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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123773
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240905BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031442
(22)【出願日】2023-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】松永 慎一郎
(57)【要約】
【課題】オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係を改善することができる炭化珪素半導体装置を提供すること。
【解決手段】互いに隣り合う電界緩和用のp+型領域21,22間に、第1,2JFET領域24,25が設けられている。トレンチ7の直下のp+型領域21は、トレンチ7の側壁よりもp+型領域22側へ張り出している。第2JFET領域25は、p型ベース領域3と第1JFET領域24との間に設けられ、p型ベース領域3とp+型領域21との間をトレンチ7の側壁まで達する。第2JFET領域25の厚さt1は、p+型領域21の張り出し長さd1以下である。第2JFET領域25の、p型ベース領域3とp+型領域21との間に挟まれた部分の断面形状は、略正方形状または横方向に細長い略長方形状である。チャネル3aの下端部40がp+型領域21,22によって遮蔽され、ドレイン電極13から直線的に見えなくなっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板の内部に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記半導体基板の第1主面と前記第1半導体領域との間に設けられた第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1主面と前記第2半導体領域との間に選択的に設けられた第1導電型の第3半導体領域と、
深さ方向に前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の第2主面側に深い位置に選択的に設けられた、前記第2半導体領域よりも不純物濃度の高い第2導電型の高濃度領域と、
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記第2主面側に深い位置に、前記第1半導体領域、前記第2半導体領域および前記高濃度領域に接して選択的に設けられた、前記第1半導体領域よりも不純物濃度の高い第1導電型のJFET領域と、
前記第3半導体領域、前記第2半導体領域および前記高濃度領域に電気的に接続された第1電極と、
前記第2主面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記高濃度領域は、
前記第2半導体領域と離れて設けられ、深さ方向に前記トレンチの底面に対向する第1高濃度領域と、
前記第2半導体領域に接し、前記トレンチおよび前記第1高濃度領域と離れて設けられた第2高濃度領域と、を有し、
前記第1高濃度領域は、前記トレンチの側壁よりも前記第1主面に平行な方向に前記第2高濃度領側へ張り出しており、
前記JFET領域は、
互いに隣り合う前記第1高濃度領域と前記第2高濃度領域との間に、前記第1高濃度領域および前記第2高濃度領域に接して設けられた第1JFET領域と、
前記第2半導体領域と前記第1JFET領域との間に、前記第2半導体領域および前記第1JFET領域に接して設けられ、前記第2半導体領域と前記第1高濃度領域との間に延在して前記トレンチの側壁まで達する第2JFET領域と、を有し、
前記第2JFET領域の厚さは、前記第1高濃度領域の張り出し長さ以下であることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第2JFET領域の厚さは、前記第1高濃度領域の張り出し長さ未満であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
導通時に、前記第3半導体領域と前記第2JFET領域との間において、前記第2半導体領域の、前記トレンチの側壁に沿った部分に形成されて、前記半導体基板の前記第1主面と前記第2主面との間を流れるドリフト電流の経路となる第1導電型に反転層を有し、
前記反転層の前記第2主面側の端部と前記第2電極とを結ぶすべての線分上に、前記第1高濃度領域および前記第2高濃度領域のいずれか1つ以上が位置することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記反転層の前記第2主面側の端部と前記第2電極とを結ぶすべての線分上に、前記第1高濃度領域、前記第2高濃度領域、および、前記高濃度領域と前記JFET領域とのpn接合から広がる空乏層のいずれか1つ以上が位置することを特徴とする請求項3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記第2JFET領域の厚さをt1とし、前記第1高濃度領域の厚さをt2とし、前記第1高濃度領域の張り出し長さをd1とし、および前記第1JFET領域の幅をw1としたときに下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【数1】
【請求項6】
前記JFET領域の不純物濃度は、5.0×1016/cm3以上1.6×1017/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記JFET領域の不純物濃度は、8.0×1016/cm3以上1.5×1017/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記第1高濃度領域の張り出し長さは、0.25μm以上0.4μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記第1高濃度領域の張り出し長さは、0.27μm以上0.33μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
前記第2JFET領域の厚さは、0.25μm以上であることを特徴とする請求項8に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項11】
前記第2JFET領域の厚さは、0.27μm以上であることを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いたトレンチゲート型SiC-MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜-半導体の3層構造からなる絶縁ゲートを備えたMOS型電界効果トランジスタ)では、JFET(Junction FET)領域の幅を狭くしたり、JFET領域の不純物濃度を低くしたりすることで、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係が改善されることが公知である(例えば、下記特許文献1~4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-136715号公報
【特許文献2】特許第6579104号公報
【特許文献3】特許第6802454号公報
【特許文献4】特許第7139678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~4では、JFET領域の不純物濃度を低くしすぎると、JFET抵抗が高くなり、オン抵抗が高くなることで、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係が悪くなるという問題がある。JFET領域は、p型ベース領域とn-型ドリフト領域との間に配置されたn型電流拡散層(CSL:Current Spreading Layer)もしくはn型電荷蓄積(CS:Carrier Storage)層、またはn-型ドリフト領域で構成されて、ドリフト電流の経路となるn型領域である。
【0005】
この発明は、上述した従来技術による課題を解消するため、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係を改善することができる炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素からなる半導体基板の内部に、第1導電型の第1半導体領域が設けられている。前記半導体基板の第1主面と前記第1半導体領域との間に、第2導電型の第2半導体領域が設けられている。前記第1主面と前記第2半導体領域との間に、第1導電型の第3半導体領域が選択的に設けられている。トレンチは、深さ方向に前記第3半導体領域および前記第2半導体領域を貫通する。前記トレンチの内部に、ゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられている。前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記半導体基板の第2主面側に深い位置に、第2導電型の高濃度領域が選択的に設けられている。前記高濃度領域は、前記第2半導体領域よりも不純物濃度が高い。
【0007】
前記第2半導体領域と前記第1半導体領域との間において、前記トレンチの底面よりも前記第2主面側に深い位置に、前記第1半導体領域、前記第2半導体領域および前記高濃度領域に接して、第1導電型のJFET領域が選択的に設けられた、前記JFET領域は、前記第1半導体領域よりも不純物濃度が高い。第1電極は、前記第3半導体領域、前記第2半導体領域および前記高濃度領域に電気的に接続されている。第2電極は、前記第2主面に設けられている。前記高濃度領域は、第2導電型の第1高濃度領域と、第2導電型の第2高濃度領域と、を有する。前記第1高濃度領域は、前記第2半導体領域と離れて設けられ、深さ方向に前記トレンチの底面に対向する。前記第2高濃度領域は、前記第2半導体領域に接し、前記トレンチおよび前記第1高濃度領域と離れて設けられている。
【0008】
前記第1高濃度領域は、前記トレンチの側壁よりも前記第1主面に平行な方向に前記第2高濃度領側へ張り出している。前記JFET領域は、第1導電型の第1JFET領域と、第1導電型の第2JFET領域と、を有する。前記第1JFET領域は、互いに隣り合う前記第1高濃度領域と前記第2高濃度領域との間に、前記第1高濃度領域および前記第2高濃度領域に接して設けられている。前記第2JFET領域は、前記第2半導体領域と前記第1JFET領域との間に、前記第2半導体領域および前記第1JFET領域に接して設けられ、前記第2半導体領域と前記第1高濃度領域との間に延在して前記トレンチの側壁まで達する。前記第2JFET領域の厚さは、前記第1高濃度領域の張り出し長さ以下である。
【0009】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2JFET領域の厚さは、前記第1高濃度領域の張り出し長さ未満であることを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、導通時に、前記第3半導体領域と前記第2JFET領域との間において、前記第2半導体領域の、前記トレンチの側壁に沿った部分に形成されて、前記半導体基板の前記第1主面と前記第2主面との間を流れるドリフト電流の経路となる第1導電型に反転層を有する。前記反転層の前記第2主面側の端部と前記第2電極とを結ぶすべての線分上に、前記第1高濃度領域および前記第2高濃度領域のいずれか1つ以上が位置することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記反転層の前記第2主面側の端部と前記第2電極とを結ぶすべての線分上に、前記第1高濃度領域、前記第2高濃度領域、および、前記高濃度領域と前記JFET領域とのpn接合から広がる空乏層のいずれか1つ以上が位置することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2JFET領域の厚さをt1とし、前記第1高濃度領域の厚さをt2とし、前記第1高濃度領域の張り出し長さをd1とし、および前記第1JFET領域の幅をw1としたときに下記(1)式を満たすことを特徴とする。
【0013】
【数1】
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記JFET領域の不純物濃度は、5.0×1016/cm3以上1.6×1017/cm3以下、好ましくは8.0×1016/cm3以上1.5×1017/cm3以下であることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1高濃度領域の張り出し長さは、0.25μm以上0.4μm以下であることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1高濃度領域の張り出し長さは、0.27μm以上0.33μm以下であることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2JFET領域の厚さは、0.25μm以上であることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第2JFET領域の厚さは、0.27μm以上であることを特徴とする。
【0019】
上述した発明によれば、反転層の第2主面側端部の電位上昇が抑制され、短チャネル効果が抑制されて飽和電流を小さくすることができるため、短絡耐量を高くすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置によれば、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係を改善することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図2】比較例1~3の出力特性を示す特性図である。
図3】比較例1~3の飽和電流とオン抵抗との関係を示す特性図である。
図4】比較例6~9の出力特性を示す特性図である。
図5】比較例4~8の飽和電流とオン抵抗との関係を示す特性図である。
図6】参考例の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
(概要)
炭化珪素(SiC)を半導体材料として用いた参考例の炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図6は、参考例の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図6には、1つの単位セル(素子の構成単位)を1/2の幅で示すが、単位セルはトレンチ107の中心線(トレンチ107の中心を通って半導体基板130のおもて面と直交する直線:不図示)を軸とした線対称な断面構造を有する。また、JFET領域123をハッチングで示す。図6に示す参考例の炭化珪素半導体装置110は、SiCからなる半導体基板130のおもて面(p型エピタキシャル層133側の主面)側にトレンチゲート構造を備えた縦型SiC-MOSFETである。
【0024】
半導体基板130は、SiCからなるn+型出発基板131上にn-型ドリフト領域102およびp型ベース領域103となる各エピタキシャル層132,133を順にエピタキシャル成長させてなる。n+型出発基板131は、n+型ドレイン領域101である。トレンチゲート構造は、p型ベース領域103、n+型ソース領域105、p++型コンタクト領域106、トレンチ107、ゲート絶縁膜108およびゲート電極109で構成される。p型ベース領域103の内部には、ゲート閾値電圧を調整するためのp型不純物のイオン注入によりp型チャネルインプラ領域104が設けられている。
【0025】
トレンチ107は、半導体基板130のおもて面に平行な第1方向Xに直線状に延在する。p型ベース領域103とn-型ドリフト領域102との間において、トレンチ107の底面よりもn+型ドレイン領域101側に深い位置に、p+型領域121,122およびJFET領域123がそれぞれ選択的に設けられている。p+型領域121,122は、ソース電極112の電位に固定され、トレンチ107の底面のゲート絶縁膜108にかかる電界を緩和させる機能を有する。p+型領域121,122は、トレンチ107の長手方向(第1方向X)に、トレンチ107と略同じ長さで直線状に延在する。
【0026】
+型領域121は、p型ベース領域103と離れて設けられ、深さ方向Zにトレンチ107の底面に対向する。p+型領域122は、互いに隣り合うトレンチ107間に、p型ベース領域103に接し、トレンチ107およびp+型領域121と離れて設けられている。JFET領域123は、深さ方向Zに第1,2JFET領域124,125を隣接させてなる。第1JFET領域124は、互いに隣り合うp+型領域121,122間に、これらの領域に接して設けられたn型領域である。第1JFET領域124は、下面(n+型ドレイン領域101側の面)でn-型ドリフト領域102に接する。
【0027】
第2JFET領域125は、p型ベース領域103と第1JFET領域124との間に設けられたn型領域である。第2JFET領域125は、上面(n+型ソース領域105側の面)でp型ベース領域103に接し、下面で第1JFET領域124およびp+型領域121に接する。第2JFET領域125は、半導体基板130のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Y(トレンチ107の短手方向)にp+型領域122に接する。第2JFET領域125は、p型ベース領域103と第1JFET領域124との間を第2方向Yにp+型領域122からトレンチ107まで達して、トレンチ107の側壁のゲート絶縁膜108に接する。第2JFET領域125の厚さt101は、例えば0.5μm程度である。
【0028】
ソース電極112は、層間絶縁膜111のコンタクトホール111aにおいてn+型ソース領域105およびp++型コンタクト領域106にオーミック接触する。ドレイン電極113は、半導体基板130の裏面(n+型出発基板131側の主面)の全面にオーミック接触する。SIC-MOSFETでは、チャネル長L(チャネル103aの深さ方向Zの長さ)を変えずに、チャネル幅(チャネル103aの第1方向Xの長さ)を広くすることでオン抵抗が低減されるが、短絡耐量が低くなる。チャネル103aとは、MOSFETのオン時にp型ベース領域103のトレンチ107の側壁に沿った部分に形成されてドリフト電流(ドレイン・ソース間電流Ids)の経路となるn型の反転層である。
【0029】
短絡耐量を向上させるには、p+型領域121の両端部をそれぞれ直上のトレンチ107の両側壁よりもp+型領域122側へ張り出させることで第1JFET領域124の第2方向Yの幅w101を狭くしたり、JFET領域123の不純物濃度を低くしたりすればよい。これによって、p型ベース領域103の下面近傍の電位が低くなり、短チャネル効果が抑制されるため、飽和電流Isatが小さくなり、短絡耐量が高くなる。短絡耐量とは、短絡電流に対する耐量である。短絡電流とは、負荷短絡時やアーム短絡時に流れるドレイン・ソース間電流Idsであり、定格電流を超える大電流となる。飽和電流Isatとは、飽和領域(ドレイン・ソース間電圧Vdsがピンチオフ電圧Vpを超えた動作領域)におけるドレイン・ソース間電流Idsである。
【0030】
上述した参考例の炭化珪素半導体装置110では、第2JFET領域125の不純物濃度を低くすぎると、オン抵抗が高くなることで、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係が悪くなることが発明者により確認されている。本実施の形態の課題としては、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係を改善することが挙げられる。発明者は、鋭意研究を重ねた結果、第2JFET領域の厚さをトレンチ底面に対向する電界緩和用のp+型領域の張り出し長さ以下にすることによって、第2JFET領域の不純物濃度を低くすることなく、オン抵抗を維持したまま、短絡耐量を向上させることができることを見出した。本実施の形態は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0031】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造について説明する。図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。図1には、1つの単位セル(素子の構成単位)を1/2の幅で示すが、単位セルはトレンチ7の中心線(トレンチ7の中心を通って半導体基板30のおもて面と直交する直線:不図示)を軸とした線対称な断面構造を有する。また、JFET領域23をハッチングで示す。図1に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10は、活性領域において、炭化珪素(SiC)からなる半導体基板(半導体チップ)30のおもて面側にトレンチゲート構造を備えた縦型SiC-MOSFETである。
【0032】
活性領域は、SiC-MOSFET(炭化珪素半導体装置10)のオン時に半導体基板30のおもて面に垂直な方向にドリフト電流(ドレイン・ソース間電流Ids)が流れる領域である。活性領域には、SiC-MOSFETの同一構造の複数の単位セルが隣接して配置される。活性領域の周囲は、エッジ終端領域に囲まれている。エッジ終端領域は、所定の耐圧構造(不図示)が配置されることで、半導体基板30のおもて面側の電界を緩和して耐圧を保持する機能を有する。耐圧とは、炭化珪素半導体装置10が使用電圧で誤動作や破壊を起こさない限界の電圧である。
【0033】
半導体基板30は、SiCからなるn+型出発基板31のおもて面上にn-型ドリフト領域(第1半導体領域)2およびp型ベース領域(第2半導体領域)3となる各エピタキシャル層32,33を順にエピタキシャル成長させてなる。半導体基板30は、p型エピタキシャル層33側の第1主面をおもて面とし、n+型出発基板31側の第2主面を裏面とする。n+型出発基板31は、n+型ドレイン領域1である。トレンチゲート構造は、p型ベース領域3、n+型ソース領域(第3半導体領域)5、p++型コンタクト領域6、トレンチ7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9で構成される。
【0034】
トレンチ7は、半導体基板30のおもて面から深さ方向Zにp型エピタキシャル層33を貫通してn-型エピタキシャル層32の内部で終端している。トレンチ7は、半導体基板30のおもて面に平行な第1方向Xに直線状に延在する。上述したように同一構造の複数の単位セルが隣接して配置されることで、複数のトレンチ7は第1方向Xにストライプ状に延在している。トレンチ7の短手方向(第2方向Y)の幅は、例えば0.7μm程度である。トレンチ7の内壁に沿ってゲート絶縁膜8が設けられている。トレンチ7の内部において、ゲート絶縁膜8の上にゲート電極9が設けられている。
【0035】
p型ベース領域3、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、互いに隣り合うトレンチ7間に設けられている。p型エピタキシャル層33のうち、n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6を除く部分がp型ベース領域3である。p型ベース領域3は、第1方向Xにトレンチ7と略同じ長さで直線状に延在する。p型ベース領域3は、半導体基板30のおもて面に平行でかつ第1方向Xと直交する第2方向Yにトレンチ7まで達して、トレンチ7の側壁のゲート絶縁膜8に接する。略同じ長さとは、製造プロセスばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ長さであることを意味する。
【0036】
p型ベース領域3(後述するp型チャネルインプラ領域4を含む)のトレンチ7の側壁に沿った部分に、SiC-MOSFETのオン時にドリフト電流の経路となるチャネル(n型の反転層)3aが形成される。チャネル長L(チャネル3aの深さ方向Zの長さ)を変えずに、チャネル幅(チャネル3aの第1方向Xの長さ)を広くすることでオン抵抗が低減される。p型ベース領域3の不純物濃度は、例えば1017/cm3台程度である。p型ベース領域3の内部に、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6および後述するJFET領域23と離れて、p型チャネルインプラ領域4が設けられている。
【0037】
p型チャネルインプラ領域4は、ゲート閾値電圧を調整するためのp型不純物のイオン注入によりp型エピタキシャル層33の内部に形成された拡散領域である。p型チャネルインプラ領域4は、半導体基板30のおもて面に平行な方向に略一様な厚さでp型ベース領域3の全域に延在して、トレンチ7の側壁のゲート絶縁膜8に接する。略一様な厚さとは、製造プロセスばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ厚さであることを意味する。p型チャネルインプラ領域4の不純物濃度は、p型ベース領域3の不純物濃度よりも高い。p型チャネルインプラ領域4は設けられていなくてもよい。
【0038】
+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、p型エピタキシャル層33へのイオン注入により形成された拡散領域である。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、半導体基板30のおもて面とp型ベース領域3との間に、p型ベース領域3に接してそれぞれ選択的に設けられている。n+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6は、層間絶縁膜11のコンタクトホール11aに露出されている。n+型ソース領域5は、トレンチ7の側壁でゲート絶縁膜8に接する。n+型ソース領域5は、トレンチ7に隣接して、第1方向Xにトレンチ7と略同じ長さで延在する。
【0039】
++型コンタクト領域6は、互いに隣り合うトレンチ7間の第2方向Yの略中心に、トレンチ7から離れて設けられ、半導体基板30のおもて面に平行な方向にn+型ソース領域5に隣接する。p++型コンタクト領域6は、例えば、第1方向Xに所定ピッチ(所定間隔)で点在して、n+型ソース領域5に周囲を囲まれている。p++型コンタクト領域6は設けられていなくてもよい。p++型コンタクト領域6を設けない場合、p++型コンタクト領域6に代えて、p型ベース領域3が半導体基板30のおもて面まで達して、半導体基板30のおもて面に平行な方向にn+型ソース領域5に隣接する。
【0040】
p型ベース領域3とn-型ドリフト領域2との間において、トレンチ7の底面よりもn+型ドレイン領域1側(半導体基板30の裏面側)に深い位置に、p+型領域(第2導電型の高濃度領域)21,22およびJFET領域23がそれぞれ選択的に設けられている。p+型領域21,22およびJFET領域23は、n-型エピタキシャル層32の内部にイオン注入により形成された拡散領域である。n-型エピタキシャル層32のうち、p+型領域21,22およびJFET領域23を除く部分がn-型ドリフト領域2である。
【0041】
+型領域21,22は、ソース電極12の電位に固定され、SiC-MOSFETのオフ時に空乏化して(もしくはJFET領域23を空乏化させて、またはその両方)、ゲート絶縁膜8にかかる電界を緩和させる機能を有する。p+型領域21,22は、第1方向Xにトレンチ7と略同じ長さで直線状に延在する。p+型領域21,22は、JFET領域23よりもn+型ソース領域5側(半導体基板30のおもて面側)に浅い位置で終端して、下面(n+型ドレイン領域1側の面)でn-型ドリフト領域2に接する。p+型領域21,22とn-型ドリフト領域2との間にJFET領域23が介在してもよい。
【0042】
+型領域21,22は、n+型ドレイン領域1側にJFET領域23と略同じ深さ位置で終端するか、またはJFET領域23よりもn+型ドレイン領域1側に深い位置で終端してもよい。略同じ深さとは、製造プロセスばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ深さであることを意味する。すべてのp+型領域21,22は、例えば活性領域の外周近傍で電気的に接続される。互いに隣り合うp+型領域21,22同士は、例えば当該p+型領域21,22間を第2方向Yにp+型領域21からp+型領域22まで達するp+型領域(不図示)によって活性領域内で部分的に連結されてもよい。
【0043】
+型領域21,22は、イオン注入用マスクの開口幅とほぼ略同じ幅で形成されて各コーナー(頂点)を略直角とした略矩形状の断面形状であってもよいし、イオン注入の飛程の深さ位置から不純物が放射状に拡散されることによって各コーナーが所定曲率で丸面(R面)取りされた(丸められた)略矩形状の断面形状であってもよい。p+型領域21のコーナーとは、p+型領域21の上部コーナー(上面と側面との境界(交線))と、p+型領域21の下部コーナー(下面と側面との境界(交線))と、である。p+型領域22のコーナーとは、p+型領域22の下部コーナーである。
【0044】
+型領域(第1高濃度領域)21は、p型ベース領域3と離れて設けられ、深さ方向Zにトレンチ7の底面および底面コーナー(側壁と底面との境界)に対向する。p+型領域21は、トレンチ7の底面および底面コーナーでゲート絶縁膜8に接する。p+型領域21の上面(n+型ソース領域5側の面)は、トレンチ7の底面よりもn+型ソース領域5側に浅い深さ位置に達していてもよい。この場合、p+型領域21はトレンチ7の底面から側壁にわたってゲート絶縁膜8に接する。p+型領域21の上面の深さ位置は、例えば、トレンチ7の底面の深さ位置や、後述する第2JFET領域25の厚さt1に応じて設定される。
【0045】
+型領域21の第2方向Yの幅は、トレンチ7の第2方向Yの幅よりも広い。p+型領域21の両端部は、それぞれ直上(n+型ソース領域5側)のトレンチ7の両側壁よりも第2方向Yにp+型領域22側へ張り出している。p+型領域21がp+型領域22に最も接近した箇所においてトレンチ7の側壁よりもp+型領域22側へ張り出す長さ(以下、「張り出し長さ」とする)d1は、例えば、0.25μm以上0.4μm以下程度の範囲内であることがよく、好ましくは0.3μm±10%程度(すなわち0.27μm以上0.33μm以下程度)の範囲内であることがよい。
【0046】
上述したp+型領域21の張り出し長さd1の数値範囲は、p+型領域21を形成するためのイオン注入用マスクの開口幅と略同じ長さに相当する。SiC中は不純物が拡散しにくい。このため、イオン注入用マスクの開口幅とほぼ略同じ幅でSiC中に拡散領域が形成されるが、p+型領域21の張り出し長さd1の数値範囲は、不純物の横方向拡散(イオン注入面に平行な方向の拡散)の分だけ上限側へ推移してもよいし、第2方向Yに隣接する第1JFET領域24との不純物量差によって下限側へ推移するか、または上限側へ推移してもよい。
【0047】
+型領域21の張り出し長さd1を長くするほど、オン抵抗を維持したまま、短チャネル効果を抑制して飽和電流Isat(飽和領域におけるドレイン・ソース間電流Ids)を小さくすることができる(後述する図4,5参照)。飽和電流Isatが小さくなるほど、飽和領域における出力特性(Ids-Vds特性:図4参照)を平坦に近づけることができる。その一方で、p+型領域21の張り出し長さd1を長くするほど、セルピッチが広くなる。このため、例えば、p+型領域21の張り出し長さd1を長くした分だけ、p+型領域22の第2方向Yの幅を狭くすることで、セルピッチを維持してもよい。
【0048】
+型領域21は、p+型領域21とJFET領域23とのpn接合が逆バイアスされたときにトレンチ7の底面近傍が空乏化しない程度の総不純物量が高くなっていればよく、ボックスプロファイルであってもよいし、所定箇所でピーク濃度(最大値)を示す不純物濃度プロファイルであってもよい。また、p+型領域21の不純物濃度が高すぎると、p+型領域21を形成するためのイオン注入により結晶欠陥が生じる。このため、p+型領域21の不純物濃度は、イオン注入による結晶欠陥が生じない程度に低く、例えば5×1017/cm3以上1×1019/cm3未満程度の範囲内である。
【0049】
また、p+型領域21の不純物濃度および不純物濃度プロファイルは、p+型領域21とJFET領域23とのpn接合からJFET領域23内(特に後述する第2JFET領域25内)に広がる空乏層によって第2JFET領域25内でドリフト電流の経路の幅(すなわち第2JFET領域25の空乏化していない部分の厚さ)が狭くなるように設定されることが好ましい。このため、p+型領域21の不純物濃度および不純物濃度プロファイルは、第2JFET領域25の不純物濃度やp+型領域21の厚さt2に応じて適宜設定される。p+型領域21の厚さt2は、例えば0.3μm以上0.4μm以下程度である。
【0050】
+型領域(第2高濃度領域)22は、互いに隣り合うトレンチ7間に、トレンチ7およびp+型領域21と離れて設けられている。p+型領域22は、上面でp型ベース領域3に接し、深さ方向Zにp++型コンタクト領域6に対向する。p+型領域22の第2方向Yの幅は、セルピッチ、p+型領域21の張り出し長さd1および後述する第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1に応じて適宜設定される。p+型領域22の第2方向Yの幅は、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの幅以上でもよいし、p++型コンタクト領域6の第2方向Yの幅よりも狭くてもよい。
【0051】
また、p+型領域22は、例えば多段エピタキシャル方式によって下部(n+型ドレイン領域1側の部分)と上部(n+型ソース領域5側の部分)との2段に分けて形成される。多段エピタキシャル方式とは、エピタキシャル層を複数回に分けて多段にエピタキシャル成長させるごとに各エピタキシャル層に深さ方向Zに隣接するように同導電型の拡散領域をイオン注入によって選択的に形成する方法である。p+型領域22の下部は、例えばp+型領域21と同時に形成される。p+型領域22の不純物濃度は、上部と下部とを略同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
JFET領域23は、チャネル3aとn-型ドリフト領域2との間においてチャネル3aに隣接し、SiC-MOSFETのオン時にドリフト電流の経路となるn型領域である。JFET領域23は、n-型ドリフト領域2よりも不純物濃度が高く、JFET抵抗を低減する機能を有する。また、JFET領域23は、キャリアの広がり抵抗を低減させる、いわゆる電流拡散層(CSL)として機能する。JFET領域23は、例えば多段エピタキシャル方式によって下部(以下、第1JFET領域とする)24と上部(以下、第2JFET領域とする)25との2段に分けて形成される。
【0053】
第1,2JFET領域24,25の不純物濃度は、例えば5.0×1016/cm3以上1.6×1017/cm3以下程度、好ましくは8.0×1016/cm3以上1.5×1017/cm3以下程度の範囲内である。第1,2JFET領域24,25は略同じ不純物濃度であってもよい。略同じ不純物濃度とは、製造プロセスばらつきによる許容誤差を含む範囲で同じ不純物濃度であることを意味する。第1JFET領域24は、互いに隣り合うp+型領域21,22間に、これらの領域に接して設けられたn型領域である。第1JFET領域24は、下面でn-型ドリフト領域2に接する。第1JFET領域24の上面は、p+型領域21の上面と略同じ深さに位置する。
【0054】
第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1は、後述する(2)式を満たす範囲で適宜設定される。例えば、第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1を狭くするほど、セルピッチを狭くすることができるため、活性領域に隣接して配置されて並列接続される単位セル数を増やして電流能力を高くしたり、チップサイズを小さくしたりすることができる。一方、第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1を狭くするほど、JFET抵抗が高くなり、オン抵抗が高くなる。このため、第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1は、所定のJFET抵抗を維持可能な程度に広くすることがよい。
【0055】
第2JFET領域25は、p型ベース領域3と第1JFET領域24との間に設けられたn型領域である。第2JFET領域25は、上面でp型ベース領域3に接し、下面で第1JFET領域24およびp+型領域21に接する。第2JFET領域25は、第2方向Yにp+型領域22に接する。第2JFET領域25は、p型ベース領域3と第1JFET領域24との間を第2方向Yにp+型領域22からトレンチ7まで達して、トレンチ7の側壁のゲート絶縁膜8に接する。第2JFET領域25の上面は、p+型領域22の上面と略同じ深さに位置する。第2JFET領域25の不純物濃度に依存してオン抵抗が決まる。
【0056】
例えば、ドレイン・ソース間電圧Vdsが例えば5V程度の比較的低い導通時には、JFET領域23を空乏化しにくくし、オン抵抗の増加が抑制されるように、第2JFET領域25の不純物濃度を適宜設定する。これによって、線形領域においてはドレイン・ソース間電圧Vdsが上昇してピンチオフ電圧Vpとなるまで、所定のオン抵抗(出力特性の傾き)でドレイン・ソース間電流Idsが大きくなる。さらに、ドレイン・ソース間電圧Vdsが例えば100V以上となるときには、第2JFET領域25の空乏化を促進して、第2JFET領域25内におけるドレイン・ソース間電流Idsの経路の幅が狭くなるように、第2JFET領域25の不純物濃度を適宜設定する。
【0057】
第2JFET領域25の不純物濃度を適宜設定して、p+型領域21,22と第2JFET領域25とのpn接合から第2JFET領域25内に広がる空乏層によって第2JFET領域25内におけるドレイン・ソース間電流Idsの経路の幅が狭くなるようにすることで、第2JFET領域25内でのドレイン・ソース間電流Idsの経路が長くなる。これによって、例えば、SiC-MOSFETはオンからオフに移行する遮断時に、負荷短絡やアーム短絡によってドレイン・ソース間電圧Vdsが100V以上の高電圧になったとしても、第2JFET領域25内でのドレイン・ソース間電流Idsによる電圧降下が大きくなり、チャネル3aの下端部40の電位上昇が抑制される。
【0058】
第2JFET領域25の厚さt1は、p+型領域21の張り出し長さd1以下である(t1/d1≦0)。すなわち、第2JFET領域25の、p型ベース領域3とp+型領域21との間に挟まれた部分の断面形状は、略正方形状または第2方向Yに細長い略長方形状である(θ2≧45度)。これによって、チャネル3aの下端部(n+型ドレイン領域1側の端部)40は、線形領域(ドレイン・ソース間電圧Vdsがピンチオフ電圧Vp以下となる動作領域)において、ドレイン電極13から直線的に見えなくなっている。チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えないとは、n型領域(JFET領域23、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1)のみを介してチャネル3aの下端部40とドレイン電極13とが対向する部分が存在しないことである。
【0059】
具体的には、チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えないとは、チャネル3aの下端部40上の任意点と、ドレイン電極13とn+型ドレイン領域1と界面上の任意点と、を結ぶ線分(チャネル3aの下端部40とドレイン電極13と結ぶ線分:例えば図1の第1,2線分41,42)を分断するように、すべての当該線分上に、p+型領域21,22のいずれか1つ以上が位置することである。ドレイン電極13とn+型ドレイン領域1と界面上のいずれの任意点から見た場合においても、チャネル3aの下端部40とドレイン電極13とがp+型領域21,22のいずれか1つ以上を介して対向する。これによって、チャネル3aの下端部40がp+型領域21,22のいずれか1つ以上によって遮蔽され、ドレイン・ソース間電圧Vdsによってn-型ドリフト領域2に生じる電界がチャネル3aの下端部40に直接印加されない。
【0060】
チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えないとは、p+型領域21,22とJFET領域23とのpn接合からJFET領域23内に広がる空乏層を介して、チャネル3aの下端部40とドレイン電極13とが対向することであってもよい。すなわち、ドレイン電極13とn+型ドレイン領域1と界面上のいずれの任意点から見た場合においても、チャネル3aの下端部40がp+型領域21,22および当該空乏層のいずれか1つ以上によって遮蔽されることによって、チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えなくなっていてもよい。この場合、n型領域の空乏化していない部分(JFET領域23の空乏化していない部分、n-型ドリフト領域2の空乏化していない部分およびn+型ドレイン領域1)のみを介してチャネル3aの下端部40とドレイン電極13とが対向する部分が存在しない。
【0061】
例えば、参考例構造(図6参照)では、第2JFET領域125の、p型ベース領域103とp+型領域121との間に挟まれた部分が深さ方向Zに細長い略長方形状の断面形状となる。互いに隣り合うp+型領域121,122間に、チャネル103aの下端部140がn型領域(JFET領域123、n-型ドリフト領域102およびn+型ドレイン領域101)のみを介してドレイン電極113と対向する部分(図6の第1,2線分141,142間に挟まれた部分)が比較的広い幅で存在する。この部分において、チャネル103aの下端部140がドレイン電極113から直線的に見える状態となり、ドレイン・ソース間電圧Vdsによってn-型ドリフト領域102に生じる電界がチャネル103aの下端部140に直接印加されることで、チャネル103aの下端部140の電位が高くなると推測される。
【0062】
実施の形態においては、チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えないことで、ドレイン・ソース間電圧Vdsによってn-型ドリフト領域2に生じる電界がチャネル3aの下端部40に直接印加されないため、参考例構造と比べてチャネル3aの下端部40の電位上昇が抑制されると推測される。これによって、チャネル3aの下端部40が空乏化されにくく、短チャネル効果が抑制される。第2JFET領域25の厚さt1をp+型領域21の張り出し長さd1未満として(t1/d1<0)、第2JFET領域25の、p型ベース領域3とp+型領域21との間に挟まれた部分が第2方向Yに細長い略長方形状の断面形状になるほど、第2JFET領域25内でのドリフト電流の経路が長くなり、ドリフト電流による第2JFET領域25での電圧降下が大きくなる。
【0063】
第2JFET領域25の、p型ベース領域3とp+型領域21との間に挟まれた部分の断面形状を略正方形状または第2方向Yに細長い略長方形状とするには、例えば、第2JFET領域25の厚さt1を薄くするとともに、p+型領域21の張り出し長さd1を長くすることがよい。第2JFET領域25の厚さt1を薄くするほど、オン抵抗を維持したまま、短チャネル効果を抑制して飽和電流Isatを小さくすることができる(後述する図2,3参照)。飽和電流Isatが小さくなるほど、飽和領域における出力特性(Ids-Vds特性:図2参照)を平坦に近づけることができる。p+型領域21の張り出し長さd1を長くするほど、短チャネル効果を抑制する効果が高くなる(図5参照)。
【0064】
第2JFET領域25の厚さt1が薄くしすぎると、オン抵抗が高くなりすぎて、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係が悪くなる。また、第2JFET領域25の厚さt1は、多段エピタキシャル方式を用いてJFET領域23を形成する際の1段分のエピタキシャル層の厚さに相当し、厚さを薄くするほど半導体基板30の面内での厚さのばらつきが大きくなる。第2JFET領域25の厚さt1が厚くなるほど、短チャネル効果を抑制する効果が低くなる。このため、第2JFET領域25の厚さt1は、例えば、0.25μm以上0.4μm以下程度の範囲内であることがよく、好ましくは0.3μm±10%程度であることがよい。
【0065】
また、下記(2)式を満たすように第2JFET領域25の厚さt1、p+型領域21の厚さt2、p+型領域21の張り出し長さd1、および第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1を適宜設定することによっても、チャネル3aの下端部40をドレイン電極13から直線的に見えなくすることができる。図1には、p+型領域21,22がコーナーを略直角とした略矩形状の断面形状である場合を示す。下記(2)式は、p+型領域21,22がコーナーを略直角とした略矩形状の断面形状である場合の条件式であるが、θ2>θ1と同義であるため、p+型領域21,22が丸面取りされた略矩形状の断面形状である場合においても同様に成り立つ。
【0066】
【数2】
【0067】
具体的には、例えば、参考例構造(図6参照)では、互いに隣り合うp+型領域121,122間において、チャネル103aの下端部140上の任意点とp+型領域121の上部コーナー(上面と側面との交線)上の任意点とを結ぶ第2線分142がトレンチ107の側壁に対してなす第2角度θ102は、チャネル103aの下端部140上の任意点とp+型領域122の下部コーナー(下面と側面との交線)上の任意点とを結ぶ第1線分141がトレンチ107の側壁に対してなす第1角度θ101よりも小さくなる(θ102<θ101)。このため、チャネル103aの下端部140上の同一の任意点を端点とする第1,2線分141,142間にp+型領域121,122が位置せず、当該第1,2線分141,142間においてチャネル103aの下端部140がドレイン電極113から直線的に見える状態となる。図6には、p+型領域121,122がコーナーを略直角とした略矩形状の断面形状である場合を示す。
【0068】
一方、本実施の形態においては、p+型領域21,22がコーナーを略直角とした略矩形状の断面形状である場合、上記(2)式を満たす。互いに隣り合うp+型領域21,22間において、チャネル3aの下端部40上の任意点とp+型領域21の上部コーナー(上面と側面との交線)上の任意点とを結ぶ第2線分42がトレンチ7の側壁に対してなす第2角度θ2は、チャネル3aの下端部40上の任意点とp+型領域22の下部コーナー(下面と側面との交線)上の任意点とを結ぶ第1線分41がトレンチ7の側壁に対してなす第1角度θ1よりも大きくなる(θ2>θ1)。これによって、チャネル3aの下端部40上の同一の任意点を端点とする第1,2線分41,42間においてチャネル3aの下端部40とドレイン電極13との間にp+型領域21,22が介在し、チャネル3aの下端部40がp+型領域21,22によって遮蔽されてドレイン電極13から直線的に見えなくなる。
【0069】
+型領域21,22が丸面取りされた略矩形状の断面形状である場合、チャネル3aの下端部40上の任意点を通ってp+型領域22の下部コーナーの曲面上の任意点でp+型領域21に接する接線が第1線分41となる。チャネル3aの下端部40上の任意点を通ってp+型領域21の上部コーナーの曲面上の任意点でp+型領域21に接する接線が第2線分42となる。このため、p+型領域22のコーナーが略直角である場合と比べて、p+型領域22の下部コーナーが丸面取りされた分だけ、チャネル3aの下端部40上の任意点を中心として第1角度θ1を大きくする方向に第1線分41が回転移動する。p+型領域21のコーナーが略直角である場合と比べて、p+型領域21の上部コーナーが丸面取りされた分だけ、チャネル3aの下端部40上の任意点を中心として第2角度θ2を小さくする方向に第2線分42が回転移動する。
【0070】
このように、p+型領域21,22のコーナーが丸面取りされた場合、p+型領域21,22のコーナーが略直角である場合と比べて、チャネル3aの下端部40上の同一の任意点を端点とする第1,2線分41,42が互いに近づくように回転移動する。この場合においても、第2角度θ2が第1角度θ1よりも大きくなるように(θ2>θ1)、第2JFET領域25の厚さt1、p+型領域21の厚さt2、p+型領域21の張り出し長さd1、および第1JFET領域24の第2方向Yの幅w1を適宜設定することで、チャネル3aの下端部40上の同一の任意点を端点とする第1,2線分41,42間においてチャネル3aの下端部40とドレイン電極13との間にp+型領域21,22が介在する構成となる。このため、p+型領域21,22のコーナーが略直角である場合と同様に、チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えなくなる。
【0071】
層間絶縁膜11は、半導体基板30のおもて面の全面に設けられ、ゲート電極9を覆う。ソース電極(第1電極)12は、コンタクトホール11aを介してn+型ソース領域5およびp++型コンタクト領域6にオーミック接触し、n+型ソース領域5、p++型コンタクト領域6、p型ベース領域3およびp+型領域21,22に電気的に接続されている。ドレイン電極(第2電極)13は、半導体基板30の裏面(n+型出発基板31の裏面)の全面に設けられている。ドレイン電極13は、n+型ドレイン領域1(n+型出発基板31)にオーミック接触して、n+型ドレイン領域1に電気的に接続されている。
【0072】
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10(SiC-MOSFET)の動作について説明する。SiC-MOSFETの通常動作時、ソース電極12に対して正の電圧(ドレイン・ソース間電圧Vds)がドレイン電極13に印加されることで、p++型コンタクト領域6、p型ベース領域3およびp+型領域21,22と、JFET領域23、n-型ドリフト領域2およびn+型ドレイン領域1と、のpn接合(活性領域の主接合)が逆バイアスされる。この状態で、ゲート電極9に印加される電圧がゲート閾値電圧未満であると、SiC-MOSFETはオフ状態を維持する。
【0073】
一方、ソース電極12に対して正の電圧がドレイン電極13に印加された状態でゲート電極9にゲート閾値電圧以上のゲート電圧が印加されると、p型ベース領域3の、トレンチ7の側壁に沿った部分にチャネル3aが形成される。それによって、n+型ドレイン領域1からn-型ドリフト領域2、JFET領域23およびチャネル3aを通ってn+型ソース領域5へ向かってドリフト電流(ドレイン・ソース間電流Ids)が流れ、SiC-MOSFETがオン(導通)する。線形領域においてはドレイン・ソース間電圧Vdsが上昇してピンチオフ電圧Vpとなるまで、ドレイン・ソース間電流Idsが大きくなる。
【0074】
飽和領域においては、ドレイン・ソース間電流Ids(飽和電流Isat)を小さい電流値でほぼ飽和させることができる。その理由は、チャネル3aの下端部40がp+型領域21、p+型領域22または活性領域の主接合から広がる空乏層によって遮蔽されて、ドレイン電極13から直線的に見えないからである。チャネル3aの下端部40がドレイン電極13から直線的に見えないことで、ドレイン・ソース間電圧Vdsによってn-型ドリフト領域2に生じる電界がチャネル3aの下端部40に直接印加されない。これによって、チャネル3aの下端部40の電位上昇が抑制される。
【0075】
チャネル3aの下端部40の電位上昇が抑制されることで、ドレイン・ソース間電圧Vdsが高電圧になっても、チャネル3aの下端部40が空乏化しにくい。このため、チャネル3aのピンチオフ点(チャネル3aの下端部40)が移動しにくく、実効的なチャネル長Lをp型ベース領域3の厚さとほぼ同じ長さで維持することができるため、短チャネル効果を抑制することができる。これによって、ドレイン・ソース間電圧Vdsが高電圧になっても飽和電流Isatが大きくなりにくく、飽和領域における出力特性を平坦に近づけることができる。
【0076】
参考例構造では、チャネル103aの下端部140がドレイン電極113から直線的に見えることで、ドレイン・ソース間電圧Vdsによってn-型ドリフト領域102に生じる電界がチャネル103aの下端部140に直接印加される。これによって、チャネル103aの下端部140の電位上昇が大きくなり、チャネル103aの下端部140が空乏化しやすい。ドレイン・ソース間電圧Vdsが高くなるほど、チャネル103aのピンチオフ点(チャネル103aの下端部140)がn+型ソース領域5側へ移動していき、実効的なチャネル長Lが短くなっていく。このため、ドレイン・ソース間電圧Vdsが高くなるほど、短チャネル効果によって飽和電流Isatが大きくなっていく。
【0077】
一般的に、MOSFETでは、負荷短絡時やアーム短絡時にオフ動作が遅延してオンしたままとなると、ドレイン・ソース間電圧Vdsとドレイン・ソース間電流Idsとが同時にかかることで、急激に温度上昇する。参考例構造のようにドレイン・ソース間電圧Vdsの上昇に伴って飽和電流Isatが大きくなっていく場合、負荷短絡時やアーム短絡時にドレイン・ソース間電圧Vdsが高電圧(例えば1200V)になった場合に、ドレイン・ソース間電流Idsが定格を超える大電流(短絡電流)となり、SiC-MOSFETが急激に温度上昇して熱破壊に至る。
【0078】
実施の形態においては、上述したようにドレイン・ソース間電圧Vdsが高くなっても飽和電流Isatが大きくなりにくい。このため、負荷短絡時やアーム短絡時にドレイン・ソース間電圧Vdsが高電圧になっても、短絡電流が流れにくく、短絡耐量を向上させることができる。第2JFET領域25の不純物濃度を適宜設定することで、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係が改善される。
【0079】
以上、説明したように、実施の形態によれば、第2JFET領域の厚さをトレンチ底面に対向する電界緩和用のp+型領域の張り出し長さ以下にする。これによって、チャネルの下端部がドレイン電極から直線的に見えない構造となり、チャネルの下端部の電位上昇が抑制される。これによって、オン抵抗を維持したまま、短チャネル効果が抑制されて飽和電流を小さくすることができる。飽和電流が小さくなるほど、飽和領域における出力特性を平坦に近づけることができる。このため、負荷短絡時やアーム短絡時にドレイン・ソース間電圧が高電圧になっても、短絡電流が流れにくく、短絡耐量が向上する。したがって、オン抵抗と短絡耐量とのトレードオフ関係を改善することができる。
【0080】
また、実施の形態によれば、第2JFET領域の厚さを薄くするほど、かつトレンチ底面に対向する電界緩和用のp+型領域の張り出し長さを長くするほど、短チャネル効果を抑制する効果が高くなる。また、チャネルの下端部全体の電位上昇が抑制されるため、チャネル幅を広くして低オン抵抗化を図っても短絡耐量が低減しない。
【0081】
(実験例1)
第2JFET領域25の厚さt1について検証した。図2は、比較例1~3の出力特性を示す特性図である。図3は、比較例1~3の飽和電流Isatとオン抵抗RonAとの関係を示す特性図である。実験例1の試料として、シミュレーションによる比較例1~3を用いた。比較例1~3の出力特性(Ids-Vds特性)を検証した結果を図2に示す。図2の比較例1~3は、第2JFET領域125の厚さt101のみが異なる。比較例1~3についてそれぞれJFET領域123の不純物濃度を種々変更して飽和電流Isatおよびオン抵抗RonAを検証した結果を図3に示す。
【0082】
参考例の炭化珪素半導体装置110の構成を備えたSiC-MOSFET(以下、単に参考例とする)は、JFET領域123の不純物濃度を低くすることで所定の短絡耐量を得ている。参考例は、第2JFET領域125の厚さt101を0.5μmとし、p+型領域121の張り出し長さd101を0.1μmとした。比較例1が参考例と異なる点は、JFET領域123を実施の形態のJFET領域23と同じ不純物濃度の範囲内とした点である。比較例2,3は、第2JFET領域125の厚さt101が比較例1と異なり、第2JFET領域125の厚さt101をそれぞれ0.3μmおよび0.2μmとした。
【0083】
図2に示す比較例1~3の結果から、第2JFET領域125の厚さt101を薄くするほど、飽和電流Isat(飽和領域におけるドレイン・ソース間電流Ids)が小さくなることが確認された(矢印51の部分)。飽和電流Isatを小さくすることで、飽和領域における出力特性が平坦に近づくことが確認された。また、比較例3のように第2JFET領域125の厚さt101を薄くしすぎると、オン抵抗RonAが急激に高くなることが確認された。なお、線形領域における出力特性の傾き(=ドレイン・ソース間電流Ids/ドレイン・ソース間電圧Vds)がオン抵抗RonAの逆数に相当する。
【0084】
図3に示す結果から、比較例1~3では、JFET領域123の不純物濃度を高くしたことで、オン抵抗RonAが低減されることが確認された。比較例1,2では、第2JFET領域125の厚さt101を薄くすることで飽和電流Isatが小さくなるが、オン抵抗RonAはほぼ変わらないことが確認された(矢印52の部分)。
【0085】
比較例3のように第2JFET領域125の厚さt101を薄くしすぎると、オン抵抗RonAが急激に高くなるが、図2,3および後述する図5の結果から第2JFET領域125の厚さt101が0.25μm以上(好ましくは0.3μm±10%程度)であれば、オン抵抗RonAがほぼ維持したまま、飽和電流Isatを小さくすることができると推測される。したがって、第2JFET領域125の厚さt101が0.25μm以上程度であれば、オン抵抗RonAは、第2JFET領域125の厚さt101によらず、第2JFET領域125の不純物濃度に応じて決まると推測される。
【0086】
(実験例2)
+型領域21の張り出し長さd1について検証した。図4は、比較例6~9の出力特性を示す特性図である。図5は、比較例4~8の飽和電流Isatとオン抵抗RonAとの関係を示す特性図である。実験例2の試料として、シミュレーションによる比較例4~9を用いた。比較例6~9の出力特性を検証した結果を図4に示す。図4の比較例6~9は、p+型領域21の張り出し長さd1のみが異なる。比較例4~8について、それぞれJFET領域23,123の不純物濃度を種々変更して飽和電流Isatおよびオン抵抗RonAを検証した結果を図5に示す。
【0087】
比較例6~9は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置10(図1参照)の構成を備えたSiC-MOSFETであり、第2JFET領域25の厚さt1をp+型領域21の張り出し長さd1以下とした。比較例6~9の第2JFET領域25の厚さt1を0.3μmとした。比較例6~9のp+型領域21の張り出し長さd1をそれぞれ0.15μm、0.25μm、0.35μmおよび0.45μmとした。比較例5が比較例6と異なる点は、p+型領域21の張り出し長さd1を0.05μmとした点である。比較例4が比較例5と異なる点は、第2JFET領域25の厚さt1を0.5μmとした点である。
【0088】
図4,5に示す結果から、p+型領域21の張り出し長さd1を長くするほど、オン抵抗RonAを維持したまま、短チャネル効果が抑制されて、飽和電流Isat(飽和領域におけるドレイン・ソース間電流Ids)が小さくなることが確認された(矢印53,54の部分)。また、図4に示す結果から、p+型領域21の張り出し長さd1を長くして飽和電流Isatを小さくするほど、飽和領域における出力特性を平坦に近づけることができることが確認された。なお、線形領域における出力特性の傾き(=ドレイン・ソース間電流Ids/ドレイン・ソース間電圧Vds)がオン抵抗RonAの逆数に相当する。
【0089】
また、比較例4,5や上述した実験例1のようにp+型領域21の張り出し長さd1が同じである場合、上述したように、第2JFET領域25の厚さt1を薄くするほど、飽和電流Isatが小さくなる。また、比較例5~9のように第2JFET領域25の厚さt1が同じである場合、上述したように、p+型領域21の張り出し長さd1を長くするほど、飽和電流Isatが小さくなる。したがって、実験例2において、p+型領域21の張り出し長さd1を長くし、かつ第2JFET領域25の厚さt1を短くすることで、短チャネル効果を抑制する効果を高くなることができることが確認された。
【0090】
なお、第2JFET領域25の厚さt1が0.5μmである場合、p+型領域21の張り出し長さd1の長さを変更しても、短チャネル効果を低減する効果が得られないことが発明者により確認されている。このため、比較例4,5および実験例1に示す結果から、第2JFET領域25の厚さt1は、0.25μm以上0.4μm以下程度(好ましくは0.3μm±10%程度)であることがよいと推測される。また、比較例5~9の結果から、p+型領域21の張り出し長さd1が0.25μm以上0.4μm以下程度(好ましくは0.3μm±10%程度)であることがよいと推測される。
【0091】
したがって、実験例1,2の結果から、第2JFET領域25の厚さt1をp+型領域21の張り出し長さd1以下とし、第2JFET領域25の厚さt1を薄くするほど、かつp+型領域21の張り出し長さd1を長くするほど、第2JFET領域25の不純物濃度に起因して決まるオン抵抗RonAを維持したまま、短チャネル効果を抑制して飽和電流Isatを大幅に小さくすることができることが確認された。
【0092】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用されるパワー半導体装置に有用であり、特にオン抵抗が2.5mΩ・cm2以下程度(例えば1.5mΩ・cm2~2.0mΩ・cm2程度)の炭化珪素半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0094】
1,101 n+型ドレイン領域
2,102 n-型ドリフト領域
3,103 p型ベース領域
3a,103a チャネル
4,104 p型チャネルインプラ領域
5,105 n+型ソース領域
6,106 p++型コンタクト領域
7,107 トレンチ
8,108 ゲート絶縁膜
9,109 ゲート電極
10,110 炭化珪素半導体装置
11,111 層間絶縁膜
11a,111a 層間絶縁膜のコンタクトホール
12,112 ソース電極
13,113 ドレイン電極
21,121 トレンチ直下のp+型領域
22,122 互いに隣り合うトレンチ間のp+型領域
23,123 JFET領域
24,124 第1JFET領域
25,125 第2JFET領域
30,130 半導体基板
31,131 n+型出発基板
32,132 n-型エピタキシャル層
33,133 p型エピタキシャル層
40,140 チャネルの下端部
41,42,141,142 チャネルの下端部とドレイン電極とを結ぶ第1線分
L チャネル長
X 半導体基板のおもて面に平行な第1方向
Y 半導体基板のおもて面に平行でかつ第1方向と直交する第2方向
Z 深さ方向
d1,d101 トレンチ直下のp+型領域の張り出し長さ
t1,t101 第2JFET領域の厚さ
t2,t102 トレンチ直下のp+型領域の厚さ
w1,w101 第1JFET領域の第2方向の幅
θ1,θ101 第1線分がトレンチの側壁に対してなす第1角度
θ2,θ102 第2線分がトレンチの側壁に対してなす第2角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6