(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123814
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】匂い検出装置、及びこれの制御方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/46 20060101AFI20240905BHJP
G01N 21/00 20060101ALI20240905BHJP
G01N 29/036 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
G01N29/46
G01N21/00 A
G01N29/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031525
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高武 直弘
(72)【発明者】
【氏名】古後 健治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】土橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】山梨 良幸
【テーマコード(参考)】
2G047
2G059
【Fターム(参考)】
2G047AA01
2G047BC04
2G047CA04
2G047GD02
2G047GG12
2G047GG32
2G047GG33
2G059AA01
2G059AA05
2G059AA10
2G059BB01
2G059CC20
2G059EE16
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】環境雑音があっても、十分な光音響センサの感度と識別精度を確保できる匂い検出装置、及びこれの制御方法を提供する。
【解決手段】光源から光を照射しない状態下で動作する、予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で分析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定する帯域設定手段と、測定周波数帯域の雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいと、測定周波数帯域とは異なった別の測定周波数帯域の所定の周波数を、光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する駆動周波数設定手段とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を形成し測定されるガスを貯留するセンサセルと、
前記センサセル内のガスに光を照射する光源と、
前記光源を所定の測定周波数の駆動信号で断続的に発光させる光源駆動手段と、
前記センサセル内の特定ガスの音響波を検出するマイクロフォンと、
前記マイクロフォンで検出された音響波を信号処理する信号処理手段と、
少なくとも、前記光源駆動手段に駆動信号を与える光源駆動機能と、信号処理手段からの信号に基づいて特定ガスの種類を推定するガス推定機能を実行する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記光源から光を照射しない状態下で動作する、
予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で分析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定する帯域設定手段と、
前記測定周波数帯域の雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいと、前記測定周波数帯域とは異なった別の前記測定周波数帯域を設定し、この新たに設定された別の前記測定周波数帯域の所定の周波数を、前記光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する駆動周波数設定手段と
を備えていることを特徴とする匂い検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の匂い検出装置において、
前記制御手段はI/O部を備えており、前記I/O部は、通信回線を介して外部メモリと接続され、前記外部メモリには前記測定対象ガスの基準音響スペクトルのデータが記憶されており、
前記制御手段は、前記外部メモリから前記基準音響スペクトルのデータを、前記通信回線を介して前記I/O部から取り込む
ことを特徴とする匂い検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の匂い検出装置において、
前記制御手段はロックイン検出部を備えており、前記制御手段によって前記光源から光を照射している状態下で、
前記ロックイン検出部は、前記信号処理手段からの信号に基づき、前記音響波の強度出力を出力し、前記強度出力によって匂いの濃度を測定する
ことを特徴とする匂い検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の匂い検出装置において、
前記ロックイン検出部は、前記強度出力の他に位相出力を出力し、
前記制御手段は、前記位相出力の平均値によって設定された取り込み許容範囲を設定し、最新の前記位相出力が前記取り込み許容範囲に収まっていない場合は、前記強度出力を無視する
ことを特徴とする匂い検出装置。
【請求項5】
請求項3に記載の匂い検出装置において、
前記制御手段は、前記ロックイン検出部からの強度出力の時間的な強度変動量を求め、前記強度変動量が所定の強度変動閾値より大きい場合は、前記強度出力を無視する
ことを特徴とする匂い検出装置。
【請求項6】
請求項1に記載の匂い検出装置において、
前記制御手段は、過去に測定した音響スペクトルと測定周波数帯域の音響スペクトルとを比較した結果、強度の差が所定の閾値より小さい場合には、測定を止めるように指示を出力する
ことを特徴とする匂い検出装置。
【請求項7】
内部空間を形成し測定されるガスを貯留するセンサセルと、
前記センサセル内のガスに光を照射する光源と、
前記光源を所定の測定周波数の駆動信号で断続的に発光させる光源駆動手段と、
前記センサセル内の特定ガスの音響波を検出するマイクロフォンと、
前記マイクロフォンで検出された音響波を信号処理する信号処理手段と、
少なくとも、前記光源駆動手段に駆動信号を与える光源駆動機能と、信号処理手段からの信号に基づいて特定ガスの種類を推定するガス推定機能を実行する制御手段を備えた匂い検出装置の制御方法において、
前記制御手段は、前記光源から光を照射しない状態下で、
予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で分析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定し、
前記測定周波数帯域の雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいと、前記測定周波数帯域とは異なった別の前記測定周波数帯域を設定し、この新たに設定された別の前記測定周波数帯域の所定の周波数を、前記光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する
ことを特徴とする匂い検出装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の匂い検出装置の制御方法において、
前記制御手段はロックイン検出部を備えており、前記制御手段によって前記光源から光を照射している状態下で、前記ロックイン検出部は、前記信号処理手段からの信号に基づき、前記音響波の強度出力を出力するものであり、
前記ロックイン検出部によって、前記強度出力の他に位相出力を出力させ、
前記位相出力の平均値によって設定された取り込み許容範囲を設定し、最新の前記位相出力が前記取り込み許容範囲にない場合は、前記強度出力を無視する
ことを特徴とする匂い検出装置の制御方法。
【請求項9】
請求項7に記載の匂い検出装置の制御方法において、
前記制御手段はロックイン検出部を備えており、前記制御手段によって前記光源から光を照射している状態下で、前記ロックイン検出部は、前記信号処理手段からの信号に基づき、前記音響波の強度出力を出力するものであり、
前記ロックイン検出部からの強度出力の時間的な強度変動量を求め、前記強度変動量が所定の強度変動閾値より大きい場合は、前記強度出力を無視する
ことを特徴とする匂い検出装置の制御方法。
【請求項10】
内部空間を形成し測定されるガスを貯留するセンサセルと、
前記センサセル内のガスに光を照射する光源と、
前記光源を所定の測定周波数の駆動信号で断続的に発光させる光源駆動手段と、
前記センサセル内の特定ガスの音響波を検出するマイクロフォンと、
前記マイクロフォンで検出された音響波を信号処理する信号処理手段と、
少なくとも、前記光源駆動手段に駆動信号を与える光源駆動機能と、信号処理手段からの信号に基づいて特定ガスの種類を推定するガス推定機能を実行する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記光源から光を照射しない状態下で動作する、
予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で分析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定する帯域設定手段と、
前記測定周波数帯域の前記雑音音響スペクトルの音響強度の最大値と前記基準音響スペクトルの音響強度の最大値の差分強度が、所定の差分強度閾値より小さいと、前記測定周波数帯域とは異なった別の前記測定周波数帯域を設定し、この新たに設定された別の前記測定周波数帯域の所定の周波数を、前記光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する駆動周波数設定手段と
を備えていることを特徴とする匂い検出装置。
【請求項11】
内部空間を形成し測定されるガスを貯留するセンサセルと、
前記センサセル内のガスに光を照射する光源と、
前記光源を所定の測定周波数の駆動信号で断続的に発光させる光源駆動手段と、
前記センサセル内の特定ガスの音響波を検出するマイクロフォンと、
前記マイクロフォンで検出された音響波を信号処理する信号処理手段と、
少なくとも、前記光源駆動手段に駆動信号を与える光源駆動機能と、信号処理手段からの信号に基づいて特定ガスの種類を推定するガス推定機能を実行する制御手段を備えた匂い検出装置の制御方法において、
前記制御手段は、前記光源から光を照射しない状態下で、
予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で分析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定し、
前記測定周波数帯域の前記雑音音響スペクトルの音響強度の最大値と前記基準音響スペクトルの音響強度の最大値の差分強度が、所定の差分強度閾値より小さいと前記測定周波数帯域とは異なった別の前記測定周波数帯域を設定し、この新たに設定された別の前記測定周波数帯域の所定の周波数を、前記光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する
ことを特徴とする匂い検出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は匂いの原因となる気体(ガス)の成分を検出する匂い検出装置に係り、特に光音響センサを用いて匂いを検出する匂い検出装置、及びこれの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌や醤油等の醸造品、化粧品等の製造現場や食品を保管する保管倉庫においては、匂い(香りとも言う)の品質管理項目があるが、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が困難である。このため、匂いの識別は現場作業員の経験や感覚に頼っており、管理コストの増加や教育コストの増加を招いている。
【0003】
そして、最近では匂いセンサによって匂いの定量化(ガスの種類、濃度等)を図ることで、DX化による品質管理の効率を向上する試みがなされている。匂いの定量化には目的に応じたガス成分や匂い成分を検知するガスセンサが必要である。ガス成分や匂い成分を検出するセンサとして、例えば、特開2022-26652号公報(特許文献1)に記載されたような、光音響効果を用いた光音響センサが提案されている。
【0004】
光音響効果は、ガスを構成する特定成分の分子に対して、特定の波長の光(レーザ光等)を断続的(パルス状)に照射すると、光を吸収した分子が熱膨張、及び収縮を行うことで音響波が発生する現象である。光音響センサは、小型でガス成分を高感度に検出が可能なため、種々の製造現場での適用が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光音響センサは、光を吸収した分子が熱膨張、及び収縮を行うことで発生する音響波をマイクロフォンで検出する原理である。このため、周囲の環境で発生する環境音(背景雑音)や製造現場での機械の作動音等(以下、まとめて環境雑音と表記する)をマイクロフォンが検出することがある。このように、光音響センサの測定音響スペクトル帯域と環境雑音の雑音音響スペクトル帯域とが重なると、光音響センサの感度と識別精度が低下するという課題を生じる。したがって、このような光音響センサの感度と識別精度が低下する現象を解決することが要請されている。
【0007】
本発明の目的は、環境雑音があっても、十分な光音響センサの感度と識別精度を確保できる匂い検出装置、及びこれの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光源を所定の測定周波数の駆動信号で断続的に発光させる光源駆動手段と、センサセル内の特定ガスの音響波を検出するマイクロフォンと、マイクロフォンで検出された音響波を信号処理する信号処理手段と、少なくとも、光源駆動手段に駆動信号を与える光源駆動機能と、信号処理手段からの信号に基づいて特定ガスの種類を推定するガス推定機能を実行する制御手段を備え、制御手段は、光源から光を照射しない状態下で動作する、予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で分析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定する帯域設定手段と、測定周波数帯域の雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいと、測定周波数帯域とは異なった別の測定周波数帯域を設定し、この新たに設定された別の測定周波数帯域の所定の周波数を、光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する駆動周波数設定手段とを備えている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境雑音があっても、十分な光音響センサの感度と識別精度を確保できる匂い検出装置、及びこれの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態になる匂い検出装置の構成を示すシステム構成図である。
【
図2】匂い検出装置の測定前の制御フローを説明するフローチャート図である。
【
図3】測定周波数帯域と雑音周波数帯域の関係を説明する説明図である。
【
図4】匂い検出装置の測定中での第1の制御フローを説明するフローチャート図である。
【
図5】
図4に示す制御フローの説明を補強するための説明図である。
【
図6】匂い検出装置の測定中での第2の制御フローを説明するフローチャート図である。
【
図7】
図6に示す制御フローの説明を補強するための説明図である。
【
図8】匂い検出装置の測定前の他の制御フローを説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。実施形態は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略、及び簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。
【実施例0012】
先ず、
図1を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明になる制御手段においては、光源駆動手段で駆動される光源から光を照射しない状態下で動作することを前提としている。
【0013】
本実施形態の基本的な構成においては、制御手段には、予め測定した測定対象ガスの基準音響スペクトルと、環境雑音を周波数解析部で解析した雑音音響スペクトルとを比較し、両音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定する帯域設定手段と、測定周波数帯域の雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいと、測定周波数帯域とは異なった別の測定周波数帯域を設定し、この新たに設定された別の測定周波数帯域の所定の周波数を、光源駆動手段の駆動信号の周波数として設定する駆動周波数設定手段とを備えている。
【0014】
この構成によって、雑音強度が大きい雑音音響スペクトル帯域を避けて光源を駆動するので、十分な光音響センサの感度と識別精度を確保できるようになる。次に、本実施形態の具体的な構成を
図1に基づき説明する
図1において、匂い検出装置10は、マスタークロック生成部11を備えており、このマスタークロック生成部11のクロック信号は、ロックインクロック生成部12に供給されている。ロックインクロック生成部12は、光音響センサの光源15のレーザー光をパルス的に生成させるものであり、測定対象ガスの検出すべきガス成分に整合した、つまり、測定ガス成分を熱的に励起するクロック信号とされる。
【0015】
ロックインクロック生成部12で生成されたクロック信号は、パルス生成部13に入力され、ここでパルス信号が生成される。このパルス信号は、光源駆動部14に入力されて、光源15を駆動する電気信号に変換される。光源15は光源駆動部14によって駆動され、断続的なパルス状の光を発生する。
【0016】
ここで、光源15はレーザー発光器であり、パルス生成部13で生成されたパルス信号に同期して発光する。尚、レーザー発光器とは別に、LED照明器を使用することもできる。
【0017】
光源15からのレーザーパルス光は、匂いセンサを構成する共鳴セル16内に照射され、測定対象ガスのガス成分を熱的に励起する。このガス成分の熱膨張、及び収縮で発生する音響波は、マイクロフォン17で測定される。測定された音響波は、音響検出部18でアナログ電気信号として検出され、更にADコンバータ19でデジタル信号に変換される。
【0018】
ADコンバータ19の信号は、ロックイン検出部20に入力されて、強度出力と位相出力が出力される。ロックイン検出部20には、ロックインクロック生成部12から出力されるロックインクロック信号が入力され、2つの入力信号に分割される。つまり、同相のロックインクロック信号が乗算部21に入力され、また、90°位相シフト部22で、90°の位相差を持ってロックインクロック信号が乗算部23に入力される。
【0019】
ADコンバータ19からの測定信号は、乗算部21に入力されてロックインクロック信号と乗算され、高周波成分と低周波成分を持つ信号となる。この乗算部21の信号はローパスフィルタ24に入力されて、高周波成分を減衰させつつ、低周波成分を透過させ平均化する。ローパスフィルタ24からの信号は、強度演算部25に入力されて音響波の強度出力となる。
【0020】
同様に、ADコンバータ19の信号は乗算部23に入力されて、90°の位相差を持つロックインクロック信号と乗算され、高周波成分と低周波成分を持つ信号となる。この乗算器23の信号はローパスフィルタ26に入力されて、高周波成分を減衰させつつ、低周波成分を透過させ平均化する。ローパスフィルタ26からの信号は、位相演算部27に入力されて音響波の位相出力となる。
【0021】
これらのロックイン検出部20は周知のものであり、これ以上の説明は省略するが、ロックイン検出部20はアナログ回路、デジタル回路、コンピュータのソフトウエア等によって構成することができる。
【0022】
ロックイン検出部20の強度出力と位相出力は、匂い濃度算出部28に入力されて匂い濃度が求められる。求められた匂い濃度は、測定制御部29に入力されてI/O部(入出力部)30に送られ、更に通信回線31を介して外部メモリ32に入力されて記憶される。
【0023】
尚、測定制御部29は、入力された匂い濃度と所定の濃度閾値とを比較して、入力された匂い濃度が、濃度閾値を超えると警報等の報知を行うこともできる。また、外部メモリ32は、共鳴セル16で測定された匂い濃度を時間的なスケールで記憶しておき、時系列の匂い濃度の変化を把握することもできる。
【0024】
以上のような構成の匂い検出装置は、特許文献1に記載されているように良く知られた構成である。
【0025】
次に、第1の実施形態の構成について説明する。上述したように、本実施形態の前提として、光源15からレーザーパルス光を照射しない状態で、環境雑音を共鳴セル16のマイクロフォン17から取得する。
【0026】
環境雑音であるADコンバータ19の出力は、ノイズ周波数解析部33に入力されて周波数解析が行われる。周波数解析は、高速フーリエ変換によって環境雑音を周波数毎の音響スペクトル(以下、雑音音響スペクトルと表記する)に変換するものである。そして、この雑音音響スペクトルは、比較部34に入力される。
【0027】
比較部34には、雑雑音響スペクトルの他に、基準音響スペクトルが入力されている。基準音響スペクトルは、外部メモリ32に記憶されたものであり、測定対象ガスのガス成分の音響スペクトルを予め測定、或いはシミュレーションして、これを基準音響スペクトルとして外部メモリ32に記憶されている。
【0028】
この基準音響スペクトルは、測定制御部29の動作によって、通信回線31を介してI/O部30に取り込まれ、更に音響スペクトル格納部35に取り込まれる。音響スペクトル格納部35は、SRAMを使用することができる。SRAMを使用することにより、頻繁に外部メモリ32から基準音響スペクトルを読み込む必要がなく、コンピュータの資源を有効に使用することができる。
【0029】
比較部34においては、ノイズ周波数解析部33からの雑音音響スペクトルと、音響スペクトル格納部35からの基準音響スペクトルとを比較する動作を実行する。この比較動作は、雑音音響スペクトルと基準音響スペクトルが重なる所定の測定周波数帯域を設定し、この測定周波数帯域の雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいか否かを判断している。
【0030】
つまり、雑音音響スペクトルが大きいと、この雑音音響スペクトルから匂い強度を求めることがあり、誤った測定結果が生じることになる。この現象を避けるため、雑音音響スペクトルの音響強度が所定の強度閾値より大きいと見做されると、後述の周波数設定部36でロックインクロックの周波数を新たに設定する。
【0031】
周波数設定部36は、測定周波数帯域とは異なった別の測定周波数帯域を新たに設定し、この新たな測定周波数帯域の内の所定の周波数を、ロックインクロックとして光源駆動手段14の駆動信号の駆動周波数として設定する。もちろん、この新たな測定周波数帯域も強度閾値と比較されていることはいうまでもない。
【0032】
尚、所定の駆動周波数は、新たな測定周波数帯域の中心周波数とすることができる。設定された駆動周波数は測定制御部29に入力され、測定制御部29は、ロックインクロック生成部12に対してロックインクロックの駆動周波数を設定する。したがって、測定対象ガスのガス成分を測定する場合は、この駆動周波数で光源16が駆動されることになる。
【0033】
このように、雑音音響スペクトルの音響強度が大きい周波数帯域で、共鳴セル16による音響波を測定せずに、雑音音響スペクトルの強度が小さい周波数帯域で、共鳴セル16による音響波を測定するようにしているので、環境雑音があっても、十分な光音響センサの感度と識別精度を確保できる。
【0034】
尚、位相演算部27からの位相出力は、変動量検出部37に入力され、検出された位相出力の変動は、測定制御部29に入力される。ここで、位相出力は強度出力と相関を持っているので、強度演算部25の強度出力を変動量検出部37に入力することもできる。変動慮演算部37に関する説明は、第2の実施形態で説明する。
【0035】
以上の本実施形態になる匂い検出装置の構成は、コンピュータを使用した構成で実施できるものであり、例えば、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。更には、CPUに加えて、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含んで構成されても良いし、いずれか1つにより構成されても良い。
【0036】
図1に示す構成は、匂い検出装置10を機能的なブロックで示したものであるが、実際には、コンピュータを利用して実行できるものである。この場合は、コンピュータのROMに記憶された制御プログラムを、CPUで実行することによって上述の動作を実行することができる。
【0037】
図2は、ノイズ周波数解析部33、比較部34、音響スペクトル格納部35、周波数設定部36の動作を、制御プログラムで実行する場合の制御フローを示している。尚、この制御フローは、基本的な考え方を示すものであり、これ以外にも多くの制御ステップを含むものである。以下、制御フローを制御ステップ毎に説明する。
【0038】
≪ステップS10≫
ステップS10においては、外部メモリ32から通信回線31を介して、基準音響スペクトルのデータをダウンロードし、音響スペクトル格納部35に格納する。基準音響スペクトルは、測定対象ガスのガス成分が熱膨張、収縮を行う特定の励起周波数で、測定対象ガスに対してレーザーパルス光を照射した時に発生する、基準となる音響スペクトルである。この基準音響スペクトルは、所定の周波数帯域に亘って強度が大きい分布(
図3参照)を有している。基準音響スペクトルのデータの格納が完了するとステップS11に移行する。
【0039】
≪ステップS11≫
ステップS11においては、音響スペクトル格納部35に記憶された基準音響スペクトルの音響強度が最大となるピークサーチを行い、レーザーパルス光の影響が最も大きい、つまり吸光度が最大となるピーク値のピーク周波数(fp)を選択する。つまり、このピーク周波数でレーザーパルス光を発光させれば、効率よくガス成分を検出することができる。ピーク周波数(fp)が選択されるとステップS12に移行する。
【0040】
≪ステップS12≫
ステップS12においては、光源15によるレーザーパルス光が照射されていない条件で、マイクロフォン17で検出した環境雑音の周波数解析を実行する。周波数解析には、高速フーリエ変換を利用することができる。環境雑音の周波数解析を行って雑音音響スペクトルが得られると、ステップS13に移行する。
【0041】
≪ステップS13≫
ステップS13においては、ステップS11で求めたピーク周波数(fp)を中心として所定の測定周波数帯域を設定する。本実施形態では測定周波数帯域を「fp±fLPF」としている。尚、fLPFは、ローパスフィルタによって決まる周波数帯域である。この測定周波数帯域で、雑音音響スペクトルの音響強度が判断される。
【0042】
つまり、雑音音響スペクトルの音響強度が、所定の強度閾値を超えているか否を判断する。本実施形態では、所定の強度閾値を「50dB」に設定している。したがって、測定周波数帯域の中で雑音音響スペクトルの音響強度が「50dB」を超えると、この測定周波数帯域の周波数をロックインクロックの駆動周波数に設定しない。一方、雑音音響スペクトルの音響強度が「50dB」を超えないと、この測定周波数帯域の中央の中心周波数をロックインクロックの駆動周波数に設定する。
【0043】
したがって、この制御ステップで「No」判断されるとステップS14に移行し、「YES」判断されるステップS17に移行する。
【0044】
≪ステップS14≫
ステップS13で測定周波数帯域の中で雑音音響スペクトルの音響強度が「50dB」を超えると判断されているので、ステップS14においては、ピーク周波数(fp)を低周波数側に「2×fLPF」だけシフトさせて、新たなピーク周波数(fpL)とする。そして、低周波数側の新たなピーク周波数(fpL)を中心として所定の新たな測定周波数帯域を設定する。本実施形態では新たな測定周波数帯域を「fpL±fLPF」としている。
【0045】
そして、新たな測定周波数帯域の雑音音響スペクトルで最大の音響強度を持つ周波数を求める。この周波数が求まるとステップS15に移行する。
【0046】
≪ステップS15≫
ステップS15においては、ピーク周波数(fp)を高周波数側に「2×fLPF」だけシフトさせて、新たなピーク周波数(fpH)とする。そして、高周波数側の新たなピーク周波数(fpH)を中心として所定の新たな測定周波数帯域を設定する。本実施形態では新たな測定周波数帯域を「fpH±fLPF」としている。
【0047】
そして、新たな測定周波数帯域の雑音音響スペクトルで最大の音響強度を持つ周波数を求める。この周波数が求まるとステップS16に移行する。
【0048】
≪ステップS16≫
ステップS16においては、ステップS14で求めた周波数とステップSで求めた周波数の音響強度が小さい周波数を選択する。これによって、より環境雑音が小さい測定周波数帯域を設定することができる。選択された周波数をステップS13で用いるピーク周波数(fp)に置き換えて、再びステップS13に戻って処理を実行する。
【0049】
再びステップS13では、ステップS16で求めたピーク周波数(fp)を中心として測定周波数帯域「fp±fLPF」を設定し、この測定周波数帯域で雑音音響スペクトルの音響強度が判断される。以下、ステップS13~ステップS16を繰り返してステップS17に移行する。
【0050】
≪ステップS17≫
ステップS17においては、ステップS13で設定されている測定周波数帯域の中心となる周波数(fp)を、光源15の駆動周波数としてロックインクロック生成部12に設定する。
【0051】
図3に基づいて、上述した制御処理の補足説明を加える。
図3には、雑音音響スペクトルと基準音響スペクトルを示している。
【0052】
雑音音響スペクトルと基準音響スペクトルが重なる領域において、基準音響スペクトルのピーク周波数を中心にして最初の測定周波数帯域が設定されている。この測定周波数帯域において、雑音音響スペクトルの最大値が存在しており、これを匂い強度として検出する場合がある。
【0053】
このため、最大値の強度が強度閾値「50dB」を超えた場合は、低周波数側に同様の測定周波数帯域を設定し、この時の環境雑音の音響度が強度閾値を超えていなければ、この測定周波数帯域の中心周波数を光源15の駆動周波数とする。尚、
図3では、高周波数側に測定周波数帯域を示していないが、低周波数側と同様に設定することができる。
【0054】
尚、
図2のステップS13では、環境雑音の音響強度の絶対値(強度閾値)を判断基準にしているが、基準音響スペクトルの最大音響強度と雑音音響スペクトルの最大音響強度の差分を、所定の許容差分閾値と比較し、所定の許容差分閾値より大きいか否かで判断することもできる。したがって、差分が許容差分閾値より小さいとステップS14に移行し、差分が許容差分閾値より大きいとステップS17に移行することになる。
【0055】
このように、雑音強度が大きい雑音音響スペクトル帯域を避けて光源15を駆動するので、十分な光音響センサの感度と識別精度を確保できるようになる。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態は、第1の実施形態で設定された駆動周波数で、光源15からレーザーパルス光を共鳴セル16の測定対象ガスに照射して、測定対象ガスのガス成分を測定している状態を前提としている。
したがって、今回(N回目)の位相出力が取り込み許容範囲に収まっていれば、正常な位相出力と判断される。一方、今回(N回目)の位相出力が取り込み許容範囲に収まっていなければ、突発的な環境雑音が発生したと見做され、異常な位相出力と判断される。
このように、位相出力(Sn)が取り込み許容範囲内と判断(YES判断)されるとステップS23に移行し、位相出力(Sn)が取り込み許容範囲外と判断(NO判断)されるとステップS24に移行する。
このように、本実施形態においては、測定対象ガスのガス成分の測定を実行している途中で、突発的に環境雑音が発生しても、この環境雑音をマイクロフォン17が測定することで生じる誤測定を避けることができる。