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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123440
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】飲食品用風味改善剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20240905BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20240905BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20240905BHJP
   A23L 9/00 20160101ALN20240905BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23C9/13
A23L29/00
A23L9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030857
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上敷領 俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】中井 節子
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC31
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC14
4B001EC01
4B025LB18
4B025LG21
4B025LG26
4B025LG32
4B025LG52
4B025LG53
4B025LK03
4B025LP01
4B025LP10
4B025LP12
4B025LP20
4B035LC01
4B035LG19
4B035LG44
4B035LG50
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP22
4B035LP42
4B035LP43
4B047LB07
4B047LG24
4B047LG51
4B047LG56
4B047LG70
4B047LP01
4B047LP05
4B047LP06
4B047LP19
(57)【要約】
【課題】
飲食品、特に糖類の添加量を減らした飲食品に対し、甘味を付与・増強、味の厚みの増強、ボディ感を付与し、また、酸味・酸臭の強すぎる飲食品の酸味・酸臭を低減し、さらにまた、高甘味度甘味料を含有する飲食品の高甘味度甘味料に由来する呈味改善の効果を奏する飲食品用風味改善剤を提供する。
【解決手段】
以下の工程(A)および(B)を含む、飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(A):乳原料の乳酸発酵処理物を準備する工程、
工程(B):前記発酵処理物を、80℃~140℃にて30分~24時間加熱処理し、飲食品用風味改善剤を得る工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)および(B)を含む、飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(A):乳原料の乳酸発酵処理物を準備する工程、
工程(B):前記発酵処理物を、80℃~140℃にて30分~24時間加熱処理し、飲食品用風味改善剤を得る工程
【請求項2】
前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、さらに以下の工程(C)を含む、請求項1に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(C):前記発酵処理物のpHを7~12に調整する工程
【請求項3】
前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、さらに以下の工程(D)を含む、請求項1に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(D):前記発酵処理物に糖類を添加する工程
【請求項4】
前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、さらに以下の工程(C)および工程(D)を含む、請求項1に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(C):前記発酵処理物のpHを7~12に調整する工程
工程(D):前記発酵処理物に糖類を添加する工程
【請求項5】
前記乳原料が、脱脂粉乳、全粉乳、脱脂乳、牛乳、生乳および生クリームから選ばれる1種または2種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
【請求項6】
前記飲食品用風味改善剤による風味改善が、甘味の付与および/または増強、ボディ感の付与および/または増強、酸味および/または酸臭の低減、ならびに、高甘味度甘味料含有飲食品の後引き感改善から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
【請求項7】
前記飲食品用風味改善剤が、乳風味飲食品用風味改善剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
【請求項8】
前記飲食品用風味改善剤が、低糖食品用風味改善剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
【請求項9】
前記飲食品用風味改善剤が、スクロース、グルコースおよびフラクトースの含有量の合計が8質量%以下の発酵乳用風味改善剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法により製造される飲食品用風味改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飲食品用風味改善剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂糖などの糖類は、飲食品に甘味を付与し、嗜好性を増加させる素材として世界中で古くから様々な飲食品に使用されている。一方、近年、社会が豊かになるに伴い、糖類や油脂などを多く含むいわゆる美味しい飲食品が豊富となり、また、簡単に手に入るようになってきている。そうすると、糖類や油脂を多く含む食品をついつい食べ過ぎてしまい、摂取カロリーが増大してしまいがちとなる。その結果、生活習慣病を罹患する人口の割合が増加しており社会問題となってきている。最近では生活習慣病を予防するための生活習慣は一般にも周知が行き届くようになってきており、飲食品の購入にあたって一般消費者の健康意識は高まりつつある。
【0003】
このような状況にかんがみて砂糖などの糖類の使用量を低減させた飲食品が多く開発されている。しかしながら、糖類を低減させた飲食品は、甘味が不足しているため物足りなさを感じさせる。
【0004】
発酵乳は健康食品として古くから多くの人々に愛好されてきた飲食品であるが、発酵乳においても近年、低糖、低脂肪を謳った商品は増加する傾向がみられる。このような低カロリー発酵乳のうち、特に糖類含量を低減した発酵乳では、甘味の減少、味の厚みの低下、ボディ感の不足、酸味・酸臭の増加などといった欠点が生じる。このような課題を補うため、さまざまな技術が提案されている。
【0005】
例えば、乳又は乳製品のリパーゼ処理及び/又は乳酸菌による発酵処理により得られる処理物を有効成分として含有することを特徴とする乳飲料又は発酵乳の風味改良剤(特許文献1)、乳飲料又は発酵乳の風味改良剤として、グルタミン酸、ロイシン、アラニン、セリン、アルギニン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびメチオニンからなるアミノ酸の特定量を含有する発酵乳の風味改善組成物(特許文献2)、2-(3-ベンジルオキシプロピル)ピリジンを乳、乳製品、乳若しくは乳製品を含有する飲食物に含有させることにより、乳のコクを増強する方法(特許文献3)、発酵乳の甘味付けにおいて、甘味料としてグルコース、フラクトースおよびアスパルテームを用い、フラクトースに対するグルコースの重量比を0.43~9.0とし、前記混合甘味料の甘味度の20%~50%をアスパルテーム由来とした発酵乳(特許文献4)、スクラロースと糖アルコールを、甘味度比で2:8~8:2の比率で含有することを特徴とする低カロリー発酵乳食品(特許文献5)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-250482号公報
【特許文献2】特開平10-327751号公報
【特許文献3】特開2016-202017号公報
【特許文献4】特開昭58-175436号公報
【特許文献5】特開2002-65156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでの素材では、いまだ十分とは言えず、新たな素材の開発が待たれていた。
【0008】
本発明の課題は、飲食品、特に糖類の添加量を減らした飲食品に対し、甘味を付与・増強、味の厚みの増強、ボディ感の付与し、また、酸味・酸臭の強すぎる飲食品の酸味・酸臭を低減し、さらにまた、高甘味度甘味料を含有する飲食品の高甘味度甘味料に由来する呈味改善の効果を奏する飲食品用風味改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題にかんがみ、鋭意研究を行った。その結果、脱脂粉乳を乳酸発酵処理した後、pHをアルカリ性とし、糖を加えて加熱反応して得られた素材が飲食品の風味に厚みを持たせ、ボディ感を付与し、酸味を低減させる効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1]以下の工程(A)および(B)を含む、飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(A):乳原料の乳酸発酵処理物を準備する工程、
工程(B):前記発酵処理物を、80℃~140℃にて30分~24時間加熱処理し、飲食品用風味改善剤を得る工程
[2]前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、さらに以下の工程(C)を含む、[1]に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(C):前記発酵処理物のpHを7~12に調整する工程
[3]前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、さらに以下の工程(D)を含む、[1]に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(D):前記発酵処理物に糖類を添加する工程
[4]前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、さらに以下の工程(C)および工程(D)を含む、[1]に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
工程(C):前記発酵処理物のpHを7~12に調整する工程
工程(D):前記発酵処理物に糖類を添加する工程
[5]前記乳原料が、脱脂粉乳、全粉乳、脱脂乳、牛乳、生乳および生クリームから選ばれる1種または2種以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
[6]前記飲食品用風味改善剤による風味改善が、甘味の付与および/または増強、ボディ感の付与および/または増強、酸味および/または酸臭の低減、ならびに、高甘味度甘味料含有飲食品の後引き感改善から選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
[7]前記飲食品用風味改善剤が、乳風味飲食品用風味改善剤である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
[8]前記飲食品用風味改善剤が、低糖食品用風味改善剤である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
[9]前記飲食品用風味改善剤が、スクロース、グルコースおよびフラクトースの含有量の合計が8質量%以下の発酵乳用風味改善剤である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の飲食品用風味改善剤の製造方法。
[10][1]~[4]のいずれか1項に記載の製造方法により製造される飲食品用風味改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により得られた風味改善剤を飲食品、特に糖類の添加量を減らした飲食品に添加することにより、糖類を通常量添加したような甘味を付与・増強し、味の厚みを増強し、ボディ感を付与し、また、酸味・酸臭の強すぎる飲食品の酸味・酸臭を低減し、さらにまた、高甘味度甘味料を含有する飲食品の高甘味度甘味料に由来する呈味を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[乳原料の乳酸発酵処理物]
本発明の工程(A)の乳原料の乳酸発酵処理物の準備は、後に述べるように乳原料から乳酸発酵処理して準備することができるが、すでに乳原料の乳酸発酵処理物となっているものを入手することで準備することもできる。入手可能な乳原料の乳酸発酵処理物としては、乳原料の乳酸発酵処理物であれば特に問わないが、例えば、全脂肪ヨーグルト、プレーンヨーグルト、無脂肪ヨーグルト、低脂肪ヨーグルト、加糖ヨーグルト、フレーバーヨーグルト、ギリシャヨーグルト、カスピ海ヨーグルト、液状ヨーグルト、ヨーグルト粉末などが例示できる。
【0013】
[乳原料]
本発明に用いることのできる乳原料としては、乳酸発酵処理(詳細は後述)に供することができる乳原料であれば特に限定はなく、例えば、牛乳、生乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、脱脂乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、生クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエー、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエーパウダー、たんぱく質濃縮ホエーパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、ホエーたんぱく質濃縮物(Whey Protein Concentrate:WPC)、ホエーたんぱく質分離物(Whey Protein Isolate:WPI)、乳たんぱく質濃縮物(Milk Protein Concentrate:MPC)、乳たんぱく質分離物(Milk Protein Isolate:MPI)、トータルミルクプロテイン(Total Milk Protein:TMP)、脱乳糖パーミエイト粉末(牛乳の限外濾過膜透過成分)、変性たんぱく質球状粒子(Microparticulated Whey)、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等を例示することができる。また、これらの乳原料は二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの乳原料のうち、好ましいものとして、脱脂粉乳、全粉乳、脱脂乳、牛乳、生乳および生クリームが挙げられる。
【0014】
なお、乳原料が乾燥物(例えば、脱脂粉乳など)の場合は、水と混合・溶解し適当な濃度の溶液とした後、加熱などに方法より殺菌した後、乳酸発酵処理を行うことが好ましい。この際の乳原料の濃度としては、乳酸発酵処理を行うのに適当な濃度であれば特に限定は無いが、1質量%~40質量%、好ましくは5質量%~20質量%を例示することができる。
【0015】
また、この際の加熱殺菌の温度および時間は、乳製品の殺菌に一般的な条件を用いればよく、例えば80℃~90℃で10分~30分、115~125℃で5分~20分または130~135℃で30秒~2分などが例示できる。なお加熱殺菌後は乳酸発酵処理に適当な温度まで冷却する。
【0016】
[乳酸発酵処理]
本発明では、前記乳原料を乳酸発酵処理し、発酵処理物を得ることができる。
【0017】
本発明における乳酸発酵処理は、前記乳原料にいわゆる乳酸菌を接種して行う発酵処理を意味し、乳酸菌の種類や発酵条件に特に限定はない。
【0018】
なお、本発明では、乳酸発酵に先立ち、乳原料に糖類を添加することもできる。添加することができる糖類としては、乳酸菌の生育に資する糖類が好ましく、例えば、グルコース(ぶどう糖)、フラクトース(果糖)、スクロース(ショ糖)などが例示できる。糖類の添加量としては、前記乳原料1質量部に対し、0.01~0.5質量部を挙げることができる。
【0019】
乳酸菌(lactic acid bacteria)とは、糖類を分解して乳酸をつくり出す細菌の総称で、1)細胞形態が桿菌もしくは球菌、2)グラム陽性、3)カタラーゼ陰性(嫌気性菌)、4)内生胞子をつくらない、5)運動性がない(鞭毛を持たない)、6)消費したブドウ糖から50%以上の乳酸を生成する細菌と定義されており、その種類は200種類以上にもなると言われている。本発明では、いわゆる乳酸菌といわれる細菌であれば、いずれの細菌も使用することができる。
【0020】
前記乳酸菌としては、ラクチプランチバチラス・プランタルム(Lactiplantibacillus plantarum)、レビラクトバチラス・ブレビス(Levilactobacillus brevis)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクチカゼイバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)、ラクトバチルス クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラチラクトバチルス・カルバータス(Latilactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、リモシラクトバチルス・ファーメンタム(Limosilactobacillus fermentum)、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei)、リモシラクトバチルス・ロイテリ(Limosilactobacillus reuteri)、ラクチカゼイバチルス・ラムノーサス(Lacticaseibacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、リギラクトバチルス・サリバリアス(Ligilactobacillus salivarius)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragencoccus halophilus)、リューコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)などが例示される。これらを1種又は2種以上用いることができる。
【0021】
乳酸発酵処理において、乳酸菌の使用量は限定されるものではなく、乳酸菌の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、乳原料1g当たり、乳酸菌として1×10cfu/mL以上、好ましくは1×10cfu/mL以上の菌数となる条件で乳酸発酵処理を開始すると乳酸発酵処理を確実に進めることができ、乳酸発酵処理の温度は10~50℃、好ましくは25~45℃、より好ましくは30℃~42℃とすることができ、乳酸発酵処理の時間は5~72時間、好ましくは10~48時間とすることができる。乳酸発酵処理の時間はpHを適宜測定して確認しながら、制御することができる。
【0022】
乳酸発酵処理が進むにつれて、乳酸の生産によりpHは徐々に低下していくが、乳酸発酵処理後のpHが3.3~4.5、特に3.5~4.0となるまで乳酸発酵処理を実施すると(その時点で乳酸発酵処理を終了すると)、適当な発酵処理物が得られるため好ましい。
【0023】
[加熱処理]
本発明では工程(B)として、前記発酵処理物を、80℃~140℃にて30分~24時間加熱処理し、飲食品用風味改善剤を得る。
【0024】
加熱処理することにより、いわゆるメイラード反応の素材となる糖およびアミノ酸の他、乳原料の乳酸発酵処理物特有の成分(例えば、乳酸、たんぱく質、脂質、カルシウム、ビタミン類など)が複雑に反応し、風味改善剤成分が生成すると考えられる。これは、確認したことでなく、また、このような理論により本発明が限定的に解釈されるものでないが、本発明の飲食品用風味改善剤特有の特性は、前記、また、好ましくは後述する条件下の前記乳原料の乳酸発酵処理物の加熱処理により、前記のような複雑な反応がおこった結果に基づくものと理解される。当業者に周知のとおり、メイラード反応はアミノカルボニル反応の一種であり、通常、褐色物質を生成する非酵素的反応である。典型的なメイラード反応では、アミノ酸と還元糖が反応し、窒素配糖体を経由してシッフ塩基を形成した後、アマドリ転移によりその反応生成物を生じるまでの初期段階の反応、アマドリ転移生成物等をともなう中期段階の反応、およびこのような生成物等の重合および/またはストレッカー分解反応等を伴う、最終段階の反応が関与することが知られているが、本発明による前記加熱処理では、いずれかの段階、あるいは、複数の段階で一定の風味成分が生じるものと理解されている。
【0025】
加熱処理における反応温度としては、80℃~140℃、好ましくは83℃~130℃、より好ましくは86℃~120℃、さらに好ましくは89℃~110℃とすることができる。
【0026】
また、加熱処理における反応時間としては、反応に必要な時間を確保する必要があり、30分~24時間、好ましくは1時間~12時間、より好ましくは2時間~8時間とすることができる。
【0027】
本発明における工程(B)の加熱処理に際しては、冷却管などの還流装置を用い、蒸気となった揮発性成分を含む水分を冷却し、凝結させて再び元の液体に戻しながら加熱することができる。引き続き冷却し、釜内から、加熱処理物を回収する。回収物に澱が生じているときは濾過や遠心分離などの処理により、澱を除去することもできる。このような還流方式は、加熱温度が加熱される溶液のおおむね沸点(おおよそ100℃程度)以下の場合に採用することができる。
【0028】
また、前記加熱処理に際しては、密閉系にて内容物を加熱攪拌できるオートクレーブを使用することもできる。オートクレーブの操作としては、内容物として前記発酵処理物を仕込んだ後、容器を密閉にし、ヘッドスペースの空気をそのまま、あるいは、酸素あるいは不活性ガスにより置換して、引き続き前記条件にて加熱処理を行う。さらに加熱処理物を冷却し、釜内から、加熱処理物を回収する。回収物に澱が生じているときは濾過や遠心分離などの処理により、澱を除去することもできる。このような密閉方式は、加熱温度が加熱される溶液のおおむね沸点(おおよそ100℃程度)以上の場合に好ましく例示できる。
【0029】
[pH調整]
本発明では前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、工程(C)として前記発酵処理物のpHを7~12に調整する工程を含めることができる。
【0030】
加熱処理の前に、発酵処理物のpHをpH7~pH12、好ましくはpH7.5~pH10に調整することにより糖やタンパク質、アミノ酸などの分解を促進し、アミノ酸が脱プロトン化されることで求核性が増してメイラード反応が促進され、飲食品用風味改善剤としての効果の高いものを調製することができるほか、加熱による沈殿の生成を抑制することができ、好適である。pH調整はpH剤を添加することにより行うことができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを例示することができる。
【0031】
[糖類の添加]
本発明では前記工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、工程(D)として、加熱反応促進のため前記発酵処理物に糖類を添加する工程を含めることができる。
【0032】
使用する糖類としては、単糖、二糖またはオリゴ糖が好ましく、リボース、キシロース、アラビノース、グルコース(ぶどう糖)、フラクトース(果糖)、ラムノース、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、スクロース(砂糖、上白糖、グラニュー糖)、トレハロース、セロビオース、マルトトリオース、水飴、黒糖、三温糖、粗糖、和三盆糖、はちみつなどを例示することができる。これらのうち、特に好ましくはスクロース、グルコースおよびフラクトースを例示することができる。糖類の添加量としては、前記発酵処理物1質量部に対し、0.01~2質量部を挙げることができる。
【0033】
前記pH調整と糖類の添加はいずれか一方のみを行っても良く、また、両方を行っても良い。また、両方を行う場合の順は、特に問わず、いずれを先に行っても良い。
【0034】
[本発明の製造方法により製造される飲食品用風味改善剤]
本発明は、前記製造方法による飲食品用風味改善剤の製造方法に関する発明であるが、本発明では前記製造方法により製造される飲食品用風味改善剤も保護対象である。前記製造方法により製造される飲食品用風味改善剤はいわゆるプロダクト・バイ・プロセスで発明を特定している。しかしながら、前記製造方法による飲食品用風味改善剤は、様々な呈味成分および香気成分を含有する。その呈味成分および香気成分は、本発明の前記製造方法で発生したものである。本発明の飲食品用風味改善剤は、従来技術によって得られた飲食品用風味改善剤と比較して、飲食品に添加した際の風味改善効果が良好である。しかしながら、本発明の飲食品用風味改善剤と従来技術によって得られた飲食品用風味改善剤との対比において、組成または特性における相違点を特定しようとしたが、現時点ではできていない。つまり、本発明の飲食品用風味改善剤に関しては、当該物をその組成または特性により直接特定することが不可能であるという事情が存在する。したがって、前記製造方法により製造される飲食品用風味改善剤は、「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。
【0035】
[その他の製造条件]
[酵素処理]
本発明では、前記工程(B)の前に、前記工程(A)とともに、または、前記工程(A)とは独立して、前記乳原料に対し酵素を添加して酵素処理を行うこともできる。使用することができる酵素としては、例えばプロテアーゼまたはリパーゼを例示することができる。
【0036】
プロテアーゼ処理により、乳原料中のタンパク質が分解し、工程(B)における加熱反応の効果が高まり得る。
【0037】
プロテアーゼ処理に使用するプロテアーゼは、微生物起源、植物起源、および動物の臓器起源のプロテアーゼを使用することができる。このようなプロテアーゼとして、例えば、セリンプロテアーゼ、シスチンプロテアーゼ、アスパルティックプロテアーゼ、金属プロテアーゼなどのエンドペプチダーゼおよびアミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、ジペプチジルアミノペプチダーゼ、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼ、セリンカルボキシペプチダーゼ、金属カルボキシペプチダーゼなどのエキソプチダーゼが挙げられる。これらの酵素は大部分が市販されており、容易に入手が可能である。これらのプロテアーゼは1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼおよび塩基性プロテアーゼのいずれのプロテアーゼも使用できる。
【0038】
プロテアーゼ処理の際に使用するプロテアーゼの使用量は、乳タンパク質1g当たり10~3000unitの範囲内とすることが好ましい。
【0039】
また、リパーゼ処理を行うことによっても、加熱反応の効果が高まり得る。本発明で使用可能なリパーゼとしては、特に制限されるものではなく、例えば、アスペルギルス属、ムコール属、キャンディダ属、リゾープス属等の微生物由来リパーゼ、豚の膵臓から得られるリパーゼ、子山羊、子羊、子牛の咽頭分泌線から採取したオーラルリパーゼなどを適宜利用できる。リパーゼの使用量は力価などにより異なり一概には言えないが、通常、乳原料に対して0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%の範囲内を例示することができる。
【0040】
[不溶物の除去]
工程(B)の加熱処理後の処理物に澱が生じているときは濾過や遠心分離などの処理により、澱を除去することもできる。
【0041】
[製剤化(飲食品用風味改善剤組成物)]
本発明の製造方法により製造される飲食品用風味改善剤はこのまま使用することもできるが、所望により、さらに濃縮、あるいは、デキストリン、化工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガム等の賦形剤を添加して、ペースト状とすることができ、さらに、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの乾燥により粉末状の飲食品用風味改善剤組成物とすることもできる。
【0042】
また、前記飲食品用風味改善剤は、さらに本発明品以外の調合香料、水蒸気蒸留抽出エキス、酵素処理エキス、溶媒抽出エキスなどの香味付与剤や溶剤(エタノール、グリセリン、プロピレングリコールなど)などを組み合わせ、飲食品用風味改善剤組成物とすることもできる。
【0043】
以下、本発明の飲食品用風味改善剤と、前記飲食品用風味改善剤組成物の両方を含めて表記する場合は、飲食品用風味改善剤等という。
【0044】
[本発明の飲食品用風味改善剤等により改善される風味]
前述の本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、飲食品に微量添加することにより、飲食品の風味を改善することができる。本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等を飲食品に添加することにより改善される風味は、甘味の付与または増強、ボディ感の付与または増強、酸味または酸臭の低減、高甘味度甘味料含有飲食品の高甘味度甘味料由来の苦味や甘味の後引き感改善などである。
【0045】
[甘味の付与または増強]
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、特に低糖食品に添加した場合に、糖類の配合量を減らした分の甘味の一部または全部を補うために使用することができる。低糖食品とは通常、ある飲食品と同一種類の飲食品において、通常使用される糖類の量よりも糖類の使用量を減らした飲食品をいい、糖類の低減の程度は特に限定されるものではない。このような例として、例えば、ジャムでは、通常Bx68°程度であるものを、糖類使用量を通常の減らすことによりBx55°程度としたものを、野菜飲料では、通常、糖質含有量3.6g/100gであるものを、1.6~2.5g/100g程度に低減したものを例示できる。
【0046】
また、全国コーヒー飲料公正取引協議会の定めによると、コーヒー飲料においては、糖類7.5g/100mLと比較して少なければ低糖の表現が可能とされている。
【0047】
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等の好ましい添加対象としては、低糖食品であれば特に問わないが、例えば前記飲食品用風味改善剤等が添加される飲食品が、スクロース、グルコースおよびフラクトースの含有量の合計が8質量%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下の清涼飲料、コーヒー飲料、乳飲料、発酵乳などの飲料類を例示できる。これらの飲料のうち、特に好ましくは発酵乳を例示することができる。
【0048】
[ボディ感の付与または増強]
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、ボディ感が不足していると感じる食品に添加した場合に、ボディ感を付与または増強するために使用することができる。なお、ボディ感とは、味の骨格がしっかりしていて、かつ、まろやかでふくらみがあり、呈味全体に強さをもたらすような感覚である。
【0049】
[酸味または酸臭の低減]
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、酸味や酸臭が過剰であることにより嗜好性を低下させている飲食品に添加した場合に、その酸味または酸臭を低減させることができる。
【0050】
酸味を有する食品は、さわやかな呈味を有する場合もあるが、レモン、ライム、ヨーグルトなど、酸による刺激の強すぎる食品もある。また、食酢、ドレッシング、マヨネーズ、黒酢ドリンクなどの酢酸を含有する飲食品は、その酸味および香りが特徴となるが、酢酸に起因する独特の刺激的な酸味や酸臭を有することも多く、その刺激を嫌う人も少なくない。そのため、本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、このような酸味を有する食品に添加して使用することが好適である。
【0051】
[高甘味度甘味料含有飲食品の呈味改善]
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、高甘味度甘味料を使用した飲食品に添加することにより、高甘味度甘味料特有の、後に尾を引く不自然な甘さ、不快な後味、苦味、エグ味などの嫌味を抑制し、キレやすっきり感を付与し、砂糖に近い自然な甘味に改善することができる。
【0052】
高甘味度甘味料とはショ糖の数百倍から数千倍の高い甘味を有する甘味料であり、スクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、レバウディオサイドA、ネオテーム、アリテーム、モナチン、タウマチン、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、ラカンカ抽出物(モグロシド)、甘茶抽出物(フィロズルチン)などを例示することができ、これらは単独であっても組み合わせて使用されたものであっても良い。本発明の飲食品用風味改善剤等は高甘味度甘味料の種類には制限されずに使用できるが、特にスクラロース、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ステビア抽出物が使用された飲食品への添加が好ましい。
【0053】
[飲食品への添加]
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等は、飲食品に添加することにより、前述の風味改善効果を発揮することができる。本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等を添加することができる飲食品は、特に限定はなく、例えば、柑橘果汁や野菜果汁などを含む果実飲料または野菜ジュース、コーラやジンジャーエールまたはサイダーなどの炭酸飲料、スポーツドリンクなどの清涼飲料水、コーヒー、紅茶や抹茶などの茶系飲料、ココア、牛乳、豆乳、乳酸菌飲料などの乳飲料などの飲料一般;ヨーグルト、ゼリー、プディング、ムース、チルドデザートなどのデザート類;ケーキや饅頭などといった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子などの製菓;アイスクリームやシャーベットなどの冷菓並びに氷菓;チューイングガム、ハードキャンディー、ヌガーキャンディー、錠菓、チューインガム、ゼリービーンズなどの菓子一般;果実フレーバーソースやチョコレートソースなどのソース類;バタークリームや生クリームなどのクリーム類;イチゴジャムやマーマレードなどのジャム;菓子パンなどを含むパン;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼きなどに用いられるタレやトマトケチャップなどのソース類;蒲鉾などの練り製品、レトルト食品、漬け物、佃煮、総菜並びに冷凍食品などを含む農畜水産加工品を広く例示することができる。
【0054】
これらのうち、特に乳飲料を例示することができ、さらには、糖類を低減した乳酸菌飲料を上げることができる。
【0055】
本発明の製造方法により得られる飲食品用風味改善剤等の添加量は、飲食品用風味改善剤として、飲食品に対し、通常、0.1ppm~1%、好ましくは1ppm~0.2%、より好ましくは10ppm~500ppmを例示することができる。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明の好ましい態様をさらに詳しく説明するが、本発明は前記説明した技術的思想にあるのであり、実施例の具体的記述によりなんら限定されるものではない。
【0057】
なお、以下の記載中に割合を示す数字が多数ある場合、特に限定がない場合は質量基準の割合(w/w)を意味する。
【0058】
(実施例1)脱脂粉乳を原料とした本発明品の調製
脱脂粉乳60gを水540gに溶解し、85℃±2℃にて15分間加熱殺菌後41.5℃±1.5℃まで冷却し(この時点での溶液のpH6.7、乳酸酸度0.17%)、市販乳酸菌ミックス(ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィラスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス混合)0.3gを除菌水2.7gに懸濁した溶液を加え、40℃±2℃にて24時間静置し、乳酸発酵した(終了時のpH3.8、乳酸菌数3.5×10個/g、乳酸酸度1.12%)。発酵後30%水酸化ナトリウム水溶液にてpHを7.7に調整し(13.3g使用)、次いで黒糖400.6g(対溶液65%)を添加混合し溶解した。溶解後の溶液を3径フラスコ(温度計、攪拌羽根、冷却管)にて92.5℃±2.5℃にて5時間加熱した。42.5℃±2.5℃まで冷却後、60メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過し飲食品用風味改善剤(本発明品1)1000gを得た。
【0059】
(官能評価1)乳酸発酵乳への添加
脱脂粉乳900gを水5100gに溶解し、85℃で15分間加熱殺菌後、40℃まで冷却し、次いで、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリカスおよび ストレプトコッカス・サーモフィルスの種菌を、それぞれ1×10cfu/mLとなるように添加し、攪拌しながら35℃で24時間培養した(pH3.6)。前記培養液を、92.5±2.5℃、15分間加熱殺菌した後、25℃まで冷却し、T.K.ロボミックス(プライミクス社製)により8000rpmで10分間撹拌して均質化し、無糖乳酸発酵乳(参考品1)を得た。
【0060】
参考品1に砂糖6%または砂糖4.8%を添加混合し、それぞれ参考品2(砂糖6%)および比較品1(砂糖4.8%)とした。
【0061】
比較品1に、本発明品1を表1に示す量で添加し、本発明品1添加の乳酸発酵乳を得た。
【0062】
参考品2を基準品として、比較品1および本発明品1添加の乳酸発酵乳を10名のパネリストにより官能評価を行った。それぞれの飲料の評価基準は、甘味およびボディ感の2項目について、参考品2:5点、比較品1:1点とし、参考品2と同程度:5点、比較品1と同程度:1点とし、この間のどこに位置するかで、ほぼ中間程度:3点、中間よりやや参考品2寄り:4点、中間よりやや比較品1寄り:2点とした。また、それぞれの飲料について、自由コメントを記載した。その結果を表1に示す。なお自由コメントはパネリストの平均的な内容をまとめたものである。
【0063】
【表1】
【0064】
比較品1(砂糖4.8%)は参考品2(砂糖6%)と比べ砂糖含有量が2割少ないが、表1に示した通り、本発明品1は0.01%という微量の添加でも、砂糖の甘味を補い、また、砂糖が少ないことによるボディ感の不足を相当程度補うことができるという結果であった。また、本発明品1の0.05%添加では、0.01%添加と比べ、甘味、ボディ感とも増し、比較品1よりはむしろ参考品2に近いという結果であった。なお、本発明品1を、比較品1に0.2%添加した場合、本発明品1を0.05%添加したものよりも、さらに甘味やボディ感はさらに増すが、わずかに黒糖的な甘黒さが感じられた。
【0065】
(実施例2)本発明の飲食品用風味改善剤組成物
本発明品1(100g)に殺菌済のグリセリン100gを加え、42℃にて10分間攪拌混合し、20メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過し、ガラス容器に充填し、本発明の飲食品用風味改善剤組成物(本発明品2)198gを得た。
【0066】
(官能評価2)乳酸発酵乳への添加
比較品1に、本発明品2を0.03%添加混合し、本発明品2添加の乳酸発酵乳を調製した。これらを10名のパネリストにより、甘味およびボディ感について比較したところ、10名全員が本発明品2を添加した発酵乳が、比較品1と比べて、甘味、ボディ感ともに強いと評価した。
【0067】
(実施例3)牛乳を原料とした本発明品の調製
牛乳(たんぱく質3.4%、脂質3.8%、炭水化物5.0%)600gに、市販乳酸菌ミックス(ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリクス、ラクトバチルス・アシドフィラスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス混合)0.3gを除菌水2.7gに懸濁した溶液を加え、40℃±2℃にて24時間静置し、乳酸発酵した(終了時のpH3.7、乳酸菌数3.0×10個/g、乳酸酸度1.61%)。発酵後30%水酸化ナトリウム水溶液にてpHを7.7に調整し(18.9g使用)、次いで上白糖399.6g(対溶液64%)を添加混合し溶解した。溶解後の溶液を3径フラスコ(温度計、攪拌羽根、冷却管)にて92.5℃±2.5℃にて5時間加熱した。42.5℃±2.5℃まで冷却後、60メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過し飲食品用風味改善剤(本発明品3)1003gを得た。
【0068】
(官能評価3)乳酸発酵乳への添加
比較品1に、本発明品3を0.03%添加混合し、本発明品3添加の乳酸発酵乳を調製した。これらを10名のパネリストにより、甘味およびボディ感について比較したところ、10名全員が本発明品3を添加した発酵乳が、比較品1と比べて、甘味、ボディ感ともに強いと評価した。
【0069】
(実施例4)生クリームを原料とした本発明品の調製
市販生クリーム(たんぱく質2.1g、脂質36.5g、炭水化物3.2%)300gと水300gを混合し、市販乳酸菌ミックス(ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリクス、ラクトバチルス・アシドフィラスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス混合)0.3gを除菌水2.7gに懸濁した溶液を加え、40℃±2℃にて24時間静置し、乳酸発酵した(終了時のpH3.7、乳酸菌数3.0×10個/g、乳酸酸度0.47%)。発酵後30%水酸化ナトリウム水溶液にてpHを7.7に調整し(5.2g使用)、次いでグラニュー糖397.7g(対溶液65%)を添加混合し溶解した。溶解後の溶液を3径フラスコ(温度計、攪拌羽根、冷却管)にて92.5℃±2.5℃にて5時間加熱した。42.5℃±2.5℃まで冷却後、60メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過し飲食品用風味改善剤(本発明品4)980gを得た。
【0070】
(官能評価4)乳酸発酵乳への添加
比較品1に、本発明品4を0.03%添加混合し、本発明品4添加の乳酸発酵乳を調製した。これらを10名のパネリストにより、甘味およびボディ感について比較したところ、10名全員が本発明品4を添加した発酵乳が、比較品1と比べて、甘味、ボディ感ともに強いと評価した。
【0071】
(官能評価5)酸味、酸臭抑効果の検証
製造後の微生物代謝によって、経時的に酸味酸臭の増加したヨーグルトを想定し、以下の参考品3を調製した。
【0072】
市販のプレーンヨーグルト(無脂乳固形分9.5%、乳脂肪分3.0%)100質量部に酢酸(純正化学株式会社製 氷酢酸:食品添加物)を0.1質量部添加し、攪拌混合して参考品3とした。参考品3に、表2に示す本発明品を各0.05質量%添加し、攪拌混合した。これら参考品3に各本発明品を添加したヨーグルトを10名のパネリストにより、参考品3を基準品(酸味、酸臭ともにそれぞれ1点)として、官能評価を行った。
【0073】
それぞれの評価基準は、酸味について、基準品(酢酸に由来する酸味を感じる):1点、酢酸に由来する酸味がやや抑制されている:2点、酢酸に由来する酸味が抑制されている:3点、酢酸に由来する酸臭が参考品3よりも増加している:0点、とした。
【0074】
また、酸臭について、基準品(酢酸に由来する酸臭を感じる):1点、酢酸に由来する酸臭がやや抑制されている:2点、酢酸に由来する酸臭が抑制されている:3点、酢酸に由来する酸臭が参考品3よりも増加している:0点、とした。その平均点および平均的なコメント内容を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示した通り、本発明品を添加したプレーンヨーグルト(酢酸添加)は何れも、酸味、酸臭ともに、本発明品無添加のものよりも明らかに低減した。
【0077】
(官能評価6)高甘味度甘味料の呈味改善効果の検証
参考品1の無糖乳酸発酵乳飲料に、アセスルファムカリウム0.03%を添加混合し、高甘味度甘味料含有発酵乳飲料を調整した(参考品4、アセスルファムカリウム由来の甘味度:ショ糖6%相当)。参考品4に、表3に示す本発明品を各0.05質量%添加し、攪拌混合した。これらの各本発明品(1、3または4)添加の乳酸発酵乳を10名のパネリストにより、参考品4を基準品として、官能評価を行った。
【0078】
それぞれの評価基準は、後味の苦味(以下、「苦味」という)について、基準品(後味に苦味を非常に強く感じる):1点、後味に苦味を強く感じる:2点、後味に苦味を感じる:3点、後味に苦味が多少感じられる:4点、後味に苦味がわずかに感じられる:5点、 後味に苦味が全く感じられない:6点、後味の苦味が参考品4よりも増加している:0点、とした。
【0079】
また、甘味が後に尾を引く欠点(以下、「甘みの後引き」という)について、基準品(後味の後引きが非常に強く、好ましい甘味ではない):1点、甘味の後引きが強く、好ましい甘味ではない:2点、甘味の後引きがあり、好ましい甘味が弱い:3点、甘みの後引きを多少感じる:4点、甘味の後引きをわずかに感じる:5点、甘味の後引きが感じられず、好ましい甘味を強く感じる:6点、後味の後引きが参考品4よりも増加している:0点、とした。その平均点および平均的なコメント内容を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示した通り、本発明品を添加した乳酸発酵乳(高甘味度甘味料により甘味を付与したもの)は何れも、苦味、甘味の後引きともに、本発明品無添加のものよりも明らかに低減した。
【0082】
(実施例5)加熱前のpH調整を行わない本発明品の調製
脱脂粉乳60gを水540gに溶解し、85±2℃にて15分間加熱殺菌後41.5℃±1.5℃まで冷却し(この時点での溶液のpH6.7、乳酸酸度0.17%)、市販乳酸菌ミックス(ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリクス、ラクトバチルス・アシドフィラスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス混合)0.3gを除菌水2.7gに懸濁した溶液を加え、40℃±2℃にて24時間静置し、乳酸発酵した(終了時のpH3.8、乳酸菌数3.6×10個/g、乳酸酸度1.12%)。次いで黒糖392.0g(対溶液65%)を添加混合し溶解した。溶解後の溶液をオートクレーブに移し、ヘッドスペースを窒素ガスにて置換した後、120℃±2.5℃にて2時間加熱した。42.5℃±2.5℃まで冷却後、60メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過し飲食品用風味改善剤(本発明品5)973gを得た。
【0083】
(実施例6)加熱前の糖類添加を行わない本発明品の調製
脱脂粉乳60gを水540gに溶解し、85±2℃にて15分間加熱殺菌後41.5℃±1.5℃まで冷却し(この時点での溶液のpH6.7、乳酸酸度0.17%)、市販乳酸菌ミックス(ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・デルブルェッキー・亜種ブルガリクス、ラクトバチルス・アシドフィラスおよびビフィドバクテリウム・アニマリス混合)0.3gを除菌水2.7gに懸濁した溶液を加え、40℃±2℃にて24時間攪拌し、乳酸発酵した(終了時のpH3.8、乳酸菌数3.55×10個/g、乳酸酸度1.12%)。発酵後30%水酸化ナトリウム水溶液にてpHを8.6に調整した(16.4g使用)。pH調整後の溶液をオートクレーブに移し、ヘッドスペースを窒素ガスにて置換した後、130℃±2.5℃にて30分間加熱した。42.5℃±2.5℃まで冷却後、60メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過し飲食品用風味改善剤(本発明品6)599gを得た。
【0084】
(官能評価7)高甘味度甘味料使用プリンへの本発明品の添加効果
粉末ゼラチン5gに水40gを加えて懸濁し60℃に加温し溶解しゼラチン溶液を調製した。前記ゼラチン溶液とは別に、牛乳300g、生クリーム100gおよび上白糖40gを混合し、40℃にて加温溶解した後、殺菌全卵130gおよびバニラエキス(シングルホールド)を0.5g加え、次いで先に調製したゼラチン溶液を加え、85℃にて5分間加熱殺菌した。その後、65℃まで冷却し、40メッシュポリ塩化ビニリデン濾布にて濾過しながら120mLのプラスチック容器に小分けし、5℃にて2時間放置しプリン(参考品5)を調製した。
【0085】
一方、参考品5の調製において、上白糖40gを、上白糖15g、アスパルテーム0.125gおよび水24.875gの混合物に置き換え、ならびに、先に調製したゼラチン溶液を加える直前に本発明品(1、5または6)0.2gを加える(または本発明品無添加)以外は参考品5と同一の操作を行い、本発明品添加(または無添加の)の高甘味度甘味料含有プリンを調製した(ショ糖含有量2.52%、ショ糖およびアスパルテーム由来の甘味度:ショ糖6.71%相当)。
【0086】
本発明品無添加の高甘味度甘味料使用のプリンを比較品2として、参考品5、比較品2および本発明品添加のプリンを10名のパネリストにより官能評価を行った。それぞれのプリンの評価基準は、ボディ感、後味の苦味(以下、「苦味」という)および甘味が後に尾を引く欠点(以下、「甘みの後引き」という)の3項目について、参考品5:5点、比較品2(本発明品無添加の高甘味度甘味料含有プリン):1点とし、参考品5と同程度:5点、比較品2と同程度:1点とし、この間のどこに位置するかで、ほぼ中間程度:3点、中間よりやや参考品5寄り:4点、中間よりやや比較品2寄り:2点とした。また、それぞれのプリンについて、自由コメントを記載した。その結果を表4に示す。なお自由コメントはパネリストの平均的な内容をまとめたものである。
【0087】
【表4】
【0088】
表4に示した通り、比較品2に本発明品1を添加したプリン(高甘味度甘味料含有プリン)は、参考品5(甘味料として砂糖のみを使用したプリン)とボディ感がほぼ同程度であり、また、高甘味度甘味料特有の後味の苦味や、甘味の後引きがほとんど感じられないという評価であった。また、本発明品5(加熱前のpH調整を行わない本発明品)や本発明品6(加熱前の糖類添加を行わない本発明品)の添加では、本発明品1と比べやや効果が劣るが、やはり無添加と比べボディ感があり、苦味、甘味の後引きがかなり抑えられていという結果であった。