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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123611
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】置換型ペロブスカイト酸化物
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20240905BHJP
   C07C 49/08 20060101ALI20240905BHJP
   C07C 49/10 20060101ALI20240905BHJP
   C07C 45/33 20060101ALI20240905BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20240905BHJP
   C07C 51/215 20060101ALI20240905BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240905BHJP
【FI】
B01J23/83 Z
C07C49/08 A
C07C49/10
C07C45/33
C07C53/08
C07C51/215
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031180
(22)【出願日】2023-03-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、「国立研究開発法人科学技術振興機構」、「研究成果展開事業」、「研究成果最適展開支援プログラム産学共同(育成型)」、「ペロブスカイト酸化物ナノ粒子の実用的合成手法の開発と触媒応用」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】原 亨和
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌尚
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA10
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC01A
4G169BC08A
4G169BC10A
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13B
4G169BC38A
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169CB07
4G169CB70
4G169CB72
4G169CB74
4G169DA05
4G169EC23
4G169FA01
4G169FB09
4G169FB30
4G169FB31
4G169FC08
4G169GA10
4H006AA02
4H006AC44
4H006AC46
4H006BA06
4H006BA08
4H006BA19
4H006BA30
4H006BA81
4H006BB21
4H006BE30
4H006BR10
4H006BS10
4H039CA62
4H039CA65
4H039CC40
4H039CC90
(57)【要約】
【課題】 温和な条件で、再利用可能な触媒を用いて、分子状酸素を酸化剤として低級アルカンを酸化する手段を提供する。
【解決手段】 一般式A1 1-xA2 xBO3(式中、A1は希土類元素を表し、A2はアルカリ土類金属元素又はアルカリ金属元素を表し、Bはdブロック元素又はマグネシウムを表し、xは0≦x≦1の数値を表す。)で表されるペロブスカイト酸化物を含むことを特徴とする触媒。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A1 1-xA2 xBO3(式中、A1は希土類元素を表し、A2はアルカリ土類金属元素又はアルカリ金属元素を表し、Bはdブロック元素又はマグネシウムを表し、xは0≦x≦1の数値を表す。)で表されるペロブスカイト酸化物を含むことを特徴とする触媒。
【請求項2】
アルカンの酸化に用いられることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
A1が、ランタンであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
A2が、ストロンチウムであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
Bが、鉄であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項6】
A1がランタンであり、A2がストロンチウムであり、Bが鉄であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
xが、0.2≦x≦0.4の数値であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
酸素及び請求項1乃至7のいずれか一項に記載の触媒の存在下、アルカンからアルカンの酸化物を得る工程を含むことを特徴とするアルカンの酸化物の製造方法。
【請求項9】
アルカンが、第3級C-H結合を含むアルカンであることを特徴とする請求項8に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【請求項10】
アルカンからアルカンの酸化物を得る工程をN-ヒドロキシフタルイミドの存在下で行うことを特徴とする請求項8に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【請求項11】
アルカンが、炭素数3~6の直鎖状アルカンであることを特徴とする請求項10に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【請求項12】
アルカンの酸化物が、アルコール、ヒドロペルオキシド、カルボニル化合物、及びカルボン酸からなる群から得らばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項8に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な触媒、及びそれを用いたアルカンの酸化物の製造方法に関する。本発明の触媒は、再利用可能な触媒であり、温和な条件で、分子状酸素のみを酸化剤として、低級アルカンを酸化することが可能である。
【背景技術】
【0002】
石油化学基礎製品、有機工業製品、高分子は、原油を精製・分離する石油製油所から供給されるナフサの水蒸気分解を利用して製造される。天然ガス等に含まれる低級アルカンを有用な酸化生成物であるアルコールやカルボニル化合物に直接酸化することができれば、石油由来のアルケンなどを出発原料とした現行プロセスとは異なる化学品合成のプロセスを提供できる。
【0003】
しかしながら、低級アルカンを酸化するのに用いる従来の触媒系では過酸化水素などの高価な酸化剤の使用が必要である。一方、分子状酸素のみを酸化剤とした系の多くは均一系触媒であるため、再利用可能な不均一系触媒の報告例はほとんどない。
【0004】
特許文献1には、イソブタンを無触媒的に酸素と反応させて、tert-ブチルアルコール(tert-BuOH)およびtert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)を含む反応混合物を製造する方法が開示されている。このように無触媒でTBHPをつくり、これを酸化剤としてtert-BuOHを得て様々な化合物に変換する方法もあるが、無触媒なので高温・高圧条件(実施例では145℃の温度および3.6MPa≒36 atm)を必要とする。
【0005】
ペロブスカイト型酸化物ABO3はその多様な構造と物理化学的性質が制御可能であるという特徴から触媒、強誘電体、圧電材料などをはじめとする幅広い分野へ応用されている。本発明者らは、独自に開発したアスパラギン酸やリンゴ酸を金属分散剤として用いたゾルゲル法によりペロブスカイト型酸化物ナノ粒子の合成法を報告している(特許第6941315号公報)。また、本発明者は、六方晶ペロブスカイトBaFeO3-δ触媒がアダマンタンなどのアルカン酸化に有効であることを報告している(非特許文献1)。六方晶ペロブスカイトBaFeO3-δ触媒も同様にイソブタンの酸化反応に高活性を示すが、この触媒を反応中に不可逆的に触媒構造が変化するため再利用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-059527号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Shibata et al., Chem. Commun., 2018, 54, 6772.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、低級アルカンをアルコール等に酸化する方法は以前から知られていたが、いずれも問題点を有していた。本発明は、このような背景の下になされたものであり、温和な条件で、再利用可能な触媒を用いて、分子状酸素を酸化剤として低級アルカンを酸化する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、低級アルカンガスであるイソブタンを分子状酸素のみを用いて酸化し、tert-ブタノールを合成する触媒として、置換型鉄ペロブスカイト触媒La1-xSrxFeO3が有効であることを見出した。La0.8Sr0.2FeO3触媒は反応後ろ過により容易に回収でき、触媒性能の低下なく再利用可能であり、また、 N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を共存させることで、n-プロパンやn-ブタンの酸化反応にも適用可能である。本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明は、以下の(1)~(12)を提供するものである。
(1)一般式A1 1-xA2 xBO3(式中、A1は希土類元素を表し、A2はアルカリ土類金属元素又はアルカリ金属元素を表し、Bはdブロック元素又はマグネシウムを表し、xは0≦x≦1の数値を表す。)で表されるペロブスカイト酸化物を含むことを特徴とする触媒。
【0011】
(2)アルカンの酸化に用いられることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0012】
(3)A1が、ランタンであることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0013】
(4)A2が、ストロンチウムであることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0014】
(5)Bが、鉄であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0015】
(6)A1がランタンであり、A2がストロンチウムであり、Bが鉄であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0016】
(7)xが、0.2≦x≦0.4の数値であることを特徴とする(1)に記載の触媒。
【0017】
(8)酸素及び(1)乃至(7)のいずれかに記載の触媒の存在下、アルカンからアルカンの酸化物を得る工程を含むことを特徴とするアルカンの酸化物の製造方法。
【0018】
(9)アルカンが、第3級C-H結合を含むアルカンであることを特徴とする(8)に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【0019】
(10)アルカンからアルカンの酸化物を得る工程をN-ヒドロキシフタルイミドの存在下で行うことを特徴とする(8)に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【0020】
(11)アルカンが、炭素数3~6の直鎖状アルカンであることを特徴とする(10)に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【0021】
(12)アルカンの酸化物が、アルコール、ヒドロペルオキシド、カルボニル化合物、及びカルボン酸からなる群から得らばれる少なくとも一種であることを特徴とする(8)に記載のアルカンの酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、新規な触媒を提供する。この触媒は、再利用可能な触媒であり、温和な条件で、分子状酸素のみを酸化剤として、低級アルカンを酸化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】La1-xSrxFeO3の構造とXRDパターンを示す図。
図2】O2を用いたイソブタンの酸化反応における触媒効果を示す図。
図3】鉄系ペロブスカイト酸化物触媒によるO2を用いたイソブタンの酸化反応の再使用実験の結果と反応後触媒のXRDパターンを示す図。
図4】NHPI存在下でのLa0.8Sr0.2FeO3触媒によるO2を用いたn-ブタンおよびn-プロパンの酸化反応を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)触媒
本発明の触媒は、一般式A1 1-xA2 xBO3で表されるペロブスカイト酸化物を含むことを特徴とするものである。
【0025】
式中、A1は希土類元素を表す。希土類元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)を挙げることができる。A1は希土類元素であれば特に限定されないが、好ましくは、ランタンである。
【0026】
式中、A2はアルカリ土類金属元素又はアルカリ金属元素を表す。アルカリ土類金属元素としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)を挙げることができ、アルカリ金属元素としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)を挙げることができる。A2はアルカリ土類金属元素又はアルカリ金属元素であれば特に限定されないが、好ましくは、ストロンチウム又はバリウムであり、より好ましくは、ストロンチウムである。
【0027】
式中、Bはdブロック元素又はマグネシウムを表す。dブロック元素としては、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム (Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)を挙げることができる。Bはdブロック元素又はマグネシウムであれば特に限定されないが、好ましくは、鉄である。
【0028】
A1、A2、及びBの好ましい組合せとしては、ランタン、ストロンチウム、及び鉄の組合せを挙げることができる。
【0029】
xは0≦x≦1の数値を表す。xは0≦x≦1の数値であれば特に限定されないが、通常、0<x<1の数値であり、好ましくは、0.1≦x≦0.9の数値であり、より好ましくは、0.2≦x≦0.8の数値であり、更に好ましくは、0.2≦x≦0.4の数値であり、特に好ましくは、0.2又は0.4である。なお、xが0である場合は、ペロブスカイト酸化物中のAサイトを構成する元素がA1だけであり、xが1である場合は、Aサイトを構成する元素がA2だけである。
【0030】
本発明の触媒は、通常、一般式A1 1-xA2 xBO3で表されるペロブスカイト酸化物をのみからなるが、他の物質を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の触媒は、後述するように、アルカンの酸化に用いられるが、それ以外の反応の触媒としても使用することもできる。
【0032】
本発明の触媒は、公知の方法、例えば、アスパラギン酸などを用いたゾルゲル法(特許第6941315号公報)により製造することができる。具体的には、(1)カルボン酸の存在下で、A1サイトを構成する元素を含む化合物、A2サイトを構成する元素を含む化合物及びBサイトを構成する元素を含む化合物を水に溶解させ、水溶液を得る工程、(2)工程(1)で得られた水溶液からペロブスカイト酸化物の前駆体を得る工程、(3)工程(2)で得られた前駆体を焼成する工程を含む方法によって製造することができる。
【0033】
A1サイトを構成する元素を含む化合物、A2サイトを構成する元素を含む化合物、及びBサイトを構成する元素を含む化合物は、水に溶解させ得るものであればどのようなものでもよく、例えば、上記元素を含む酸化物、アルコキシド、塩化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、オキシ炭酸塩、硫酸塩、オキシ硫酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩、リン酸塩、オキシリン酸塩、有機酸塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩など)、オキシ有機酸塩(例えば、オキシギ酸塩、オキシ酢酸塩、オキシシュウ酸塩など)を挙げることができる。これらの中では、上記元素を含む有機酸塩が好ましく、上各元素を含む酢酸塩がより好ましい。
【0034】
Bサイトを構成する元素を含む化合物の濃度は特に限定されないが、好ましくは、5~100mMであり、より好ましくは、10~50mMである。A1サイトを構成する元素を含む化合物の濃度も特に限定されないが、好ましくは、Bサイトを構成する元素を含む化合物のモル濃度の(1-x)倍のモル濃度である。A2サイトを構成する元素を含む化合物の濃度も特に限定されないが、好ましくは、Bサイトを構成する元素を含む化合物のモル濃度のx倍のモル濃度である。
【0035】
カルボン酸は、一つ以上のカルボキシル基を持つ化合物であればよく、カルボキシル基の他にアミノ基を有する「アミノ酸」やカルボキシル基の他にヒドロキシ基を含む「ヒドロキシ酸」であってもよい。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのモノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸などのヒドロキシ酸、アスパラギン酸などのアミノ酸などを挙げることができる。これらの中では、リンゴ酸、アスパラギン酸が好ましい。
【0036】
カルボン酸の濃度は特に限定されないが、水溶液中のA1サイトを構成する元素、A2サイトを構成する元素、及びBサイトを構成する元素の三者の合計モル濃度の0.5~3.0倍のモル濃度とすることが好ましく、1.5~2.0倍のモル濃度とすることがより好ましく、約1.5倍のモル濃度とすることが更に好ましい。
【0037】
ペロブスカイト酸化物の前駆体は、工程(1)で得られた水溶液を濃縮及び乾燥することによって得ることができる。水溶液の濃縮乾燥方法は特に限定されず、公知の方法に従って行うことができる。例えば、加熱により水を留去すればよく、その際、温度の抑制や効率化のために減圧してもよい。また、省エネルギーのために、噴霧乾燥法や薄膜乾燥法を用いてもよい。
【0038】
工程(2)で得られた前駆体の焼成における温度及び時間は特に限定されないが、焼成温度は、好ましくは、400~800℃であり、より好ましくは、550~750℃であり、焼成時間は、好ましくは、3~10時間であり、より好ましくは、4~8時間である。
【0039】
(B)アルカンの酸化物の製造方法
本発明のアルカンの酸化物の製造方法は、酸素及び本発明の触媒の存在下、アルカンからアルカンの酸化物を得る工程を含むことを特徴とするものである。
【0040】
本発明のアルカンの酸化物の製造方法では、通常、容器に本発明の触媒及び溶媒を入れ、更に、酸素及び気体状のアルカンを加圧導入した後、加熱する。
【0041】
アルカンからアルカンの酸化物を得る工程は、酸素及び本発明の触媒のほか、N-ヒドロキシフタルイミドの存在下で行うこともできる。N-ヒドロキシフタルイミドの存在下で行うことにより、直鎖状アルカンの酸化反応を促進することができる。
【0042】
使用するN-ヒドロキシフタルイミドの量は特に限定されないが、本発明の触媒1gに対して、好適には、0.5~5.0mmolであり、より好適には、1.0~3.0mmolであり、更に好適には約2.0mmolである。
【0043】
使用するアルカンは、本発明の触媒によってアルカンの酸化物が生成し得るものであれば特に限定されず、例えば、低級アルカンを使用することができる。より具体的には、炭素数3以上6以下の直鎖又は分枝鎖アルカンを使用することができる。N-ヒドロキシフタルイミドの非存在下で反応を行う場合、アルカンは分枝鎖アルカンであることが好ましく、第3級C-H結合を含むアルカンであることがより好ましい。第3級C-H結合を含むアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、イソヘキサンなどを挙げることができる。N-ヒドロキシフタルイミドの存在下で反応を行う場合、アルカンは直鎖アルカンであることが好ましい。直鎖アルカンとしては、n-プロパン、n-ブタン、n-ペンンタン、n-ヘキサンなどを挙げることができる。
【0044】
使用するアルカンの量は特に限定されないが、気体状のアルカンの場合、アルカンの分圧を0.05~0.50MPaとするのが好ましく、0.10~0.30MPaとするのがより好ましく、約0.20MPaとするのが更に好ましい。
【0045】
使用する酸素の量も特に限定されないが、酸素の分圧を0.05~0.50MPaとするのが好ましく、0.10~0.30MPaとするのがより好ましく、約0.25MPaとするのが更に好ましい。
【0046】
使用する溶媒は特に限定されず、トリフルオロトルエン、アセトニトリルなどを使用することができる。
【0047】
加熱温度は特に限定されないが、好適には、80~150℃であり、より好適には、90~120℃であり、更に好適には約110℃である。加熱時間も特に限定されないが、好適には、12~48hであり、より好適には、18~36hであり、更に好適には約24hである。
【0048】
アルカンの酸化物は特に限定されないが、好適には、アルコール、ヒドロペルオキシド、カルボニル化合物、及びカルボン酸からなる群から得らばれる少なくとも一種である。
【実施例0049】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(A)実験方法
【0050】
触媒の合成
ペロブスカイト酸化物は、アミノ酸であるアスパラギン酸を用いたゾルゲル法により合成した。以下に、La0.8Sr0.2FeO3の合成例を述べる。La(OAc)3・1.5H2O(10.4 mmol)、Sr(OAc)2 (2.6 mmol)、Fe(OAc)2(13 mmol)、L-アスパラギン酸(39 mmol、総金属量に対して1.5当量になるように調整)を純水(500 mL)に溶解させた。この溶液をエバポレーターにより蒸発乾固し、得られた粉末を回収後、200℃にて乾燥させた。この乾燥前駆体を650℃、5 h空気雰囲気下で焼成することでLa0.8Sr0.2FeO3を得た。その他のペロブスカイト酸化物も同様の手法により合成した。各種ペロブスカイト酸化物の焼成温度は、以下の通りである。La1-xSrxFeO3 (x = 0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8, 1.0):650℃、BaFeO3-δ:750℃、BaMnO3:550℃、SrMnO3:750℃、LaMnO3:750℃、LaCoO3:750℃。ペロブスカイト酸化物触媒との比較のために使用した単純酸化物であるα-Fe2O3は、Fe(OAc)2(5 mmol)、L-アスパラギン酸(7.5 mmol)を純水(150 mL)に溶解させ同様の手法で400℃で焼成したものを用いた。
【0051】
触媒反応と再使用実験
触媒反応は、テフロン内筒をもつオートクレーブ反応装置(容積 13 mL)を用いて行った。典型的な手法は以下の通りである。触媒(0.1 g)とトリフルオロトルエン(2 mL)を反応容器に加え、イソブタン(0.20 MPa)とO2(0.25 MPa)を室温で加圧し導入した。その後、反応容器を110℃で24 h加熱した。反応終了後、反応容器を室温まで冷却し回収した後に、内部標準物質(クロロベンゼン)を加えた。この溶液をガスクロマトグラフィーにて定性・定量を行い、各種生成物の分析を行った。反応後容器内のガスをガスバックにて捕集し分析したが、COやCO2の生成はほとんど確認されなかった。
【0052】
触媒の再利用実験は以下の手順に従い行った。反応終了後、反応容器を室温まで冷却した後に反応溶液を回収し、反応後触媒をろ過により回収した。この触媒をトリフルオロトルエン(20 mL×2回)とメタノール(20 mL×2回)で洗浄した後に回収し、110℃で24 h乾燥した後に再使用実験に用いた。
【0053】
n-プロパンおよびn-ブタンの酸化反応
n-プロパンとn-ブタンの酸化反応も、イソブタンと同様にテフロン内筒を含むオートクレーブ反応装置を用いて行った。触媒反応は、以下の手法で行った。触媒(0.1 g)、アセトニトリル(2 mL)、N-ヒドロキシフタルイミドNHPI(200 μmol)を反応容器に加え、n-ブタン(0.17 MPa)とO2(0.25 MPa)あるいはn-プロパン(0.3 MPa)とO2(0.4 MPa)を室温で加圧し導入した。その後、反応容器を100℃で24 h加熱した。反応終了後、反応容器を室温まで冷却し回収した後に、内部標準物質(クロロベンゼン)を加えた。この溶液をガスクロマトグラフィーにて定性・定量を行い、各種生成物の分析を行った。
【0054】
(B)実験結果
Aサイトの部分置換効果
LaFeO3におけるLaの一部を他の金属元素(Ca、Sr、Ba)に置き換えた置換型ペロブスカイト酸化物を作製し、イソブタンの酸化反応における触媒活性を調べた。結果を図2左上に示す。図に示すように、Caで置換したペロブスカイト酸化物はほとんど触媒活性を示さなかったのに対し、Sr又はBaで置換したペロブスカイト酸化物は高い触媒活性を示した。
【0055】
Sr置換量Aサイトの部分置換効果
Sr置換量の異なるペロブスカイト酸化物La1-xSrxFeO3を作製し、イソブタンの酸化反応における触媒活性を調べた。結果を図2右上に示す。図に示すように、いずれのペロブスカイト酸化物も高い触媒活性を示したが、Sr置換量(x)が0.2及び0.4であるものが特に高い触媒活性を示した。
【0056】
鉄系ペロブスカイト酸化物との比較
La0.8Sr0.2FeO3と他の鉄系ペロブスカイト酸化物のイソブタンの酸化反応における触媒活性を比較した。結果を図2左下に示す。図に示すように、La0.8Sr0.2FeO3は、六方晶ペロブスカイトBaFeO3-δ(S. Shibata et al., Chem. Commun., 2018, 54, 6772)と同等の触媒活性を示した。
【0057】
他のペロブスカイト酸化物との比較
La0.8Sr0.2FeO3と他のペロブスカイト酸化物のイソブタンの酸化反応における触媒活性を比較した。結果を図2右下に示す。図に示すように、他のペロブスカイト酸化物のほとんど触媒活性を示さなかった。
【0058】
再利用実験
La0.8Sr0.2FeO3、及び他の鉄系ペロブスカイト酸化物について、使用後の触媒活性(イソブタンの酸化反応)を調べた。結果を図3に示す。図に示すように、La0.8Sr0.2FeO3は活性が維持されていたが、SrFeO3及びBaFeO3は活性をほとんど示さなくなっており、La0.8Sr0.2FeO3だけが再利用可能であった。
【0059】
n-ブタン及びn-プロパンの酸化反応
NHPI存在下でのLa0.8Sr0.2FeO3触媒によるn-ブタン及びn-プロパンの酸化反応を調べた(図4)。図に示すように、いずれの反応においても酸化物が生成しており、La0.8Sr0.2FeO3触媒は、NHPI存在下であれば、直鎖アルカンの酸化も可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、油化学基礎製品、有機工業製品、高分子に関連する産業において利用可能である。
図1
図2
図3
図4