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特開2024-123806n型半導体有機材料、導電性膜、及びそれらの製造方法
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  • 特開-n型半導体有機材料、導電性膜、及びそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123806
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】n型半導体有機材料、導電性膜、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/30 20230101AFI20240905BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240905BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20240905BHJP
   H10N 10/856 20230101ALI20240905BHJP
   H10N 10/857 20230101ALI20240905BHJP
   C07F 15/04 20060101ALI20240905BHJP
   H10K 99/00 20230101ALI20240905BHJP
   H10K 71/12 20230101ALI20240905BHJP
【FI】
H10K85/30
C09K3/00 C
H10N10/01
H10N10/856
H10N10/857
C07F15/04
H10K99/00
H10K71/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031508
(22)【出願日】2023-03-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名: JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2022,144,18744-18749 発行者 AMERICAN CHEMICAL SOCIETY 公開日 2022年9月27日 刊行物名: 日本化学会第102春季年会(2022)講演予稿集 発行者 公益社団法人 日本化学会 公開日 2022年3月9日 集会名: 関西9私大~環境・エネルギー、ライフサイエンス~新技術説明会 開催日 2023年3月2日 開催場所: オンライン開催 https://shingi.jst.go.jp/list/list_2022/2022_10kansai.html 刊行物名: 大阪工業大学工学部応用化学科ホームページ (アドレス https://www.chem.oit.ac.jp/cherry/3_lab/murata/index.html) 発行者 大阪工業大学 公開日 2022年10月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「π拡張型ジチオラート金属錯体を用いた中性熱電材料の創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(72)【発明者】
【氏名】村田 理尚
(72)【発明者】
【氏名】上田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】當山 奈菜
【テーマコード(参考)】
3K107
4H050
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC11
3K107EE67
3K107FF04
4H050AA03
4H050AB92
4H050WB15
4H050WB21
(57)【要約】
【課題】高い電気伝導率を与えることができ、かつ大気下での安定性にも優れたn型半導体有機材料、及び前記n型半導体有機材料を含有し、高い電気伝導率を示し、大気下での安定性にも優れた導電性膜、並びに、前記n型半導体有機材料及び前記導電性膜の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリニッケル-チエノチオフェン[3,2-b]チオフェン-テトラチオレート金属塩であるn型半導体有機材料、前記n型半導体有機材料の微粒子とポリフッ化ピニリデンとの混合物から形成されることを特徴とするn型導電性膜、及びそれらの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される錯体からなるn型半導体有機材料。
【化1】

式(1)中、Mは金属カチオンを表しn及びxは自然数を表す。
【請求項2】
請求項1に記載のn型半導体有機材料の微粒子とポリフッ化ピニリデンとの混合物から形成されることを特徴とするn型導電性膜。
【請求項3】
電気伝導率が、120S/cm以上である請求項2に記載のn型導電性膜。
【請求項4】
絶縁性の基材上に形成されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のn型導電性膜。
【請求項5】
下記構造式(2)で表される化合物と、DMFに溶解可能なニッケル(II)の塩又はその水和物とを、DMF又はDMFを主体とする溶媒中で、アルカリ金属アルコキシドの存在下で反応させる工程を有する請求項1に記載のn型半導体有機材料の製造方法。
【化2】

式(2)中、Rは保護基を表す。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法により得られたn型半導体有機材料、ポリフッ化ビニリデン、及びジメチルスルホキシドを、機械的に粉砕・混合して分散混合液を作製し、作製された分散混合液を製膜する工程を有するn型導電性膜の製造方法。
【請求項7】
前記製膜する工程が、前記分散混合液を、絶縁性の基材上に塗布した後、ジメチルスルホキシドを乾燥、除去し、その後、高温に加熱して製膜する工程であることを特徴とする請求項6に記載のn型導電性膜の製造方法。
【請求項8】
前記分散混合液中に、前記半導体有機材料が、分散混合液に対して0.7質量%以上、1.2質量%以下含まれていることを特徴とする請求項7に記載のn型導電性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型半導体特性を示す有機材料、その有機材料を含有して、高い電気伝導率を有するとともに大気下においても安定である導電性膜、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
n型半導体特性を示す有機材料(以下、「n型半導体有機材料」又は「n型有機材料」とも言う)、及びn型有機材料を含有する導電性膜は、エレクトロニクス分野、例えばフレキシブル熱電変換素子などに適用される重要な材料である。又、n型有機材料の導電性膜は、塗布法により安価に製造できる等の利点がある。フレキシブルな基材との組合せも可能であるので、特に近年は熱電変換材料への応用に向けての研究が進められている。
【0003】
しかし、従来のn型有機材料の導電性膜は、一般に、電気伝導率(導電率)が低く(σ<10S/cm)、又、大気下において酸化等により劣化し不安定であるとの問題があった。そこで、導電性膜として高い電気伝導率を示すとともに、大気下において安定なn型有機材料の開発が望まれている。
【0004】
大気下において安定であるn型有機材料としては、ニッケルを含有する有機金属型材料であるニッケル-エテンテトラチオレート(NiETT)が注目されている(非特許文献1)。さらに、NiETTの塗布法などの研究も進められており、例えば、NiETTの微粒子の水系分散液の製造方法、その水系分散液を基材上に塗布することによるNiETTの微粒子を含有する熱電発電性薄膜の製造方法が特許文献1に開示されている。
【0005】
しかし、NiETTは、大気下において安定な材料ではあるが、上記の方法により得られるNiETTの導電性膜の電気伝導率は高くても 50S/cm程度に留まっていた。近年、電気伝導率が約100S/cmとなる製造方法が報告されている(非特許文献2)が、さらに高い電気伝導率が望まれており、より高い電気伝導率が得られ、かつ大気下での安定性にも優れたn型有機材料、及びそれを含有する導電性膜の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-072438号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.K.Yee,et al.,Adv.Funct.Mater.2018,28,1801620
【非特許文献2】A.Facchetti, X. Guo, et al.,Nature 2021,599,67.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のn型有機材料より、さらに高い電気伝導率を与えることができ、かつ大気下での安定性にも優れたn型有機材料、及び前記n型有機材料を含有し、高い電気伝導率を示し、大気下での安定性にも優れた導電性膜を提供することを課題とする。
本発明は、又、高い電気伝導率を示し大気下での安定性にも優れたn型有機材料、及びそれを含有する導電性膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、大気下で安定なn型材料として知られるNiETTのニッケルージチオレン構造(ニ ッケルを含有する配位化合物)に、硫黄を含有する配位子であるチエノチオフェン(含硫黄π共役系の構造)を組み込んで合成した新材料を開発した。そして、この新材料をポリフッ化ピニリデン(PVDF)と混合して導電性膜を作製したところ、n型半導体特性を示すとともに、大気下において安定であり、かつ従来は得られなかった高い電気伝導率(例えば、σ>200S/cm)を有する導電性膜が得られることを見出し、従来なかった最も高い導電性を示すn型半導体導電性膜の開発に成功した。
すなわち、前記の本発明の課題は、下記の構成からなる発明により解決される。
【0010】
本発明の第1は、下記構造式(1)で表される錯体からなるn型半導体有機材料である。
【0011】
【化1】
【0012】
式(1)中、Mは金属カチオンを表しn及びxは自然数を表す。
【0013】
本発明の第2は、本発明の第1のn型半導体有機材料の微粒子とポリフッ化ピニリデン(PVDF)との混合物から形成されることを特徴とするn型導電性膜である。
【0014】
本発明の第3は、電気伝導率が、120S/cm以上である本発明の第2のn型導電性膜である。
【0015】
本発明の第4は、絶縁性の基材上に形成されていることを特徴とする本発明の第2又は第3のn型導電性膜である。
【0016】
本発明の第5は、下記構造式(2)で表される化合物と、DMFに溶解可能なニッケル(II)の塩又はその水和物を、DMF又はDMFを主体とする溶媒中で、アルカリ金属アルコキシドの存在下で反応させる工程を有する本発明の第1のn型半導体有機材料の製造方法である。
【0017】
【化2】
【0018】
式(2)中、Rは保護基を表す。
【0019】
本発明の第6は、本発明の第5の製造方法により得られたn型半導体有機材料、すなわち本発明の第1のn型半導体有機材料、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)を、機械的に粉砕・混合して分散混合液を作製し、作製された分散混合液を製膜する工程を有するn型導電性膜の製造方法である。
【0020】
本発明の第7は、前記製膜する工程が、前記分散混合液を、絶縁性の基材上に塗布した後、DMSOを乾燥、除去し、その後、高温に加熱して製膜する工程であることを特徴とする本発明の第6のn型導電性膜の製造方法である。
【0021】
本発明の第8は、前記分散混合液中に、前記n型半導体有機材料が、分散混合液に対して0.7質量%以上かつ1.2質量以下含まれていることを特徴とする本発明の第6又は第7のn型導電性膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1のn型半導体有機材料は、新規な化合物であって、n型半導体特性を示す有機金属化合物である。
本発明の第1のn型半導体有機材料とPVDFとを混合して形成される導電性膜である本発明の第2又は第3の導電性膜は、高い電気伝導性(電気伝導率)を示す。又、大気下において安定であるn型有機材料として注目されているNiETTと、同等以上の高い大気下での安定性を示す。
特に本発明の第3の導電性膜は、従来のn型導電性膜では得られなかったσ>120S/cm以上の高い電気伝導率を示し、製造条件によっては、従来のn型導電性膜の性能を大幅に更新するσ>200S/cmを達成する。なお、ここで言う電気伝導率の値σとは、熱電特性評価装置を用いて測定した、面内方向についての導電率σを意味する。
【0023】
前記の優れた特徴を有する本発明のn型有機材料は、本発明の第5のn型半導体有機材料の製造方法により容易に製造できる。又、前記の優れた特徴を有する本発明の導電性膜は、本発明の第6~8のn型導電性膜の製造方法により容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実験4にて測定した導電率の時間に対する変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の形態に限定されない。
【0026】
本発明の第1は、ポリニッケル-チエノチオフェン[3,2-b]チオフェン-テトラチオレート金属塩(以下、NiT2TTと称する)であり、前記構造式(1)で表される錯体からなるn型半導体有機材料である。金属ジチオレン構造を含有する有機半導体材料は従来知られているが、本発明の材料は、チオフェンを含む配位子を利用したことを特徴とする金属ジチオレン型有機半導体材料であり、新規な化合物である。
【0027】
構造式(1)中のMは金属カチオンであり、その好ましい例として、Na、K等のアルカリ金属イオンが挙げられる。
構造式(1)中のnは特に限定されない。構造式(1)中のxは、通常0以上、n以下である。
【0028】
NiT2TT(本発明の第1のn型半導体有機材料)は、前記構造式(2)で表される化合物とDMFに溶解可能なニッケル(II)の塩又はその水和物とを、DMF又はDMFを主体とする溶媒中で、アルカリ金属アルコキシドの存在下で反応させること、すなわち本発明の第5の製造方法により製造することができる。DMFに溶解可能なニッケル(II)の塩又はその水和物(以下、「ニッケル(II)塩」と表す場合がある。)の例としては、酢酸ニッケル(II)4水和物(Ni(OCOCH・4HO)等のニッケル(II)有機酸塩の水和物、塩化ニッケル(II)等であって、DMFに溶解するものを挙げることができる。
構造式(2)中のRはSの保護基であるが、Rの例としては、例えば、2-シアノエチル(-CHCHCN)基が挙げられる。式(2)で表され、Rが2-シアノエチル基である化合物は、例えば、以下に示す反応により製造することができる
【0029】
【化3】
【0030】
本発明の第5の製造方法は、DMFを主体とする溶媒を反応溶媒とすることを特徴とする。DMFを主体とする溶媒を反応溶媒とすることにより、粒径の小さいNiT2TT微粒子が機械的粉砕等の微粒化工程を設けなくても得られる。その結果、NiT2TT微粒子を用いて製造される熱電発電性薄膜、熱電発電素子の高性能化(熱電発電性能の向上)につながる。
【0031】
DMFを主体とする溶媒とは、無水DMFを最大質量の成分とするがDMFに溶解する他の成分も含む溶媒である。他の成分の種類及びその配合割合は、DMFに溶解し本発明の主旨を損ねない成分である限り特に限定されない。例えば、メタノール等の低級アルコールも、本発明の主旨を損ねない範囲であれば、DMFに少量混合されていてもよい。DMFを主体とする溶媒としては、好ましくは、無水DMFを80質量%以上含む溶媒が使用される。
【0032】
アルカリ金属アルコキシドのアルカリ金属としては、ナトリウムやカリウムが例示される。これらのアルカリ金属の中では、ナトリウムが好ましい。又、アルコキシドの炭素数は小さい方が好ましい。従って、アルカリ金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシドが好ましい。
【0033】
前記反応における、構造式(2)で表される化合物と、ニッケル(II)塩の量比は、反応の諸条件を考慮して適宜調整されるが、これらは同当量で反応するので、通常、同当量に近い量比が採用される。
アルカリ金属アルコキシドは、構造式(2)で表される化合物やニッケル(II)塩に対して、通常1~10倍モル量使用されるが、好ましくは3~7倍モル量で使用される。
【0034】
前記反応は、この反応中での反応生成物の酸化を防ぐため、窒素雰囲気下等の酸素が除去された雰囲気で行うことが好ましい。
前記反応は、通常0~100℃の範囲、好ましくは20~80℃の範囲、より好ましくは40~70℃の範囲で撹拌しながら行われる。最適な反応時間は、反応温度により変動し、特に限定されないが、反応温度が、40~70℃の範囲の場合は、5~30時間程度である。
【0035】
前記反応後、反応生成物は、導電性を付与するために酸化される。酸化は、ヨウ素の添加により行うことができ、例えば、前記反応の反応生成物にメタノールに溶解したヨウ素を添加することにより行うことができる。この酸化も、通常0~100℃の範囲、好ましくは、20~80℃の範囲で撹拌しながら行われる。なお、前記反応後、酸化を行う前に、酸(例えば酢酸)の添加等により反応系を中和してもよい。
【0036】
酸化により、溶媒に不溶な生成物粒子(NiT2TTの微粒子と考えられる)が溶媒中に分散した分散液が得られるが、通常、遠心分離による生成物粒子の分散液からの分離や、生成物粒子のメタノール、水、DMSO等による洗浄等により精製がされ、NiT2TT粒子からなる黒色固形物が得られる。この黒色固形物を、水又は水を主成分とする分散媒に加え、超音波処理等により生成物粒子を分散させることにより本発明のNiT2TT(本発明の第1のn型半導体有機材料)の微粒子の水系分散液を得ることができる。
【0037】
本発明の第2及び第3は、本発明の第1のn型半導体有機材料の微粒子とPVDFとの混合物から形成されることを特徴とするn型導電性膜である。
本発明の第2及び第3のn型導電性膜は、本発明の第5の製造方法により得られたn型半導体有機材料、すなわち本発明の第1のn型半導体有機材料と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)を、機械的に粉砕・混合して分散混合液を作製し、作製された分散混合液を製膜する方法、すなわち、本発明の第6のn型導電性膜の製造方法により製造することができる。
【0038】
前記の方法により得られるNiT2TTの微粒子(又はその分散液)は、単独では導電性膜(導電性の薄膜)に形成できない。そこで、NiT2TTの微粒子とPVDFをDMSO中に分散させ、ボールミル等の粉砕手段によりDMSO分散液中のNiT2TTの微粒子とPVDFとを機械的に粉砕・混合して分散混合液を作製し、作製された分散混合液を製膜することにより、本発明の導電性膜を製造することができる。
【0039】
NiT2TTの微粒子とPVDFとの量比は、NiT2TTの微粒子の質量に対するPVDFの質量比が、0.1~2となる範囲が好ましく、より好ましくは、0.1~0.5となる範囲である。
【0040】
前記分散混合液中のNiT2TTの微粒子の含有割合は、分散混合液に対して0.5~10質量%となる範囲が好ましく、より好ましくは0.5~5質量%となる範囲であり、さらに好ましくは0.7~1.2質量%となる範囲である。DMSOの量は、分散混合液中のNiT2TTの微粒子の含有割合がこの範囲となるように調整される。
【0041】
機械的に粉砕・混合する条件は、NiT2TTの微粒子とPVDFが均一に混合し、その分散混合液の製膜が可能である限り特に限定されない。粉砕手段としては、ボールミルが代表的手段として挙げられるが、他にも、ビーズミル、ロッドミル、ジェットミル等の微粉砕技術を用いることも考えられる。
【0042】
(製膜)
この分散混合液を製膜することにより導電性膜を形成することができる。製膜の方法としては、分散混合液の薄膜を形成できる方法であれば特に限定されず、例えば、分散混合液を乾燥させて膜を形成する方法も挙げられるが、通常、基材上に分散混合液を塗布し、乾燥させることにより基材上に導電性膜を形成する方法が好ましい。塗布法としては、液体の塗布に通常用いられている塗布機による方法が好ましいが、この方法に限定されず、インクジェット法等により基材上に分散混合液を付与する方法等も塗布法として挙げることができる。基材上、特に絶縁性の基材上に分散混合液を塗布し、乾燥させることによりn型半導体からなる導電性塗布膜が得られる。
【0043】
通常用いられている塗布機により塗布する場合、NiT2TTの濃度は、前記のように、分散混合液に対して、0.5~10質量%となる範囲が好ましく、より好ましくは0.5~5質量%、さらに好ましくは0.7~1.2質量%の範囲である。この範囲内で作製したNiT2TTを用いPVDFと混合することにより、高い電気伝導率を有する導電性膜が得られる。
基材上への塗布により製膜する場合は、分散混合液を基材上に塗布し、加熱乾燥させた後、さらに高温(70℃程度)に加熱すること(アニール)が好ましい。
【0044】
(導電性膜の膜厚)
本発明の導電性膜の膜厚は、特に限定されず、その用途により好ましい膜厚の範囲は変動する。例えば、熱電発電性薄膜へ適用する場合は、通常1~50μmの範囲であるが、この範囲に限定されない。導電性膜の膜厚は、前記の本発明の導電性膜の製造方法の製膜工程において、基材への塗布量や塗布条件を変更することにより、容易に調整することができる。
【0045】
導電性膜の製造に用いられる基材は、その表面に分散混合液の製膜が可能なものであれば特に限定されない。例えば、ガラス、金属板、樹脂板等の柔軟性のないものでもよい。
しかし、NiT2TTを含有する本発明の導電性膜は、(後述の実験例中のPF値が示すように)熱電発電性能を有し、熱電発電性薄膜への適用が可能と考えられる。そこで、柔軟性を有し機械的強度も優れた有機樹脂製のフィルムを基材(フレキシブル基材)として用いれば、その表面に付与された分散液を乾燥、場合によりアニールをするのみで、フレキシブルな熱電発電素子を作製できる。従って、熱電発電性薄膜へ適用の場合は、フレキシブル基材が好ましい。
【0046】
柔軟性を有し機械的強度も優れた樹脂製のフィルムの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリイミド等の高強度の樹脂を挙げることができるが、前記の本発明の主旨、すなわち、様々な形状の熱源に貼り付けられる柔軟性と機械的強度を有するものであれば、他の樹脂でもよい。フィルムの厚みも、柔軟性や機械的強度を損ねない範囲であればよい。
【実施例0047】
本発明の製造方法に基づきNiT2TT微粒子を作製し、そのNiT2TT微粒子を用いて導電性膜の作製を行った実験例、及び比較のために行った実験例を以下に示す。実験例で使用した化合物や溶媒は、全て試薬である。
【0048】
実験1 ポリニッケル-チエノチオフェン[3,2-b]チオフェン-テトラチオレートナトリウム塩の作製
無水DMFに、ナトリウムメトキサイドの5.0当量、酢酸ニッケル(II)4水和物の1.0当量、及び、下記構造式(3)で表されるテトラ2-シアノエチル-チエノチオフェン[3,2-b]チオフェン-テトラチオレートの1当量を加えて、60℃で、24時間撹拌して反応させた後、室温にて酢酸を加えて15分間撹拌した。その後室温にてさらにヨウ素の1当量を加えて、1時間撹拌することにより、下記構造式(4)で表されるNiT2TTのDMF分散液が得られ、この分散液から、メタノール、水、エーテルを用いて洗浄した後、ろ過および減圧乾燥を行うことにより、NiT2TTの固体を得た。
【0049】
【化4】
【0050】
【化5】
【0051】
(NiT2TTの構造解析)
得られたNiT2TT分散液からNiT2TTを取り出し、以下に示す方法、条件によりX線結晶構造解析を行ったところ、上記構造式(4)で表される錯体化合物(NiT2TT)であることが確認された。
【0052】
実験2 NiT2TTの作製(比較例)
無水DMFの代わりに無水メタノールを用いた以外は実験1と同様にして、NiT2TTの微粒子を得た。
【0053】
実験3 NiT2TTを含有する導電性膜の作製
実験1又は実験2で得られたNiT2TTの10mg及びPVDFの2.5mgを1.25mlのDMSOに加えて、ボールミルによる粉砕を行い、分散液を作製した。
【0054】
(ボールミルによる粉砕の条件)
ボールミルはMTI社製MSK-SFM-12M-A-LDを使用した。分散液は、ジルコニアビーズを加えて4000rpmで36分間粉砕することにより調整した。
【0055】
(製膜)
1.5cm×1.5cmのガラス基材を、水、アセトン、2-プロパノールで十分に洗浄した。前記ガラス基材上に、前記で得られた分散混合液を滴下して拡げた後、70℃で1時間、160℃で1時間、乾燥を行い、分散混合液の塗布膜(導電性膜:導電性フィルム)を形成した。得られた導電性膜についてその厚み、電気伝導率(導電率)、及びゼーベック係数を下記の方法により測定し、パワーファクターを算出した結果を表1に示す。
【0056】
(電気伝導率(導電率)、ゼーベック係数の測定)
熱電特性評価装置ZEM-3L(アドバンス理工社製)を用いて、面内方向について、導電率σ、ゼーベック係数Sを測定し、パワーファクターPF(=Sσ)を算出した。
【0057】
【表1】
【0058】
実験4 導電性膜の大気下での安定性の測定
実験3で得られた導電性膜を、25℃にて、大気下に放置し、熱電特性評価装置ZEM-3L(アドバンス理工社製)を用いて、面内方向についての導電率σの変化を測定した。その結果を図1に示す。図1に示されるように、20時間放置しても導電率σの変化はほとんど見られず、この導電性膜は大気下での安定性に優れていることが判明した。
図1