(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123801
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】樹脂フィルム、積層体、金属張積層板
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240905BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240905BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240905BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20240905BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20240905BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240905BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240905BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
C08J5/18 CET
B32B27/30 B
B32B27/20 Z
C08L25/06
C08L71/12
C08L53/02
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
H05K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031499
(22)【出願日】2023-03-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昭紘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 航
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071AA51
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4F100AB17
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4J002AC003
4J002AC013
4J002AC033
4J002AC063
4J002AC093
4J002BB033
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4J002CP033
4J002GF00
4J002GQ01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】5Gや6Gに要求される低誘電特性を満足しつつ、さらに、基材となるポリイミド樹脂フィルムとの接着性や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性を満足できる樹脂フィルムの提供。
【解決手段】シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含有し、さらにポリフェニレンエーテル(PPE)と、ゴム状弾性体とを含有するSPS樹脂フィルムであって、
前記SPS樹脂フィルム100質量部における各成分の質量割合は、
シンジオタクチックポリスチレンが、50質量部より多く92質量部以下であり、
ポリフェニレンエーテルが、5質量部以上30質量部未満であり、
ゴム状弾性体が、3質量部以上20質量部以下であって、
前記ポリフェニレンエーテル(PPE)は、末端に水酸基(-OH基)を有する、SPS樹脂フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含有し、さらにポリフェニレンエーテル(PPE)と、ゴム状弾性体とを含有するSPS樹脂フィルムであって、
前記SPS樹脂フィルム100質量部における各成分の質量割合は、
シンジオタクチックポリスチレンが、50質量部より多く92質量部以下であり、
ポリフェニレンエーテルが、5質量部以上30質量部未満であり、
ゴム状弾性体が、3質量部以上20質量部以下であって、
前記ポリフェニレンエーテル(PPE)は、末端に水酸基(-OH基)を有する、SPS樹脂フィルム。
【請求項2】
前記ポリフェニレンエーテル(PPE)の重量平均分子量(Mw)が、10,000~100,000g/molである、請求項1に記載のSPS樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ゴム状弾性体が、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物を含む、請求項1に記載のSPS樹脂フィルム。
【請求項4】
前記スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物におけるスチレンの質量割合が、25質量%以上70質量%以下である、請求項3に記載のSPS樹脂フィルム。
【請求項5】
前記スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物の230℃、2.16kgfで測定したメルトフローレート(MFR)が、0g/10分以上10g/10分以下である、請求項3に記載のSPS樹脂フィルム。
【請求項6】
前記SPS樹脂フィルムのJIS K7127に準じた方法により測定される引張弾性率が、2.4GPa以上3.1GPa以下である、請求項1に記載のSPS樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1に記載のSPS樹脂フィルムを用いて、下記a)~d)を経ることにより得られる、銅箔と熱圧着した後の熱圧着後SPS樹脂フィルムに対し、JIS K7127の測定方法に準じた方法により測定される引張弾性率が、2.7GPa以上3.6GPa以下である、請求項1に記載のSPS樹脂フィルム。
a)SPS樹脂フィルムの両面に銅箔を配置する。
b)熱プレス機を用い、1mm厚のステンレス板で挟んで、熱板温度を80℃に設定して面圧3MPaで熱圧着を開始し、昇温速度7℃/分で熱板温度290℃まで熱圧着しながら昇温する。
c)290℃に達したら、4℃/分の速度で230℃まで冷却してから圧力を開放して取り出す。
d)銅箔をエッチングして取り除き、SPS樹脂フィルムのみを取り出す。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のSPS樹脂フィルムと、
300℃以下に融点を持たない耐熱性樹脂フィルムと、を積層してなる積層体であって、
前記耐熱性樹脂フィルムの線熱膨張係数(CTE)が、50ppm/℃以下である、積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の積層体に対し、前記耐熱性樹脂フィルムが配されている側とは反対側の前記SPS樹脂フィルム上に金属層が積層されている、金属張積層板であって、
前記金属層が銅箔であり、前記SPS樹脂フィルムと接触する側の前記銅箔の面の表面粗さ(Rz)は、1μm以下である、金属張積層板。
【請求項10】
請求項9に記載の金属張積層板を製造する金属張積層板の製造方法であって、
前記金属層と、前記SPS樹脂フィルムと、前記耐熱性樹脂フィルムと、前記SPS樹脂フィルムとを、この順に配置し、熱圧着するか、
前記金属層と、前記SPS樹脂フィルムと、前記耐熱性樹脂フィルムと、前記SPS樹脂フィルムと、前記金属層とを、この順に配置し、熱圧着して、金属張積層板を得る工程を含み、
前記熱圧着が、前記SPS樹脂フィルムの融点をTm(℃)としたとき、熱圧着時の最高温度がTm-30℃以上Tm+30℃以下の温度範囲になるようにして行われる、金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPS樹脂フィルム、並びに該SPS樹脂フィルムを有する積層体、及び金属張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
5G、6G社会では、プリント配線板のさらなる高速伝送が求められる。プリント配線板を構成する絶縁層には、低誘電特性や、粗度の小さい銅箔等の金属層との接着性等が要求される。
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)は、電気特性(低誘電特性)、耐薬品性、低吸水性に優れた材料であるため、プリント配線板材料として注目されている。
シンジオタクチックポリスチレンと、該シンジオタクチックポリスチレンに相溶性を示す熱可塑性樹脂とを含有するフィルムを、プリント配線板と良好に接着するカバ-レイフィルムとして用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、5Gや6Gに要求される低誘電特性を満足しつつ、さらに、基材となるポリイミド樹脂フィルムとの接着性(密着性ともいう)や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性も満足できる樹脂フィルムを提供するという観点からは、上記特許文献1に記載の樹脂フィルムは十分であるとはいえなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、5Gや6Gに要求される低誘電特性を満足しつつ、さらに、基材となるポリイミド樹脂フィルムとの接着性や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性を満足できる樹脂フィルムを提供することを目的とする。
また、本発明は、上記樹脂フィルムを有する積層体や金属張積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(SPS)と、特定のポリフェニレンエーテル(PPE)と、ゴム状弾性体とを含有するSPS樹脂フィルムであって、SPS樹脂フィルムに含有される各成分の含有割合を特定の範囲に規定したSPS樹脂フィルムが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含有し、さらにポリフェニレンエーテル(PPE)と、ゴム状弾性体とを含有するSPS樹脂フィルムであって、
前記SPS樹脂フィルム100質量部における各成分の質量割合は、
シンジオタクチックポリスチレンが、50質量部より多く92質量部以下であり、
ポリフェニレンエーテルが、5質量部以上30質量部未満であり、
ゴム状弾性体が、3質量部以上20質量部以下であって、
前記ポリフェニレンエーテル(PPE)は、末端に水酸基(-OH基)を有する、SPS樹脂フィルム。
[2] 前記ポリフェニレンエーテル(PPE)の重量平均分子量(Mw)が、10,000~100,000g/molである、[1]に記載のSPS樹脂フィルム。
[3] 前記ゴム状弾性体が、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物を含む、[1]に記載のSPS樹脂フィルム。
[4] 前記スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物におけるスチレンの質量割合が、25質量%以上70質量%以下である、[3]に記載のSPS樹脂フィルム。
[5] 前記スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物の230℃、2.16kgfで測定したメルトフローレート(MFR)が、0g/10分以上10g/10分以下である、[3]または[4]に記載のSPS樹脂フィルム。
[6] 前記SPS樹脂フィルムの周波数28GHzにおける比誘電率が2.8以下であり、誘電正接が0.002以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のSPS樹脂フィルム。
[7] 前記SPS樹脂フィルムのJIS K7127に準じた方法により測定される引張弾性率が、2.4GPa以上3.1GPa以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のSPS樹脂フィルム。
[8] [1]に記載のSPS樹脂フィルムを用いて、下記a)~d)を経ることにより得られる、銅箔と熱圧着した後の熱圧着後SPS樹脂フィルムに対し、JIS K7127の測定方法に準じた方法により測定される引張弾性率が、2.7GPa以上3.6GPa以下である、[1]に記載のSPS樹脂フィルム。
a)SPS樹脂フィルムの両面に銅箔を配置する。
b)熱プレス機を用い、1mm厚のステンレス板で挟んで、熱板温度を80℃に設定して面圧3MPaで熱圧着を開始し、昇温速度7℃/分で熱板温度290℃まで熱圧着しながら昇温する。
c)290℃に達したら、4℃/分の速度で230℃まで冷却してから圧力を開放して取り出す。
d)銅箔をエッチングして取り除き、SPS樹脂フィルムのみを取り出す。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のSPS樹脂フィルムと、
300℃以下に融点を持たない耐熱性樹脂フィルムと、を積層してなる積層体。
[10] 前記耐熱性樹脂フィルムの線熱膨張係数(CTE)が、50ppm/℃以下である、[9]に記載の積層体。
[11] 前記積層体において、前記耐熱性樹脂フィルムと接触する側の前記SPS樹脂フィルムの表面が、コロナ処理、プラズマ処理、及び紫外線処理から選択されるいずれかの処理方法により表面処理されている、[9]に記載の積層体。
[12] [9]~[11]のいずれかに記載の積層体に対し、前記耐熱性樹脂フィルムが配されている側とは反対側の前記SPS樹脂フィルム上に金属層が積層されている、金属張積層板。
[13] 前記金属層が銅箔であり、前記SPS樹脂フィルムと接触する側の前記銅箔の面の表面粗さ(Rz)は、1μm以下である、[12]に記載の金属張積層板。
[14] [9]に記載の積層体を製造する積層体の製造方法であって、前記SPS樹脂フィルムと、前記耐熱性樹脂フィルムと、前記SPS樹脂フィルムとを、この順に配置し、熱圧着して、積層体を得る工程を含む、積層体の製造方法。
[15] 前記熱圧着が、前記SPS樹脂フィルムの融点をTm(℃)としたとき、熱圧着時の最高温度がTm-30℃以上Tm+30℃以下の温度範囲になるようにして行われる、[14]に記載の積層体の製造方法。
[16] [12]に記載の金属張積層板を製造する金属張積層板の製造方法であって、
前記金属層と、前記SPS樹脂フィルムと、前記耐熱性樹脂フィルムと、前記SPS樹脂フィルムとを、この順に配置し、熱圧着するか、
前記金属層と、前記SPS樹脂フィルムと、前記耐熱性樹脂フィルムと、前記SPS樹脂フィルムと、前記金属層とを、この順に配置し、熱圧着して、金属張積層板を得る工程を含む、金属張積層板の製造方法。
[17] 前記熱圧着が、前記SPS樹脂フィルムの融点をTm(℃)としたとき、熱圧着時の最高温度がTm-30℃以上Tm+30℃以下の温度範囲になるようにして行われる、[16]に記載の金属張積層板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、5Gや6Gに要求される低誘電特性を満足しつつ、さらに、基材となるポリイミド樹脂フィルムとの接着性や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性を満足できる樹脂フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、上記樹脂フィルムを有する積層体や金属張積層板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の積層体の構成の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の金属張積層板の構成の一例を示す断面図である。
【
図3】実施例で行った剥離モードの評価基準について説明するための概略図である。
【
図4】実施例で行った剥離モードの評価基準について説明するための概略図である。
【
図5】実施例で行った剥離モードの評価基準について説明するための概略図である。
【0010】
以下、本発明のSPS樹脂フィルム、該SPS樹脂フィルムを有するプリント配線板用等の積層体、及び該積層体を用いて形成された金属張積層板について説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
本発明における融点とは、JIS K 7121に準拠して測定することができる。具体的には、溶融押出成形した樹脂フィルムから測定用試料を約5mg秤量し、示差走査熱量計(エスアイアイ・テクノロージーズ社製:高感度型示差走査熱量計X-DSC 7000)を使用して昇温速度10℃/min、測定温度範囲20℃から380℃まで加熱して測定する。
樹脂フィルム、金属層(金属箔膜)等の膜厚は、顕微鏡を用いて測定対象の断面を観察し、5箇所の厚さを測定し、平均した値である。
【0011】
(SPS樹脂フィルム)
本発明のSPS樹脂フィルムは、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含有し、さらにポリフェニレンエーテル(PPE)と、ゴム状弾性体とを含有する。
上記ポリフェニレンエーテル(PPE)は、末端に水酸基(-OH基)を有する。
本発明のSPS樹脂フィルム100質量部における各成分の質量割合は、
シンジオタクチックポリスチレンが、50質量部より多く92質量部以下であり、
ポリフェニレンエーテルが、5質量部以上30質量部未満であり、
ゴム状弾性体が、3質量部以上20質量部以下である。
【0012】
SPS樹脂フィルムは、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体であるシンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含む樹脂組成物を用いて形成される。
【0013】
SPS樹脂フィルムを形成するためのSPSを含む樹脂組成物(SPS樹脂フィルム形成用樹脂組成物ともいう)においては、樹脂成分として(i)シンジオタクチックポリスチレン(SPS)が含まれていることが必要であるが、さらに本発明では、(ii)末端に水酸基(-OH基)を有するポリフェニレンエーテル(PPE)と(iii)ゴム状弾性体が含まれていることが必要である。
さらには、樹脂フィルムの強度、絶縁性、耐熱性、線熱膨張係数(CTE)の調整等各種の機能を付与するため、本発明の目的を阻害しない範囲で、SPSを含む樹脂組成物には、フィラーや、各種添加剤等のその他の成分を含有することができる。
【0014】
以下、SPSを含む樹脂組成物に含有される各成分について説明する。
【0015】
<シンジオタクチックポリスチレン(SPS)>
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素-炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR)により定量される。13C-NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明にいうシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体とは、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(アリールスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体およびこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(ターシャリーブチルスチレン)等であり、ポリ(アリールスチレン)としては、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などがある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)など、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などがある。
【0016】
なお、これらのうち好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)、ポリ(p-ターシャリープチルスチレン)、ポリ(p-クロロスチレン)、ポリ(m-クロロスチレン)、ポリ(p-フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
【0017】
このようなシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、例えば不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62-187708号公報)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1-46912号公報、これらの水素化重合体は特開平1-178505号公報記載の方法などにより得ることができる。
【0018】
尚、これらのシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の中でも、本発明においては、耐熱性及び機械的強度の点から、特にタクティシティがラセミペンタッドで70%以上、重量平均分子量5~80万のものが好ましい。
【0019】
本発明のSPS樹脂フィルムにおけるシンジオタクチックポリスチレンの含有量としては、SPS樹脂フィルム100質量部に対し、シンジオタクチックポリスチレンが、少ないと誘電特性が悪化し、多すぎると密着強度が弱くなるため、50質量部より多く92質量部以下であり、55質量部以上75質量部以下であることが好ましく、60質量部以上75質量部以下であることがより好ましい。
【0020】
<ポリフェニレンエーテル(PPE)>
本発明に係るポリフェニレンエーテルは、末端に水酸基(-OH基)を有する。
また、ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量(Mw)は、ポリイミド等の異なる樹脂フィルムとの密着強度を向上させるという観点から、10,000~100,000g/molであることが好ましく、30,000~70,000g/molであることがより好ましい。
ポリフェニレンエーテルのフェノール末端基量はSPS樹脂と分離しづらくなり、ポリフェニレンエーテルの凝集物由来であるフィルム外観欠点が減って歩留まりが向上するという理由から、300ppm以上8000ppm以下が好ましく、500ppm以上2000ppm以下がより好ましい。ポリフェニレンエーテルのフェノール末端基量は、滴定法、赤外分光法(IR)などの方法で測定することができる。
【0021】
本発明のSPS樹脂フィルムにおけるポリフェニレンエーテルの含有量としては、SPS樹脂フィルム100質量部に対し、ポリフェニレンエーテルが、5質量部以上30質量部未満であり、ポリイミド等の耐熱フィルムとの密着性を保持しつつSPS樹脂フィルムのフィルム強度を向上でき、且つ低誘電性を維持できる理由から、12質量部以上28質量部以下であることが好ましく、15質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。
【0022】
<ゴム状弾性体>
ゴム状弾性体の具体例としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ネオプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、またはエチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、直鎖状低密度ポリエチレン系エラストマー等のオレフィン系ゴム、あるいはブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-スチレン-コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート-ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(MABS)、アルキルアクリレート-ブタジエン-アクリロニトリル-スチレン-コアシェルゴム(AABS)、ブタジエン-スチレン-コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-シロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプの粒子状弾性体、またはこれらを変性したゴム等が挙げられる。
【0023】
本発明のSPS樹脂フィルムにおけるゴム状弾性体の含有量としては、SPS樹脂フィルム100質量部に対し、ゴム状弾性体が、3質量部以上20質量部以下であり、5質量部以上18質量部以下であることが好ましく、7質量部以上13質量部以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明に係るゴム状弾性体には、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物が含まれていることが好ましい。
本発明に係るゴム状弾性体には、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物以外の他のゴム状弾性体を含んでいてもよい。
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)に水素が添加されると、ブタジエン部分のC=C二重結合に水素が付加され、水素添加スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が得られる。
本発明では、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物である水素添加スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)がゴム状弾性体中に含まれていることがより好ましい。
上記「スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の水素添加物」とは、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)に水素が添加された水素添加物であれば、水素が部分的に添加されたSBSの水素添加物であっても、全てのブタジエン部分に水素が添加されたSBSの水素添加物であってもよい。
【0025】
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物におけるスチレンの質量割合は、SPS樹脂フィルムの金属層(例えば、低粗度の銅箔)に対する接着性(密着性)を向上させる等の観点から、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、25質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物の230℃、2.16kgfで測定したメルトフローレート(MFR)は、SPS樹脂フィルムのフィルム強度をより高める等の観点から、0g/10分以上10g/10分以下であることが好ましく、0g/10分以上3g/10分以下であることがより好ましく、0g/10分以上1g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0026】
SPSを含む樹脂組成物においては、上述したように、樹脂フィルムの強度、絶縁性、耐熱性、線熱膨張係数(CTE)の調整等各種の機能を付与するため、SPS、PPE、及びゴム状弾性体以外に、フィラーや、各種添加剤等のその他の成分を含有することができる。例えば、添加剤としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤(核剤)、可塑剤、フィラーの分散剤等が挙げられる。
【0027】
<その他の成分>
<<フィラー>>
フィラーとしては、例えば、無機フィラー及び有機フィラーが挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0028】
無機フィラーとしては、例えば、マイカ、タルク、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、シリカ、珪藻土、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。中でも、マイカ、タルク、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、シリカの無機フィラーが好ましい。
有機フィラーとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン等の有機粒子が挙げられる。
無機フィラー及び有機フィラーは、上記のなかから1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上を組合せる場合は無機フィラーと有機フィラーの組合せであってもよい。
【0029】
なお、上述した添加剤以外にも、例えば、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、プロセスオイル、離型剤、相溶化剤,難燃剤、難燃助剤、顔料,無機充填材等を配合することができる。本発明においては、フィラーや各種添加剤の間に明確な区別を設ける必要はなく、例えば、フィラーにも無機充填材にも該当するものもあれば、アンチブロッキング剤にも無機充填材にも該当するものもあるが、本発明では、上述したフィラーや各種添加剤のいずれかに該当するとして使用することができれば、SPSを含む樹脂組成物中に含有させることができる。
【0030】
<<各種添加剤>>
本発明の目的を阻害しない限り、以下に例示する各種の添加剤を配合することができる。
【0031】
[アンチブロッキング剤(AB剤)]
アンチブロッキング剤としては、以下のような無機粒子又は有機粒子が挙げられる。
無機粒子としては、IA族、IIA族、IVA族、VIA族、VIIA族、VIII族、IB族、IIB族、IIIB族、IVB族元素の酸化物、水酸化物、硫化物、窒素化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、燐酸塩、亜燐酸塩、有機カルボン酸塩、珪酸塩、チタン酸塩、硼酸塩及びそれらの含水化合物、それらを中心とする複合化合物及び天然鉱物粒子が挙げられる。
【0032】
具体的には、弗化リチウム、ホウ砂(硼酸ナトリウム含水塩)等のIA族元素化合物、炭酸マグネシウム、燐酸マグネシウム、酸化マグネシウム(マグネシア)、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、弗化マグネシウム、チタン酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウム含水塩(タルク)、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、亜燐酸カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、酢酸カルシウム、テレフタル酸カルシウム、水酸化カルシウム、珪酸カルシウム、弗化カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、炭酸バリウム、燐酸バリウム、硫酸バリウム、亜硫酸バリウム等のIIA族元素化合物、二酸化チタン(チタニア)、一酸化チタン、窒化チタン、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、一酸化ジルコニウム等のIVA族元素化合物、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、硫化モリブデン等のVIA族元素化合物、塩化マンガン、酢酸マンガン等のVIIA族元素化合物、塩化コバルト、酢酸コバルト等のVIII族元素化合物、沃化第一銅等のIB族元素化合物、酸化亜鉛、酢酸亜鉛等のIIB族元素化合物、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、弗化アルミニム、アルミナシリケート(珪酸アルミナ、カオリン、カオリナイト)等のIIIB族元素化合物、酸化珪素(シリカ、シリカゲル)、石墨、カーボン、グラファイト、ガラス等のIVB族元素化合物、カーナル石、カイナイト、雲母(マイカ、キンウンモ)、バイロース鉱等の天然鉱物の粒子が挙げられる。
【0033】
有機粒子としては、テフロン、メラミン系樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、アクリル系レジン及びおよびそれらの架橋体が挙げられる。
【0034】
[酸化防止剤]
酸化防止剤としてはリン系、フェノール系、イオウ系等公知のものから任意に選択して用いることができる。なお、これらの酸化防止剤は一種のみを単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
[核剤]
核剤としてはアルミニウムジ(p-t-ブチルベンゾエート)をはじめとするカルボン酸の金属塩、メチレンビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノール)アシッドホスフェートナトリウムをはじめとするリン酸の金属塩、タルク、フタロシアニン誘導体等、公知のものから任意に選択して用いることができる。なお、これらの核剤は一種のみを単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
[可塑剤]
可塑剤としてはポリエチレングリコール、ポリアミドオリゴマー、エチレンビスステアロアマイド、フタル酸エステル、ポリスチレンオリゴマー、ポリエチレンワックス、シリコーンオイル等公知のものから任意に選択して用いることができる。なお、これらの可塑剤は一種のみを単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
[離型剤]
離型剤としてはポリエチレンワックス、シリコーンオイル、長鎖カルボン酸、長鎖カルボン酸金属塩等公知のものから任意に選択して用いることができる。なお、これらの離型剤は一種のみを単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
[プロセスオイル]
本発明においては、さらにプロセスオイルを配合してもよい。プロセスオイルは油種により、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、アロマ系オイルに大別されるが、中でもパラフィン系オイルが好ましい。プロセスオイルの粘度としては、40℃での動粘度が15~600csが好ましく、15~500csが更に好ましい。
なおこれらのプロセスオイルは一種のみを単独または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
[相溶化剤]
本発明でいう相溶化剤は、SPSとPPEとゴム状弾性体との間の親和性を向上させ効果的に相溶化し、また、SPSと無機充填材との親和性を向上させるために配合する。具体的には、SPSとの相溶性又は親和性を有し、かつ極性基を有する重合体が挙げられる。
【0040】
ここでSPSとの相溶性又は親和性を有する重合体とは、SPSとの相溶性又は親和性を示す連鎖をポリマー鎖中に含有するものをいう。これらの相溶性又は親和性を示す重合体としては、例えば、シンジオタクチックポリスチレン、アタクチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、スチレン系共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルメチルエーテル等を主鎖、ブロックまたはグラフト鎖として有するもの等が挙げられる。
【0041】
また、ここでいう極性基とは、無機充填剤との接着性を向上させるものであればよく、具体的には、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸塩化物基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基等が挙げられる。
【0042】
この相溶化剤は溶媒、他樹脂の存在下、または非存在下、上記のSPSと相溶性又は親和性を有する重合体と後述する変性剤を反応させることにより得ることができる。
変性剤としては、例えば、エチレン性二重結合と極性基を同一分子内に含む化合物が使用できる。具体的には、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸エステル、マレイミド及びそのN置換体、マレイン酸塩をはじめとするマレイン酸誘導体、フマル酸、フマル酸エステル、フマル酸塩をはじめとするフマル酸誘導体、無水イタコン酸、イタコン酸、イタコン酸エステル、イタコン酸塩をはじめとするイタコン酸誘導体、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、アクリル酸塩をはじめとするアクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸塩、グリシジルメタクリレ-トをはじめとするメタクリル酸誘導体等が挙げられる。その中でも特に好ましくは無水マレイン酸、フマル酸、グリシジルメタクリレ-トが用いられる。
【0043】
変性には公知の方法が用いられるが、ロ-ルミル、バンバリーミキサー、押出機等を用いて150℃~350℃の温度で溶融混練し、反応させる方法、また、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒中で加熱反応させる方法などを挙げることができる。さらにこれらの反応を容易に進めるため、反応系にベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエ-ト、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,3-ジフェニル-2,3-ジメチルブタン等のラジカル発生剤を存在させることは有効である。このうち特に2,3-ジフェニル-2,3-ジメチルブタンが好ましく用いられる。
【0044】
また、好ましい変性方法としては、ラジカル発生剤の存在下に溶融混練する方法である。また、変性の際、他樹脂を添加してもよい。相溶化剤の具体例としては、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)、スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、末端カルボン酸変性ポリスチレン、末端エポキシ変性ポリスチレン、末端オキサゾリン変性ポリスチレン、末端アミン変性ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン系アイオノマー、スチレン-メチルメタクリレート-グラフトポリマー、(スチレン-グリシジルメタクリレート)-メチルメタクリレート-グラフト共重合体、酸変性アクリル-スチレン-グラフトポリマー、(スチレン-グリシジルメタクリレート)-スチレン-グラフトポリマー、ポリブチレンテレフタレート-ポリスチレン-グラフトポリマー、無水マレイン酸変性PS、フマル酸変性PS、グリシジルメタクリレート変性PS、アミン変性PS等の変性スチレン系ポリマー、(スチレン-無水マレイン酸)-ポリフェニレンエーテル-グラフトポリマー、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル、グリシジルメタクリレート変性ポリフェニレンエーテル、アミン変性ポリフェニレンエーテル等の変性ポリフェニレンエーテル系ポリマ-等が挙げられる。
【0045】
このうち特に、変性PS、変性ポリフェニレンエ-テルが好ましく用いられる。また、上記重合体は2種以上を併用して用いることも可能である。相溶化剤中の極性基含有率としては、好ましくは相溶化剤100質量%中の0.01~20質量%、さらに好ましくは0.05~10質量%の範囲である。0.01質量%未満では無機充填材との接着効果を発揮させるために相溶化剤を多量に添加する必要があり、組成物の力学物性、耐熱性、成形性を低下させるおそれがあるため好ましくない。また、20質量%を超えるとSPSとの相溶性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0046】
相溶化剤の配合量としては、SPSとPPEとゴム状弾性体を合わせた100質量部に対して、0.1~10質量部、好ましくは0.5~8質量部、さらに好ましくは1~5質量部である。0.1質量部未満では無機充填材との接着効果が小さく、樹脂と無機充填材との接着不足を生じ、10質量部を超えて配合しても接着性の向上は望めず経済的に不利になる。
【0047】
[無機充填材]
無機充填材としては、粒状、粉状充填材が好ましく、例えば、タルク、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、オキシサルフェート、酸化スズ、アルミナ、カオリン、炭化ケイ素、金属粉末、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ等が挙げられる。
【0048】
また、これらの充填材としては表面処理したものを用いてもよい。表面処理に用いられるカップリング剤は、充填材と樹脂との接着性を良好にするために用いられるものであり、いわゆるシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等、従来公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。なお、これらの無機充填材については一種のみを単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
上記各成分の混練については、シンジオタクチックポリスチレン製造工程のいずれかの段階においてブレンドし溶融混練する方法や、組成物を構成する各成分をブレンドし溶融混練する方法など様々な方法で行なえばよい。
【0050】
<SPS樹脂フィルムの特性>
SPS樹脂フィルムの周波数28GHzにおける比誘電率は、低いほど望ましいが、半田耐熱性を有する樹脂である必要性から、例えば、2.8以下であることが好ましく、2.0~2.8であることがより好ましく、2.0~2.6であることがさらに好ましい。また、SPS樹脂フィルムの周波数28GHzにおける誘電正接は、低いほど望ましいが、半田耐熱性を有する樹脂である必要性から、0.002以下であることが好ましく、0.0020未満であることがより好ましく、0.0016以下であることがさらに好ましく、0.0012以下であることがさらにより好ましい。また、SPS樹脂フィルムの周波数28GHzにおける誘電正接は、例えば、0.0005~0.0020以下であることが好ましく、0.0005~0.0020未満であることがより好ましく、0.0005~0.0016であることがさらに好ましく、0.0005~0.0012であることがさらにより好ましい。
【0051】
[比誘電率及び誘電正接]
樹脂フィルムの比誘電率及び誘電正接は、ネットワークアナライザーMS46122B(Anritsu社製)と開放型共振器ファブリペローDPS-03(KEYCOM社製)とを使用し、開放型共振器法で、温度23℃、湿度50%、周波数28GHzの条件で測定することができる。
【0052】
SPS樹脂フィルムのJIS K7127の測定方法に準じた方法により測定される引張弾性率は、SPS樹脂フィルムと、基材となるポリイミド樹脂フィルムや銅箔との接着性(密着性)を向上させるという観点から、2.4GPa以上3.1GPa以下であることが好ましく、2.5GPa以上2.9GPa以下であることがより好ましい。
また、熱圧着後SPS樹脂フィルムに対し、JIS K7127の測定方法を用いて測定される引張弾性率は、SPS樹脂フィルムと、基材となるポリイミド樹脂フィルムや銅箔との接着性(密着性)を向上させるという観点から、2.7GPa以上3.6GPa以下であることが好ましく、2.8GPa以上3.5GPa以下であることがより好ましい。
引張弾性率を測定する上記熱圧着後SPS樹脂フィルムは、SPS樹脂フィルムを用いて、下記a)~d)を経ることにより得ることができる。
a)SPS樹脂フィルムの両面に銅箔を配置する。
b)熱プレス機を用い、1mm厚のステンレス板で挟んで、熱板温度を80℃に設定して面圧3MPaで熱圧着を開始し、昇温速度7℃/分で熱板温度290℃まで熱圧着しながら昇温する。
c)290℃に達したら、4℃/分の速度で230℃まで冷却してから圧力を開放して取り出す。
d)銅箔をエッチングして取り除き、SPS樹脂フィルムのみを取り出す。
【0053】
SPS樹脂フィルムの膜厚は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm~60μmであることが好ましく、10μm~60μmであることがより好ましく、20μm~55μmであることがさらに好ましい。この範囲であれば、良好な誘電特性と寸法安定性を有する金属張積層板が製造できるからである。
【0054】
SPS樹脂フィルムの融点は、260℃以上であることが好ましい。
【0055】
SPS樹脂フィルムが吸湿することにより誘電特性が大幅に悪化するため、SPS樹脂フィルムの吸水率としては、例えば、0.2%以下であることが好ましく、0.15%以下であることがより好ましく、0.10%以下であることがさらに好ましく、0.06%以下であることが特に好ましい。また、SPS樹脂フィルムの吸水率としては、例えば、0~0.2%であることが好ましく、0.01~0.15%であることがより好ましく、0.01~0.10%であることがさらに好ましく、0.03~0.06%であることが特に好ましい。
【0056】
[吸水率]
吸水率は、JIS K7209A法に準拠し、23℃水浸漬×24時間の条件で測定することにより求めることができる。
浸水前後の質量変化から吸水率を求める。
吸水率=((24時間含水試験後の質量-試験前の質量)/試験前の質量)×100
【0057】
SPS樹脂フィルムの表面は、密着性向上等の理由により、コロナ処理、プラズマ処理、及び紫外線処理から選択されるいずれかの表面処理が施されていることが好ましい。
特に、後述する積層体において、耐熱性樹脂フィルムと接触する側のSPS樹脂フィルムの表面が、コロナ処理、プラズマ処理、及び紫外線処理から選択されるいずれかの処理方法により表面処理されていることが好ましい。
【0058】
<SPS樹脂フィルムの製造方法>
SPS樹脂フィルムは、例えば、溶融押出成形法によって樹脂をフィルム状に成形することにより得ることができる。
溶融押出成形法とは、溶融押出成形機を使用して樹脂材料を溶融混練し、溶融押出成形機のTダイスから樹脂材料を連続的に押し出す成形方法である。
例えば、溶融押出成形機で溶融混練された樹脂材料は、溶融押出成形機の先端部のTダイスにより帯形の樹脂フィルムに連続して押出成形され、この連続した樹脂フィルムは次に配置されているロール間に配され、冷却された後、巻取機に巻き取られる。こうして、樹脂フィルムが製造される。
なお、押出成形機は、特に制限はなく、単軸押出成形機、あるいは二軸押出成形機等、いずれの成形機も用いることができる。
【0059】
後述する実施例でも示す通り、本発明のSPS樹脂フィルムは、良好な電気特性(誘電特性)を有している。また、該SPS樹脂フィルムを用いて作製された積層体や金属張積層板は、基材となる耐熱性樹脂フィルム(ポリイミド樹脂フィルム)との接着性や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性に優れ、接着性のバラツキが少なく、寸法安定性やカール抑制にも優れたものとなっている。
【0060】
(積層体)
積層体は、プリント配線板用等として用いることができる積層体であり、金属張積層板(銅張積層板(CCL))の作製に用いることができる。
積層体は、本発明のSPS樹脂フィルムと、300℃以下に融点を持たない耐熱性樹脂フィルムと、を積層してなる。
【0061】
積層体は、樹脂フィルムが3層積層されてなることが好ましく、積層体の好ましい実施態様としては、300℃以下に融点を持たない耐熱性樹脂フィルムと、該耐熱性樹脂フィルムの両面に、本発明のSPS樹脂フィルムと、を積層してなる積層体が挙げられる。
【0062】
<耐熱性樹脂フィルム>
耐熱性樹脂フィルムは、SPS樹脂フィルムとの積層が容易となり、積層体の誘電体損失を低減できるという観点から、300℃以下に融点を持たないフィルムであることが好ましい。
耐熱性樹脂フィルムは、300℃以下に融点を持たないため、熱硬化性樹脂であるか、融点が300℃より大きい熱可塑性樹脂からなるフィルムであることが好ましく、例えば、ポリイミド(PI)、液晶ポリマー(LCP)、及び延伸ポリエーテルエーテルケトン(延伸PEEK)のいずれかから選ばれる樹脂からなるフィルムであることが好ましい。
耐熱性樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂からなり、300℃より大きい融点を示す場合、さらに本発明では、耐熱性樹脂フィルムが、SPS樹脂フィルムの融点に30℃足し合わせた温度において、溶融しないものであることがより好ましい。つまり、本発明において、耐熱性樹脂フィルムの融点は、SPS樹脂フィルムの融点に30℃足し合わせた温度より高いものとなっていることがより好ましい。
また、本発明においては、耐熱性樹脂フィルムを形成する樹脂として難燃性の高い樹脂を選択し、耐熱性樹脂フィルムが難燃性の高い樹脂フィルムとすることにより、難燃性が向上した積層体を得ることができる。
【0063】
耐熱性樹脂フィルムは、積層体や後述する金属張積層板の反りを低減させるという観点から、線熱膨張係数(CTE)(20℃~140℃のCTE)が50ppm/℃以下の低CTE樹脂フィルムであることが好ましい。
本明細書において、線熱膨張係数(CTE)は、熱膨張係数、線熱膨張率、又は熱膨張率ともいう。
【0064】
耐熱性樹脂フィルムの線熱膨張係数(CTE)(20℃~140℃のCTE)としては、後述する金属張積層板(例えば、銅張積層板(CCL))として貼り合わされる金属層(例えば、銅箔膜)のCTEと近い値のほうがカールの抑制や寸法安定性に優れるため、例えば、5~50ppm/℃であることが好ましく、10~30ppm/℃であることがより好ましい。
【0065】
線膨張係数(CTE)の測定は、JIS K 7197:1991に準拠して、熱機械分析(TMA)装置により求めることができる。例えば、熱機械分析装置(製品名:SII//SS7100 日立ハイテクサイエンス株式会社製)を用いた引張モードにより、荷重50mN、昇温速度5℃/minの条件で10℃から200℃の範囲で測定し、20℃から140℃までの範囲の傾きから線膨張係数(ppm/℃)を求めることにより、行うことができる。
【0066】
耐熱性樹脂フィルムには、樹脂フィルムの強度、絶縁性、耐熱性、線熱膨張係数(CTE)の調整等各種の機能を付与するため、フィラーや、各種添加剤を含有することができる。
フィラーや、各種添加剤については、上記(SPS樹脂フィルム)の欄で説明した通りである。
【0067】
<<耐熱性樹脂フィルムの特性>>
耐熱性樹脂フィルムの膜厚は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm~150μmであることが好ましく、10μm~80μmであることがより好ましく、12μm~60μmであることがより好ましい。厚すぎると誘電特性が悪化することもあり、また、薄すぎるとカールの抑制や寸法安定性が不安定になるなどすることがある。
【0068】
耐熱性樹脂フィルムの表面粗さ(Rz)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1~10μmであることが好ましい。表面粗さが小さすぎるとフィルムを巻き取る際にうまく巻きとれなくなり、大きすぎるとSPS樹脂フィルムと張り合わせる際に接着強度が不安定になったり、気泡が混入するなどの不具合を生じやすい。
本明細書において、表面粗さ(Rz)とは、膜表面の十点平均粗さをいう。十点平均粗さRzJISは、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997 Amd.1:2009)に基づいて求めることができる。なお、本明細書では、十点平均粗さRzJISで求められる各層の表面粗さに対して、「表面粗さ(Rz)」と表記する。
【0069】
[十点平均粗さRzJISの測定]
シートの表面の十点平均粗さRzJIS(μm)は、試験片についてレーザー顕微鏡を用いて粗さ曲線を測定し、この粗さ曲線から、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997 Amd.1:2009)に基づいて、それぞれ10サンプルずつ測定し、それらの平均値を求めることにより得る。
【0070】
耐熱性樹脂フィルムの比誘電率、及び誘電正接は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、電気信号の伝送損失の低減の理由から比誘電率は、3.5以下で、誘電正接は0.025以下であることが好ましい。
耐熱性樹脂フィルムの比誘電率としては、低いほうが望ましいが、現実的に可能な範囲として、例えば、2.5~3.5であることが好ましく、3.0~3.5であることがより好ましい。また、耐熱性樹脂フィルムの誘電正接としては、例えば、0.001~0.025であることが好ましく、0.001~0.01であることがより好ましく、0.001~0.008であることがさらに好ましい。
【0071】
耐熱性樹脂フィルムが吸湿することにより誘電特性が大幅に悪化するため、耐熱性樹脂フィルムの吸水率としては、例えば、0~2.5%であることが好ましく、0.01~2.0%であることがより好ましく、0.03~1.5%であることがさらに好ましく、0.05~1.2%であることが特に好ましい。
【0072】
耐熱性樹脂フィルムの表面は、密着性向上等の理由により、コロナ処理、プラズマ処理、及び紫外線処理から選択されるいずれかの表面処理が施されていることが好ましい。
【0073】
<積層体の層構成>
図1は、本発明の積層体の構成の一例を示す断面図である。
積層体11は、SPS樹脂フィルム13と、耐熱性樹脂フィルム12と、SPS樹脂フィルム14とを有し、これらの順で積層されてなる。
【0074】
耐熱性樹脂フィルムを積層体の真ん中に配することで、積層体の寸法安定性の悪化や積層体のカールを、有効に防止することができる。
本発明のSPS樹脂フィルムは、耐熱性樹脂フィルムの一方の面、または両面に配される。SPS樹脂フィルムは、耐熱性樹脂フィルムの両面に配されることが好ましい。本発明のSPS樹脂フィルムを設けることで、上記耐熱性樹脂フィルムと相まって、積層体の寸法安定性の悪化や積層体のカールを、有効に防止することができる。
【0075】
耐熱性樹脂フィルムの両側に配されるそれぞれのSPS樹脂フィルム(1層のSPS樹脂フィルム)の厚みと上記耐熱性樹脂フィルムの厚みの比(SPS樹脂フィルム:耐熱性樹脂フィルム)は、1:10~10:1であることが好ましく、1:5~5:1であることがより好ましく、1:3~3:1であることがさらに好ましい。SPS樹脂フィルムが薄すぎると、伝送特性が悪化する場合があり、SPS樹脂フィルムが厚すぎるとカールを生じたり、寸法安定性が悪化することがある。
また、SPS樹脂フィルムの厚みは、耐熱性樹脂フィルムの厚みより同じか薄い方がより好ましい。したがって、SPS樹脂フィルム:耐熱性樹脂フィルムは、1:2~1:1であることが特に好ましい。
【0076】
耐熱性樹脂フィルムとSPS樹脂フィルムとの界面におけるSPS樹脂フィルムの表面粗さ(Rz)は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1~10μmであることが好ましい。
【0077】
図1で示されるように、SPS樹脂フィルムは、耐熱性樹脂フィルム12の両面に配されるが、SPS樹脂フィルム13とSPS樹脂フィルム14とは、上述した要件を満足していれば、同じ組成の樹脂フィルムであっても、異なる組成の樹脂フィルムであってもよい。
【0078】
(金属張積層板)
本発明の金属張積層板は、上記本発明の積層体の両面又は片面に、金属層が積層されてなる。
【0079】
SPS樹脂フィルム、耐熱性樹脂フィルム、SPS樹脂フィルム、金属層がこの順で積層されてなる。
また、本発明の金属張積層板は、金属層が基材フィルムの両側に積層されていてもよい。この場合の金属張積層板は、金属層、SPS樹脂フィルム、耐熱性樹脂フィルム、SPS樹脂フィルム、金属層がこの順で積層されてなる。
【0080】
図2は、本発明の金属張積層板の構成の一例を示す断面図である。
図2では、積層体の両面に、金属層が積層された例を示している。
金属張積層板21は、金属層25、SPS樹脂フィルム23と、耐熱性樹脂フィルム22と、SPS樹脂フィルム24と、金属層26とを有し、これらの順で積層されてなる。
【0081】
金属層を構成する金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばニッケル、銅、銀、錫、金、パラジウム、アルミニウム、クロム、チタンおよび亜鉛からなる群から選択される1種またはこれらのいずれか1種以上を含む合金等が挙げられる。中でも、シールド性と経済性の観点から、銅、および銅を含む合金が好ましい。
本発明の金属張積層板の好ましい態様として、積層体に金属箔の膜が張り合わされた金属張積層板が挙げられる。中でも、金属箔が銅箔である、積層体に銅箔の膜(銅箔膜)が張り合わされた銅張積層板がより好ましい。
【0082】
<金属層>
金属層の好ましい態様として、金属箔の膜が挙げられる。
金属箔の種類としては、特に限定されず、例えば、電解金属箔、圧延金属箔等を用いることができる。
金属箔の中でも、銅箔がより好ましい。
【0083】
金属箔の膜の膜厚は、十分な電気信号の伝送特性を確保し、かつ回路パターンの良好なファインピッチを可能とするという観点から、0.05μm~20μmであることが好ましく、0.1~15μmであることがより好ましい。
金属箔の膜とSPS樹脂フィルムとの界面における、金属箔の膜の表面粗さ(Rz)は、表皮効果による伝送特性の観点から、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましい。
【0084】
<金属張積層板の膜厚>
金属張積層板の膜厚は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、10~300μmが好ましい。金属張積層板の膜厚が上記範囲の下限値以上であれば、ハンドリング性に優れ、強度を確保できる。また、上記範囲の上限値以下であれば、軽薄短小化、フレキシブル性を付与できる。
【0085】
(積層体の製造方法)
積層体の製造方法は、SPS樹脂フィルムと、耐熱性樹脂フィルムと、SPS樹脂フィルムとを、この順に配置し、これらを熱プレス機あるいは加熱ロール間や加熱ベルト間に挟み、加熱・加圧して熱圧着し、各樹脂フィルムを貼り合わせる工程を含む。
上記熱圧着は、SPS樹脂フィルムの融点をTm(℃)としたとき、熱圧着時の最高温度がTm-30℃以上Tm+30℃以下の温度範囲になるようにして行われることが好ましい。
また、熱圧着における圧力は、例えば、熱プレス機や加熱ベルトの場合、0.2~10MPaであることが好ましく、1~5MPaであることがより好ましく、熱圧着の時間は、1~30分であることが好ましい。加熱ロールの場合は、線圧4~60kN/m、線速0.5~5.0m/分であることが望ましい。
【0086】
(金属張積層板の製造方法)
金属張積層板の製造方法は、上記積層体の両面又は片面に金属層を配置し、熱圧着し、積層体と金属層とを貼り合わせる工程を含む。
また、金属張積層板の製造方法は、金属層と、SPS樹脂フィルムと、耐熱性樹脂フィルムと、SPS樹脂フィルムとを、この順に配置し、これらを熱プレス機あるいは加熱ロール間や加熱ベルト間に挟み、加熱・加圧して熱圧着し、金属層と各樹脂フィルムとを貼り合わせるか、金属層と、SPS樹脂フィルムと、耐熱性樹脂フィルムと、SPS樹脂フィルムと、金属層とを、この順に配置し、熱圧着し、金属層と各樹脂フィルムとを貼り合わせる工程を含む。
上記熱圧着は、SPS樹脂フィルムの融点をTm(℃)としたとき、熱圧着時の最高温度がTm-30℃以上Tm+30℃以下の温度範囲になるようにして行われることが好ましい。
【0087】
金属張積層板が、
図2で示すような積層体の両面に金属層が設けられている金属張積層板である場合には、積層体の一方の面に対して、上述した方法により、金属層を積層し、その後、積層体の他方の面に対して、同様方法で、金属層を積層することにより、金属張積層板を製造してもよいし、あるいは、積層体に対して両側の金属層を一緒に積層し、一度に両側の金属層を配した金属張積層板を製造してもよい。
【0088】
金属層を形成する前に、金属層と接する側のSPS樹脂フィルムの表面を、コロナ処理、プラズマ処理、又は紫外線処理等で表面処理してもよい。
【0089】
本発明の積層体(特に、両面金属張積層板)は、良好な電気特性(誘電特性)を有しつつ、基材となる耐熱性樹脂フィルム(ポリイミド樹脂フィルム)との接着性や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性に優れ、寸法安定性やカール抑制に優れているため、フレキシブルプリント回路基板(FPC)、リジッドプリント回路基板の製造に好適に使用できる。
例えば、エッチング、電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法))によって、本発明の金属張積層板の金属基板を所定の形状を有する伝送回路(導体回路)に加工すれば、プリント回路基板を製造できる。
プリント回路基板の製造においては、伝送回路を形成した後に、伝送回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに伝送回路を形成してもよい。また、伝送回路上にソルダーレジストやカバーレイフィルムを積層してもよい。
【実施例0090】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0091】
(線熱膨張係数(CTE)(ppm/℃))
線熱膨張係数(CTE)は、熱機械分析装置(製品名:SII//SS7100 日立ハイテクサイエンス株式会社製)を用いた引張モードにより、荷重50mN、昇温速度5℃/minの条件で10℃から200℃の範囲で測定し、20℃から140℃までの範囲の傾きから線熱膨張係数(ppm/℃)を求めた。樹脂フィルムの幅方向(TD)を測定した。
【0092】
(融点(℃))
融点は、JIS K 7121に準拠して測定した。具体的には、溶融押出成形した樹脂フィルムから測定用試料を約5mg秤量し、示差走査熱量計(エスアイアイ・テクノロージーズ社製:高感度型示差走査熱量計X-DSC 7000)を使用して昇温速度10℃/min、測定温度範囲20℃から380℃まで加熱して測定した。
【0093】
下記実施例及び比較例で使用した、樹脂フィルムを構成する材料は以下のとおりである。
90ZC:(出光興産株式会社)
PPO646:(SABIC社) フェノール末端基量840ppm
PPO640:(SABIC社) フェノール末端基量960ppm
SA120:(SABIC社) フェノール末端基量6600ppm
SA9000:(SABIC社) フェノール末端基量100ppm未満
P1500:(旭化成株式会社)
P1083:(旭化成株式会社)
P5051:(旭化成株式会社)
H1043:(旭化成株式会社)
8006:(株式会社クラレ)
2006:(株式会社クラレ)
カプトン200LK:(東レ・デュポン株式会社)
【0094】
(実施例1)
厚み50μmのポリイミドフィルム(PI)(東レデュポン社製、カプトン200LK)を用意した。
表1-1で示す成分からなる、厚み25μmのSPS樹脂フィルムを用意した。該SPS樹脂フィルムの融点は、268℃であった。
ポリイミドフィルムに接触する面にコロナ処理を施した厚み25μmのSPS樹脂フィルムをポリイミドフィルムの両面に配置した。
さらに、最表面の両面に厚み12μm、Rzjis(Rz)が0.2μmの銅箔(福田金属箔粉工業社製、CF-T9DA-SV-12)を配置して、熱プレス機を用い、1mm厚のステンレス板で挟んで、熱板温度を80℃に設定して面圧3MPaで熱圧着を開始し、昇温速度7℃/分で熱板温度290℃まで熱圧着しながら昇温した。
290℃に達したら、4℃/分の速度で230℃まで冷却してから圧力を開放し、銅張積層板(CCL)を取り出した。
このようにして得られた実施例1のSPS樹脂を有する積層体、及び銅張積層板の構成を下記表1-1に示す。
【0095】
実施例1の銅張積層板に対して、下記評価方法により、接着強度(密着強度)、剥離モード評価、誘電特性、引張弾性率、はんだ耐熱試験、カール試験の各評価を行った。結果を下記表3-1に示す。
【0096】
(密着強度)
密着強度試験は、銅張積層板(CCL)をカットして幅25mmの試験体とし、JIS Z 0237:2009を参考に、剥離速度0.3mm/分、剥離角180°にて、銅張積層板(CCL)を支持体(ガラス支持板)に固定し、積層体を引張治具に固定し、銅張積層板(CCL)から積層体を引っ張った際の密着強度を測定した。
【0097】
[密着強度の評価基準]
◎ 6N/cm以上
〇 5N/cm以上6N/cm未満
△ 4N/cm以上5N/cm未満
× 4N/cm未満
【0098】
(剥離モード評価)
密着強度試験において、銅張積層板(CCL)を支持体(ガラス支持板)に固定し、積層体を引張治具に固定し、銅張積層板(CCL)から積層体を引っ張った後に、銅張積層板(CCL)のどの層で剥離が生じたかを観察した。
【0099】
[剥離モードの評価基準]
凝集破壊
図3で示すように、SPS樹脂フィルム2内で剥離が生じる
Cu-フィルム
図4で示すように、SPS樹脂フィルム2と金属層(銅箔)3との間で剥離が生じる。
フィルム-PI
図5で示すように、SPS樹脂フィルム2と耐熱性樹脂フィルム(PIフィルム)1との間で剥離が生じる。
尚、剥離モードの中では、フレキシブルプリント回路基板(FPC)として実装する際の折り曲げ角度によって剥離が生じるリスクが小さいという点で、凝集破壊の剥離モードの方が、Cu-フィルムや、フィルム-PIの剥離モードより好ましいといえる。
【0100】
(誘電特性)
厚み25μmのSPS樹脂フィルムの両面に金属層(銅箔)を配置し、熱プレス機を用い、1mm厚のステンレス板で挟んで、熱板温度を80℃に設定して面圧3MPaで熱圧着を開始し、昇温速度7℃/分で熱板温度290℃まで熱圧着しながら昇温した。
290℃に達したら、4℃/分の速度で230℃まで冷却してから圧力を開放することで、ポリイミドフィルム(PI)無しの銅張積層板とした後、塩化鉄水溶液で銅箔を除去することで、誘電特性測定用のSPS樹脂フィルムを作製した。
SPS樹脂フィルムの誘電特性(比誘電率、誘電正接)は、電子計測器(製品名コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザMS46122B:Anritsu社製)を用い、開放型共振器法の一種であるファブリペロー法により、周波数28GHz付近の23℃×50RH%の誘電特性を測定した。開放型共振器(製品名ファブリペロー共振器Model No.DPS03:キーコム社製)を用いた。
誘電特性の評価基準を以下に示すが、本実施例では、実施例も比較例も、比誘電率は所望の範囲に入っていたため、評価基準は、誘電正接の評価基準を示す。
【0101】
[誘電特性(誘電正接)の評価基準]
〇 誘電正接の値が0.0015以下
△ 誘電正接の値が0.0015より大きく0.002以下
× 誘電正接の値が0.002より大きい
【0102】
(250℃はんだ耐熱試験)
作製した銅張積層板を3cm角にカットしてから250℃に設定したはんだ浴に1分間浮かべた後の様子を観察した。
【0103】
[250℃はんだ耐熱試験の評価基準]
〇 作製した銅張積層板の膨れや変形なし
△ SPS樹脂フィルムが少し柔らかくなるが、銅張積層板の膨れや変形なし
× 銅張積層板の膨れや変形が発生した
【0104】
(カール試験)
得られた銅張積層板(CCL)から150×150mmのサイズで試験体を切り出し、試験体の片面側の銅箔のみを塩化鉄水溶液で除去し、試験体を平らなガラス板の上に置き、試験体の4隅4点の浮き上がり量をそれぞれ物差しで測定し、その平均値を求めた。
【0105】
[カール試験の評価基準]
〇 4点平均が3cm以下
△ 4点平均が3cmより大きく5cm以下
× 4点平均が5cmより大きい
【0106】
(実施例2~実施例13)
実施例1において、使用するSPS樹脂フィルムの種類の条件を表1-1又は表1-2(表1-1と表1-2を合わせて表1ともいう)に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例13の銅張積層板を作製した。
尚、実施例2~実施例13の銅張積層板における、SPS樹脂フィルムの融点を測定したところ、全て、265℃~270℃の温度範囲内であった。
ポリフェニレンエーテルをSA120(フェノール末端基量6600ppm)としたSPS樹脂フィルム(実施例13)は、SPS樹脂フィルムを成形した際に、ポリフェニレンエーテルの凝集物がフィルム表面から飛び出した外観欠点が一部発生し、歩留まりが低下した。
【0107】
実施例2~実施例13で作製した銅張積層板に対して、実施例1と同様の方法で、各評価を行った。
実施例2~実施例13の銅張積層板に対する評価結果を表3-1又は表3-2(表3-1と表3-2を合わせて表3ともいう)に示す。
【0108】
(比較例1~6)
実施例1において、使用するSPS樹脂フィルムの種類の条件を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1~比較例6の銅張積層板を作製した。
【0109】
比較例1~比較例6で作製した銅張積層板に対して、実施例1と同様の方法で、各評価を行った。
比較例1~比較例6の銅張積層板に対する評価結果を表4に示す。
ポリフェニレンエーテルをSA9000(フェノール末端基量100ppm未満)としたSPS樹脂フィルム(比較例1)は、SPS樹脂フィルムを成形した際に、ポリフェニレンエーテルの凝集物がフィルム表面から飛び出した外観欠点が発生し、歩留まりが低下した。外観欠点の数は、実施例13よりも目視で多かった。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
実施例より、本発明の金属張積層板は、良好な電気特性(誘電特性)を有しつつ、基材となる耐熱性樹脂フィルム(ポリイミド樹脂フィルム)との接着性や、高速伝送を実現できる粗度が小さい金属層(例えば、低粗度の銅箔)との接着性に優れ、さらに寸法安定性やカール抑制に優れた金属張積層板となっていることが確認できた。
本発明の金属張積層板は、スマートフォン、携帯電話、光モジュール、デジタルカメラ、ゲーム機、ノートパソコン、医療器具等の電子機器用のFPC関連製品の製造に好適に用いられ得る。