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特開2024-12350タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む有機溶媒不含組成物および該組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012350
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む有機溶媒不含組成物および該組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 17/08 20060101AFI20240123BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20240123BHJP
   C08H 1/00 20060101ALI20240123BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20240123BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20240123BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C07K17/08
C07K14/78
C08H1/00
C08L71/00
C08L89/00
C08G81/00
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180906
(22)【出願日】2023-10-20
(62)【分割の表示】P 2021181190の分割
【原出願日】2016-12-14
(31)【優先権主張番号】PCT/IL2015/051228
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】518184306
【氏名又は名称】レジェンティス バイオマテリアルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シャチャフ,ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】シモン,ラズ
(72)【発明者】
【氏名】グビリ,コビー
(57)【要約】
【課題】合成ポリマーと細胞外マトリックスタンパク質のコンジュゲートを含む、改善されたヒドロゲル足場の提供。
【解決手段】タンパク質-ポリマー・コンジュゲートと少なくとも1つの重合開始剤とを含む、非架橋型の、安定なすぐに使える液体組成物。前記タンパク質-ポリマー・コンジュゲートは、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含み、前記合成ポリマーは、少なくとも1つの重合可能な基を含有し、前記液体組成物は極性有機溶媒の検出可能な痕跡を含有しない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質-ポリマー・コンジュゲート組成物と少なくとも1つの重合開始剤とを含む、非架橋型の、安定なすぐに使える液体組成物であって、
前記タンパク質-ポリマー・コンジュゲートは、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含み、
前記合成ポリマーは、少なくとも1つの重合可能な基を含有し、
前記液体組成物は、極性有機溶媒の検出可能な痕跡を含有せず、
前記液体配合物は、UV保護条件下または可視光保護条件下で、プレゲル化型で保存されている、
安定なすぐに使える液体組成物。
【請求項2】
単一のバイアルアリコットまたはあらかじめ充填されたシリンジより選択される容器中に保持されている、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項3】
前記細胞外マトリックスタンパク質が、ウシまたはブタ由来のフィブリノーゲンを含む、または
前記細胞外マトリックスタンパク質が、ヒト由来の精製フィブリノーゲンまたは部分精製フィブリノーゲンを含む、または
前記合成ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシアパタイト/ポリカプロラクトン(HA/PLC)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリL-乳酸(PLLA)、ポリメチル-メタクリレート(PMMA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(P4HB)、ポリプロピレンフマレート(PPF)、ポリエチレングリコール-ジメタクリレート(PEG-DMA)、ポリエチレングリコール-ジアクリレート(PEG-DA)、ベータ-リン酸三カルシウム(ベータ-TCP)および非生分解性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される、または
前記合成ポリマーがポリエチレングリコール-ジアクリレート(PEG-DA)である、
請求項1に記載の安定なすぐに使える液体組成物。
【請求項4】
同じ非コンジュゲート化合成ポリマーをさらに含み、合成ポリマー対タンパク質のモル比が40:1~400:1の間である、または
合成ポリマー対タンパク質のモル比が100:1~250:1の間である、または
合成ポリマー対タンパク質のモル比が100:1~150:1の間である、
請求項1に記載の安定なすぐに使える液体組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの重合開始剤が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(BAPO)、2,2-ジメトキシ―2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、カンファーキノン(CQ)、1-フェニル-1,2-プロパンジオン(PPD)、Cp’Pt(CH(Cp=エータ5-CCH)、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン(BP)、フラビン含有化合物、ならびにトリエタノールアミンとN-ビニルピロリドンとエオジンYとの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項6】
前記液体組成物は、重合開始前のプレゲル化型で、UV保護条件下で保存されている、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項7】
前記液体組成物は、重合開始前のプレゲル化型で、可視光保護条件下で保存されている、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項8】
前記液体組成物は、光に曝露するとヒドロゲルを形成する、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項9】
前記液体組成物は、UV光に曝露するとヒドロゲルを形成する、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項10】
前記液体組成物は、10ppm未満のアセトンを含む、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項11】
前記液体組成物は、アセトンの検出可能な残渣を含有しない、請求項1に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項12】
前記組成物は、100ppm未満のエタノールを含む、請求項1または11に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項13】
前記組成物は、エタノールの検出可能な残渣を含有しない、請求項12に記載のすぐに使える液体組成物。
【請求項14】
前記細胞外マトリックスタンパク質がヒトフィブリノーゲンシーラントを含む、請求項1に記載の安定なすぐに使える液体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質-ポリマー・コンジュゲート、該コンジュゲートを含むヒドロゲルで形成された生体適合性足場を生成するための方法、および組織再生のための該足場の使用に関する。本発明は、該コンジュゲートの調製のための改善されたプロセスであって、有機溶媒を回避した環境に優しいプロセスを用いて、本発明の改善されたコンジュゲートを産生する、前記プロセスを開示する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む合成ハイブリッド材料は、組織再生および薬剤送達系に使用可能である。こうしたハイブリッド・バイオマテリアルは、生物学的巨大分子を構造的に可変性の合成ポリマーと組み合わせて、架橋ヒドロゲルネットワークを生成する(Lutolf, M.P.およびJ.A. Hubbell, Nat Biotechnol, 2005. 23(1): p. 47-55)。これらのハイブリッド・バイオマテリアルを用いて、構造および生物機能要素のバランスを取ることによって、生体模倣型の細胞環境を生成することも可能である。多孔性、適合性、全体の密度、機械的特性、および分解性を含む構造特性に対する制御は、合成ポリマーネットワークを通じて指示される一方、生物学的細胞シグナル伝達は、生物学的巨大分子の取り込みを通じて制御され、該生物学的巨大分子には、タンパク質断片、増殖因子、または生物学的活性ペプチド配列が含まれ得る(Peppas, N.A.ら, Annu Rev Biomed Eng, 2000. 2: p. 9-29; Tsang, V.L.およびS.N.Bhatia, Adv Drug Deliv Rev, 2004. 56(11): p. 1635-47; Stile, R.A.ら, J Biomater Sci Polym Ed, 2004. 15(7): p. 865-78)。
【0003】
これに関連して、創傷ドレッシングの生化学的および生物力学的特徴の両方を用いて、細胞遊走、増殖、およびガイド分化を含む、重要な細胞リモデリング事象を開始することも可能である。
【0004】
こうした材料は、特定の組織操作終点に向けて、リモデリングおよび形態形成をガイドするため、特に設計された、微小構造、マトリックス剛性、およびタンパク質分解耐性を伴って、容易にカスタマイズ可能である(Pratt, A.B.ら, Biotechnol Bioeng, 2004. 86(1): p. 27-36)。
【0005】
組織操作のため、いくつかの生合成ハイブリッド材料が開示されてきており、これには、Hubbellおよび同僚らによって記載された、Arg-Gly-Asp(RGD)接着オリゴペプチドで修飾され、そしてプラスミンまたはコラゲナーゼ分解基質を含有する短いオリゴペプチドと架橋された、ポリ(エチレングリコール)(PEG)ヒドロゲル骨格(Lutolf, M.P.ら, Proc Natl Acad Sci U S A, 2003. 100(9): p. 5413-8)が含まれる。公開出願US 20140273153は、チオール-エンおよびチオール-イン化学反応を用いてタンパク質および他の生物学的巨大分子を共有結合的に修飾する方法を開示する。Westおよび同僚らはタンパク質分解的に感受性であるPEG-ペプチド・バイオマテリアルを開示した(Mann, B.K.ら, Biomaterials, 2001. 22(22): p. 3045-51)。
【0006】
Seliktarらは、天然生物学的分子および合成ポリマーを、マトリックスの構築ブロックとして利用して、ハイブリッド・バイオマテリアルを形成するアプローチを開発した(タンパク質-ポリマー付加物)。該タンパク質は、ポリマーネットワークの構造骨格として働き、それによってタンパク質配列上の固有の分解部位を通じて、ヒドロゲルを天然に生体分解性にする。タンパク質-ポリマー・ヒドロゲルネットワークの構造特性の大部分は、合成ポリマー構成要素を通じて制御される。これらの材料は、前臨床および臨床セッティングで、厳密に検証されてきている(Dikovsky, D., H. Bianco-Peled,およびD. Seliktar, Biomaterials, 2006. 27(8): p. 1496-506.; Shapira-Schweitzer, K.およびD. Seliktar, Acta Biomater, 2007. 3(1): p. 33-41; Seliktar, D., Ann N Y Acad Sci, 2005. 1047: p. 386-94)。このバイオマテリアルのユニークな特性の1つは、該バイオマテリアルが準独立性に生化学特性および物理特性を改変可能であることである。さらに、合成材料は、天然に生体分解性なタンパク質分子の内在性の特性を利用することによって、創傷ドレッシングおよび薬剤送達系に有益である可能性もあり、そして吸収速度を制御するように設計可能である。
【0007】
本発明の発明者らの何人かに対するWO 2005/061018、WO 2008/126092およびWO 2011/073991は、コンジュゲートを単離するためのアセトンのような有機溶媒の使用を含む、フィブリノーゲン-PEGコンジュゲートを調製するプロセスを開示した。特に、これらのコンジュゲートの以前に知られている単離工程は、環境的に安全でない極性有機溶媒を利用した。
【発明の概要】
【0008】
極性有機溶媒を最小限しか含有しないかまたは検出可能な痕跡も含有しない合成バイオマテリアル-コンジュゲート、およびこれらの環境的に安全でない溶媒の使用を伴わずにタンパク質-ポリマー・ハイブリッド材料を産生するためのプロセスを有することが好適であろう。
【0009】
本発明は、合成ポリマーと細胞外マトリックスタンパク質のコンジュゲートを含む、改善されたヒドロゲル足場を提供する。これらの足場は、それ自体、移植物として、または移植物のコーティングとして、有用である。本発明のコンジュゲートおよび該コンジュゲートで形成されたヒドロゲルでは、生体適合性が増進され、安全性が増加し、そして有害反応を誘発する可能性が減少している。特に、潜在的に有害な極性有機溶媒の使用を回避する改善されたプロセスを用いて、コンジュゲートを生成する。この改善は、環境的により優しく、かつ同時にin vivoで有害反応を誘発する可能性がより低い産物を生じる。
【0010】
本発明の改善された足場は、定義されたタンパク質対ポリマーのモル比を利用して、被験体内のin vivoで、制御された崩壊速度を提供する。ヒドロゲルの生体分解速度は、a)コンジュゲートにおいて用いたタンパク質およびポリマーによって;b)架橋の度合いによって;そしてc)タンパク質対ポリマーのモル比によってあらかじめ決定することも可能である。
【0011】
1つの側面によれば、本発明は、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含む、タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む組成物であって、該合成ポリマーが少なくとも1つの重合可能な基を含有し、そして該組成物が極性有機溶媒を実質的に含まない、前記組成物を提供する。いくつかの態様によれば、組成物は、200ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、20ppm未満または10ppm未満の極性有機溶媒を含む。さらなる態様によれば、組成物は、極性有機溶媒の検出可能な残渣をまったく含有しない。各々の可能性は、本発明の別個の態様である。
【0012】
血漿タンパク質の混合物が、本発明の組成物およびプロセスに好適に使用可能であることが、ここで初めて開示される。いかなる理論または作用機構に束縛されることも望ましくないが、タンパク質の混合物が、生物適合性および創傷治癒の促進に関して有利である可能性がある。いくつかの態様によれば、本発明のコンジュゲートは、血漿タンパク質の未精製のまたは部分的に精製された混合物とポリマーの間の反応によって形成される。別の態様によれば、フィブリノーゲンは精製フィブリノーゲンであってもよい。いくつかの特定の態様によれば、精製フィブリノーゲンは、限定されるわけではないがウシ・フィブリノーゲンを含む、哺乳動物供給源のものであってもよい。
【0013】
いくつかの態様によれば、タンパク質は、フィブリノーゲン、フィブリン、アルブミン、フィブロネクチン、コラーゲン、変性フィブリノーゲン、変性アルブミン、ゼラチンおよびその任意の組み合わせからなる群より選択される。いくつかの態様によれば、タンパク質は、ウシ、ブタまたはヒト由来のものである。いくつかの態様によれば、タンパク質は部分的に精製されている。他の態様によれば、タンパク質は高精製されている。
【0014】
いくつかの態様によれば、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシアパタイト/ポリカプロラクトン(HA/PLC)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリL-乳酸(PLLA)、ポリメチル-メタクリレート(PMMA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(P4HB)、ポリプロピレンフマレート(PPF)、ポリエチレングリコール-ジメタクリレート(PEG-DMA)、ポリエチレングリコール-ジアクリレート(PEG-DA)、ベータ-リン酸三カルシウム(ベータ-TCP)および非生体分解性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される。
【0015】
いくつかの特定の態様によれば、タンパク質はフィブリノーゲンであり、ポリマーはポリエチレングリコールジアクリレート(PEG-DA)である。
【0016】
いくつかの態様によれば、本発明の組成物は、40:1~400:1の間の合成ポリマー対タンパク質のモル比によって特徴付けられる。別の態様において、本発明の組成物は、100:1~250:1の間の合成ポリマー対タンパク質のモル比によって特徴付けられる。さらに別の態様において、本発明の組成物は、100:1~150:1の間の合成ポリマー対タンパク質のモル比によって特徴付けられる。
【0017】
さらなる側面において、本発明は、架橋タンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子を含むヒドロゲル組成物であって、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含み、前記合成ポリマーが少なくとも1つの重合可能な基を含有し、そして前記組成物が極性有機溶媒を実質的に含まない、前記ヒドロゲル組成物を提供する。
【0018】
いくつかの態様によれば、本発明は、架橋コンジュゲート分子を含むヒドロゲル組成物であって、該コンジュゲート分子が、前記の重合可能な基の重合に際して互いに共有結合的に架橋され、そして前記組成物が極性有機溶媒を実質的に含まない、前記ヒドロゲル組成物をさらに提供する。
【0019】
特定の態様によれば、本発明のヒドロゲル組成物は、アセトンを実質的に含まない。他の態様によれば、本発明のヒドロゲル組成物は、0.05kPa~35kPaの範囲の剪断貯蔵弾性率(shear storage modulus)を有する。
【0020】
さらに別の側面によれば、本発明は、極性有機溶媒の使用を回避する、タンパク質ポリマー・コンジュゲート調製のための改善されたプロセスをさらに提供する。
【0021】
例示的な態様によれば、プロセスは、アセトンの使用を回避し、そして生じるタンパク質ポリマー材料は、アセトンの痕跡をまったく含有しない。改善されたプロセスは、より環境に優しく、かつより容易にスケールアップして、産業上の利用可能性の増加を提供可能である。
【0022】
いくつかの態様によれば、タンパク質ポリマー・コンジュゲート組成物を産生するプロセスは:(a)強いタンパク質変性および還元条件を提供する塩基性条件下で、少なくとも1つの変性細胞外マトリックスタンパク質を溶解する工程;(b)重合可能な基を有する合成ポリマーを含む溶液を提供する工程;(c)(a)の細胞外マトリックスタンパク質溶液と、(b)の合成ポリマーを含む溶液を、強いタンパク質変性および還元条件を提供する塩基性pH下で混合して、タンパク質のスルフィドリルおよび重合可能な基の間で共有結合的コンジュゲートを生成する工程;ならびに(d)極性有機溶媒を利用する濃縮プロセスを伴わずに、工程(c)の未精製反応混合物を濃縮する工程を含む、プロセスである。
【0023】
いくつかの態様によれば、工程(d)記載の未精製反応混合物の濃縮は、遠心分離によって実行される。いくつかの特定の態様において、濃縮工程は、未反応ポリマーの除去を伴わずに実行される。いかなる理論または作用機構に束縛されることもなく、未反応ポリマーの除去を行わないことは好適でありうると仮定される。過剰な未反応ポリマー(マトリックスタンパク質にコンジュゲート化されていないもの)は、さらなる重合可能な基を提供し、それによって、ヒドロゲルを形成するためのコンジュゲートの架橋の度合いを改善しうる。より重要なことに、沈殿を伴わないコンジュゲートの濃縮は、極性有機溶媒による沈殿の使用を回避する。
【0024】
別の側面によれば、本発明は、非架橋型の安定なすぐに使える液体配合物であって、上述のようなタンパク質-ポリマー・コンジュゲート組成物および少なくとも1つの重合開始剤を含む、前記液体配合物を提供する。言い換えると、いくつかの態様によれば、産物は、in situで活性化されて所望のヒドロゲルを生じうる、プレゲル化液体型とも称される、すぐに使える安定な前駆体溶液であってもよい。活性化は、前記重合開始剤を用いて、典型的には光に曝露することによって、達成される。
【0025】
いくつかの態様によれば、少なくとも1つの重合開始剤は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(BAPO)、2,2-ジメトキシ―2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、カンファーキノン(CQ)、1-フェニル-1,2-プロパンジオン(PPD)、Cp’Pt(CH(Cp=エータ5-CCH)、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(例えばIRGACURETM 2959)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン(BP)、フラビン含有化合物、ならびにトリエタノールアミン、N-ビニルピロリドンおよびエオジンYの組み合わせからなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様である。
【0026】
いくつかの態様において、前記のすぐに使える配合物は、極性有機溶媒の使用を回避する。好適なことに、このすぐに使える配合物は、使用前または使用中に、光への曝露による光開始剤の活性化のみを必要とする。
【0027】
いくつかの態様によれば、すぐに使える配合物は、単一のアリコットバイアルまたはあらかじめ充填されたシリンジより選択される容器中に保持されている。いくつかの態様によれば、すぐに使える液体配合物は、重合開始前のプレゲル化型で、可視光保護条件下で保存される。いくつかの態様によれば、すぐに使える配合物は、可視光への曝露に際してヒドロゲルを形成する。いくつかの態様によれば、すぐに使える液体配合物は、重合開始前のプレゲル化型で、UV保護条件下で保存される。いくつかの態様によれば、すぐに使える配合物は、UV光への曝露に際してヒドロゲルを形成する。
【0028】
いくつかの態様によれば、すぐに使える配合物は、100ppm未満のエタノールを含む。いくつかの現在好ましい態様によれば、すぐに使える配合物は、エタノールの検出可能な残渣をまったく含有しない。いくつかの他の態様によれば、すぐに使える配合物は、10ppm未満のアセトンを含む。いくつかの現在好ましい態様において、すぐに使える配合物は、アセトンの検出可能な残渣をまったく含有しない。
【0029】
本発明のこれらのそしてさらなる利点は、詳細な説明と組み合わせて明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、精製ウシ・フィブリノーゲンに比較した、さらなる血漿タンパク質とともにフィブリノーゲンを含むヒト・シーラントのゲル電気泳動プロファイルを提示する。
図2図2は、光開始剤試薬、PEG-フィブリノーゲン・コンジュゲート分子およびさらなる量のPEG-DAをプレゲル化型で含有する新規の安定な単一バイアル配合物から生じるゲル化産物を、1つのバイアルに光開始剤溶液を、そして別個のバイアルにPEG-フィブリノーゲン・コンジュゲート分子を含有する2バイアル配合物から生じるヒドロゲルに比較する、ヒドロゲル安定性試験の結果を提示する。
図3図3は、光開始剤試薬、PEG-フィブリノーゲン・コンジュゲート分子およびさらなる量のPEG-DAをプレゲル化型で含有する新規の安定な単一バイアル配合物から生じるヒドロゲルのゲル化動力学を、1つのバイアルに光開始剤溶液を、そして別個のバイアルにPEG-フィブリノーゲン・コンジュゲート分子を含有する2バイアル配合物から生じるヒドロゲルのものに比較する、ゲル化研究の結果を提示する。
図4図4は、有機溶媒不含法、ならびにアセトン沈殿およびエタノール添加を伴う以前開示された方法の両方から生じるヒドロゲルの硬化動力学を示す。
図5図5は、有機溶媒不含法、ならびにアセトン沈殿およびエタノール添加を伴う以前開示された方法の両方から生じるヒドロゲルの振動数の要因としての粘弾特性を示す。
図6図6は、有機溶媒不含法、ならびにアセトン沈殿およびエタノール添加を伴う以前開示された方法の両方から生じるヒドロゲルのひずみの要因としての粘弾特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、合成ポリマーと細胞外マトリックスタンパク質のコンジュゲートを含む、改善されたヒドロゲル足場を提供する。本発明のコンジュゲートは、極性有機溶媒残渣を含有しないため、増加した生体適合性を持つ。本発明の対応するヒドロゲルは、タンパク質-合成ポリマー・コンジュゲートの架橋型であり、そして生体適合性移植物として有用である。
【0032】
本発明はさらに、タンパク質対合成ポリマーの比較的低い比を含む、改善されたヒドロゲル足場組成物を提供する。本発明のタンパク質構成要素は、崩壊剤として働き、その生体分解性を制御することを通じて、ヒドロゲル吸収速度の細かい調整を可能にする。タンパク質および合成ポリマーの特定のモル比は、移植物の所望の崩壊速度および意図される使用に基づいて決定される。
【0033】
ヒドロゲル足場の物理的特性に関するさらなる調節は、ヒドロゲルネットワーク内の架橋密度を制御することによって達成可能である。本発明のタンパク質構成要素は、複数の架橋部位を含有することも可能であり、これらはヒドロゲル移植物内で物理的または化学的に活性化可能である。
【0034】
1つの側面によれば、本発明は、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含む、タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む組成物であって、前記合成ポリマーが少なくとも1つの重合可能な基を含有し、そして前記組成物が極性有機溶媒を実質的に含まない、前記組成物を提供する。
【0035】
いくつかの態様によれば、タンパク質は、フィブリノーゲン、フィブリン、アルブミン、フィブロネクチン、コラーゲン、変性フィブリノーゲン、変性アルブミン、ゼラチンおよびその任意の組み合わせからなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様である。いくつかの態様によれば、タンパク質は、ウシ、ブタまたはヒト由来のものである。いくつかの態様によれば、ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシアパタイト/ポリカプロラクトン(HA/PLC)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリL-乳酸(PLLA)、ポリメチル-メタクリレート(PMMA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(P4HB)、ポリプロピレンフマレート(PPF)、ポリエチレングリコール-ジメタクリレート(PEG-DMA)、ポリエチレングリコール-ジアクリレート(PEG-DA)、ベータ-リン酸三カルシウム(ベータ-TCP)および非生体分解性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様である。現在好ましい1つの態様において、タンパク質はフィブリノーゲンであり、ポリマーはポリエチレングリコールジアクリレート(PEG-DA)である。
【0036】
本発明はさらに、タンパク質対合成ポリマーの好適に低い比に関する。1つの態様において、本発明の組成物は、40:1~400:1の間の合成ポリマー対タンパク質のモル比によって特徴付けられる。より好ましい態様において、本発明の組成物は、100:1~250:1の間の合成ポリマー対タンパク質のモル比によって特徴付けられる。現在好ましい1つの態様において、本発明の組成物は、100:1~150:1の間の合成ポリマー対タンパク質のモル比によって特徴付けられる。
【0037】
1つの側面によれば、本発明は、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含む、タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む組成物であって、該合成ポリマーが少なくとも1つの重合可能な基を含有し、そして該組成物が極性有機溶媒を実質的に含まない、前記組成物を提供する。いくつかの態様によれば、組成物は、200ppm未満、100ppm未満、50ppm未満、20ppm未満または10ppm未満の極性有機溶媒を含む。いくつかのさらなる態様によれば、組成物は、極性有機溶媒の検出可能な残渣をまったく含有しない。各々の可能性は、本発明の別個の態様である。
【0038】
さらなる側面において、本発明は、タンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子の架橋型である、ヒドロゲル組成物を提供する。いくつかの態様において、架橋タンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子を含むヒドロゲル組成物であって、合成ポリマーに共有結合した細胞外マトリックスタンパク質を含み、前記合成ポリマーが少なくとも1つの重合可能な基を含有し、そして前記組成物が極性有機溶媒を実質的に含まない、前記ヒドロゲル組成物である。1つの特定の態様において、本発明のヒドロゲル組成物は、アセトンを実質的に含まない。いくつかの態様によれば、本発明のヒドロゲル組成物は、0.05kPa~35kPaの範囲の剪断貯蔵弾性率によって特徴付けられる。特定の態様によれば、本発明のヒドロゲル組成物は、2kPa~15kPaの範囲の剪断貯蔵弾性率によって特徴付けられる。
【0039】
本発明はさらに、前記の重合可能な基の重合に際して起こる、タンパク質-ポリマー・コンジュゲートのゲル化に関する。
【0040】
本発明は、アセトン沈殿の工程の必要性を伴わずに、タンパク質への合成ポリマーの効率的な共有結合および最終タンパク質-ポリマー・コンジュゲートの抽出を可能にする、新規プロセスを提供する。本発明の新規アセトン不含プロセスは、環境に優しいプロセスであり、アセトン不含タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを生じさせ、該コンジュゲートはゲル化に際して、生体適合性が増加した、アセトン不含ヒドロゲルを生じる。
【0041】
本発明のプロセスは、アセトンなどの極性有機溶媒を利用する、以前開示されたプロセスに比較して、好適な規模拡大産生能力を示す。先行技術のプロセスは、コンジュゲートを沈殿させ、そして反応産物から未反応分子を除去するために、極性有機溶媒を用いた。例えば、タンパク質に未結合のままである未反応ポリマーまたは修飾ポリマーは、アセトン沈殿によって除去可能である。
【0042】
したがって、いくつかの態様において、本発明のプロセスは、さらなるプロセシング前に、反応混合物からのタンパク質-ポリマー・コンジュゲートの抽出または沈殿を必要としない。その結果、本発明の新規アセトン不含プロセスは、より効率的な産生プロセスを生じ、患者において使用するための、タンパク質-ポリマー・コンジュゲートを含む、より安全なヒドロゲル組成物を生じる。
【0043】
いくつかの態様において、タンパク質ポリマー・コンジュゲート組成物を産生するプロセスは:(a)強いタンパク質変性および還元条件を提供する塩基性条件下で、少なくとも1つの不飽和細胞外マトリックスタンパク質を溶解する工程;(b)重合可能な基を有する合成ポリマーを含む溶液を提供する工程;(c)(a)の細胞外マトリックスタンパク質溶液と、(b)の合成ポリマーを含む溶液を、強いタンパク質変性および還元条件を提供する塩基性pH下で混合して、タンパク質のスルフィドリルおよび重合可能な基の間で共有結合コンジュゲートを生成する工程;ならびに(d)極性有機溶媒を利用する濃縮プロセスを伴わずに、工程(c)の未精製反応混合物を濃縮する工程を含むプロセスである。
【0044】
いくつかの態様において、未精製反応混合物の濃縮は、未反応ポリマーの除去を伴わずに、特に、極性有機溶媒中の反応混合物の沈殿を伴わずに、行われる。したがって、改善されたプロセスは、合成法の一部として、いかなる有機溶媒の使用も回避する。
【0045】
理論または作用機構によって束縛されることなく、未反応ポリマーの除去の回避は、重合に寄与し、そして生じるヒドロゲルの架橋の度合いを改善すると仮定される。少なくとも1つの重合可能な基を含む未反応ポリマーは、光への反応混合物の曝露に際して活性化され、重合し、したがって、得られるヒドロゲル足場の架橋の度合いは増加することも可能である。いくつかの態様において、利用する光源は、可視光範囲内である。いくつかの他の態様において、用いる光源は、UV光範囲内である。
【0046】
本発明はさらに、本発明のヒドロゲル組成物の安定な単一バイアルプレ架橋配合物に関する。単一バイアル配合物は、簡便なすぐに使える配合物であり、タンパク質-合成ポリマー・コンジュゲートおよび少なくとも1つの光開始剤を含み、使用までに望ましくない重合を経ることを防止する条件下で保存される。いくつかの態様において、少なくとも1つの重合開始剤は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(BAPO)、2,2-ジメトキシ―2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、カンファーキノン(CQ)、1-フェニル-1,2-プロパンジオン(PPD)、Cp’Pt(CH(Cp=エータ5-CCH)、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(例えばIRGACURETM 2959)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン(BP)、フラビン含有化合物、ならびにトリエタノールアミン、N-ビニルピロリドンおよびエオジンYの組み合わせからなる群より選択される。各々の可能性は、本発明の別個の態様である。単一バイアル配合物は、等しく安定なヒドロゲルを生じさせ、タンパク質-合成ポリマー・コンジュゲート溶液と、少なくとも1つの光開始剤試薬を混合することを通じて新鮮に調製されるゲルと比較して、類似の機械的特性を示す。理論または作用機構に束縛されることなく、本発明のすぐに使える配合物は、光開始剤およびコンジュゲート分子組成物をあらかじめ混合する工程のため、成分のより正確な組成を提供し、したがって、改善された使いやすい方法を促進する。いくつかの態様において、前記のすぐに使える単一バイアル配合物は、極性有機溶媒の使用を回避する。いくつかの態様において、すぐに使える配合物は、単一アリコットバイアルまたはあらかじめ充填されたシリンジより選択される容器中に保持される。
【0047】
いくつかの態様において、すぐに使える液体配合物は、重合開始前のプレゲル化型で、可視光保護条件下で保存される。いくつかの態様において、すぐに使える液体配合物は、重合開始前のプレゲル化型で、UV保護条件下で保存される。いくつかの態様において、すぐに使える液体配合物は、光への曝露による活性化に際して、架橋プロセスを経て、そして本発明のヒドロゲルを形成する。いくつかの態様において、活性化は可視光範囲(例えば400~700nm)への曝露によって達成される。いくつかの他の態様において、活性化はUV光への曝露によって達成される。いくつかの態様において、すぐに使える配合物は、100ppm未満のエタノールを含む。いくつかの現在好ましい態様において、すぐに使える配合物は、エタノールの検出可能な残渣をまったく含有しない。いくつかの他の態様によれば、すぐに使える配合物は、10ppm未満のアセトンを含む。いくつかの現在好ましい態様において、すぐに使える配合物は、アセトンの検出可能な残渣をまったく含有しない。
【0048】
予期せぬことに、本明細書において以下に例示するように、ヒト・フィブリノーゲン・シーラントに基づくPEG-フィブリノーゲン移植物は、いくつかの観点において、精製フィブリノーゲンに基づくPEG-フィブリノーゲン移植物よりも優れていることが見出された。商業的に入手可能な精製フィブリノーゲンは、典型的には95%より多いフィブリノーゲンを含有するが、シーラント産物の形で得られるフィブリノーゲンは、典型的には70~80%純度である。フィブリノーゲンに加えて、シーラント産物は、限定されるわけではないが、アルブミンおよびフィブロネクチンを含む他の血漿タンパク質を含有する(Christoph Buchtaら Biomaterials, 26, 31 (2005), 6233-6241)。予期せぬことに、さらなるタンパク質は、高生体適合性であるよりロバストな産物を提供する。図1は、1つのこうしたシーラントおよび精製フィブリノーゲンのタンパク質プロファイルを示す。シーラント試料が、フィブリノーゲン以外のタンパク質種を含有することがわかる。驚くべきことに、シーラント由来のPEG-フィブリノーゲン移植物は、純粋なフィブリノーゲンに基づくPEG-フィブリノーゲン移植物を、多様な測定値において凌ぎ、生物学的利用能が改善されていることが示された。
【0049】
本発明による用語「in vivo」は、植物または動物などの生存生物内、好ましくは哺乳動物内、好ましくはヒト被験体内を指す。本明細書において用いられる用語「被験体」は、任意の年齢の脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒト(男性または女性)を指す。
【0050】
本明細書において、句「ex vivo」は、生物から得られており、そして生存生物の外で、好ましくは脊椎動物、哺乳動物、またはヒトの体外で、増殖している(または培養されている)生存細胞を指す。例えば、ヒト由来の細胞、例えばヒト筋肉細胞またはヒト大動脈内皮細胞であり、そして体外で培養されている細胞は、ex vivoで培養されている細胞と称される。
【0051】
本明細書に用いられる用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、交換可能に用いられ、そして少なくとも10のペプチド残基を含む任意の天然存在ポリペプチド、ならびにその生物学的活性断片(例えば細胞接着および/または細胞シグナル伝達を誘導する断片)を含む。生物学的活性断片は、当該技術分野で公知の任意の方法によって生成可能である(例えば酵素および/または化学試薬による切断)。
【0052】
タンパク質分解感受性断片は、当該技術分野で公知の任意の方法によって生成可能である(例えば酵素および/または化学試薬による切断)。低いシステイン含量を持つ非タンパク質は、典型的にはほとんどチオール基を持たないため、タンパク質が低いシステイン含量を有する場合、上述の問題の組成物を産生するために、タンパク質のチオール化が特に適している。タンパク質をチオール化することによるさらなるチオール基の導入は、合成ポリマーを連結するために利用可能なさらなる部位を生成する。ほとんどまたはまったくシステインを持たないタンパク質(例えばコラーゲン)は、従来、タンパク質のシステイン残基に付着した合成ポリマーを含むポリマー-タンパク質コンジュゲート分子に含めるには適していなかった。多くのタンパク質が低いシステイン含量を有するため、タンパク質のチオール化は、ポリマー-タンパク質コンジュゲート分子の深刻な欠点を克服する。場合によって、チオール化しようとするタンパク質は、100アミノ酸残基あたり、5未満のシステイン残基を含む。場合によって、タンパク質は、100アミノ酸残基あたり3未満のシステイン残基、場合によって、100アミノ酸残基あたり2未満のシステイン残基、そして場合によって、100アミノ酸残基あたり1未満のシステイン残基を含む。場合によって、本発明のタンパク質は変性されている。
【0053】
本明細書および請求項において用いられる用語「チオール」または「スルフィドリル」は交換可能に用いられ、そして-SH基を指す。
【0054】
いかなる特定の理論に束縛されることもなく、変性タンパク質は、典型的には、合成ポリマーに付着するために利用可能なより多くの部位を有すると考えられる。タンパク質は、当該技術分野で周知の多様な方法によって変性可能である。例えば、タンパク質は、加熱、あるいは尿素または塩化グアニジウムなどの変性剤への曝露によって変性可能である。本明細書において以下に例示するように、タンパク質は、8M尿素を含む溶液中で変性可能である。
【0055】
用語「ポリマー」は、主に、複数の反復単位で構成される分子を指す。句「合成ポリマー」は、合成材料、すなわち非天然非細胞性材料でできた任意のポリマーを指す。上述のポリマーの名称は、大部分、合成ポリマーの構造でできている反復単位を指し、そして合成ポリマー中のさらなる官能基の存在を排除することを意味しない。したがって、例えば、2つのアクリレート基を含むポリエチレングリコールからなる合成ポリマー(すなわちPEG-ジアクリレート)は、本明細書において、用語「ポリエチレングリコール」および「PEG」に含まれる。
【0056】
官能化PEG分子を調製する方法が当該技術分野で公知である。例えば、PEG-OHのジクロロメタン(DCM)溶液とNaHを、そして次いでジビニルスルホンを(場合によってモル比:OH 1:NaH 5:ジビニルスルホン 50、そしてDCM 1mlあたり0.2グラムのPEGで)反応させることによって、アルゴン下で、PEG-ビニルスルホンが場合によって調製可能である。PEG-OHのDCM溶液と塩化アクリロイルおよびトリエチルアミンを(場合によってモル比:OH 1:塩化アクリロイル 1.5:トリエチルアミン 2、そしてDCM 1mlあたり0.2グラムのPEGで)反応させることによって、アルゴン下で、PEG-Acが場合によって作製可能である。
【0057】
本明細書および請求項において用いられる用語「架橋」、「硬化」または「重合」は、交換可能に用いられ、そして隣接するコンジュゲートのポリマーの重合可能な基の間で、共有結合的相互作用によって、相互連結されたタンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子の形成を指す。例示的な、架橋可能な重合可能官能基には、限定なしに、アクリレートおよびビニルスルホンが含まれる。本発明のタンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子の架橋は、化学重合反応を開始する化合物によって開始される。
【0058】
足場を形成するような本発明の態様のコンジュゲート分子の架橋を容易にするため、コンジュゲート分子の架橋は、体の内部(すなわちin vivo)または外部で実行可能である。in vivoの架橋は、例えば、足場で満たそうとする体腔の正確な形状を有する足場を生成するために使用可能である。
【0059】
架橋の多様な方法が当該技術分野で公知である。例えば、架橋は、照射によって(例えば紫外光によってまたは可視光によって)、化学試薬(例えばフリーラジカルドナー)によって、および/または熱によって、達成可能である。
【0060】
本発明の場合による態様によれば、架橋は、紫外線照射(例えば約365nmの波長での)による。特定の他の態様によれば、架橋照射は可視光範囲である。
【0061】
本明細書において用いられる用語「約」は+-10%を指す。
【0062】
場合によって、光開始剤は、架橋を促進するために添加される。光開始剤の添加は、典型的には、架橋のための紫外光のより低い線量の使用を可能にする。
【0063】
本明細書および請求項において用いられる用語「極性有機溶媒」は、大きな双極子モーメントを有する有機溶媒、すなわち別個の電気陰性を持つ原子間の結合、例えば水素に結合した酸素を含有する溶媒を指す。極性有機溶媒には、プロトン性溶媒、例えばアルコール、アンモニア、酢酸等、ならびに非プロトン性極性溶媒、例えばアセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の両方が含まれる。
【0064】
本明細書において用いられる用語、極性有機溶媒を「実質的に含まない」は、極性有機溶媒の量が、ppmで特定されるあらかじめ決定された量より多くないか、またはさらに従来の検出手段(例えばガスクロマトグラフィ)によって検出不能であることを意味する。いくつかの例示的な態様によれば、極性有機溶媒の量は、極性有機溶媒沈殿法を利用して産生された、対応する以前開示された材料に比較して、本発明のタンパク質-ポリマー・コンジュゲート組成物およびヒドロゲル組成物中で、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、そしてより好ましくは少なくとも98%、減少している。さらに、本明細書で用いられる用語、極性有機溶媒を「実質的に含まないプロセス」は、極性有機溶媒を伴ういかなる合成工程も含まない、タンパク質-ポリマー・コンジュゲート組成物またはヒドロゲル組成物を産生するプロセスを指す。
【0065】
本明細書および請求項において用いられる用語、極性有機溶媒を「欠く」は、組成物が極性有機溶媒の検出可能な痕跡をまったく含有しないことを指す。本明細書で用いられる用語「光開始剤」は、光、より具体的には紫外照射に曝露された際、化学反応(例えば架橋反応、重合)を開始する化合物を記載する。多くの好適な光開始剤が当業者に知られる。例示的な光開始剤には、限定なしに、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(BAPO)、2,2-ジメトキシ―2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、カンファーキノン(CQ)、1-フェニル-1,2-プロパンジオン(PPD)、有機金属錯体Cp’Pt(CH(Cp=エータ5-CCH)、2-ヒドロキシ-1-[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパノン(例えばIRGACURETM 2959)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン(BP)、およびフラビンが含まれる。いくつかの態様において、トリエタノールアミン、N-ビニルピロリドンおよびエオジンYの組み合わせを、可視光条件下での光開始剤として用いることができる。
【0066】
本明細書および請求項において用いられる用語「非架橋」または「プレ架橋」は交換可能に用いられ、そして光への曝露により、例えば光開始剤の活性化に際して、重合する用意ができている液体溶液中の試薬混合物を指す。
【0067】
本明細書および請求項において用いられる用語「ヒドロゲル」または「足場」は交換可能に用いられ、そして互いに共有結合架橋されている、タンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子を含む、二次元または三次元ポリマー性多孔マトリックスを指す。本発明によるヒドロゲルは、タンパク質、ポリマー、およびヒドロゲルにおけるその比に応じて、そして添加可能なさらなる材料、例えばミネラル溶液または凝集物、多糖、活性成分、賦形剤等に応じて、ある範囲の特性を所持するように仕立てることも可能である。架橋を制御することによって、本発明の足場は、任意のサイズ、構造または多孔性で、二次元または三次元構造を形成することも可能である。本発明の足場を、別の足場またはゲル内に包埋するか、またはこれらの周囲に形成することも可能であるし、あるいはさらなる材料に連結して、ハイブリッドまたはコーティングされた足場を形成することも可能である。本発明のいくつかの態様において、本発明の足場を用いて、細胞増殖、付着、スプレッドを支持し、そしてしたがって細胞増殖、組織再生および/または組織修復を促進することも可能である。本発明の代替態様において、足場を接着剤として用いて、そしてしたがって、組織修復を促進することも可能である。場合によって、接着剤は細胞増殖を支持しない。本発明の場合による態様によれば、足場は生体分解性である。
【0068】
本明細書および請求項において用いられる用語「単一バイアル配合物」、「単一アリコットバイアル」または「すぐに使える」は、交換可能に用いられ、そして非架橋型で、光開始剤と混合されたポリマー-タンパク質コンジュゲート分子を含む組成物であって、光に曝露された際に活性化可能である、前記組成物を指す。いくつかの態様において、すぐに使える配合物は、非反応ポリマーを含むことも可能であり、該非反応ポリマーは、光に曝露された際、タンパク質-ポリマー・コンジュゲート分子とともに、架橋プロセスにおいて反応可能である。いくつかの態様において、重合の活性化は、UV光への曝露に際して生じる。いくつかの他の態様において、重合の活性化は、可視光範囲への曝露に際して生じる。
【0069】
本明細書で用いられる用語「生体適合性」は、生存組織とのアフィニティ、低い毒性を有し、そして生体において許容しえない異質な体の反応をほとんどまたはまったく起こさない材料を指す。例えば、本発明のタンパク質、合成ポリマー、タンパク質-合成ポリマー・コンジュゲートおよびヒドロゲルは、生体適合性である。
【0070】
本用語「移植」は、本発明のヒドロゲル組成物が、損傷を受けたかまたは除去された組織を完全にまたは部分的に置換するように働く、被験体内への本発明の組成物の挿入を指す。移植の別の側面は、また、患者の特定の部位に療法剤を輸送するビヒクルとしての、該組成物の使用を意味するよう解釈される。この側面において、増殖因子、サイトカイン、化学療法薬剤、酵素、抗微生物剤、抗炎症剤より選択される療法剤の組成物または移植物内への取り込みもまた含まれる。
【0071】
外科ツール、例えばメス、スプーン、スパチュラ、または他の外科デバイスを用いて、本発明の足場を被験体に移植することができる。被験体に足場コンジュゲート分子を投与し、そしてさらにin vivoでコンジュゲート分子を架橋することによって、組織のin vivo形成もまた達成可能であることが認識されるであろう。
【0072】
本明細書において用いられる用語「生体分解性の」および「生体分解性」は、生物学的プロテアーゼまたは他の生体分子によって分解(すなわち破壊)可能であることを指す。生体分解性は、分解基質(すなわち生物学的材料またはその一部)の利用可能性、生体分解材料(例えば微生物、酵素、タンパク質)の存在、ならびに酸素(好気性生物、微生物またはその一部に関する)、二酸化炭素(嫌気性生物、微生物またはその一部に関する)および/または他の栄養素の利用可能性に依存する。さらに、材料、例えば本発明の足場の生体分解性はまた、気体および栄養素の通過および利用可能性に影響を及ぼしうる、材料の構造および/または機械的特性、すなわち多孔性、柔軟性、粘性、架橋密度、疎水性/親水性、および弾性にも依存する。
【0073】
足場の生体分解性は、少なくとも部分的に、足場の骨格を形成する、足場中のタンパク質の生体分解性に由来する。足場の生体分解性は、特定のレベルの生体分解性を提供するタンパク質を選択することによって決定可能である。さらに、生体分解性は、生体分解性または非生体分解性合成ポリマーを選択することによって決定可能である。生体分解性はまた、各タンパク質に付着した合成分子の数によっても影響を受け、これは合成分子が多数付着すると、切断部位がマスキングされるため、生体分解性が減少しうるためである。
【0074】
本発明の態様のヒドロゲル足場の生体分解性は、プロテアーゼ、例えばプラスミン、トリプシン、コラゲナーゼ、キモトリプシン等を用いて、こうしたヒドロゲルを酵素分解に供することによって決定可能である。
【0075】
合成ポリマーの添加は、生成される足場の機械的強度を増加させるであろう。合成ポリマーが非生体分解性である場合、足場の生体分解性は減少するであろう。したがって、コンジュゲート分子と架橋する、適切な量の合成ポリマーを添加することによって、望ましいように足場の特性を修飾することも可能である。
【0076】
コンジュゲート分子の架橋前に、非コンジュゲート化合成ポリマーを除去して、そして次いで、コンジュゲート分子と架橋される、同じ非コンジュゲート化合成ポリマーを添加してもよいことに注目すべきである。例えば、濃度が確かでない非コンジュゲート化合成ポリマーを除去し、そして次いで、既知の濃度で非コンジュゲート化合成ポリマーを添加することが望ましい可能性もある。
【0077】
一般的に、足場の生物学的および機械的特性は、部分的に、足場中のタンパク質対合成ポリマーの比によって決定されるであろう。例えば、高いタンパク質含量を含む足場は、そこに含有されるタンパク質の生物学的特性、例えば細胞シグナル伝達を呈する一方、そこに含有される合成ポリマーに特徴的な好適な機械的特性を保持するであろう。例示的な足場は、PEGおよびフィブリノーゲンを、タンパク質あたり25:1 PEG~タンパク質あたり400:1 PEGの範囲のモル比で含む。
【0078】
安価に産生されるほか、本発明の足場は、非常に再現性があり、柔軟で(容易に圧を加えるかまたは伸展させることが可能であり)、制御可能な構造特性を呈し、そして制御可能な生体分解性を与えやすく、こうした特性は、足場を、体の骨、神経、軟骨、心筋、皮膚組織、血管、および他の組織(柔組織および硬組織)などの組織のin vivoまたはex vivo操作に非常に適したものにする。例えば、本発明の態様による足場および/またはヒドロゲルは、組織または臓器内の間隙内に容易に配置可能であり、その後、足場はこの空隙を満たし、そして足場が分解されるにつれて、再生プロセスの開始が可能になる。
【0079】
多くの場合、組織操作に用いる足場によって充填された空間中で生存細胞を増殖させることが望ましい。これは、足場中に植え付けられた生存細胞を有することによって促進される。本発明の態様の1つの利点は、架橋を開始するために穏やかな条件を用いて、足場が液体相(例えばポリマー-タンパク質コンジュゲートの溶液)から形成可能であることである。その結果、生存細胞は、コンジュゲート分子間に分散可能であり、細胞を傷つけない穏やかな条件で架橋が実行可能であるため、生存細胞が包埋された足場が生じることが可能になる。
【0080】
したがって、本発明の場合による態様によれば、足場は包埋された生存細胞を含む。場合によって、生存細胞が包埋された足場は、チオール化タンパク質を含む。
【0081】
本発明の態様において、包含に適した例示的な細胞は、組織を形成可能であり、これには限定なしに、幹細胞、例えば胚性幹細胞、骨髄幹細胞、臍帯血細胞、間葉系幹細胞、成体組織幹細胞;または分化した細胞、例えば神経細胞、網膜細胞、上皮細胞、肝細胞、膵臓(膵島)細胞、骨細胞、軟骨細胞、弾性細胞、線維性細胞、筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、および造血細胞が含まれる。
【0082】
本明細書において用いられる用語「植え付け」は、本発明の足場内に、細胞を被包し、捕捉し、プレーティングし、配置し、そして/またはドロップすることを指す。本発明の足場上または足場内に植え付けられる細胞の濃度は、用いる細胞のタイプおよび用いる足場の組成(すなわちコンジュゲート分子内の合成ポリマーおよびタンパク質の間のモル比、ならびに用いる架橋分子のパーセント)に依存することが認識されるであろう。
【0083】
細胞の植え付けは、足場または足場から形成されるヒドロゲルの形成後に、あるいは足場を生じる架橋の前に、コンジュゲート分子と細胞を混合することによって、実行可能であることが認識されるであろう。足場および/またはヒドロゲル上に植え付けようとする細胞の濃度は、細胞タイプ、ならびに足場および/またはヒドロゲルの特性に依存し、そして当業者は、各場合で、細胞の好適な濃度を決定することが可能である。
【0084】
足場および/またはヒドロゲル上への細胞の植え付け後、細胞は場合によって、その生存性を維持するため、組織培地および増殖因子の存在下で培養されることが認識されるであろう。
【0085】
植え付け後、実施例セクションに例示するように、細胞増殖、スプレッドおよび組織形成を評価するため、(例えば倒立顕微鏡を用いて)足場および/またはヒドロゲルを調べてもよい。本明細書および請求項において用いられる用語「剪断貯蔵弾性率(G’)」は、固形材料の機械的特性を指し、これは、材料における剪断ストレス(単位面積あたりの力)および剪断ひずみ(比例変形-弾力性)の間の関係を定義する。本明細書において用いられる用語「剪断損失弾性率(shear loss modulus)(G”)」は、粘弾性材料の粘性特性を指し、これは剪断貯蔵弾性率とともに、複素剪断弾性率を定義し、これは、粘弾性固形材料の機械的特性を記載するために用いられる。
【0086】
本明細書において用いられる用語「方法」は、限定されるわけではないが、化学、薬理学、生物学、生化学および医学業の当業者に知られるか、またはこうした当業者により、既知の方式、手段、技術および手順から容易に開発可能であるかいずれかの方式、手段、技術および手順を含む、所定のタスクを達成するための方式、手段、技術および手順を指す。
【0087】
明確にするために、別個の態様の文脈において記載される、本発明の特定の特徴はまた、単一の態様の組み合わせで提供されることも可能であることが認識される。逆に、簡潔にするために、単一の態様の文脈において記載される、本発明の多様な特徴はまた、別個にまたは任意の適切な組み合わせで、または本発明の任意の他の記載される態様において適切であるように、提供されることも可能である。多様な態様の文脈において記載される特定の特徴は、態様がこれらの要素なしには実行不能でない限り、こうした態様の本質的な特徴であるとは見なされないものとする。
【0088】
以下の限定されない実施例は、本発明の特定の態様をより詳細に例示するために提示される。しかし、これらは、いかなる点でも、本発明の広い範囲を限定すると見なされてはならない。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示する原理の多くの変更および変形を容易に考案することが可能である。
【0089】
実施例
実施例1:比較例:以前開示された方法にしたがって得られたフィブリノーゲン-PEG DAヒドロゲル組成物におけるアセトン残渣の決定
以前開示された方法(WO 2005/061018、WO 2008/126092およびWO 2011/073991)にしたがって調製されたヒドロゲル組成物中のアセトン含量を決定するために、化学分析を行った。
【0090】
産物中のアセトン含量を決定するため、フレームイオン化検出法を伴うガスクロマトグラフィ(GC-FID。Hewlett Packard 5890)を利用した。ヘッドスペース(HS)試料注入およびキャピラリーGCカラムZB-624(長さ75m、内径0.53mm、フィルム厚3.0ミクロン)を、それぞれキャリアーガスおよびフレームガスとしてヘリウムおよび水素(1ml/分のガス流)とともに用いた。液体試料(5ml)をクリンプシールガラスヘッドスペースバイアル(20ml)内に添加した。試料バイアルをオートサンプラーに入れ、そして5つの異なる濃度で、標準としてアセトンを用いた検量線に対して分析した。HS注入法は、80℃で30分間のインキュベーション、および100℃のシリンジ温度(1ml試料体積)で構成された。GC法のため、35分間の実行時間を用いた。40℃(最初の温度)で5分間置いた後、温度を5分以内に240℃まで増加させた。注入ポートおよびFIDの温度を、それぞれ190℃および300℃に設定した。ヒトおよびウシ由来フィブリノーゲン-PEG DAに基づくヒドロゲルの両方において、ppmで、測定したアセトン量を表1に要約する:
【表1】
【0091】
実施例2:ウシ由来のPEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲートの調製(精製フィブリノーゲン)
8M尿素を含む10mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の7mg/mlのウシ・フィブリノーゲン(Bovogen Biologicals Pty Ltd、オーストラリア・メルボルン)溶液を、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP-HCl)(Sigma)で調製した。TCEP-HClを、1~1.5:1 TCEP対フィブリノーゲン・システインのモル比で添加した。NaOHで溶液pHを8.0に修正した。PEG-DAを10mM PBSおよび8M尿素に溶解し(280mg/mL)、溶解したフィブリノーゲン溶液にPEG-DAを添加する前に、完全な溶解を達成した。PEG-DA対フィブリノーゲン・システインのモル比は3:1であった(直鎖PEG-DA、10kDa)。混合物を、サーモスタットジャケットを含む反応容器中、25±1℃の温度で、遮光して3時間反応させた。次いで、溶液を等体積のPBSで希釈し、そして反応容器から接線流ろ過システムの試料リザーバー内に移した。
【0092】
オメガ型カセット(30kDa MWカットオフ、Pall Corporation)を用いて、接線流ろ過技術を実行して、10mMのPBSに対して修飾タンパク質を、8~12mg/mlの濃度まで精製し、そして濃縮した。
【0093】
次いで、溶液をPBS溶液中のPEG-DAでさらに希釈して、6~8mg/mlのタンパク質濃度および1:120(±20)のPEG-DAおよびタンパク質のモル比を達成した。次いで、溶液を、高剪断流体プロセッサ(Microfluidics M110-Y、米国)に通過させて、均一な粒子サイズ減少を達成した。
【0094】
実施例3:ヒト由来のPEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲートの調製(未精製フィブリノーゲン・シーラント)
8M尿素を含む10mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の7mg/mlのヒト・フィブリノーゲン(TESSEEL-タンパク質シーラント、Baxter、米国)溶液を、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP-HCl)(Sigma)で調製した。TCEP-HClを、1~1.5:1 TCEP対フィブリノーゲン・システインのモル比で添加した。NaOHで溶液pHを8.0に修正した。PEG-DAを10mM PBSおよび8M尿素に溶解し(280mg/mL)、溶解したフィブリノーゲン溶液にPEG-DAを添加する前に、完全な溶解を達成した。PEG-DA対フィブリノーゲン・システインのモル比は3:1であった(直鎖PEG-DA、10kDa)。混合物を、サーモスタットジャケットを含む反応容器中、25±1℃の温度で、遮光して3時間反応させた。次いで、溶液を等体積のPBSで希釈し、反応容器から接線流ろ過システムの試料リザーバー内に移した。
【0095】
オメガ型カセット(30kDa MWカットオフ、Pall Corporation)を用いて、接線流ろ過技術を実行して、10mMのPBSに対して修飾タンパク質を、8~12mg/mlの濃度まで精製し、濃縮した。
【0096】
次いで、溶液をPBS溶液中のPEG-DAでさらに希釈して、6~8mg/mlのタンパク質濃度および1:120(±20)のPEG-DAおよびタンパク質のモル比を達成した。次いで、溶液を、高剪断流体プロセッサ(Microfluidics M110-Y、米国)に通過させて、均一な粒子サイズ減少を達成した。
【0097】
実施例4:2バイアル配合物を利用したヒドロゲルの調製
実施例2または3で調製したようなPEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲート溶液を、次いで、滅菌のため、0.2μmフィルターを通じてろ過した。ろ過溶液を、無菌条件下でバイアル内に充填し、使用まで、-15℃未満の温度で保存した。
【0098】
70%エタノールおよび注射溶液用の水中の10%w/v Irgacure 2959(BASF、スイス)の光開始剤ストック溶液を調製した。ストック溶液を、滅菌のため、0.2μmフィルターを通じてろ過した。ろ過した光開始剤溶液を、無菌条件下でバイアル内に充填し、使用まで、-15℃未満の温度で保存した。
【0099】
PEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲート溶液を光硬化し、対応する架橋ヒドロゲルを生成するため、光開始剤ストック溶液を、実施例2または3で調製したようなPEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲート溶液に添加し、Irgacure 2959の0.1%w/vの最終濃度を達成して、UV光への曝露前に、勢いよく混合した。
【0100】
実施例5:安定な単一バイアルのすぐに使えるプレゲル化配合物の調製
実施例2または3で調製したようなPEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲート溶液を、IRGACURE(登録商標)2959(BASF、スイス)とさらに混合して、IRGACURE 2959の0.1%(w/v)の最終濃度を達成して、完全に溶解するまで攪拌した。光開始剤試薬を含有するPEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲート溶液を、滅菌のため、0.2μmフィルターを通じてろ過した。ろ過した溶液を、無菌条件下でバイアル内に充填し、使用まで、-15℃未満の温度で保存した。
【0101】
実施例6:単一バイアル配合物由来のヒドロゲルの機械的安定性およびゲル化動力学
5mW/cmの強度で、365nmで動作する紫外光源(例えばOmniCure(登録商標)S1000)に連結されたレオメータ、AR-G2;TA Instrumentsを用いて、2バイアル配合物および単一バイアル配合物の両方から得たヒドロゲル試料のレオロジー研究を行った。0.2ml試料の剪断貯蔵弾性率G’を測定し、そして記録した。Excelを用いてデータをさらに処理し、そして最大G’値(G’ Max)ならびにG’ Maxに到達するまでの時間を分析した。
【0102】
さらに、交互の温度セットポイントを適用して、凍結融解周期を促進することによって、ゲルの機械的特性に対するプレ架橋状態のヒドロゲル組成物の凍結および融解の影響を試験した。表2に要約するように、2つのヒドロゲル配合物(2バイアルおよび単一バイアル)を、-20℃でインキュベーションした後、2~9℃(5℃と表示)でインキュベーションした。2バイアル配合物の場合、2つのバイアルに別個に凍結および融解周期を実行する一方、PEG-DA-フィブリノーゲン・コンジュゲート溶液および光開始剤溶液の混合後、形成されたヒドロゲルのゲル化時間および機械的特性を測定した。
【表2】
【0103】
結果:
(1)2バイアル配合物および単一バイアル配合物から生じたゲルの機械的安定性試験は、等しく安定なヒドロゲルであることを示した。これらの結果は、プレゲル化コンジュゲート溶液を含む単一バイアル中の光開始剤の存在が、新鮮に混合されたPEG-DA-フィブリノーゲン溶液および光開始剤に比較して、材料の架橋特性を損なわないことを確認する(図2)。さらに、凍結融解周期は、図2に示すように、どちらのゲル配合物の架橋特性にも、いかなる検出可能な影響を持たないようである。
【0104】
(2)ゲル化動力学研究は、どちらの試験ヒドロゲルに関しても、類似のゲル化時間を示した。G’ Maxに到達するまでの測定ゲル化時間は、凍結融解周期によってわずかに影響を受けるようであり、そして最初の周期後のゲル化時間にわずかな減少を示した(図3)。
【0105】
実施例7:単一バイアルまたは2バイアル配合物いずれかから生じたヒドロゲルの長期比較安定性研究
2バイアルまたは単一バイアル配合物として保存されたPEG-フィブリノーゲン・ヒドロゲル溶液の長期安定性を、新鮮に調製した溶液(ゼロ時点)で得た、および-20℃で少なくとも1年間の保存(終点)後に得た、最大剪断貯蔵弾性力(G’ Max)を比較することによって、評価した。レオロジー測定値の詳細を、本明細書において、上記に記載する(実施例6)。
【表3】
【0106】
「%回復」の計算値は、ゼロ時点で測定された最初のG’ Max値に比較した、終点で測定された相対G’ Max値を指す(%)。
【0107】
結果は、2バイアルおよび単一バイアル配合物の両方に関して、長期保存後の高い%回復値を示す。単一バイアル配合物から生じたヒドロゲルの回復は、2バイアル配合物から生じたものと匹敵し、適切な保存(-20℃)下で、長期の有効期間を持つ、完全に機能するすぐに使えるヒドロゲルの形成を可能にする、新規単一バイアル配合物の好適な安定性が実証される。
【0108】
実施例8:安定なすぐに使えるプレゲル化単一バイアルエタノール不含配合物の調製
撹拌しながら、450mg Irgacure 2959(BASF、スイス)粉末を、450ml PEG-フィブリノーゲン溶液に添加して、0.1%(w/v)光開始剤のすぐに使える配合物を得た。粉末の完全な溶解が観察されるまで、撹拌を続けた。次いで、溶液を高剪断流体プロセッサ(Microfluidics M110-Y、米国)に通過させ、均一な粒子サイズ減少を達成し、そして0.2μmフィルター(滅菌ろ過)に通過させた。次いで、均質で無菌の混合物を3mlアリコットまたはシリンジに分割して、簡便で使いやすい容器中のすぐに使える配合物を得た。
【0109】
実施例9:エタノール不含のすぐに使える配合物の長期安定性研究および生じたヒドロゲル型の機械的特性
実施例8にしたがって調製した2つの試料を、-20℃で6ヶ月の期間、保存した。6ヶ月後、試料を融解し、そしてUV光源(l=365nm、I=5mW/cm)(IlluminOss Medical Inc、ロードアイランド州イーストプロビデンス)を利用して、1分間の期間、UVに曝露した。
【0110】
どちらの試料もUV曝露に際して成功裡に架橋され、その機械的特性を測定した。
【0111】
20mm直径平行プレート配置を装備されたAR-G2平行プレートレオメータ(TA Instruments、デラウェア州ニューキャッスル)を用いて、GelrinCのレオロジー特徴付けを行った。3rad/sの角振動数および2%ひずみを用いて、タイムスイープ測定を行った。
【表4】
【0112】
結果は、長期保存期間後、保存されたプレゲル化配合物の完全な回復を示す。形成されたヒドロゲルは、元来のG’ Max値を獲得し、エタノール不含新規単一バイアル配合物の安定性を示した。
【0113】
実施例10:ヒドロゲル機械的特性およびゲル形成動力学の比較研究
有機溶媒不含法、すなわち「改善されたプロセス」、ならびにWO 2005/061018、WO 2008/126092およびWO 2011/073991に開示されるようなプロセス、すなわち「以前のプロセス」の両方から由来するヒドロゲルについて、類似条件下で、レオロジー特性およびゲル化動力学に関して研究した。
【0114】
光力学的硬化系(Illuminoss 75、Illuminoss Inc.、ロードアイランド州プロビデンス)によって、200μl試料に適用される100mw/cmまたは5mw/cmのUVA照射強度で、20mm平鋼配置で装備されたAR-G2レオメータ(TA Instruments、デラウェア州ニューキャッスル)を用いて、レオロジー測定を行った。UV強度計を用いて、架橋前に、照射強度を測定した。
【0115】
圧縮試験(ヤング率):一軸圧縮試験を用いて、試料のヤング率(E)を測定した。温度制御のためのペルチエプレートおよび20mmステンレススチール配置を装備したAR-G2装置(TA Instruments)のスクイーズ/プル試験を用いて、圧縮測定を行った。試料(体積0.17ml)を、100mW/cmでの90秒照射を用いて、シリンダー状テフロンモールド(φ=6mm、h=6mm)中で架橋した。UV強度計を用いて、架橋前に、照射強度を測定した。
【0116】
a)硬化プロセス比較:剪断貯蔵弾性率対時間
時間の関数としての剪断貯蔵弾性率(G’)のレオロジー測定は、有機溶媒の使用を伴わず、より具体的には、ゲル調製のためにアセトン沈殿またはエタノール添加を含まない、改善されたプロセスが、硬化プロセス動力学に関して、有機溶媒の使用を含むものと類似のヒドロゲル前駆体を生じることを立証した。光化学反応は、100mW/cmのUVA光への曝露90秒間の間に起こり、測定開始の60秒後に開始された(図4)。動力学プロファイルは、類似の傾向を示し、これは、改善された有機溶媒不含ゲルが、以前開示されたゲルと同程度に機械的にロバストであるが、改善された生体適合性、および環境に優しくない大量の有機溶媒の使用を伴わない、より効率的な調製プロセスの両方を有することを示す。
【0117】
b)改善されたプロセス(有機溶媒不含)および以前開示されたプロセスの両方から生じるゲルに関して、最大剪断貯蔵弾性率(G’ max)およびG’ maxに到達する時間を測定した。硬化動力学データの分析は、改善された方法の場合のG’ maxに到達するために必要な時間が、以前開示された方法で必要とされる時間と同様であることを示す(表5)。さらに、得られたG’max値はまた、両方の材料に関して統計的に異ならず(表6)、改善されたプロセスが、有機溶媒を利用する必要性を伴わずに、機械的特性および動力学に関して所望のゲルを生じ、これによって、改善された調製プロセスおよび生体適合性ゲル組成が可能になることが示唆される。
【表5】
【表6】
【0118】
c)改善されたプロセスおよび以前開示されたプロセスの両方から得たヒドロゲルに関して、粘弾特性の測定を行った。振動数(図5)およびひずみ(図6)の関数としての剪断貯蔵弾性率(G’)および剪断損失弾性率(G”)のレオロジー測定は、有機溶媒の使用を回避する改善されたプロセスが、以前開示されたヒドロゲル組成物と類似の粘弾特性を生じ、そしてしたがって増加した生体適合性および改善された調製プロセスを有しながら、所望の粘弾特性を提供することを示した。
【0119】
d)改善されたプロセスおよび以前開示されたプロセスの両方から得たヒドロゲルに関するヤング率(E)測定。両方のヒドロゲル試料のシリンダー状試料の圧縮試験分析は、表7に示すようにその弾性特性に関して、統計的に異ならないことを示した。結果は、ヒドロゲル調製のために、有機溶媒、より具体的にはアセトンおよびエタノールの使用を回避する改善されたプロセスが、ヒドロゲル産物の得られた弾性を脅かすことなく、有益な機械的特性を維持することを裏付ける。
【表7】
【0120】
特定の態様の前述の例は、本発明の一般的な性質を完全に明らかにし、したがって、現在の知識を適用することによって、過度の実験を伴わず、そして一般的な概念から逸脱することなく、こうした特定の態様を容易に変形し、そして/または多様な適用に適合させることが可能であり、そしてしたがって、こうした適合および変形は、開示する態様の均等物の意味および範囲内に含まれるべきであり、そしてそのように意図される。本明細書で採用する表現または専門用語は、説明の目的のためであり、限定するものではないことが理解されるものとする。多様な開示する機能を実行する手段、材料、および工程は、本発明から逸脱することなく、多様な代替型を取ることも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6