(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123736
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240905BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031375
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 浩文
(72)【発明者】
【氏名】高野 幸雄
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770EA01
5H770JA17Y
5H770KA01Y
5H770KA03Z
5H770LA02X
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】電力系統の事故発生時であっても運転継続することが可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力系統に連系されて仮想同期発電機として動作する電力変換装置であって、電力変換部から出力される電圧を制御する制御装置は、出力電圧の振幅指令値、出力電圧の周波数指令値、電力系統に出力された出力電圧および出力電流に基づいて、電力変換装置の出力電流指令値となる第1電流指令値を生成し、第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、第1電流指令値の大きさを上限値に制限した第2電流指令値を生成し、第2電流指令値を電力変換装置から出力される出力電流指令値とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に連系されて仮想同期発電機として動作する電力変換装置であって、
電力変換部と、
前記電力系統と前記電力変換部との間に設けられるフィルタ部と、
前記電力変換部から出力される電圧を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記電力系統に出力される出力電圧の振幅指令値を算出する電圧振幅指令算出部と、
前記電力系統の定格周波数に基づいて第1周波数指令値を算出し、前記第1周波数指令値を前記電力系統に出力される出力電圧の周波数指令値とする周波数指令算出部と、
前記出力電圧の振幅指令値、前記出力電圧の周波数指令値、前記電力系統に出力された出力電圧および出力電流に基づいて第1電流指令値を算出し、前記第1電流指令値を前記電力系統に出力される出力電流の電流指令値とする電流指令算出部と、
前記出力電流の電流指令値、前記フィルタ部に流れたフィルタ電流、前記電力系統に出力された出力電圧に基づいて、前記電力変換部から出力される電圧の指令値を生成する電圧指令算出部と、
を備え、
前記電流指令算出部は、
前記第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、前記第1電流指令値の大きさを前記上限値に制限した第2電流指令値を算出し、前記第2電流指令値を前記電力系統に出力される出力電流の電流指令値とする、
電力変換装置。
【請求項2】
前記電流指令算出部は、
前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えているとき、前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えてからの経過時間に応じて、前記上限値を低下させる、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電流指令算出部は、
前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えているとき、前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えてからの経過時間に応じて、前記上限値をステップ状に変化させる、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記電流指令算出部は、
前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えているとき、前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えてからの経過時間に応じて、前記上限値を連続的に変化させる、
請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電流指令算出部は、
前記第1電流指令値の大きさが前記上限値を超えているとき、前記電力変換部の温度が高いほど前記上限値の値が低くなるように設定する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力系統に出力された出力電圧に基づいて、前記周波数指令算出部で生成される前記出力電圧の第1周波数指令値を補正するための周波数補正値を生成する補正値出力部をさらに備え、
前記周波数指令算出部は、
前記第1周波数指令値と前記周波数補正値とに基づく第2周波数指令値を生成し、前記第2周波数指令値を前記周波数指令値とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電流指令算出部は、
前記第1電流指令値の大きさに対する制限の度合いを示す値を更に出力し、
前記補正値出力部は、
前記制限の度合いを示す値が大きいほど、前記第2周波数指令値が前記第1周波数指令値よりも前記電力系統の周波数に近い値となるように前記周波数補正値を生成する、
請求項6に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に接続される電力変換装置を仮想同期発電機として動作をさせる仮想同期発電機制御が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された仮想同期発電機においては、電力系統で過負荷や短絡事故等が発生した場合の対策は開示されていない。
【0005】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたものであり、電力系統の事故発生時においても、運転継続することが可能な電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一の発明は、電力系統に連系されて仮想同期発電機として動作する電力変換装置であって、電力変換部と、前記電力系統と前記電力変換部との間に設けられるフィルタ部と、前記電力変換部から出力される電圧を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記電力系統に出力される出力電圧の振幅指令値を算出する電圧振幅指令算出部と、前記電力系統の定格周波数に基づいて第1周波数指令値を算出し、前記第1周波数指令値を前記電力系統に出力される出力電圧の周波数指令値とする周波数指令算出部と、前記出力電圧の振幅指令値、前記出力電圧の周波数指令値、前記電力系統に出力された出力電圧および出力電流に基づいて第1電流指令値を算出し、前記第1電流指令値を前記電力系統に出力される出力電流の電流指令値とする電流指令算出部と、前記出力電流の電流指令値、前記フィルタ部に流れたフィルタ電流、前記電力系統に出力された出力電圧に基づいて、前記電力変換部から出力される電圧の指令値を生成する電圧指令算出部と、を備え、前記電流指令算出部は、前記第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、前記第1電流指令値の大きさを前記上限値に制限した第2電流指令値を算出し、前記第2電流指令値を前記電力系統に出力される出力電流の電流指令値とする電力変換装置である。本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、過電流を抑制することが可能な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の電力変換装置2が設けられた電力系統1の一例を説明する図である。
【
図2】電力変換装置2が設けられた電力系統1の一例を説明する図である。
【
図3】電力変換装置2の周波数指令算出部22を説明する図である。
【
図4】電力変換装置2の電圧振幅指令算出部23を説明する図である。
【
図5】電力変換装置2の瞬時電流指令算出部25を説明する図である。
【
図6】電力変換装置2の補正値出力部26を説明する図である。
【
図7】電力変換装置2の瞬時電圧指令算出部28を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
==第1実施形態==
図1は、電力系統1に連系する本実施形態の電力変換装置2を説明する図である。電力系統1は、配電線10を介して発電所で発電された交流電力を需要家の設備に供給する電力系統である。
【0010】
電力変換装置2は、電力系統1との間で電力を入出力する装置であって、仮想同期発電機として動作する。電力変換装置2は、フィルタ3、スイッチ4、制御装置20および電力変換部31を備える。電力変換装置2の電力変換部31は、フィルタ3、スイッチ4を介して電力系統1に接続される。
【0011】
<<フィルタ3>>
フィルタ3(「フィルタ部」に相当)は、電力変換装置2から電力系統1に流れる電流の高調波成分を除去するために設けられている。フィルタ3には、電力変換装置2から出力された電流ILが入力される。そして、フィルタ3は、電流iLから高調波成分が除去された電流ioutを電力系統1に出力する。
【0012】
フィルタ3は、リアクトルL1、リアクトルL2及びコンデンサCを含む。リアクトルL1及びリアクトルL2は、互いに直列に接続されている。リアクトルL1は電力変換装置2の出力に接続され、リアクトルL2は電力系統1に接続されている。
【0013】
コンデンサCの一端は、リアクトルL1とリアクトルL2との間に接続されている。コンデンサCの他端は、三相の中性点に接続されている(図示せず)。なお、コンデンサCの他端は、接地されてもよい。
【0014】
<<スイッチ4>>
スイッチ4は、電力系統1と電力変換装置2との間に接続されている。スイッチ4は、例えば遮断器である。
【0015】
電力系統1が通常の状態であればスイッチ4はオンであり、電力変換装置2は電力系統1と電力のやり取りが可能である。電力系統1に故障等の異常が発生した場合にはスイッチ4はオフに切り替わり、電力変換装置2は電力系統1と切り離される。
【0016】
<<電力変換装置2>>
電力変換装置2は、電圧制御(GFM:Grid-ForMing)方式により、仮想同期発電機として動作する装置である。
【0017】
具体的には、電力変換装置2は、出力電圧voutの周波数foutを制御することによって、フィルタ3と電力系統1との間で有効電力Poutを出力する装置である。なお、有効電力Poutは、正の場合が電力変換装置2から電力系統1へ出力される有効電力であり、負の場合が電力系統1から電力変換装置2に入力される有効電力である。
【0018】
<制御装置20>
【0019】
・制御装置20の機能ブロック
図2は、電力変換装置2を説明する図であって、特に制御装置20の機能ブロックを説明する図である。
【0020】
制御装置20は、dq変換部21、24と、周波数指令算出部22と、電圧振幅指令算出部23と、瞬時電流指令算出部25と、逆dq変換部27と、補正値出力部26と、逆dq変換部27と、瞬時電圧指令算出部28と、加算部29と、PWMパルス生成部30とを備える。
【0021】
[dq変換部21]
dq変換部21(「第1dq変換部」に相当)は、電力系統1に出力された3相の各相の出力電流i
outをdq変換して、d軸電流i
d,out及びq軸電流i
q,outを出力する(
図2)。
【0022】
d軸電流id,out及びq軸iq,outはそれぞれ、電力系統1の系統周波数に対応する角周波数で回転する回転座標系におけるd軸及びq軸成分である。
【0023】
[周波数指令算出部22]
図3は、電力変換装置2の周波数指令算出部22を説明する図である。周波数指令算出部22は、電力系統1の定格周波数f
nに基づき、電力変換部31(後述)から出力される電圧に対する周波数指令値f
ref(「第1周波数指令値」に相当)及び位相指令値θ
refを出力する。
【0024】
具体的には、周波数指令算出部22は、電力系統1に出力する有効電力の指令値である有効電力指令Prefと、電力系統1に実際に出力される有効電力Poutと、所定の設定周波数fn,refとに基づいて、指令周波数指令値fref及び位相指令値θrefを算出する。
【0025】
なお、有効電力P
outは、
図2に示したフィルタ3と電力系統1との間のノードNにおける測定値である。後述する無効電力Q
out、出力電圧v
out、出力電流i
outについても、ノードNにおける測定値である。
【0026】
以下の説明では、電力変換装置2が仮想同期発電機として動作するときの慣性定数をHとし、制動定数をDとする。
【0027】
図3に示すように、周波数指令算出部22は、加算器22a、22b、22f、22i、22kと、乗算器22c、22e、22g、22h、22j、22l、22lと、積分器22d、22nとを有する。
【0028】
加算器22aは、有効電力指令Prefから有効電力Poutを減じた値(Pref-Pout)を、加算器22bに出力する。
【0029】
加算器22bは、加算器22aからの入力値(Pref-Pout)から加算器22k(後述)からの入力を減じた値を、乗算器に22c出力する。
【0030】
乗算器22cは、加算器22bからの入力に対して1/(2H)(Hは慣性定数)を乗じた値を、積分器22dに出力する。
【0031】
積分器22dは、乗算器22cからの入力に対して所定期間に亘って時間積分した結果を、乗算器22lに出力する。
【0032】
ここでの積分演算によって、得られた値は、電力系統1に出力される出力電圧voutの周波数指令値frefが、電力系統1の定格周波数fnで単位化された値である。電力系統1の定格周波数fnは、例えば日本国内においては、東日本は50Hzであり、西日本は60Hzである。
【0033】
乗算器22eは、出力電圧voutの周波数foutに対して電力系統1の定格周波数fnで除した値を、加算器22fに出力する。乗算器22eの出力値は、出力電圧voutの周波数foutを定格周波数fnで単位化した値である。
【0034】
加算器22fは、積分器22dからの入力から乗算器22eからの入力を減じた値を、乗算器22gに出力する。
【0035】
乗算器22gは、加算器22fからの入力に対して制動定数Dを乗じた値を、加算器22kに出力する。
【0036】
乗算器22hは、設定周波数fn,refに対して電力系統1の定格周波数fnで除した値を、加算器22iに出力する。乗算器22hの出力値は、設定周波数fn,refを定格周波数fnで単位化した値である。
【0037】
加算器22iは、積分器22dからの入力から乗算器22hからの入力を減じた値を、乗算器22jに出力する。
【0038】
乗算器22jは、加算器22iからの入力に対し、利得KGOVを乗じた値を、加算器22kに出力する。ここで、利得KGOVは、回転体の回転速度を設定周波数fn,refに保つよう調整するためのパラメータである。
【0039】
加算器22kは、乗算器22gからの入力と、乗算器22jからの入力とを加算した値を、加算器22bに出力する。
【0040】
乗算器22lは、積分器22dからの入力に対して電力系統1の定格周波数fnを乗じた値を出力する。乗算器22lの出力値は、電力系統1に出力される出力電圧voutの補正前の周波数指令値fref1である。
【0041】
加算部22m(「第2加算部」に相当)は、補正前の周波数指令値fref1に対して後述する補正値fref,cmpを加算した値を、補正後の周波数指令値fref2として出力する。
【0042】
積分器22nは、加算部22mからの入力に対し、2πを乗じた上で所定期間に亘って時間積分する演算を実行する。この演算によって、積分器22nは、電力変換装置2から出力される出力電圧voutの位相の指令値である位相指令値θrefを出力する。
【0043】
[電圧振幅指令算出部23]
図4は、電力変換装置2の電圧振幅指令算出部23を説明する図である。電圧振幅指令算出部23は、電力変換装置2から出力される電圧の振幅指令値V
refを算出する。
【0044】
具体的には、電圧振幅指令算出部23は、電力系統1に出力する目標となる無効電力指令Qrefと、電力系統1に実際に出力される無効電力Qoutと、出力電圧voutの振幅指令値Vout,refとに基づいて、振幅指令値Vrefを算出する。
【0045】
電圧振幅指令算出部23は、加算器23a、23e、23fと、乗算器23b、23cと、積分器23dと、制限部23gとを有する。
【0046】
加算器23aは、無効電力指令Qrefから無効電力Qoutを減じた値を、乗算器23b及び乗算器23cに出力する。
【0047】
乗算器23bは、加算器23aからの入力に対して利得Kp,QVを乗じた値を、加算器23eに出力する。利得Kp,QVは、無効電力Qoutと、無効電力指令Qrefとの差を抑制するように比例制御するためのパラメータである。
【0048】
乗算器23cは、加算器23aからの入力に対して利得Ki,QVを乗じた値を、加算器23eに出力する。利得Ki,QVは、無効電力Qoutと、無効電力指令Qrefとの差を抑制するように積分制御するためのパラメータである。
【0049】
積分器23dは、乗算器23cからの入力に対して所定期間に亘って時間積分した結果を、加算器23eに出力する。
【0050】
加算器23eは、乗算器23bからの入力と、積分器23dからの入力とを加算した値を、加算器23fに出力する。
【0051】
加算器23fは、加算器23eからの入力と、出力電圧voutに対する振幅値指令値Vout,refとを加算した値を、制限部23gに出力する。
【0052】
制限部23gは、加算器23fからの入力値を、設定された上限値及び下限値に基づいて制限した値を電圧振幅指令値Vrefとして出力する。
【0053】
制限部23gは、加算器23fからの入力の値が下限値Vref,LLIM以上であって上限値Vref,ULIM以下であれば、加算器23fからの入力の値をそのまま出力する。
【0054】
また、制限部23gは、加算器23fからの入力の値が上限値Vref,ULIMよりも大きければ、上限値Vref,ULIMを出力する。また、制限部23gは、加算器23fからの入力の値が下限値Vref,LLIMよりも小さければ、下限値Vref,LLIMを出力する。
【0055】
なお、後述する制限部24a、24e、52b、52rにおいても、設定された上限値と下限値に基づいて、制限部23gと同じ処理を実行して入力の値を制限することとする。
【0056】
[dq変換部24]
図2のdq変換部24(「第2dq変換部」に相当)は、電力系統1に出力された3相の出力電圧v
outをdq変換して、d軸電圧v
d,out及びq軸電圧v
q,outを出力する。
【0057】
[瞬時電流指令算出部25]
図5は、電力変換装置2の瞬時電流指令算出部25(「電流指令算出部」に相当)を説明する図である。瞬時電流指令算出部25は、d軸電流i
d,out及びq軸電流i
q,out、d軸電圧v
d,out及びq軸電圧v
q,out並びに出力電圧に対する周波数指令値f
ref及び振幅指令値V
refに基づいて、d軸電流指令値i
d,ref及びq軸電流指令値i
q,ref(「第1電流指令値」に相当)を算出する。瞬時電流指令算出部25は、瞬時電流指令値i
d,ref及びi
q,refを電力系統に出力される出力電流の電流指令値とする。
【0058】
つまり、本実施形態の瞬時電流指令算出部25は、d軸電流id,out及びq軸電流iq,outのみならず、d軸電圧vd,out及びq軸電圧vq,outが考慮される。
【0059】
瞬時電流指令算出部25は、瞬時電流指令値id,ref及びiq,refの大きさが上限値を超えているとき、瞬時電流指令値id,ref及びiq,refの大きさを上限値に制限した瞬時電流指令値(「第2電流指令値」に相当)を算出する。そして、瞬時電流指令算出部25は、上限値に制限した瞬時電流指令値を電力系統1に出力される出力電流の電流指令値とする。
【0060】
瞬時電流指令算出部25は、瞬時電流指令値id,ref及びiq,refの大きさが上限値を超えているとき、瞬時電流指令値id,ref及びiq,refの大きさが上限値を超えてからの経過時間に応じて、上限値を低下させる。
【0061】
瞬時電流指令算出部25は、電流指令値出力部25aと、制限部25bとを含む。電流指令値出力部25aは、制限前のd軸及びq軸電流指令値を出力する。制限部25bは、制限前のd軸及びq軸電流指令値に制限を課し、制限後のd軸及びq軸電流指令値を出力する。
【0062】
電流指令値出力部25aは、振幅指令値Vrefとd軸電圧vd,outの偏差に応じた値をd軸電流id,outに加算することによりd軸電流指令値id,ref
*を出力する。
【0063】
電流指令値出力部25aは、更に、q軸電圧vq,outに応じた値をq軸電流iq,outに加算することによりq軸電流指令値iq,ref
*を出力する。
【0064】
電流指令値出力部25aが制限部25bに出力するd軸及びq軸電流指令値を、以下では「制限前のd軸電流指令値及びq軸電流指令値」と称することがある。
【0065】
以下の電流指令値出力部25aの詳細な説明では、先ず、制限前のd軸電流指令値id,ref
*を出力する処理について説明するため、先ずは加算器25c、乗算器25d及び加算器25eの順で説明する。
【0066】
加算器25cは、電圧振幅指令算出部23からの入力である電圧振幅指令値Vrefからdq変換部24からの入力であるd軸電圧vd,outを減じた値を、乗算器25d及び乗算部25gに出力する。
【0067】
乗算器25dは、加算器25cからの入力に対して利得KACRの逆数を乗じた値を、加算器25eに出力する。なお、乗算器25dの出力は、「振幅指令値Vref及びd軸電圧vd,outの差に応じた値」の一例である。
【0068】
加算器25eは、dq変換部21からの入力であるd軸電流id,outと、乗算器25dからの入力を加算した値を、制限前のd軸電流指令値id,ref
*として出力する。
【0069】
次いで、制限前のq軸電流指令値iq,ref
*を出力する処理について説明するため、乗算器25f、乗算部25g、加算器25h、乗算器25i及び加算器25jの順で説明する。
【0070】
乗算器25fは、周波数指令算出部22からの入力である周波数指令値frefに対し、利得KCiを乗じた値を、乗算部に出力する。
【0071】
乗算部25gは、乗算器25fからの入力と、前述の加算器25cからの入力とを乗じた値を、加算器25hに出力する。
【0072】
加算器25hは、dq変換部21からの入力であるq軸電流iq,outと、乗算器25dからの入力とを加算した値を、加算器25jに出力する。
【0073】
乗算器25iは、dq変換部24からの入力であるq軸電圧vq,outに対し、利得KACRの逆数を乗じた値を、加算器25jに出力する。なお、乗算器25iの出力は、「q軸電圧vq,outに応じた値」の一例である。
【0074】
加算器25jは、加算器25hからの入力から、乗算器25iからの入力を減じた値を、制限前のq軸電流指令値iq,ref
*として出力する。
【0075】
次いで説明する制限部52bは、過電流を抑制するため、電流指令値出力部25aから出力されるd軸電流指令値id,ref
*及びq軸電流指令値iq,ref
*を制限したd軸電流指令値id,ref及びq軸電流指令値iq,refを出力する。
【0076】
具体的には、制限部25bは、電流指令値出力部25aから出力されるd軸電流指令値id,ref
*とq軸電流指令値iq,ref
*とをベクトル合成した電流指令値の大きさAが所定の上限値Nを超える場合、ベクトル合成した電流指令値iref
*の大きさAが上限値Nとなるようにd軸電流指令値id,ref
*及びq軸電流指令値iq,ref
*を制限係数N/Aの比率で低減したd軸電流指令値id,ref及びq軸電流指令値iq,refを出力する。制限係数N/Aは上限値Nを電流指令値の大きさAで除した値で得ある。
【0077】
制限部25bは、乗算部25k、25l、25s、25tと、加算器25mと、演算部25nと、検出部25oと、設定部25pと、除算部25qと、制限部25rとを含む。
【0078】
乗算部25k、乗算部25l、加算器25m及び演算部25nは、d軸電流指令値id,ref
*とq軸電流指令値iq,ref
*とをベクトル合成した電流指令値iref
*の大きさAを計算する。
【0079】
設定部25pは、電流指令値iref
*の大きさDENに対する上限値NUMを設定する。上限値Nは、例えば電力変換装置2の定格電流以下又は定格電流以上の所定の値とすればよい。設定部25pは、上限値NUMを除算部25qに出力する。
【0080】
除算部25qは、設定部25pからの入力である上限値NUMを、電流指令値iref
*の大きさDENで除した除算結果NUM/DENを、制限部25rに出力する。
【0081】
制限部25rは、除算結果NUM/DENが0(零)以上1以下となるように制限した値である制限係数KI,LIMを、乗算部25s及び25tに出力する。
【0082】
電流指令値iref
*の大きさDENが上限値NUMを超えているとき、電力変換装置2の出力電流が過電流状態であることを意味する。
【0083】
電流指令値iref
*の大きさDENが上限値NUMを超えていないとき、電力変換装置2の出力電流が過電流状態ではないことを意味する。
【0084】
なお、制限係数KI,LIMは、「制限の度合いを示す値」の一例である。
【0085】
乗算部25s及び25tはそれぞれ、制限前のd軸電流指令値id,ref
*及びq軸電流指令値iq,ref
*に対し、制限係数KI,LIMを乗じた値を、制限後のd軸電流指令値id,ref及びq軸電流指令値iq,refとして出力する。
【0086】
[補正値出力部26]
【0087】
電力変換装置2では、過電流が発生した場合に、出力電圧voutの周波数が電力系統1の周波数fnに対して乖離しやすく、電力系統1との同期を維持することが困難となる。
【0088】
ここでの補正値fref,cmpは、過電流が発生した場合に、出力電圧voutの周波数が電力系統1の周波数に対して乖離しないようにするための補正値である。
【0089】
図6は、電力変換装置2の補正値出力部26を説明する図である。補正値出力部26は、電力系統1に出力された出力電圧v
outに基づいて、周波数指令算出部22で生成される出力電圧の周波数指令値f
refを補正するための周波数補正値f
ref,cmpを生成する。具体的には、補正値出力部26は、絶対値DENが上限値NUMを超える場合に、d軸電圧v
d,out及びq軸電圧v
q,outに基づいて、周波数指令値f
refに対する補正値f
ref,cmpを出力する。
【0090】
補正値fref,cmpは、補正後の周波数指令値fref2と電力系統1の定格周波数fnとの差を、補正前の周波数指令値fref1と定格周波数fnとの差よりも小さくする値である。
【0091】
また、本実施形態の補正値出力部53は、制限の度合いを示す値に更に基づいて、制限の度合いが大きいほど電力系統1の周波数に近くなる補正値を出力する。
【0092】
なお、この例では、「制限の度合いを示す値」は制限係数KI,LIMである。制限係数KI,LIMの値が0(零)に近いほど補正値fref,cmpの値が大きい値になり、制限係数KI,LIMの値が1に近いほど補正値fref,cmpの値が小さい値になる。
【0093】
補正値出力部26は、加算器26aと、処理部26bと、乗算器26c、26eと、乗算部26dとを有する。
【0094】
加算器26aは、1から瞬時電流指令算出部25からの入力である制限係数KI,LIMを減じた値を、乗算部26dに出力する。
【0095】
処理部26bは、dq変換部51からの入力であるd軸電圧vd,out及びq軸電圧vq,outに基づいて、一元化後の出力電圧vq,out,errを出力する。一元化後の出力電圧vq,out,errは次式で表わされる。
【0096】
【数1】
ここで、電圧v
q,out,tmpは次式で表わされる。
【数2】
ここで、電圧v
s,outは次式で表わされる。
【数3】
【0097】
乗算器26cは、処理部26bからの入力である出力電圧vq,out,errに対して、利得Kf,cmpを乗じた値を、乗算部26dに出力する。
【0098】
乗算部26dは、加算器26aからの出力と、乗算器26cからの出力とを加算した値を、乗算器26eに出力する。乗算部26dの出力は、周波数指令値の補正値fref,cmpが、電力系統1の定格周波数fnで単位化された値である。
【0099】
乗算器26eは、乗算部26dからの入力に対して、電力系統1の定格周波数fnを乗じた値を出力する。乗算器26eの出力は、周波数指令値の補正値fref,cmpである。
【0100】
[逆dq変換部27]
図2の逆dq変換部27は、瞬時電流指令算出部25からの入力であるd軸電流指令値i
d,ref及びq軸電流指令値i
q,refを逆dq変換して、各相の電流指令値i
refを出力する。
【0101】
[瞬時電圧指令算出部28]
図7は、電力変換装置2の瞬時電圧指令算出部28(「電圧指令算出部」に相当)を説明する図である。瞬時電圧指令算出部28は、出力電流の電流指令値i
ref、フィルタ3に流れたフィルタ電流i
L、電力系統1に出力された出力電圧v
outに基づいて、電力変換部31から出力される電圧の指令値v
L,refを生成する。
【0102】
瞬時電圧指令算出部28は、デマルチプレクサ28a、28hと、加算器28b、28c、28e、28f、28g、28i、28j、28kと、乗算器28d、28l、28m、28nと、マルチプレクサ28oとを有する。
【0103】
デマルチプレクサ28aは、電力変換部31から出力された瞬時電流iLを、3相の瞬時電流iL,a、iL,b及びiL,cに展開する。
【0104】
加算器28b及び加算器28cは、瞬時電流iL,b及びiL,cを合算した値を、乗算器28dに出力する。
【0105】
乗算器28dは、加算器28cからの入力値に対して3で除した値を、加算器28e、28f及び28gに出力する。
【0106】
加算器28e、28f及び28gはそれぞれ、乗算器からの入力を瞬時電流iL,b及びiL,cに加算した値を、加算器28i、28j及び28kに出力する。
【0107】
デマルチプレクサ28hは、逆dq変換部27からの入力である瞬時電流指令値irefを、3相の瞬時電流指令値iref,a、iref,b及びiref,cに展開する。
【0108】
加算器28i、28j及び28kはそれぞれ、瞬時電流指令値iref,a、iref,b及びiref,cに対して加算器28e、28f及び28gからの入力を加算した値を、乗算器28l、28m及び28nに出力する。
【0109】
乗算器28l、28m及び28nはそれぞれ、加算器28i、28j及び28kからの入力に対して利得KACRを乗じた値をマルチプレクサ28oに出力する。利得KACRは、瞬時電流iLと、瞬時電流指令値irefとの差を抑制するよう制御するためのパラメータである。
【0110】
乗算器286l、28m及び28nの演算結果vL,ref,a、vL,ref,b及びvL,ref,cはそれぞれ、3相の瞬時電圧指令値の補正値である。
【0111】
マルチプレクサ28oは、乗算器28l、28m及び28nのそれぞれからの入力である3相の瞬時電圧指令値の補正値vL,ref,a、vL,ref,b及びvL,ref,cを一の信号にまとめ、瞬時電圧指令値の補正値vL,refを出力する。
【0112】
[加算部29]
加算部29(「第1加算部」に相当)は、瞬時電流指令算出部25からの入力である各相の電圧指令値vL,refのそれぞれに対し、各相の出力電圧voutを加算した値を、電力変換装置2から出力される電圧の指令値vPWM,refとして出力する。
【0113】
[PWMパルス生成部30]
PWMパルス生成部30は、例えば三角波で実現される搬送波と、基本波としての正弦波との交点を検出する。これによって、PWMパルス生成部30は、PWMパルスのデューティ比を決定し、決定したデューティ比を有するPWMパルス信号vPWMを生成する。
【0114】
PWMパルス信号VPWMは、電力変換部31に出力され、電力変換部31のインバータ回路が駆動される。
【0115】
[電力変換部31]
電力変換部31は、直流電源と、複数のスイッチング素子を含むインバータ回路(図示せず)とを有する。インバータ回路は、直流電源からの直流電圧を交流電圧に変換し、電力系統1にフィルタ3を介して出力する。
【0116】
このとき、インバータ回路は、PWMパルス生成部30からの出力であるPWMパルス信号vPWM,refに基づいて生成された電圧を出力する。
【0117】
PWMパルス信号v
PWM,refに基づく電圧が電力変換部31から出力されると、瞬時電圧指令算出部28の出力である瞬時電圧指令値v
out,refに相当する電圧v
outが、電力変換部31からノードN(
図2)に出力される。
【0118】
なお、PWMパルス生成部30と、電力変換部31とを合わせたものは、「電圧出力部」に相当する。つまり、電圧出力部は、加算部55の加算結果に応じた出力電圧を、フィルタ3に出力する。
【0119】
以上説明した電力変換装置2によれば、瞬時電流指令値irefを算出する際に瞬時電圧voutが考慮される。具体的には、瞬時電流指令値irefは、瞬時電流iout及び瞬時電圧voutに応じた値(制限前の瞬時電流指令値iref
*)とした上で制限される。これによって、過電流を抑制することができる。
【0120】
==第2実施形態==
本実施形態の電力変換装置は、第1実施形態の瞬時電流指令算出部25の設定部25p(
図5)が実行する処理が異なっている。第1実施形態の設定部52pが設定する上限値Nは、時刻に対して一定値とした。
【0121】
本実施形態の設定部は、絶対値Aが閾値を超えてから経過時間に応じて低下する上限値N(t)を設定する。
【0122】
特に、本実施形態の設定部は、閾値を超えてからの経過時間に応じてステップ状に変化する上限値N(t)を設定する。本実施形態の上限値N(t)を用いる例については、後述するシミュレーション結果を用いて説明する。
【0123】
==変形例==
本変形例の電力変換装置は、第2実施形態と比べると、上限値N(t)の関数形が異なっている。第2実施形態では、上限値N(t)は時刻tに対してステップ状に変化するとしたが、これに限られない。
【0124】
本変形例の設定部は、絶対値Aが閾値を超えた時刻からの経過時間に応じて連続的に変化する上限値N(t)を設定する。本実施形態の上限値N(t)を用いる例については、後述するシミュレーション結果を用いて説明する。
【0125】
==シミュレーション結果==
第1実施形態、第2実施形態及び変形例の電力変換装置についての数値シミュレーションを行った。その結果について説明する。
【0126】
図8は第1実施形態、
図9は第2実施形態、
図10は変形例1の電力変換装置についてのシミュレーション結果を示す図である。
【0127】
これらの図において、(a)は上限値N(t)を示している。(a)において横軸は時間tであり、t=-1[sec]から10[sec]までを示している。
【0128】
この数値シミュレーションでは、時間t=0[sec]において電力系統1に三相短絡事故が発生したと仮定した。
【0129】
第1実施形態の結果を示す
図8では、上限値N(t)は1.7[PU]であり、時間によらずに一定である。
【0130】
第2実施形態の結果を示す
図9では、上限値N(t)はステップ状に変化する。具体的には、事故が発生する前(t<0)から事故が発生した直後であるt=0.1[sec]まではN(t)=2.0[PU]、t=0.1[sec]からt=1.0[sec]まではN(t)=1.7[PU]、t=1.0[sec]からt=5.0[sec]まではN(t)=1.2[PU]、t=5.0[sec]からはN(t)=2.0[PU]とした。
【0131】
変形例の結果を示す
図10では、上限値N(t)は連続的に変化する。具体的には、事故が発生する前(t<0)から事故が発生した時間であるt=0.0[sec]まではN(t)=2.0[PU]、t=0[sec]からは時定数τ=0.5[sec]の一次遅れに従ってN(t)=1.2[PU]まで減少し、その後は時定数τ=2.0[sec]の一次遅れに従ってN(t)=2.0[PU]まで上昇する。
【0132】
また、
図8~
図9において、(b)は出力された皮相電流を示している。(b)において横軸は時間tであり、(a)と同じである。
【0133】
また、これらの図おいて、(c)及び(d)は、t=0[sec]近傍(横軸は、t=-0.05[sec]から0.05[sec]まで)のシミュレーション結果を示している。
【0134】
ここで、(c)は出力電圧の三相の各相の波形である。縦軸は、-1.5[PU]から1.5[PU]までを示している。また、(d)は出力電流の三相の各相の波形である。縦軸は、-4[PU]から4[PU]までを示している。
【0135】
また、これらの図おいて、(e)及び(f)は、t=2[sec]近傍(横軸は、t=1.95[sec]から2.05[sec]まで)のシミュレーション結果を示している。(e)及び(f)の縦軸はそれぞれ、(c)及び(d)と同じである。
【0136】
また、これらの図おいて、(g)及び(h)は、t=3[sec]近傍(横軸は、t=2.95[sec]から3.05[sec]まで)のシミュレーション結果を示している。(g)及び(h)の縦軸はそれぞれ、(c)及び(d)と同じである。
【0137】
次いで、それぞれの結果について考察する。先ず、事故の発生を仮定した時刻t=0近傍(
図8~
図9の(c)及び(d))では、いずれの場合も出力電流は定格電流の3倍程度まで一時的に上昇し、t=0.05[sec]までの期間は定格電流の2倍程度で推移している(これらの図の(d))。
【0138】
一方、t=2.0近傍(これらの図の(e)及び(f))においては、第1実施形態の場合(
図8)、定格電流の1.7倍程度で推移している(
図8(f))。また、第2実施形態及び変形例1の場合(
図9及び10)、定格電流程度で推移している(
図9及び
図10の(f))。
【0139】
また、t=3.0近傍(これらの図の(g)及び(h))においても、第1実施形態の場合(
図8)、定格電流の1.7倍程度で推移している(
図8(h))。また、第2実施形態及び変形例1の場合(
図9及び10)、定格電流程度で推移している(
図9及び
図10の(h))。
【0140】
これらの結果から、第2実施形態及び変形例の電力変換装置(
図9及び
図10)では、事故が発生した直後は一時的に定格電流を超える電流を出力するが、その後は速やかに定格電流内の電流値に戻ることがわかる。
【0141】
つまり、事故が発生した直後は、定格電流を超える電流を出力することにより電力系統の安定化に貢献する。また、定格電流を超える電流を出力した後は、速やかに定格電流内に戻り、電力変換装置の運転を継続することができる。
【0142】
したがって、上限値N(t)を事故が発生してからの経過時間に応じて低下するように設定することにより、電力系統の安定化に貢献しつつ、電力変換装置の運転を継続することが可能となる。
【0143】
==第3実施形態==
本実施形態の電力変換装置は、第1実施形態の瞬時電流指令算出部25の設定部25p(
図5)が実行する処理が異なっている。第1実施形態の設定部25pが設定する上限値Nは、時刻に対して一定値とした。
【0144】
本実施形態の設定部は、絶対値Aが所定の閾値を超えた場合に、電力変換装置の温度Tが高いほど低くなる上限値N(T)を設定する。
【0145】
これによって、電力変換部31の熱的な限界の範囲内で過電流を供給することができる。したがって、電力変換部31が熱の影響により故障したり停止したりすることを防ぐことができる。
【0146】
==実施形態の効果==
以上、実施形態の電力変換装置2は、電力系統1に連系されて仮想同期発電機として動作する電力変換装置であって、電力変換部31と、電力系統1と電力変換部31との間に設けられるフィルタ3と、電力変換部31から出力される電圧を制御する制御装置20と、を備え、制御装置20は、電力系統1に出力される出力電圧の振幅指令値を算出する電圧振幅指令算出部23と、電力系統の定格周波数に基づいて第1周波数指令値を算出し、第1周波数指令値を電力系統に出力される出力電圧の周波数指令値とする周波数指令算出部22と、出力電圧の振幅指令値、出力電圧の周波数指令値、電力系統1に出力された出力電圧および出力電流に基づいて第1電流指令値を算出し、第1電流指令値を電力系統1に出力される出力電流の電流指令値とする電流指令算出部25と、出力電流の電流指令値、フィルタ部に流れたフィルタ電流電力系統に出力された出力電圧に基づいて、電力変換部から出力される電圧の指令値を生成する瞬時電圧指令算出部28と、を備え、電流指令算出部25は、第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、第1電流指令値の大きさを上限値に制限した第2電流指令値を算出し、第2電流指令値を電力系統1に出力される出力電流の電流指令値とする。
【0147】
このような構成によれば、瞬時電流指令値を算出する際に瞬時電圧が考慮されることにより、過電流を抑制することができる。
【0148】
また、実施形態の電力変換装置2において、電流指令算出部25は、第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、第1電流指令値の大きさが上限値を超えてからの経過時間に応じて、上限値を低下させる。このような構成によれば、電力系統1に故障等が発生して絶対値Aが閾値を超えた直後において、過電流を急激に抑制しない。電力系統1に故障等が発生した直後は通常時に比べて大きな電流を流すことによって、電力系統1の安定化に貢献することができる。
【0149】
また、実施形態の電力変換装置2において、電流指令算出部25は、第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、第1電流指令値の大きさが上限値を超えてからの経過時間に応じて、上限値をステップ状に変化させる。このような構成によれば、故障等が発生してから所定の経過時間についてはより大きな電流を電力系統1に供給しつつ、それ以後は電力変換部31として無理のない範囲の電流を電力系統1に供給することができる。そのため、電力変換部31のコストを抑制した上で、電力系統1の安定化に貢献することが可能となる。
【0150】
また、実施形態の電力変換装置2において、電流指令算出部25は、第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、第1電流指令値の大きさが上限値を超えてからの経過時間に応じて、上限値を連続的に変化させる。このような構成によれば、より自然に過電流を連続的に減少させる制御が可能である。また、電力変換部31の冷却が考慮された、より安全な運転を実現することができる。
【0151】
また、実施形態の電力変換装置2において、電流指令算出部25は、第1電流指令値の大きさが上限値を超えているとき、電力変換部31の温度が高いほど上限値の値が低くなるように設定する。このような構成によれば、熱的に配慮が必要な部品の温度が高くなる場合には、上限値を下げることにより、電力変換部31の熱的な限界の範囲内で過電流を供給することができる。これによって、電力変換部31が熱の影響により故障したり停止したりすることを防ぐことができる。
とも同時に可能となる。
【0152】
また、実施形態の電力変換装置2は、電力系統1に出力された出力電圧に基づいて、周波数指令算出部22で生成される出力電圧の第1周波数指令値を補正するための周波数補正値を生成する補正値出力部26をさらに備え、周波数指令算出部は、第1周波数指令値と周波数補正値とに基づく第2周波数指令値を生成し、第2周波数指令値を周波数指令値とする。このような構成によれば、電力系統1に故障等が発生して過電流を抑制した状態となったときに、電力系統1との同期を維持することができる。つまり、過電流を抑制しつつ、運転を継続することができる。
【0153】
また、実施形態の電力変換装置において、電流指令算出部25は、第1電流指令値の大きさに対する制限の度合いを示す値を更に出力し、補正値出力部26は、制限の度合いを示す値が大きいほど、第2周波数指令値が第1周波数指令値よりも電力系統の周波数に近い値となるように周波数補正値を生成する。故障等の規模に応じた周波数指令値を算出することができる。これによって、周波数指令値の精度が向上するため、電力系統1を不安定化させることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0154】
電力系統 1
電力変換装置 2
制御装置 20
dq変換部 21,24
周波数指令算出部 22
加算器 22a,22b,22f,22i,22k,23a,23e,23f,24d,26b,26c,26e,26f,26g,26i,26j,26k,27a,27b,25c,25e,25h,25j,25m,26a
乗算器 22c,22e,22g,22h,22j,22l,23b,23c,24b,24c,26d,26l,26m,26n,25d,25f,25i,26c,26e
積分器 22n,23d
電圧振幅指令算出部 23
制限部 23g,24a,24e,25b,25r
瞬時電流指令算出部 25
逆dq変換部 27
瞬時電圧指令算出部 28
デマルチプレクサ 28a,28h
マルチプレクサ 28o
乗算部25g,25k,25l,25s,25t,26d
加算部 29
PWMパルス生成部 30
電力変換部 31
スイッチ 4
電流指令算出部 25
電流指令値出力部 25a
演算部 25n
検出部 25o
設定部 25p
除算部 25q
補正値出力部 26
処理部 26b