(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123374
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240905BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240905BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240905BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
C08J5/18 CFD
C08L67/00
C08L33/04
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030719
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 頌
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
(72)【発明者】
【氏名】野田 百恵
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AB01
2H149BA02
2H149BA13
2H149CA02
2H149DA39
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2H149FA03W
2H149FA08X
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2H149FD06
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2H149FD30
2H149FD47
4F071AA33
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4J002CF03W
4J002CF18W
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】
複屈折率、紫外線透過率が低く透明性および靭性が良好な脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびアクリル樹脂組成物を含むフィルムを提供する。
【解決手段】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを含み、ヘイズが3%以下であり、フィルム重量に対する窒素(N)原子含有量(NA)が50ppm以上20000ppm以下であるフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを含み、ヘイズが3%以下であり、フィルム重量に対する窒素(N)原子含有量(NA)が50ppm以上20000ppm以下であるフィルム。
【請求項2】
380nmにおける光線透過率が30%以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aがポリ乳酸である請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
アクリル樹脂組成物Bがポリ(メタ)アクリレート系樹脂である請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bの重量比(WA:WB 単位:重量%)が、WA:WB=25:75~75:25である請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
アクリル樹脂組成物Bの重量比(WB)に対するN原子含有量の比(NA/WB)が5ppm以上350ppm以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
示査走査熱量計測定において試料を300℃で5分溶融後、30℃まで40℃/分で冷却し、30℃で5分保持した後、引き続き20℃/分で昇温した際(2nd Run)のガラス転移温度が1つである請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
厚みが10μm以上100μm以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
二軸延伸フィルムである請求項1に記載のフィルム。
【請求項10】
フィルムの耐折れ回数が100回以上である請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
100℃で30分処理後の熱収縮率が10%以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項12】
厚み方向位相差の絶対値が500nm以下である請求項1に記載のフィルム。
【請求項13】
請求項1に記載のフィルムを積層してなる偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物とアクリル樹脂組成物を用いたフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。これらのポリエステル樹脂において、特に近年、フラットパネルディスプレイやタッチパネル分野において偏光板保護フィルム(偏光子保護部材)や円偏光板位相差フィルム(円偏光板部材)、透明導電フィルムなど各種光学用フィルムの需要が高まっている。その中でも、偏光板保護フィルム用途では、低コスト化を目的として従来のTAC(トリアセチルセルロース)フィルムから二軸配向ポリエステルフィルムへの置き換えが盛んに検討されている。しかしながら二軸配向ポリエステルフィルムは延伸時のポリエステルの配向に起因する複屈折が発生し、液晶ディスプレイとして組み立てた際に発生する干渉色を十分に制御できておらず、画面表示をした際の品位が低下する。そのため、二軸配向ポリエステルフィルムおよびこれに用いるポリエステル樹脂は画面表示をした際の品位の観点からは、複屈折を低減することが好ましい。複屈折を低減する方法としては、延伸しないまたはわずかに延伸して結晶性や配向性を低下させる方法があるが、このような方法で結晶性を低下させたポリエステルは加熱工程において熱結晶化により白化するため透明性が不十分であり、配向性を低下させると加熱工程などでフィルム変形などが発生し、偏光子保護フィルムなどの低複屈折が必要とされる用途での適用は困難であった。
【0003】
これに対して、正負逆符号の複屈折を有する樹脂を複合化することにより、すなわち、正の複屈折を有するポリエステル樹脂に対して、負の複屈折を有する樹脂を複合化することにより、分子配向が凍結残留しても原理的に複屈折を低減可能であり、以下のような提案がなされている。
【0004】
特許文献1は、芳香族ポリエステルとスチレン系重合体とをブロック共重合化することによって、透明で低複屈折な成形物が得られることを開示している。
【0005】
特許文献2は、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂およびポリ乳酸系樹脂を配合することによって、透明で低複屈折なフィルムが得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-178119号公報
【特許文献2】特開2008-15408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、ブロック共重合体が相分離構造を形成するため、透明性が十分ではなく、光学用途の応用が困難であった。
【0008】
特許文献2では、紫外線透過率が高いために、ディスプレイ用途として用いた際に偏光子などの他の部材の劣化が生じやすいため、光学用途の応用が困難であった。
【0009】
以上のように、従来技術では、複屈折率、紫外線透過率が低く、透明性、機械特性を兼備した正の複屈折を有する樹脂と負の複屈折を有する樹脂からなる光学樹脂材料を得ることは困難であった。
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を克服して、脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびアクリル樹脂組成物を含む樹脂組成物からなる複屈折率、紫外線透過率が低く、透明性、靱性が良好であるフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく検討を行った結果、本発明により、複屈折率、紫外線透過率が低く、透明性および靭性が良好な脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびアクリル樹脂組成物を含むフィルムを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の目的は以下の手段によって達成される。
(1)脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを含み、ヘイズが3%以下であり、フィルム重量に対する窒素(N)原子含有量(NA)が50ppm以上20000ppm以下であるフィルム。
(2)380nmにおける光線透過率が30%以下である(1)に記載のフィルム。
(3)脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aがポリ乳酸である(1)に記載のフィルム。
(4)アクリル樹脂組成物Bがポリ(メタ)アクリレート系樹脂である(1)に記載のフィルム。
(5)脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bの重量比(WA:WB 単位:重量%)が、WA:WB=25:75~75:25である(1)に記載のフィルム。
(6)アクリル樹脂組成物Bの重量比(WB)に対するN原子含有量の比(NA/WB)が5ppm以上350ppm以下である(1)に記載のフィルム。
(7)示査走査熱量計測定において試料を300℃で5分溶融後、30℃まで40℃/分で冷却し、30℃で5分保持した後、引き続き20℃/分で昇温した際(2nd Run)のガラス転移温度が1つである(1)に記載のフィルム。
(8)厚みが10μm以上100μm以下である(1)に記載のフィルム。
(9)二軸延伸フィルムである(1)に記載のフィルム。
(10)フィルムの耐折れ回数が100回以上である(1)に記載のフィルム。
(11)100℃で30分処理後の熱収縮率が10%以下である(1)に記載のフィルム。
(12)厚み方向位相差の絶対値が500nm以下である(1)に記載のフィルム。
(13)(1)に記載のフィルムを積層してなる偏光板。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複屈折率、紫外線透過率が低く、透明性および靭性が良好な脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびアクリル樹脂組成物を含むフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のフィルムは、脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを含む必要がある。本発明のフィルムにおいて、正の複屈折率を有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aと負の複屈折率を有するアクリル樹脂組成物Bとを相溶化させることで、複屈折率を低減させ、透明性を向上することが可能となる。
【0016】
本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体などが挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリヒドロキシカプロン酸、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。脂肪族多価カルボン酸と脂肪族多価アルコールを主たる構成成分とする重合体としては、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、単独でも2種類以上を用いてもよい。これらの脂肪族ポリエステル樹脂組成物の中でも、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体が好ましく、特にポリ乳酸系樹脂組成物が好ましい。
【0017】
ポリ乳酸系樹脂組成物としては、L-乳酸および/またはD-乳酸を主たる構成成分とする樹脂組成物をいうが、本発明の目的を損なわない範囲で乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。共重合成分たるモノマー単位としては、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、などのラクトン類、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの多価カルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコールが挙げられる。上記の共重合成分の共重合量は、全モノマー単位に対して10モル%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5モル%以下である。
【0018】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができる。特にポリ乳酸系樹脂組成物については、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを採用することができる。
【0019】
本発明のアクリル樹脂組成物としては、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とする重合体であり、2種類以上の単量体を共重合して用いてもよい。アクリル樹脂を構成するアクリレートおよびメタクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、耐熱性の観点からメチルメタクリレートが好ましい。
【0020】
本発明のアクリル樹脂組成物の製造方法としては、既知の重合方法を用いることができ、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などを採用することができる。光学用途としては、微小な異物の混入は避けることが好ましく、この観点から懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
【0021】
本発明のフィルムにおける脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bの重量比(WA:WB 単位:重量%)は、WA:WB=25:75~75:25であることが好ましく、より好ましくはWA:WB=40:60~60:40である。WA:WBが好ましい範囲であると、より効果的に複屈折率を低減できるとともに、機械物性が良好となる。脂肪族ポリエステル樹脂組成物の比率が高くなると、比較的機械物性が良好となる傾向であり、一方アクリル樹脂組成物の比率が高くなると、比較的複屈折率の低減が大きくなる傾向である。
【0022】
本発明のフィルムは、フィルム重量に対する窒素(N)原子含有量(NA)が50ppm以上20000ppm以下である必要がある。より好ましくはNAが100ppm以上20000ppm以下であり、さらに好ましくはNAが500ppm以上20000以下である。N原子は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物やアクリル樹脂組成物に含有されていてもよく、紫外線吸収剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料などの添加剤に含有されていてもよい。特に紫外線透過率を低くする観点から、N原子は紫外線吸収剤に含有されていることが好ましい。
【0023】
本発明におけるN原子を含有する紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系やトリアジン系等が挙げられる。
【0024】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)]、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどが挙げられる。耐熱性の観点から、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)]が好ましい。
【0025】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-6-(2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、4,4',4''-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイルトリイミノ)トリス安息香酸トリス(2-エチルヘキシル)、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(4--ブトキシ-2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジンなどが挙げられる。紫外線透過率を低くする観点から、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジンが好ましい。
【0026】
紫外線吸収剤は単独でも2種類以上を用いてもよい。なかでも、320nm~400nmに極大吸収波長をもつ紫外線吸収剤が好ましい。380nmにおけるモル吸光係数が高いほど添加量は少なくなって好ましいが、400nm付近の吸収による着色も考慮して紫外線吸収剤を選択することが好ましい。
【0027】
本発明のフィルムにおいて、アクリル樹脂組成物Bに対するN原子含有量の比(NA/WB)は5ppm以上350ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは30ppm以上200ppm以下である。上記範囲を満たすことで、紫外線透過率を低くすることができる。
【0028】
本発明のフィルムは、酸化防止剤を含有していてもよい。酸化防止剤としては、種々の酸化防止剤を用いることができ、単一であっても、複数混合してもよい。
【0029】
具体的には、ホスファイト系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。ホスファイト系酸化防止剤としては、3,9-Bis(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenoxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane、3,9-Bis(Octadecyloxy)-2,4,8,10-tetraoxa-3,9-diphosphaspiro[5.5]undecane、2,2‘-Methylene-bis(4,6-di-tert-butylphenyl)phosphite、Tris(nonylphenyl)phosphite、Trisisodecyl phosphiteなどが挙げられるが、これに限定されない。また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、Pentaerythritol tetrakis[3-(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxyphenyl)propinate]、1,3,5-tris(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxybenzyl)-1,3,5-triazine-2,4,6(1H,3H,5H)-trione、4,4’,4”-(1-methylpropanyl-3-ylidene)tris(6-tert-butyl-m-cresol)など挙げられるが、これに限定されない。その中でも、溶融加工における樹脂組成物の分解や得られたフィルムの脆化抑制効果が高く、靭性が良好となることからホスファイト系酸化防止剤が特に好ましい。
【0030】
酸化防止剤の含有量は、フィルム重量に対し、0.01wt%以上5wt%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1wt%以上2wt%以下である。上記範囲を満たすことで、透明性を損なうことなく、靭性を良好とすることが可能となる。
【0031】
本発明のフィルムは、ヘイズが3%以下である必要がある。より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。ヘイズが小さいことで、透明性が良好なフィルムを提供することができる。
【0032】
本発明のフィルムは、380nmにおける光線透過率が30%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。光学用途とする場合、ヘイズが低く透明であると同時に紫外線吸収能を有する必要がある。特に可視光に近い300nm~380nmの紫外線を吸収することが好ましく、そのための指標が380nmにおける光線透過率が30%以下である。紫外線の透過率を低下させるには、紫外線吸収能を有する基を含むポリマーを含有する、紫外線吸収剤を添加するといった方法が有効である。紫外線吸収剤を添加する場合、着色やブリードアウトを抑えるために添加量はできるだけ少ないことが好ましく、380nmにおけるモル吸光係数が高い紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
【0033】
本発明のフィルムは、示差走査熱量測定において300℃で5分溶融後、30℃まで40℃/分で冷却し、30℃で5分保持した後、引き続き20℃/分で昇温した際(2nd Run)のガラス転移温度が1つ観察されることが好ましい。ガラス転移温度とは、示差走査熱量計を用いて測定した補外ガラス転移開始温度と補外ガラス転移終了温度の中間点の値を用いる。ガラス転移温度が1つ観察されることで、フィルム成形時における割れや欠けなどが少なく機械物性が良好となる。
【0034】
本発明のフィルムは、厚みが10μm以上100μm以下であることが好ましい。厚みが10μm未満では、フィルムとして十分な機械的強度を示さないことがある。また、厚みが100μmより厚くなると、フィルムの靭性が悪化する傾向がある。
【0035】
本発明のフィルムは、フィルムの耐折れ回数が100回以上であることが好ましい。フィルムの耐折れ回数は、JIS P8115に準拠したMIT試験機を用いた折り曲げ試験において、フィルムが折れるまでの折り曲げ回数で定義されるものである。上記下限以上とすることで、靭性が良好なフィルムを提供できるため好ましい。
【0036】
本発明のフィルムは、100℃で30分処理後の熱収縮率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。上記上限以下とすることで、成形加工時における寸法変化小さく好ましい。
【0037】
本発明のフィルムは、厚み方向位相差の絶対値が500nm以下であることが好ましく、より好ましくは300nm以下であり、さらに好ましくは200nm以下である。上記上限以下とすることで、例えば偏光子保護フィルムとして使用した際に偏光を乱すことなく、画質に優れたディスプレイを得ることができるため好ましい。
【0038】
本発明のフィルムは、位相差が低く、靭性、耐折れ性に優れていることから、PVA中にヨウ素を含有させて配向させて作成されたPVAシート(偏光子)と貼り合わせて偏光板として用いることが好ましい。
【0039】
次に、本発明のフィルムの製造方法について記載する。本発明のフィルムは、脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを含み、これらを混合したのちフィルム成形して得ることができる。
【0040】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aにアクリル樹脂組成物Bを混合する時期は、脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aの重合前、例えば、エステル化反応前に添加してもよいし、重合後に添加してもよい。また、押出機を用いて混合する方法、粉砕器で混合成分を粉末状に粉砕した後に混合する方法、両者を溶媒に溶解し共沈させることにより混合する方法、一方を溶媒に溶かして溶液状とした後に他方に混合する方法なども挙げられるが、この限りではない。その中でも、混錬機による混錬が、溶融押出後に直接フィルムへ成形でき、熱履歴が短く着色等が抑制される点で好ましい。
【0041】
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを混合する際に、紫外線吸収剤や酸化防止剤としての効果を有する化合物を添加してもよい。紫外線吸収剤や酸化防止剤としては、種々の紫外線吸収剤や酸化防止剤を用いることができ、単一であっても、複数混合してもよい。具体的な紫外線吸収剤や酸化防止剤の種類や含有量については、先に示したとおりである。
【0042】
本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bの製造方法としては、特に制限はなく、既知の重合方法を用いることができる。
【0043】
上記により得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aおよびアクリル樹脂組成物Bを含むフィルムは公知の成形加工方法でフィルムに成形することができる。
【0044】
また、フィルム成形する際に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば、顔料および染料を含む着色剤、滑剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、核剤、可塑剤、離型剤などの添加剤を1種以上添加することもできる。
【0045】
フィルムの製造方法は、装置・方法は特に限定されないが、例えば、上記により得られた脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aおよびアクリル樹脂組成物Bを、通常の押出機、Tダイにて溶融押出して膜状とし、次いで二軸延伸することによって所望の延伸フィルムを得ることができる。また、溶融押出時に2層またはそれ以上の層を設けることもできる。なお、上記積層フィルムとした場合、各物性や効果の評価は該当の層の樹脂組成物を削りだして実施する。
【0046】
本発明により製造されたフィルムは、複屈折率、紫外線透過率が低く、透明性および靭性に優れるため、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、自動車用部品、光学用部品、電気・電子部品またはその他の用途として有用であり、特に偏光板中の偏光子保護フィルムとして好適である。
【実施例0047】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0048】
(1)フィルム中の脂肪族ポリエステル樹脂組成物A、アクリル樹脂組成物Bの含有量(単位:重量%)
フィルム試料を重ヘキサフルオロイソプロパノール/重クロロホルム=1/1(体積比)混合溶媒に溶解し、H-NMR測定器にて1H-NMR観察し、各ピークを帰属し、その積分比から、脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aおよびアクリル樹脂組成物Bの含有量(重量%)を求めた。
【0049】
(2)脂肪族ポリエステル樹脂組成物A、アクリル樹脂組成物B、フィルムのガラス転移温度Tg(単位:℃)
JIS 7122(1987年)に準拠し、示差走査熱量計を用いて、窒素雰囲気中で3mgのフィルムを30℃から300℃まで20℃/minの条件で昇温した(1st Run)。次いで、300℃で5分保持した後、40℃/minの条件で30℃まで降温した。さらに、30℃で5分保持した後、30℃から300℃まで20℃/minの条件で昇温した(2nd Run)。この昇温時に得られるガラス転移温度を2nd Runのガラス転移温度として下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
ここで補外ガラス転移開始温度は、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とした。補外ガラス転移終了温度は、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とした。なお、装置は以下のものを用いた。
・装置:セイコーインスツル製 “EXSTAR DSC6220”。
【0050】
(3)フィルムのN原子含有量(NA 単位:ppm)
フィルムを裁断後、凍結粉砕し、室温で3時間減圧乾燥した。その後、ICP発光法にて定量を行った。
・装置:三菱化学(株)製 “ND-100型”
(4)フィルムの厚み
ダイヤルゲージを用い、JIS K7130(1992年)A-2法に準じて、フィルムを10枚重ねた状態で任意の5ヶ所について厚みを測定した。その平均値を10で除してフィルム厚みとした。
【0051】
(5)フィルムのヘイズ
JIS K7361-1に準じて、サンプルをフィルム幅中央から4cm×4cmで切り出し測定した。
・装置:日本電色工業(株)製 ヘーズメーター(NDH5000)
(6)フィルムの380nmにおける光線透過率
下記装置を用いて測定し、波長380nmにおける光線透過率を求めた。
【0052】
透過率(%)=(T1/T0)/100
ただし、T1は試料を通過した光の強度、T0は試料を通過しない以外は同一の距離の空気中を通過した光の強度である。
・装置:日立製作所(株)製 分光光度計(U-4100)。
【0053】
(7)未延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムの作成
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bを規定の配合比にてブレンドし、80℃で24時間真空乾燥した。その後、シリンダー温度を200℃とした二軸押出機に供給して溶融混練した。ダイから吐出されたガットを、10℃に温調した水を満たした冷却バス中を10秒間かけて通過させることにより急冷した後、ストランドカッターによりペレット化しチップ状の樹脂組成物を得た。
【0054】
チップ状の樹脂組成物を、80℃で24時間真空乾燥し、押出機に投入し、280℃で溶融押出し、フィルターを経て口金に移送した。次に口金から押出されたシート状の溶融物を静電印加により、表面温度25℃の冷却ドラム上に冷却固化させたシート状の未延伸フィルムを得た。
【0055】
さらに、得られた未延伸フィルムを延伸ロールにて、ガラス転移温度+5℃で縦方向(MD)に3.3倍延伸し、一軸延伸フィルムを得た。さらにこの一軸延伸フィルムをガラス転移温度+5℃の熱風雰囲気下で幅方向(TD)に3.3倍延伸して、二軸延伸フィルムを得た。なお、二軸延伸フィルムの厚みは30μm~50μmの間にあった。
【0056】
(8)フィルムの耐折れ回数
JIS P8115に準じて、フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ長さ(測定方向)110mm、幅15mmサイズに切り出したサンプルを荷重1000g、屈曲角度左右135°(R:+135°、L:-135°)、屈曲速度175回/分、チャック先端R:0.38mmで屈曲試験を行い、フィルムが破断されたときの屈曲回数をフィルムの耐折れ回数とした。なお、試験は長手方向と幅方向で各3回実施し、その平均値を採用した。
・装置:マイズ社製 試験機No.702。
【0057】
(9)フィルムの熱収縮率
フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ長さ150mm×幅10mmの矩形の切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔(中央部から両端に50mmの位置)で標線を描き、3gの錘を吊るして100℃に加熱した熱風オーブン内に30分設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から下記式(1)により熱収縮率を算出した。測定は長手方向と幅方向で各5回実施し、平均値を採用した。なお、標線間距離はNikon社製万能投影機(PROFILE PROJECTOR V16A)を用いて測定した。
【0058】
熱収縮率(%)={(加熱処理前の標線間距離)-(加熱処理後の標線間距離)}/(加熱処理前の標線間距離)×100 (1)。
【0059】
(10)フィルムの位相差
プリズムカプラにて長手方向の面内屈折率nMD、幅方向の面内屈折率nTD、厚み方向の屈折率nZDとして測定し、下記式(2)にて厚み方向の位相差を算出した。
【0060】
位相差={|(nMD-nTD)/2-nZD|}×(フィルム厚み) (2)
・装置:SAIRON TECHNOLOGY,INC.製 PRISM COUPLER & LOSS MEASUREMENT SPA-4000
・測定波長:632.8nm。
【0061】
(11)フィルムの靭性
上記(7)で作成した二軸延伸フィルムに対し、上記(8)の試験を行い、以下のように判断、「〇」または「△」であるときに靭性が良好であるとした。
【0062】
〇:耐折れ回数が150回以上
△:耐折れ回数が100回以上150未満
×:耐折れ回数が100回未満。
【0063】
(12)フィルムの透明性
上記(7)で作成した二軸延伸フィルムの外観を観察し、以下のように判断、「〇」または「△」のとき透明性が良好であるとした。
【0064】
〇:濁りなく透明である
△:わずかに濁りはあるが、透明である
×:不透明である。
【0065】
(13)フィルムの紫外線透過性
上記(7)で作成した二軸延伸フィルムに対し、上記(6)の試験を行い、以下のように判断、「〇」または「△」であるときに紫外線透過率が低く良好であるとした。
【0066】
〇:透過率が10%以下
△:透過率が10%より大きく30%以下
×:透過率が30%より大きい。
【0067】
(14)フィルムの複屈折性
上記(7)で作成した二軸延伸フィルムに対し、上記(10)の試験を行い、以下のように判断、「〇」または「△」であるときに複屈折性が低く良好であるとした。
【0068】
〇:位相差が200nm以下
△:位相差が200nmより大きく500nm以下
×:位相差が500nmより大きい
使用した樹脂・添加物は以下の通りである。
・脂肪族ポリエステル樹脂組成物A:PLA(Nature Works製4032D)
・アクリル樹脂組成物B:PMMA(旭化成製 DELPET 60N)
・添加物C:2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)]
・添加物D:2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン。
【0069】
(実施例1)
表1に記載の通り、脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物B、および添加物Cと添加物Dを記載の混合比にてブレンドし、上記(7)の方法で未延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムを得た。
【0070】
得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0071】
実施例1で得られたフィルムは、靭性、透明性、紫外線透過性および複屈折性は良好であった。
【0072】
(実施例2~5、比較例1~2)
脂肪族ポリエステル樹脂組成物Aとアクリル樹脂組成物Bの混合比を表1に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0073】
実施例2で得られたフィルムは、紫外線透過率が高い傾向があったが、靭性、透明性および複屈折性は良好であった。
【0074】
実施例3,4で得られたフィルムは、靭性、透明性、紫外線透過性、および複屈折性は良好であった。
【0075】
実施例5で得られたフィルムは、複屈折が高い傾向であったが、靭性、透明性、紫外線透過性は良好であった。
【0076】
比較例1で得られたフィルムは、複屈折が高かったが、靭性、透明性、紫外線透過性は良好であった。
【0077】
比較例2で得られたフィルムは、靭性が低く、紫外線透過率が高いものの、透明性と複屈折性は良好であった。
【0078】
【0079】
(実施例6~8、比較例3~4)
添加物Cと添加物Dの混合比を表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0080】
実施例6~8で得られたフィルムは、紫外線透過率が高い傾向があったが、靭性、透明性および複屈折性は良好であった。
【0081】
比較例3で得られたフィルムは、脆くてフィルム化が困難であり、フィルムに濁りが見られたが、紫外線透過性および複屈折性は良好であった。
【0082】
比較例4で得られたフィルムは、脆くてフィルム化が困難であり、フィルムが不透明であったが、紫外線透過性および複屈折性は良好であった。
【0083】
【0084】
(実施例9~12)
添加物Cと添加物Dの混合比を表3に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表3に示す。
【0085】
実施例9、10で得られたフィルムは、紫外線透過率が高い傾向があったが、靭性、透明性および複屈折性は良好であった。
【0086】
実施例11で得られたフィルムは、靭性、透明性、紫外線透過性および複屈折性は良好であった。
【0087】
実施例12で得られたフィルムは、靭性が低い傾向であり、フィルムに濁りが見られたが、透明性、紫外線透過性および複屈折性は良好であった。
【0088】
【0089】
(実施例13~16、比較例5)
添加物Cと添加物Dの混合比を表4に記載の通りに変更した以外は、実施例1と同様にフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表4に示す。
【0090】
実施例13、14で得られたフィルムは、靭性、透明性、紫外線透過率および複屈折性は良好であった。
【0091】
実施例15で得られたフィルムは、紫外線透過率が高い傾向があったが、靭性、透明性および複屈折性は良好であった。
【0092】
実施例16で得られたフィルムは、靭性、透明性、紫外線透過率および複屈折性は良好であった。
【0093】
比較例5で得られたフィルムは、紫外線透過率が高かったが、靭性、透明性および複屈折性は良好であった。
【0094】