(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123386
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】環状穿孔工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/04 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
B23B51/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030739
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】392002343
【氏名又は名称】ユニカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 興
(72)【発明者】
【氏名】大越 久誉
(72)【発明者】
【氏名】松本 鴻佑
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037AA05
3C037DD01
(57)【要約】
【課題】被削材を切削する際に発生する切り屑を良好に排出する。
【解決手段】円筒状の本体部32の先端側の端部に、本体部32の周方向において切刃35と隣接する第1フルート34と、本体部32の周方向において相互に隣り合う切刃35どうしの間に切刃35と離隔する第2フルート37と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部の先端側の端部に、
前記本体部の周方向において切刃と隣接する第1フルートと、
前記本体部の前記周方向において相互に隣り合う前記切刃どうしの間に前記切刃と離隔する少なくとも1個の第2フルートと、を有する、
ことを特徴とする環状穿孔工具。
【請求項2】
前記第2フルートが、前記本体部の内周又は外周の研削と、前記本体部の内周面又は外周面へのランドの追加と、前記本体部の変形と、のうちのいずれかにより成形されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の環状穿孔工具。
【請求項3】
前記第2フルートの後側の境界が、前記本体部の軸心方向に対して後方へと傾斜する、
ことを特徴とする請求項1に記載の環状穿孔工具。
【請求項4】
前記第2フルートが、当該第2フルートの前方の前記切刃よりも後方の前記切刃に近い位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の環状穿孔工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状穿孔工具に関する。
【背景技術】
【0002】
板材等を穿孔する際に用いられる従来の技術として、軸線方向に延び、回転駆動部に接続されるシャフト部と、シャフト部から先端側に延長する筒状の刃先保持部と、刃先保持部の先端面に、周方向に間隔をおいて設けられた刃先部と、を備える環状ドリルが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の環状ドリルなどの切削工具を使用して被削材に対して穿孔を行うと切り屑が発生する。このため、穿孔を行ううえで、被削材を削って切削する機能と、発生した切り屑を排除、排出する機能とが必要とされる。どちらかの機能が不良の場合には穿孔の効率が低減する、という問題がある。
【0005】
そこで本発明は、1つの側面では、被削材を切削する際に発生する切り屑を良好に排出することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る環状穿孔工具は、円筒状の本体部の先端側の端部に、前記本体部の周方向において切刃と隣接する第1フルートと、前記本体部の前記周方向において相互に隣り合う前記切刃どうしの間に前記切刃と離隔する少なくとも1個の第2フルートと、を有する、ようにしてもよい。
【0007】
本発明に係る環状穿孔工具は、前記第2フルートが、前記本体部の内周又は外周の研削と、前記本体部の内周面又は外周面へのランドの追加と、前記本体部の変形と、のうちのいずれかにより成形されている、ようにしてもよい。
【0008】
本発明に係る環状穿孔工具は、前記第2フルートの後側の境界が、前記本体部の軸心方向に対して後方へと傾斜する、ようにしてもよい。
【0009】
本発明に係る環状穿孔工具は、前記第2フルートが、当該第2フルートの前方の前記切刃よりも後方の前記切刃に近い位置に設けられている、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1つの側面では、被削材を切削する際に発生する切り屑を良好に排出することが可能となり、延いては、切削作業の効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態の例に係る環状穿孔工具の側面図(一部切欠き断面図)である。
【
図2】
図1の環状穿孔工具のヘッド部の先端面図である。
【
図3】本発明の実施の形態の他の例に係る環状穿孔工具の側面図(一部切欠き断面図)である。
【
図4】
図3の環状穿孔工具のヘッド部の先端面図である。
【
図5】
図3の環状穿孔工具のヘッド部の側面図(一部切欠き断面図)である。
【
図6】検証例1における実施例1及び比較例を説明する図である。(A)は実施例1のヘッド部の本体部の側面斜視図である。(B)は実施例1による被削材の穿孔時における切り屑の排出の状況を示す側面斜視図である。(C)は比較例のヘッド部の本体部の側面斜視図である。(D)は比較例による被削材の穿孔時における切り屑の排出の状況を示す側面斜視図である。
【
図7】検証例2における実施例2乃至実施例4の第1フルートと切刃との組合せと第2フルートとの位置関係、距離関係を説明する図である。(A)は実施例2のヘッド部の本体部の拡大側面図である。(B)は実施例3のヘッド部の本体部の拡大側面図である。(C)及び(D)は実施例4のヘッド部の本体部の拡大側面図である。
【
図8】検証例2における実施例2乃至実施例4による被削材の穿孔時における切り屑の排出の状況を示す側面斜視図である。(A)は実施例2の状況を示す側面斜視図である。(B)は実施例3の状況を示す側面斜視図である。(C)は実施例4の状況を示す側面斜視図である。
【
図9】本発明に係る環状穿孔工具の他の例1のヘッド部の先端面図である。
【
図10】本発明に係る環状穿孔工具の他の例2のヘッド部の先端面図である。
【
図11】本発明に係る環状穿孔工具の他の例3のヘッド部の先端面図である。
【
図12】本発明に係る環状穿孔工具の他の例4のヘッド部の先端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
(全体構成)
図1及び
図2並びに
図3及び
図4は、本発明に係る環状穿孔工具の具体的な構成態様の例としての、実施の形態に係る環状穿孔工具1の構成を示す図である。なお、
図1及び
図2は環状穿孔工具1(特に、本体部32)の外径が小径(あくまで一例として挙げると、外径寸法Sが60mm未満)の場合の例であり、
図3及び
図4は環状穿孔工具1(特に、本体部32)の外径が大径(あくまで一例として挙げると、外径寸法Sが60mm以上)の場合の例である。
【0014】
環状穿孔工具1は、例えば、回転シャフトを有する電動工具や工作機械などの電動駆動装置(図示していない)にシャンク(図示していない)を介して装着されて、穿孔や切除などの切削加工を行う工具として用いられる。なお、シャンクは、電動駆動装置の回転シャフトに固定され、回転シャフトの回転駆動力を環状穿孔工具1へと伝達する。すなわち、環状穿孔工具1は、例えば、電動駆動装置の回転シャフトの回転駆動力によって被削材を環状に切削して穿孔する。
【0015】
本発明の説明では、環状穿孔工具1を構成する各要素において、シャンクを介して電動駆動装置の回転シャフトに連結される側を基端側とするとともに、基端側とは反対の側の、被削材に当接される側を先端側とする。また、切削加工を行う際の環状穿孔工具1の回転の向き(図中の矢印Rの向き)を基準として、前・後の向き、方向を定義する。
【0016】
環状穿孔工具1は、少なくとも切刃とフルートとを含むヘッド部3を有する。
【0017】
環状穿孔工具1は、図示を省略している基端側の端部が、例えば、必要に応じてアダプタなどを介したうえで、シャンクの先端部に着脱可能に固定されて、当該シャンクを介して電動駆動装置の回転シャフトに連結される。
【0018】
(ヘッド部の構成)
実施の形態に係る環状穿孔工具1は、円筒状の本体部32の先端側の端部に、本体部32の周方向において切刃35と隣接する第1フルート34と、本体部32の周方向において相互に隣り合う切刃35どうしの間に切刃35と離隔する第2フルート37と、を有する、ようにしている。
【0019】
実施の形態に係る環状穿孔工具1の先端側の部分としてのヘッド部3は、円筒状の本体部32と、本体部32の先端側の端部に設けられる外周凸部33と、第1フルート34と、切刃35と、を有する。
【0020】
円筒状の本体部32の先端側の端部周縁に、当該本体部32の外周面から当該本体部32の径方向外方へと突出する外周凸部33が設けられているとともに、この外周凸部33を分断するように第1フルート34が設けられている。すなわち、本体部32の先端側の端部周縁に、当該本体部32の周方向において外周凸部33に挟まれて第1フルート34が設けられている。
【0021】
第1フルート34は、被削材を切削する際に発生する切り屑を排出するための排出溝である。第1フルート34は、例えば、外周凸部33に対する歯切り加工などの研削によって成形されるようにしてもよく、或いは、本体部32の外周面にランド(別言すると、壁面)を追加することによって形成されるようにしてもよい。
【0022】
外周凸部33の、第1フルート34と隣接する前端に切刃35が取り付けられている。すなわち、切刃35と、当該切刃35の前方の第1フルート34とは、周方向において相互に隣接する一組の形状、構造(言い換えると、一組の構成)として併設されている。
【0023】
切刃35としては、例えば、超硬合金や砥石材が用いられる。切刃35は、例えば、チップ状に形成され、銀ろうのコイル加熱方式などによってろう付けされて、外周凸部33の、第1フルート34と隣接する前端に対して接合されて取り付けられている。
【0024】
第1フルート34と切刃35との組合せの個数は、特定の個数に限定されるものではなく、例えば、環状穿孔工具1(特に、本体部32)の外径寸法S(延いては、本体部32の外周方向に沿う寸法)、切削対象とする部材の材質、また、環状穿孔工具1が装着される電動駆動装置の仕様、性能が考慮されるなどしたうえで、適当な個数に適宜設定される。
【0025】
切刃35の前方に隣接してギャッシュ36が設けられている。ギャッシュ36は第1フルート34が設けられている部分に設けられ、切刃35と、当該切刃35の前方のギャッシュ36とは、周方向において相互に隣接する一組の形状、構造(言い換えると、一組の構成)として併設されている。ギャッシュ36は、本体部32の径方向において当該本体部32の先端側の縁部を貫通して切り欠き状に形成されている。なお、図に示す例におけるギャッシュ36はあくまでも一例であり、ギャッシュは、例えば、本体部32の先端側の縁部を貫通することなく凹部として形成されてもよく、また、設けられなくてもよい。
【0026】
(第2フルートの構成)
切刃35による被削材の切削時において、切刃35の箇所で発生した切り屑が第1フルート34を介して適切に排出されなかったり、切刃35の後方で切り屑が生成されたりする場合がある。これらの、第1フルート34から排出されなかった切り屑や切刃35の後方で生成された切り屑は、周方向における次の(言い換えると、後方の)切刃35と隣接する第1フルート34まで排出されず、本体部32の先端側の端部において切刃35どうしの間に滞留する。このため、本体部32の先端側の端部での切り屑の挟み込みが生じ、これによって切刃35の切込みが阻害されることにより、切削効率が悪化したり穿孔速度が低下したりする。
【0027】
また、排出されない切り屑(言い換えると、滞留する切り屑)との摩擦で生じる発熱により、被削材や環状穿孔工具1(特に、本体部32)が損傷する可能性がある。発熱による被削材や環状穿孔工具1(特に、本体部32)の損傷を防ぐためには、切削作業を中断しながらの切り屑の除去や環状穿孔工具1の回転数の低減などの発熱を抑制するための措置や、冷却機能を追加するなどの過熱に対応するための措置を行う必要がある。しかしながら、このような措置を行うと、切削作業の効率が大きく低下する。
【0028】
そこで、本発明の実施の形態に係る環状穿孔工具1は、外周凸部33に、当該外周凸部33を分断するように第2フルート37が設けられている。第2フルート37は、主に、被削材を切削する際に発生する切り屑のうち第1フルート34から排出されなかった切り屑や切刃35の後方で生成された切り屑を排出するための排出溝である。
【0029】
第2フルート37は、円筒状の本体部32の先端側の端部周縁の、当該本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間に、外周凸部33を分断するように設けられる。
【0030】
すなわち、第1フルート34は、本体部32の周方向において切刃35と隣接して(具体的には、切刃35の前方に隣接して)設けられる排出溝である。一方、第2フルート37は、切刃35と隣接することなく、切刃35と離隔して設けられる排出溝である。
【0031】
第2フルート37は、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間の、すべてに対して設けられるようにしてもよく、或いは、一部のみに対して設けられるようにしてもよい。第2フルート37は、また、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間1つあたり、1個設けられるようにしてもよく、或いは、複数個設けられるようにしてもよい。すなわち、第2フルート37は少なくとも1個設けられ、そして、第2フルート37の個数は、第1フルート34と切刃35との組合せの個数と比べて、同じでもよく、少なくてもよく、又は多くてもよい。
【0032】
第2フルート37は、例えば、外周凸部33に対する歯切り加工などの研削によって成形されるようにしてもよく、或いは、本体部32の外周面にランド(別言すると、壁面)を追加することによって形成されるようにしてもよい。なお、第1フルート34を成形(形成)する際の加工手法と第2フルート37を成形(形成)する際の加工手法とは、異なってもよいものの、第1フルート34及び第2フルート37の成形(形成)の簡素化、効率化が図られたり加工コストの低廉化が図られたりし得る点において同じとすることが好ましい。
【0033】
第2フルート37は、また、円筒状の本体部32の外周(別言すると、外径側)に成形(形成)されて設けられるようにしてもよく、または、円筒状の本体部32の内周(別言すると、内径側)に成形(形成)されて設けられるようにしてもよく、或いは、円筒状の本体部32の外周及び内周に成形(形成)されて設けられるようにしてもよい。第2フルート37が円筒状の本体部32の内周(内径側)に成形(形成)される場合には、例えば、本体部32の内周面側から外周凸部33へと向けて研削されて(但し、外周凸部33を貫通しないように、したがってこの場合には外周凸部33は完全には分断されない)溝が成形(形成)されるようにしてよい。
【0034】
第2フルート37としての溝の後側の境界Lbの方向(言い換えると、外周凸部33を分断する第2フルート37の後側の境界Lbの方向)は、環状穿孔工具1(具体的には、ヘッド部3)の基端側から先端側へと向かう方向(即ち、円筒状の本体部32の軸心方向A)に対して、基端側が先端側に対して後方に位置するように傾斜することが好ましい(
図5参照)。第2フルート37の後側の境界Lbが本体部32の軸心方向Aに対して後方へと傾斜する態様とされることにより、第2フルート37の後側の境界Lbが本体部32の軸心方向Aに沿う態様や本体部32の軸心方向Aに対して前方へと傾斜する態様と比べて、被削材を切削する際に発生する切り屑が一層良好に排出される。
【0035】
本体部32の軸心方向Aに対する第2フルート37の後側の境界Lbの傾斜角度θは、特定の値には限定されないものの、後側の境界Lbのうちの少なくとも一部について、後方へ0°以上90°未満であることが好ましい。なお、図に示す例では第2フルート37の前側の境界Lfと後側の境界Lbとは相互に平行であるようにしているが、第2フルート37の前側の境界Lfと後側の境界Lbとは、本体部32の軸心方向Aに対する傾斜角度が相互に異なるようにしてもよい。また、第2フルート37の前側の境界Lfは、前方へ傾斜するようにしてもよい。この場合、第2フルート37は扇形となり、切り屑が排出される開口幅を大きくすることができる。
【0036】
(検証例1)
この検証例は、第2フルート37の有無の違いによる切削性能(具体的には、穿孔性能)の差異を検証することを目的として行われた。
【0037】
この検証例では、ヘッド部3の本体部32の先端側の端部周縁に第1フルート34に加えて外周凸部33を分断するよう第2フルート37が設けられている実施例1(
図6(A)参照)と、ヘッド部3の本体部32の先端側の端部周縁に第1フルート34のみが設けられている比較例(同図(C)参照)とが用いられて被削材の穿孔が行われ、実施例1と比較例との各々について被削材を貫通するための所要時間の計測などが行われた。
【0038】
実施例1と比較例とのどちらも、環状穿孔工具1(特に、本体部32)の外径寸法Sは65mmとされるとともに第1フルート34と切刃35との組合せの個数は8個とされた。実施例1については、第2フルート37の個数も8個とされた(
図3乃至
図5参照)。そして、実施例1と比較例とは、第2フルート37の有無のほかは同じ仕様とされた。
【0039】
実施例1と比較例とのどちらも、環状穿孔工具1は、電動駆動装置としての電気ドリル(消費電力800W程度)に装着された。また、被削材として木材(厚さ40mm程度)が用いられた。
【0040】
実施例1と比較例との各々について5回ずつ被削材の穿孔が行われ、被削材を貫通するための所要時間が計測されて、下掲の表1に示す結果が得られた。
【0041】
【0042】
表1に示す結果から、実施例1は、比較例と比べて、被削材を貫通するための所要時間が平均で約25%短縮されることが確認された。実施例1と比較例とは第2フルート37の有無のほかは同じ仕様であって差違はないので、被削材を貫通するための所要時間の差は第2フルート37が設けられていることによって生じたと考えられ、第2フルート37が設けられることによって環状穿孔工具1としての切削性能(具体的には、穿孔性能)が向上することが確認された。
【0043】
また、被削材の穿孔時における切り屑の排出の状況が観察されて、実施例1について
図6(B)に示す状況が観察され、比較例について同図(D)に示す状況が観察された。
【0044】
図6(B)、(D)に示す状況のように、実施例1は、比較例と比べて、穿孔時における切り屑の排出量が目視で1.5倍以上多いことが確認された。実施例1と比較例とは第2フルート37の有無のほかは同じ仕様であって差違はないので、穿孔時における切り屑の排出量の差は第2フルート37が設けられていることによって生じたと考えられ、第2フルート37が設けられることによって被削材を切削する際に発生する切り屑が良好に排出されることが確認された。
【0045】
切削時間が長かったり切り屑が適切に排出されなかったりする場合には、穿孔時における切削抵抗や切り屑との摩擦で生じる発熱によって被削材に損傷(具体的には例えば、焼け焦げ)が生じる場合がある。これに対して、実施例1によれば、被削材を貫通するための所要時間が短縮されるとともに被削材を切削する際に発生する切り屑が良好に排出されることにより、発熱が低減、抑制されるので、被削材の損傷が抑制され得ることが確認された。
【0046】
(検証例2)
この検証例は、第1フルート34と切刃35との組合せと第2フルート37との位置関係、距離関係の違いによる切削性能(具体的には、穿孔性能)の差異を検証することを目的として行われた。
【0047】
この検証例では、下記の実施例2乃至実施例4が用いられて被削材の穿孔が行われ、実施例2乃至実施例4の各々について被削材を貫通するための所要時間の計測などが行われた。
【0048】
実施例2乃至実施例4のいずれも、環状穿孔工具1(特に、本体部32)の外径寸法Sは95mmとされるとともに第1フルート34と切刃35との組合せ(「第1フルート・切刃の組合せ34・35」と表記する)並びに第2フルート37の個数は8個とされた。そして、実施例2乃至実施例4は、第1フルート・切刃の組合せ34・35と第2フルート37との位置関係、距離関係のほかは同じ仕様とされた。
【0049】
〈実施例2〉
本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート・切刃の組合せ34・35どうしの間の概ね中間位置(別言すると、中央位置)に第2フルート37が設けられる(
図7(A)参照)。
【0050】
〈実施例3〉
第1フルート・切刃の組合せ34・35の後方の、当該第1フルート・切刃の組合せ34・35寄りの位置に第2フルート37が設けられる(
図7(B)参照)。実施例3では、第2フルート37と当該の第2フルート37の前方の第1フルート・切刃の組合せ34・35との間の寸法は第2フルート37の幅と同等程度とされた。
【0051】
〈実施例4〉
第1フルート・切刃の組合せ34・35の前方の、当該第1フルート・切刃の組合せ34・35寄りの位置に第2フルート37が設けられる(
図7(C)参照)。実施例4では、第2フルート37と当該の第2フルート37の後方の第1フルート・切刃の組合せ34・35との間の寸法は第2フルート37の幅と同等程度とされた。実施例4では、また、第2フルート37と当該の第2フルート37の前方の第1フルート・切刃の組合せ34・35との間の寸法は、当該の第2フルート37と当該の第2フルート37の後方の第1フルート・切刃の組合せ34・35との間の寸法の約4倍となった(
図7(D)参照)。
【0052】
実施例2乃至実施例4のいずれも、環状穿孔工具1は、電動駆動装置としての電気ドリル(消費電力800W程度)に装着された。また、被削材として木材(厚さ40mm程度)が用いられた。
【0053】
実施例2乃至実施例4の各々について2回ずつ被削材の穿孔が行われ、被削材を貫通するための所要時間が計測されて、下掲の表2に示す結果が得られた。下掲の表2では、実施例2の所要時間を1としたときの、実施例3及び実施例4の所要時間の比率が整理されている。
【0054】
【0055】
表2に示す結果から、実施例3及び実施例4は、実施例2と比べて、被削材を貫通するための所要時間が短縮されることが確認された。この結果から、第2フルート37は、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート・切刃の組合せ34・35どうしの間の概ね中間位置(別言すると、中央位置)に設けられるよりも、第1フルート・切刃の組合せ34・35の前方若しくは後方の、当該第1フルート・切刃の組合せ34・35寄りの位置に設けられるほうが好ましい(特に、被削材を貫通するための所要時間の短縮効果が一層大きい。言い換えると、穿孔速度が一層速い)ことが確認された。
【0056】
また、被削材の穿孔時における切り屑の排出の状況が観察されて、実施例2について
図8(A)に示す状況が観察され、実施例3について同図(B)に示す状況が観察され、実施例4について同図(C)に示す状況が観察された。
【0057】
図8(A)に示す状況のように、実施例2は、実施例3及び実施例4と比べて、穿孔時における切り屑の排出量が少なく、また、切り屑の大きさが中程度であることが確認された。実施例2は、また、穿孔中に切粉が飛び散り、穿孔後に被削材の上面に切粉が残らないことが確認された。
【0058】
また、
図8(B)に示す状況のように、実施例3は、実施例2及び実施例4と比べて、穿孔時における切り屑の排出量が多く、また、切り屑の大きさが大きいことが確認された。実施例3は、また、穿孔の初期における切粉のはけが良好であり、穿孔中に被削材の上面に切粉が上がってくることが確認された。実施例3は、また、穿孔中の引っ掛かりはあるものの、被削材に食いついて切り進むことが確認された。
【0059】
また、
図8(C)に示す状況のように、実施例4は、実施例2及び実施例3と比べて、穿孔時における切り屑の排出量が中程度であり、また、切り屑の大きさが小さいことが確認された。実施例4は、また、穿孔の初期における切粉のはけが良好であることが確認された。そして、切粉のはけが良好であるとともに切り屑の大きさが小さいために、穿孔速度が速いと考えられた。実施例4は、さらに、実施例2及び実施例3と比べて、回転が止まりづらくスムーズであり、穿孔中の引っ掛かりが少なく、使用時の快適性が最も高いことが確認された。
【0060】
表2に示す結果や
図8に示す状況(使用時の快適性を含む)から、第2フルート37は、当該の第2フルート37からみて前方の第1フルート・切刃の組合せ34・35よりも後方の第1フルート・切刃の組合せ34・35に近い位置に設けられること(即ち、実施例4の態様)が好ましいことが確認された。
【0061】
(他の例)
図9乃至
図12は、本発明に係る環状穿孔工具の具体的な構成態様の他の例1~4のヘッド部の先端面図である。
【0062】
他の例1は、
図9に示すように、第2フルート37が、本体部32の外周凸部33を分断するように、且つ、本体部32の径方向において当該本体部32の先端側の端部を貫通して切り欠き状に成形されている。
【0063】
他の例2は、
図10に示すように、第2フルート37が、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間それぞれに2個ずつ設けられている。なお、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間それぞれに、第2フルート37が3個以上ずつ設けられるようにしてもよい。
【0064】
他の例3は、
図11に示すように、第2フルート37が、円筒状の本体部32の内周(別言すると、内径側)に成形されて設けられている。
図11に示す例では、本体部32の外周面から当該本体部32の径方向外方へと突出する外周凸部33が設けられ、本体部32の内径側から当該本体部32の先端側の端部を貫通するとともに外周凸部33が研削されることにより、第2フルート37が成形される。
【0065】
他の例4は、
図12に示すように、第2フルート37が、もとは円筒状の本体部32が波状に塑性変形させられることによって成形されている。
図12に示す例では、もとは円筒状の本体部32が波状に塑性変形させられることにより、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間に、本体部32の径方向外方へと凸む山どうしの間の谷が成形され、当該谷の部分が第2フルート37として機能する。
図12に示す例では、本体部32の外周側(別言すると、外径側)と内周側(別言すると、内径側)とで山と谷とが裏返しの関係になっており、本体部32の周方向において相互に隣り合う第1フルート34と切刃35との組合せどうしの間それぞれに、第2フルート37が、本体部32の外周側(外径側)に2個ずつ設けられているとともに、本体部32の内周側(内径側)に2個ずつ設けられている。なお、
図12に示す例では、外周凸部33は設けられていない。
【0066】
(作用効果)
実施の形態に係る環状穿孔工具1によれば、円筒状の本体部32の先端側の端部に、本体部32の周方向において切刃35と隣接する排出溝としての第1フルート34に加えて本体部32の周方向において相互に隣り合う切刃35どうしの間に切刃35と離隔する(言い換えると、隣接しない)排出溝としての第2フルート37が設けられるようにしているので、被削材を切削する際に発生する切り屑のうち本体部32の先端側の端部において切刃35どうしの間に滞留していた切り屑も良好に排出することができ、切削作業中、安定した切削性能を継続して確保することが可能となり、また、切削を阻害する要因を排除することができ、切削作業の効率を向上させることが可能となる。実施の形態に係る環状穿孔工具1は、また、例えば第1フルート34を成形(形成)する際の加工手法と同様の加工手法によって排出溝としての第2フルート37を成形(形成)することにより、切り屑を良好に排出する効果が得られるので、比較的容易に設置して、そして、安価な製造工程により、実現することが可能である。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の具体的な構成態様は上記の実施の形態に限定されるものではなく、上記の実施の形態に、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変形や変更などが加えられた形態も本発明に含まれる。
【0068】
例えば、第1フルート34、切刃35、及びギャッシュ36の態様は図に示す例の態様には限定されない。すなわち、本発明の要点は本体部32の周方向において相互に隣り合う切刃35どうしの間に切刃35と離隔する第2フルート37を少なくとも1個有する点であり、その他の構造は特定の態様には限定されない。
【符号の説明】
【0069】
1 環状穿孔工具
3 ヘッド部
32 本体部
33 外周凸部
34 第1フルート
35 切刃
36 ギャッシュ
37 第2フルート