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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123573
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電気接続装置
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/2408 20180101AFI20240905BHJP
【FI】
H01R4/2408
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031109
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000144108
【氏名又は名称】株式会社三英社製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜瀬 義則
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 利幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正彦
(72)【発明者】
【氏名】沼田 卓恭
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐司
(72)【発明者】
【氏名】森田 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 央成
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 丙午郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌博
【テーマコード(参考)】
5E012
【Fターム(参考)】
5E012AA04
(57)【要約】
【課題】本願発明は、上部挟持体と下部挟持体で被覆電線を挟持することによって、被覆電線を概ね直線状に配置したうえで被覆内にカットスルー刃を貫入する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【解決手段】本願発明の電気接続装置は、被覆電線を挟持したうえで被覆電線の導体に接続する装置であり、上部挟持体と下部挟持体、カットスルー刃、移動体を備えたものである。上部挟持体の下方に配置された被覆電線に接近するように移動体を移動させると、被覆電線が上部挟持体と下部挟持体に挟持されるとともに、カットスルー刃が被覆電線の被覆を貫通して導体に接触することによって、導体と電気的に接続される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆電線を挟持したうえで該被覆電線の導体に接続する装置において、
挟持された前記被覆電線の軸方向に所定の幅を有するとともに、該被覆電線の軸方向に見るとフック状であって、挟持する際に該被覆電線の上部を抑える上部挟持体と、
挟持された前記被覆電線の軸方向に離隔をもって配置される2つの支持壁を含み、挟持する際に該被覆電線の下部を支える下部挟持体と、
前記被覆電線の被覆を貫通するカットスルー刃と、
前記上部挟持体に対して、接近するとともに遠ざかるように移動する移動体と、を備え、
前記下部挟持体と前記カットスルー刃は、前記移動体に取り付けられ、
前記上部挟持体の下方に配置された前記被覆電線に接近するように前記移動体を移動させると、該被覆電線が該上部挟持体と前記下部挟持体に挟持されるとともに、前記カットスルー刃が前記被覆電線の被覆を貫通して前記導体に接触することによって、該導体と電気的に接続される、
ことを特徴とする電気接続装置。
【請求項2】
内周にネジが設けられた本体孔を有する本体部を、さらに備え、
前記移動体は、外周にネジが設けられた棒状又は管状であり、
前記本体孔に螺合された前記移動体を回転することによって、該移動体と前記下部挟持体と前記カットスルー刃が、前記上部挟持体に接近するとともに遠ざかるように移動する、
ことを特徴とする請求項1記載の電気接続装置。
【請求項3】
前記下部挟持体が、底板孔を有する底板を含んで構成され、
前記移動体にはストッパーが取り付けられるとともに、該ストッパーと前記底板との間にはバネが配置され、
前記底板孔に挿通された前記移動体の頂部に、前記カットスルー刃が取り付けられ、
前記支持壁が前記被覆電線に接触するまでは、前記移動体を回転すると、前記移動体とともに前記下部挟持体と前記カットスルー刃は前記上部挟持体に接近し、
前記支持壁が前記被覆電線に接触した後は、前記移動体を回転すると、前記下部挟持体は移動を停止し、前記バネが縮みながら前記移動体とともに前記カットスルー刃は前記上部挟持体に接近する、
ことを特徴とする請求項2記載の電気接続装置。
【請求項4】
前記支持壁の頂部には、円弧が形成される切欠部が設けられ、
前記下部挟持体が前記被覆電線の下部を支えるとき、該被覆電線の断面の一部が前記切欠部に収容される、
ことを特徴とする請求項1記載の電気接続装置。
【請求項5】
前記下部挟持体は、前記支持壁を交換可能に支持する壁支持具をさらに含み、
また前記下部挟持体は、複数種類の前記支持壁を有するとともに、複数の該支持壁はそれぞれ異なる径の円弧が形成された前記切欠部が設けられ、
対象とする前記被覆電線の径に応じて前記支持壁を選定したうえで、該支持壁を前記壁支持具に設置することができる、
ことを特徴とする請求項4記載の電気接続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、被覆電線の導体に接続する技術に関するものであり、より具体的には、被覆電線を概ね直線状に配置したうえで導体に接続することができる電気接続装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所では数千~数万ボルトの電気が生成されるが、電気抵抗によるロスを避けるため数十万ボルト程度の超高圧にしたうえで送電している。そして、超高圧変電所や一次変電所、二次変電所、配電用変電所などの各変電所で徐々に電圧を下げたうえで工場などに供給し、さらに柱上変圧器などで電圧を下げて家庭に供給している。いずれにしろ、発電所で生成された電気は、電線やケーブルなどを利用した送電線や配電線(以下、これらを総じて「送電線等」という。)を介して利用者に供給される。そして、当然ながら全国には夥しい量の送電線等が配置されており、また比較的新しい送電線等もあれば相当な期間を経過した送電線等もある。
【0003】
送電線等には、電力柱に架線される架空送電線等(架空送電線や架空配電線)や、地下に埋設される地中送電線等(地中送電線や地中配電線)がある。そして、送電線等のバイパス工事を実施するとき、あるいは電気的接続の確認試験を実施するときには、送電線等に対して電気的な接続が行われる。もちろん送電線等は被覆されているため、被覆を剥がしたうえで導体に接続することも考えられるが、被覆を剥がすことなく導体に接続することも考えられる。例えば、特許文献1や特許文献2では、カットスルー刃を利用することによって被覆を剥がすことなく導体に接続する装置について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-335294号公報
【特許文献2】特開平8-222287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、支持物(例えば、電柱など)の間に架線された送電線等は、カテナリー曲線などの曲線状とされ、すなわち概ね下向きに撓んだ状態となる。このときの「たるみ」が大きいと支持物の高さは高くなるうえ、送電線等の短絡故障が生じやすいことが知られている。一方、「たるみ」を小さくするには、送電線等を強く引張する必要があるため、支持物に対して求められる強度が大きくなり、特に冬季の着氷雪を憂慮しなければならないケースでは極めて高強度の支持物を調達することになる。そこで通常は、適切な「たるみ(弛度)」をもって配線されるように計画されたうえで、送電線等は架線される。
【0006】
このように適切な弛度をもって配線された送電線等に対して、特許文献1や特許文献2に開示される技術(以下、単に「従来技術」という。)を用いて導体に接続する場合、次のような問題を指摘することができる。
【0007】
従来技術の電線接続具は、上から電線保持部を被覆電線に覆い被せるとともに、押え金具(刃押え)に取り付けられたカットスルー刃を押し上げることによって導体に接続するものである。つまりカットスルー刃は、被覆電線を下から支えつつ、被覆内に貫入して接続することになる。ところが、図11に示すように被覆電線が撓んでいるのに対して、従来技術の電線保持部やカットスルー刃は直線状(図では概ね水平方向)に配置されている。その結果、カットスルー刃のうち一部(図では右側の一部)のみが導線に接続することとなり、接触時の瞬間的なアーク電流は平均化されることなく一部に集中する。この場合、接続時の接触抵抗が大きくなり、被覆電線のうち接続された部分がやせ細ったり、あるいは金具の溶解や発火などが生じたりするなど、好ましくない状況となるおそれがある。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、被覆電線を概ね直線状に配置したうえで導体に接続することができる電気接続装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、上部挟持体と下部挟持体で被覆電線を挟持することによって、被覆電線を概ね直線状に配置したうえで被覆内にカットスルー刃を貫入する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0010】
本願発明の電気接続装置は、被覆電線を挟持したうえで被覆電線の導体に接続する装置であり、上部挟持体と下部挟持体、カットスルー刃、移動体を備えたものである。このうち上部挟持体は、挟持された被覆電線の軸方向に所定の幅を有するとともに、被覆電線の軸方向に見るとフック状であって、挟持する際に被覆電線の上部を抑えるものである。また下部挟持体は、挟持された被覆電線の軸方向に離隔をもって配置される2つの支持壁を含み、挟持する際に被覆電線の下部を支えるものである。カットスルー刃は、被覆電線の被覆を貫通するものであり、移動体は、上部挟持体に対して接近するとともに遠ざかるように移動するものである。なお下部挟持体とカットスルー刃は、移動体に取り付けられる。そして、上部挟持体の下方に配置された被覆電線に接近するように移動体を移動させると、被覆電線が上部挟持体と下部挟持体に挟持されるとともに、カットスルー刃が被覆電線の被覆を貫通して導体に接触することによって、導体と電気的に接続される。
【0011】
本願発明の電気接続装置は、内周にネジが設けられた本体孔を有する本体部を、さらに備えたものとすることもできる。この場合の移動体は、外周にネジが設けられた棒状(あるいは管状)とされる。そして、本体孔に螺合された移動体を回転することによって、移動体と下部挟持体とカットスルー刃が、上部挟持体に接近するとともに遠ざかるように移動する。
【0012】
本願発明の電気接続装置は、下部挟持体が底板孔を有する底板を含んで構成されたものとすることもできる。この場合、移動体にはストッパーが取り付けられるとともにストッパーと底板との間にはバネが配置され、底板孔に挿通された移動体の頂部にはカットスルー刃が取り付けられる。そして、支持壁が被覆電線に接触するまでは、移動体を回転すると、移動体とともに下部挟持体とカットスルー刃は上部挟持体に接近する。一方、支持壁が被覆電線に接触した後は、移動体を回転すると、下部挟持体は移動を停止し、バネが縮みながら移動体とともにカットスルー刃は上部挟持体に接近する。
【0013】
本願発明の電気接続装置は、支持壁の頂部に円弧が形成される切欠部が設けられたものとすることもできる。この場合、下部挟持体が被覆電線の下部を支えるとき、被覆電線の断面の一部が切欠部に収容される。
【0014】
本願発明の電気接続装置は、下部挟持体が支持壁を交換可能に支持する壁支持具をさらに含むものとすることもできる。なお下部挟持体は、複数種類の支持壁を有するとともに、複数の支持壁はそれぞれ異なる径の円弧が形成された切欠部が設けられる。この場合、対象とする被覆電線の径に応じて支持壁を選定したうえで、支持壁を壁支持具に設置することができる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の電気接続装置には、次のような効果がある。
(1)上部挟持体と下部挟持体で被覆電線を挟持することによって、被覆電線を概ね直線状に配置したうえで被覆内にカットスルー刃を貫入することができる。
(2)概ね直線状の被覆電線にカットスルー刃を貫入することから、電流の一点集中による刃への負担を軽減させることができる。さらに、接触不良等における不具合を回避することができ、その結果、工事における品質の維持を図ることができる。
(3)特段の経験や技術がない者であっても、容易かつ適切に導体への接続作業を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明の電気接続装置を示す斜視図。
図2】本願発明の電気接続装置を示す正面図。
図3】(a)は被覆電線を挟持する前の電気接続装置を示す正面図、(b)は被覆電線を挟持する前の電気接続装置を示す側面図、(c)は被覆電線を挟持したときの電気接続装置を示す正面図、(d)は被覆電線を挟持したときの電気接続装置を示す側面図。
図4】(a)は電気接続装置を模式的に示す正面図。(b)はストッパーとカプラーの縮径部分に通されたバネを示す部分拡大図。
図5】電気接続装置を模式的に示す側面図。
図6】(a)はカットスルー刃を模式的に示す部分正面図、(b)はカットスルー刃を構成する接触刃の側面図。
図7】(a)は挿入空間に移動体の頂部が挿入された構成を示す断面図、(b)は図7(a)のうち破線で示す箇所の部分断面図、(c)は移動体の頂部を示す側面図。
図8】下部挟持体を模式的に示す部分正面図。
図9】(a)は大径用の切欠部が形成された支持壁と小径用の切欠部が形成された支持壁を模式的に示す正面図、(b)は壁支持具に嵌め込まれた支持壁を模式的に示す平面図。
図10】本願発明の電気接続装置を用いて被覆電線の導体と電気的に接続する手順を示すステップ図。
図11】撓んでいる被覆電線に対して電線保持部やカットスルー刃が直線状に配置された結果、一部のカットスルー刃のみが接続された状況を模式的に示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の電気接続装置の実施形態の一例を図に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本願発明の電気接続装置100を示す斜視図、図2は本願発明の電気接続装置100を示す正面図である。この図に示すように本願発明の電気接続装置100は、上部挟持体110と下部挟持体120を備えるものであり、挟持した被覆電線の導体に接続する装置である。なお、電気接続装置100は被覆電線を概ね直線状に配置したうえで導体に接続することを技術的特徴の一つとしており、その方向は必ずしも水平には限らないが、便宜上ここでは被覆電線を略水平(水平を含む)に配置する例で説明する。また図2に示すように、便宜上ここでは挟持したときの被覆電線の軸方向のことを単に「電線軸方向」と、電線軸方向に直交する水平方向のことを「電線軸直角方向」ということとする。
【0019】
電気接続装置100を構成する上部挟持体110は、電線軸方向に所定の幅を有するもので、電線軸方向に見たときにその形状がフック状となっている。そして、被覆電線を挟持する際には、その被覆電線の上部から抑える機能を果たす。そのため、フック状の内側には被覆電線を収容することができるスペースが設けられ、さらに図1に示すように電線用切欠部110Nを設けることもできる。
【0020】
一方の下部挟持体120は、被覆電線を挟持する際にその被覆電線の下部から支える機能を果たすものである。また後に詳しく説明するように、下部挟持体120は電線軸方向に離隔をもって配置される2つの支持壁を含んで構成される。
【0021】
図3は電気接続装置100を示す図であり、(a)は被覆電線ECを挟持する前の電気接続装置100を示す正面図(電線軸直角方向に見た図)、(b)は被覆電線ECを挟持する前の電気接続装置100を示す側面図(電線軸方向に見た図)、(c)は被覆電線ECを挟持したときの電気接続装置100を示す正面図(電線軸直角方向に見た図)、(d)は被覆電線ECを挟持したときの電気接続装置100を示す側面図(電線軸方向に見た図)である。
【0022】
図3に示すように、被覆電線ECを挟持していないときには上部挟持体110と下部挟持体120との間に所定のスペースが生じている。そして、上部挟持体110の内側(例えば、電線用切欠部110N)に被覆電線ECを配置したうえで、下部挟持体120を上昇させると、上部挟持体110が被覆電線ECの上部から抑えるとともに、下部挟持体120が被覆電線ECの下部から支え、すなわち被覆電線ECが挟持される。この状態でカットスルー刃が被覆電線ECの被覆を貫通すると導体と電気的に接続され、さらにバイパスケーブル取出し部170に支持されたバイパスケーブルを通じてもう一方のコネクタ部に電気が流れる。このとき、上部挟持体110が電線軸方向に所定の幅を有しており、しかも2つの支持壁(下部挟持体120)が被覆電線ECの電線軸方向に離隔をもって配置されていることから、被覆電線ECは概ね直線(図3(c)では概ね水平)の状態で挟持される。この結果、カットスルー刃を被覆電線ECに貫入する際、電流の一点集中による刃への負担を軽減させることができ、また接触不良等における不具合を回避することができるわけである。
【0023】
以下、図4図10を参照しながら、電気接続装置100についてさらに詳しく説明する。
【0024】
図4は電気接続装置100を模式的に示す正面図(電線軸直角方向に見た図)であり、図5は電気接続装置100を模式的に示す側面図(電線軸方向に見た図)である。この図に示すように電気接続装置100は、上部挟持体110と下部挟持体120、カットスルー刃130、移動体140を含んで構成され、さらに本体部150やハンドル160、バイパスケーブル取出し部170、ストッパー181、バネ182などを含んで構成することもできる。
【0025】
(上部挟持体)
上部挟持体110は、電気接続装置100の上方に配置され、既述したように被覆電線ECの上部から抑えるものである。また、図4から分かるように電線軸方向に所定の幅を有するとともに、図5から分かるように電線軸方向に見るとフック状とされ、さらにフック状の内側に電線用切欠部110Nを設けることもできる。
【0026】
(移動体)
移動体140は、上部挟持体110に対して相対的に移動するものであり、この移動体140には下部挟持体120とカットスルー刃130が取り付けられる。つまり、移動体140とともに下部挟持体120とカットスルー刃130も、上部挟持体110に対して相対的に移動するわけである。これにより、電気的な接続を行うときは下部挟持体120とカットスルー刃130、移動体140が上部挟持体110(その下方に配置された被覆電線EC)に接近する(上昇する)ように移動し、電気的な接続を解除するときは下部挟持体120とカットスルー刃130、移動体140が上部挟持体110から遠ざかる(降下する)ように移動することができる。
【0027】
移動体140は、上部挟持体110に対して相対移動することができれば、従来用いられている種々の機構を利用することができる。例えば、図4図5に示す移動体140は、外周にネジが設けられた棒状(あるいは管状)とされ、本体部150を利用して相対移動する機構を採用している。なお移動体140には、必ずしもその全長に亘ってネジを設ける必要はなく(もちろん設けてもよい)、必要な範囲にのみネジを設けることもできる。以下、図4図5に示す移動体140が相対移動する機構について説明する。
【0028】
本体部150には、本体カプラー151が設置されており、この本体カプラー151には内周にネジが設けられた貫通孔(以下、「本体孔」という。)が設けられている。もちろん、本体カプラー151を設置することなく、本体部150に「本体孔」を直接形成することもできる。そして、移動体140の外周ネジと本体孔の内周ネジが螺合するように、移動体140が本体孔に挿通される。また本体部150は、上部挟持体110に対して相対移動しないように配置される。例えば図5では、本体部150の頂部に上部挟持体110が固定されている。このような構成とすることによって、例えばハンドル160を用いて移動体140を軸周りに回転すると移動体140が上部挟持体110(その下方に配置された被覆電線EC)に接近する(上昇する)ように移動し、逆周りに回転すると移動体140が上部挟持体110から遠ざかる(降下する)ように移動するわけである。そのため本体部150は、移動体140と共回りしない構成とされ、すなわち回転が拘束された構成とされる。なお便宜上ここでは、移動体140が上部挟持体110に接近する回転のことを「正回転」と、移動体140が上部挟持体110から遠ざかる回転のことを「逆回転」ということとする。
【0029】
(カットスルー刃)
図6(a)はカットスルー刃130を模式的に示す部分正面図(電線軸直角方向に見た図)であり、図6(b)はカットスルー刃130を構成する接触刃131の側面図(電線軸方向に見た図)である。この図に示すようにカットスルー刃130は、被覆電線ECの被覆を貫通して導体に接触するための鋭利な接触刃131を具備しており、図6の例ではこの接触刃131がベース導体132の上面にネジ等によって取り付けられている。またカットスルー刃130は、移動体140の頂部に取り付けられる。ただし、移動体140が軸周りに回転したとしても、カットスルー刃130が共回りしないように取り付けられる。
【0030】
例えば図7に示すように、ベース導体132の下部に移動体140の外径よりもやや大径の有底孔(以下、「挿入空間133」という。)を設け、この有底孔に移動体140の頂部を挿入する構成とすることができる。図7は、挿入空間133に移動体140の頂部が挿入された構成を示す図であり、(a)はその断面図、(b)は図7(a)のうち破線で示す箇所の部分断面図、(c)は移動体140の頂部を示す側面図である。この場合、図7(b)に示すように挿入空間133内に2つのピン134を取り付けるとともに、図7(c)に示すように「縮径部」と「フランジ」からなるT字状の構造を移動体140の頂部に設けることができる。すなわち、これらピン134によって移動体140の縮径部を挟み込むわけである。このような構成にすることによって、移動体140と共回りしないように、ベース導体132(つまり、カットスルー刃130)を移動体140に取り付けることができる。そして、例えばハンドル160を用いて移動体140を正回転すると、そのフランジが挿入空間133の上面(有底孔における底面)を押し上げることによって、カットスルー刃130は移動体140とともに上部挟持体110に接近するように(上昇するように)移動する。一方、移動体140を逆回転すると、そのフランジがピン134を引き下げることによって、カットスルー刃130は移動体140とともに上部挟持体110から遠ざかるように(降下するように)移動する。
【0031】
接触刃131は、被覆を貫通するため先端が鋭利な角度になるよう形成され、図6(b)の例では向かい合った2つの刃によって接触刃131が形成されている。もちろん、被覆を貫通することができれば図6(b)の形状に限らず種々の形状の接触刃131を採用することができる。ただし、後述するように相当のトルクの回転力(例えば15N・m)を移動体140に与えたとしても、接触刃131が折り曲がったり欠損したりすることがないような強度や形状とすることが望ましい。
【0032】
(下部挟持体)
図8は、下部挟持体120を模式的に示す部分正面図(電線軸直角方向に見た図)である。下部挟持体120は、電気接続装置100のうち上部挟持体110の下方に配置され、既述したように被覆電線ECの下部から支えるものである。また、図8から分かるように下部挟持体120は、電線軸方向に離隔をもって配置される2つの支持壁121を含んで構成され、直接的には支持壁121の頂部が被覆電線ECを支える。故に、支持壁121は、その頂部にフランジを形成するためL字状の形状とするとよい。
【0033】
下部挟持体120は、少なくとも2つの支持壁121を含む限り、種々の構成とすることができる。例えば図8に示す下部挟持体120は、底板122と、この底板122の両脇から立ち上がる支持壁121、そして底板122の下面に設置されるカプラー123によって構成されている。この底板122には貫通孔(以下、「底板孔」という。)が形成されており、またカプラー123にも貫通孔(以下、「カプラー孔」という。)が形成されている。なお、カプラー123は底板孔を通過できない外径とされ、底板孔とカプラー孔が連通するようにカプラー123は配置される。すなわち図8の例では、下部挟持体120内に設けられるコ字状のスペース内にカットスルー刃130が収容され、このカットスルー刃130から下方に伸びる移動体140が底板孔を通過し、さらにカプラー孔を通過している。
【0034】
下部挟持体120は移動体140に取り付けられ、移動体140の移動に伴って下部挟持体120も移動する構成とされる。下部挟持体120が移動体140に応じて移動する限り従来用いられている種々の機構を利用することができ、例えば図4図5に示す構成とすることができる。以下、図4図5を参照しながら、下部挟持体120が移動する機構について説明する。
【0035】
図4図5では、移動体140にストッパー181が固定されるとともに、底板122の下面にカプラー123が配置され、そしてストッパー181とカプラー123との間にはコイルスプリングなどのバネ182を配置されている。なお、図4(a)や図8ではストッパー181とカプラー123、バネ182の配置が分かるように描いているが、実際は図4(b)に示すようにストッパー181とカプラー123の縮径部分にバネ182が通され、ストッパー181とカプラー123のフランジ部分で止められている。また、移動体140は底板孔とカプラー孔に挿通されているものの螺合されておらず、すなわち移動体140の軸周り回転は底板122やカプラー123に伝達されない。
【0036】
ストッパー181とカプラー123との間にバネ182を配置することによって、カプラー123がバネ182によって下方から支えられ、さらに下部挟持体120(特に、底板122)がカプラー123によって下方から支えられている。故に、カプラー123は必ずしも底板122に固定する必要はなく(もちろん固定してもよい)、またカプラー123を省略して下部挟持体120がバネ182によって直接的に支持される構成にすることもできる。そして、例えばハンドル160を用いて移動体140を正回転すると、ストッパー181とバネ182に支持されたカプラー123(つまり、下部挟持体120)が、移動体140とともに上部挟持体110に接近するように(上昇するように)移動する。一方、移動体140を逆回転すると、ストッパー181とバネ182に支持されたカプラー123(つまり、下部挟持体120)が、移動体140とともに上部挟持体110から遠ざかるように(降下するように)移動する。なお、下部挟持体120やカットスルー刃130が遠ざかるように(降下するように)移動する際、下部挟持体120が被覆電線ECを下から支えた状態では、すなわちベース導体132の底面と底板122との間に隙間が生じている間は、下部挟持体120はバネ182の弾性力によって被覆電線ECに押し付けられたままカットスルー刃130のみが移動し、ベース導体132の底面が底板122に当接した後は、下部挟持体120とカットスルー刃130がともに移動する。
【0037】
以上説明したような構成とすることによって、カットスルー刃130と下部挟持体120は、それぞれ独立して移動することができる。例えばハンドル160を用いて移動体140を正回転すると、移動体140とともにカットスルー刃130と下部挟持体120は上部挟持体110に接近していく。そして、下部挟持体120(特に、支持壁121の頂部)が被覆電線ECに当接すると、下部挟持体120はそれ以上接近することができなくなる。一方、下部挟持体120が被覆電線ECに当接した後も継続して移動体140を正回転すると、移動体140が本体カプラー151の本体孔内で回転することによって、バネ182が縮みながら移動体140は上部挟持体110に接近し、これに伴いその頂部に取り付けられたカットスルー刃130もさらに上部挟持体110に接近していく。その結果、上部挟持体110と下部挟持体120によって被覆電線ECを挟持した状態で、その被覆内にカットスルー刃130が貫入されていくわけである。
【0038】
上記したように、被覆電線ECは直接的には支持壁121の頂部によって支えられている。そこで、支持壁121の頂部に切欠部121Nを設けるとよい。図9に示すように、この切欠部121Nには円弧が形成されているため、通常は円形断面とされる被覆電線ECの一部を切欠部121N内に収容することができ、すなわち被覆電線ECを安定的に支持することができて好適となる。
【0039】
ところで、当然ながら被覆電線ECは種々の径のものがある。そのため、対象とする被覆電線ECの径に応じて、切欠部121Nの円弧の径を変更することが考えられる。この場合、図9に示すように支持壁121を交換可能に設置することができる構成にするとよい。具体的には、案内溝を有する壁支持具121Gと、板状の支持壁121とによって下部挟持体120を構成することとし、この壁支持具121G内に支持壁121を嵌め込むことによって交換可能に支持壁121を設置するわけである。もちろん壁支持具121Gは電線軸方向に離隔をもって2個所に配置され、また複数種類の支持壁121が用意されるとともに、これら支持壁121はそれぞれ異なる径の円弧を有する切欠部121Nが形成されている。例えば図9(a)では、大径用の切欠部121Nが形成された支持壁121と、小径用の切欠部121Nが形成された支持壁121の2種類が用意されている。そして、対象とする被覆電線ECの径に応じて支持壁121(つまり、切欠部121N)を選定し、その選定された支持壁121を壁支持具121Gに嵌め込むことができる。
【0040】
(使用例)
本願発明の電気接続装置100を用いて、被覆電線ECの導体と電気的に接続する手順について、図10を参照して説明する。まず図10(a)に示すように、被覆電線ECが上部挟持体110の下方となるように、より詳しくは被覆電線ECが上部挟持体110の内側(例えば、電線用切欠部110N)に収容されるように、電気接続装置100をセットする。ただし、この時点では被覆電線ECはまだ下向きに撓んだ曲線状態である。そして、その状態からハンドル160を用いて移動体140を正回転し、移動体140と下部挟持体120、カットスルー刃130を上部挟持体110(その下方に配置された被覆電線EC)に接近させる。このとき、トルクレンチなどを用いて回転力を管理しながらハンドル160の操作を行うとよい。本願発明の発明者が15N・mのトルクを維持しながら回転させたところ、安定した導通が得られた。もちろん、その際にカットスルー刃130の接触刃131が、折れ曲がったり欠損したりする不具合が生じることはなかった。
【0041】
移動体140と下部挟持体120、カットスルー刃130が上部挟持体110に接近していくと、図10(b)に示すように下部挟持体120(特に、支持壁121の頂部)が被覆電線ECに当接し、被覆電線ECは上部挟持体110と下部挟持体120によって挟持される。このとき、上部挟持体110が電線軸方向に所定の幅を有しており、しかも2つの支持壁121が電線軸方向に離隔をもって配置されていることから、被覆電線ECは概ね直線(図では概ね水平)の状態で挟持される。
【0042】
下部挟持体120が被覆電線ECに当接すると、移動体140を正回転しても、下部挟持体120はそれ以上接近することができなくなる。一方、下部挟持体120が被覆電線ECに当接した後も継続して移動体140を正回転すると、移動体140がカプラー123内で回転することによってバネ182が縮みながら移動体140とカットスルー刃130はさらに上部挟持体110に接近していく。その結果、図10(c)に示すように、概ね直線状とされた被覆電線ECを挟持した状態で、その被覆内にカットスルー刃130が貫入されていく。そして、カットスルー刃130が被覆電線ECの被覆を貫通すると、その導体と電気的に接続され、さらにバイパスケーブル取出し部170に支持されたバイパスケーブルを通じてもう一方のコネクタ部に電気が流れる。
【0043】
一連の作業が完了して電気的な接続を解除するときは、移動体140を逆回転することによって移動体140と下部挟持体120、カットスルー刃130が降下するように移動する。このときも、バネ182による弾性力(上向きの力)が解除されるまでは、移動体140とカットスルー刃130のみが降下し、その弾性力が解除された後は、移動体140とカットスルー刃130、そして下部挟持体120が降下していく。その結果、上部挟持体110と下部挟持体120との間に適当なスペースが形成されると、被覆電線ECから電気接続装置100を取り外す。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願発明の電気接続装置は、送電線や配電線など様々な被覆電線への接続作業に利用することができる。本願発明によれば、接続作業を行う際に送電線等の損傷を抑制することができ、ひいては電気の安定供給に寄与することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0045】
100 本願発明の電気接続装置
110 (電気接続装置の)上部挟持体
110N (上部挟持体の)電線用切欠部
120 (電気接続装置の)下部挟持体
121 (下部挟持体の)支持壁
121N (下部挟持体の)切欠部
121G (下部挟持体の)壁支持具
122 (下部挟持体の)底板
123 (下部挟持体の)カプラー
130 (電気接続装置の)カットスルー刃
131 (カットスルー刃の)接触刃
132 (カットスルー刃の)ベース導体
133 (カットスルー刃の)挿入空間
134 (カットスルー刃の)ピン
140 (電気接続装置の)移動体
150 (電気接続装置の)本体部
151 (本体部の)本体カプラー
160 (電気接続装置の)ハンドル
170 (電気接続装置の)バイパスケーブル取出し部
181 (電気接続装置の)ストッパー
182 (電気接続装置の)バネ
EC 被覆電線
図1
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図11