(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123466
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20240905BHJP
B43K 1/00 20060101ALI20240905BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K1/00 110
B43K8/02 100
B43K8/02 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030906
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中田 有亮
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久人
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
2C350HA15
4J039AD21
4J039BC20
4J039BC56
4J039BC79
4J039BE04
4J039BE05
4J039BE07
4J039BE22
4J039BE25
4J039EA21
4J039EA48
4J039GA26
(57)【要約】
【課題】筆記性能を低下させることなく、ペン芯の染料染着防止、それによるインク変色抑制及び筆記感の向上を高度に両立した筆記具を提供する。
【解決手段】 本発明の筆記具は、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料とで構成される着色樹脂粒子と、アニオン系界面活性剤とを含有する水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料とで構成される着色樹脂粒子と、アニオン系界面活性剤とを含有する水性インク組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
【請求項2】
アニオン系界面活性剤がスルホン酸系界面活性剤、硫酸エステル系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の筆記具。
【請求項3】
筆記具のペン芯の材質が下記A群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の筆記具。
A群: ポリエステル芯、アクリル芯、ナイロン芯、ポリブチレンテレフタレート(PBT)芯、ポリエチレン芯、ゴム芯、ウレタン芯、ポリアセタール(POM)芯、ポリプロピレン(PP)芯、ポリエチレンナフタレート(PEN)芯、ポリエチレンテレフタレート(PET)芯
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料で着色した着色樹脂粒子を含有する水性インク組成物を搭載した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、染料で着色した樹脂粒子を着色剤として含有する水性インク組成物、これを搭載した筆記具や塗布具が知られている。
例えば、(1)染料で着色した着色樹脂粒子と、着色樹脂粒子の平均粒子径に対して平均粒子径が5%以上95%以下のワックス粒子とを少なくとも含む水性インキと、塗布先(ペン芯)として繊維集束体を備える塗布具(例えば、特許文献1参照)や、(2)(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料とで構成される着色樹脂微粒子であって、前記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量が着色樹脂微粒子を構成する全ポリマー成分に対して、30質量%以上であると共に、前記塩基性染料又は油溶性染料の含有量が全ポリマー成分に対して、15質量%以上である着色樹脂微粒子が水に分散されていることを特徴とする水性インク用着色樹脂微粒子の分散液、これを含有する筆記具用水性インク組成物(例えば、本出願人の先行出願となる特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の水性インキ組成物を搭載した塗布具などは、経時的に繊維集束体にインクに含まれる染料の染着や、それによるインク変色などの課題があった。さらには、ペン芯に染料が染着することによって、初期の筆記時の描線と比較して色相の変化が発生しやすいなどの課題があり、この課題は保存期間等が長いほど強くなる傾向であった。
上記特許文献2の水性インク組成物を搭載した筆記具は、今までにない優れた筆記性能を有するものであるが、ペン芯の染料染着防止、それによるインク変色抑制、筆記感の向上などの更なる性能アップが望まれている。
更に、プラスチック芯からなるペン芯は、インクとの相性もあるが、書き味が硬く、引っかかり感があったりし、筆記感の更なる向上が望まれている。
【0004】
一方、本出願人は、筆記具用インクの色材がペン先に吸着することにより発生するインクの変色を抑制するために、重合性不飽和基を有する染料由来のモノマー単位を少なくとも有するポリマーで構成される着色粒子水分散体を含有する水性インク組成物を搭載すると共に、ペン先(焼結芯を除く)がポリエステル系材料から構成されていることを特徴とする筆記具(例えば、特許文献3参照)を開示している。
この筆記具は、本発明と同様の課題を解消するものであるが、技術思想(構成及びその作用効果等)が相違するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2019/189364号公報(請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2019-112561号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2021-185024号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、染料で着色した樹脂粒子を着色剤として含有する水性インク組成物を搭載した筆記具において、筆記性能を損なうことなく、ペン芯の染料染着防止、それによるインク変色抑制及び筆記感の向上を高度に両立した筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料とで構成される着色樹脂粒子と、特定の成分とを含有する水性インク組成物を搭載した筆記具とすることにより、上記目的の筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の筆記具は、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料とで構成される着色樹脂粒子と、アニオン系界面活性剤とを含有する水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
アニオン系界面活性剤がスルホン酸系界面活性剤、硫酸エステル系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
筆記具のペン芯の材質が下記A群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
A群: ポリエステル芯、アクリル芯、ナイロン芯、ポリブチレンテレフタレート(PBT)芯、ポリエチレン芯、ゴム芯、ウレタン芯、ポリアセタール(POM)芯、ポリプロピレン(PP)芯、ポリエチレンナフタレート(PEN)芯、ポリエチレンテレフタレート(PET)芯
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筆記性能を損なうことなく、ペン芯の染料染着防止、それによるインク変色抑制及び筆記感の向上を高度に両立した筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)~(n)は、本発明の筆記具における繊維芯からなるペン芯の各構造等を説明する説明図である。
【
図2】(a)~(j)は、本発明の筆記具におけるプラスチック芯からなるペン芯の各構造等を説明する説明図である。
【
図3】本発明の筆記具の実施形態の一例を示す直液式筆記具の縦断面図である。
【
図4】本発明の筆記具の実施形態の他例を示すバルブ機構を備えた筆記具の縦断面図である。
【
図5】本発明の筆記具の実施形態の他例を示す中綿等のインク吸蔵体に吸蔵させたタイプの筆記具の縦断面図である。
【
図6】本発明の筆記具の実施形態の他例を示す中綿等のインク吸蔵体に吸蔵させたタイプの
図5とペン芯形状が異なる筆記具の縦断面図である。
【
図7】本発明の筆記具の実施形態の他例を示す中綿等のインク吸蔵体に吸蔵させたタイプの
図5、
図6とペン芯形状が異なる筆記具の縦断面図である。
【
図8】本発明の筆記具の実施形態の他例を示すノック式の筆記具の縦断面図である。
【
図9】本発明の筆記具の実施形態の他例を示すものであり、筆圧によって描線の幅を自在に変化させるサインペン又はマーキングペンに対応可能な筆記具の斜視図である。
【
図12】
図9の筆記具のプラスチックペン芯部分を縦断面態様で示す拡大断面図である。
【
図13】
図12のθ-θ線断面図(プラスチック芯からなるペン芯の横断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述するそれぞれの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
本発明の筆記具は、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料とで構成される着色樹脂粒子と、アニオン系界面活性剤とを含有する水性インク組成物を搭載したことを特徴とするものである。
【0012】
〈水性インク組成物;着色樹脂粒子〉
本発明の筆記具に搭載する水性インク組成物について以下に詳述する。
用いる(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーは、内包可能な染料の量を多くしても、色の濃い発色性に優れる安定な着色樹脂微粒子が得られる点、並びに、得られる着色樹脂微粒子が筆記具用などの色材として十分な描線の濃度となる点などから用いるものである。これ以外の(メタ)アクリル酸n-ブチルなどの(メタ)アクリル酸化合物などの使用では、本発明の効果を発揮できないこととなる。
なお、上記「(メタ)アクリル酸」の表記は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を表す。また、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーの製造法は、既知であり、従来の製法、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルは、(メタ)アクリル酸と、シク
ロヘキサノールとを無機酸、有機スルホン酸、強酸性イオン交換樹脂等の触媒を用いてエステル化するエステル化法や、チタンや錫等を含む有機金属化合物を触媒に用いるエステル交換法により、製造することができる。
【0013】
本発明においては、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーの他に、更に、発色性に優れる着色樹脂微粒子を得る点等から、好ましくは、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマー以外の疎水性ビニルモノマー、水性モノマーを用いることができる。
疎水性ビニルモノマーとしては、例えば、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマー以外のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル類、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類などの少なくとも1種のモノマーを用いることができる。
用いることができる疎水性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、スチレン、メチルスチレン等の少なくとも1種(各単独又は2種以上の混合物)が挙げられる。
用いることができる水性モノマーとしては、例えば、グリセリンモノメタクリレート、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノメタクリレート、プロピレングリコール-ポリブチレングリコール-モノメタクリレート等の少なくとも1種(各単独又は2種以上の混合物)が挙げられる。
【0014】
用いることができる塩基性染料としては、例えば、ジ及びトリアリールメタン系染料;アジン系(ニグロシンを含む)、オキサジン系、チアジン系等のキノンイミン系染料;キサンテン系染料;トリアゾールアゾ系染料;チアゾールアゾ系染料;ベンゾチアゾールアゾ系染料;アゾ系染料;ポリメチン系、アゾメチン系、アザメチン系等のメチン系染料;アントラキノン系染料;フタロシアニン系染料等の塩基性染料などの少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、水溶性の塩基性染料が望ましい。
【0015】
用いることができる具体的な塩基性染料としては、C.I.ベーシックイエロー(-1,-2,-9,-40、-80等)、C.I.ベーシックオレンジ(-1,-2,-7,-34等)、C.I.ベーシックレッド(-1,-1:1、-2,-3,-14、-53等)、C.I.ベーシックバイオレット(-1,-2,-3,-11:1、-39等)、C.I.ベーシックブルー(-1,-2,-5,-7、-88等)、C.I.ベーシックグリーン(-1,-4,-6,-10等)、C.I.ベーシックブラウン(-1,-2,-4,-15等)、C.I.ベーシックブラック(-1,-2,-7,-8等)などのCOLOR INDEXに記載されている各No.の各色の染料が挙げられる。
また、これらの市販品も使用することができ、黄色塩基性染料では、AIZEN CATHILON YELLOW GLH(保土谷化学工業社製の商品名)等、赤色塩基性染料では、AIZEN CATHILON RED BLH、AIZEN CATHILON RED RHなど(以上、保土谷化学工業社製の商品名)、Diacryl Supra Brilliant Red 2Gなど(三菱化学社製の商品名)、Sumiacryl Red B(住友化学社製の商品名)等、青色塩基性染料では、AIZEN CATHILON TURQUOISE BLUE LH(保土谷化学工業社製の商品名)等、緑色塩基性染料では、Diacryl Supra Brilliant Green 2GL(三菱化学社製の商品名)等、茶色塩基性染料では、Janus Brown R(日本化学社製の商品名)、AIZEN CATHILON BROWN GH(保土谷化学工業社製の商品名)等が挙げられる。
【0016】
また、本発明に用いる酸性染料としては、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、アシッドブラック52、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド51、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、アシッドレッド52、アシッドレッド289、アシッドレッド388、アクリジンレッド(C.I.45000)、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン6G(C.I.ベーシックレッド1)、ローダミン6Gエキストラ、ローダミン116、ローダミンB(C.I.45170)、テトラメチルローダミン過塩素酸塩、ローダミン3B、ローダミン19、スルホローダミン、ピロニンG(C.I.45005)、ローダミン3GO(C.I.45215)、スルホローダミンGローダミンS(C.I.45050)、ローダミンG(C.I.45150)、エチルローダミンB(C.I.45175)、ローダミン4G(C.I.45166)などが挙げられる。
【0017】
また、本発明に用いる油溶性染料としては、一般に市販されているモノアゾ、ジスアゾ、金属錯塩型モノアゾ、アントラキノン、フタロシアニン、トリアリールメタン等が挙げられる。また、酸・塩基性染料等の官能基を疎水基で置換した造塩タイプ油溶性染料も使用することができる。
黄色系としては、C.I.ソルベントイエロー16、18、29、30、33、56、79、82、93、98、114、116、162;オレンジ系としては、C.I.ソルベントオレンジ22,62、67;赤色系としては、C.I.ソルベントレッド1,8、18、49、122、127、132,146、195、218;青色系としては、C.I.ソルベントブルー5、36、38、44、63、70、83、105、111;黒色系としては、C.I.ソルベントブラック3、5、7、27、29、34;等がそれぞれ挙げられる。
具体的な市販油溶性染料としては、青染料SBNブルー701(保土谷化学工業社製)、青染料オイルブルー650(オリエント化学工業社製)、青染料サビニールブルーGLS(クラリアント社製)、赤染料SOC-1-0100(オリエント化学工業社製)、オイルブラック860、オイルピンク314、オイルイエロー3G、バリファストピンク2310N、同レッド3312、同イエローCGHNnew、同イエロー1108、同ブラック3830(オリエント化学工業社製)等を挙げることができる。
【0018】
本発明に用いる着色樹脂微粒子としては、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料とで構成される着色樹脂微粒子が水に分散されているものが挙げられ、その製造法としては、例えば、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーに、または、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーとこれ以外の疎水性ビニルモノマーなどを含む混合モノマーに、上記塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料を溶解し、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素などを重合開始剤として、また還元剤を更に併用した重合開始剤とし、更にトリアリルイソシアヌレート、イソシアヌル酸トリアリル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、ジトリメチロールプロパンアクリレート、ジペンタエリスリトールアクリレート、メトキシ化ビスフェノールAメタクリレート、ペンタエリスリトールメタクリレート、ジトリメチロールプロパンメタクリレート、ジペンタエリスリトールメタクリレート、エトキシ化ポリグリセリンメタクリレートなどの架橋剤や、必要に応じて、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)-アルキルエーテル硫酸アンモニウム、エーテルサルフェート、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル、ポリアクリル酸アンモニウム、スチレン-マレイン酸コポリマーアンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などの重合性界面活性剤(乳化剤)を用いて乳化重合することなどにより製造することができる。また、上記染色は重合と同時に行ったが、重合後に塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料を溶解して染色を行っても良い。
上記トリアリルイソシアヌレートなどの架橋剤を用いると、着色樹脂微粒子の耐熱性、機械的特性、耐加水分解性、耐候性が向上できるので好ましい。
【0019】
本発明において、上記乳化重合の際には、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーなどに、更に、ジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーなどを適宜量混合して乳化重合を行ってもよい。このジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーを更に、混合して乳化重合したものでは、分散液中の水分が揮発したとしても安定性が損なわれにくく、更に安定性に優れた水性インク用着色樹脂微粒子の分散液などが得られるものとなる。
用いることができるジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーには、ジシクロペンタニルアクリレートモノマー、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートモノマー、ジシクロペンテニルメタクリレートを含むものである。
また、本発明において、上記乳化重合の際には、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマー、これ以外の上記疎水性ビニルモノマーなど、上記ジシクロペンタ(テ)ニル(メタ)アクリレートモノマーの他に、エポキシ基、ヒドロキシメチルアミド基、イソシアネート基などの反応性架橋基を有するモノマーや2つ以上のビニル基を有する多官能性モノマーを適宜量配合して架橋してもよい。
【0020】
本発明において、前記着色樹脂微粒子を構成するポリマー成分のうち、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量は、着色樹脂微粒子を構成する全ポリマー成分に対して、30質量%以上であることが必要であり、好ましくは、30~95質量%、更に好ましくは、30~70質量%であることが望ましい。
なお、本発明において、「全ポリマー成分」とは、着色樹脂微粒子を構成する重合性成分をいい、具体的には、用いる(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、用いる他のモノマー成分と、後述する架橋剤の合計量をいう。
上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量を全ポリマー成分に対して、30質量%以上とすることが好ましく、本発明の効果を発揮せしめることができ、一方、この含有量が30質量%未満であると、経時安定性が劣ることとなる。
【0021】
また、前記着色樹脂微粒子を構成するポリマー成分のうち、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマー以外の他のモノマー成分の含有量は、用いる(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと後述する架橋剤との合計量の残部となるものである。
好ましくは、他のモノマー成分の含有量は、本発明の効果を更に発揮せしめる点、分散性の点、反応性の点から、全ポリマー成分に対して、5~85質量%とすることが望ましい。
【0022】
本発明において、上記塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料の含有量は、発色性、十分な描線濃度を得る点、安定性などの点から、全ポリマー成分に対して、好ましくは、15質量%以上とすることが必要であり、好ましくは、15~50質量%、更に好ましくは、15~40質量%とすることが望ましい。
この染料の含有量を15%以上とすることにより、十分な発色性、十分な描線濃度を発揮せしめることができ、一方、染料の含有量が15質量%未満であると、発色性が十分でなく、本発明の効果を発揮できないものとなる。
【0023】
上記必要に応じて用いることができる重合性界面活性剤としては、上記乳化重合に通常用いられる重合性界面活性剤であれば特に制限はないが、例えば、重合性界面活性剤としては、アニオン系またはノニオン系などの重合性界面活性剤であり、アデカ(株)製のアデカリアソープNE-10、同NE-20、同NE-30、同NE-40、同SE-10N、花王(株)製のラテムルS-180、同S-180A、同S-120A、三洋化成工業(株)製のエレミノールJS-20、第一工業製薬社製のアクアロンKH-05、同KH-10、同HS-10、同AR-10、同RN-10などの少なくとも1種が挙げられる。これらの重合性界面活性剤の使用量は、上記モノマー全量に対して、0~50質量%、好ましくは、0.1~50質量%が望ましい。
また、上記トリアリルイソシアヌレートなどの架橋剤の含有量は、上記モノマー全量に対して、0~50質量%、好ましくは、0.1~25質量%が望ましい。
【0024】
本発明において、上記好ましい態様、具体的には、少なくとも、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーに、上述の塩基性染料又は油溶性染料若しくは酸性染料を溶解し、乳化重合することにより、または、少なくとも、上記(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと他のモノマー成分を含む混合モノマーの重合後に塩基性染料又は油溶性染料を溶解して染色することにより、樹脂固形分として20~50質量%の着色樹脂微粒子が水に分散されている着色樹脂微粒子の分散液が得られることとなる。この分散液をそのまま筆記具用の水性インク組成物として用いても良く、また、乾燥などにより得た着色樹脂微粒子を用いても良いものである。
この着色樹脂微粒子は、従来よりも十分な発色性、経時安定性などに優れた機能を有する色材となるものであり、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具に好適な水性インク組成物の色材として有用となるものである。
【0025】
また、本発明において、得られる着色樹脂微粒子の平均粒子径は、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマー、用いる他のモノマー種、含有量、重合の際の重合条件等により変動するものであるが、好ましくは、20~300nm、更に好ましくは、40~150nm、更に好ましくは、60~110nmであることが望ましい。
上記好ましい平均粒子径の範囲とすることにより、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具のペン芯において目詰まりすることなく、更に、保存安定性などに優れたものとなる。
なお、本発明で規定する「平均粒子径」は、散乱光強度分布によるヒストグラム平均粒子径であり、本発明(後述する実施例を含む)では、粒度分布測定装置〔FPAR1000(大塚電子社製)〕にて、測定した値D50の値である。
【0026】
〈水性インク組成物;アニオン系界面活性剤〉
本発明の水性インク組成物は、少なくとも、上記構成の着色樹脂粒子と、下記のアニオン系界面活性剤を含有するものである。
本発明に用いるアニオン系界面活性剤は、ペン芯の材質等の相関性もあるが、筆記感の向上と、上記着色樹脂粒子等を用いることによるペン芯の染着防止、それによるインク変色抑制を更に向上せしめるために含有するものである。
なお、本発明において、界面活性剤の中でアニオン系界面活性剤に限定したのは、着色樹脂粒子に内包される染料の種類、含有量の影響を受けることなく、分散安定性を高めるためであり、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのノニオン系界面活性剤の使用では、本発明の効果を発揮できないものである。
【0027】
用いることができるアニオン系界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル系(R-O-SO3
-M+)界面活性剤、スルホン酸系(R-SO3
-M+)界面活性剤、リン酸エステル系(R-O-PO(OH)OM+)界面活性剤、カルボン酸系(R-COO-M+)界面活性剤などを挙げることができる。
また、上記リン酸エステル系界面活性剤などにおいて、HLB値を有するものでは、ペン芯の変色抑制の点、インクの経時的安定性の点から、HLBが13以下(HLB≦13)、更に好ましくは、5~12、特に好ましくは、6~11となるものを使用することが望ましい。
本発明における「HLB値」は、川上法〔HLB値=7+11.7log(MW/MO)、MW:親水部分の式量の総和、MO:親油部分の式量の総和〕からHLB値を算出した。
【0028】
用いることができる硫酸エステル系界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル系界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの硫酸エステル、硫酸化オレフィン又はそれらの塩等が挙げられる。
前記の各化合物の塩(M)としては、例えば、金属塩(Na,K,Ca,Mg,Zn等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。(以下、スルホン酸系、リン酸エステル系、カルボン酸系においても同様。)
これらの化合物は、一種又は複数種を組み合わせて(以下、「少なくとも1種」という)使用することができる。
【0029】
これらの中でも、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などの少なくとも1種を好ましく用いることができる。
アルキル硫酸エステル塩としては、炭素数が8以上、好ましくは10以上、そして、20以下、好ましくは18以下、より好ましくは14以下のアルキル基、更に直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するアルキル硫酸エステル塩が好適である。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩としては、炭素数8以上、好ましくは10以上、そして、20以下、好ましくは18以下、より好ましくは14以下のアルキル基、更に直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有し、炭素数2以上3以下のオキシアルキレン基の平均付加モル数が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上、そして、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは1.5以下である、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好適である。オキシアルキレン基は炭素数2が好ましい。
【0030】
具体的に用いることができる硫酸エステル系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸塩などが挙げられ、市販品では、エーマル2FG、エマール270J、エマールD-4-D、(以上、花王社製)、サンノールEH-1145M、サンノールLM-1130、サンノールLM-1140T(以上、ライオン株式会社製)、アルカノールアミド界面活性剤(エタノールアミンとトリエタノールアミンの混合物とプロピレングリコールとの混合物;Helena社製)、モノゲンY-100;第一工業製薬社製、商品名TRADER Pro(硫酸マグネシウムとの混合物;Comtorir Commercial Des Lubrifiants社製)などが挙げられる。
これらの中でも、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0031】
用いることができるスルホン酸系界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、ジアルキルスルホコハク酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸ハーフエステル、ナフタレンスルホン酸及びアルキルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルアリールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、または、これらの塩等の少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
具体的に用いることができるスルホン酸系界面活性剤としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、アルキルメチルタウリン、スルホコハク酸ジエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸、及びこれらの塩などが挙げられ、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウム、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウムなどが挙げられ、市販品では、ネオペレックスG-25、ペレックスSSL(以上、花王社製)などが挙げられる。
これらの中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルジスルホン酸ナトリウム、βナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウムが好ましい。
【0033】
用いることができるリン酸エステル系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステルあるいはこれらの塩、その誘導体などが挙げられ、前記リン酸エステル系型界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、オクチルフェノール系、直鎖アルコール系などの少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
具体的に用いることができるリン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸、アルキルリン酸エステル、または、これらの塩などが挙げられ、市販品では、フォスファノールRB-410(HLB:8.6)、RD-510Y(HLB:9.9)、RS610(HLB:10.5)、RS-710(HLB:13.3)、ML-220(以上、東邦化学工業社製)、プライサーフAL、AL-H、A-212C(以上、第一工業製薬社製)、NIKKOL DLP-10(以上、日光ケミカルズ製、AP-1、MP-4以上、大八化学工業製)などが挙げられる。
これらの中でも、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸、または、これらの塩が好ましい。
【0035】
カルボン酸系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸又はその塩、多価カルボン酸又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸又はその塩、ロジン酸又はその塩、ダイマー酸又はその塩、ポリマー酸又はその塩、トール油脂肪酸又はその塩等が挙げられる。
脂肪酸としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれも用いることができる。また脂肪酸又はその塩としては、炭素原子数3~18のものを用いることが好ましく、3~16のものを用いることがより好ましい。好ましい脂肪酸の具体例としては、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の少なくとも1種を挙げることができる。
【0036】
具体的に用いることができるカルボン酸系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸及び不飽和脂肪はその塩、多価カルボン酸又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸又はその塩、ロジン酸又はその塩、ダイマー酸又はその塩、ポリマー酸又はその塩、トール油脂肪酸又はその塩などが挙げられ、具体的には、ラウリルエーテルカルボン酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、N-ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、N-ラウロイル-N-メチル-β-アラニン塩等が挙げられる。
これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸又はその塩が好ましい。
【0037】
これらのアニオン系界面活性剤の中では、硫酸エステル系(R-O-SO3
-M+)、スルホン酸系(R-SO3
-M+)、リン酸エステル系(R-O-PO(OH)OM+)の各界面活性剤が好ましく、更に好ましくは、具体的に上述した各化合物(上述の市販品も含む)の使用が望ましい。
これらのアニオン系界面活性剤の含有量としては、分散安定性の点から、水性インク組成物全量に対して、0.1~10質量%が好ましく、更に好ましくは、0.5~7質量%、特に好ましくは、1~5質量%がより好ましい。
この含有量が、0.1質量%以上とすることにより、染料のペン芯への吸着を防ぎ、ペン芯や描線の変色を抑制することができ、一方、10質量%以下とすることにより、にじみや裏抜け性の悪化を防ぐことや、保存安定性を維持することができる。
【0038】
〈水性インク組成物;その他の成分〉
本発明の水性インク組成物は、少なくとも、上記構成の着色樹脂粒子と、アニオン系界面活性剤を含有するものであり、好ましくは、更に、水溶性有機溶剤、水を含有することが望ましい。
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジ オール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル1,3-ブタンジオール、2メチルペンタン -2,4-ジオール、3-メチルペンタン-1,3,5トリオール、1,2,3-ヘキサントリオールなどのアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、グリセロール、ジグリセロール、トリグリセロールなどのグリセロール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどのグリコールの低級アルキルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダリジノンなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0039】
その他にも、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジエチルアセトアミドなどのアミド類、アセトンなどのケトン類などの水溶性溶剤を混合することもできる。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具種により変動するものであり、インク組成物全量に対して、1~40質量%である。
【0040】
水(水道水、精製水、イオン交換水、蒸留水、純水など)の含有量は、水性インク組成物全量に対して30~90質量%が好ましく、より好ましくは40~60質量%である。
また、着色樹脂粒子の含有量は、筆記具種、流出機構(ペン芯、ボールペン)等により変動するものであるが、固形分量で、水性インク組成物全量に対して、1~30質量%が好ましい。
【0041】
本発明の筆記具に搭載する水性インク組成物では、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に、防腐剤もしくは防黴剤、pH調整剤、消泡剤、補色用などの着色剤などを適宜選択して使用することができる。
例えば、pH調整剤として、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トリポリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなど炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などの少なくとも1種が挙げられる。
防腐剤もしくは防黴剤として、フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン3-オン、2,3,5,6-テトラクロロ-4(メチルフォニル)ピリジン、安息香酸やソルビン酸やデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物などの少なくとも1種が挙げられる。
潤滑剤としてリン酸エステル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリアルキレングリコール誘導体、脂肪酸アルカリ塩、ノニオン系界面活性剤、パーフルオロアルキルリン酸エステルなどのフッ素系界面活性剤、ジメチルポリシロキサンのポリエチレングリコール付加物などのポリエーテル変性シリコーンなどの少なくとも1種が挙げられる。
【0042】
さらに本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、ペン先の乾燥抑制としてノンドライ剤を含めてもよい。ノンドライ剤としては、例えば、トリメチルグリシン、カルニチン類、ペンタエリスリトール、糖アルコール、デキストリンおよび還元水飴からなる群より選ばれる少なくとも一種または併用して使用してもよく、水性インク組成物全量に対して0.1~20質量%、さらに好ましくは0.5~15質量%の範囲で含めてよい。
【0043】
本発明の筆記具に搭載する水性インク組成物において、ペン先からのインク漏れの点、紙面へのインク浸透性の点から、25℃における表面張力が、30~60mN/mであることが好ましく、より好ましくは、28~58mN/mであることが望ましい。この表面張力の調整は、上記インク成分となる各成分の量、増粘剤等の含有により調整することができる。
なお、本発明(後述する実施例を含む)において、インクの表面張力(25℃)は、協和界面科学社製、表面張力測定装置:CBVP-Zにて測定した値をいう。
【0044】
本発明において、得られた筆記具用水性インク組成物は、筆記性の点、インクの安定性の点、耐にじみ性の点、インク流出性の点から、25℃における191.5sec-1の粘度が1~12mPa・sが好ましく、更に好ましくは、1.5~8mPa・sであることが望ましい。
なお、本発明(後述する実施例を含む)において、上記粘度の測定(25℃)は、コーンプレート型粘度計(東機産業株式会社製:TV-25(ELD)タイプ)にて測定した値をいう。
上記表面張力、上記剪断速度における上記粘度値の範囲の調整等は、用いる各成分種及びその量、撹拌方法等を好適に組み合わせることにより調整することができる。
【0045】
本発明の筆記具に搭載する水性インク組成物は、少なくとも、上記構成の着色樹脂微粒子の分散液と、水溶性溶剤、その他の各成分、更に、筆記具用(マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって水性インク組成物を調製することができる。
【0046】
〈筆記具〉
本発明の筆記具は、上記配合組成によって得られる水性インク組成物を各種の構造の筆記具に搭載して使用に供されるものであり、例えば、繊維芯、多孔質芯(フェルト芯、スポンジ芯等)、プラスチック芯、筆毛(筆ペン)、ブラシ芯、焼結芯、ゴム芯、エラストマー芯などのペン芯を備えたマーキングペン、サインペン等に搭載される。
本発明の筆記具では、使用するペン芯の材質、構造、製法等は、特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、PETなどのポリエステル系樹脂、ナイロン樹脂などのポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂などの1種又は2種以上の組み合わせからなる平行繊維束、フェルト等の繊維束を加工又はこれらの繊維束を樹脂加工した繊維芯、上記各種のプラスチック材の軸方向にインキ溝を形成したプラスチック芯、上記各種のプラスチック粉末などを融結したポーラス体、または、筆形状(筆体)、上記樹脂などの合成ゴム、天然ゴム、上記樹脂などの熱可塑性エラストマーなどからなるゴム芯、エラストマー芯などのペン芯が挙げられ、その形態も板状体、繊維集束体、焼結体、発泡体等任意である。
【0047】
好ましくは、筆記性の点、耐久性の点から、筆記具のペン芯の材質が下記A群から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
A群:ポリエステル芯、アクリル芯、ナイロン芯、ポリブチレンテレフタレート(PBT)芯、ポリエチレン芯、ゴム芯、ウレタン芯、ポリアセタール(POM)芯、ポリプロピレン(PP)芯、ポリエチレンナフタレート(PEN)芯、ポリエチレンテレフタレート(PET)芯
本発明では、ペン芯の材質を上記A群から選ばれるもので構成することにより、ペン芯の染着防止、それによるインク変色抑制及び筆記感の向上を更に向上させることができることとなる。
更に好ましくは、上記材質で、かつ、ペン芯構造が下記
図1や
図2に示す上記A群から選ばれるもので構成する繊維芯、プラスチック芯や、エラストマー芯などが望ましい。
【0048】
使用する繊維芯からなるペン芯の具体的な形状としては、例えば、
図1(a)~(n)に示されるものなどが挙げられる。また、ペン芯として、各種のプラスチック材の軸方向にインキ溝を形成した
図2(a)のプラスチック芯からなるペン芯のインキ溝の態様としては、例えば、
図2(b)~(j)に示される構成のものなどが挙げられる。
ペン芯として繊維芯を使用した場合は、好ましくは、気孔率で30~75%、スリット径で概ね1~20μmのものが望ましく、また、ペン芯としてプラスチック芯を使用した場合は、好ましく、平均スリット径で20~40μmのものが望ましい。なお、上記気孔率及びスリット径は、本発明の効果を達成できるものであれば、上記数値範囲に限定されるものではない。更に、上記スリット径は、下記式により算出したものである。
スリット径=気孔率×糸の半径/(1-気孔率)
【0049】
本発明の実施形態の筆記具の構造は、通常の、マーキングペン、サインペン、筆ペンなどに用いる繊維芯、プラスチック芯、エラストマー芯、焼結芯、スポンジ芯などのペン芯を有する構造等であれば、特に限定されるものではなく、筆記具用キャップを有する筆記具又は筆記具用キャップを有しない筆記具にも適用できるものである。
本発明の実施形態の筆記具としては、例えば、
図3~
図7に示される筆記具用キャップを有する筆記具などの構造、または、簡単なシール機構を備えたマーキングペン、サインペン、筆ペンなどの構造、並びに、
図8に示される筆記具用キャップが不要となるノック式のサインペン、マーキングペン、筆ペンなどの構造が挙げられる。また、
図9~
図13に示される、筆圧によって描線の幅を自在に変化させるサインペン又はマーキングペンに対応可能な筆記具が挙げられる。
【0050】
図3は、直液式筆記具であり、該直液式筆記具10は、インキを中綿等に吸蔵させないで直接貯溜する軸体となるインキタンク部11を有し、また、インキタンク部11の前部には、インキタンク部11内の空気が温度上昇等によって膨張した場合にインキタンクから押し出されるインキをペン先や空気孔からボタ落ちさせないために一時的に保溜するインキ保溜体(コレクター部材)12が内蔵され、コレクター部材12の先端部には繊維芯からなるペン先13が設けられた構成となっている。インキタンク部11からペン先13へのインキ導出は、コレクター部材12の中心孔12aに付設されたインキ流路を設けた中継芯14を介してインキタンク部11からインキをペン先13に導出することにより行われる。なお、
図3中の15はホルダー部材であり、16はインキタンク部11の後部に固着される後部軸体であり、17はキャップである。また、中継芯14を介在させることなく、ペン先13の後部をインキタンク部11内に直接配置してインキの導出を行ってもよい。
【0051】
図4の筆記具20は、撹拌ボールとなる硬球21を内蔵したバルブ弁式筆記具であり、インキを中綿等に吸蔵させないで直接貯溜する軸体となるインキタンク部22を有し、バルブ弁機構23を介在して繊維芯からなるペン先24へインキが供給される構成となっている。なお、
図4中の25はホルダー部材であり、26は弁機構23とホルダー部材25間に介在し、ペン先24の後部を保持する保持部材であり、27はキャップである。
図5及び
図6は、共にインキを中綿等のインキ吸蔵体に吸蔵させたタイプの筆記具である。該各々の筆記具30a,30bは、軸体となる軸本体31a,31b内にインキを中綿等の繊維体に吸蔵したインキ吸蔵体32a,32bを有し、インキ吸蔵体32a,32bの前部には繊維芯からなるペン先33a,33bの後端部34a,34bが当接されることにより、インキ吸蔵体32a,32bのインキがペン先34a,34bへ供給される構成となっている。35a,35bは、軸本体31a,31bの後端部に固着された尾栓であり、36a,36bは、キャップである。なお、第5図及び第6図の相違点は、軸本体31a,31b、ペン先33a,33bの形状及び尾栓35a,35bの構造が若干相違するものである。
【0052】
図7は、上記
図5と同様に、インキを中綿等のインキ吸蔵体に吸蔵させたサインペンタイプの筆記具である。該筆記具40は、軸体となる軸本体41内にインキを中綿等の繊維体に吸蔵したインキ吸蔵体42を有し、インキ吸蔵体42の前部にはプラスチック芯からなるペン先43の後端部43aが当接されることにより、インキ吸蔵体42のインキがペン先43へ供給される構成となっている。44は、軸本体41の後端部に固着された尾栓であり、45はホルダー部材であり、46はキャップである。
図8は、インキを中綿等のインキ吸蔵体に吸蔵させたサインペンタイプのキャップ不要となるノック式筆記具である。該筆記具50は、軸体51内にインキを中綿等の繊維体に吸蔵したインキ吸蔵体52を有する内軸53を備え、インキ吸蔵体52の前部には繊維芯からなるペン先54の後端部54aが当接されることにより、インキ吸蔵体52のインキがペン先54へ供給される構成となっている。55は、軸本体51の後端部に取り付けられたノック部であり、該ノック部55を前方へ押し出すことによりペン先54が軸体51外に出て筆記状態となり、解除釦55aを操作することによりペン先54が軸体51内に収容される構造となっている。
【0053】
図9~
図13は、本発明の筆記具の実施形態の他例を示すものであり、筆圧によって描線の幅を自在に変化させるサインペン又はマーキングペンに対応可能な筆記具の斜視図、正面図、縦断面図、プラスチックペン芯部分を縦断面態様で示す拡大断面図、プラスチックペン芯の横断面図である。
この筆記具60は、
図9~
図11に示すように、より小径の先軸61及びより大径の後軸62が一体に形成された軸筒63と、先軸61の前方側に装着された芯周囲部材70とを備えている。後軸62の内部には、上記配合特性の水性インク組成物が貯蔵される中綿75が収容されている。先軸61の先端付近には、軸筒63の内部と外部との空気の流通を可能とする(図示しないが)空気置換口が設けられている。また、芯周囲部材70には、インク供給芯80が貫通している。インク供給芯80の先端は芯周囲部材70の先端から突出している。インク供給芯80の後端は中綿75の前端に突き刺さるまで延伸している。また、
図9に示す先軸61には、キャップ90が装着され、不使用時には
図9、
図10に示すような外観を呈する。
【0054】
軸筒63は、前述したように、先軸61と後軸62とを有する。先軸61の前方の端部には前部開口64が開口し、後軸62の後方の端部には後部開口65が開口している。なお、後部開口65には尾栓95が圧入されている。
また、軸筒63の外形は、
図3に示すように、横断方向の断面が、全体に丸みを帯びた四角形に形成されている。更に、後軸62の後端縁には、尾栓95の鍔部96が接触している。
【0055】
また、後軸62の前方側の外周面には把持部材65が形成されている。把持部材65は、軸筒63とは異なる色彩が付与されていてもよく、その色彩は、たとえば、中綿75に貯留されるインクの色と同系色としてもよい。なお、軸筒63と把持部材65とは、たとえば二色成形により形成することができる。
尾栓95は、全体が筒形状に形成され、後軸63の内部を密閉し、後軸63の内部を外気から遮断する。
中綿75は、インクを貯留する円筒形状のポリエステル繊維素材で構成され、軸筒63の後軸62の内部に収容されている。中綿75は、
図11に示すように、後軸12の内部で固定されている。
【0056】
インク供給芯80は、
図11に示すように、外周部81と、流路82と、先端部83とを有している。インク供給芯80は、ポリアセタール樹脂の押出成形で形成され、その形状は、前方の側から後方の側に向けて、全体がほぼ円筒形をなし、先端部83は、
図12示すように、前方に縮径する円錐形状をなし、後端部側は、後方に向けて縮径する円錐形状をなし、これら先端部83と後端部側とに挟まれる胴部を有している。ここで、インク供給芯80は、繊維束芯や焼結芯などで構成されたものでもよい。
外周部81は、インク供給芯80の外側面をなしている。外周部81の先端部83の先端、及び後端部側の先端は、流路82が露出するように形成されている。この流路82は、外周部81の内部の軸心に沿って形成され、前述のとおり、外周部81の先端部83及び後端部側においてそれぞれ露出している。ここで、インク供給芯80の押出成形の際、中心部に細かい隙間を有するダイスを用いることで、断面の中心部分に細かい隙間としての流路82が形成されることとなる。この隙間としての流路82が毛細管力を発揮して、インクを保持する。この場合、インク供給芯80においては、外周部81と流路82とが一体に成形されていることになる。流路82は、
図12、
図13に示すように、軸心に沿った部分、すなわち径Wを占める部分として形成され、その周囲を占める部分が外周部81である。
【0057】
流路82は、例えば、
図12に示すインク供給芯80の断面図のような、軸心部分における内周縁が不整形な空洞を有する領域として形成され、その空洞に仮想的に外接する円の直径として、流路の外径Wが定められる。なお、毛細管構造を有する繊維束芯又は焼結芯で流路82を形成する場合、外周部81を流路82の外側面をコーティングする構造として形成することで、インク供給芯80において、この外周部81を、流路82の外側の肉厚部分とすることが可能となり、流路82の外側面を露出させずに芯周囲部材70へ固定することできる。インク供給芯80においては、中綿75に差し込まれている後端部側から、中綿75に貯留されているインクが毛細管力によって先端部83にまで誘導される。
【0058】
この実施形態の筆記具60は、軸筒63と、前記軸筒63の内部に収容され、毛細管力によってインクを誘導するインク供給芯80と、前記軸筒63の先端に装着され、前記インク供給芯80が貫通し、かつ、前記インク供給芯80の先端が突出する芯周囲部材70とを有し、前記インク供給芯80は、筆圧によって、前記芯周囲部材70の先端において後方に移動するとともに、前記インク供給芯80の先端部分において、前記インク供給芯80と前記芯周囲部材70との間の間隙が、全周にわたって拡張している拡張部(図示せず)が設けられ、前記インク供給芯80の先端部分において、全周にわたる環状溝(図示せず)を設けるなどにより、筆圧によって描線の幅を自在に変化させるようにできる構成となっている。
【0059】
本発明の筆記具は、上記
図1~
図13の各実施形態の筆記具やペン芯に限定されるものでなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の形態に変更できることはいうまでもない。例えば、本発明の筆記具は、上記配合組成の水性インク組成物を中綿等に吸蔵させないで直接貯溜する直液筆記具、バルブ機構を備えた筆記具、該インク組成物を中綿等のインク吸蔵体に吸蔵させたタイプの筆記具に限定されるものでなく、繊維束芯、プラスチック芯などからなるペン芯に上記特性のものであれば、特に限定されるものでなく、例えば、筆ペン、カートリッジ式ペン等の筆記具などにも適用できるものである。また、筆記具用キャップのいらないノック式のマーキングペン、サインペン、筆ペンなどの構造の筆記具に好適に用いることができる。
【0060】
このように構成される本発明の筆記具では、少なくとも、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料とで構成される着色樹脂粒子と、アニオン系界面活性剤とを含有する水性インク組成物を搭載したものであり、筆記性能を損なうことなく、ペン芯の染料染着防止、それによるインク変色抑制及び筆記感の向上を高度に両立したサインペン、マーキングペンなどに好適な筆記具が得られることとなる。
特にペン芯の材質を上記A群のポリエステル芯、アクリル芯、ナイロン芯、ポリブチレンテレフタレート(PBT)芯、ポリエチレン芯、ゴム芯、ウレタン芯、ポリアセタール(POM)芯、ポリプロピレン(PP)芯、ポリエチレンナフタレート(PEN)芯、ポリエチレンテレフタレート(PET)芯から構成されるものでは、材料の極性の違いにより、更に本発明の効果を向上させることができる。
【実施例0061】
次に、製造例、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0062】
〔製造例1~3:着色樹脂微粒子の分散液(粒子1~3)の製造〕
下記製造例1~3により、各着色樹脂微粒子の分散液を製造した。なお、以下の「部」は質量部を表す。
【0063】
(製造例1)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、蒸留水324.5部、グリセリンモノメタクリレート〔ブレンマーGLM、日油社製〕5部、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム〔アクリルエステルSEM-Na、三菱ケミカル社製〕5部、重合性界面活性剤〔ADEKA社製、アデカリアソープSE-10N、エーテルサルフェート〕40部及び過硫酸アンモニウム0.5部を仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
一方、メタクリル酸シクロヘキシルモノマー40部と、他のモノマーとして、メタクリル酸n-ブチル35部とからなる混合モノマーに、染料として、油溶性染料〔OIL PINK 314 オリエント化学工業社製〕40部、架橋剤〔トリアリルイソシアヌレート、日本化成社製、「タイク(TAIC)」〕10部を混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、筆記具用着色樹脂微粒子の分散液(粒子1)を得た。
前記メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量は着色樹脂微粒子を構成する重合性ポリマー成分に対して、22.9質量%、前記染料の含有量は重合性ポリマー成分に対して、22.9質量%、また、着色樹脂微粒子の平均粒子径は、108nmであった。
【0064】
(製造例2)
上記製造例1において、蒸溜水を319.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を35部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を45部とし、また、染料として、油溶性染料〔OIL YELLOW 129 オリエント化学工業社製〕40部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、筆記具用着色微粒子水性分散液(粒子2)を得た。
前記メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量は着色樹脂微粒子を構成する重合性ポリマー成分に対して、19.4質量%、前記染料の含有量は重合性ポリマー成分に対して、22.2質量%であった。また、着色樹脂微粒子の平均粒子径は、68nmであった。
【0065】
(製造例3)
上記製造例1において、蒸溜水を313.5部とし、メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの量を60部とし、メタクリル酸n-ブチルの量を30部とし、また、染料として、塩基性染料〔SWT YELLOW-2 保土谷化学工業社製〕20部を用いた以外は、上記製造例1と同様にして、筆記具用着色微粒子水性分散液(粒子3)を得た。
前記メタクリル酸シクロヘキシルモノマーの含有量は着色樹脂微粒子を構成する重合性ポリマー成分に対して、35.3質量%、前記染料の含有量は重合性ポリマー成分に対して、11.8質量%、また、着色樹脂微粒子の平均粒子径は、97nmであった。
上記製造例1~3で得た各筆記具用着色樹脂微粒子の分散液は、樹脂固形分は20~40質量%であった。
【0066】
〔実施例1~9及び比較例1~3:筆記具用水性インク組成物の調製〕
上記製造例1~3により製造した各着色樹脂微粒子の分散液(粒子1~3)などを用いて、下記表1に示す配合組成(全量100質量%)により常法により各筆記具用水性インク組成物を調製した。得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)の25℃における191.5sec-1の粘度、25°における表面張力を上述の測定装置等により測定した。
【0067】
また、得られた各筆記具用水性インク組成物(全量100質量%)について、下記構成の筆記具に搭載して、下記各評価方法により、ペン芯の変色、描線の色相変化、筆記感について評価した。
下記表1に実施例1~9及び比較例1~3の各評価結果を示す。
【0068】
(筆記具の構成)
上記で得られた実施例1~9及び比較例1~3の各筆記具用インク組成物を用いて、下記各ペン先A~Eを用いて構成の筆記具(マーキングペン:
図1及び2準拠)を作製し、下記評価に使用した。
マーキングペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:PEM-SY、ペン先:下記構成の各
種ペン先〕に上記各筆記具用インク組成物を装填してマーキングペンを作製した。
ペン先A:材質:ポリエチレンテレフタレートエラストマー、形状:傾斜形状(ナイフカット形状):φ3.2×32mm
ペン先B:材質:ポリブチレンテレフタレートエラストマー、形状:砲弾形状:φ2.0×30mm
ペン先C:材質:ポリエチレンテレフタレートエラストマー、形状:筆形状(筆体)
ペン先D:材質:焼結芯(ポリエチレン粉末のポーラス体、気孔率60%)、形状:傾斜形状(ナイフカット形状):φ3.2×32mm
ペン先E:材質:ポリアセタール(POM)樹脂、形状:砲弾形状:φ2.0×30mm
軸体10、尾栓15、取付部材16、キャップ40:共にポリプロピレン(PP)樹脂
インク吸蔵体20:ポリエチレンテレフタレート樹脂、気孔率:80%
得られた各マーキングペンを用いて下記評価方法により、ペン芯の変色、描線の色相変化、筆記感について評価した。
【0069】
(ペン芯の変色の評価方法)
ペン芯の変色の評価は25℃、湿度65%環境下で横向き、1か月保存したペン芯について目視により下記評価基準で官能評価した。
評価基準:
A:初期と変化なし
B:変色が若干見られる
C:変色が顕著にみられる
【0070】
(描線の色相変化の評価方法)
上記の筆記具を用いてPPC用紙に螺旋書きしたときの描線の色相変化を目視により下記評価基準で官能評価した。
評価基準:
A:初期と変化なし
B:色相の変化が若干見られる
C:色相の変化が顕著にみられる
【0071】
(筆記感の評価方法)
上記の筆記具、但し、25℃、湿度65%環境下で横向き、3か月保管した後の筆記具を用いてPPC用紙に螺旋書きしたときの筆記感を下記評価基準で官能評価した。
評価基準:
A:引っ掛かり感なく、滑らかであった
B:若干の引っ掛り感がる
C:顕著な引っ掛り感がある
【0072】
【0073】
上記表1中の*1~*10は、以下のとおりである。
*1:ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、東邦化学工業社製
*2:ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸、東邦化学工業社製
*3:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、東邦化学工業社製
*4:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、東邦化学工業社製
*5:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、第一工業製薬社製
*6:ジポリオキシエチレン〈POE(10)〉ラウリルエーテルリン酸ナトリウム、日光ケミカルズ社製
*7:ラウリル硫酸ナトリウム、花王社製
*8:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、花王社製
*9:ソルビタンモノラウレート、花王社製
*10:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王社製
【0074】
上記表1を考察すると、本発明範囲となる実施例1~9は、本発明の範囲外となる比較例1~3に較べ、筆記性能を低下させることなく、ペン芯の染料染着防止、それによるインク変色抑制及び筆記感の向上を高度に両立した筆記具となることが確認された。