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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123426
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】タイトジャンクション機能抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/756 20060101AFI20240905BHJP
   A61K 36/718 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 36/539 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 36/77 20060101ALI20240905BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20240905BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240905BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240905BHJP
【FI】
A61K36/756
A61K36/718
A61K36/539
A61K36/77
A61K8/9789
A61P43/00 111
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030827
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】池ノ内 順一
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 梓
(72)【発明者】
【氏名】原 真佐夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸治
(72)【発明者】
【氏名】石田 実咲
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD61
4B018ME07
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C088AB12
4C088AB32
4C088AB38
4C088AB62
4C088AC04
4C088AC06
4C088AC11
4C088AC13
4C088BA08
4C088BA10
4C088CA08
4C088MA52
4C088MA58
4C088MA63
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】有用成分の生体内への取り込みを促進し、短時間で効果が得られるタイトジャンクション機能抑制剤を提供すること。
【解決手段】オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物から選択される少なくとも1種を含み、抽出化合物の濃度が0.1質量体積%以下であるタイトジャンクション機能抑制剤。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、およびムクロジ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、抽出化合物の濃度が0.1質量体積%以下であるタイトジャンクション機能抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイトジャンクション機能抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
眼や皮膚、腸において、薬物送達の際に障壁となるのは、各組織のタイトジャンクションである。タイトジャンクションは、クローディンやオクルーディン等の膜タンパク質と、膜タンパク質に直接結合するZO-1等の裏打ちタンパク質から構成される細胞間接着装置である。細胞膜上では、クローディンが細胞接着部位に線状に重合し紐状のタイトジャンクションストランドという構造体を形成している。タイトジャンクションは、隣接する細胞を密着させ、細胞間の隙間を埋めることで、イオンや低分子化合物の細胞間隙を介した自由拡散を防ぐバリア機能を果たしている。
【0003】
これまでにタイトジャンクションの機能強化や形成促進に関する検討が行われている。例えば、特許文献1では、ユーカリ葉抽出物を上皮細胞に添加したところ、5時間でクローディンの重合を増強したことや、ユーカリ葉抽出物添加後に、経上皮電気抵抗値が上昇したことから、ユーカリ葉抽出物がタイトジャンクション形成を促進し、バリア機能を増強することが開示されている。また、特許文献2では、紫外線照射により経上皮電気抵抗値が低下したヒト正常表皮角化細胞において、オウバクの成分の一つであるベルベリンを1~25μmol/Lの濃度で添加することにより、経上皮電気抵抗値が改善し、タイトジャンクションのバリア機能を向上させたことが報告されている。
【0004】
一方、タイトジャンクションを抑制する化合物に関しても検討が行われている。以下の文献において、タイトジャンクションの抑制は、医薬品等の有用成分の吸収を促進することを目的としている。例えば、特許文献3では、インドメタシン、ジクロフェナク、バイカリンまたはバイカレインと蛍光標識物質の混合物を添加した上皮細胞シートで、蛍光標識物質の透過性が高くなったことから、インドメタシン等の化合物がタイトジャンクションを抑制させたことが開示されている。また、非特許文献1では、イチゴの赤色色素であるペラルゴニジンは、濃度依存的に経上皮電気抵抗値を低下させ、上皮細胞のZO-1およびオクルーディンを再形成し、タイトジャンクションを抑制させたことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-197217号公報
【特許文献2】特開2020-143024号公報
【特許文献3】特開2020-75877号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】PNAS, Nicholas G.Lamson, 2022, vol.119, no.33
【非特許文献2】European Journal of Pharmacology, Misaki Hisada, 2020, vol.887, no.15
【非特許文献3】ファルマシア,上南静佳,2022,第58巻,第7号,第727頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献3では、インドメタシン、ジクロフェナク、バイカリンまたはバイカレインを細胞に24時間作用させることでタイトジャンクションを抑制したことが報告されているものの、抑制の効果はあまり大きくなく、これらの化合物が、どのタイトジャンクション構成タンパク質に作用したのか明記されていない。非特許文献2では、バイカリンやバイカレインは、タイトジャンクション構成要素のうち、裏打ちタンパク質のZO-1に影響を及ぼし、バイカレインについては細胞の形状を変化させることが報告されている。また、非特許文献1では、ペラルゴニジンは膜タンパク質のオクルーディンだけでなく、裏打ちタンパク質のZO-1やアクチン線維の形成を阻害し、タイトジャンクションを抑制している。しかし、ZO-1は膜タンパク質と直接結合しているため、ZO-1の形成阻害は、他のタイトジャンクション構成要素の形成に影響を及ぼす可能性がある。さらに、非特許文献3では、ZO-1の形成阻害によるタイトジャンクションの抑制は、潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患を引き起こすことが報告されている。そのため、安全面からZO-1には作用せず、タイトジャンクション形成のコアとなる膜タンパク質のみに作用して、より短時間でタイトジャンクションを抑制させる物質が求められている。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであって、有用成分の生体内への取り込みを促進するための、安全かつ短時間で効果が得られるタイトジャンクション機能抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、およびムクロジ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、抽出化合物の濃度が0.1質量体積%以下であるタイトジャンクション機能抑制剤が、ZO-1には作用せず、クローディンやオクルーディン等の膜タンパク質にのみ作用することで、安全かつ短時間でタイトジャンクションを抑制させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
上記知見に基づく本発明は、以下の通りである。
オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、およびムクロジ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、抽出化合物の濃度が0.1質量体積%以下であるタイトジャンクション機能抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規のタイトジャンクション機能抑制剤を提供できる。本発明は、タイトジャンクションの機能を抑制させ、有用成分の取り込みを促進することができる。本発明は、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、マウス乳腺由来細胞上皮シートを用いた細胞間隙を介した物質透過性の結果を示したグラフである。
図2図2は、マウス乳腺由来培養上皮細胞のタイトジャンクションの構成要素を示す蛍光顕微鏡画像である。
図3図3は、マウス乳腺由来培養上皮細胞上皮シートを用いた経上皮電気抵抗値の結果を示したグラフである。
図4図4は、マウス乳腺由来培養上皮細胞のタイトジャンクション抑制の可逆性を示す蛍光顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイトジャンクション機能抑制剤は、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、およびムクロジ抽出物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、抽出化合物の濃度が0.1質量体積%以下である。
【0014】
本発明に用いられるオウバクは、ミカン科キハダ属に属する植物であり、学名はPhellodendron amurenseである。オウバクはキハダの周皮を除いた樹皮のことを指し、樹齢10~20年のキハダの木を伐採し、樹皮を剥いで得られる。
【0015】
本発明に用いられるオウレンは、キンポウゲ科オウレン属に属する植物であり、学名はCoptis japonicaである。本発明に用いられるオウレン抽出物は、オウレンのヒゲ根を取り除き、根茎を乾燥したものを使用する。
【0016】
本発明に用いられるオウゴンはシソ科タツミナソウ属に属する植物であり、学名はScutellaria baicalensisである。オウゴンは、コガネバナの根の周皮を取り除き、得られる。
【0017】
本発明に用いられるムクロジは、ムクロジ科ムクロジ属に属する植物であり、学名はSapindus mukorossiである。本発明に用いられるムクロジ抽出物は、ムクロジの果皮を使用する。
【0018】
本発明に用いられるオウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物およびムクロジ抽出物は、植物の抽出に利用される公知の抽出法によって得られた抽出液そのもの、もしくはその濃縮液をいう。
オウバク、オウレン、オウゴンおよびムクロジの抽出方法としては、浸漬抽出法、連続抽出法、水蒸気蒸留抽出法(常圧、減圧)、超臨界流体抽出法、圧搾抽出法等が挙げられるが、この中でも浸漬抽出法等の抽出溶媒を使用した抽出方法が好ましい。
以下、浸漬抽出法等の抽出溶媒を使用した抽出方法について、具体例を挙げて詳細に説明する。
浸漬抽出法の具体的な手順としては、オウバク末、オウレン末、オウゴン末またはムクロジの粉末を抽出溶媒に浸漬して抽出し、濾過等の公知の固液分離法によって各粉末と抽出液を分離する方法が挙げられる。なお、得られた各抽出物は、そのままタイトジャンクション機能抑制剤として利用するほか、抽出溶媒を蒸留して濃縮したり、カラムクロマトグラフィーや溶媒分画等の処理により、精製したりしてもよい。
また、抽出に使用するオウバク、オウレン、オウゴンおよびムクロジは、抽出効率を高めるために粗く粉砕されたものであることが好ましい。粉砕法としてはミキサー等があげられる。
【0019】
抽出溶媒の種類は、植物抽出に用いられる公知の溶媒を適宜選択することができるが、具体的なものとしてヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;ジエチルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のアルコール類;水等が挙げられる。なお、溶媒は2種類以上を組み合わせた混合溶媒であってもよい。これらの中でも、水、アルコール類、水とアルコール類の混合溶媒が好ましく、水、低級アルコール、多価アルコール、水と低級アルコールの混合溶媒、水と多価アルコールの混合溶媒がより好ましく、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール、水とエタノールの混合溶媒、水と1,3-ブチレングリコールの混合溶媒がさらに好ましい。ここで、低級アルコールとは、水酸基を一つ有するアルコールを意味し、多価アルコールとは、水酸基を二つ以上有するアルコールを意味する。
アルコール類を含む抽出溶媒であると、有効成分の抽出効率が高くなり、タイトジャンクション機能抑制作用に優れた各抽出物を得やすくなる。また、エタノール等の殺菌作用のある溶媒を含む抽出溶媒であると、腐敗が生じにくい抽出物を得ることができる。さらに、製造過程においては、抽出液の濃縮時間が短い、抽出後の容器の洗浄性に優れる等の利点がある。
【0020】
抽出溶媒が水を含む混合溶媒である場合の抽出溶媒における水の含有量は、通常1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上である。
抽出溶媒がアルコール類を含む混合溶媒である場合の抽出溶媒におけるアルコール類の含有量は、通常99体積%以下、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。
抽出溶媒が水とアルコール類の混合溶媒である場合、抽出溶媒におけるアルコール類の含有量は50体積%以上80体積%以下が好ましい。
オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物の抽出溶媒は、水とエタノールの混合溶媒(エタノール水溶液)が好ましい。
ムクロジ抽出物の抽出溶媒は、水と1,3―ブチレングリコールの混合溶媒(1,3―ブチレングリコール水溶液)が好ましい。
上記の範囲内であると、タイトジャンクション機能抑制作用に優れたオウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物を得やすくなる。
【0021】
抽出における抽出溶媒の使用量は、各粉末に対して質量換算で、通常10倍以上、好ましくは20倍以上である。上記の範囲内であると、タイトジャンクション機能抑制作用に優れたオウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物を得やすくなる。
【0022】
抽出温度は、抽出溶媒の種類等に応じて適宜選択されるべきであるが、通常0℃よりも大きく、好ましくは5℃以上、より好ましくは20℃以上100℃以下である。
抽出時間は、抽出温度等に応じて適宜選択されるべきであるが、通常1日以上、好ましくは2日以上、より好ましくは3日以上であり、通常1週間以下である。
【0023】
上記したオウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、およびムクロジ抽出物のそれぞれは、公知の抽出法により抽出された抽出化合物を少なくとも含むものである。該抽出化合物は、オウバク、オウレン、オウゴンおよびムクロジに含まれていた化合物であって、本発明のタイトジャンクション機能抑制剤の有効成分である。そして、抽出法として、抽出溶媒を使用する方法を選択した場合は、各抽出物は抽出溶媒を含むものとなる。したがって、抽出法として、抽出溶媒を使用する方法を選択した場合は、本発明のタイトジャンクション機能抑制剤は、抽出化合物と抽出溶媒とを含むものとなる。
【0024】
本発明のタイトジャンクション機能抑制剤における抽出化合物の濃度は、通常0.1質量体積%以下、好ましくは0.0065質量体積%以上0.05質量体積%以下、より好ましくは0.007質量体積%以上0.015質量体積%以下である。抽出化合物の濃度が0.001質量体積%未満であれば、タイトジャンクション機能抑制作用を示さない。抽出化合物の濃度が0.1質量体積%より大きいと、タイトジャンクション機能抑制作用が強く、細胞毒性を示す恐れがある。
オウバク抽出物の抽出化合物の濃度は、0.0065質量体積%以上0.01質量体積%以下が好ましい。
ムクロジ抽出物の抽出化合物の濃度は、0.0065質量体積%以上0.1質量体積%以下が好ましい。
なお、本明細書において質量体積%とは、溶液100mLに溶解している溶質の質量(g)を意味し、100×[溶質の質量(g)/溶液の体積(mL)]で表される。
【0025】
本発明のタイトジャンクション機能抑制剤は、上記のオウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物からなるものであり、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等として利用することができる。なお、本発明のタイトジャンクション機能抑制剤は、点眼用であっても、経口摂取用であっても、経皮摂取用であってもよい。さらに、本発明のタイトジャンクション機能抑制剤が経口摂取用である場合、その剤形は錠剤、顆粒、シロップ等の公知のものを適宜採用することができ、剤形に応じて公知の成分を適宜含むものであってもよい。経皮摂取用である場合、その剤形はローション、乳剤、ゲル、クリーム、粉末、顆粒、カプセル、シート、スプレー、エアゾール、ペースト、パック等の公知のものを適宜採用することができ、剤形に応じて公知の成分を適宜含むものであってもよい。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0027】
(実施例1)
[オウバク抽出物の作製]
乾燥したオウバク末((株)ウチダ和漢薬製)10gに、200gの50体積%エタノール水溶液を加えて室温で3日間抽出し、濾紙で濾過した。さらに4℃で24時間静置後、濾紙で濾過することによりオウバク抽出物を得た(固形分:0.79質量%)。このオウバク抽出物を10体積%FBS添加DMEM(以下、培地)で濃度1体積%に調整した(固形分:0.0079質量体積%)。
なお、実施例および比較例において固形分の濃度は、抽出化合物の濃度を意味する。
【0028】
(実施例2)
[オウレン抽出物の作製]
乾燥したオウレン末((株)ウチダ和漢薬製)10gに、200gの50体積%エタノール水溶液を加えて室温で3日間抽出し、濾紙で濾過した。さらに4℃で24時間静置後、濾紙で濾過することによりオウレン抽出物を得た(固形分:0.78質量%)。このオウレン抽出物を培地で濃度1体積%に調整した(固形分:0.0078質量体積%)。
【0029】
(実施例3)
[オウゴン抽出物の作製]
乾燥したオウゴン末((株)ウチダ和漢薬製)10gに、200gの50体積%エタノール水溶液を加えて室温で3日間抽出し、濾紙で濾過した。さらに4℃で24時間静置後、濾紙で濾過することによりオウゴン抽出物を得た(固形分:1.39質量%)。このオウゴン抽出物を培地で濃度1体積%に調整した(固形分:0.0139質量体積%)。
【0030】
(実施例4)
[ムクロジ抽出物の作製]
ミキサーで粉砕したムクロジの果皮10gに、200gの80体積%1,3―ブチレングリコール水溶液を加えて室温で3日間抽出し、濾紙で濾過した。さらに4℃で24時間静置後、濾紙で濾過することによりムクロジ抽出物を得た(固形分:10.27質量%)。このムクロジ抽出物を培地で濃度0.1体積%に調整した(固形分:0.0103質量体積%)。
【0031】
(実施例5)
実施例1で調製したオウバク抽出物を培地で濃度3.8体積%に調整した(固形分:0.03質量体積%)。
【0032】
(実施例6)
実施例2で調製したオウレン抽出物を培地で濃度3.8体積%に調整した(固形分:0.03質量体積%)。
【0033】
(実施例7)
実施例3で調製したオウゴン抽出物を培地で濃度2.2体積%に調整した(固形分:0.03質量体積%)。
【0034】
(実施例8)
実施例4で調製したムクロジ抽出物を培地で0.3体積%に調整した(固形分0.03質量体積%)。
【0035】
(実施例9)
実施例1で調製したオウバク抽出物を培地で10.1体積%に調整した(固形分0.08質量体積%)。
【0036】
(実施例10)
実施例2で調製したオウレン抽出物を培地で10.3体積%に調整した(固形分0.08質量体積%)。
【0037】
(実施例11)
実施例3で調製したオウゴン抽出物を培地で5.8体積%に調整した(固形分0.08質量体積%)。
【0038】
(実施例12)
実施例4で調製したムクロジ抽出物を培地で0.8体積%に調整した(固形分0.08質量体積%)。
【0039】
(比較例1)
ペラルゴニジン塩化物(富士フイルム和光純薬(株)製)を培地で濃度0.1体積%に調整した。
【0040】
(比較例2)
50体積%エタノールを使用した。
【0041】
(比較例3)
80体積%1,3-ブチレングリコールを使用した。
【0042】
(1)マウス乳腺由来上皮細胞を用いたタイトジャンクション機能抑制作用の評価
マウス乳腺由来上皮細胞(EpH4細胞)の上皮細胞シートで、150kDaのFITC-Dextranを用いて、細胞間隙を介した蛍光標識物質の透過性を評価した。上皮細胞シートのアピカル側から実施例1~12および比較例1~3の試料を添加後、上皮細胞シートを透過し、ベーサル側の培地中に到達したFITC-Dextranの蛍光強度を定量した。蛍光強度が、300000以上の場合を優良「◎」、250000以上300000未満の場合を良好「〇」、200000以上250000未満の場合を可「△」、200000未満の場合を不可「×」とした。
【0043】
結果を表1および図1に示す。なお、図1は実施例と比較例の代表的な例の蛍光標識物質の透過性の結果を示す。
比較例1~3と比較して、実施例1~12で蛍光標識物質の透過性が向上した。したがって、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物はタイトジャンクション機能抑制作用を及ぼすことを確認した。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)EpH4細胞を用いたタイトジャンクション機能抑制作用の評価
24wellプレート(Thermo Scientific Nunc製)の底面にガラスプレートを置き、培地でEpH4細胞をコンフルエントになるまで培養した。そこへ、実施例1~12および比較例1~3の試料を添加し、6時間培養したときのタイトジャンクションの構成要素の分布を観察した。クローディン以外の膜タンパク質やZO-1には作用せず、クローディン7にのみ作用し、その障害の程度が強い場合を優良「◎」、ZO-1には作用しないが、クローディン以外の膜タンパク質にも作用し、障害の程度が強い場合を良好「○」、クローディン7の障害の程度が低い場合を可「△」、クローディン7を障害しない場合や、ZO-1に作用する場合を不可「×」とした。
【0046】
結果を表2および図2に示す。なお、図2には実施例と比較例の代表的な例の蛍光顕微鏡観察の結果を示す。比較例1~3と比較し、実施例1~3および5~7は、クローディン7のみが減弱した。実施例4、8では、ZO-1は減弱せず、クローディン7以外のオクルーディンやJAM-Aが減弱した。これより、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物はZO-1には作用せず、膜タンパク質のみに作用し、タイトジャンクション機能抑制作用を及ぼすことを確認した。
【0047】
【表2】
【0048】
(3)EpH4細胞上皮シートを用いた経上皮電気抵抗値の評価
タイトジャンクションのバリア機能の定量法の一つである経上皮電気抵抗値(trans-epitheliai electrical resistance、TER)法を用いて、細胞間隙における物質透過性を定量した。EpH4細胞の上皮細胞シートに、実施例1~12および比較例1~3の試料を添加し、添加24時間後のTERをcellZscope(登録商標)((株)セルシード製)を用いて測定した。試料添加24時間後の経上皮電気抵抗値が80Ω・cm以下の場合をタイトジャンクション機能抑制作用が優良「◎」、80Ω・cmより大きく90Ω・cm以下の場合を良好「○」、90Ω・cmより大きく100Ω・cm以下の場合を可「△」、100Ω・cmより大きい場合を不可「×」とした。
【0049】
結果を表3および図3に示す。図3には実施例および比較例の代表的な例のTERの結果を示す。比較例1~3と比較して、実施例1~12では試料添加後TERが低下し、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物は、タイトジャンクション機能抑制作用を及ぼすことを確認した。
【0050】
【表3】
【0051】
(4)EpH4細胞を用いたタイトジャンクション機能抑制作用の可逆性の評価
EpH4細胞を用いて、タイトジャンクション機能抑制作用の可逆性について評価した。(2)の試験と同様の方法で、EpH4細胞を培養した。そこへ、実施例1~12および比較例1~3の試料を添加し6時間培養した。その後、試料を培地に戻して6時間培養し、培地置換直後、1時間後、3時間後、4時間半後、6時間後のタイトジャンクションの形態の様子を評価した。抑制されたタイトジャンクションが培地置換3時間後に回復した場合を優良「◎」、培地置換4時間半後に回復した場合を良好「○」、培地置換6時間後に回復した場合を可「△」、回復しなかった場合もしくは試料添加によりタイトジャンクションを抑制しなかった場合を不可「×」とした。
【0052】
結果を表4、図4に示す。図4には実施例1および比較例2の結果を示す。図4に示すとおり、実施例1において、培地置換1時間後では、タイトジャンクションの形態は培地置換直後と変わらず、タイトジャンクションの断片化や細胞内顆粒の形成がみられた。しかし、培地置換3時間後以降ではタイトジャンクションの形態が正常に回復しているのを確認した。これより、タイトジャンクション機能抑制作用は可逆的であることを確認した。
【0053】
【表4】
【0054】
以上の評価試験で得られた結果をまとめたものを表5に示す。これらの結果から、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オウゴン抽出物、ムクロジ抽出物はタイトジャンクション機能抑制作用を示し、その作用は可逆的であることを示す。
【0055】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、有用成分の生体内への取り込みを促進するための、安全かつ短時間で効果が得られるタイトジャンクション機能抑制剤を得ることができる。そのタイトジャンクション機能抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等に利用できる。
図1
図2
図3
図4