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特開2024-123606パラレルリンク機構およびリンク作動装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123606
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】パラレルリンク機構およびリンク作動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 21/50 20060101AFI20240905BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F16H21/50
B25J11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031171
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直彦
【テーマコード(参考)】
3C707
3J062
【Fターム(参考)】
3C707AS35
3C707BS24
3C707BT16
3C707CV09
3C707CW09
3C707CY06
3C707DS01
3C707HT12
3J062AA39
3J062AB28
3J062AC10
3J062CB04
3J062CB14
3J062CB28
3J062CB32
(57)【要約】
【課題】従来構造よりも剛性を高めると共に製造コストの低減を図ることができるパラレルリンク機構およびリンク作動装置を提供する。
【解決手段】パラレルリンク機構2は、基端側リンクハブ5に対し先端側リンクハブ4が2組以上のリンク機構6を介して姿勢を変更可能に連結され、各リンク機構6が、順次、基端側リンク部材7、中央リンク部材8および先端側リンク部材9を有する球面リンク機構を用いている。パラレルリンク機構2は、複数の中央リンク部材8の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段11を備える。リンク部材制限手段11は、複数の中央リンク部材8を摺動可能に支持する板状部材である。この板状部材11は、複数の中央リンク部材8を支持した状態で定められた軌道に沿って案内させる案内面を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側リンクハブに対し先端側リンクハブが2組以上のリンク機構を介して姿勢を変更可能に連結され、前記各リンク機構が、順次、基端側リンク部材、中央リンク部材および先端側リンク部材を有する球面リンク機構を用いたパラレルリンク機構であって、
複数の前記中央リンク部材の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段を備えたパラレルリンク機構。
【請求項2】
請求項1に記載のパラレルリンク機構において、前記リンク部材制限手段は、複数の前記中央リンク部材を摺動可能に支持する板状部材であり、この板状部材は、複数の前記中央リンク部材を支持した状態で定められた軌道に沿って案内させる案内面を有するパラレルリンク機構。
【請求項3】
請求項2に記載のパラレルリンク機構において、前記板状部材は、中実の円板形状または中空の円環板形状であるパラレルリンク機構。
【請求項4】
請求項3に記載のパラレルリンク機構において、複数の前記中央リンク部材は、それぞれ前記板状部材の外周面または内周面に臨む底部と、前記板状部材の外周面に繋がる一端面に接触した状態で案内する第1突起部と、前記板状部材の外周面に繋がる他端面に接触した状態で案内する第2突起部と、で断面凹形状に形成される被案内面を有するパラレルリンク機構。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のパラレルリンク機構において、前記板状部材と前記中央リンク部材との間の摺動抵抗を低減する摺動抵抗低減部材を備えたパラレルリンク機構。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載のパラレルリンク機構において、前記板状部材が前記中央リンク部材から脱落することを防止する脱落防止手段を備えたパラレルリンク機構。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のパラレルリンク機構における前記2組以上のリンク機構に、前記先端側リンクハブの姿勢を任意に制御する姿勢制御用アクチュエータを備えたリンク作動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、医療機器または産業機器等の精密で広範な作動範囲を必要とする機器に用いられるパラレルリンク機構およびリンク作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、図31のように、中央リンク部材同士を回転可能に連結する、多段構造の中央リンクハブ50を備えた、図32のリンク作動装置51が提案されている。
特許文献2では、コンパクトでありながら、高速、高精度で、広範な作動範囲の動作が可能なリンク作動装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-71492号公報
【特許文献2】米国特許第5893296号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パラレルリンク機構を備えたリンク作動装置は、動作時に振動する、位置決め精度が悪化する課題がある。この課題の解決すべき根本原因としては、パラレルリンク機構の剛性不足、関節部の回転対偶部のモーメント剛性不足が挙げられる。これらの剛性不足に派生する現象としては、ガタ、遊び、リンクの変形等がある。
【0005】
特許文献1では、中央リンクハブ50を備えることで、同中央リンクハブが設けられていない従来構造のパラレルリンク機構よりも剛性を改善している。しかし、中央リンクハブ50と中央リンク部材52を連結する梁53が干渉する。この干渉を避けるために、図31のように、中央リンクハブ50の回転構造を、軸方向C1である縦にずらして配置している。各中央リンク部材の円軌道をそれぞれ制御する仕様とすると、リンク毎に回転機構を用意し、多段構造にするしかなかった。この場合、従来構造に対し、必要な軸受が増え、形の異なる中央リンク部材が必要になることで製造コストが嵩む。
【0006】
本発明の目的は、従来構造よりも剛性を高めると共に製造コストの低減を図ることができるパラレルリンク機構およびリンク作動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパラレルリンク機構は、基端側リンクハブに対し先端側リンクハブが2組以上のリンク機構を介して姿勢を変更可能に連結され、前記各リンク機構が、順次、基端側リンク部材、中央リンク部材および先端側リンク部材を有する球面リンク機構を用いたパラレルリンク機構であって、
複数の前記中央リンク部材の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段を備えた。
【0008】
この構成によると、基端側リンクハブと先端側リンクハブと2組以上のリンク機構とで、基端側リンクハブに対して先端側リンクハブを、回転が2自由度で姿勢変更自在な機構とし得る。リンク部材制限手段は、複数の中央リンク部材の移動および傾きを制限する。これにより基端側リンクハブ、先端側リンクハブおよび各リンク機構の移動が理論上の軌跡に近づく。よって、従来構造よりもパラレルリンク機構の剛性を高め位置決め精度の向上を図れる。複数の中央リンク部材の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段を備える比較的簡易な構造でパラレルリンク機構の剛性を高めるため、リンク毎に回転機構を用意し多段構造にする従来構造よりも構造を簡素化し製造コストの低減を図れる。
【0009】
前記リンク部材制限手段は、複数の前記中央リンク部材を摺動可能に支持する板状部材であり、この板状部材は、複数の前記中央リンク部材を支持した状態で定められた軌道に沿って案内させる案内面を有してもよい。
前記定められた軌道は、設計等によって任意に定める軌道であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な軌道を求めて定められる。
この構成によると、複数の中央リンク部材を板状部材で支持した状態で、この板状部材の案内面に複数の中央リンク部材を案内させる。これと共に、各組のリンク機構がそれぞれ受ける不均等な負荷を、板状部材を介して分散負担する。前記板状部材により中央リンク部材の移動および傾きを制限することができるため、リンク毎に回転機構を用意し多段構造にする従来構造よりも部品点数を抑えて構造を簡素化し得る。
【0010】
前記板状部材は、中実の円板形状または中空の円環板形状であってもよい。中実の円板形状の板状部材を採用する場合、中空の円環板形状の板状部材よりも板状部材自体の剛性を高めパラレルリンク機構の剛性をより高めることが可能となる。中空の円環板形状の板状部材を採用する場合、パラレルリンク機構の内部に、エンドエフェクタのケーブル等を通すことができる。この場合、パラレルリンク機構の外部にケーブル等を設ける構造に比べて、設置スペースを抑えることができるうえ、ケーブル等が可動部に干渉することを未然に防止できまたケーブル等を短縮することが可能となる。
【0011】
複数の前記中央リンク部材は、それぞれ前記板状部材の外周面または内周面に臨む底部と、前記板状部材の外周面に繋がる一端面に接触した状態で案内する第1突起部と、前記板状部材の外周面に繋がる他端面に接触した状態で案内する第2突起部と、で断面凹形状に形成される被案内面を有してもよい。この場合、板状部材を複数の中央リンク部材の断面凹形状の被案内面で挟むように支持する。このため、中央リンク部材の回転機構部となる断面凹形状の被案内面を同一平面上且つ同一の部品形状にすることができる。この場合、形の異なる中央リンク部材を備えた従来構造よりも部品の兼用性を高めて製造コストの低減を図れる。
【0012】
前記板状部材と前記中央リンク部材との間の摺動抵抗を低減する摺動抵抗低減部材を備えてもよい。この場合、摺動抵抗低減部材を備えていない構造よりもパラレルリンク機構の動作を滑らかにすることができる。また板状部材と中央リンク部材との間の摩耗を防ぎ、摺動抵抗低減部材を備えていない構造よりもパラレルリンク機構の寿命が向上する。
【0013】
前記板状部材が前記中央リンク部材から脱落することを防止する脱落防止手段を備えてもよい。この場合、パラレルリンク機構が板状部材の外側に向けて不所望に広がる変形を防止できる。
【0014】
本発明のリンク作動装置は、本発明のいずれかのパラレルリンク機構における前記2組以上のリンク機構に、前記先端側リンクハブの姿勢を任意に制御する姿勢制御用アクチュエータを備えている。そのため、本発明のパラレルリンク機構につき前述した各効果が得られる。前記姿勢制御用アクチュエータを備えたため、基端側リンクハブに対する先端側リンクハブの姿勢を確定することができる。前記姿勢制御用アクチュエータと、前記リンク部材制限手段を備えたパラレルリンク機構とを組み合わせることで、精密且つ広範囲の高速動作が可能となり、軽量且つコンパクトなリンク作動装置となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のパラレルリンク機構は、球面リンク機構を用いたパラレルリンク機構において、複数の中央リンク部材の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段を備えたため、従来構造よりも剛性を高めると共に製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係るリンク作動装置の斜視図である。
図2】同リンク作動装置のパラレルリンク機構の正面図である。
図3】同パラレルリンク機構の側面図である。
図4】同パラレルリンク機構の平面図である。
図5図3のA-A線(中間平面)断面図である。
図6】同パラレルリンク機構の曲げ姿勢の斜視図である。
図7】同パラレルリンク機構の別の曲げ姿勢の斜視図である。
図8】同パラレルリンク機構の曲げ姿勢における正面図である。
図9図8のB-B線断面図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係るリンク作動装置の斜視図である。
図11】同リンク作動装置のパラレルリンク機構の正面図である。
図12】同パラレルリンク機構の平面図である。
図13図11のC-C線断面図である。
図14】本発明の第3の実施形態に係るリンク作動装置の斜視図である。
図15】同リンク作動装置のパラレルリンク機構の正面図である。
図16】同パラレルリンク機構の平面図である。
図17図15のD-D線概略断面図である。
図18】本発明の第4の実施形態に係るリンク作動装置の脱落防止手段等を示す斜視図である。
図19】同脱落防止手段等の平面図である。
図20図19のE-E線断面図である。
図21】同脱落防止手段等の正面図である。
図22図21のF-F線断面図である。
図23】本発明の第5の実施形態に係るリンク作動装置の脱落防止手段等を示す斜視図である。
図24】同脱落防止手段等の平面図である。
図25図24のG-G線断面図である。
図26】同リンク作動装置における板状部材の斜視図である。
図27】同リンク作動装置の中央リンク部材の斜視図である。
図28】同脱落防止手段等の正面図である。
図29図28のH-H線断面図である。
図30図25の一部を拡大して示す拡大断面図である。
図31】従来例のリンク作動装置の一部を拡大して示す縦断面図である。
図32】同リンク作動装置の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係るリンク作動装置を図1ないし図9と共に説明する。
<リンク作動装置の概略構造>
図1のように、リンク作動装置1は、パラレルリンク機構2と、パラレルリンク機構2の姿勢を任意に制御する姿勢制御用アクチュエータ3と、制御装置Cuとを備える。リンク作動装置1は、例えば、医療機器または産業機器等に用いられる。リンク作動装置1は、後述する先端側リンクハブ4に取り付けられたエンドエフェクタ(図示せず)を、図示外のワークに対し位置決めして作業を行う。
【0018】
<パラレルリンク機構>
図2のように、パラレルリンク機構2は、基端側リンクハブ5に対し先端側リンクハブ4を3組のリンク機構6を介して姿勢変更可能に連結したものである。リンク機構6の組数は2組であってもよく4組以上であってもよい。パラレルリンク機構2は市場において独立して取引可能に構成されている。
【0019】
各リンク機構6は、順次、基端側リンク部材7、中央リンク部材8および先端側リンク部材9を有し、4つの回転対偶からなる4節連鎖のリンク機構をなす。基端側リンク部材7の一端は、第1回転軸10a回りに回転可能に基端側リンクハブ5に連結されている。図3のように、先端側リンク部材9の一端は、第2回転軸10b回りに回転可能に先端側リンクハブ4に連結されている。
図2のように、中央リンク部材8の一端は、第3回転軸10c回りに回転可能に基端側リンク部材7の他端に連結され、中央リンク部材8の他端は、第4回転軸10d回りに回転可能に先端側リンク部材9の他端に連結されている。
【0020】
第1回転軸10aは、基端側リンクハブ5と基端側リンク部材7との各回転対偶部の中心軸回りの回転軸であり、第2回転軸10bは、先端側リンクハブ4と先端側リンク部材9の回転対偶部の中心軸回りの回転軸である。第3回転軸10cは、基端側リンク部材7と中央リンク部材8との各回転対偶部の中心軸回りの回転軸であり、第4回転軸10dは、先端側リンク部材9と中央リンク部材8との各回転対偶部の中心軸回りの回転軸である。各回転対偶部に図示外の軸受などの回転抵抗低減部材がそれぞれ設けられている。但し、使用条件、用途等によっては前記軸受を省略することも可能である。
【0021】
パラレルリンク機構2は、2つの球面リンク機構2a,2bを組み合わせた構造である。基端側リンク部材7と中央リンク部材8との各回転対偶部は、基端側の球面リンク中心PAを中心とする球面である移動球面SP1上を移動する。基端側リンク部材7と中央リンク部材8との各回転対偶部は、先端側の球面リンク中心PBを中心とする球面である移動球面SP2上を移動する。移動球面SP1と移動球面SP2とが交わる面は、円形状の中間平面IPである。
【0022】
基端側の第1の球面リンク機構2aにおいて、基端側リンクハブ5の中心軸QAと、第1,第3回転軸10a,10cの各中心軸は、基端側の球面リンク中心PAにおいて交わる。先端側の第2の球面リンク機構2bにおいて、先端側リンクハブ4の中心軸QBと、第2,第4回転軸10b,10d各中心軸は、先端側の球面リンク中心PBにおいて交わる。
【0023】
本実施形態では、基端側リンクハブ5と基端側リンク部材7との各回転対偶部の中心と、基端側の球面リンク中心PA間の距離は同じである。基端側リンク部材7と中央リンク部材8との各回転対偶部の中心と、基端側の球面リンク中心PA間の距離は同じである。
【0024】
同様に、先端側リンクハブ4と先端側リンク部材9との各回転対偶部の中心と、先端側の球面リンク中心PB間の距離は同じである。先端側リンク部材9と中央リンク部材8との各回転対偶部の中心と、先端側の球面リンク中心PB間の距離は同じだが距離が異なっても良い。第3,第4回転軸10c,10dは、ある交差角(「軸角」ともいう)を持っているが、平行であってもよい。第1回転軸10aと第3回転軸10cとが成す角度であるアーム角は、定められた角度に規定されている。
【0025】
3組のリンク機構6は幾何学的に同一形状をなす。つまり各リンク部材7,8,9を直線で表現した幾何学モデル、すなわち各回転対偶部と、これら回転対偶部間を結ぶ直線とで表現したモデルが、どのような姿勢をとっていても、中央リンク部材8の中央部に対する基端側部分と先端側部分が対称を成す形状であることを言う。パラレルリンク機構2は、基端側リンクハブ5および基端側リンク部材7と、先端側リンクハブ4および先端側リンク部材9との位置関係が、中央リンク部材8の中心線に対して回転対称となる位置構成である。
【0026】
基端側リンクハブ5と先端側リンクハブ4と3組のリンク機構6とで、基端側リンクハブ5に対して先端側リンクハブ4を、回転が2自由度で姿勢変更自在な機構としている。この2自由度機構は、コンパクトでありながら、基端側リンクハブ5に対する先端側リンクハブ4の可動範囲を広くとれる。
【0027】
基端側リンクハブ5の中心軸QAに対して、先端側リンクハブ4の中心軸QBが傾斜した垂直角度を、折れ角という。基端側リンクハブ5に対する先端側リンクハブ4の旋回角は0°~360°の範囲に設定可能である。旋回角は、中心軸QAに対して中心軸QBが傾斜した水平角度である。
基端側リンクハブ5に対する先端側リンクハブ4の姿勢変更は、中心軸QAと中心軸QBとの交点を回転中心として行われる。基端側リンクハブ5に対する先端側リンクハブ4の姿勢が変化しても、基端側と先端側の球面リンク中心PA,PB間の距離は変化しない。
【0028】
図4に示す3組のリンク機構6は、円周方向に120度間隔を空けた円周等配に配置されているが、必ずしも円周等配である必要はない。図1のように、基端側リンクハブ5は、六角筒形状でその中央部に円形の孔5aが形成されている。基端側リンクハブ5の平面視における孔5aの中心は、例えば、基端側の球面リンク中心PA(図2)に一致する。
【0029】
先端側リンクハブ4は、基端側リンクハブ5と同様の六角筒形状でその中央部に円形の孔4aが形成されている。図4のように、先端側リンクハブ4の平面視における孔4aの中心は、例えば、先端側の球面リンク中心PBに一致する。先端側リンクハブ4の外側面には、径方向外方に突出する3個の第2回転軸10bが120度等配で支持されている。各第2回転軸10bの軸心は、中心軸QBと交差する。第2回転軸10bに、先端側リンク部材9の一端が連結されている。図2のように、先端側リンク部材9の他端には、中央リンク部材8の他端に回転自在に連結された第4回転軸10dが連結されている。
【0030】
<リンク部材制限手段について>
パラレルリンク機構2は、複数(この例では3個)の中央リンク部材8の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段11を備える。リンク部材制限手段11は、複数の中央リンク部材8を摺動可能に支持する板状部材である。板状部材11は、複数の中央リンク部材8を支持した状態で定められた軌道に沿って案内させる案内面F11を有する。パラレルリンク機構2の正常な動作範囲において、中央リンク部材8同士が接触する、または中央リンク部材8同士の位置が入れ替わることはない。前記定められた軌道とは、パラレルリンク機構2における理論上の中間平面IP上の円軌道である。
【0031】
図5は、図3におけるパラレルリンク機構2の中間平面IPでの断面図である。板状部材11は、例えば、金属製の中実の円板形状であり、図2のように所定の厚みに形成されている。パラレルリンク機構2の中間平面IPに、円板形状の板状部材11が設けられる。板状部材11の脱落を防ぐため、1つの板状部材11を円周方向に設けられる3個の中央リンク部材8が挟む。
【0032】
具体的には、複数の中央リンク部材8は、それぞれ底部8aと、第1突起部8bと、第2突起部8cとで断面凹形状に形成される被案内面F8を有する。板状部材11と1個の中央リンク部材8が一体化または固定されていてもよい。前記一体化とは、板状部材11と1個の中央リンク部材8とが複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部または全体として成形されたことを意味する。
【0033】
底部8aは、中央リンク部材8における長手方向中間部に位置し、且つ板状部材11の外周面に臨む。2つ以上の中央リンク部材8は、底部8aが板状部材11の外周面に接触可能に配置される。第1突起部8bは、板状部材11の外周面に繋がる一端面(上面)11aに接触した状態で案内する。第2突起部8cは、板状部材11の外周面に繋がる他端面(下面)11bに接触した状態で案内する。板状部材11の上面11aにおける外周部、および板状部材11の下面11bにおける外周部が、前記案内面F11に相当する。
【0034】
中央リンク部材8は、板状部材11の上面11aおよび下面11bに接触するため、図6および図7のように、中間平面IP(図2)に垂直な姿勢と位置に常に維持される。3個の中央リンク部材8が板状部材11の外周面11cに接触可能に配置される。このため、板状部材11はパラレルリンク機構2の内部に保持され、各中央リンク部材8は、板状部材11の外周縁に沿って移動する。図8のように、パラレルリンク機構2が姿勢変更しても、板状部材11は、各中央リンク部材8によって3点以上で支持され、図9のように中間平面IPの中央部に保持される。但し、図8のように、パラレルリンク機構2を押し広げるような負荷を受けると、板状部材11の外周面11cから中央リンク部材8の底部8aが遠ざかる可能性はある。
【0035】
<姿勢制御用アクチュエータ>
図1のように、リンク作動装置1は、3組のリンク機構6のすべてに姿勢制御用アクチュエータ3を備える。姿勢制御用アクチュエータ3は、制御装置Cuに電気的に接続され、制御装置Cuにより制御可能である。制御装置Cuは、姿勢制御用アクチュエータ3を制御することで、リンク作動装置1の前記折れ角および旋回角を制御する。各姿勢制御用アクチュエータ3は、例えば、ロータリアクチュエータであり、基端側リンクハブ5の外側面に第1回転軸10aと同軸上に設置されている。3組のリンク機構6のうち少なくとも2組に姿勢制御用アクチュエータ3を設ければ、基端側リンクハブ5に対する先端側リンクハブ4の姿勢を確定することができる。
【0036】
リンク作動装置1は、各姿勢制御用アクチュエータ3を回転駆動することで、パラレルリンク機構2が作動する。詳しくは、姿勢制御用アクチュエータ3を回転駆動すると、その回転が第1回転軸10aに伝達される。それにより基端側リンクハブ5に対する先端側リンクハブ4の姿勢が任意に変更される。後述するパラレルリンク機構にも、同様に姿勢制御用アクチュエータ3が取り付け可能である。先端側リンクハブ4には、図示外のエンドエフェクタが取り付けられている。前記エンドエフェクタは、例えば、グリッパを含むハンド、洗浄用ノズル、ディスペンサ、溶接トーチ、画像処理機器等が挙げられる。
【0037】
<作用効果>
以上説明したリンク作動装置1によると、基端側リンクハブ5と先端側リンクハブ4と2組以上のリンク機構6とで、基端側リンクハブ5に対して先端側リンクハブ4を、回転が2自由度で姿勢変更自在な機構とし得る。リンク部材制限手段11は、複数の中央リンク部材8の移動および傾きを制限する。リンク部材制限手段である板状部材11で複数の中央リンク部材8を支持した状態で、図2のように、板状部材11の案内面F11に複数の中央リンク部材8の被案内面F8を案内させる。これと共に、各組のリンク機構6がそれぞれ受ける不均等な負荷を、板状部材11を介して分散負担する。
【0038】
これにより基端側リンクハブ5、先端側リンクハブ4および各リンク機構6の移動が理論上の軌跡に近づく。よって、リンク毎に回転機構を用意し多段構造にする従来構造よりもパラレルリンク機構2の剛性を高め位置決め精度の向上を図れる。複数の中央リンク部材8の移動および傾きを制限するリンク部材制限手段11を備える比較的簡易な構造でパラレルリンク機構2の剛性を高めるため、リンク毎に回転機構を用意し多段構造にする従来構造よりも部品点数を抑えて構造を簡素化し製造コストの低減を図れる。
【0039】
中実の円板形状の板状部材11を採用する場合、中空の円環板形状の板状部材よりも変形し難く板状部材自体の剛性を高めパラレルリンク機構2の剛性をより高めることが可能となる。リンク部材制限手段として、単一の板状部材11を採用する場合、複数部品を含むリンク部材制限手段よりも構造を簡素化しコスト低減を図るうえでなおよい。
板状部材11を複数の中央リンク部材8の断面凹形状の被案内面F8で挟むように支持するため、中央リンク部材8の回転機構部となる断面凹形状の被案内面F8を同一平面上且つ同一の部品形状にすることができる。この場合、形の異なる中央リンク部材を備えた従来構造よりも部品の兼用性を高めて製造コストの低減を図れる。図1の姿勢制御用アクチュエータ3と、リンク部材制限手段11を備えたパラレルリンク機構2とを組み合わせることで、精密且つ広範囲の高速動作が可能となり、軽量且つコンパクトなリンク作動装置1となる。
【0040】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0041】
[第2の実施形態:中空円環板形状、図10図13
図10のように、本実施形態に係るパラレルリンク機構2は、リンク部材制限手段である板状部材11Aが中空の円環板形状であり、後述する図11の保持部材12を備える。
<貫通孔>
図12および図13のように、板状部材11Aは、中央と円周に貫通孔13,14を備えた円環板形状である。図13のように、板状部材11Aの中央に設けられる貫通孔13は、例えば、基端側リンクハブ5の外径よりも大径で且つ板状部材11Aの厚み方向に貫通されている。貫通孔13により板状部材11Aの内周が形成される。板状部材11Aの内周と外周は、中央リンク部材8と共に保持部材12が移動するため、同心円である。
【0042】
板状部材11Aの円周に設けられる貫通孔14は、例えば、円周等配に複数形成され、軽量化および図示外の回転検出センサ、ストッパ、カバー等の部品の取り付け等に利用される。これら貫通孔14は、板状部材11Aの厚み方向に貫通され、例えば、同一孔直径である。但し、板状部材11Aの円周の貫通孔14は、任意の形状、配置にできる。なお円周の貫通孔14が形成されない板状部材11Aとしてもよい。
【0043】
<保持部材>
図11のように、各中央リンク部材8には、板状部材11Aが脱落することを防止する脱落防止手段18の一例として、保持部材12がそれぞれ設けられている。保持部材12は、対応する中央リンク部材8に対して板状部材11Aの径方向外方に所定間隔を隔てて配置される。これと共に、保持部材12の長手方向一端が、第3回転軸10c回りに回転可能に基端側リンク部材7の他端に連結されている。保持部材12の長手方向他端は、第4回転軸10d回りに回転可能に先端側リンク部材9の他端に連結されている。
【0044】
各保持部材12は、それぞれ板状部材11Aの外周面11cに臨む底部12aと、第1突起部12bと、第2突起部12cとで断面凹形状に形成される被案内面F12を有する。底部12aは、保持部材12における長手方向中間部に位置し、板状部材11Aの外周面11cに接触する。第1突起部12bは、板状部材11Aの外周面11cに繋がる一端面(上面)11aに接触した状態で案内する。第2突起部12cは、板状部材11Aの外周面11cに繋がる他端面(下面)11bに接触した状態で案内する。
【0045】
複数の中央リンク部材8は、図10のように、それぞれ板状部材11Aの内周面に臨み接触する底部8aと、板状部材11Aの上面11aに接触する第1突起部8bと、図11のように、板状部材11Aの下面11bに接触する第2突起部8cとで断面凹形状に形成される被案内面F8を有する。板状部材11Aは、これら中央リンク部材8と保持部材12とで協働して、板状部材11Aの中心軸を軸心として回転可能に中央リンク部材8に保持され、脱落しない。前述した保持部材12を中央リンク部材とし、且つ前述した中央リンク部材8を保持部材とみなす、換言すれば、中央リンク部材8と保持部材12を入れ替えて考えることも可能である。
【0046】
このパラレルリンク機構2によると、板状部材11Aの上面11a、下面11b、外周面11c、内周面に、中央リンク部材8および保持部材12が接触する、閉じた構造によって板状部材11Aの脱落を防止することができる。この脱落防止手段18である保持部材12により、パラレルリンク機構2が板状部材11Aの外側に向けて不所望に広がる変形を防止できる。中空の円環板形状の板状部材11Aを採用するため、パラレルリンク機構2の内部である板状部材11Aの貫通孔13(図10)に、エンドエフェクタのケーブル等を通すことができる。この場合、パラレルリンク機構の外部にケーブル等を設ける構造に比べて、設置スペースを抑えることができるうえ、ケーブル等が可動部に干渉することを未然に防止できまたケーブル等を短縮することが可能となる。
【0047】
[第3の実施形態:転動体有り構造、図14図17
図14のように、板状部材11Aと中央リンク部材8との間の摺動抵抗を低減する摺動抵抗低減手段として、転動体15を備えてもよい。具体的には、図15図17のように、板状部材11Aと中央リンク部材8との間の摺動部に、例えば、ころまたは鋼球等の転動体15が設けられている。前記ころは、針状ころまたは円筒ころである。
【0048】
図14のように、板状部材11Aと、脱落防止手段18の一例である保持部材12との間の摺動部にも、転動体15が設けられている。各転動体15は、それぞれの摺動部において自転しつつ中央リンク部材8と共に公転(移動)するように保持される。この場合、板状部材を樹脂製等にする摺動抵抗対策よりも摩耗に強く高強度であり、摺動抵抗低減部材を備えていない構造よりもパラレルリンク機構2の動作を滑らかにすることができる。また摺動部の摩耗を防ぎ、摺動抵抗低減部材を備えていない構造よりもパラレルリンク機構2の寿命が向上するうえ、ガタが減り位置精度のさらなる向上が図れる。
【0049】
[第4の実施形態:脱落防止構成1、図18図22
図18のように、板状部材11の上下面を貫通する溝16を複数設け、図19図22のように、各中央リンク部材8は、対応する溝16に沿って移動可能なピン17を備え、板状部材11、中央リンク部材8の互いの分離を防ぐ脱落防止手段18としてもよい。
【0050】
図22のように、複数の溝16は、板状部材11に円周等配に形成され、各溝16は、板状部材11の外周側部分にてそれぞれ円弧形状に延びる。図20のように、ピン17の長手方向一端部および他端部が、中央リンク部材8の第1,第2突起部8b,8cに支持され、ピン17の長手方向中間部が板状部材11の溝16に挿入されている。この脱落防止構成においても、パラレルリンク機構が板状部材11の外側に向けて不所望に広がる変形を防止できる。
【0051】
[第5の実施形態:脱落防止構成2、図23図30
図23図30のような脱落防止手段18を採用してもよい。具体的には、板状部材11の上下各面の外周側部分に各面よりも突出する環状凸部19を備える。図25の丸印I部を拡大して示す図30のように、中央リンク部材8の第1,第2突起部8b,8cには、各環状凸部19に摺動可能に噛み合う凹部20がそれぞれ設けられている。この脱落防止構成においても、パラレルリンク機構が板状部材11の外側に向けて不所望に広がる変形を防止できる。
【0052】
板状部材11に上下面に環状凹部を備え、第1,第2突起部8b,8cには、各環状凹部に摺動可能に噛み合う凸部がそれぞれ設けられてもよい。板状部材11に上下面におけるいずれか一方の面に環状凸部を備え、他方の面に環状凹部を備え、第1,第2突起部8b,8cには、前記環状凸部に摺動可能に噛み合う凹部、前記環状凹部に摺動可能に噛み合う凸部が設けられてもよい。
【0053】
各実施形態において、板状部材11(11A)と中央リンク部材8との間の摺動部に、摺動抵抗低減部材を備えていない構造よりも摺動抵抗を低減する樹脂コーティング等の摺動抵抗低減部材を備えてもよい。この場合、転動体等の摺動抵抗低減手段を備えた構造よりも、部品点数を低減し製造コストを低減し得る。
板状部材11(11A)は、金属製等よりも摺動性のよい樹脂製にしてもよい。
板状部材11(11A)は、中央リンク部材8の移動する円軌道のガイドに支障がなければ、外周面または内周面が円である必要はない。
【0054】
リンク部材制限手段は、板状に限定されず、必要条件として、以下の(1)~(3)を全て充足すればよい。
(1)多段構造でないこと
(2)中央リンク部材を定められた軌道に沿って案内させること
(3)パラレルリンク機構からリンク部材制限手段自体が脱落しないこと
具体的には、リンク部材制限手段は、概ね回転体であればよく、例えば、球状、算盤の珠のような菱形を回転させた形状、椀状の凹凸形状等であってもよい。またリンク部材制限手段がパラレルリンク機構から脱落することを防止する脱落防止手段があれば、リンク部材制限手段は、中央リンク部材の凹部の底部8a(図8)、12a(図11)との接触は必須ではない。よってリンク部材制限手段は、外側が円形である必要もない。
【0055】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1…リンク作動装置、2…パラレルリンク機構、2a,2b…球面リンク機構、3…姿勢制御用アクチュエータ、4…先端側リンクハブ、5…基端側リンクハブ、6…リンク機構、7…基端側リンク部材、8…中央リンク部材、8a…底部、8b…第1突起部、8c…第2突起部、9…先端側リンク部材、11,11A…板状部材(リンク部材制限手段)、18…脱落防止手段、15…転動体(摺動抵抗低減手段)、F8…被案内面、F11…案内面
図1
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