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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123772
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】複合固体電解質及び固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240905BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20240905BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240905BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0565
H01B1/06 A
H01B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031439
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
(72)【発明者】
【氏名】田渕 雅人
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AM12
5H029AM16
5H029HJ01
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】イオン伝導度の低下が抑制される複合固体電解質の提供。
【解決手段】硫化物固体電解質と、ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質と、を含有し、前記ポリマー電解質に対する前記リチウムイミド塩の含有量が40質量%以上である、複合固体電解質及び固体電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質と、
ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質と、
を含有し、
前記ポリマー電解質において、前記ポリマーに対する前記リチウムイミド塩の含有量が40質量%以上である、複合固体電解質。
【請求項2】
前記ポリマーはエチレンオキシド系ポリマーを含む、請求項1に記載の複合固体電解質。
【請求項3】
前記ポリマー電解質において、前記ポリマーに対する前記リチウムイミド塩の含有量が300質量%以上である、請求項1に記載の複合固体電解質。
【請求項4】
前記ポリマー電解質に対する前記硫化物固体電解質の体積比率が80/20以上95/5以下である、請求項1に記載の複合固体電解質。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の複合固体電解質を含む、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合固体電解質及び固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
二次電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、材質を固体化した固体電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
固体電池の分野において、硫化物固体電解質と、ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質とを含有する複合固体電解質に用いることにより、固体電池のリチウムイオン伝導度を向上させることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/001623号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の複合固体電解質では、保管した際に、硫化物固体電解質と、ポリマー電解質に含まれるポリマーと接触面において、硫化物固体電解質とポリマーとが反応して反応生成物が生じ、これによりイオン伝導パスが阻害され、イオン伝導度が低下する傾向にあった。この現象は、高温で長期間保管(例えば60℃、3日間)するとより顕著である。特許文献1では、実質的に架橋硫黄を有しない硫化物固体電解質と、分岐型ポリマーとを有する固体電解質とすることでイオン伝導度の低下を抑制しようとしている。上述のように、前記複合固体電解質層を用いた際のイオン伝導度の低下を抑制するために、種々の研究がなされているが、さらなる技術の開発が望まれている。そこで本開示では、上記事情に鑑み、イオン伝導度の低下が抑制される複合固体電解質及び固体電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> 硫化物固体電解質と、
ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質と、
を含有し、
前記ポリマー電解質において、前記ポリマーに対する前記リチウムイミド塩の含有量が40質量%以上である、複合固体電解質。
<2> 前記ポリマー電解質は、前記ポリマーとしてエチレンオキシド系ポリマーを含む、前記<1>に記載の複合固体電解質。
<3> 前記ポリマー電解質において、前記ポリマーに対する前記リチウムイミド塩の含有量が300質量%以上である、前記<1>又は<2>に記載の複合固体電解質。
<4> 前記ポリマー電解質に対する前記硫化物固体電解質の体積比率が80/20以上95/5以下である、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の複合固体電解質。
<5> 前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の複合固体電解質を含む、固体電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、イオン伝導度の低下が抑制される複合固体電解質及び固体電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0009】
<複合固体電解質>
本開示に係る複合固体電解質は、硫化物固体電解質と、ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質と、を含有し、前記ポリマー電解質に対する前記リチウムイミド塩の含有量が40質量%以上である、複合固体電解質である。
本開示によれば、ポリマー電解質に対してリチウムイミド塩の割合が多い。そのため、複合固体電解質全体からみてリチウムイミド塩の濃度が増加した分、ポリマーとリチウムイミド塩との相互作用が強くなる一方で、ポリマーと硫化物固体電解質との反応性が下がり、硫化物固体電解質における硫化物成分の分解が抑制される。そのため、保管した際にも(例えば60℃、3日間)、硫化物固体電解質とポリマーと接触面において、硫化物固体電解質とポリマーとが反応して反応生成物が生じることが抑制される。その結果、前記反応生成物により伝導パスが阻害されず、イオン伝導度の低下が抑制される。
【0010】
〔ポリマー電解質〕
ポリマー電解質は、ポリマー及びリチウムイミド塩を含む。
ポリマーは、リチウムイミド塩を解離することができるポリマーであれば特に制限されない。ポリマーとしては、主鎖に極性基を有するポリマーであることが好ましく、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレンオキシド系ポリマー(より好ましくはポリエチレンオキシド等のエチレンオキシド系ポリマー);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;エステル系ポリマー;ポリカーボネート等のカーボネート系ポリマー;アミド系ポリマー;ポリフォスファゼン等のフォスファゼン系ポリマー;ポリジメチルシロキサン等のシロキサン系ポリマー;(メタ)アクリル系ポリマーなどが挙げられる。ポリマーは、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0011】
上記の中でも、ポリマーは、イオン伝導性の低下をより抑制する観点から、ポリアルキレンオキシド系ポリマーを含むことが好ましく、エチレンオキシド系ポリマーを含むことがより好ましい。
【0012】
エチレンオキシド系ポリマーとは、エチレンオキシドに由来する構成単位を含むポリマーを意味する。ポリプロピレンオキシド等のポリアルキレンオキシド系ポリマーとは、アルキレンオキシドに由来する構成単位を含むポリマーを意味する。ニトリル系ポリマーとは、ニトリル基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。エステル系ポリマーとは、エステル基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。アミド系ポリマーとは、アミド基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。フォスファゼン系ポリマーとは、フォスファゼン基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。カーボネート系ポリマーとは、カーボネート基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。シロキサン系ポリマーとは、シロキサン基に由来する構成単位を含むポリマーを意味する。(メタ)アクリル系ポリマーとは、メタクリル酸誘導体に由来する構成単位及びアクリル酸誘導体に由来する構成単位の少なくとも1種を含むポリマーを意味する。
【0013】
エチレンオキシド系ポリマーは、例えば、エチレンオキシドに由来する構成単位、2-(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルに由来する構成単位、及び、アリルグリシジルエーテルに由来する構成単位を含む共重合ポリマーであってもよい。
【0014】
エチレンオキシド系ポリマーは、例えば、エチレンオキシドに由来する構成単位、炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位、(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルに由来する構成単位、及び、エチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位を有していてもよい。
【0015】
炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位としては、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシへキサン、1,2-エポキシペンタン等のアレキレンオキシドに由来する構成単位が挙げられる。炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位は、プロピレンオキシドに由来する構成単位であることが好ましい。
【0016】
エチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位としては、アリルグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α-テルピニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカンジエン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5-シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、グリシジル-4-ヘキセノエート等に由来する構成単位が挙げられる。エチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位は、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルに由来する構成単位からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0017】
エチレンオキシド系ポリマーにおいて、各構成単位とのモル比率はH-NMRスペクトルにより求められる。
【0018】
エチレンオキシド系ポリマーに占めるエチレンオキシドに由来する構成単位の割合は、30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、60モル%以上有することがさらに好ましい。
エチレンオキシド系ポリマーに占めるエチレンオキシドに由来する構成単位の割合は、100モル%以下で有することが好ましく、96モル%以下で有することがより好ましく、93.5モル%以下で有することがさらに好ましい。
【0019】
エチレンオキシド系ポリマーに占める炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位の割合は、0モル%であってもよく、3モル%以上であってもよく、5モル%以上であってもよい。
エチレンオキシド系ポリマーに占める炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位の割合は、30モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよく、10モル%以下であってもよい。
【0020】
エチレンオキシド系ポリマーに占める(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルに由来する構成単位の割合は、0モル%であってもよく、3モル%以上であってもよく、5モル%以上であってもよい。
エチレンオキシド系ポリマーに占める(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルに由来する構成単位の割合は、70モル%以下であってもよく、59モル%以下であってもよく、39モル%以下であってもよい。
【0021】
エチレンオキシド系ポリマーに占めるエチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位の割合は、0モル%であってもよく、1モル%以上であってもよく、1.5モル%以上であってもよく、2モル%以上であってもよい。
エチレンオキシド系ポリマーに占めるエチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位の割合は、20モル%以下であってもよく、15モル%以下であってもよく、12モル%以下であってもよい。
【0022】
エチレンオキシド系ポリマーは、エチレンオキシドに由来する構成単位と、炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位と、(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルに由来する構成単位と、エチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位のみで構成されていてもよく、他の単量体に由来する構成単位をさらに含んで構成されていてもよい。
エチレンオキシド系ポリマーにおける、エチレンオキシドに由来する構成単位と、炭素数3~12であるアレキレンオキシドに由来する構成単位と、(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテルに由来する構成単位と、エチレン性不飽和基を有するオキシランに由来する構成単位のモル比率の合計は、エチレンオキシド系ポリマー全体に対して、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることが更に好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0023】
ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、例えば、1,000,000以上であってもよく、1,200,000以上5,000,000以下であってもよく、1,500,000以上3,000,000以下であってもよい。
GPC測定は(株)島津製作所製RID-6A、昭和電工(株)製ショウデックスKD-807、KD-806、KD-806MおよびKD-803カラム、および溶媒にDMFを用いて60℃で行う。
【0024】
リチウムイミド塩としては、LiN(RfSO、LiN(FSO、LiN(RfSO)(RfSO)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)等が挙げられる。上記の中でも、リチウムイミド塩としては、電池性能の観点から、LiTFSIを含むことが好ましい。リチウムイミド塩は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0025】
〔硫化物固体電解質〕
硫化物固体電解質としては、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有することが好ましく、更には例えばLi元素、A元素、及びS元素を含有することが好ましい。
A元素は、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、及びInよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。
硫化物固体電解質は、O及びハロゲン元素の少なくとも一方を更に含有してもよい。
ハロゲン元素(X)としては、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。硫化物固体電解質の組成は、特に限定されず、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。硫化物固体電解質は、下記一般式(1)で表される組成を有していてもよい。
Li4-xGe1-x (0<x<1) ・・・式(1)
式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
硫化物固体電解質は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
【0026】
硫化物固体電解質は、例えば、電池性能の観点から、LiS-P系の硫化物固体電解質であることが好ましい。LiS-P系の硫化物固体電解質であると、ポリマーと硫化物固体電解質との接触面で両者の反応生成物が生じて伝導パスが阻害され易い。しかしながら、本開示の複合固体電解質の構成であれば、この場合にもイオン伝導度の低下が抑制される。
【0027】
〔その他の成分〕
本開示に係る複合固体電解質は、必要に応じて、本開示の効果が奏される範囲内で、硫化物固体電解質、ポリマー及びリチウムイミド塩を含むポリマー電解質以外のその他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、バインダー(例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダー等)、導電助剤(例えば、繊維状炭素材料等)などが挙げられる。
【0028】
〔複合固体電解質全体の性質〕
ポリマー電解質におけるポリマー(100質量部)に対するリチウムイミド塩の含有量は、40質量%以上であり、イオン伝導度の低下をより抑制する観点から、300質量%以上800質量%以下であることが好ましく、650質量%以上750質量%以下であることがより好ましい。
ポリマー電解質におけるポリマー(100質量部)に対するリチウムイミド塩の含有量は、電池性能の観点からは、900質量%以下であることが好ましく、800質量%以下であることがより好ましく、750質量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
ポリマー電解質に対する硫化物固体電解質の体積比率(硫化物固体電解質/ポリマー電解質)は、イオン伝導度を高くし、かつ、イオン伝導度の低下をより抑制する観点から、70/30以上98/2以下であることが好ましく、75/25以上97/3以下であることがより好ましく、80/20以上95/5以下であることが更に好ましい。
【0030】
〔複合固体電解質の製造方法〕
本開示の複合固体電解質の製造方法は、特に制限されず、公知の固体電解質の製造方法が適用できる。本開示の複合固体電解質は、例えば、ポリマー電解質及び固体電解質材料を溶媒中で混合してスラリーを作製し、このスラリーを基板上に塗工した後、溶媒を乾燥して複合固体電解質層を形成する方法;個別に作製したポリマー電解質層と硫化物固体電解質層とを接合して複合固体電解質層を形成する方法などが挙げられる。
【0031】
<固体電池>
本開示の固体電池は、本開示の複合固体電解質を含む。本開示の固体電池は、例えば、正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備える。前記固体電解質層は、本開示の複合固体電解質を含む。固体電池には、無機系固体電解質を用いた全固体電池(電解質としての電解液の含有量が電解質全量の5質量%未満)が含まれる。
本開示の複合固体電解質は、例えば、膨潤収縮しやすい活物質を含む電極(例えば負極、より具体的にはケイ素を含有する負極)を備える固体電池においても、保管前後における、硫化物固体電解質とポリマー電解質中のポリマーとが電極の膨潤収縮に伴う固体電解質層における軋轢等によって反応してイオン伝導度が低下することが抑制される。
【0032】
本開示の固体電池は、固体リチウムイオン二次電池である。固体電池は、車両、電子機器、及び電気貯蔵等の電源が挙げられる。車両としては、電動四輪車、電動二輪車、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等が挙げられる。電動四輪車としては、例えば、電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、及びハイブリッド自動車(BEV)等が挙げられる。電動二輪車としては、例えば、電動バイク、及び電動アシスト自転車等が挙げられる。電子機器としては、手持形機器(例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、オーディオプレーヤ等)、可搬形機器(例えば、ノートブックコンピュータ、CD(Compact Disc)プレーヤ、可動形機器(例えば、電動工具、業務用ビデオカメラ等)等が挙げられる。中でも、本開示の固体電池の用途は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車又は電気自動車の駆動用電源であることが好ましい。
【実施例0033】
<実施例1~実施例6、比較例1~比較例3>
(硫化物固体電解質の作製)
LiIを含むLiS-P系ガラスセラミックスを、ボールミル混合および焼成により作製した。
【0034】
(ポリマー電解質溶液の作製)
エチレンオキシド(EO)と、2-(2-メトキシエトキシ)エチルグリシジルエーテル(EM)と、アリルグリシジルエーテル(AGE)とのランダム共重合によりエチレンオキシド系ポリマーを合成した。得られたエチレンオキシド系ポリマーは、重量平均分子量237万、モノマーのモル比率EO/EM/AGEが81.8/16.2/2.0であった。エチレンオキシド系ポリマーを、LiTFSIと共にアセトニトリルに溶解させ、エチレンオキシド系ポリマー(PEO)とLiTFSIの質量比率(PEO/LiTFSI)が表1に示す比率となるようにポリマー電解質溶液を作製した。ポリマーの重量平均分子量、モル比率は先述の方法で測定した値である。
【0035】
[重合触媒の合成例]
撹拌機、温度計及び蒸留装置を備えた3つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10質量部及びトリブチルホスフェート35質量部を入れ、窒素気流下に撹拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ残留物として固体状の縮合物質を得た。得られた縮合物質を、下記の重合例1における重合触媒として用いた。
【0036】
[重合例1 ポリマー1]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに上記の重合触媒の合成例で得た縮合物質1質量部と、水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(a)114質量部、アリルグリシジルエーテル10質量部、n-ブタノール0.10質量部及び溶媒としてn-ヘキサン1000質量部を仕込み、化合物(a)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド136質量部を逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリマー210質量部を得た。得られたポリマーのモル比率はエチレンオキシド/ジエチレングリコールメチルグリシジルエーテル/アリルグリシジルエーテル(つまりEO/EM/AGE)=81.8/16.2/2.0モル%であり、重量平均分子量237万であった。
【0037】
(複合固体電解質の作製)
ポリマー電解質溶液を乳鉢に入れ、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、溶液を揮発させた。そこに硫化物固体電解質とポリマー電解質との体積比率が表1に示す仕様となるように硫化物固体電解質を混合し、各例の複合固体電解質を作製した。
【0038】
<高温保管前後における伝導度維持率の評価>
(高温保管前の伝導度の測定)
露点-80℃のグローブボックス内で、複合固体電解質を100mg秤量し、マコール製のシリンダに入れ、6ton/cmの圧力でプレスした。得られたペレットの両端をSUS製ピンで挟み、ボルト締めによりペレットに拘束圧を印加し、評価用セルを得た。評価用セルに対して、交流インピーダンス法により、25℃におけるイオン伝導度を算出した。測定には、ソーラトロン1260を用い、印加電圧を10mV、測定周波数域を0.1Hz~1MHzとした。結果を表1に示す。
【0039】
(高温保管後の伝導度の測定)
各例の評価用セルを、グローブボックス内で、60℃で3日間静置し保管試験とした。保管試験後の各例の評価用セルについて、先述の方法でイオン伝導度を測定し、保管前後におけるイオン伝導度を得た。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、実施例の複合固体電解質は、比較例の複合固体電解質に比べて、イオン伝導度の低下が抑制されることがわかった。