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特開2024-123800生分解性ポリエステル系樹脂、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123800
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】生分解性ポリエステル系樹脂、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/16 20060101AFI20240905BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08G63/16 ZBP
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031497
(22)【出願日】2023-03-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度~4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今田 基祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 香央子
(72)【発明者】
【氏名】竹中 康将
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 澄人
(72)【発明者】
【氏名】林 千里
(72)【発明者】
【氏名】葛城 敦詞
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AD10
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029BA03
4J029BA04
4J029BH01
4J029BH02
4J029CA04
4J029CH01
4J029CH02
4J029DA02
4J029DB01
4J029EF01
4J029EF02
4J029FC04
4J029FC05
4J029FC08
4J029FC16
4J029FC17
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB131
4J029JF321
4J200AA02
4J200BA03
4J200BA05
4J200BA20
4J200DA01
4J200DA09
4J200DA17
4J200DA18
4J200DA22
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性と生分解性を示す新たなポリエステル系樹脂、ガスバリア性フィルム、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、コハク酸由来の構造単位;
炭素数3以下の脂肪族ジオール由来の構造単位;および
カルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物由来の構造単位;
を有する、生分解性ポリエステル系樹脂である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸由来の構造単位(A);
炭素数3以下の脂肪族ジオール由来の構造単位(B);および
カルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物由来の構造単位(C);
を有する重合体を含む、生分解性ポリエステル系樹脂。
【請求項2】
前記炭素数3以下の脂肪族ジオールがエチレングリコールである請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
【請求項3】
前記多官能化合物がアスパラギン酸である請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
【請求項4】
前記重合体に含まれる、前記構造単位(A)に対する前記構造単位(C)のモル比(C/A)が1/100~10/100である請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
【請求項5】
前記コハク酸、炭素数3以下の脂肪族ジオール、および多官能化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種は植物に由来するものである請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
【請求項6】
請求項1に記載の生分解性ポリエステル系樹脂からなるフィルムであって、
前記フィルムは23℃、相対湿度0%での酸素透過係数が1cm mm/m・Day・atm以下であるガスバリア性フィルム。
【請求項7】
コハク酸;
炭素数3以下の脂肪族ジオール;および
カルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物;
とを縮重合させることを特徴とする生分解性ポリエステル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル系樹脂、ガスバリア性フィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは耐久性が高く、幅広い分野で利用されているが、自然環境中で分解されにくいためプラスチック廃棄物による環境汚染が問題となっていた。プラスチック廃棄物の環境負荷を改善する技術として、微生物などの働きによって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックの開発が行われており、ポリブチレンサクシネート(PBS)や、ポリエチレンサクシネート(PES)などが知られている。
しかしながらポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネートはガスバリア性が低く、食品や医薬品など高いガスバリア性が要求される用途には不向きであった。
【0003】
近年、ポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネートなどの生分解性ポリエステルにガスバリア性を付与した紙やフィルムなどを積層させた生分解性ガスバリア包装材料が提案されている(例えば特許文献1、2)。
しかしながら積層体は層間が十分に接着していないと剥離するという問題が生じることがあり、また異なる材料の積層体であるため、バリア性を付与する材料や接着剤と生分解性ポリエステルとで生分解に要する時間に大きな差が生じるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-121488号公報
【特許文献2】特開2012-040688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、優れたガスバリア性を有する新たな生分解性ポリエステル系樹脂、ガスバリア性フィルム、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た本発明の生分解性ポリエステル系樹脂は以下の構成を有する。
[1]コハク酸由来の構造単位(A);炭素数3以下の脂肪族ジオール由来の構造単位(B);およびカルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物由来の構造単位(C);を有する重合体を含む、生分解性ポリエステル系樹脂。
[2]前記炭素数3以下の脂肪族ジオールがエチレングリコールである[1]に記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
[3]前記多官能化合物がアスパラギン酸である[1]または[2]に記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
[4]前記重合体に含まれる、前記構造単位(A)に対する前記構造単位(C)のモル比(C/A)が1/100~10/100である[1]~[3]のいずれかに記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
[5]前記コハク酸、炭素数3以下の脂肪族ジオール、および多官能化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種は植物に由来するものである[1]~[4]のいずれかに記載の生分解性ポリエステル系樹脂。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の生分解性ポリエステル系樹脂からなるフィルムであって、前記フィルムは23℃、相対湿度0%での酸素透過係数が1cm mm/m・Day・atm以下であるガスバリア性フィルム。
[7]コハク酸;炭素数3以下の脂肪族ジオール;およびカルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物;とを縮重合させることを特徴とする生分解性ポリエステル系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば優れたガスバリア性を有する生分解性ポリエステル系樹脂、ガスバリア性フィルム、およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の生分解性ポリエステル系樹脂(以下、生分解性ポリエステル系樹脂ということがある)は、特定の重合体(重縮合体)(以下、生分解性重合体という場合がある)を含み、該生分解性重合体は、ジカルボン酸単位としてコハク酸由来の構造単位(以下、コハク酸単位(A)ということがある);ジオール単位として炭素数3以下の脂肪族ジオール由来の構造単位(以下、炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)ということがある);およびカルボキシ基、アミノ基、チオール基、および水酸基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物由来の構造単位(以下、多官能化合物単位(C)ということがある)とから構成され、必要に応じて上記以外のジカルボン酸単位やジオール単位などのその他成分を含有していてもよい。
上記生分解性重合体は、優れた生分解性を有すると共に、上記特定の多官能化合物に由来する水素結合、および架橋構造に起因して優れたガスバリア性を有する。
【0009】
[生分解性ポリエステル系樹脂]
以下、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂を構成する主要な成分である、上記生分解性重合体の構成について説明する。上記生分解性重合体は、ジカルボン酸単位、ジオール単位からなるポリエステル骨格に多官能化合物単位(C)が組み込まれたものである。
【0010】
<ジカルボン酸単位>
コハク酸単位(A)
コハク酸単位(A)は、炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)とポリアルキレンサクシネート骨格を形成し、生分解性を発揮する。
十分な耐久性を有しつつ優れた生分解性を発揮させる観点からは、生分解性重合体に含まれるジカルボン酸単位のうち、コハク酸単位(A)のモル比(コハク酸単位(A)/ジカルボン酸単位;該重合体のジカルボン酸単位総量100モルに対するコハク酸単位(A:モル)の含有比である。)は、好ましくは90/100以上、より好ましくは95/100以上、さらに好ましくは98/100以上、よりさらに好ましくは100/100である。
【0011】
上記ジカルボン酸単位の残部として、コハク酸単位(A)以外のジカルボン酸単位(その他ジカルボン酸単位(D))が含まれていてもよい。
その他ジカルボン酸単位(D)として、例えばシュウ酸、マロン酸、グルタル酸などの鎖状脂肪族ジカルボン酸やシクロヘキサンジカルボン酸などの環状脂肪族ジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位;テレフタル酸、フランジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位など(好ましくは脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位、より好ましくは鎖状脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位)が含まれていてもよい。
【0012】
<ジオール単位>
炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)
炭素数3以下の脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロパンジオール(特に1,3-プロパンジオール)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはエチレングリコールである。
生分解性重合体に含まれるジオール単位100質量部中、炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)(併用する場合は合計)は、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上、さらに好ましくは98質量部以上、よりさらに好ましくは100質量部である。炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)は多い程、優れた生分解性とガスバリア性を示す。
上記ジオール単位100質量部の残部として、本発明の生分解性重合体は炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)以外のジオール単位(その他ジオール単位(E))が含まれていてもよい。
その他ジオール単位(E)として、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオールなどに由来する構造単位が挙げられる。
【0013】
生分解性重合体においてジオール単位の量は、ジカルボン酸単位の量と実質的に釣り合っており、ジカルボン酸単位合計100モル%に対して、ジオール単位の量は例えば70~130モル%、好ましくは80~120モル%、より好ましくは90~110モル%である。
【0014】
<多官能化合物単位>
所定の多官能化合物単位(C)
生分解性重合体を構成する所定の多官能化合物単位(C)は、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上の官能基を含む。なお、選択する3以上の官能基は同一、または異なる官能基であってもよく、同一の官能基を選択する場合は夫々を個別にカウントする。好ましくは少なくとも1個のアミノ基を必須とする3以上の官能基を含む多官能化合物単位(C-1)であり、より好ましくは少なくとも1個のアミノ基と少なくとも1個のカルボキシ基を必須とする3以上の官能基を含む多官能化合物単位(C-2)である。
多官能化合物単位に含まれる官能基数は3以上であって、好ましくは6以下である。
所定の多官能化合物単位(C)としてはセリン、トレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リシン、システイン、アルギニン、チロシンなどの側鎖にOH基、COOH基、NH基(C(=O)NH基を含む)、又はSH基を含む天然α-アミノ酸;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の炭素数3~6の脂肪族多価アルコール;タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸等の炭素数3~6の脂肪族ヒドロキシカルボン酸類;エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、プロパンジアミン四酢酸、アミノマロン酸などのアキレン基及びアルキル基の炭素数が3以下になっている脂肪族アミノポリカルボン酸が例示される。これらは単独、または2種以上を組み合わせて使用できる。
上記多官能化合物単位(C-1)、多官能化合物単位(C-2)としては上記天然αアミノ酸、アミノポリカルボン酸が例示される。
上記多官能化合物単位(C~C-2)のうち、好ましくは天然αアミノ酸、より好ましくはアスパラギン酸である。
なお、所定の多官能化合物(C)に該当する場合は、ジカルボン酸単位、ジオール単位ではなく、多官能化合物単位としてカウントする。
【0015】
生分解性重合体に含まれるコハク酸単位(A)に対する所定の多官能化合物単位(C)のモル比(C/A:複数用いる場合は合計)は好ましくは1/100以上、より好ましくは3/100以上、さらに好ましくは5/100以上であって、好ましくは10/100以下、より好ましくは8/100以下である。所定の多官能化合物単位(C)が増えるとガスバリア性を向上できるが、増えすぎるとゲル化することがあるため、所定の多官能化合物単位(C)は少ない方がよい。
【0016】
またゲル化を抑制しつつガスバリア性を向上させる観点からは、コハク酸単位(A)と多官能化合物単位(C)の合計に対して炭素数3以下のジオール単位(B)のモル比(B/[A+C])は、好ましくは80/100~120/100、より好ましくは85/100~110/100、さらに好ましくは90/100~105/100である。
【0017】
本発明の生分解性重合体100質量%中、コハク酸単位(A)、炭素数3以下の脂肪族ジオール単位(B)、および所定の多官能化合物単位(C)の合計割合は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは100質量%である。残部として上記単位(A)~(C)以外の構造単位(以下、その他単位(F)ということがある)が含まれていてもよい。その他単位(F)として、上記その他ジカルボン酸単位(D)、その他ジオール単位(E)が例示されるが、これに限定されない。上記単位(A)~(C)の合計割合が多い程、優れたガスバリア性と生分解性が得られる。
【0018】
上記生分解性重合体は本発明の生分解性ポリエステル系樹脂の主要な構成成分であり、生分解性ポリエステル系樹脂は生分解性重合体以外のその他成分を必要に応じて含んでいてもよい。上記生分解性重合体は生分解性ポリエステル系樹脂中の全重合体100質量%に対して好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。上記生分解性重合体の割合が高い程、優れたガスバリア性と生分解性を示す。
生分解性ポリエステル系樹脂に含まれるその他成分としては、例えばポリヒドロキシアルカン酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなど他の生分解性樹脂;例えば顔料、染料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填材、強化剤、難燃剤、可塑剤、粘土等の添加剤が挙げられる。
【0019】
本発明の生分解性とは、実施例記載の生分解試験において低分子に分解され、最終的に水と二酸化炭素に分解されることをいう。
また生分解性に優れるとは、好ましくは30日以内に好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上の生分解性を有することである。
【0020】
本発明のガスバリア性とは、実施例記載の酸素透過試験において、酸素透過係数が1.00cm mm/m・Day・atm以下、好ましくは0.80cm mm/m・Day・atm以下、より好ましくは0.50cm mm/m・Day・atm以下である。なお、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂からなるフィルム(以下、ガスバリア性フィルムということがある)も上記ガスバリア性を有する。
【0021】
以下、本発明の生分解性重合体の製造方法について説明する。
本発明の生分解性重合体は、原料モノマーを重縮合して製造できる。
原料モノマーは、コハク酸(a)(ジカルボン酸成分);炭素数3以下の脂肪族ジオール(以下、所定の脂肪族ジオール成分(b)ということがある);カルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物(以下、所定の多官能化合物成分(c)ということがある)である。
【0022】
コハク酸(a)は、コハク酸、またはコハク酸の誘導体であってもよく、コハク酸の誘導体としてはコハク酸ジメチル、コハク酸ジエチルなどのコハク酸エステル、無水コハク酸などが挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用してもよい。
所定の脂肪族ジオール成分(b)は、炭素数3以下の脂肪族ジオールであり、例えばエチレングリコール、プロパンジオール(特に1,3-プロパンジオール)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはエチレングリコールである。
所定の多官能化合物成分(c)は、カルボキシ基、アミノ基、チオール基、およびヒドロキシ基からなる群より選ばれる少なくとも3以上を含む多官能化合物であり、例えばセリン、トレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、リシン、システイン、アルギニン、チロシンなどの側鎖にOH基、COOH基、NH基(C(=O)NH基を含む)、又はSH基を含む天然α-アミノ酸;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の炭素数3~6の脂肪族多価アルコール;タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸等の炭素数3~6の脂肪族ヒドロキシカルボン酸類;エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、プロパンジアミン四酢酸、アミノマロン酸などのアキレン基及びアルキル基の炭素数が3以下になっている脂肪族アミノポリカルボン酸が例示され、好ましくは天然αアミノ酸、より好ましくはアスパラギン酸である。これらは1種、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0023】
上記のコハク酸、所定の脂肪族ジオール、および所定の多官能化合物は、化石燃料由来であってもよいが、植物由来であることが好ましく、これらを任意の割合で混合したものであってもよい。またコハク酸、所定の脂肪族ジオール、および所定の多官能化合物のうち、何れか1種以上が植物由来であることが好ましいが、より好ましくは2種以上、さらに好ましくは全部である。
【0024】
上記原料モノマーは、コハク酸(a)と所定の多官能化合物成分(c)との総和に対して、所定の脂肪族ジオール成分(b)(2種以上併用する場合は合計)のモル比(b/[a+c])が好ましくは80/100~120/100、より好ましくは90/100~105/100である。
反応中の所定の脂肪族ジオール成分(b)の留出を考慮して所定の脂肪族ジオール成分(b)を多くしてもよい。但し、所定の脂肪族ジオール成分(b)が多すぎると所定の脂肪族ジオール成分(b)の回収分が多くなる。
【0025】
コハク酸(a)と所定の多官能化合物成分(c)(2種以上併用する場合は合計量)のモル比(a:c)は、好ましくは0.90~0.99:0.10~0.01、より好ましくは0.95~0.97:0.05~0.03である。
ガスバリア性を向上させるためには所定の多官能化合物成分(c)を多くすることが望ましいが、多すぎると架橋構造が増えてゲル化することがある。
【0026】
本発明では上記原料モノマーのみを原料としてもよいが、必要に応じて上記その他成分を目的の組成となるように含有させてもよい。その他成分はガスバリア性と生分解性を阻害しない範囲であることが望ましく、上記原料モノマー100質量部中、その他成分は好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは0質量部(含有しない)である。
なお、その他成分については上記例示の通りである。以下の説明では省略するが、その他成分は適切な時期に投入すればよい。
【0027】
原料モノマーであるコハク酸(a)、所定の脂肪族ジオール成分(b)、および所定の多官能化合物成分(c)とを混合し、重縮合することにより、本発明の生分解性重合体が得られる。
本発明で生分解性重合体を高分子量化するために、原料モノマーをエステル化反応させてプレポリマーを調製した後、減圧環境下において加熱することでさらにエステル交換反応させて重合度を高めることが好ましい。
【0028】
上記原料モノマーをエステル化反応させることにより、プレポリマーが得られる。プレポリマーは以下の条件で反応させることが好ましい。
プレポリマー合成反応の温度はエステル化反応の進行に十分な温度に設定すればよく、例えば好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であって、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。反応温度が低すぎると反応時間が長くなり、それに伴って好ましくない反応が生じることがある。また反応温度が高すぎると所定の脂肪族ジオール成分(b)等の原料モノマーや生成したプレポリマーが分解されることがある。
反応時間は、反応温度等を考慮してプレポリマーの生成に必要な時間とすればよく、例えば好ましくは0.5~10時間、より好ましくは1~5時間である。
反応時の雰囲気は、例えば好ましくは窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であり、より好ましくは窒素雰囲気である。
また反応を大気圧で開始し、その後、減圧させてもよい。低分子量の原料モノマーの揮発を抑制する観点からは反応開始時は大気圧とし、その後、高温に起因するモノマーの飛散を防ぐ観点から減圧とすることが好ましい。減圧は段階的に減圧してもよいし、連続的に減圧してもよい。減圧は好ましくは1kPa以下、より好ましくは0.1kPa以下である。
【0029】
本発明では原料モノマーを混合した後、常圧下で所定の温度に昇温して所定時間攪拌してエステル化率(=出水率=実出水量/理論出水量)が30~70%程度に達してから減圧を開始してもよい。またエステル化率の上昇に伴って系内の圧力を下げることも好ましい。上記温度でエステル化されてプレポリマーが得られる。
【0030】
本発明ではエステル化反応に各種公知の触媒を用いてもよく、触媒として、例えばチタン、ゲルマニウム、亜鉛、鉄、マンガン、コバルト、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、イリジウム、ランタン、セリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、錫、バリウム、ニッケル、アンチモンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む有機金属化合物、有機酸塩、有機アルコキシド、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、および塩化物等が挙げられる。これら触媒は、単独、または2種以上を適宜組み合わせて用いてよい。好ましくはチタン(IV)イソプロポキシド、二酢酸マンガン、酸化アンチモン、二酢酸ジブチル錫、塩化亜鉛、またはこれらの組合わせであり、より好ましくはチタン(IV)イソプロポキシドである。
【0031】
触媒は、必要量添加すればよく、仕込みモノマー全量に対して例えば好ましくは10ppm以上、より好ましくは50ppm以上であって、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下存在させればよい。触媒量を増やすと原料モノマーのエステル化促進効果が得られる。一方、触媒が多すぎると、得られる生分解性重合体の色調が悪くなったり、耐熱性が悪くなることがある。
【0032】
上記エステル化反応が終了した後、好ましくは得られたプレポリマー同士をさらにエステル交換反応させて高分子量化を促進し、上記重量平均分子量を有する生分解性重合体が得られる。
このエステル交換反応の条件は高分子量化の進行に十分な条件に設定すればよい。
反応温度は、例えば好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上であって、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下である。
反応時間は、例えば好ましくは1~10時間、より好ましくは2~7時間である。
反応時の雰囲気は、例えば好ましくは不活性ガス雰囲気、より好ましくは窒素雰囲気である。
また反応は減圧下で行うことが好ましく、反応の進行に応じて圧力を調整してもよい。圧力は例えば好ましくは0.5kPa以下、より好ましくは0.1kPa以下である。
エステル交換反応に際して上記触媒を使用してもよい。触媒使用量も上記範囲が例示される。
【0033】
なお、本発明の生分解性重合体は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物を用いて鎖延長反応を行い、さらに高分子量化を進めてもよい。
【0034】
得られた生分解性重合体にその他成分を添加して本発明の生分解性ポリエステル系樹脂としてもよいし、その他成分を添加せずに生分解性重合体を生分解性ポリエステル系樹脂としてもよい。
【0035】
本発明の生分解性ポリエステル系樹脂は、フィルムやシート、繊維、発泡体、微粒子、その他の成形品に好適である。例えば本発明の生分解性ポリエステル系樹脂はゴミ袋、農業用フィルム、化粧品や洗剤等の容器、釣り糸、漁網、ロープ、食品包装材料、不織布、農業用資材(種子、肥料の被覆材料)、スクラブ剤、化粧品用添加剤などの各種産業用途に好適である。特に本発明の生分解性ポリエステル系樹脂は酸素に対するガスバリア性に優れているため、食品や医薬品などの内容物の酸化防止用フィルム(ガスバリア性フィルム)に好適である。
また上記成形品等は各種公知の製造方法に基づいて製造できる。例えば本発明の生分解性ポリエステル系樹脂を原料とするガスバリア性フィルムの製造方法として、各種公知のフィルム製造方法を適用できる。
【0036】
本発明の生分解性ポリエステル系樹脂は、ガスバリア性と生分解性を兼備しているため、本発明の生分解性ポリエステル系樹脂を原料とする上記製品は家庭用ゴミや産業廃棄物として土壌中に埋設処分できる。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
実施例1
分留コンデンサ、攪拌装置、窒素導入口、サンプリング口、加熱装置、および減圧用排気口を備えたセパラブルフラスコ反応容器(容量:0.2L)に、原料モノマーとしてコハク酸(SA):33.66g、L-アスパラギン酸(L-Asp):2.00g、エチレングリコール(EG):19.55gを仕込み、メカニカルスターラーをセットし、次いで系内を窒素置換した。
次に、系内を窒素気流下、常圧で攪拌すると共に、アルミブロックヒーターを用いて系内を200℃に昇温し、該温度で1時間攪拌した。更に温度を230℃まで昇温して該温度で1時間攪拌した後、減圧を開始し、徐々に減圧しながら系内を0.1kPa(=1mbar)以下とし、230℃で1時間攪拌した。次いで反応容器内にTi(OiPr)触媒を4.3mg投入し、さらに230℃で3時間、0.1kPa以下で反応を行って得られた重合体(収率95%)をポリエステル系樹脂とした。
【0039】
実施例2
原料モノマーをコハク酸(SA):34.36g、L-アスパラギン酸(L-Asp):1.20g、エチレングリコール(EG):19.55gに変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂を作製した(収率76.4%)。
【0040】
実施例3
原料モノマーをコハク酸(SA):35.07g、L-アスパラギン酸(L-Asp):0.40g、エチレングリコール(EG):19.55g、触媒投入後の反応時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂を作製した(収率79.0%)。
【0041】
比較例1
原料モノマーをコハク酸(SA):35.43g、エチレングリコール(EG):19.55g、触媒投入後の反応時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂を作製した(収率87.4%)。
【0042】
比較例2
原料モノマーをコハク酸(SA):35.43g、1,4-ブタンジオール(1,4-BD):28.39g、触媒投入後の反応時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂を作製した(収率84.9%)。
【0043】
比較例3
原料モノマーをコハク酸(SA):33.66g、L-アスパラギン酸(L-Asp):2.00g、1,4-ブタンジオール(1,4-BD):28.39g、触媒投入後の反応時間を5時間に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル系樹脂を作製した(収率95.2%)。
【0044】
生分解試験サンプル
上記ポリエステル系樹脂5mgをクロロホルムに溶解した溶液を生分解試験用のメディウム瓶内で一晩風乾させ、真空乾燥することで作製した。
【0045】
BOD生分解試験
試験用土壌懸濁液:理化学研究所内(北緯35°46’46.38”、東経139°36’52.308”)で採取した土壌を純水で懸濁後(0.1g/mL)、ろ過したろ液を使用した。
試験用河川水:荒川(北緯35°48’5.5974”、東経139°38’33.0468”)で採取した河川水をろ過して不純物を取り除いた河川水を使用した。
ミネラルストック溶液:ISO14851:2019に準拠して、溶液A(りん酸二水素カリウム8.5g/L;りん酸水素二カリウム21.75g/L;りん酸水素二ナトリウム二水和物33.4g/L;塩化アンモニウム0.5g/L)、溶液B(硫酸マグネシウム七水和物22.5g/L)、溶液C(塩化カルシウム二水和物36.4g/L)、溶液D(塩化鉄(III)六水和物0.25g/L)をそれぞれ純水を用いて調製した。
土壌懸濁液、および河川水の好気性微生物による生物化学的酸素要求量(BOD)生分解度はISO14851:2019に準拠して、BOD測定器(OxiTop IDS、WTW社製)を用いて酸素消費量を測定することにより求めた。具体的には上記生分解サンプルを作成したメディウム瓶(容量0.25L)に適量の試験用土壌懸濁液、あるいは試験用河川水を加え、溶液Aを2mL、溶液B、C、Dをそれぞれ0.2mLずつ添加し、試験用土壌懸濁液、あるいは試験用河川水で全量を0.2Lとした。また、生分解試験サンプルを含んでいない溶液をブランクとした。二酸化炭素吸収剤容器に粒状水酸化ナトリウム5粒を加え、好気的環境下、25℃に設定した恒温槽内で30日間培養した。メディウム瓶内の土壌懸濁液、あるいは河川水は180~450rpmで攪拌し、試験開始後30日におけるBOD測定に基づいた生分解度(%)を算出した。
【0046】
酸素透過試験サンプル
実施例1、および比較例3のポリエステル系樹脂をPTFEシート(厚み200μm)で挟んで、熱プレス機にセットし、温度200℃でプレスした後、空冷してから試験用フィルム(厚み約100μm)を作成した。
実施例2、3のポリエステル系樹脂、比較例1のポリエチレンサクシネート、比較例2のポリブチレンサクシネートは、該樹脂にIrganox-1010を500ppm添加して窒素流通下、180℃に加熱して溶解した後、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)が2質量%となるように添加し、該環境下で2時間攪拌して増粘反応させた。得られた樹脂を熱プレス機にセットして上記条件で試験用フィルムを作成した。
【0047】
酸素透過試験(ガスバリア性)
JIS K 7126-2法に準じ、試験用フィルムを酸素透過度測定装置(Systech Illinois製、Oxygen permeation analyzer 8001)にセットし、23℃、ドライ雰囲気下(0%RH)で酸素透過試験を行った。
本発明では酸素透過係数が1cm mm/m・Day・atm以下を合格(可)ラインとした。好ましい合格(良)ラインは0.8cm mm/m・Day・atm以下であり、より好ましい合格(優)ラインは0.5cm mm/m・Day・atm以下である。
【0048】
【表1】
【0049】
コハク酸単位とL-アスパラギン酸単位とエチレングリコール単位とを有するポリエステルアミド樹脂(実施例1~3)はいずれも優れた生分解性とガスバリア性を有していた。また実施例1~3に示す様にL-アスパラギン酸単位の含有量が多くなる程、生分解性もガスバリア性も向上した。
【0050】
一方、ポリエチレンサクシネート(比較例1)はガスバリア性に劣っていた。
ポリブチレンサクシネート(比較例2)はほとんど生分解せず、またガスバリア性も著しく劣っていた。
1,4-ブタンジオールを原料に使用したポリエステルアミド樹脂(比較例3)はL-アスパラギン酸を使用してもガスバリア性に劣っており、またほとんど生分解しなかった。