(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123511
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ラジアントチューブの穴開き検知方法
(51)【国際特許分類】
G01M 3/22 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
G01M3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030988
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】浅川 一樹
(72)【発明者】
【氏名】高畑 大樹
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA11
2G067AA34
2G067BB02
2G067BB03
2G067CC04
2G067DD17
(57)【要約】
【課題】ラジアントチューブの穴開きの有無を確実に検知できるラジアントチューブの穴開き検知方法を提供する。
【解決手段】還元性雰囲気または不活性雰囲気の熱処理炉で被熱処理材を加熱するラジアントチューブの穴開きを検知するラジアントチューブの穴開き検知方法であって、負圧状態のラジアントチューブ内の検知ガスが検出されなくなるまでラジアントチューブ内に空気を流入させて、ラジアントチューブ内を空気で置換した後、負圧状態のままラジアントチューブ内への空気の流入を閉止し、該閉止状態でのラジアントチューブ内の酸素濃度に基づいてラジアントチューブの穴開きの有無を検知する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性雰囲気または不活性雰囲気の熱処理炉で被熱処理材を加熱するラジアントチューブの穴開きを検知するラジアントチューブの穴開き検知方法であって、
負圧状態の前記ラジアントチューブ内の検知ガスが検出されなくなるまで前記ラジアントチューブ内に空気を流入させて、前記ラジアントチューブ内を空気で置換し、
負圧状態のまま前記ラジアントチューブ内への前記空気の流入を閉止し、該閉止状態でのラジアントチューブ内の酸素濃度に基づいて前記ラジアントチューブの穴開きの有無を検知する、ラジアントチューブの穴開き検知方法。
【請求項2】
前記検知ガスは、一酸化炭素、炭化水素またはアンモニアのいずれか、もしくは、一酸化炭素、炭化水素およびアンモニアのうちの2種以上の混合ガスである、請求項1に記載のラジアントチューブの穴開き検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理炉等に用いられるラジアントチューブの穴開き検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉において、還元性雰囲気または不活性雰囲気で熱処理を行う場合、燃焼ガスによる炉内汚染を防止する加熱方式の1つに、ラジアントチューブを用いた間接加熱方式がある。この方式では、加熱されたラジアントチューブからの輻射熱により被熱処理材を熱処理する。ラジアントチューブは入側に設置されたバーナに燃料ガスと燃焼用空気が導入され、燃焼反応により発生した熱で加熱される。
【0003】
このようなラジアントチューブは、耐熱性と耐酸化性に優れた材料で構成されるが、長時間の使用により材料の劣化や減肉が発生し、これにより、ラジアントチューブに穴開きが生じる場合がある。ラジアントチューブに穴開きが生じると、ラジアントチューブ内に熱処理炉内の還元性雰囲気ガスや不活性雰囲気ガスが流入してしまい、ラジアントチューブの加熱効率が低下する。さらに、ラジアントチューブ内に当該ガスが流入することによる熱処理炉内雰囲気ガスの使用量の増加や炉圧の低下、さらには、熱処理炉への燃焼ガスの漏洩による炉内雰囲気の汚染による被熱処理材の表面品質の低下といった、熱処理炉の操業上の問題や被熱処理材の品質上の問題を招く。このため、ラジアントチューブに穴開きが生じた場合には、これを早期に検知して、ラジアントチューブを補修または交換する必要がある。
【0004】
ラジアントチューブの穴開き検知方法として、特許文献1には、ラジアントチューブ内を負圧の状態で空気を流通させて、ラジアントチューブの入側と出側における酸素濃度に差があった場合に穴開きが生じていると判定する方法が開示されている。また、特許文献2には、ラジアントチューブ内のガスを空気で置換して、その状態における特定成分のガス濃度と、ラジアントチューブ内が負圧のまま空気の流入を閉止して保持した状態における特定成分のガスの濃度とを比較することで穴開きを検知する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-295435号公報
【特許文献2】特開2017-166900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された方法では、ラジアントチューブに生じている穴開きが微小な場合、ラジアントチューブの入側と出側で有意な酸素濃度の差が生じず、穴開き発生を見逃す場合があった。
【0007】
特許文献2に開示された方法では、特定成分のガスとして二酸化炭素や水素を利用した場合には、ラジアントチューブを加熱する燃料ガスの成分や燃焼後のガスの成分にも測定対象となる二酸化炭素や水素が含まれるので、ラジアントチューブ内の空気による置換が十分に行われていない場合であってもガス濃度の差が生じる。このため、二酸化炭素や水素の濃度に差が生じた場合に、ラジアントチューブに穴開きが発生しているのか、それとも、空気による置換が十分に行われていないのかが判定できず、ラジアントチューブの穴開きの有無を確実に検知できないという課題があった。本発明はこのような課題を鑑みてなされた発明であり、その目的は、ラジアントチューブの穴開きの有無を確実に検知できるラジアントチューブの穴開き検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]還元性雰囲気または不活性雰囲気の熱処理炉で被熱処理材を加熱するラジアントチューブの穴開きを検知するラジアントチューブの穴開き検知方法であって、負圧状態の前記ラジアントチューブ内の検知ガスが検出されなくなるまで前記ラジアントチューブ内に空気を流入させて、前記ラジアントチューブ内を空気で置換し、負圧状態のまま前記ラジアントチューブ内への前記空気の流入を閉止し、該閉止状態でのラジアントチューブ内の酸素濃度に基づいて前記ラジアントチューブの穴開きの有無を検知する、ラジアントチューブの穴開き検知方法。
[2]前記検知ガスは、一酸化炭素、炭化水素またはアンモニアのいずれか、もしくは、一酸化炭素、炭化水素およびアンモニアのうちの2種以上の混合ガスである、[1]に記載のラジアントチューブの穴開き検知方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検知ガスが検出されなくなるまでラジアントチューブ内のガスを空気で十分に置換してから穴開きを検知するので、ラジアントチューブの穴開きの有無を確実に検知できる。これにより、ラジアントチューブに穴開きが生じた場合にはそれを検知し、当該穴開きを補修し、または、穴開きのないラジアントチューブに交換することで熱処理炉の操業上の問題や被熱処理材の品質上の問題を解決でき、熱処理炉の安定操業の実現に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法を適用するラジアントチューブ式加熱装置10の一例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態を通じて説明する。以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものである。
図1は、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法を適用するラジアントチューブ式加熱装置10の一例を示す断面模式図である。ラジアントチューブ式加熱装置10は、例えば、熱処理炉1の炉壁2に設置され、金属帯等の被熱処理材を加熱する。
【0012】
ラジアントチューブ式加熱装置10は、ラジアントチューブ12と、バーナ14とを有する。バーナ14は、ラジアントチューブ12の入側に設けられる。ラジアントチューブ12は、バーナ14に導入される燃料ガス16および空気20の燃焼反応によって発生した熱によって加熱される。
【0013】
また、ラジアントチューブ12に穴開きが発生した場合であっても熱処理炉1内の還元雰囲気や不活性雰囲気を汚染しないように、ラジアントチューブ12の出側から排ガスが吸引され、ラジアントチューブ12内は負圧状態になっている。このため、ラジアントチューブ12に穴開き26が発生すると、当該負圧によって穴開き26からラジアントチューブ12内に熱処理炉1内の還元性雰囲気ガスや不活性雰囲気ガスが流入する。
【0014】
本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法では、ラジアントチューブ12内が負圧状態になっていることを利用して、ラジアントチューブ12の穴開き26の有無を検知する。すなわち、ラジアントチューブ12に穴開き26が有ると、熱処理炉1の雰囲気ガスがラジアントチューブ12内に侵入するのでラジアントチューブ12内の酸素濃度が低下する。
【0015】
そこで、例えば、予め酸素濃度の閾値を定めておき、測定された酸素濃度が当該閾値未満である場合にはラジアントチューブ12に穴開き26が有ると判定でき、当該穴開きの有無を検知できる。なお、酸素濃度の閾値としては、空気20の平均的な酸素濃度の下限である20体積%を用いるとよい。
【0016】
また、ラジアントチューブ12外となる空気バルブ22へ送給される空気20の酸素濃度を予め測定しておき、ラジアントチューブ12の出側で測定された酸素濃度が空気20の酸素濃度よりも低い場合に、ラジアントチューブ12に穴開き26が有ると判定してもよい。
【0017】
これらの判定方法は、測定された酸素濃度に基づいてラジアントチューブ12の穴開き26の有無を検知する方法の一例である。
【0018】
一方、ラジアントチューブ12内のガスを空気20で十分に置換できていないと、ラジアントチューブ12内の酸素濃度が空気20よりも低くなるので、ラジアントチューブ12の穴開き26の有無を誤って検知してしまう。このため、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法では、ラジアントチューブ12内の検知ガスが検知されなくなるまでラジアントチューブ12内に空気20を流入させ、当該空気20で十分に置換する。ここで、検知ガスとは、置換前にラジアントチューブ12内に存在する燃料ガスの成分である一酸化炭素(CO)、炭化水素(CnHm)またはアンモニア(NH3)のいずれか、もしくは、一酸化炭素、炭化水素およびアンモニアのうちの2種以上の混合ガスである。
【0019】
なお、検知ガスを二酸化炭素(CO2)や水素(H2)とすることは好ましくない。検知ガスを二酸化炭素とすると、二酸化炭素は置換する空気20にも含まれており、その割合は作業環境によって変動しやすい。このため、ラジアントチューブ12内が空気20で十分に置換されたか否かの判定が困難になる場合がある。また、特定成分の検知ガスを水素とすると、水素は熱処理炉1内の還元性雰囲気ガスの主要成分であり、また、水素濃度計はわずかな水素にも敏感に反応する。このため、熱処理炉1の炉壁周辺からラジアントチューブ12内に侵入した水素まで測定してしまうことがあり、ラジアントチューブ12内が空気20で十分に置換されたか否かの判定が困難になる場合がある。
【0020】
これに対し、一酸化炭素、炭化水素またはアンモニアは、燃料ガス16に含まれてラジアントチューブ12内に導入され、置換する空気20には含まれないので、ラジアントチューブ12内が空気20で十分に置換されたか否かの判定が容易である。ラジアントチューブ12内が空気20で十分に置換されたか否かは、測定器を用いてこれら検知ガスの濃度を測定し、当該検知ガスの濃度が0(ゼロ)となって測定器の検出精度未満となっているか否かで判定する。測定された検知ガスの濃度が0となっていれば、ラジアントチューブ12内が空気20で十分に置換されたと判定できる。このように空気20でラジアントチューブ12内を十分に置換することで、酸素濃度の減少が、ラジアントチューブ12の穴開き26によるものに限定されるので、測定された酸素濃度に基づいてラジアントチューブ12の穴開きの有無を確実に検知できるようになる。
【0021】
次に、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法の手順を、
図1及び
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法の一例として酸素濃度の閾値を設けたフロー図である。ラジアントチューブ12の穴開き検知方法が実施される前までは、バーナ14に燃料ガス16および空気20を供給するため、燃料ガスバルブ18および空気バルブ22は開放されている。
【0022】
ステップS1では、ラジアントチューブ12の出側に設けられる排ガス吸引ブロワー(図示せず)を稼働させ、ラジアントチューブ12内を負圧にしたまま燃料ガスバルブ18のみを閉止し、ラジアントチューブ12内に空気20を流入させ、当該空気20で置換する。
【0023】
ステップS2では、ラジアントチューブ12の出側からラジアントチューブ12内のガスを採取するガス採取ノズル24を差し込んで設置する。
【0024】
ステップS3では、ガス採取ノズル24でラジアントチューブ12内のガスを採取して検知ガスの濃度を測定する。そして、検知ガスの濃度が0となり、測定器の検出精度未満となった場合には空気で十分に置換されたと判定し(ステップS3:No)、処理をステップS6に進める。
【0025】
一方、検知ガスの濃度が0でない場合には、空気で十分に置換されていないと判定し(ステップS3:Yes)、燃料ガスバルブ18にリークがないか確認する(ステップS4)とともに、リークがあった場合(ステップS4:Yes)は、ステップS5でリークを防止して処理をステップS1に戻す。一方、ステップS4でリークがない場合(ステップS4:No)は、そのまま処理をステップS1に戻し、再びステップS1~ステップS3までの処理を繰り返し実施する。
【0026】
ステップS6では、ラジアントチューブ12内を負圧にしたまま空気バルブ22を閉止して、空気20の置換を停止する。
【0027】
ステップS7では、空気20の流入が閉止された状態で、ガス採取ノズル24からラジアントチューブ12内のガスを採取し、酸素濃度を測定する。
【0028】
本例では、ステップS8で、測定された酸素濃度が予め定められた閾値以上か否かを確認する。測定された酸素濃度が予め定められた閾値以上であった場合には(ステップS8:Yes)、処理をステップS9に進める。一方、測定された酸素濃度が予め定められた閾値未満であった場合には(ステップS8:No)、処理をステップS11に進める。
【0029】
ステップS9では、ラジアントチューブ12に穴開き26が無いと判定し、ステップS10で、ラジアントチューブ12を継続して使用する。
【0030】
ステップS11では、ラジアントチューブ12には穴開き26が有ると判定し、ステップS12で、穴開き26が有ることが検知されたラジアントチューブ12の補修や、当該ラジアントチューブ12を穴開き26が生じていない別のラジアントチューブに交換する。
【0031】
このように、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法では、ラジアントチューブ12内の検知ガスが検出されなくなるまで空気で置換してからラジアントチューブの穴開きを検知する。これにより、ラジアントチューブ12内に生じる酸素濃度の減少が、ラジアントチューブ12の穴開き26によるものに限定されるので、測定された酸素濃度に基づいてラジアントチューブ12の穴開きの有無を確実に検知できるようになる。
【実施例0032】
次に、熱処理炉1の一例である連続焼鈍炉に用いられる8本のラジアントチューブ12の穴開きの有無について、本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法で検知した実施例を説明する。連続焼鈍炉の炉内雰囲気は、水素と窒素の混合ガスによって構成された還元性雰囲気である。検知ガスとして、燃焼ガスに含まれる一酸化炭素を用いた。
【0033】
発明例では、ラジアントチューブ12内を、一酸化炭素濃度が0になるまで空気20で十分に置換した。その後、空気20の流入を閉止させ、該閉止状態でラジアントチューブ12内の酸素濃度を測定した。そして、測定された酸素濃度が、20体積%未満であった場合にラジアントチューブ12に穴開き26が有ると判定し、酸素濃度が20体積%以上であった場合にラジアントチューブ12に穴開き26が無いと判定した。
【0034】
比較例では、燃料ガスバルブ18から燃料ガスがリークし、検知ガスである一酸化炭素の濃度が0になる前に空気20の置換を終了した。この条件以外は発明例と同じ方法によりラジアントチューブ12の穴開き26の有無を検知した。
【0035】
その後、ラジアントチューブ12の穴開き26の有無を確認するため、連続焼鈍炉を開放し、目視による外観検査を行って前記8本のラジアントチューブ12の穴開き26の有無を確認した。下記表1にラジアントチューブ12の穴開きの検知結果を示す。
【0036】
【0037】
表1に示すように、発明例であるNo.1~7では、酸素濃度に基づいてラジアントチューブ12の穴開き26の有無を検知した結果と、目視による外観検査による確認結果とが全て一致した。一方、比較例であるNo.8では、酸素濃度に基づいてラジアントチューブ12の穴開き26の有無を検知した結果と、目視による外観検査による確認結果とが一致せず、ラジアントチューブ12の穴開き26の有無が正確に検知できなかった。これらの結果から、検知ガスである一酸化炭素濃度が0.0ppmになるまでラジアントチューブ内を空気20で置換する本実施形態に係るラジアントチューブの穴開き検知方法を用いることで、ラジアントチューブの穴開きの有無を確実に検知できることが確認された。