(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123668
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】ターゲットおよび黒化膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240905BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240905BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20240905BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/06 L
C22C9/06
G06F3/041 490
G06F3/041 495
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031276
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 巡
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA41
4K029BC07
4K029CA06
4K029DC04
4K029DC08
(57)【要約】
【課題】低い反射率で、高温高湿下でも変色し難い長期耐食性を有し且つ電気比抵抗を低減させた黒化膜を形成するのに好適なスパッタリング用のターゲットを提供する。
【解決手段】スパッタリング用のターゲットは、CuaNibCocで表される組成を有し、前記a,b,cはそれぞれCu,Ni,Coの比率をat%で示し、a=100-b-c、5≦b≦20、0.1≦c≦10、c<bである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuaNibCocで表される組成を有し、
前記a,b,cはそれぞれCu,Ni,Coの比率をat%で示し、
a=100-b-c、
5≦b≦20、
0.1≦c≦10、
c<b、
であることを特徴とするスパッタリング用のターゲット。
【請求項2】
組成が(CuaNibCoc)100-z(OxNy)zで表される金属酸窒化物からなり、前記a,b,cはそれぞれ金属元素中のCu,Ni,Coの比率をat%で示し、前記x,yはそれぞれ非金属元素中のO,Nの比率をat%で示し、前記zは膜中の非金属元素の比率をat%で示し、
a=100-b-c、
5≦b<15、
0.1≦c≦10、
c<b、
2≦x≦8、
y=100-x、
40≦z≦60
であることを特徴とする黒化膜。
【請求項3】
組成が(CuaNibCoc)100-z(OxNy)zで表される金属酸窒化物からなり、前記a,b,cはそれぞれ金属元素中のCu,Ni,Coの比率をat%で示し、前記x,yはそれぞれ非金属元素中のO,Nの比率をat%で示し、前記zは膜中の非金属元素の比率をat%で示し、
a=100-b-c、
15≦b≦20、
0.1≦c≦10、
c<b、
4≦x≦6、
y=100-x、
40≦z≦60
であることを特徴とする黒化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スパッタリング用のターゲットおよびこのターゲットを用いて好適に形成することができる黒化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、液晶パネルで代表される表示装置(ディスプレイ装置)の上面にタッチ操作検出用のセンサ(タッチパネルセンサ)を重ねて、表示と入力の2つの機能を融合した装置である。このタッチパネルでは、操作者が画面上の表示をタッチ操作すると、操作された位置の情報が外部に信号として出力され、そして外部装置が操作位置の位置情報に基づいて操作者が望む適切な動作を行う。
【0003】
従来よりタッチパネルセンサにおいては、電極として透明なITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)電極が用いられているが、ITOは、電気比抵抗が高く、また曲げ性にも劣るため、近年におけるタッチパネルの大型化や曲面化に十分対応できない問題を有している。
そのため、ITOよりも電気比抵抗や曲げ性に優れるCuやAlをメッシュ状に加工したメタルメッシュ配線が使用され始めてきている。この金属線を用いた金属電極の場合、金属線が不透明で金属光沢を有することから、外部からの光がこの金属線に当って反射し、その反射光によって表示部に対する視認性が低下することが問題とされている。そして、この問題を解決する手段として、金属線の表面に反射低減膜としての黒化膜を形成することが提案されている(下記特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-216795号公報
【特許文献2】特開2016-216797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、反射低減膜としての黒化膜は、今後、車載用途での適用の拡大が予想されており、高温高湿下でも膜面が変色し難い長期耐食性が求められている。例えば上記特許文献1に記載された黒化膜はCuNiW合金の酸化物、また特許文献2に記載された黒化膜はCuNiMo合金の酸化物から成るものであるが、これら公知の黒化膜においては十分な長期耐食性は得られていない。
【0006】
また金属電極として機能する金属層の表面に設けられた黒化膜の電気比抵抗が高くなってしまうと、金属層と他の配線との電気的な接続が黒化膜により阻害されてしまうため、黒化膜においては反射率や長期耐食性の改善のほか、電気比抵抗を低減させることも求められている。
【0007】
本発明は以上のような事情を背景とし、低い反射率で、高温高湿下でも変色し難い長期耐食性を有し且つ電気比抵抗を低減させた黒化膜を提供すること、および、この黒化膜を形成するのに好適なスパッタリング用のターゲットを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
而してこの発明の第1の局面の黒化膜は次のように規定される。即ち、
組成が(CuaNibCoc)100-z(OxNy)zで表される金属酸窒化物からなり、前記a,b,cはそれぞれ金属元素中のCu,Ni,Coの比率をat%で示し、前記x,yはそれぞれ非金属元素中のO,Nの比率をat%で示し、前記zは膜中の非金属元素の比率をat%で示し、
a=100-b-c、5≦b<15、0.1≦c≦10、c<b、2≦x≦8、y=100-x、40≦z≦60である。
このように規定された第1の局面の黒化膜によれば、低い反射率で、高温高湿下でも変色し難い長期耐食性を有し且つ電気比抵抗を低減させた黒化膜を提供することができる。
【0009】
この発明の第2の局面の黒化膜は次のように規定される。即ち、
組成が(CuaNibCoc)100-z(OxNy)zで表される金属酸窒化物からなり、前記a,b,cはそれぞれ金属元素中のCu,Ni,Coの比率をat%で示し、前記x,yはそれぞれ非金属元素中のO,Nの比率をat%で示し、前記zは膜中の非金属元素の比率をat%で示し、
a=100-b-c、15≦b≦20、0.1≦c≦10、c<b、4≦x≦6、y=100-x、40≦z≦60である。
このように規定された第2の局面の黒化膜においても、低い反射率で、高温高湿下でも変色し難い長期耐食性を有し且つ電気比抵抗を低減させた黒化膜を提供することができる。
【0010】
この発明の第3の局面のターゲットは次のように規定される。即ち、
CuaNibCocで表される組成を有し、前記a,b,cはそれぞれCu,Ni,Coの比率をat%で示し、
a=100-b-c、5≦b≦20、0.1≦c≦10、c<bである。
このように規定された第3の局面のスパッタリング用のターゲットを用いることで、上記第1または第2の局面の黒化膜を、スパッタ装置を用いた反応性スパッタリングにて好適に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)は本発明の一実施形態の黒化膜を備えた積層体を示した図、(B)は同積層体の他の形態例を示した図である。
【
図2】同積層体の更に他の形態例を示した図である。
【
図3】Cu-10Ni-1Co合金の酸窒化膜における電気比抵抗および反射率に及ぼすO量の影響を示した図である。
【
図4】Cu-20Ni-3Co合金の酸窒化膜における電気比抵抗および反射率に及ぼすO量の影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態について具体的に説明する。
<1.積層体>
図1において、10Aは本発明の一実施形態の黒化膜を備えた積層体の一例を示している。同図において12は透明な基材で、この基材12の一方の面(図中の上面)に、電極形成する金属層14が基材12全面に亘って膜状に積層されている。そしてこの金属層14の、基材12とは反対側の面、即ち図中上面に、反射低減膜としての黒化膜16が積層形成されている。この黒化膜16もまた、金属層14の全面に亘って膜状に積層形成されている。
【0013】
透明な基材12はソーダライムガラスなどのガラスであっても良く、またポリエチレンテレフタレート(PET),ポリプロピレン(PP),ポリスチレン(PS),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリカーボネート(PC),ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリイミド(PI)などの樹脂材料であっても良い。樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0014】
金属層14は電気比抵抗が8.0μΩ・cm以下の導電性の高いものであるのが良く、そのような材料として純Cu、Cu合金、純Al、Al合金等を用いることができる。
【0015】
黒化膜16は、金属層14の図中上面に積層形成されている。黒化膜16は外部からの光がこの金属線(金属層)に当って反射して、その反射光によって表示部に対する視認性が低下するのを防止することを目的とした層で、光の反射率が25%未満に抑えられている。この黒化膜16については、後に詳述する。
【0016】
積層体10Aは、実際にはこれを加工してタッチパネルセンサの要素として用いる。
図1(A)で示す、10はその加工後の積層体を示している。
加工後の積層体10においては、加工前の積層体10Aにおける膜状の金属層14の余分となる部分が除去されて多数の極細線S1のみが金属層14として残されており、それら残された極細線S1が互いに平行をなして縞状パターンの電極14Dを形成している。
黒化膜16もまた余分の部分が除去されて、極細線S1の図中上面を覆う部分のみが極細線S2となって残され、それらが極細線S1の図中上面に入射する光を吸収して極細線S1からの光の反射を抑制する働きをなしている。
このような極細線S1、S2は、例えば塩化第二鉄等のエッチング液を用いたウェットエッチング手法にて形成することができる。
【0017】
図1(B)は積層体の他の形態例を示している。同図で示す積層体20A、20のように、金属層14と透明の基材12との間に黒化膜16を積層形成することも可能である。
また、
図2で示す積層体22A、22のように、図中下側から上に向って透明の基材12,第1の黒化膜16,金属層14,第2の黒化膜16を順に積層形成し、金属層14の基材12とは反対側の図中上面に暗色層となる第2の黒化膜16を積層形成するとともに、金属層14の下側、つまり金属層14と基材12との間においても、同様の暗色層となる第1の黒化膜16を積層形成することも可能である。
【0018】
<2.黒化膜>
次に、本実施形態の黒化膜16について説明する。
黒化膜16は、組成が(CuaNibCoc)100-z(OxNy)zで表されるCuNiCo合金の酸窒化物から成る。ここで、a,b,cはそれぞれ金属元素中のCu,Ni,Coの比率をat%で示し、前記x,yはそれぞれ非金属元素中のO,Nの比率をat%で示し、前記zは膜中の非金属元素の比率をat%で示しており、
a=100-b-c、5≦b<15、0.1≦c≦10、2≦x≦8、y=100-x、40≦z≦60と規定される。
【0019】
本実施形態の黒化膜16は、膜を構成する各元素(Cu、Ni、Co、O、N)が反射率、長期耐食性、電気比抵抗およびエッチング性に及ぼす影響を勘案し、各元素の含有量を適正にバランスさせることで、全体の効果として、目標とする反射率、長期耐食性、電気比抵抗およびエッチング性を確保している。
【0020】
また上記のNiの比率(b)が15≦b≦20で、Oの比率(x)が4≦x≦6と規定された黒化膜16も同等の膜特性を備えており本実施形態に含まれる。なお、膜中の各元素の比率は、例えばXPS分析により測定することができる。
【0021】
黒化膜16における各化学成分の限定理由等を以下に説明する。
Cuは、酸化物もしくは酸窒化物とすることで暗色化して膜の反射率を低くするのに有効な元素である。本例においては、Cuの比率はa=100-b-cと規定され、Ni,Coを除く金属元素の残部がCuとされている。
【0022】
Niは、黒化膜の耐食性および耐変色性を高めるのに有効な元素であり、この効果を得るため本例では、金属元素中のNiの比率(b)を5(at%)以上とする。但し、Niの過剰な添加は、黒化膜の反射率および電気比抵抗の上昇を招くため、本例では、Niの比率(b)を5≦b≦20と規定している。好ましくは5≦b<15であり、より好ましくは、8≦b≦12である。
【0023】
Coは、斑点変色の発生を抑制するのに有効な元素である。Niを含有させた場合でも、高温高湿下では局所的な斑点変色が生じ、この斑点変色部を起点として変色が広がってしまう場合がある。Coはこの斑点変色の発生を抑制するのに有効である。加えてCoは、Niが添加されたことによる黒化膜の電気比抵抗の上昇を抑える効果を有する。これらの効果を得るために本例では、金属元素中のCoの比率(c)を0.1(at%)以上とする。但し、過剰な添加はCuNiCo合金から成るターゲットの製造性を悪化させるため、本例では、Coの比率(c)を0.1≦c≦10と規定している。好ましくは1≦c≦10であり、より好ましくは1≦c≦5である。
【0024】
本実施形態の黒化膜中には、非金属元素としてのNとOとが含まれている。
Nは、窒化により黒化膜の電気伝導性を高める効果を有する。このため、金属層よりは高いものの、他の配線との電気的コンタクト性が維持できる電気比抵抗(0.1Ω・cm未満)を黒化膜に付与することができる。一方、Oは、酸化により黒化膜の反射率を低く抑える効果を有している。
【0025】
図3は、Cu-10Ni-1Co合金の酸窒化膜における電気比抵抗および反射率に及ぼすO量の影響を示した図である。同図によれば、Oを含まない窒化膜において電気比抵抗は低くなるが、反射率が逆に高くなってしまう。しかしながら、この状態からOを含有させていくと次第に反射率が低下し(一方、電気比抵抗は次第に増加し)、O量を所定の範囲内とすることで反射率と電気比抵抗がそれぞれ所定値以下となるように黒化膜の特性をバランスさせることができることが分かる。
【0026】
同様に
図4はCu-20Ni-3Co合金の酸窒化膜における電気比抵抗および反射率に及ぼすO量の影響を示した図である。同じスケールでプロットされた
図3と
図4を比較すると、Niの比率を20at%に増やした
図4の場合において、反射率の傾きおよび電気比抵抗の傾きが共に大きくなっており、反射率と電気比抵抗がそれぞれ所定値以下となる好適なO量の範囲が狭くなることが分かる。
【0027】
このようにCuNiCo合金の酸窒化膜における電気比抵抗および反射率に及ぼすO量の影響は、Niの比率によっても異なるため、本例では、金属元素中のNiの比率が5≦b<15である場合に、非金属元素中のOの比率(x)をat%で2≦x≦8(このときのNの比率(y)は98≧y≧92)と規定し、また、Niの比率が15≦b≦20である場合に、非金属元素中のOの比率はat%で4≦x≦6(このときのNの比率(y)は96≧y≧94)と規定する。
【0028】
なお、反応性スパッタリング法により形成された黒化膜中のN量およびO量を考慮して、本例では、NおよびOを合計した非金属元素の比率(z)をat%で40≦z≦60と規定している。
【0029】
このような黒化膜の成膜には、酸素ガスおよび窒素ガスを含む反応性スパッタリング法を好適に用いることができる。具体的には、バランスドマグネトロンスパッタリング法、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。スパッタリングによって形成される黒化膜の金属成分の組成は、スパッタリング用のターゲットの組成とほぼ同じであり、スパッタリングによる成膜は製造性にも優れている。
【0030】
<3.ターゲット>
本実施形態のスパッタリング用のターゲットは、前記黒化膜を形成する用途で用いられるもので、CuNiCo合金から成る(但し、ターゲットには不可避的不純物が含まれ得る)。具体的にはCuaNibCocで表される組成から成り、ここで、aはCuNiCo合金に占めるCuの比率(at%)を示し、bはCuNiCo合金に占めるNiの比率(at%)を示し、cはCuNiCo合金に占めるCoの比率(at%)を示し、これらa、b、cは、それぞれ、a=100-b-c、5≦b≦20、0.1≦c≦10、c<b、と規定されている。
これらa、b、cを上記黒化膜の組成と同じ範囲で規定したのは、スパッタリング法によって形成される黒化膜の金属成分の組成が、スパッタリング用のターゲットの組成とほぼ同じになることに基づいている。
【0031】
本ターゲットは、所定の成分組成を有するブロックを溶製し、これを鍛造および圧延加工した後、そこから平板状に切り出して作製することができる。
また、場合によっては、成分元素を含む粉末を混合し、混合粉を冷間から熱間において加圧することで製造することができる。原料粉末は、成分元素を含む純金属または合金であってもよい。成形方法としては、例えば、冷間静水圧成形(CIP)法、熱間静水圧成形(HIP)法、熱間押出法、超高圧ホットプレス法などがある。
【実施例0032】
次に本発明の実施例を以下に詳しく説明する。この実施例では、下記表1,2で示す組成の金属酸窒化物から成る黒化膜を備えた積層体を作製し、反射率、耐環境試験特性、電気比抵抗、エッチング性の評価を行った。
【0033】
【0034】
【0035】
<積層体の作製>
上記表1、表2に示す金属成分組成となるよう溶製によってターゲットを作製した。
次に、作製したターゲットを用い反応性スパッタリング法により、評価用のガラス基材(サイズ:φ100×0.5t)の表面もしくはガラス基材の表面に形成したCu金属膜の表面に膜厚30~50nmの黒化膜を形成した。
【0036】
スパッタリングによる黒化膜の成膜条件は、以下の通りである。
・真空度:1×10-4Pa以下
・成膜ガス:窒素ガスと酸素ガスとの混合ガス
・スパッタ圧:0.15Pa
・スパッタパワー:150W
【0037】
<反射率の評価>
反射率の測定には、黒化膜/Cu金属膜/基材の層構成からなる積層体を使用した。測定機はエリプソメータ(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン製M-2000U)を用い、膜面側の光学定数(屈折率n、消衰係数k)を波長400~800nmの範囲で測定し、その数値から入射率0°の反射率を求め、下記評価基準にて評価した。その結果を表1、表2に示す。
○:反射率が25%未満
×:反射率が25%以上
【0038】
<耐環境試験特性の評価>
図5で示すように、黒化膜/Cu金属膜/黒化膜/基材の層構成からなる積層体を用い、かかる積層体を85℃×85%RH(相対湿度)の大気雰囲気下にて保持し、100h毎に積層体の膜面の明度(L*)および色度(a*、b*)を分光色差計で測定し、下記計算式にて規定された試験開始時(0h)を基準とした色差ΔE*を算出した。
【数1】
そして色差ΔE*が5以下であった時間を耐用時間とし、下記評価基準にて評価した。その結果を表1、表2に示す。
○:耐用時間が1000h以上の場合
×:耐用時間が1000h未満の場合
【0039】
<電気比抵抗の評価>
黒化膜(厚み50nm)/基材の層構成からなる積層体を作製し、4探針法により黒化膜の中心付近を3点測定し、その平均値より電気比抵抗(Ω・cm)を算出し、下記評価基準にて評価した。その結果を表1、表2に示す。
○:0.1Ω・cm未満
×:0.1Ω・cm以上
【0040】
<エッチング性の評価>
黒化膜(厚み50nm)/基材の層構成からなる積層体を作製し、かかる積層体から20mm角の試料を切り出し、この試料を、塩化第二鉄が5質量%、残部が水からなるエッチング液に浸漬させた。そして基材上に形成した黒化膜が完全に溶解されるまでの時間を測定し、下記評価基準にて評価した。その結果を表1、表2に示す。
○:5~10秒で全量溶解した場合
×:上記以外の場合
【0041】
表1、表2の評価結果から次のことが分かる。
比較例1~6は、Cu、Ni、Coの何れかの単金属の窒化物もしくは酸窒化物で黒化膜を構成した例である。
Cuを用いた比較例1,2は、耐環境試験特性の評価結果が「×」であった。
Niを用いた比較例3,4は、反射率および電気比抵抗の評価結果が「×」であった。
Coを用いた比較例5,6は、耐環境試験特性および電気比抵抗の評価結果が「×」であった。また、Cu以外の金属を用いた比較例3~6ではエッチング性の評価も「×」であった。
【0042】
比較例7~10は、Cuと他の1種の金属から成る合金の窒化物もしくは酸窒化物で黒化膜を構成した例である。CuNi合金(比較例7,8)およびCuCo合金(比較例9,10)の何れの場合も、反射率、耐環境試験特性およびエッチング性の評価結果は良好であったが、電気比抵抗の評価結果が「×」であった。
【0043】
比較例11~30は、黒化膜をCuNiCo合金の窒化物もしくは酸窒化物で構成した例であるが、何れかの元素の比率が本実施形態の規定と異なっている。比較例11,12は、Niの比率(b)が3at%と低く、耐環境試験特性の評価が「×」であった。
【0044】
比較例13,14は、黒化膜をCuNiCo合金の窒化物で構成した例で、反射率の評価が「×」であった。
比較例14,15は、黒化膜をCuNiCo合金の酸窒化物で構成した例であるが、Oの比率(x)が10at%と高く、耐環境試験特性および電気比抵抗の評価結果が「×」であった。
【0045】
比較例17~24は、CuNiCo合金のNiの比率(b)が15at%の例であるが、何れの例もOの比率(x)が本実施形態で規定する範囲(4≦x≦6)から外れており、反射率、耐環境試験特性および電気比抵抗の少なくとも何れかが目標未達であった。
【0046】
比較例25~30は、Niの比率(b)が25at%もしくは30at%で本実施形態で規定する上限値を上回った例である。これらの例では反射率および電気比抵抗の評価結果が「×」であった。
【0047】
以上のようにいずれの比較例においても、反射率、耐環境試験特性および電気比抵抗の少なくとも1つの評価が目標未達であった。
【0048】
これに対し、黒化膜がCuNiCo合金の酸窒化物から成り、黒化膜の各構成元素の比率が本実施形態で規定した範囲を満足する実施例1~14については、反射率、耐環境試験特性、電気比抵抗およびエッチング性のいずれの評価も良好な結果が得られていた。
【0049】
また黒化膜のNiの比率(b)に注目すると、Niの比率(b)が5≦b<15である場合には、非金属元素中のOの比率(x)が2≦x≦8の範囲で目標とする膜特性が得られていることが分かる。
また、Niの比率(b)が15≦b≦20と高い場合であっても、非金属元素中のOの比率(x)を4≦x≦6に限定することで目標とする膜特性が得られていることが分かる。
【0050】
以上本発明の実施形態及び実施例について詳しく説明したが、これはあくまで一例示である。本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。