(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123425
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ガスヒートポンプシステム
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20240905BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20240905BHJP
F25B 27/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F25B1/00 399Y
F01P7/16
F25B27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030826
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 裕真
(57)【要約】
【課題】ガスヒートポンプを構成する種々の部品を保護しながら暖房運転の際の能力及び効率をより向上させることができる、ガスヒートポンプシステムを提供する。
【解決手段】ガスエンジン10と、ガスエンジンに連結されて冷却水が循環される循環路20に設けられるラジエータ11と、循環路から分岐されてラジエータをバイパスする分岐路30に設けられるヒータ12と、循環路と分岐路を切り替える切替バルブ41aと、循環路と分岐路との分岐部における上流側の分岐部33よりも上流側の循環路、または下流側の分岐部34よりも下流側の循環路、に設けられるウォータポンプ42aと、冷却水の温度を検出する温度検出装置43と、ガスエンジンとウォータポンプを運転し、暖房運転の場合には冷却水の温度が所定温度範囲内を保持するように切替バルブとヒータを制御する制御装置50と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスヒートポンプシステムであって、
ガスエンジンと、
前記ガスエンジンに連結されて冷却水が循環される循環路に設けられるラジエータと、
前記循環路から分岐されて前記ラジエータをバイパスする分岐路に設けられるヒータと、
前記循環路および前記分岐路に設けられ、前記冷却水が流入する対象を前記ラジエータまたは前記ヒータのどちらかに切り替える切替バルブと、
前記循環路と前記分岐路との分岐部における上流側の前記分岐部よりも上流側の前記循環路、または下流側の前記分岐部よりも下流側の前記循環路、に設けられるウォータポンプと、
前記循環路と前記分岐路のどちらの場合でも前記冷却水が流れる前記循環路の個所に設けられ、前記冷却水の温度を検出する温度検出装置と、
前記ガスエンジンと前記ウォータポンプを運転し、暖房運転の場合には前記冷却水の温度が所定温度範囲内を保持するように前記切替バルブと前記ヒータを制御する制御装置と、
を有する、
ガスヒートポンプシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のガスヒートポンプシステムであって、
前記制御装置は、
前記ガスエンジンの停止時において運転開始指示が入力された際に前記冷却水の温度が前記所定温度範囲よりも低い始動可能温度未満の場合には、前記ガスエンジンを始動することなく前記冷却水が流入する対象が前記ヒータとなるように前記切替バルブを制御して前記ヒータに通電するとともに前記ウォータポンプを運転して、前記冷却水を循環させながら昇温し、
前記冷却水の温度が前記始動可能温度以上となった場合に前記ガスエンジンを始動する、
ガスヒートポンプシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のガスヒートポンプシステムであって、
前記制御装置は、
暖房運転の場合において、前記ガスエンジンを始動した後、前記冷却水の温度が前記所定温度範囲よりも低い場合、前記冷却水の温度が前記所定温度範囲内となるまで、前記冷却水が流入する対象が前記ヒータとなるように前記切替バルブを制御して前記ヒータに通電する、
ガスヒートポンプシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備等の空調に用いるガスヒートポンプシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスヒートポンプシステムに関する種々の技術が提案されている。例えば、下記の特許文献1に記載されているガスエンジンヒートポンプ(ガスヒートポンプシステムに相当)では、排ガス熱交換器を用いて、ガスエンジンの排気ガスの熱でエンジン冷却水を予熱するガスエンジンヒートポンプにおいて、排ガス熱交換器からのドレイン水を機外へ排出しないガスエンジンヒートポンプが開示されている。当該ガスエンジンヒートポンプでは、ガスエンジンの始動初期で排気ガスの温度が比較的低く排気ガスから水分が凝縮しやすい間は、排ガス熱交換器をバイパスさせて排気ガスと冷却水との熱交換は行わず、排気ガス温度が充分上昇した後に熱交換を行わせて、凝縮水を発生させないようにしている。その後は、水温センサの検出温度が規定値以上に維持されるように排ガス熱交換器の経路とバイパス経路の開度を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスヒートポンプは、暖房運転の際の能力及び効率をより向上させるためには、冷却水の温度を所定温度以上に維持することが望ましいが、ガスヒートポンプを構成する種々の部品を保護するために冷却水の温度を必要以上に高くしないことが望ましい。つまり、暖房運転の際は、冷却水の温度を所定温度範囲内に維持することが望ましい。
【0005】
特許文献1に記載のガスエンジンヒートポンプでは、冷却水の温度を規定値以上に維持させているが、冷却水の温度が必要以上に高くなる可能性がある点で好ましくない。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、ガスヒートポンプを構成する種々の部品を保護しながら暖房運転の際の能力及び効率をより向上させることができる、ガスヒートポンプシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の発明は、ガスヒートポンプシステムであって、ガスエンジンと、前記ガスエンジンに連結されて冷却水が循環される循環路に設けられるラジエータと、前記循環路から分岐されて前記ラジエータをバイパスする分岐路に設けられるヒータと、前記循環路および前記分岐路に設けられ、前記冷却水が流入する対象を前記ラジエータまたは前記ヒータのどちらかに切り替える切替バルブと、前記循環路と前記分岐路との分岐部における上流側の前記分岐部よりも上流側の前記循環路、または下流側の前記分岐部よりも下流側の前記循環路、に設けられるウォータポンプと、前記循環路と前記分岐路のどちらの場合でも前記冷却水が流れる前記循環路の個所に設けられ、前記冷却水の温度を検出する温度検出装置と、前記ガスエンジンと前記ウォータポンプを運転し、暖房運転の場合には前記冷却水の温度が所定温度範囲内を保持するように前記切替バルブと前記ヒータを制御する制御装置と、を有する、ガスヒートポンプシステムである。
【0008】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係るガスヒートポンプシステムであって、前記制御装置は、前記ガスエンジンの停止時において運転開始指示が入力された際に前記冷却水の温度が前記所定温度範囲よりも低い始動可能温度未満の場合には、前記ガスエンジンを始動することなく前記冷却水が流入する対象が前記ヒータとなるように前記切替バルブを制御して前記ヒータに通電するとともに前記ウォータポンプを運転して、前記冷却水を循環させながら昇温し、前記冷却水の温度が前記始動可能温度以上となった場合に前記ガスエンジンを始動する、ガスヒートポンプシステムである。
【0009】
次に、第3の発明は、上記第2の発明に係るガスヒートポンプシステムであって、前記制御装置は、暖房運転の場合において、前記ガスエンジンを始動した後、前記冷却水の温度が前記所定温度範囲よりも低い場合、前記冷却水の温度が前記所定温度範囲内となるまで、前記冷却水が流入する対象が前記ヒータとなるように前記切替バルブを制御して前記ヒータに通電する、ガスヒートポンプシステムである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、ラジエータを用いて冷却水の温度を低下させる循環路と、ヒータを用いて冷却水の温度を上昇させる分岐路と、を切替バルブにて切り替え可能である。そして制御装置は、暖房運転の場合には、冷却水の温度が所定温度範囲内を保持するように切替バルブとヒータを制御する。これにより、ガスヒートポンプを構成する種々の部品を保護しながら暖房の際の能力及び効率をより向上させることができる。
【0011】
ガスエンジンは、停止状態から始動する際、温度が始動可能温度未満の場合には始動が困難となる可能性がある。第2の発明によれば、停止状態のガスエンジンに対して運転開始指示が入力された際、冷却水の温度が始動可能温度未満の場合には、ガスエンジンを始動することなく冷却水を昇温してガスエンジンを暖機する。そして冷却水の温度が始動可能温度以上となった場合にガスエンジンを始動するので、適切かつ確実にガスエンジンを始動できる。
【0012】
第3の発明によれば、暖房運転の場合において、ガスエンジンの始動の直後の冷却水の温度が所定温度範囲よりも低い場合、冷却水の温度をより短い時間で所定温度範囲内へと昇温することができるので、暖房運転の際の効率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ガスヒートポンプシステムの全体構成を説明する図である。
【
図2】暖房運転時における、ガスエンジンの停止中からの始動及び運転中へと至る動作の例を説明する図である。
【
図3】冷房運転時における、ガスエンジンの停止中からの始動及び運転中へと至る動作の例を説明する図である。
【
図4】
図2及び
図3の動作を実現するための制御装置の処理における[全体処理]の例を説明するフローチャートである。
【
図5】
図4のフローチャートにおける[停止モード処理]の詳細を説明するフローチャートである。
【
図6】
図4のフローチャートにおける[始動待機モード処理]の詳細を説明するフローチャートである。
【
図7】
図4のフローチャートにおける[始動モード処理]の詳細を説明するフローチャートである。
【
図8】
図4のフローチャートにおける[運転中モード処理]の詳細を説明するフローチャートである。
【
図9】
図2に示す動作の例に対して、冷却水の温度が所定温度範囲を少し上回ってオーバーシュートすることや、冷却水の温度が所定温度範囲を少し下回ってアンダーシュートすることを抑制する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ガスヒートポンプシステム1の全体構成(
図1)>
以下、本発明のガスヒートポンプシステム1について、図面を用いて説明する。ガスヒートポンプシステム1は、設備等の空調に用いられる。
【0015】
図1に示すように、ガスヒートポンプシステム1は、ガスエンジン10、ラジエータ11及び循環路20、ヒータ12及び分岐路30、排ガス熱交換器46、分岐路熱交換器47、排気浄化装置48、制御装置50、コンプレッサ80、冷媒経路80a、室内熱交換器81、膨張弁82、室外熱交換器83等を有している。
【0016】
ガスエンジン10は、ガスヒートポンプシステム1の動力源であり、都市ガスやLPG等の燃料を用いて作動し、制御装置50から制御される。ガスエンジン10の動力は、ガスエンジン10のプーリ10pからベルト10vを介してコンプレッサ80のプーリ80pに伝達されてコンプレッサ80を駆動する。
【0017】
ガスエンジン10には冷却水が循環されて、冷却水はガスエンジン10を冷却したり暖機したりする。冷却水の経路には、ラジエータ11を有する経路である循環路20と、ヒータ12を有する経路である分岐路30とがある。
【0018】
循環路20は、配管21、配管22、ラジエータ11、配管23、配管24等にて構成されており、ガスエンジン10に連結されて冷却水が循環される。配管21の流入側はガスエンジン10における冷却水の流出口に接続され、配管21の流出側は切替バルブ41aの流入口に接続されている。
【0019】
切替バルブ41aの一方の流出口には配管22の流入側が接続され、配管22の流出側はラジエータ11の流入口に接続されている。またラジエータ11の流出口には配管23の流入側が接続され、配管23の流出側は、配管24の流入側及び分岐配管32の流出側に接続されている。そして配管24の流出側はガスエンジン10における冷却水の流入口に接続されている。
【0020】
分岐路30は、分岐配管31、ヒータ12、分岐配管32等にて構成されている。分岐路30の上流側となる分岐配管31は、循環路20におけるラジエータ11の上流側となる分岐部33に接続され、分岐路30の下流側となる分岐配管32は、循環路20におけるラジエータ11の下流側となる分岐部34に接続されている。従って分岐路30は、循環路20における上流側の分岐部33と下流側の分岐部34からラジエータ11をバイパスするように分岐されている。
【0021】
図1の例では、上流側の分岐部33には、切替バルブ41aが設けられており、切替バルブ41aの流入口には配管21の流出側が接続され、切替バルブ41aの一方の流出口には配管22の流入側が接続され、切替バルブ41aの他方の流出口には分岐配管31の流入側が接続されている。また分岐配管31の流出側はヒータ12の流入口に接続されている。そしてヒータ12の流出口には分岐配管32の流入側が接続され、分岐配管32の流出側は、下流側の分岐部34である配管23の流出側及び配管24の流入側に接続されている。
【0022】
切替バルブ41aは、制御装置50から制御され、分岐配管31への経路を閉じて配管21と配管22とを連通させる循環路形成状態と、配管22への経路を閉じて配管21と分岐配管31とを連通させる分岐路形成状態とを切り替え可能である。切替バルブ41aは、循環路20および前記分岐路30に設けられ、冷却水が流入する対象をラジエータ11またはヒータ12のどちらかに切り替える。なお、切替バルブ41aの代わりに、
図1中に点線で示すように、2つの切替バルブ41bのそれぞれを、上流側の分岐部33の下流側となる配管22及び分岐配管31に設けてもよい。また、切替バルブ41aの代わりに、
図1中に点線で示す切替バルブ41cを、下流側の分岐部34に設けて配管23と配管24と分岐配管32を接続してもよい。また、切替バルブ41aの代わりに、
図1中に点線で示すように、2つの切替バルブ41dのそれぞれを、下流側の分岐部34の上流側となる配管23及び分岐配管32に設けてもよい。
【0023】
温度検出装置43は、配管21に設けられている。温度検出装置43は、ガスエンジン10から吐出された(吐出直後の)冷却水の温度に応じた検出信号を制御装置50に出力する。温度検出装置43は、循環路20と分岐路30のどちらの場合でも冷却水が流れる循環路20の個所に設けられている。
【0024】
ウォータポンプ42aは、配管21に設けられている。ウォータポンプ42aは、制御装置50から制御され、ガスエンジン10からの冷却水を切替バルブ41aに向けて圧送する。なお配管21に設けたウォータポンプ42aの代わりに、
図1中に点線で示すウォータポンプ42bを配管24に設けるようにしてもよい。ウォータポンプ42aは、冷却水の経路が循環路20、分岐路30のいずれの経路とされても冷却水が流れる位置に設けられ、上流側の分岐部33よりも上流側の循環路20(すなわち配管21)、または下流側の分岐部34よりも下流側の循環路20(すなわち配管24)に設けられる。
【0025】
ラジエータ11は、循環路20の経路中に設けられており、ガスエンジン10から吐出されて循環路20に流れる冷却水の温度を低下させる。
【0026】
ヒータ12は、分岐路30の経路中に設けられており、制御装置50から通電(ON)または非通電(OFF)に制御される。そしてヒータ12は、通電されている場合、ガスエンジン10から吐出されて分岐路30に流れる冷却水の温度を上昇させる。
【0027】
排気浄化装置48は、ガスエンジン10の排気経路10hにおける排ガス熱交換器46よりも上流側に設けられており、ガスエンジン10から吐出されて排気経路10hを流れる排気ガスを浄化する。排ガス熱交換器46で排気温度が低下した後では浄化性能が低下する可能性があるので、排気浄化装置48は、排ガス熱交換器46よりも上流側に配置されていることが好ましい。なお、排気浄化装置48の詳細については説明を省略する。
【0028】
排ガス熱交換器46は、排気経路10hにおける排気浄化装置48よりも下流側に設けられており、排気経路10hと配管24が接続され、排気経路10hを流れる排ガスの熱を用いて配管24を流れる冷却水を加熱する。排ガス熱交換器46は、ガスエンジン10の暖機時間の短縮や、冷却水の温度の保持などに効果がある。
【0029】
分岐路熱交換器47は、分岐路30におけるヒータ12よりも下流側に設けられており、分岐配管32と冷媒経路80aが接続され、暖房運転時における分岐配管32を流れる冷却水の熱を用いて冷媒経路80aを流れる冷媒を加熱する。分岐路熱交換器47は、暖房運転時の能力や効率の向上に効果がある。
【0030】
制御装置50は、ガスエンジン10に設けられた種々の検出装置(図示省略)からの検出信号に基づいてガスエンジン10の運転状態を検出し、検出した運転状態に基づいてガスエンジン10に設けられた種々のアクチュエータ(図示省略)を用いてガスエンジン10を制御する。また制御装置50には、ガスヒートポンプシステム1の運転開始/停止を指示する運転開始・停止指示手段51、暖房/冷房を指示する暖房・冷房指示手段52、空調温度を指示する温度指示手段53等からの信号が入力される。
【0031】
コンプレッサ80は、ガスエンジン10から駆動され、冷媒経路80aを流れる冷媒を循環させる。暖房運転時における冷媒の流れる方向と、冷房運転時における冷媒の流れる方向は、逆となる。なお、冷媒経路80aに設けられたコンプレッサ80、室内熱交換器81、膨張弁82、室外熱交換器83は、既存のものであるので詳細な説明は省略する。
【0032】
<暖房運転時のガスエンジン10の動作(
図2)と、冷房運転時のガスエンジン10の動作(
図3)>
次に
図2及び
図3を用いて、ガスエンジン10が、停止中(停止時)の状態から、ユーザから運転開始指示が入力されて、運転中へと至る動作の例について説明する。なお、
図2は暖房指示の運転開始指示が入力された場合の例を示しており、
図3は冷房指示の運転開始指示が入力された場合の例を示している。
図2と
図3のどちらの場合も、運転開始指示が入力された時点での冷却水の温度は始動可能温度未満の例を示している。
【0033】
ガスエンジン10は、冷却水の温度が低い場合は始動が困難となる可能性があり、確実に始動させるために始動可能温度が設定されている。例えば始動可能温度は、約10[℃]程度である。冷却水の温度が始動可能温度未満の場合は、ガスエンジン10を始動する前に冷却水を昇温して、ガスエンジン10を始動可能温度以上となるまで暖機することが好ましい。
【0034】
また暖房運転の場合では、暖房能力と暖房効率をより向上させるために、ガスエンジンの運転中は、冷却水の温度を低温側閾値1以上に保持することが好ましい。例えば低温側閾値1は、約70[℃]程度である。さらに、ガスヒートポンプシステム1の種々の構成部品を保護するために、冷却水の温度を高温側閾値1以下に保持することが好ましい。例えば高温側閾値1は、約90[℃]程度である。従って、暖房運転時には、冷却水の温度を、低温側閾値1以上かつ高温側閾値1以下である所定温度範囲に保持しながらガスエンジン10を運転することが、暖房能力、暖房効率、耐久の観点から好ましい。
【0035】
図2に示すように、暖房運転時には、ガスエンジン10の停止中にユーザから(暖房指示の)運転開始指示が入力されたとき(時刻T01)、冷却水温度が始動可能温度未満の場合では、ガスエンジン10を始動することなく、切替バルブを用いて冷却水の経路を分岐路にして(冷却水が流入する対象がヒータとなるように切替バルブを制御して)ヒータに通電(ON)してウォータポンプを駆動(ON)する。これにより、冷却水を昇温しながら循環させてガスエンジン10を暖機する(時刻T01~時刻T02)。
【0036】
その後、冷却水の温度が始動可能温度以上となった場合(時刻T02)、ガスエンジン10を始動する。そしてガスエンジン10の運転中(時刻T02以降)は、冷却水の温度が所定温度範囲を保持するように、切替バルブとヒータを制御する。
【0037】
なお暖房運転の場合、ガスエンジン10の始動の直後の冷却水の温度が、所定温度範囲よりも低い(低温側閾値1よりも低い)場合、切替バルブを用いて分岐路にして(冷却水が流入する対象がヒータとなるように切替バルブを制御して)ヒータに通電(ON)して、より短い時間で冷却水の温度を所定温度範囲内へと昇温する(時刻T02~時刻T03)。
【0038】
なお暖気運転の場合、運転中において冷却水の温度が所定温度範囲内(低温側閾値1以上かつ高温側閾値1以下の場合)では、ヒータを非通電(OFF)に制御するが冷却水の経路を分岐路にすることで(時刻T03~時刻T04、時刻T05~時刻T06、時刻T07~時刻T08、時刻T09~時刻T10、時刻T11~)、分岐路熱交換器47(
図1参照)を用いて冷媒経路80aの冷媒を加熱して、より効率よく暖房運転を行う。
【0039】
また
図3に示すように、冷房運転時では、ガスエンジン10の停止中にユーザから(冷房指示の)運転開始指示が入力されたとき(時刻T21)、暖房運転時の場合と同様に、冷却水温度が始動可能温度未満の場合では、ガスエンジン10を始動することなく、切替バルブを用いて冷却水の経路を分岐路にしてヒータに通電(ON)してウォータポンプを駆動(ON)する。これにより、冷却水を昇温しながら循環させてガスエンジン10を暖機する(時刻T21~時刻T22)。
【0040】
その後、冷却水の温度が始動可能温度以上となった場合(時刻T22)、ガスエンジン10を始動する。その後、ガスエンジン10の運転中(時刻T22以降)は、切替バルブを用いて循環路にしてヒータを非通電(OFF)にする。冷却水の温度は徐々に上昇していくが、循環路のラジエータにて適切な温度に抑えられる。なお、冷房運転の場合、冷却水の温度を高温側閾値1以下にすることが好ましいことは暖房運転時と同じであるが、低温側閾値1以上に保持する必要は特にない。
【0041】
以下、
図2及び
図3の動作をさせるための、制御装置50の処理手順について説明する。
【0042】
<制御装置50の処理手順(
図4~
図8)>
<全体処理(
図4)>
制御装置50は、CPU、RAM、ROM、タイマ等を有する、いわゆるコンピュータであり、例えば数[ms]~数10[ms]間隔の所定時間間隔にて、
図3に示す[全体処理]を起動し、ステップS010へ処理を進める。
【0043】
ステップS010にて制御装置50は、動作モード(
図2、
図3の「動作モード」を参照)が停止モードであるか否かを判定する。なお制御装置50が起動された時点での動作モードの初期値は停止モードに設定される。制御装置50は、動作モードが停止モードである場合(Yes)はステップS015へ処理を進め、動作モードが停止モードでない場合(No)はステップS020へ処理を進める。
【0044】
ステップS015に処理を進めた場合、制御装置50は、後述する[停止モード処理]を実行して、
図4に示す処理を終了する。
【0045】
ステップS020に処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードが始動待機モードであるか否かを判定する。制御装置50は、動作モードが始動待機モードである場合(Yes)はステップS025へ処理を進め、動作モードが始動待機モードでない場合(No)はステップS030へ処理を進める。
【0046】
ステップS025に処理を進めた場合、制御装置50は、後述する[始動待機モード処理]を実行して、
図4に示す処理を終了する。
【0047】
ステップS030に処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードが始動モードであるか否かを判定する。制御装置50は、動作モードが始動モードである場合(Yes)はステップS035へ処理を進め、動作モードが始動モードでない場合(No)はステップS045へ処理を進める。
【0048】
ステップS035に処理を進めた場合、制御装置50は、後述する[始動モード処理]を実行して、
図4に示す処理を終了する。
【0049】
ステップS045に処理を進めた場合、制御装置50は、後述する[運転中モード処理]を実行して、
図4に示す処理を終了する。
【0050】
<停止モード処理(
図5)>
次に
図5を用いて、
図4に示すステップS015の[停止モード処理]の詳細について説明する。制御装置50は、
図4に示すステップS015の[停止モード処理]を実行すると、
図5に示すステップS110へ処理を進める。
【0051】
ステップS110にて制御装置50は、ガスエンジン10を停止(燃料供給を停止)し、ウォータポンプ42aをOFF(停止)に制御し、切替バルブ41aを循環路20(または分岐路30)となるように制御し、ヒータ12をOFF(非通電)に制御して、ステップS115へ処理を進める。
【0052】
ステップS115にて制御装置50は、運転開始・停止指示手段51から運転開始指示の入力がされているか否かを判定する。制御装置50は。運転開始指示が入力されている場合(Yes)はステップS120へ処理を進め、運転開始指示が入力されていない場合(No)は
図5に示す処理を終了して
図4に示すステップS015の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0053】
ステップS120へ処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードに始動待機モードを代入して、
図5に示す処理を終了して
図4に示すステップS015の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0054】
<始動待機モード処理(
図6)>
次に
図6を用いて、
図4に示すステップS025の[始動待機モード処理]の詳細について説明する。制御装置50は、
図4に示すステップS025の[始動待機モード処理]を実行すると、
図6に示すステップS210へ処理を進める。
【0055】
ステップS210にて制御装置50は、運転開始・停止指示手段51から運転停止指示が入力されているか否かを判定する。制御装置50は、運転停止指示が入力されている場合(Yes)はステップS280へ処理を進め、運転停止指示が入力されていない場合(No)はステップS215へ処理を進める。
【0056】
ステップS280へ処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードに停止モードを代入して、
図6に示す処理を終了して
図4に示すステップS025の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0057】
ステップS215に処理を進めた場合、制御装置50は、ウォータポンプ42aをON(運転)となるように制御し、ステップS220へ処理を進める。
【0058】
ステップS220にて制御装置50は、温度検出装置43を用いて検出した冷却水の温度である冷却水温度が始動可能温度未満であるか否かを判定する。制御装置50は、冷却水温度が始動可能温度未満である場合(Yes)はステップS225へ処理を進め、冷却水温度が始動可能温度以上である場合(No)はステップS230へ処理を進める。なお始動可能温度は、後述する所定温度範囲よりも低い温度(
図2、
図3参照)であり、例えば約10[℃]程度である。
【0059】
ステップS225へ処理を進めた場合、制御装置50は、分岐路30となるように切替バルブ41aを制御して、ヒータ12をON(通電)に制御し、
図6に示す処理を終了して
図4に示すステップS025の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0060】
ステップS230へ処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードに始動モードを代入してステップS235へ処理を進める。
【0061】
ステップS235にて制御装置50は、冷却水温度が所定温度範囲における低温側の閾値である低温側閾値1(
図2、
図3参照)未満であるか否かを判定する。制御装置50は、冷却水温度が低温側閾値1未満である場合(Yes)はステップS240へ処理を進め、冷却水温度が低温側閾値1未満でない場合(No)はステップS250へ処理を進める。なお低温側閾値1は、例えば約70[℃]程度の温度である。
【0062】
ステップS240へ処理を進めた場合、制御装置50は、暖房・冷房指示手段52から暖房指示が入力されているか否かを判定する。制御装置50は、暖房指示が入力されている場合(Yes)(暖房運転の場合)は上述したステップS225へ処理を進め、暖房指示が入力されていない場合(No)(冷房運転の場合)はステップS245へ処理を進める。
【0063】
ステップS245へ処理を進めた場合、制御装置50は、循環路20となるように切替バルブ41aを制御して、ヒータ12をOFF(非通電)に制御し、
図6に示す処理を終了して
図4に示すステップS025の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0064】
ステップS250へ処理を進めた場合、制御装置50は、冷却水温度が所定温度範囲における高温側の閾値である高温側閾値1(
図2、
図3参照)以下であるか否かを判定する。制御装置50は、冷却水温度が高温側閾値1以下である場合(Yes)はステップS255へ処理を進め、冷却水温度が高温側閾値1以下でない場合(No)は上述したステップS245へ処理を進める。なお高温側閾値1は、例えば約90[℃]程度の温度である。
【0065】
ステップS255へ処理を進めた場合、制御装置50は、暖房指示が入力されているか否かを判定する。制御装置50は、暖房指示が入力されている場合(Yes)(暖房運転の場合)はステップS260へ処理を進め、暖房指示が入力されていない場合(No)(冷房運転の場合)は上述したステップS245へ処理を進める。
【0066】
ステップS260へ処理を進めた場合、制御装置50は、分岐路30となるように切替バルブ41aを制御して、ヒータ12をOFF(非通電)に制御し、
図6に示す処理を終了して
図4に示すステップS025の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0067】
<始動モード処理(
図7)>
次に
図7を用いて、
図4に示すステップS035の[始動モード処理]の詳細について説明する。制御装置50は、
図4に示すステップS035の[始動モード処理]を実行すると、
図7に示すステップS310へ処理を進める。
【0068】
ステップS310にて制御装置50は、ガスエンジン10を始動して(例えば、スタータモータ等を駆動してクランキングして)、ステップS315へ処理を進める。なお、ウォータポンプ42a、切替バルブ41a、ヒータ12の制御状態は、始動待機モードでの制御状態が保持されている。
【0069】
ステップS315にて制御装置50は、ガスエンジン10のエンジン回転数が所定回転数以上となったか否かを判定する。なお所定回転数は、ガスエンジン10の始動が完了したことを判定する回転数であり、数100[rpm]程度の値に設定されている。制御装置50は、エンジン回転数が所定回転数以上である場合(Yes)はステップS320へ処理を進め、エンジン回転数が所定回転数以上でない場合は
図7に示す処理を終了して
図4に示すステップS035の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0070】
ステップS320へ処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードに運転中モードを代入してクランキングを停止して、
図7に示す処理を終了して
図4に示すステップS035の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0071】
<運転中モード処理(
図8)>
次に
図8を用いて、
図4に示すステップS045の[運転中モード処理]の詳細について説明する。制御装置50は、
図4に示すステップS045の[運転中モード処理]を実行すると、
図8に示すステップS410へ処理を進める。
【0072】
ステップS410にて制御装置50は、運転開始・停止指示手段51から運転停止指示が入力されているか否かを判定する。制御装置50は、運転停止指示が入力されている場合(Yes)はステップS480へ処理を進め、運転停止指示が入力されていない場合(No)はステップS415へ処理を進める。
【0073】
ステップS480へ処理を進めた場合、制御装置50は、動作モードに停止モードを代入して、
図8に示す処理を終了して
図4に示すステップS045の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0074】
ステップS415に処理を進めた場合、制御装置50は、ウォータポンプ42aをON(運転)となるように制御し、ステップS420へ処理を進める。
【0075】
ステップS420にて制御装置50は、運転中のガスエンジン10の制御を実行するが、当該処理は既存の処理であるので詳細な説明は省略する。そして制御装置50は、ステップS425へ処理を進める。
【0076】
ステップS425にて制御装置50は、暖房・冷房指示手段52から暖房指示が入力されているか否かを判定する。制御装置50は、暖房指示が入力されている場合(Yes)(暖房運転の場合)はステップS435へ処理を進め、暖房指示が入力されていない場合(No)(冷房運転の場合)はステップS430へ処理を進める。
【0077】
ステップS430へ処理を進めた場合、制御装置50は、循環路20となるように切替バルブ41aを制御して、ヒータ12をOFF(非通電)に制御し、
図8に示す処理を終了して
図4に示すステップS045の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0078】
ステップS435へ処理を進めた場合、制御装置50は、温度検出装置43を用いて検出した冷却水温度が低温側閾値1未満であるか否かを判定する。制御装置50は、冷却水温度が低温側閾値1未満である場合(Yes)はステップS440へ処理を進め、冷却水温度が低温側閾値1未満でない場合(No)はステップS445へ処理を進める。
【0079】
ステップS440へ処理を進めた場合、制御装置50は、分岐路30となるように切替バルブ41aを制御して、ヒータ12をON(通電)に制御し、
図8に示す処理を終了して
図4に示すステップS045の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0080】
ステップS445へ処理を進めた場合、制御装置50は、冷却水温度が高温側閾値1以下であるか否かを判定する。制御装置50は、冷却水温度が高温側閾値1以下である場合(Yes)はステップS450へ処理を進め、冷却水温度が高温側閾値1以下でない場合(No)は上述したステップS430へ処理を進める。
【0081】
ステップS450へ処理を進めた場合、制御装置50は、分岐路30となるように切替バルブ41aを制御して、ヒータ12をOFF(非通電)に制御し、
図8に示す処理を終了して
図4に示すステップS045の下に戻り、
図4に示す処理を終了する。
【0082】
<その他の例(
図9)>
図2に示す暖房運転時の動作の例では、時刻T03以降の運転中において、冷却水の温度が高温側閾値1を少しオーバーシュートしているとともに低温側閾値1を少しアンダーシュートしている。
【0083】
このオーバーシュートとアンダーシュートを抑制するために、
図9に示すように、低温側閾値1よりも温度がΔTLだけ高い低温側閾値2を設定するとともに、高温側閾値1よりも温度がΔTHだけ低い高温側閾値2を設定する。なお低温側閾値2及び高温側閾値2は、実際のガスヒートポンプシステム1を用いた実験や、シミュレーション等にて適切な値が決められる。
【0084】
そして
図6のステップS235、
図8のステップS435の低温側閾値1を低温側閾値2に変更し、
図6のステップS250、
図8のステップS445の高温側閾値1を高温側閾値2に変更することで、
図9の例に示すように、冷却水温度が高温側閾値1を上回るオーバーシュートや、低温側閾値1を下回るアンダーシュートを抑制した動作を実現できる。
【0085】
<効果>
以上に説明したガスヒートポンプシステム1では、暖房運転の場合では、冷却水の温度を所定範囲内となるように保持する(
図2、
図9参照)ことで、暖房能力と暖房効率をより向上させるとともにガスヒートポンプシステム1の構成部品を保護することができる。
【0086】
また暖房運転、冷房運転にかかわらず、ガスエンジンを始動しようとする際に冷却水温度が始動可能温度未満の場合は、冷却水温度を分岐路のヒータで昇温して始動可能温度以上となってからガスエンジン10を始動する(
図2、
図3、
図9参照)ので、確実に始動することができる。
【0087】
また暖房運転の場合には、ガスエンジン10を始動した直後、冷却水温度が所定温度範囲よりも低い(低温側閾値1よりも低い場合)、冷却水温度が所定温度範囲内となるまで分岐路のヒータで昇温する(
図2、
図9参照)ので、より短い時間で冷却水温度を所定温度範囲内にすることができる。
【0088】
また暖房運転の場合には、冷却水温度が所定温度範囲内の場合、ヒータを非通電(OFF)にするが分岐路にする(
図2、
図9参照)ことで、分岐路熱交換器47を用いて冷却水の熱を冷媒に伝えることで、暖房運転時の効率をより向上させることができる。なお冷房運転の場合には、ガスエンジン10の運転中は、循環路に維持する(
図3参照)。
【0089】
本発明の、ガスヒートポンプシステム1は、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、外観、処理手順等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0090】
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 ガスヒートポンプシステム
10 ガスエンジン
10h 排気経路
10p プーリ
10v ベルト
11 ラジエータ
12 ヒータ
20 循環路
21、22、23、24 配管
30 分岐路
31、32 分岐配管
33、34 分岐部
41a、41b、41c、41d 切替バルブ
42a、42b ウォータポンプ
43 温度検出装置
46 排ガス熱交換器
47 分岐路熱交換器
48 排気浄化装置
50 制御装置
51 運転開始・停止指示手段
52 暖房・冷房指示手段
53 温度指示手段
80 コンプレッサ
80a 冷媒経路
80p プーリ
81 室内熱交換器
82 膨張弁
83 室外熱交換器