(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123392
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】サスペンションアーム
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
B60G7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030759
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簑手 徹
(72)【発明者】
【氏名】達川 昂至
(72)【発明者】
【氏名】石渡 亮伸
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA69
3D301AA83
3D301DA90
3D301DB01
3D301DB13
(57)【要約】
【課題】重量増加を抑えつつブッシュ保持力を向上させることができるサスペンションアームを提供すること。
【解決手段】本発明のサスペンションアームは、アーム本体と、アーム本体の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、を備えたサスペンションアームであって、ブッシュ圧入部は、板状部に形成された貫通孔と貫通孔の周縁から立ち上がって形成された縦壁部とを有し、縦壁部の先端側に縦壁部の剛性を高める形状を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーム本体と、
前記アーム本体の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、
を備えたサスペンションアームであって、
前記ブッシュ圧入部は、板状部に形成された貫通孔と前記貫通孔の周縁から立ち上がって形成された縦壁部とを有し、
前記縦壁部の先端側に前記縦壁部の剛性を高める形状を有することを特徴とするサスペンションアーム。
【請求項2】
前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記縦壁部の先端から前記貫通孔の軸線方向と直交する径方向で外側に向かって円弧状に湾曲して拡がる湾曲部を含むことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項3】
前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記湾曲部の先端から直線状に延びて形成された直線部を含むことを特徴とする請求項2に記載のサスペンションアーム。
【請求項4】
前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記縦壁部の先端から前記貫通孔の軸線方向と直交する径方向で外側に向かって折り返された折り返し部を含むことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションアーム。
【請求項5】
前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記折り返し部の先端から直線状に延びて形成された直線部を含むことを特徴とする請求項4に記載のサスペンションアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンションアームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を目的として、高張力鋼の活用による自動車骨格部品の薄肉化が進められてきた。しかしながら、自動車の足回り部品であるサスペンションアームを薄肉化すると、サスペンションアームのブッシュ圧入部の剛性が低下して、サスペンションアームのブッシュ保持力が低下する。特許文献1には、サスペンションアームに別の部材を取り付けて、サスペンションアームの剛性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、部品点数が増加し、重量増やコストアップが避けられない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、重量増加を抑えつつブッシュ保持力を向上させることができるサスペンションアームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るサスペンションアームは、アーム本体と、前記アーム本体の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部と、を備えたサスペンションアームであって、前記ブッシュ圧入部は、板状部に形成された貫通孔と前記貫通孔の周縁から立ち上がって形成された縦壁部とを有し、前記縦壁部の先端側に前記縦壁部の剛性を高める形状を有することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明に係るサスペンションアームは、上記の発明において、前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記縦壁部の先端から前記貫通孔の軸線方向と直交する径方向で外側に向かって円弧状に湾曲して拡がる湾曲部を含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係るサスペンションアームの構造は、上記の発明において、前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記湾曲部の先端から直線状に延びて形成された直線部を含むことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係るサスペンションアームの構造は、上記の発明において、前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記縦壁部の先端から前記貫通孔の軸線方向と直交する径方向で外側に向かって折り返された折り返し部を含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るサスペンションアームの構造は、上記の発明において、前記縦壁部の剛性を高める形状に、前記折り返し部の先端から直線状に延びて形成された直線部を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るサスペンションアームは、重量増加を抑えつつブッシュ保持力を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るサスペンションアームの概略構成を示した図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図3】
図3は、参考例に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態3に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態4に係るブッシュ圧入部の断面図である。
【
図7】
図7(a)は、本発明例1に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した平面図である。
図7(b)は、本発明例1に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した断面図である。
【
図8】
図8(a)は、比較例に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した平面図である。
図8(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した断面図である。
【
図9】
図9(a)は、ブッシュのCAE解析モデルを示した平面図である。
図9(b)は、ブッシュのCAE解析モデルを示した側面図である。
【
図10】
図10は、ブッシュ圧入部にブッシュを圧入した状態のCAE解析モデルを示した図である。
【
図11】
図11は、ブッシュ引抜時におけるブッシュ引抜力の変化を示したグラフである。
【
図12】
図12(a)は、本発明例1に係るブッシュ圧入部において面圧計算を実施した縦壁部内の位置の範囲を示した図である。
図12(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部において面圧計算を実施した縦壁部内の位置の範囲を示した図である。
【
図13】
図13は、縦壁部内における面圧分布を示したグラフである。
【
図14】
図14は、本発明例2に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した断面図である。
【
図15】
図15は、本発明例3に係るブッシュ圧入部のCAE解析モデルを示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの実施形態1について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、実施形態1に係るサスペンションアーム1の概略構成を示した図である。
【0015】
図1に示すように、実施形態1に係るサスペンションアーム1は、アーム本体10と、アーム本体10の端部に設けられブッシュが圧入されるブッシュ圧入部2と、を備えている。
【0016】
図2は、実施形態1に係るブッシュ圧入部2の断面図である。なお、
図2に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図1中のA-A断面に相当する。
【0017】
実施形態1に係るブッシュ圧入部2は、板状部である天板部21に形成された貫通孔20と、貫通孔20の周縁から貫通孔20の軸線方向に立ち上がって形成された縦壁部23とを有している。なお、以下の説明において貫通孔20の軸線方向のことを単に軸線方向とも記す。縦壁部23は、バーリング加工によって円筒状に形成されている。天板部21と縦壁部23とは、天板部21の周縁から円弧状に90度で湾曲して形成された第1湾曲部22によって接続されている。また、実施形態1に係るブッシュ圧入部2は、縦壁部23の先端側に縦壁部23の剛性を高める形状を有している。縦壁部23の剛性を高める形状には、縦壁部23の先端から貫通孔20に対して軸線方向と直交する径方向で外側に向かって円弧状に90度で湾曲して拡がる第2湾曲部24を含む。なお、第2湾曲部24は、縦壁部23の先端から円弧状に湾曲して拡がる角度は90度に限定されるものではない。すなわち、第2湾曲部24としては、縦壁部23の先端から貫通孔20に対して軸線方向と直交する径方向で外側に向かって円弧状に湾曲して拡がっていれば、角度が90度よりも小さかったり90度よりも大きかったりしてもよい。
【0018】
そして、実施形態1に係るブッシュ圧入部2では、軸線方向で縦壁部23が立ち上がっている側とは反対側から貫通孔20にブッシュが圧入され、ブッシュの側面に縦壁部23の内周面が当接してブッシュが保持される。
【0019】
図3は、参考例に係るブッシュ圧入部2の断面図である。
【0020】
図3に示すように、参考例に係るブッシュ圧入部2は、天板部21に形成された貫通孔20と、貫通孔20の周縁から立ち上がって形成された縦壁部23とを有している。天板部21と縦壁部23とは、天板部21の周縁から円弧状に90度で湾曲して形成された第1湾曲部22によって接続されている。参考例に係るブッシュ圧入部2に圧入されたブッシュは、縦壁部23によって保持される。
【0021】
実施形態1に係るブッシュ圧入部2においては、参考例に係るブッシュ圧入部2よりも縦壁部23の剛性を高める形状として、縦壁部23の先端に第2湾曲部24を有している。これにより、実施形態1に係るブッシュ圧入部2は、参考例に係るブッシュ圧入部2に対してわずかな重量増で縦壁部23の剛性を高めてブッシュ保持力を向上させることができる。
【0022】
(実施形態2)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの構造の実施形態2について説明する。なお、本実施形態において実施形態1と同様の説明については適宜省略する。
【0023】
図4は、実施形態2に係るブッシュ圧入部2の断面図である。なお、
図4に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図1中のA-A断面に相当する。
【0024】
図4に示すように、実施形態2に係るブッシュ圧入部2は、貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部24と直線部25とを有する。実施形態2に係るブッシュ圧入部2が有する貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部24とは、実施形態1に係るブッシュ圧入部2が有する天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部24と同様である。直線部25は、第2湾曲部24の先端から貫通孔20の軸線と直交する方向に天板部21に沿って直線状に延びて形成されている。
【0025】
実施形態2に係るブッシュ圧入部2においては、第2湾曲部24の先端に直線部25を設けることにより、実施形態1に係るブッシュ圧入部2と比較して、わずなか重量増でブッシュ圧入部2の剛性をさらに高めてブッシュ保持力を向上させることができる。
【0026】
(実施形態3)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの構造の実施形態3について説明する。なお、本実施形態において実施形態1と同様の説明については適宜省略する。
【0027】
図5は、実施形態3に係るブッシュ圧入部2の断面図である。なお、
図5に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図1中のA-A断面に相当する。
【0028】
図5に示すように、実施形態3に係るブッシュ圧入部2は、貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部26とを有する。実施形態3に係るブッシュ圧入部2が有する貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23とは、実施形態1に係るブッシュ圧入部2が有する貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と同様である。第2湾曲部26は、縦壁部23の先端から貫通孔20に対して径方向で外側に向かって円弧状に180度で湾曲して折り返された折り返し部である。
【0029】
実施形態3に係るブッシュ圧入部2においては、縦壁部23の先端に第2湾曲部26を設けることにより、実施形態1に係るブッシュ圧入部2と比較して、わずなか重量増でブッシュ圧入部2の剛性をさらに高めてブッシュ保持力を向上させることができる。
【0030】
(実施形態4)
以下に、本発明に係るサスペンションアームの構造の実施形態4について説明する。なお、本実施形態において実施形態3と同様の説明については適宜省略する。
【0031】
図6は、実施形態4に係るブッシュ圧入部2の断面図である。なお、
図6に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図1中のA-A断面に相当する。
【0032】
図6に示すように、実施形態4に係るブッシュ圧入部2は、貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部26と直線部27とを有する。実施形態4に係るブッシュ圧入部2が有する貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部26とは、実施形態3に係るブッシュ圧入部2が有する貫通孔20と天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部26と同様である。直線部27は、第2湾曲部26の先端から軸線方向で天板部21に向かって縦壁部23に沿って直線状に延びて形成されている。
【0033】
実施形態4に係るブッシュ圧入部2においては、第2湾曲部26の先端に直線部27を設けることにより、実施形態3に係るブッシュ圧入部2と比較して、わずなか重量増でブッシュ圧入部2の剛性をさらに高めてブッシュ保持力を向上させることができる。
【0034】
なお、本発明に係るサスペンションアーム1のブッシュ圧入部2の構成としては、実施形態1~4で示した構成に限定されるものではない。例えば、第2湾曲部24,26を湾曲させる角度や、直線部25,27の長さなどは、要求されるブッシュ保持力を得られるように縦壁部23の剛性(ブッシュ圧入部2の剛性)を増加できれば、特に限定されない。すなわち、ブッシュ圧入部2とは別に部品を追加することなく、重量増加を抑えつつ要求されるブッシュ保持力を得られるように、縦壁部23の剛性(ブッシュ圧入部2の剛性)を増加させるようなブッシュ圧入部2の形状であればよい。
【実施例0035】
本発明に係るブッシュ圧入部2の構造の優位性を確認するため、ブッシュ圧入部2へのブッシュ3の圧入と引抜とについてCAE解析を実施した。なお、ブッシュ圧入部2の材料としては、590[MPa]級の熱延鋼板を想定した。
【0036】
(実施例1)
実施例1では、本発明例1に係るブッシュ圧入部2と比較例に係るブッシュ圧入部2とをそれぞれ用いて、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入するCAE解析と、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を引き抜くCAE解析とを実施した。なお、本発明例1に係るブッシュ圧入部2と比較例に係るブッシュ圧入部2とを特に区別しない場合には、単にブッシュ圧入部2と記す。
【0037】
図7(a)は、本発明例1に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した平面図である。
図7(b)は、本発明例1に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した断面図である。なお、
図7(b)に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図7(a)のB-B断面に相当する。
【0038】
本発明例1に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、天板部21を半径58[mm]の円板状としており、天板部21と同心円で設けらえた貫通孔20の半径を25[mm]とした。また、本発明例1に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、板厚t1を2[mm]、天板部21の径方向の長さL1を30[mm]、第1湾曲部22の内半径R1を1[mm]、及び、第1湾曲部22の外半径R2を3[mm]とした。また、本発明例1に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、縦壁部23の軸線方向の長さL2を8[mm]、第2湾曲部24の内半径R3を1[mm]、及び、第2湾曲部24の外半径R4を3[mm]とした。そして、本発明例1に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、本発明例1に係るブッシュ圧入部2を板厚方向に5分割した0.4[mm]の大きさのソリッド要素でモデル化した。
【0039】
図8(a)は、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した平面図である。
図8(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した断面図である。なお、
図8(b)に示したブッシュ圧入部2の断面は、
図8(a)のC-C断面に相当する。
【0040】
比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、天板部21を半径58[mm]の円板状としており、天板部21と同心円で設けらえた貫通孔20の半径を25[mm]とした。また、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、板厚t1を2[mm]、天板部21の径方向の長さL1を30[mm]、第1湾曲部22の内半径R1を1[mm]、及び、第1湾曲部22の外半径R2を3[mm]とした。また、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、縦壁部23の軸線方向の長さL2を8[mm]とした。そして、比較例に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、比較例に係るブッシュ圧入部2を板厚方向に5分割した0.4[mm]の大きさのソリッド要素でモデル化した。
【0041】
図9(a)は、ブッシュ3のCAE解析モデルを示した平面図である。
図9(b)は、ブッシュ3のCAE解析モデルを示した側面図である。
【0042】
ブッシュ3のCAE解析モデルにおいては、ブッシュ3の外周面がブッシュ3の高さ方向で先端31側から基端32側に向かうにつれて径が線形的に大きくなるようなテーパー状となっている。すなわち、ブッシュ3の高さ方向で基端32から先端31に向けて距離50[mm]の範囲において、半径25.0[mm]の先端31側から半径25.5[mm]の基端32側に向かうにつれて、ブッシュ3の半径が線形的に大きくなっている。また、ブッシュ3のCAE解析モデルは、ブッシュ3を剛体としてシェル要素でモデル化した。
【0043】
図10は、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入した状態のCAE解析モデルを示した図である。なお、
図10では、代表例として比較例に係るブッシュ圧入部2を用いた場合を示しているが、第2湾曲部24を有することを除いて本発明例1に係るブッシュ圧入部2を用いた場合も同様のため図示は省略する。
【0044】
まず、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入するCAE解析では、ブッシュ圧入部2の天板部21が動かないように不図示のホルダーによって天板部21を拘束した状態で、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入した。この際、
図10に示すように、ブッシュ圧入部2の軸線方向で、ブッシュ3の先端31からブッシュ圧入部2の天板部21までの距離が35[mm]になるまで、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入した。
【0045】
次に、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を引き抜くCAE解析では、ブッシュ圧入部2の天板部21が動かないように不図示のホルダーによって天板部21を拘束した状態で、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を基端32側(
図10中の下方向)に引き抜いた。
【0046】
図11は、ブッシュ引抜時におけるブッシュ引抜力の変化を示したグラフである。なお、
図11中の横軸は、ブッシュ圧入部2に圧入されたブッシュ3の位置を起点として、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を軸線方向に引き抜いたときのブッシュ3の位置の変化量であるブッシュ変位量としている。また、
図11中の縦軸は、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を引き抜く力であるブッシュ引抜力としている。
【0047】
図11からわかるように、本発明例1と比較例ともに、ブッシュ3の変位開始直後は急激にブッシュ引抜力が増加する。そして、本発明例1と比較例ともに、ブッシュ引抜力がピーク値になった後、ブッシュ3とブッシュ圧入部2とが相対的に滑るようになるとブッシュ引抜力が低下する。また、ブッシュ引抜力のピーク値は、比較例が18.8[kN]であり、本発明例1が22.9[kN]であった。これにより、本発明例1では、比較例に比べてブッシュ引抜力のピーク値が21.8[%]上昇したことがわかる。そして、ブッシュ引抜力のピーク値が高いほどブッシュ圧入部2からブッシュ3が抜け難くなるため、本発明例1に係るブッシュ圧入部2は、比較例に係るブッシュ圧入部2に対してブッシュ保持力が向上していることがわかる。
【0048】
また、ブッシュ圧入部2へのブッシュ圧入後の状態において、ブッシュ圧入部2の縦壁部23がブッシュ3から受ける面圧をシミュレーションによって計算して求めた。
図12(a)は、本発明例1に係るブッシュ圧入部2において面圧計算を実施した縦壁部23内の位置の範囲を示した図である。
図12(b)は、比較例に係るブッシュ圧入部2において面圧計算を実施した縦壁部23内の位置の範囲を示した図である。
【0049】
面圧計算を実施したのは、
図12(a)及び
図12(b)において、縦壁部23の第1湾曲部22側の端を起点として、軸線方向で縦壁部23内の位置が0[mm]から8[mm]の間に存在する各メッシュ上である。
【0050】
図13は、縦壁部23内における面圧分布を示したグラフである。なお、
図13中の横軸は、軸線方向における縦壁部23内の位置としている。また、
図13中の縦軸は、縦壁部23がブッシュ3から受ける面圧としている。
【0051】
本発明例1と比較例ともに、面圧は縦壁部23の下部(0[mm]~2[mm])と上部(6[mm]~8[mm])とに集中している。縦壁部23の下部の面圧分布は、本発明例1と比較例とで、ほとんど差はないが、縦壁部23の上部の面圧は、第2湾曲部24が付加されて剛性が上がったことにより、本発明例1が比較例よりも高くなっている。この部分の面圧の差が、本発明例1に係るブッシュ圧入部2においてブッシュ引抜力の向上に寄与していると考えられる。
【0052】
(実施例2)
実施例2では、本発明例2に係るブッシュ圧入部2と本発明例3に係るブッシュ圧入部2とをそれぞれ用いて、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入するCAE解析と、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を引き抜くCAE解析とを実施した。
【0053】
図14は、本発明例2に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した断面図である。
【0054】
本発明例2に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルは、実施形態2に係るブッシュ圧入部2に相当する。本発明例2に係るブッシュ圧入部2が有する天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23と第2湾曲部24とは、本発明例1に係るブッシュ圧入部2と同様である。直線部25は、第2湾曲部24の先端から軸線方向と直交する方向に天板部21に沿って直線状に長さL3が5[mm]で延びて形成されている。本発明例2に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、本発明例2に係るブッシュ圧入部2を板厚方向に5分割した0.4[mm]の大きさのソリッド要素でモデル化した。
【0055】
図15は、本発明例3に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルを示した断面図である。
【0056】
本発明例3に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルは、実施形態4に係るブッシュ圧入部2に相当する。本発明例3に係るブッシュ圧入部2が有する天板部21と第1湾曲部22と縦壁部23とは、本発明例1に係るブッシュ圧入部2と同様である。第2湾曲部26は、縦壁部23の先端から外側に向かって円弧状に180度で湾曲して折り返された折り返し部である。第2湾曲部26の内半径R5は1[mm]とし、第2湾曲部26の外半径R6は3[mm]とした。直線部27は、第2湾曲部26の先端から軸線方向に天板部21に向かって縦壁部23に沿って直線状に延びて形成されている。縦壁部23の長さL4は5[mm]とした。本発明例3に係るブッシュ圧入部2のCAE解析モデルにおいては、本発明例3に係るブッシュ圧入部2を板厚方向に5分割した0.4[mm]の大きさのソリッド要素でモデル化した。
【0057】
そして、実施例2では、本発明例2及び3に係るブッシュ圧入部2について、実施例1の本発明例1に係るブッシュ圧入部2と同様に、ブッシュ圧入部2にブッシュ3を圧入するCAE解析と、ブッシュ圧入部2からブッシュ3を引き抜くCAE解析とを実施した。その結果、ブッシュ引抜時のブッシュ引抜力のピーク値は、本発明例2が24.2[kN]であり、本発明例3が24.4[kN]であった。これにより、本発明例2では、実施例1の比較例に比べてブッシュ引抜力のピーク値が28.7[%]上昇した。また、本発明例3では、実施例1の比較例に比べてブッシュ引抜力のピーク値が29.8[%]上昇した。そして、ブッシュ引抜力のピーク値が高いほどブッシュ圧入部2からブッシュ3が抜け難くなるため、本発明例2及び3に係るブッシュ圧入部2は、実施例1の比較例に係るブッシュ圧入部2に対してブッシュ保持力が向上していることがわかる。