Sn系化合物を少なくとも1種類含む負極活物質はスチレン-ブタジエン共重合体、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン等のバインダと共に混合して、負極合剤とする。そして、この負極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)または水等の溶媒に分散させてスラリーとする。これを負極集電体の両面に塗布、乾燥後、ロールプレス等により圧縮平滑化して負極を製造することができる。また、必要に応じて負極導電助剤を用いてもよい。負極導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン、炭素繊維などが挙げられる。
リチウムなどの金属の場合、負極集電体の上にガスデポジション法で金属ナノ粒子を生成しHeガスとともに噴射堆積させることで作製することができる。
【0022】
[水系電解液]
本発明の実施形態において、水系電解液は、電解質と水を含む。電解質は水に溶解可能な塩であればよい。リチウムイオン二次電池の場合は、正極と負極間をLiイオンが移動する必要があるだめ、電解質はLi塩であることが好ましい。具体的には、LiNO3、Li2SO4、CH3COOLi、LiOH、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiN(SO2C2F5)2、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、LiClO4、LiAlO2、LiAlCl4、LiN(CxF2x+1SO2)(CyF2y+1SO2)(ここで、x及びyは自然数である)、LiF、LiBr、LiCl、LiI及びLiB(C2O4)2(リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)が挙げられる。本発明の二次電池が、金属空気電池である場合、空気極の反応を安定化させるために、水系電解液は、酸性水溶液または塩基性水溶液であることが好ましい。水系電解液を酸性または塩基性にするために、水系電解液に酢酸や金属水酸化化合物を含むことが好ましい。本発明の二次電池がリチウム空気電池である場合、水系電解液はLiOHを含むことが好ましい。
【0023】
本発明の実施形態において、水系電解液中の電解質濃度は3mol/Lより高い。上記範囲内となることで、水がセパレータを通過することを抑制し、電極との副反応を少なくなり、電池寿命が向上する。電解質濃度が3mol/Lより高いことで、電解質に配位していない水分子が減少することで、セパレータの自由体積に通過できる水分子が少なくなったためと考えている。水系電解液中の電解質濃度は、水がセパレータを通過することを抑制するために、4mol/Lより高いことが好ましく、5mol/Lより高いことがより好ましく、7mol/Lより高いことがより好ましく、9mol/Lより高いことがより好ましく、10mol/L以上が特に好ましい。良好な電池作動性、水系電解液中のイオン伝導度の発現のために、水系電解液中の電解質濃度が30mol/Lであることが好ましく、20mol/Lであることがより好ましい。
【0024】
[有機系電解液]
有機系電解液とは、水以外の溶媒と電解質を含む電解液である。本発明の実施形態において、電解液の安定性が向上することで電池寿命が伸びるため、有機電解系を含むことが好ましい。有機系電解液は、水系電解液と混合しても良いが、電池抵抗の低下やさらなる電池寿命の向上のためには、一方の電極から有機系電解液、セパレータ、水系電解系の順で電池が構成されることが好ましい。上記溶媒には、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、アミド類等が用いられ、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ-ブチロラクトン(γBL)、2メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-エトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル、テトラヒドロフラン(THF)、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶媒およびこれらの誘導体や混合物などが好ましく用いられる。
【0025】
本発明において、有機系電解液に含む溶媒の水溶解度が50g/L以下であることが好ましく、25g/L以下がより好ましく、20g/L以下が特に好ましい。上記範囲内であることで、非水電解液と有機電解液の混合を抑制することができ、電池寿命が向上することができる。また、電解液のイオン伝導度の観点から、有機系電解液に含む溶媒の水溶解度が1g/L以上であることが好ましく、2g/L以上であることがより好ましく、11g/L以上が特に好ましい。
【0026】
本発明において、一方の電極から有機系電解液、セパレータ、水系電解系の順で電池が構成においても、有機系電解液に含む溶媒の水溶解度が50g/L以下であることは好ましく、25g/L以下がより好ましく、20g/L以下が特に好ましい。また、電解液のイオン伝導度の観点から、有機系電解液に含む溶媒の水溶解度が1g/L以上であることが好ましく、2g/L以上であることがより好ましく、11g/L以上が特に好ましい。水溶解度が50g/L以下であるとは、室温20℃における水1Lに対する溶媒の溶解度が50g以下であることを意味する。水溶解度が20g/L以下である具体的な溶媒としては、1,2-エトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、ジブチルジグライム、ジブチルグリコールが挙げられる。
【0027】
有機系電解液には、LUMOエネルギーが1.9eV以上の溶媒を含むことが好ましい。LUMOエネルギーは、材料が1つの電子を受け入れるのに必要なエネルギーを表しており、LUMOエネルギーが低いほど、その材料は還元されやすく、高いほど耐還元性に優れている。LUMOエネルギーが1.9eV以上の溶媒を含んでいることで、負極表面上の副反応を抑制し、電池性能や寿命を高めることができる。特に金属リチウムなど還元性が高い負極を用いた際に高い効果を発現する。そのため、一方の電極から有機系電解液、セパレータ、水系電解系の順で電池が構成される場合、LUMOエネルギーが1.9eV以上の溶媒を含む有機系電解系は負極に隣接していることが好ましい。LUMOエネルギーは、2.2eV以上の溶媒を含むことがより好ましく、2.5eV以上がさらに好ましく、2.8eV以上が特に好ましい。溶媒のLUMOエネルギーは、量子力学計算により求めることができる。LUMOエネルギーが1.9eV以上の溶媒としては、エーテル系溶媒、フッ素系溶媒が用いられ、具体的には、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-エトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、アルキル-1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの有機溶媒およびこれらの誘導体や混合物などが好ましく用いられる。
【0028】
また、有機系電解液には、HOMOエネルギーが-11.5eV以下の溶媒を含むことが好ましい。HOMOエネルギーは、材料が1つの電子を放出するのに必要なエネルギーを表しており、HOMOエネルギーが高いほど、その材料は酸化されやすく、小さいほど耐酸化性に優れている。HOMOエネルギーが-11.5eV以下であることで正極表面上の副反応を抑制し、電池性能や寿命を高めることができる。そのため、HOMOエネルギーが-11.7eV以下の溶媒を含むことがより好ましく、-12.0eV以下がさらに好ましく、-12.3eV以下が特に好ましい。また、一方の電極から有機系電解液、セパレータ、水系電解系の順で電池が構成される場合、HOMOエネルギーが-11.5eV以下の溶媒を含む有機系電解系は負極に隣接していることが好ましい。溶媒のHOMOエネルギーは、量子力学計算密度半関数法(DFT)計算により求めることができる。HOMOエネルギーが-11.5eV以下の溶媒は、カーボネート系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒が用いられ、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、γ-ブチロラクトン(γBL)、2メチル-γ-ブチロラクトン、アセチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、N-メチル-2-ピロリドン、スルホランなどの有機溶媒およびこれらの誘導体や混合物などが好ましく用いられる。
【0029】
上記有機系電解液に含まれる電解質としては、アルカリ金属、特にリチウムのハロゲン化物、過塩素酸塩、チオシアン塩、ホウフッ化塩、リンフッ化塩、砒素フッ化塩、アルミニウムフッ化塩、トリフルオロメチル硫酸塩などが好ましく用いられる。例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]、臭化リチウム(LiBr)、リチウムビス(オキサレート)ボラート、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドなどのリチウム塩(電解質)などの1種以上の塩を用いることができるが、六フッ化リン酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)が好ましい。
【0030】
本発明において、有機系電解液の電解質濃度が3mol/Lより高いことが好ましい。上記範囲内であることで、水が電解液中に溶媒和構造を形成し、電極での副反応の発生を抑制し、電池特性が向上する。上有機系電解液の電解質濃度は、3.0~7.0mol/Lとすることが好ましく、より好ましくは3.5~6.0mol/L、さらには4.0~5.0mol/Lが好ましい。
【0031】
本発明において、上記有機電解液中の少なくとも1種類の金属イオン濃度は3mol/Lより高いことが好ましい。ここでの、上記有機電解液中の少なくとも1種類の金属イオン濃度は、一方の電極から有機系電解液、セパレータ、水系電解系の順で構成される電池においての有機系電解液である。上記金属イオンは、電池が充放電する際に正極負極間を移動する金属イオンであることが好ましい。具体的には、リチウムイオン電池の場合、リチウムイオンであり、ナトリウム電池の場合、ナトリウムイオンである。上記金属イオン濃度は、3.0~7.0mol/Lとすることが好ましく、より好ましくは3.5~6.0mol/L、さらには4.0~5.0mol/Lが好ましい。上記範囲内であることで、電池が良好な電池特性を示す。電池の作動性の観点から、上記金属イオンがリチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンであることが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオンがより好ましく、リチウムイオンであることが特に好ましい。また、非水電解質には必要に応じて添加剤を用いてもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト、1,4-ブタンスルトン、プロパンサルトン、2,4-ジフルオロアニソール、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン等が挙げられ、これらのうちの1種類以上を用いてもよい。
【0032】
[セパレータ]
本発明におけるセパレータは、密度が2.0g/cm3以下であり、透気度が1000秒/100cc以上であり、イオン伝導度が1.0×10-5S/cm以上である。
【0033】
セパレータは、密度が2.0g/cm3以下であることで電池重量を小さくすることができるため、高エネルギー密度の電池の作製が可能である。そのため、密度が1.8g/cm3以下であることが好ましく、1.6g/cm3以下であることがより好ましい。一方で、密度が小さいと、一方の電極表面での副反応物がもう一方の電極に到達すること抑制することができなくなるため、0.7g/cm3以上であることが好ましく、0.90g/cm3以上であることがより好ましい。セパレータの密度は、セパレータの無機化合物の含有量を少なく、有機化合物の含有量を増加させることで制御することができる。
【0034】
本発明におけるセパレータは、透気度が1000秒/100ccより大きいことで、一方の電極表面での副反応物がもう一方の電極に到達すること抑制することができ、電池性能を低下することを防止することができる。そのため、透気度が2000秒/100ccより大きいことが好ましく、5000秒/100ccより大きいことがより好ましく、10000秒/100cc以上であることが特に好ましい。なお、透気度が10000秒/100cc以上の場合、実質的にセパレータに連続孔がない無孔構造と見なすことができる。また、一方の電極、水系電解液、セパレータ、もう一方の電極の順で電池が構成される場合、透気度が1000秒/100ccより大きいことで、水系電解液中の水がセパレータ側の電極と反応することを抑制することができる。そのため、セパレータ側の電極として、高電位の正極や水反応性の高活性な負極を用いることで電池のエネルギー密度を向上させることが可能である。
【0035】
本発明におけるセパレータは、セパレータのイオン伝導性の指標であるイオン伝導度が1.0×10-5S/cm以上である。本発明におけるセパレータは、透気度が1000秒/100ccより大きいため、電解液を含浸することができず、イオン伝導性を有していることが電池特性の観点から重要である。そのため、4.0×10-5S/cm以上であることが好ましく、6.0×10-5S/cm以上であることがより好ましく、1.0×10-4S/cm以上がより好ましく、1.0×10-3S/cm以上が特に好ましい。イオン伝導度は、特に上限はないが、1.0×10-1S/cm以下であることが好ましい態様として挙げられる。
【0036】
本発明におけるセパレータは、少なくとも一方の面が水に対する接触角が50°以上であることが好ましい。上記範囲であることで、非水電解液で膨潤せず、2種の非水電解液を分離することができる。そのため、60°以上がより好ましく、70°以上がさらに好ましく、80°以上がよりさらに好ましく、90°以上が特に好ましい。過度に接触角が高いと、液溜まりや表面抵抗の増加により電池特性が低下するため、180°未満が好ましく、150°以下が特に好ましい。
【0037】
また、電池使用時に電解液の分離できることかつ電池特性の観点からセパレータの1時間後の水の接触角の変化率が10%未満であることが好ましく、さらに好ましくは7%未満が好ましい。
【0038】
本発明のセパレータは、厚みが50μm以下であることが好ましい。上記範囲内であることで、電池抵抗の低減による電池性能の向上と電池の軽量化が可能となる。そのため、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい、セパレータの厚みが小さすぎると、セパレータが破れ、短絡や液漏れを起こすため、1μm以上が好ましい。
【0039】
本発明のセパレータは、水に対する膨潤度が1.5以下であることが好ましい。上記範囲内であることで、一方の電極表面での副反応物がもう一方の電極に到達すること抑制することができ、電池性能を低下することを防止することができる。そのため、水に対する膨潤度が1.3以下であることがより好ましく、1.1以下であることがさらに好ましく、1.05以下であることが特に好ましい。水に対する膨潤度透気度が1.0未満である場合、セパレータが水中で収縮またはセパレータ中の成分が溶解していることを意味しているため、1.0以上であることが好ましい。1.0以上であることで良好なイオ伝導度及び電池特性を発現する。また、一方の電極、水系電解液、セパレータ、もう一方の電極の順で電池が構成される場合、水に対する膨潤度が1.5以下であることで、水系電解液中の水がセパレータ側の電極と反応することを抑制することができる。そのため、セパレータ側の電極として、高電位の正極や水反応性の高活性な負極を用いることで電池のエネルギー密度を向上させることが可能である。
【0040】
本発明のセパレータは、後述の測定方法により求められる膜抵抗が、0.01~80Ω/cm2であることが好ましく、0.01~50Ω/cm2であることがより好ましく、0.01~20Ω/cm2であることがより好ましく、0.01~13Ω/cm2であることがより好ましく、0.01~5.0Ω/cm2であることがより好ましく、0.01~2.5Ω/cm2であることが特に好ましい。セパレータの膜抵抗を上記範囲とすることで高い放電容量を発現することができる。
【0041】
本発明のセパレータは、自由体積半径が、上記水系電解液中のイオンのストークス半径より小さいことが好ましく、イオンのストークス半径の0.25倍より小さいことがより好ましく、イオンのストークス半径の0.1倍より小さいことが特に好ましい。上記を満たすことで、一方の電極表面での副反応物がもう一方の電極に到達すること抑制することができ、電池性能を低下することを防止することができる。また、一方の電極、水系電解液、セパレータ、もう一方の電極の順で電池が構成される場合、上記水系電解液中のイオンのストークス半径より小さいことで、水系電解液中の水がセパレータ側の電極と反応することを抑制することができる。そのため、セパレータ側の電極として、高電位の正極や水反応性の高活性な負極を用いることで電池のエネルギー密度を向上させることが可能である。本発明のセパレータが、無孔層を有する場合、無孔層の自由体積半径が、上記の関係を満たすことが好ましい。自由体積半径は、セパレータが無孔層のみで構成されるか、セパレータが無孔層と微多孔層とで構成され、無孔層が一方の表面に接するか無孔層を単独で取り出せる場合に算出することができる。
【0042】
本発明のセパレータは、自由体積半径が、上記有機系電解液中のイオンのストークス半径より小さいことが好ましく、イオンのストークス半径の0.25倍より小さいことがより好ましく、イオンのストークス半径の0.1倍より小さいことが特に好ましい。上記を満たすことで、一方の電極表面での副反応物がもう一方の電極に到達すること抑制することができ、電池性能を低下することを防止することができる。また、一方の電極、水系電解液、セパレータ、有機系電解液、もう一方の電極の順で電池が構成される場合、上記有機系電解液中のイオンのストークス半径より小さいことで、有機系電解液中の溶媒が水系電解液に混合することを抑制することができる。そのため、電池の寿命を向上させることが可能である。
【0043】
本発明のセパレータは、無孔層のみから構成されていても良いが、膜抵抗を小さくするために、無孔層と微多孔層で構成されていても良い。無孔層とは、FE-SEMにて得られるポリマー膜の断面画像において、一方の界面からもう一方の界面に向かって界面と垂直な直線を引き、直線と交わる50nm以上の空隙の個数を求め、空隙が10個以下である領域をいう。セパレータが無孔領域と微多孔膜からなる複合膜である場合、厚み方向の空隙の分布やサイズが変化しはじめる点を界面とみなす。セパレータの少なくとも一方の表層が無孔層であることが好ましい。
【0044】
本発明のセパレータは、無孔層の厚さが20μm未満であることが好ましい。無孔層の厚さが20μm以上の場合、電池特性においてポリマー膜の抵抗が大きくなりすぎる上、軽量化が求められる飛翔体用電池として用いる場合、重量が重くなる。無孔領域の厚さは、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、最も好ましくは5μm以下である。また、無孔層の厚さが小さすぎると、電池のサイクル寿命が低下するため、好ましくは0.25μm以上、より好ましくは0.5μm以上、最も好ましくは1.0μm以上である。
【0045】
セパレータのメルトダウン温度は、電池の安全性の観点から、300℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましい。
【0046】
上記のセパレータを達成するポリマー膜について説明する
本発明のセパレータは、F、O、N、Cl、S原子の総原子個数密度が9%以上100%以下であるポリマーから構成されることが好ましく、11%以上100%以下がより好ましく、14%以上100%以下が特に好ましい。ポリマーのF、O、N、Cl、S原子の総原子個数密度が上記範囲内であることで、液分離性を有しながら、金属イオンの伝導性を発現することができる。金属イオンがF、O、N、Cl、S原子と相互作用することで伝導すると考えられる。ポリマーの総原子個数密度は、構成されるポリマーが既知の場合はその化学構造から一義的に決まる。ポリマーの化学構造が不明な場合は、質量分析、NMR、IR、元素分析装置を用いた既知の手法を用いて、ポリマーの化学構造を同定できる。
【0047】
セパレータであるポリマー膜を構成するポリマーとしては、耐熱性、強度、柔軟を両立するものとして、主鎖上に芳香族環を有するポリマーが好適である。このようなポリマーとして例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアリレート、芳香族ポリサルフォン、芳香族ポリエーテルサルフォン、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。また、複数のポリマーのブレンドとしてもよい。中でも耐熱性に優れ、薄膜化した際に高強度を維持しやすいことから、特に、ポリマー膜が芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドおよび芳香族ポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーを含むことが好ましい。芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドおよび芳香族ポリアミドイミドからなる群より選択される少なくとも1種のポリマーをポリマー膜全体の30~100質量%含むことが好ましく、より好ましくは50~100質量%である。
【0048】
本発明のセパレータが、無孔層と微多孔層で構成されている場合、無孔層を構成するポリマーに、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含むことが好ましい。無孔層を構成するポリマーに前述のポリマーを含むとセパレータの耐熱性が向上するだけでなく、充放電時の副生成物がセパレータと通過することを抑制できるため好ましい。
【0049】
本発明において好適に用いることができるポリマーとして、膜を構成するポリマー中に以下の化学式(I)~(III)のいずれかの構造を有するポリマーを含むことが好ましく、芳香族ポリアミドとしては次の化学式(I)、芳香族ポリイミドとしては次の化学式(II)、芳香族ポリアミドイミドとしては次の化学式(III)で表される繰り返し単位を有するものを挙げることができる。
化学式(I):
【0050】
【0051】
化学式(II):
【0052】
【0053】
化学式(III):
【0054】
【0055】
ここで、化学式(I)~(III)中のAr1および/またはAr2は芳香族基であり、それぞれ単一の基であってもよいし、複数の基で、多成分の共重合体であってもよい。また、芳香環上で主鎖を構成する結合手はメタ配向、パラ配向のいずれであってもよい。さらに、芳香環上の水素原子の一部が任意の基で置換されていてもよい。
【0056】
本発明において電解液の分離や耐熱性と優れたイオン伝導性とを両立する手段として、ポリマーの極性を制御することでイオンをホッピングで輸送する方法が挙げられる。
【0057】
本発明において、芳香族ポリアミド(芳香族ポリアミド酸を含む)、芳香族ポリイミドまたは芳香族ポリアミドイミドを用いた場合、構造中にカルボニル基を有するため、一般的にこれがリチウムイオンと親和性が高い部位となることが多い。そのため、ポリマー膜中をリチウムイオンが移動するにはリチウムイオンとの親和性がカルボニル基より低い部位が必要となることから、主鎖または側鎖に(主鎖中あるいは側鎖上に)エーテル結合またはチオエーテル結合を有することが好ましい。より好ましくは、主鎖中にエーテル結合を有する、あるいは、芳香環上置換基に少なくともカルボン酸基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸塩基、アルコキシ基、シアネート基のいずれか1つの基を有することが好ましい。さらに好ましくは、化学式(I)~(III)中のAr1およびAr2のすべての基の合計の25~100モル%が、次の化学式(IV)~(VI)で表される基から選ばれた少なくとも1つの基であることであり、上記の割合は50~100モル%であることがより好ましい。
化学式(IV)~(VI):
【0058】
【0059】
(化学式(IV)~(VI)中の二重破線は、1または2本の結合手を表す)
ここで、化学式(IV)~(VI)の芳香環上の水素原子の一部が、フッ素、臭素、塩素などのハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;メチル、エチル、プロピルなどのアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシなどのアルコキシ基、カルボン酸基等の任意の基で置換されていてもよい。
【0060】
また、ポリマー膜中のイオン伝導を容易にするためにリチウム塩を添加することが好ましく、よりイオン伝導性を向上するために、アニオン半径の大きなリチウムイオンの解離性の高いリチウム塩を添加することがさらに好ましい。ここで、添加するリチウム塩は電解液に含まれる溶質と同様のリチウム塩を用いることができる。中でも、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]が好ましく、アニオン半径およびリチウムイオンの解離性の観点から、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]の添加が好ましい。
【0061】
本発明のセパレータは、セパレータ内のイオン伝導を容易にするために、Li塩濃度が0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましく、20重量%以上であることが特に好ましい。また、セパレータの強度や液分離性の観点から、Li塩濃度は、60重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることが特に好ましい。
【0062】
本発明の実施形態におけるセパレータは、イオン伝導度を向上する観点から、ポリマーイオン伝導膜を構成するポリマー1gあたり、リチウム元素を50μg以上含むことが好ましい。ポリマーイオン伝導膜中にリチウム元素を含むことにより、特にリチウムイオンを移動媒体とする場合において、イオン移動度が大きくなり実用的な電池の性能を得られる。ポリマーイオン伝導膜を構成するポリマー1gあたりのリチウム元素の含有量は、より好ましくは100μg以上、さらに好ましくは200μg以上、特に好ましくは500μg以上、著しく好ましくは1000μg以上、最も好ましくは2000μg以上である。リチウム元素の含有量が50μg未満の場合、二次電池に使用した場合に十分なイオン伝導性が得られず、電池特性が劣る場合がある。かかる含有量の上限は特に規定しないが、あまりに多いと吸湿により取扱性が低下するため、好ましくは1000000μg以下、より好ましくは500000μg以下であり、より好ましくは100000μg以下であり、特に好ましくは11000μg以下である。なお、リチウム元素の含有量は、原子吸光法、ICP発光分析等既知の手法を用いて評価できるが、本発明におけるリチウム元素の含有量は後述する測定方法により求められるものである。
【0063】
次にセパレータであるポリマー膜の製造方法について、以下に説明する。
【0064】
[ポリマー合成]
まず、本発明のポリマー膜に用いることができるポリマーを得る方法を芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリイミドを例に説明する。もちろん、本発明に用いることができるポリマーおよびその重合方法はこれに限定されるものではない。
【0065】
芳香族ポリアミドを得る方法は種々の方法が利用可能であるが、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料として低温溶液重合法を用いる場合には、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。溶液重合の場合、分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。
【0066】
芳香族ポリイミドあるいはその前駆体である芳香族ポリアミド酸を得る方法として、例えば、テトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンを原料として非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法などをとることができる。非プロトン性有機極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0067】
原料のテトラカルボン酸無水物および芳香族ジアミンの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の90.0~99.5モル%になるように調整することが好ましい。
【0068】
芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミドあるいはその前駆体である芳香族ポリアミド酸の対数粘度(ηinh)は、0.5~6.0dl/gであることが好ましい。対数粘度が0.5dl/g未満であると、ポリマー分子鎖の絡み合いによる鎖間の結合力が減少するため、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。対数粘度が6.0dl/gを超えると、イオン透過性が低下することがある。
【0069】
[製膜原料の調製]
次に、本発明のポリマー膜を製造する工程に用いる製膜原液(以下、単に製膜原液ということがある。)について、説明する。
【0070】
製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒や硫酸などの無機溶剤に再溶解して使用してもよい。
【0071】
製膜原液中のポリマーの濃度は、3~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%である。製膜原液には、イオン伝導性向上の観点から上述したリチウム塩を添加することが好ましい。リチウム塩の添加量は、リチウム塩のリチウムとポリマーの酸素のモル比が0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0072】
[ポリマー膜の製膜]
次に本発明のポリマー膜を製膜する方法について説明する。上記のように調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により製膜を行うことができる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、いずれの方法で製膜しても差し支えないが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。なお、本発明のポリマー膜は、空孔を有する基材上や電極上に直接製膜することで積層複合体を形成してもよいが、ここでは、単独のフィルムとして製膜する方法を説明する。
【0073】
乾湿式法で製膜する場合は製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルト、フィルム等の支持体上に押し出して膜状物とし、次いでかかる膜状物が自己保持性を持つまで乾燥する。乾燥条件は例えば、60~220℃、60分以内の範囲で行うことができる。ただし、ポリアミド酸ポリマーを使用し、イミド化させずに芳香族ポリアミド酸からなる膜を得たい場合、乾燥温度は60~150℃とすることが好ましく、より好ましくは60~120℃である。
【0074】
乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれ、さらに延伸、乾燥、熱処理が行なわれる。延伸は延伸倍率として面倍率で0.8~8.0(面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1以下はリラックスを意味する。)の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.0~5.0である。また、熱処理としては80℃~500℃、好ましくは150℃~400℃の温度で数秒から数10分間熱処理が実施される。ただし、ポリアミド酸ポリマーを使用し、イミド化させずにポリアミド酸からなる膜を得たい場合、熱処理温度は80~150℃とすることが好ましい。より好ましくは減圧下で80~120℃とすることである。
【0075】
[二次電池]
電池のエネルギー密度を高くするために、本発明の二次電池は、正極、水系電解液、セパレータ、負極の順で構成されることが好ましい。上記構成とすることにより、水電解液が負極と反応することを抑制し、エネルギー密度の高くなる金属リチウム等の水反応性の金属化合物を負極として用いることができる。また、正極、水系電解液、セパレータ、負極の順で構成される場合、セパレータと負極の間に非水電解液を含むか、前記セパレータが前記負極の少なくとも該正極に対向する面を被覆してなることが好ましい。上記構成とすることで、負極と水の反応を抑制しながら、電池の抵抗を低下することができ、寿命とエネルギー密度の両方を高くすることができる。寿命とエネルギー密度の観点から、セパレータと負極の間に有機系電解液を含むことがより好ましい。また、電池の製造方法の容易さの観点からは、前記セパレータが前記負極の少なくとも該正極に対向する面を被覆してなることが好ましい。
【0076】
本発明の二次電池の実施形態としては、例えば、コイン電池、ラミネート電池、円筒型電池、角型電池等が挙げられる。電池の大容量化や複数の電池をつないだモジュール化するためにはラミネート電池、円筒型電池、角型電池が特に好ましい。非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、ラミネート電池、円筒型電池、角型電池の場合、正極シート、セパレータ、負極シート、セパレータの順に重ね合わせ、渦巻状に捲回して捲回体を作製し、コイン電池、ラミネート電池、角型電池の場合、所定のサイズの正極シート、セパレータ、負極シート、セパレータの順に重ね合わせて積層して積層体を作製し、作製した捲回体もしくは積層体を、それぞれの電池ケースに充填し、正極及び負極のリード体の溶接を行った後、電解液を電池ケース内に注入し、電池ケースの開口部を封口して完成する。
【0077】
本発明の実施形態に係る二次電池は、モバイル端末などの小型の電子機器を始め、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、UAMなどの乗り物、産業用クレーンなどの大型の産業機器、ドローン、HAPSなどの無人輸送機の動力源などとして好適に用いることができる。また、電子機器、特に太陽電池、風力発電装置などにおける電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置としても好適に用いることができる。軽量性が求められる乗り物、電子機器、無人輸送機、定置電源に用いることが特に好ましい。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。本実施例で用いた測定法を以下に示す。
[測定方法]
(1)セパレータの透気度
王研式透気抵抗度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)を使用して、JIS P8117(1998)に準拠して測定した。
【0079】
なお、透気度は10000秒/100ccが測定限界となり、透気度は10000秒/100ccを超える場合は、セパレータは実質的に無孔構造を有していることを表す。
【0080】
(2)セパレータの抵抗値(膜抵抗)、イオン伝導度(単位:S/cm)
ポリマー膜を、測定用の電解液(1M LiTFSI エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1、三井化学社製)に8h浸漬した後、電極部分をカバーするようにSUS304電極上に置き、電解液を滴下してからもう1枚のSUS電極ではさみ、電極/ポリマー膜/電極の積層体を作製した。積層体がずれないようにシリコン板で固定して評価セルを作製した。
【0081】
作製したセルについて、25℃で電気化学試験装置(Biologic社製、型番:SP-150)にて振幅10mV、周波数1MHz-10mHzの条件で交流インピーダンスを測定し、複素平面上にプロットしたグラフから抵抗値を読み取り、下記式に代入し、イオン伝導度を計算した。5回測定し、計算した平均値をイオン伝導度とした。
σ=d1/AR
σ:イオン伝導度(S/cm)
d1:ポリマー膜の厚み(cm)(電解液浸漬前)
A:電極の面積(cm2)
R:抵抗値(Ω)
膜抵抗(Ω/cm2)については、上記の方法における抵抗値を電極の面積で規格化することで算出した。
【0082】
(3)セパレータの密度
乾式密度計(マイクロメリティックス社製、AccuPycII1345)を用いて、測定を行った。
【0083】
測定時のサイクル数:5回
測定時の充填圧力:134kPag
圧力平衡の判断基準:0.0345psig/min
サンプル重量:0.5g。
【0084】
(4)セパレータの自由体積半径
以下の条件で陽電子消滅寿命測定を実施した。
【0085】
装置:フジ・インバック社製 小型陽電子ビーム発生装置PALS-200A
陽電子線源:22Naベースの陽電子ビーム
γ線検出器:BaF2製シンチレーターおよび光電子増倍管
装置定数:234~246ps、24.55ps/ch
ビーム強度:3keV
測定温度:23℃
測定雰囲気(減圧度):1×10-6~1×10-8Pa
総カウント数:約5,000,000カウント
試料サイズ、前処理:試料を15mm角のSiウェハに貼り付け、真空脱気。
得られた陽電子消滅寿命曲線の第3成分について、非線形最小二乗プログラムPOSITRONFITにより解析を実施し、自由体積半径を横軸に、孔数を縦軸にプロットした際の個数平均孔径を平均自由体積半径(nm)として算出した。セパレータが無孔層と微多孔層とで構成され、無孔層が表面に接するまたは無孔層を単独で取り出せる場合、無孔層が接する一方の表面が上となるようにSiウェハに貼り付けた。
【0086】
(5)セパレータの膜厚
定圧厚み測定器FFA-1(尾崎製作所社製)を用いて試料の厚み(μm)を測定した。測定子径は5mm、測定荷重は1.25Nである。
【0087】
(6)電解液のストークス半径
2室セル(イーシーフロンティア製SB-100B)に電解液3mlを注入し、25℃で電気化学試験装置(Biologic社製、型番:SP-150)にて振幅10mV、周波数1MHz-10mHzの条件で交流インピーダンスを測定し、複素平面上にプロットしたグラフから抵抗値を読み取り、下記式に代入し、モル伝導率を計算した。5回測定し、計算した平均値をモル伝導率とした。モル濃度は、1MLiCl水曜液
Λ=d1/AR÷c
Λ:モル伝導率(Scm2mol-1)
d1:電極間距離(cm)(電解液浸漬前)
A:電極の面積(cm2)
R:抵抗値(Ω)
c:モル濃度(mol/cm3)
25℃で音叉振動式粘度計(A&D社製 SV10)にて溶媒粘度ηを測定し、下記式に代入し、ストークス半径rsを計算した。電解液中の異なる価数のイオンを含む場合は、イオン価の絶対値zは、各イオンのモル比率で重み付けした平均イオン価とした。溶媒として水を用いた場合、溶媒粘度は0.89×10-3mPa・sである。
【0088】
rs=zF2/6πΛNaη
rs:ストークス半径(m)
Λ:モル伝導率(Sm2mol-1)
Na:アボカドロ定数
η:溶媒粘度(Pa・s)
z:イオン価の絶対値
F:ファラデー定数。
【0089】
(7)セパレータの断面構造(ポリマー膜の厚み、無孔層の厚み)
実施例で得られたポリマー膜をクロスセクションポリッシャ(日本電子社製SM-9010)を用いて断面切削を行い、幅方向における厚み方向の断面に白金コートをして観察試料とした。次に、電界放射走査電子顕微鏡(日本電子社製JSM 6701F)を用いて、試料の断面を任意の倍率で撮影し、ポリマー膜の厚みを求めた。観察時の加速電圧は2.0kVとした。ポリマー膜が複合膜である場合は、無孔層と微多孔層の界面を、断面構造の違いもしくは画像コントラストから判定し、それぞれの厚みを求めた。
次に、10,000倍で撮影した画像から、以下の方法で無孔領域の厚みを求めた。ポリマー膜の一方の界面からもう一方の界面に向かって界面と垂直な直線を引き、直線と交わる50nm以上の空隙の個数を求め、空隙が10個以下であれば無孔領域と判定し、厚みを求めた。ポリマー膜が、無孔領域と微多孔膜からなる複合膜である場合、厚み方向の空隙の分布やサイズが変化しはじめる点を界面とみなした。
【0090】
(8)セパレータのLi濃度(μg/g)
原子吸光分析装置を用いて、セパレータ1gあたりに含まれるLi元素量を求めた。試料(セパレータ)0.1gを秤取し、硫酸を加えて加熱炭化したのち、加熱灰化した。灰化物を硫酸およびふっ化水素酸で加熱分解し、希硝酸で加温溶解して定容とした。この溶液について原子吸光分析法でLi元素を測定し、試料中の含有量を求め、セパレータ1gあたりのリチウム元素含有量に換算した。試料が積層体の場合、電解質層のみを剥がして測定した。
【0091】
装置:原子吸光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製Z-2300)
(9)セパレータの水との接触角
まず、セパレータを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後する。その後、同雰囲気下で、セパレータに対して、蒸留水を滴下10秒後の接触角を、協和界面科学社製 接触角計DropMaster DM-501により、5点測定する。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値を各有機溶媒の接触角とした。
【0092】
(10)二次電池の開回路電圧(OCV)維持時間(電池寿命の評価)
各実施例及び比較例にて作製した二次電池について、25℃の雰囲気下で電気化学試験装置(Biologic社製、型番:SP-150)にて開回路電圧(OCV)を測定した。充電状態から10分後に測定開始し、初期の開回路電圧に対して、±0.5V変動するまでの時間をOCV維持時間とした。OCV維持時間を以下のとおりに評価した。
A:200時間以上
B:100時間200時間未満
C:50時間以上100時間未満
D:24時間以上50時間未満
E:3時間以上24時間未満
F:3時間未満。
【0093】
(11)有機系電解液のLUMOエネルギー、HOMOエネルギー
有機系電解液に含まれる有機溶媒のLUMOエネルギー、HOMOエネルギーは、量子化学計算プログラムGaussian16(Gaussian社製)を用いて、半経験的分子軌道法PM3法、基底関数STO-3Gで計算した。
【0094】
(12)水に対する膨潤度
直径20mmの円形に打ち抜いたセパレータを試料として用意した。膜厚を上述の厚み測定器(株式会社ミツトヨ製VL-50)で測定した。セパレータを蒸留水に25℃24時間浸漬した。浸漬処理後にセパレータを引き上げ、厚み測定器(株式会社ミツトヨ製VL-50)で厚みを測定した。浸漬後の厚み/浸漬前の厚みを水に対する膨潤度とした。
【0095】
(13)有機系電解系の溶媒の水溶解度
2mLの溶媒、水をそれぞれバイアル管に加え、Vortex-Genie 2で10秒攪拌後、20℃で3時間静置した。有機相を分取し、カールフィッシャー水分率計により有機溶媒中の水濃度から水溶解度を算出した。
【0096】
(14)水系電解液、有機系電解液の電解質濃度
イオンクロマトグラフィー質量分析法により、溶液中に含まれる各イオンの重量濃度、m/z(質量電荷数比)を測定することで電解質濃度を算出した。多価イオンについては、実際に溶解するモル濃度に対して、価数倍となる。例えば、120g/L硫酸マグネシウムイオン水溶液を水系電解液とした場合、本発明の電解質濃度は、2mol/Lとなる。
【0097】
実施例で用いた、正極、負極、電解液、セパレータについて、下記する。
【0098】
〔正極〕
空気極としては、白金触媒を20%担持したカーボンペーパーを用いた。活性炭電極は、EDLC電極(宝泉製)を用いた。
【0099】
〔負極〕
グラファイト負極としては、厚み50μm、充電容量4.17mAh/cm2、放電容量3.65mAh/cm2の黒鉛を活物質として用いた負極シート(宝泉社製)を用いた。金属Li負極としては、市販の金属リチウム箔(本城金属(株)製、厚さ0.2mm)を用いた。
【0100】
〔電解液の作製〕
非水電解液を構成する溶媒のHOMOエネルギーが-11.5ev以下である非水電解液は以下のように作製した。エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)との体積比1:1の混合溶媒1Lに、1.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解して混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)を2質量部加えて、非水電解液Aを調製した。
【0101】
非水電解液を構成する溶媒のLUMOエネルギーが2eV以上である非水電解液は以下のように作製した。1,2-ジメトキシエタン(DME)に、1.0molのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を溶解して混合液を作製し、その混合液100質量部に、更にビニレンカーボネート(VC)を2質量部加えて、非水電解液Bを調製した。
【0102】
〔ポリマー溶液の作製〕
(ポリマー溶液P1)
脱水したNMP(N-メチル-2-ピロリドン、三菱ケミカル株式会社製)にジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業株式会社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属株式会社製)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル株式会社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)により中和することでポリマー溶液P-1を得た。
【0103】
得られたポリマーの粘度ηは2.5dL/gであった。そのポリマー溶液を重量比で10倍以上の精製水に投入し、溶媒および中和塩を水中に抽出して、析出したポリマーのみを分離した後、80℃で10時間真空乾燥させてポリマー粉末を得た。その後、ポリマー濃度が8質量%、ポリマー量の0.47倍の重量のLiFSIを含むように脱水したNMP(三菱ケミカル株式会社製)に再溶解させ、ポリマー溶液P1を得た。
【0104】
(ポリマー溶液P2)
脱水したNMP(N-メチル-2-ピロリドン、三菱ケミカル株式会社製)にジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業株式会社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属株式会社製)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル株式会社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)により中和することでポリマー溶液P-1を得た。
【0105】
得られたポリマーの粘度ηは2.5dL/gであった。そのポリマー溶液を重量比で10倍以上の精製水に投入し、溶媒および中和塩を水中に抽出して、析出したポリマーのみを分離した後、80℃で10時間真空乾燥させてポリマー粉末を得た。その後、ポリマー濃度が7質量%、ポリマー量の0.47倍の重量のLiFSIを含むように脱水したNMP(三菱ケミカル株式会社製)に再溶解させ、ポリマー溶液P2を得た。
【0106】
(ポリマー溶液P3)
脱水したNMP(N-メチル-2-ピロリドン、三菱ケミカル株式会社製)にジアミンとしてHFBAPPジアミン(東京化成工業株式会社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して100モル%に相当する2-フルオロテレフタロイルクロライド(イハラニッケイ社製)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル株式会社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)により中和することでポリマー溶液P-1を得た。
【0107】
得られたポリマーの粘度ηは1.3dL/gであった。そのポリマー溶液を重量比で10倍以上の精製水に投入し、溶媒および中和塩を水中に抽出して、析出したポリマーのみを分離した後、80℃で10時間真空乾燥させてポリマー粉末を得た。その後、ポリマー濃度が7質量%、ポリマー量の0.35倍の重量のLiFSIを含むように脱水したNMP(三菱ケミカル株式会社製)に再溶解させ、ポリマー溶液P3を得た。
【0108】
(ポリマー溶液P4)
ポリマーとして、PVDF(ソルベー社製 Solef-6020)を用いた。ポリマー濃度が7質量%、ポリマー量の0.35倍の重量のLiFSIを含むように脱水したNMP(三菱ケミカル株式会社製)に再溶解させ、ポリマー溶液P4を得た。
【0109】
[セパレータの作製〕
(セパレータS1)
ポリマー溶液P1を用いて支持体であるガラス板上に膜状に塗布した。その際、80μmスペーサのバーコーターを用いて塗布した。塗布したポリマー溶液を130℃の熱風オーブンでフィルムが自己支持性を持つまで乾燥させた後、フィルムを支持体から剥離した。次いで、剥離したフィルムを金属枠に固定し、130℃の真空乾燥機で1時間乾燥を行った。得られたセパレータの特徴を表に示す。
【0110】
(セパレータS2)
130μmスペーサのバーコーターを用いた以外は、セパレータS1同様に作製した。
【0111】
(セパレータS3)
160μmスペーサのバーコーターを用いた以外は、セパレータS1同様に作製した。
【0112】
(セパレータS4)
ポリマー溶液P4を用いた以外は、セパレータS1同様に作製した。
【0113】
(セパレータS5)
ポリプロピレン多孔質膜基材(厚み25μm、透気度191秒/100cc)の片面に塗工液としてポリマー溶液P1をクラビアコートにより塗工した。塗工後100℃15分間乾燥後、100℃60分真空乾燥することで多孔質膜基材上にポリマー膜を形成し、セパレータS5を得た。
【0114】
(セパレータS6)
ポリマー溶液P2を用いた以外は、セパレータS1同様に作製した。
【0115】
(セパレータS7)
ポリマー溶液P3を用いた以外は、セパレータS1同様に作製した。
【0116】
〔電池の組み立て〕
Ar雰囲気中で、2室セル(イーシーフロンティア製SB-100B)を用いて上記正極と上記負極とを、上記セパレータを2室セルに配置し、負極側に有機系電解液を注液した。その後、ドライルーム雰囲気下で正極側に水系電解液を注液し、二次電池を作製した。
【0117】
セパレータが負極の少なくとも正極に対向する面を被覆してなる二次電池を作製する際は、直径16mmのLi箔上に直径22mmのセパレータをのせ、ローラーで押さえつけた負極とセパレータの複合体を用いた。
【0118】
(実施例1及び13)
表に記載のセパレータ、正極、負極、電解液を用いて、正極、水系電解液、セパレータ、負極の順で構成される二次電池を作製した。表にセパレータ物性と二次電池の特性を示した。
【0119】
(実施例2-12、14-17、比較例1)
表に記載のセパレータ、正極、負極、電解液を用いて、正極、水系電解液、セパレータ、有機系電解液、負極の順で構成される二次電池を作製した。表にセパレータ物性と二次電池の特性を示した。
【0120】
(比較例2)
セパレータとして、ポリエチレンフィルムを用いて、正極、水系電解液、セパレータ、有機系電解液、負極の順で構成される二次電池を作製した。表にセパレータ物性と二次電池の特性を示した。用いたポリエチレンは、イオン伝導性がなく、イオン伝導度を測定することができなかった。
【0121】
(比較例3)
セパレータとして、ポリエチレン微多孔膜(厚み12μm、透気度160秒/100cc)を用いて、正極、水系電解液、セパレータ、有機系電解液、負極の順で構成される二次電池を作製した。表にセパレータ物性と二次電池の特性を示した。
【0122】
(比較例4)
セパレータとして、NASICON型無機固体電解質(オハラ社製)を用いて、正極、水系電解液、セパレータ、有機系電解液、負極の順で構成される二次電池を作製した。表にセパレータ物性と二次電池の特性を示した。
【0123】
実施例に対して、比較例1及び3は、電解質濃度が低いまたは透気度が小さいため、OCV維持時間が短く、電池寿命が短い。比較例2、透気度が大きいが、イオン伝導性を示さないため、電池として作用しない。比較例4は、密度が大きいため、電池が重たくなるため、重量エネルギー密度が小さくなる。また、比較例4のセパレータは、イオン伝導度は高いが、膜厚が厚いため、膜抵抗が大きい点も重量エネルギー密度が小さい要因となる。実施例1と4の結果から、有機電解液があることで、OCV維持時間が長くなっており、高寿命化することがわかる。実施例8、12、17から、水溶解度の小さい溶媒を有機電解液に含むことで、高寿命化することがわかる。
【0124】
【0125】
【0126】