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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123372
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】捕獲装置
(51)【国際特許分類】
   B64G 4/00 20060101AFI20240905BHJP
   B64G 1/10 20060101ALI20240905BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B64G4/00 105
B64G1/10 500
B64G1/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030715
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】516041276
【氏名又は名称】株式会社アストロスケール
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140648
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩井 隆
(57)【要約】
【課題】対象物捕獲時に発生する衝撃的な荷重を抑制しかつ外力を減衰させる捕獲装置を提供する。
【解決手段】宇宙空間における対象物Tを捕獲するように構成された捕獲装置1であって、本体部10と、対象物Tを機械的に把持する把持部20と、本体部10と把持部20とを連結するアーム部30と、を備え、アーム部30は、本体側リンク部33Lと把持側リンク部34Lとを連結する関節部34Jを有する。関節部34Jには弾性要素34Eが組み込まれており、弾性要素34Eは、一方の端部が駆動部34Aによって駆動される入力部34Iに接続され、他方の端部が把持側リンク部34Lに固定された出力部34Oに接続され、把持部20によって対象物Tを把持した際に発生する衝撃的な荷重が出力部34Oから入力部34Iへと伝達されるのを抑制する。アーム部30は、出力部34Oから入力部34Iへと伝達される外力を減衰させる減衰部34Dを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間における対象物を捕獲するように構成された捕獲装置であって、
本体部と、前記対象物を機械的に把持するように構成された把持部と、前記本体部と前記把持部とを連結するアーム部と、を備え、
前記アーム部は、前記本体部に接続された本体側リンク部と、前記把持部に接続された把持側リンク部と、前記本体側リンク部と前記把持側リンク部とを連結する関節部と、を有し、前記本体側リンク部に固定された駆動部の回転駆動力を前記把持側リンク部に伝達することにより、前記把持側リンク部を前記本体側リンク部に対して相対的に回転駆動するように構成されており、
前記関節部には、円弧状の弾性要素を有する弾性機構が組み込まれており、
前記弾性要素は、一方の端部が前記駆動部によって駆動される入力部に接続され、他方の端部が前記把持側リンク部に固定された出力部に接続されることにより、前記駆動部の回転駆動力が前記弾性要素を介して伝達され、かつ、前記把持部によって前記対象物を把持した際に発生する衝撃的な荷重が前記出力部から前記入力部へと伝達されるのを抑制し、
前記アーム部は、前記出力部から前記入力部へと伝達される外力を減衰させる減衰部を有している、捕獲装置。
【請求項2】
前記減衰部は、前記出力部に設けられた凹部内に充填された粘弾性体と、前記入力部に固定されて前記粘弾性体内に挿入されるレバーと、を有し、前記粘弾性体によって前記レバーの動きを減衰させることにより、前記入力部に対する前記出力部の動きを減衰させるように構成されている、請求項1に記載の捕獲装置。
【請求項3】
前記減衰部の前記出力部側には、前記レバーの移動領域を規制する規制部が設けられている、請求項2に記載の捕獲装置。
【請求項4】
前記本体部は、前記把持部及び前記対象物の位置及び/又は姿勢に関する情報を取得するセンサと、前記センサによって取得した前記情報に基づいて前記対象物に対する前記把持部の位置合わせ及び/又は姿勢合わせを行う位置制御部と、を有し、
前記アーム部は、前記センサによる前記情報の取得を妨げないような態様、又は、前記センサによる前記情報の取得が部分的に妨げられた場合においても前記位置制御部による位置合わせ及び/又は姿勢合わせに影響を与えないような態様、で伸展及び折畳を行うように構成されている、請求項1に記載の捕獲装置。
【請求項5】
前記センサは、前記把持部及び前記対象物の位置及び/又は姿勢に関する情報を取得する光学センサである、請求項4に記載の捕獲装置。
【請求項6】
前記本体部は、前記対象物側へと向けられる一つの表面を有しており、
前記光学センサは、前記表面の略中央部に配置されており、
前記アーム部は、前記光学センサの視野の周囲の領域で伸展及び折畳を行うように構成されている、請求項5に記載の捕獲装置。
【請求項7】
前記把持部は、前記対象物を把持した後に、その把持状態を解除することができるように構成されている、請求項1に記載の捕獲装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕獲装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、宇宙利用の脅威となりつつあるスペースデブリを除去するサービスの発展が予想されており、また、今後は軌道上サービスの発展も予想されることから、宇宙機同士を安全に結合させるための結合運用技術の開発が進められている。結合運用中に不具合が生じ宇宙機同士に衝突が生じると、宇宙機が破損し、破損部品が様々な軌道に飛び散る事故が発生し得る。宇宙における部品の除去に要するコストは地上の比ではなく、避けなくてはならない。
【0003】
宇宙機同士を結合させるための従来の技術としては、例えば、電磁石等を用いた磁気的方式(特許文献1)、ロボットアーム等を用いた高剛性な機械的方式(特許文献2)、網や布を用いた低剛性な機械的方式(非特許文献1)、接着剤を用いた化学的方式(特許文献3)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-65689号公報
【特許文献2】特開2018-199183号公報
【特許文献3】米国特許第7374134号明細書
【非特許文献1】Robert Axthelm他著、「Net Capture Mechanism for Debris Removal Demonstration Mission」、7th European Conference on Space Debris、the ESA Space Debris Office、 HYPERLINK "https://conference.sdo.esoc.esa.int/proceedings/sdc7/paper/78" https://conference.sdo.esoc.esa.int/proceedings/sdc7/paper/78、2017年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、宇宙機同士の結合運用は、(1)結合するまでのフェーズ、(2)結合を持続するフェーズ、(3)結合を解除するフェーズ、 の3つのフェーズから成り、結合技術にはそれぞれのフェーズにおいて継続して安全を確保することが求められるが、従来の結合技術は、次の点で問題がある。
【0006】
まず、磁気的方式は、捕獲対象となるデブリに磁性体の板等を予め搭載する必要がある。このため、磁性体が搭載されていない既存のデブリの捕獲には、そもそもフェーズ(1)からして適用できないという問題がある。
【0007】
次に、従来の高剛性な機械的方式は、フェーズ(1)~(3)の実現が可能ではあるものの、捕獲の際に、捕獲対象物と捕獲システムとの間で精度の高い位置計測及び姿勢計測と、捕獲対象物と捕獲システムとの間での正確な位置合わせ及び姿勢合わせと、の双方が必要になる。特に、特許文献2に開示されたような既存の高剛性な機械的方式では、把持システムを搭載する宇宙航行体側が正確な位置合わせ及び姿勢合わせの機能を有するアーキテクチャを採用しており、システム構造及び運用シナリオが複雑になる。この結果、宇宙航行体の特に姿勢軌道制御系・推進系への要求の程度が高くなり、宇宙航行体の装置自体が大きく重くなるため、打ち上げの機会が少なくなり、かつ、開発・運用が高コスト化するという問題がある。
【0008】
続いて、低剛性な機械的方式や接着剤等の化学的方式は、フェーズ(3)における問題を抱えている。すなわち、低剛性な機械的方式の結合技術においては、捕獲のやり直しが効かず、接着剤等を用いた結合技術においては、接着後に剥がすことができないという問題がある。また、非特許文献1に記載された結合技術のような「銛」を使用すると、フェーズ(1)又はフェーズ(3)で「銛」を貫通させる際又は引き抜く際に破片が飛び散る可能性があることに加え、フェーズ(1)では誤って燃料タンクやバッテリを貫くと爆発を生じる虞もある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、対象物に磁性体を搭載する必要がなく宇宙機結合の際の全てのフェーズを実現させることができる高剛性な機械的方式を採用しつつ、対象物捕獲時に発生する衝撃的な荷重を抑制しかつ対象物捕獲時の外力を減衰させることができる捕獲装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係る装置は、宇宙空間における対象物を捕獲するように構成された捕獲装置であって、本体部と、対象物を機械的に把持するように構成された把持部と、本体部と前記把持部とを連結するアーム部と、を備えており、アーム部は、本体部に接続された本体側リンク部と、把持部に接続された把持側リンク部と、本体側リンク部と把持側リンク部とを連結する関節部と、を有し、本体側リンク部に固定された駆動部の回転駆動力を把持側リンク部に伝達することにより、把持側リンク部を本体側リンク部に対して相対的に回転駆動するように構成されており、関節部には、円弧状の弾性要素を有する弾性機構が組み込まれており、弾性要素は、一方の端部が駆動部によって駆動される入力部に接続され、他方の端部が把持側リンク部に固定された出力部に接続されることにより、駆動部の回転駆動力が弾性要素を介して伝達され、かつ、把持部によって対象物を把持した際に発生する衝撃的な荷重が出力部から入力部へと伝達されるのを抑制し、アーム部は、出力部から入力部へと伝達される外力を減衰させる減衰部を有しているものである。
【0011】
かかる構成を採用すると、本体部に接続された本体側リンク部と、把持部に接続された把持側リンク部と、を連結する関節部に、円弧状の弾性要素を有する弾性機構が組み込まれているため、把持部によって対象物を把持(捕獲)した際に発生する衝撃的な荷重が把持側リンク部(出力部)から本体側リンク部(入力部)へと伝達されるのを抑制する(すなわち緩衝効果を得る)ことができる。また、把持部によって対象物を把持(捕獲)した際に、把持側リンク部(出力部)から本体側リンク部(入力部)へと伝達される外力(特に、弾性機構の弾性要素によっては減衰しきれない外力)を、減衰部によって減衰させることができる。従って、対象物と捕獲装置との間での位置計測(姿勢計測)や位置合わせ(姿勢合わせ)がそれほど正確でない状態で対象物を捕獲することに起因して衝撃的な荷重が発生しても、そのような荷重を抑制しかつ減衰させることができる。この結果、対象物と捕獲装置との間での高精度な位置計測(姿勢計測)や位置合わせ(姿勢合わせ)が不要となるという利点がある。
【0012】
本発明に係る捕獲装置において、出力部に設けられた凹部内に充填された粘弾性体と、入力部に固定されて粘弾性体内に挿入されるレバーと、を有し、粘弾性体によってレバーの動きを減衰させることにより、入力部に対する出力部の動きを減衰させるように構成されている減衰部を採用することができる。
【0013】
かかる構成を採用すると、入力部に固定されたレバーが、出力部に設けられた凹部内に充填された粘弾性体内に挿入されており、粘弾性体によってレバーの動きを減衰させることにより、入力部に対する出力部の動き(出力部に対する入力部の動き)を減衰させることができる。
【0014】
本発明に係る捕獲装置において、減衰部の出力部側に、レバーの移動領域を規制する規制部を設けることができる。
【0015】
かかる構成を採用すると、入力部に固定されたレバーの移動領域を規制する規制部が減衰部の出力部側に設けられているため、出力部に対する入力部の移動領域を規制することができる。
【0016】
本発明に係る捕獲装置において、把持部及び対象物の位置及び/又は姿勢に関する情報を取得するセンサと、センサによって取得した情報に基づいて対象物に対する把持部の位置合わせ及び/又は姿勢合わせを行う位置制御部と、を有する本体部を採用することができる。かかる場合において、センサによる情報の取得を妨げないような態様、又は、センサによる情報の取得が部分的に妨げられた場合においても位置制御部による位置合わせ及び/又は姿勢合わせに影響を与えないような態様、で伸展及び折畳を行うように構成されているアーム部を採用することができる。
【0017】
かかる構成を採用すると、本体部と把持部とを連結するアーム部が、センサによる特定情報(把持部及び対象物の位置及び/又は姿勢に関する情報)の取得を妨げないような態様、又は、当該センサによる特定情報の取得が部分的に妨げられた場合においても位置制御部による位置合わせ及び/又は姿勢合わせに影響を与えないような態様、で伸展及び折畳を行うことができる。従って、センサによって取得した特定情報に基づいた対象物に対する把持部の位置合わせや姿勢合わせを確実に行うことができる。
【0018】
本発明に係る捕獲装置において、センサとして、把持部及び対象物の位置及び/又は姿勢に関する情報を取得する光学センサを採用することができる。かかる場合において、対象物側へと向けられる一つの表面を有する本体部を採用し、この表面の略中央部に光学センサを配置し、この光学センサの視野の周囲の領域で伸展及び折畳を行うようにアーム部を構成することができる。また、対象物を把持した後に、その把持状態を解除することができるように構成された把持部を採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、対象物に磁性体を搭載する必要がなく宇宙機結合の際の全てのフェーズを実現させることができる高剛性な機械的方式を採用しつつ、対象物捕獲時に発生する衝撃的な荷重を抑制しかつ対象物捕獲時の外力を減衰させることができる捕獲装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る捕獲装置の全体構成を説明するための説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る捕獲装置のアーム部を展開させる前の状態を示す正面図である。
図3】本発明の実施形態に係る捕獲装置のアーム部を展開させる前の状態を示す斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る捕獲装置のアーム部を展開させた状態を示す斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る捕獲装置のアーム部の関節部の構造を説明するための説明図(部分断面図)である。
図6】本発明の実施形態に係る捕獲装置のアーム部の関節部の構造を説明するための説明図(内部斜視図)である。
図7】本発明の実施形態に係る捕獲装置のアーム部の関節部に組み込まれる弾性機構及び減衰部を説明するための説明図である。
図8】弾性機構の変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
<捕獲装置の構成>
まず、本発明の実施形態に係る捕獲装置1の構成について説明する。捕獲装置1は、図1に示すように、宇宙空間における対象物(スペースデブリ等)Tを捕獲するように構成されたものであって、本体部10と、把持部20と、本体部10と把持部20とを連結するアーム部30と、を備えている(なお、図1においては、アーム部30に搭載される弾性機構をバネ状のものとして概念的に表しているが、後述するように弾性機構はアーム部30の各関節部に組み込まれる)。
【0023】
本体部10は、各種構成部材(電子機器等)を収納するための空間をその内部に有する筐体状部材である。本体部10の立体形状は特に限定されるものではなく、円筒状、角筒状、直方体状、立方体状、等の形状を採用することができる。本体部10のサイズは、ロケットに取り付けられて宇宙空間に打ち上げられるようなサイズであれば特に限定されるものではない。
【0024】
本実施形態における本体部10は、把持部20及び対象物Tの位置及び/又は姿勢に関する情報(以下、「特定情報」と称する)を取得するセンサ11と、センサ11によって取得した特定情報に基づいて対象物Tに対する把持部20の位置合わせ及び姿勢合わせを行う図示されていない位置制御部と、把持部20を駆動制御する図示されていない把持制御部と、アーム部30を駆動制御する図示されていないアーム制御部と、を有している。本実施形態においては、センサ11として、特定情報を取得する光学センサ(画像情報を取得するカメラや、点群データを取得して対象物までの距離を測定するLiDAR等)を採用している。また、本実施形態における本体部10は、対象物T側へと向けられる表面12を有しており、センサ11(光学センサ)は、図1及び図2に示すようにこの表面12の略中央部に配置されている。
【0025】
把持部20は、対象物Tを機械的に把持するように構成されるとともに、対象物Tを把持した後にその把持状態を解除することができるように構成されており、本体部10の把持制御部から送られる信号によって駆動制御される。把持部20の構成は、上記機能を果たすことができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、複数のV字爪を有する機構と、各V字爪で対象物Tのリング構造を内側から挟んで把持するように各V字爪を駆動制御する駆動制御部と、を有する把持部を採用することができる。
【0026】
アーム部30は、センサ11の視野の周囲の領域で伸展及び折畳を行うように構成されている。また、本実施形態におけるアーム部30は、センサ11による特定情報(把持部20及び対象物Tの位置及び/又は姿勢に関する情報)の取得を妨げないような態様、又は、センサ11による特定情報の取得が部分的に妨げられた場合においても位置制御部による位置合わせ及び姿勢合わせに影響を与えないような態様、で伸展及び折畳を行うように構成されている。アーム部30は、本体部10のアーム制御部から送られる信号によって駆動制御されるようになっており、非作動時には図2及び図3に示すようにセンサ11の四方を囲うように折り畳まれる一方、作動時には図4に示すように伸展して把持部20側を目標位置(例えば対象物Tの存在する位置)に近付けることができるようになっている。
【0027】
本実施形態におけるアーム部30は、図2図4に示すように、第一関節部31Jを介して本体部10に接続された第一リンク部31Lと、第二関節部32Jを介して第一リンク部31Lに接続された第二リンク部32Lと、第三関節部33Jを介して第二リンク部32Lに接続された第三リンク部33Lと、第四関節部34Jを介して第三リンク部33Lに接続された第四リンク部34Lと、第五関節部35Jを介して第四リンク部34Lに接続された第五リンク部35Lと、を有しており、第五リンク部35Lの先端には把持部20が取り付けられている。各関節部(第一関節部31J、第二関節部32J、第三関節部33J、第四関節部34J、第五関節部35J)を挟んで本体部10側にあるリンク部が、本発明における「本体側リンク部」に相当し、各関節部を挟んで把持部20側にあるリンク部が、本発明における「把持側リンク部」に相当する。例えば、第四関節部34Jを挟んで本体側10にある第三リンク部33Lが「本体側リンク部」に相当し、把持部20側にある第四リンク部34Lが「把持側リンク部」に相当する。
【0028】
アーム部30の各関節部には、本体側リンク部に対して把持側リンク部を相対的に回転駆動するための駆動部(例えばモータ)が搭載されている。例えば、図5に示すように、第四関節部34Jには駆動部34Aが搭載されており、駆動部34Aは、本体側リンク部である第三リンク部33Lに固定されている。そして、駆動部34Aの回転駆動力を、把持側リンク部である第四リンク部34Lに伝達することにより、把持側リンク部である第四リンク部34Lを、本体側リンク部である第三リンク部33Lに対して相対的に回転駆動することができる。なお、アーム部30の各関節部の内部には、本体側リンク部に対する把持側リンク部の回転角度を検出するための図示されていない角度センサが設けられている。
【0029】
また、アーム部30の各関節部には、円弧状の弾性要素を有する弾性機構が組み込まれている。例えば、図6及び図7に示すように、第四関節部34Jには2個一組の円弧状の弾性要素34Eを有する弾性機構が組み込まれている。各弾性要素34Eの一方の端部は、駆動部34Aによって駆動されるディスク状の入力部34Iに、減衰部34Dのレバー(棒状部)34DL(後述)を介して接続されている。また、各弾性要素34Eの他方の端部は、把持側リンク部である第四リンク部34Lに固定されたリング状の出力部34Oに、減衰部34Dの規制部34DR(後述)を介して接続されている。これにより、駆動部34Aの回転駆動力が弾性要素34Eを介して入力部34Iから出力部34Oへと伝達され、かつ、把持部20によって対象物Tを把持した際に発生する衝撃的な荷重が出力部34Oから入力部34Iへと伝達されるのを抑制することができるようになっている。弾性要素34Eは、弾性を有する材料(例えばSUS304等のバネ鋼やアルミ合金A7075)で構成することができる。
【0030】
なお、アーム部30の各関節部には、弾性要素の捩り角を測定する捩り角センサが設けられている。例えば、図5及び図6に示すように、第四関節部34Jには、弾性要素34Eの捩り角を検出するための捩り角センサ34Sが設けられている。捩り角センサ34Sで検出した捩り角に関する情報は、アーム制御部に送出されて、駆動部34A(モータ)の駆動制御に使用される。
【0031】
さらに、アーム部30の各関節部には、把持部20によって対象物Tを把持した際に出力部(把持部20側)から入力部(本体部10側)へと伝達される外力を減衰させる減衰部が組み込まれている。例えば、図7に示すように、第四関節部34Jには出力部34Oから入力部34Iへと伝達される外力を減衰させる減衰部34Dが組み込まれている。減衰部34Dは、出力部34Oに設けられた凹部34R内に充填された粘弾性体34DVと、入力部34Iに固定されて粘弾性体34DV内に挿入されるレバー34DLと、を有し、粘弾性体34DVによってレバー34DLの動きを減衰させることにより、入力部34Iに対する出力部34Oの動きを減衰させるように構成されている。また、減衰部34Dの出力部34O側には、レバー34DLの移動領域を規制する規制部34DRが設けられている。本実施形態における規制部34DRは、図7に示すようにリング状の出力部34Oの内周側に二箇所設けられた平面視略コ字状を呈する部分であり、その内部には凹部34Rが形成されて粘弾性体34DVが充填されている。レバー34DLや規制部34DRは、弾性要素34Eと同様に弾性を有する材料(例えばSUS304等)で構成することができる。粘弾性体としては、例えばテフロン(登録商標)樹脂やシリコン樹脂等を採用することができる。
【0032】
<対象物捕獲方法>
次に、図1等を用いて、本実施形態に係る捕獲装置1を用いて対象物Tを捕獲する方法について説明する。
【0033】
まず、対象物Tに向けて捕獲装置1を移動させる。この際、捕獲装置1は、センサ11等によるセンシングを行いながら、対象物Tの探索を行う。対象物Tの探索手法は特に限定されるものではないが、例えば、捕獲装置1に取り付けた投光機から照射された光を、対象物Tの表面に取り付けられた複数のマーカーの表面で反射させ、その光をセンサ11によりとらえ、位置制御部がそれを認識すること等を経て実現させることができる。対象物Tの表面の複数のマーカーのパターンを認識することから得られる情報等により、対象物Tの相対位置及び相対姿勢を認識することで、捕獲装置1は、対象物Tに接近するように移動することができる。
【0034】
次いで、対象物Tと捕獲装置1との間の距離が所定値以下になった時点で、捕獲装置1のアーム制御部でアーム部30を駆動制御することにより、把持部20側を対象物Tの存在する位置(目標位置)へと近付けるようにアーム部30を進展させる。その後、捕獲装置1の把持制御部で把持部20を駆動制御することにより、把持部20で対象物Tを把持(捕獲)する。この際、アーム部30の各関節部(例えば第四関節部34J)に組み込まれた弾性機構により、把持部20によって対象物Tを把持(捕獲)した際に発生する衝撃的な荷重が把持側リンク部(例えば第四リンク部34L)から本体側リンク部(例えば第三リンク部33L)へと伝達されるのを抑制する。また、把持部20によって対象物Tを把持(捕獲)した際に、把持側リンク部(例えば第四リンク部34L)から本体側リンク部(例えば第三リンク部33L)へと伝達される外力を、減衰部(例えば減衰部34D)によって減衰させる。
【0035】
<作用効果>
以上説明した実施形態に係る捕獲装置1においては、本体部10に接続された本体側リンク部(例えば第三リンク部33L)と、把持部20に接続された把持側リンク部(例えば第四リンク部34L)と、を連結する関節部(例えば第四関節部34J)に、円弧状の弾性要素(例えば弾性要素34E)を有する弾性機構が組み込まれているため、把持部20によって対象物Tを把持(捕獲)した際に発生する衝撃的な荷重が把持側リンク部(出力部34O)から本体側リンク部(入力部34I)へと伝達されるのを抑制することができる。すなわち、緩衝効果を得ることができる。また、把持部20によって対象物Tを把持(捕獲)した際に、把持側リンク部(出力部34O)から本体側リンク部(入力部34I)へと伝達される外力(特に、弾性機構の弾性要素34Eによっては減衰しきれない外力)を、減衰部(例えば減衰部34D)によって減衰させることができる。従って、対象物Tと捕獲装置1との間での位置計測(姿勢計測)や位置合わせ(姿勢合わせ)がそれほど正確でない状態で対象物Tを捕獲することに起因して衝撃的な荷重が発生しても、そのような荷重を抑制しかつ減衰させることができる。この結果、対象物Tと捕獲装置1との間での高精度な位置計測(姿勢計測)や位置合わせ(姿勢合わせ)が不要となり、宇宙航行体の特に姿勢軌道制御系・推進系への要求の程度を低くすることができる(捕獲装置1の各軸において対象物Tに対する相対速度・相対角速度がある程度残る条件でも対象物Tを捕獲することができる)という利点がある。
【0036】
また、以上説明した実施形態に係る捕獲装置1においては、入力部34Iに固定されたレバー34DLが、出力部34Oに設けられた凹部34R内に充填された粘弾性体34DV内に挿入されており、粘弾性体34DVによってレバー34DLの動きを減衰させることにより、入力部34Iに対する出力部34Oの動き(出力部34Oに対する入力部34Iの動き)を減衰させることができる。
【0037】
また、以上説明した実施形態に係る捕獲装置1においては、入力部34Iに固定されたレバー34DLの移動領域を規制する規制部34DRが減衰部34Dの出力部34O側に設けられているため、出力部34Oに対する入力部34Iの移動領域を規制することができる。
【0038】
また、以上説明した実施形態に係る捕獲装置1においては、本体部10と把持部20とを連結するアーム部30が、センサ11による特定情報(把持部20及び対象物Tの位置及び/又は姿勢に関する情報)の取得を妨げないような態様、又は、センサ11による特定情報の取得が部分的に妨げられた場合においても位置制御部による位置合わせ及び姿勢合わせに影響を与えないような態様、で伸展及び折畳を行うことができる。従って、センサ11によって取得した特定情報に基づいた対象物Tに対する把持部20の位置合わせや姿勢合わせを確実に行うことができる。
【0039】
<変形例>
なお、本実施形態においては、図7に示すような2個一組の円弧状の弾性要素34Eを有する弾性機構を採用した例を示したが、弾性機構の構成はこれに限られるものではない。例えば図8に示すように、各弾性要素34Eの幅を広げ、これら幅広の弾性要素34Eの中央部分にスリット34ESを設けることもできる
【0040】
また、本実施形態においては、5つの関節部(31J、32J、33J、34J、35J)及び5本のリンク部(31L、32L、33L、34L、35L)を有するアーム部30を例示したが、アーム部30の構成はこれに限られるものではない。すなわち、アーム部30の関節部及びリンク部の個数や向きは、捕獲装置1の規模や仕様(対象物Tに対する残留速度や残留角速度等)を考慮して適宜設定することができる。また、本実施形態においては、全ての関節部に弾性機構及び減衰部を組み込んだ例を示したが、必ずしも全ての関節部に組み込まなくてもよく、衝撃的な荷重を抑制しかつ外力を減衰させる必要がある少なくとも一つの関節部に弾性機構及び減衰部が組み込まれていればよい。
【0041】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、この実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0042】
1…捕獲装置
10…本体部
11…センサ
12…表面
20…把持部
30…アーム部
33L…第三リンク部(本体側リンク部)
34A…駆動部
34D…減衰部
34DL…レバー
34DR…規制部
34DV…粘弾性体
34E…弾性要素
34I…入力部
34J…関節部
34L…第四リンク部(把持側リンク部)
34O…出力部
34R…凹部
T…対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8