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特開2024-123500転がり軸受用保持器および転がり軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123500
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】転がり軸受用保持器および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20240905BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030962
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】高田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】角銅 洋実
(72)【発明者】
【氏名】星野 航平
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA22
3J701BA34
3J701BA46
3J701BA50
3J701CA32
3J701EA01
3J701EA32
3J701EA33
3J701EA36
3J701EA37
3J701FA15
3J701FA51
3J701GA57
(57)【要約】
【課題】保持器強度を確保しつつ、保持器全体が軽量化できる転がり軸受用保持器、および該保持器を用いた転がり軸受を提供する。
【解決手段】保持器5は、転がり軸受において複数の転動体を保持し、転動体を収容するポケット穴を有する円環状の金属部7と、摺動樹脂部16とを有し、金属部7は、周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、金属部7の表面に連通する、トラス構造を構成する部分の空孔部に、摺動樹脂部16の一部が充填されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受において複数の転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、
前記保持器は、前記転動体を収容するポケット穴を有する円環状の金属部と、摺動樹脂部とを有し、
前記金属部は、周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、前記金属部の表面に連通する、前記トラス構造を構成する部分の空孔部に、前記摺動樹脂部の一部が充填されていることを特徴とする転がり軸受用保持器。
【請求項2】
前記金属部は、周方向に延びるトラス構造を構成する部分と軸方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、これらトラス構造は、互いに平行に周方向に延びる複数の周方向柱部と、互いに平行に軸方向に延びる複数の軸方向柱部と、周方向および軸方向の双方に傾斜する方向に延びる複数の斜柱部によって構成されることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
【請求項3】
前記金属部は、さらに、径方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、該トラス構造の一部を、前記軸方向柱部および前記斜柱部の少なくとも一方が構成していることを特徴とする請求項2記載の転がり軸受用保持器。
【請求項4】
前記周方向柱部は全周にわたって延びる円環状をなし、該周方向柱部は軸方向に連通していないことを特徴とする請求項2または請求項3記載の転がり軸受用保持器。
【請求項5】
前記保持器は、内輪または外輪によって案内される転がり軸受用保持器であって、
前記保持器は、前記摺動樹脂部として第1樹脂部と、該第1樹脂部とは組成が異なる第2樹脂部とを有し、前記金属部のポケット穴の内面の少なくとも前記転動体と摺動する部分に前記第1樹脂部が形成されるとともに、前記金属部の前記内輪または前記外輪と摺動する案内部に、前記第2樹脂部が形成されることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
【請求項6】
前記保持器は、前記外輪の内周面に案内される外輪案内方式の保持器であり、
前記金属部は、内径側に位置し、前記トラス構造を構成する部分を有する円環状の第1金属部と、外径側に位置し前記第1金属部が嵌め合わせられ、前記トラス構造を構成する部分を有する円環状の第2金属部とを有し、前記第1金属部に前記第1樹脂部が形成され、前記第2金属部に前記第2樹脂部が形成されることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受用保持器。
【請求項7】
前記第2樹脂部によって前記第1金属部と前記第2金属部が接着されていることを特徴とする請求項6記載の転がり軸受用保持器。
【請求項8】
前記保持器は、前記外輪の内周面に案内される外輪案内方式の保持器であり、
前記金属部の内径側に前記第1樹脂部が形成され、前記金属部の外径側に前記第2樹脂部が形成されることを特徴とする請求項5記載の転がり軸受用保持器。
【請求項9】
前記金属部の前記トラス構造を構成する部分の空孔部に前記第1樹脂部の一部が充填されていることを特徴とする請求項8記載の転がり軸受用保持器。
【請求項10】
内輪および外輪と、この内輪と外輪との間に介在する転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、
前記保持器が、請求項1または請求項2記載の転がり軸受用保持器であることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用保持器および転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットエンジンのターボポンプなどに用いられる軸受は、極低温の液体燃料中の高速回転環境下で使用される。極低温の環境下では、一般に用いられている潤滑油やグリースなどの流動性潤滑剤を使用することが困難である。そのため、転がり軸受用保持器の材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂などが使用されている。このPTFE樹脂などが摺動によって軌道面や転動体に移着することで、軸受の潤滑性が確保される。しかし、樹脂単体で保持器を形成すると、高速回転環境下などでは耐久性の面で難がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、PTFE樹脂をガラス繊維布に含浸させた複合材料をリング状に積層し、ポケットを切削することで得られた保持器が提案されている。この保持器は、表層のガラス繊維を溶解させるため、フッ化水素酸による処理が施されている。この保持器は、ガラス繊維布で強度を付与するととともに、含浸させたPTFE樹脂で自己潤滑性を付与するので、極低温および高速回転環境下でも使用が可能となる。
【0004】
しかし、特許文献1の保持器では、保持器表面のフッ酸処理層以上に摩耗が進むと、ガラス繊維が表面に露出し、自己潤滑性を損なうおそれがある。また一方で、フッ酸処理層を厚くしてガラス繊維の露出の防止を図ると、フッ酸処理時間の増加による製造リードタイムの増加や、ガラス繊維の減少による保持器の強度低下を招くおそれがある。
【0005】
これに対し、特許文献2では、アルミニウムなどの金属基材に固体潤滑剤を含む樹脂をインサート成形し、本体部と樹脂部とを一体化させた保持器が提案されている。この保持器は、保持器強度をアルミニウムなどの金属材で確保するとともに、転動体と摺動するポケット面、および、内輪または外輪と摺動する案内部が樹脂部によって形成されることで潤滑性を確保している。
【0006】
さらに、特許文献3では、金属部と摺動樹脂部とからなり、金属部は、その表面に複数の開口部を有する連通孔を有し、その連通孔を有する金属部は、立体的網目状格子を構成する部分を有し、連通孔に摺動樹脂部を構成する樹脂が配された保持器が提案されている。立体的網目状格子を構成する部分に樹脂が配されることによって、金属部と摺動樹脂部とが密に結合され、インサート成形よりも剥離のリスクをより小さくできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平02-020854号公報
【特許文献2】特許第6178117号公報
【特許文献3】特開2020-169665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献3に記載されるように、立体的網目状格子を構成する部分を持つ金属部を母材として、その格子間の空間に樹脂を配することで構造強度を高める技術が提案されている。しかし、このような構造は、樹脂単体の場合に比べて、保持器の質量が大きくなってしまう。そして、質量の増加は、例えば搭載されるロケットのペイロードの低下や、打ち上げコストの増加などに繋がるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、保持器強度を確保しつつ、保持器全体が軽量化できる転がり軸受用保持器、および該保持器を用いた転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の転がり軸受用保持器は、転がり軸受において複数の転動体を保持する転がり軸受用保持器であって、上記保持器は、上記転動体を収容するポケット穴を有する円環状の金属部と、摺動樹脂部とを有し、上記金属部は、周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、上記金属部の表面に連通する、上記トラス構造を構成する部分の空孔部に、上記摺動樹脂部の一部が充填されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、「トラス構造」とは複数の三角形で構成される骨組構造のことをいう。例えば、周方向に延びるトラス構造とは、周方向に沿って複数の三角形が連なるように構成される骨組構造をいい、軸方向に延びるトラス構造とは、軸方向に沿って複数の三角形が連なるように構成される骨組構造をいい、径方向に延びるトラス構造とは、径方向に沿って複数の三角形が連なるように構成される骨組構造をいう。
【0012】
上記金属部は、周方向に延びるトラス構造を構成する部分と軸方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、これらトラス構造は、互いに平行に周方向に延びる複数の周方向柱部と、互いに平行に軸方向に延びる複数の軸方向柱部と、周方向および軸方向の双方に傾斜する方向に延びる複数の斜柱部によって構成されることを特徴とする。
【0013】
上記金属部は、さらに、径方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、該トラス構造の一部を、上記軸方向柱部および上記斜柱部の少なくとも一方が構成していることを特徴とする。ここで、径方向に延びるトラス構造の一部を構成するとは、当該部分が、径方向に沿って連なる複数の三角形の一辺部を構成することをいう。
【0014】
上記周方向柱部は全周にわたって延びる円環状をなし、該周方向柱部は軸方向に連通していないことを特徴とする。
【0015】
上記保持器は、内輪または外輪によって案内される転がり軸受用保持器であって、上記保持器は、上記摺動樹脂部として第1樹脂部と、該第1樹脂部とは組成が異なる第2樹脂部とを有し、上記金属部のポケット穴の内面の少なくとも上記転動体と摺動する部分に上記第1樹脂部が形成されるとともに、上記金属部の上記内輪または上記外輪と摺動する案内部に、上記第2樹脂部が形成されることを特徴とする。
【0016】
上記保持器は、上記外輪の内周面に案内される外輪案内方式の保持器であり、上記金属部は、内径側に位置し、上記トラス構造を構成する部分を有する円環状の第1金属部と、外径側に位置し上記第1金属部が嵌め合わせられ、上記トラス構造を構成する部分を有する円環状の第2金属部とを有し、上記第1金属部に上記第1樹脂部が形成され、上記第2金属部に上記第2樹脂部が形成されることを特徴とする。
【0017】
上記第2樹脂部によって上記第1金属部と上記第2金属部が接着されていることを特徴とする。
【0018】
上記保持器は、上記外輪の内周面に案内される外輪案内方式の保持器であり、上記金属部の内径側に上記第1樹脂部が形成され、上記金属部の外径側に上記第2樹脂部が形成されることを特徴とする。
【0019】
上記金属部の上記トラス構造を構成する部分の空孔部に上記第1樹脂部の一部が充填されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪と外輪との間に介在する転動体と、この転動体を保持する保持器とを備えてなる転がり軸受であって、上記保持器が、本発明の転がり軸受用保持器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の転がり軸受用保持器は、金属部と摺動樹脂部とからなり、金属部は、周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、金属部の表面に連通する、トラス構造を構成する部分の空孔部に、摺動樹脂部の一部(つまり摺動樹脂部を形成する樹脂組成物)が充填されているので、金属部と摺動樹脂部が密に結合され、摺動樹脂部が金属部から剥離することを防止できる。さらに、円環状の金属部に、周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を持たせることで、空隙率を上げながら保持器強度を維持でき、結果として質量を下げることができる。これにより、保持器強度を確保しつつ、保持器全体が軽量化された保持器が得られる。例えば、ロケットであればペイロードを大きくし、打ち上げコストの低下などに貢献できる。
【0022】
上記金属部は、周方向に延びるトラス構造を構成する部分と軸方向に延びるトラス構造を構成する部分を有しており、これらトラス構造は、複数の周方向柱部と、複数の軸方向柱部と、複数の斜柱部によって構成され、上記金属部は、さらに、径方向に延びるトラス構造を構成する部分を有し、該トラス構造の一部を、軸方向柱部および斜柱部の少なくとも一方が構成するので、周方向、軸方向、および径方向に延びるトラス構造を効率的に構成できるとともに、保持器に負荷される引張荷重を好適に分散させることができる。
【0023】
上記保持器は、金属部のポケット穴の内面の少なくとも転動体と摺動する部分に第1樹脂部が形成されるとともに、金属部の内輪または外輪と摺動する案内部に、第1樹脂部とは組成が異なる第2樹脂部が形成されるので、ポケットと転動体との摺動部と、内輪または外輪の案内部との摺動部とで異なる性能を持つ潤滑部を形成でき、潤滑性能の向上と摩耗の低減を図ることができる。このように保持器を保持器本体と2つの異なる組成の樹脂部で構成することで、2つの相反する性能を持たせることができる。その結果、製品寿命の延長も期待できる。
【0024】
さらに、保持器の一形態として、金属部は、内径側の第1金属部と外径側の第2金属部とを有しており、各金属部のトラス構造を構成する部分の空孔部に各樹脂部の一部(つまり各樹脂部を形成する樹脂組成物)がそれぞれ充填されているので、各金属部のトラス構造と各樹脂部が密に結合され、第1樹脂部および第2樹脂部が各金属部から剥離することを防止できる。さらに、第2樹脂部によって第1金属部と第2金属部が接着されることで、金属部間の密着性を向上できる。
【0025】
また、保持器の他の形態において、金属部の内径側に第1樹脂部が形成され、該金属部の外径側に第2樹脂部が形成され、更に金属部のトラス構造を構成する部分の空孔部に、第1樹脂部の一部(つまり第1樹脂部を形成する樹脂組成物)が充填されるので、ポケットの摺動部を構成する第1樹脂部と金属部のトラス構造が密に結合され、第1樹脂部が金属部から剥離することを防止できる。
【0026】
本発明の転がり軸受は、本発明の転がり軸受用保持器を備える転がり軸受であるので、軸受寿命を増加させることできる。特に、極低温環境下で使用されるロケットエンジンの液体燃料用ターボポンプに使用される軸受として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の転がり軸受の一例を示す軸方向断面の概略図である。
図2】本発明の転がり軸受用保持器の一例の斜視図である。
図3】本発明の転がり軸受用保持器の金属部の一例の斜視図である。
図4図3の金属部の外周面の平面概略図である。
図5図3の金属部の拡大一部断面図である。
図6図5のD-D線端面図である。
図7】本発明の転がり軸受用保持器の他の例を説明するための図である。
図8】本発明の転がり軸受用保持器の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の転がり軸受を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の転がり軸受の一例であるアンギュラ玉軸受の軸方向断面の概略図である。なお、保持器の構成については、細部を省略している。図1に示すように、アンギュラ玉軸受1は、内輪2と、外輪3と、内輪2と外輪3との間に介在する複数の玉4と、この玉4を周方向に一定間隔で保持する保持器5とを備えている。このアンギュラ玉軸受1は、例えば、潤滑油やグリースなどの流動性潤滑剤を使用しない、無潤滑条件下で使用される。内輪2および外輪3と、玉4とは径方向中心線に対して所定の角度θ(接触角)を有して接触しており、ラジアル荷重と一方向のアキシアル荷重を負荷できる。
【0029】
アンギュラ玉軸受1において、内輪2および外輪3はいずれも鋼材からなっている。上記鋼材には、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料を用いることができる。例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、冷間圧延鋼などを用いることができる。また、玉4には、上記の鋼材やセラミックス材料を用いることができる。
【0030】
図1において、保持器5は外輪案内方式の保持器であり、該保持器の外周面の一部に外輪3に案内される案内部を有している。図1の構成では、この案内部が外輪3の内周面と接触することで、保持器5が外輪3に案内される。
【0031】
図2には、本発明の転がり軸受用保持器の一例の斜視図を示す。なお、本発明において、保持器の中心軸に平行な方向を軸方向(Y方向)、中心軸に直交する方向を径方向(Z方向)、中心軸を中心とする軸周りの方向を周方向(X方向)という。図2に示すように、保持器5はもみ抜き型の保持器であり、転動体である玉を保持するポケット6が周方向に一定間隔で複数設けられている。
【0032】
保持器5は、転動体を収容するポケット穴を有する円環状の保持器本体としての金属部7と、摺動樹脂部16とを有する。図2の保持器5においては、摺動樹脂部16は、保持器5の外周面およびポケット面を構成している。具体的には、摺動樹脂部16は、金属部7の外周面の全面を覆うとともに、金属部7のポケット穴の内周面の全面を覆っており、各部を一体に有する。この場合、摺動樹脂部16は、外輪の内周面および各玉に対して摺動する部分となる。図2において、金属部7は保持器5の内周面および幅面に露出している。金属部7を構成する金属には、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス合金、インコネルなどを用いることができる。また、摺動樹脂部16を構成するベース樹脂としては、後述するような潤滑特性に優れる樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
金属部の詳細について、図面に基づいて説明する。図3は、金属部の斜視図を示す。図3に示すように、金属部7は、保持器のポケットを構成するポケット穴8を有する円環状部材である。金属部7は、その表面に複数の開口部10を有する連通孔を有する。具体的には、外周面およびポケット穴8の内面に複数の開口部10を有する。開口部10は、後述するトラス構造に起因して大部分が三角形状となっており、一部がポケット穴8の影響により他の形状となっている。
【0034】
図3に示す金属部7は、平板筒状の内周部9と、平板円環状の複数の周方向柱部11と、複数の軸方向柱部12と、各種斜柱部とで構成されており、これらが接続されて一部材として構成されている。各種斜柱部を所定に配列させることで、トラス構造を構成している。なお、図3において、金属部7の内周面は平坦な曲面で構成され、金属部7の軸方向端面は平坦な平面で構成されている。
【0035】
図3に示すように、金属部7において、外周面の略全面に所定のトラス構造が形成されている。また、ポケット穴8の内面にもトラス構造が形成されている。具体的には、金属部7は、周方向に延びるトラス構造を構成する部分(例えばA部)と、軸方向に延びるトラス構造を構成する部分(例えばB部)と、径方向に延びるトラス構造を構成する部分(図5の例えばC部)とを有する。なお、各図において四角で囲んだA部~C部は、各トラス構造を構成する部分の一部分を示している。トラス構造を構成する部分によって形成される空孔部(内部空間)は、金属部7の表面(外部)と連通しており、連通孔を構成している。
【0036】
例えば、図3では、周方向に延びるトラス構造は軸方向に5列並んで構成されている。各列の間には、全周にわたって延び円環状をなす周方向柱部11が介在している。金属部7において、周方向柱部11は軸方向に連通していない。周方向に延びるトラス構造の複数列のうち、少なくとも1列(好ましくは軸方向両端の少なくとも1列)は、ポケット穴8にかからないように形成される、つまりポケット穴8によってトラス構造が欠けないように形成されることが好ましい。図3では、軸方向両端の各1列が、ポケット穴8に掛からないように全周にわたって形成されている。なお、軸方向両端の各1列に挟まれた3列は、ポケット穴8に分断されながら、ポケット穴間の領域において、周方向に延びるトラス構造を構成している。
【0037】
なお、周方向に延びるトラス構造は、図3に示すような5列に限らず、例えば4列や6列などの偶数列としてもよい。偶数列とした場合、軸方向に延びるトラス構造を対称に形成でき、例えば、組み付け方向の依存性がなく、重量バランスにも優れると考えられる。
【0038】
図3では、軸方向に延びるトラス構造は、ポケット穴間の領域に形成されている。
【0039】
図3において、金属部7の連通孔の開口部10は、保持器のポケット面および案内面に設けられている。ここに樹脂を配して、トラス構造の空孔部の形状の樹脂部を形成するとともに、保持器のポケット面および案内面に、摺動層を形成することによって摺動樹脂部が形成される。すなわち、連通孔でもある空孔部に充填された樹脂は、摺動層によって連結され、摺動樹脂部は一体のものとなる。
【0040】
続いて、トラス構造の詳細について、図4図6を参照して説明する。図4には、金属部の外周面の一部平面図の概要を示す。図4は、周方向に延びるトラス構造と軸方向に延びるトラス構造の一例を説明するための図である。これらトラス構造は、互いに平行にX方向に延びる複数の周方向柱部11と、互いに平行にY方向に延びる複数の軸方向柱部12と、X方向およびY方向の双方に傾斜する方向に延びる複数の斜柱部13によって構成される。斜柱部13は等間隔で折れ曲がるように形成される。
【0041】
ここで、隣接する一組の周方向柱部11と隣接する一組の軸方向柱部12に囲まれた単位ユニット(例えばユニットU)について見ると、斜柱部13は、一方の周方向柱部11の両端部と、対向する周方向柱部11の中央部とをそれぞれ接続するように設けられている。つまり、ユニットUにおいて、一対の斜柱部13、13は、Y方向と平行な直線を軸とした線対称の関係となっている。この場合、一対の斜柱部13、13と1つの周方向柱部11とで形成される開口部10は、Y方向と平行な直線を軸とした線対称な二等辺三角形(正三角形でもよい)となっている。
【0042】
図4では、上記単位ユニット(例えばユニットU)が同じ向きでX方向に連続して配列されている。一方、Y方向には、異なる向きのユニットと同じ向きのユニットとが交互に配列されている。具体的には、ユニットUと、X方向に平行な軸を回転軸としてユニットUを反転させた反転ユニットU’とが、Y方向に交互に配列されている。
【0043】
このように、X-Y平面視において互いに交差する複数の柱部11、12、13によって、周方向に延びるトラス構造と軸方向に延びるトラス構造が構成されており、金属部7に空孔部を持たせつつも高強度化を図ることができる。すなわち、保持器に負荷される引張荷重をこのようなトラス構造によって分散させることで、高い強度を持たせることができる。その結果、各柱部の肉厚を薄くすることができ、強度を維持しつつ、金属部の軽量化を図ることができる。
【0044】
各柱部の肉厚について言うと、例えば斜柱部13のX-Y平面視における肉厚tを、周方向柱部11のY方向における肉厚tおよび軸方向柱部12のX方向における肉厚tに比べて、小さくすることができる。なお、周方向柱部間で肉厚tは互いに同じであってもよく、軸方向柱部間で肉厚tは互いに同じであってもよい。また、周方向柱部間において、軸方向両端に位置する2つの周方向柱部の肉厚を、その他の(中間側に位置する)周方向柱部よりも大きくしてもよい。
【0045】
さらに、図4において、軸方向柱部12および斜柱部13はそれぞれ、Z方向に延びるトラス構造の一部を構成している。すなわち、軸方向柱部12および斜柱部13の紙面奥側に延びるようにトラス構造が形成されている。具体的には、図5のC部に示すように、軸方向柱部12および斜柱部13は径方向の厚み(肉厚)を有する部分となっており、これらの部分がそれぞれ径方向に沿って連なる三角形の一辺部を構成している。
【0046】
軸方向柱部を構成の一部とするトラス構造については、図6を参照して説明する。図6には、図5のD-D線端面図、すなわち、軸方向柱部12上で軸方向に沿って切断した端面図を示す。図6は、径方向に延びるトラス構造の一例を説明するための図である。このトラス構造は、複数の周方向柱部11と、互いに平行にY方向に延びる軸方向柱部12および内周部9と、Y方向およびZ方向の双方に傾斜する方向に延びる複数の斜柱部14によって構成される。
【0047】
ここで、隣接する一組の周方向柱部11と隣接する一組の軸方向柱部12および内周部9に囲まれた単位ユニットについて見ると、斜柱部14は、一方の周方向柱部11の両端部と、対向する周方向柱部11の中央部とをそれぞれ接続するように設けられている。つまり、一対の斜柱部14、14は、Y方向と平行な直線を軸とした線対称の関係となっている。この場合、一対の斜柱部14、14と1つの周方向柱部11とで形成される三角形は、Y方向と平行な直線を軸とした線対称な二等辺三角形(正三角形でもよい)となっている。
【0048】
また、図6に示すように、Y-Z平面視においてトラス構造は軸方向にも延びるように構成されている。すなわち、このトラス構造は、複数の周方向柱部11と、軸方向柱部12および内周部9と、複数の斜柱部14によって構成される。
【0049】
このように、金属部7では、周方向および軸方向に加えて、径方向にも延びるように3次元的にトラス構造が構成されており、保持器に負荷される種々の方向の引張荷重を効率的に分散させることができ、より高い強度を持たせることができる。
【0050】
図6において、各柱部の肉厚について言うと、例えば斜柱部14のY-Z平面視における肉厚tを、周方向柱部11のY方向における肉厚tおよび軸方向柱部12のZ方向における肉厚tに比べて、小さくすることができる。なお、軸方向柱部間で肉厚tは互いに同じであってもよい。
【0051】
また、内周部9のZ方向における肉厚tを、軸方向柱部12のZ方向における肉厚tよりも大きくしてもよい。例えば、内周部9の肉厚tは、金属部7の径方向の厚みTに対して、10%以上40%以下(好ましくは10%以上30%以下)の厚みである。言い換えると、所定のトラス構造で構成される部分が大部分を占めることから、その分軽量化を図ることができる。
【0052】
また、斜柱部を構成の一部とするトラス構造については、図5を参照する。当該トラス構造は、X方向、Y方向およびZ方向に傾斜する方向に延びる複数の斜柱部15が接続されることで構成される。その結果、この場合も径方向に沿って三角形が連なるように形成される。
【0053】
本発明の転がり軸受用保持器において、金属部は、周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を構成する部分を有していればよく、上記図3図6に示した構成に限定されない。
【0054】
本発明の転がり軸受用保持器の金属部は、トラス構造を構成する部分を有するため、構造が複雑になっている。この金属部は、例えば3Dプリンタや精密鋳造によって製造される。
【0055】
なお、上記図2では、摺動樹脂部が金属部の外周面およびポケット穴を覆った形態を示したが、本発明の転がり軸受用保持器はこの形態に限るものではなく、例えば、金属部の全面が摺動樹脂部で覆われた形態も含むものである。
【0056】
本発明の転がり軸受用保持器の摺動樹脂部は、例えば、単一の樹脂組成で構成される。この場合、例えばポケットの内面と案内部は同じ樹脂組成で形成される。一方、摺動する部分によって異なる樹脂組成(例えば第1樹脂部と第2樹脂部)で構成するようにしてもよい。例えば、極低温の環境下といった流動性潤滑剤が適用できないような場合には、保持器に潤滑性が求められるため、ポケットの内面などの摺動部にはPTFE樹脂などの自己潤滑性の高い樹脂が必要となる一方で、軌道輪と摺動する保持器の案内部は、潤滑性よりもむしろ耐摩耗性が必要となり、ポケットの摺動部とは相反する性能が要求される。これに鑑みて、異なる要求特性を満足させるようにしてもよい。
【0057】
一例として、図2に示す保持器5において、ポケット6の内面の少なくとも転動体と摺動する部分に第1樹脂部を形成するとともに、外輪と摺動する案内部に、第1樹脂部とは組成が異なる第2樹脂部を形成してもよい。例えば、第1樹脂部を潤滑性の高い組成とし、第2樹脂部を耐摩耗性の高い組成にすることで、ポケット6の摺動部には自己潤滑性、保持器5の案内部には耐摩耗性といったように、各部の用途に適した性能を付与できる。
【0058】
図2において、摺動樹脂部は、例えば金属部に対して、溶融した樹脂組成物をそれぞれ圧入することなどで形成される。摺動樹脂部を第1樹脂部と第2樹脂部で構成する場合、これら樹脂部は互いに組成が異なっている。ここで、樹脂部の組成が異なるとは、各樹脂部に含まれる原材料の種類(例えば樹脂の種類(分子量などの違いも含む)や添加剤の種類(サイズの違いなども含む)など)が異なる場合の他、原材料の種類がすべて同じで、各原材料の含有率が異なる場合も含む。
【0059】
以下には、摺動樹脂部を第1樹脂部と第2樹脂部で構成する場合について、説明する。まず各樹脂部の組成について説明する。
【0060】
第1樹脂部を構成するベース樹脂としては、潤滑特性に優れる樹脂を用いることが好ましく、例えば、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、PTFE樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)樹脂、超高分子量ポリエチレン(PE)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂などを用いることが好ましい。なお、これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。また、副成分として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂 、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂などの他の樹脂を混合してもよい。
【0061】
上記の樹脂のうち、特にPTFE樹脂は、摺動相手材に移着して摺動部の摩擦係数を低下させる性質に優れるため、好ましい。PTFE樹脂としては、-(CF-CF)n-で表される一般のPTFE樹脂を用いることができ、また、一般のPTFE樹脂にパーフルオロアルキルエーテル基(-C2p-O-)(pは1-4の整数)あるいはポリフルオロアルキル基(H(CF-)(qは1-20の整数)などを導入した変性PTFE樹脂も使用できる。これらのPTFE樹脂および変性PTFE樹脂は、一般的なモールディングパウダーを得る懸濁重合法、ファインパウダーを得る乳化重合法のいずれを採用して得られたものでもよい。また、PTFE樹脂としては、PTFE樹脂をその融点以上で加熱焼成したものを使用できる。また、加熱焼成した粉末に、さらにγ線または電子線などを照射した粉末も使用できる。PTFE樹脂の分子量は、数平均分子量(Mn)が10未満であることが好ましい。
【0062】
一方、第2樹脂部を構成するベース樹脂としては、PAI樹脂、PTFE樹脂、PFA樹脂、超高分子量PE樹脂、PA樹脂、POM樹脂、PEEK樹脂、PPS樹脂などを用いることができる。なお、これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。
【0063】
第1樹脂部および第2樹脂部を形成する樹脂組成物には、必要に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの繊維状補強材を配合できる。繊維状補強材を配合することで、樹脂部の耐摩耗性を向上できる。また、樹脂部の線膨張係数を低減でき、使用時における保持器本体への密着性を向上できる。繊維状補強材の中では、比較的安価なガラス繊維を用いることが好ましい。
【0064】
また、第1樹脂部および第2樹脂部を形成する樹脂組成物には、PTFE樹脂(ベース樹脂にPTFE樹脂を用いる場合を除く)、グラファイト、二硫化タングステン、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄、酸化チタン、シリカなどの無機充填材なども配合できる。これらは単独で配合することも、組み合わせて配合することもできる。
【0065】
各樹脂部において、ベース樹脂の含有率は、樹脂部全体に対して、例えば50質量%以上であり、60質量%~90質量%が好ましく、65質量%~90質量%がより好ましい。また、繊維状補強材は、耐摩耗性や線膨張係数の観点から、樹脂部全体に対して、例えば5質量%~40質量%含まれ、好ましくは10質量%~30質量%含まれる。また、固体潤滑剤が含まれる構成では、固体潤滑剤の含有率は、樹脂部全体に対して、例えば5質量%~20質量%である。また、無機充填材が含まれる構成では、無機充填材の含有率は、樹脂部全体に対して、例えば0.3質量%~5質量%である。
【0066】
保持器の各部における要求特性より、第1樹脂部は潤滑性を有することが好ましく、第2樹脂部は第1樹脂部よりも耐摩耗性が高いことが好ましい。ここで、耐摩耗性が高いとは、各樹脂部を同じ摺動条件のもとで摺動させた際に比摩耗量が小さいことをいう。なお、以下では、2つの樹脂部がこのような関係であることを前提として説明する。
【0067】
例えば、第1樹脂部のベース樹脂にPTFE樹脂を用いる場合、第2樹脂部のベース樹脂にPEEK樹脂やPPS樹脂を用いることで、第2樹脂部の耐摩耗性を相対的に高くできる。また、繊維状補強材や固体潤滑剤や樹脂の種類、配合量などを調整することで、ポケットの摺動部と案内部の要求にそれぞれ合った樹脂部を形成できる。
【0068】
保持器の好ましい形態として、第1樹脂部および第2樹脂部はそれぞれ、ベース樹脂としてのPTFE樹脂と、繊維状補強材を含む。この場合、PTFE樹脂の含有率や、繊維状補強材の含有率、PTFE樹脂の分子量を樹脂部間で異ならせることで、耐摩耗性と自己潤滑性を変化させることができる。具体的には、第2樹脂部におけるPTFE樹脂の含有率を、第1樹脂部におけるPTFE樹脂の含有率よりも少なく、かつ、第2樹脂部における繊維状補強材の含有率を、第1樹脂部における繊維状補強材の含有率よりも多くすることが好ましい。さらに、上記の大小関係を満たした上で、第1樹脂部には、樹脂部全体に対してPTFE樹脂が70質量%~90質量%含まれ、繊維状補強材が10質量%~30質量%含まれ、第2樹脂部には、樹脂部全体に対してPTFE樹脂が65質量%~85質量%含まれ、繊維状補強材が15質量%~35質量%含まれることが好ましい。
【0069】
また、その他として、第2樹脂部に用いるPTFE樹脂の分子量の方を、第1樹脂部に用いるPTFE樹脂の分子量よりも大きくすることで、第2樹脂部の耐摩耗性を相対的に高くできる。
【0070】
このような形態の一例について、図7を用いて説明する。図7に示す軸方向断面図は、保持器の断面を模式的に示している。図7において、保持器25は、保持器25の内径側に位置する保持器内径側部27と、外径側に位置する保持器外径側部30に構成上分けられる。さらに、保持器内径側部27は円環状の金属部(第1金属部)28と樹脂部(第1樹脂部)29で構成されており、保持器外径側部30は円環状の金属部(第2金属部)31と樹脂部(第2樹脂部)32で構成されている。なお、図7では、金属部と樹脂部が混在する部分を、便宜上、網掛けで示している。後述する図8も同様である。
【0071】
図7に示すように、保持器内径側部27の樹脂部29は、玉24と摺動するポケット26の摺動部に形成され、保持器外径側部30の樹脂部32は、外輪23と摺動する案内部に形成されている。図7の構成では、ポケット26の内面の一部が樹脂部32によっても形成されているが、軸受のピッチ円直径PCDよりも保持器内径側部27の外径φを大きくすることで、玉24を自己潤滑性の高い樹脂部29のみで摺動させることができる。またこの場合、ポケット26の内面において樹脂の組成が異なる部分の面、つまり樹脂部29と樹脂部32との境界が、ピッチ円直径PCDよりも外輪23側に位置している。
【0072】
図7において、金属部28は、例えば図3に示したような所定のトラス構造を構成する部分を有する金属部で構成される。
【0073】
また、金属部31は、保持器のポケットの一部を構成するポケット穴を有する円環状部材である。この金属部31も、所定のトラス構造を構成する部分を有する。例えば、金属部31は、内周面に周方向、軸方向、および径方向の少なくともいずれかの方向に延びるトラス構造を構成する部分を有する。このトラス構造によって形成される空孔部は、外部と連通しており、連通孔を構成している。金属部31のこのような空孔部に樹脂の一部が充填される。
【0074】
図7の保持器25の製造の一例を示す。まず保持器内径側部の金属部28を準備する。そして、金属部28に対して、樹脂部29の樹脂組成物を加熱圧入する。この際、金属部28のポケット穴の摺動部に樹脂部29が積層される。また、金属部28のトラス構造を構成する部分の空孔部に樹脂組成物が入り込むことで、該空孔部に樹脂部29の一部が充填される。その結果、アンカー効果によって金属部28と樹脂部29が密に結合される。
【0075】
続いて、得られた保持器内径側部27に対して、保持器外径側部の金属部31を嵌め合わせる。そして、金属部31に対して、樹脂部32の樹脂組成物を加熱圧入することで保持器25が得られる。この際、金属部31の外周面に樹脂部32が積層される。また、金属部31のトラス構造を構成する部分の空孔部に樹脂組成物が入り込むことで、該空孔部に樹脂部32の一部が充填される。その結果、アンカー効果によって金属部31と樹脂部32が密に結合される。
【0076】
さらに、樹脂部32を形成する樹脂組成物の加熱圧着によって、金属部28と金属部31とが接着される。つまり、溶融した樹脂組成物の一部が、金属部28と金属部31の隙間と、金属部28の空孔部にも充填されることで、優れたアンカー効果が発揮できる。さらに、金属部28の外径面に存在する樹脂部29と溶融した樹脂組成物が加熱圧着することで樹脂部29と樹脂部32間においても結合される。また、接着剤の役割を果たす樹脂部32は、密着性の観点から、線膨張係数が樹脂部29の線膨張係数よりも低いことが好ましい。
【0077】
上述したように、図7に示す保持器では、保持器を内径側部と外径側部の2つの部品に分け、それぞれに異なる組成の樹脂を圧入することで2種類の潤滑部を形成している。具体的には、各部品に対して樹脂を段階的に流し込むことで、案内部には保持器外径側部に使用した樹脂層が形成され、ポケットの摺動部には主に保持器内径側部に使用した樹脂層が形成される。これにより、案内部には耐摩耗性を高めた潤滑層を形成でき、ポケットの内面には自己潤滑性を高めた潤滑層を形成できる。また、トラス構造を有する金属部に対して樹脂を圧入して、各樹脂部を形成することで、インサート成形よりも金属部と樹脂部が密に結合され、樹脂部の耐剥離性に優れる。
【0078】
なお、各樹脂部は、金属部のトラス構造の空孔部に溶融した樹脂組成物を流し込むこと以外にも形成できる。例えば、粉体状のまま加圧または振動させて、空孔部に樹脂を導入した後、焼成することによっても形成できる。また、圧縮成形、押出成形、射出成形などの通常の方法も採用できる。
【0079】
上記のような形態の他の例について、図8を用いて説明する。図8に示す保持器45は、1つの円環状の金属部47に対して、樹脂部48および樹脂部49がそれぞれ形成される。樹脂部48は、玉44と摺動するポケット46の摺動部に形成され、樹脂部49は、外輪43と摺動する案内部に形成されている。また、保持器45においても、ポケット46の内面における樹脂部48と樹脂部49との境界をピッチ円直径PCDよりも外輪43側に位置させることで玉44を自己潤滑性の高い樹脂部48のみで摺動させることができる。
【0080】
なお、図8において、金属部47は、例えば、図3とは異なり、所定のトラス構造を構成する部分を内周面に有する金属部で構成される。この場合、外周部は平板円筒状に形成される。
【0081】
図8の保持器45の製造の一例を示す。まず、金属部47を準備する。そして、金属部47の外周面を型に固定して樹脂部48の樹脂組成物を圧入する。この際、金属部47のポケット穴の摺動部に樹脂部48が積層される。また、金属部47のトラス構造を構成する部分の空孔部に樹脂組成物が入り込むことで、該空孔部に樹脂部48の一部が充填される。その結果、アンカー効果によって金属部47と樹脂部48が密に結合される。
【0082】
続いて、樹脂部48が形成された金属部47の内周面を型に固定して、金属部47の外周面に対して樹脂部49の樹脂組成物を圧入する。その結果、案内部に樹脂部49が積層される。また、樹脂の圧入後、必要に応じて、不要な樹脂部分を削り取ってもよい。
【0083】
上述したように、図8に示す保持器では、1つの円環状の金属部に、内径側と外径側とで異なる組成の樹脂部を成形することで2種類の潤滑部を形成している。この保持器は、図7で示した保持器に比べて、金属部品の工数が減るため安価となるが、案内部に形成される樹脂部49の密着強度は図7で示した保持器に比べて低くなる。なお、樹脂部49の密着強度を高めるため、金属部47の外周面に粗面化処理などを施してもよい。粗面化処理としては、ショットブラスト法などの機械的粗面化法、グロー放電やブラズマ放電処理などの電気的粗面化法、アルカリ処理などの化学的粗面化法などが採用できる。
【0084】
上記では、保持器として外輪案内方式を示したが、これに限らず、内輪の外周面と摺動させて案内する内輪案内方式としてもよい。この場合、案内部となる保持器の内周面に、耐摩耗性を向上させた樹脂部(第2樹脂部)を形成することが好ましい。またその場合、第1樹脂部と第2樹脂部との境界が、ピッチ円直径PCDよりも内輪側に位置する。
【0085】
本発明の転がり軸受は、保持器が上記構造を有することから、流動性潤滑剤が使用されない環境下でも使用できる。特に、液体水素、液体酸素、液体窒素、液化天然ガスなどが用いられる極低温環境下や、真空環境下での使用に適している。具体的には、ロケットエンジンの液体燃料用ターボポンプや、人工衛星などの宇宙用機器などに使用できる。なお、極低温環境下に限らず、例えば常温以上の環境下でも使用できる。
【0086】
図1などでは、本発明の転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を例に説明したが、本発明を適用できる軸受形式はこれに限定されず、他の玉軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受などにも適用できる。
【0087】
今回開示された各実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の転がり軸受用保持器は、金属部が所定のトラス構造を構成する部分を有するので、質量を下げるべく金属部の見かけ密度を下げつつも強度の維持が可能である。すなわち、保持器強度を確保しつつ、保持器全体が軽量化できるので、強度と軽量化が求められる保持器として幅広く用いることができる。例えば、保持器が軽量化されることでシステム全体の総質量の軽量化に貢献できる。例えば、ロケットエンジンの軸受であれば、軽量化によりペイロードの質量の増加や打ち上げコストの低下などが期待できる。
【符号の説明】
【0089】
1 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
2 内輪
3 外輪
4 玉
5 保持器
6 ポケット
7 金属部
8 ポケット穴
9 内周部
10 開口部
11 周方向柱部
12 軸方向柱部
13 斜柱部
14 斜柱部
15 斜柱部
16 摺動樹脂部
21 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
22 内輪
23 外輪
24 玉
25 保持器
26 ポケット
27 保持器内径側部
28 金属部(第1金属部)
29 樹脂部(第1樹脂部)
30 保持器外径側部
31 金属部(第2金属部)
32 樹脂部(第2樹脂部)
41 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
42 内輪
43 外輪
44 玉
45 保持器
46 ポケット
47 金属部
48 樹脂部(第1樹脂部)
49 樹脂部(第2樹脂部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8