(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123427
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電力システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/46 20060101AFI20240905BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20240905BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240905BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20240905BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/32
H02J3/38 110
H02M7/493
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030828
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】北村 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066HA15
5G066HB03
5G066HB09
5G066JA02
5G066JB03
5H770AA29
5H770BA11
5H770HA03W
5H770HA04Y
(57)【要約】
【課題】複数のインバータの分散的な制御が可能である電力システムを提供する。
【解決手段】電力システムS1は、各々が蓄電池9を接続され且つ負荷Lに電力を供給する複数のインバータ装置Aを備える。複数のインバータ装置Aの各々は、有効電力出力を計測する第1計測部11と、蓄電池9の充電率である個別充電率を計測する第2計測部12と、有効電力出力の平均値である出力平均値を算出する出力平均算出部31および個別充電率の平均値である充電率平均値を算出する充電率平均算出部32を含む処理部3と、有効電力目標値を設定する設定部4と、出力電力を制御する制御部5と、を備える。設定部4は、充電率平均値と個別充電率との差である充電率差分を算出する充電率差分算出部41と、出力平均値と自装置の定格出力との差である補正幅を算出する補正幅算出部42と、充電率差分および補正幅を用いて、有効電力目標値を算出する目標算出部43と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が蓄電池を接続され、且つ負荷に電力を供給する複数のインバータ装置を備え、
前記複数のインバータ装置の各々は、
有効電力出力を計測する第1計測部と、
前記蓄電池の充電率である個別充電率を計測する第2計測部と、
前記複数のインバータ装置の各々で計測された有効電力出力の平均値である出力平均値を算出する出力平均算出部、および、前記複数のインバータ装置の各々で計測された前記個別充電率の平均値である充電率平均値を算出する充電率平均算出部を含む処理部と、
前記有効電力出力の目標値である有効電力目標値を設定する設定部と、
前記有効電力出力の計測値および前記有効電力目標値に基づいて、出力電力を制御する制御部と、
を備え、
前記設定部は、
前記充電率平均値と自装置の前記個別充電率との差である充電率差分を算出する充電率差分算出部と、
前記出力平均値と自装置の定格出力との差である補正幅を算出する補正幅算出部と、
前記充電率差分および前記補正幅を用いて、前記有効電力目標値を算出する目標算出部と、
を含む電力システム。
【請求項2】
前記設定部は、前記有効電力目標値をPref、前記出力平均値をPavg、前記定格出力をPmax、前記個別充電率をSoCme、前記充電率平均値をSoCavg、αをゲインとして、下記(1)式を演算することで、前記有効電力目標値を算出する、請求項1に記載の電力システム。
【数1】
【請求項3】
前記複数のインバータ装置の各々は、前記複数のインバータ装置のうちの少なくとも1つの他のインバータ装置と通信を行う通信部をさらに備え、
前記複数のインバータ装置の通信接続状態は、連結状態であり、
前記出力平均算出部および前記充電率平均算出部は、前記他のインバータ装置と通信して、前記出力平均値および前記充電率平均値をそれぞれ算出する、請求項1または請求項2に記載の電力システム。
【請求項4】
前記出力平均算出部は、前記有効電力出力に基づく有効電力内部値を生成し、
前記通信部は、生成した有効電力内部値を、前記他のインバータ装置に送信し、且つ、前記他のインバータ装置から当該インバータ装置の有効電力内部値を受信し、
前記出力平均算出部は、生成した有効電力内部値と受信した有効電力内部値とに基づく演算結果を用いて、新たな有効電力内部値を生成する第1演算処理を行い、
前記有効電力内部値は、前記第1演算処理が繰り返されることで、前記出力平均値に収束する、請求項3に記載の電力システム。
【請求項5】
前記充電率平均算出部は、前記充電率に基づく充電率内部値を生成し、
前記通信部は、生成した充電率内部値を、前記他のインバータ装置に送信し、且つ、前記他のインバータ装置から当該インバータ装置の充電率内部値を受信し、
前記充電率平均算出部は、生成した充電率内部値と受信した充電率内部値とに基づく演算結果を用いて、新たな充電率内部値を生成する第2演算処理を行い、
前記充電率内部値は、前記第2演算処理が繰り返されることで、前記充電率平均値に収束する、請求項3に記載の電力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力システムには、電力系統の異常時(例えば停電時)において、電力系統から解列して、自立運転を行うものがある。自立運転を行う電力システムは、分散型電源を備えており、自立運転時において、電力系統からの電力の供給を受けずに、分散型電源から得られた電力を負荷に供給する。例えば、分散型電源として複数の蓄電池を並列して用いる場合がある。このような複数の蓄電池を並列運用する電力システムでは、各蓄電池の充電率の上下限に到達しないような技術が必要とされている。例えば、複数の蓄電池のうちのある蓄電池において、充電率下限まで放電すると、充電することは可能であるが放電することができなくなる。このような場合、当該蓄電池からの電力出力が不可能となるため、負荷の消費電力に対して出力の足りないリスクがある。例えば、特許文献1には、複数の蓄電池の充電残量を管理する電力システムが開示されている。特許文献1に記載の電力システム(蓄電池システム)は、2つのインバータ、2つの蓄電池および蓄電池監視制御装置を備える。2つのインバータおよび2つの蓄電池は、蓄電池監視制御装置により充電および放電が個別に制御される。蓄電池監視制御装置は、それぞれの蓄電池の充電量を取得し、各インバータに充放電指令を送り、充電または放電を個別に制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-189045号公報
【特許文献2】特開2015-166901号公報
【特許文献3】特開2020-150690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電力システムでは、蓄電池監視制御装置が、各インバータに対する充放電指令をそれぞれ算出するため、当該蓄電池監視制御装置に負荷が集中する。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、複数のインバータの分散的な制御が可能である電力システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によって提供される電力システムは、各々が蓄電池を接続され、且つ負荷に電力を供給する複数のインバータ装置を備え、前記複数のインバータ装置の各々は、有効電力出力を計測する第1計測部と、前記蓄電池の充電率である個別充電率を計測する第2計測部と、前記複数のインバータ装置の各々で計測された有効電力出力の平均値である出力平均値を算出する出力平均算出部、および、前記複数のインバータ装置の各々で計測された前記個別充電率の平均値である充電率平均値を算出する充電率平均算出部を含む処理部と、前記有効電力出力の目標値である有効電力目標値を設定する設定部と、前記有効電力出力の計測値および前記有効電力目標値に基づいて、出力電力を制御する制御部と、を備え、前記設定部は、前記充電率平均値と自装置の前記個別充電率との差である充電率差分を算出する充電率差分算出部と、前記出力平均値と自装置の定格出力との差である補正幅を算出する補正幅算出部と、前記充電率差分および前記補正幅を用いて、前記有効電力目標値を算出する目標算出部と、を含む。
【0007】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記設定部は、前記有効電力目標値をPref、前記出力平均値をPavg、前記定格出力をPmax、前記個別充電率をSoCme、前記充電率平均値をSoCavg、αをゲインとして、下記(1)式を演算することで、前記有効電力目標値を算出する。
【数1】
【0008】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記複数のインバータ装置の各々は、前記複数のインバータ装置のうちの少なくとも1つの他のインバータ装置と通信を行う通信部をさらに備え、前記複数のインバータ装置の通信接続状態は、連結状態であり、前記出力平均算出部および前記充電率平均算出部は、前記他のインバータ装置と通信して、前記出力平均値および前記充電率平均値をそれぞれ算出する。
【0009】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記出力平均算出部は、前記有効電力出力に基づく有効電力内部値を生成し、前記通信部は、生成した有効電力内部値を、前記他のインバータ装置に送信し、且つ、前記他のインバータ装置から当該インバータ装置の有効電力内部値を受信し、前記出力平均算出部は、生成した有効電力内部値と受信した有効電力内部値とに基づく演算結果を用いて、新たな有効電力内部値を生成する第1演算処理を行い、前記有効電力内部値は、前記第1演算処理が繰り返されることで、前記出力平均値に収束する。
【0010】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記充電率平均算出部は、前記充電率に基づく充電率内部値を生成し、前記通信部は、生成した充電率内部値を、前記他のインバータ装置に送信し、且つ、前記他のインバータ装置から当該インバータ装置の充電率内部値を受信し、前記充電率平均算出部は、生成した充電率内部値と受信した充電率内部値とに基づく演算結果を用いて、新たな充電率内部値を生成する第2演算処理を行い、前記充電率内部値は、前記第2演算処理が繰り返されることで、前記充電率平均値に収束する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の電力システムでは、複数のインバータ装置の各々が、有効電力目標値を算出して、当該有効電力目標値に基づいて出力電力を制御する。したがって、本開示の電力システムによれば、複数のインバータの分散的な制御が可能となる。
【0012】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る電力システムの全体構成例を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る電力システムの通信接続をグラフで表現した図である。
【
図3】一実施形態に係る電力システムのインバータ装置の詳細な構成例を示した図である。
【
図4】一実施形態に係る電力システムの補正幅による制限を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の電力システムの好ましい実施の形態について、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、一実施形態に係る電力システムS1の全体構成例を示している。同図に示すように、電力システムS1は、n(nは自然数)台のインバータ装置Aを備える。
図1に示す例では、電力システムS1は、5台のインバータ装置Aを備える。5台のインバータ装置Aを互いに区別する場合、インバータ装置A1~A5という。
図1において、太線は電力接続線を示しており、点線矢印はインバータ装置A同士で通信を行っていることを示している。
図1に示すように、電力システムS1は、複数のインバータ装置A(A1~A5)が互いに電気的に並列に接続されている。電力システムS1は、電力系統Kから解列された状態において自立運転(非連系運転)を行う。電力システムS1は、複数のインバータ装置Aの各々が、協調的かつ分散的に動作することによって、自立運転の制御を行う。自立運転中は、複数のインバータ装置Aから負荷Lに電力が供給される。
【0016】
図1に示すように、複数のインバータ装置Aにはそれぞれ、蓄電池9が接続されている。各インバータ装置Aは、蓄電池9に蓄積された電力を、適宜変換して、出力する。本開示において、複数の蓄電池9の各定格容量は、互いに同じである。
【0017】
複数のインバータ装置Aはそれぞれ、他のインバータ装置Aの中の少なくとも1つと通信可能である。
図2は、複数のインバータ装置Aの通信接続状態を、グラフとして表現したものである。
図2の各グラフにおいて、5つの頂点がそれぞれ5台のインバータ装置A1~A5を表し、矢印付きの辺が各インバータ装置A間の通信状態を表している。各辺は相互通信を行うことを示している。電力システムS1は、複数のインバータ装置A同士が、例えば
図2(a)に示す接続関係で通信する。
図2(a)に示すように、当該グラフの任意の2つの頂点(インバータ装置A)に対して通信経路が存在しているので、当該グラフは連結である。電力システムS1における、各インバータ装置Aの通信は、
図2(a)に示す接続関係に限定されず、
図2(b),(c)に示す接続関係であってもよい。
図2(b),(c)に示すグラフも連結である。このように、各インバータ装置Aが、複数のインバータ装置Aのうち、少なくとも1つのインバータ装置Aと相互通信を行っており、電力システムS1のうちの任意の2つのインバータ装置Aに対して通信経路が存在している状態(連結状態)であればよく、すべてのインバータ装置Aが相互に通信を行っている必要はない。また、
図2(d)に示すように、2つのインバータ装置A1,A4が休止中は、3つのインバータ装置A2,A3,A5で通信してもよい。この場合、3台のインバータ装置A2,A3,A5により、自立運転の制御を行う。
【0018】
図3は、複数のインバータ装置Aの各々の詳細な構成例を示している。同図に示すように、複数のインバータ装置Aはそれぞれ、第1計測部11、第2計測部12、通信部2、処理部3、設定部4、制御部5、取得部6、および、インバータ回路INVを備える。以下では、複数のインバータ装置Aのうちのいずれか1つを対象に説明する。説明対象のインバータ装置Aを対象のインバータ装置Aということがある。なお、以下で説明する第1計測部11、第2計測部12、通信部2、処理部3、設定部4、制御部5、取得部6、および、インバータ回路INVはそれぞれ、特段の断りがない限り、各インバータ装置Aで共通する。
【0019】
第1計測部11は、対象のインバータ装置Aの有効電力の出力値を計測する。第1計測部11は、計測した有効電力の出力値を、有効電力計測値Poutとして、処理部3および制御部5のそれぞれに出力する。
【0020】
第2計測部12は、対象のインバータ装置A(インバータ回路INV)に接続される蓄電池9の充電率(SoC:State of Charge)を計測する。第2計測部12は、計測した充電率を、個別充電率SoCmeとして、処理部3および設定部4のそれぞれに出力する。
【0021】
通信部2は、他のインバータ装置Aとの通信を行う。通信方法は、無線通信であってもよいし、有線通信であってもよい。通信部2は、送信部21および受信部22を含む。送信部21は、処理部3から内部値を入力され、入力された内部値を通信可能な他のインバータ装置Aに送信する。受信部22は、通信可能な他のインバータ装置Aから内部値を受信し、受信した内部値を処理部3に出力する。内部値についての詳細は、後述する。
【0022】
取得部6は、対象のインバータ装置Aのインバータ回路INVの定格出力を取得する。定格出力の情報は、例えば図示しない記憶部に記憶されている。取得部6は、取得した定格出力の情報を、設定部4に出力する。
【0023】
処理部3は、電力システムS1の電気的な状態および物理的な状態を表す状態値を算出する。この状態値は、各インバータ装置Aが分散的かつ協調的な自立運転制御を行うためのものである。本実施形態では、処理部3が算出する状態値には、各インバータ装置Aの有効電力出力の平均値(出力平均値)および各インバータ装置Aに接続された蓄電池9の充電率の平均値(充電率平均値)が含まれる。つまり、処理部3は、出力平均値および充電率平均値をそれぞれ算出する。出力平均値および充電率平均値はそれぞれ、有効電力出力の目標値である有効電力目標値を設定部4が設定する際に用いられる。処理部3は、状態値を算出するために、各インバータ装置Aにおける内部値を生成する。処理部3は、送信部21を介して、生成した内部値を他のインバータ装置に送信し、受信部22を介して、他のインバータ装置Aから内部値を受信する。処理部3は、生成した内部値Xiと受信部22が受信した各内部値Xjとを用いた下記(2)式の演算を行い、新たな内部値Xiを生成する。内部値Xiは、対象のインバータ装置A(i番目のインバータ装置A)で生成された内部値であり、iは1~nの自然数である。内部値Xjは、他のインバータ装置Aの中のj番目のインバータ装置Aから受信する内部値であり、jは1~n-1の自然数である。係数εは、0<ε<1/dmaxを満たす値である。dmaxは、複数のインバータ装置Aの中で、一番多くの他のインバータ装置Aと通信を行っているものの、受信部22が受信する内部値Xjの数である。係数εは、内部値Xiの変動が大きくなりすぎることを抑制するために、用いられるものであり、処理部3での処理が連続時間処理の場合は、係数εを乗算する必要はない。係数αijは、「1」か「0」が設定される。受信部22が受信した内部値Xjに対して係数αijは「1」が設定され、受信しない内部値Xjに対して係数αijは「0」が設定される。処理部3は、この下記(2)式の演算処理を繰り返し行う。この演算処理の繰り返しにより、内部値Xiと内部値Xjとが、各インバータ装置Aで生成された内部値Xiの初期値の相加平均値に収束する。このことは、特許文献2に記載の技術思想から理解される。本実施形態では、内部値は、有効電力出力に基づく有効電力内部値および充電率に基づく充電率内部値を含む。処理部3は、出力平均算出部31および充電率平均算出部32を含む。
【数2】
【0024】
出力平均算出部31は、有効電力内部値を生成する演算処理(第1演算処理)を繰り返し行うことで、有効電力出力の平均値(出力平均値)を算出する。出力平均算出部31は、第1計測部11から入力される有効電力計測値Poutを、有効電力内部値の初期値として、設定する。この初期値は、第1計測部11での有効電力計測値が更新された時に更新される。有効電力計測値が更新されたインバータ装置Aでは、更新された有効電力計測値Pout(t)と前回の有効電力計測値Pout(t-1)との差分を、有効電力内部値Piに加算することで、有効電力内部値が更新された初期値になる。第1演算処理では、出力平均算出部31は、生成した有効電力内部値Piと、受信部22から入力される各有効電力内部値Pjとに基づく演算結果を用いて、新たな有効電力内部値Piを生成する。具体的には、第1演算処理では、上記(2)式において、有効電力内部値Piを内部値Xiとして用い、且つ、有効電力内部値Pjを内部値Xjとして用いた演算を行う。新たに生成された有効電力内部値Piは、送信部21に出力されるとともに、次回の第1演算処理に用いられる。このような第1演算処理が繰り返されることで、有効電力内部値は、複数のインバータ装置Aの有効電力出力の相加平均値に収束する。出力平均算出部31は、収束した有効電力内部値を、出力平均値として、設定部4に出力する。
【0025】
充電率平均算出部32は、充電率内部値を生成する演算処理(第2演算処理)を繰り返し行うことで、充電率の平均値(充電率平均値)を算出する。充電率平均算出部32は、第2計測部12から入力される個別充電率SoCmeを、充電率内部値の初期値として、設定する。この初期値は、第2計測部12での個別充電率SoCmeが更新された時に更新される。個別充電率が更新されたインバータ装置Aでは、更新された個別充電率SoCme(t)と前回の個別充電率SoCme(t-1)との差分を、充電率内部値に加算することで、充電率内部値が更新された初期値になる。第2演算処理では、充電率平均算出部32は、生成した充電率内部値Uiと、受信部22から入力される各充電率内部値Ujとに基づく演算結果を用いて、新たな充電率内部値を生成する。例えば、第2演算処理では、上記(2)式において、充電率内部値Uiを内部値Xiとして用い、且つ、充電率内部値Ujを内部値Xjとして用いた演算を行う。新たに生成された充電率内部値Uiは、送信部21に出力されるとともに、次回の第2演算処理に用いられる。このような第2演算処理が繰り返されることで、充電率内部値は、複数の蓄電池9の充電率の相加平均値に収束する。充電率平均算出部32は、収束した充電率内部値を、充電率平均値として、設定部4に出力する。
【0026】
設定部4は、自装置における有効電力出力の目標値(有効電力目標値)を設定する。設定部4は、下記(3)式の演算を行い、有効電力目標値を算出する。下記(3)式において、Prefは有効電力目標値、Pavgは出力平均値(abs(Pavg)は出力平均値の絶対値)、Pmaxは定格出力、SoCmeは個別充電率(接続される蓄電池9の現在の充電率)、SoCavgは充電率平均値、αはゲイン係数をそれぞれ示す。ゲイン係数αは、例えば0≦α≦1を満たす値が設定されるが、1より大きい値であってもよい。本開示では、ゲイン係数αは1である。また、下記(3)式において、SoCme-SoCavgは、後述の充電率差分に相当し、Pmax-abs(Pavg)は、後述の補正幅に相当する。設定部4は、下記(3)式の演算を行うために、充電率差分算出部41、補正幅算出部42および目標算出部43を含む。
【数3】
【0027】
充電率差分算出部41は、充電率平均値SoCavgと、自装置に接続された蓄電池9の充電率(個別充電率SoCme)との差分である充電率差分を算出する。よって、充電率差分算出部41は、上記(3)式のSoCme-SoCavgの演算を行う。充電率差分算出部41は、算出した充電率差分を、目標算出部43に出力する。
【0028】
補正幅算出部42は、対象のインバータ装置A(インバータ回路INV)の定格出力Pmaxと、出力平均値Pavgの絶対値との差分である補正幅を算出する。よって、補正幅算出部42は、上記(3)式のPmax-abs(Pavg)の演算を行う。補正幅算出部42は、算出した補正幅を、目標算出部43に出力する。なお、インバータ装置A(インバータ回路INV)の定格出力Pmaxには、放電時の定格出力(放電定格)と充電時の定格出力(充電定格)とがある。本開示において、各インバータ装置Aで、放電定格と充電定格とは、同じ大きさである。また、本開示において、複数のインバータ装置Aにおいて、定格出力Pmaxは、互いに同じ大きさである。
【0029】
目標算出部43は、出力平均値Pavg、充電率差分および補正幅を用いて、有効電力目標値Prefを算出する。具体的には、目標算出部43は、Pavg-α×(補正幅×充電率差分)/100の演算を行う。このように、電力システムS1では、充電率差分および補正幅を考慮して、有効電力目標値Prefを算出しており、充電率差分を考慮することで、各蓄電池9における充電率の偏差が小さくなるように制御され、補正幅を考慮することで、有効電力目標値Prefが補正幅の範囲内に制限される。
【0030】
図3は、補正幅による制限のイメージを示している。
図3(a),(b)は、各インバータ装置Aの出力平均値が放電を示す値(
図3において0よりも大きい値)である状態を示しており、矢印で示す範囲が補正幅である。また、
図3(a)は、負荷Lの消費電力が相対的に低い状態を、
図3(b)は、負荷Lの消費電力が相対的に高い状態をそれぞれ示している。
【0031】
先述の通り、補正幅は、対象のインバータ装置Aの定格出力Pmaxと、出力平均値Pavgの絶対値との差分で算出される。この補正幅を上記有効電力目標値Prefの算出に用いることで、算出される有効電力目標値Prefは、出力平均値から、充電定格あるいは放電定格のうちの近い方までの範囲と、出力平均値から、先述の範囲と同じ大きさを充電定格あるいは放電定格のうちの遠い方に広げた範囲とに制限される。
図3(a),(b)に示す例では、出力平均値が放電を示す値であるため、有効電力目標値Prefは、出力平均値から放電定格までの大きさを、出力平均値を基準に放電定格方向(
図3の右方向)および充電定格方向(
図3の左方向)のそれぞれに範囲を取ったものに制限される。また、
図3(a)では、負荷Lの消費電力が相対的に低い状態であるので、各インバータ装置Aの出力平均値が小さく(0に近い)、放電定格との差(補正幅)が大きい。一方、
図3(b)では、負荷Lの消費電力が相対的に高い状態であるので、各インバータ装置Aの出力平均値が大きく、放電定格との差(補正幅)が小さい。つまり、
図3(b)に示す補正幅では、
図3(a)に示す補正幅よりも、有効電力目標値Prefの値の制限が厳しい。
【0032】
設定部4は、充電率差分算出部41、補正幅算出部42および目標算出部43により上記(3)式の演算を行い、その演算結果を有効電力目標値Prefとして設定する。そして、設定した有効電力目標値Prefを制御部5に出力する。なお、設定部4の構成は、上記した例に限定されない。
【0033】
制御部5は、有効電力計測値Poutが有効電力目標値Prefとなるように、インバータ回路INVの出力電力を制御する。インバータ回路INVは、蓄電池9と第1計測部11との間に配置される。インバータ回路INVは、蓄電池9から入力される直流電力を交流電力に変換して他のインバータ装置Aまたは負荷Lに出力する。また、インバータ回路INVは、他のインバータ装置Aから入力される交流電力を直流電力に変換して蓄電池9に出力する。インバータ回路INVは、例えば単相フルブリッジ型のPWM制御インバータであり、複数のスイッチング素子を備える。インバータ回路INVは、制御部5から入力される駆動信号によって各スイッチング素子をスイッチングさせることで、直流電力と交流電力との変換を行う。インバータ回路INVは、直流-交流変換を行うものであればよく、例えばハーフブリッジ型であってもよいし、その他の構成のインバータ回路であってもよい。
【0034】
電力システムS1では、各インバータ装置Aは、有効電力出力の平均値である出力平均値および個別充電率の平均値である充電率平均値を算出する。そして、出力平均値と、充電率差分(充電率平均値と個別充電率との差)と、補正幅(出力平均値と定格出力との差)とを用いて、有効電力目標値を算出する。この構成によれば、各インバータ装置Aは、充電率平均値と個別充電率との差(充電率差分)により有効電力目標値を調整するので、各蓄電池9の充電率の偏りを減らすことができる。このとき、各インバータ装置Aは、出力平均値と定格出力との差(補正幅)により有効電力目標値を調整するので、現在の負荷Lの出力状況をもとに出力電力に制限を加え、出力電力が定格出力を超えることを抑制できる。したがって、電力システムS1は、複数のインバータ装置Aを管理する管理システムを用いることなく、複数のインバータ装置Aの分散的な電力制御を行うことができる。
【0035】
電力システムS1では、設定部4は、上記(3)式の演算により、有効電力目標値を算出する。この構成によれば、各インバータ装置Aにおいて、出力平均値を、充電率差分(充電率平均値と個別充電率との差)および補正幅(出力平均値と定格出力との差)で補正することで、有効電力目標値が算出される。したがって、各インバータ装置Aは、定格出力および接続される蓄電池9の充電状態を考慮した有効電力目標値を算出することができる。
【0036】
電力システムS1では、複数のインバータ装置Aの通信接続状態は、連結状態であり、且つ、各インバータ装置Aは、複数のインバータ装置Aのうちの少なくとも1つの他のインバータ装置Aとの通信により、出力平均値および充電率平均値を算出する。この構成によれば、電力システムS1は、複数のインバータ装置Aを管理する管理システムを用いることなく、複数のインバータ装置A間の通信により、有効電力目標値を算出するための値(例えば出力平均値および充電率平均値)を得ることができる。
【0037】
電力システムS1では、出力平均算出部31は、有効電力内部値を用いた上記第1演算処理を繰り返し行うことで、出力平均値を算出する。この構成によれば、各インバータ装置Aが、分散的に出力平均値を算出することができるので、複数のインバータ装置Aでの演算負荷の偏りを抑制できる。この演算負荷の偏りを抑制することは、電力システムS1における電力制御を、各インバータ装置Aが分散的に行う上で好ましい。
【0038】
電力システムS1では、充電率平均算出部32は、充電率内部値を用いた上記第2演算処理を繰り返し行うことで、充電率平均値を算出する。この構成によれば、各インバータ装置Aが、分散的に充電率平均値を算出することができるので、複数のインバータ装置Aでの演算負荷の偏りを抑制できる。この演算負荷の偏りを抑制することは、電力システムS1における電力制御を、各インバータ装置Aが分散的に行う上で好ましい。
【0039】
上記実施形態と異なる構成において、出力平均算出部31は、次のように出力平均値を算出してもよい。例えば、複数のインバータ装置Aのいずれか1つ(以下「対象インバータ装置Ax」という)が、他のインバータ装置Aの各々との通信により、各インバータ装置Aの有効電力出力の値を受信する。そして、対象インバータ装置Axの出力平均算出部31は、すべての有効電力出力(自装置の有効電力出力を含む)の値の総和を、複数のインバータ装置Aの台数で除算することで、出力平均値を算出する。その後、対象インバータ装置Axは、算出した出力平均値を他のインバータ装置Aに送信することで、複数のインバータ装置Aで出力平均値が共有される。ただし、複数のインバータ装置Aでの演算負荷の偏りを抑制する上では、有効電力内部値を用いた第1演算処理を繰り返し行うことによって、出力平均値を算出することが好ましい。
【0040】
上記実施形態と異なる構成において、充電率平均算出部32は、次のように充電率平均値を算出してもよい。例えば、複数のインバータ装置Aのいずれか1つ(対象インバータ装置Ax)が、他のインバータ装置Aの各々との通信により、各蓄電池9の充電率の値を受信する。そして、対象インバータ装置Axの充電率平均算出部32は、すべての充電率(自装置に接続される蓄電池9の充電率を含む)の値の総和を、複数のインバータ装置Aの台数で除算することで、充電率平均値を算出する。その後、対象インバータ装置Axは、算出した充電率平均値を他のインバータ装置Aに送信することで、複数のインバータ装置Aで充電率平均値が共有される。ただし、複数のインバータ装置Aでの演算負荷の偏りを抑制する上では、充電率内部値を用いた上記第2演算処理を繰り返し行うことによって、充電率平均値を算出することが好ましい。
【0041】
上記実施形態と異なる構成であって、系統連系運転を行う電力システムにも、本開示の各インバータ装置Aの分散制御を、適用することが可能である。
【0042】
上記実施形態と異なる構成であって、特許文献3に記載の、処理装置と複数のインバータ装置Aとが協調して電力制御する電力システムにも、本開示の各インバータ装置Aの分散制御を、適用することが可能である。この例においては、例えば、処理装置は、調整対象電力(例えば接続点電力)と当該調整対象電力の目標電力とを用いた演算により、各インバータ装置Aで共通の誘導指令値を算出する。処理装置は、各インバータ装置Aと通信可能であり、算出した誘導指令値を各インバータ装置Aに送信する。各インバータ装置Aは、誘導指令値を受信し、受信した誘導指令値を用いた最適化問題に基づいて、出力目標値を算出する。この時、算出した出力目標値を、上記充電率差分および上記補正幅により補正する。例えば、各インバータ装置Aは、特許文献3の電力制御装置と同様に、評価関数から導出される演算式により出力目標値を算出する。そして、算出した出力目標値を、上記充電差分および上記補正幅による各範囲内となるように補正する。これにより、各インバータ装置Aは、各蓄電池の充電率の偏りを減らしつつ、出力電力が定格出力を超えることを抑制できる。また、このような変形例においては、処理装置は、各インバータ装置Aで共通の誘導指令値を算出するだけであり、各インバータ装置Aに対する充放電指令をそれぞれ算出する必要がない。つまり、処理装置に演算負荷が集中することを抑制できる。
【0043】
本開示に係る電力システムは、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示の電力システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0044】
S1:電力システム、A:インバータ装置、2:通信部、3:処理部、4:設定部、5:制御部、9:蓄電池、11:第1計測部、12:第2計測部、31:出力平均算出部、32:充電率平均算出部、41:充電率差分算出部、42:補正幅算出部、43:目標算出部、L:負荷