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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123475
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】細胞凍結装置及び細胞凍結方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240905BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030921
(22)【出願日】2023-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、橋渡し研究プログラム「アカデミア発革新的技術を活かした先端医療開発拠点の構築」「インクジェット凍結によるヒト血小板の添加物フリー保存技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】秋山 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】渡部 広機
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B065AA90X
4B065BD09
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】細胞を内包する液滴を瞬時に凍結させることで細胞を凍結する新規な細胞凍結装置を提供する。また、このような装置を用い細胞を凍結する新規な細胞凍結方法を提供する。
【解決手段】細胞が分散する分散液を吐出し、細胞を内包する液滴を形成する吐出部と、液滴を凍結する凍結部と、を備え、凍結部は、沸点が-137℃未満の冷媒が貯留される貯留部と、冷媒で冷却され液滴が着弾する着弾部と、吐出部は、吐出孔から液滴を吐出するインクジェットヘッドと、吐出部と着弾部との間の空間を加熱する加熱手段と、を有する細胞凍結装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が分散する分散液を吐出し、前記細胞を内包する液滴を形成する吐出部と、
前記液滴を凍結する凍結部と、を備え、
前記凍結部は、沸点が-137℃未満の冷媒が貯留される貯留部と、
前記冷媒で冷却され前記液滴が着弾する着弾部と、
前記吐出部は、吐出孔から前記液滴を吐出するインクジェットヘッドと、
前記吐出部と前記着弾部との間の空間を加熱する加熱手段と、を有する細胞凍結装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記吐出孔と連通する内部空間を有し、前記インクジェットヘッドから前記着弾部に向けて延びる筒状部材と、
前記筒状部材を加熱する第1ヒータと、を有する請求項1に記載の細胞凍結装置。
【請求項3】
前記第1ヒータは、前記筒状部材の一部に設けられ、
前記筒状部材において前記第1ヒータが設けられていない部分の少なくとも一部は、光透過性を有する請求項2に記載の細胞凍結装置。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドは、前記液滴を吐出する筒状のノズルを有し、
前記ノズルは、前記筒状部材の前記内部空間に挿入されている請求項2又は3に記載の細胞凍結装置。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドは、前記分散液を収容する液室と、
前記インクジェットヘッドを加熱する第2ヒータと、を有する請求項1に記載の細胞凍結装置。
【請求項6】
前記第2ヒータは、前記液室内に露出すること無く設けられている請求項5に記載の細胞凍結装置。
【請求項7】
前記着弾部の上面と平行な方向に前記吐出部と前記凍結部とを相対移動させる駆動部を有する請求項1に記載の細胞凍結装置。
【請求項8】
前記冷媒は液体窒素である請求項1に記載の細胞凍結装置。
【請求項9】
請求項1に記載の細胞凍結装置を用い、前記インクジェットヘッドから前記冷媒により冷却された着弾部に向けて前記液滴を吐出させる工程を有し、
前記吐出させる工程は、少なくとも前記加熱手段により前記吐出部と前記着弾部との間の空間を加熱しながら行う細胞凍結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凍結装置及び細胞凍結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を取り扱う多くの研究分野及び臨床医療において、細胞の凍結保存技術が検討開発されている。発明者らは、従来知られた凍結保護剤を用いた凍結保存技術の代わりとして、細胞を内包する液滴を急速に冷却し凍結させることで、凍結保護剤を全く用いることなく細胞を凍結保存する装置を開発している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発明においては、インクジェット技術を用いて液滴内に細胞を内包するとともに、液滴を液体窒素で冷却された基板に吐出することで、液滴ごと細胞を瞬間的に凍結している。このように凍結された粒子では、凍結時に細胞内外の水分子が結晶化することなくアモルファス状態で凍結するため、細胞の損傷を抑制することができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-158572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の装置は、細胞が凍結保存された粒子を安定して継続的に製造することが困難であり、改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、細胞を内包する液滴を瞬時に凍結させることで細胞を凍結する新規な細胞凍結装置を提供することを目的とする。また、このような装置を用い細胞を凍結する新規な細胞凍結方法を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1に記載の装置においては、低温の基板と周囲の空間との温度差により対流(気流)が生じていると考えられる。また、基板を液体窒素で冷却する場合、液体窒素が徐々に気化し、気化した窒素が立ち上ることによる気流も生じている。飛翔中の液滴は、この気流の影響を受けやすく、基板における液滴の着弾位置が所望の位置からずれるおそれがある。
【0008】
また、液滴が飛翔する空間は、低温の基板や、気化した低温の窒素により冷却されている。そのため、液滴が飛翔中に徐々に冷やされ、基板に付着する前に液滴の凍結が始まるおそれがあった。液滴の冷却速度は、液体窒素で冷やされた基板による冷却よりも、飛翔中の空間における冷却の方が遅いことから、液滴が飛翔中に凍結すると細胞内外の水分子が結晶化し、細胞を損傷するおそれがあった。
【0009】
これらの課題意識に基づき、発明者らは、飛翔中の液滴の凍結を抑制することにより、細胞を内包し凍結した粒子を安定して製造し、細胞を凍結保存可能であると考えた。この着想に基づいて発明者らが鋭意検討した結果、発明を完成させた。以下、細胞を内包し凍結した粒子を、単に「凍結粒子」と称することがある。
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]細胞が分散する分散液を吐出し、前記細胞を内包する液滴を形成する吐出部と、前記液滴を凍結する凍結部と、を備え、前記凍結部は、沸点が-137℃未満の冷媒が貯留される貯留部と、前記冷媒で冷却され前記液滴が着弾する着弾部と、前記吐出部は、吐出孔から前記液滴を吐出するインクジェットヘッドと、前記吐出部と前記着弾部との間の空間を加熱する加熱手段と、を有する細胞凍結装置。
【0012】
[2]前記加熱手段は、前記吐出孔と連通する内部空間を有し、前記インクジェットヘッドから前記着弾部に向けて延びる筒状部材と、前記筒状部材を加熱する第1ヒータと、を有する[1]に記載の細胞凍結装置。
【0013】
[3]前記第1ヒータは、前記筒状部材の一部に設けられ、前記筒状部材において前記第1ヒータが設けられていない部分の少なくとも一部は、光透過性を有する[2]に記載の細胞凍結装置。
【0014】
[4]前記インクジェットヘッドは、前記液滴を吐出する筒状のノズルを有し、前記ノズルは、前記筒状部材の前記内部空間に挿入されている[2]又は[3]に記載の細胞凍結装置。
【0015】
[5]前記インクジェットヘッドは、前記分散液を収容する液室と、前記インクジェットヘッドを加熱する第2ヒータと、を有する[1]から[4]のいずれか1項に記載の細胞凍結装置。
【0016】
[6]前記第2ヒータは、前記液室内に露出すること無く設けられている[5]に記載の細胞凍結装置。
【0017】
[7]前記着弾部の上面と平行な方向に前記吐出部と前記凍結部とを相対移動させる駆動部を有する[1]から[6]のいずれか1項に記載の細胞凍結装置。
【0018】
[8]前記冷媒は液体窒素である[1]から[7]のいずれか1項に記載の細胞凍結装置。
【0019】
[9][1]から[8]のいずれか1項に記載の細胞凍結装置を用い、前記インクジェットヘッドから前記冷媒により冷却された着弾部に向けて前記液滴を吐出させる工程を有し、前記吐出させる工程は、少なくとも前記加熱手段により前記吐出部と前記着弾部との間の空間を加熱しながら行う細胞凍結方法。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、細胞を内包する液滴を瞬時に凍結させることで細胞を凍結する新規な細胞凍結装置を提供することができる。また、このような装置を用い細胞を凍結する新規な細胞凍結方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施形態の細胞凍結装置100の概略斜視図である。
図2図2は、細胞凍結装置100の概略断面図である。
図3図3は、変形例に係る細胞凍結装置200の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1図3を参照しながら、本実施形態に係る細胞凍結装置、細胞凍結方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0023】
以下の説明においては、xyz直交座標系を設定し、このxyz直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。ここでは、水平面内の所定方向をx軸方向、水平面内においてx軸方向と直交する方向をy軸方向、x軸方向及びy軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をz軸方向とする。
【0024】
また、「上」とは鉛直方向上方である+z方向とし、「下」とは鉛直方向下方である-z方向とする。
【0025】
《細胞凍結装置》
図1は、本実施形態の細胞凍結装置100の概略斜視図である。図1は、一部破断図として示している。図2は、細胞凍結装置100の概略断面図である。図1,2に示すように、細胞凍結装置100は、吐出部10と、凍結部20と、駆動部30と、制御部80と、回収容器90とを有する。
【0026】
[吐出部]
吐出部10は、インクジェットヘッド11と、筒状部材12と、下部ヒータ13と、上部ヒータ14と、移動部材15と、配管18と、容器19とを有する。筒状部材12と下部ヒータ13と上部ヒータ14とは、本発明における「加熱手段」に該当する。また、下部ヒータ13と上部ヒータ14とは、本発明における「第1ヒータ」に該当する。
【0027】
(インクジェットヘッド)
インクジェットヘッド11は、吐出孔11aから、分散媒DMに細胞Cが分散する分散液DLを吐出する。インクジェットヘッド11としては、細胞Cを損傷させること無く分散液DLを吐出可能な公知の構成を採用することができる。
【0028】
インクジェットヘッド11は、液滴Dpを吐出する筒状のノズル111を有する。ノズル111の内部は、インクジェットヘッド11において分散液DLを収容する液室11xに該当する。
【0029】
インクジェットヘッド11としては、一つのヘッドユニットに一つの吐出孔を有するシングルノズルヘッドを好適に用いることができる。このようなインクジェットヘッド11として、例えば、高耐液ガラスノズルヘッド(GlassJet、株式会社マイクロジェット製)を用いることができる。
【0030】
図2において、液滴Dpには、1つの細胞Cが内包されていることとして示しているが、これに限らず、複数の細胞Cが内包されていてもよい。液滴Dpの液滴量は、例えば、1pL以上1000pL以下としてもよく、5pL以上200pL以下とすることが好ましく、5pL以上50pL以下とすることが更に好ましい。
【0031】
インクジェットヘッド11には、配管18を介して容器19が接続されている。容器19には分散液DLが貯留され、容器19からインクジェットヘッド11に分散液DLが供給される。
【0032】
(筒状部材)
筒状部材12は、吐出孔11aと連通する内部空間12xを有し、インクジェットヘッド11から凍結部20が有する着弾部22に向けて延びる部材である。詳細には、筒状部材12は、吐出孔11aから吐出される液滴Dpの吐出方向に向けて(吐出孔11aの中心軸に沿って)延びている。
【0033】
内部空間12xにはノズル111が挿入され、内部空間12xにおいて液滴Dpの吐出が行われる。筒状部材12の下端は、着弾部22に向けて開口している。また、筒状部材12の上端は、例えばインクジェットヘッド11に接続して閉塞していると好ましい。
【0034】
筒状部材12の材料は、樹脂材料であってもよく、ガラス等の無機材料であってもよい。筒状部材12は光透過性を有していることが好ましい。
【0035】
なお、筒状部材12の内部空間12xにおいて、ノズル111は固定されていてもよく、ノズル111の先端と筒状部材12の先端とのz軸方向の相対位置を変更可能に設けられていてもよい。このような構成の吐出部は、例えば、ノズル111の先端を筒状部材12の下端から露出させることにより、ノズル111の吐出孔11aの閉塞の解消や汚れの除去などのメンテナンスを容易に実施可能となる。
【0036】
(第1ヒータ)
細胞凍結装置100は、筒状部材12を加熱する第1ヒータとして、下部ヒータ13と上部ヒータ14とを有する。本実施形態においては、第1ヒータを2つ有することとしているが、第1ヒータは、下部ヒータ13と上部ヒータ14とのいずれか一方であってもよい。さらに、細胞凍結装置100は、第1ヒータとして3以上のヒータを有していてもよい。
【0037】
(下部ヒータ)
下部ヒータ13は、筒状部材12の先端部12aにおいて筒状部材12の外面の一部を覆っている。下部ヒータ13は、筒状部材12の外側から筒状部材12を介し内部空間12xを加熱する。下部ヒータ13としては、抵抗加熱式の電熱ヒータを採用することができる。電熱ヒータとしては、ニクロム線を電熱線とした公知の構成を採用することができる。
【0038】
下部ヒータ13の材料として、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)を採用すると、下部ヒータ13に光透過性を持たせることができる。この場合、筒状部材12が光透過性を有していると、筒状部材13及び下部ヒータ13を介して内部空間12xを観察可能となる。
【0039】
下部ヒータ13は、内部空間12xの温度を測定する温度センサ(不図示)の測定結果に基づいて、後述する制御部80によりフィードバック制御されることとしてもよい。
【0040】
(上部ヒータ)
上部ヒータ14は、インクジェットヘッド11の外側を覆っている。詳細には、上部ヒータ14は、インクジェットヘッド11の外側に配置された筒状部材12に設けられ、筒状部材12の外面の一部を覆っている。上部ヒータ14は、インクジェットヘッド11の外側からインクジェットヘッド11の内部の液室11xに露出することなく、液室11x内の分散液DLを加熱する。上部ヒータ14としては、下部ヒータ13と同様に、抵抗加熱式の電熱ヒータを採用することができる。上部ヒータ14の材料として、ITOやIZOを採用すると、上部ヒータ14に光透過性を持たせることができる。
【0041】
上部ヒータ14は、液室11xの温度を測定する温度センサ(不図示)の測定結果に基づいて、後述する制御部80によりフィードバック制御されることとしてもよい。
【0042】
筒状部材12において下部ヒータ13が設けられていない部分、詳細には下部ヒータ13と上部ヒータ14との間には、筒状部材12が露出する。筒状部材12が光透過性を有する場合、下部ヒータ13と上部ヒータ14との間は、筒状部材12の内部を確認可能な窓部121として機能する。
【0043】
ノズル111の先端111aは、z軸方向において窓部121と同じ高さに位置している。これにより、本装置の使用者は、窓部121からノズル111の先端111aの様子や、ノズル111から吐出される液滴Dpの様子を確認可能となる。
【0044】
「先端111aの様子」とは、例えば、液滴Dpの吐出前に形成されるメニスカスの大きさや、液滴Dpの吐出の有無が挙げられる。
【0045】
「液滴Dpの様子」とは、例えば、液滴Dpの大きさ(直径)が挙げられる。
【0046】
(移動部材)
移動部材15は、z軸方向(上下方向)に移動可能とする移動部151と、移動部151とインクジェットヘッド11とを連結しインクジェットヘッド11を支持するアーム152と、を有する。移動部151は、例えば、駆動源としてステッピングモータを備えz軸方向に移動可能な公知のリニアアクチュエータ採用することができる。
【0047】
移動部材15は、移動部151を用いてインクジェットヘッド11を符号αで示す方向に移動させることができる。
【0048】
[凍結部]
凍結部20は、吐出部10から吐出された液滴を凍結し、細胞を内包し凍結した凍結粒子Pを生成する。凍結部20は、液状の冷媒Rを貯留する貯留部21と、冷媒Rで冷却され液滴Dpが着弾する着弾部22と、を有する。
【0049】
(貯留部)
貯留部21は、内部21xに冷媒Rである液体窒素を貯留する。貯留部21は、容器211と、蓋212と、基台215と、を有する。なお、冷媒Rとしては、液体窒素に限らず、水分子のガラス転移点である-137℃を下回る冷媒であれば種々の物質を採用可能である。例えば、冷媒Rとして、液体ヘリウム、液体アルゴン、液体酸素を用いても発明を実施可能である。これらの中でも、安全性やコストを考慮すれば、冷媒Rとして液体窒素を用いることが好ましい。
【0050】
容器211は、冷媒Rを貯留する。容器211は、発泡樹脂製の容器や二重壁容器等、液体窒素を貯留する構成として公知の容器を採用することができる。
【0051】
蓋212は、容器211の上部を覆い着脱自在に設けられている。蓋212としては、例えば、容器211と同様の発泡樹脂を材料とする板材を採用することができる。蓋212の平面視中央には、蓋212の厚さ方向に貫通する開口部212aが設けられている。
【0052】
基台215は、容器211の内部に配置されている。基台215の上面215aは、開口部212aから露出している。
【0053】
基台215は、容器211において冷媒Rに浸漬し、液体窒素の沸点(-196℃)相当に冷却されている。基台215は、アルミニウム、チタン、チタン系合金等の金属、又はアルミナ等のセラミックスを材料とする。
【0054】
また、基台215の材料として、液体窒素吸収材を用いることもできる。液体窒素吸収剤とは、液体窒素を吸収する吸収材を意味する。液体窒素吸収材には、液体窒素に対し濡れ性を有する繊維材料またはスポンジフォームを用いることができ、例えば、ポリプロピレン樹脂やナイロン樹脂等の不織布、ガラスウール等の繊維、ならびにメラミン、ウレタンおよびポリビニルアルコール等からなる連続気泡を有するスポンジフォームを用いることができる。液体窒素吸収材が液体窒素に対し親液性を有することで、基台215は液体窒素を十分含み冷却される。
【0055】
濡れ性は、接触角θの大小で評価することができる。接触角θが小さいほど、液体窒に対する親和性が高く濡れ性に優れる。接触角θとしては90°以下であることが望ましい。このとき、液体窒素吸収材は、毛細管現象が顕著になって液体窒素が浸み込み、液体窒素を十分含むことができる。また、液体窒素吸収材は、液体窒素吸着後も硬化しない点から不織布等繊維材料が好適である。
【0056】
また、基台215は、上面215aにおいて着弾部22を支持する。冷媒Rにより冷却された基台215は、着弾部22を液体窒素の沸点(-196℃)相当に冷却する。
【0057】
(着弾部)
着弾部22は、液滴Dpが着弾する基板221と、基板221を保持し運搬する運搬部222と、を有する。
【0058】
基板221は、インクジェットヘッド11が吐出した液滴Dpが着弾する部材である。基板221は、平面視で基台215と重なる位置に配置されている。そのため、着弾部22の中でも特に基板221は、基台215により冷却されている。
【0059】
基板221は、例えばガラス基板であってもよく、樹脂フィルムであってもよい。
基板221がガラス基板である場合、基板221の厚みは、例えば500μm以下としてもよく、150μm以下とすることが好ましい。また、ガラス基板である基板221の厚みは、できるだけ薄い方が好ましく、製造可能であれば下限に制限はない。基板221の厚みは、例えば1μm以上としてもよく、5μm以上としてもよい。
【0060】
基板221が樹脂フィルムである場合、基板221の厚みは、例えば200μm以下としてもよく、50μm以下とすることが好ましい。また、樹脂フィルムである基板221の厚みもできるだけ薄い方が好ましく、製造可能であれば下限に制限はない。基板221の厚みは、例えば1μm以上としてもよく、5μm以上としてもよい。
【0061】
吐出部10から吐出された液滴Dpは、液体窒素の沸点相当に冷却された基板221に付着することで瞬時に冷却され、凍結する。このとき、液滴Dp中の細胞Cの内外に存在する水分子は、結晶化する前にガラス転移温度(Tg:-137℃)以下まで冷却され、ガラス化状態にされる。これにより、基板221上に複数の凍結粒子Pが形成される。
【0062】
運搬部222は、平面視矩形の板材であり、長手方向の一端側に基板221を保持する。運搬部222は、インクジェットヘッド11に対向する位置に基板221を配置すると共に、y軸方向に延びて配置している。なお、図1では運搬部222の形状について、平面視矩形であることとして示したが、これに限らず種々の平面視形状を採用することができる。
【0063】
運搬部222は、基板221が設けられた側とは反対側に設けられた回転軸Axを中心として、回動自在に設けられている。運搬部222は、回転軸Axを中心として符号βで示す方向に回動する。
【0064】
運搬部222は、回転軸Axを中心として運搬部222を回動させる弾性部材と、弾性部材が弾性力を蓄えた状態で運搬部222を基台215の上面215aに固定する固定機構と、を有していてもよい。例えば、弾性部材としてヒンジばねを用い、固定機構による運搬部222の固定を開放することにより、ヒンジばねが運搬部222を回動させる構成とすることができる。これにより、細胞凍結装置100では、運搬部222が回動し、基板221上に形成された凍結粒子Pを、回収容器90に投入することができる。
【0065】
[駆動部]
駆動部30は、基板221の上面221aと平行な方向に吐出部10と凍結部20とを相対移動させる。駆動部30は、xステージ31と、yステージ32とを有する。
【0066】
xステージ31は、凍結部20を支持し固定する。また、xステージ31は、凍結部20をx軸方向に水平移動させる。yステージ32は、xステージ31をy軸方向に水平移動させる。これにより、水平方向における基板221と吐出部10との相対位置が制御される。
【0067】
駆動部30は、xyステージとして公知の構成を採用することができる。
【0068】
[制御部]
制御部80は、吐出部10、凍結部20、駆動部30の各部の制御信号を作成し、各部に供給することで細胞凍結装置100の動作を制御する。
【0069】
制御部80は、例えば、吐出部10に供給する駆動信号により、吐出部10による液滴の吐出を制御する。また、制御部80は、駆動部30に供給する駆動信号を作成し、吐出部10から吐出される液滴の、基板221に対する吐出位置を制御する。
【0070】
[回収容器]
回収容器90は、凍結粒子Pを回収する。回収容器90は、不図示の蓋を備え、例えば液滴Dpを凍結する凍結液が貯留されている。着弾部22においては、運搬部222が回転軸Axを中心として回動し、基板221上に形成された凍結粒子Pを回収容器90の内部に投入する。これにより、回収容器90では、凍結粒子Pを回収し保存することができる。
【0071】
《細胞凍結方法》
細胞凍結装置100を用いた細胞凍結方法は、インクジェットヘッド11から液体窒素により冷却された基板221に向けて液滴Dpを吐出させる工程を有する。ここで、吐出させる工程は、少なくとも下部ヒータ13により筒状部材12を加熱しながら行う。
【0072】
さらに、細胞凍結方法においては、上部ヒータ14によりインクジェットヘッド11を加熱しながら行うと好ましい。
【0073】
[効果]
このような構成の細胞凍結装置100の効果について、図2を用いて以下説明する。
【0074】
まず、吐出部10から吐出された液滴Dpが飛翔する空間(以下、飛翔空間と称する)では、液体窒素の沸点相当にまで冷却された基板221と、周囲の空間との温度差により対流(気流)が生じていると考えられる。また、貯留部21に貯留された液体窒素は、徐々に気化し、気化した窒素Nが立ち上ることによる気流も生じている。飛翔空間を飛翔する液滴Dpは、これらの気流の影響を受けやすいと考えられる。
【0075】
また、飛翔空間は、低温の基板221や、気化した低温の窒素Nにより冷却されている。そのため、液滴Dpは飛翔中に徐々に冷やされ、基板221に付着する前に液滴Dpに含まれる水の凍結が始まるおそれがあった。
【0076】
これらの懸念に対し、細胞凍結装置100は、インクジェットヘッド11の吐出孔11aと連通する筒状部材12を有している。筒状部材12は、飛翔空間を飛翔する液滴Dpに対し、気流の影響を低減させる風防として機能する。また、筒状部材12の上端が閉塞していると、立ち上る窒素Nは、符号Aに示すように筒状部材12の内部空間12xを通り抜けること無く筒状部材12を避けて流動すると考えられる。
【0077】
そのため、内部空間12xを飛翔する液滴Dpは、気流の影響を受けることなく設定された吐出方向に飛翔することができる。これにより、基板221上の凍結粒子Pに液滴Dpが着弾し凍結粒子Pが一部融解してしまう不具合を抑制できる。また、基板221上で凍結粒子Pを高密度に配列して形成することができ、凍結粒子Pの生産効率を向上させることができる。
【0078】
さらに、細胞凍結装置100は、筒状部材12を加熱する下部ヒータ13を有する。これにより、内部空間12xを加熱し、飛翔中の液滴Dpの凍結を抑制することができる。
【0079】
加えて、上部ヒータ14によりインクジェットヘッド11を加熱することで、液室11x内の分散液DLの凍結や、分散液DLの粘度上昇を抑制し、安定した液滴Dpの吐出を実現できる。
【0080】
これらの効果により、以上のような構成の細胞凍結装置100によれば、細胞Cを内包する液滴Dpを安定して吐出し、液滴Dpを基板221上で瞬時に凍結させ、細胞Cを凍結することが可能となる。
【0081】
また、以上のような細胞凍結方法によれば、安定的に細胞Cを凍結することが可能となる。
【0082】
なお、本実施形態においては、移動部材15及び駆動部30を用いて、インクジェットヘッド11と基板221との相対位置をxyz方向に変更可能としたが、この構成に限らない。着弾部22の上面と平行な方向に吐出部10と凍結部20とを相対移動させる構成として、例えば、移動部材15をz軸方向の他、x軸方向にも平行移動可能である構成とし、駆動部30としてyステージ32のみ有することとしてもよい。また、移動部材15及び駆動部30の代わりに、インクジェットヘッド11を保持し、インクジェットヘッド11をxyz方向に移動させることが可能なロボットアームを用いることとしてもよい。
【0083】
また、本実施形態においては、インクジェットヘッド11として、ノズル111を有するシングルノズルヘッドを採用することとしたが、これに限らない。
【0084】
図3は、変形例に係る細胞凍結装置200の概略図であり、吐出部50が有するインクジェットヘッドの概略断面図である。
【0085】
図3に示すように、細胞凍結装置200の吐出部50は、インクジェットヘッド51と、筒状部材52と、第1ヒータ53と、第2ヒータ54と、を有する。
【0086】
インクジェットヘッド51は、圧電素子515を駆動させて液室51xに貯留した分散液DLを加圧し、複数(図では3つ)の吐出孔51aから液滴Dpを吐出する。
【0087】
筒状部材52は、吐出孔51aに連通する内部空間52xを有し、インクジェットヘッド51から不図示の着弾部に向けて延びる。
【0088】
第1ヒータ53は、筒状部材52の先端部において筒状部材12の外面の一部を覆っている。第1ヒータ53は、筒状部材52の外側から内部空間52xを加熱する。
【0089】
(第2ヒータ)
第2ヒータ54は、インクジェットヘッド51の外面を覆い、インクジェットヘッド51の外側から液室51xに露出することなく、液室51x内の分散液DLを加熱する。第2ヒータ54としては、ニクロム線を電熱線とした公知の構成を採用することができる。
【0090】
なお、図3では、第2ヒータ54が、インクジェットヘッド51の外側から分散液DLヲ加熱することとしたが、これに限らない。第2ヒータ54は、インクジェットヘッド51が内蔵することとしてもよい。
【0091】
筒状部材52において第1ヒータ53と第2ヒータ54との間には、筒状部材52が露出する。筒状部材52が光透過性を有する場合、第1ヒータ53と第2ヒータ54との間は、筒状部材52の内部を確認可能な窓部521として機能する。
【0092】
このような構成の細胞凍結装置200においても、細胞Cを内包する液滴Dpを安定して吐出し、液滴Dpを基板上で瞬時に凍結させ、細胞Cを凍結することが可能となる。
【0093】
また、本実施形態の細胞凍結装置においては、加熱手段が筒状部材と第1ヒータとを有することとしたが、これに限らない。例えば、加熱手段が筒状部材を有すること無く、ヒータだけを有することとしてもよい。この場合、筒状に形成されたヒータを用い、吐出部と着弾部との間の空間にヒータを配置する構成としてもよい。筒状に形成されたヒータとしては、ニクロム線を螺旋状に形成された電熱ヒータを例示することができる。
【0094】
本実施形態の細胞凍結装置においては、この場合、ヒータを支持する支持部材を適宜設けるとよい。
【0095】
上記装置構成を採用する細胞凍結装置においては、筒状に形成されたヒータで囲まれた空間、すなわち吐出部と着弾部との間の空間を加熱することができる。そのため、本装置においては、加熱された空間の液滴を飛翔させることで、発明の効果が得られる。
【0096】
また、本実施形態の細胞凍結装置においては、着弾部22が基板221と運搬部222とを有することとしたが、これに限らない。運搬部222の代わりに、凍結粒子Pが上面に形成された基板221をxy平面と平行方向に移動させるマニピュレータを有する構成を採用することもできる。また、細胞凍結装置が基板221を運搬する構成を有することなく、細胞凍結装置の使用者が、基板221を手動で運搬してもよい。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計、仕様等に基づき種々変更可能である。
【実施例0098】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の説明においては、適宜上述した図面に記した符号を用いて説明する。
【0099】
(実施例)
図1に示す構成の細胞凍結装置を構成し、液体窒素で約-190℃に冷却した着弾部に向けて細胞(マウス繊維芽(NIH-3T3))が分散する分散液(1.0×10cells/ml)を吐出した。吐出した液滴の大きさは約20pLであった。細胞凍結装置を構成する主要な部品は以下の通りであった。
インクジェットヘッド:高耐液ガラスノズルヘッド(GlassJet、型番IJHD-30、株式会社マイクロジェット製)
筒状部材:石英管1(長さ60mm、内径4.15mm、外径6.15mm)の先端に、石英管2(長さ5mm、内径2.0mm、外径4.0mm)を挿入し、透明接着剤で固定。
上部ヒータ:ニクロム線
下部ヒータ:ニクロム線
貯留部:発泡樹脂製の容器
着弾部:ガラス板(カバーグラス(No.1)、松浪硝子工業株式会製)
運搬部222を回動させる弾性部材:ヒンジばね(HHSP20、ミスミ社製)
【0100】
上部ヒータ、下部ヒータに通電し、吐出部を加熱した。赤外線サーモグラフィカメラ(InfReC R550Pro、日本アビオニクス株式会社製)にて吐出部の温度を確認したところ、吐出部の温度は約20℃であり、室温と同等であった。
【0101】
吐出部を着弾部に近づけ、加熱したまま液滴の吐出を開始したところ、サーモグラフィカメラの画像では、液滴の吐出開始から3分後においても、吐出部の温度、特に筒状部材の近傍が約20℃に保たれていることが確認できた。筒状部材の内部に位置するノズル111の周囲や筒状部材の内部空間(吐出部と着弾部との間の空間)についても約20℃に保たれていると想定される。
【0102】
また、実施例の装置では、安定して液滴の吐出が可能な状態のまま、インクジェットヘッドの先端から着弾部までの距離を2mmまで近づけることができた。
【0103】
(比較例)
上部ヒータ、下部ヒータ、筒状部材を有さないこと以外は、実施例で用いたものと同じ構成の細胞凍結装置を用いた。
【0104】
サーモグラフィカメラにて吐出部の温度を確認したところ、吐出開始時の吐出部の温度は約20℃であった。しかし、吐出開始から3分後には、ノズル111及びノズル111の先端から着弾部までの空間の温度がサーモグラフィカメラの検出下限以下(-20℃以下)であることを確認した。
【0105】
また、実施例及び比較例の装置でそれぞれ形成した凍結粒子について、凍結粒子に含まれる細胞の生存率を確認した。
【0106】
約37℃に予温した培地を回収容器90(5mLチューブ)に入れておき、運搬部222を固定していた固定機構を開放することにより、反転ヒンジばねを用いて凍結粒子を培地に投入した。解凍後に採取した細胞数は270個(標準偏差:43個)であった。
【0107】
その結果、実施例の装置で形成した凍結粒子中の細胞の生存率は、比較例の装置で形成した凍結粒子中の細胞の生存率よりも、約15%高いことが確認できた。実施例の装置においては、第1ヒータ(上部ヒータ、下部ヒータ)及び筒状部材により、吐出部と着弾部との間の空間を加熱することができ、飛翔中の液滴の凍結を抑制することができたため、細胞の生存率が向上したものと考えられる。
(生存率の測定方法)
凍結粒子中の細胞を解凍して、細胞二重染色キット(CS01、株式会社同人化学研究所製)を用いて生細胞と死細胞とをそれぞれ染色した。染色後の細胞を蛍光顕微鏡により蛍光観察し、各実施例において解凍された全細胞数のうち、生細胞の数の割合として算出した。
【0108】
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。
【符号の説明】
【0109】
10,50…吐出部、11,51…インクジェットヘッド、11a,51a…吐出孔、11x,51x…液室、12,52…筒状部材、12x,52x…内部空間、13…下部ヒータ(第1ヒータ)、14…上部ヒータ(第1ヒータ)、20…凍結部、21…貯留部、21x…内部、22…着弾部、30…駆動部、53…第1ヒータ、54…第2ヒータ、100,200…細胞凍結装置、111…ノズル、111a…先端、121,521…窓部、221a…上面、221…基板、C…細胞、DL…分散液、Dp…液滴、N…窒素、R…冷媒
図1
図2
図3