(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123820
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】仕口部材および接続構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240905BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20240905BHJP
【FI】
E04B1/58 503N
E04B1/30 C
E04B1/30 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031544
(22)【出願日】2023-03-02
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柴田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】江村 勝
(72)【発明者】
【氏名】河辺 美穂
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】岡村 歩
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AC01
2E125AC29
2E125BA43
2E125BB09
2E125BD01
2E125BE08
2E125BF01
(57)【要約】
【課題】コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱とを、互いの柱芯を水平方向にずらして接続することができる仕口部材、および、該仕口部材を用いた接続構造を提供する。
【解決手段】仕口部材20は、コンクリート充填鋼管の下柱11とプレキャストコンクリートの上柱12とを接続する。仕口部材20は、下柱接続領域28を有する下板22と下柱接続領域28とは水平方向でずれた位置に上柱接続領域33を有する上板23とを有し、内部空間にコンクリートが充填される四角箱状の仕口本体21と、仕口本体21の内部に固定された下端部から上方に延びて上柱接続領域33を貫通し、上板23から突出する部分が上柱12に埋設される鉄筋45と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱とを接続する仕口部材であって、
下柱接続領域を有する下板と前記下柱接続領域とは水平方向でずれた位置に上柱接続領域を有する上板とを有し、内部空間にコンクリートが充填される四角箱状の仕口本体と、
前記仕口本体の内部に固定された下端部から上方に延びて前記上柱接続領域を貫通し、前記上板から突出する部分が前記上柱に埋設される鉄筋と、を備える
仕口部材。
【請求項2】
前記鉄筋は、上面視において、前記上柱接続領域の外周部に沿うように配筋されている
請求項1に記載の仕口部材。
【請求項3】
前記仕口本体は、前記下板と前記上板とを接続する一対の側板を有し、
前記仕口部材は、前記仕口本体の内部に、前記上柱接続領域と前記一対の側板とに接合された補強板を有する
請求項1に記載の仕口部材。
【請求項4】
前記仕口本体は、前記下板と前記上板とを接続する一対の側板と、前記下板と前記上板と前記一対の側板とを接続する上柱側端板と、を有し、
前記仕口部材は、前記仕口本体の内部に、前記下板と前記上板と前記一対の側板とに接合された補強板を有し、
前記一対の側板と前記上柱側端板と前記補強板は、上面視において、前記上柱接続領域の外周部に沿うように設けられている
請求項1に記載の仕口部材。
【請求項5】
前記仕口本体は、前記下柱接続領域に、前記下柱を構成する鋼管の内部空間に連通可能な下柱打設孔を有する
請求項1に記載の仕口部材。
【請求項6】
コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱とを仕口部材で接続する接続構造であって、
前記仕口部材は、
下柱接続領域を有する下板と前記下柱接続領域とは水平方向でずれた位置に上柱接続領域を有する上板とを有し、内部空間にコンクリートが充填される四角箱状の仕口本体と、
前記仕口本体の内部に固定された下端部から上方に延びて前記上柱接続領域を貫通する鉄筋と、を備え、
前記下柱を構成する鋼管が前記下柱接続領域に接合されているとともに前記上柱接続領域から突出する鉄筋部分が前記上柱に埋設されている
接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱とを接続する仕口部材、および、該仕口部材を用いた接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱との接続方法として、現場打ちの鉄筋コンクリート柱を介して下柱と上柱とを接続する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば建築物周辺により大きな空き地を確保するために、下柱と上柱とを互いの柱芯を水平方向でずらして設置することが要求される場合がある。しかしながら、こうした要求に対して特許文献1に記載の方法で対応することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する仕口部材は、コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱とを接続する。仕口部材は、下柱接続領域を有する下板と前記下柱接続領域とは水平方向でずれた位置に上柱接続領域を有する上板とを有し、内部空間にコンクリートが充填される四角箱状の仕口本体と、前記仕口本体の内部に固定された下端部から上方に延びて前記上柱接続領域を貫通し、前記上板から突出する部分が前記上柱に埋設される鉄筋と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、コンクリート充填鋼管の下柱とプレキャストコンクリートの上柱とを、互いの柱芯を水平方向にずらして接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】仕口部材の一実施形態を用いて下柱と上柱とを接続した状態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1の2-2線における仕口部材の断面構造を模式的に示すとともに、水平方向における下柱、上柱、および、仕口部材の位置関係を示す図である。
【
図3】
図2の3-3線における断面構造を模式的に示す図である。
【
図4】(a)第1補強板の形状を示す図であり、(b)第2補強板の形状を示す図であり、(c)上柱側端板の形状を示す図である。
【
図5】鋼管と仕口部材とにコンクリートを充填する様子を模式的に示す図である。
【
図6】下柱と上柱とが仕口部材を介して接続された状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1~
図6を参照して、仕口部材および接続構造の一実施形態について説明する。
図1に示すように、構造体10は、下柱11と、上柱12と、仕口部材20と、を有する。下柱11は、先行して設置された鋼管13の内部空間にコンクリートが充填されるコンクリート充填鋼管(CFT:Concrete Filled Steel Tube)の柱である。上柱12は、工場などで製作されたのちに施工現場に搬入されるプレキャストコンクリート(PCa:Precast Concrete)の柱である。仕口部材20は、互いの柱芯が水平方向でずれるように下柱11と上柱12とを接続している。この柱芯がずれる方向をシフト方向という。仕口部材20には、先行して設置された下柱11の鋼管13が溶接によって接合された状態で内部空間にコンクリートが打設される。なお、仕口部材20には、下柱11および上柱12のほか、梁15,16,17が接続されてもよい。
【0009】
図2に示すように、仕口部材20は、四角箱状の仕口本体21を有する。仕口本体21は、鋼板を互いに接合することにより形成される。仕口本体21は、下板22、上板23、一対の側板24、および、一対の端板25,26を有する。下板22、上板23、および、一対の側板24は、シフト方向に延びる角鋼管部を形成する。端板25は、下柱11側における角鋼管部の端部を塞ぐ下柱側端板である。端板26は、上柱12側の角鋼管部の端部を塞ぐ上柱側端板である。一対の側板24および一対の端板25,26は、下板22および上板23の外周縁よりもやや内側に設けられている(
図3参照)。
【0010】
下板22は、端板25側の領域に、下柱11が接続される下柱接続領域28を有する。下板22の下柱接続領域28には、下柱11の鋼管13が接合される。また、下板22の下柱接続領域28には、下柱打設孔29が設けられている。下柱打設孔29は、仕口本体21の内部空間と鋼管13の内部空間とを連通させる。下柱接続領域28と鋼管13との接合後、鋼管13および仕口本体21の内部空間にはコンクリートが打設される。コンクリートは、例えば、打設孔33および下柱打設孔29にトレミー管を挿入して打設される。なお、
図2においては、下板22のうちで下柱接続領域28に該当する部分にドットを付している。
【0011】
上板23は、端板26側の領域に、上柱12が接続される上柱接続領域31を有する。上柱接続領域31は、下柱接続領域28とはシフト方向でずれた位置に設けられている。本実施形態では、下柱11の柱芯11Aが上柱接続領域31とは異なる領域で上板23と交差し、かつ、上柱12の柱芯12Aが下柱接続領域28とは異なる領域で下板22と交差している。上柱接続領域31の上面には、コッター32が設けられている。コッター32は、地震時に上柱12と仕口本体21とのずれ留めとして機能する。また、上板23には、端板25側の領域に打設孔33が形成されている。打設孔33は、仕口本体21の内部空間にコンクリートを打設する際に用いられる。なお、
図2においては、上板23のうちで上柱接続領域31に該当する部分にドットを付している。
【0012】
仕口部材20は、第1補強板41、第2補強板42、カプラ43、および、鉄筋45を有する。
第1補強板41は、仕口本体21の内部に設けられている。第1補強板41は、上柱接続領域31の下側において、上板23、下板22、および、一対の側板24に接合されている。より具体的には、第1補強板41は、上柱接続領域31における端板25側の端部に沿って設けられている。第1補強板41は、仕口本体21の内部空間を、端板25側の空間と端板26側の空間に区画するように設けられている。第1補強板41には、それら2つの空間を連通させる第1連通孔46が形成されている。
【0013】
第2補強板42は、仕口本体21の内部に設けられている。第2補強板42は、シフト方向における第1補強板41と端板26との間の中央において、上板23および一対の側板24に接合されている。
【0014】
カプラ43は、仕口本体21の内部に設けられている。カプラ43は、上柱接続領域31の下側において上下方向に延びている。
鉄筋45は、下端部がカプラ43に接続されている。鉄筋45は、カプラ43との間の隙間にグラウト材が充填されることにより、カプラ43に固定される。鉄筋45は、カプラ43から上方に延びて上柱接続領域31を貫通している。鉄筋45は、上柱接続領域31から上方に突出する突出部分(鉄筋部分)を有する。この突出部分は、上柱12に接続される部分である。鉄筋45の突出部分は、上柱12の下端部に形成された挿入孔18に挿入される。
【0015】
図3に示すように、カプラ43は、上面視において上柱接続領域31の外周部に沿って鉄筋45が配筋されるように、端板26、一対の側板24、および、第1補強板41の各々に接合されている。
【0016】
図4(a)に示すように、第1補強板41には、第1上側切り欠き部51と第1下側切り欠き部52とが形成されている。第1上側切り欠き部51および第1下側切り欠き部52は、仕口本体21に打設されたコンクリートが流通する流通路として機能する。また、第1上側切り欠き部51は、コンクリート打設時のエア抜きとして機能する。第1上側切り欠き部51は、端板25側から第1補強板41を見たときに、側板24に接合されたカプラ43が視認可能な形状に形成されている。
【0017】
図4(b)に示すように、第2補強板42には、第2上側切り欠き部53が形成されている。第2上側切り欠き部53は、仕口本体21に打設されたコンクリートが流通する流通路として機能する。また、第2上側切り欠き部53は、コンクリート打設時のエア抜きとして機能する。第2上側切り欠き部53は、端板26側から第2補強板42を見たときに、側板24に接合されたカプラ43が視認可能な形状に形成されている。
【0018】
図4(c)に示すように、端板26には、上側切り欠き部56と下側切り欠き部57とが形成されている。上側切り欠き部56は、仕口本体21の外部から端板26を見たときに、側板24に接合されたカプラ43が視認可能な形状に形成されている。上側切り欠き部56は、端板26の外側において上側塞ぎ板58によって塞がれる。下側切り欠き部57は、端板26の外側において下側塞ぎ板59によって塞がれる。
【0019】
(下柱と上柱の接続方法)
仕口部材20を用いた下柱11と上柱12との接続方法について説明する。
図5に示すように、上端部に仕口本体21の下柱接続領域28が接合された鋼管13を所定位置に設置したのち、打設孔33および下柱打設孔29を通じて、鋼管13の内部空間に先端が位置するようにトレミー管60を配置する。そして、状況に応じてトレミー管60を上方へ移動させながらコンクリートを打設する。打設されたコンクリートは、鋼管13の内部空間に充填されたのち、仕口本体21の内部空間に充填される。
【0020】
図6に示すように、打設されたコンクリートが硬化することにより、下柱コンクリート部19と仕口コンクリート部61とが一体的に形成される。これにより、下柱11と仕口部材20とが接続される。コンクリートの硬化後、図中に矢印で示すように上柱接続領域31の上方から上柱12を降下させ、上柱12の挿入孔18に鉄筋45の突出部分を挿入する。そして、鉄筋45と挿入孔18との間の隙間にグラウト材65が充填されて鉄筋45の突出部分が上柱12に埋設される。これにより、仕口部材20と上柱12とが接続される。
【0021】
本実施形態の作用および効果について説明する。
(1)仕口部材20は、仕口本体21と鉄筋45とを備える。仕口本体21は、下柱接続領域28を有する下板22と下柱接続領域28とは水平方向でずれた位置に上柱接続領域31を有する上板23とを有し、内部空間にコンクリートが充填される四角箱状に形成されている。鉄筋45は、仕口本体21の内部に固定されて上柱接続領域31を貫通し、上板23から突出する部分が上柱12に埋設される。
【0022】
こうした構成によれば、互いの柱芯11A,12Aが水平方向でずれるように下柱11と上柱12とを接続することができる。その結果、構造体10周辺の空き地面積を確保しつつ、上階部分の室内面積を確保することができる。
【0023】
(2)鉄筋45は、上面視において、上柱接続領域31の外周部に沿うように配筋されている。これにより、鉄筋45を介した上柱12と仕口部材20との間の荷重伝達を偏りなく行うことができる。その結果、仕口部材20における構造強度を有効的に活用することができる。
【0024】
(3)仕口部材20は、仕口本体21の内部に、上柱接続領域31と一対の側板24とに接合された第1補強板41と第2補強板42とを有する。これにより、上柱接続領域31側における仕口部材20の構造強度を高めることができる。
【0025】
(4)第1補強板41は、下板22と上板23と一対の側板24とに接合されているとともに、上面視において、上柱接続領域31の外周部に沿うように設けられている。これにより、上柱12から仕口部材20に伝達される鉛直荷重に対する仕口部材20の構造強度を効果的に高めることができる。
【0026】
(5)仕口本体21は、下柱接続領域28に、下柱11を構成する鋼管13の内部空間に連通する下柱打設孔29を有する。これにより、鋼管13へのコンクリートの打設と仕口本体21へのコンクリートの打設を同時期に行うことができるから、これらの打設を別工程で行う場合よりも工数を削減することができる。また、下柱コンクリート部19と仕口コンクリート部61とが一体的に形成されるから、下柱コンクリート部19と仕口コンクリート部61との間の荷重伝達を円滑に行うことができる。
【0027】
(6)第1補強板41は、第1上側切り欠き部51と第1下側切り欠き部52とを有する。これにより、第1補強板41の周辺にコンクリートが充填されやすくなる。
(7)第2補強板42は、第2上側切り欠き部53を有する。これにより、第2補強板42の周辺にコンクリートが充填されやすくなる。
【0028】
(8)端板26は、上側切り欠き部56と下側切り欠き部57とを有する。これにより、仕口本体21における端板26側の各隅部にコンクリートが充填されやすくなる。
(9)第1補強板41の第1上側切り欠き部51、第2補強板42の第2上側切り欠き部53、および、端板26の上側切り欠き部56は、カプラ43が視認可能な形状に形成されている。これにより、カプラ43周辺にコンクリートが充填されやすくなる。
【0029】
(10)端板25は、上面視において、下柱接続領域28の外周部に沿うように接合されている。これにより、仕口部材20から下柱11への荷重伝達を偏りなく行うことができる。
【0030】
(11)鉄筋45の下端部は、カプラ43によって仕口本体21の内部に固定されている。これにより、鉄筋45をそのまま接合する場合に比べて、鉄筋45の固定が容易になるとともに鉄筋45を高い精度で配置することができる。
【0031】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・下柱接続領域28には、下柱打設孔29が形成されていなくともよい。
【0032】
・第1補強板41および第2補強板42の位置は、その時々の設計事項に応じて変更可能である。例えば、仕口部材20は、第1補強板41のみを複数有する構成であってもよい。また、仕口部材20は、第1補強板41および第2補強板42のすくなくとも一方を有していなくともよい。
【0033】
・鉄筋45は、上板23から突出する部分が上柱12に埋設されればよく、上記実施形態に記載した配筋に限られない。
【符号の説明】
【0034】
10…構造体、11…下柱、11A…柱芯、12…上柱、12A…柱芯、13…鋼管、15,16,17…梁、18…挿入孔、19…下柱コンクリート部、20…仕口部材、21…仕口本体、22…下板、23…上板、24…側板、25…下柱側端板としての端板、26…上柱側端板としての端板、28…下柱接続領域、29…下柱打設孔、31…上柱接続領域、32…コッター、33…打設孔、41…第1補強板、42…第2補強板、43…カプラ、45…鉄筋、46…第1連通孔、51…第1上側切り欠き部、52…第1下側切り欠き部、53…第2上側切り欠き部、56…上側切り欠き部、57…下側切り欠き部、58…上側塞ぎ板、59…下側塞ぎ板、60…トレミー管、61…仕口コンクリート部、65…グラウト材。