(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123599
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】光触媒の製造方法及び助触媒を担持した光触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240905BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240905BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20240905BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/08
B01J35/02 H
B01J27/24 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031163
(22)【出願日】2023-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発/アルコール類からの化学品製造技術の開発/グリーン水素(人工光合成)等からの化学原料製造技術の開発・実証」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】509001630
【氏名又は名称】株式会社INPEX
(71)【出願人】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】久富 隆史
(72)【発明者】
【氏名】肖 家棟
(72)【発明者】
【氏名】井上 泰宣
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 紘己
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA48A
4G169BB02B
4G169BB04B
4G169BB05C
4G169BB08C
4G169BB09C
4G169BB10C
4G169BB16C
4G169BB20A
4G169BB20B
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC04A
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13A
4G169BC13B
4G169BC42A
4G169BC56A
4G169BC56B
4G169BC58B
4G169BC67B
4G169BC74B
4G169BC75B
4G169BD12C
4G169BD13C
4G169BD14C
4G169CB81
4G169DA05
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC23
4G169EC25
4G169EC27
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB06
4G169FB29
4G169FB57
4G169FB58
4G169HA01
4G169HA02
4G169HB10
4G169HD06
4G169HE09
4G169HF05
(57)【要約】
【課題】粒径の小さなペロブスカイト型酸窒化物を含む新規な光触媒の製造方法を提供すること。
【解決手段】TaS
2と、Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)並びにCの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、CはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)の少なくとも一方と、を含む混合物を得る工程と、混合物を窒素原子含有雰囲気で加熱してペロブスカイト型酸窒化物を得る工程と、を備える、光触媒の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TaS2と、
Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、
Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)並びにCの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、CはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)の少なくとも一方と、を含む混合物を得る工程と、
前記混合物を窒素原子含有雰囲気で加熱してペロブスカイト型酸窒化物を得る工程と、
を備える、光触媒の製造方法。
【請求項2】
前記混合物が、Bの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、BはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)をさらに含む、請求項1に記載の光触媒の製造方法。
【請求項3】
前記混合物が、
前記TaS2と、
前記Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、
前記Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、を含む、請求項1又は2に記載の光触媒の製造方法。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型酸窒化物の平均粒子径が100nm以下である、請求項1又は2に記載の光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型酸窒化物を熱処理する工程をさらに備える、請求項1又は2に記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の光触媒の製造方法により得られた光触媒に助触媒を担持させる工程を備える、助触媒を担持した光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒の製造方法及び助触媒を担持した光触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒として機能するペロブスカイト型酸窒化物が知られている。特許文献1では、出発原料として、BaCO3、Ta2O5の粉末試薬と、フラックスとして塩化物(NaCl、KCl、CsCl、RbClあるいはBaCl2・2H2O)の粉末試薬を用いてペロブスカイト型酸窒化物であるBaTaO2Nを製造し、これに助触媒を担持させることで助触媒を担持した光触媒を得たことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、より優れた触媒効率を得る観点からは、光触媒として高い結晶性を有するとともに粒径の小さなペロブスカイト型酸窒化物を用いることが好ましい。上記従来の出発原料を用いた製造方法は、ペロブスカイト型酸窒化物の粒径を小さくする点において改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、粒径の小さなペロブスカイト型酸窒化物を含む新規な光触媒の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該製造方法により得られた光触媒に助触媒を担持させてなる、助触媒を担持した光触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らが鋭意検討したところ、出発原料として従来使用されてこなかったTaS2を用いることが、粒径の小さなペロブスカイト型酸窒化物を製造する上で重要であることを見出し、本発明を為すに至った。
【0007】
すなわち本発明は、例えば以下の[1]~[6]に関する。
[1]
TaS2と、
Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、
Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)並びにCの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、CはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)の少なくとも一方と、を含む混合物を得る工程と、
前記混合物を窒素原子含有雰囲気で加熱してペロブスカイト型酸窒化物を得る工程と、
を備える、光触媒の製造方法。
[2]
前記混合物が、Bの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、BはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)をさらに含む、[1]に記載の光触媒の製造方法。
[3]
前記混合物が、
前記TaS2と、
前記Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、
前記Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、を含む、[1]又は[2]に記載の光触媒の製造方法。
[4]
前記ペロブスカイト型酸窒化物の平均粒子径が100nm以下である、[1]~[3]のいずれか一に記載の光触媒の製造方法。
[5]
前記ペロブスカイト型酸窒化物を熱処理する工程をさらに備える、[1]~[4]のいずれか一に記載の光触媒の製造方法。
[6]
[1]~[5]のいずれか一に記載の光触媒の製造方法により得られた光触媒に助触媒を担持させる工程を備える、助触媒を担持した光触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒径の小さなペロブスカイト型酸窒化物を含む新規な光触媒の製造方法が提供される。また、本発明によれば、当該製造方法により得られた光触媒に助触媒を担持させてなる、助触媒を担持した光触媒の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、作製したSrTaO
2NのXRDチャートである。
【
図2】
図2は、作製したSrTaO
2NのSEM像である。
【
図3】
図3は、作製したSrTaO
2N/Ir/Pt/Crの水素生成反応の活性評価結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、作製したSrTaO
2N/Ir/Pt/CrのSEM像である。
【
図5】
図5は、熱処理後のSrTaO
2N結晶粉末を用いた、SrTaO
2N/Ir/Pt/Cr及びSrTaO
2N/CoOxの水素生成反応及び酸素生成反応の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
【0011】
<光触媒の製造方法>
光触媒の製造方法は、
TaS2と、
Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)と、
Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)並びにCの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、CはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)の少なくとも一方と、を含む混合物を得る工程と、
混合物を窒素原子含有雰囲気で加熱してペロブスカイト型酸窒化物を得る工程と、
を備える。
【0012】
(混合物を得る工程)
混合物は、概してTaS2と、ペロブスカイト構造(XYO3)におけるXサイト源及び酸素源となり得る化合物と、ペロブスカイト構造におけるXサイト源及びフラックスとなる化合物及び/又はフラックス(ペロブスカイト構造におけるXサイト源である必要はない)と、を含むものであってもよい。
【0013】
TaS2は、ペロブスカイト構造におけるYサイト源となり得る。なお、TaS2のTa4+は既に還元されており、TaS2はXサイト元素を含む化合物ではない(S元素は生成物の構成元素ではない)ため、当業者が出発原料としてTaS2を当然に使用する動機には乏しい。
【0014】
Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)は、主としてペロブスカイト構造におけるXサイト源及び酸素源となり得る。Ca、Sr及びBaのうち、バンドギャップが狭く可視光の吸収性により優れることからSr及びBaが好ましく、さらに水分解反応に対する駆動力が大きいことからSrがより好ましい。また炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩のうち、平均粒子径の小さい結晶粉末を得易い観点からは水酸化物が好ましい。これらのことから、Xサイト源及び酸素源としては、Sr(OH)2が好ましい。
【0015】
Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、AはCa、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種)は、主としてフラックスとして機能すると共に、ペロブスカイト構造におけるXサイト源となり得る。フラックスとしてCa、Sr及びBaを含む化合物を用いることで、Xサイトの欠陥抑制を図り易い。Ca、Sr及びBaのうち、例えば純度の高いSrTaO2Nを合成し易い観点からはSrが好ましく、また塩化物、臭化物及びヨウ化物のうち、不純物の生成抑制性や入手容易性の観点からは塩化物が好ましい。不純物の生成抑制性に関しては、塩化物の融点が臭化物及びヨウ化物の融点に比べて高いためであると推定される。すなわち、フラックスの溶融により混合物表面には液膜が形成され、窒素原子含有雰囲気が混合物に供給されるのが妨害されるが、高融点の塩化物を用いることで、その影響を抑制することができるためであると考えられる。これらのことから、Xサイト源となり得るフラックスとしては、例えばSrCl2が好ましい。
【0016】
混合物は、非ペロブスカイト構造を有する不純物の生成を抑制し易い観点から、Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種に加えて、Bの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種(但し、BはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)をさらに含んでいてもよい。これらの化合物は、主としてペロブスカイト構造におけるXサイト源及び酸素源となり得る。
【0017】
混合物は、粒子形態及びペロブスカイト型酸窒化物の組成の制御性を高め易い観点から、Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種に加えて又は代えて、Cの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種(但し、CはLi、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)をさらに含んでいてもよい。これらの化合物は、主としてフラックスとして機能する。
【0018】
混合物は、粒子形態及びペロブスカイト型酸窒化物の組成の制御性を高め易い観点から、Dの硫化物(但し、DはCa、Sr、Ba、Li、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種)をさらに含んでいてもよい。
【0019】
混合物は、ペロブスカイト型酸窒化物の半導体物性の制御性を高め易い観点から、MgCl2、ScCl3、ZrOCl2、ZrCl4、AlCl3及びGaCl3からなる群より選択される少なくとも一種をさらに含んでいてもよい。
【0020】
混合物中における各原料の配合量は、ペロブスカイト型酸窒化物が所望の組成を有するよう適宜に調整すればよい。
例えば、原料としてTaS2、Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種、並びにAの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いる場合、混合物中におけるTaS2:Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種:Aの塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される少なくとも一種のモル比は、ペロブスカイト型酸窒化物が得られる範囲において特に制限されないが、不純物の少ないペロブスカイト型酸窒化物を合成し易い観点から1:0.5~3:1であることが好ましい。Aの炭酸塩、水酸化物及び硫酸塩からなる群より選択される少なくとも一種のモル比を上記範囲にて大きくすると、得られる結晶の粒子径を大きくすることができ、また結晶のファセット(平らな面)をより多くすることができる傾向がある。
【0021】
上記原料は乳鉢等で混合され、混合物が得られる。混合は湿式混合でも乾式混合でもよいが、原料をより均一に混合する観点から湿式混合が好ましい。例えば湿式混合であれば、上記原料にエタノール等のアルコール系分散媒を加え、乳鉢等を用いて混合することで混合物を得ることができる。混合時の温度は特に限定されず、分散媒の融点以上沸点以下(例えばエタノールであれば0~78℃の範囲)で適宜に設定することができる。
【0022】
(ペロブスカイト型酸窒化物を得る工程)
窒素原子含有雰囲気としては、アンモニア(含有)雰囲気、ヒドラジン(含有)雰囲気等が挙げられる。このうち、還元作用が比較的弱く、爆発範囲が比較的狭く、窒化物イオンを比較的効率よく供給する反応性を有する観点からはアンモニア雰囲気が好ましい。
【0023】
混合物の加熱温度は、窒素含有量が十分に高く結晶性に優れる酸窒化物材料を合成し易い観点から850℃以上とすることが好ましく、900℃以上であることがより好ましい。また、加熱温度は、酸窒化物材料の還元又は過窒化による特性劣化を防止し易い観点から1050℃以下とすることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましい。
【0024】
上記加熱温度での加熱時間は、窒素含有量が十分に高く結晶性に優れる酸窒化物材料を合成し易い観点から1時間以上とすることが好ましく、2時間以上であることがより好ましい。また、加熱時間は、酸窒化物材料の還元又は過窒化による特性劣化を防止し易い観点から20時間以下とすることが好ましく、10時間以下であることがより好ましい。
【0025】
ペロブスカイト型酸窒化物は液中分散性の良い結晶粉末として得られる。その平均粒子径は100nm以下となり得、50nm以下であってもよい。液中分散性の良い粒径の小さな結晶粉末が得られる理由は定かではないが、これは出発原料としてTaS2を用いる上記製造方法ならではの効果である。
【0026】
ペロブスカイト型酸窒化物の平均粒子径の下限は特に限定されないが、十分に自形を発達させる観点から20nm以上となり得る。
【0027】
平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて30個程度以上の粒子の長軸径を観察し、その平均値から決定することができる。
【0028】
(ペロブスカイト型酸窒化物を熱処理する工程)
光触媒の製造方法は、ペロブスカイト型酸窒化物を熱処理する工程をさらに備えていてもよい。本工程により、ペロブスカイト型酸窒化物の特に酸素生成活性を向上することができる。
【0029】
本工程の雰囲気は、窒素原子含有雰囲気とすることができ、当該雰囲気としてはアンモニア(含有)雰囲気、窒素(含有)雰囲気、ヒドラジン(含有)雰囲気等が挙げられる。このうち、酸素生成反応(OER)における酸素生成活性向上の観点からはアンモニア(含有)雰囲気又は窒素(含有)雰囲気が好ましい。
【0030】
熱処理温度は、酸素生成活性を効果的に向上させ易い観点から350℃以上とすることが好ましく、500℃以上であることがより好ましい。また、熱処理温度は、ペロブスカイト型酸窒化物の熱分解を防止し易い観点から1000℃以下とすることが好ましく、950℃以下であることがより好ましい。
【0031】
上記熱処理温度での熱処理時間は、プロセスの制御及び効果を顕在化させ易い観点から5分以上とすることが好ましく、10分以上であることがより好ましい。また、熱処理時間は、ペロブスカイト型酸窒化物の熱分解を防止し易い観点から3時間以下とすることが好ましく、1時間以下であることがより好ましい。
【0032】
(光触媒(ペロブスカイト型酸窒化物))
上記製造方法により得られるペロブスカイト型酸窒化物としては、例えばCaTaO2N、SrTaO2N及びBaTaO2Nが挙げられる。これらの化合物は水を分解して水素を発生させることができる光触媒である。
ペロブスカイト型酸窒化物はペロブスカイト構造(XYO3)を有し、当該構造におけるXサイトが、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素(上記元素A)を含み、同YサイトがTa元素を含み、同Oサイトの一部がN元素で置換されている。ただし、Xサイトが、Li、Na、K、Rb、Cs及びLaからなる群より選択される少なくとも一種の元素(上記元素C)を含んでいてもよく、Xサイトの元素が、Yサイトの元素と部分的に置換されていてもよい。
【0033】
ペロブスカイト型酸窒化物の一般式は、例えば以下のように記載することができる。ただし、以下の一般式(A)は化学量論から期待される組成を示すものであり、不純物や欠陥に起因して、上記製造方法により得られるペロブスカイト型酸窒化物が当該組成に必ずしも限定されないことは当業者の理解するところである。実際に、元素分析をするとNが少なくOが多い場合や、s+t+uが1未満である場合等が有り得る。特に不純物としてTa3N5が生成する場合、仮にSrTaO2N部分が完全に化学量論的であったとしても、試料全体としてはSrTaO2N+Ta3N5であるために、s+t+uは1未満となり得る。
SsTtUuTaO3vN3(1-v)・・・(A)
式中、SはLi、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される元素であり、TはCa、Sr及びBaからなる群より選択される元素であり、UはLaであり、
sは0以上1未満であり、tは0以上1以下であり、uは0以上1以下であり、かつs+t+u=1を満たし、
vは1/3以上1未満でありかつv=(4/3)-(s/3)-(2t/3)-uを満たす。
【0034】
<助触媒を担持した光触媒の製造方法>
助触媒を担持した光触媒の製造方法は、光触媒の製造方法により得られた光触媒(ペロブスカイト型酸窒化物)に助触媒を担持させる工程を備える。
【0035】
(助触媒)
光触媒に担持する助触媒としては、従来知られているものを用いることができる。具体的には、助触媒としては、第3~13族の金属、該金属の金属間化合物、及び該金属の合金;これらの酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、炭化物、及び窒化物;並びにこれらの混合物、が挙げられる。
ここで、「金属間化合物」とは、2種以上の金属元素から形成される化合物であり、金属間化合物を構成する成分原子比は必ずしも化学量論比でなく、広い組成範囲をもつものをいう。「これらの酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、炭化物、窒化物」とは、第3~13族の金属、該金属の金属間化合物若しくは該金属の合金の、酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、炭化物又は窒化物をいう。「これらの混合物」とは、以上例示した化合物のいずれか2種以上の混合物をいう。
【0036】
助触媒は、水素生成活性の観点から、少なくとも1種の貴金属を含むことが好ましい。貴金属は貴金属を含む合金や酸化物であってよい。貴金属としては、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びOsが挙げられる。これらのうち、水素生成活性の観点から、助触媒はIr、Rh及びPtを含むことが好ましい。
【0037】
助触媒は、酸素生成活性の観点から、CoOx、IrOx、RuOx、MnOx、NiOx、FeOxを含むことが好ましい。例えばCoOxであれば、Coの酸化物、オキシ水酸化物及び水酸化物が挙げられる。
【0038】
助触媒は、Crを含むことが好ましい。ここでいうCrとはCr2O3又はその水和物であり、水素生成用の助触媒を被覆し、逆反応を防止する効果を持つ。
【0039】
助触媒の担持量(総量)は特に限定されないが、光触媒を基準(100wt%)として、通常0.01wt%以上であり、0.1wt%以上であってよく、また通常5wt%以下であり、3wt%以下であってよく、1wt%以下であってよい。ここでいう「担持量」とは、担持させた助触媒中の金属元素の量をいう。また、「wt%」との表現は「重量部」と表現してもよい。
【0040】
担持後の助触媒粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、通常50nm以下、好ましくは20nm以下である。前述の下限値以上であることにより取り扱い性が向上し、また、前述の上限値以下とすることで、十分な表面積を確保でき、助触媒としての効果が向上する。
【0041】
助触媒は、含浸法又は光電着法によって光触媒の表面に担持させることができる。
【0042】
(含浸法)
含浸法は、助触媒粒子(コロイド等)もしくは助触媒の前駆体となる化合物を溶液中で光触媒表面に吸着させ、必要に応じてこの溶液の溶媒を蒸発させ、試料を乾燥後、これを水素、不活性ガスで希釈した水素等の還元雰囲気下で処理する(水素還元);窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で処理する(熱分解処理);空気、酸素、不活性ガスで希釈した酸素等の酸化雰囲気下で処理する(焼成);アンモニア、不活性ガスで希釈したアンモニア等の窒素原子含有雰囲気下で処理する(窒化);硫化水素、不活性ガスで希釈した硫化水素等の硫黄原子含有雰囲気化で処理する(硫化)、或いはNaBH4やアルコール等還元剤を含む溶液中で処理する(化学還元)ことで、光触媒の表面に助触媒を担持する方法である。
【0043】
例えば、水、THF、エタノールなどの溶媒に、助触媒粒子(コロイド等)もしくは助触媒の前駆体となる化合物を溶解させ、この溶液に光触媒粒子を懸濁させる。この懸濁液を1分~12時間撹拌し、助触媒粒子もしくは助触媒の前駆体となる化合物を光触媒の表面へ吸着させる。
懸濁させている際に、超音波処理を行ってもよい。これにより、光触媒粒子がよく分散し、助触媒粒子もしくは助触媒の前駆体となる化合物が光触媒表面へ吸着することを促進させることができる。
【0044】
そして、上記懸濁液をろ過、または、溶媒をドライアップした後、所望のガス雰囲気下、50~1000℃で、0.5~12時間処理することで、助触媒を担持させた光触媒を得ることができる。
【0045】
(水熱法)
水熱法は、助触媒粒子(コロイド等)もしくは助触媒の前駆体となる化合物を溶液中で光触媒表面に吸着させ、耐圧容器中で加熱することで還元、酸化、あるいは加水分解させることにより、光触媒の表面に助触媒を担持する方法である。加熱の方式はマイクロ波照射による加熱、オーブンによる加熱など、特に限定されない。
【0046】
例えば、水、エチレングリコールなどの溶媒に、助触媒粒子(コロイド等)もしくは助触媒の前駆体となる化合物を溶解させ、この溶液に光触媒粒子を懸濁させる。この懸濁液を1分~12時間撹拌し、助触媒粒子もしくは助触媒の前駆体となる化合物を光触媒の表面へ吸着させる。
懸濁させている際に、超音波処理を行ってもよい。これにより、光触媒粒子がよく分散し、助触媒粒子もしくは助触媒の前駆体となる化合物が光触媒表面へ吸着することを促進させることができる。
この懸濁液をマイクロ波反応器で、50~300℃にて5分間~3時間加熱する。その後、試料を純水で洗浄して乾燥させることで、助触媒が担持された光触媒を得ることができる。得られた乾燥粉末はそのまま使用してもよく、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で処理してもよく、空気、酸素、不活性ガスで希釈した酸素等の酸化雰囲気下で処理する焼成を行ってもよく、水素雰囲気下で水素還元を行ってもよく、アンモニア等の窒素原子含有雰囲気下で窒化を行ってもよい。
【0047】
(光電着法)
光電着法は、助触媒粒子(コロイド等)もしくは助触媒の前駆体となる化合物を含む溶液に光触媒を懸濁(分散)させ、助触媒粒子(コロイド等)もしくは助触媒の前駆体となる化合物を光触媒表面に吸着させ、光触媒を光励起して生成する電子による還元作用、または正孔による酸化作用を利用して、光触媒の表面に助触媒を析出させる方法である。
【0048】
例えば、水、THF、エタノールなどの溶媒に、助触媒粒子もしくは助触媒の前駆体となる化合物を溶解させ、この溶液に光触媒粒子を懸濁させる。
この懸濁液に、光触媒を励起可能な光を室温で空気および酸素の非存在下において数時間照射して、助触媒を担持させる。通常、水分解反応にはこの懸濁液をそのまま使用するが、その後、上記懸濁液をろ過、または、溶媒をドライアップした後、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で処理してもよく、空気、酸素、不活性ガスで希釈した酸素等の酸化雰囲気下で処理する焼成を行ってもよく、水素雰囲気下で水素還元を行ってもよく、アンモニア等の窒素原子含有雰囲気下で窒化を行ってもよい。
【0049】
(助触媒を担持した光触媒)
上記製造方法により得られる、助触媒を担持した光触媒としては、例えばCaTaO2N、SrTaO2N又はBaTaO2Nに、所望の助触媒が担持されたものが挙げられる。助触媒を担持した光触媒は水を分解して水素、酸素、或いは水素及び酸素を発生させることができる光触媒である。
【実施例0050】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
<光触媒の合成>
出発原料としてTaS2を用いて、以下に示すとおり光触媒として機能する各種ペロブスカイト型酸窒化物を合成した。
【0052】
(SrTaO2Nの合成)
出発原料として0.6gのTaS2(株式会社高純度化学研究所製)、1.627gのSr(OH)2・8H2O(富士フイルム和光純薬株式会社製)、及び0.388gのSrCl2(関東化学株式会社製)を準備した。各原料のモル比は1:2.5:1であった。
上記出発原料を4mLエタノールと共にメノウ乳鉢に添加した。超音波バスで3分間処理した後、上記出発原料を含む混合物を約30℃にて穏やかに加熱しながら、乾燥した固体粉末が得られるまで粉砕した。
得られた固体粉末を直方体形状の高純度アルミナるつぼに充填して管状炉に入れ、200mL/minのNH3ガスフロー下で、約900℃(1223K)にて3時間焼成した(昇温速度:10K/min)。
焼成後、300℃まではNH3ガス中で、300℃以降取り出し温度までは窒素ガス中で自然冷却し、アルミナるつぼを管状炉から取り出した。
アルミナるつぼ中の焼成物を純水で洗浄した後、真空炉で40℃で乾燥させることで結晶粉末を得た。
【0053】
XRD(Cu-Kα)により、得られた結晶粉末は、ペロブスカイト型酸窒化物であるSrTaO
2Nであることが同定された。
図1は、作製したSrTaO
2NのXRDチャートである。
【0054】
SrTaO
2N結晶粉末は、UV-vis拡散反射スペクトルにおいて約590nmまでの光吸収を示した。
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の結果、SrTaO
2N結晶粉末の平均粒子径は63nmであった。
図2は、作製したSrTaO
2NのSEM像である。
【0055】
上記例とは若干原料が異なるが、TaS2に代えてTa2O5を用い、各原料Ta2O5、SrCO3及びSrCl2のモル比を1:1:1として合成を行った場合、得られるSrTaO2N結晶粉末の平均粒子径は202nmとなった。粒径の小さなペロブスカイト型酸窒化物を含む新規な光触媒の製造に際し、Ta原料としてTaS2を用いることの有用性が確認された。
【0056】
ICP発光分光分析の結果、SrTaO2N結晶粉末におけるSr:Ta:O:Nのモル比は1.00:1.01:2.07:1.03(Sは検出限界以下)であった。
【0057】
(BaTaO2Nの合成)
出発原料として0.6gのTaS2(株式会社高純度化学研究所製)、1.931gのBa(OH)2・8H2O(富士フイルム和光純薬株式会社製)、及び0.388gのSrCl2(関東化学株式会社製)を準備した。各原料のモル比は1:2.5:1であった。このこと以外は、SrTaO2Nの合成と同様にして結晶粉末を得た。
【0058】
XRD(Cu-Kα)により、得られた結晶粉末は、ペロブスカイト型酸窒化物であり、BaTaO2N(Baの一部がSrに置換されたBaTaO2Nとみられる)であることが同定された。
【0059】
BaTaO2N結晶粉末は、UV-vis拡散反射スペクトルにおいて約630nmまでの光吸収を示した。
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の結果、BaTaO2N結晶粉末の平均粒子径は50nmであった。
【0060】
(CaTaO2Nの合成)
出発原料として0.6gのTaS2(株式会社高純度化学研究所製)、0.453gのCa(OH)2(富士フイルム和光純薬株式会社製)、及び0.388gのSrCl2(関東化学株式会社製)を準備した。各原料のモル比は1:2.5:1であった。このこと以外は、SrTaO2Nの合成と同様にして結晶粉末を得た。
【0061】
XRD(Cu-Kα)により、得られた結晶粉末は、ペロブスカイト型酸窒化物であり、CaTaO2N(Caの一部がSrに置換されたCaTaO2Nとみられる)であることが同定された。
【0062】
CaTaO2N結晶粉末は、UV-vis拡散反射スペクトルにおいて約520nmまでの光吸収を示した。
走査型電子顕微鏡(SEM)による観察の結果、CaTaO2N結晶粉末の平均粒子径は77nmであった。
【0063】
<光触媒活性評価>
上記で得られたSrTaO2N結晶粉末を用いて、以下に示すとおり光触媒活性評価を行った。
【0064】
(光触媒活性評価:水素生成反応(HER))
光触媒反応は、パイレックス(登録商標)窓の上面照射型反応セルを用い、閉鎖循環系評価装置で行った。メタノール水溶液150mL中(メタノール濃度15vol%)における水素生成速度は、CM1コールドミラー及びL42カットオフフィルタ(λ≧420nm)を備えた300Wキセノンランプを用いて測定した。反応溶液は真空ポンプを用いで十分に脱気し、その後反応系内の気体成分を均一にするために5kPaのArガスを反応系内に導入し、循環させた。キセノンランプ(光照射口)と光触媒懸濁液面との距離は8.5cmとした。温度は、反応溶液温度が約15℃(288K)になるように冷却水循環装置で温度制御した。生成ガスはArガスをキャリアガスとし、ガスクロマトグラフ分析装置(TCD-GC、株式会社島津製作所製、GC-8A、Molecular sieve 5Aカラム)で分析した。
【0065】
(HER用助触媒の担持)
150mgのSrTaO2Nと、SrTaO2Nの量に対して0.5wt%のIrを含む15mLのIrCl3水溶液とをキャップ付き石英管に加え、5分間超音波処理して均質な懸濁液を調製した。この懸濁液をマイクロ波反応器で、約150℃(423K)にて15分間加熱した。試料を純水で洗浄して真空炉で乾燥させることで、SrTaO2N/Ir(助触媒であるIrを担持させたSrTaO2N)を得た。
【0066】
同様の手順で、150mgのSrTaO2N/Irと、SrTaO2N/Irの量に対して1wt%のPtを含む2mLのH2PtCl6水溶液及び13mLのエチレングリコールとをキャップ付き石英管に加え、超音波処理して均質な懸濁液を調製した。この懸濁液をマイクロ波反応器で、約150℃(423K)にて15分間加熱した。試料を純水で洗浄して真空炉で乾燥させることで、SrTaO2N/Ir/Pt(助触媒であるIr及びPtを担持させたSrTaO2N)を得た。
【0067】
SrTaO2N/Ir/Ptを150mLのメタノール水溶液(13vol%)に分散させた。ここに、SrTaO2N/Ir/Ptの量に対して0.5wt%のCrを含むK2CrO4を添加し、超音波処理して均質な懸濁液を調製した。
【0068】
数回排気して空気を除去した後、懸濁液を閉鎖循環系評価装置内に設け、上記の「光触媒活性評価」に記載の要領で、助触媒担持と活性評価とを同時に行った(キセノンランプを用いた上方照射方式により0.5時間照射した)。この光電着法により、SrTaO2N/Ir/Pt/Cr(助触媒であるIr、Pt及びCr(Cr2O3)を担持させたSrTaO2N)を得た。水素生成速度の評価は、この光電着操作の後、生成した光触媒(助触媒を担持した光触媒)を取り出すことなく、光電着操作を行った懸濁液でそのまま行った。SrTaO2N/Ir/Pt/Crの水素生成速度は210μmol/hであった。
【0069】
図3は、作製したSrTaO
2N/Ir/Pt/Crの水素生成反応の活性評価結果(HER)を示すグラフである。また、
図4は、作製したSrTaO
2N/Ir/Pt/CrのSEM像である。
【0070】
SrTaO2N結晶粉末に代えて、上記で得られたBaTaO2N結晶粉末及びCaTaO2N結晶粉末を用いた場合、上記同様の要領で作製した光触媒(助触媒を担持した光触媒)の水素生成速度は、それぞれ74μmol/h及び88μmol/hであった。
【0071】
(HER用助触媒の担持)
また、上記で得られたBaTaO2N結晶粉末に以下のとおりHER用助触媒を担持させた光触媒を用いて、上記と同様にして光触媒活性評価を行った。
【0072】
150mgのBaTaO2Nと、BaTaO2Nの量に対して1wt%のPtを含む2mLのH2PtCl6水溶液及び13mLのエチレングリコールとをキャップ付き石英管に加え、超音波処理して均質な懸濁液を調製した。この懸濁液をマイクロ波反応器で、約150℃(423K)にて15分間加熱した。試料を純水で洗浄して真空炉で乾燥させることで、BaTaO2N/Pt(助触媒であるPtを担持させたBaTaO2N)を得た。
【0073】
BaTaO2N/Ptを150mLのメタノール水溶液(13vol%)に分散させた。ここに、BaTaO2N/Ptの量に対して0.5wt%のCrを含むK2CrO4を添加し、超音波処理して均質な懸濁液を調製した。
【0074】
数回排気して空気を除去した後、懸濁液を閉鎖循環系評価装置内に設け、上記の「光触媒活性評価」に記載の要領で、助触媒担持と活性評価とを同時に行った(キセノンランプを用いた上方照射方式により0.5時間照射した)。この光電着法により、BaTaO2N/Pt/Cr(助触媒であるPt及びCr(Cr2O3)を担持させたBaTaO2N)を得た。水素生成速度の評価は、この光電着操作の後、生成した光触媒(助触媒を担持した光触媒)を取り出すことなく、光電着操作を行った懸濁液でそのまま行った。BaTaO2N/Pt/Crの水素生成速度は200μmol/hであった。
【0075】
(光触媒活性評価:酸素生成反応(OER))
光触媒反応は、パイレックス(登録商標)窓の上面照射型反応セルを用い、閉鎖循環系評価装置で行った。20mM AgNO3水溶液150mL中における酸素生成速度は、CM1コールドミラー及びL42カットオフフィルタ(λ≧420nm)を備えた300Wキセノンランプを用いて測定した。反応溶液には、pH値を8程度に維持するために、0.1gのLa2O3の粉末を分散させた。反応溶液は真空ポンプを用いで十分に脱気し、その後反応系内の気体成分を均一にするために5kPaのArガスを反応系内に導入し、循環させた。キセノンランプ(光照射口)と光触媒懸濁液面との距離は8.5cmとした。温度は、反応溶液温度が約15℃(288K)になるように冷却水循環装置で温度制御した。生成ガスはArガスをキャリアガスとし、ガスクロマトグラフ分析装置(TCD-GC、株式会社島津製作所製、GC-8A、Molecular sieve 5Aカラム)で分析した。
【0076】
(酸素生成反応(OER)用助触媒の担持)
150mgのSrTaO2NをCo(NO3)2を含む水溶液に添加し、超音波処理して均質な懸濁液を調製した。溶液中のCoの量は、SrTaO2Nの量に対して0.5wt%であった。その後、この懸濁液を沸騰水浴中で加熱して得られた生成物を完全に乾燥させ、200mL/minのNH3ガスフロー下で、約500℃(773K)にて1時間加熱した。この含浸法により、SrTaO2N/CoOx(助触媒であるCoOxを担持させたSrTaO2N)を得た。SrTaO2N/CoOxの酸素生成速度は4μmol/hであった。
【0077】
なお、加熱温度を約900℃(1173K)としたこと以外は、上記と同様にしてOER用助触媒を担持させた場合、酸素生成速度は385μmol/hに向上した。
【0078】
(光触媒活性評価:水分解反応(OWS))
光触媒反応は、パイレックス(登録商標)窓の上面照射型反応セルを用い、閉鎖循環系評価装置で行った。水150mL中における水素生成速度及び酸素生成速度は、CM1コールドミラー及びL42カットオフフィルタ(λ≧420nm)を備えた300Wキセノンランプを用いて測定した。反応溶液は真空ポンプを用いで十分に脱気し、その後反応系内の気体成分を均一にするために5kPaのArガスを反応系内に導入し、循環させた。キセノンランプ(光照射口)と光触媒懸濁液面との距離は8.5cmとした。温度は、反応溶液温度が約15℃(288K)になるように冷却水循環装置で温度制御した。生成ガスはArガスをキャリアガスとし、ガスクロマトグラフ分析装置(TCD-GC、株式会社島津製作所製、GC-8A、Molecular sieve 5Aカラム)で分析した。
【0079】
(水分解反応(OWS)用助触媒の担持)
150mgのSrTaO2Nと、SrTaO2Nの量に対して1wt%のIrを含む15mLのIrCl3水溶液とをキャップ付き石英管に加え、5分間超音波処理して均質な懸濁液を調製した。この懸濁液をマイクロ波反応器で、約150℃(423K)にて15分間加熱した。試料を純水で洗浄して真空炉で乾燥させることで、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を、200mL/minの10vol%のH2を含むN2ガスフロー下で、約250℃(523K)にて1時間加熱した。これによりSrTaO2N/Ir(助触媒であるIrを担持させたSrTaO2N)を得た。
【0080】
次に、150mgのSrTaO2N/Irを150mLのメタノール水溶液(13vol%)に添加し、超音波処理して分散させた。ここに、SrTaO2N/Irの量に対して0.5wt%のRhを含むRhCl3水溶液を加え、超音波処理して均質な懸濁液を調製した。
【0081】
数回排気して空気を除去した後、懸濁液を閉鎖循環系評価装置内に設け、上記の「光触媒活性評価」に記載の要領で、助触媒担持と活性評価とを同時に行った(キセノンランプを用いて反応器上方から2時間照射した)。同様に、さらにSrTaO2N/Ir/Rhの量に対して0.5wt%のCrを含むK2CrO4水溶液を加え、助触媒担持と活性評価とを同時に行った。
【0082】
このRh及びCrの逐次光電着法により、SrTaO2N/Ir/Rh/Cr(助触媒であるIr、Rh及びCr(Cr2O3)を担持させたSrTaO2N)を得た。水素生成速度の評価は、この逐次光電着操作の後、生成した光触媒(助触媒を担持した光触媒)を取り出すことなく、光電着操作を行った懸濁液でそのまま行った。SrTaO2N/Ir/Rh/Crの水素生成速度は0.72μmol/h、酸素生成速度は0.24μmol/hであった。
【0083】
(光触媒活性評価:水分解反応(Zスキーム))
光触媒反応は、パイレックス(登録商標)窓の上面照射型反応セルを用い、閉鎖循環系評価装置で行った。5mMのK4Fe(CN)6を含む25mMリン酸カリウム緩衝液(pH=6)150mL中における水素生成速度及び酸素生成速度は、CM1コールドミラー及びL42カットオフフィルタ(λ≧420nm)を備えた300Wキセノンランプを用いて測定した。反応溶液は真空ポンプを用いで十分に脱気し、その後反応系内の気体成分を均一にするために5kPaのArガスを反応系内に導入し、循環させた。キセノンランプ(光照射口)と光触媒懸濁液面との距離は8.5cmとした。温度は、反応溶液温度が約15℃(288K)になるように冷却水循環装置で温度制御した。生成ガスはArガスをキャリアガスとし、ガスクロマトグラフ分析装置(TCD-GC、株式会社島津製作所製、GC-8A、Molecular sieve 5Aカラム)で分析した。
【0084】
光触媒として、上記にて得られたSrTaO2N/Ir/Rh/Cr(助触媒であるIr、Rh及びCr(Cr2O3)を担持させたSrTaO2N)(50mg)と、Zhang et al. Nat Commun 13, 484 (2022)に従い調製したBiVO4/Ir/CoFeOx(助触媒であるIr、CoFeOxを担持させたBiVO4)(100mg)を懸濁させ、上記の手順で水分解反応(Zスキーム)を行うと、水素生成速度は85μmol/h、酸素生成速度は35μmol/hであった。
【0085】
<熱処理後の光触媒による活性評価>
上記で得られたSrTaO2N結晶粉末にさらに熱処理を施したものを用いて、以下に示すとおり熱処理後の光触媒による活性評価を行った。
【0086】
(熱処理条件1)
SrTaO2N結晶粉末を高純度アルミナボート(ボート形状のアルミナるつぼ)に充填して管状炉に入れ、200mL/minのNH3ガスフロー下で、約900℃(1173K)にて10分間熱処理を行った(昇温速度:10K/min)。
熱処理後のSrTaO2N結晶粉末を用いて、上記と同様にしてSrTaO2N/Ir/Pt/Cr及びSrTaO2N/CoOxを得た。SrTaO2N/Ir/Pt/Crの水素生成速度は186μmol/h、SrTaO2N/CoOxの酸素生成速度は136μmol/hであった。
【0087】
(熱処理条件2)
熱処理条件を200mL/minのNH3ガスフロー下で、約950℃(1223K)にて30分間としたこと以外は、熱処理条件1と同様にしてSrTaO2N/Ir/Pt/Cr及びSrTaO2N/CoOxを得た。SrTaO2N/Ir/Pt/Crの水素生成速度は215μmol/h、SrTaO2N/CoOxの酸素生成速度は119μmol/hであった。
【0088】
(熱処理条件3)
熱処理条件を200mL/minのN2ガスフロー下で、約900℃(1173K)にて10分間としたこと以外は、熱処理条件1と同様にしてSrTaO2N/Ir/Pt/Cr及びSrTaO2N/CoOxを得た。SrTaO2N/Ir/Pt/Crの水素生成速度は108μmol/h、SrTaO2N/CoOxの酸素生成速度は210μmol/hであった。
【0089】
図5に、熱処理条件1~3での熱処理後の光触媒による活性評価を示す。
図5は、熱処理後のSrTaO
2N結晶粉末を用いた、SrTaO
2N/Ir/Pt/Cr及びSrTaO
2N/CoOxの水素生成反応及び酸素生成反応の評価結果(HER及びOER)を示すグラフである。