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特開2024-123512鋸断負荷推定装置、鋸断負荷推定方法、金属材の製造方法および鋸断負荷推定モデルの生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123512
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】鋸断負荷推定装置、鋸断負荷推定方法、金属材の製造方法および鋸断負荷推定モデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 15/00 20060101AFI20240905BHJP
   B21B 1/082 20060101ALI20240905BHJP
   B23D 45/02 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B21B15/00 B
B21B1/082
B23D45/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030989
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】片山 享
(72)【発明者】
【氏名】宮部 佑太郎
(72)【発明者】
【氏名】梶原 諒太
【テーマコード(参考)】
3C040
4E002
【Fターム(参考)】
3C040AA01
3C040BB03
3C040FF01
4E002BD06
(57)【要約】
【課題】鋸断する対象である圧延金属材の熱間圧延条件を考慮して鋸断負荷を推定できる鋸断負荷推定装置を提供する。
【解決手段】熱間圧延工程で圧延された圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定装置であって、鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、熱間圧延工程の操業パラメータおよび鋸断速度を鋸断負荷推定モデルに入力して、圧延金属材の鋸断負荷を出力する鋸断負荷推定部を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延工程で圧延された圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定装置であって、
鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、
前記熱間圧延工程の操業パラメータおよび鋸断速度を鋸断負荷推定モデルに入力して、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力する鋸断負荷推定部を有する、鋸断負荷推定装置。
【請求項2】
前記鋸断負荷推定部は、さらに、鋸断位置を前記鋸断負荷推定モデルに入力して、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力する、請求項1に記載の鋸断負荷推定装置。
【請求項3】
前記鋸断負荷推定部は、さらに、前記熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータのうちの少なくとも1つを前記鋸断負荷推定モデルに入力して前記圧延金属材の鋸断負荷を出力する、請求項1または請求項2に記載の鋸断負荷推定装置。
【請求項4】
前記鋸断負荷推定部によって推定される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を決定する鋸断速度決定部を有する、請求項1または請求項2に記載の鋸断負荷推定装置。
【請求項5】
前記鋸断負荷推定部によって推定される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を決定する鋸断速度決定部を有する、請求項3に記載の鋸断負荷推定装置。
【請求項6】
熱間圧延工程で圧延された圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定方法であって、
鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、
前記熱間圧延工程の操業パラメータおよび鋸断速度を鋸断負荷推定モデルに入力し、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力させて前記鋸断負荷を推定する、鋸断負荷推定方法。
【請求項7】
さらに、鋸断位置を前記鋸断負荷推定モデルに入力し、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力させて前記鋸断負荷を推定する、請求項6に記載の鋸断負荷推定方法。
【請求項8】
さらに、前記熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータのうちの少なくとも1つ前記鋸断負荷推定モデルに入力し、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力させて前記鋸断負荷を推定する、請求項6または請求項7に記載の鋸断負荷推定方法。
【請求項9】
前記鋸断負荷推定モデルから出力される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を決定する、請求項6または請求項7に記載の鋸断負荷推定方法。
【請求項10】
前記鋸断負荷推定モデルから出力される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を決定する、請求項8に記載の鋸断負荷推定方法。
【請求項11】
請求項9に記載された鋸断負荷推定方法によって特定された鋸断速度で前記圧延金属材を鋸断して金属材を製造する、金属材の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載された鋸断負荷推定方法によって特定された鋸断速度で前記圧延金属材を鋸断して金属材を製造する、金属材の製造方法。
【請求項13】
熱間圧延工程で圧延される圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定モデルの生成方法であって、
鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、
過去に鋸断した前記圧延金属材の前記熱間圧延工程の操業パラメータの実績値、鋸断速度の実績値および鋸断負荷の実績値を1組とする複数のデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させ、
前記操業パラメータおよび前記鋸断速度を入力とし、前記鋸断負荷を出力とする鋸断負荷推定モデルを生成する、鋸断負荷推定モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の熱間圧延ラインにおいて、鋸刃を用いて圧延金属材の鋸断を行うときの鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定装置、鋸断負荷推定方法、当該推定に用いる鋸断負荷推定モデルの生成方法および金属材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼や鋼矢板等のウェブおよびフランジを有する形鋼は、形鋼の素材となる鋼片を熱間圧延して所望の断面形状を有する圧延材とし、鋸断装置を用いて、当該圧延材を所定の長さに鋸断することで製造される。この圧延材を鋸断する鋸断装置において、圧延材を鋸断すると鋸刃を駆動する電動機に鋸断負荷が生じる。この鋸断負荷が大きくなり、電動機の許容値を超えると、鋸刃を駆動する電動機に疲労損傷が蓄積し、電動機の寿命が短くなる。このため、鋸断装置では、当該鋸断負荷が鋸断装置の許容値の範囲内になるように制御される。
【0003】
このように鋸断負荷を制御する技術として、特許文献1には、鋸断負荷の跳ね上がりを抑制する鋸断装置が開示されている。特許文献1によれば、鋸刃を移動させるシフト台車位置と負荷電流値との関係を求め、負荷電流値に跳ね上がりが生じている位置よりも前の位置からシフト台車の速度を十分に遅くすることで、当該負荷電流値の跳ね上がりを抑制している。
【0004】
また、特許文献2には、工作機械において、異常な負荷か否かを判断するのに適した閾値を求めることができる機械学習器が開示されている。特許文献2によれば、工作機械の工具の情報、ワークの材質、工具の進行方向、切削速度、主軸回転数、切り込み量およびクーラント量のうちの少なくとも1つを入力とし、負荷電流値を出力とする機械学習モデルを用いて閾値が求められるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-296346号公報
【特許文献2】特開2017-220111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているのは、鋸断負荷の跳ね上がりを抑制する技術であって、鋸断負荷を推定する技術ではない。また、特許文献2では、工作機械に関する情報のみを入力とする機械学習モデルで負荷電流値を推定しており、当該推定では、鋸断する対象である圧延材の圧延条件が考慮されていない、という課題があった。本発明は、このような課題に対してなされた発明であり、その目的は、鋸断する対象である圧延金属材の熱間圧延条件を考慮して鋸断負荷を推定できる鋸断負荷推定装置、鋸断負荷推定方法を提供すること、および、当該鋸断負荷を推定するのに用いる鋸断負荷推定モデルの生成方法、ならびに、金属材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1]熱間圧延工程で圧延された断面形状が同じ圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定装置であって、鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、前記熱間圧延工程の操業パラメータおよび鋸断速度を鋸断負荷推定モデルに入力して、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力する鋸断負荷推定部を有する、鋸断負荷推定装置。
[2]前記鋸断負荷推定部は、さらに、鋸断位置を前記鋸断負荷推定モデルに入力して、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力する、[1]に記載の鋸断負荷推定装置。
[3]前記鋸断負荷推定部は、さらに、前記熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータのうちの少なくとも1つを前記鋸断負荷推定モデルに入力して前記圧延金属材の鋸断負荷を出力する、[1]または[2]に記載の鋸断負荷推定装置。
[4]前記鋸断負荷推定部によって推定される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を決定する鋸断速度決定部を有する、[1]から[3]のいずれかに記載の鋸断負荷推定装置。
[5]熱間圧延工程で圧延された断面形状が同じ圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定方法であって、鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、前記熱間圧延工程の操業パラメータおよび鋸断速度を鋸断負荷推定モデルに入力し、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力させて前記鋸断負荷を推定する、鋸断負荷推定方法。
[6]さらに、鋸断位置を前記鋸断負荷推定モデルに入力し、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力させて前記鋸断負荷を推定する、[5]に記載の鋸断負荷推定方法。
[7]さらに、前記熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータのうちの少なくとも1つ前記鋸断負荷推定モデルに入力し、前記圧延金属材の鋸断負荷を出力させて前記鋸断負荷を推定する、[5]または[6]に記載の鋸断負荷推定方法。
[8]前記鋸断負荷推定モデルから出力される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を決定する、[5]から[7]のいずれかに記載の鋸断負荷推定方法。
[9][8]に記載された鋸断負荷推定方法によって特定された鋸断速度で前記圧延金属材を鋸断して金属材を製造する、金属材の製造方法。
[10]熱間圧延工程で圧延される圧延金属材を鋸断するときに生じる鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定モデルの生成方法であって、鋸断負荷を推定する前記圧延金属材の目標断面形状区分は同一であり、過去に鋸断した前記圧延金属材の前記熱間圧延工程の操業パラメータの実績値、鋸断速度の実績値および鋸断負荷の実績値を1組とする複数のデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させ、前記操業パラメータおよび前記鋸断速度を入力とし、前記鋸断負荷を出力とする鋸断負荷推定モデルを生成する、鋸断負荷推定モデルの生成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱間圧延工程の操業パラメータを含む入力データを入力とし、圧延金属材の鋸断負荷を出力とする鋸断負荷推定モデルを用いて鋸断負荷を推定するので、鋸断する対象である圧延金属材の熱間圧延条件を考慮して鋸断負荷を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、鋼矢板の断面模式図である。
図2図2は、鋼矢板を製造する熱間圧延設備の一例を示す上面模式図である。
図3図3は、鋸断装置の側面模式図である。
図4図4は、一定の鋸断速度で鋼矢板の圧延金属材を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。
図5図5は、鋸断速度を速めて鋼矢板の圧延金属材を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。
図6図6は、鋸断負荷推定装置の機能ブロック図である。
図7図7は、鋸断速度決定部による鋸断速度特定処理のフローを示すフロー図である。
図8図8は、丸鋼の圧延金属材を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。
図9図9は、鋸断速度を速めて丸鋼の圧延材を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。
図10図10は、推定電流値と実測電流値の対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。本実施形態に係る鋸断負荷推定装置および鋸断負荷推定方法では、熱間圧延工程で圧延された、目標断面形状区分が同一となる複数本の圧延金属材を鋸断装置で鋸断して形鋼である金属材を製造するときの鋸断負荷を推定する。製造される形鋼は、例えば、H形鋼やハット形鋼矢板(以後、「鋼矢板」と記載する。)であるが、以下の実施形態では、鋼矢板の圧延金属材を鋸断する例を用いて説明する。また、金属材の材質は鉄に限らず、アルミニウムや銅であってもよい。なお、ここでいう「目標断面形状区分が同一」となる複数本とは、後述するとおり、圧延機に同一のロールセットを用いて製造された複数本の金属材のことをいう。鋼矢板であれば、鋼矢板の型式(例えば、10H、3W、4型など)それぞれで、「目標断面形状区分が同一」となる。H形鋼であれば、ウェブ高さとフランジ幅で区分されるシリーズが「目標断面形状区分が同一」となる。
【0011】
図1は、鋼矢板10の断面模式図である。鋼矢板10は、ウェブ12と、2つのフランジ14と、2つの腕部16と、2つの継手部18とを有する。2つのフランジ14は、ウェブ12の両側から連続して下方に広がるように傾斜して設けられる。2つの腕部16は、フランジ14から連続して水平に広がるように設けられる。2つの継手部18は、2つの腕部16の端部にそれぞれ設けられる。
【0012】
図2は、鋼矢板10を製造する熱間圧延設備20の一例を示す上面模式図である。熱間圧延設備20は、例えば、加熱炉22と、粗圧延機24と、トランスファーベッド26と、中間圧延機28と、仕上圧延機30と、冷却装置32と、テーブルローラ34と、鋸断装置36と、プロセスコンピュータ38と、鋸断負荷推定装置40とを有する。また、粗圧延機24、中間圧延機28、仕上圧延機30の下流側および鋸断装置36の上流側には、圧延金属材11の表面温度を測定する温度センサ25、29、31、33がそれぞれ設けられて、これら温度センサにより、各圧延機の圧延温度および圧延金属材11の鋸断前温度が測定される。また、テーブルローラ34上を搬送される圧延金属材11の長さと質量を測定する不図示のセンサがそれぞれ設けられ、これらセンサにより圧延金属材11の質量と圧延方向の長さが測定される。
【0013】
鋼矢板の素材となるスラブ、ブルームやビームブランク(以下、「スラブ等」と記載する)は、加熱炉22で1100~1350℃に加熱される。加熱炉22で加熱されたスラブ等は、粗圧延機24で粗圧延される。粗圧延機24は、複数の「孔型」が刻設された上下一対のロールを有し、当該ロールで圧延することで、スラブ等は、鋼矢板の概略形状が造形された粗形鋼片に圧延される。粗形鋼片は、トランスファーベッド26によって粗圧延ラインから中間・仕上圧延ラインに横移動される。
【0014】
中間圧延機28では、さらに断面形状が鋼矢板に近づけるように、粗形鋼片が中間圧延される。仕上圧延機30では、断面形状が鋼矢板になるように仕上げ圧延される。仕上圧延機30によって圧延され、断面形状が鋼矢板となった圧延金属材11は、冷却装置32で水冷された後、テーブルローラ34に搬送される。そして、テーブルローラ34上を搬送される圧延金属材11は、鋸断装置36によって鋸断されて、所定長さの鋼矢板10が製造される。
【0015】
プロセスコンピュータ38は、熱間圧延設備20を構成する各装置と有線または無線で接続され、鋼矢板10の製造工程を統括する。プロセスコンピュータ38は、鋼矢板10の製造条件に基づいて熱間圧延設備20を構成する各装置の製造パラメータを設定するとともに、各装置から製造実績データを収集して格納する。また、プロセスコンピュータ38は、鋸断負荷推定装置40と有線または無線で接続され、鋸断負荷推定装置40が鋸断負荷を推定するのに必要な製造パラメータの設定値や製造実績データの送受信を行う。なお、熱間圧延設備20を構成する各装置は、各装置を制御する制御装置を有していてもよい。この場合、プロセスコンピュータ38は、当該制御装置と接続して、製造パラメータの設定や製造実績データの収集を行う。
【0016】
鋸断負荷推定装置40は、鋸断装置36によって圧延金属材11が鋸断されるときの鋸断負荷を推定する。また、鋸断負荷推定装置40は、プロセスコンピュータ38から鋸断負荷の推定に用いる製造パラメータの設定値や製造実績データを取得する。
【0017】
鋸断負荷推定装置40は、鋸断負荷を推定する場合においては、プロセスコンピュータ38から鋸断負荷を推定する圧延金属材11の熱間圧延工程の操業パラメータと、特定の鋸断位置における鋸断速度の設定値を取得して鋸断負荷を推定する。ここで、熱間圧延工程の操業パラメータとは、加熱炉22での加熱温度、粗圧延機24の圧延温度および圧延時間、中間圧延機28の圧延温度および圧延時間、仕上圧延機30の圧延温度および圧延時間のうちの少なくとも1つである。
【0018】
図3は、鋸断装置36の側面模式図である。鋸断装置36は、駆動装置42と、台車44と、電動機46と、駆動伝達ベルト48と、鋸刃50とを有する。電動機46は、駆動伝達ベルト48を介して回転駆動力を鋸刃50に伝達することで鋸刃50を回転させる。電動機46、駆動伝達ベルト48および鋸刃50は、台車44の上に載置されている。駆動装置42は、台車44を圧延金属材11に向けて往復運動させる。これにより、鋸刃50によって圧延金属材11が鋸断される。
【0019】
また、駆動装置42は、台車44の位置を時間に対応つけてプロセスコンピュータ38に出力する。さらに電動機46は、電動機46の負荷電流値を時間に対応つけてプロセスコンピュータ38に出力する。プロセスコンピュータ38は、台車44の位置を取得すると、当該位置に対応ついた時間を参照して、鋸断位置と当該鋸断位置における鋸断速度とを特定する。さらに、プロセスコンピュータ38は、負荷電流値を取得すると、当該負荷電流値に対応ついた時間及び駆動装置42から取得した情報を参照して、各鋸断位置における鋸断負荷を特定する。
【0020】
次に、鋸断装置36で圧延金属材11を鋸断したときの鋸断負荷について説明する。図4は、一定の鋸断速度で鋼矢板の圧延金属材11を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。図4(a)は、鋼矢板の圧延金属材11の鋸断位置を示す図である。図4(a)の破線は鋸刃50の外形を示す。また、図4(b)は、鋸断位置と鋸断速度との関係を示すグラフであり、図4(c)は、鋸断位置と鋸断負荷との関係を示すグラフである。図4(a)の鋸断位置(1)~(6)は、図4(b)、(c)における鋸断位置(1)~(6)に対応している。
【0021】
図4(a)に示すように、左側から右側に鋸刃50が移動し、鋼矢板の圧延金属材11に接近していく。鋸刃50は、図4の(1)の位置で鋼矢板の圧延材に接触して鋸断し始める。鋸刃50がさらに右側に移動して鋼矢板を鋸断し、(6)の位置に至ることで鋼矢板の圧延金属材11が鋸断され鋼矢板10が製造される。
【0022】
図4(b)は、鋸断位置ごとの鋸断速度を示している。図4(b)に示すように、鋸刃50は、圧延金属材11に接触する直前までは高速で移動される。(1)の位置で鋸刃50が圧延金属材11に接触する直前に、鋸断速度が基準速度まで下げられる。その後、鋸刃50は、基準速度のまま一定速度で(6)の位置まで移動され、圧延金属材11が鋸断される。
【0023】
図4(c)は、鋸断位置ごとの鋸断負荷(電流値)を示している。図4(c)に示すように、(1)の位置で鋸刃50が圧延金属材11に接触すると鋸断負荷は高くなり、(2)の位置に移動し、鋸刃50がフランジ14に接触すると鋸断負荷はさらに高くなった。鋸刃50が(2)の位置を過ぎ、(3)の位置に移動すると鋸断負荷は小さくなり、(4)の位置に移動するとさらに鋸断負荷は小さくなった。その後、(5)、(6)の位置で鋸断負荷が若干大きくなって、圧延金属材11の鋸断が終了すると、鋸断負荷は大きく低下した。
【0024】
図4(c)に示した鋸断負荷のプロファイルから、鋸断負荷は、鋸刃50と圧延金属材11との接触長さが長くなると大きくなり、接触長さが短くなると小さくなることがわかる。すなわち、図4(a)に示すように、(2)の鋸断位置においては、鋸刃50とフランジ14との接触長さが最も長くなるので、(2)の鋸断位置において最も大きな鋸断負荷が発生した。また、(1)、(5)、(6)の鋸断位置では、その次に鋸刃50との接触長さが長くなり、且つ、左右で同じような接触長さになるので、鋸断の開始直後および鋸断の終了付近に同程度の大きさの鋸断負荷が発生した。一方、(3)、(4)の鋸断位置では、鋸刃50と圧延金属材11との接触長さが短くなるので、(3)、(4)の鋸断位置では鋸断負荷が小さくなった。
【0025】
また、鋸断装置36では、鋸断速度を速くすると鋸断負荷が大きくなり、鋸断速度を遅くすると鋸断負荷が小さくなることが知られている。図4(c)に示すように、鋸刃50と圧延金属材11との接触長さにより鋸断負荷が変化するので、鋸断負荷が小さくなる(3)、(4)の鋸断位置では、鋸断速度を速くして鋸断の生産性を高められる可能性がある。
【0026】
図5は、鋸断速度を速めて鋼矢板の圧延金属材11を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。図5(a)は、鋼矢板の圧延金属材11の鋸断位置を示す図であり、図4(a)と同じ図である。また、図5(b)は、鋸断位置と鋸断速度との関係を示すグラフであり、図5(c)は、鋸断位置と鋸断負荷との関係を示すグラフである。なお、図5においても、図5(a)の鋸断位置(1)~(6)は、図5(b)、(c)における鋸断位置(1)~(6)に対応している。
【0027】
図5(b)に示すように、図5に示した例では、鋸断負荷が小さくなる(3)、(4)の鋸断位置において鋸断速度を速くしている。このため、図5(c)に示すように、(3)、(4)の位置の鋸断負荷が高くなっている。しかしながら、この位置での鋸断負荷は鋸断装置36の設備上限値よりも低くなっているので、この鋸断負荷の上昇により問題が発生することはない。なお、鋸断負荷を設備上限値より低くことは、鋸断負荷を予め定められた目標負荷の範囲内にすることの一例である。
【0028】
このように、鋸断負荷が低くなる鋸断位置では、鋸断負荷を予め定められた目標負荷の範囲内としつつ鋸断速度を速めて、鋸断の生産性を向上させることができる。そして、鋸断速度を上昇させたときの鋸断負荷を高い精度で推定できるようになれば、上限値を確実に超えないように定められる安全率を小さくすることができるので、さらに鋸断速度を速めて、鋸断の生産性を高めることができるようになる。
【0029】
次に、鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定装置40を説明する。図6は、鋸断負荷推定装置の機能ブロック図である。鋸断負荷推定装置40は、例えば、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータである。鋸断負荷推定装置40は、制御部52と、入力部54と、出力部56と、格納部58とを有する。制御部52は、例えば、CPU等であって、格納部58に格納されたプログラムを実行することで、データ取得部60、鋸断負荷推定部62、鋸断速度決定部64および鋸断負荷推定モデル生成部66として機能する。
【0030】
入力部54は、例えば、キーボード、ディスプレイと一体的に設けられたタッチパネル等である。出力部56は、例えば、LCDまたはCRTディスプレイ等である。格納部58は、例えば、更新記録可能なフラッシュメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカード等の情報記録媒体およびその読み書き装置である。格納部58には、データベース68、鋸断負荷推定モデル70が格納されている。データベース68には、過去に同じ熱間圧延設備20(粗圧延機24、中間圧延機28、仕上圧延機30のロールセットが同一)で圧延され、鋸断装置36で鋸断された目標断面形状区分が同一となる圧延金属材11の熱間圧延工程の操業パラメータ、特定の鋸断位置における鋸断速度、鋸断負荷を1組とするデータセットが100以上格納されている。なお、特定の鋸断位置とは、例えば、図4(a)における(3)または(4)の鋸断位置であってよい。
【0031】
鋸断負荷推定モデル70は、データベース68に格納されているデータセットを教師データとして機械学習された学習済の機械学習モデルである。本実施形態に係る鋸断負荷推定モデル70は、熱間圧延工程の操業パラメータと、特定の鋸断位置における鋸断速度とを含む入力データを入力とし、鋸断負荷を出力とする学習済の機械学習モデルである。
【0032】
次に、データ取得部60、鋸断負荷推定部62が実行する処理について説明する。データ取得部60は、プロセスコンピュータ38から熱間圧延工程の操業パラメータおよび特定の鋸断位置における鋸断速度の設定値を入力データとして取得する。なお、データ取得部60は、上記データを入力部54から取得してもよい。この場合、当該データはオペレータによって入力部54から入力される。データ取得部60は、取得したデータを鋸断負荷推定部62に出力する。
【0033】
鋸断負荷推定部62は、データ取得部60から入力データを取得すると、格納部58から鋸断負荷推定モデル70を読み出し、当該鋸断負荷推定モデル70に入力データを入力して鋸断負荷を出力させる。このように、鋸断負荷推定モデル70から鋸断負荷を出力させることによって、鋸断負荷推定部62は、特定の鋸断位置における鋸断負荷を推定できる。なお、鋸断負荷推定部62は、出力した鋸断負荷を出力部56に出力し、出力部56に表示させてもよい。これにより、オペレータは出力部56を視認することで鋸断負荷の推定値を確認できる。
【0034】
このように、本実施形態に係る鋸断負荷推定装置および鋸断負荷推定方法では、熱間圧延工程の操業パラメータを含む入力データを入力とし、鋸断負荷を出力させる鋸断負荷推定モデル70を用いて鋸断負荷を推定するので、鋸断する対象である圧延金属材の熱間圧延条件を考慮して鋸断負荷を推定できる。
【0035】
熱間圧延工程の操業パラメータである加熱炉22での加熱温度、および、圧延機の操業パラメータである粗圧延機24、中間圧延機28および仕上圧延機30での圧延温度および圧延時間は、圧延金属材11の温度に起因する変形抵抗に影響を及ぼす。当該変形抵抗は、圧延金属材11の鋸断負荷に影響を及ぼす。
【0036】
圧延金属材11の変形抵抗の変化によって圧延負荷が変化する。このため、熱間圧延工程の操業パラメータである加熱炉22での加熱温度、および、圧延機の操業パラメータである粗圧延機24、中間圧延機28および仕上圧延機30での圧延温度および圧延時間は、圧延金属材11の断面形状にも影響を及ぼす。圧延金属材11の断面形状は、圧延金属材11と鋸刃50との接触長さに影響する。図4(a)、(c)で説明したように、鋸刃50との接触長さは鋸断負荷と相関関係を有することから、これらのパラメータは、断面形状の変化を介することによっても、鋸断負荷に対して相関関係を有することがわかる。したがって、熱間圧延工程の操業パラメータを含む入力データを入力とする鋸断負荷推定モデル70を用いることで、当該操業パラメータを入力データに含まない鋸断負荷推定モデルよりを用いた場合よりも高い精度で鋸断負荷を予測できることがわかる。
【0037】
また、鋸断負荷推定モデル70の入力データには、鋸断位置、熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータのうちの少なくとも1つが含まれることが好ましい。これらデータが入力データに含まれる場合には、データベース68に格納されるデータセットにも当該データが含まれる。
【0038】
鋸断負荷推定モデル70の入力データに鋸断位置が含まれることが好ましい。図4(c)に示すように、鋸断位置は、鋸断負荷に大きく影響を及ぼす。特定の鋸断位置に限定した鋸断負荷推定モデル70を生成することで、入力データに鋸断位置を含めなくても鋸断負荷を推定できるモデルにできる。しかしながら、入力データに鋸断位置を含めることで、特定の鋸断位置に限定することなく鋸断負荷を推定できる鋸断負荷推定モデルになる。このような鋸断負荷推定モデルを用いて鋸断負荷を推定することで、図4(c)に示したような各鋸断位置に対応した鋸断負荷の推定値が得られる。
【0039】
さらに、鋸断負荷推定モデル70の入力データに、熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータの少なくとも1つを含めることが好ましい。ここで、熱間圧延工程の冷却パラメータとは、冷却装置32の冷却水量および冷却時間のうちの少なくとも1つである。鋸断条件パラメータとは、圧延金属材11の鋸断回数、鋸刃50の累積鋸断回数および鋸断前の圧延金属材11の温度の少なくとも1つである。鋸断回数とは、ある1本の圧延金属材11において、何回目の鋸断かを表す回数である。圧延金属材の属性パラメータとは、圧延金属材11の圧延方向の長さおよび圧延金属材11の質量のうちの少なくとも1つである。
【0040】
熱間圧延工程の冷却パラメータである冷却装置32の冷却水量および冷却時間は、上述した圧延金属材11の温度に起因する変形抵抗に影響を及ぼすので、これらパラメータも鋸断負荷に影響を及ぼす。
【0041】
また、圧延金属材11の鋸断回数が増えると、圧延金属材11の温度が低下していくので、鋸断回数が増えると鋸断負荷が高くなる傾向がある。鋸刃50の累積鋸断回数は鋸刃50の摩耗に相関があり、当該摩耗が進行すると鋸断負荷が高くなる傾向がある。鋸断前の圧延金属材11の温度が高くなると鋸断負荷が低下する傾向がある。したがって、鋸断条件パラメータも鋸断負荷に影響を及ぼす。
【0042】
さらに、圧延金属材11の圧延方向の長さや圧延金属材11の質量も鋸断負荷に影響を及ぼすことから、圧延金属材の属性パラメータも鋸断負荷に影響を及ぼす。したがって、熱間圧延工程の冷却パラメータ、鋸断条件パラメータおよび圧延金属材の属性パラメータの少なくとも1つを鋸断負荷推定モデル70の入力データに含めることで、鋸断負荷の推定精度が向上する。
【0043】
圧延金属材の属性パラメータとして、圧延金属材11の化学成分や鋼種区分、製品の目標強度(強度区分)を加えてもよい。これらを圧延金属材の属性パラメータに加えることで、化学成分、鋼種区分や強度区分が異なる金属材であって同一のロールセットで圧延された圧延金属材の鋸断負荷を推定できるようになる。
【0044】
次に、鋸断速度決定部64、鋸断負荷推定モデル生成部66が実行する処理について説明する。鋸断速度決定部64は、鋸断負荷推定部62によって推定される鋸断負荷が、予め定められた目標負荷の範囲内となる鋸断速度を特定する。鋸断速度決定部64による鋸断速度の特定処理については、図7を用いて説明する。
【0045】
図7は、鋸断速度決定部64による鋸断速度特定処理のフローを示すフロー図である。図7に示したフローは、例えば、オペレータからの当該処理を開始する指示および目標鋸断速度の入力により開始される。
【0046】
まず、データ取得部60は、基準上限値として設定された目標鋸断速度、もしくは、オペレータによって入力部54から入力された目標とする鋸断速度を取得する(ステップS101)。また、データ取得部60は、鋸断速度以外の入力データである熱間圧延工程の操業パラメータをプロセスコンピュータ38から取得する(ステップS102)。データ取得部60は、これらのデータを鋸断負荷推定部62に出力する。
【0047】
鋸断負荷推定部62は、格納部58から鋸断負荷推定モデル70を読み出し、当該鋸断負荷推定モデル70に鋸断速度および熱間圧延の温度パラメータを入力し、鋸断負荷を出力させ、鋸断負荷を推定する(ステップS103)。鋸断負荷推定部62は出力させた鋸断負荷を鋸断速度決定部64に出力する。
【0048】
鋸断速度決定部64は、予め格納部58に格納されている鋸断装置36の鋸断負荷の上限値を読み出し、鋸断負荷推定部62から取得した鋸断負荷が、当該上限値以下か否かを判断する(ステップS104)。鋸断負荷が上限値を超える場合、鋸断速度決定部64は、鋸断負荷推定部62から取得した鋸断負荷は目標負荷の範囲内ではないと判断し(ステップS104:No)、ステップS101で取得した鋸断速度が遅くなるように鋸断速度を変更する(ステップS105)。鋸断速度決定部64は、変更した鋸断速度を鋸断負荷推定部62に出力し、再びステップS103の処理を実行させる。このステップS105およびステップS103の処理は、ステップS103で推定された鋸断負荷が、ステップS104において目標負荷の範囲内と判断されるまで繰り返し実行される。なお、ステップS105での鋸断速度を遅くする1単位は、例えば、20mm/secである。
【0049】
一方、鋸断負荷が鋸断装置36の鋸断負荷の上限値以下となる場合、鋸断速度決定部64は、鋸断負荷推定部62から取得した鋸断負荷は目標負荷の範囲内であると判断し(ステップS104:Yes)、鋸断負荷推定に用いた鋸断速度を鋸断装置36の鋸断速度に決定し(ステップS105)、決定した鋸断速度をプロセスコンピュータ38に出力して、鋸断速度を決定する処理を終了させる。プロセスコンピュータ38は、鋸断速度決定部64から鋸断速度を取得すると、台車44の速度を決定された鋸断速度になるように鋸断装置36の駆動装置42を制御する。このようにして、鋸断装置36の鋸断速度を調整することで、鋸断負荷を目標負荷の範囲内としつつ鋸断速度を速めて、鋸断の生産性を向上できる。なお、鋸断速度決定部64は、決定した鋸断速度を出力部56に表示させてもよい。これにより、オペレータは、出力部56を視認して、鋸断装置36の鋸断速度を調整できる。
【0050】
なお、上記では基準速度の上限値を初期値として鋸断速度を決定する方法を示したが、これに限らない。例えば、基準速度の下限値を初期値として、鋸断負荷が設備上限値を超えない範囲にまで鋸断速度を速めていくことで鋸断速度を決定してもよい。また、標準の鋸断速度を初期値として、鋸断負荷が目標範囲内に入るように、鋸断速度を段階的に増減させていくことで鋸断速度を決定してもよい。
【0051】
次に、鋸断負荷の推定に用いる鋸断負荷推定モデルの生成方法について説明する。データ取得部60は、熱間圧延工程の操業パラメータの実績値、特定の鋸断位置における鋸断速度の実績値および鋸断負荷の実績値をプロセスコンピュータ38から取得し、これらを1セットとするデータセットを格納部58のデータベース68に格納する。データベース68に格納されるデータセット数は少なくとも100以上であり、500以上であることが好ましく、1000以上であることがさらに好ましい。
【0052】
鋸断負荷推定モデル生成部66は、予め格納されている機械学習モデルを格納部58にから読み出し、データベース68に格納されているデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させて、学習済の機械学習モデルを生成する。この学習済の機械学習モデルが鋸断負荷推定モデルとなる。なお、本実施形態に係る鋸断負荷推定方法および鋸断負荷推定装置で用いられる機械学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰、ガウス過程、k近傍方法のいずれを用いてもよい。
【0053】
以上、説明したように、本実施形態に係る鋸断負荷推定方法および鋸断負荷推定装置で用いる鋸断負荷推定モデルは、入力に熱間圧延工程の操業パラメータを含む。上述したように、熱間圧延工程の操業パラメータは鋸断負荷と相関関係を有する。したがって、圧延金属材を製造する熱間圧延工程の操業パラメータを鋸断負荷推定モデルの入力データに含めることで、当該鋸断負荷推定モデルは圧延金属材の熱間圧延条件を考慮した推定モデルとなるので鋸断負荷の推定精度は高くなる。このように鋸断負荷を高い精度を推定できれば、鋸断時に設備上限を超える過負荷の発生を抑制でき、過負荷による電動機46の「トリップ」や、鋸刃50が圧延金属材11に食いつく「噛み止まり」の発生を抑制できる。
【0054】
さらに、当該鋸断負荷推定モデルで推定される当該鋸断負荷が予め定められた目標負荷の範囲内になるような鋸断速度を決定し、当該鋸断速度で圧延金属材を鋸断して金属材を製造することで、鋸断負荷を目標とする範囲内に維持しながら金属材を製造できるようになる。
【0055】
なお、図2に示した熱間圧延設備20では、熱間圧延設備20がプロセスコンピュータ38と鋸断負荷推定装置40とを有する例を示したが、これに限らない。例えば、プロセスコンピュータ38が鋸断負荷推定装置40の機能を有し、これらが1つ装置で構成されていてもよい。また、図6に示した鋸断負荷推定装置40では、制御部52が鋸断速度決定部64および鋸断負荷推定モデル生成部66を有する例を示したが、これに限らない。鋸断負荷推定装置40で鋸断負荷の推定を実施するのであれば、必ずしも鋸断速度決定部64を有さなくてもよい。さらに、鋸断負荷推定モデル70を外部にて生成し、入力部54を通じて当該鋸断負荷推定モデル70を格納部58に格納する場合には、鋸断負荷推定装置40は、鋸断負荷推定モデル生成部66を有さなくてもよい。
【0056】
次に、鋼矢板とは断面形状が異なる丸鋼を鋸断したときの鋸断負荷について説明する。図8は、丸鋼の圧延金属材を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。図8(a)は、丸鋼の鋸断位置を示す図である。また、図8(b)は、鋸断位置と鋸断速度との関係を示すグラフであり、図8(c)は、鋸断位置と鋸断負荷との関係を示すグラフである。なお、図8(a)の鋸断位置(1)~(3)は、図8(b)、(c)における鋸断位置(1)~(3)に対応している。
【0057】
図8(a)に示すように、左側から右側に鋸刃50が移動し、丸鋼の圧延金属材に接近していく。すると、鋸刃50は、図8の(1)の位置で圧延金属材に接触して鋸断し始める。鋸刃50がさらに右側に移動して圧延金属材を鋸断していき、(3)の位置に至ることで圧延金属材が鋸断され丸鋼が製造される。
【0058】
図8(b)は、鋸断位置ごとの鋸断速度を示している。図8(b)に示すように、丸鋼の製造では、圧延金属材に接触する(1)の直前に鋸断速度を下げ、鋸断負荷の跳ね上がりを防止している。その後、鋸断速度を基準速度まで上昇させる。鋸断終了となる(3)に近づくにつれて鋸刃50との接触長さが短くなるので、基準速度よりも鋸断速度を上昇させて(3)の位置まで移動され、圧延金属材が鋸断される。
【0059】
図8(c)は、鋸断位置ごとの鋸断負荷(電流値)を示している。図8(c)に示すように、(1)の位置で鋸刃50が丸鋼の圧延材に接触すると鋸断負荷は高くなるが、事前に鋸断速度を低下させているので、鋸断負荷の跳ね上がりが防止されている。その後、鋸断負荷が一定になるように鋸断速度が制御され、(3)の位置に至り、鋸断が終了すると鋸断負荷は低下した。図8(c)に示すように、(2)の位置の鋸断負荷は設備上限値よりも低いので、(2)の位置の鋸断速度を速くして鋸断の生産性を高められる可能性がある。
【0060】
図9は、鋸断速度を速めて丸鋼の圧延材を鋸断したときの鋸断負荷を説明する図である。図9(a)は、丸鋼の鋸断位置を示す図であり、図8(a)と同じ図である。また、図9(b)は、鋸断位置と鋸断速度との関係を示すグラフであり、図9(c)は、鋸断位置と鋸断負荷との関係を示すグラフである。なお、図9においても、図9(a)の鋸断位置(1)~(3)は、図9(b)、(c)における鋸断位置(1)~(3)に対応している。
【0061】
図9(b)に示すように、図9に示した例では、鋸断負荷が小さくなる(2)の位置で鋸断速度を速めている。このため、図9(c)に示すように、(2)の位置の鋸断負荷が高くなっているが、鋸断装置36の上限値よりも低いので、この鋸断負荷の上昇により問題が発生することはない。
【0062】
このように、丸鋼においても鋸断負荷が低くなる鋸断位置では、鋸断負荷を予め定められた目標負荷の範囲内としつつ鋸断速度を速めて、鋸断の生産性を向上させることができる。そして、本実施形態に係る鋸断負荷推定装置および鋸断負荷推定方法で、鋸断速度を上昇させたときの鋸断負荷を高い精度で推定できるようになれば、目標負荷の範囲内を維持しつつさらに鋸断速度を速めて、生産性を高めることができる。
【0063】
なお、丸棒の場合、同一のロールセットで、圧延条件の調整によって直径が数mm~十数mm異なる製品を作り分ける場合がある。このような場合には、圧延金属材の属性パラメータに製品目標直径を加えることで、同一の鋸断負荷推定モデルを用いて直径が異なる丸棒の鋸断負荷を推定できるようになる。
【0064】
また、本実施形態に係る鋸断負荷推定装置および鋸断負荷推定方法は、同一のロールセットで製造される断面形状がH形のH形鋼や、断面形状が矩形となる角棒鋼や平鋼にも適用できる。H形鋼に適用する場合、圧延金属材の属性パラメータに製品目標ウェブ厚と製品目標フランジ厚を加えることで、同一の鋸断負荷推定モデルで製品目標ウェブ厚や製品目標フランジ厚が異なるH形鋼の鋸断負荷を推定できるようになる。さらに角棒鋼や平鋼に適用する場合、圧延金属材の属性パラメータに製品目標肉厚と製品目標幅を加えることで、同一の鋸断負荷推定モデルで製品目標肉厚や製品目標幅が異なる角棒鋼や平鋼の鋸断負荷を推定できるようになる。
【実施例0065】
[実施例1]
鋸断負荷推定モデルを生成し、鋸断負荷の推定を行った実施例を説明する。本実施例では、鋼矢板(型式:10H)の圧延金属材を鋸断する鋸断負荷を推定する鋸断負荷推定モデルを、図4に示した(3)、(4)、(5)の鋸断位置ごとに生成し、それぞれの鋸断負荷推定モデルで推定された推定鋸断負荷値と、鋸断負荷の実績値との相関を確認した。鋸断負荷推定モデルの入力データを下記表1に示す。なお、鋸断負荷推定モデルの出力は、(3)~(5)の各位置を鋸断したときに電動機に生じた鋸断負荷電流の最大値である。
【0066】
【表1】
【0067】
上記入力データの実績値と、鋸断負荷電流値の実績値を1セットとする1100のデータセットを用いて、機械学習モデルを機械学習させて学習済の機械学習モデルを生成した。機械学習モデルとして決定木モデルを用いた。この学習済の機械学習モデルを鋸断負荷予測モデルとして鋸断負荷を予測し、実際に電動機で生じた実測鋸断負荷電流値との相関を確認した。
【0068】
図10は、推定電流値と実測電流値の対応関係を示すグラフである。図10において、横軸は推定電流値(A)であり、縦軸は実測電流値(A)である。図10に示すように、推定電流値と実測電流値の対応関係を示すプロットは、45°の線上に位置しており、高い精度で鋸断負荷を推定できることが確認された。
【0069】
また、図10に示した推定電流値と実測電流値との差(予測電流値-実測電流値)の標準偏差は3.46Aであり、予測電流値と実測電流値の比率(予測電流値/実測電流値)の標準偏差は4.72%であった。これに対し、鋸断条件パラメータのみを用いて負荷を推定した場合、推定電流値と実測電流値との差の標準偏差は5.98Aとなり、予測電流値と実測電流値の比率の標準偏差は8.13%であった。この結果から、熱間圧延工程の操業パラメータを入力データに含む鋸断負荷推定モデルを用いることで、高い精度で鋸断負荷を推定できることがわかる。
【0070】
[実施例2]
次に、図5の鋸断位置(3)、(4)の鋸断負荷を推定し、推定された鋸断負荷が設備上限値を超えない鋸断速度まで鋸断速度を速めて圧延金属材を鋸断した実施例2を説明する。実施例2では、実施例1で作成した鋸断負荷推定モデルを用いた。発明例1では、図5の鋸断位置(3)、(4)において鋸断負荷を推定し、推定された鋸断負荷が設備上限値を超えない範囲で鋸断速度を速めて(最大で450mm/秒まで)圧延金属材を鋸断した。鋸断した圧延金属材は鋼矢板(型式:10H)であり、鋼矢板100本(295鋼:80本、390鋼:20本)に対し、鋼矢板1本あたり12回鋸断した(クロップカットを含む)。
【0071】
比較例1では、図5の鋸断位置(3)、(4)の鋸断負荷を推定せず、基準鋸断速度である200mm/秒の鋸断速度で鋼矢板を鋸断した。鋸断した鋼矢板の型式、本数および1本あたりの鋸断回数は発明例と同じである。比較例3では、図5の鋸断位置(3)、(4)の鋸断負荷を推定せず、全ての鋸断について400mm/秒の鋸断速度で鋼矢板を鋸断した。鋸断した鋼矢板の型式、本数および1本あたりの鋸断回数は発明例と同じである。発明例、比較例1および比較例2の鋸断結果を下記表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、発明例では、鋸刃の噛み止まりトラブルの発生もなく、比較例1、比較例2よりも鋸断時間が短くなり、鋸断の生産性の向上が実現できた。比較例1では、鋸断速度が発明例1よりも遅いので、鋸刃での噛み止まりトラブルの発生がなかったものの鋸断時間が長くなり、鋸断の生産性向上が実現できなかった。比較例2では、鋸断速度を速めたために鋸刃の噛み止まりトラブルが2回発生し、この処理に時間がかかったため、比較例1よりも総所要時間が長くなった。これらの結果から、本実施形態に係る鋸断負荷推定装置および鋸断負荷推定方法で鋸断負荷を推定し、推定された鋸断負荷が設備上限値を超えないようにして鋸断速度を速めることが好ましく、これにより、噛み止まり等のトラブルを抑制しながら鋸断速度を速めることができ、鋸断の生産性の向上が実現できることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
10 鋼矢板
11 圧延金属材
12 ウェブ
14 フランジ
16 腕部
18 継手部
20 熱間圧延設備
22 加熱炉
24 粗圧延機
25 温度センサ
26 トランスファーベッド
28 中間圧延機
29 温度センサ
30 仕上圧延機
31 温度センサ
32 冷却装置
33 温度センサ
34 テーブルローラ
36 鋸断装置
38 プロセスコンピュータ
40 鋸断負荷推定装置
42 駆動装置
44 台車
46 電動機
48 駆動伝達ベルト
50 鋸刃
52 制御部
54 入力部
56 出力部
58 格納部
60 取得部
62 鋸断負荷推定部
64 鋸断速度決定部
66 鋸断負荷推定モデル生成部
68 データベース
70 鋸断負荷推定モデル
80 丸鋼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10