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特開2024-123649燃料電池システム、及びその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123649
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】燃料電池システム、及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20240905BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20240905BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20240905BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20240905BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240905BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04228
H01M8/04303
H01M8/0432
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031247
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】野田 航平
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AC06
5H127BA02
5H127BA13
5H127BA18
5H127BA34
5H127BA37
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB19
5H127BB27
5H127BB37
5H127DA11
5H127DB46
5H127DB93
5H127DC12
5H127DC22
5H127DC24
5H127EE02
5H127EE03
5H127EE29
(57)【要約】
【課題】運転停止工程において空気と燃料ガスの圧力差による必要以上の力が燃料電池セルに加えられ燃料電池セルが破損することを防止できながらも、当該燃料電池セルを効果的に冷却でき、運転停止工程の時間短縮を図る。
【解決手段】燃料極7からの燃料排ガスを通流する燃料排ガス流出路33に開度を調整可能な燃料排ガス用開度調整弁Vと、空気極8へ供給される空気の流量を調整可能な空気流量調整機構とを備え、制御装置Sは、発電を停止する発電停止工程において、燃料排ガス用開度調整弁Vの開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行した時点以降に、空気流量調整機構により空気極8へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層の一方側の面に相対して燃料ガスが供給される燃料極を設け、他方側の面に相対して空気が供給される空気極を設けて構成される燃料電池セルと、運転を制御する制御装置とを備えた燃料電池システムであって、
前記燃料極からの燃料排ガスを通流する燃料排ガス流出路に開度を調整可能な燃料排ガス用開度調整弁と、
前記空気極へ供給される空気の流量を調整可能な空気流量調整機構とを備え、
前記制御装置は、発電を停止する発電停止工程において、前記燃料排ガス用開度調整弁の開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行した時点以降に、前記空気流量調整機構により前記空気極へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料極へ供給される燃料ガスの流量を調整可能な燃料ガス流量調整機構と、
前記燃料電池セルの雰囲気温度を計測可能な温度計測部とを備え、
前記制御装置は、前記発電停止工程において、前記温度計測部にて計測される温度が予め設定される放冷温度閾値未満となった場合、前記燃料排ガス用開度調整弁の開度を前記第1開度低下制御における開度よりも閉じ側へ制御する第2開度低下制御を実行した時点以降に、前記燃料ガス流量調整機構により前記燃料極へ供給される燃料ガスの流量を現状の流量よりも低下する燃料流量低下制御を実行する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記電解質層の前記面に直交する方向視で、
前記燃料電池セルにおける空気の流れ方向での所定位置において、前記空気極の空気による空気圧と、前記燃料極の燃料ガスによる燃料ガス圧との圧力差であって、当該圧力差が最大となる前記面上の特定位置での最大圧力差を導出可能な圧力差導出機構を備え、
前記制御装置は、前記圧力差導出機構にて導出される前記最大圧力差が、予め定められた許容最大圧力差以下となるように、前記空気流量増加制御を実行する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記電解質層の前記面に直交する方向視で、
前記燃料電池セルにおける空気の流れ方向での所定位置において、前記空気極の空気による空気圧と、前記燃料極の燃料ガスによる燃料ガス圧との圧力差であって、当該圧力差が最大となる前記面上の特定位置での最大圧力差を導出可能な圧力差導出機構を備え、
前記制御装置は、前記圧力差導出機構にて導出される前記最大圧力差が、予め定められた許容最大圧力差以下となるように、前記空気流量増加制御及び前記燃料流量低下制御を実行する請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
電解質層の一方側の面に相対して燃料ガスが供給される燃料極を設け、他方側の面に相対して空気が供給される空気極を設けて構成される燃料電池セルと、運転を制御する制御装置とを備えた燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池システムが、前記燃料極からの燃料排ガスを通流する燃料排ガス流出路に開度を調整可能な燃料排ガス用開度調整弁と、前記空気極へ供給される空気の流量を調整可能な空気流量調整機構とを備えた構成で、
発電を停止する発電停止工程において、前記燃料排ガス用開度調整弁の開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行すると共に、前記空気流量調整機構により前記空気極へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する、燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の一方側の面に相対して燃料ガスが供給される燃料極を設け、他方側の面に相対して空気が供給される空気極を設けて構成される燃料電池セルと、運転を制御する制御装置とを備えた燃料電池システム、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1、2に示されているように、固体酸化物形燃料電池等の高温作動型の燃料電池システムは、運転停止工程の降温過程に時間がかかるという課題がある。
ただし、運転停止工程の降温過程では、例えば、特許文献1に示されるように、燃料電池セルの燃料極が酸化しないように、最低限の燃料(あるいはパージガス)を供給し続ける必要があるため、経済的な観点からできるだけ停止時間を短くできることが望ましい。
【0003】
そこで、例えば、特許文献2に開示の技術では、運転停止工程を短縮する方法として、運転停止工程中に、燃料を間欠的に供給する制御が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-294508号公報
【特許文献2】特開2013-186945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように燃料を間欠的に供給する制御では、スタック周囲の温度を早期に下げることができるが、セルスタックの内部まで冷却するには時間がかかるという問題がある。また、セルスタック内外の温度差がつきやすくなることで、セルスタックに熱応力が生じる懸念もある。さらに、燃料を供給しない時間帯が存在することで、燃料電池セルが酸化するリスクも上がる。
一方、セルスタックの内部を効果的に冷却する方法としては、燃料電池に供給する空気量を増やすことが考えられる。
しかし、平板型の燃料電池のように、空気が導かれる空気室(及び燃料ガスが導かれる燃料室)が閉じられている構成においては、空気量を増やすことで空気室の圧力が上昇する。それにより、空気室と燃料室で圧力差が生じ、その間にある燃料電池セルに圧力差に起因する力がかかる。当該圧力差に起因する力が大きくなり過ぎると、燃料電池セルが破損する虞があるため、空気室(空気極)に供給可能な空気量は一定未満に制限されるため、十分な冷却効果が得られない場合があり、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、運転停止工程において空気と燃料ガスの圧力差による必要以上の力が燃料電池セルに加えられ燃料電池セルが破損することを防止できながらも、当該燃料電池セルを効果的に冷却でき、運転停止工程の時間短縮を図ることができる燃料電池システム、及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための燃料電池システムは、
電解質層の一方側の面に相対して燃料ガスが供給される燃料極を設け、他方側の面に相対して空気が供給される空気極を設けて構成される燃料電池セルと、運転を制御する制御装置とを備えた燃料電池システムであって、その特徴構成は、
前記燃料極からの燃料排ガスを通流する燃料排ガス流出路に開度を調整可能な燃料排ガス用開度調整弁と、
前記空気極へ供給される空気の流量を調整可能な空気流量調整機構とを備え、
前記制御装置は、発電を停止する発電停止工程において、前記燃料排ガス用開度調整弁の開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行した時点以降に、前記空気流量調整機構により前記空気極へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する点にある。
【0008】
上記目的を達成するための燃料電池システムの制御方法は、
電解質層の一方側の面に相対して燃料ガスが供給される燃料極を設け、他方側の面に相対して空気が供給される空気極を設けて構成される燃料電池セルと、運転を制御する制御装置とを備えた燃料電池システムの制御方法であって、その特徴構成は、
前記燃料電池システムが、前記燃料極からの燃料排ガスを通流する燃料排ガス流出路に開度を調整可能な燃料排ガス用開度調整弁と、前記空気極へ供給される空気の流量を調整可能な空気流量調整機構とを備えた構成で、
前記制御装置が、発電を停止する発電停止工程において、前記燃料排ガス用開度調整弁の開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行すると共に、前記空気流量調整機構により前記空気極へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、発電停止工程において、空気流量調整機構により空気極へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する以前に、燃料排ガス用開度調整弁の開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行するから、空気流量増加制御のみを実行する場合に比べて、燃料ガスによる圧力と空気による圧力との圧力差により燃料電池セルに対して係る力を低減できる。
これにより、空気流量増加制御により従来よりも多くの空気を燃料電池セルに導いて燃料電池セルを効果的に冷却して、運転停止工程の時間短縮を図ることができる燃料電池システム、及びその制御方法を実行できる。
尚、空気流量の上限値は、セルスタックが熱応力により損傷しない冷却速度である冷却許容速度、且つ空気流量調整機構としてのブロアのブロア能力等により決定されるものである。
また、燃料排ガス用開度調整弁の開度は、燃料電池セルでの酸化が生じない程度の開度に適宜調整される。
【0010】
燃料電池システムの更なる特徴構成は、
前記燃料極へ供給される燃料ガスの流量を調整可能な燃料ガス流量調整機構と、
前記燃料電池セルの雰囲気温度を計測可能な温度計測部とを備え、
前記制御装置は、前記発電停止工程において、前記温度計測部にて計測される温度が予め設定される放冷温度閾値未満となった場合、前記燃料排ガス用開度調整弁の開度を前記第1開度低下制御における開度よりも閉じ側へ制御する第2開度低下制御を実行した時点以降に、前記燃料ガス流量調整機構により前記燃料極へ供給される燃料ガスの流量を現状の流量よりも低下する燃料流量低下制御を実行する点にある。
【0011】
さて、燃料電池システムでは、発電停止工程において、セルスタックの温度が低下してくると、セルの酸化速度も低下してくるため、燃焼する余剰燃料を減らすことで冷却速度を向上すると共に経済性を向上する目的で、燃料ガスの流量を低減する制御を実行する。
しかしながら、燃料ガスの流量の低下に伴って、燃料電池セルにおいて燃料ガスによる圧力が低下して、燃料ガスによる圧力と空気による圧力との圧力差が増加し、当該圧力差により燃料電池セルにかかる力が大きくなる。
そこで、上記特徴構成によれば、発電停止工程において、温度計測部にて計測される温度が予め設定される放冷温度閾値未満となった場合、燃料ガス流量調整機構により燃料極へ供給される燃料ガスの流量を現状の流量よりも低下する燃料流量低下制御を実行する以前に、燃料排ガス用開度調整弁の開度を第1開度低下制御における開度よりも閉じ側へ制御する第2開度低下制御を実行するので、セルスタックの温度が低下してきて燃料ガスの流量を低下する場合にも、燃料ガスによる圧力と空気による圧力との圧力差により燃料電池セルにかかる力が増加することを抑制でき、燃料電池セルが破損等することを効果的に防止できる。
【0012】
燃料電池システムの更なる特徴構成は、
前記電解質層の前記面に直交する方向視で、
前記燃料電池セルにおける空気の流れ方向での所定位置において、前記空気極の空気による空気圧と、前記燃料極の燃料ガスによる燃料ガス圧との圧力差であって、当該圧力差が最大となる前記面上の特定位置での最大圧力差を導出可能な圧力差導出機構を備え、
前記制御装置は、前記圧力差導出機構にて導出される前記最大圧力差が、予め定められた許容最大圧力差以下となるように、前記空気流量増加制御を実行する点にある。
更に、燃料電池システムの更なる特徴構成は、
前記電解質層の前記面に直交する方向視で、
前記燃料電池セルにおける空気の流れ方向での所定位置において、前記空気極の空気による空気圧と、前記燃料極の燃料ガスによる燃料ガス圧との圧力差であって、当該圧力差が最大となる前記面上の特定位置での最大圧力差を導出可能な圧力差導出機構を備え、
前記制御装置は、前記圧力差導出機構にて導出される前記最大圧力差が、予め定められた許容最大圧力差以下となるように、前記空気流量増加制御及び前記燃料流量低下制御を実行する点にある。
【0013】
上記特徴構成の如く、燃料ガスによる圧力と空気による圧力との圧力差を予め定められた許容最大圧力差以下となるように、空気流量増加制御、又は空気流量増加制御及び燃料流量低下制御の双方を実行することで、燃料電池セルに付与される圧力差である燃料ガスによる圧力と空気による圧力との圧力差を、常に許容最大圧力差以下とできるから、当該許容最大圧力差を適切に設定することで、圧力差により燃料電池セルが損傷することを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る固体酸化物形燃料電池システムの概略構成図である。
図2】セルスタックの一部断面図である。
図3】実施形態に係る各種制御を実行した場合の空気極での空気の圧力と燃料極での燃料ガスの圧力との経時変化を示すグラフ図である。
図4】空気極での空気の流れと燃料極での燃料ガスの流れとが並行流である場合、燃料電池セルでの位置毎における、空気極での空気の圧力と燃料極での燃料ガスの圧力とを示すグラフ図である。
図5】空気極での空気の流れと燃料極での燃料ガスの流れとが対向流である場合、燃料電池セルでの位置毎における、空気極での空気の圧力と燃料極での燃料ガスの圧力とを示すグラフ図である。
図6】実施形態に係る制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る燃料電池システム、及びその制御方法は、運転停止工程において空気と燃料ガスの圧力差による必要以上の力が燃料電池セルに加えられ燃料電池セルが破損することを防止できながらも、当該燃料電池セルを効果的に冷却でき、運転停止工程の時間短縮を図ることができるものに関する。
【0016】
以下、図1~6に基づいて、実施形態に係る燃料電池システム100及びその制御方法について説明する。
図1、2に示すように、燃料電池システム100は、高温作動の固体酸化物形として構成され、平板状の固体電解質層9の一方の平面に相対して燃料極7を設け、他方の平面に相対して空気極8を設けて構成される平板型の固体酸化物形の燃料電池セルCを、燃料電池セルC同士の間にインターコネクタ12を介在させた状態で複数積層して形成されるセルスタック6を備える。加えて、本実施形態の燃料電池システム100は、脱硫部1と、気化部3と、改質部4と、燃焼部5と、熱交換部10とを備える。このうち、容器2の内部に、気化部3と、改質部4と、燃焼部5と、熱交換部10と、セルスタック6とが収容され、容器2の内部が高温に保たれている。
【0017】
各燃料電池セルCの燃料極7には改質部4で生成された水素を主成分とする燃料ガスが供給され、空気極8には空気(酸素)が供給される。そして、燃料電池セルCからは、発電反応に用いられなかった水素を含むガス(燃料極排ガス)が排出され、発電反応に用いられなかった空気(空気極排ガス)が排出される。
【0018】
燃料極排ガス及び空気極排ガスは、燃焼部5に供給されて燃焼される。そして、燃焼部5から排出される燃焼排ガスは熱交換部10に供給され、容器2の内部に導入された空気と熱交換した後(即ち、空気極8に供給される空気を加熱した後)で容器2の外部に排気される。
【0019】
脱硫部1では、炭化水素ガスを含む原燃料ガス(例えば、都市ガス等)に含まれる硫黄化合物が取り除かれる。気化部3には、改質用水と脱硫部1を通過した後の原燃料ガスとが供給される。気化部3は、供給される改質用水を、燃焼部5から伝達される燃焼熱を用いて加熱して蒸発させる。気化部3で生成された原燃料ガスと水蒸気との混合ガスは、改質部4に供給される。改質部4にも、燃焼部5で発生した燃焼熱が伝達される。そして、改質部4は、気化部3から供給される混合ガスに含まれる原燃料ガスの改質処理を行うことで、水素を主成分とする燃料ガスを生成する。
【0020】
セルスタック6に供給される燃料ガスは、燃料ガス通流路30から、燃料ガス通流支管31を介して、燃料極7の表面とインターコネクタ12の燃料極7側の表面との間に形成される燃料極側空間32へ流入し、燃料極側空間32を流れている間に燃料極7に供給され、燃料極側空間32を流れた燃料ガスの残部及び反応生成ガス(水蒸気、炭酸ガス)を含む燃料極排ガスは、燃料排ガス流出路33を介して、燃料極側空間32の外部へ流出するように構成されている。尚、燃料極側空間32は、インターコネクタ12の表面に溝が形成される形態で設けられている。
【0021】
セルスタック6に供給される空気は、空気通流路20から、空気通流支管21を介して、空気極8の表面とインターコネクタ12の空気極8側の表面との間に形成される空気極側空間22に流入し、空気は空気極側空間22を流れている間に空気極8に供給され、空気極側空間22を流れた空気の残部が、空気流出路23を介して、空気極側空間22の外部に流出するように構成されている。尚、空気極側空間22は、インターコネクタ12の表面に溝が形成される形態で設けられている。
ちなみに、空気は、ブロア等により流量が調整される形態で供給される。
【0022】
本実施形態では、燃料極側空間32を燃料ガスが通流する方向と、空気極側空間22を空気が通流する方向とが同じである。つまり、燃料電池セルCにおいて燃料ガスと空気とは並行して流れる。
【0023】
制御装置Sは、固体酸化物形燃料電池の動作を制御する。例えば、制御装置Sは、脱硫部1に供給される単位時間当たりの原燃料ガスの流量、気化部3に供給される単位時間当たりの改質用水の量、セルスタック6から出力される電流などを調節することで、改質部4の温度、セルスタック6での発電反応、燃焼部5の温度などを制御している。図示は省略するが、気化部3の温度、改質部4の温度、燃焼部5の温度などの情報が制御装置Sに伝達され、固体酸化物形燃料電池の動作制御に利用される。このような制御装置Sは、公知のソフトウェアとハードウェアとの協働により実現される。
【0024】
さて、ここで、セルスタック6の内部を効果的に冷却する方法としては、燃料電池セルCに供給する空気の流量を増やすことが考えられる。
しかし、当該実施形態の平板型の燃料電池セルCの如く、空気が導かれる空気極側空間22が閉じられている構成においては、空気の流量を増やすことで空気極側空間22の圧力が上昇する。それにより、空気極側空間22と燃料極側空間32とで圧力差が生じ、その間にある燃料電池セルCに圧力差に起因する力がかかる。当該圧力差に起因する力が大きくなり過ぎると、燃料電池セルCが破損する虞があるため、空気極側空間22に供給可能な空気の流量は一定未満に制限する必要があり、十分な冷却効果が得られないという問題が生じる。
【0025】
そこで、当該実施形態に係る燃料電池システム100にあっては、燃料極7からの燃料排ガスを通流する燃料排ガス流出路33に開度を調整可能な燃料排ガス用開度調整弁Vと、空気極8へ供給される空気の流量を調整可能な空気流量調整機構としてブロア(図示せず)と、燃料極7へ供給される燃料ガスの流量を調整するべく脱硫部1へ導かれる原燃料ガスの流量を調整する燃料ガス流量調整機構として流量調整弁(図示せず)と、燃料電池セルCの雰囲気温度(燃料電池セルC自体の温度を含む)を計測する温度センサT(温度計測部の一例)とが備えられる。
【0026】
更に、固体電解質層9の面に直交する方向視で、燃料電池セルCにおける空気の流れ方向での所定位置において、空気極8側の空気による空気圧と、燃料極7側の燃料ガスによる燃料ガス圧との圧力差であって、当該圧力差が最大となる面上の特定位置での最大圧力差を導出可能な圧力差導出機構が備えられている。
当該圧力差導出機構は、空気極8を通流する空気と燃料極7を通流する燃料ガスとが並行流である場合、空気極8の入口の空気圧と燃料極7の入口の燃料ガス圧との圧力差が最大圧力差となるため、空気通流路20での空気圧(例えば、ゲージ圧)を測定する第1圧力計PAと、燃料ガス通流路30での燃料ガス圧(例えば、ゲージ圧)を測定する第2圧力計PFと、第1圧力計PAにて測定される空気圧と第2圧力計PFにて測定される燃料ガス圧との差圧を導出する制御装置Sとから構成される。
【0027】
そして、制御装置Sは、少なくとも、発電を停止する発電停止工程において、圧力差導出機構にて導出される最大圧力差が予め定められた許容最大圧力差(例えば、数kPa以上10kPa以下の値)以下となるように、燃料排ガス用開度調整弁Vの開度を現時点の直前の開度よりも閉じ側へ制御する第1開度低下制御を実行した時点以降に、空気流量調整機構により空気極8へ導かれる空気流量を増加する空気流量増加制御を実行するよう構成される。
【0028】
図4に基づいて、圧力差に関し説明を加えると、発電停止行程の開始時点(図4(a))においては、燃料極7の入口の燃料ガス圧と、空気極8の入口の空気圧力との差圧が、最大圧力差となり、当該最大圧力差が許容最大圧力差ΔPmax以下となるよう、空気流量及び燃料ガス流量が制御されている。尚、燃料ガス流量については、セルが酸化しない、かつ雰囲気温度(セルスタック温度)が急激に下がり過ぎない最小限の流量に制御される。
次に、更なる空気流量の増加を図るために、燃料極7の燃料ガス圧を昇圧するべく、第1開度低下制御を実行した時点(図4(b))においては、燃料極7の入口から出口にかけて、燃料ガス圧が、ΔPk1だけ昇圧され、燃料極7の入口の燃料ガス圧と、空気極8の入口の空気圧力との差圧が、許容最大圧力差ΔPmaxよりΔPk1だけ小さいΔP1となる。
更に、空気流量増加制御が実行された時点(図4(c))においては、空気流量が、燃料極7の入口の燃料ガス圧と、空気極8の入口の空気圧力との差圧である最大圧力差が許容最大圧力差ΔPmax以下となるよう、空気流量が増加される。
これらの制御により、燃料電池セルCにおいて、空気圧と燃料ガス圧との最大の差圧が、常に許容最大圧力差ΔPmax以下となるよう制御しつつも、空気流量の増加を図っている。ここで、増加できる空気流量は、セルスタック6の冷却許容速度やブロアの能力により決定される。
【0029】
さて、これまで説明してきた燃料電池システム100を用いた、より詳細な発電停止工程に関し、図3のグラフ図及び図6の制御フローに基づいて説明する。
因みに、燃料電池システム100は、定格運転工程(例えば、出力1kW、セルスタック温度750℃)から発電を停止する場合、例えば、4時間程度で出力を1kWから0kWまで低下させると共に、数時間程度でセルスタック6の温度を750℃から200℃以下まで低下させる。
【0030】
図3、6に示すように、制御装置Sは、運転停止工程が開始されると、圧力差導出機構により、空気極側空間22の入口圧力(第1圧力計PAにて測定される圧力)と燃料極側空間32の入口圧力(第2圧力計PFにて測定される圧力)との圧力差の監視を開始する(#01)。
制御装置Sは、発電停止工程開始時点において、燃料電池セルC(セルスタック6)を降温させるべく、圧力差導出機構により導出される圧力差が許容最大圧力差ΔPmax以下(実質的には許容最大圧力差)となるように、燃料ガス流量を低下すると共に、空気流量を増加する(#02)。
【0031】
さて、ステップ#02の後、燃料電池セルCを降温させる観点からは、空気流量を更に増加させることが好ましいが、単に空気流量を増加させると、圧力導出機構により導出される圧力差が許容最大圧力差ΔPmaxを超えてしまう。
そこで、制御装置Sは、第1開度低下制御を実行して、燃料排ガス用開度調整弁Vを現時点の開度よりも閉じ側へ制御し、燃料極側空間32の圧力を昇圧させる(#03)。
【0032】
制御装置Sは、ステップ#03により圧力差が許容最大圧力差ΔPmaxよりも十分に小さくなった後、更に、空気極側空間22への空気流量を増加する空気流量増加制御を実行する(#04)。尚、制御装置Sは、当該ステップ#04でも、圧力差導出機構にて導出される圧力差が許容最大圧力差ΔPmaxとなるように、増加する空気流量を監視している。
【0033】
ステップ#04の後、燃料電池セルCが降温してくると、当該燃料電池セルCの酸化速度も低下するため、燃料ガス流量を徐々に低下することができる。ただし、当該状態では圧力差が許容最大圧力差ΔPmaxとなっているため、燃料ガス流量を低下すると、燃料極側空間32の圧力が低下し、圧力差が許容最大圧力差ΔPmaxを超えてしまう。
【0034】
そこで、制御装置Sは、燃料電池セルC(セルスタック6)の温度Tkが予め定められた放冷閾値温度Th(例えば、400℃)以下となった場合(#05でYes)、第2開度低下制御を実行して、燃料排ガス用開度調整弁Vを現時点の開度よりも閉じ側へ制御し、燃料極側空間32の圧力を昇圧させ(#06)、ステップ#06により圧力差が許容最大圧力差ΔPmaxよりも十分に小さくなった後、更に、燃料極側空間32への燃料ガス流量を低下する燃料ガス流量低下制御を実行する(#07)。一方、制御装置Sは、燃料電池セルC(セルスタック6)の温度Tkが予め定められた放冷閾値温度Thを超えている場合(#05でNo)、燃料電池セルC(セルスタック6)の温度Tkが予め定められた放冷閾値温度Th以下となるまで、ステップ#05の判定を繰り返し実行する。
【0035】
制御装置Sは、燃料電池セルC(セルスタック6)の温度Tkが予め定められた判定閾値温度Ts(例えば、200℃)を超えている場合(#08でNo)、判定閾値温度Ts以下に温度低下するまで待機し、燃料電池セルC(セルスタック6)の温度Tkが予め定められた判定閾値温度Ts以下となった場合(#08でYes)、運転停止工程を終了する。
【0036】
尚、図3において、発停停止工程開始時点から第1開度低下制御開始時点までの時間Δt1、第1開度低下制御開始時点から空気流量増加制御開始時点までの時間Δt2、第2開度低下制御開始時点から燃料流量低下制御開始時点Δt3は、運転停止工程の時間を低下する観点からは、なるべく短いことが好ましく、例えば、ほぼ零程度の時間に設定される。
【0037】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、セルスタック6は、平板状の固体電解質層9の一方の平面に相対して燃料極7を設け、他方の平面に相対して空気極8を設けて構成される平板型の固体酸化物形の燃料電池セルCを、燃料電池セルC同士の間にインターコネクタ12を挟んだ状態で複数積層して形成されるものを例示したが、円筒形状の構成を採用しても構わない。
【0038】
(2)燃料極側空間32を燃料ガスFが通流する方向と、空気極側空間22を空気A1が通流する方向は、上記実施形態の如く、並行流であっても構わないし、対向流や直交流であっても構わない。
【0039】
(3)上記実施形態では、炭化水素ガスを含む原燃料ガスを、脱硫・改質して水素を主成分とする燃料ガスを生成し、燃料電池セルCへ供給する構成を示した。
これに替えて、水素を主成分とする燃料ガスを直接燃料電池セルCへ供給する構成を採用しても構わない。この場合、燃料電池システム100は、脱硫部1、気化部3、及び改質部4を備えない構成のものが好適に採用される。
【0040】
(4)上記実施形態において、燃料極7のインターコネクタ12側の表面と、インターコネクタ12の燃料極7側の表面とは直接接触せず、その間に集電体(図示せず)を設ける構成を採用しても構わない。
また、空気極8のインターコネクタ12側の表面と、インターコネクタ12の空気極8側の表面とが直接接触せず、その間に集電体(図示せず)を設ける構成を採用しても構わない。
当該集電体としては、ニッケルメッシュや白金メッシュが好適に用いられる。
【0041】
(5)上記実施形態では、空気流量調整機構として、ブロアを例示したが、空気通流路20の開度を調整する形態で空気流量を調整する流量調整弁等により空気流量調整機構を構成しても構わない。
【0042】
(6)上記実施形態においては、空気極8を通流する空気と燃料極7を通流する燃料ガスとが並行流である場合、空気極8の入口の空気圧と燃料極7の入口の燃料ガス圧との圧力差が最大圧力差となるため、第1圧力計PAを空気通流路20に設けると共に、第2圧力計PFを燃料ガス通流路30に設ける構成を示した。
例えば、空気極8を通流する空気と燃料極7を通流する燃料ガスとが対向流である場合、図5に示すように(a)発電停止工程開始時点及び(b)空気流量増加制御時点の双方において、空気極8の入口の空気圧と燃料極7の燃料ガスの出口の燃料ガス圧との圧力差が最大圧力差となるため、第1圧力計PAを空気流出路23に設けると共に、第2圧力計PFを燃料ガス通流路30に設ける構成とすることができる。
【0043】
(7)上記実施形態では、圧力差導出機構は、第1圧力計PAにて直接計測した空気圧と、第2圧力計PFにて直接計測した燃料ガス圧との差圧を圧力差として導出した。
当該圧力差導出機構は、例えば、空気極側空間22を通流する空気の流量から所定の換算式にて算出される圧力と、燃料極側空間32を通流する燃料ガスの流量から所定の換算式にて算出される圧力との差圧を圧力差として導出しても構わない。
【0044】
(8)上記実施形態において、ステップ#05及びステップ#06は、放冷温度閾値を段階的に設定し、段階的に設定された放冷温度閾値をセルスタックの温度が下回るた毎に、第2開度低下制御を実行する制御としても構わない。
【0045】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の燃料電池システム、及びその制御方法は、運転停止工程において空気と燃料ガスの圧力差による必要以上の力が燃料電池セルに加えられ燃料電池セルが破損することを防止できながらも、当該燃料電池セルを効果的に冷却でき、運転停止工程の時間短縮を図ることができる燃料電池システム、及びその制御方法として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
6 :セルスタック
7 :燃料極
8 :空気極
9 :固体電解質層
12 :インターコネクタ
33 :燃料排ガス流出路
100 :燃料電池システム
C :燃料電池セル
PA :第1圧力計
PF :第2圧力計
S :制御装置
T :温度センサ
V :燃料排ガス用開度調整弁
ΔPmax :許容最大圧力差
図1
図2
図3
図4
図5
図6