(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123459
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】信号増幅装置及び信号送受信システム
(51)【国際特許分類】
H03F 3/189 20060101AFI20240905BHJP
H04B 1/38 20150101ALI20240905BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H03F3/189
H04B1/38
H03F3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030893
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
【テーマコード(参考)】
5J500
5K011
【Fターム(参考)】
5J500AA04
5J500AA41
5J500AC52
5J500AC54
5J500AC64
5J500AF16
5J500AK41
5J500AM08
5J500AQ05
5J500AQ06
5J500AS14
5J500AT01
5K011AA15
5K011DA02
5K011DA12
5K011KA04
(57)【要約】
【課題】入出力間の電磁波の伝搬を抑え、良好なアイソレーションを得ることが可能な信号増幅装置を提供する。
【解決手段】信号増幅装置10は、入力した高周波信号を増幅して出力する信号増幅装置10である。信号増幅装置10は、基板と、基板に設けられ、伝送路を介して直列に接続された複数の増幅器と、上面部、底面部、及び複数の側面部210を有し、基板を覆う金属ケースと、基板、上面部、及び側面部210に接する複数の隔壁220と、を備える。複数の増幅器は、基板上に形成された領域であって、隔壁220によって仕切られた領域に、それぞれ設置される。また、隔壁220は伝送路を通過させるための通過穴を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した高周波信号を増幅して出力する信号増幅装置であって、
基板と、
前記基板に設けられ、伝送路を介して直列に接続された複数の増幅器と、
上面部、底面部、及び複数の側面部を有し、前記基板を覆う金属ケースと、
前記基板、前記上面部、及び前記側面部に接する複数の隔壁と、を備え、
前記複数の増幅器は、前記基板上に形成された領域であって、前記隔壁によって仕切られた領域に、それぞれ設置され、
前記隔壁は前記伝送路を通過させるための通過穴を有する、信号増幅装置。
【請求項2】
前記複数の増幅器は、それぞれの利得が20dBである、第1増幅器、第2増幅器、及び第3増幅器によって構成される、請求項1に記載の信号増幅装置。
【請求項3】
前記複数の隔壁は、第1隔壁、第2隔壁、第3隔壁、及び第4隔壁により構成され、
前記第1増幅器が設置され、前記第1隔壁、前記第2隔壁、前記上面部、前記底面部、及び前記複数の側面部で形成される第1空間と、前記第2増幅器が設置され、前記第2隔壁、前記第3隔壁、前記上面部、前記底面部、及び前記複数の側面部で形成される第2空間と、前記第3増幅器が設置され、前記第3隔壁、前記第4隔壁、前記上面部、前記底面部、及び前記複数の側面部で形成される第3空間と、はそれぞれ空間の容積が異なる請求項2に記載の信号増幅装置。
【請求項4】
前記複数の隔壁は、前記基板のGNDと導通するように形成される、請求項1に記載の信号増幅装置。
【請求項5】
前記通過穴の直径は、前記高周波信号の波長の10分の1の長さである、請求項1に記載の信号増幅装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の前記信号増幅装置を無線信号受信器として備え、請求項1又は2に記載の前記信号増幅装置を無線信号送信器として備える信号送受信システムであって、
前記無線信号受信器の入力部は、前記無線信号送信器の入力部に近くに位置し、前記無線信号受信器の出力部は、前記無線信号送信器の出力部に近くに位置するように前記無線信号受信器と、前記無線信号送信器が配置される信号送受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号増幅装置及び信号送受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波信号を増幅させて伝送する技術が提案されている。特許文献1には、信号の受信機等に使用されるプリエンファシス回路が開示されている。特許文献1に開示されたプリエンファシス回路は、ロスのある伝送線路を駆動する場合に、電流源をエンファシス量調整信号に応じてオン/オフすることによって、伝送線路の受端における波形を改善させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伝搬損失の大きい高周波信号の中継(リレー)においては、受信した信号を再放射に十分な信号レベルに増幅させる必要がある。例えば、増幅装置においては、所望の増幅信号を得るために増幅器を複数段設ける必要があり、また、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器の入力部へ回り込んで繰り返し増幅される現象(発振)が発生する場合がある。そのため、信号の発振を防ぎ、かつ所望の増幅信号を得ることが可能な増幅装置が必要とされている。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、入出力間の電磁波の伝搬を抑え、良好なアイソレーションを得ることが可能な信号増幅装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に係る信号増幅装置は、入力した高周波信号を増幅して出力する信号増幅装置であって、基板と、基板に設けられ、伝送路を介して直列に接続された複数の増幅器と、上面部、底面部、及び複数の側面部を有し、基板を覆う金属ケースと、基板、上面部、及び側面部に接する複数の隔壁と、を備え、複数の増幅器は、基板上に形成された領域であって、隔壁によって仕切られた領域に、それぞれ設置され、隔壁は伝送路を通過させるための通過穴を有する。
【0007】
本発明の他の態様に係る信号送受信システムは、上記の信号増幅装置を無線信号受信器として備え、上述の信号増幅装置を無線信号送信器として備える信号送受信システムであって、無線信号受信器の入力部は、無線信号送信器の入力部に近くに位置し、無線信号受信器の出力部は、無線信号送信器の出力部に近くに位置するように無線信号受信器と、無線信号送信器が配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、入出力間の電磁波の伝搬を抑え、良好なアイソレーションを得ることが可能な信号増幅装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る信号増幅装置の外観を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る信号増幅装置の構成について説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係る信号増幅装置の基板について説明するための図である。
【
図4A】本実施形態に係る信号増幅装置の隔壁の形状について説明するための図である。
【
図4B】本実施形態に係る信号増幅装置の隔壁の形状について説明するための図である。
【
図5A】本実施形態に係る信号増幅装置の隔壁の効果について説明するための図である。
【
図5B】本実施形態に係る信号増幅装置の隔壁の効果について説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係る信号増幅装置の隔壁に設けられたトンネルについて説明するための図である。
【
図7】本実施形態に係る信号増幅装置の隔壁に設けられたトンネルの形状について説明するための図である。
【
図8A】本実施形態に係る信号増幅装置における伝送路パターンの反射特性について説明するための図である。
【
図8B】本実施形態に係る信号増幅装置における伝送路パターンのアイソレーションについて説明するための図である。
【
図9】本実施形態に係る信号増幅装置における伝送路パターンの反射について説明するための図である。
【
図10】本実施形態に係る信号増幅装置におけるアイソレーションについて説明するための図である。
【
図11】本実施形態に係る信号増幅装置を適用した信号送受信システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係る信号増幅装置10について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0011】
図1は、本実施形態に係る信号増幅装置10の外観を示す図である。本実施形態に係る信号増幅装置10は、入力した高周波信号を増幅して出力する。
【0012】
例えば、伝搬損失の大きい28GHz帯の無線信号を中継するリレーにおいては、非常に微弱な無線信号(-80dBm程度)を受信した場合に、再放射に十分な信号レベル(-20dBm以上)に増幅させる必要がある。そのため、高周波信号を増幅して出力する増幅回路(増幅装置)においては、合計利得が60dB程度に達することが求められる。
【0013】
一方で、一般的な増幅器(アンプIC)の利得は、1アンプあたり20dB程度に限られる場合があり、これらの増幅器を直列に3段接続(連続構成)とすることで、合計利得が60dB程度を達することができる。本実施形態における信号増幅装置10は、複数の増幅器110(
図3参照)を備え、入力した高周波信号を増幅して出力する。
【0014】
本実施形態に係る信号増幅装置10は、基板100(
図2参照)を有し、基板100に設けられた複数の増幅器110を備え、入力信号を増幅して出力する中継器(リレー)である。
【0015】
図1に示すように信号増幅装置10は、金属ケース200によって覆われる形で構成される。本実施形態において金属ケース200は、電波を遮断する金属で形成され、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210を有し、信号増幅装置10に設けられた基板100に対して覆う形で形成される。なお、本実施形態において、金属ケース200に適用される金属の種類は、電波を遮断することが可能な金属であれば、本実施形態の構成を限定するものではない。
【0016】
また、本明細書においては、
図1に示すように、信号増幅装置10の長手方向をY軸方向とし、短手方向をX軸方向として定める。また、X軸方向及びY軸方向で形成される平面(XY平面)と垂直となる方向をZ軸方向として定める。すなわち、
図1に示す例においては、図面の上下方向をZ軸方向として定める。
【0017】
図2は、本実施形態に係る信号増幅装置10の構成について説明するための図である。なお、
図2は、
図1における信号増幅装置10の外観を示す図から、説明のために金属ケース200の上面部201の図示を省略した模式図である。
【0018】
図2に示すように、信号増幅装置10は、XY平面に示す基板100の周囲の4辺に位置する複数の側面部210と、入力部101、各増幅器110、及び出力部102を仕切る複数の隔壁220と、を備える。また、隔壁220は、基板100、上面部201、及び側面部210に接する形で、GNDと導通しながら隙間なく形成される。このように、隔壁220が、基板100のGNDと導通するように形成されることで、基板100の誘電体層と金属ケース200との間で、例えば、0.1mm厚程度の薄い誘電体層が形成されるのを防ぐことが可能となる。
【0019】
本実施形態において複数の隔壁220は、第1隔壁220a、第2隔壁220b、第3隔壁220c、及び第4隔壁220dから構成される。また、複数の隔壁220は、伝送路120を通過させるためのトンネルTL(通過穴)を有する(
図6参照)。この隔壁220に設けられるトンネルTLの詳細については後述する。
【0020】
本実施形態において、入力部101が設けられた領域と、第1増幅器110aが設けられた領域とを仕切る隔壁220を第1隔壁220aとする。また、第1増幅器110aが設けられた領域と、第2増幅器110bが設けられた領域とを仕切る隔壁220を第2隔壁220bとする。また、第2増幅器110bが設けられた領域と、第3増幅器110cが設けられた領域とを仕切る隔壁220を第3隔壁220cとする。さらに、第3増幅器110cが設けられた領域と、出力部102が設けられた領域とを仕切る隔壁220を第4隔壁220dとする。
【0021】
また、本実施形態において、第1増幅器110aが設置され、第1隔壁220a、第2隔壁220b、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される空間を第1空間と称する。また、第2増幅器110bが設置され、第2隔壁220b、第3隔壁220c、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される空間を第2空間と称する。さらに、第3増幅器110cが設置され、第3隔壁220c、第4隔壁220d、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される空間を第3空間と称する。
【0022】
なお、本実施形態において、第1空間、第2空間、及び第3空間における基板100と、上面部201とのZ軸方向の距離は4mmである。また、第1空間、第2空間、及び第3空間において、X軸方向における側面部210の内面間の距離は25mmである。また、第1空間、第2空間、及び第3空間において、隔壁220間の距離は、15~20mmであり、第1空間、第2空間、及び第3空間の空間においてそれぞれ異なるものとする。
【0023】
すなわち、本実施形態において、第1空間、第2空間、及び第3空間は、それぞれ空間の容積が異なる。これにより、信号増幅装置10は、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、電波の共振ピークが同一周波数集中することを防ぐことが可能となる。
【0024】
以降、第1隔壁220a~第4隔壁220dのそれぞれを区別して説明する必要がない場合は、単に「隔壁220」と表記する。さらに、第1増幅器110a~第3増幅器110cのそれぞれを区別して説明する必要がない場合は、単に「増幅器110」と表記する。
【0025】
図3は、本実施形態に係る信号増幅装置10の基板100について説明するための図である。なお、
図3は、基板100について説明するために、
図2の側面部210、及び隔壁220の図示を省略した図である。
図3に示すように、本実施形態に係る信号増幅装置10は、第1増幅器110a、第2増幅器110b、及び第3増幅器110cを含み、第1増幅器110a、第2増幅器110b、及び第3増幅器110cが基板上に直列に接続された形で構成される。
【0026】
また、基板100には、回路部品150やGNDスルーホールが設けられる。回路部品150は、例えば、伝送路120の途中に設けられるフィルタや、増幅器110の周辺に設けられる電源フィルタ等である。GNDスルーホールは、本実施形態において側面部210や隔壁220と、基板100の表面とが接する場所に設けられる。GNDスルーホールの設置位置は、金属で形成される金属ケース200の端部やエッジなどの細かい部分と、基板100のGND面との間に薄い誘電体層が挟まることを避けるために、側面部210や隔壁220と、基板100の表面とが接する場所に設けられる。これにより、例えば、金属で形成される金属ケース200の端部やエッジなどの細かい部分と、基板100のGND面との間に薄い誘電体層が挟まったところに電界が集中してしまい、周辺のアイソレーションが劣化するのを防ぐことが可能となる。
【0027】
入力部101と第1増幅器110aは、第1伝送路120aを介して接続されている。また、第1増幅器110aと第2増幅器110bは、第2伝送路120bを介して接続されている。また、第2増幅器110bと第3増幅器110cは、第3伝送路120cを介して接続されている。さらに、第3増幅器110cと出力部102は、第4伝送路120dを介して接続されている。以降、第1伝送路120a~第4伝送路120dのそれぞれを区別して説明する必要がない場合は、単に「伝送路120」と表記する。
【0028】
図4Aは、本実施形態に係る信号増幅装置10の隔壁220の形状について説明するための図である。本実施形態に係る隔壁220は、
図4Aに示すように、XY平面において、一部が斜めの形状になっている。すなわち、
図4Aに示す第2隔壁220bの一部がY軸方向にずれて構成される。
図4Bは、比較例として、本実施形態に係る信号増幅装置10の隔壁220の形状について説明するための図であって、第2隔壁220bが斜め方向の部分を有さず、X軸方向に一直線となる場合の例を示す。
【0029】
図5Aは、本実施形態に係る信号増幅装置10の隔壁220の効果について説明するための図である。また、
図5Bは、
図4Bに示す比較例の場合の特性について説明するための図である。
図5A及び
図5Bは、
図4A及び
図4Bに示すそれぞれの隔壁220を適用した場合のアイソレーションを示す図である。
図5Aに示すように、隔壁220が一直線で構成された場合のアイソレーションを示す
図5Bの波形に比べて、隔壁220に斜め部分を有する場合のアイソレーションを示す
図5Aの波形がアイソレーションの効果が高いことが示されている。
【0030】
これは、隔壁220の一部を斜めに形成することで、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、さらに共振ピークが同一周波数に集中するのを分散させることが可能となる。よって、
図4Aに示すような斜めの形状部分を備える第2隔壁220bを用いることで、最大ピークレベルを下げ、必要なアイソレーションを達成することが可能となる。
【0031】
図6は、本実施形態に係る信号増幅装置10の隔壁220に設けられたトンネルTLについて説明するための図である。なお、トンネルTLは、通過穴に相当する。本実施形態においては、このトンネルTLを介して、各伝送路120が設けられている。すなわち、隔壁220は、伝送路120を通過させるためのトンネルTL(通過穴)を有する。
【0032】
図7は、本実施形態に係る信号増幅装置10の隔壁220に設けられたトンネルTLの形状について説明するための図である。条件A~条件Cは、高さ10mmの隔壁220を備える場合の条件を示し、条件Dでは、隔壁220を備えない場合の条件を示している。なお、高さは、Z軸方向の長さに相当する。
【0033】
条件A~条件Cで設けられた隔壁220の厚さは、0.5mmである。また、条件A~条件Cで設けられたトンネルTLの長さは、隔壁220の厚さと同様に0.5mmである。また、トンネルTLを通過する伝送路120のパターン幅は0.2mmとする。
【0034】
条件AにおけるトンネルTLの直径は、1mmである。また、条件BにおけるトンネルTLの直径は、0.53mmである。また、条件CにおけるトンネルTLの直径は、1.5mmである。なお、本実施形態において、トンネルTLの直径は、半円形状のトンネルTLを円形とした場合の直径の長さであり、例えば、
図6に示す例においては、トンネルTLが位置する基板100のX軸方向の長さに相当する。
【0035】
図8A~
図8Bは、
図7に示す複数の条件A~Dに基づいて、特性を調べた結果を示すグラフである。
【0036】
図8Aは、本実施形態に係る信号増幅装置10における伝送路パターンの反射特性について説明するための図である。例えば、トンネルTLの直径を0.53mmまで小さくした条件Bの場合には、
図8Aに示すように、反射の山の節(谷)の位置が、他の条件と比べて変わり、反射も28GHz付近では、グラフにおいて値が下がらない。これは、条件Bの場合において、トンネルTLの直径が狭いため、伝送路120の設計値に影響を与え、伝送特性が悪くなるためである。
【0037】
図8Bは、本実施形態に係る信号増幅装置10における伝送路パターンのアイソレーションについて説明するための図である。
図8Bに示すように、トンネルTLの直径を1.5mmと大きくした条件Cの場合には、例えば、15GHzの帯域でピークが目立ち、アイソレーションにおいて、よくない結果となることがわかる。
【0038】
本実施形態においては、通過穴の直径は、高周波信号の波長の10分の1の長さであるとする。すなわち、
図8A~
図8Bに示すように、28GHz帯の無線信号の場合、通過穴の直径は、当該無線信号の波長である約10mmの10分の1の長さである1mmが適切であることが示される。これにより、信号増幅装置10は、より良好なアイソレーションを得ることが可能となる。なお、通過穴(トンネルTL)の直径は、1mmに限定されるものではなく、対応する無線信号の周波数に応じたものであってもよい。
【0039】
図9は、本実施形態に係る信号増幅装置10における伝送路パターンのアイソレーションについて説明するための図である。
図9に示す図においては、各増幅器110の増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込んでいる経路(1)~(6)を模式的に示したものである。
【0040】
経路(1)は、第3増幅器110c(アンプ3)の出力及び出力部102の入力から第1増幅器110a(アンプ1)への信号の回り込みを示す。経路(2)は、第2増幅器110b(アンプ2)の出力及び第3増幅器110c(アンプ3)の入力から第1増幅器110a(アンプ1)への信号の回り込みを示す。経路(3)は、第3増幅器110c(アンプ3)の出力及び出力部102の入力から第2増幅器110b(アンプ2)への信号の回り込みを示す。経路(4)は、第1増幅器110a(アンプ1)の出力及び第2増幅器110b(アンプ2)の入力から第1増幅器110a(アンプ1)への信号の回り込みを示す。経路(5)は、第2増幅器110b(アンプ2)の出力及び第3増幅器110c(アンプ3)の入力から第2増幅器110b(アンプ2)への信号の回り込みを示す。経路(6)は、第3増幅器110c(アンプ3)の出力及び出力部102の入力から第3増幅器110c(アンプ3)への信号の回り込みを示す。
【0041】
図10は、本実施形態に係る信号増幅装置10におけるアイソレーションについて説明するための図である。
図10に示す上段のグラフは、
図9に示す経路(5)におけるアイソレーションを示す。また、
図10に示す中段のグラフは、
図9に示す経路(6)におけるアイソレーションを示す。さらに
図10に示す下段のグラフは、
図9に示す経路(3)におけるアイソレーションを示す。
【0042】
図10に示すように、0~30GHzの範囲においては、各グラフのピーク位置が異なる。これにより、各ピークは強まることなく、減衰又は相殺され、適切なアイソレーションを維持することが可能となる。例えば、28GHz帯の無線信号を増幅させる場合には、本実施形態に係る信号増幅装置10は、適切なアイソレーションを維持しつつ、信号の増幅を実現することが可能となる。
【0043】
上述の通り、本実施形態に係る信号増幅装置10は、入力した高周波信号を増幅して出力する信号増幅装置10である。信号増幅装置10は、基板100と、基板100に設けられ、伝送路120を介して直列に接続された複数の増幅器110と、を備える。また、信号増幅装置10は、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210を有し、基板100を覆う金属ケース200と、基板100、上面部201、及び側面部210に接する複数の隔壁220と、を備える。複数の増幅器110は、基板100上に形成された領域であって、隔壁220によって仕切られた領域に、それぞれ設置され、隔壁220は伝送路120を通過させるための通過穴を有する。
【0044】
これにより、信号増幅装置10は、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、電波の共振ピークが同一周波数集中することを防ぐことが可能となる。すなわち、信号増幅装置10は、入出力間の電磁波の伝搬を抑え、良好なアイソレーションを得ることが可能な信号増幅装置10を提供することができる。
【0045】
また、信号増幅装置10の複数の増幅器110は、それぞれの利得が20dBである、第1増幅器110a、第2増幅器110b、及び第3増幅器110cによって構成される。これにより、信号増幅装置10は、例えば、伝搬損失の大きい28GHz帯の無線信号を中継するリレーにおいて、利得が20dBの増幅器110を直列に3段接続することで、合計利得を60dB程度に達することが可能となる。
【0046】
また、信号増幅装置10の複数の隔壁220は、第1隔壁220a、第2隔壁220b、第3隔壁220c、及び第4隔壁220dにより構成される。また、信号増幅装置10は、第1増幅器110aが設置され、第1隔壁220a、第2隔壁220b、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される第1空間を備える。また、信号増幅装置10は、第2増幅器110bが設置され、第2隔壁220b、第3隔壁220c、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される第2空間を備える。また、信号増幅装置10は、第3増幅器110cが設置され、第3隔壁220c、第4隔壁220d、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される第3空間を備える。さらに、第1空間、第2空間、及び第3空間はそれぞれ空間の容積が異なる。
【0047】
これにより、信号増幅装置10は、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、さらに共振ピークが同一周波数に集中するのを分散させることが可能となる。よって、信号増幅装置10は、アイソレーションの最大ピークレベルを下げ、必要なアイソレーションを達成することが可能となる。
【0048】
また、信号増幅装置10の複数の隔壁220は、基板100のGNDと導通するように形成されてもよい。これにより、信号増幅装置10は、基板100の誘電体層と金属ケース200との間で、例えば、0.1mm厚程度の薄い誘電体層が形成されるのを防ぐことが可能となる。すなわち、信号増幅装置10は、金属で形成される金属ケース200の端部やエッジなどの細かい部分と、基板100のGND面との間に薄い誘電体層が挟まった場所での電界の集中によるアイソレーションが劣化するのを防ぐことが可能となる。
【0049】
また、信号増幅装置10の通過穴の直径は、高周波信号の波長の10分の1の長さであってもよい。これにより、信号増幅装置10は、より良好なアイソレーションを得ることが可能となる。
【0050】
(他の実施形態)
実施形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明したが、以上の実施形態に記載した内容により本実施形態が限定されるものではない。また、上記に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0051】
図11は、本実施形態に係る信号増幅装置10を2つ備えて形成される信号送受信システム20の構成を示す図である。信号送受信システム20において、上述の信号増幅装置10の一方は微弱信号を受信し、増幅した信号を出力する無線信号受信器として機能する。また、信号送受信システム20において、上述の信号増幅装置10の他方は入力した信号を増幅し、増幅した信号を送信する無線信号送信器として機能する。また、信号送受信システム20において、一方の信号増幅装置10の入力部101は、他方の信号増幅装置10の入力部101に近く、一方の信号増幅装置10の出力部102は、他方の信号増幅装置10の出力部102に近くなるように、配置される。これにより、信号送受信システム20は、無線信号送信器で送信する増幅された信号が、微弱信号を受信する無線信号受信器に回り込むのを抑制することが可能となる。
【0052】
また、上述の実施形態において、信号増幅装置10は、複数の増幅器110として、3つの増幅器110を備えるが、この構成は本実施形態の構成を限定するものではない。例えば、利得が30dB以上の増幅器110を2段接続する構成を適用してもよい。あるいは、利得が20dB以下の増幅器110を4段接続する構成を適用してもよい。これにより、信号増幅装置10は、増幅器110の利得に基づいて、柔軟な構成を実現することが可能となる。
【0053】
また、上述の実施形態において、例えば、
図4Aに示すように、第2隔壁220bの一部を斜めに設ける例を示したが、この構成は本実施形態の構成を限定するものではない。信号増幅装置10は、例えば、第2隔壁220b以外の隔壁220の一部を斜めに設ける構成を適用してもよい。また、隔壁220の構造は、
図4Aに示す斜めに設定する構成に限定されず、隔壁220の斜めに設定する箇所を2か所より多い、又は少なくしてもよい。あるいは、隔壁220の形態を曲線で構成してもよい。これにより、信号増幅装置10は、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、さらに共振ピークが同一周波数に集中するのを分散させることが可能となる。
【0054】
以下に、信号増幅装置10の特徴について記載する。
【0055】
第1の態様に係る信号増幅装置10は、入力した高周波信号を増幅して出力する信号増幅装置10である。信号増幅装置10は、基板100と、基板100に設けられ、伝送路120を介して直列に接続された複数の増幅器110と、を備える。また、信号増幅装置10は、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210を有し、基板100を覆う金属ケース200と、基板100、上面部201、及び側面部210に接する複数の隔壁220と、を備える。複数の増幅器110は、基板100上に形成された領域であって、隔壁220によって仕切られた領域に、それぞれ設置され、隔壁220は伝送路120を通過させるための通過穴を有する。
【0056】
上記構成によれば、信号増幅装置10は、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、電波の共振ピークが同一周波数集中することを防ぐことが可能となる。すなわち、信号増幅装置10は、入出力間の電磁波の伝搬を抑え、良好なアイソレーションを得ることが可能な信号増幅装置10を提供することができる。
【0057】
第2の態様に係る信号増幅装置10の複数の増幅器110は、それぞれの利得が20dBである、第1増幅器110a、第2増幅器110b、及び第3増幅器110cによって構成されてもよい。
【0058】
上記構成によれば、信号増幅装置10は、例えば、伝搬損失の大きい28GHz帯の無線信号を中継するリレーにおいて、利得が20dBの増幅器110を直列に3段接続することで、合計利得を60dB程度に達することが可能となる。
【0059】
第3の態様に係る信号増幅装置10の複数の隔壁220は、第1隔壁220a、第2隔壁220b、第3隔壁220c、及び第4隔壁220dにより構成されてもよい。また、信号増幅装置10は、第1増幅器110aが設置され、第1隔壁220a、第2隔壁220b、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される第1空間を備えてもよい。また、信号増幅装置10は、第2増幅器110bが設置され、第2隔壁220b、第3隔壁220c、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される第2空間を備えてもよい。また、信号増幅装置10は、第3増幅器110cが設置され、第3隔壁220c、第4隔壁220d、上面部201、底面部202、及び複数の側面部210で形成される第3空間を備えてもよい。さらに、第1空間、第2空間、及び第3空間はそれぞれ空間の容積が異なってもよい。
【0060】
上記構成によれば、信号増幅装置10は、増幅後の大きな信号の一部が各増幅器110の入力部101へ回り込み、繰り返し増幅される現象(発振)を防ぎ、さらに共振ピークが同一周波数に集中するのを分散させることが可能となる。よって、信号増幅装置10は、反射信号の最大ピークレベルを下げ、必要なアイソレーションを達成することが可能となる。
【0061】
第4の態様に係る信号増幅装置10の複数の隔壁220は、基板100のGNDと導通するように形成されてもよい。
【0062】
上記構成によれば、信号増幅装置10は、基板100の誘電体層と金属ケース200との間で、例えば、0.1mm厚程度の薄い誘電体層が形成されるのを防ぐことが可能となる。すなわち、信号増幅装置10は、金属で形成される金属ケース200の端部やエッジなどの細かい部分と、基板100のGND面との間に薄い誘電体層が挟まった場所での電界の集中によるアイソレーションが劣化するのを防ぐことが可能となる。
【0063】
第5の態様に係る信号増幅装置10の通過穴の直径は、高周波信号の波長の10分の1の長さであってもよい。
【0064】
上記構成によれば、信号増幅装置10は、より良好なアイソレーションを得ることが可能となる。
【0065】
第6の態様に係る信号送受信システム20は、上記の信号増幅装置10を無線信号受信器として備え、上記の信号増幅装置10を無線信号送信器として備える信号送受信システム20である。信号送受信システム20は、無線信号受信器の入力部101が、無線信号送信器の入力部101に近くに位置し、無線信号受信器の出力部102が、無線信号送信器の出力部102に近くに位置するように無線信号受信器と、無線信号送信器が配置される。
【0066】
上記構成によれば、信号送受信システム20は、無線信号送信器で送信する増幅された信号が、微弱信号を受信する無線信号受信器に回り込むのを抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
10 信号増幅装置
20 信号送受信システム
100 基板
101 入力部
102 出力部
110 増幅器
110a 第1増幅器
110b 第2増幅器
110c 第3増幅器
120 伝送路
120a 第1伝送路
120b 第2伝送路
120c 第3伝送路
150 回路部品
160 GNDスルーホール
200 金属ケース
201 上面部
202 底面部
210 側面部
220 隔壁
220a 第1隔壁
220b 第2隔壁
220c 第3隔壁
220d 第4隔壁
TL トンネル