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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123739
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】シート材の成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/14 20060101AFI20240905BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B29C51/14
B29C51/10
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031380
(22)【出願日】2023-03-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
【テーマコード(参考)】
4F208
【Fターム(参考)】
4F208AC03
4F208AG03
4F208AG07
4F208AG21
4F208MA03
4F208MB01
4F208MB22
4F208MC01
4F208MG04
4F208MH06
(57)【要約】
【課題】生産効率の改善を図ることが可能なシート材の成形方法を提供すること。
【解決手段】第1シート材S11は、賦形により第1賦形部11となる第1賦形対象部A11を備えること、第2シート材S12は、一方の表面から他方の表面の間で通気可能な通気孔2を備えること、第1シート材S11と第2シート材S12とを、通気孔2が第1賦形対象部A11に対向する位置で重ねて接合し、接合した第1シート材S11および第2シート材S11を、第1シート材S11が下型6に面する位置に位置させ、接合した第1シート材S11および第2シート材S12の、下型6の側とその反対側との間に差圧を発生させることで、第1シート材S11および第2シート材S12の賦形を同時に行い、成形品1を得ること。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した第1シート材および第2シート材を下型の形状に沿った賦形を行うことで、前記第1シート材のみが賦形された第1賦形部と前記第1シート材および前記第2シート材がともに賦形された第2賦形部とを備える成形品を得るためのシート材の成形方法において、
前記第1シート材は、前記賦形により前記第1賦形部となる第1賦形対象部を備えること、
前記第2シート材は、一方の表面から他方の表面の間で通気可能な通気可能部を備えること、
前記第1シート材と前記第2シート材とを、前記通気可能部が前記第1賦形対象部に対向する位置で重ねて接合し、
接合した前記第1シート材および前記第2シート材を、前記第1シート材が前記下型に面する位置に位置させ、
接合した前記第1シート材および前記第2シート材の、前記下型の側とその反対側との間に差圧を発生させることで、前記第1シート材および前記第2シート材の前記賦形を同時に行い、前記成形品を得ること、
を特徴とするシート材の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシート材の成形方法において、
前記第1シート材と前記第2シート材とを、前記第1賦形対象部の外周部の全周で接合した状態で、前記賦形を行うこと、
を特徴とするシート材の成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシート材の成形方法において、
通気性を有する第3シート材により、前記通気可能部を前記第1シート材の反対側から覆い、前記賦形を行うこと、
を特徴とするシート材の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した第1シート材および第2シート材を下型の形状に沿った賦形を行うことで、前記第1シート材のみが賦形された第1賦形部と前記第1シート材および前記第2シート材がともに賦形された第2賦形部とを備える成形品を得るためのシート材の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品等の成形品を真空成形により得る場合、基材となるシート材(第1シート材)に、意匠面をなすシート材(第2シート材)が接合されることで形成される。このとき、成形品は、例えば図1に示す成形品1のように、第1シート材S11のみが賦形されている第1賦形部11と、第1シート材S11と第2シート材S12とが沿うように賦形されている第2賦形部12と、を備える場合がある。
【0003】
従来、このような成形品1は、第1シート材S11と第2シート材S12を重ねた状態で賦形してしまっては第1賦形部11を得ることができないため、第1シート材S11と第2シート材S12とを、それぞれ別個に賦形した上で、賦形された第1シート材S11と第2シート材S12とを接合して得ることが一般的である。なお、シート材を真空成形を行う技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に開示される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-114639号公報
【特許文献2】特開2022-174915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、第1シート材S11と第2シート材S12とを、それぞれ別々に賦形を行った上、接合するとした場合、成形品1を得るまでの工程数が多くなるという問題がある。また、賦形された第1シート材S11および第2シート材S12のように、それぞれ立体的に賦形された成形品同士を接合するのは、位置合わせが困難であるという問題がある。以上のような工程数および位置合わせの問題は、生産効率の低下を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、生産効率の改善を図ることが可能なシート材の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の熱成形装置は、次のような構成を有している。
【0008】
(1)加熱した第1シート材および第2シート材を下型の形状に沿った賦形を行うことで、前記第1シート材のみが賦形された第1賦形部と前記第1シート材および前記第2シート材がともに賦形された第2賦形部とを備える成形品を得るためのシート材の成形方法において、前記第1シート材は、前記賦形により前記第1賦形部となる第1賦形対象部を備えること、前記第2シート材は、一方の表面から他方の表面の間で通気可能な通気可能部を備えること、前記第1シート材と前記第2シート材とを、前記通気可能部が前記第1賦形対象部に対向する位置で重ねて接合し、接合した前記第1シート材および前記第2シート材を、前記第1シート材が前記下型に面する位置に位置させ、接合した前記第1シート材および前記第2シート材の、前記下型の側とその反対側との間に差圧を発生させることで、前記第1シート材および前記第2シート材の前記賦形を同時に行い、前記成形品を得ること、を特徴とする。
【0009】
(1)に記載のシート材の成形方法によれば、第1シート材のみが賦形された第1賦形部と第1シート材および第2シート材がともに賦形された第2賦形部とを備える成形品を、それぞれのシート材を別個に成形を行うことなく、一度の成形により得ることが可能である。したがって、成形品を得るための工程数の削減が可能であるとともに、それぞれ別個に賦形されたシート材同士を接合するための位置合わせが不要となる。よって、生産効率の向上を図ることができる。
【0010】
重ねて接合された第1シート材および第2シート材を賦形することで、第1シート材のみが賦形された第1賦形部が得られるメカニズムは以下の通りである。接合した第1シート材および第2シート材とを、第1シート材が下型に面する位置に位置させ、接合した第1シート材および第2シート材の、下型の側とその反対側との間に差圧を発生させると、第1賦形対象部が賦形され、第1賦形部となる。このとき、第2シート材の通気可能部が、第1賦形対象部に対向して位置しているため、第1賦形対象部が賦形される際に、通気可能部を空気が透過する。この空気の透過により、第2シート材の、下型側の面と反対側の面との間には差圧が発生しないため、第2シート材の第1賦形対象部に面する部分は賦形されず、第1シート材のみが賦形された第1賦形部を得ることができるのである。なお、通気可能部とは、例えば、第2シート材を、一方の面から他方の面まで貫通する孔である。
【0011】
なお、差圧を発生させる手段としては、接合した第1シート材および第2シート材の下型の側から真空吸引を行うこととしても良いし、第1シート材および第2シート材の下型とは反対の側から圧空を送ることとしても良い。さらには、真空吸引と圧空の双方を用いることとしても良い。
【0012】
(2)(1)に記載のシート材の成形方法において、前記第1シート材と前記第2シート材とを、前記第1賦形対象部の外周部の全周で接合した状態で、前記賦形を行うこと、が好ましい。
【0013】
第1賦形対象部の賦形を行う際、空気が通気可能部を透過して、第1シート材と第2シート材の間に入り込むと、成形品において不要な、第1シート材と第2シート材の間の隙間が生じるおそれがある。(2)に記載のシート材の成形方法によれば、第1賦形対象部の外周部の全周で接合した状態で賦形を行うため、通気可能部を透過し、第1シート材と第2シート材の隙間に入り込んだ空気が、接合した箇所から先に進入することがない。よって、第1賦形対象部の賦形を行いつつも、成形品に不要な隙間が生じることを防止することができる。
【0014】
(3)(1)または(2)に記載のシート材の成形方法において、通気性を有する第3シート材により、前記通気可能部を前記第1シート材の反対側から覆い、前記賦形を行うこと、が好ましい。
【0015】
例えば、成形品が自動車の内装部品等であると、通気可能部(例えば孔)が外観に表れていることが好ましくない場合がある。(3)に記載のシート材の成形方法によれば、第3シート材により、通気可能部を第1シート材の反対側から覆うため、通気可能部を隠すことが可能である。しかも、第3シート材は通気性を有するため、賦形を行う際に、空気が通気可能部を透過することを妨げない。よって、第1シート材のみが賦形された第1賦形部を得ることが可能である。なお、通気性を有する第3シート材とは、例えば、多孔質性のシートや、繊維質からなるシート、不織布等である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシート材の成形方法によれば、生産効率の改善を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係るシート材の成形方法により得られる成形品1の断面図である。
図2】(a)は、第1シート材を示す図であり、(b)は、(a)のA-A断面図である。
図3】(a)は、第2シート材を示す図であり、(b)は、(a)のB-B断面図である。
図4】(a)は、接合された第1シート材と第2シート材を示す図であり、(b)は、(a)のC-C断面図である。
図5】接合シート材の加熱工程について説明する図である。
図6】接合シート材を賦形する工程について説明する図である。
図7】接合シート材を賦形する工程について説明する図である。
図8】接合シート材の変形例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のシート材の成形方法の実施形態ついて、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係るシート材の成形方法により得られる成形品1の断面図である。図2(a)は、第1シート材S11を示す図であり、図2(b)は、図2(a)のA-A断面図である。図3(a)は、第2シート材S12を示す図であり、図3(b)は、図3(a)のB-B断面図である。図4(a)は、接合された第1シート材S11と第2シート材S12を示す図であり、図4(b)は、図4(a)のC-C断面図である。図5は、接合シート材S21の加熱工程について説明する図である。図6は、接合シート材S21を賦形する工程について説明する図である。図7は、接合シート材S21を賦形する工程について説明する図である。なお、接合シート材S21とは、第1シート材S11と第2シート材S12とを接合した状態のものである。
【0019】
<成形品およびシート材について>
本実施形態に係るシート材の成形方法は、例えば図1に示すような、第1シート材S11のみが賦形されている第1賦形部11と、第1シート材S11と第2シート材S12とが沿うように賦形されている第2賦形部12と、を備える成形品1を得るために用いられる。
【0020】
成形品1は、例えば自動車の内装部品であり、基材となる第1シート材S11に、意匠面をなす第2シート材S12とにより形成されている。第1シート材S11および第2シート材S12は、ともに、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、またはポリカーボネート(PC)、またはポリプロピレン(PP)からなる樹脂製のシート材である。厚みt11,t12(図2(b),図3(b)参照)は、特に限定されないが、例えば1.5~3.0mmである。
【0021】
第1シート材S11は、図2(a),(b)に示すように、成形に必要な大きさに切断された状態であり、中央部に、賦形されて成形品1の第1賦形部11となる第1賦形対象部A11を備える。この第1賦形対象部A11の範囲は、第1賦形部11の形状や大きさにより定まる。さらに、第1シート材S11は、外周部に、賦形されて成形品1の第2賦形部12となる第2賦形対象部A12を備える。この第2賦形対象部A12の範囲は、第2賦形部12の形状や大きさにより定まる。なお、図2(a)の第1シート材S11の表面に表されている破線は、説明を分かりやすくするために、第1賦形対象部A11、第2賦形対象部A12の範囲を仮想的に表すものである。
【0022】
第2シート材S12は、図3(a),(b)に示すように、成形に必要な大きさに切断された状態であり、中央部に、第2シート材S12を貫通する通気孔2(通気可能部の一例)が3個設けられている。第2シート材S12に通気孔2を形成する手段は、特に限定されないが、例えばNC加工により形成する。通気孔2の位置は、第1シート材S11と第2シート材S12とを重ねたときに、第1賦形対象部A11の範囲内に入る位置とされている。さらに、第2シート材S12は、外周部に、賦形されて成形品1の第2賦形部12となる第3賦形対象部A22を備える。第3賦形対象部A22は、賦形時に、第1シート材S11の第2賦形対象部A12とともに賦形される部分であり、その範囲は、第2賦形部12の形状や大きさにより定まる。なお、図3(a)の第2シート材S12の表面に表されている破線は、説明を分かりやすくするために、第3賦形対象部A22の範囲を仮想的に表すものである。
【0023】
<成形の工程について>
以上のような第1シート材S11および第2シート材S12は、以下のように賦形が行われ、成形品1となる。
【0024】
まず、図4(a),(b)に示すように、第1シート材S11と第2シート材S12の接合を行う。具体的には、第2シート材S12を、第1シート材S11に対し、通気孔2が第1賦形対象部A11に対向するように、かつ、第2賦形対象部A12と第3賦形対象部A22とが重なるように位置する。そして、溶着部W11として示すように、第1賦形対象部A11の外周部の全周で、第1シート材S11と第2シート材S12とを、レーザ溶着またはスポット溶着により接合する。以下、接合した第1シート材S11と第2シート材S12とを、単に接合シート材S21という。
【0025】
なお、成形品1の表面(第2シート材S12の表面)に溶着痕が形成されることが、外観上好ましくない場合には、溶着部W11が第2シート材S12の表面まで達しないよう配慮する必要がある。また、第1シート材S11と第2シート材S12とは、接着剤により接合することとしても良い。また、図4(a)の接合シート材S21の表面に表されている破線は、説明を分かりやすくするために、第1賦形対象部A11、第2賦形対象部A12(第3賦形対象部A22)の範囲を仮想的に表すものである。
【0026】
次に、接合シート材S21を、成形可能な程度に軟化する温度まで加熱する。具体的には、図5に示すように、接合シート材S21が、両端を保持機構4により保持された状態で、第2シート材S12側に位置する上側加熱装置3Aと、第1シート材S11側に位置する下側加熱装置3Bと、により加熱される。上側加熱装置3Aは、第2シート材S12に対向してヒータを複数並べてヒータ群を備えており、接合シート材S21を輻射加熱する。下側加熱装置3Bも同様に、第1シート材S11に対向してヒータを複数並べてヒータ群を備えており、接合シート材S21を輻射加熱する。接合シート材S21を何度にまで加熱するのかは、第1シート材S11および第2シート材S12の材質や、成形品1の形状等に応じ、成形不良が起こらない温度に定められる。なお、接合シート材S21は、輻射加熱ではなく、熱板を用いて加熱するものとしても良い。
【0027】
次に、真空成形装置5により接合シート材S21を賦形する。
ここで、真空成形装置5の構成を説明する。真空成形装置5は、図6および図7に示すように、下型6と、上型7と、真空ポンプ8と、コンプレッサ9と、を備えている。
【0028】
下型6および上型7は、ともにエアシリンダ等の昇降手段(図示せず)によって図中の上下方向に沿って移動可能となっている。図6および図7に示すのは、下型6が上限位置、上型7が下限位置にある状態であり、下型6と上型7とが相互に近接し、接合シート材S21を介して当接した状態である。この状態において、真空成形装置5内には、密閉された成形空間Rが形成されている。そして、成形空間R内において、接合シート材S21の賦形が行われる。
【0029】
下型6は、接合シート材S21を所望の形状に成形するためのキャビティ61A,61Bを備えている。このキャビティ61Aは、成形品1の第1賦形部11を得るためのキャビティであり、キャビティ61Bは、成形品1の第2賦形部12を得るためのキャビティである。さらに、下型6は、キャビティ61A,61Bに開口する真空通気口62と、真空ポンプ8が接続された第1通気口63と、を備えている。真空通気口62と第1通気口63は下型6内部で連通しているため、真空ポンプ8の動作により、キャビティ61A,61B表面の側を真空吸引することが出来る。この真空吸引により、接合シート材S21の下型6側と上型7側との間で差圧が生じるため、接合シート材S21は、キャビティ61A,61Bに吸い寄せられて賦形される。
【0030】
上型7は、コンプレッサ9が接続された第2通気口71を有している。これにより、コンプレッサ9から上型7内に圧空を送り込むことができる。また、上型7は、上型7内に送り込まれた圧空を成形空間Rに送る第3通気口73を備えている。成形空間R内は圧空が送られることで加圧され、これにより接合シート材S21を下型6のキャビティ61A,61Bに密着させることができる。
【0031】
成形の工程の説明に戻ると、真空成形装置5による接合シート材S21の賦形は以下のように行われる。
下型6と上型7を相互に離間させた状態(下型6を下限位置、上型7を上限位置に位置させた状態)で、接合シート材S21を真空成形装置5内に搬送する。このとき、接合シート材S21は、第1シート材S11が下型6に面するように位置される。また、当然に、第1賦形対象部A11がキャビティ61Aの上方に位置され、かつ、第2賦形対象部A12および第3賦形対象部A22がキャビティ61Bの上方に位置されている。接合シート材S21が搬送されると、図6に示すように、下型6を上限位置、上型7を下限位置に位置させることで、型を閉じる。なお、接合シート材S21の真空成形装置5内への搬送は、自動搬送でも良いし、作業者が搬送することとしても良い。
【0032】
そして、真空ポンプ8による真空吸引と、コンプレッサ9による成形空間Rの加圧が同時に行われる。なお、真空吸引の圧力は、特に限定されないが、例えば-0.1Mpaである。また、加圧は、特に限定されないが、0.6Mpaの圧空により行われる。
【0033】
真空吸引および圧空により、接合シート材S21の下型6の側とその反対側との間に差圧を発生させる。具体的には、接合シート材S21の下型6の側の圧力を、その反対側(上型7の側)の圧力よりも低くする。これにより、図7に示すように、第1シート材S11の第2賦形対象部A12および第2シート材S12の第3賦形対象部A22は、キャビティ61Bに沿って賦形され、成形品1の第2賦形部12となる。
【0034】
さらに、真空吸引および圧空により、図7に示すように、第1シート材S11の第1賦形対象部A11がキャビティ61Aに沿って賦形され、成形品1の第1賦形部11となる。この際、第2シート材S12の第1賦形対象部A11に面する部分は賦形されない。そのメカニズムは以下の通りである。第2シート材S12の通気孔2が、第1賦形対象部A11に対向して位置しているため、第1賦形対象部A11が賦形される際、図中の矢印Yに示すように通気孔2を空気が透過する。この空気の透過により、第2シート材S12の、下型6側の面と反対側の面との間に差圧が発生しない。よって、第2シート材S12の第1賦形対象部A11に面する部分は賦形されず、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11を得ることができるのである。
【0035】
なお、通気孔2の径は小さすぎると、第1賦形対象部A11の賦形の際に、空気が通気孔2を十分に透過することが出来ず、第2シート材S12まで賦形されてしまうおそれがある。つまり、通気孔2の径は、第1賦形対象部A11の面積、接合シート材S21の物性、圧空および真空吸引の圧力等に左右されるもので、第1賦形部11を確実に得られる大きさを実験的に求めるものである。また、通気孔2を設ける個数についても同様に、第1賦形対象部A11の面積、接合シート材S21の物性、圧空および真空吸引の圧力等に左右されるもので、第1賦形部11を確実に得られる個数を実験的に求められるものであり、本実施形態の個数に限定されない。
【0036】
また、第1賦形対象部A11が賦形される際、空気が通気孔2を透過して、第1シート材S11と第2シート材S12の間に入り込むと、成形品1において不要な、第1シート材S11と第2シート材S12の間の隙間が生じるおそれがある。しかし、本実施形態に係るシート材の成形方法では、溶着部W11によりこれを防いでいる。具体的に説明すると、第1シート材S11と第2シート材S12は、第1賦形対象部A11の外周部の全周で接合されている。つまり、溶着部W11が、第1賦形対象部A11を取り囲むようにして形成されている。このため、通気孔2を透過し、第1シート材S11と第2シート材S12の隙間に入り込んだ空気が、溶着部W11から外側に進入することがない。よって、第1賦形対象部A11の賦形を行いつつも、成形品1に不要な隙間が生じることを防止することができる。
【0037】
そして、賦形が完了した後は、製品としては不要な接合シート材S21の外周部をトリミングすることで、成形品1を得ることができる。
【0038】
<シート材の変形例について>
次に、接合シート材S21の変形例について、図8を用いて説明する。図8は、接合シート材S21の変形例について説明する図である。
【0039】
成形品1が自動車の内装部品等であると、通気孔2が外観に表れていることが好ましくない場合がある。そのような場合には、図8に示すように、接合シート材S21に対して、通気性を有する第3シート材S13を、第2シート材S12の側から接合することが望ましい。通気性を有する第3シート材S13とは、例えば、多孔質性のシートや、繊維質からなるシート、不織布等である。これにより、通気孔2を覆い隠すことが可能である。しかも、第3シート材S13は通気性を有するため、賦形を行う際に、空気が通気孔2を透過することを妨げない。よって、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11を得ることが可能である。
【0040】
なお、第3シート材S13の接合する手段は特に限定されるものではなく、接合シート材S21に対して接着剤等により接合しても良いし、第1シート材S11と第2シート材S12との接合を行う際に、合わせて接合するものとしても良い。また、第3シート材S13は、必ずしも接合シート材S21の全面を覆う必要はなく、通気孔2を隠すことが可能な程度の大きさを有するものであっても良い。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係るシート材の成形方法によれば、
(1)加熱した第1シート材S11および第2シート材S12を下型6の形状に沿った賦形を行うことで、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11と第1シート材S11および第2シート材S12がともに賦形された第2賦形部12とを備える成形品1を得るためのシート材の成形方法において、第1シート材S11は、賦形により第1賦形部11となる第1賦形対象部A11を備えること、第2シート材S12は、一方の表面から他方の表面の間で通気可能な通気可能部(例えば通気孔2)を備えること、第1シート材S11と第2シート材S12とを、通気可能部(通気孔2)が第1賦形対象部A11に対向する位置で重ねて接合し、接合した第1シート材S11および第2シート材S12(接合シート材S21)を、第1シート材S11が下型6に面する位置に位置させ、接合した第1シート材S11および第2シート材S12(接合シート材S21)の、下型6の側とその反対側との間に差圧を発生させることで、第1シート材S11および第2シート材S12の賦形を同時に行い、成形品1を得ること、を特徴とする。
【0042】
(1)に記載のシート材の成形方法によれば、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11と第1シート材S11および第2シート材S12がともに賦形された第2賦形部12とを備える成形品1を、それぞれのシート材S11,S12を別個に成形を行うことなく、一度の成形により得ることが可能である。したがって、成形品1を得るための工程数の削減が可能であるとともに、それぞれ別個に賦形されたシート材S11,S12同士を接合するための位置合わせが不要となる。よって、生産効率の向上を図ることができる。
【0043】
重ねて接合された第1シート材S11および第2シート材S12を賦形することで、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11が得られるメカニズムは以下の通りである。接合した第1シート材S11および第2シート材S12とを、第1シート材S11が下型6に面する位置に位置させ、接合した第1シート材S11および第2シート材S12(接合シート材S21)の、下型6の側とその反対側との間に差圧を発生させると、第1賦形対象部A11が賦形され、第1賦形部11となる。このとき、第2シート材S12の通気可能部(通気孔2)が、第1賦形対象部A11に対向して位置しているため、第1賦形対象部A11が賦形される際に、通気可能部(通気孔2)を空気が透過する。この空気の透過により、第2シート材S12の、下型6側の面と反対側の面との間には差圧が発生しないため、第2シート材S12の第1賦形対象部A11に面する部分は賦形されず、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11を得ることができるのである。
【0044】
なお、本実施形態においては、差圧を発生させる手段として真空ポンプ8およびコンプレッサ9を用い、接合シート材S21の下型6の側から真空吸引を行うとともに、接合シート材S21の下型6とは反対の側(上型7の側)から圧空を送ることとしている。ただし、差圧を発生させるためには、真空ポンプ8による下型6の側からの真空吸引か、コンプレッサ9による上型7の側からの圧空か、どちらか一方を用いるものとしても良い。
【0045】
(2)(1)に記載のシート材の成形方法において、第1シート材S11と第2シート材S12とを、第1賦形対象部A11の外周部の全周で接合した状態で、賦形を行うこと、が好ましい。
【0046】
第1賦形対象部A11の賦形を行う際、空気が通気可能部(通気孔2)を透過して、第1シート材S11と第2シート材S12の間に入り込むと、成形品1において不要な、第1シート材S11と第2シート材S12の間の隙間が生じるおそれがある。(2)に記載のシート材の成形方法によれば、第1賦形対象部A11の外周部の全周で接合した状態で賦形を行うため、通気可能部(通気孔2)を透過し、第1シート材S11と第2シート材S12の隙間に入り込んだ空気が、接合した箇所(溶着部W11)から先に進入することがない。よって、第1賦形対象部A11の賦形を行いつつも、成形品1に不要な隙間が生じることを防止することができる。
【0047】
(3)(1)または(2)に記載のシート材の成形方法において、通気性を有する第3シート材S13により、通気可能部(通気孔2)を第1シート材S11の反対側から覆い、賦形を行うこと、が好ましい。
【0048】
例えば、成形品1が自動車の内装部品等であると、通気可能部(通気孔2)が外観に表れていることが好ましくない場合がある。(3)に記載のシート材の成形方法によれば、第3シート材S13により、通気可能部(通気孔2)を第1シート材S11の反対側から覆うため、通気可能部(通気孔2)を隠すことが可能である。しかも、第3シート材S13は通気性を有するため、賦形を行う際に、空気が通気可能部(通気孔2)を透過することを妨げない。よって、第1シート材S11のみが賦形された第1賦形部11を得ることが可能である。
【0049】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、本発明に係るシート材の成形方法により得られる成形品の形状は、上に説明する成形品1の形状に限定されない。また、当然に第1賦形部11と第2賦形部12の数や位置関係も特に限定されるものでない。また、第2シート材S12を意匠面をなすものとして説明しているがこれに限定されない。
【0050】
また、本実施形態においては、接合シート材S21を真空成形装置5の搬入前に加熱するものとして説明しているが、真空成形装置が加熱装置を備えるものとし、真空成形装置に搬入された接合シート材S21を加熱してから賦形することとしても良い。
【0051】
さらにまた、本実施形態においては、第1シート材S11および第2シート材S12は、成形に必要な大きさに切断された状態で、接合、加熱、賦形が行われるものとして説明しているが、これに限定されない。例えば、第1シート材S11および第2シート材S12をロールから送り出した状態で、接合、加熱、賦形を行うものとしても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 成形品
2 通気孔(通気可能部の一例)
6 下型
11 第1賦形部
12 第2賦形部
S11 第1シート材
S12 第2シート材
図1
図2
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図8