(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123657
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】不定形材の継ぎ足し施工方法
(51)【国際特許分類】
B22D 41/02 20060101AFI20240905BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B22D41/02 C
F27D1/16 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031262
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】阮 方
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
(72)【発明者】
【氏名】中村 善幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】日野 雄太
【テーマコード(参考)】
4E014
4K051
【Fターム(参考)】
4E014BB02
4K051LJ01
(57)【要約】
【課題】母材に不定形材を継ぎ足すにあたって、施工能率を低下させたり施工コストを増加させたりすること抑制しつつ、母材に対して不定形材を十分に接着させることができる不定形材の継ぎ足し施工方法を提供する。
【解決手段】母材の表面に不定形材を継ぎ足す不定形材の継ぎ足し施工方法であって、母材の表面粗度を調整して母材の表面粗度の標準偏差を500μm以上にする粗度調整工程と、粗度調整工程で粗度を調整した母材の表面に新たな不定形材を継ぎ足し施工する施工工程と、を有する、不定形材の継ぎ足し施工方法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の表面に不定形材を継ぎ足す不定形材の継ぎ足し施工方法であって、
前記母材の表面粗度を調整して母材の表面粗度の標準偏差を500μm以上にする粗度調整工程と、
前記粗度調整工程で粗度を調整した母材の表面に新たな不定形材を継ぎ足し施工する施工工程と、を有する、不定形材の継ぎ足し施工方法。
【請求項2】
前記粗度調整工程では、不定形材を継ぎ足し施工する前における前記母材の表面にある表層付着物を除去しながら前記母材の表面粗度を調整する、もしくは、不定形材を継ぎ足し施工する前における前記母材の表面にある表層付着物を除去した後に前記母材の表面粗度を調整する、請求項1に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
【請求項3】
前記粗度調整工程で母材の表面粗度を調整した後に、母材の表面に、0.010g/cm2以上0.250g/cm2以下の水を付着させる水分塗布工程を有する、請求項1または2に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
【請求項4】
前記新たな不定形材と前記粗度調整工程で母材の表面粗度を調整した後の母材の表面との接着強度が、母材の曲げ強度の少なくとも50%以上である、請求項1または2に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
【請求項5】
前記不定形材は、黒鉛を含有する黒鉛含有不定形耐火物である、請求項1または2に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
【請求項6】
前記粗度調整工程では、前記黒鉛含有不定形耐火物の黒鉛の含有量に基づいて前記表面粗度を調整する、請求項5に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不定形材の継ぎ足し施工方法に関するものであり、特に、硬化した不定形材の損傷部位に新たに同材質の不定形材を継ぎ足す不定形材の継ぎ足し施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形材は流動性を有しており、施工現場において原料と混和剤と水とを練り混ぜて一定の施工条件で施工部位に流し込みの形で施工される材料である。不定形材は流動性を有しているため、複雑な形状の成形体を容易に施工でき、また、高度の熟練施工者がいなくても施工可能である。そのため、不定形材は高温炉や溶融金属容器の内張り不定形耐火物や、建築土木工事分野等で使用するコンクリートやセメントとして多方面で幅広く利用されている。
【0003】
不定形材の施工条件や使用条件によっては、すでに硬化した不定形材の表面に新たな不定形材を継ぎ足し施工することが行われる。例えば、溶融金属容器に内張りされる不定形耐火物の場合、高温の溶湯との接触、溶融スラグによる浸食、急激な温度変化、物理的な衝撃などの影響を受ける。このように溶融金属容器に内張りされる不定形耐火物は常に過酷な条件で使用されるため、溶損等が生じる場合がある。不定形耐火物の溶損が生じた場合には、製造コスト、廃棄物排出量、環境負荷を低減する観点から、内張り不定形耐火物を全て張り替えるのではなく、溶損部位のみに補修用の不定形耐火物を継ぎ足す、不定形耐火物の継ぎ足し施工を行うことがある。このような不定形耐火物の継ぎ足し施工を行う場合に、不定形材の継ぎ足し面の界面には常に高い接着強度が求められる。
【0004】
不定形材の継ぎ足し面が脆弱となることを抑制するため、つまり、不定形材の継ぎ足し界面の接着強度を高めるための様々な方策が提案されている。例えば特許文献1および特許文献2には、無機塩のペーストや液状シリコーン樹脂等の被覆材を継ぎ足し面である母材の表面に塗布し、その後に不定形耐火物を流し込むことによって界面の接着強度を向上させる技術が記載されている。特許文献3には、損傷部位の任意の位置に穿設した多数の孔に定形耐火物を装入しておき、損傷部位に不定形耐火物を充填する方法が記載されている。多数の孔を穿設するため、接着面の表面積が拡大し、これにより界面の接着強度を向上できるとされている。また、周辺技術として特許文献4には、先行打設して硬化したコンクリートの表面に打継面処理を行って新たなコンクリートを打設するにあたって、凹凸評価装置によって打継面の凹凸度合いを評価するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-9118号公報
【特許文献2】特開平10-274485号公報
【特許文献3】特開昭54-96506号公報
【特許文献4】特開2021-25220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2では、母材の表面に被覆材を塗布する必要があるため、加工の手間が掛かり、施工能率が低下し、それに伴って施工コストが増加する可能性がある。特許文献3では、多数の孔を穿設して定形耐火物を装入するため、特許文献1および特許文献2と同様の課題がある。また、界面の接着強度は不定形材の材料によって異なるため、特許文献4の技術では、界面の接着強度が十分か否かを判断することはできない可能性がある。これらの点で、未だ改良の余地があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、母材に不定形材を継ぎ足すにあたって、施工能率を低下させたり施工コストを増加させたりすることを抑制しつつ、母材に対して不定形材を十分に接着させることができる不定形材の継ぎ足し施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]母材の表面に不定形材を継ぎ足す不定形材の継ぎ足し施工方法であって、前記母材の表面粗度を調整して母材の表面粗度の標準偏差を500μm以上にする粗度調整工程と、前記粗度調整工程で粗度を調整した母材の表面に新たな不定形材を継ぎ足し施工する施工工程と、を有する、不定形材の継ぎ足し施工方法。
[2]前記粗度調整工程では、不定形材を継ぎ足し施工する前における前記母材の表面にある表層付着物を除去しながら前記母材の表面粗度を調整する、もしくは、不定形材を継ぎ足し施工する前における前記母材の表面にある表層付着物を除去した後に前記母材の表面粗度を調整する、[1]に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
[3]前記粗度調整工程で母材の表面粗度を調整した後に、母材の表面に、0.010g/cm2以上0.250g/cm2以下の水を付着させる水分塗布工程を有する、[1]または[2]に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
[4]前記新たな不定形材と前記粗度調整工程で母材の表面粗度を調整した後の母材の表面との接着強度が、母材の曲げ強度の少なくとも50%以上である、[1]または[2]に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
[5]前記不定形材は、黒鉛を含有する黒鉛含有不定形耐火物である、[1]または[2]に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
[6]前記粗度調整工程では、前記黒鉛含有不定形耐火物の黒鉛の含有量に基づいて前記表面粗度を調整する、[5]に記載の不定形材の継ぎ足し施工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る不定形材の継ぎ足し施工方法では、母材の表面粗度を調整して母材の表面粗度の標準偏差を500μm以上にする。これにより、新たな不定形材を継ぎ足し施工した場合に、その新たな不定形材と母材とを十分に接着させることができる。また、母材の表面粗度を調整して母材の表面粗度の標準偏差を500μm以上にすることで接着強度を高めることができる。そのため、新たな不定形材の継ぎ足し面に被覆材を塗布したり多数の孔を穿設して定形耐火物を装入したりすることによって接着強度を高める構成と比較して、被覆材を塗布したり定形耐火物を装入したりしない分、施工しやすい。これにより、施工能率の低下を抑制することができる。更に施工コストも削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】残存部耐火物の表面粗度の標準偏差を数値化する表面粗度測定装置の一例を示す図である。
【
図3】残存部耐火物の表面粗度の標準偏差と、ワーク耐火物層の元曲げ強度に占める接着強度の割合との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を本発明の実施形態を通じて説明する。
図1は、本実施形態に係る不定形材を使用した溶融金属容器の部分断面図であり、
図1の(A)は継ぎ足し施工前の溶融金属容器(以下、単に容器と記す。)を示している。当該容器は図示しない溶融金属を内部に保持する容器である。容器としては、具体的には、例えば、溶融金属としての溶銑または溶鋼を保持したり精錬したりする容器や、これらを搬送する容器を挙げることができる。容器は外殻を成す鉄あるいは鉄系材料によって構成された鉄皮1を有している。鉄皮1の内側にパーマ煉瓦層2が形成されており、当該パーマ煉瓦層2の内側にワーク耐火物層3が形成されている。
図1に示す容器はその外側から鉄皮1、パーマ煉瓦層2、ワーク耐火物層3の順に構成された多重構造となっている。
【0012】
パーマ煉瓦層2はパーマ煉瓦を層状に配列することによって形成されている。パーマ煉瓦としては、例えば、ロー石、ジルコン、粘土、シャモット、ハイアルミナ、アルミナ、スピネル、SiC、又はこれらのうちの2種以上の組み合わせからなる煉瓦を用いることができる。
【0013】
ワーク耐火物層3は本実施形態における不定形材によって構成されている。その不定形材は、具体的には、黒鉛を含有する黒鉛含有不定形耐火物であって、これは従来知られたものであってよい。
【0014】
上述した構成の容器に溶融金属(溶湯と称される場合がある。)が供給されると、容器の内面を構成するワーク耐火物層3に溶融金属が接触する。溶融金属の温度は一例として1000℃程度の高温である。そのため、
図1の(A)に示す容器を繰り返し使用すると、ワーク耐火物層3は次第に損耗する。具体的には、容器への溶融金属の供給および排出に伴う温度変化に起因して、ワーク耐火物層3を構成する不定形材が膨張・収縮し、熱応力が生じる。また、高温の溶融金属にワーク耐火物層3が暴露されると、溶融金属にはスラグが混在しているため、ワーク耐火物層3を構成する不定形材はスラグによる化学的侵食を受けて、スラグ浸潤層を含む変質層が生成される。このような不定形材の変質層と繰り返し生じる熱応力とによってワーク耐火物層3が次第に劣化して損耗して欠損する。
【0015】
こうして、繰り返し使用された容器の内面つまりワーク耐火物層3の内側の表面には、付着物としてスラグが固着したり、付着したスラグが不定形材に浸潤して変質層が生じたりする。ここで、スラグとは、溶融金属から炭素やリン、硫黄などの不純物元素を取り除く工程で生じる酸化物を主原料とする副生成物を意味している。なお、本実施形態では、付着物と変質層を合わせて表層付着物4と称する。また、表層付着物4の下側に位置するワーク耐火物層3の残存部分を残存部耐火物5と称する。
【0016】
ワーク耐火物層3の表面に表層付着物4がある状態で、新たな不定形材を継ぎ足し施工すると、表層付着物4が脆弱部となり、容器の内面に対する新たに継ぎ足す不定形材の接着強度が低下する可能性がある。これは、新たに継ぎ足し施工される不定形材と表層付着物4との間には、物性上の差異があるためである。したがって、例えば、表層付着物4を除去せずに、新たに不定形材が継ぎ足し施工された容器を使用すると、継ぎ足し面つまり新たに継ぎ足した不定形材にひび割れが発生する可能性がある。また、当該ひび割れや、新たに継ぎ足した不定形材と表層付着物4との間に溶融金属が侵入して亀裂が進展する可能性がある。そして、新たに継ぎ足し施工した不定形材と表層付着物4との間を境界として新たに継ぎ足した不定形材が剥離する。こうして容器の耐久性が低下する。すなわち、表層付着物4を除去せずに、新たに不定形材を継ぎ足し施工した容器では、新たにワーク耐火物層3を張り替えた溶融金属容器や新品の溶融金属容器と比較して寿命が大幅に低下してしまう。そのため、継ぎ足し施工によって容器を補修することによるコストメリットが低下してしまう。
【0017】
そのため、本実施形態に係る不定形材の継ぎ足し施工方法では、ワーク耐火物層3の表面に新たな不定形材を継ぎ足し施工する前に、表層付着物4を削ってこれらを除去する。また、ワーク耐火物層3の表面粗度を調整してワーク耐火物層3の表面の表面粗度の標準偏差を500μm以上にする。こうすることによって、容器の内面に対して新たに継ぎ足す不定形材の接着強度を向上させる。
【0018】
(除去工程)
表層付着物4は、例えば、ハンマーやピッケル等を用いて剥がすことによって除去してもよい。また、重機や油圧ドラフター等の機械を用いて表層付着物4をグラインドすることによって除去してもよい。
図1の(B)はワーク耐火物層3の表面の表層付着物4を削って除去した状態を示している。
【0019】
表層付着物4は、スラグが固着し、また、変質層が形成された損傷部分であり、目視、あるいは、カメラによって撮影した画像データを解析することによって特定することができる。すなわち、カーボン(黒鉛)を含有しない不定形材の色は白色であり、カーボン(黒鉛)を含有する不定形材の色は黒味かかった灰色である。一方、スラグの色はタールのような黒色である。このように、表層付着物4とワーク耐火物層3とは互いに色および質感が異なる。そのため、目視や画像解析によって区別することができる。
【0020】
また、表層付着物4はその下側に位置する残存部耐火物5が露出するまで除去することが好ましい。なお、ワーク耐火物層3の表面に表層付着物4が存在していない場合には、特に除去作業を行うことなく粗度調整工程を実施すればよい。
【0021】
(粗度調整工程)
残存部耐火物5が露出した状態で、当該残存部耐火物5の表面粗度を調整する。具体的には、残存部耐火物5の表面粗度、すなわち、残存部耐火物5の表面の凹凸の度合いを測定し、測定した表面粗度を表面の凹凸の高さ分布の標準偏差として数値化する。そして、その標準偏差が予め定めた閾値以上となるように、残存部耐火物5の表面粗度を調整する。
図1の(C)は上述したようにして残存部耐火物5の表面粗度を調整した状態を示している。こうして、
図1の(C)に示すように、残存部耐火物5の表面を粗化した界面6を形成する。これは、表面粗度の標準偏差を増大することによって、残存部耐火物5と新たに継ぎ足す不定形材との接触面積を増大させてそれらの接着強度を増大させるためである。また、表面粗度の標準偏差を増大することによって、継ぎ足し面における不定形耐火物中の粗骨材の存在率を低くして暴露されるセメントの表面積を大きくする。こうして、不定形耐火物中のセメントの結合の有効表面積を大きくすることによって接着強度を増大させるためである。
【0022】
より具体的に説明する。
図2は、残存部耐火物5の表面粗度の標準偏差を数値化する表面粗度測定装置の一例を示す図である。
図2に示す表面粗度測定装置7はマイクロコンピュータを主体として構成されており、画像データ取得部8と、3Dモデル生成部9と、標準偏差の算出部10と、標準偏差の判定部11と、出力部12とを有している。画像データ取得部8は、残存部耐火物5の表面を撮影するカメラ13に有線あるいは無線を介して接続され、カメラ13から出力された画像データを取得する。すなわち、本実施形態では、カメラ13によって残存部耐火物5の表面を撮影して複数の画像データを取得し、それらの画像データを表面粗度測定装置7に出力する。また、画像データ取得部8は取得した画像データを3Dモデル生成部9に出力する。
【0023】
3Dモデル生成部9は、カメラ13によって撮影された画像データ、および、予め記憶されているデータやプログラムに基づいて演算を行って残存部耐火物5の表面の3Dモデル画像を生成する。つまり、3Dモデル生成部9はカメラ13によって取得された画像データに基づいて3Dモデル画像を生成する画像処理を行う。その画像処理は従来知られたものであってよい。また、3Dモデル生成部9で生成された3Dモデル画像は3Dモデル生成部9から算出部10に出力される。
【0024】
残存部耐火物5の表面は広い範囲に亘って山谷構造を有しており、高低差のある表面となっている。そのため、算出部10では、3Dモデル画像のプロファイルに基づいて破面高さ方向分布の統計量として残存部耐火物5の表面粗度の標準偏差を計算する。その標準偏差は算出部10から判定部11に出力される。判定部11では、標準偏差が予め定めた閾値以上か否かを判断し、標準偏差と共にその判断結果を出力部12に出力する。出力部12は例えばモニターであって、上述した標準偏差、および、判断結果を表示する。
【0025】
そして、出力部12に表示された残存部耐火物5の表面粗度の標準偏差を確認しながら、前記標準偏差が予め定めた閾値以上となるように残存部耐火物5の表面粗度を調整する。なお、標準偏差の閾値は一例として500μmであって、表面粗度の標準偏差を500μm以上にすることによって、接着強度を本来のワーク耐火物層3の強度の50%以上にすることができる。上記の表面粗度の標準偏差と接着強度との関係は実験によって求めることができる。なお、ワーク耐火物層3の強度とは、ワーク耐火物層3に対して3点支持曲げ試験を行った場合のワーク耐火物層3の曲げ強度(破断強度と称される場合がある。)を意味している。表面粗度の標準偏差の算出方法、および、接着強度については後述する実施例で詳述する。
【0026】
残存部耐火物5の表面粗度の調整は、表層付着物4の除去方法とほぼ同様であってよい。つまり、ハンマーやピッケル等(それぞれ図示せず)を用いて残存部耐火物5の表面を剥がすことによって表面粗度を調整してもよい。また、重機や油圧ドラフター等(それぞれ図示せず)の機械を用いて残存部耐火物5の表面をグラインドすることによって表面粗度を調整してもよい。こうして
図1の(C)に示す残存部耐火物5の表面を粗化した界面6を形成する。なお、表層付着物4を除去する除去工程の後に、残存部耐火物5の表面粗度を調整する粗度調整工程を行う必要はない。表層付着物4を除去しながら、残存部耐火物5の表面粗度の調整を行うことが好ましい。つまり、上述した除去工程と粗度調整工程とをほぼ同時に行うことが好ましい。また、表層付着物4を除去し、残存部耐火物5が露出した状態で、当該残存部耐火物5の表面粗度の標準偏差が予め定めた閾値以上になっている場合には、その後に、表面粗度の調整を行う必要はない。
【0027】
(水分塗布工程)
また、上記のようにして形成した界面6に0.010g/cm2以上0.250g/cm2以下の水を付着させてから新たな不定形耐火物を継ぎ足し施工することが好ましい。これは、界面6が乾燥状態であると、具体的には、界面6における水の付着量が0.010g/cm2未満であると、新たに継ぎ足す不定形材中の水分が、残存部耐火物5に吸収されてしまう。その結果、水分が少なくなった不定形材と残存部耐火物5とを十分に接着することができず、それらの接合界面が接着強度の低下した脆弱部となってしまう可能性があるので、これを避けるためである。これに対して、界面6の水付着量が0.250g/cm2よりも多くなると、上述した接合界面に水が過剰にある状態となる。つまり、新たに継ぎ足す不定形材中において、バインダーに対する水の量が過剰になって接合界面が接着強度の低下した脆弱部となってしまう可能性があるので、これを避けるためである。したがって、継ぎ足し施工する不定形材の継ぎ足し面である界面6に水分を付着させる場合、付着させる水分量は0.010g/cm2以上0.250g/cm2以下の範囲内であることが好ましい。
【0028】
界面6に対する水の塗布は、例えば、水の流量を制御できるスプレーノズルを有する散水設備を用いて行ってもよく、あるいは、霧吹き状に散水可能なスプレーボトルを用いて行ってもよい。界面6に水を塗布した後は、当該界面6が乾燥しないように、水の塗布後、遅くとも2時間以内に新たな不定形材を継ぎ足し施工することが好ましい。水の塗布後1時間以内に新たな不定形材を継ぎ足し施工することがより好ましい。また、新たな不定形材を継ぎ足し施工する容器の周囲の環境は、温度が0℃以上40℃以下であり、湿度が30%RH以上100%RH以下であることが好ましい。これは、不定形材の表面に付着させた水の蒸発を抑制するためである。
【0029】
(施工工程)
その後、界面6に新たな不定形材を施工する。当該新たな不定形材は残存部耐火物5とほぼ同じ材質の不定形材であることが好ましく、また、ワーク耐火物層3の厚さが設計上、決まった厚さ、つまり、元の厚さになるまで不定形材を継ぎ足し施工する。
図1の(D)は元の厚さになるまで不定形材を継ぎ足し施工した状態を示している。その施工方法は従来知られた施工方法であってよい。
【0030】
(表面粗度の標準偏差の決定方法)
粗度調整工程における表面粗度の標準偏差の閾値の決定方法について説明する。不定形材は、当該不定形材として使用する材料の種類、すなわち、化学成分によって接着強度がそれぞれ異なる。そこで、発明者が鋭意試験を行った結果、接着強度は不定形材の黒鉛含有量に応じて異なることが明らかになった。また、接着強度がワーク耐火物層3の曲げ強度の50%以上、すなわち、接着強度が本来のワーク耐火物層3の強度の半分以上であれば、新たに不定形材を継ぎ足した容器の耐久性を担保でき、接着強度が十分であることが明らかになった。
【0031】
後述する実施例で詳述するが、界面6の表面粗度の標準偏差が大きくなる程、上述した割合すなわち接着強度が高くなることが分かった。また、不定形材中の黒鉛含有量が増える程、表面粗度の標準偏差が小さくても接着強度が高くなることが分かった。具体的には、不定形材の黒鉛含有量が5質量%の場合には、表面粗度の標準偏差を500μm以上とすることによって、接着強度が本来のワーク耐火物層3の曲げ強度の50%以上になることが分かった。
【0032】
以上より、不定形材が黒鉛を含有している場合には、黒鉛含有量に基づいて継ぎ足し面の表面粗度を調整すること、および、表面粗度の標準偏差が500μm以上となるように継ぎ足し面である界面6の表面粗度を調整することが好ましい。
【0033】
なお、表面粗度の標準偏差の閾値を決定する際には、不定形材を構成する材料と、当該不定形材の接着強度が50%以上となる表面粗度の標準偏差とを関連付けたテーブルを準備しておくことが好ましい。施工する不定形材に対し、テーブルを使用して目標とする表面粗度の標準偏差を設定する。そして、表面粗度の標準偏差の目標値を閾値として表面粗度の標準偏差の調整を実施する。
【0034】
したがって、本実施形態に係る不定形材の継ぎ足し施工方法によれば、新たな不定形材を継ぎ足し施工した場合に、その新たな不定形材と母材である残存部耐火物5とを十分に接着させることができる。また、表層付着物4を除去しながら、残存部耐火物5の表面粗度を調整する。そのため、本実施形態に係る不定形材の継ぎ足し施工方法は上述した特許文献1や特許文献2に記載のある、界面に被覆材を塗布し、その後に不定形耐火物を流し込む方法や、特許文献3に記載のある、界面に穿設した多数の孔に定形耐火物を装入し、その後に不定形耐火物を流し込む方法と比較して、被覆材を塗布したり定形耐火物を装入したりする工程がない分、施工しやすい。それらの結果、上述した容器に不定形材を継ぎ足す際の施工能率を向上することができ、また、施工の際の材料コストや、施工コスト(補修コスト)を削減することができる。
【0035】
なお、本実施形態に係る不定形材の継ぎ足し施工方法では、不定形材として黒鉛含有不定形耐火物を例に説明したがこれに限定されない。例えば、本実施形態に係る不定形材の継ぎ足し施工方法で使用できる不定形材としては、アルミナ質、アルミナ―シリカ質、マグネシア質、ドロマイト質、スピネル質、アルミナ―スピネル質、アルミナ―マグネシア質、アルミナ―スピネル―マグネシア質、マグネシア―カーボン質、アルミナ―マグネシア―カーボン質、アルミナ―スピネル―カーボン質、アルミナ―炭化ケイ素―カーボン質、アルミナ―ろう石―炭化ケイ素―カーボン質等の化学組成を包含する様々な不定形耐火物を挙げることができる。
【0036】
また、不定形材は不定形耐火物に限定されるものではなく、例えばコンクリートやセメント等であってもよい。コンクリートやセメントの場合は、打設領域を複数のブロックに分割し、先行打設して硬化したコンクリート、セメントに新たなコンクリート、セメントを順次打設する場合等に本願を適用することができる。なお、コンクリートやセメントの場合、その表面に変質層が生じることはほぼないため、変質層を除去することはない。
【実施例0037】
次に、本実施形態に係る不定形耐火物の継ぎ足し施工方法の実施例を説明する。本実施例では、不定形材として、JIS R 2553「キャスタブル耐火物の強さ試験方法」に準拠して作製された黒鉛含有量が互いに異なる3種類の不定形耐火物の試験片を用いた。すなわち、アルミナ―マグネシア質、アルミナ―スピネル―3質量%黒鉛質、およびアルミナ―スピネル―5質量%黒鉛質の3種類の黒鉛含有量がそれぞれ異なる試験片を準備した。アルミナ―マグネシア質の試験片の黒鉛含有量が0質量%、アルミナ―スピネル―3質量%黒鉛質の試験片の黒鉛含有量が3質量%、アルミナ―スピネル―5質量%黒鉛質の試験片の黒鉛含有量が5質量%となっている。また、試験片の大きさは40mm×40mm×160mmである。そして、各試験片の接着強度に対する継ぎ足し面(界面6)の表面粗度の標準偏差の影響を調べた。
【0038】
(比較例1)
各試験片のそれぞれについて、試験片の長手方向での中央部において、小型ダイヤモンドカッターによって切断して平滑な切断面を形成した。こうして各試験片のそれぞれについて、2つの分割片を得た。2つの分割片のうち、一方の分割片における平滑な切断面の水分量が0.010g/cm
2以上0.250g/cm
2以下の範囲内となるように水を塗布した。そして、内寸40mm×40mm×160mmの型枠の長手方向での中央部側に切断面が位置するように、当該型枠の長手方向での一方側に偏らせて当該分割片を配置した。試験片と同材質の新たな不定形耐火物を混練し、型枠の長手方向での他方側のスペースに流し込んで分割片に継ぎ足し施工を実施した。その後、室温で24時間養生してから脱枠し、110℃で24時間乾燥させた。また、実炉使用中における継ぎ足し面の推定温度である1150℃において、コーキング焼成処理を行った。そして、新たに不定形耐火物を継ぎ足し施工した各分割片について3点曲げ強度試験を行って、このような加工を行っていない試験片の曲げ強度(原試験片の曲げ強度)に占める接着強度の割合(接着強度/曲げ強度)をそれぞれ算出した。
図3に切断面と記載してある3点が比較例1の各試験片についての試験結果を示している。なお、「●」のシンボルがアルミナ―マグネシア質を示し、「◆」のシンボルがアルミナ―スピネル―3質量%黒鉛質を示し、「▲」のシンボルがアルミナ―スピネル―5質量%黒鉛質を示している。
【0039】
(比較例2)
各試験片のそれぞれについて、3点支持曲げ試験によって2分割して破断面をそれぞれ形成した。それらの破断面に対して、比較例1と同様に水を塗布し、表1に示す化学成分のスラグを乗せて1600℃で、2時間、スラグ浸潤処理を行った。その後に、比較例1と同様にして前記割合を算出した。
図3にスラグ浸潤層ありと記載してある3点が比較例2の各試験片についての試験結果を示している。
【0040】
【0041】
(発明例1)
各試験片のそれぞれについて、3点支持曲げ試験によって2分割して破断面をそれぞれ形成した。それ以外は、比較例1と同様にして前記割合を算出した。
図3に破断面と記載してある3点が発明例1の各試験片についての試験結果を示している。
【0042】
(発明例2)
各試験片のそれぞれについて、3点支持曲げ試験によって2分割して破断面をそれぞれ形成した。それらの破断面に対して、比較例1と同様に水を塗布し、また、比較例2と同様に、各試験片の破断面のそれぞれにスラグを乗せてスラグ浸潤処理を行った。その後、ハンマー、ピッケル、電動サンダーなどによってスラグを除去すると共に、スラグを除去することによって露出した試験片の表面を研削加工して凹凸を形成した。その後に、比較例1と同様にして前記割合を算出した。
図3にスラグ浸潤層除去と記載してある3点が発明例2の各試験片についての試験結果を示している。
【0043】
図3は、残存部耐火物の表面粗度の標準偏差と、ワーク耐火物層の曲げ強度に占める接着強度の割合との関係を示す図である。
図3に示すように、黒鉛含有量が異なる3種類の試験片のいずれにおいても、表面粗度の標準偏差が高い程、継ぎ足し施工後の接着強度が高くなることが分かった。
【0044】
しかしながら、スラグ浸潤層がある状態で新たに不定形耐火物を継ぎ足し施工した比較例2では、接着強度は、不定形耐火物の本来の強度の20%にも達しておらず、表面粗度の標準偏差がほぼ同程度である発明例1よりも大幅に低下していることが分かった。一方、発明例2では、接着強度が不定形耐火物の本来の強度の60%を上回ることが分かった。
【0045】
更に、
図3に示すように、黒鉛含有量の違いによって、接着強度が不定形耐火物の本来の強度の50%以上となる表面粗度の標準偏差が異なることが分かった。すなわち、発明例1、発明例2、および、比較例2では、黒鉛含有量が高いほど、接着強度が不定形耐火物の本来の強度の50%以上となる表面粗度の標準偏差が低いことが分かった。以上の結果より、不定形耐火物の継ぎ足し施工後において、接着強度に対するスラグ浸潤層の有無の影響は、表面粗度の標準偏差よりもはるかに大きく、スラグ浸潤層の除去処理は接着強度を向上させることが分かった。また、発明例1、および、発明例2のように、スラグ浸潤層がない場合、あるいは、スラグ浸潤層を除去した場合、界面6の表面粗度の標準偏差を500μm以上とすることで、接着強度を本来強度の50%以上に向上させることができる。実機で実施した場合、継ぎ足し部位の接着強度を原材質(母材)の半分以上とすることで、この継ぎ足し界面における強度発現によって継ぎ足し界面を起点にした剥離を抑制することができる。