(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123579
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】シール構造と、このシール構造を備えた等速自在継手と、この等速自在継手を備えた動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 3/84 20060101AFI20240905BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F16D3/84 J
F16D3/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031119
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】石垣 紀明
(57)【要約】
【課題】等速自在継手のシール構造をなし金属内環を介してシャフトに取付けられるブーツをゴム製とした場合においても、内側継手部材にシャフトを容易にかつ確実に組付け可能とする。
【解決手段】この等速自在継手11のシール構造26は、外側継手部材15に取付けられる金属外環28と、内側継手部材16に嵌合された状態のシャフト13に取付けられる金属内環29と、金属外環28と金属内環29とに固定されたブーツ30とを備える。また、このシール構造26は、金属内環29の中心線X1と、シャフト13が嵌合する内側継手部材16の軸孔19の中心線X2とが平行になるように、金属内環29の姿勢を保持可能な姿勢保持部33をさらに備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速自在継手の外側継手部材に取付けられる金属外環と、前記等速自在継手の内側継手部材に嵌合された状態のシャフトに取付けられる金属内環と、前記金属外環と前記金属内環とに固定されたブーツとを備え、前記外側継手部材と前記内側継手部材との間の空間をシールする等速自在継手のシール構造において、
前記金属内環の中心線と、前記シャフトが嵌合する前記内側継手部材の軸孔の中心線とが平行になるように、前記金属内環の姿勢を保持可能な姿勢保持部をさらに備えたことを特徴とする、等速自在継手のシール構造。
【請求項2】
前記姿勢保持部は、前記内側継手部材に設けられ前記金属内環の軸方向一端部が嵌合可能な内環嵌合部で構成される請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記内環嵌合部は、前記内側継手部材の前記軸孔の軸方向他端部に設けられた内環嵌合穴である請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記内環嵌合部は、前記内側継手部材の軸方向他端面に設けられた内環嵌合溝である請求項2に記載のシール構造。
【請求項5】
前記姿勢保持部は、前記金属内環の軸方向一端側に設けられ前記内側継手部材の軸方向他端面と当接可能な鍔部で構成される請求項1に記載のシール構造。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載のシール構造を備えた等速自在継手。
【請求項7】
前記シャフトの前記内側継手部材に対する軸方向変位が許容される構造をなす請求項6に記載の等速自在継手。
【請求項8】
請求項7に記載の自由側の等速自在継手と、前記シャフトの前記内側継手部材に対する軸方向変位が規制される構造をなす固定側の等速自在継手と、前記自由側の等速自在継手と前記固定側の等速自在継手とを連結する前記シャフトとを備えた動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造と、このシール構造を備えた等速自在継手と、この等速自在継手を備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸間で回転動力を等速で伝達可能とするものであり、自動車や各種産業機械などの動力伝達系に組み込まれて使用されている。
【0003】
例えば製紙設備や鉄鋼設備などの各種産業機械の動力伝達系には、一対の固定式等速自在継手がシャフトを介して相互に連結された状態で用いられている。この場合、一方の固定式等速自在継手を、内側継手部材に対するシャフトの軸方向変位が規制された、いわゆる固定側の等速自在継手とし、他方の固定式等速自在継手を、内側継手部材に対するシャフトの軸方向変位が許容された、いわゆる自由側の等速自在継手とした構造が採られることがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
この種の等速自在継手には、外部からの粉塵等の異物や水の侵入およびグリース等の潤滑剤の漏洩を防止するためのシール構造が設けられるのが一般的である。
図4は、上述した動力伝達系(動力伝達装置110)の等速自在継手111,112に採用されるシール構造126の一例を示している。このシール構造126は、シャフト113の外周に装着された金属内環129と、ボルト131の締結で固定板132を外側継手部材115に固定することにより外側継手部材115に装着される金属外環128と、金属内環129と金属外環128とに固定されたブーツ130とで構成されている。ここで、
図4に示すように、動力伝達装置110に組込まれる等速自在継手111,112においては、固定側の等速自在継手112におけるシャフト113の角度変位と、自由側の等速自在継手111におけるシャフト113の角度変位及び軸方向変位とに対応するため、ブーツ130を伸縮自在なゴム製とすることが多い(何れも特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、自由側の等速自在継手111を構成する内側継手部材116に対して、シャフト113は軸方向変位を許容された状態にある。そのため、自由側の等速自在継手111においては、
図5に示すように、予め金属外環128及び金属内環129をブーツ130に固定したものを用意しておき、このブーツ130に固定された金属外環128を、ボルト131及び固定板132を介して外側継手部材115に組付けた状態で、シャフト113を金属内環129と内側継手部材116の軸孔119とに挿入することで、シャフト113を等速自在継手111に組付けることができる。
【0007】
しかしながら、上述した理由で伸縮性に優れたゴム製のブーツ130を採用する場合、シャフト113の挿入方向及び挿入姿勢によっては、シャフト113の組付けが困難となることがあった。すなわち、
図5に示すように、シャフト113の長手方向を水平方向に合わせた状態で挿入する場合、挿入相手となる内側継手部材116及び金属内環129もその中心線X1,X2を水平方向に合わせた状態で配置する必要が生じる。ここで、金属内環129は、シャフト113の挿入前の時点においては、ブーツ130にのみ固定された状態にあるため、金属内環129の自重によりブーツ130が容易に変形し、結果として、金属内環129が水平方向に対して傾いた状態となり易い。これでは、シャフト113が金属内環129の軸方向他端部129cと干渉するため、金属内環129の傾き度合いによっては、シャフト113の挿入動作により金属内環129がさらに大きく傾きかねない。以上の理由より、従来構成のシール構造126では、金属内環129ひいてはその先の内側継手部材116の軸孔119にシャフト113を確実に挿入し、組付けることが難しかった。
【0008】
以上の実情に鑑み、本発明により解決すべき技術課題は、等速自在継手のシール構造をなし金属内環を介してシャフトに取付けられるブーツをゴム製とした場合においても、内側継手部材にシャフトを容易にかつ確実に組付けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係る等速自在継手のシール構造によって達成される。すなわち、このシール構造は、等速自在継手の外側継手部材に取付けられる金属外環と、等速自在継手の内側継手部材と嵌合した状態のシャフトに取付けられる金属内環と、金属外環と金属内環とに固定されたブーツとを備え、外側継手部材と内側継手部材との間の空間をシールする等速自在継手のシール構造において、金属内環の中心線と、シャフトが嵌合する内側継手部材の軸孔の中心線とが平行になるように、金属内環の姿勢を保持可能な姿勢保持部をさらに備えた点をもって特徴付けられる。
【0010】
このように、本発明に係るシール構造では、金属内環の中心線と、シャフトが嵌合する内側継手部材の軸孔の中心線とが平行になるように、金属内環の姿勢を保持可能な姿勢保持部を設けるようにした。シャフトの組付けに際し、シャフトの挿入方向は、内側継手部材の軸孔の中心線と平行になるように設定されるので、姿勢保持部を設けることにより、シャフトを挿入する段階で、金属内環の中心線をシャフトの挿入方向と平行にすることができる。よって、この姿勢を維持した状態でシャフトを挿入することにより、シャフトを確実に金属内環の内側に挿入することができる。また、そのままシャフトの挿入を進めることで、容易にかつ円滑にシャフトを内側継手部材の軸孔に嵌合して、当該シャフトを内側継手部材に組付けることが可能となる。
【0011】
また、本発明に係るシール構造において、姿勢保持部は、内側継手部材に設けられ金属内環の軸方向一端部が嵌合可能な内環嵌合部で構成されてもよい。
【0012】
シャフトの挿入時、金属内環は内側継手部材のシャフト側に配置される。そのため、金属内環の軸方向一端部が嵌合可能な内環嵌合部を内側継手部材に設けることで、容易にかつ円滑に金属内環を内側継手部材で保持することが可能となる。また、金属内環の軸方向一端部を内側継手部材に嵌合可能な構造とすれば、従来、軸方向に存在していた内側継手部材と金属内環との隙間を詰めることができるので、シャフトの外周面と金属内環の内周面との間を伝ってグリース等の潤滑剤が外部に漏洩する事態を高確率で防止することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係るシール構造において、内環嵌合部は、内側継手部材の軸孔の軸方向他端部に設けられた内環嵌合穴であってもよい。
【0014】
このように、内環嵌合部を、内側継手部材の軸孔の軸方向他端部に設けられた内環嵌合穴とすることで、軸孔の中心線と金属内環の中心線とを容易に一致させることができる。よって、シャフトの挿入をより確実にかつ精度よく行うことが可能となる。
【0015】
あるいは、本発明に係るシール構造において、内環嵌合部は、内側継手部材の軸方向他端面に設けられた内環嵌合溝であってもよい。
【0016】
このように、内環嵌合部を、内側継手部材の軸方向他端面に設けられた内環嵌合溝とすることで、例えば内側継手部材の軸孔の軸方向他端部を大径に加工することが難しい場合であっても、金属内環を内側継手部材で保持することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るシール構造において、姿勢保持部は、金属内環の軸方向一端側に設けられ内側継手部材の軸方向他端面と当接可能な鍔部で構成されてもよい。
【0018】
このように、姿勢保持部として、金属内環の側に鍔部を設けた場合、鍔部の端面を内側継手部材の軸方向他端面に当接させることで、金属内環の中心線の内側継手部材の中心線に対する姿勢を保持することができる。この場合、内側継手部材に穴や溝などの追加の加工が不要となるので、内側継手部材の強度を低下させることなく金属内環の姿勢保持を図ることができる。
【0019】
また、以上の説明に係るシール構造は、金属内環を介してシャフトに取付けられるブーツをゴム製とした場合においても、内側継手部材にシャフトを容易にかつ確実に挿入可能とするものであるから、上記構成のシール構造を備えた等速自在継手として好適に提供可能であり、特に、シャフトの内側継手部材に対する軸方向変位が許容される構造をなす等速自在継手として好適に提供可能である。
【0020】
また、以上の説明に係る等速自在継手は、上述した軸方向変位が許容される構造をなす自由側の等速自在継手と、シャフトの内側継手部材に対する軸方向変位が規制される構造をなす固定側の等速自在継手と、自由側の等速自在継手と固定側の等速自在継手とを連結するシャフトとを備えた動力伝達装置として好適に提供可能である。この場合、少なくとも自由側の等速自在継手を本発明に係る等速自在継手とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上より、本発明によれば、等速自在継手のシール構造をなし金属内環を介してシャフトに取付けられるブーツをゴム製とした場合においても、内側継手部材にシャフトを容易にかつ確実に組付けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係る等速自在継手を備えた動力伝達装置の要部断面図である。
【
図2】
図1に示す動力伝達装置の組付け工程で、自由側の等速自在継手にシャフトを組付ける工程を説明するための要部断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係るシール構造を備えた等速自在継手の断面図である。
【
図4】従来のシール構造を有する等速自在継手、及びこの等速自在継手を備えた動力伝達装置の断面図である。
【
図5】
図4に示す動力伝達装置の組立て工程を示す図で、自由側の等速自在継手にシャフトを組付ける工程を説明するための要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0024】
本実施形態では、製紙設備や鉄鋼設備などの各種産業機械の動力伝達系、例えば、鉄鋼設備において、各種ロールに駆動力を伝達するロール駆動力伝達装置、及びこのロール駆動力伝達装置に組み込まれる等速自在継手を例示する。
【0025】
このロール駆動力伝達装置10は、
図1に示すように、一対の等速自在継手11,12を有し、これら一対の等速自在継手11,12同士を軸部材であるシャフト13で同軸的に連結した構造をなしている。
【0026】
本実施形態の等速自在継手11,12としては、ツェッパ型の固定式等速自在継手を例示するが、アンダーカットフリー型などの他の形式の固定式等速自在継手も適用可能である。
【0027】
このロール駆動力伝達装置10は、等速自在継手11,12を連結するシャフト13が所定範囲の作動角をとった場合、その角度変位を許容しながら等速で回転トルクを伝達可能な構造をなしている。
【0028】
次に、一対の等速自在継手11,12の詳細について、共通する部分、相違する部分の順に説明する。
【0029】
各等速自在継手11,12はともに、外側継手部材15、内側継手部材16、トルク伝達部材である複数個のボール17、及びケージ18を主たる要素として構成されている。ボール17の個数は原則として任意であり、例えば6個、8個などが好適に採用可能である。各等速自在継手11,12の内側継手部材16の軸孔19には、シャフト13の軸方向一端部13aと軸方向他端部13bがそれぞれスプライン嵌合によりトルク伝達可能に挿入されている。
【0030】
外側継手部材15の内周には球面状内周面20が設けられ、球面状内周面20の円周方向複数箇所に、軸方向に延びる円弧状トラック溝21が形成されている。一方、内側継手部材16の外周には球面状外周面22が設けられ、球面状外周面22の円周方向複数箇所に、外側継手部材15のトラック溝21と対をなして軸方向に延びる円弧状トラック溝23が形成されている。
【0031】
ボール17は、外側継手部材15のトラック溝21と内側継手部材16のトラック溝23との間に介在して回転トルクを伝達可能とされている。ケージ18は、外側継手部材15の球面状内周面20と内側継手部材16の球面状外周面22との間に配設されてボール17を保持する。
【0032】
一対の等速自在継手11,12のうち、本実施形態では、一方の等速自在継手11が自由側の等速自在継手となっており、他方の等速自在継手12が固定側の等速自在継手となっている。
【0033】
自由側の等速自在継手11においては、内側継手部材16の軸孔19にシャフト13の軸方向一端部13aがスプライン嵌合により挿入されており、かつ、内側継手部材16に対するシャフト13の軸方向変位を許容した構造をなしている。対して、固定側の等速自在継手12においては、内側継手部材16の軸孔19にシャフト13の軸方向他端部13bがスプライン嵌合により挿入されており、かつ、シャフト13のうち軸孔19との嵌合部分の軸方向両側に止め輪24,25が装着されている。これにより、内側継手部材16に対するシャフト13の軸方向変位が規制されている。
【0034】
上記構成の等速自在継手11,12には、継手外部からの粉塵等の異物や水の侵入及び継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の等速自在継手11,12外部への漏洩を防止するためのシール構造26,27が設けられている。言い換えると、本実施形態に係る動力伝達装置10は、上述した一対の等速自在継手11,12と、シャフト13とを備えると共に、シール構造26,27をさらに備える。本実施形態では、自由側の等速自在継手11に設けられたシール構造26が本発明に係るシール構造に相当する。以下、シール構造26,27の詳細を説明する。
【0035】
シール構造26,27はともに、外側継手部材15に取付けられる金属外環28と、シャフト13に取付けられる金属内環29と、金属外環28と金属内環29とに固定されたブーツ30とを備える。本実施形態では、シール構造26,27は、ボルト31と、ボルト31の締結により金属外環28を外側継手部材15に固定可能な固定板32とをさらに備える。
【0036】
このうちブーツ30は、外側継手部材15とシャフト13との間に装着することにより、外側継手部材15の開口部を閉塞可能としている。この場合、外側継手部材15の内部空間に潤滑剤を封入することにより、等速自在継手11,12の作動時、外側継手部材15に対して、内側継手部材16、ボール17、及びケージ18で構成される内部部品の摺動部位での潤滑性が確保される。また、上記構成のシール構造26,27により、外側継手部材15の内部空間に封入した潤滑剤が等速自在継手11,12の外部に漏洩する事態が防止される。
【0037】
また、本実施形態では、ブーツ30として、固定側の等速自在継手12におけるシャフト13の角度変位と、自由側の等速自在継手11におけるシャフト13の角度変位及び軸方向変位とに対応するため、伸縮自在なゴム製のブーツを採用している。
【0038】
上記構成のブーツ30は、例えば加硫接着により、金属外環28の内周面28aと、金属内環29の外周面29aとに固定されている。
【0039】
ここで、自由側の等速自在継手11に設けられるシール構造26は、金属内環29の姿勢を保持する姿勢保持部33をさらに備える。
【0040】
姿勢保持部33は、自由側の等速自在継手11において、金属内環29の中心線X1と、シャフト13が嵌合する内側継手部材16の軸孔19の中心線X2とが平行になるように、金属内環29の姿勢を保持可能な構造をなしている。
【0041】
本実施形態では、姿勢保持部33は、金属内環29の軸方向一端部29bが嵌合可能な内環嵌合部として、内側継手部材16の軸孔19の軸方向他端部に設けられた内環嵌合穴34で構成されている。この場合、内環嵌合穴34は、軸孔19よりも大きい内径寸法を有する。また、円筒形状をなす金属内環29の軸方向一端部29bと嵌合可能なように、内環嵌合穴34の内径寸法及び内面形状(ここでは円筒形状)が設定される。内環嵌合穴34に金属内環29の軸方向一端部29bが嵌合された状態では、金属内環29の中心線X1と、内側継手部材16の中心線X2とが一致するように、金属内環29が所定の姿勢で内側継手部材16に保持された状態となる(
図1を参照)。
【0042】
以上述べたように、本実施形態に係るシール構造26では、金属内環29の中心線X1と、シャフト13が嵌合する内側継手部材16の軸孔19の中心線X2とが平行になるように、金属内環29の姿勢を保持可能な姿勢保持部33を設けるようにした。シャフト13の組付けに際し、シャフト13はその中心線X3に沿った向きに挿入される(
図2を参照)。そのため、シャフト13の挿入方向は、内側継手部材16の軸孔19の中心線X2と平行になるように(ここでは一致するように)設定される。よって、姿勢保持部33を設けることにより、シャフト13を自由側の等速自在継手11の内側継手部材16に挿入する段階で、金属内環29の中心線X1をシャフトの挿入方向と平行にする(ここでは中心線X3を一致させる)ことができる。従って、この姿勢を維持した状態でシャフト13を挿入することにより、金属内環29を傾けることなくシャフト13を確実に金属内環29の内側に挿入することができる。また、そのままシャフト13の挿入を進めることで、容易にかつ円滑にシャフト13を内側継手部材16の軸孔19に嵌合して、シャフト13を内側継手部材16に組付けることが可能となる。
【0043】
なお、単に金属内環29の姿勢を保持するだけなら、例えば作業者が手で又は専用の治具で金属内環29を所定の姿勢に保持した状態でシャフト13の組付けを行うことも可能なように思われる。しかしながら、通常、金属内環29の外周にはブーツ30が固定された状態にある。そのため、外側から作業者の手等で金属内環29を保持するよりも、内側継手部材16に内環嵌合穴34を設けて、作業者が非接触で金属内環29を保持したほうが容易に姿勢の保持を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態では、姿勢保持部33としての内環嵌合部を、内側継手部材16の軸孔19の軸方向他端部に設けられた内環嵌合穴34とすることで、軸孔19の中心線X2と金属内環29の中心線X1とを容易に一致させることができる。よって、シャフト13の挿入をより確実にかつ精度よく行うことが可能となる。また、軸孔19の軸方向他端部を大径に加工するだけで済むので、コスト面でも好適である。
【0045】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明に係るシール構造と、このシール構造を備えた等速自在継手、並びにこの等速自在継手を備えた動力伝達装置は上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採り得る。
【0046】
例えば上記実施形態では、姿勢保持部33は、金属内環29の軸方向一端部29bが嵌合可能な内環嵌合部として、内側継手部材16の軸孔19の軸方向他端部に設けられた内環嵌合穴34で構成される場合を例示したが、もちろんこれ以外の構成をとることも可能である。
【0047】
例えば姿勢保持部33としての内環嵌合部は、内側継手部材16の軸方向他端面16aに設けられた内環嵌合溝であってもよい(図示は省略)。このように内環嵌合部を構成することで、例えば何らかの事情で内側継手部材16の軸孔19の軸方向他端部を大径に加工することが難しい場合であっても、金属内環29を内側継手部材16で保持することが可能となる。
【0048】
また、以上の説明では、姿勢保持部33を、内環嵌合部など内側継手部材16の側に設けた場合を例示したが、金属内環29の側に設けることも可能である。
図3はその一例(本発明の他の実施形態)に係るシール構造36の断面図を示している。
図3に示すように、本実施形態におけるシール構造36は、姿勢保持部43の形態において、
図1に示す実施形態のシール構造26と相違する。詳述すると、本実施形態に係るシール構造36では、姿勢保持部43が、金属内環29の軸方向一端部29bに設けられた鍔部44で構成されている。
【0049】
この場合、鍔部44が、内側継手部材16の軸方向他端面16aに当接することで、鍔部44を一体に有する金属内環29の中心線X1が、所定の姿勢に保持される。すなわち、鍔部44の端面44aの法線X4は金属内環29の中心線X1と平行になっている。そのため、法線X5が軸孔19の中心線X2と平行な内側継手部材16の軸方向他端面16aに鍔部44の端面44aを当接させることで、金属内環29の中心線X1と、軸孔19の中心線X2とが平行になるように、金属内環29が内側継手部材16により所定の姿勢に保持される。
【0050】
よって、上記構成の姿勢保持部43を設けることにより、シャフト13を自由側の等速自在継手11の内側継手部材16に挿入する段階で、金属内環29の中心線X1をシャフトの挿入方向と平行にすることができる。従って、この姿勢を維持した状態でシャフト13を挿入することにより、金属内環29を傾けることなくシャフト13を確実に金属内環29の内側に挿入することができる。また、そのままシャフト13の挿入を進めることで、容易にかつ円滑にシャフト13を内側継手部材16の軸孔19に嵌合して、シャフト13を内側継手部材16に組付けることが可能となる。
【0051】
また、上述のように姿勢保持部43となる鍔部44を金属内環29の側に設けることで、内側継手部材16に穴や溝などの追加の加工が不要となる。よって、内側継手部材16の強度を低下させることなく金属内環29の姿勢保持を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
10 動力伝達装置
11,12 等速自在継手
13 シャフト
15 外側継手部材
16 内側継手部材
17 ボール
18 ケージ
19 軸孔
20 球面状内周面
21 トラック溝
22 球面状外周面
23 トラック溝
24,25 止め輪
26,36 シール構造(本発明)
27 シール構造
28 金属外環
29 金属内環
30 ブーツ
31 ボルト
32 固定板
33,43 姿勢保持部
34 内環嵌合穴
44 鍔部
110 動力伝達装置
111 等速自在継手
111,112 等速自在継手
113 シャフト
115 外側継手部材
116 内側継手部材
119 軸孔
126 シール構造
128 金属外環
129 金属内環
130 ブーツ
X1 中心線(金属内環)
X2 中心線(内側継手部材)
X3 中心線(シャフト)
X4 法線(鍔部の端面)
X5 法線(内側継手部材の軸方向他端面)