(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123652
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20240905BHJP
F02D 17/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02D17/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031255
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】江波 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】藤本 精一
(72)【発明者】
【氏名】金子 雅昭
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA11
3G092AB02
3G092CA01
3G092DA01
3G092DA02
3G092DA03
3G092DG08
3G092EA03
3G092EA04
3G092FA07
3G092FA24
3G092FA30
3G092GA01
3G092GA10
3G092HA12Z
3G092HE03Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関の始動時における燃料の過剰な供給の抑制と、ドライバビリティの悪化の抑制とを両立することが可能な弁開閉時期制御装置を提供する。
【解決手段】弁開閉時期制御装置100は、回転軸芯Xを中心に内燃機関Eのクランクシャフト1と同期回転する駆動側回転体と、回転軸芯Xと同軸芯、かつ、駆動側回転体の内側に配置され、内燃機関Eの吸気弁Vaを開閉するためのカムシャフト2と一体回転する従動側回転体と、電動モータMの駆動力により、駆動側回転体及び従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構と、内燃機関Eの停止指令があった場合に、相対回転位相を最遅角位相にする遅角作動制御を行い、内燃機関Eの停止過程において内燃機関Eの回転数が予め設定された下限回転数に達したとき、最遅角位相にある相対回転位相を進角位相にする進角作動制御を行うことが可能な位相制御部9と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯と同軸芯、かつ、前記駆動側回転体の内側に配置され、前記内燃機関の吸気弁を開閉するためのカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
電動モータの駆動力により、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構と、
前記内燃機関の停止指令があった場合に、前記従動側回転体を前記駆動側回転体の回転方向と逆方向に変位させて前記相対回転位相を最遅角位相にする遅角作動制御を行い、前記内燃機関の停止過程において前記内燃機関の回転数が予め設定された下限回転数に達したとき、前記従動側回転体を前記駆動側回転体の回転方向と同方向に変位させて前記最遅角位相にある前記相対回転位相を進角位相にする進角作動制御を行うことが可能な位相制御部と、
を備える弁開閉時期制御装置。
【請求項2】
前記最遅角位相は、前記吸気弁の吸気閉タイミングを、前記内燃機関のピストンの上死点を基準として、進角側に所定の第1クランク角だけずれた第1タイミングと遅角側に所定の第2クランク角だけ変位した第2タイミングとで規定された範囲内に設定した超遅閉タイミングである請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の停止指令は、車両の走行中に前記内燃機関の運転を一時停止する間欠停止指令である請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項4】
前記位相制御部は、前記停止過程において前記進角作動制御を行わないエコモードと、前記停止過程において前記進角作動制御を行うトルクモードとに切り替え可能である請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【請求項5】
前記位相制御部は、スロットルを開く開要求があり、且つ、前記内燃機関の回転数が前記下限回転数以下である場合に前記進角作動制御を行う請求項1又は2に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開閉域制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関においてクランクシャフトからのトルク伝達によりカムシャフトのカム部によるバルブの開閉時期を制御する弁開閉時期制御装置が利用されている。このような弁開閉時期制御装置を備えた車両として、例えば下記に出典を示す特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、ハイブリッド車両が記載されている。このハイブリッド車両は、エンジンを停止させるエンジン停止中に、制御装置が吸気バルブの開弁タイミングを遅角側に変化させるように制御する。制御装置は、吸気バルブの開弁タイミングを遅角側に変化させるように制御している際であって、且つ、エンジンが停止する前に、エンジンの再始動要求があると、吸気バルブの開弁タイミングを進角側に変化させるように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のハイブリッド車両は、エンジンに対して燃料の供給が停止された場合に、吸気バルブの開弁タイミングを遅角側に変化させることで、排気流路に設けられた触媒(排ガスを浄化する触媒)が劣化する原因となる新気の供給を抑制している。また、エンジン停止中に、触媒をリーン状態(酸素リッチの状態)にしないようにして、次のエンジンの始動時に燃料の過剰な供給を抑制している。しかしながら、吸気バルブの開弁タイミングが遅角位相にある状態において、エンジンの再始動要求があると、エンジンを点火することが可能な位相まで進角させる必要がある。このため、特許文献1に記載の構成では、エンジンの再始動要求に対して遅れ(応答遅れ)が生じ、ドライバビリティが悪化する可能性がある。
【0006】
そこで、内燃機関の始動時における燃料の過剰な供給の抑制と、ドライバビリティの悪化の抑制とを両立することが可能な弁開閉時期制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記回転軸芯と同軸芯、かつ、前記駆動側回転体の内側に配置され、前記内燃機関の吸気弁を開閉するためのカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、電動モータの駆動力により、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構と、前記内燃機関の停止指令があった場合に、前記従動側回転体を前記駆動側回転体の回転方向と逆方向に変位させて前記相対回転位相を最遅角位相にする遅角作動制御を行い、前記内燃機関の停止過程において前記内燃機関の回転数が予め設定された下限回転数に達したとき、前記従動側回転体を前記駆動側回転体の回転方向と同方向に変位させて前記最遅角位相にある前記相対回転位相を進角位相にする進角作動制御を行うことが可能な位相制御部と、を備えている点にある。
【0008】
例えば、内燃機関の停止指令に基づいて遅角作動制御が行われている場合において、ユーザのチェンジ・オブ・マインド(ユーザの心変わり)があると、内燃機関を再始動する必要がある。このチェンジ・オブ・マインドは、アクセルから足が離れた状態で先行車両を追い越したいと心変わりした場合が挙げられる。そこで、上述した特徴構成によれば、内燃機関の停止過程において内燃機関の回転数が予め設定された下限回転数に達したときに、内燃機関の再始動に備えて、駆動側回転体及び従動側回転体の相対回転位相を進角位相にする進角作動制御を行うことにより内燃機関の再始動指令に対する応答遅れ(再始動要求に対するレスポンスの遅れ)を抑制することが可能となる。
【0009】
また、前記最遅角位相は、前記吸気弁の吸気閉タイミングを、前記内燃機関のピストンの上死点を基準として、進角側に所定の第1クランク角だけずれた第1タイミングと遅角側に所定の第2クランク角だけ変位した第2タイミングとで規定された範囲内に設定した超遅閉タイミングであると好適である。
【0010】
このような構成とすれば、内燃機関の停止指令に応じて燃料の供給が停止された際における遅角作動制御により、駆動側回転体及び従動側回転体の相対回転位相として、吸気弁の吸気閉タイミングを超遅閉タイミングにする位相にすることで、内燃機関の排気流路に設けられる触媒に対して新気の供給を断つことができる。したがって、触媒の劣化を抑制することが可能となる。
【0011】
また、前記内燃機関の停止指令は、車両の走行中に前記内燃機関の運転を一時停止する間欠停止指令であると好適である。
【0012】
このような構成とすれば、例えば車両の速度や、内燃機関に要求される出力トルクに応じて、走行中に内燃機関の運転と停止とを繰り返すような、所謂間欠的なアイドリングストップ機能を備えたハイブリッド車両に適用することで、上述した内燃機関の再始動指令に対する応答遅れを抑制することが可能となる。
【0013】
また、前記位相制御部は、前記停止過程において前記進角作動制御を行わないエコモードと、前記停止過程において前記進角作動制御を行うトルクモードとに切り替え可能であると好適である。
【0014】
このような構成とすれば、エコモードでは、内燃機関の再始動指令に対する応答遅れよりも燃料消費の抑制を優先し、トルクモードでは、燃料消費の抑制よりも内燃機関の再始動指令に対する応答遅れの低減を優先することができる。したがって、ユーザの要望に応じた運転状況を提供することが可能となる。
【0015】
また、前記位相制御部は、スロットルを開く開要求があり、且つ、前記内燃機関の回転数が前記下限回転数以下である場合に前記進角作動制御を行うと好適である。
【0016】
内燃機関の停止指令があった場合において、スロットルを開く開要求があるときには、内燃機関を再始動させる状況にある確率が高い。そこで、上述した構成とすれば、内燃機関の再始動を行い易い状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】弁開閉時期制御装置を備えた内燃機関の断面図である。
【
図4】吸気バルブが遅角吸気タイミングに設定された状態の開閉タイミングを示す図である。
【
図5】吸気バルブが進角吸気タイミングに設定された状態の開閉タイミングを示す図である。
【
図6】吸気バルブが超遅閉吸気タイミングに設定された状態の開閉タイミングを示す図である。
【
図7】位相制御部により制御される相対回転位相を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
〔基本構成〕
以下、本実施形態の弁開閉時期制御装置100について説明する。
図1は、弁開閉時期制御装置100を備えた内燃機関(以下、「エンジンE」とする)の断面図である。
図2は、弁開閉時期制御装置100の断面図である。
図3は、
図2のIII-III線の断面図である。
【0020】
図1に示されるように、エンジンEは吸気バルブVaと排気バルブVbとを備えている。弁開閉時期制御装置100は、吸気バルブ(吸気弁)Vaのバルブタイミング(開閉時期)を設定する。本実施形態では、排気バルブ(排気弁)Vbのバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置101も備えられている。エンジンEの駆動制御と、弁開閉時期制御装置100及び弁開閉時期制御装置101の制御は、位相制御部9により行われる。なお、排気バルブ(排気弁)Vbのバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置101を省略してもよい。
【0021】
エンジンEは、車両に設けられ、当該車両の走行駆動力を出力する。位相制御部9は、車両の走行中にエンジンEの運転が一時停止された場合に、燃費悪化の抑制とエンジンEの再始動時におけるドライバビリティの改善との両立を実現するように構成されている(詳細は後述する)。
【0022】
〔エンジン〕
図1-
図2に示されるように、エンジンEは、クランクシャフト1を回転自在に支持するシリンダブロック102の上部にシリンダヘッド103が連結されており、シリンダブロック102に形成された複数のシリンダボアにピストン4が往復作動自在に収容されている。本実施形態では、ピストン4は、コネクティングロッド5を介してクランクシャフト1に連結されており、4サイクル型に構成されている。
【0023】
上述したように吸気バルブVa及び排気バルブVbは、シリンダヘッド103に設けられている。シリンダヘッド103の上部には吸気バルブVaを開閉するための吸気カムシャフト2と、排気バルブVbを開閉するための排気カムシャフト3とが備えられている。
【0024】
シリンダヘッド103には、燃焼室に燃料を噴射するインジェクタ109と点火プラグ110とが備えられている。シリンダヘッド103には、吸気バルブVaを介して燃焼室に空気を供給するインテークマニホールド111と、燃焼室の燃焼ガスを、排気バルブVbを介して送り出すエキゾーストマニホールド112とが連結されている。また、エキゾーストマニホールド112には、当該エキゾーストマニホールド112を流通する排ガスを浄化する触媒113が設けられている。触媒113は、COやHCの酸化反応とNOxの還元反応とを行う、所謂三元触媒が相当する。エンジンEは、始動時にクランクシャフト1を駆動回転するスタータモータ115を備えている。
【0025】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置100は、駆動側回転体A、従動側回転体B、及び、位相調節機構Cを備える。駆動側回転体Aは、回転軸芯Xを中心に内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と同期回転する。従動側回転体Bは、回転軸芯Xと同軸芯で、駆動側回転体Aの内側に配置される。また、従動側回転体Bは、エンジンEの吸気バルブVaを開閉する吸気カムシャフト2(「カムシャフト」の一例)と一体回転する。位相調節機構Cは、電動モータMの駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する。
【0026】
エンジンEのクランクシャフト1の出力スプロケット1Sと、駆動側回転体Aの駆動スプロケット11Sとに亘ってタイミングチェーン6(タイミングベルト等でもよい)が巻回されている。
【0027】
弁開閉時期制御装置100は、エンジンEの運転時には、タイミングチェーン6からの駆動力により弁開閉時期制御装置100の全体が回転軸芯Xを中心に駆動回転方向Sに回転する。また、電動モータMの駆動力により位相調節機構Cを作動させ駆動側回転体Aに対して従動側回転体Bを回転方向と同方向又は逆方向に変位可能となる。この変位のうち駆動回転方向Sと同方向へ向かう変位方向を進角方向Saと称し、駆動回転方向Sと逆方向へ向かう変位方向を遅角方向Sbと称している。位相調節機構Cでの変位により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2のカム部2Aによる吸気バルブVaの開閉時期(開閉タイミング)の制御が実現する。
【0028】
なお、従動側回転体Bが相対的に駆動側回転体Aの回転方向と同方向に変位する作動を進角作動と称し、この進角作動により吸気圧縮比が増大する。また、従動側回転体Bが相対的に駆動側回転体Aと逆方向に変位する作動(進角作動とは逆方向への作動)を遅角作動と称し、この遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0029】
〔弁開閉時期制御装置〕
図2に示すように、駆動側回転体Aは、外周に駆動スプロケット11Sが形成されたアウタケース11と、フロントプレート12とを複数の締結ボルト13で締結して構成されている。アウタケース11は、底部に開口を有する有底筒状型である。フロントプレート12は、回転軸芯Xに沿う方向で偏心部材26に対して吸気カムシャフト2と反対側に設けられる。
【0030】
図2及び
図3に示すように、アウタケース11の内部空間に従動側回転体Bとしての中間部材20と、ハイポトロコイド型のギヤ減速機構を有した位相調節機構Cとが収容されている。また、位相調節機構Cは、位相変化を駆動側回転体A及び従動側回転体Bに反映するオルダム継手Cxを備えている。
【0031】
従動側回転体Bを構成する中間部材20は、回転軸芯Xに直交する姿勢で吸気カムシャフト2に連結する支持壁部21と、回転軸芯Xを中心とする筒状で吸気カムシャフト2から離間する方向に支持壁部21の外周縁から突出する筒状壁部22とが一体形成されている。
【0032】
この中間部材20は、筒状壁部22の外面がアウタケース11の内面に接触する状態で相対回転自在に嵌め込まれ、支持壁部21の中央の貫通孔に挿通する連結ボルト23により吸気カムシャフト2の端部に固定される。このように固定された状態で筒状壁部22の外側(吸気カムシャフト2より遠い側)の端部がフロントプレート12より内側に位置するように構成されている。
【0033】
図2に示すように、電動モータMは、その出力軸Maを回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。電動モータMの出力軸Maには回転軸芯Xに対して直交する姿勢の一対の係合ピン8が形成されている。
【0034】
〔位相調節機構〕
図2及び
図3に示すように、位相調節機構Cは、中間部材20と、中間部材20の筒状壁部22の内周面に形成される出力ギヤ25と、偏心部材26と、弾性部材SPと、第一軸受28と、第二軸受29と、入力ギヤ30と、固定リング31と、リング状のスペーサ32と、オルダム継手Cxとを備えて構成されている。本実施形態では、第一軸受28は、偏心部材26の外周面に接触する内輪28aと、中間部材20の内周面に接触する外輪28bとを有するボールベアリングが用いられる。また、第二軸受29は、偏心部材26の外周面に接触する内輪29aと、入力ギヤ30の内周面に接触する外輪29bとを有するボールベアリングが用いられる。
【0035】
図2に示すように、中間部材20の筒状壁部22の内周のうち、回転軸芯Xに沿う方向(以下、軸方向と記載する)で内側(支持壁部21に隣接する位置)に回転軸芯Xを中心とする支持面22Sが形成され、支持面22Sより外側(吸気カムシャフト2より遠い側)に回転軸芯Xを中心とする出力ギヤ25が形成されている。
【0036】
偏心部材26は筒状に構成されている。偏心部材26は、軸方向での内側(吸気カムシャフト2に近い側)に回転軸芯Xを中心とする外周面の円周支持面26Sが形成されている。円周支持面26Sの更に軸方向での内側(吸気カムシャフト2に更に近い側)には円周支持面26Sから更に径方向外側に向かって突出する鍔部26Qが形成されている。また、偏心部材26は、外側(吸気カムシャフト2から遠い側)に回転軸芯Xに平行となる姿勢で偏心する偏心軸芯Yを中心とする外周面の偏心支持面26Eが形成されている。したがって、偏心部材26は、吸気カムシャフト2に近い側から軸方向に沿って、鍔部26Q、円周支持面26S、偏心支持面26Eが、この順に並んで形成されている。偏心軸芯Yに沿う方向は軸方向と同一であるため、以下では、偏心軸芯Yに沿う方向についても単に軸方向と記載する。
【0037】
図2及び
図3に示すように、偏心支持面26Eには、偏心部材26の径方向に沿い、内側に向けて窪む第一凹部70が形成されている。第一凹部70の底面には偏心部材26の周方向における両端に、偏心部材26の径方向軸側に向けて窪む一対の第二凹部79,79が形成されている。本実施形態では、第一凹部70は周方向において対称である。
【0038】
第二凹部79,79は、それぞれ、第一凹部70における、偏心部材26の周方向におけるそれぞれの端部に形成されている。偏心部材26の径方向における、第二凹部79,79の底面の最大深さは、第一凹部70における偏心部材26の周方向中央付近の底面の深さよりも深く構成されている。偏心部材26の周方向における第二凹部79,79のそれぞれの底面から端部に到るまでの面は、後述するバネ部材71の湾曲形状に沿う形状に形成されている。
【0039】
第一凹部70には、弾性部材SPが嵌め込まれている。弾性部材SPは、一対のバネ部材71,71を含む。本実施形態では、一対のバネ部材71,71はそれぞれ、同一の形状、かつ、同一の大きさである。弾性部材SPは、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部を出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合わせるように、第二軸受29を介して入力ギヤ30に付勢力を作用させる。
【0040】
偏心部材26の内周には、電動モータMの一対の係合ピン8の各々が係合可能な一対の係合溝26Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。
【0041】
偏心部材26は、円周支持面26Sに第一軸受28を外嵌し、この第一軸受28を筒状壁部22の支持面22Sに嵌め込むことにより、中間部材20に対し回転軸芯Xを中心に回転自在に支持される。また、入力ギヤ30は、偏心部材26の偏心支持面26Eに対し第二軸受29を介して偏心軸芯Yを中心に回転自在に支持される。
【0042】
この位相調節機構Cでは、入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数が、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。そして、入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛合する。
【0043】
図2に示すように、固定リング31は、偏心部材26の外周に嵌合状態で支持されることによりスペーサ32を介して第二軸受29の抜け止めを行う。
【0044】
〔位相調節機構:オルダム継手〕
図3に示すように、オルダム継手Cxは、中央の環状部41と、この環状部41から第一方向(
図3では左右方向)に沿って径方向外方に突出する一対の外部係合アーム42と、環状部41から第一方向に直交する第二方向(
図3では上下方向)に沿って径方向外方に突出する内部係合アーム43とを一体形成した板状の継手部材40で構成されている。一対の内部係合アーム43の各々には環状部41の開口に連なる係合凹部43aが形成されている。
【0045】
図2及び
図3に示すように、アウタケース11のうち、フロントプレート12が当接する開口縁部にはアウタケース11の内部空間から外部空間に亘り、回転軸芯Xを中心に半径方向に延びる一対の案内溝部11aが貫通溝状に形成されている。この案内溝部11aの溝幅が外部係合アーム42の幅より僅かに広く設定されている。
【0046】
入力ギヤ30のうちフロントプレート12に対向する端面には一対の係合突起30Tが一体形成されている。この係合突起30Tの係合幅が内部係合アーム43の係合凹部43aの係合幅より僅かに狭く設定されている。
【0047】
このような構成から、継手部材40の一対の外部係合アーム42を、アウタケース11の一対の案内溝部11aに係合させ、継手部材40の一対の内部係合アーム43の係合凹部43aに、入力ギヤ30の一対の係合突起30Tを係合させることによりオルダム継手Cxを機能させることが可能となる。
【0048】
なお、継手部材40がアウタケース11に対して外部係合アーム42が延びる第一方向(
図3で左右方向)に変位可能となり、この継手部材40に対して内部係合アーム43の係合凹部43aの形成方向に沿う第二方向(
図3では上下方向)に入力ギヤ30が変位自在となる。
【0049】
オルダム継手Cx(継手部材40)と第二軸受29との間にスペーサ32が備えられることで、軸方向において第二軸受29の移動は、所定の設定値以下の距離に制限される。また、フロントプレート12における入力ギヤ30に対向する面には、外側(吸気カムシャフト2から遠い側)に向かって凹んだ凹部12dが形成されている。凹部12dは、フロントプレート12における継手部材40の開口部分と対向して設けられ、凹部12dは継手部材40の開口部分よりも周方向に沿う長さ及び軸方向に沿う長さの夫々が僅かに広く形成されている。これにより、入力ギヤ30の係合突起30Tとフロントプレート12との接触を防止することができる。
【0050】
〔弁開閉時期制御装置の各部の配置〕
弁開閉時期制御装置100は、
図2に示すように吸気カムシャフト2の端部に中間部材20の支持壁部21が連結ボルト23により連結しており、これらは一体回転する。偏心部材26は第一軸受28により中間部材20に対して回転軸芯Xを中心に相対回転自在に支持される。
図2に示すように、この偏心部材26の偏心支持面26Eに対し第二軸受29を介して入力ギヤ30が支持され、この入力ギヤ30の外歯部30Aの一部が出力ギヤ25の内歯部25Aの一部に噛み合う。
【0051】
更に、
図3に示すようにオルダム継手Cxの外部係合アーム42がアウタケース11の一対の案内溝部11aに係合し、オルダム継手Cxの内部係合アーム43の係合凹部43aに入力ギヤ30の係合突起30Tが係合する。
図2に示すようにオルダム継手Cxの継手部材40の外方側にフロントプレート12が配置されるため、継手部材40はフロントプレート12の内面に接触する状態で回転軸芯Xに対して直交する方向に移動可能となる。この配置により、オルダム継手Cxは、第一軸受28及び第二軸受29の双方より外側(吸気カムシャフト2から遠い側)で、フロントプレート12より内側(吸気カムシャフト2に近い側)に配置される。
【0052】
そして、
図2に示すように、電動モータMの出力軸Maに形成された一対の係合ピン8が、偏心部材26の係合溝26Tに係合する。
【0053】
〔位相調節機構の作動形態〕
図1及び
図2に示すように、クランクシャフト1の近傍には回転角の検出が可能なクランク角センサ116が設けられている。また、吸気カムシャフト2の近傍には、吸気カムシャフト2の回転角の検出が可能な吸気側カム角センサ117が設けられ、排気カムシャフト3の近傍には排気カムシャフト3の回転角の検出が可能な排気側カム角センサ118が設けられている。
【0054】
クランク角センサ116と、吸気側カム角センサ117と、排気側カム角センサ118とは、回転に伴い間欠的にパルス信号を出力するように構成されている。クランク角センサ116は、クランクシャフト1の回転時にクランクシャフト1の回転基準からのパルス信号をカウントすることで回転基準からの回転角を取得する。同様に、吸気側カム角センサ117と排気側カム角センサ118とは、吸気カムシャフト2の回転時に吸気カムシャフト2の回転基準からパルス信号をカウントすることで、位相制御部9において、回転基準からの回転角を取得できるように構成されている。
【0055】
これにより、例えば、アウタケース11と中間部材20とが所定の基準位相(例えば、中間位相)にある状態でのクランク角センサ116のカウント値と、吸気側カム角センサ117、あるいは、排気側カム角センサ118のカウント値とを記憶しておくことにより、相対回転位相が、基準位相から進角側(進角方向Sa)と遅角側(遅角方向Sb)との何れに変位しても2種のカウント値の比較により相対回転位相を取得できる。
【0056】
また、位相制御部9には、クランク角センサ116と、吸気側カム角センサ117と、排気側カム角センサ118とからの検出信号が入力すると共に、メインスイッチ145と、温度センサ146と、アクセルペダルセンサ147とからの検出信号が入力される。また、位相制御部9は、スタータモータ115と、電動モータMと、燃焼管理部119とに制御信号を出力する。
【0057】
この制御構成においてメインスイッチ145は、車両の運転座席のパネル部分に配置され、エンジンEの人為操作による始動と、人為操作による完全停止を可能にしている。アクセルペダルセンサ147は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を取得する。燃焼管理部119は、インジェクタ109に対して燃料を供給するポンプ類の作動を管理すると共に、点火プラグ110に電力を供給するイグニッション回路の制御により点火順序や点火タイミングを管理する。
【0058】
電動モータMは位相制御部9によって制御される。上述したように、エンジンEにはクランクシャフト1と吸気カムシャフト2との回転速度(単位時間あたりの回転数)とを検知可能なクランク角センサ116、吸気側カム角センサ117、及び排気側カム角センサ118を備えており、これらのセンサの検知信号が制御装置に入力するように構成されている。
【0059】
位相制御部9は、エンジンEの稼動時において電動モータMを吸気カムシャフト2の回転速度と等しい速度で駆動することで相対回転位相を維持する。これに対して電動モータMの回転速度を吸気カムシャフト2の回転速度より低減することにより進角作動が行われ、これとは逆に回転速度が増大することにより遅角作動が行われる。進角作動により吸気圧縮比が増大し、遅角作動により吸気圧縮比が低減する。
【0060】
電動モータMがアウタケース11と等速(吸気カムシャフト2と等速)で回転する場合には、出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aの噛み合い部分の位置が変化しないため、駆動側回転体Aに対する従動側回転体Bの相対回転位相は維持される。
【0061】
これに対してアウタケース11の回転速度より高速又は低速で電動モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、位相調節機構Cでは偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する。この公転により出力ギヤ25の内歯部25Aに対する入力ギヤ30の外歯部30Aに対する噛み合い部分の位置が出力ギヤ25の内周に沿って変位し、入力ギヤ30と出力ギヤ25との間には回転力が作用する。つまり、出力ギヤ25には回転軸芯Xを中心とする回転力が作用し、入力ギヤ30には偏心軸芯Yを中心に自転させようとする回転力が作用する。
【0062】
入力ギヤ30は、その係合突起30Tが継手部材40の内部係合アーム43の係合凹部43aに係合するためアウタケース11に対して自転することはなく、回転力が出力ギヤ25に作用する。この回転力の作用により出力ギヤ25と共に中間部材20が、アウタケース11に対し回転軸芯Xを中心に回転する。その結果、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト2による開閉時期の設定を実現する。
【0063】
また、入力ギヤ30の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する際には、入力ギヤ30の変位に伴い、オルダム継手Cxの継手部材40は、アウタケース11に対して外部係合アーム42が延びる方向(第一方向)に変位し、入力ギヤ30は、内部係合アーム43が延びる方向(第二方向)へ変位する。
【0064】
入力ギヤ30の外歯部30Aの歯数は、上述したように、出力ギヤ25の内歯部25Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、入力ギヤ30の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、1歯分だけ出力ギヤ25が回転することになり大きい減速を実現している。
【0065】
アウタケース11及び中間部材20の相対回転位相は、位相制御部9により制御される。
図4には、吸気側の弁開閉時期制御装置100で制御される吸気バルブVaの吸気タイミングInと、排気側の弁開閉時期制御装置101で制御される排気バルブVbの排気タイミングExとのダイヤグラムが示される。
図4は、吸気バルブVaが遅角吸気タイミングに設定され、排気バルブVbがノーマル排気タイミングに設定された場合のダイヤグラムである。
【0066】
具体的には、吸気バルブVaが遅角吸気タイミングに設定されると、吸気開タイミングIVOは、上死点TDCより遅角側(遅角方向Sb)に設けられ、吸気閉タイミングIVCは下死点BDCより遅角側(遅角方向Sb)に設けられる。すなわち、ピストン4が下死点BDCから上死点TDCに向かう圧縮行程の間に、吸気バルブVaは開状態から閉状態に移行する。
【0067】
また、排気バルブVbがノーマル排気タイミングに設定されるとき、排気閉タイミングEVCは上死点TDCと一致し、排気開タイミングEVOは下死点BDCより進角側(進角方向Sa)にある。すなわち、ピストン4が下死点BDCから上死点TDCに向かう排気行程の間、排気バルブVbは常に開状態に維持される。
【0068】
このような遅角吸気タイミングにおいて、排気バルブVbが排気閉タイミングEVCで閉状態に移行し、この移行からクランクシャフト1が設定量だけ回転した後に、吸気バルブVaが吸気開タイミングIVOにおいて開状態への移行を開始し、ピストン4が下死点BDCから上死点TDCに向かう圧縮行程の間、吸気バルブVaは開状態から閉状態に移行する。
【0069】
これにより、ピストン4が上死点TDCに到達する以前に燃焼室にガスを封入することが可能となり、筒内圧(燃焼室の圧力)の上昇によるガスの圧縮によって燃焼室のガスの温度を上昇させることが可能となる。
【0070】
一方、位相制御部9は、車両の走行中にエンジンEの回転速度を上昇させる場合、吸気量を増大させるように制御する。この場合には、進角吸気タイミングとして、吸気開タイミングIVOを進角方向Saに変化させるように吸気側の弁開閉時期制御装置100が制御される。
図5は、吸気バルブVaが進角吸気タイミングに設定され、排気バルブVbがノーマル排気タイミングに設定された場合のダイヤグラムである。
【0071】
具体的には、吸気バルブVaが進角吸気タイミングに設定されると、吸気開タイミングIVOは、上死点TDCより進角側(進角方向Sa)に設けられる。このときも、吸気閉タイミングIVCは下死点BDCより遅角側(遅角方向Sb)に設けられる。すなわち、ピストン4が下死点BDCから上死点TDCに向かう圧縮行程の間に、吸気バルブVaは開状態から閉状態に移行する。
【0072】
また、排気バルブVbがノーマル排気タイミングに設定されるとき、排気閉タイミングEVCは上死点TDCと一致し、排気開タイミングEVOは下死点BDCより進角側(進角方向Sa)にある。すなわち、ピストン4が下死点BDCから上死点TDCに向かう排気行程の間、排気バルブVbは常に開状態に維持される。
【0073】
このような進角吸気タイミングにおいて、吸気バルブVaが吸気開タイミングIVOで開状態に移行し、この移行からクランクシャフト1が設定量だけ回転した後に、排気バルブVbが排気閉タイミングEVCにおいて閉状態への移行を開始する。このように、進角吸気タイミングにおいては、排気バルブVbが排気閉タイミングEVCで閉状態に移行する直前に吸気バルブVaが吸気開タイミングIVOにおいて開状態への移行を開始させ、排気バルブVbと吸気バルブVaとが同時に開放するオーバラップ領域が作られる。
【0074】
本実施形態の位相制御部9は、エンジンEの停止指令があった場合に、中間部材20をアウタケース11の回転方向と逆方向に変位させて相対回転位相を最遅角位相にする遅角作動制御を行い、エンジンEの停止過程においてエンジンEの回転数が予め設定された下限回転数N2に達したとき、中間部材20をアウタケース11の回転方向と同方向に変位させて最遅角位相にある相対回転位相を進角位相にする進角作動制御を行うことが可能に構成されている。
【0075】
エンジンEの停止指令は、位相制御部9の上位システムから伝達される。この停止指令は、車両の走行中にエンジンEの運転を一時停止する間欠停止指令にあたる。一時停止する間欠停止指令とは、例えば車両の速度が所定の第1速度以下になった場合に、エンジンEを停止し、所定の第2速度以上になった場合に、エンジンEを停止するような所謂アイドリングストップのようにエンジンEを所定時間の間、停止させるように指令である。このような場合には、位相制御部9は相対回転位相を最遅角位相にする遅角位相制御を行う。本実施形態では、最遅角位相は、吸気バルブVaの吸気閉タイミングIVCを、エンジンEのピストン4の上死点TDCを基準として、進角側に所定の第1クランク角だけずれた第1タイミングと遅角側に所定の第2クランク角だけ変位した第2タイミングとで規定された範囲内に設定した超遅閉タイミングである。なお、第2速度は、第1速度よりも低い速度である。
【0076】
図6は、吸気バルブVaが超遅閉タイミング(吸気超遅閉タイミング)に設定され、排気バルブVbがノーマル排気タイミングに設定された場合のダイヤグラムである。この吸気超遅閉タイミングは、吸気閉タイミングIVCを、上死点TDCの近傍、すなわち、上死点TDCより第1クランク角(例えば5クランク角)だけ進角(進角方向Sa)した第1タイミングと、上死点TDCより第2クランク角(例えば5クランク角)だけ遅角(遅角方向Sb)した第2タイミングとの間に設定することで実現される。
【0077】
このバルブタイミングでは、ピストン4が上死点TDCに到達した付近で吸気バルブVaを閉じる(吸気閉タイミングIVCに移行する)ように、吸気バルブVaを遅角方向Sbに変位させる。また、ピストン4が上死点TDCと下死点BDCの間の中間付近で、吸気バルブVaが開く(吸気開タイミングIVOに移行する)ように制御される。
【0078】
具体的には、吸気超遅閉タイミングでは、
図4で示した遅角吸気タイミングよりも吸気バルブVaが閉状態に移行するタイミングが遅角側に設定され、吸気開タイミングIVOが下死点BDCを基準にしてBBDC(Before BDC)側に設定される。このように吸気閉タイミングIVCが上死点TDCの近傍に設定されている。
【0079】
また、排気バルブVbは、排気閉タイミングEVCで閉状態に移行し、この移行からクランクシャフト1が所定の量だけ回転した後に、吸気バルブVaが吸気開タイミングIVOにおいて開状態への移行を開始することになる。そして、圧縮行程では、吸気バルブVaが開放状態を維持して、ピストン4が上死点TDCに到達した付近で吸気閉タイミングIVCに移行する。
【0080】
これにより、ピストン4が上死点TDCから下死点BDCに達するまでに吸気バルブVaを介して燃焼室に吸引された空気が、ピストン4が下死点BDCから上死点TDCに達するまでに燃焼室から吸気バルブVaを介してインテークマニホールド111へと、ほぼ全量戻ることとなる。その結果、排気行程において、燃焼室から排気バルブVbを介してエキゾーストマニホールド112へと吐き出される酸素含有空気が極微量となり、触媒113の劣化を抑制できる。
【0081】
上述したように、位相制御部9は、エンジンEの停止指令があった場合に、中間部材20とアウタケース11との相対回転位相を最遅角位相にする遅角作動制御を行う。また、このようなエンジンEの停止過程においてエンジンEの回転数が予め設定された下限回転数N2に達したとき、中間部材20をアウタケース11の回転方向と同方向に変位させて最遅角位相にある相対回転位相を進角位相にする進角作動制御を行う。
【0082】
図7には、タイミングチャートが示される。t1以前では、エンジンEが所定の回転数で、進角位相で走行している状態が示される。このような状態において、停止指令があったとする(t1)。この場合、車両は減速し、エンジンEの回転数がN1になった場合に位相制御部9は、相対回転位相を超遅閉タイミングとする最遅角位相制御を行う(t2)。
【0083】
エンジンEは停止指令にしたがって、回転数が低くなっていく。このとき、エンジンEの回転数が下限回転数N2となると、位相制御部9は相対回転位相を超遅閉タイミングの最遅角位相から、進角方向Saに制御する(t3)。この進角制御は、相対回転位相を進角位相にするのではなく、最遅角位相よりも少なくとも進角側の位相に制御される。具体的には、次に、エンジンEの始動に適した相対回転位相に制御される。このような相対回転位相は、例えば
図4に示す相対回転位相であるとよい。
【0084】
これによりエンジンEの始動指令があった場合に(t4)、適切に始動することが可能となる。なお、エンジンEが始動した後は、車両の走行状態に応じて、位相制御部9は、相対回転位相を変位させるとよい(
図7の例では、t5において、進角作動制御が行われている)。もちろん、車両の走行状態に応じて、遅角位相制御を行うことも可能である。
【0085】
ここで、位相制御部9は、エンジンEの停止過程において進角作動制御を行わないエコモードと、エンジンEの停止過程において進角作動制御を行うトルクモードとに切り替えることができるように構成することが可能である。エンジンEの停止過程において進角作動制御を行わないエコモードとは、車両のレスポンス(ドライバビリティ)よりも、エンジンEにおける燃料の使用量の低減を優先した低燃費走行を行う走行モードである。このエコモードとトルクモードとの切り替えは、タッチパネルやボタン操作等によりユーザの意思に応じて実行してもよいし、車両の走行シーンに応じて自動的に実行してもよい。車両の走行シーンに応じて自動で実行する場合、例えば、高速道路の走行中はトルクモード、一般道の走行中はエコモードといった切り替えを行うことが想定される。
【0086】
このような場合には、エンジンEが停止指令にしたがって、回転数が低くなり、エンジンEの回転数が下限回転数N2となっても、位相制御部9は相対回転位相を超遅閉タイミングの最遅角位相から、進角方向Saには制御されない。このため、次にエンジンEの始動指令があった場合に、進角作動制御が行われる。これにより、車両が走行し始めるまでのレスポンスが悪くなるが、触媒への新気の供給を断つことができる。したがって、触媒の劣化を抑制すると共に、低燃費を実現できる。
【0087】
一方、エンジンEの停止過程において進角作動制御を行うトルクモードとは、車両における燃料の使用量の低減よりも、レスポンス(ドライバビリティ)の応答性を優先して走行を行う走行モードである。この場合には、上述したように、エンジンEの回転数が下限回転数N2と達した場合に、位相制御部9は相対回転位相を超遅閉タイミングの最遅角位相から、進角方向Saに制御するとよい。
【0088】
また、位相制御部9は、エンジンEの回転数が下限回転数N2以下である場合だけでなく、スロットルを開く開要求があり、且つ、エンジンEの回転数が下限回転数N2以下である場合に進角作動制御を行うように構成することも可能である。スロットルを開く開要求とは、運転者がアクセルペダル(あるいはアクセルレバー)を操作してエンジンEのスロットル(図示せず)の開くための指示である。これは、アクセルペダルセンサ147により検出され、運転者によるエンジンEを始動する意図を把握することができる。したがって、位相制御部9は、アクセルペダルセンサ147によりスロットを開く開要求が検出され、且つ、エンジンEの回転数が下限回転数N2以下である場合に進角作動制御を行うように構成することも可能である。
【0089】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、最遅角位相は、吸気バルブVaの吸気閉タイミングIVCを、エンジンEのピストン4の上死点TDCを基準として、進角側に所定の第1クランク角だけずれた第1タイミングと遅角側に所定の第2クランク角だけ変位した第2タイミングとで規定された範囲内に設定した超遅閉タイミングであるとして説明した。最遅角位相は、超遅閉タイミングではなく、上述した超遅閉タイミングよりも進角側に設定された遅角位相であってもよい。また、超遅閉タイミングは、ピストン4の上死点TDCと、当該上死点TDCを基準として進角側に所定の第1クランク角だけずれた第1タイミングとで規定された範囲内に設定することも可能であるし、ピストン4の上死点TDCと、当該上死点TDCを基準として遅角側に所定の第2クランク角だけずれた第2タイミングとで規定された範囲内に設定することも可能である。また、第1クランク角と第2クランク角とは、互いに等しくてもよいし、第1クランク角が第2クランク角よりも大きくてもよいし、第2クランク角が第1クランク角よりも大きくてもよい。
【0090】
上記実施形態では、エンジンEの停止指令は、車両の走行中にエンジンEの運転を一時停止する間欠停止指令であるとして説明した。しかしながら、エンジンEの停止指令は、車両を一時停止させる際の間欠停止指令でなくてもよく、車両を駐車させる際の駐車指令であってもよい。また、エンジンEの停止指令は、信号待ちの状態で車両のエンジンEを一時的に停止させるアイドリングストップであってもよい。
【0091】
上記実施形態では、位相制御部9は、停止過程において進角作動制御を行わないエコモードと、停止過程において進角作動制御を行うトルクモードとに切り替え可能であるとして説明した。しかしながら、位相制御部9は、停止過程において進角作動制御を行わないエコモードに切り替えることができないような構成であってもよい。
【0092】
上記実施形態では、位相制御部9は、スロットルを開く開要求があり、且つ、エンジンEの回転数が下限回転数以下である場合に進角作動制御を行うとして説明した。しかしながら、位相制御部9は、エンジンEの回転数が下限回転数より大きい場合であっても、スロットルを開く開要求がある場合にのみ進角作動制御を行うように構成することも可能である。
【0093】
本発明は、弁開閉域制御装置に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
11:クランクシャフト
2:カムシャフト
4:ピストン
9:位相制御部
100:弁開閉時期制御装置
A:駆動側回転体
B:従動側回転体
C:位相調節機構
E:エンジン(内燃機関)
IVC:吸気閉タイミング
M:電動モータ
N2:下限回転数
TDC:上死点
Va:吸気バルブ(吸気弁)
X:回転軸芯