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特開2024-123597荷電粒子線装置及び電気抵抗測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123597
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置及び電気抵抗測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20240905BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240905BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
H01L21/66 C
H01L21/66 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031156
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】備前 大輔
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 圭吾
【テーマコード(参考)】
4M106
5C101
【Fターム(参考)】
4M106AA01
4M106BA01
4M106BA02
4M106BA05
4M106BA14
4M106CA10
4M106DH09
4M106DH24
4M106DH33
4M106DJ23
5C101AA03
5C101EE25
5C101EE34
5C101FF02
5C101FF13
5C101FF14
5C101FF15
5C101FF17
5C101FF56
5C101GG04
5C101GG25
5C101GG28
5C101GG44
5C101HH11
5C101HH28
5C101HH49
5C101JJ06
5C101JJ10
5C101KK01
5C101KK07
5C101KK19
(57)【要約】
【課題】高速かつ信頼性の高い試料の電気抵抗の取得を可能とする荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】上層導体201と下層導体203との間に絶縁体202が挟まれた積層構造を少なくとも一部に有する試料105の電気抵抗を測定可能な荷電粒子線装置であって、試料の上層導体上の指定の計測箇所に荷電粒子線光学系により荷電粒子線を照射し、電流計測部118は上層導体から下層導体に流れる試料電流を計測し、検出系は試料から放出された二次電子のエネルギー分布を計測し、制御系は、試料電流と二次電子のエネルギー分布とに基づき、計測箇所の電気抵抗を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層導体と下層導体との間に絶縁体が挟まれた積層構造を少なくとも一部に有する試料が搭載されるステージと、
荷電粒子源からの荷電粒子線を集束させて、前記試料に照射する荷電粒子線光学系と、
前記試料に荷電粒子線が照射されることに起因して放出される二次電子を検出する検出系と、
前記試料の前記上層導体に荷電粒子線が照射されることに起因して、前記上層導体から前記下層導体に流れる試料電流を計測する電流計測部と、
記録部を備える制御系と、を有し、
前記検出系は、二次電子のもつエネルギーにより二次電子を弁別するエネルギー分析器と、前記エネルギー分析器を通過した二次電子を検出する検出器とを備え、
前記制御系は、前記試料の前記上層導体上の指定の計測箇所に前記荷電粒子線光学系により荷電粒子線を照射し、前記電流計測部が計測した試料電流と前記検出系が計測した二次電子のエネルギー分布とに基づき、前記計測箇所の電気抵抗を算出する荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御系は、前記上層導体と前記下層導体との間に電位差が生じていない場合に、前記試料の前記上層導体に荷電粒子線が照射されることに起因して放出される二次電子のエネルギー分布を前記記録部に記録しており、
前記制御系は、前記記録部に記憶された二次電子のエネルギー分布からの前記検出系が計測した二次電子のエネルギー分布のシフト量に基づき、前記計測箇所における前記上層導体と前記下層導体との電位差を算出し、前記電流計測部が計測した試料電流と算出した電位差とに基づき、前記計測箇所の電気抵抗を算出する荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記制御系は、前記試料の前記計測箇所に前記荷電粒子線光学系が荷電粒子線の照射を開始してから所定時間経過後に前記電流計測部が計測した試料電流を、前記計測箇所の電気抵抗の算出に用い、
前記所定時間は、試料電流が定常状態に移行する時間に基づき設定される荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記電流計測部に接続され、前記計測箇所における前記下層導体に接触されるコンタクトピンと、
前記コンタクトピンを介して前記試料に所定のバイアス電圧を印加するバイアス電源と、を有する荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記記録部に記憶された二次電子のエネルギー分布は、前記試料における導体のみが存在している箇所に荷電粒子線を照射し、前記検出系が計測した二次電子のエネルギー分布である、または、前記ステージに搭載された導体の標準試料に荷電粒子線を照射し、前記検出系が計測した二次電子のエネルギー分布である荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記コンタクトピンの前記試料への接触位置を変更させる位置制御機構を有する荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記エネルギー分析器は、減速電界型のエネルギー分析器または偏向型のエネルギー分析器である荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記制御系は、画像形成部を備え、
前記制御系は、前記試料を前記荷電粒子線光学系により荷電粒子線を走査させて、前記画像形成部が形成した走査像を画像表示部に表示させ、
前記画像表示部に表示された走査像において、前記計測箇所が指定される荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記制御系は、画像形成部を備え、
前記記録部には、前記試料のレイアウト情報及びあらかじめ指定された前記計測箇所が記録されており、
前記制御系は、前記試料を前記荷電粒子線光学系により荷電粒子線を走査させて、前記画像形成部が形成した走査像と前記試料の前記レイアウト情報とを整合させることによって、前記試料の前記レイアウト情報を前記ステージの座標と対応付け、
前記制御系は、前記記録部に記録された前記計測箇所が視野に入るよう前記ステージを制御する荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記試料にレーザー光を照射するレーザー光源を有し、
前記制御系は、前記計測箇所の電気抵抗が所定の範囲を満たさない場合には、前記レーザー光源により、前記計測箇所にレーザー光を照射させる荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記レーザー光源は、前記荷電粒子線光学系が収容される筐体の外に配置され、
前記レーザー光源は、前記筐体に設けられたビューポートを介して前記試料にレーザー光を照射する荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1において、
前記試料の前記積層構造において、ジョセフソン接合が形成される荷電粒子線装置。
【請求項13】
荷電粒子線装置を用いて、上層導体と下層導体との間に絶縁体が挟まれた積層構造を少なくとも一部に有する試料の電気抵抗を測定する電気抵抗測定方法であって、
前記荷電粒子線装置は、前記試料が搭載されるステージと、荷電粒子源からの荷電粒子線を集束させて、前記試料に照射する荷電粒子線光学系と、前記試料に荷電粒子線が照射されることに起因して放出される二次電子を検出する検出系と、前記試料の前記上層導体に荷電粒子線が照射されることに起因して、前記上層導体から前記下層導体に流れる試料電流を計測する電流計測部と、記録部を備える制御系と、を備え、
前記検出系は、二次電子のもつエネルギーにより二次電子を弁別するエネルギー分析器と、前記エネルギー分析器を通過した二次電子を検出する検出器とを備え、
前記荷電粒子線光学系は、前記試料の前記上層導体上の指定の計測箇所に前記荷電粒子線光学系により荷電粒子線を照射し、
前記制御系は、前記電流計測部が計測した試料電流と前記検出系が計測した二次電子のエネルギー分布とに基づき、前記計測箇所の電気抵抗を算出する電気抵抗測定方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記制御系は、前記上層導体と前記下層導体との間に電位差が生じていない場合に、前記試料の前記上層導体に荷電粒子線が照射されることに起因して放出される二次電子のエネルギー分布を前記記録部に記録しており、
前記制御系は、前記記録部に記憶された二次電子のエネルギー分布からの前記検出系が計測した二次電子のエネルギー分布のシフト量に基づき、前記計測箇所における前記上層導体と前記下層導体との電位差を算出し、前記電流計測部が計測した試料電流と算出した電位差とに基づき、前記計測箇所の電気抵抗を算出する電気抵抗測定方法。
【請求項15】
請求項13において、
前記制御系は、前記試料の前記計測箇所に前記荷電粒子線光学系が荷電粒子線の照射を開始してから所定時間経過後に前記電流計測部が計測した試料電流を、前記計測箇所の電気抵抗の算出に用い、
前記所定時間は、試料電流が定常状態に移行する時間に基づき設定される電気抵抗測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、荷電粒子線装置及びそれを用いた電気抵抗測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の計算機を上回る計算速度を実現できることから量子コンピュータが注目を集めている。量子コンピュータにはいくつかの方式が提案されており、なかでも超電導素子を用いる方式が注目されている。超電導素子は超伝導体・絶縁体・超伝導体の3層が積層したジョセフソン接合で構成されている。超電導素子は、絶縁体の厚さを例えば1nm程度にすると、量子トンネル効果によって電子がその波の性質によって絶縁層をすり抜けることができる現象を利用する。ジョセフソン接合の電気抵抗は、素子の特性を左右する重要な指標とされている。誤り訂正可能な量子コンピュータを実現するためには100万個の量子ビットが必要とされており、量子ビットの製造においても100万個の量子ビットの特性ばらつきを抑制する技術が必要である。そのためには、100万個のジョセフソン接合の電気特性を高速に、かつ、ジョセフソン接合に配線等をつなぐ後工程に移行する前に計測することが求められる。
【0003】
素子の電気抵抗を計測する手法は半導体分野で盛んにおこなわれており、代表的な事例としては、特許文献1に開示されているように、走査電子顕微鏡下で導電性プローブを興味のある素子に接触させることで電気抵抗を測定する装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-027548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では導電性プローブを試料上の計測箇所に移動する作業が必要になるため、測定速度が遅いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施の形態である荷電粒子線装置は、上層導体と下層導体との間に絶縁体が挟まれた積層構造を少なくとも一部に有する試料が搭載されるステージと、荷電粒子源からの荷電粒子線を集束させて、試料に照射する荷電粒子線光学系と、試料に荷電粒子線が照射されることに起因して放出される二次電子を検出する検出系と、試料の上層導体に荷電粒子線が照射されることに起因して、上層導体から下層導体に流れる試料電流を計測する電流計測部と、記録部を備える制御系と、を有し、検出系は、二次電子のもつエネルギーにより二次電子を弁別するエネルギー分析器と、エネルギー分析器を通過した二次電子を検出する検出器とを備え、制御系は、試料の上層導体上の指定の計測箇所に荷電粒子線光学系により荷電粒子線を照射し、電流計測部が計測した試料電流と検出系が計測した二次電子のエネルギー分布とに基づき、計測箇所の電気抵抗を算出する。
【発明の効果】
【0007】
高速かつ信頼性の高い試料の電気抵抗の取得を可能とする荷電粒子線装置及び電気抵抗測定方法を提供する。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の走査電子顕微鏡の一構成例である。
図2】電気抵抗の測定原理を説明するための図である。
図3】二次電子のエネルギー分布より試料の電位差を算出する方法を説明するための図である。
図4】電気抵抗の計測フローの例である。
図5】電気抵抗の計測フローの例である。
図6】試料電流の計測タイミングを説明するための図である。
図7】実施例2の走査電子顕微鏡の一構成例である。
図8】電気抵抗調整フローを含む計測フローの例である。
図9A】コンタクトピンと試料の接触方法について説明するための図である。
図9B】コンタクトピンと試料の接触方法について説明するための図である。
図9C】コンタクトピンと試料の接触方法について説明するための図である。
図10】試料の構成例を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例で示す図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。以下の実施例では、試料に照射する荷電粒子線として電子線を用いる走査電子顕微鏡を例に説明するが、各種イオンビームを用いる場合でも同等の効果を得ることができる。
【実施例0010】
実施例1の走査電子顕微鏡の一構成例を図1に示す。走査電子顕微鏡は、その主要な構成として、試料に電子線を照射する電子線光学系と、電子線の照射に起因して試料から放出される二次電子を検出する検出系と、真空チャンバー(筐体)内に配置され、試料が搭載されるステージ機構系と、走査電子顕微鏡の構成要素を制御し、各種情報を処理する制御系を備える。制御系において、形成した走査像に対して画像復元等の処理を行う画像処理系を備えてもよい。図1において、電子源101、対物レンズ103、偏向器104は電子線光学系を構成する要素であり、エネルギー分析器111、検出器112は検出系を構成する要素であり、検出サンプリング制御部113、エネルギー分析器制御部122、偏向器制御部109、対物レンズ制御部108、ステージ制御部107、画像形成部114、画像表示部115、記録部116、ワークステーション120は制御系を構成する要素である。これらは、代表的な要素として示すものであり、これらに限定されるものではない。
【0011】
具体的には、電子源101で生成された一次電子102は、偏向器104で偏向され、対物レンズ103で集束された後、可動ステージ106上に搭載された試料105に照射される。対物レンズ103の動作は対物レンズ制御部108、偏向器104の動作は偏向器制御部109、および可動ステージ106の動作はステージ制御部107でそれぞれ制御される。
【0012】
一次電子102の試料105への照射に起因して発生する二次電子110は、エネルギー分析器111に入り、エネルギー分析器111を通過した二次電子110が検出器112で検出される。エネルギー分析器111の動作はエネルギー分析器制御部122で制御される。図1では検出器112は偏向器104よりも電子源101側に配置されているが、二次電子110を検出できるのであれば偏向器104と対物レンズ103との間や、対物レンズ103と試料105との間に配置されていてもよい。検出器112の構成としてはシンチレータ・ライトガイド・光電子増倍管で構成されるE-T(Everhart-Thornley)検出器や半導体検出器が挙げられるが、電子を検出できる構成であればどのような検出器を用いてもよい。検出器112から信号を取得するタイミングは検出サンプリング制御部113で制御される。
【0013】
一次電子102の試料105への照射に起因して試料105に流れる試料電流を計測するためのコンタクトピン117が試料105に接触しており、試料電流はコンタクトピン117に接続している電流計測部118で測定される。また、バイアス電圧源121がコンタクトピン117および電流計測部118に接続されており、バイアス電圧源121より負極性のバイアス電圧V(V<0)がコンタクトピン117を介して試料105へ印加される。
【0014】
画像形成部114では、偏向器制御部109で決定される一次電子102のピクセル座標に対して、検出サンプリング制御部113で取得された信号を割り当て、走査像を形成する。生成された走査像は画像表示部115で表示されるとともに、記録部116に記録される。
【0015】
電子源101、エネルギー分析器111、検出器112、偏向器104、対物レンズ103、コンタクトピン117、および可動ステージ106は筐体119に収められており、筐体119の内部は真空ポンプ(図示せず)にて真空状態に保持されている。
【0016】
ステージ制御部107、対物レンズ制御部108、偏向器制御部109、検出サンプリング制御部113、エネルギー分析器制御部122、画像形成部114、画像表示部115、記録部116、電流計測部118、バイアス電圧源121の動作はワークステーション120により制御される。
【0017】
次に、図1に示した走査電子顕微鏡を用いて試料105の電気抵抗を測定する原理について図2を用いて説明する。試料105は、導体・絶縁体・導体の積層構造を少なくとも一部に有している。導体201,203の電気抵抗は十分小さいと考えてよく、試料105の電気抵抗Rは導体201,203に挟まれた絶縁体202の電気抵抗によって決まる。下層導体203はコンタクトピン117に接触されている。この状態で、上層導体201に一次電子102が照射されると、電気抵抗Rに起因した電位差ΔVが上層導体201と下層導体203との間に生じ、試料電流Iが流れる。例えば、絶縁体202をジョセフソン接合として形成可能な数nmの厚みのアルミナとした場合の電気抵抗RはGΩオーダーとなり、試料電流IとしてnAオーダーの電流が流れる。本実施例では、後述するように、電流計測部118により試料電流Iを計測し、電位差ΔVを二次電子110のエネルギー分布から計測する。
R=ΔV/I ・・・(式1)
これらの値より、(式1)として示すオームの法則にしたがって電気抵抗Rを算出する。
【0018】
次に、二次電子110のエネルギー分布より電位差ΔVを求める方法について、図3を用いて説明する。まず、二次電子110のエネルギー分布は図1の走査電子顕微鏡においてエネルギー分析器111および検出器112より得ることができる。エネルギー分析器111の構成は特に限定しない。例えば、減速電界型のエネルギー分析器である場合、エネルギー分析器111は1枚ないしは複数枚のグリッドで構成され、エネルギー分析器制御部122がグリッドに負極性の電圧を、電圧値をスイープさせながら印加する。エネルギー分析器111を通過した二次電子110を検出器112で検出することで、二次電子110をそのエネルギーで弁別して検出することができる。あるいは、偏向型のエネルギー分析器である場合、エネルギー分析器111は円筒型もしくは半球型の2枚の電極で構成される。エネルギー分析器制御部122は電極間に電圧を印加し、電極間を通過してきた二次電子110を検出器112で検出する。二次電子110はエネルギーが異なると電極間を通過する軌道が異なることから、軌道ごとの二次電子110を検出器112で検出することで、二次電子110をそのエネルギーで弁別して検出することができる。
【0019】
試料105に電位差が生じていない場合、試料105に印加されているバイアス電圧Vで加速された二次電子110がエネルギー分析器111に入射する。このため、試料105に電位差が生じていない場合の二次電子のエネルギー分布302は、エネルギー(-eV)から検出信号が立ち上がる。ここでeは電気素量である。これに対して、試料105に電位差ΔVが生じている場合、試料105から放出される二次電子110のエネルギー分布301は、電位差が生じていない場合の二次電子110のエネルギー分布302よりも電位差ΔV分だけシフトする。したがって、二次電子110のエネルギー分布のシフト量を分析することで、試料105の電位差ΔVを得ることができる。ここで、電位差ΔVの算出方法としては、二次電子のエネルギー分布のピーク位置を比較する、立ち上がり位置を比較する、という方法があるが、エネルギー分布のシフト量が算出できる方法であれば特定の算出方法には限定しない。
【0020】
電位差が生じていない場合の二次電子110のエネルギー分布302を取得する方法としては、試料105において導体のみが存在している場所で取得する、または、可動ステージ106に試料105とは別に搭載されている導体の基準試料(図示せず)で取得する、などの方法がある。また、取得された電位差が生じていない場合の二次電子のエネルギー分布302は記録部116に記録されている。取得された電位差が生じていない場合の二次電子のエネルギー分布302については、装置使用者が自分で登録することもできるし、装置出荷時に装置製造元が事前に登録しておくこともできる。
【0021】
コンタクトピン117と試料105とを接触させる方法について図9A~Cに示す。図9Aに示すように試料105の下面が導体である場合は、コンタクトピン117を試料105の下面に接触させることが有効である。これに対して、図9B,Cは、試料105の下面が絶縁体204で覆われている場合の例である。この場合、図9Bに示すようにコンタクトピン117を試料105の側面から接触させることが有効である。または、図9Cに示すように試料105の下面は絶縁体で覆われているが、試料105の上面は一部しか絶縁体202で覆われていない場合は、試料105の上面から導体203が露出した領域にコンタクトピン117を接触させることが有効である。このように、試料105の膜構造に応じてコンタクトピン117の接触位置を変えるため、図1には図示していないが、コンタクトピン117の位置制御機構(プロービング機構)が搭載されていることが望ましい。
【0022】
電気抵抗の計測フローを図4に示す。試料105を筐体119の内部の可動ステージ106上に導入し(S401)、試料105の走査像を取得し、取得した走査像を画像表示部115に表示する(S402)。次に、装置使用者は画像表示部115に表示された走査像において、試料105の電気抵抗を計測したい箇所を指定する(S403)。ワークステーション120は、ステージ制御部107及び/または偏向器制御部109により可動ステージ106及び/または偏向器104を制御して、ステップS403で指定された箇所に対して電子線を照射し(S404)、ワークステーション120は、指定箇所に電子線が照射されることにより流れる試料電流Iと指定箇所に電子線が照射されることにより放出された二次電子110のエネルギー分布を取得し、記録部116に記録する(S405)。さらに、ワークステーション120は、事前に記録部116に記録されている電位差が生じていない場合の二次電子のエネルギー分布とステップS405で取得した二次電子のエネルギー分布とを比較することにより、電位差ΔVを算出する(S406)。最後に、ステップS406で取得した試料電流IとステップS407で算出した電位差ΔVを(式1)に代入することで電気抵抗Rを算出し、画像表示部115に表示する(S407)。
【0023】
ステップS407において、定常状態の電気抵抗Rを計測する方法を、図6を用いて説明する。図6は、電流計測部118によって測定される試料電流Iの時系列データの例である。図2に示すように、試料105は導体・絶縁体・導体の積層によりキャパシタを構成しているため、電子線を照射されると電位差ΔVは徐々に変化し、一定時間経過後にキャパシタが充電されることによって電位差ΔVは定常状態となる。したがって、電子線が照射されると試料電流Iも経時変化を示したのちに定常状態に移行する。この定常状態における試料電流Iと電位差ΔVを用いることで定常状態の電気抵抗Rを算出することができる。代表的な値としては、電子線照射後から1ミリ秒経過後の試料電流Iおよび電位差ΔVを用いることで定常状態の電気抵抗Rを得られる。
【0024】
図4の計測フローでは、電気抵抗の計測箇所を走査像上で指定するのに対して、図5に、電気抵抗の計測箇所をあらかじめ指定しておき、指定された計測箇所が記録部116に記録されている場合の電気抵抗の計測フローを示す。図5の計測フローにおいて、図4の計測フローと同じステップについては同じ符号を付して重複する説明は省略するものとする。図5の計測フローでは、あらかじめ記録部116に記録されている指定箇所に電子線を照射するため、以下の処理を行う。試料105が搭載されている可動ステージ106の座標と記録部116に記録されている試料105のレイアウト情報とを整合させる(S501)。これは、試料105にあるアライメント用のパターンの走査像を取得することで実現できる。ステップS501により、試料105のレイアウト情報が可動ステージ106の座標と対応付けられる。これにより、ワークステーション120は、ステージ制御部107により可動ステージ106を制御して、記録部116に記憶されている指定箇所が走査電子顕微鏡の視野に入るように、可動ステージ106を移動させる(S502)。
【0025】
以上の説明では、説明の単純化のため、試料105として上層導体201と下層導体203とが一対一で積層された例を示しているが、素子を集積させる場合には、図10に示すように、下層導体203に対して、互いに分離された上層導体201が複数設けられる構成となることが一般的である。このような場合、上層導体201a、上層導体201b、上層導体201cのそれぞれに計測箇所が指定される場合であっても、コンタクトピン117を移動させる必要はない。これによって、多数の計測箇所に対する電気抵抗の計測を高速に行うことができる。
【実施例0026】
実施例2では、試料の電気抵抗を計測した後に、計測された電気抵抗が所望の値ではない場合に、電気抵抗を調整する機構を具備した走査電子顕微鏡について開示する。
【0027】
実施例2の走査電子顕微鏡の構成を図7に示す。図1に示した走査電子顕微鏡と同じ構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。図7に示す走査電子顕微鏡は、図1の構成と比較すると、レーザー光源701、ビューポート703およびレーザー制御部704が追加されている。レーザー制御部704の動作はワークステーション120により制御される。
【0028】
レーザー光源701は筐体119の外側に配置されており、レーザー光702を発生することができる。レーザー光源701で発生したレーザー光702は筐体119に取り付けられたビューポート703を通して筐体119の内部に導入され、試料105に照射される。ここで、レーザー光702の試料105への照射位置と一次電子102の試料105への照射位置は一致している。レーザー光702の試料105への照射はレーザー制御部704により制御される。
【0029】
試料の電気抵抗を計測した後に、計測された電気抵抗が所望の値ではない場合に、電気抵抗を調整する場合のフローを図8に示す。試料の指定箇所における電気抵抗の計測フローは図4の計測フローであり、同じ符号を付して重複する説明は省略する。電気抵抗Rの算出(S407)の後、計測された電気抵抗が所定の範囲内か否かを判定する(S801)。この所定の範囲は、装置使用者が、電気抵抗Rの許容範囲としてあらかじめ記録部116に記録しておくことができる。電気抵抗Rが所定の範囲内であればフローは終了する。一方、電気抵抗Rが所定の範囲を満たさない場合には、ワークステーション120は、レーザー制御部704を介してレーザー光源701からレーザー光702が出射し、S403で指定された計測箇所にレーザー光702が照射される(S802)。レーザー光702が試料に照射されると、照射箇所の温度が上昇し、絶縁体202の結晶性が変化することにより電気抵抗が変化する。その後、指定箇所に再度電子線が照射され(S404)、電気抵抗Rの計測が実施される(S405~S407)。ステップS802で照射するレーザー光702の強度および波長は、装置使用者があらかじめ記録部116に登録しておくことができる。
【0030】
図8には図4の計測フローを適用する例を示したが、図5に示した電気抵抗の計測箇所をあらかじめ記録部116に記録しておく計測フローを適用する場合においても、電気抵抗の計測後に電気抵抗値の判定およびレーザー光の照射を実施することで、計測された電気抵抗が所望の値ではない場合に、電気抵抗を調整することができる。
【0031】
本開示は上述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
101:電子源、102:一次電子、103:対物レンズ、104:偏向器、105:試料、106:可動ステージ、107:ステージ制御部、108:対物レンズ制御部、109:偏向器制御部、110:二次電子、111:エネルギー分析器、112:検出器、113:検出サンプリング制御部、114:画像形成部、115:画像表示部、116:記録部、117:コンタクトピン、118:電流計測部、119:筐体、120:ワークステーション、121:バイアス電圧源、122:エネルギー分析器制御部、201:上層導体、202:絶縁体、203:下層導体、204:絶縁体、301,302:二次電子のエネルギー分布、701:レーザー光源、702:レーザー光、703:ビューポート、704:レーザー制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10