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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123752
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】昇華転写接着シート
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20240905BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
B44C1/17 F
B32B27/00 E
B32B27/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031402
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】594110169
【氏名又は名称】重田 勝美
(71)【出願人】
【識別番号】500039728
【氏名又は名称】重田 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】重田勝美
(72)【発明者】
【氏名】重田明子
【テーマコード(参考)】
3B005
4F100
【Fターム(参考)】
3B005FA06
3B005FB23
3B005FB26
3B005FB37
3B005FC04Z
3B005FC08Z
3B005FE01
3B005FE22
3B005FF01
3B005FF06
3B005FG08Z
3B005FG10Y
3B005GA05
3B005GB01
4F100AK25C
4F100AK41C
4F100AK42C
4F100AK51A
4F100AK51D
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA13
4F100CA13B
4F100CA13D
4F100CB00
4F100CB00A
4F100EC04
4F100EC04B
4F100EJ42
4F100EJ42B
4F100GB72
4F100HB00
4F100HB00B
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4F100JA04D
4F100JB16C
4F100JL10
4F100JL10B
4F100JL10D
4F100JL11
4F100JL11A
4F100YY00A
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】昇華染料で描画された原画を、被着物、特に天然繊維製品の所望の位置に正確に転写することができる昇華転写接着シートを提供すること。
【解決手段】熱可塑性芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩とが、重量比3:1~64:1の比率で混合して形成された樹脂層からなる被着面に対して接着可能な厚み10~50μmの接着シートの、一方の面に昇華性の染料又は顔料を用いた描画等が転写されてなることを特徴とする昇華転写接着シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩とが、重量比3:1~64:1の比率で混合して形成された樹脂層からなる被着面に対して接着可能な厚み10~50μmの接着シートの、一方の面に昇華性の染料又は顔料を用いた描画等が転写されてなることを特徴とする昇華転写接着シート。
【請求項2】
前記熱可塑性芳香族ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ1,4-ジメチルシクロヘキサンテレフタレートから選択される少なくとも1つの成分であることを特徴とする請求項1に記載の昇華性転写接着シート。
【請求項3】
前記ポリアクリル酸塩が、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、スルホン酸変性ポリアクリル酸ナトリウム、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムから選択される少なくとも1つの成分であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の昇華性転写接着シート。
【請求項4】
前記樹脂層が、
前記熱可塑性ポリエステルと、ポリアクリル酸ナトリウムとが重量比3:1~64:1の比率で混合して形成された厚み10~35μmの第一樹脂層と、
前記熱可塑性ポリエステルと、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムとが重量比3:1~64:1の比率で混合して形成された厚み10~35μmの第二樹脂層との、
二層構造を有することを特徴とする請求項1乃至3に記載の昇華性転写接着シート。
【請求項5】
前記昇華転写接着シートの昇華性の染料又は顔料で染色していない面側に、着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの下地隠蔽層を形成し、
前記下地隠蔽層の上に被着面に対して接着可能な厚み20~50μmで、融点が80~110℃のポリウレタン系樹脂の接着層を形成した、三層構造とされていることを特徴とする請求項1に記載の昇華転写接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め昇華性の染料又は顔料により所望の絵柄を転写した合成樹脂製シートであって、当該シートを被着物の被転写領域に加熱・加圧処理することにより、前記絵柄を転写・形成することができる昇華転写接着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
Tシャツ、スポーツウエア、ユニフォーム等の衣類に種々のデザインパターンを描画する方法として、昇華転写染色方法が知られている。昇華転写染色方法とは、昇華転写用シートに昇華可能な染料で反転画像を印刷して原画マーキングシートを作成し、次いで該原画マーキングシートと被転写物を重ね合わせて加熱・加圧処理することで、前記シートに形成された原画が染料の昇華によって被転写物に転写され、顧客の好みに合わせた色・柄・模様などのデザインが付与されるというものである。
【0003】
昇華転写染色方法に用いる転写用シートへの原画形成方法としては、スクリーン印刷やグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などのいわゆる版を用いた方法や、多品種の小生産に適したインクジェット記録方式によりデジカメ写真やパソコンで作成した画像をプリンタに送信して形成する方法がある。
【0004】
インクジェット記録方式による例としては、原画信号からミラーイメージ画像を作成する工程と、熱昇華性染料を含有させた微粒子を分散させたインクをインクジェットプリントヘッドによりインク受容性シート面に噴射させて画像を形成することで昇華転写捺染原版を作成する工程と、任意のプリント媒体(被転写物)と前記原版を重ね合わせて加熱し、昇華染料をプリント媒体に熱昇華転写させる工程とを具備する方法(特許文献1)がある。この方法によれば、小部数のプリント媒体に簡易な方法で高精細な画像を形成することができる。
【0005】
従来、熱昇華性染料による転写の対象(被転写物)としてはポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維(ナイロンなど)、セルロース系合成繊維(アセテートなど)などの化学繊維で形成された衣類に限定されている。熱昇華性染料は、基本的に親油性であるため、染料とこれらの化学繊維との親和性が高く、接着性・染色性に優れているからである。
【0006】
近年、スポーツウエア、ユニフォーム等衣類の素材は、肌触りの良さや環境等を考慮して、木綿、麻、絹、羊毛などのいわゆる天然繊維製品が用いられ、これらを被転写物とした簡易な染色方法が求められている。
【0007】
天然繊維製品への染色方法としては、富士桜の葉から得られる色素を染着して、ポリアミン系化合物の溶液中に浸漬させることによって染色する方法(特許文献2)や、天然繊維と化学繊維を混合織物とした製品を分散染料などにより染色する方法(特許文献3)などが例示される。前者は昇華性染料によるものではなく、また後者は分散染料や昇華性染料による染色可能な化学繊維を混合したことで、「天然繊維を含む」製品を染色することができるようにしたものであり、いわゆる天然繊維100%の製品に昇華性染料で染色する技術ではない。
【0008】
ところで、昇華転写プリントは、転写紙上に描画された図案を、加熱・加圧することで、転写紙から被転写物に直接染料を昇華させてプリントする技術であり、他の染色方法と比べて省力化、加工時間の短縮、環境負荷の低減など多くの利点がある。しかし用いられる昇華性染料との親和性において適応可能な繊維素材がほぼ限定されており、親水性の天然繊維を素材とした製品への適用には、親油性の染料が馴染みにくいこともあって、充分な検討がされてきたとは言い難い。
【0009】
この点について例えば、天然繊維の布地表面に予め転写ラッカーを塗布して前処理を行う技術(特許文献4)や、予め水溶性アクリル樹脂を用いてパディング処理した綿繊維を用いて染色する技術(非特許文献1)などが開発されている。これらは染料と馴染ませるための前処理を必要としている。また、加熱溶融性の粉体を転写シートの表面に振りかけて付着させたのち、被転写物を重ね合わせて転写する技術(特許文献5)も提案された。
【0010】
前記各提案は、天然繊維製品に対して昇華転写技術を適用した点で優れたものであるが、昇華転写の利点を生かした、より簡便・簡易な適用方法については、さらに検討を進め、多様なニーズに対応できる新たな提案が求められており、本発明者らは、先に、ポリエステル系樹脂とポリウレタン系樹脂を重量比30:70~70:30の比率で混合して形成された被着面に対して接着可能な厚み10~30μmの接着シートの一方の面に昇華性染料を用いた描画等が転写されてなる昇華転写接着シートを提案している。
【0011】
しかし、接着シートの構成ポリマーとしてポリウレタン系樹脂を添加すると、昇華性染料がシート(樹脂)内で拡散し、転写直後と比較して、転写描画にブリード(滲み)が生じる傾向があることが判った。ポリウレタン系樹脂は、常温における樹脂(ポリマー鎖)の分子運動が活発であり、昇華性染料分子が、樹脂内を自由に移動し易い(拡散し易い)ことが原因と思われる。また、染料分子とウレタンポリマーとの分子間結合力がそれほど高くないことも絵柄のシャープさを維持し難い理由と考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10-58638号公報
【特許文献2】特開平4-194090号公報
【特許文献3】特開平4-214478号公報
【特許文献4】特開平5-219151号公報
【特許文献5】特開2019-171840号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】東京都立産業技術研究センター研究報告,第5号,2010年,128-129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、昇華性の染料又は顔料で描画された原画を、被着物、特に天然繊維製品の所望の位置に正確に転写し、転写された描画の経時的なブリードの発生を防止することができる昇華転写接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、本発明の昇華転写接着シートは、熱可塑性芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩とが、重量比3:1~64:1の比率で混合して形成された樹脂層からなる被着面に対して接着可能な厚み10~50μmの接着シートの、一方の面に昇華性の染料又は顔料を用いた描画等が転写されてなることを特徴とする。
【0016】
昇華転写接着シート(以下単に「接着シート」ともいう。)は、昇華性の染料又は顔料によって描画形成された表面(「描画面」ともいう)と、加熱することで天然繊維製品等に対して接着させることができる裏面(「接着面」ともいう)を有する、いわばシールのようなものである。該シートの芳香族ポリエステル樹脂に親油性の昇華性染料を補足させて固定し、室温下では染料がシート内を拡散しないよう(ブリードしないよう)に調整した。
【0017】
昇華性染料として一般に使用されるのは、分散染料といわれるポリエステル系繊維の染色のための染料で、例えば、下記式(1)のような化学構造を有する。
【0018】
【化1】
【0019】
この構造から理解できるように染料は、親油性かつ芳香族環を有している。一方、本発明で使用する芳香族ポリエステルは後述するようにポリマーの主鎖に芳香族環を有し、前記昇華性染料との親和性に優れている。また、芳香族ポリエステルはポリウレタンと比較して室温下でのポリマー鎖の分子運動が少ないので、染色後の染料の分散を抑制して、絵柄のブリードを防止していると考えられる。
【0020】
本発明で使用する芳香族ポリエステルのガラス転移温度は約-20℃程度が好ましく、室温では柔軟性を有する。さらに、ポリアクリル酸塩の配合によって、被着物(例えば天然繊維製品など)への接着性を向上することで、天然繊維素材の肌触りを生かしつつ(良好な柔軟性)、シールの被着物に対する接着強度を高めることができるのである。
【0021】
前記熱可塑性芳香族ポリエステルは、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ1,4-ジメチルシクロヘキサンテレフタレートから選択される少なくとも1つ又はこれらの組み合わせであることを特徴とする。これらは広く一般に流通している材料であり、入手の容易性、コスト、取り扱い易さ等に優れている。
【0022】
前記ポリアクリル酸塩は、より具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、スルホン酸変性ポリアクリル酸ナトリウム、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムから選択される少なくとも1つ又はこれらの組み合わせを使用する。ここでいう「変性」とは、「ポリマーの基本構造を変えることなく、一部の分子鎖の種類または配置を変えること」をいう。本発明ではアクリル酸のカルボキシル基の一部がスルホン酸基に置き換えられている。
【0023】
また「架橋型」とは、ポリアクリル酸のポリマー同士が一部架橋剤(例えば、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリオキシエチレン)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の、分子内に重合性二重結合を少なくとも2個有する化合物)を添加して、ポリアクリル酸が二次元的或いは三次元的に結合しているものをいう。
【0024】
本発明で使用されるポリアクリル酸塩も、広く一般に流通している材料であり、入手の容易性、コスト、取り扱い易さ等に優れている。
【0025】
また、本発明の昇華転写接着シートは、接着面側(つまり昇華性の染料又は顔料で染色していない面側)に、さらに、着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を介して、該下地隠蔽層の上に被着面に対して接着可能な厚み20~50μmで、融点が80~110℃のポリウレタン樹脂の「接着層」を形成した、三層構造とされていても良い。
【0026】
前記下地隠蔽層は、文字通り、天然繊維製品の生地の色が黒や紺などの濃色系に染められている場合に、本発明の接着シート表面の昇華性染料で描画した絵柄が、生地の色に負けて鮮明には見え難くなることを防止するためのものである。
【0027】
また、下地隠蔽層が顔料等を含んで硬化する傾向があるため、前記接着層には被着物に対する接着力を付与する役割を持たせている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の昇華転写接着シートは、被着物に対して接着させることが目的なので、被着物の素材と昇華性の染料又は顔料との相性(例えば染まり易いかどうかなど)を考慮する必要がなく、昇華転写の適用範囲が飛躍的に拡大する。また、接着シートを原画単位で取り扱うことができるので、所望の配置・位置に正確に転写(正確には本発明の転写済み接着シートを「接着」)することができる。
【0029】
被着物が天然繊維素材であっても、本発明の接着シートを構成する芳香族ポリエステル系樹脂に昇華性染料を捕捉させ、該接着シートの薄さも手伝って、一見すると天然繊維に直接昇華染料を転写したかのごとく表現できる。
【0030】
昇華転写されるのは、接着シートであって、被着物に直接昇華染料を載せるわけではない。従って、昇華転写時の熱が直接、被着物に加えられることがないため、対象の被着物の耐熱性が低い場合でも、昇華染料による染色の適用範囲になり得る。
【0031】
さらに、接着シートを三層構造として、中間層に下地隠蔽層を用いることにより、被着物の生地・素材が濃色系のものであっても、転写画像がボケたり、鮮明性を失うことなく表現することができる。また、昇華性染料が下地隠蔽層にも浸透して、本発明の接着シートの表面が摩耗しても画像の消失を防止するとともに、奥深い絵柄に仕上げることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、原画マーキングシート(M)の絵柄面(1)と、剥離紙(B)上の接着シート描画面側とを重ね合わせて加熱・加圧し、接着シート(5)の描画面(2)に原画を転写する工程を示す例である。
図2図2は、接着シート(5)、下地隠蔽層(7)、接着層(8)の三層構造の概略を示す図である。
図3図3は、猫の描画を施したマーキングシートMを例示する図である。
図4図4は、接着シート5と、原画マーキングシートMを重ねた状態を示す図である。原画マーキングシートMは、原画面を接着シートの描画面と対向させた状態である。
図5図5は、接着シート5の、描画部分以外の箇所をハサミ等で切り取り、マーキングシートMに貼りついた状態で、剥離紙Bを取り除いて接着シート5の接着面側を露出させる途中の状態を示す図である。
図6図6は、Tシャツ10に接着シート5を重ね合わせた状態を示す図である。
図7図7は、Tシャツ10に接着シート5を重ねあわせた状態で、熱転写プレス機12にセットした状態を示す図である。
図8図8は、接着シート5をTシャツ10に接着して、Tシャツに所望の絵を付与し、マーキングシートを剥がす過程を示す図である。
図9図9は、実施例1のマーキングシートMを用いて、本発明の接着シートを介さずに直接Tシャツ10に昇華転写することにより、昇華性染料がどの程度転写されるかを試験した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係わる昇華転写接着シート(以下単に「接着シート」ともいう。)は、昇華性を有する染料又は顔料で、描画された面を有するワッペン/シールということができる。また、その厚みが極めて薄いため、接着力のある絵柄そのものとも言える。
【0034】
昇華転写接着シートによって昇華性の染料又は顔料が間接的に転写される対象(被着物)は、典型的には繊維製品であるがこれに限定されるものではない。繊維製品には、織物、編物、不織布、カーペットなどが含まれるが、単繊維、糸または中間繊維製品であっても良い。繊維の素材としては、天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛など)、化学繊維(例えば、ナイロン、ポリプロピレンなど)、合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルなど)であり、前記繊維を所望の重量比で混繊した物であっても良い。
【0035】
繊維製品としては前記の繊維素材を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、作業服、レインコート、カーテン、幟、寝装寝具、椅子やソファーのカバー、テント、カーペット、カーシート地、およびインテリア用品等として例示される繊維製品である。
【0036】
そして前記各種の繊維製品は、これまで昇華性染料での染色が適用できないとされてきた素材、例えば天然繊維を素材とする製品にも好適に使用できる。
【0037】
本発明で使用される昇華性の染料としては、大気圧下、70~260℃で昇華又は蒸発する染料が好ましい。例えば、アゾ系染料、アントラキノン系染料、スチリル系染料、ジフェニルメタン系染料、トリフェニルメタン系染料、オキサジン系染料、トリアジン系染料、キサンテン系染料、メチン系染料、アゾメチン系染料、ジアジン系染料等が挙げられる。
【0038】
また、本発明で使用される昇華性の顔料として、より具体的には、「RAVEN」450(登録商標)、769ULTRA(登録商標)、890(登録商標)、1020(登録商標)、1250(登録商標)、 Black Pearls480(登録商標)、Vulcan XC72(登録商標)、Black Pearls1100(登録商標)、「NEPTUN」Black X60(登録商標)、「PALIOGEN」Black S 0084(登録商標)、Microlith Violet B-K(登録商標)、「ORASOL」Black(登録商標)、「NIGROSINE」Black(登録商標)、「PALIOTOL」Black K0080(登録商標)、「SANDOLAN」Black E-HL(登録商標)、「NEAZOPAN」Black L 0080(登録商標)、「SOLANTINE」Black L(登録商標)などを例示することができる。
【0039】
本発明の昇華転写接着シートの製造方法としては、原画マーキングシートを作成する工程がある。この工程(a工程)は、従来から通常行われている工程を、そのまま利用することができる。すなわち、顧客の要望する文字、図形、記号、絵、写真等を含む模様を画像信号としてパソコンに取り込み、転写時のミラー画像に反転処理する。昇華可能な染料を含むインクを、インクジェットプリンタ等によって前記ミラー画像に基づいてマーキングシート面に噴射させ、原画を形成することにより原画マーキングシートが完成する。
【0040】
マーキングシート(M)の基材(昇華性の染料又は顔料をプリントする用紙)としては、染料受容層及び必要に応じて設けられたその他の層を有し、熱転写時の加熱に耐えられるものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の耐熱性の高いポリオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチックの延伸または未延伸フィルムや、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムも使用できる。これら以外にも、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、板紙等の材料も使用することができる。また、これらの材料を2種以上積層した複合フィルムであっても良い。本発明においては、市販の基材を用いることができ、例えば、(商品名「コウテイシEKR90RT」 リンテック(株)製)等が好ましい。
【0041】
前記原画マーキングシートの原画形成面は、本発明の接着シートを介して被着物と圧着されるので、予め適当な離型剤で表面処理されているか、マーキングシートの基材として離型紙を使用して、その上に所望の絵柄を、昇華性の染料又は顔料によりプリントする。昇華性の染料又は顔料は、マーキングシート上から離れて、接着シート側に残る必要があるからである。離型紙としては、上質紙やクラフト紙をそのまま、あるいは上質紙やクラフト紙にカレンダー処理、樹脂コート、フィルムラミネートをしたもの、またはグラシン紙、コート紙、プラスチックフィルム等にシリコーン処理を施したもの等を使用することができる。このうち、接着シートとの剥離性が良好であることから、粘着剤層に接触する面にシリコーン処理を施したものを用いることが好ましい。
【0042】
マーキングシートの厚みは、強度、耐熱性を考慮して基材に応じて適宜選択すれば良く、一般的には1μm~300μm、好ましくは20μm~100μm程度である。なお、重ね合わせたマーキングシートに被着物が保持されたままで、別の工程に入るような場合には、被着物の取り扱い中に剥がれたり、折れ曲がる等しないようにある程度の強度を有することが好ましい。
【0043】
本発明の昇華転写接着シートの製造工程の一例を記載する。初めに、昇華染料が転写される前の接着シートを形成する。予め適当な溶媒に、熱可塑性芳香族ポリエステル(単に「芳香族ポリエステル」ともいう)とポリアクリル酸塩を重量比3:1~64:1の比率で配合した混合溶液(EA)を準備する。前記混合溶液を、離型紙または離型剤で処理された上質紙等の表面に所望の厚みを有する膜状になるように塗布し溶媒を揮発させる。このとき、芳香族ポリエステルだけを分散した溶液(E)と、ポリアクリル酸塩だけを分散した溶液(A)とを個別に製造して、EとAそれぞれを離型紙等に塗布・成膜後、両者を重ね合わせて加熱・圧着し一体化するか、EとAを適当な配合比で混合して混合溶液(EA)として使用しても良い。
【0044】
また、被着物ごとに接着シートの組成を微調整することができるように、芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩との組み合わせにおいて、予め数種類の組み合わせの混合液(EAn)を調整後、当該組み合わせ毎に成膜し、それぞれ得られた膜を重ね合わせて加熱・圧着して一体化しても良い。前記組み合わせは、同一の芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩であって各濃度を変更したものでも良く、どちらか一方のみ又は両方のポリマーをそれぞれ変更した組み合わせであっても良い。ただし、加熱・圧着して一体化した後の、芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩との重量比は前記の3:1~64:1の範囲内になるように調整する必要がある。
【0045】
前記数種の組み合わせ可能な溶液(EAn)を準備して、それぞれ成膜するメリットとしては、各溶液から膜を製膜した後、得られた膜を、他の組成でできた膜と組み合わせることができるので、適用対象(被着物)又は使用する昇華染料に応じて最適な組成・混合比の膜を小ロットで製造できるという点が挙げられる。これにより、顧客の要望に個別に対応できる他、最適な接着力を発揮させ、ポリマー溶液のロスを最小に抑える等 経済的な利点も大きなものとなる。
【0046】
芳香族ポリエステルとしては、下記のような芳香族多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物から合成されるものが挙げられる。
【0047】
すなわち、芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができる。
【0048】
多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、グリセリン、トリメチロ-ルプロパンなどを用いることができる。
【0049】
前記芳香族多価カルボン酸および前記多価ヒドロキシ化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応により芳香族ポリエステル系ポリマーを合成すればよい。なお、カルボン酸基とヒドロキシ基とは1:1で反応するので、前記多価カルボン酸および前記多価ヒドロキシ化合物の混合比率は、各基が等モル比となる条件で反応させる。
【0050】
本発明で使用する芳香族ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、1000~50000、好ましくは3000~30000の範囲が適当である。熱可塑性であること、被着部への接着後の柔軟性を有することなどが理由である。なお、数平均分子量Mnは、アミン分解HPLC法によって算出されるカルボキシ末端基量から算出することができる。
【0051】
芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが最も好ましく、その構造式は下記の通りである。
【0052】
【化2】
【0053】
先に示した昇華性染料の構造式と、上記式で示される構造式との対比から理解できるように両者(染料と接着シートの基剤となるポリマー)の相溶性の良さによって、染料が固定化されブリードを起こし難くしているのである。また、主鎖に芳香族環を有していることから常温でのポリマーの分子運動が抑制される傾向があり、室温下で染料分子が自由に移動することを制限できる。
【0054】
本発明で使用するポリアクリル酸塩としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、スルホン酸変性ポリアクリル酸ナトリウム、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムから選択される少なくとも1種を使用する。ポリアクリル酸塩は、親水性の高いポリマーであり、同様に親水性の高い天然繊維と前記芳香族ポリエステルを主成分とする本発明の接着シートとの接着力を向上させ、シートの剥がれを効果的に防止する。
【0055】
本発明で使用するポリアクリル酸塩の重量平均分子量は2000~10000程度が好ましい。被着物への接着強度を発現するためである。
【0056】
前記ポリアクリル酸塩を二種類以上併用する場合には、芳香族ポリエステルと二種のポリアクリル酸とをそれぞれ計量/混合して成膜する他、前記の通り、芳香族ポリエステルとポリアクリル酸ナトリウムとを混合した溶液(EA)と、芳香族ポリエステルと架橋型ポリアクリル酸ナトリウムとを混合した溶液(EA)とを別個に用意して、EAとEAそれぞれを成膜後、両者を重ね合わせて圧着・加熱し、一体化することもできる。
【0057】
重ね合わせる製造方法のメリットは、前述利点の他、異なるポリアクリル酸塩が、一方の表面から他方の表面に向かって膜の厚み方向に濃度が漸減又は漸増する傾斜(グラデーション)を設けることができることも挙げられる。このグラデーションにより、それぞれの表面特性(ポリアクリル酸塩が寄与する接着力)が異なる接着シートを得ることができる。すなわち、被着物との接着性を向上させるのであれば、ポリアクリル酸塩ナトリウムを接着面側に、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを描画面側に、それぞれ設定すると良い。このようなグラデーションによって、本発明の接着シートの描画面と接着面で、離型紙からの離型性をも調整し、被着物に対しては必ず接着面側の離型紙が剥離した状態で、配置されるようにすることもできる。
【0058】
また、接着シートを構成する芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩の組み合わせ(成分/組成比など)を種々変化させることにより、被着物に応じた最適組成の決定を助けることができる。
【0059】
前記芳香族ポリエステルと前記ポリアクリル酸塩を、重量比3:1~64:1の比率で適当な溶媒、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びn-プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール及びジエチレングリコール等のグリコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類等に溶解または分散させて混合溶液(EA)を製造する。前記各ポリマーと前記溶媒との混合比率は、各ポリマーの合計重量100に対して、溶媒50~2000の比率、好ましくは、500~1000の比率である。
【0060】
前記溶媒は、単一又は組み合わせて使用することができ、芳香族ポリエステルやポリアクリル酸は接着時等に熱溶融されるため、溶媒中に完全に溶解した状態で使用する必要はなく、ある程度ポリマーを分散した状態の溶液であっても良い。コスト面や安全性を考慮すると、水、メタノールなどが好ましく使用される。
【0061】
混合溶液(EA)を、剥離紙(B)上に、塗布/噴霧などにより付着させ、溶媒を揮発させて形成したり、ロールコータまたはカーテンフローコータにより剥離紙(B)上に混合溶液(EA)の薄膜を形成させることで(昇華転写前の)接着シートが製造される(b工程)。なお、前記により薄膜形成後、膜表面を適当なグラシン紙等でカバーして加熱・加圧することで膜厚を均一化することもできる。
【0062】
また、剥離紙(B)上に、適当な厚みのステンレス網を置き、混合溶液(EA)を塗布することで、網目内に混合溶液を補足させ、これを乾燥して網を取り除き、所定の厚みより厚めの接着シート基材とし、表面を適当なグラシン紙等でカバーして加熱・加圧することで成膜することもできる。
【0063】
本発明者らが先に提案している同様の接着シートに関しては、ポリエステル以外に、ポリウレタンを配合していた。これはシートに柔軟性を付与するためであったが、同時にポリウレタンは、一旦捕捉した昇華性染料をシート内部で拡散させる傾向(すなわち、画像がブリードする傾向)があった。そこで、本発明ではポリウレタンを完全に排除し、ある程度柔軟な芳香族ポリエステルを主成分として採用、ポリアクリル酸塩で柔軟性を補強すると共に被着物への接着力を向上させて、昇華性染料の分散防止、被着物への接着性、シートの柔軟性など総合的に優れた特性を発揮できる、組成及び成分比率を見いだしたのである。
【0064】
次の工程(c工程)では、前記原画マーキングシート(M)の絵柄面(1)と、前記剥離紙(B)上の接着シート描画面側(すなわち、剥離紙(B)が接着していない側の接着シート表面)とを重ね合わせて加熱・加圧し、接着シート(5)の描画面(2)に原画を転写する。図1にこの操作の概要を示す。
【0065】
この(c工程)での加熱・加圧時間は、接着シートの素材と昇華性の染料又は顔料の組み合わせによって適宜選択すれば良いが、120~200℃で、30秒~120秒程度、圧力は200~300g/cm程度である。例えば、接着シートとしてポリエチレンテレフタレート:ポリアクリル酸ナトリウム:架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを(40:1:2)で混合して厚さ40μmに成膜した接着シートを使用し、昇華性染料((株)アイメックス製;商品名「Toner Cartridge SDTC A410C-22」を用いた場合には、温度180℃で、30秒、圧力250g/cmが適当である。
【0066】
前記工程によって、原画用マーキングシートと剥離紙Bとは、接着シートで接着された状態となる。すなわち、従来の昇華転写方法では、原画用マーキングシートが直接被着物上に重ねられて、描画が転写されるが、本発明では一旦接着シートに描画が転写される。これにより、まるで昇華染料の絵柄そのものが、接着性を具備することになるのである。つまり、昇華染料による染色は接着シートに施されるので、これまで染色困難とされてきた天然繊維に対しても、接着シートを介することにより絵柄を付与することができ、当該接着シートの薄さゆえに、外観上は天然繊維に直接昇華染料で染色したかのごとく観察されるのである。
【0067】
また、先に本発明者らの提案した接着シートは、ウレタン樹脂を含むため、染料が経時的に分散することで絵柄の鮮明性が損なわれることがあった。いわゆる、ブリードと呼ばれる現象で、趣のある絵柄として喜ばれることもあるが、輪郭等のシャープさを維持したい場合には不向きであった。本発明では接着シートの構成中にウレタン系ポリマー(樹脂)を使用しないことによって、前記ブリードを防止することができるようにしたのである。
【0068】
原画用マーキングシート(M)と剥離紙(B)とで、本発明の昇華転写接着シートを挟んだ状態でそのまま市場に供給しても良いが、画像が形成されていない部分をカッティングプロッターなどによって切り取る工程(d工程)を加えることで、画像領域だけの接着シートとすることもできる。
【0069】
前記(d工程)は必ずしも必要ではないが、接着シートの描画領域以外の部分は接着シートのみが被着物に付着することになり、絵柄の外観を損ねるおそれもあるため、不要な部分(描画されていない接着シート部分)を予め除去しておくことが好ましい。
【0070】
上記各工程により製造された本発明の昇華転写接着シートは、熱可塑性芳香族ポリエステルとポリアクリル酸塩を重量比3:1~64:1の比率で混合して形成され、被着面に対して接着が可能で、厚み10~50μmの当該接着シートの一方の面に、昇華性の染料又は顔料を用いた描画等が転写されて形成されている。
【0071】
被着物の素材が予め濃色(例えば黒や紺など)に着色された製品に、本発明の接着シートを適用するような場合には、生地の色が接着シートを通して表面にでてきてしまうことがある。これが却って味わいのある趣を添えることもあるが、せっかくの描画をより鮮明にしたいとの要望に応えるために、接着シートの接着面側(つまり昇華性の染料又は顔料で染色していない面側)に、さらに、着色顔料を含み融点が250~300℃の耐熱ポリウレタン系樹脂で形成された厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を形成し、前記下地隠蔽層を挟んで、被着面に対して接着可能な厚み20~50μmで、融点が80~110℃のポリウレタン系樹脂の「接着層」を形成した、三層構造とされていても良い。接着シート(5)、下地隠蔽層(7)、接着層(8)の三層構造とする工程を(e工程)という。図2に三層構造の概略を示す。
【0072】
前記着色顔料としては、無機着色剤と有機着色剤の少なくとも一方を用いることができ、顔料を用いてもよいし、染料を用いてもよい。無機着色剤には、酸化チタンや酸化亜鉛や硫化亜鉛といった白色顔料、酸化鉄イエローといった黄色顔料、カーボンブラックや酸化鉄ブラックといった黒色顔料、酸化鉄レッドといった赤色顔料、ウルトラマリンブルーといった青色顔料、等の一種以上を用いることができる。有機着色剤には、フタロシアニンブルーといった青色顔料、イソインドリノンイエローといった黄色顔料、ジケトピロロピロールといった橙色顔料、等の一種以上を用いることができる。
【0073】
前記「下地隠蔽層」には、前記ポリウレタン系樹脂の中でも耐熱性に優れた、例えばポリカーボネート系ウレタン樹脂が好適に用いられる。下地隠蔽層の形成には、まず、当該樹脂の合成反応溶液に前記着色剤を添加するか、樹脂を合成した後これを適当な溶媒(例えばメタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール及びジエチレングリコール等のグリコール類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類等)に懸濁・溶解させた溶液に前記着色剤を添加して、混合溶液(C)を準備する。このとき着色剤の使用量としては、耐熱性ポリウレタン樹脂100重量部に対して10~50重量部である。
【0074】
一方、「接着層」の形成には、まず、融点が80~110℃のポリウレタン系樹脂例えばエチレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応物を前記同様の適当な溶媒に懸濁・溶解させて、別途混合溶液(U)を準備する。
【0075】
前記混合溶液Uを、別途準備した剥離紙Bの上に塗布/噴霧などにより付着させ、溶媒を揮発させて形成したり、ロールコータまたはカーテンフローコータにより、剥離紙B上に厚み20~50μmの「接着層」を形成させる(f1工程)。この接着層の上に、着色顔料を含む混合溶液Cを前記同様にして塗布/噴霧などにより薄膜を形成し、溶媒を除去して厚み15~30μmの「下地隠蔽層」を形成して、二層構造のシートを作製する(f2工程)。
【0076】
前記(f2工程)に替えて、別々の剥離紙上に、混合溶液Cと混合溶液Uをそれぞれ塗布・成膜後、両者を重ね合わせて二層構造とすることもできる。すなわち、混合溶液Cを他の剥離紙C上に塗布/噴霧などにより付着させる等して、膜厚20~50μmの薄膜を形成させ、剥離紙Cの上に「下地隠蔽層」を作製する(f3工程)。この下地隠蔽層の表面と、前記剥離紙B上の「接着層」とを重ね合わせて、加熱・加圧して二層構造とし、剥離紙Cを剥がして、二層構造のシートを作製する(f4工程)。「接着層」は低融点のポリウレタン系樹脂より成るので、加熱・加圧・時間は、それぞれ100~150℃で、150~250g/cm、5秒~30秒程度である。
【0077】
前記(f4工程)後は、剥離紙Bは接着層と、剥離紙Cは下地隠蔽層と、それぞれ接着しているので、接着層に付着していない剥離紙Cの方が剥がしやすいが、剥離紙Cの方に表面処理などを施して剥離紙Cを選択的に取り外すようにしても良い。
【0078】
前記(f1工程~f4工程)は、二層構造を形成する工程である。
【0079】
(e工程)は、前記(b工程)で得られた接着シート(5)と、(f2工程)又は(f4工程)で得られた二層構造のシートとを貼り合わせる工程である。すなわち、
(b工程後)の接着シートの接着面と、(f2工程)又は(f4工程)後の下地隠蔽層表面とを重ねて、加熱・加圧することにより、本発明の三層構造を有する昇華転写接着シートが製造できる。
【0080】
前記(e工程)の加熱・加圧・時間は、それぞれ100~150℃で、150~250g/cm、5秒~20秒程度である。(c工程)後の接着シートを三層構造にする場合には、昇華染料を接着シート上に昇華済みなので、昇華染料が下地隠蔽層まで浸透することもあり得る。浸透しすぎると却って絵柄が不鮮明になるので、加熱・加圧・時間の調整には留意する必要がある。
【0081】
前記(b工程)後の接着シートの接着面側に、「下地隠蔽層」続いて「接着層」を直接形成し、該接着層の表面に剥離紙を載せた後、描画面側の剥離紙を剥がして、原画を昇華転写する(c工程)に移行することも可能である。
【0082】
下地隠蔽層は、被着物の素材の色を隠蔽し、描画部分を鮮明にするものであるため、この態様で使用する場合には、特に画像が形成されていない部分をカッティングプロッターなどによって前記(d工程)と同様に、予め切除しておくことが好ましい。ただし、描画部分の背景を適当な色・形状で表現したい場合もあるので、描画周囲に下地隠蔽層の色が観察できても問題がなく、前記切除が必須という訳ではない。
【0083】
以下では、実施例を示しつつ本発明の昇華転写接着シートをより具体的に説明する。
【0084】
(実施例1)
被着物として綿100%で縫製されたTシャツを用いて、該Tシャツの正面にデザインを施す例について説明する。初めに、本発明の(a工程)を行った。使用した昇華染料を含むインクは((株)アイメックス製 Toner Cartridge SDTCA410C-22)である。インクジェットプリンタは((株)アイメックス製 IMEX SDP A410)を使用し、パソコンに取り込んだ画像をミラー画像に反転処理する。マーキングシートとして(リンテック社製 クラフト紙)を使用してインクジェットプリンタにより描画し、原画マーキングシートMを作成した。図3に猫の描画を施したマーキングシートMを例示する。
【0085】
前記マーキングシートには、離型性を付与するために表面に予めシリコーン処理を施してある。
【0086】
次に、ポリエチレンテレフタレート(芳香族ポリエステル)を27重量%で溶媒(水64重量%、エチレングリコールモノブチルエーテル9重量%)に分散させたE溶液と、スルホン酸変性ポリアクリル酸ナトリウムを17重量%で溶媒(水83重量%)溶解させたA溶液を、重量比E:A=40:1の比率で混合したEA溶液を準備した。これを剥離紙B(リンテック社製、クラフト紙)上にロールコータにより付着させ、溶媒を揮発させて厚み20μmの薄膜を形成させた。
【0087】
一方、前記E溶液20gに、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成(株)製 レオジック(登録商標)262L)を1gの割合で分散させたEA溶液を用意し、これを剥離紙B(リンテック社製、クラフト紙)上にロールコータにより付着させ、溶媒を揮発させて厚み20μmの薄膜を形成させた。
【0088】
上記2種の薄膜を重ね合わせて、剥離紙で挟むようにして、温度160℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより、剥離紙間にシートを形成した(本発明の(b工程))。シートを構成する芳香族ポリエステルとポリアクリル酸ナトリウムの重量比は、約9.5:1である。
【0089】
架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを含む薄膜側の剥離紙を剥がし、先に準備した原画マーキングシートMを図1に示すように配置して、温度180℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより、本発明の昇華転写接着シート5を作製した。
【0090】
図4に接着シート5と、原画マーキングシートMを重ねた状態の参考例を示す。原画マーキングシートMは、原画面を接着シートの描画面と対向させた状態である。
【0091】
こうして製造された昇華転写接着シート5の、描画部分以外の箇所をハサミ等で切り取り、マーキングシートMに貼りついた状態で、剥離紙Bを取り除いて接着シート5の接着面側を露出させた。この状態を図5に示す。
【0092】
次に綿100%で縫製されたTシャツ10に接着シート5を重ね合わせて(図6)、再度熱転写プレス機12にセットした(図7)。温度180℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより該接着シートをTシャツに接着して、描画した。マーキングシートMを剥がす過程を図8に示す。図8に示すようにTシャツに対して、描画できていることが判る。
【0093】
(比較例1)
実施例1のマーキングシートMを用いて、本発明の接着シートを介さずに直接Tシャツ10に昇華転写することにより、昇華性染料がどの程度転写されるかを試験した結果を図9に示す。転写時の温度等の条件は、実施例1と同様である。図に示すとおり、マーキングシートM側には昇華性染料が多量に残っていること、また、転写後のTシャツを洗濯することで、簡単に染料が落ちてしまう(転写描画15が褪色する)ことが判った。
【0094】
(実施例2)
実施例1のE溶液60gに、A溶液1gと、スルホン酸変性ポリアクリル酸ナトリウムを10重量%で溶媒(水90重量%)に溶解させたA溶液1gを混合して、EA溶液を準備した。
【0095】
一方、前記E溶液25gと、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成(株)製 レオジック(登録商標)262L)を1gと、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成(株)製 レオジック(登録商標)260H)を1g混合して、EA溶液を準備した。
【0096】
前記EA溶液とEA溶液を用いて、個別に剥離紙上に塗布・乾燥して、膜厚20μmの薄膜をそれぞれ形成した。両薄膜を重ね合わせて剥離紙で挟むようにして、温度160℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより、剥離紙間に接着シートを形成した(本発明の(b工程))。シートを構成する芳香族ポリエステルとポリアクリル酸ナトリウムの重量比は、約10.1:1である。
【0097】
架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを含む薄膜側の剥離紙を剥がし、先に準備した原画マーキングシートMを図1に示すように配置し、温度180℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより、本発明の昇華転写接着シート5を作製した。
【0098】
こうして製造された昇華転写接着シート5を、マーキングシートに貼りついた状態で、剥離紙を取り除いて接着シート5の接着面側を露出させ、綿100%で縫製されたTシャツに重ね合わせて、再度熱転写プレス機にセットし、温度180℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより該接着シートをTシャツに接着して、描画した。
【0099】
得られた描画像は、実施例1と同様に明確な画像であって、洗濯を100回繰り返しても、画像の褪色は観察されなかった。
【0100】
(実施例3)
実施例1のE溶液50gと、スルホン酸変性ポリアクリル酸ナトリウムを10重量%で溶媒(水90重量%)に溶解させたA溶液3gと、ポリアクリル酸アンモニウムを10重量%で溶媒(水90重量%)に溶解させたA溶液3gを混合して、EA溶液を準備した。
【0101】
前記EA溶液を用いて、剥離紙上に塗布・乾燥して、膜厚40μmの薄膜を形成した。先に準備した原画マーキングシートMを、前記薄膜を覆うようにして図1に示すように配置し、温度180℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより、本発明の昇華転写接着シートを作製した。
【0102】
こうして製造された昇華転写接着シート5を、マーキングシートに貼りついた状態で、剥離紙を取り除いて接着シートの接着面側を露出させ、綿100%で縫製されたTシャツに重ね合わせて、再度熱転写プレス機にセットし、温度180℃、圧力250g/cmで60秒間、加熱・加圧することにより該接着シートをTシャツに接着して、描画した。
【0103】
得られた描画像は、実施例1と同様に明確な画像であって、洗濯を100回繰り返しても、画像の褪色は観察されなかった。
【0104】
(実施例4)
実施例1のポリエチレンテレフタレートの代わりにポリヘキサメチレンテレフタレートを用いてE溶液と同様の組成で調製したE溶液を使用した他は、実施例3と同様にしてTシャツに描画した。得られた画像は実施例3と同様に明確な画像であって、洗濯を100回繰り返しても、画像の褪色は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
以上説明したように、本発明の昇華転写接着シートは、昇華染料で描画された原画を、被着物の所望の位置に転写し、特に天然繊維製品に対しても昇華染料による絵柄等を転写することができるので、縫製後の繊維製品に多彩なデザインを付与し、商品価値を高めることができる。
【符号の説明】
【0106】
B・・・剥離紙
M・・・原画マーキングシート
1・・・原画マーキングシートの絵柄面
5・・・接着シート
7・・・下地隠蔽層
8・・・接着層
10・・・Tシャツ
12・・・熱転写プレス機
15・・・転写画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9