(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123480
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】バスバー基板、バスバー基板装置およびステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/50 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H02K3/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030930
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】黒田 洋史
(72)【発明者】
【氏名】小坂 弥
(72)【発明者】
【氏名】山本 晋也
(72)【発明者】
【氏名】西川 敦准
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆博
(72)【発明者】
【氏名】▲杉▼原 光太郎
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604BB01
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
5H604QB04
5H604QB14
(57)【要約】
【課題】回転機の低背化を実現する技術を提供する。
【解決手段】樹脂基板11と、導電性金属からなるバスバー30とを有するバスバー基板10であって、前記バスバー30は、前記樹脂基板11の一方の面(ここでは上面12)に板状に形成された平面バスバー導電部(ここでは第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)を有し、前記樹脂基板11において前記平面バスバー導電部(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)が設けられた面(上面12)は、前記平面バスバー導電部(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)と前記樹脂基板11とが面一になっている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、導電性金属からなるバスバーとを有するバスバー基板であって、
前記バスバーは、前記絶縁基板の一方の面に板状に形成された平面バスバー導電部を有し、
前記絶縁基板において前記平面バスバー導電部が設けられた面は、前記平面バスバー導電部と前記絶縁基板とが面一になっている、バスバー基板。
【請求項2】
前記バスバーは、前記絶縁基板の外形形状から突出していない、請求項1に記載のバスバー基板。
【請求項3】
前記絶縁基板が樹脂組成物の硬化体からなり、前記硬化体のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が50ppm/K以下である、請求項1または2に記載のバスバー基板。
【請求項4】
前記絶縁基板が樹脂組成物の硬化体からなり、前記樹脂組成物はエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含む、請求項1または2に記載のバスバー基板。
【請求項5】
前記絶縁基板と前記平面バスバー導電部とを共通に貫通する貫通孔を有する、請求項1または2に記載のバスバー基板。
【請求項6】
前記貫通孔は、スロットに配置される平角線の位置決め手段として機能する、請求項5に記載のバスバー基板。
【請求項7】
前記絶縁基板が樹脂組成物の硬化体からなり、前記硬化体の熱伝導率は0.5W/(m・K)以上である、請求項1または2に記載のバスバー基板。
【請求項8】
請求項1または2に記載のバスバー基板を複数積層してなるバスバー基板装置。
【請求項9】
前記バスバー基板装置は、モータのステータの軸方向の少なくとも一方の端部に取り付けられ、
前記バスバーは、前記ステータのスロット間をわたされて配置されるコイル巻線の一部を構成する、請求項8に記載のバスバー基板装置。
【請求項10】
前記コイル巻線は平角線であって、
前記平角線は、前記スロット内に配置される垂直コイル線を有しており、
前記垂直コイル線における前記スロットから延出した端部を前記バスバーに電気的に接続する、請求項9に記載のバスバー基板装置。
【請求項11】
前記垂直コイル線の端部を挿通し前記バスバーに接続可能に案内する貫通孔を有する、請求項9に記載のバスバー基板装置。
【請求項12】
モータに用いられるステータであって、
請求項8に記載のバスバー基板装置を、軸方向の少なくとも一方の端部に設けたステータ。
【請求項13】
前記ステータは、軸方向の端部から見たときに円環状の形状を呈しており、
前記バスバー基板装置は、軸方向の端部から見たときに、単一の円環形状の要素、又は複数の要素を周方向に並べて円環形状とした集合要素として構成されている、
請求項12に記載のステータ。
【請求項14】
垂直コイル線は、絶縁部材で被覆されていない裸線である、請求項12に記載のステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー基板、バスバー基板装置およびステータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータ(発動機)や発電機のような回転電機において、ステータに設けられたスロットにコイルを収容する際に、スロット内に絶縁紙や樹脂材料を充填して、スロットとコイルの絶縁を確保する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
特許文献1では、導体(コイル)とスロットの周壁部との間に、樹脂を注入し硬化させて絶縁層を形成する技術が開示されている。また、コイルは、直線状の平角線をスロット内に収容し、スロット端部から突出した部分同士を熔接等により接続することで、所望のコイル巻装構造になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転電機に対して、小型化の要請が強まっており、その一環として絶縁性や放熱性を確保したまま、モータの低背化を実現する技術への要請が強まっている。たとえば、コイルとして平角線をステータのスロットに配置するモータでは、スロット内にセグメントコンダクタと称されるU字型に成形された平角線を収容し、スロットの端部から突出した部分同士を折り曲げて溶接による接続する構造が採用されている。コイルの熔接部分が低背化にとって課題となっていた。
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであって、モータ等の回転機の低背化を実現する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、次の技術が提供される。
[1]
絶縁基板と、導電性金属からなるバスバーとを有するバスバー基板であって、
前記バスバーは、前記絶縁基板の一方の面に板状に形成された平面バスバー導電部を有し、
前記絶縁基板において前記平面バスバー導電部が設けられた面は、前記平面バスバー導電部と前記絶縁基板とが面一になっている、バスバー基板。
[2]
前記バスバーは、前記絶縁基板の外形形状から突出していない、[1]に記載のバスバー基板。
[3]
前記絶縁基板が樹脂組成物の硬化体からなり、前記硬化体のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が50ppm/K以下である、[1]または[2]に記載のバスバー基板。
[4]
前記絶縁基板が樹脂組成物の硬化体からなり、前記樹脂組成物はエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含む、[1]から[3]までのいずれか1に記載のバスバー基板。
[5]
前記絶縁基板と前記平面バスバー導電部とを共通に貫通する貫通孔を有する、[1]から[4]までのいずれか1に記載のバスバー基板。
[6]
前記貫通孔は、前記垂直コイル線の前記スロットにおける位置決め手段として機能する、[5]に記載のバスバー基板。
[7]
前記絶縁基板が樹脂組成物の硬化体からなり、前記硬化体の熱伝導率は0.5W/(m・K)以上である、[1]から[6]までのいずれか1に記載のバスバー基板。
[8]
[1]~[7]までのいずれか1に記載のバスバー基板を複数積層してなるバスバー基板装置。
[9]
前記バスバー基板装置は、モータのステータの軸方向の少なくとも一方の端部に取り付けられ、
前記バスバーは、前記ステータのスロット間をわたされて配置されるコイル巻線の一部を構成する、[8]に記載のバスバー基板装置。
[10]
前記コイル巻線は平角線であって、
前記平角線は、前記スロット内に配置される垂直コイル線を有しており、
前記垂直コイル線における前記スロットから延出した端部を前記バスバーに電気的に接続する、[9]に記載のバスバー基板装置。
[11]
前記垂直コイル線の端部を挿通し前記バスバーに接続可能に案内する貫通孔を有する、[10]に記載のバスバー基板装置。
[12]
モータに用いられるステータであって、
[8]~[11]までのいずれか1に記載のバスバー基板装置を、軸方向の少なくとも一方の端部に設けたステータ。
[13]
前記ステータは、軸方向の端部から見たときに円環状の形状を呈しており、
前記バスバー基板装置は、軸方向の端部から見たときに、単一の円環形状の要素、又は複数の要素を周方向に並べて円環形状とした集合要素として構成されている、
[12]に記載のステータ。
[14]
垂直コイル線は、絶縁部材で被覆されていない裸線である、[12]または[13]に記載のステータ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転機の低背化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】実施形態に係る一つのスロットを拡大した図である。
【
図4】実施形態に係るバスバー基板装置の図である。
【
図5】実施形態に係るバスバー基板の平面図である。
【
図6】実施形態に係る
図5のA1-A1断面図である。
【
図7】実施形態に係る
図5の領域Bの拡大図である。
【
図8】実施形態に係る
図7で示す貫通孔(第2貫通孔、第4貫通孔)にコイルエンドを挿通させた状態を示した図である。
【
図9】実施形態に係る
図7のA3-A3断面図である。
【
図10】実施形態に係る
図8のA4-A4断面図である。
【
図11】実施形態に係るコイル接合部分を説明する断面図である。
【
図12】実施形態に係るステータの製造工程を示すフローチャートである。
【
図13】実施形態に係るステータの製造工程について、バスバー基板によるコイルの接合に着目して模式的に示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<概要>
本実施形態では、回転電機(電動機、発電機または電動機/発電機の両用機)として電動機(モータ)に適用した例を説明する。
図1はモータ100の縦断面図である。
図2はモータ100の横断面図である。
【0010】
本実施形態の概要は次の通りである。モータ100において、平角線からなるコイル9をステータ4に設ける際に、スロット8の端部から外側に突出している部分(コイルエンド92)同士を連結する際に、従来のような、端部同士を並べて配置して接合するのではなく、バスバー基板装置1(バスバー基板10)を用いて連結する。これによって、コイル9においてスロット8から突出している部分の低背化を実現する。
【0011】
<モータ100の基本構造>
モータ100は、ケース101の内部に収容されたロータ2と、ステータ4と、コイル9と、バスバー基板装置1と、インバータ装置99とを備える。コイル9のコイルエンド92は、バスバー基板装置1のバスバー30により連結されている。
ケース101は、円筒部101aと、この円筒部101aの軸方向両端を閉塞する側板部101b、101cとを有して構成される。ケース101の材料として、たとえば、アルミニウム合金(鋳物鋳造品)や樹脂材料、それらを組み合わせたものを用いることができる。
【0012】
<ロータ2>
ロータ2は、ケース101の内部に収容されている。ロータ2の中心には出力軸として回転軸3が取り付けられている。回転軸3の両端がそれぞれベアリング3aを介して側板部101b、101cに支持されている。これによって、ロータ2は回転軸3を中心に回転自在となっている。
【0013】
ロータ2には永久磁石5が内装されている。具体的には、複数の永久磁石5が同一円周上に等間隔で配置されている。このとき、隣合う永久磁石5の磁極は互いに異なるように設置されている。
【0014】
円筒部101aの内周側には円筒型のステータ4が、ロータ2の外周を取り囲むように配置され固定されている。ステータ4の内周面とロータ2の外周面との間には微少な間隙(エアギャップ)が設けられている。
【0015】
<ステータ4>
ステータ4は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定して設けられており、
図2に示すように軸方向端部から見たときに、環状に設けられたヨーク6と、ヨーク6からロータ2側(内周側)に向かって延出する複数のティース7とが設けられている。複数のティース7は周方向に等間隔に配列されて設けられている。
【0016】
<ティース7>
ティース7は上述したロータ2の永久磁石5と対応して設けられ、各コイル9を順次励磁していくことにより、これに対応した永久磁石5との吸引、反発によりロータ2が回転する。
【0017】
ティース7は、外周側の周方向の幅が大きく、内周側の幅が小さく、内周側に向けて先細に形成されている。ティース7の内周側の端部には、スロット8の幅を縮めるように周方向に沿って対向するティース部先端7b(
図3参照)が形成されている。
【0018】
<スロット8>
図3に一つのスロット8を拡大した図を示す。スロット8は、隣接するティース7間の空間であって、径方向に沿って対向するティース7の壁面7aと、ヨーク6の内周側壁面6aとによって区画された領域である。ティース部先端7b間は、スロット8の内周側の開口となっている。スロット8には、複数のコイル9と、封止層60とが設けられる。
【0019】
<封止層60>
封止層60は、樹脂材料の硬化物であって、複数のコイル9をスロット8に配置した状態で、コイル9の隙間を埋めるように設けられている。
【0020】
<封止層60の物性>
封止層60を構成する樹脂材料の硬化物の物性はたとえば以下の通りである。
樹脂材料の硬化物の熱伝導率は0.5W/(m・K)以上である。熱伝導率の下限は、好ましくは1.0W/(m・K)以上であり、より好ましくは2W/(m・K)以上である。熱伝導率の上限は、特に限定しないが、現実的な値として10W/(m・K)である。
【0021】
封止層60の樹脂組成物のガラス転移温度Tgは120℃以上であり、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上である。ガラス転移温度Tgを上記範囲とすることで、モータ100を高温下で使用することができ、またコイル9の発熱に強くなり高出力で使用することができる。
封止層60の樹脂組成物を以下に具体的に説明する。
【0022】
<封止層60の材料>
封止層60の樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)、充填剤(B)、および硬化剤(C)などを含むことが好ましい。
【0023】
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)としては、たとえば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノキシ樹脂、およびアクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂(A)として、これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
なかでも、高い絶縁性を有する観点から、熱硬化性樹脂(A)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびフェノキシ樹脂であることが好ましい。成形時における極狭部の流動確保の観点から、エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂(4,4'-(1,3-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールP型エポキシ樹脂(4,4'-(1,4-フェニレンジイソプリジエン)ビスフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂(4,4'-シクロヘキシジエンビスフェノール型エポキシ樹脂)等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノール基メタン型ノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素構造を有するノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、2官能ないし4官能エポキシ型ナフタレン樹脂、ビナフチル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;アントラセン型エポキシ樹脂;フェノキシ型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ノルボルネン型エポキシ樹脂;アダマンタン型エポキシ樹脂;フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
エポキシ樹脂の中でも、耐熱性および絶縁信頼性をより一層向上できる観点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂からなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0026】
フェノール樹脂としては、たとえば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
フェノール樹脂の中でも、フェノールノボラック樹脂であることが好ましい。
【0027】
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、封止層60の樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、封止層60の樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記下限値以上であると、封止層60の樹脂組成物全量のハンドリング性が向上し、スロット8内に封止層60を形成するのが容易となるとともに、封止層60の強度が向上する。
熱硬化性樹脂(A)の含有量が上記上限値以下であると、封止層60の線膨張率や弾性率がより一層向上したり、熱伝導性がより一層向上したりする。
【0028】
[充填剤(B)]
本実施形態における充填剤(B)は、封止層60の熱伝導性を向上させるとともに強度を得る観点から用いられる。
【0029】
充填剤(B)としては、無機充填剤が好ましく、熱伝導性フィラーであることが特に好ましい。より具体的には、充填剤(B)としては、熱伝導性と電気絶縁性とのバランスを図る観点から、たとえば、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および炭化ケイ素等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、充填剤(B)は、アルミナ、窒化ホウ素であることが好ましい。
【0030】
充填剤(B)の含有量は、すなわち上記のフィラーの含有量は、樹脂組成物全量に対し、60質量%以上が好ましい。
【0031】
[硬化剤(C)]
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂、またはフェノール樹脂を用いる場合、さらに硬化剤(C)を含むことが好ましい。
【0032】
硬化剤(C)としては、硬化触媒(C-1)およびフェノール系硬化剤(C-2)から選択される1種以上を用いることができる。
硬化触媒(C-1)としては、たとえば、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)等の有機金属塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の3級アミン類;2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジエチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン等の有機リン化合物;フェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール等のフェノール化合物;酢酸、安息香酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等、またはこの混合物が挙げられる。硬化触媒(C-1)として、これらの中の誘導体も含めて1種類を単独で用いることもできるし、これらの誘導体も含めて2種類以上を併用したりすることもできる。
硬化触媒(C-1)の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全量に対し、0.001質量%以上1質量%以下が好ましい。
【0033】
また、フェノール系硬化剤(C-2)としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、トリスフェノールメタン型ノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アミノトリアジンノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物;レゾール型フェノール樹脂等が挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
これらの中でも、ガラス転移温度の向上及び線膨張係数の低減の観点から、フェノール系硬化剤(C-2)がノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂が好ましい。
【0034】
フェノール系硬化剤(C-2)の含有量は、特に限定されないが、樹脂組成物全量に対し、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、樹脂組成物全量に対し、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0035】
[カップリング剤(D)]
樹脂組成物は、カップリング剤(D)を含んでもよい。カップリング剤(D)は、熱硬化性樹脂(A)と充填剤(B)との界面の濡れ性を向上させることができる。
【0036】
カップリング剤(D)としては、特に限定されないが、たとえば、エポキシシランカップリング剤、カチオニックシランカップリング剤、アミノシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤およびシリコーンオイル型カップリング剤の中から選ばれる1種または2種以上のカップリング剤を使用することが好ましい。
カップリング剤(D)の含有量は、特に限定されないが、充填剤(B)100質量%に対して、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。一方、当該含有量は、充填剤(B)100質量%に対して、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0037】
[フェノキシ樹脂(E)]
さらに、樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(E)を含んでもよい。フェノキシ樹脂(E)を含むことにより封止層60の耐屈曲性を向上でき、また弾性率を低下させることが可能となり、封止層60の応力緩和力を向上させることができる。
【0038】
また、フェノキシ樹脂(E)を含むと、粘度上昇により、流動性が低減し、ボイド等が発生することを抑制できる。また、封止層60を金属部材(すなわちティース7)と密着させて用いる場合などに、金属と樹脂組成物の硬化体との密着性を向上できる。
【0039】
フェノキシ樹脂(E)としては、たとえば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、およびビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
【0040】
フェノキシ樹脂(E)の含有量は、たとえば、樹脂組成物全量に対して、3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0041】
[離型剤]
樹脂組成物は、好ましくは離型剤を含む。これにより、成形後の離型性を高めることができる。離型剤としては、たとえばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
離型剤を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体中、好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.05~2質量%である。これにより、離型性向上の効果を確実に得ることができる。その結果、封止層60の成形精度を高くすることができる。
【0043】
[その他の成分]
樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ほかに酸化防止剤、レベリング剤等を含むことができる。
【0044】
<コイル9>
コイル9は、銅等の良導体で形成されており、断面矩形の平角線のコイル本体91と、コイル本体91においてスロット8の端部から軸方向に沿って外側に突出している部分(コイルエンド92)同士を連結するバスバー30とを有する。
【0045】
詳細は後述するが、バスバー30は、バスバー基板装置1(バスバー基板10)に設けられる。
コイル本体91は、直線状に設けられており、スロット8に収容される。ここでは、一つのスロット8に4本のコイル本体91が、放射方向(中心軸側から外方向に向かって)に一列に所定間隔離間して配置されている。
【0046】
なお、コイル本体91間は封止層60により絶縁されている。また、後述のバスバー基板装置1(貫通孔70)により、精度良く位置決めされていることから、スロット8内においてコイル本体91は確実に離間し絶縁が維持される。それにより、コイル90として、絶縁被膜の無い裸コイルを用いることができる。また、従来であれば、スロット8の壁面に、予め絶縁部材(絶縁紙)等を設ける封止工程が必要であったが、本実施形態では、不要である。
【0047】
<バスバー基板装置1>
図4にバスバー基板装置1を示す。
図4(a)はバスバー基板装置1の平面図であり、
図4(b)は側面図(
図4(a)のC矢視図)である。ここでは、スロット8が48箇所設けられたステータ4に対応したバスバー基板装置1の構造を例示する。
【0048】
バスバー基板装置1は、ステータ4の軸方向の両端にそれぞれ設けられ、所定の2本のコイル本体91のコイルエンド92を連結する。
【0049】
バスバー基板装置1は、ステータ4の軸方向の端部の形状に対応して、軸方向からみたときに、円環形状または円盤形状に設けられている。バスバー基板装置1が呈する円環形状または円盤形状は、1つの装置として構成されてもよいし、周方向に複数の要素(装置)に分割されていてもよい。本実施形態では、円環形状が周方向に複数に分割したときの一つの構成要素(バスバー基板装置1)について例示する。したがって、全てのスロット8に対応したコイル配置を行う場合には、分割した数だけバスバー基板装置1を周方向に並べる。分割数は、ステータ4の大きさやスロット8の数に応じて適宜選択される。
【0050】
図4(a)に示すように、バスバー基板装置1は、上面視において円環形状が周方向に複数等分に分割された分割バスバー基板装置1aを有する。分割された複数の分割バスバー基板装置1aを区別しない場合は、単に「バスバー基板装置1」として説明する。一つの分割バスバー基板装置1aは、16箇所のスロット8に対応して設けられている。
【0051】
図4(b)に示すように、バスバー基板装置1(分割バスバー基板装置1a)は、複数のバスバー30を有するバスバー基板10が複数積層されて設けられている。ここでは、ステータ4側から第1~第4平面バスバー樹脂基板10A~10Dがこの順で積層されている。第1~第4平面バスバー樹脂基板10A~10Dを区別しない場合は、「バスバー基板10」と称する。
【0052】
バスバー基板装置1は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔70を有する。
図5で後述するが、本実施形態では、あるバスバー基板10において、貫通孔70は、バスバー30とコイル90とが接続される部分のスロット8に対応する領域に設けられた接合穴(第1貫通孔セット81、第7貫通孔セット87)と、バスバー30とコイル90とが接続さない部分のスロット8に対応する領域に設けられた不接合穴(第2~第6貫通孔セット82~86および第8貫通孔セット88)とを有する。接合穴(第1貫通孔セット81、第7貫通孔セット87)としては、各コイル90の断面の大きさに合わせて複数(
図5では正方形の第1~第4貫通孔71~74)設けられている。不接合穴(第2~第6貫通孔セット82~86および第8貫通孔セット88)としては、対応のスロット8に配置される4つのコイル90共通に一つの共通貫通孔(第5貫通孔75)が設けられる。なお、不接合穴(第2~第6貫通孔セット82~86および第8貫通孔セット88)の代わりに、第1~第4貫通孔71~74のように、各コイル90に対応して一つずつ設けられてもよい。
貫通孔70には、スロット8から突出するコイル本体91のコイルエンド92が挿通される。所定の二つの貫通孔70が、板状のバスバー30により連結されており、貫通孔70に挿通されたコイルエンド92がバスバー30により連結されることで、二つのコイル本体91のコイルエンド92が電気的に接合される。
【0053】
コイルエンド92とバスバー30との接合は、導電性接着剤による接合、半田接合、レーザ熔接による接合等、各種の接合を用いることができる。
【0054】
<バスバー基板10>
ここで一つのバスバー基板10に着目して具体的に説明する。
図5にバスバー基板10の平面図を示す。
図6に
図5のA1-A1断面図を示す。
図7に
図5の領域Bの拡大図を示す。
図8に
図7で示す貫通孔70(第2貫通孔72、第4貫通孔74)にコイルエンド92を挿通させた状態を示す。
図9に
図7のA3-A3断面図を示す。
図10に
図8のA4-A4断面図を示す。
バスバー基板装置1(すなわち一つの分割バスバー基板装置1a)は、上面視で、周方向に隣接する8つのスロット8を一組としたセット毎に複数(ここでは2つ)の第1および第2のセット領域111、112に分けて把握できる。第1および第2のセット領域111、112の便宜的な境界を破線121で示している。
第1および第2のセット領域111、112のそれぞれにおいて、貫通孔70やバスバー30(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)が同様に設けられている。以下では貫通孔70やバスバー30に関する説明について、主に第1のセット領域111における構成を代表して説明する。
【0055】
バスバー基板10は、樹脂基板11と、複数のバスバー30と、複数の貫通孔70とを有する。バスバー30としては、第1平面バスバー31と第2平面バスバー32とを有する。ここでは二つのバスバー30(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)を有する構成を例示しているが、これに限る趣旨ではなく、バスバー基板装置1の分割数やスロット8に配置されるコイル本体91の数等によって適宜設定される。また、バスバー基板10が積層される位置に応じて、つまり、どのコイル本体91同士を接合するかに応じて、形状や連結する対象の貫通孔70が異なる。
【0056】
<樹脂基板11>
樹脂基板11は、樹脂組成物の硬化体からなる板状の構造体である。
樹脂基板11の樹脂組成物として、上述した封止層60の材料と同様のものを用いることができ、樹脂組成物はエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含むことが好ましい。
【0057】
樹脂基板11のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数は、50ppm/K以下である。線膨張係数は、好ましくは40ppm/K以下、より好ましくは30ppm/K以下である。線膨張係数をこのように設定することで、バスバー30との線膨張係数の差を小さくし、熱の影響で、樹脂基板11とバスバー30との接合状態の変化(接合力の低下や分離)等を抑制することができる。その結果、バスバー基板10を複数積層した場合であっても、樹脂基板11とバスバー30との接合状態の変化に起因した積層状態の劣化(例えば、バスバー基板10間の隙間発生)を抑制できる。
【0058】
樹脂基板11の厚みは、たとえば3mmとすることができる。樹脂基板11の厚みは、樹脂基板11を積層して得られるバスバー基板装置1の低背化の観点では、薄い方がこのましいが、樹脂基板11に取り付けられるバスバー30(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)の厚みを考慮すると、たとえば、0.5mm以上4mm以下とすることができる。
【0059】
<第1平面バスバー配置部14、第2平面バスバー配置部15>
樹脂基板11は、第1平面バスバー配置部14および第2平面バスバー配置部15を有する。
第1平面バスバー配置部14は、樹脂基板11の一方の面(ここでは上面12)において、所定深さの凹状に形成されており、第1平面バスバー31を収容する。第2平面バスバー配置部15は、樹脂基板11の一方の面(ここでは上面12)において、所定深さの凹状に形成されており、第2平面バスバー32を収容する。
【0060】
第1平面バスバー配置部14と第2平面バスバー配置部15の深さは、バスバー30の厚みに応じて、より具体的には、同じ厚みで設定される。樹脂基板11に第1平面バスバー31と第2平面バスバー32がそれぞれ第1平面バスバー配置部14と第2平面バスバー配置部15とに配置された状態において、樹脂基板11の上面12は面一となっている。また、第1平面バスバー31と第2平面バスバー32とは、樹脂基板11の外形方向(すなわち横方向)には延出しないようになっている。すなわち、第1平面バスバー配置部14と第2平面バスバー配置部15は、それぞれ第1平面バスバー31と第2平面バスバー32の外形が嵌まるような形状となっている。したがって、
図5から分かるように、平面視で見たときに、最も外側に配置されているバスバー30の外周線33(外形形状)は、樹脂基板11の外周線16(外形形状)から突出していない。
【0061】
<貫通孔70>
ここで、便宜的に、同一のスロット8に収容したコイル本体91のコイルエンド92が挿通される貫通孔70の組を貫通孔セットとして取り扱う。より具体的には、
図5において、一つのセット領域(第1および第2セット領域111、112のそれぞれ)では、左から順に第1~第8貫通孔セット81~88が設けられている。
【0062】
第1貫通孔セット81および第7貫通孔セット87のそれぞれでは、中心側から外側に向かって、4つの貫通孔70、すなわち第1~第4貫通孔71~74が設けられている。第1~第4貫通孔71~74のそれぞれは、挿通されるコイルエンド92の断面形状に合わせて、略正方形に形成されている。ここでは、第1貫通孔セット81の第2貫通孔72に挿通するコイルエンド92と第7貫通孔セット87の第2貫通孔72に挿通するコイルエンド92が第1平面バスバー31により連結している。第1貫通孔セット81の第4貫通孔74に挿通するコイルエンド92と第7貫通孔セット87の第4貫通孔74に挿通するコイルエンド92が第2平面バスバー32により連結している。
【0063】
一方、第2~第6貫通孔セット82~68および第8貫通孔セット88を挿通するコイルエンド92は、バスバー30に接続しない。そこで、本実施形態では、第2~第6貫通孔セット82~86および第8貫通孔セット88のそれぞれにおいて、一つの共通貫通孔(第5貫通孔75)が設けられている。共通貫通孔(第5貫通孔75)は、第1~第4貫通孔71~74を連結させたより若干大きめの矩形形状に設けられている。以下、第1~第5貫通孔71~75を区別しない場合には、「貫通孔70」として説明する。
【0064】
貫通孔70は、コイルエンド92同士を接合する観点において、バスバー30が設けられる領域では、樹脂基板11とバスバー30とを共通に貫通する。
【0065】
具体的には、貫通孔70は、樹脂基板11に設けられる基板側貫通孔40と、バスバー30に設けられるバスバー側貫通孔50とを、上下方向に重ねた状態の構成となっている。なお、基板側貫通孔40とバスバー側貫通孔50とは、上面視において、それぞれ完全な閉じた孔を構成する必要はなく、貫通孔70として全体で見たときに、貫通した孔として構成されて、コイルエンド92を適切に挿入できればよい。バスバー30が設けられる領域では、各バスバー配置部に設けられる基板側貫通孔40と、バスバー配置部に配置されたバスバー側貫通孔50とが一致するように設けられる。バスバー30がない領域では、基板側貫通孔40のみになる。ここでは、第2貫通孔72と第4貫通孔74とが基板側貫通孔40とバスバー側貫通孔50の両方を有している。
【0066】
バスバー30により連結される貫通孔70(ここでは第1~第4貫通孔71~74)の大きさは、コイルエンド92の外形が貫通孔70の内壁面に当接するよう設定される。なお、現実的には、コイルエンド92を貫通孔70に円滑に挿入させる観点から、コイルエンド92の外形より貫通孔70を僅かに大きくすることが好ましい。これにより、コイル本体91はスロット8において精度良く位置決めされる。また、貫通孔70の形状・大きさは、バスバー30とコイルエンド92との接合方式に応じて必要とされる余空間が適宜設けられる。なお、貫通孔70による位置決め機能については、一つのバスバー基板10の貫通孔70により発揮されてもよいし、複数積層した状態のバスバー基板10の貫通孔70により発揮されてもよい。また、一つのバスバー基板10の貫通孔70により位置決めがなされるときには、コイル本体91によって位置決めされるバスバー基板10が異なってもよい。
【0067】
<バスバー30>
バスバー30は、板状の導電性金属により形成されており、上述のようにここで、第1平面バスバー31と第2平面バスバー32とを有する。導電性金属として、特に限定はしないが銅やアルミニウム、それらの合金を好適に用いることができる。
【0068】
バスバー30(第1平面バスバー31と第2平面バスバー32)の厚みは、モータ100に仕様により設定できるが、たとえば0.3mmから3.0mmとすることができる。モータ100として所望の性能を実現することができる限りにおいて、第1平面バスバー31と第2平面バスバー32の厚みは同じであってもよいし異なってもよく、さらに、異なるバスバー基板10間でバスバー30の厚みが異なってもよい。
【0069】
図5に示すバスバー基板10では、第1平面バスバー31は、第1貫通孔セット81の第2貫通孔72と第7貫通孔セット87の第2貫通孔72とを連結するように設けられている。ここでは、第1平面バスバー31は、円弧状部分31aと、円弧状部分の両端から第2貫通孔72に向けて延出する足部31bとを有している。足部31bの先端部分に第2貫通孔72が形成されている。
第2平面バスバー32は、第1貫通孔セット81の第4貫通孔74と、第7貫通孔セット87の第2貫通孔72とを連結するように設けられている。ここでは、第2平面バスバー32は、円弧状部分32aと、円弧状部分の両端から第4貫通孔74に向けて延出する足部32bとを有している。足部32bの先端部分に第4貫通孔74が形成されている。
第1平面バスバー31と第2平面バスバー32とは接合することはなく、また、コイルエンド92の連結に無関係の貫通孔70とは離れて設けられる。
【0070】
<コイル接合構造>
図11はコイル90のコイルエンド92とバスバー30(第1平面バスバー31)との接合構造を説明する図であり、ここでは3種類の接合構造例を説明する。
図11(a)の接合構造では、コイル本体91およびコイルエンド92が直線状に構成されている例を示す。バスバー30のバスバー側貫通孔50において、コイルエンド92と向き合う面がバスバー接合面30aになっている。コイルエンド92のバスバー側貫通孔50(より具体的にはバスバー接合面30aに向かう面)がコイル接合面92aとなっている。このとき、コイル接合面92aとバスバー接合面30aが、断面垂直状に構成されており、それらが当接した状態で、導電性接着剤による接合、半田接合、レーザ熔接による接合等の接合手段により接合される。
【0071】
図11(b)の接合構造では、コイルエンド92のバスバー30に向かう面が、バスバー30側にカギ状に突出した突出部93が設けられている。突出部93の下面95が第1平面バスバー配置部14の基板側貫通孔40の近傍に載置している。突出部93のバスバー30側の面が、所定の傾斜角の逆テーパ状の面(「逆テーパ状面94」という)に形成されたコイル接合面92aとなっている。また、バスバー30において、バスバー側貫通孔50のコイルエンド92側の壁面がバスバー接合面30bとなっている。バスバー接合面30bは、逆テーパ状面94であるバスバー接合面92aに対応した傾斜角のテーパ状に形成されている。突出部93の下面95が第1平面バスバー配置部14の基板側貫通孔40の近傍に載置し且つコイル接合面92aとバスバー接合面30bが当接した状態で、導電性接着剤による接合、半田接合、レーザ熔接による接合等の接合手段により接合される。このような接合構造により、接合工程において、コイル接合面92aとバスバー接合面30bがズレることなく安定した接合が可能になる。
【0072】
図11(c)の接合構造は、
図11(b)の接合構造の変形例で、第1平面バスバー配置部14の基板側貫通孔40側には、基板側貫通孔40と第1平面バスバー配置部14を隔てる壁面17が形成されている。バスバー30は、コイルエンド92側の側面形状が、段差状に形成され、段差面30cが壁面17と面一になるよう設けられている。また、段差面30cから上に伸びる面がバスバー接合面30bとなっており、
図11(b)の接合構造と同様に、テーパ状に形成されている。また、突出部93のバスバー30側の面が逆テーパ状面94となっている。また、突出部93の下面95が壁面17と段差面30cとに載置している。コイルエンド92とバスバー30との接合は、逆テーパ状面94とバスバー接合面30bとの第1接合部及び突出部93の下面95の先端側と段差面30cとの第2接合部により成される。これによって、
図11(b)の接合構造と同様の効果とともに、第2接合部の接合により接合強度が強まる。
【0073】
<ステータ4の製造方法>
本実施形態のステータ4にコイル9を設ける製造方法を説明する。
図12はステータ4の製造工程を示すフローチャートである。
図13は、ステータ4の製造工程について、バスバー基板10によるコイル9の接合に着目して模式的に示すチャート図である。
【0074】
準備工程S11:
まず、複数の電磁鋼板を軸方向に積層し密着固定させたステータ4と、直線に成形された所定長さの4本のコイル本体91a~91dと、複数のバスバー基板10(第1~第4平面バスバー樹脂基板10A~10D)を用意する。それぞれのバスバー基板10は、積層位置に応じた、すなわち連結するコイル本体91a~91d(コイルエンド92)に応じたバスバー30が設けられている。また、コイル本体91a~91dの長さは、接合されるバスバー30より実質的に突出しないように設定されることが好ましい。
【0075】
基準基板配置工程S12:
つづいて、
図13(a)および
図13(b)に示すように、ステータ4の両端4a、4bのそれぞれに、最もステータ4側に配置されるバスバー基板10(すなわち第1平面バスバー樹脂基板10A)を配置する。
【0076】
コイル挿入工程S13:
つぎに、
図13(c)に示すように、第1平面バスバー樹脂基板10Aに設けられている貫通孔70にコイルエンド92が挿入されるようにして、スロット8に4本のコイル本体91a~91dを配置する。左から2番目の下側のコイルエンド92(コイル本体91bの下端)が下側の第1平面バスバー樹脂基板10Aの下側面と一致し、貫通孔70から突出しないように配置される。また、左から4番目の上側のコイルエンド92(コイル本体91dの上端)が上側の第1平面バスバー樹脂基板10Aの上側面と一致し、貫通孔70から突出しないように配置される。このとき、コイル本体91a~91dの両端のコイルエンド92が第1平面バスバー樹脂基板10Aの貫通孔70に挿入されるため、スロット8内におけるコイル本体91a~91dの位置が精度良く定まる。
【0077】
バスバー・コイル接合工程S14:
第1平面バスバー樹脂基板10Aが配置されると、第1平面バスバー樹脂基板10Aのバスバー30に接合されるコイル本体91b、91dのコイルエンド92を接着剤や熔接等により接合する。ここでは、左から2番目の下側のコイルエンド92が下側の第1平面バスバー樹脂基板10Aのバスバー30に接合され、左から4番目の上側のコイルエンド92が上側の第1平面バスバー樹脂基板10Aのバスバー30に接合する。図示上側の第1平面バスバー樹脂基板10Aのバスバー30と接合されるコイル本体91dや下側の第1平面バスバー樹脂基板10Aと接合されるコイル本体91bは、コイル本体91d、91bとバスバー30との接合により、上下方向の位置決めが定まる。一方、上下の第1平面バスバー樹脂基板10Aのバスバー30と接合しないコイル本体91a、91cは、貫通孔70の貫通方向(図示で上下方向)の位置は、所定の治具で固定される。しかしながら、治具を用いない場合等では、位置が定まらず、ステータ4の姿勢によってはコイル本体91a、91cの位置がずれてしまうことが想定される。そこで、例えば、それらコイル本体91a、91cのコイルエンド92において、第1平面バスバー樹脂基板10Aからちょうど突出する境界部分の側面に、樹脂材料で小突起状の脱着容易な仮の位置決め構造を設けてもよい。
【0078】
基板積層工程S15:
第1平面バスバー樹脂基板10Aによるコイル本体91b、91d(コイルエンド92)の接合が完了した後、第2平面バスバー樹脂基板10Bを第1平面バスバー樹脂基板10Aの上に積層する。このとき、第2平面バスバー樹脂基板10Bの貫通孔70に、第1平面バスバー樹脂基板10Aで接合されたコイル本体91b、91d以外のコイル本体91a、91cのコイルエンド92が挿入される。
図13の例では、下側の第2平面バスバー樹脂基板10Bにおいて、第1平面バスバー樹脂基板10Aで接合されたコイル本体91bの下側のコイルエンド92に対応する領域には、貫通孔70が設けられず、封止される。同様に、上側の第2平面バスバー樹脂基板10Bにおいて、第1平面バスバー樹脂基板10Aで接合されたコイル本体91dの上側のコイルエンド92に対応する領域には、貫通孔70が設けられず、封止される。以降の処理においても、つづいて配置される第2~第4平面バスバー樹脂基板10B~10Dにおいて、コイルエンド92がバスバー30に接合された領域には、貫通孔70は設けられない。
【0079】
つぎに、
図13(d)に示すように、第2平面バスバー樹脂基板10Bのバスバー30とコイルエンド92(コイル本体91aの下端および上端)とを接合し(S14)、順次、第3平面バスバー樹脂基板10Cの配置(S15)、第3平面バスバー樹脂基板10Cのバスバー30とコイルエンド92(コイル本体91cの下端およびコイル本体91bの上端)との接合(S14)、第4平面バスバー樹脂基板10Dの配置(S15)、第4平面バスバー樹脂基板10Dのバスバー30とコイルエンド92(コイル本体91dの下端およびコイル本体91cの上端)との接合(S14)を行い、
図13(e)に示すように、全てのバスバー基板10(ここでは第1~第4平面バスバー樹脂基板10A~10D)とコイルエンド92との接合が終了すると、バスバー基板装置1によるコイル9のスロット8への配置が終了する。
【0080】
封止工程S16:
最後に、スロット8に封止用樹脂を充填し封止層60を形成する。
【0081】
なお、上記製造方法では、ステータ4の両方の端部4a、4bにおいて同じ工程を実施した。しかし、これに限らず、たとえば一方の端部4aにおいてバスバー基板配置工程S15まで実施しコイルエンド92とバスバー30とを接合し所定数のバスバー基板10を積層させた後に、他方の端部4bにおいてコイルエンド92とバスバー30とを接合し所定数のバスバー基板10を積層させて、その後に封止工程S16を実施してもよい。
また、コイルエンド92とバスバー30とを接合は、一つのバスバー基板10を配置するごとに行ったが、複数のバスバー基板10を積層後にまとめて接合を行ってもよい。
【0082】
以上、本実施形態を纏めると次の通りである。
[1]
樹脂基板11(絶縁基板)と、導電性金属からなるバスバー30とを有するバスバー基板10であって、
前記バスバー30は、前記樹脂基板11の一方の面(ここでは上面12)に板状に形成された平面バスバー導電部(ここでは第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)を有し、
前記樹脂基板11において前記平面バスバー導電部(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)が設けられた面(上面12)は、前記平面バスバー導電部(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)と前記樹脂基板11とが面一になっている、バスバー基板10。
これにより、コイルエンド92の接合に必要となる空間、特に高さ方向の空間を抑制でき、モータ100の低背化を実現できる。平面バスバー導電部(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)と樹脂基板11とが面一となっているため、バスバー基板10を複数積層しても、安定した積層構造を実現できる。
[2]
前記バスバー30は、前記樹脂基板11の外形形状(上面視における外郭線)から突出していない、[1]に記載のバスバー基板10。
バスバー30が樹脂基板11の外形より外側(横方向)に突出していないため、ステータ4の外形よりも外側に広がることもなく、モータ100が大型化してしまうことを抑制できる。
[3]
前記樹脂基板11が樹脂組成物の硬化体からなり、前記硬化体のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が50ppm/K以下である、[1]または[2]に記載のバスバー基板10。
これにより、モータ駆動に伴う熱が作用した場合であっても、樹脂基板11とバスバー30との配置に歪みが生じることが無く、バスバー基板10の積層状態を良好に維持できる。
[4]
前記樹脂基板11が樹脂組成物の硬化体からなり、前記樹脂組成物はエポキシ樹脂またはフェノール樹脂を含む、[1]から[3]までのいずれか1に記載のバスバー基板10。
[5]
前記樹脂基板11と前記平面バスバー導電部(第1平面バスバー31、第2平面バスバー32)とを共通に貫通する貫通孔70(基板側貫通孔40、バスバー側貫通孔50)を有する、[1]から[4]までのいずれか1に記載のバスバー基板10。
[6]
前記貫通孔70(基板側貫通孔40、バスバー側貫通孔50)は、前記垂直コイル線の前記スロットにおける位置決め手段として機能する、[5]に記載のバスバー基板10。
貫通孔70にコイルエンド92が挿入されることから、スロット8におけるコイル本体91の高い位置精度制御を実現できる。
[7]
前記樹脂基板11が樹脂組成物の硬化体からなり、前記硬化体の熱伝導率は0.5W/(m・K)以上である、[1]から[6]までのいずれか1に記載のバスバー基板10。
バスバー基板10の樹脂基板11を高熱電動部材にすることで、コイルエンド92部分からも高い放熱性を実現できる。
[8]
[1]~[7]までのいずれか1に記載のバスバー基板10を複数積層してなるバスバー基板装置1。
[9]
前記バスバー基板装置1は、ステータ4の軸方向の少なくとも一方の端部に取り付けられ、
前記バスバー30は、前記ステータ4のスロット8間をわたされて配置されるコイル9の一部を構成する、[8]に記載のバスバー基板装置1。
[10]
前記コイル9は平角線であって、
前記平角線は、前記スロット8内に配置される垂直コイル線(コイル本体91)を有しており、
前記垂直コイル線(コイル本体91)における前記スロット8から延出した端部(コイルエンド92)を前記バスバー30に電気的に接続する、[9]に記載のバスバー基板装置1。
[11]
前記垂直コイル線(コイル本体91)の端部(コイルエンド92)を挿通し前記バスバー30に接続可能に案内する貫通孔70を有する、[10]に記載のバスバー基板装置1。
[12]
モータ100に用いられるステータ4であって、
[8]~[11]までのいずれか1に記載のバスバー基板装置1を、軸方向の少なくとも一方の端部に設けたステータ4。
[13]
前記ステータ4は、軸方向の端部から見たときに円環状の形状を呈しており、
前記バスバー基板装置1は、軸方向の端部から見たときに、単一の円環形状の要素、又は複数の要素を周方向に並べて円環形状とした集合要素として構成されている、[12]に記載のステータ4。
[14]
垂直コイル線(コイル本体91)は、絶縁部材で被覆されていない裸線である、[12]または[13]に記載のステータ4。
【0083】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
1 バスバー基板装置
2 ロータ
4 ステータ
5 永久磁石
6 ヨーク
7 ティース
8 スロット
9 コイル
10 バスバー基板
10A~10D 第1~第4平面バスバー樹脂基板
11 樹脂基板
14 第1平面バスバー配置部
15 第2平面バスバー配置部
30 バスバー
31 第1平面バスバー
32 第2平面バスバー
40 基板側貫通孔
50 バスバー側貫通孔
60 封止層
70 貫通孔
71~75 第1~第5貫通孔
81~88 第1~第8貫通孔セット
91 コイル本体
92 コイルエンド
100 モータ