(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123526
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】エレベータの支持構造及びリフォーム方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/00 20060101AFI20240905BHJP
B66B 9/00 20060101ALI20240905BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B66B7/00 A
B66B9/00 F
E04G23/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031020
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 守
(72)【発明者】
【氏名】塚田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 浩幸
【テーマコード(参考)】
2E176
3F301
3F305
【Fターム(参考)】
2E176BB25
3F301AA09
3F301BB07
3F301CA06
3F305AA08
3F305BA08
3F305DA07
(57)【要約】
【課題】 小屋組みにエレベータの水平荷重を負担させることなく、設置コストを低減させることができるエレベータの支持構造及び建築物に当該エレベータの支持構造を備えたエレベータを追加するリフォーム方法を提供する。
【解決手段】エレベータの支持構造1は、最上階の昇降路4は、開口面を除く3面に矩形枠状の支持フレーム7が立設されており、支持フレーム7は、最上階の床懐に配置される構造躯体の下梁材13の上に固定されて立設されており、昇降路を囲うように配置されエレベータの荷重を支持する上梁材14が、支持フレーム7の上に固定されるものであり、一部の支持フレーム7は、エレベータの水平耐力を負担するブレース15を有する耐力壁フレーム8であり、上梁材14は、建築物の構造躯体から独立して設けられており、エレベータの上に設けられる小屋組み2にエレベータの荷重を伝達しない構造である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に設けられるエレベータの支持構造であって、
少なくとも最上階を含む2以上の階層を貫通して形成される平面視四角形の昇降路を備え、
前記昇降路のうち最上階の昇降路は、エレベータドアが形成される開口面を除く3面に矩形枠状の支持フレームが立設されており、
前記支持フレームは、前記最上階の床懐に配置される下梁材の上に固定されて立設されており、
前記下梁材は、前記建築物の構造躯体に支持されており、
前記昇降路を囲うように配置され前記エレベータの荷重を支持する上梁材が、前記支持フレームの上に固定されるものであり、
少なくとも一部の前記支持フレームは、前記エレベータの水平耐力を負担するブレースを有する耐力壁フレームであり、
前記上梁材は、建築物の構造躯体から独立して設けられており、前記エレベータの上に設けられる小屋組みに前記エレベータの荷重を伝達しない構造であることを特徴とするエレベータの支持構造。
【請求項2】
前記耐力壁フレームは、前記開口面を除く3面にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの支持構造。
【請求項3】
前記小屋組みはトラス架構であることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの支持構造。
【請求項4】
前記上梁材のうち、前記開口部の上側に配置された上梁材は、前記昇降路の外周から延長される延出部を有しており、
前記延出部は、前記下梁材の上に固定されて立設されたブレースを有する控え耐力壁フレームに支持されることを特徴とする請求項2に記載のエレベータの支持構造。
【請求項5】
前記エレベータは、前記昇降路の少なくとも1つの面が前記建築物の外周に面して設置されており、
当該建築物の最上階の下側の外周に架設される外周梁は、上面のうち屋外側の位置に外壁を支持する外周軸組の下端が固定されるとともに、上面のうち屋内側の位置に前記支持フレームが固定されて、前記下梁材の一部を構成しており、
前記外周軸組は、前記支持フレームの上に固定される前記上梁材の上面以上の高さに形成されて、前記トラス架構を支持することを特徴とする請求項3に記載のエレベータの支持構造。
【請求項6】
前記エレベータは、前記昇降路が前記建築物の外周に面しない位置に設置されており、
前記上梁材の上面は前記トラス架構の下面よりも低いことを特徴とする請求項3に記載のエレベータの支持構造。
【請求項7】
既存の建築物に請求項1に記載のエレベータの支持構造を追加するリフォーム方法であって、
前記下梁材に前記耐力壁フレームを含む前記支持フレームを立設して、前記昇降路の前記開口部を除く3面の下地を形成する工程と、
前記支持フレームの上に前記上梁材を固定する工程と、
前記上梁材にエレベータのかごを支持する荷重支持部材の上端を固定する工程と、
を備えることを特徴とするリフォーム方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に設けられるエレベータの最上階における水平荷重を支持するエレベータの支持構造及び当該エレベータの支持構造を有するエレベータを建築物に施工するリフォーム方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建築物にリフォーム工事として設けられるエレベータとしては、既存躯体に影響を及ぼさない設置手法として、建築物の内部に上下階を貫通して昇降路を形成し、この昇降路内にエレベータの自重及び地震力などの水平耐力を負担する構造躯体から完全に独立したエレベータ用の鉄塔を構築する完全自立型のエレベータがある(特許文献1参照)。このようなエレベータを設置するためには、エレベータ用の鉄塔を構築する大掛かりな工事を必要とし、施工期間の長期化やコストの増大の問題があった。
【0003】
そこで、昇降路内にかごを上下に案内する鋼製のガイドレールを設け、エレベータの鉛直荷重はガイドレールを介して鉄筋コンクリート製のエレベータピットで負担し、エレベータの地震などによる水平荷重は、建築物の構造躯体とガイドレールとを接合金物で接続することによって、建築物の構造躯体に負担させることで、大掛かりな鉄塔を工事する必要をなくし、施工期間の短縮やコストの低減を図る半自立型のエレベータが提案されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-175752号公報
【特許文献2】特開2003-160284号公報
【特許文献3】実開平2-49973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、建築物によっては、小屋組みを梁を設けないトラス架構としている場合のように、昇降路の上に梁が架設されていない場合には、エレベータの上端部を十分に支持することができず、構造躯体がエレベータ上端の水平荷重を負担することができない場合がある。このような場合には、小屋架構として構造躯体と一体化したH型鋼の補強梁に交換して設置する等によって水平荷重に対して補強する必要がある。
【0006】
しかし上述のような補強は大掛かりでコスト増加の要因となるとともに、トラス架構と補強梁とが干渉しあう場合もあり、例えばエレベータを増設する場合には、トラス架構を取り外して、水平梁を有する和小屋構造の小屋組みを形成しなければならない場合もある。
【0007】
そこで、本発明は、既存小屋組みにエレベータの水平荷重を負担させることなく、設置コストを低減させることができるエレベータの支持構造及び建築物に当該エレベータの支持構造を備えたエレベータを追加するリフォーム方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一のエレベータの支持構造は、建築物に設けられるエレベータの支持構造であって、少なくとも最上階を含む2以上の階層を貫通して形成される平面視四角形の昇降路を備え、前記昇降路のうち最上階の昇降路は、エレベータドアが形成される開口面を除く3面に矩形枠状の支持フレームが立設されており、前記支持フレームは、前記最上階の床懐に配置される下梁材の上に固定されて立設されており、前記下梁材は、前記建築物の構造躯体に支持されており、前記昇降路を囲うように配置され前記エレベータの荷重を支持する上梁材が、前記支持フレームの上に固定されるものであり、少なくとも一部の前記支持フレームは、前記エレベータの水平耐力を負担するブレースを有する耐力壁フレームであり、前記上梁材は、建築物の構造躯体から独立して設けられており、前記エレベータの上に設けられる小屋組みに前記エレベータの荷重を伝達しない構造であることを特徴としている。
【0009】
本発明の第二のエレベータの支持構造は、第一のエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記耐力壁フレームは、前記開口面を除く3面にそれぞれ配置されることを特徴としている。
【0010】
本発明の第三のエレベータの支持構造は、第一又は第二のエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記小屋組みはトラス架構であることを特徴としている。
【0011】
本発明の第四のエレベータの支持構造は、第一から第三のいずれかのエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記上梁材のうち、前記開口部の上側に配置された上梁材は、前記昇降路の外周から延長される延出部を有しており、前記延出部は、前記下梁材の上に固定されて立設されたブレースを有する控え耐力壁フレームに支持されることを特徴としている。
【0012】
本発明の第五のエレベータの支持構造は、第一から第四のいずれかのエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記エレベータは、前記昇降路の少なくとも1つの面が前記建築物の外周に面して設置されており、当該建築物の最上階の下側の外周に架設される外周梁は、上面のうち屋外側の位置に外壁を支持する外周軸組の下端が固定されるとともに、上面のうち屋内側の位置に前記支持フレームが固定されて、前記下梁材の一部を構成しており、前記外周軸組は、前記支持フレームの上に固定される前記上梁材の上面以上の高さに形成されて、前記トラス架構を支持することを特徴としている。
【0013】
本発明の第六のエレベータの支持構造は、第一から第五のいずれかのエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記エレベータは、前記昇降路が前記建築物の外周に面しない位置に設置されており、前記上梁材の上面は前記トラス架構の下面よりも低いことを特徴としている。
【0014】
本発明のリフォーム方法は、既存の建築物に第一から第六のいずれかに記載のエレベータの支持構造を追加するリフォーム方法であって、前記下梁材に前記耐力壁フレームを含む前記支持フレームを立設して、前記昇降路の前記開口部を除く3面の下地を形成する工程と、前記支持フレームの上に前記上梁材を固定する工程と、前記上梁材にエレベータのかごを支持する荷重支持部材の上端を固定する工程と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第一のエレベータの支持構造は、最上階の昇降路を構成する矩形枠状の支持フレームが、最上階の昇降路のエレベータドアが形成される開口面を除く3面に立設されており、これらの支持フレームのうち、少なくとも一部の支持フレームは、ブレースを有する耐力壁フレームとなっており、支持フレームの上に昇降路を囲うように配置される上梁材が、建築物の構造躯体から独立して設けられており、エレベータの上に設けられる小屋組みにエレベータの荷重を伝達しない構造であるので、小屋組みがエレベータの上端の水平荷重を受けることができない構造である場合であっても、耐力壁フレームが水平耐力を負担することができる。
【0016】
本発明の第二のエレベータの支持構造は、耐力壁フレームが、開口面を除く3面にそれぞれ配置されているので、開口面に対して平行な水平方向にも、開口面に対して直角な水平方向にも耐力壁フレームが水平荷重を負担することができ、小屋組みに負担をかけることなくエレベータを支持することができる。
【0017】
本発明の第三のエレベータの支持構造は、小屋組みはトラス架構であるので、和小屋のように小屋組みの下部に水平耐力を負担できる小屋梁がない場合であっても、小屋組みに負担をかけることなくエレベータの水平荷重を耐力壁フレームが負担できるので、エレベータを追加するリフォームを行うような場合であっても、小屋組み全体を付け替えるような大規模な工事が必要なく、施工期間やコストを低減することができる。
【0018】
本発明の第四のエレベータの支持構造は、開口部の上側に配置された上梁材に昇降路の外周から延長される延出部が設けられており、当該延出部が下梁材の上に固定されて立設された控え耐力壁フレームに支持されているので、エレベータドアが形成されるために耐力壁フレームを配置することができない開口部が設けられる面も控え耐力壁フレームによってエレベータの水平荷重を負担させることができる。
【0019】
本発明の第五のエレベータの支持構造は、少なくとも昇降路の1つの面が建築物の外周に面して設置されるエレベータの支持構造であり、建築物の最上階の下側の外周に架設される外周梁は、上面の屋外側の位置に外壁を支持する外周軸組の下端が固定され、上面の屋内側の位置に支持フレームが固定されて、前述の下梁材の一部を構成しているとともに、外周軸組の高さが、支持フレームの上に固定される上梁材の上面の高さ以上の高さに形成されてトラス架構を支持しているので、エレベータの支持構造は、小屋組みを構成するトラス架構にエレベータの水平荷重を負担させることなく、耐力壁フレームによってエレベータの水平荷重を負担することができる。
【0020】
本発明の第六のエレベータの支持構造は、昇降路が建築物の外周に面しない位置に設置されたエレベータの支持構造であり、上梁材の上面が、トラス架構の下面よりも低いので、エレベータの支持構造は、小屋組みを構成するトラス架構にエレベータの水平荷重を負担させることなく、耐力壁フレームによってエレベータの水平荷重を負担することができる。
【0021】
本発明のリフォーム方法によると、下側梁に耐力壁フレームの支持フレームを含む支持フレームを立設して、昇降路の開口部を除く3面の下地を形成する工程と、支持フレームの上に上側梁を固定する工程と、前記上側梁にエレベータの荷重支持部材の上端を固定する工程と、を備えるものであるので、エレベータの上端部分の水平荷重を小屋組みに負担させることなく、耐力壁フレームで負担することができ、小屋組みを大規模に改修することなく、建築物にエレベータを追加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態のエレベータの支持構造における昇降路の架構を説明する一部省略斜視図。
【
図2】本実施形態のエレベータの支持構造に支持されるエレベータを有する建築物を説明する開口部に直交する方向から見た省略断面図。
【
図4】本実施形態のエレベータの支持構造に支持されるエレベータを有する建築物を説明する開口部に平行な方向から見た省略断面図。
【
図6】昇降路の外周に下梁材が不足する場合に、梁を追加する状態を説明する図。
【
図7】昇降路の1階を形成するランナー及びスタッドを立設した状態を説明する図。
【
図8】下梁材の上に耐力壁フレームを含む支持フレームを立設した状態を説明する斜視図。
【
図9】支持フレームの上に上梁材を固定する状態を説明する図。
【
図10】上梁材に補強材が架設された状態を説明する斜視図。
【
図11】本実施形態のエレベータの支持構造の変形例として、昇降路の1つ以上の面が建築物の外周に面して設置されている建築物を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のエレベータの支持構造1及びリフォーム方法に実施形態について、各図を参照しつつ説明する。本実施形態におけるエレベータの支持構造1は、例えば、
図2に示すように、小屋組み2がトラス架構である軽量鉄骨造の2階建の戸建住宅に追加で設置されるエレベータの支持構造1である。トラス架構の小屋組み2は、山形に形成される一対の上弦材20とこれら上弦材20の下端同士を接続する水平な下弦材21との間に鉛直な束材22を間隔を開けて複数配置し、隣接する束材22の上端と下端との間に斜材23を架け渡すことで、断面積の大きな梁材を用いることなく図示しない屋根材を支持して、下側に長スパンの空間を形成するものである。トラス架構の小屋組み2は、本実施形態においてはCT形鋼を組み合わせて形成されている。
【0024】
なお、エレベータの支持構造1が設けられる建築物3は、これに限定されるものではなく、例えば、集合住宅や商業施設、福祉施設、教育施設等の各種施設であってもよい。また、建築物3は2階建に限定されるものではなく、3階建以上の建築物3であってもよい。本発明のエレベータの支持構造1における建築物3は軽量鉄骨構造に限定されるものではなく、エレベータの上端の水平荷重を小屋組み2の横架材で受けることができないものであれば、例えば木造や重量鉄骨造の建築物3であっても採用することができる。
【0025】
エレベータは、平面視矩形で2以上の階層を貫通する昇降路4に沿って、かご室5を上下動させるものであり、当該エレベータは、電動モーターでロープを巻き上げてかご室5を上下動させるロープ式エレベータであっても、油圧ジャッキでかご室5を上下動させる油圧式エレベータであってもよい。エレベータには、かご室5を上下に案内するガイドレール6が設けられており、このガイドレール6がかご室5や図示しない釣り合い錘などの上下動する部材の荷重を支持する荷重支持部材である。
【0026】
昇降路4は、
図1及び
図2に示すように、本実施形態においては、1階と2階とを貫通するように、平面視矩形に形成されており、1階及び2階にそれぞれ図示しないエレベータドアが設けられている。1階の昇降路4は、エレベータドアが形成される開口面12以外の3面には、間仕切壁が立設されている。間仕切壁は、図示しないが床面及び天井面に溝形のランナー10がビスで固定されており、上下のランナー10の間にスタッド11を立設させて壁下地とし、当該壁下地に石膏ボードを張り付けて1階の昇降路4の内周壁を形成している。
【0027】
また、2階の昇降路4は、本発明における「最上階の昇降路」である。2階の昇降路4のエレベータドアが形成される開口面12を除く3面には、矩形枠状の支持フレーム7が立設されており、当該支持フレーム7に図示しない下地材を固定し、当該下地材に図示しない石膏ボードが張り付けられて昇降路4の内周壁を形成している。支持フレーム7は、最上階の床懐に配置される下梁材13の上に固定されて立設されている。下梁材13は、上下にフランジを配置し、その間にウェブを設けたH型鋼によって形成されている。下梁材13は、図示しないが、基礎の上に固定されて立設された矩形枠状の軸組フレーム又は柱材に端部が支持されて架設されており、建築物3の構造躯体を構成している。
【0028】
支持フレーム7は、
図1及び
図5に示すように、内側に開口するようにC型鋼を溶接して矩形枠状に形成されている。昇降路4は平面視して一辺が略2mの正方形に形成されており、支持フレーム7は例えば幅方向の長さが1mに形成され昇降路4の開口面12を除く3面にそれぞれ2枚ずつ並べて配置されている。互いに隣接する支持フレーム7同士は図示しないが横つづりボルトで互いに固定されている。少なくとも一部の支持フレーム7は、エレベータの水平荷重を吸収可能なブレース15がX状に溶接された耐力壁フレーム8である。本実施形態においては、昇降路4の開口面12を除く3面にそれぞれ1枚ずつ耐力壁フレーム8が配置されている。
【0029】
耐力壁フレーム8を含む支持フレーム7の上面には、昇降路4を囲うように上梁材14が固定されている。上梁材14は、上下にフランジを配置し、その間にウェブを設けたH型鋼によって形成されている。上梁材14は、上梁材14は、支持フレーム7の上面に下側のフランジがボルトで固定されるとともに、エレベータドアが形成される開口面12の上にも架設されている。上梁材14のうち、開口面12の上側に配置された上梁材14は、
図1及び
図3に示すように、昇降路4の外周である開口面12の上から延長される延出部16が形成されている。すなわち、上梁材14は平面視したときに昇降路4の外周に正方形に配置されるとともに、開口面12が設けられる位置の上梁材14が延長されて形成されている。
【0030】
そして、延出部16の下側には、上述の耐力壁フレーム8と同じ形状である控え耐力壁フレーム9が配置されている。すなわち控え耐力壁フレーム9は、内側に開口するようにC型鋼を矩形に溶接した矩形フレーム状に形成され、その内部にX状にブレース15が溶接固定されたものである。延出部16は、下側のフランジが控え耐力壁フレーム9の上面にボルト固定されている。控え耐力壁フレーム9は、建築物3の構造躯体を構成する下梁材13にボルト固定されている。
【0031】
耐力壁フレーム8を含む支持フレーム7及び控え耐力壁フレーム9の上面に固定される上梁材14は、建築物3の構造躯体から独立して設けられている。具体的には、上梁材14の上面はトラス架構の小屋組み2の下弦材21よりも低く形成されており、例えば、上梁材14と小屋組み2とが接触しない構成である。なお、本発明におけるエレベータの支持構造1は、上梁材14に生じる水平荷重をトラス架構の小屋組み2にほとんど伝達しない構成であればよく、上梁材14と下弦材21とが衝突して異音が発生することを防止するために、構造計算上影響がない程度に上梁材14と小屋組み2とを互いに固定していてもよい。
【0032】
エレベータの荷重支持部材としてのガイドレール6は、
図4に示すように、上端が上梁材14に固定されている。なお、上梁材14は、ガイドレール6の上端のほかに、エレベータの種類によっては、例えば、かご室5及び釣り合い錘を上方にけん引するワイヤロープのプーリや、エレベータのかご室5を上下動させる巻き上げ機や調速機も上梁材14に固定されるものであってもよい。昇降路4を囲うように配置されている上梁材14は、例えばプーリや巻き上げ機等を設置するために、昇降路4を跨ぐように架設されたマシンビームを有していてもよい。ガイドレール6の下端は、基礎スラブや土間コンクリートの上に形成される、鉄筋コンクリート製のエレベータピット18に形成されたアンカーボルトに固定されている。なお、ガイドレール6は、1階と2階との間に配置されている下梁材13にも固定されていてもよい。
【0033】
エレベータの主にかご室5の鉛直荷重は荷重支持部材としてのガイドレール6を介して、鉄筋コンクリートのエレベータピット18で受けることができる。また、地震などの際に発生する水平荷重は、ガイドレール6を介して上梁材14に伝わり、上梁材14が上面に固定されている耐力壁フレーム8で受けることができる。
【0034】
このように、本実施形態のエレベータの支持構造1は、2階の昇降路4を構成する矩形枠状の支持フレーム7が、昇降路4のエレベータドアが形成される開口面12を除く3面に立設されていること、3面の支持フレーム7のそれぞれに1つずつブレース15を有する耐力壁フレーム8が形成されていること、及び開口部の上側に配置された上梁材14の延出部16が控え耐力壁フレーム9に支持されていることによって、2階の昇降路4は水平荷重に対して耐力を有している。そして、支持フレーム7の上に配置される上梁材14が、小屋組み2から独立して、エレベータの水平荷重を受けているので、エレベータの支持構造1は、小屋組み2を構成するトラス架構にエレベータの水平荷重を負担させることなく、耐力壁フレーム8によってエレベータの水平荷重を負担することができる。
【0035】
以上のように形成されるエレベータの支持構造1を備えたエレベータを建築物3に追加するリフォーム方法は、既存の建築物の構造躯体とエレベータの昇降路4とが干渉しない位置で、リフォーム後の間取りを考慮して、エレベータを設置する箇所を選定する。そして、エレベータを設置する箇所の間仕切壁や一階の床面を取り外すとともに、1階の天井材や2階の床材も取り外して、2階の床梁を露出させる。昇降路を囲うように2階の床梁が形成されていれば、2階の昇降路4を支える下梁材13として利用する。既存の2階の床梁が昇降路4を囲うように配置されていない場合には、
図6に示すように、例えばスプライスプレートで挟み込んで既存の床梁に新たな床梁を固定して、昇降路4を囲う下梁材13を形成する。
【0036】
その後、
図7に示すように、昇降路4を囲うように、ランナー10を配置し、スタッド11を立設させて、図示しない石膏ボードを張り付けて、1階の昇降路4の内周壁を完成させる。
【0037】
そして、
図8に示すように、下梁材13の上側のフランジに支持フレーム7を固定して、支持フレーム7を立設させる。支持フレーム7は、下梁材13の上側のフランジのうち、昇降路4に隣接する側にボルトで固定されており、下梁材13の上側のフランジのうち、昇降路4から離れる側には例えば図示しないが床版や根太などの床下地材を固定することができる。支持フレーム7は、エレベータドアが形成される開口面12を除く3面にそれぞれ2枚ずつ並べて配置されて横つづりボルトで連結されており、3面の支持フレーム7のそれぞれ1枚ずつはブレース15が配置された耐力壁フレーム8が配置されている。また、開口面12に隣接するように下梁材13の上側のフランジに、控え耐力壁フレーム9を固定して、支持フレーム7を立設する。
【0038】
そして、次に、
図9に示すように、耐力壁フレーム8を含む支持フレーム7の上面に上梁材14の下側のフランジを固定し、エレベータドアとなる開口面12の上にも上梁材14を架設し、当該上梁材14の延出部16の下側のフランジを控え耐力壁フレーム9の上面に固定する。上梁材14は必要な場合にはマシンビームを追加で固定する。また、
図10に示すように、上梁材14を矩形に固定して形成された水平なフレームの強度を上げる必要がある場合には、
図10に示すように、上梁材14で形成された四角形の対角線上に補強材24を固定してもよい。補強材は例えばブレースである。上梁材14の上にはトラス架構の小屋組み2が配置されており、上梁材14とトラス架構の小屋組み2とは互いに構造的に接続されないが、上梁材14と小屋組み2の下弦材21とがぶつかり合って異音が発生することを防止するために構造計算上影響がない程度に上梁材14と小屋組み2とを互いに固定していてもよい。
【0039】
次に、図示しないが支持フレーム7に下地材を固定し、当該下地材に石膏ボードを張り付けて、2階の昇降路4の内周壁を完成させる。その後、設置するエレベータの仕様に従って、エレベータの荷重支持部材としてのガイドレール6の下端を鉄筋コンクリートのエレベータピット18に固定し、上端を上梁材14に固定する。また、必要であればガイドレール6の中間部を下梁材13にも固定する。そして、エレベータを動作させるためのプーリ、巻き上げ機、調速機等を設置するとともに、かご室5及び釣り合い錘を設置して、ワイヤロープを配置し、エレベータを追加するリフォームを完了する。
【0040】
このように本実施形態のリフォーム方法は、エレベータを追加で設置する場合でも、小屋組み2にエレベータの水平荷重を負担させることがないので、小屋組み2を大規模に改修する必要がなく、耐力壁フレーム8を含む支持フレーム7を設置することで、比較的容易に建築物3にエレベータを追加することができる。
【0041】
本実施形態におけるエレベータの支持構造1は、昇降路4が建築物3の外周に面しない位置に設置されるエレベータの支持構造1であるが、エレベータの支持構造1はこれに限定されるものではなく、昇降路4の1つ以上の面が建築物3の外周に面して設置されていてもよい。
【0042】
この場合、
図11及び
図12に示すように、建築物3の最上階である2階の下側の外周に架設される外周梁13aの上下のフランジのうち、上側のフランジの屋外側の位置に外壁を支持する外周軸組17の下端が固定されており、外周軸組17の上端にトラス架構の小屋組み2の下弦材21が架設されている。そして、外周梁13aの上側フランジの屋内側の位置に支持フレーム7が固定されて、外周梁13aが下梁材13の一部を構成している。支持フレーム7の上面には上梁材14の下側のフランジが固定されている。上梁材14は、下側のフランジの屋外側が支持フレーム7の上面に固定されている。すなわち、外周梁13aである下梁材13よりも上梁材14のほうが、フランジの長さ分屋内寄りに配置されている。外周軸組17は、支持フレーム7の上に固定される上梁材14の上面以上の高さに形成されているが、上梁材14が屋内寄りに配置されることで、外周軸組17と上梁材14とが互いに干渉することなく、外周軸組17を立設することができ、外周軸組17がトラス架構の小屋組み2を支持することができる。
【0043】
したがって、エレベータの水平荷重を、外周軸組17やトラス架構の小屋組み2が負担する必要がないので、エレベータを追加するような場合であっても、外周軸組17やトラス架構の小屋組み2を補強や改修する必要がなく、比較的容易に建築物3にエレベータを追加設置することができる。
【0044】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【0045】
〔第一の特徴〕
本実施形態のエレベータの支持構造の第一の特徴は、建築物に設けられるエレベータの支持構造であって、少なくとも最上階を含む2以上の階層を貫通して形成される平面視四角形の昇降路を備え、前記昇降路のうち最上階の昇降路は、エレベータドアが形成される開口面を除く3面に矩形枠状の支持フレームが立設されており、前記支持フレームは、前記最上階の床懐に配置される下梁材の上に固定されて立設されており、前記下梁材は、前記建築物の構造躯体に支持されており、前記昇降路を囲うように配置され前記エレベータの荷重を支持する上梁材が、前記支持フレームの上に固定されるものであり、少なくとも一部の前記支持フレームは、前記エレベータの水平耐力を負担するブレースを有する耐力壁フレームであり、前記上梁材は、建築物の構造躯体から独立して設けられており、前記エレベータの上に設けられる小屋組みに前記エレベータの荷重を伝達しない構造である。
【0046】
これによると、最上階の昇降路を構成する矩形枠状の支持フレームが、最上階の昇降路のエレベータドアが形成される開口面を除く3面に立設されており、これらの支持フレームのうち、少なくとも一部の支持フレームは、ブレースを有する耐力壁フレームとなっており、支持フレームの上に昇降路を囲うように配置される上梁材が、建築物の構造躯体から独立して設けられており、エレベータの上に設けられる小屋組みにエレベータの荷重を伝達しない構造であるので、小屋組みがエレベータの上端の水平荷重を受けることができない構造である場合であっても、耐力壁フレームが水平耐力を負担することができる。
【0047】
〔第二の特徴〕
本実施形態のエレベータの支持構造の第二の特徴は、第一のエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記耐力壁フレームは、前記開口面を除く3面にそれぞれ配置されることである。
【0048】
これによると、耐力壁フレームが、開口面を除く3面にそれぞれ配置されているので、開口面に対して平行な水平方向にも、開口面に対して直角な水平方向にも耐力壁フレームが水平荷重を負担することができる。
【0049】
〔第三の特徴〕
本実施形態のエレベータの支持構造の第三の特徴は、第一のエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記小屋組みはトラス架構であることである。
【0050】
これによると、小屋組みはトラス架構であるので、和小屋のように小屋組みの下部に水平耐力を負担できる小屋梁がない場合であっても、小屋組みに負担をかけることなくエレベータの水平荷重を耐力壁フレームが負担できるので、エレベータを追加するリフォームを行うような場合であっても、小屋組み全体を付け替えるような大規模な工事が必要なく、施工期間やコストを低減することができる。
【0051】
〔第四の特徴〕
本実施形態のエレベータの支持構造の第四の特徴は、第二のいずれかのエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記上梁材のうち、前記開口部の上側に配置された上梁材は、前記昇降路の外周から延長される延出部を有しており、前記延出部は、前記下梁材の上に固定されて立設されたブレースを有する控え耐力壁フレームに支持されることである。
【0052】
これによると、開口部の上側に配置された上梁材に昇降路の外周から延長される延出部が設けられており、当該延出部が下梁材の上に固定されて立設された控え耐力壁フレームに支持されているので、エレベータドアが形成されるために耐力壁フレームを配置することができない開口部が設けられる面も控え耐力壁フレームによってエレベータの水平荷重を負担することができる。
【0053】
〔第五の特徴〕
本実施形態のエレベータの支持構造の第五の特徴は、第三のエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記エレベータは、前記昇降路の少なくとも1つの面が前記建築物の外周に面して設置されており、当該建築物の最上階の下側の外周に架設される外周梁は、上面のうち屋外側の位置に外壁を支持する外周軸組の下端が固定されるとともに、上面のうち屋内側の位置に前記支持フレームが固定されて、前記下梁材の一部を構成しており、前記外周軸組は、前記支持フレームの上に固定される前記上梁材の上面以上の高さに形成されて、前記トラス架構を支持することを特徴としている。
【0054】
これによると、少なくとも昇降路の1つの面が建築物の外周に面して設置されるエレベータの支持構造であり、建築物の最上階の下側の外周に架設される外周梁は、上面の屋外側の位置に外壁を支持する外周軸組の下端が固定され、上面の屋内側の位置に支持フレームが固定されて、前述の下梁材の一部を構成しているとともに、外周軸組の高さが、支持フレームの上に固定される上梁材の上面の高さ以上の高さに形成されてトラス架構を支持しているので、エレベータの支持構造は、小屋組みを構成するトラス架構にエレベータの水平荷重を負担させることなく、耐力壁フレームによってエレベータの水平荷重を負担することができる。
【0055】
〔第六の特徴〕
本実施形態のエレベータの支持構造の第六の特徴は、第三のエレベータの支持構造の特徴に加えて、前記エレベータは、前記昇降路が前記建築物の外周に面しない位置に設置されており、前記上梁材の上面は前記トラス架構の下面よりも低いことを特徴としている。
【0056】
これによると、昇降路が建築物の外周に面しない位置に設置されたエレベータの支持構造であり、上梁材の上面が、トラス架構の下面よりも低いので、エレベータの支持構造は、小屋組みを構成するトラス架構にエレベータの水平荷重を負担させることなく、耐力壁フレームによってエレベータの水平荷重を負担することができる。
【0057】
〔第七の特徴〕
本実施形態のリフォーム方法は、既存の建築物に第一の特徴のエレベータの支持構造を追加するリフォーム方法であって、前記下梁材に前記耐力壁フレームを含む前記支持フレームを立設して、前記昇降路の前記開口部を除く3面の下地を形成する工程と、前記支持フレームの上に前記上梁材を固定する工程と、前記上梁材にエレベータのかごを支持する荷重支持部材の上端を固定する工程と、を備えることを特徴としている。
【0058】
これによると、下側梁に耐力壁フレームの支持フレームを含む支持フレームを立設して、昇降路の開口部を除く3面の下地を形成する工程と、支持フレームの上に上側梁を固定する工程と、前記上側梁にエレベータの荷重支持部材の上端を固定する工程と、を備えるものであるので、エレベータの上端部分の水平荷重を小屋組みに負担させることなく、耐力壁フレームで負担することができ、小屋組みを大規模に改修することなく、建築物にエレベータを追加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係るエレベータの支持構造及びリフォーム方法は、小屋組みが軽量鉄骨トラス架構の低層建築物において、リフォームによりエレベータを追加する場合に公的である。
【符号の説明】
【0060】
1 エレベータの支持構造
2 小屋組み
4 昇降路
5 かご室
6 ガイドレール(荷重支持部材)
7 支持フレーム
8 耐力壁フレーム
9 控え耐力壁フレーム
12 開口面
13 下梁材
14 上梁材
16 延出部