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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123487
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】X線発生装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/14 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
H01J35/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030941
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡
(72)【発明者】
【氏名】大津 崚太朗
(57)【要約】
【課題】通常動作及びヒステリシス低減動作の双方を適切に実施できるX線発生装置を提供する。
【解決手段】X線発生装置1では、電源部51が互いに出力特性が異なる第1の電流源52A及び第2の電流源52Bを有している。第1の電流源52Aは、X線管2が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、通常動作用の第1の電流I1を磁気レンズ4Lに供給する。第2の電流源52Bは、X線管2の動作条件が第1の動作条件と第2の動作条件との間で切り替わる際に、第1の電流I1より大きいヒステリシス低減用の第2の電流I2を磁気レンズ4Lに供給する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを出射する電子銃と、
前記電子銃から出射された前記電子ビームが入射することでX線を発生させるターゲットと、
前記電子銃から前記ターゲットに向かう前記電子ビームを制御する磁気レンズと、を含むX線管と、
前記磁気レンズを構成する電磁コイルに電流を供給する電源部と、を備え、
前記電源部は、互いに出力特性が異なる第1の電流源及び第2の電流源を有し、
前記第1の電流源は、前記X線管が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、通常動作用の第1の電流を前記電磁コイルに供給し、
前記第2の電流源は、前記X線管の動作条件が前記第1の動作条件と前記第2の動作条件との間で切り替わる際に、前記第1の電流より大きいヒステリシス低減用の第2の電流を前記電磁コイルに供給するX線発生装置。
【請求項2】
前記電源部は、前記第1の電流源及び前記第2の電流源と出力特性が異なる第3の電流源を有し、
前記第3の電流源は、前記X線管が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、前記第1の電流源による前記第1の電流と共に通常動作用の第3の電流を前記電磁コイルに供給する請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記磁気レンズは、前記電子ビームを集束させる集束レンズと、前記電子ビームの断面形状を調整する四重極レンズとを含み、
前記電源部は、前記集束レンズを構成する電磁コイルに電流を供給する第1の電源部と、前記四重極レンズを構成する電磁コイルに電流を供給する第2の電源部とを別々に備えている請求項1又は2記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記電源部は、前記第2の電流源の動作時に比べて、前記第1の電流源の動作時に前記電源部に供給される電源電圧が小さくなるように電圧源を切り替える切替部を備える請求項1又は2記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記第2の電流源による前記電磁コイルへの前記第2の電流の供給は、X線の照射開始時、前記第1の電流の設定変更時、及び管電圧の設定変更時を含むタイミングで実施される請求項1又は2記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記電源部は、前記第2の電流源によって前記第2の電流を前記電磁コイルに供給する期間の前後に、前記電磁コイルへの電流供給を停止する期間を設ける請求項1又は2記載のX線発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ビームを出射する電子銃と、電子銃から出射された電子ビームが入射するターゲットと、を含んで構成されるX線管を備えたX線発生装置が知られている。例えば特許文献1に記載のX線発生装置では、ターゲットに入射した電子ビームの一部が反射電子としてターゲットから放出する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-144653号公報
【特許文献2】特開平8-298200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなX線発生装置では、電子銃から出射された電子ビームの焦点寸法や焦点形状などを制御する磁気レンズが設けられる場合がある。磁気レンズは、例えば電磁コイル及びヨークを含んで構成されている。磁気レンズは、電磁コイルに電流を供給することで生じる磁界によって電子ビームを集束させる。磁気レンズを備えるX線発生装置では、磁気レンズの動作条件を変更する場合に、当該磁気レンズのヒステリシスの影響を低減する必要がある。ヒステリシスの影響を低減する手法として、例えば特許文献2に記載の加速器の運転方法がある。この加速器の運転方法では、荷電粒子ビームの出射後且つ減磁前のタイミングで、電磁石の磁場強度を使用時の最大磁場強度以上に増加させ、電磁石のヒステリシスの影響を低減している。
【0005】
しかしながら、X線発生装置において、X線の発生を行う通常動作時に電磁コイルに供給される電流と、ヒステリシス低減時に電磁コイルに供給される電流とでは、要求される電流値の大きさや電流制御の精度(分解能)が互いに異なるものとなる。したがって、X線発生装置では、双方の動作時の要求を安定的に満たすことが可能な構成が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、通常動作及びヒステリシス低減動作の双方を適切に実施できるX線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るX線発生装置の要旨は、以下の[1]~[6]のとおりである。
【0008】
[1]電子ビームを出射する電子銃と、前記電子銃から出射された前記電子ビームが入射することでX線を発生させるターゲットと、前記電子銃から前記ターゲットに向かう前記電子ビームを制御する電磁コイルと、を含むX線管と、前記磁気レンズを構成する電磁コイルに電流を供給する電源部と、を備え、前記電源部は、互いに出力特性が異なる第1の電流源及び第2の電流源を有し、第1の電流源は、前記X線管が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、通常動作用の第1の電流を前記電磁コイルに供給し、前記第2の電流源は、前記X線管の動作条件が前記第1の動作条件と前記第2の動作条件との間で切り替わる際に、前記第1の電流より大きいヒステリシス低減用の第2の電流を前記電磁コイルに供給するX線発生装置。
【0009】
このX線発生装置では、通常動作用の第1の電流を電磁コイルに供給する第1の電流源と、第1の電流より大きいヒステリシス低減用の第2の電流を電磁コイルに供給する第2の電流源とが電源部に設けられている。第1の電流源と第2の電流源とは、互いに出力特性が異なっている。したがって、通常動作時及びヒステリシス低減時のそれぞれで要求される電流値の大きさや電流制御の精度に応じて、第1の電流源及び第2の電流源の出力特性をそれぞれ設定することで、通常動作及びヒステリシス低減動作の双方を適切に実施できる。
【0010】
[2]前記電源部は、前記第1の電流源及び前記第2の電流源と出力特性が異なる第3の電流源を有し、前記第3の電流源は、前記X線管が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、前記第1の電流源による前記第1の電流と共に通常動作用の第3の電流を前記電磁コイルに供給する[1]記載のX線発生装置。この場合、第1の電流源と第3の電流源との協働により、通常動作で用いる電流を一層精度良く制御できる。
【0011】
[3]前記磁気レンズは、前記電子ビームを集束させる集束レンズと、前記電子ビームの断面形状を調整する四重極レンズとを含み、前記電源部は、前記集束レンズを構成する電磁コイルに電流を供給する第1の電源部と、前記四重極レンズを構成する電磁コイルに電流を供給する第2の電源部とを別々に備えている[1]又は[2]記載のX線発生装置。この場合、要求される電流値が異なるコイルに対して別々に電源部を備えることで、通常動作で用いる電流を一層精度良く制御できる。
【0012】
[4]前記電源部は、前記第2の電流源の動作時に比べて、前記第1の電流源の動作時に前記電源部に供給される電源電圧が小さくなるように電圧源を切り替える電圧切替部を備える[1]~[3]のいずれか記載のX線発生装置。この場合、互いに出力特性が異なる電流源に対して回路の熱損失を最小限に抑えることができる。したがって、放熱のための構成を小型化でき、装置構成の簡単化が図られる。
【0013】
[5]前記第2の電流源による前記電磁コイルへの前記第2の電流の供給は、X線の照射開始時、前記第1の電流の設定変更時、及び管電圧の設定変更時を含むタイミングで実施される[1]~[4]のいずれか記載のX線発生装置。これらのタイミングで電磁コイルのヒステリシス低減を実施することで、動作条件の切り替えにあたって電磁コイルを適切に動作せることが可能となる。
【0014】
[6]前記電源部は、前記第2の電流源によって前記第2の電流を前記電磁コイルに供給する期間の前後に、前記電磁コイルへの電流供給を停止する期間を設ける[1]~[5]のいずれか記載のX線発生装置。これにより、第2の電流によるヒステリシスの除去効果をより確実なものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、通常動作及びヒステリシス低減動作の双方を適切に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態に係るX線発生装置の構成を示す概略的な断面図である。
図2】電磁コイルのヒステリシス特性を示す図である。
図3】電源部の構成の一例を示す図である。
図4】電源部の構成の別例を示す図である。
図5】通常動作とヒステリシス低減動作との実施期間の関係を示す図である。
図6】X線の照射開始時におけるヒステリシス低減動作のタイミングを示すチャート図である。
図7】電磁コイルへの供給電流の設定変更時におけるヒステリシス低減動作のタイミングを示すチャート図である。
図8】管電圧の設定変更におけるヒステリシス低減動作のタイミングを示すチャート図である。
図9図3に示した電源部における電流源の回路構成例を示す回路図である。
図10図4に示した電源部における電流源の回路構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係るX線発生装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本開示の一実施形態に係るX線発生装置の構成を示す概略的な断面図である。図1に示すように、X線発生装置1は、X線管2を備えている。X線管2は、電子銃3と、回転陽極ユニットUと、磁気レンズ4Lと、排気部5と、電子銃3を収容する筐体6と、回転陽極ユニットUを収容する筐体7とを含んで構成されている。また、X線発生装置1は、磁気レンズ4Lに電流を供給する電源部51(図3及び図4参照)を備えている。
【0019】
X線管2を画成する筐体6と筐体7とは、一体に構成されていてもよく、別体に構成されていてもよい。別体である場合、筐体6と筐体7とは、互いに取り外し可能であってもよく、取り外すことができない態様で一体的に結合されていてもよい。
【0020】
電子銃3は、電子ビームEBを放出する部分である。電子銃3は、電子ビームEBを放出するカソードCを有している。カソードCは、例えば円形平面カソードである。カソードCの電子放出面は、カソードCの平面視において円形状をなしている。カソードCは、不図示の電源装置からの供給電流により、断面形状が円形状の電子ビームEBを放出する。
【0021】
回転陽極ユニットUは、ターゲット11と、回転支持体12と、駆動部13とを有している。ターゲット11の構成材料としては、例えば、タングステン、銀、ロジウム、モリブデン、及びそれらの合金等の重金属が挙げられる。回転支持体12は、回転軸A回りに回転可能に構成されている。本実施形態では、回転軸Aは、ターゲット11への電子ビームの入射方向と一致している。回転軸Aは、ターゲット11への電子ビームの入射方向に対して傾斜していてもよい。
【0022】
回転支持体12の構成材料としては、例えば銅、銅合金等の金属が挙げられる。回転支持体12は、回転軸Aを中心軸とする扁平な円錐台状の台座12aを有している。ターゲット11は、台座12aの周縁部に沿って配置されている。駆動部13は、回転支持体12を回転軸A周りに回転駆動させる部分である。駆動部13は、例えばモータ等の駆動源を有している。
【0023】
台座12aに配置されたターゲット11は、回転支持体12の回転に伴って回転しながら電子ビームEBを受け、X線XRを発生させる。本実施形態では、ターゲット11は、反射型のターゲットとなっており、ターゲット11への電子ビームの入射方向に交差(直交)する方向にX線XRを発生させる。ターゲット11で発生したX線XRは、筐体6の側壁部分に形成された出射窓14から筐体6の外部に出射される。出射窓14は、窓部材15によって気密に塞がれている。窓部材15の構成材料としては、例えばベリリウム、アルミニウム、カーボンなどの軽元素が挙げられる。
【0024】
磁気レンズ4Lは、カソードCからターゲット11に向かう電子ビームEBを制御する部分である。磁気レンズ4Lには、後述する電源部51による電流供給がなされる。本実施形態では、磁気レンズ4Lは、偏向レンズ21Lと、集束レンズ22Lと、四重極レンズ23Lとによって構成されている。磁気レンズ4Lは、電磁コイル4を含む。電磁コイル4は、後述の電磁コイル21,22,23を含む。偏向レンズ21L、集束レンズ22L、四重極レンズ23Lは、いずれも筐体24内に収容されている。筐体24内には、電子ビームEBが通過する通過路24aが形成されている。偏向レンズ21L、集束レンズ22L、四重極レンズ23Lは、筐体24内において、通過路24aを囲むように、カソードCからターゲット11に向かってこの順に配置されている。
【0025】
偏向レンズ21Lは、電磁コイル21を含んで構成されている。偏向レンズ21Lは、カソードCにおける電子ビームEBの出射軸と、集束コイル及び四重極レンズ23Lの中心軸との間の角度ずれを補正する。集束レンズ22Lは、例えば電磁コイル22、ポールピース、ヨーク等を含んで構成されている。集束レンズ22Lは、電子ビームEBを軸回り回転させながら電子ビームEBを集束させる。集束レンズ22Lの配置領域を通過する電子ビームEBは、例えば螺旋を描くように回転しながら集束する。四重極レンズ23Lは、例えば電磁コイル23、ヨークを含んで構成されている。四重極レンズ23Lは、電子ビームEBの断面形状を円形状から楕円形状に変化させる。
【0026】
X線発生装置1は、チラーユニットを備えていてもよい。所定の温度に調整された冷媒をX線管2に向けて供給する部分である。冷媒としては、例えば水、不凍液などの液体冷媒を用いることができる。チラーユニットは、X線管2内の熱源(例えば電子銃、ターゲットなど)の近傍の周囲に形成された流路に冷媒を流通させることで、X線管2の温度を所定範囲内に維持する。チラーユニットは、X線管2内の熱源(例えば電子銃、ターゲットなど)の近傍の周囲に形成された流路に設置した温度センサを用いたフィードバック制御を行ってもよい。チラーユニットのフィードバック制御方式は、比例制御及び積分制御のいずれであってもよい。
【0027】
排気部5は、真空ポンプ41A,41Bを含んで構成されている。真空ポンプ41A,41Bは、例えば金属製のベローズホース等によって不図示のバックポンプに接続されている。真空ポンプ41Aは、排気流路E1を介して筐体6の内部空間S1を真空排気する。真空ポンプ41Bは、排気流路E2を介して筐体7の内部空間S2を真空排気する。真空ポンプ41A,41Bにより、電子銃3及びターゲット11で発生するガスが除去され、内部空間S1,S2が真空状態又は部分真空状態に維持される。
【0028】
上述した構成を有するX線発生装置1の動作は、不図示の制御部によって制御される。制御部は、物理的には、RAM、ROMなどのメモリ、CPUなどのプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスクなどの格納部、ディスプレイなどの表示部を備えて構成されたコンピュータシステムである。コンピュータシステムとしては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。制御部は、PLC(programmable logic controller)によって構成されていてもよく、FPGA(Field-programmable gate array)等の集積回路によって構成されていてもよい。
【0029】
制御部は、エラー発生時のリセット機能を有していてもよい。この場合、制御部は、当該制御部の動作を常時モニタリングする動作検出部を有していてもよい。動作検出部は、例えばPLCによって構成され得る。動作検出部が制御部からの応答を検出できなくなり、X線発生装置1が停止した場合、動作検出部から制御部にリセット信号が送信される。リセット信号の受信によって制御部が再起動することで、エラー発生時に速やかにX線発生装置1を復旧させることができる。
【0030】
上述したように、X線発生装置1は、電子銃3からターゲット11に向かう電子ビームEBを制御する磁気レンズ4Lを備えている。磁気レンズ4Lを備えるX線発生装置1では、磁気レンズ4Lの動作条件を変更する場合に、当該磁気レンズ4Lのヒステリシス(磁気履歴)の影響を低減する、すなわち、当該磁気レンズ4Lの残留磁気(残留磁束密度)を略一定にする必要がある。図2は、電磁コイルのヒステリシス特性(B-H曲線)を示す図である。図2では、横軸に磁界(電流とコイル巻数との積)を示し、縦軸に磁束密度を示す。磁束密度は、電流の増減及び極性(電流の流れる向き)の変化に応じてB1からB2の範囲で変化する。図2に示すように、磁気レンズ4Lを構成する磁性体は、励磁に伴ってヒステリシス曲線を画成する。
【0031】
電磁コイル4に供給される電流が増加するに伴って磁界が増加すると、磁気レンズ4Lの磁束密度が原点0からB1まで増加する。しかしながら、その後、電磁コイルに供給される電流が0にされたとしても磁束密度は0にならず、磁気レンズ4Lの態様によって定まる残留磁気Brを有することとなる。したがって、磁気レンズ4Lを備えるX線発生装置1では、磁気レンズ4Lの動作条件を変更する場合に、当該磁気レンズ4Lのヒステリシスの影響を低減する、すなわち、磁気レンズ4Lの磁界が0(電磁コイル4に供給される電流が0)であるときの残留磁気が略一定値(固定値)をとるように、磁束密度をB1まで増加させ飽和させた後に電流を0にする必要がある。
【0032】
X線XRの発生を行う通常動作時に電磁コイル4に供給される電流と、ヒステリシス低減時に電磁コイル4に供給される電流とでは、要求される電流値の大きさや電流制御の精度が互いに異なるものとなる。このため、X線発生装置1では、磁気レンズ4Lを構成する電磁コイル4に電流を供給する電源部51において、通常動作及びヒステリシス低減動作の双方を適切に実施するための工夫が施されている。以下、電源部51の構成について詳述する。
【0033】
本実施形態では、電源部51は、図3に示すように、集束レンズ22Lを構成する電磁コイル22に電流を供給する第1の電源部51Aと、四重極レンズ23Lを構成する電磁コイル23に電流を供給する第2の電源部51Bとを別々に備えている。第1の電源部51A及び第2の電源部51Bは、供給する電流値が異なるものの、その構成及び動作は同一であるため、図3を参照しながら合わせて説明する。
【0034】
第1の電源部51A及び第2の電源部51Bは、図3に示すように、互いに出力特性が異なる第1の電流源52A及び第2の電流源52Bを有している。第1の電流源52Aは、X線管2が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、通常動作用の第1の電流I1を電磁コイル22,23に供給する。第2の電流源52Bは、X線管2の動作条件が第1の動作条件と第2の動作条件との間で切り替わる際に、第1の電流I1より大きいヒステリシス低減用の第2の電流I2を電磁コイル22,23に供給する。
【0035】
また、図4の形態では、第1の電源部51A及び第2の電源部51Bは、第1の電流源52A及び第2の電流源52Bと出力特性が異なる第3の電流源52Cを更に有している。第3の電流源52Cは、X線管2が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際の第1の電流I1を第1の電流源52Aと分担するための第3の電流I3を電磁コイル22に供給する。
【0036】
図3及び図4の形態において、第1の電流源52Aは、通常動作時における電磁コイル22,23への供給電流を設定するための高精度且つ可変電流源である。第2の電流源52Bは、電磁コイル22,23のヒステリシス低減に用いる低精度且つ大電流の可変電流源である。第3の電流源52Cは、通常動作時における電磁コイル22,23への供給電流を微調整するため、若しくは通常動作時における電磁コイル22,23への供給電流と第1の電流源52Aから供給される第1の電流I1との差分が第1の電流源52Aの可変範囲に入るように電流値を底上げするための高精度且つ固定(一定電流)の電流源である。
【0037】
図3及び図4の形態において、第1の電流源52A、第2の電流源52B、及び第3の電流源52Cは、理想的にはインピータンスが無限大となるため、並列に接続しても電流源の各動作に影響はない。この特性により、電磁コイル22,23に複数の電流源を並列に接続することが可能となっている。
【0038】
第1の電源部51A及び第2の電源部51Bに供給される電圧は、図3及び図4に示すように、互いに電圧値が異なる第1の電圧源53A及び第2の電圧源53Bと、第1の電圧源53A及び第2の電圧源53Bの一方を選択的に電磁コイル22,23に接続するリレー(切替部)54とによって供給される。
【0039】
第1の電圧源53Aは、第2の電圧源53Bに対して電圧値の小さい電圧供給源である。第2の電圧源53Bは、第1の電圧源53Aに対して電圧値の大きい電圧供給源である。ここでは、第1の電圧源53Aの電圧値及び第2の電圧源53Bの電圧値は、例えば+5V~+60Vの範囲で設定される。この範囲において、第2の電圧源53Bの電圧値は、第1の電圧源53Aの電圧値よりも大きい値に設定されている。
【0040】
リレー54は、第2の電流源52Bの動作時に比べて、第1の電流源52Aの動作時に電源部51に供給される電源電圧が小さくなるように電圧源を切り替える。ここでは、第1の電流源52Aの動作時には、リレー54によって第1の電圧源53Aが選択され、第2の電流源52Bの動作時には、リレー54によって第2の電圧源53Bが選択される。
【0041】
通常動作時の第1の電源部51A及び第2の電源部51Bでは、リレー54によって第1の電圧源53Aが電気的に接続され、第1の電流源52Aが動作する。これにより、電磁コイル22,23には、供給電流を使用範囲に設定するための電流(図3の形態ではI1、図4の形態ではI1+I3)が供給される。電磁コイル22に対する通常動作時の電流値は、例えば1000mA~1400mAの範囲で、0.1mA刻みで調整される。電磁コイル23に対する通常動作時の電流値は、例えば80mA~120mAの範囲で、0.1mA刻みで調整される。
【0042】
ヒステリシス低減動作時の第1の電源部51A及び第2の電源部51Bでは、リレー54によって第2の電圧源53Bが電気的に接続され、第2の電流源52Bが動作する。このとき、第1の電流源52Aの電流値は、0mAに設定される。これにより、電磁コイル22,23には、ヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。電磁コイル22に対するヒステリシス低減動作時の電流値は、例えば1000mAより大きく、3Aより小さい範囲で設定される。電磁コイル23に対するヒステリシス低減動作時の電流値は、例えば120mAより大きく、600mAより小さい範囲で設定される。
【0043】
電源部51において、供給電圧を切り替える理由としては、以下の事項が挙げられる。電磁コイル22,23は、導線を複数回巻き回すことによって構成されている。ヒステリシス低減動作時の電流値は、通常動作時の電流値に比べて大きくなるため、電磁コイル22,23の導線の抵抗値に基づいて、電磁コイル22,23の両端での電圧降下量も大きくなる。このため、ヒステリシス低減動作時には、電圧降下量を考慮して電源部51の供給電圧を増加させる必要があるが、供給電圧を始めから増加させておくと、通常動作時の電力損失が大きくなる。したがって、通常動作時とヒステリシス低減動作時とで供給電圧を切り替えることで、熱的に有利な構成を実現できる。
【0044】
図5は、通常動作とヒステリシス低減動作との実施期間の関係を示す図である。図5に示すように、電源部51は、第2の電流源52Bによって第2の電流I2を電磁コイル4に供給する期間の前後に、電磁コイル4への電流供給を停止する期間Ta,Tbを設ける。すなわち、電源部51は、X線管2が通常動作において第1の動作条件で動作する期間と、ヒステリシス低減動作を行う期間との間に、電磁コイル4への電流供給を停止する期間Taを設け、ヒステリシス低減動作を行う期間と、通常動作において第2の動作条件で動作する期間との間に、電磁コイル4への電流供給を停止する期間Tbを設ける。期間Taと期間Tbとは、互いに等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0045】
以下、図6図8を参照し、ヒステリシス低減動作のタイミングの具体例を説明する。ここでは、X線XRの照射開始時、第1の電流I1の設定変更時、及び管電圧の設定変更時の3つのタイミングを例示する。X線XRの照射開始時では、停止状態でのX線管2の動作条件が第1の動作条件に相当し、X線XRの発生状態でのX線管2の動作条件が第2の動作条件に相当する。第1の電流I1の設定変更時では、電流値の設定変更前のX線管2の動作条件が第1の動作条件に相当し、電流値の設定変更後のX線管2の動作条件が第2の動作条件に相当する。管電圧の設定変更時では、管電圧の設定変更前のX線管2の動作条件が第1の動作条件に相当し、管電圧の設定変更後のX線管2の動作条件が第2の動作条件に相当する。
【0046】
図6は、X線の照射開始時におけるヒステリシス低減動作のタイミングを示すチャート図である。図6に示すように、時刻t0において、X線発生装置1に起動信号が入力されると、真空ポンプ41A,41Bが駆動し、X線管2の真空度が上昇する。また、チラーユニットが駆動し、X線管2の温度制御が開始される。次に、時刻t1において、駆動部13が駆動し、モータの回転数が0rpmから10000rpm程度(最大回転数若しくは使用回転数)まで上昇する。
【0047】
駆動部13の駆動のタイミングで、第1の電源部51Aの第2の電流源52Bが動作し、集束レンズ22Lを構成する電磁コイル22にヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。また、駆動部13の駆動のタイミングで、第2の電源部51Bの第2の電流源52Bが動作し、四重極レンズ23Lを構成する電磁コイル23にヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。時刻t1から所定時間経過後の時刻t2において、第2の電流I2の供給が停止される。時刻t2から所定時間経過後の時刻t3までは、磁気レンズ4Lへの電流供給が停止される期間となる。時刻t0から時刻t1までの期間は、図5における期間Taに相当し、時刻t2から時刻t3までの期間は、図5における期間Tbに相当する。
【0048】
次に、時刻t3において、第1の電源部51Aの第1の電流源52A(図4の形態では更に第3の電流源52C)が動作し、集束レンズ22Lを構成する電磁コイル22への第1の電流I1(図4の形態では更に第3の電流I3)の供給が開始される。また、時刻t3において、第2の電源部51Bの第1の電流源52A(図4の形態では更に第3の電流源52C)が動作し、四重極レンズ23Lを構成する電磁コイル23への第1の電流I1(図4の形態では更に第3の電流I3)の供給が開始される。
【0049】
本実施形態では、電磁コイル22,23への第1の電流I1a及び第3の電流I3の供給は、二段階で行われる。ここでは、例えば供給開始時に一段階目の電流値とし、定格管電圧及び定格管電流に達した後に二段階目の電流値とする。これにより、照射開始時の電子ビームEBの焦点寸法が過剰に小さくなることを抑制でき、ターゲット11の損傷を防止できる。
【0050】
X線管2の真空度が規定値に到達した後、時刻t4において、フィラメントへの電流供給が開始され、カソードCが昇温する。本実施形態では、フィラメントへの供給電流の増加は、二段階で行われる。一段階目でカソードCを予備加熱することで、熱膨張による電子ビームEBの焦点寸法及び寸法形状の変動を軽減することができる。カソードCの予備加熱がなされることで、X線発生装置1の起動が完了する。
【0051】
X線発生装置1の起動が完了した後、時刻t5において、X線発生装置1にX線発生開始信号が入力されると、フィラメントへの供給電流の二段階目の増加が開始され、管電圧が上昇する。管電圧が安定した後、管電流の増加が開始され、X線XRの出射が開始される。管電圧の安定を待って管電流の増加を開始することで、管電流のフィードバック制御時における管電流の安定性を確保できる。一例として、管電圧は120kVであり、管電流は5mAである。
【0052】
X線XRの出射後、時刻t6において、電磁コイル22,23への供給電流が一段階増加し、電子ビームEBの焦点位置及び焦点形状が所望の位置及び寸法となるように調整される。この後、時刻t7において、X線発生装置1にX線発生停止信号が入力されるまでの期間は、所望の径でX線XRの出力が得られる期間となる。
【0053】
時刻t7において、X線発生装置1にX線発生停止信号が入力されると、電磁コイル22,23への供給電流が一段階減少する。その後、管電流及び管電圧が減少し、X線XRの出射が停止される。電磁コイル22,23への供給電流の減少は、増加の際と同様の理由で二段階で行われる。
【0054】
時刻t8において、X線発生装置1に停止信号が入力されると、電磁コイル22,23への供給電流が停止され、駆動部13も停止される。また、フィラメントへの供給電流が減少し、カソードCが降温する。フィラメントへの供給電流の減少は、増加の際と同様に二段階で行われる。フィラメントへの供給電流が停止する時刻t9から真空ポンプ41A,41Bの駆動が停止する時刻t10までの期間は、カソードCの冷却期間となる。カソードCの冷却期間において、チラーユニットが停止され、X線管2の温度制御が終了する。
【0055】
カソードCが十分に冷却した後に真空ポンプ41A,41Bによる真空排気を停止させることで、カソードCの酸化の抑制が図られる。ここでは、時刻t9においてフィラメントへの供給電流が停止したタイミングでカウントを開始し、3時間経過後に真空ポンプ41A,41Bの駆動を停止させる。真空ポンプ41A,41Bの駆動が停止した後、時刻t11において、X線発生装置1の停止が完了する。
【0056】
図7は、電磁コイルへの供給電流の設定変更時におけるヒステリシス低減動作のタイミングを示すチャート図である。図7に示すように、X線XRの出射中の時刻t21において、X線発生装置1に供給電流の設定変更信号(例えば焦点寸法の変更信号)が入力されると、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が一段階減少する。その後、管電流及び管電圧が減少し、X線XRの出射が停止される。また、フィラメントへの供給電流が一段階減少した後、時刻t22において、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が停止する。
【0057】
次に、時刻t22から所定時間経過後の時刻t23において、第1の電源部51Aの第2の電流源52Bが動作し、電磁コイル22にヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。また、第2の電源部51Bの第2の電流源52Bが動作し、電磁コイル23にヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。時刻t23から所定時間経過後の時刻t24において、第2の電流I2の供給が停止される。時刻t24から所定時間経過後の時刻t25までは、電磁コイル4への電流供給が停止される期間となる。時刻t22から時刻t23までの期間は、図5における期間Taに相当し、時刻t24から時刻t25までの期間は、図5における期間Tbに相当する。
【0058】
電流停止期間経過後の時刻t25において、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が一段階増加する。このときの第1の電流I1及び第3の電流I3の各電流値は、ヒステリシス低減動作前における第1の電流I1及び第3の電流I3の一段階減少時の電流値と同じである。その後、時刻t26において、X線発生装置1にX線発生再開信号が入力されると、管電圧及びフィラメントへの供給電流がヒステリシス低減動作の前の値に復帰する。管電圧が安定した後、管電流がヒステリシス低減動作の前の値に復帰する。
【0059】
時刻t26に後続する時刻t27において、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が設定変更後の電流値となるように更に一段階増加する。図7の例では、設定変更後の電磁コイル4への供給電流は、ヒステリシス低減動作前の電磁コイル4への供給電流よりも大きくなっている。これにより、X線発生装置1では、ヒステリシス低減動作前の焦点寸法とは異なる焦点寸法で、X線XRの出力が再開される。
【0060】
図8は、管電圧の設定変更におけるヒステリシス低減動作のタイミングを示すチャート図である。図8に示すように、X線XRの出射中の時刻t31において、X線発生装置1に管電圧の設定変更信号が入力されると、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が一段階減少する。その後、管電流及び管電圧が減少し、X線XRの出射が停止される。また、フィラメントへの供給電流が一段階減少した後、時刻t32において、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が停止する。
【0061】
次に、時刻t32から所定時間経過後の時刻t33において、第1の電源部51Aの第2の電流源52Bが動作し、電磁コイル22にヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。また、第2の電源部51Bの第2の電流源52Bが動作し、電磁コイル23にヒステリシス低減用の第2の電流I2が供給される。時刻t33から所定時間経過後の時刻t34において、第2の電流I2の供給が停止される。時刻t34から所定時間経過後の時刻t35までは、電磁コイル4への電流供給が停止される期間となる。時刻t32から時刻t33までの期間は、図5における期間Taに相当し、時刻t34から時刻t35までの期間は、図5における期間Tbに相当する。
【0062】
電流停止期間経過後の時刻t35において、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が一段階増加する。このときの第1の電流I1及び第3の電流I3の各電流値は、ヒステリシス低減動作前における第1の電流I1及び第3の電流I3の一段階減少時の電流値と同じである。
【0063】
その後、時刻t36において、X線発生装置1にX線発生再開信号が入力されると、フィラメントへの供給電流がヒステリシス低減動作の前の値に復帰すると共に、管電圧が設定変更後の値に向かって増加する。図8の例では、設定変更後の管電圧は、ヒステリシス低減動作前の管電圧よりも大きくなっている。管電圧が安定した後、管電流がヒステリシス低減動作の前の値に復帰する。
【0064】
時刻t36に後続する時刻t37において、電磁コイル22,23への第1の電流I1及び第3の電流I3の供給が更に一段階増加する。図8の例では、管電圧の変更に伴う電子ビームEBの速度の変化を補正するため、設定変更後の電磁コイル4への供給電流は、ヒステリシス低減動作前の電磁コイル4への供給電流よりも大きくなっている。これにより、X線発生装置1では、ヒステリシス低減動作前の管電圧とは異なる管電圧で、X線XRの出力が再開される。
【0065】
以上説明したように、X線発生装置1では、通常動作用の第1の電流I1を電磁コイル4に供給する第1の電流源52Aと、第1の電流I1より大きいヒステリシス低減用の第2の電流I2を電磁コイル4に供給する第2の電流源52Bとが電源部51に設けられている。第1の電流源52Aと第2の電流源52Bとは、互いに出力特性が異なっている。したがって、通常動作時及びヒステリシス低減時のそれぞれで要求される電流値の大きさや電流制御の精度に応じて、第1の電流源52A及び第2の電流源52Bの出力特性をそれぞれ設定することで、通常動作及びヒステリシス低減動作の双方を適切に実施できる。
【0066】
本実施形態では、電源部51は、第1の電流源52A及び第2の電流源52Bと出力特性が異なる第3の電流源52Cを有している。第3の電流源52Cは、X線管2が第1の動作条件又は第2の動作条件で動作する際に、第1の電流源52Aによる第1の電流I1と共に通常動作用の第3の電流I3を電磁コイル4に供給する。このような構成によれば、第1の電流源52Aと第3の電流源52Cとの協働により、通常動作で用いる電流を一層精度良く制御できる。
【0067】
本実施形態では、磁気レンズ4Lは、電子ビームEBを集束させる集束レンズ22Lと、電子ビームEBの断面形状を調整する四重極レンズ23Lとを含んでいる。電源部51は、集束レンズ22Lを構成する電磁コイル22に電流を供給する第1の電源部51Aと、四重極レンズ23Lを構成する電磁コイル23に電流を供給する第2の電源部51Bとを別々に備えている。このように、要求される電流値が異なる電磁コイル22,23に対して別々に第1の電源部51A及び第2の電源部51Bを備えることで、通常動作で用いる電流を一層精度良く制御できる。
【0068】
本実施形態では、電源部51は、第2の電流源52Bの動作時に比べて、第1の電流源52Aの動作時に電源部51に供給される電源電圧が小さくなるように電圧源を切り替えるリレー(切替部)54を備えている。これにより、互いに出力特性が異なる電流源に対して回路の熱損失を最小限に抑えることができる。したがって、放熱のための構成を小型化でき、装置構成の簡単化が図られる。
【0069】
本実施形態では、第2の電流源52Bによる電磁コイル4への第2の電流I2の供給、すなわち、ヒステリシス低減動作は、X線XRの照射開始時、第1の電流I1の設定変更時、及び管電圧の設定変更時を含むタイミングで実施される。これらのタイミングで磁気レンズ4Lのヒステリシス低減を実施することで、動作条件の切り替えにあたって磁気レンズ4Lを適切に動作せることが可能となる。
【0070】
本実施形態では、電源部51は、第2の電流源52Bによって第2の電流I2を電磁コイル4に供給する期間の前後に、電磁コイル4への電流供給を停止する期間Ta,Tbを設けている。これにより、第2の電流I2によるヒステリシスの除去効果をより確実なものとすることができる。
【0071】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、電源部51は、集束レンズ22Lを構成する電磁コイル22に電流を供給する第1の電源部51Aと、四重極レンズ23Lを構成する電磁コイル23に電流を供給する第2の電源部51Bとを別々に備えているが、電源部51の構成はこれに限られない。例えば、単一の電源部によって電磁コイル22への電流供給及び電磁コイル23への電流供給を行う構成であってもよい。また、電圧供給源である第1の電圧源53A及び第2の電圧源53Bが単一の電圧源によって構成されていてもよい。これらの態様によれば、電源部の構成の簡単化が図られる。
【0072】
図9は、図3に示した電源部における電流源の回路構成例を示す回路図である。図9の例では、第1の電流源52Aは、オペアンプU1と、回路素子Q1と、抵抗R1とによって構成されている。また、第2の電流源52Bは、オペアンプU2と、回路素子Q2と、抵抗R2とによって構成されている。図10は、図4に示した電源部における電流源の回路構成例を示す回路図である。図10の例では、図9で示す第1の電流源52A及び第2の電流源52Bの回路に第3の電流源52Cの回路が加えられている。第3の電流源52Cは、オペアンプU3と、回路素子Q3と、抵抗R3とによって構成されている。
【0073】
オペアンプU1,U2,U3は、フィードバック制御用の素子である。オペアンプU1,U2,U3には、目標電流の電圧換算値Vcont1,Vcont2,Vcont3がそれぞれ入力される。回路素子Q1,Q2,Q3は、電流制御用のFET(電界効果トランジスタ)である。回路素子Q1,Q2,Q3の電流値は、オペアンプU1,U2,U3からの出力電圧値によって可変となっている。抵抗R1,R2,R3は、電流検出用の抵抗である。抵抗R1,R2,R3を流れる電流値は、抵抗R1,R2,R3によって電圧値に変換され、オペアンプU1,U2,U3にフィードバック(負帰還)される。可変電流源である第1の電流源52A及び第2の電流源52Bでは、Vcont1,Vcont2と抵抗R1,R2の電圧値とが一致するまでフィードバック制御が実施され、一定電流源である第3の電流源52Cでは、Vcont3と抵抗R3の電圧値とが一致するまでフィードバック制御が実施される。
【0074】
このような構成によれば、第1の電流源52A、第2の電流源52B、及び第3の電流源52Cにおいて、必要とする電流の大きさに応じて制御に用いる電流検出抵抗を回路上で適切に選択できる。したがって、ヒステリシス低減用の第2の電流源52Bに比べて大きな電流を必要としない通常動作用の第1の電流源52A及び第3の電流源52Cに対し、精密制御が可能かつ温度特性に優れた抵抗R1,R3を電流検出用の抵抗として用いることができる。また、通常動作用とヒステリシス低減用とで電流源を分けることで、第1の電流源52A及び第3の電流源52Cで用いる抵抗R1,R3に流れる電流を必要最小限に抑えることができる。このことは、抵抗R1,R3の発熱による抵抗値の変動の抑制を可能とし、第1の電流源52A及び第3の電流源52Cにおける電流制御の精度向上に寄与する。
【0075】
定電流電源では、一般に、回路素子(FET)を可変抵抗として電流制御を行っている。このため、大電流用途で使用する場合、必要とされる回路素子の抵抗値が高くなり、電圧分担の増大によって発熱量が大きくなるという問題がある。回路素子の発熱量が大きくなると、冷却に必要なヒートシンクのサイズが大型化し、結果として装置全体が大型化することが考えられる。これに対し、上述の構成のように、通常動作用とヒステリシス低減用とで電流源を分けることで、回路素子Q1,Q2,Q3の発熱を抑制することが可能となり、装置の大型化を回避できる。
【符号の説明】
【0076】
1…X線発生装置、2…X線管、3…電子銃、4L…磁気レンズ、4…電磁コイル、11…ターゲット、22L…集束レンズ、22…電磁コイル、23L…四重極レンズ、23…電磁コイル、51…電源部、51A…第1の電源部、51B…第2の電源部、52A…第1の電流源、52B…第2の電流源、53A…第1の電圧源、53B…第2の電圧源、54…リレー(切替部)、I1…第1の電流、I2…第2の電流、I3…第3の電流、EB…電子ビーム、XR…X線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10