(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123438
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】磁気デバイス及び磁気記憶デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 50/10 20230101AFI20240905BHJP
H10B 61/00 20230101ALI20240905BHJP
H10N 50/85 20230101ALI20240905BHJP
【FI】
H10N50/10 Z
H10B61/00
H10N50/85
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030853
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 梨菜
(72)【発明者】
【氏名】杉山 英行
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】グエンビェット バオ
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA06
4M119AA11
4M119AA19
4M119BB01
4M119DD03
4M119DD05
4M119DD06
4M119DD09
4M119DD37
4M119DD42
4M119DD54
4M119EE22
4M119EE27
5F092AA10
5F092AA11
5F092AA12
5F092AB07
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5F092BB10
5F092BB23
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5F092BB36
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5F092BB53
5F092BC12
5F092BC14
5F092BE23
5F092BE25
5F092BE27
(57)【要約】
【課題】トンネルバリア層の絶縁耐圧を高めることによって、特性を向上させることを可能にした磁気デバイスを提供する。
【解決手段】実施形態の磁気デバイスは、第1の磁性体と、第2の磁性体と、第1の磁性体と第2の磁性体との間に配置された非磁性体とを具備する。実施形態の磁気デバイスにおいて、非磁性体4は、第1の磁性体2と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第1非磁性体層41と、第2の磁性体3と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第2非磁性体層42と、第1非磁性体層41と第2非磁性体層層42との間に配置され、窒化スカンジウムを含む第3非磁性体層43とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に配置された非磁性体とを具備する磁気デバイスであって、
前記非磁性体は、前記第1の磁性体と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第1非磁性体層と、前記第2の磁性体と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第2非磁性体層と、前記第1非磁性体層と前記第2非磁性体層層との間に配置され、窒化スカンジウムを含む第3非磁性体層とを備える、磁気デバイス。
【請求項2】
前記第3非磁性体層は、さらに酸化スカンジウムを含む、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項3】
前記第3非磁性体層の前記第1非磁性体層との界面及び前記第3非磁性体層の前記第2非磁性体層との界面のうち少なくともいずれかの界面における酸化スカンジウムの濃度が、前記第3非磁性体層内部における酸化スカンジウムの濃度よりも高い、請求項2に記載の磁気デバイス。
【請求項4】
前記第3非磁性体層は、さらにアルゴン、クリプトン、コバルト、鉄、白金、及びホウ素なる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項5】
前記第1非磁性体層及び前記第2非磁性体層の少なくとも一方は、アルミニウム、亜鉛、及びガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項6】
前記第1非磁性体層、前記第2非磁性体層、及び前記第3非磁性体層の総膜厚は、0.5nm以上2.5nm以下であり、かつ前記第3非磁性体層の膜厚(nm)は、前記第1、第2、及び第3非磁性体層の総膜厚x(nm)を横軸とし、前記第1、第2、及び第3非磁性体層の構成材料における前記窒化スカンジウムの組成比率y(%)を縦軸としたグラフにおいて、前記膜厚xが0.5≦x<1.25(nm)であるときに前記組成比率yの下限値αが20%であり、前記膜厚xが1.25≦x<1.84(nm)であるときに前記組成比率yの下限値αがα=74.2x-72.53(%)であり、前記膜厚xが1.84≦x(nm)であるときに前記組成比率yの下限値αが64%であり、かつ、前記膜厚xが0.5≦x<1.37(nm)であるときに前記組成比率yの上限値βが60%であり、前記膜厚xが1.37≦x<1.61(nm)であるときに前記組成比率yの上限値βがβ=87.5x-59.88(%)であり、前記膜厚xが1.61≦x(nm)であるときに前記組成比率yの上限値βが81%である、前記組成比率yの範囲を満足する、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項7】
前記第1非磁性体層、前記第2非磁性体層、及び前記第3非磁性体層の総膜厚は、0.8nm以上2.1nm以下である、請求項6に記載の磁気デバイス。
【請求項8】
前記第1の磁性体の少なくとも一部及び前記第2の磁性体の少なくとも一部は、コバルトと鉄とホウ素を含む、請求項1に記載の磁気デバイス。
【請求項9】
第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に配置された非磁性体とを具備する磁気デバイスであって、
前記非磁性体は、前記第1の磁性体と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第1非磁性体層と、前記第2の磁性体と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第2非磁性体層と、前記第1非磁性体層と前記第2非磁性体層層との間に配置され、酸化グネシウムよりバンドギャップが小さく、窒化ホウ素より生成エンタルピーが小さい窒化物を含む第3非磁性体層とを備える、磁気デバイス。
【請求項10】
前記第1非磁性体層、前記第2非磁性体層、及び第3非磁性体層は、それぞれ岩塩型構造の結晶を含む、請求項9に記載の磁気デバイス。
【請求項11】
前記第3非磁性体層は、窒化スカンジウム、窒化ハフニウム、窒化チタン、窒化イットリウム、窒化ジルコニウム、及び窒化ランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項9に記載の磁気デバイス。
【請求項12】
前記第3非磁性体層は、さらに酸化スカンジウム、酸化ハフニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化ランタンからなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化物を含む、請求項11に記載の磁気デバイス。
【請求項13】
前記第3非磁性体層の前記第1非磁性体層との界面及び前記第3非磁性体層の前記第2非磁性体層との界面のうち少なくともいずれかの界面における前記酸化物の濃度が、前記第3非磁性体層内部における前記酸化物の濃度よりも高い、請求項12に記載の磁気デバイス。
【請求項14】
前記第3非磁性体層は、さらにアルゴン、クリプトン、コバルト、鉄、白金、及びホウ素なる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項9に記載の磁気デバイス。
【請求項15】
前記第1非磁性体層及び前記第2非磁性体層の少なくとも一方は、アルミニウム、亜鉛、及びガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項9に記載の磁気デバイス。
【請求項16】
前記第1非磁性体層、前記第2非磁性体層、及び前記第3非磁性体層の総膜厚は、0.5nm以上2.5nm以下であり、かつ前記第3非磁性体層の膜厚(nm)は、前記第1、第2、及び第3非磁性体層の総膜厚x(nm)を横軸とし、前記第1、第2、及び第3非磁性体層の構成材料における前記窒化物の組成比率y(%)を縦軸としたグラフにおいて、前記膜厚xが0.5≦x<1.25(nm)であるときに前記組成比率yの下限値αが20%であり、前記膜厚xが1.25≦x<1.84(nm)であるときに前記組成比率yの下限値αがα=74.2x-72.53(%)であり、前記膜厚xが1.84≦x(nm)であるときに前記組成比率yの下限値αが64%であり、かつ、前記膜厚xが0.5≦x<1.37(nm)であるときに前記組成比率yの上限値βが60%であり、前記膜厚xが1.37≦x<1.61(nm)であるときに前記組成比率yの上限値βがβ=87.5x-59.88(%)であり、前記膜厚xが1.61≦x(nm)であるときに前記組成比率yの上限値βが81%である、前記組成比率yの範囲を満足する、請求項9に記載の磁気デバイス。
【請求項17】
前記第1非磁性体層、前記第2非磁性体層、及び前記第3非磁性体層の総膜厚は、0.8nm以上2.1nm以下である、請求項16に記載の磁気デバイス。
【請求項18】
前記第1の磁性体の少なくとも一部及び前記第2の磁性体の少なくとも一部は、コバルトと鉄とホウ素を含む、請求項9に記載の磁気デバイス。
【請求項19】
第1方向に延伸する複数の第1の電極配線と、
前記第1方向と交差する第2方向に延伸する複数の第2の電極配線と、
前記第1の電極配線と前記第2の電極配線との間にそれぞれ配置され、前記第1の電極配線と前記第2の電極配線と電気的に接続された、請求項1ないし請求項18のいずれか1項に記載の複数の磁気デバイスと
を具備する磁気記憶デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気デバイス及び磁気記憶デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性メモリとして注目を集める磁気抵抗メモリ(Magnetic Random Access Memory:MRAM)においては、磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)素子を用いることによって、情報の書き込み動作及び読み出し動作が行われる。MTJ素子は、一般的に記憶層としての磁性層とトンネルバリア層と参照層としての磁性層の3層を積層した構造を有する。MTJ素子においては、トンネルバリア層として一般的に酸化マグネシウム(MgO)層が用いられているが、MgO層の絶縁耐圧の大きさが不十分で、書き込み時に絶縁破壊が生じるおそれがある。そこで、トンネルバリア層の絶縁耐圧を高めることによって、MTJ素子の特性を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-305610号公報
【特許文献2】国際公開第2020/150419号
【特許文献3】米国特許公開第2018/0268887号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、トンネルバリア層の絶縁耐圧を高めることによって、特性を向上させることを可能にした磁気デバイス及び磁気記憶デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の磁気デバイスは、第1の磁性体と、第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に配置された非磁性体とを具備する。実施形態の磁気デバイスにおいて、前記非磁性体は、前記第1の磁性体と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第1非磁性体層と、前記第2の磁性体と接するように設けられ、酸化マグネシウムを含む第2非磁性体層と、前記第1非磁性体層と前記第2非磁性体層層との間に配置され、窒化スカンジウムを含む第3非磁性体層とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態の磁気デバイスを示す断面図である。
【
図2】実施形態の磁気デバイスを用いたクロスポイント構造の磁気記憶デバイス(MRAM)を示す図である。
【
図3】実施形態の磁気デバイスの一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】各種金属窒化物の生成エンタルピー(ΔH)の絶対値を示す図である。
【
図5】MgO/ScN/MgOの3層積層構造をトンネルバリア層に適用したMTJ素子の抵抗面積積(RA)とトンネル磁気抵抗比(TMR比)との関係を示す図である。
【
図6】実施形態の磁気デバイスのトンネルバリア層における第3非磁性体層の組成範囲と膜厚との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の磁気デバイス及び磁気記憶デバイスについて、図面を参照して説明する。各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
図1は実施形態の磁気デバイスの構成を示している。
図1に示す磁気デバイス1は、記憶層としての第1の磁性体2と、参照層としての第2の磁性体3と、第1の磁性体2及び第2の磁性体3に挟持された、トンネルバリア層としての非磁性体4とを含む積層体5を備えている。積層体5は、さらに第2の磁性体3の下方に設けられた、シフトキャンセル層としての第3の磁性体6と、第3の磁性体6のさらに下方に設けられたシード層等として機能するバッファ層7とを備えている。積層体5の周囲には、側壁を覆うように側壁層8が設けられている。
図1に示す積層体5は、例えば磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成するものであるが、これに限られるものではない。
【0009】
実施形態の磁気デバイス1をMTJ素子に適用する場合、第2の磁性体3はスピン方向(磁化方向)が固定される参照層(磁化固定層/ピン層)である。第2の磁性体3の磁化方向は、シフトキャンセル層としての第3の磁性体6により固定される。第2の磁性体3には、例えばCoFeB/Mo/Co/Ir積層膜やCoFeB/Mo/Co/Ru積層膜等が用いられる。第3の磁性体6には、[Co/Pt]超格子、[Co/Ir]超格子等の磁性体が用いられる。参照層3を構成する積層膜において、Ir層やRu層がシフトキャンセル層6との間で反平行結合を実現する。これによって、参照層3を構成する積層膜におけるCoFeB層等の磁性層の磁化が固定される。
【0010】
参照層としての第2の磁性体3上には、トンネル障壁層として機能する非磁性体4を介して、記憶層(フリー層)として機能する第1の磁性体2が設けられている。第1の磁性体2は、スピン方向(磁化方向)が記憶内容に応じて変化することにより記憶層として機能する。第1の磁性体2には、CoFeB、CoPt、CoPtCr等のCo基合金、[Co/Pt]超格子等の磁性体が用いられる。
【0011】
第1の磁性体2及び第2の磁性体3(積層膜におけるCoFeB層)の厚さは特に限定されるものではないが、例えば0.2nm以上5nm以下であることが好ましい。非磁性体4の厚さは、例えば0.5nm以上2.5nm以下であることが好ましい。トンネル障壁層としての非磁性体4の詳細構成及び構成材料については、後に詳述する。第3の磁性体6の下方に設けられたバッファ層7としては、Ru、Ta、CoFeB-Mo等のシード層が適用される。側壁層8の構成材料には、ケイ素酸化物(SiOx)、ジルコニウム酸化物(ZrOx)、アルミニウム酸化物(AlOx)、アルミニウム窒化物(AlNx)、ケイ素窒化物(SiNx)等の絶縁物が適用される。積層体5上には、Ta、Pt、Ru等を含むキャップ層9が設けられている。キャップ層9上には、配線層10が設けられている。配線層10には、W、Mo、Ta、これらを含む合金等が用いられるが、特に限定されるものではない。
【0012】
MTJ素子としての積層体5の下方には、MTJ素子5に電気的に接続されたスイッチング層11が設けられている。スイッチング層11は、MTJ素子5への電流のオン/オフを切り替える機能(スイッチング機能)を有する。スイッチング層11は、閾値(Vth)以上の電圧が印加されることによって、抵抗値が高いオフ状態から抵抗値が低いオン状態に急激に遷移する電気特性を有する。すなわち、スイッチング層11を構成する材料(スイッチング材料)は、印加される電圧が閾値(Vth)未満で抵抗値が高いオフ状態となり、電圧が閾値(Vth)以上になったときに抵抗値が高いオフ状態から抵抗値が低いオン状態に急激に遷移する電気特性を有する。このようなスイッチング層11の印加電圧に基づく抵抗値の変化は、可逆的にかつ急激に生じるものである。
【0013】
スイッチング材料としては、例えばテルル(Te)、セレン(Se)、及び硫黄(S)からなる群より選ばれる少なくとも1つのカルコゲン元素を含む材料が挙げられる。そのようなスイッチング材料は、カルコゲン元素を含む化合物であるカルコゲナイドを含んでいてもよい。カルコゲン元素を含む材料は、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、As、P、Sb、及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。さらに、カルコゲン元素を含む材料は、N、O、C、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。スイッチング材料の例としては、GeSbTe、GeTe、SbTe、SiTe、AlTeN、GeAsSe等が挙げられる。スイッチング材料は、カルコゲン元素を含まない材料であってもよい。アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)等の添加元素を含む材料、例えば酸化物や窒化物に添加元素を加えた材料であってもよい。そのようなスイッチング材料としては、ZrOx、AlOx、SiOx、TaOx、HfOx等が挙げられる。また、これらの酸化物に上記した添加元素又はTe、Se等を加えた材料であってもよい。スイッチング層11は、アモルファス構造を有していてもよい。
【0014】
MRAM等を構成する磁気デバイス1は、
図2に示すように、複数のビット線BLと複数のワード線WLとの交点に配置されてメモリセルとして機能するものである。
図2に示すように、複数のビット線BLとワード線WLの各交点に、それぞれビット線BL及びワード線WLと電気的に接続された磁気デバイス1をメモリセルとして配置することにより磁気記憶デバイス20が構成される。
図2に示す磁気記憶デバイス20は、複数のビット線(第1電極配線)BLと、複数のワード線(第2電極配線)WLと、これらの各交点に設けられ、それぞれビット線BL及びワード線WLと電気的に接続された複数の磁気デバイス1とを具備する。なお、
図2における符号Mは
図1のMTJ素子として機能する積層体5を示し、符号Sは積層体5の下方に設けられたスイッチング層11を示している。
【0015】
図1に示す磁気デバイス1において、トンネルバリア層(トンネル障壁層)としての非磁性体4は、
図3に示すように、記憶層としての第1の磁性体2と接するように設けられた第1非磁性体層41と、第2の磁性体3と接するように設けられた第2非磁性体層42と、第1非磁性体層41と第2非磁性体層42との間に配置された第3非磁性体層43とを備える、3層積層構造を有する。このような3層積層構造を有する非磁性体4の具体的な構成及び構成材料については、後に詳述する。
【0016】
ここで、トンネル障壁層として一般的に用いられている酸化マグネシウム(MgO)層のみを非磁性体4に適用した場合、例えばハーフピッチが14nmを超えるような素子サイズでは絶縁耐圧を確保することができるものの、ハーフピッチが14nm以下の素子サイズでは絶縁耐圧条件の達成が困難になる。すなわち、ハーフピッチが14nm以下の素子サイズでは、MgO層の薄膜化により抵抗面積積(抵抗値と面積との積:RA)を低減する必要が生じ、そのような薄膜化したMgO層では絶縁破壊電圧を満足させることができない。
【0017】
また、例えばトンネル障壁層として一般的に用いられているMgOを第1非磁性体層41及び第2非磁性体層42に適用し、第3非磁性体層43にMg以外の金属元素の酸化物等を適用した場合、抵抗を上げることなく厚膜化することができる可能性がある。この場合、MTJ素子の基本特性を満足させつつ、絶縁耐圧を高めることが可能と考えられる。しかしながら、成膜時のアニール等による拡散のために、トンネル障壁層の界面に金属元素が偏るおそれがある。これでは目的とする3層積層構造を作製することが困難になる。
【0018】
このようなことから、非磁性体4に第1非磁性体層41、第2非磁性体層42、及び第3非磁性体層43の3層積層構造を適用する場合、第1の磁性体2及び第2の磁性体3と接する第1非磁性体層41及び第2非磁性体層42には、トンネル磁気抵抗比(TMR比)を高める上で、MgO含む材料(ここでは、構成材料Bと記す。)が用いられる。中間の第3非磁性体層43の構成材料(ここでは、構成材料Aと記す。)には、第1非磁性体層41及び第2非磁性体層42との間で元素拡散が生じにくく、抵抗を上げることがないと共に、MgOよりもバリア障壁が低い材料、すなわちMgOよりバンドギャップが小さい材料を用いることが好ましい。
【0019】
中間の第3非磁性体層43の構成材料Aとして、酸化物や窒化物の生成エンタルピーが小さい材料を用いると拡散障壁が大きくなり、拡散が生じにくくなる傾向がある。さらに、構成材料Aに窒化物を適用すると共に、第1の磁性体2及び第2の磁性体3の少なくとも一部としてCoFeBを用いることを考えると、高抵抗の窒化ホウ素(BN)の形成を抑えるために、BNより生成エンタルピー(ΔH)が小さい窒化物が有効である。BNの生成エンタルピー(ΔH)は-2.74(eV/B atom)である。
図4に絶対零度における各種金属窒化物の生成エンタルピー(ΔH)を示す。縦軸は-ΔHを示す。
図4に示すように、窒化スカンジウム(ScN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化チタン(TiN)、窒化イットリウム(YN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、及び窒化ランタン(LaN)は、いずれもBNよりも小さい生成エンタルピー(ΔH)を有しているため、第3非磁性体層43の構成材料Aとして用いた場合に成膜時のアニール等による拡散を抑制することができる。従って、上記した材料Aを第3非磁性体層43に適用することによって、3層積層構造の非磁性体4を精度よく形成することができる。
【0020】
上記したScN、HfN、TiN、YN、ZrN、LaN等の材料Aは、いずれも岩塩型の結晶構造をとる。MgOも岩塩型の結晶構造をとるため、岩塩型MgO/岩塩型ScN等の材料A/岩塩型MgOの3層積層構造によれば、各層を格子整合性よく積層することができる。従って、岩塩型MgO/岩塩型ScN等の材料A/岩塩型MgO各層を結晶性よく形成することができる。さらに、ScNはMgOよりバリア障壁が小さいため、MgO/ScN/MgOの3層積層構造によれば、高いTMR比を維持した上で、トンネル障壁層としての非磁性体4を厚膜化することができる。これによって、トンネル障壁層としての非磁性体4の絶縁破壊電圧を高めることが可能になる。
【0021】
図5に、トンネル障壁層としての非磁性体4に、ScN(6原子層)とMgO(3原子層)を適用したMTJ素子(それぞれ比較例1、2)と、MgO(1原子層)/ScN(4原子層)/MgO(1原子層)の積層膜を適用したMTJ素子(実施例1)について、抵抗面積積(RA)とTMR比との関係を示す。
図5に示すように、MgO(1原子層)/ScN(4原子層)/MgO(1原子層)の積層膜を適用したMTJ素子(実施例1)は、MgO(3原子層)を適用したMTJ素子(比較例2)に比べ、RAが0.11Ωμm
2以下において2.2倍の厚膜化及びそれに基づく絶縁耐圧を達成している。その上で、実施例1のMTJ素子は、MgO層(第1及び第2非磁性体層41、42)の間にScN層(第3非磁性体層43)を配置することによって、高TMR比を実現している。
【0022】
上述した絶縁破壊電圧の向上効果は、MgO/ScN/MgOの3層積層構造に限らず、ScNと同様に岩塩型結晶構造を有し、かつMgOよりバリア障壁が小さい、すなわちMgOよりバンドギャップが小さい、HfN、TiN、YN、ZrN、及びLaNからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む第3非磁性体層43を、MgOを含む第1非磁性体層41/第3非磁性体層43/MgOを含む第2非磁性体層42の3層積層構造に適用することによって、同様な効果を得ることができる。すなわち、TMR比を高めつつ、電気抵抗を上げずに厚膜化することによって、絶縁破壊電圧を向上させることができる。
【0023】
このように、実施形態のトンネル障壁層としての非磁性体4は、MgOを含む第1非磁性体層41及びMgOを含む第2非磁性体層42の間に、ScN、HfN、TiN、YN、ZrN、及びLaNからなる群より選ばれる少なくとも1つ(材料A)を含む第3非磁性体層43を配置した3層積層構造を有している。第1非磁性体層41及び第2非磁性体層42は、MgOの単層に限られるものではなく、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、及びガリウム(Ga)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むMgO、例えばMgAlOのような複合化合物であってもよい。第3非磁性体層43は、ScNやHfN等の単層に限らず、酸化スカンジウム(ScO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタン(TiO)、酸化イットリウム(YO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、及び酸化ランタン(LaO)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに、第3非磁性体層43の第1非磁性体層41との界面におけるこれらの酸化物の濃度、第3非磁性体層43の第2非磁性体層42との界面における当該酸化物の濃度のうち少なくともいずれかの濃度が、第3非磁性体層43内部における当該酸化物の濃度よりも高いことが好ましい。これらによって、各層間の密着性を向上させることができる。また、第3非磁性体層43は、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、白金(Pt)、及びホウ素(B)からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0024】
第1非磁性体層41/第3非磁性体層43/第2非磁性体層42の3層積層構造を有する非磁性体4の総膜厚は、0.5nm以上2.5nm以下の範囲とすることが好ましい。
図6に3層積層構造のトンネル障壁層(バリア層)としての非磁性体4の総膜厚に対する第3非磁性体層43の好ましい膜厚範囲を示す。
図6において、横軸はバリア層の総膜厚、縦軸はバリア層全体における材料Aの組成比率(モル比)である。さらに、第1非磁性体層41、第2非磁性体層42、及び第3非磁性体層43の構成材料における材料Aの組成比率(%)をy、バリア層の総膜厚(nm)をxとしたとき、下側の線aは材料Aの組成比率yの下限値αであり、上側の線bは材料Aの組成比率yの上限値βである。
【0025】
図6において、線aは、膜厚xが0.5≦x<1.25(nm)であるときに組成比率yの下限値αが20%であり、膜厚xが1.25≦x<1.84(nm)であるときに組成比率yの下限値αがα=74.2x-72.53(%)であり、膜厚xが1.84≦x(nm)であるときに組成比率yの下限値αが64%であることを示している。線bは、膜厚xが0.5≦x<1.37(nm)であるときに組成比率yの上限値βが60%であり、膜厚xが1.37≦x<1.61(nm)であるときに組成比率yの上限値βがβ=87.5x-59.88(%)であり、膜厚xが1.61≦x(nm)であるときに組成比率yの上限値βが81%であることを示している。
【0026】
第3非磁性体層43は、非磁性体4の総膜厚が0.5nm以上2.5nm以下の範囲において、上記した材料Aの組成比率が
図6における線α(下限値a)と線β(上限値b)で挟まれた組成比率yの範囲となる厚さを有することが好ましい。第3非磁性体層43は、非磁性体4の総膜厚が0.8nm以上2.1nm以下の範囲において、上記した材料Aの組成比率が
図6における線αと線βで挟まれた組成比率yの範囲となる厚さを有することがより好ましい。このような総膜厚の組成範囲及び組成比率yの範囲を満足させることによって、より再現性よく磁気デバイス1のMTJ素子としてのTMR比を高めた上で、絶縁破壊電圧を向上させることができる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1…磁気デバイス、2…第1の磁性体、3…第2の磁性体、4…非磁性体、5…積層体、6…第3の磁性体、7…バッファ層、8…側壁層、9…キャップ層、11…スイッチング層、20…磁気記憶デバイス(MRAM)、41…第1非磁性体層、42…第2非磁性体層、43…第3非磁性体層、M…MTJ素子、S…スイッチング層。