(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123498
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】グラフェン素子およびグラフェン素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/417 20060101AFI20240905BHJP
H01L 29/45 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01L29/52
H01L29/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030960
(22)【出願日】2023-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 広之
(72)【発明者】
【氏名】林 賢二郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
【テーマコード(参考)】
4M104
【Fターム(参考)】
4M104AA01
4M104BB04
4M104BB13
4M104BB14
4M104BB36
4M104DD37
4M104DD43
4M104DD45
4M104DD63
4M104DD65
4M104DD68
4M104DD99
4M104FF02
4M104FF06
4M104FF13
4M104HH15
(57)【要約】
【課題】コンタクト抵抗を低減させること。
【解決手段】グラフェン素子は、基板と、前記基板上に設けられたグラフェン層と、前記グラフェン層の端部を覆い、前記基板上に設けられた密着膜と、前記密着膜上に設けられた導電膜と、を含む電極層と、を備え、前記導電膜は、前記密着膜上に設けられ、上面が前記グラフェン層の下面に接触し、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第1導電膜と、前記第1導電膜上に設けられ、前記グラフェン層の上面と側面に接触し、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第2導電膜と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられたグラフェン層と、
前記グラフェン層の端部を覆い、前記基板上に設けられた密着膜と、前記密着膜上に設けられた導電膜と、を含む電極層と、を備え、
前記導電膜は、前記密着膜上に設けられ、上面が前記グラフェン層の下面に接触し、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第1導電膜と、前記第1導電膜上に設けられ、前記グラフェン層の上面と側面に接触し、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第2導電膜と、を含むグラフェン素子。
【請求項2】
前記第1導電膜と前記第2導電膜は同じ材料により形成される、請求項1に記載のグラフェン素子。
【請求項3】
前記密着膜はチタン膜であり、
前記第1導電膜および前記第2導電膜は金膜、パラジウム膜、白金膜、アルミニウム膜、ニッケル膜、または銅膜である、請求項1または2に記載のグラフェン素子。
【請求項4】
前記導電膜は、前記グラフェン層の前記上面と前記側面との間のエッジ部分および前記下面と前記側面とのエッジ部分に接触して覆う、請求項1または2に記載のグラフェン素子。
【請求項5】
前記グラフェン層は多層グラフェン層である、請求項4に記載のグラフェン素子。
【請求項6】
前記グラフェン層は、多層グラフェン層であり、前記側面が階段状となっている、請求項1または2に記載のグラフェン素子。
【請求項7】
基板上に、密着膜と、前記密着膜上に設けられ、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第1導電膜と、を含む積層膜を形成する工程と、
グラフェン層の端部における下面が前記第1導電膜の上面に接触するように、前記基板上に前記グラフェン層を形成する工程と、
前記グラフェン層の前記端部における上面および側面に接触するように、前記第1導電膜上に前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第2導電膜を形成する工程と、を備えるグラフェン素子の製造方法。
【請求項8】
前記グラフェン層は、前記基板上に前記積層膜を覆うように前記グラフェン層を転写した後、前記グラフェン層をパターニングすることで形成される、請求項7に記載のグラフェン素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン素子およびグラフェン素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン層の端部を覆って電極層が設けられたグラフェン素子が知られている。例えば、グラフェン層の端部における下面に接触してニッケル層が設けられ、上面と側面に接触して金層が設けられた構造が知られている(例えば特許文献1)。グラフェン層の端部における下面に接触して金層が設けられ、上面と側面に接触してチタン層と金層の積層膜が設けられた構造が知られている(例えば特許文献2)。また、カーボンナノチューブを用いたデバイスにおいて、カーボンナノチューブの端部を覆って金層からなる電極層が設けられた構造が知られている(例えば特許文献3-5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-222358号公報
【特許文献2】国際公開第2011/058651号
【特許文献3】特開2009-44139号公報
【特許文献4】特開平6-252056号公報
【特許文献5】特開2018-117118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板上にグラフェン層を形成した後、グラフェン層の端部を覆って電極層を形成することでグラフェン素子を製造することがある。電極層は基板との密着のための密着膜を含む。このため、グラフェン層の上面および側面に密着膜が接触して形成される。密着膜に用いられる材料は電気抵抗率が高いため、グラフェン層と電極層との間のコンタクト抵抗が高くなってしまう。
【0005】
1つの側面では、コンタクト抵抗を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、基板と、前記基板上に設けられたグラフェン層と、前記グラフェン層の端部を覆い、前記基板上に設けられた密着膜と、前記密着膜上に設けられた導電膜と、を含む電極層と、を備え、前記導電膜は、前記密着膜上に設けられ、上面が前記グラフェン層の下面に接触し、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第1導電膜と、前記第1導電膜上に設けられ、前記グラフェン層の上面と側面に接触し、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第2導電膜と、を含むグラフェン素子である。
【0007】
1つの態様では、基板上に、密着膜と、前記密着膜上に設けられ、前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第1導電膜と、を含む積層膜を形成する工程と、グラフェン層の端部における下面が前記第1導電膜の上面に接触するように、前記基板上に前記グラフェン層を形成する工程と、前記グラフェン層の前記端部における上面および側面に接触するように、前記第1導電膜上に前記密着膜より電気抵抗率の低い材料からなる第2導電膜を形成する工程と、を備えるグラフェン素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
1つの側面として、コンタクト抵抗を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係るグラフェン素子の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A間の断面図、
図1(c)は、
図1(a)のB-B間およびC-C間の断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(c)は、実施例1に係るグラフェン素子の製造方法を示す平面図(その1)である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係るグラフェン素子の製造方法を示す平面図(その2)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係るグラフェン素子の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、実施例1に係るグラフェン素子の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図6】
図6(a)から
図6(d)は、基板上へのグラフェン層の転写について示す断面図である。
【
図7】
図7(a)は、比較例に係るグラフェン素子の平面図、
図7(b)は、
図7(a)のA-A間の断面図、
図7(c)は、
図7(a)のB-B間およびC-C間の断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、比較例に係るグラフェン素子の製造方法を示す平面図(その1)である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、比較例に係るグラフェン素子の製造方法を示す平面図(その2)である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、比較例に係るグラフェン素子の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、比較例に係るグラフェン素子の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図12】
図12は、実施例2に係るグラフェン素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0011】
図1(a)は、実施例1に係るグラフェン素子の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A間の断面図、
図1(c)は、
図1(a)のB-B間およびC-C間の断面図である。基板10の上面に平行で互いに直交する方向をX軸方向、Y軸方向とし、基板10の厚さ方向をZ軸方向とする。
図1(a)から
図1(c)のように、実施例1に係るグラフェン素子100は、グラフェン電界効果トランジスタであり、例えば光センサまたはガスセンサである。グラフェン素子100は、基板10上に絶縁膜12を介してグラフェン層14が設けられている。グラフェン層14は、例えば2層以上のグラフェンを含む多層グラフェン層である。なお、グラフェン層14は、1層のグラフェンからなる単層グラフェン層である場合でもよい。
【0012】
基板10は、例えばシリコン(Si)基板である。絶縁膜12は、例えば酸化シリコン(SiO2)膜または窒化アルミニウム(AlN)膜である。絶縁膜12は、基板10がシリコン基板である場合、シリコン基板の熱酸化膜であってもよい。絶縁膜12の厚さは、例えば20nm~150nmである。グラフェン層14の長さおよび幅は例えば1μm~50μmであり、厚さは数nm~数百nmである。
【0013】
グラフェン層14の端部15を覆ってソース電極層16およびドレイン電極層18が設けられている。ソース電極層16およびドレイン電極層18は、密着膜20と、密着膜20上に設けられた導電膜22と、を含む。導電膜22は、第1導電膜22aと、第1導電膜22a上に設けられた第2導電膜22bと、を含む。
【0014】
密着膜20は、基板10とソース電極層16およびドレイン電極層18との間の密着のために設けられている。密着膜20は、例えばチタン(Ti)膜またはクロム(Cr)膜である。密着膜20の厚さは、例えば5nm~20nmである。
【0015】
第1導電膜22aは、密着膜20に接合され、上面にグラフェン層14の下面32が接触している。第1導電膜22aは、密着膜20より電気抵抗率の低い材料により形成されている。第1導電膜22aは、例えば金(Au)膜、パラジウム(Pd)膜、白金(Pt)膜、アルミニウム(Al)膜、ニッケル(Ni)膜、または銅(Cu)膜である。第1導電膜22aの厚さは例えば250nm~350nmである。
【0016】
第2導電膜22bは、グラフェン層14の上面30と側面34と端面36に接触して、第1導電膜22aに接合している。第2導電膜22bは、密着膜20より電気抵抗率の低い材料により形成されている。第2導電膜22bは、例えばAu膜、Pd膜、Pt膜、Al膜、Ni膜、またはCu膜である。第2導電膜22bは、例えば第1導電膜22aと同じ材料により形成されている。なお、第1導電膜22aと第2導電膜22bは異なる材料により形成されていてもよい。第2導電膜22bの厚さは例えば100nm~200nmである。
【0017】
グラフェン層14の上面30と側面34との間のエッジ部分40および下面32と側面34との間のエッジ部分41は、導電膜22に接触されて覆われている。また、グラフェン層14の上面30と端面36との間のエッジ部分42および下面32と端面36との間のエッジ部分43も、導電膜22に接触されて覆われている。
【0018】
グラフェン層14においてソース電極層16とドレイン電極層18の間に位置する部分は、例えば絶縁膜12に接触している。したがって、グラフェン層14は、断面視においてU字状の形状をしている。
【0019】
基板10の下面にゲート電極層24が設けられている。ゲート電極層24は、密着膜26と導電膜28を含む。密着膜26は、例えばTi膜またはCr膜であり、厚さが5nm~20nmである。導電膜28は、例えばAu膜、Pd膜、Pt膜、Al膜、Ni膜、またはCu膜であり、厚さが50nm~100nmである。
【0020】
[製造方法]
図2(a)から
図3(c)は、実施例1に係るグラフェン素子の製造方法を示す平面図である。
図4(a)から
図5(c)は、実施例1に係るグラフェン素子の製造方法を示す断面図である。
図4(a)から
図5(c)は、
図1(a)のA-A間に相当する箇所の断面を示している。
【0021】
図2(a)および
図4(a)のように、基板10上に、絶縁膜12を介して、密着膜20と密着膜20上に設けられた第1導電膜22aとを含む積層膜50を形成する。密着膜20および第1導電膜22aは、例えばスパッタリング法およびエッチング法を用いて形成する。
【0022】
図2(b)および
図4(b)のように、基板10上に積層膜50を覆うようにグラフェン層14を形成する。グラフェン層14は、例えば転写法を用いて基板10上に形成する。
【0023】
ここで、基板10上へのグラフェン層14の転写について説明する。
図6(a)から
図6(d)は、基板10上へのグラフェン層14の転写について示す断面図である。
図6(a)のように、基板70上に、例えばスパッタリング法を用いて金属膜72を形成する。金属膜72の厚さは、例えば1nm~1mm程度である。基板70は、例えば酸化膜付きSi基板またはサファイア基板である。金属膜72は、グラフェンの触媒となる金属により形成され、例えば銅膜、鉄膜、ニッケル膜、またはコバルト膜である。金属膜72上にグラフェン層14を形成する。グラフェン層14は、例えば熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法、プラズマCVD法、またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)法により金属膜72上に成長される。熱CVD法では、例えば、原料ガスとしてメタンガスを用い、希釈ガスとして水素およびアルゴンを用いる。グラフェン層14を成長した後、窒素雰囲気中に基板70を載置して脱気処理を行ってもよい。次いで、グラフェン層14の上面にポリマー膜74を塗布する。
【0024】
図6(b)のように、容器80に入ったエッチング液82に基板70を浸して、金属膜72をエッチング液82に溶かす。これにより、基板70とグラフェン層14が分離し、基板70はエッチング液82の下に沈み、グラフェン層14はエッチング液82の表面に浮く。グラフェン層14の上面にポリマー膜74が設けられているため、グラフェン層14を金属膜72から分離させても、グラフェン層14が散開することが抑制される。
【0025】
図6(c)のように、エッチング液82の表面に浮いたグラフェン層14を別の基板(不図示)で掬った後、グラフェン層14を洗浄し、最終的に容器84に入った純水86の表面にグラフェン層14が浮いた状態とする。
【0026】
図6(d)のように、純水86の表面に浮いたグラフェン層14を基板10で掬う。これにより、
図2(b)および
図4(b)のように、基板10上に積層膜50を覆うグラフェン層14が転写される。その後、グラフェン層14の上面に設けられたポリマー膜74をウエットエッチングにより除去する。
【0027】
図2(c)および
図4(c)のように、グラフェン層14上にマスク層52を形成する。マスク層52は、例えばレジストにより形成される。
【0028】
図3(a)および
図5(a)のように、マスク層52をマスクとして用いてグラフェン層14をエッチングして、グラフェン層14をパターニングする。グラフェン層14のエッチングは例えばドライエッチングを用いる。その後、マスク層52を除去する。これにより、端部15が積層膜50上に位置するグラフェン層14が得られる。グラフェン層14の端部15における下面32は第1導電膜22aの上面に接触して形成される。
【0029】
図3(b)および
図5(b)のように、積層膜50上に開口を有するマスク層54を形成する。
【0030】
図3(c)および
図5(c)のように、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、第1導電膜22a上に第2導電膜22bを形成する。第2導電膜22bはグラフェン層14の端部15を間に挟んで第1導電膜22aの上面に接合される。第1導電膜22aと第2導電膜22bとにより導電膜22が形成される。第2導電膜22bは、グラフェン層14の端部15における上面30と側面34と端面36に接触して形成される。密着膜20と導電膜22とによりソース電極層16およびドレイン電極層18が形成される。その後、基板10の下面にゲート電極層24を形成する。
【0031】
[比較例]
図7(a)は、比較例に係るグラフェン素子の平面図、
図7(b)は、
図7(a)のA-A間の断面図、
図7(c)は、
図7(a)のB-B間およびC-C間の断面図である。
図7(a)から
図7(c)のように、比較例に係るグラフェン素子500は、グラフェン層14の下面32の全体が絶縁膜12に接触している。グラフェン層14の端部15を覆うソース電極層16およびドレイン電極層18は、密着膜20がグラフェン層14の上面30と側面34と端面36に接触している。すなわち、グラフェン層14と導電膜22との間に密着膜20が介在している。
【0032】
図8(a)から
図9(b)は、比較例に係るグラフェン素子の製造方法を示す平面図である。
図10(a)から
図11(b)は、比較例に係るグラフェン素子の製造方法を示す断面図である。
図10(a)から
図11(b)は、
図7(a)のA-A間に相当する箇所の断面を示している。
【0033】
図8(a)および
図10(a)のように、基板10上に絶縁膜12を介してグラフェン層14を形成する。グラフェン層14は、例えば
図6(a)から
図6(d)に示した転写法によって基板10上に形成する。
【0034】
図8(b)および
図10(b)のように、グラフェン層14上にマスク層56を形成する。マスク層56は、例えばレジストにより形成される。
【0035】
図8(c)および
図10(c)のように、マスク層56をマスクとして用いてグラフェン層14をエッチングして、グラフェン層14をパターニングする。その後、マスク層56を除去する。
【0036】
図9(a)および
図11(a)のように、グラフェン層14の端部15に開口を有するマスク層58を基板10上に形成する。
【0037】
図9(b)および
図11(b)のように、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、グラフェン層14の端部15を覆うように、密着膜20と導電膜22を含むソース電極層16およびドレイン電極層18を形成する。ソース電極層16およびドレイン電極層18は、密着膜20がグラフェン層14の端部15における上面30と側面34と端面36に接触して形成される。その後、基板10の下面にゲート電極層24を形成する。
【0038】
[実験]
実施例1および比較例に係るグラフェン素子を作製し、電気特性を評価する実験を行った。実験は次の方法により行った。ソース電極層16とドレイン電極層18にプローブ針を当ててドレイン電極層18に10mVの電流を流す。ゲート電極層24に-40V~+40Vの間を500mVのステップで振った電圧を印加する。これにより、コンタクト抵抗および移動度を測定した。
【0039】
作製したグラフェン素子は以下である。
実施例1
基板10:Si基板
絶縁膜12:厚さが90nmのSiO2膜
グラフェン層14:多層グラフェン層
密着膜20:厚さが10nmのTi膜
第1導電膜22a:厚さが300nmのAu膜
第2導電膜22b:厚さが150nmのAu膜
密着膜26:厚さが5nmのTi膜
導電膜28:厚さが50nmのAu膜
比較例
基板10:Si基板
絶縁膜12:厚さが90nmのSiO2膜
グラフェン層14:多層グラフェン層
密着膜20:厚さが5nmのTi膜
導電膜22:厚さが50nmのAu膜
密着膜26:厚さが5nmのTi膜
導電膜28:厚さが50nmのAu膜
【0040】
表1は、電気特性の評価結果である。
【表1】
表1のように、実施例1は、比較例に比べて、コンタクト抵抗が小さく、移動度が大きい結果であった。比較例において、コンタクト抵抗が大きくなったのは、グラフェン層14と導電膜22との間に密着膜20が介在しているためと考えられる。すなわち、密着膜20として用いたTiは、電気抵抗率が4.2×10
-7Ω・m程度と高い。このような電気抵抗率の高いTiからなる密着膜20がグラフェン層14と導電膜22との間に介在しているため、コンタクト抵抗が大きくなったと考えられる。一方、実施例1では、グラフェン層14の下面32に第1導電膜22aが接触し、上面30と側面34と端面36に第2導電膜22bが接触している。第1導電膜22aおよび第2導電膜22bとして用いたAuは、電気抵抗率が2.35×10
-8Ω・mと低い。このため、実施例1では、コンタクト抵抗が小さくなったと考えられる。
【0041】
また、比較例では、ソース電極層16およびドレイン電極層18は、グラフェン層14の上面30と側面34との間にエッジ部分を覆っているが、下面32と側面34との間のエッジ部分は覆っていない。これに対し、実施例1では、ソース電極層16およびドレイン電極層18は、グラフェン層14の上面30と側面34の間のエッジ部分40と、下面32と側面34の間のエッジ部分41と、の両方を覆っている。グラフェン層14を流れる電流は、エッジ部分40、41に集中して流れることが知られている。このため、ソース電極層16およびドレイン電極層18がエッジ部分40、41を覆って設けられた実施例1は、比較例に比べて、移動度が大きくなったと考えられる。
【0042】
なお、上記実験では、密着膜20にTi膜を用いたが、Cr膜を用いることもできる。Crの電気抵抗率は1.29×10-7Ω・mと高いことから、比較例の密着膜20にCr膜を用いた場合、コンタクト抵抗が大きくなってしまう。また、上記実験では、第1導電膜22aおよび第2導電膜22bにAu膜を用いたが、Pd膜、Pt膜、Al膜、Ni膜、またはCu膜を用いることもできる。Pdの電気抵抗率は1.1×10-7Ω・m、Ptの電気抵抗率は1.1×10-7Ω・m、Alの電気抵抗率は3.6×10-8Ω・m、Niの電気抵抗率は6.8×10-8Ω・m、Cuの電気抵抗率は1.6×10-8Ω・mと低い。このため、実施例1において、第1導電膜22aおよび第2導電膜22bにPd膜、Pt膜、Al膜、Ni膜、またはCu膜を用いた場合でも、コンタクト抵抗が小さくなる。
【0043】
実施例1によれば、
図1(a)から
図1(c)のように、ソース電極層16およびドレイン電極層18は、基板10上に設けられた密着膜20と、密着膜20上に設けられた導電膜22と、を含む。導電膜22は、第1導電膜22aと第2導電膜22bを含む。第1導電膜22aは、密着膜20上に設けられ、上面がグラフェン層14の下面32に接触し、密着膜20より電気抵抗率の低い材料により形成されている。第2導電膜22bは、第1導電膜22a上に設けられ、グラフェン層14の上面30と側面34に接触し、密着膜20より電気抵抗率の低い材料により形成されている。このように、グラフェン層14の下面32に電気抵抗率の低い第1導電膜22aが接触し、上面30と側面34に電気抵抗率の低い第2導電膜22bが接触することで、コンタクト抵抗を低減させることができる。
【0044】
また、実施例1の製造方法によれば、
図2(a)および
図4(a)のように、基板10上に、密着膜20と、密着膜20上に設けられ、密着膜20より電気抵抗率の低い材料からなる第1導電膜22aと、を含む積層膜50を形成する。
図3(a)および
図5(a)のように、グラフェン層14の端部15における下面32が第1導電膜22aの上面に接触するように、基板10上にグラフェン層14を形成する。
図3(c)および
図5(c)のように、グラフェン層14の端部15における上面30および側面34に接触するように、第1導電膜22a上に密着膜20より電気抵抗率の低い材料からなる第2導電膜22bを形成する。これにより、グラフェン層14の下面32に電気抵抗率の低い第1導電膜22aが接触し、上面30と側面34に電気抵抗率の低い第2導電膜22bが接触するため、コンタクト抵抗を低減させることができる。
【0045】
また、実施例1では、第1導電膜22aと第2導電膜22bは同じ材料により形成される。これにより、グラフェン層14の端部15を挟んで第1導電膜22aと第2導電膜22bが強固に接合するようになる。
【0046】
また、実施例1の製造方法では、
図2(b)、
図4(b)、および
図6(a)から
図6(d)のように、基板10上に積層膜50を覆うようにグラフェン層14を転写する。その後、
図3(a)および
図5(a)のように、グラフェン層14をパターニングすることで、グラフェン層14の端部15における下面32が第1導電膜22aの上面に接触するグラフェン層14を形成する。このような製造方法によれば、グラフェン層14の端部15を覆い、グラフェン層14の下面32に接触する第1導電膜22aと、上面30と側面34に接触する第2導電膜22bと、を含むソース電極層16およびドレイン電極層18を容易に形成することができる。
【0047】
また、実施例1では、
図1(c)のように、導電膜22は、グラフェン層14の上面30と側面34との間のエッジ部分40および下面32と側面34との間のエッジ部分41に接触して覆っている。グラフェン層14を流れる電流は、エッジ部分40、41に集中して流れることが知られている。このため、エッジ部分40、41に接触して覆う導電膜22が設けられることで、電流電圧特性を向上させることができる。特に、グラフェン層14が多層グラフェン層である場合に、エッジ部分40、41の電流密度が高くなる。したがって、グラフェン層14が多層グラフェン層である場合に、電流電圧特性の向上効果が大きくなる。
【0048】
また、実施例1では、密着膜20はTi膜である。第1導電膜22aおよび第2導電膜22bは、Au膜、Pd膜、Pt膜、Al膜、Ni膜、またはCu膜である。Tiは電気抵抗率の高い材料である。このため、密着膜20がTi膜である場合に、Au膜、Pd膜、Pt膜、Al膜、Ni膜、またはCu膜である第1導電膜22aおよび第2導電膜22bをグラフェン層14に接触させることで、コンタクト抵抗を低減させる効果が大きい。
実施例2によれば、グラフェン層14aは、多層グラフェン層であって、側面34が階段状となっている。これにより、第2導電膜22bはグラフェン層14の階段状の側面34に接触するため、グラフェン層14aと第2導電膜22bの接触面積が大きくなる。よって、コンタクト抵抗を低減することができる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。