(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123563
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】液体金属対流装置、汚染水浄化システム及び汚染水浄化方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20240905BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031087
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正聡
(72)【発明者】
【氏名】増田 茉紘
(72)【発明者】
【氏名】堀川 虎之介
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA03
4K001AA04
4K001AA09
4K001AA19
4K001AA20
4K001AA24
4K001AA28
4K001AA30
4K001AA34
4K001AA35
4K001AA38
4K001AA41
4K001BA21
4K001EA05
4K001HA02
(57)【要約】
【課題】汚染水を浄化すると共に汚染水から有価資源の分離回収をも行うための液体金属対流装置、汚染水浄化システム及び汚染水浄化方法を提供する。
【解決手段】液体金属対流装置1は、液体金属対流ループを構成し、冷媒として液体錫を収容して矢印に示すごとく対流循環させるようにする。液体金属対流装置1は、高温配管11、低温配管12、汚染水接触室13、低温配管12の第1の場所に設けられたアルカリ金属分離回収ユニット14、低温配管12の第2の場所に設けられた重金属分離回収ユニット15及び高温配管11の第3の場所に設けられたガス成分高温脱離ユニット16よりなる。汚染水接触室13の両端に高温配管11、低温配管12がループ状に接続されている。高温配管11は少なくとも下部の一方側において、太陽光を直接受けると共にパラボラ・ディッシュ型コレクタ2によって太陽熱を集めて加熱される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方が大気開放又は減圧された状態で、液体金属を汚染水に直接接触するための汚染水接触室と、
前記汚染水接触室に接続され、前記汚染水接触室の前記液体金属を前記汚染水接触室から自然対流循環させるための液体金属対流部と
を具備する液体金属対流装置。
【請求項2】
前記液体金属対流部は前記汚染水接触室の下部端部に接続された配管を具備し、前記汚染水接触室と前記配管とが前記液体金属の対流ループを構成するようにした請求項1に記載の液体金属対流装置。
【請求項3】
前記液体金属対流部は前記汚染水接触室の底部に接続されたタンクを具備し、前記タンク内に前記液体金属の対流を構成するようにした請求項1に記載の液体金属対流装置。
【請求項4】
さらに、前記液体金属対流部の下流側の第1の場所に前記液体金属に溶解したアルカリ金属を分離回収するためのアルカリ金属分離回収ユニットを具備する請求項1に記載の液体金属対流装置。
【請求項5】
さらに、前記液体金属対流部の下流側の第2の場所に前記液体金属に溶解した重金属を分離回収するための重金属分離回収ユニットを具備する請求項1に記載の液体金属対流装置。
【請求項6】
さらに、前記液体金属対流部の上流側の第3の場所に前記液体金属に溶解したガス成分を分離回収するためのガス成分高温脱離ユニットを具備する請求項1に記載の液体金属対流装置。
【請求項7】
前記重金属分離回収ユニットは前記重金属の溶解度に従い前記液体金属対流部の所定位置に析出された前記重金属を分離回収する請求項5に記載の液体金属対流装置。
【請求項8】
前記アルカリ金属分離回収ユニットは前記アルカリ金属の塩化物又は酸化物の生成反応式のギブズ自由生成エネルギーに従い前記液体金属対流部の所定位置に析出された前記塩化物又は酸化物を分離回収する請求項4に記載の液体金属対流装置。
【請求項9】
前記汚染水接触室内の前記液体金属に汚染水を噴霧させ、該汚染水が前記液体金属に直接接触するようにした請求項1に記載の液体金属対流装置。
【請求項10】
請求項1に記載の液体金属対流装置と、
前記液体金属対流部の少なくとも下方側の一部を加熱するための加熱手段と
を具備する汚染水浄化システム。
【請求項11】
前記加熱手段は太陽熱を集熱するためのコレクタである請求項10に記載の汚染水浄化システム。
【請求項12】
さらに、
前記汚染水接触室に汚染水を供給するための汚染水供給手段と、
前記汚染水接触室から蒸留水を回収するための蒸留水タンクと
を具備する請求項10に記載の汚染水浄化システム。
【請求項13】
さらに、前記汚染水供給手段からの前記汚染水と前記蒸留水タンクへの前記蒸留水との熱交換を行うための熱交換器を具備する請求項12に記載の汚染水浄化システム。
【請求項14】
液体金属をループ状又はタンク状に収容する段階と、
前記液体金属を部分的に加熱させて前記液体金属を自然対流循環させる段階と、
前記自然対流循環された液体金属に汚染水を直接接触させて蒸留水を蒸発させると共に、前記液体金属に前記汚染水のアルカリ金属、重金属及びガス成分を溶解させる汚染水接触段階と、
前記液体金属に溶解した前記アルカリ金属、重金属、ガス成分の少なくとも1つを回収する有価資源回収段階と
を具備する汚染水浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚染水たとえば地下水から有価資源の分離回収をも行うための液体金属対流装置、汚染水浄化システム及び汚染水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水不足を緩和するために、汚染水たとえば地下水、工業排水を飲料水、工業用水等に浄化する汚染水浄化方法がある。
【0003】
地球上の限られた水資源と共に生活する中で地下水需要は日々増加している。地下水利用を促進する上で汚染水たとえば硝酸汚染水、砒素汚染水の浄化が求められている。たとえば、アフリカ、インド等において窒素肥料による地下水の硝酸汚染は激しい。人が硝酸を摂取すると、メトヘモグロビン血症、発癌を促す可能性がある。また、南アフリカの鉱山地帯、インド、バングラディシュの産業廃棄地域等において砒素汚染は激しい。人が砒素を摂取すると、慢性砒素症、発癌を促す可能性がある。
【0004】
従来の硝酸汚染浄化方法としては、イオン交換樹脂法、生物学的脱窒法がある。イオン交換樹脂法は、通常、イオン交換樹脂に汚染水を通すことにより樹脂内の塩化物イオンと汚染水内の硝酸イオンとを交換し浄化する。生物学的脱窒法は、硝酸で呼吸を行う微生物の脱窒菌を利用して硝酸を窒素ガスへ還元する(参照:非特許文献1)。除去効率が高くかつ比較的安価な生物学的脱窒法が多く採用されている。その他、電気透析法、逆浸透膜法がある。
【0005】
従来の砒素汚染水浄化方法としては、イオン交換樹脂法がある。その他、吸着法、化学的沈殿法がある。吸着法は吸着剤に汚染水を通水し砒素を吸着する。化学的沈殿法は、砒酸カルシウム又は砒酸第二鉄を試薬として砒素を難溶性の化合物に変換して沈殿させる(参照:非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Abascal, E., Gomez-Coma, L., Ortiz, I. and Ortiz, A., Global diagnosis of nitrate pollution in groundwater and review of removal technologies, Science of The Total Environment, Vol.810 (2022), 152233.
【非特許文献2】Alka, S., Shahir, S., Ibrahim, N., Ndejiko, M.J., Vo, D.-N. and Manan, F.A., Arsenic removal technologies and future trends: A mini review, Journal of Cleaner Production, Vol.278 (2021), 123805.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来の汚染水浄化方法では、いずれも、浄水(蒸留水)が生成されると共に、汚染物質が濃縮された廃液、廃棄物が生成されるという課題がある。硝酸汚染水浄化法としての電気透析法、逆浸透膜法、砒素汚染水浄化方法としての化学的沈殿法は大量の排水が生じる。また、硝酸汚染水浄化法及び砒素汚染水浄化方法としてのイオン交換樹脂法、砒素汚染水浄化方法としての吸着法においては、吸着剤としての樹脂、膜は浄化性能維持のために交換、再生処理が定期的に必要になる。このとき、吸着剤の再生処理においては、大量の再生排水が発生するので、たとえば硝酸汚染水浄化における強塩基性陰イオン交換樹脂を再生する場合、樹脂量の約4~8倍もの再生用水が必要となる。さらに、硝酸汚染浄化方法としての生物学的脱窒法においては、廃液、廃棄物(汚泥)は少ないものの、脱窒菌の硝酸呼吸のために、硝酸汚染水に加えた有機物、脱窒菌の流出、反応過程において亜硝酸が生成されて自動化及び浄化時間の短縮が困難である。一方、工業化の加速により鉱物資源の需要が増え、新しい供給源が模索されている。汚染水は有価資源として豊富な天然鉱物を含有しており、特に、マグネシウム、リチウム等のアルカリ金属、砒素やカドミウム、鉛、ビスマス、錫などの重金属、ストロンチウム、モリブテン等のレアメタル、プラチナや金などの貴金属は今後の技術開発、市場価格の上昇次第で汚染水から回収する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明に係る液体金属対流装置は、上方が大気開放又は減圧された状態となり、液体金属を汚染水に直接接触するための汚染水接触室と、汚染水接触室に接続され、汚染水接触室の液体金属を汚染水接触室から自然対流循環させるための液体金属対流部とを具備するものである。これにより、液体金属を部分的に加熱させて蒸留水を蒸発させると共に、液体金属に汚染水のアルカリ金属、重金属、貴金属、及びガス成分を溶解させ、溶解したアルカリ金属、重金属及びガス成分の少なくとも1つを回収するようにした。
【0009】
また、本発明に係る汚染水浄化システムは、上述の液体金属対流装置と、液体金属対流部の少なくとも下方側の一部を加熱するための加熱手段とを具備するものである。
【0010】
さらに、本発明に係る汚染水浄化方法は、液体金属をループ状又はタンク状に収容する段階と、液体金属を部分的に加熱させて液体金属を自然対流循環させる段階と、自然対流循環された液体金属に汚染水を直接接触させて蒸留水を蒸発させると共に、液体金属に汚染水のアルカリ金属、重金属及びガス成分を溶解させる汚染水接触段階と、液体金属に溶解したアルカリ金属、重金属、ガス成分の少なくとも1つを回収する有価資源回収段階とを具備するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、汚染水の浄化と同時に、高濃度汚染水の排出を抑えて汚染水に含まれる有価資源の回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る汚染水浄化システムの第1の実施の形態を示す図である。
【
図2】
図1の液体金属対流装置の断面 図であって、(A)は配管の断面を示し、(B)は汚染水接触室の断面を示す。
【
図3】液体錫中のアルカリ金属の塩化物、酸化物、錫酸化物の生成反応のギブズ自由エネルギーを示すグラフであって、(A)は塩化物の生成反応式の塩素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギーを示し、(B)は酸化物の生成反応式の酸素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギーを示し、(C)は錫酸化物の生成反応式の酸素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギー及び硝酸の生成反応式の酸素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギーを示す。
【
図4】
図1の液体金属対流装置の動作を説明するための概略図である。
【
図5】
図1の液体金属対流装置の設計手順を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図1の液体金属対流装置の特性を示すグラフであって、(A)は加熱長/壁面温度特性を示し、(B)は加熱長/ループアスペクト比特性を示す。
【
図7】
図1の汚染水接触室における液体錫の表面酸化特性について、汚染水を接触させずに実施した大気環境下における静止状態の液体錫を対象とした酸化実験で得られた結果を質量増加量で示すグラフである。
【
図8】
図1の液体金属対流装置において、汚染水として硝酸水溶液を用いた場合の硝酸水溶液と液体錫との直接接触動作を実験的に説明するための図である。
【
図9】(A)は
図8の(A)の滴下前の硝酸水溶液濃度及び
図8の(B)、(C)、(D)の滴下後50分における実験による蒸留水Wの硝酸水溶液濃度及びpHを示す表、(B)は
図8の(A)の滴下前の硫酸水溶液濃度及び
図8の(B)、(C)、(D)の滴下後50分における実験による蒸留水Wの硫酸水溶液濃度を示す表である。
【
図10】
図8の(C)における実験による液体錫の表面状態を示し、写真、走査型電子顕微鏡(SEM)像、走査型電子顕微鏡付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)分析結果のグラフである。
【
図11】固体状態で実験を実施した後の液体錫の表面状態を示し、写真、走査型電子顕微鏡(SEM)像、走査型電子顕微鏡付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)分析結果のグラフである。
【
図12】
図1の液体金属対流装置において、汚染水として砒素水溶液を用いた場合の砒素水溶液と液体錫との直接接触動作を実験的に説明するための図である。
【
図13】
図12の(A)の滴下前の砒素水溶液濃度及び
図8の(B)、(C)、(D)の滴下後50分における実験による蒸留水Wの砒素水溶液濃度を示す表である。
【
図14】
図12の(C)における実験による液体錫の表面状態を示し、写真、走査型電子顕微鏡(SEM)像、走査型電子顕微鏡付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)分析結果のグラフである。
【
図15】固体状態で実験を実施した後の液体錫の表面状態を示し、写真、走査型電子顕微鏡(SEM)像、走査型電子顕微鏡付属のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)分析結果のグラフである。
【
図16】本発明に係る汚染水浄化システムの第2の実施の形態を示す図である。
【
図17】回収すべき有価資源を説明するための表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明に係る汚染水浄化システムの第1の実施の形態を示す図である。
【0014】
図1において、液体金属対流装置1は、316Lオーステナイト鋼等より形成された液体金属対流ループを構成し、冷媒として液体金属たとえば液体錫を収容して矢印に示すごとく自然対流循環させるようにする。液体金属対流装置1は、高温配管11、低温配管12、汚染水接触室13、低温配管12の第1の場所に設けられたアルカリ金属分離回収ユニット14、低温配管12の第2の場所に設けられた重金属分離回収ユニット15及び高温配管11の第3の場所に設けられたガス成分高温脱離ユニット16よりなる。この場合、汚染水接触室13は上方が大気開放されて液体錫を汚染水に直接接触させるようにしているが、減圧状態にしてさらに液体錫と汚染水との直接接触を効果的にすることもできる。また、汚染水接触室13の両端好ましくは対抗する下部端部13a、13bに高温配管11、低温配管12がループ状に接続されている。これにより、高温配管11、低温配管12は液体錫対流部を構成する。また、高温配管11、低温配管12は、一体構成でも別体構成でもよく、
図2の(A)に示すごとく、たとえば、外径254 mm、肉厚は20 mmの環状であり、他方、汚染水接触室13は、
図2の(B)に示すごとく、幅100 cm、高さ5 cm以上の矩形で、上方側が大気開放されている。尚、複数の高温配管11及び複数の低温配管12を接続して複数のループを構成してもよい。また、液体冷媒としての液体金属は、ナトリウム、鉛、錫やこれらの合金等が考えられるが、汚染水と直接接触して危険な反応を起こすナトリウムは好ましくなく、また、蒸留水Wは飲料水としても用いることも考慮すると、有毒な鉛は好ましくない。従って、本発明の実施の形態においては、錫又はその合金を用いる。尚、錫の密度ρは、
ρ=7374.7-675×10
-3T(kg/m
3)
但し、Tは絶対温度(K)
で表され、温度依存性が大きく、冷媒として十分作用する。但し、錫以外に適切な冷媒としての金属があれば、その金属を液体冷媒として用いることができる。
【0015】
高温配管11は少なくとも下部の一方側たとえば
図1の左方側において、太陽光を直接受けると共に直径たとえば15 mのパラボラ・ディッシュ型コレクタ2によって太陽熱を集めて加熱される。この場合、パラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力Q及び太陽の直接光によって加熱される高温配管11の加熱部の長さを加熱長Xと定義する。また、高温配管11の加熱部の温度分布はできるだけ傾斜させて液体錫の自然対流を助長させるようにする。パラボラ・ディッシュ型コレクタ2はたとえば直達日射量qを778 W/m
2、集光面積Aを(15m/2)
2πとすれば、パラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力Qは、
Q=A×q=137×10
3W (1)
となる。
【0016】
酸素による液体錫の酸化が起こるのが後述のごとく500 ℃以上であり、融点は232 ℃であることから、液体金属対流装置1における汚染水接触室13を挟む高温配管11及び低温配管12の各温度はたとえば450 ℃、300 ℃とする。この場合、高温配管11での液体錫の物性について、密度は6886 kg/m3、粘性係数は1.21 mPa・s、比熱0.237 kJ/(kg・K)、熱伝導率34.9 W/(m・K)であり、低温配管12での液体錫の物性について、密度は6987 kg/cm3、粘性係数は1.55 mPa・s、比熱0.241 kJ/(kg・K)、熱伝導率32.0 W/(m・K)であり、液体金属対流装置1の設計にはこれらの平均を用いる。従って、汚染水接触室13のプラントル数Prに関しては、337 ℃で0.012、537 ℃で0.0094であるので、Pr=0.01とする。
【0017】
汚染水供給手段として汚染水タンク3及び汚染水供給ポンプ3aが設けられている。すなわち、汚染水接触室13に対して汚染水タンク3より汚染水供給ポンプ3aによって汚染水CWが供給され、汚染水CWが汚染水接触室13にて噴霧される。他方、汚染水接触室13において生成された蒸留水Wは蒸留水タンク4に供給される。このとき、汚染水CWと蒸留水Wとは熱交換器5によって熱交換されるので、汚染水浄化システムの浄化効率が向上する。
【0018】
アルカリ金属分離回収ユニット14は、アルカリ金属の塩化物、酸化物の熱力学的安定度の順序つまり塩化物、酸化物の生成反応式のギブズ自由エネルギーの低い順序に従い、液体錫の上流側から下流側への所定位置に析出する。従って、液体錫に溶解したアルカリ金属の塩化物、酸化物は分離回収できる。尚、分離回収手段としては、後述の重金属分離回収ユニット15に用いられる複数のバルブ付カートリッジを設ければよい。
【0019】
重金属分離回収ユニット15は液体錫に溶解した重金属元素の溶解度は重金属元素固有の温度の関数であるので、液体錫に飽和させて重金属元素を冷却して温度を低下させて析出させることができる。この場合、温度は液体錫の上流から下流に向って低下するので、重金属元素はその溶解度に応じて所定位置で析出する。たとえば、3種類の重金属元素を分離回収するために、メッシュ等を有するカートリッジ15-1、15-2、15-3を設ける。各カートリッジ15-1、15-2、15-3にはバルブ15-1a、15-2a、15-3aを設け、各カートリッジ15-1、15-2、15-3から異なる重金属元素を回収できる。
【0020】
ガス成分高温脱離ユニット16は液体錫に含まれるガス成分たとえば水素、窒素、酸素を高温条件で昇温減圧脱離する。
【0021】
図3は液体錫中のアルカリ金属の塩化物、酸化物、錫酸化物の生成反応式のギブズ自由エネルギーを示すグラフであって、(A)は塩化物の生成反応式の塩素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギーを示し、(B)は酸化物の生成反応式の酸素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギーを示し、(C)は錫酸化物の生成反応式の酸素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギー及び硝酸の生成反応式の酸素原子1個当りのギブズ自由生成エネルギーを示す。
【0022】
図3の(A)に示すように、塩化物では、高温部(450 ℃)、低温部(300 ℃)において、塩化ナトリウム(NaCl)及び塩化リチウム(LiCl)が熱力学的に安定している。尚、300 ℃での塩化錫(1/2SnCl
2)の生成反応式は、
SnO + 2NaCl → SnCl
2 + Na
2O + dG (dG = 367 kJ/mol)
であり、熱力学的に不安定である。従って、LiCl、NaCl、1/2MgCl
2、1/2SnCl
2、HClの順に熱力学的に安定しており、塩素が飽和すると、LiCl、NaCl、1/2MgCl
2、1/2SnCl
2、HClの順にアルカリ金属分離回収ユニット14内の所定位置に析出するので、分離回収できる。
【0023】
図3の(B)に示すように、酸化物では、高温部(450 ℃)、低温部(300 ℃)において、酸化マグネシウム(MgO)及び酸化リチウム(Li
2O)、酸化ナトリウム(Na
2O)は熱力学的に安定している。たとえば、300 ℃における酸化マグネシウム(MgO)の生成反応式は、
MgCl
2 + SnO → MgO + SnCl
2 + dG (dG= -5.40 kJ/mol)
である。また、300 ℃での酸化錫(SnO(1))、酸化錫(1/2SnO
2(1))の生成反応式は、
Sn + H
2O → SnO + H
2 + dG (dG = 3.45 kJ/mol)
1/2Sn + H
2O → 1/2SnO
2 + H
2 + dG (dG = -0.10 kJ/mol)
であり、熱力学的に不安定である。これに対し、300 ℃での酸化錫SnO(2)、酸化錫1/2SnO
2(2)の生成反応式は、300 ℃で、
Sn + 1/2O
2→ SnO + dG (dG = -226 kJ/mol)
Sn + O
2 → SnO
2 + dG (dG = -230 kJ/mol)
であり、熱力学的に安定である。従って、酸素が飽和すると、MgO、Li
2O、Na
2O、1/2LiO
2、1/2SnO
2、SnOの順にアルカリ金属分離回収ユニット14内の所定位置に析出するので、分離回収できる。
【0024】
図3の(C)に示すように、水素、窒素、酸素と硝酸の化学的反応性は低い。また、300 ℃における錫と水との反応式は、
Sn + 2H
2O → SnO
2 + 2H
2 + dG (dG = -69.67 kJ/mol)
であり、硝酸と水との反応式は、
2HNO
3 + 3Sn → 3SnO
2 + H
2 + N
2 + dG (dG = -1385 kJ/mol)
である。従って、水と比べて硝酸は錫との化学的反応性は高いことが分る。この結果、後述するように、硝酸濃度が増加する程、液体錫の表面における酸化錫の量は増加する。また、液体錫に比較して固体錫又はより温度が低い液体錫の表面に窒素が多く存在する。これは硝酸水溶液と固体錫との反応により窒化錫が生成された可能性が大きいと考えられる。
【0025】
図4は
図1の液体金属対流装置1の動作を説明するための概略図である。
【0026】
図4に示すごとく、パラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力Qにより液体錫の高温配管11に太陽熱Qが照射されると同時に、汚染水CWが高温状態の汚染水接触室13の内部に噴霧されると、汚染水CWの中の水成分が熱Qによって蒸発して蒸留水Wが生成すると同時に、汚染水CW中のアルカリ金属A1、A2、A3、重金属M1、M2、M3、気体K1、K2、K3が液体錫中に溶解する。次いで、液体錫が自然対流によって断熱状態の低温配管12に矢印に示すごとく移動する。低温配管12におけるアルカリ金属分離回収ユニット14において、アルカリ金属A1、A2、A3の塩化物、酸化物の生成反応式のギブズ自由エネルギーに従って所定位置に該塩化物、酸化物が析出されて分離回収される。また、低温配管12における重金属分離回収ユニット15において、重金属M1、M2、M3の溶解度に従って、所定位置に析出されて分離回収される。さらに、液体錫が自然対流によって高温配管11に移動すると、高温配管11におけるガス成分高温脱離ユニット16において、気体K1、K2、K3が高温条件で昇温減圧脱離する。
【0027】
次に、
図1の液体金属対流装置1の設計手順を
図5を参照して説明する。
【0028】
まず、ステップ501にて、パラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力Qと錫の加熱量とが等しいので、錫の流量dm/dtは、
dm/dt=Q/[Cp×(Th-Tc)] (2)
但し、Qは(1)式のパラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力
Cpは錫の平均比熱0.239 kJ/(kg・K)
Thは高温配管11の温度450 ℃
Tcは低温配管12の温度300 ℃
で表される。従って、dm/dt=3.82 kg/sとなる。
【0029】
次に、ステップ502にて、液体金属対流装置1の配管11、12の壁面温度T
wを熱流束q及び熱伝達hの次式で求める。
T
w=q/h+T
out=(Q/πDX)/h+T
out (3)
但し、Dは配管11、12の外径254 mm
Xはパラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力Q及び太陽の直射光による加熱長たとえば10 m
T
outは加熱長Xを非常に大きくした場合の加熱長X端における壁面温度
である。従って、壁面温度T
wは、
図6の(A)の加熱長/壁面温度特性に示すごとく表される。従って、材料共存性の制限を受ける500℃を超えないようにするために、つまり、T
w<500℃とすると、酸素による錫の耐腐食性が確保されるので、たとえばX=10.0mとする。
【0030】
自然対流ループの定常運転における釣り合いからの温度差によって起こる静圧差P
h、摩擦損失Δp
c及び局所損失ΣΔp
lは次式で表せる。
P
h-Δp
c-ΣΔp
l=0 (4)
この場合、摩擦損失Δp
c は液体金属対流装置1内を流れる管摩擦係数から導出でき、その値は加熱長X及びループ高さHの関数である。また、局所損失ΣΔp
l は液体金属対流装置1の曲がり角、経路断面積の変化、アルカリ金属分離回収ユニット14、重金属分離回収ユニット15が析出した充填層によって起こる。特に、充填層での圧力損失は大きく、充填物質、充填層の長さH
R(
図1の金属回収距離H
R)によって定まる。
【0031】
従って、ステップ503にて、充填層の高さHRをたとえば2.0 mmとする。
【0032】
次に、ステップ504にて、式(4)にHRを代入してX、Hの関数を得、アスペクト比X/Hを演算する。
【0033】
ステップ505にて、Xは既に決定されているので高さHを演算する。この場合、アスペクト比X/Hが不自然な場合は、ステップ503、504を繰返す。アスペクト比X/Hが極端に縦長、横長になっていなければ、ステップ506に進む。
【0034】
ステップ506では、(4)式から液体金属対流装置1のループ高さH=4.25 mであることから、錫のインベントリIは高さH、加熱長L、直径Dから1160 Lとなる。
【0035】
最後に、ステップ507にて、蒸留水Wの造水量Mwを演算する。パラボラ・ディッシュ型コレクタ2の出力Qと汚染水の蒸発熱とが釣り合うことから次式が求まる。
Mw×[Cw(100-20)+Cv]=Q (5)
但し、Cwは汚染水の比熱
Cv は蒸発顕熱
100は蒸発の温度(℃)
20は大気温度(℃)
である。この結果、一日当りの造水量Mwは1527L/dとなる。
【0036】
図1の汚染水接触室13においては、汚染水CWが液体錫に直接接触した際に液体錫が大気と触れて酸化する。液体錫の運用寿命は液体錫の表面酸化特性に依存する。
【0037】
図7は
図1の汚染水接触室13における液体錫の表面酸化特性について、汚染水を接触させずに実施した大気環境下における静止状態の液体錫を対象とした酸化実験で得られた結果を質量増加量で示すグラフである。300 ℃、400 ℃、500 ℃下における静止場における液体錫の質量増加量は液体錫の酸化層の量を示す
図7において、300 ℃の静止場では液体錫は酸化されず、400 ℃の静止場でも液体錫の酸化層はほとんど酸化されない。しかし、500 ℃の静止場では、液体錫は大きく酸化されて液体錫の酸化層が大きくなる。液体錫の酸化層が大きいと、硝酸水が液体錫に直接接触できず、この結果、硝酸水の有価金属が酸化層に浸透できず、液体錫に溶解できない。しかも、有価金属を回収する際には、有価金属以外の錫酸化層も回収することになる。従って、有価金属の回収率が低下することになる。この点から、液体錫の温度つまり壁面温度T
wは500 ℃未満たとえば最高450 ℃とする。
【0038】
図2の(B)に類似の装置を用いて、次の手順で錫の酸化実験を大気環境化で実施した。
1)約12 gの錫を坩堝に入れて加熱し、溶融して表面が平らになったら冷却する。
2)錫が入った坩堝を滴下実験装置にセットしてマントルヒータで昇温する。
3)熱電対で得られた液体錫の温度が300 ℃、400 ℃、500 ℃付近で安定したら人工汚染水として硝酸水溶液を780 mlたとえば滴下する。このとき、滴下速度は小さくして人工汚染水が液体錫内部に侵入して水蒸気爆発の発生を防止する。
4)滴下実験もしくは酸化実験において、その試験時間は、たとえば100時間、200時間、300時間経過後(500 ℃時はより細かい時間経過後)、自然冷却し、室温になったら坩堝を取り出し、表面の化合物を分析した。
【0039】
図8は
図1の液体金属対流装置において、汚染水として硝酸水溶液を用いた場合の硝酸水溶液と液体錫との直接接触動作を実験的に説明するための図である。
【0040】
始めに、
図8の(A)に示すごとく、
図1の汚染水接触室13において、硝酸水溶液NAを300 ℃の液体錫上に直接滴下する。この結果、
図8の(B)に示すごとく、蒸留水Wの蒸気及び硝酸HNO
3の蒸気NBが発生する。また、同時に、窒素(N)原子、酸素(O)原子が硝酸水溶液NAから液体錫中へ移動する。さらに、時間が進むと、
図8(C)に示すごく、酸化錫SnO
2が析出し、また同時に錫粒子が発生する。尚、実際には、酸化錫は液体錫表面又は液体錫中に析出する。さらに、窒素(N)原子及び酸素(O)原子が液体錫中に浸透する。
【0041】
また、時間がさらに経過すると、
図8の(D)に示すごとく、
図1の低温配管12近傍においては、液体錫の温度はたとえば270 ℃程度に低下する。つまり、液体錫の温度は融点232 ℃に近づく。この結果、窒素N原子及び酸素O原子は、酸化錫SnO及び窒化錫SnNなどとして析出する。尚、この場合も、実際には、酸化錫SnO及び窒化錫SnNなどは液体錫表面又は液体錫中に析出する。
【0042】
図9の(A)は
図8の(A)の滴下前の硝酸濃度及び
図8の(B)、(C)、(D)の滴下後50分における実験による蒸留水Wの硝酸濃度及びpHを示す表である。すなわち、溶融した約12 gの液体錫を坩堝に入れて固化し、実験装置(図示せず)内でマントルヒータで300 ℃付近まで加熱させ、硝酸水を滴下速度0.1 ml/minで滴下し、滴下時間50分で合計5 ml滴下した。この結果、滴下前の硝酸濃度が60 mg/L、780 mg/Lの場合、滴下後50分では蒸留水Wの硝酸濃度は低下した。他方、滴下前の硝酸濃度が60 mg/Lの場合、滴下後50分では蒸留水WのpHは低下したものの、滴下前の硝酸濃度が780 mg/Lの場合、滴下後50分では蒸留水WのpHは変化しなかった。硝酸沸点が82.6 ℃と比較的に低いために、加熱された液体錫との直接接触により硝酸が蒸発し、蒸留水Wに混入した可能性がある。
【0043】
図9の(B)は地下水としての硝酸水の代りに工業排水としての硫酸水を汚染水CWとして用いた場合の
図8の(A)の滴下前の硝酸濃度及び
図8の(B)、(C)、(D)の滴下後50分における実験による蒸留水Wの硫酸濃度を示す表である。すなわち、溶融した約12 gの液体錫を坩堝に入れて固化し、実験装置(図示せず)内でマントルヒータで300 ℃付近まで加熱させ、硫酸水を滴下速度0.1 ml/minで滴下し、滴下時間50分で合計5 ml滴下した。この結果、滴下前の硫酸濃度が330 mg/Lの場合、滴下後50分では蒸留水Wの硫酸濃度は低下した。
【0044】
図10の(A)、(B)、(C)は
図8の(C)の状態における実験による液体錫表面の写真、SEM像及びEDX線分析結果であって、(A)、(B)、(C)は滴下前硝酸濃度が60 mg/L、780 mg/L、6000 mg/Lの場合である。いずれの場合も、硝酸水溶液と直接接触した液体錫表面には酸化錫の析出が認められた。この酸化錫はX線回析法(XRD)の結果によりSnO
2と確認された。つまり、液体錫表面が硝酸水溶液との反応によって液体錫が酸化された可能性がある。尚、液体錫表面の窒素濃度は固体錫表面の窒素濃度に比べて小さかった。
【0045】
図11は固体状態で実験した後の錫表面の写真、SEM像及びEDX線分析結果であって、滴下前硝酸濃度が60 mg/Lの場合である。但し、温度は200 ℃とし、固体錫表面として観察した。この場合も、硝酸水溶液と直接接触した錫表面には酸化錫の析出及び窒化錫の形成が認められた。
【0046】
図12は
図1の液体金属対流装置において、汚染水として砒素水溶液を用いた場合の砒素水溶液と液体錫との直接接触動作を実験的に説明するための図である。
【0047】
始めに、
図12の(A)に示すごとく、
図1の汚染水接触室13において、砒素水溶液AAを300 ℃の液体錫上に直接滴下する。この結果、
図12の(B)に示すごとく、蒸留水Wの蒸気が発生する。また、同時に、砒素(As)原子、ナトリウム(Na)原子、塩素(Cl)原子が砒素水溶液AAから液体錫中へ移動する。さらに、時間が進むと、
図12(C)に示すごく、酸化錫SnO
2が析出し、また同時に錫粒子が発生する。尚、実際には、酸化錫は液体錫表面又は液体錫中に析出する。さらに、砒素(As)原子、ナトリウム(Na)原子及び塩素(Cl)原子が液体錫中に浸透する。
【0048】
また、時間がさらに経過すると、
図12の(D)に示すごとく、
図1の低温配管12近傍においては、液体錫の温度はたとえば270 ℃程度に低下する。つまり、液体錫の温度は融点232 ℃に近づく。この結果、砒素(As)原子、ナトリウム(Na)原子及び塩素(Cl)原子は、酸化砒素As
2O
3及びNaClとして析出する。尚、この場合も、実際には、酸化錫SnO及びNaClは液体錫表面又は液体錫中に析出する。
【0049】
図13は
図12の(A)の滴下前の砒素濃度及び
図12の(B)、(C)、(D)の滴下後50分における実験による蒸留水Wの砒素濃度を示す表である。すなわち、溶融した約12 gの液体錫を坩堝に入れて固化し、実験装置(図示せず)内でマントルヒータで300 ℃付近まで加熱させ、砒素水を滴下速度0.1 ml/minで滴下し、滴下時間50分で合計5 ml滴下した。この結果、滴下前の砒素濃度が1000 mg/Lの場合の砒素濃度のICP-OES分析結果を示す。砒素水溶液を用いた錫表面直接接触実験により回収された蒸留水中の砒素濃度は蒸留前に比較して約76~79 %低下していることが確認された。尚、蒸留水の砒素濃度に対するナトリウム濃度の比は滴下した砒素水溶液の砒素濃度に対するナトリウム濃度の比とほぼ同一であった。
【0050】
図14は
図12の(C)の状態における実験による液体錫表面の写真、SEM像及びEDX線分析結果であって、滴下前砒素濃度が1000 mg/Lの場合である。この場合も、砒素水溶液と直接接触した液体錫表面には金属光沢が確認されなかった。また液体錫表面には酸化錫の析出が認められた。また、砒素水溶液に含まれる塩化ナトリウムの結晶析出が確認された。さらに、酸素濃度に比べて砒素濃度が高くなる箇所が確認された。砒素が酸化物として存在する場合は砒素濃度に比べて酸素濃度が高くなる。砒素水溶液中において三酸化二砒素(As
2O
3)として存在していた砒素が液体錫との直接接触により,原子状態となって液体錫中に溶解し,表層付近に存在していた砒素が液体錫の冷却過程において表面に析出した可能性がある。
【0051】
図15は固体状態で実験を実施した後の錫表面の写真、SEM像及びEDX線分析結果であって、砒素濃度が250 mg/Lの場合である。但し、温度は200 ℃とし、固体錫表面として観察した。砒素水溶液と直接接触した錫表面には酸化錫の析出と共に窒化錫の析出が認められた。この場合、砒素水溶液と直接接触後の錫表面は酸化による変色が確認された。また、砒素水溶液と直接接触後の固体錫表面には酸化錫が形成された、さらに、砒素水溶液中に含まれる塩化ナトリウムの結晶析出が確認された。
【0052】
図16は本発明に係る汚染水浄化システムの第2の実施の形態を示す図である。
【0053】
図16の液体金属対流装置1’においては、
図1の高温配管11、低温配管12及び汚染水接触室13の代りに、高温領域101及び低温領域102を有するタンク10、並びに汚染水接触室103を設けてある。この場合、汚染水接触室103は、
図1の汚染水接触室13と同様に、上方が大気開放状態又は減圧状態とされる。また、タンク10は汚染水接触室103の底部103aに接続され、これにより、液体錫対流部を構成する。液体金属対流装置1’のタンク10は、316Lオーステナイト鋼等より形成され、ループ状ではない対流が存在する。従って、冷媒として液体金属たとえば液体錫を収容して矢印に示すごとく自然対流循環させることができる。また、
図16の液体金属対流装置1’も、
図1の液体金属対流装置1と同様に、
図5のフローチャートに基づいて設計できる。尚、
図16の液体金属対流装置1’は、
図1の液体金属対流装置1に比較して、高温液体錫と低温液体錫とが混ざるために対流効率は低下するが、メンテナンスの点で有利である。
【0054】
このように、アルカリ金属分離回収ユニット14、重金属分離回収ユニット15において、ナトリウム、マグネシウム、リチウム、錫、砒素の回収が期待できる。回収すべき有価資源を選定する方法としては、汚染水中に含まれる有価金属の濃度及び単位質量当りの市場価格を考慮して定めればよい。汚染水として上述の実施の形態に述べたように、硝酸HNO
3、砒素As、硫酸H
2SO
4等を含む地下水や工業排水があるが、本発明はこれに限定されるものではなく、P等を含む生活排水、並びにその他の工業排水をも含む。尚、工業排水としては、たとえば、
図17に示すごとく、硫酸塩含有(たとえばNa
2SO
4)排水、硝酸塩含有(たとえばNaNO
3)排水、塩化物含有(たとえばNaCl)排水の塩含有排水、貴金属含有(たとえばAu、Pt、Ag、Pd)排水、重金属含有(たとえばPb、Zn、Cu、V、Ni)排水の金属含有排水が含まれる。
【0055】
尚、上述の実施の形態においては、液体金属対流装置1は矩形状ループをなしているが、他の形状ループたとえば、円形状ループ、楕円形状ループでもよい。また、液体金属対流装置1’のタンク10は円筒型、角型、球型等でもよい。さらに、加熱手段はパラボラ・ディッシュ型コレクタ以外の太陽熱を利用するコレクタでもよく、また、太陽熱を利用しない原子炉エネルギー、電気的エネルギーでもよい。
【0056】
さらに、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲のいかなる変更にも適用し得る。
【符号の説明】
【0057】
1、1’:液体金属対流装置
11:高温配管
12:低温配管
13:汚染水接触室
101:高温領域
102:低温領域
10:タンク
103:汚染水接触室
14:アルカリ金属分離回収ユニット
15:重金属分離回収ユニット
16:ガス成分高温脱離ユニット
2:パラボラ・ディッシュ型コレクタ
3:汚染水タンク
3a:汚染水供給ポンプ
4:蒸留水タンク
5:熱交換器