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特開2024-123824タイヤのシミュレーション方法及びシミュレーション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123824
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】タイヤのシミュレーション方法及びシミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240905BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240905BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20240905BHJP
【FI】
G06F30/20
B60C19/00 Z
G06F30/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031554
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】松浦 公治
(72)【発明者】
【氏名】石田 孝明
(72)【発明者】
【氏名】金谷 資輝
(72)【発明者】
【氏名】原田 勇輝
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC55
3D131LA33
5B146AA05
5B146DJ01
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146DJ11
(57)【要約】
【課題】 計算コストを低減しつつ、スタンディングウェーブ現象を高い精度でシミュレートすることが可能な方法を提供する。
【解決手段】 空気入りタイヤのシミュレーション方法である。この方法は、空気入りタイヤを複数の要素でモデリングしたタイヤモデルを入力する第1工程S1と、タイヤモデルの要素に物性を定義する第2工程S2と、空気入りタイヤが接地する路面をモデリングした路面モデルを入力する第3工程S3と、タイヤモデルを路面モデルに接地させる第4工程S4と、接地させたタイヤモデルの転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う第5工程S5とを含む。第1工程S1は、路面モデルに接地させるためのトレッドゴムモデルと、タイヤサイド部を形成するサイドウォールゴムモデルとを含むようにタイヤモデルをモデリングする。第2工程S2は、トレッドゴムモデル及びサイドウォールゴムモデルを構成する要素に減衰特性を定義する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤのシミュレーション方法であって、
前記空気入りタイヤを複数の要素でモデリングしたタイヤモデルを、コンピュータに入力する第1工程と、
前記タイヤモデルの前記要素に物性を定義する第2工程と、
前記空気入りタイヤが接地する路面をモデリングした路面モデルを、前記コンピュータに入力する第3工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデルに接地させる第4工程と、
前記コンピュータが、前記接地させたタイヤモデルの転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う第5工程とを含み、
前記第1工程は、前記路面モデルに接地させるためのトレッドゴムモデルと、タイヤサイド部を形成するサイドウォールゴムモデルとを含むように前記タイヤモデルをモデリングし、
前記第2工程は、前記トレッドゴムモデル及び前記サイドウォールゴムモデルを構成する前記要素に減衰特性を定義する、
タイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記タイヤモデルは、タイヤ周方向において120以上に分割されている、請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第4工程の後、前記タイヤモデルが前記路面モデルに接地した状態を維持するための拘束条件を定義する、請求項1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第4工程は、前記タイヤがリム組みされるリムをモデリングしたリムモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記リムモデルに装着された前記タイヤモデルを計算する工程と、
前記タイヤモデルと前記リムモデルとの接触面で、すべりが生じないような接触条件を定義する工程とを含む、請求項1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
空気入りタイヤのシミュレーションを実行するための演算処理装置を有する装置であって、
前記演算処理装置は、
前記空気入りタイヤを複数の要素でモデリングしたタイヤモデルを入力する第1計算部と、
前記タイヤモデルの前記要素に物性を定義する第2計算部と、
前記空気入りタイヤが接地する路面をモデリングした路面モデルを入力する第3計算部と、
前記タイヤモデルを前記路面モデルに接地させる第4計算部と、
前記接地させたタイヤモデルの転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う第5計算部とを含み、
前記第1計算部は、前記路面モデルに接地させるためのトレッドゴムモデルと、タイヤサイド部を形成するサイドウォールゴムモデルとを含むように前記タイヤモデルをモデリングし、
前記第2計算部は、前記トレッドゴムモデル及び前記サイドウォールゴムモデルを構成する前記要素に減衰特性を定義する、
タイヤのシミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのシミュレーション方法及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのシミュレーション方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、陽解法に基づいて、路面モデルをタイヤモデルが転動している状態が計算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-195007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タイヤ外面が波状に変形する所謂スタンディングウェーブ現象をシミュレートするには、高速で転動しているタイヤモデルの計算が必要となる。この場合、計算の収束性が悪化し、計算コストが増大するという問題があった。さらに、実際のスタンディングウェーブ現象では生じない振動が計算されるという問題もあった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、計算コストを低減しつつ、スタンディングウェーブ現象を高い精度でシミュレートすることが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤのシミュレーション方法であって、前記空気入りタイヤを複数の要素でモデリングしたタイヤモデルを、コンピュータに入力する第1工程と、前記タイヤモデルの前記要素に物性を定義する第2工程と、前記空気入りタイヤが接地する路面をモデリングした路面モデルを、前記コンピュータに入力する第3工程と、前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデルに接地させる第4工程と、前記コンピュータが、前記接地させたタイヤモデルの転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う第5工程とを含み、前記第1工程は、前記路面モデルに接地させるためのトレッドゴムモデルと、タイヤサイド部を形成するサイドウォールゴムモデルとを含むように前記タイヤモデルをモデリングし、前記第2工程は、前記トレッドゴムモデル及び前記サイドウォールゴムモデルを構成する前記要素に減衰特性を定義する、タイヤのシミュレーション方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、上記の工程を採用することで、計算コストを低減しつつ、スタンディングウェーブ現象を高い精度でシミュレートすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のタイヤのシミュレーション方法が実行されるコンピュータ(シミュレーション装置)を示すブロック図である。
図2】本実施形態の解析対象の空気入りタイヤを示す断面図である。
図3】本実施形態のタイヤのシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】本実施形態のタイヤモデル及び路面モデルの斜視図である。
図5】タイヤモデルの部分斜視図である。
図6】タイヤモデルの断面図である。
図7】本実施形態の第4工程の処理手順を示すフローチャートである。
図8】タイヤモデルの周方向の位置と、タイヤモデルの軸方向の変位との関係を示すグラフである。
図9】タイヤモデルのサイドウォール部のタイヤ軸方向の変位の大きさを示すコンター図である。
図10】実施例1~4のタイヤモデルの周方向の位置と、タイヤモデルの軸方向の変位との関係を示すグラフである。
図11】実験例1~4のタイヤの周方向の位置と、タイヤの軸方向の変位との関係を示すグラフである。
図12】実施例5~8のタイヤモデルの周方向の位置と、タイヤモデルの軸方向の変位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、「シミュレーション方法」ということがある。)は、コンピュータを用いて、空気入りタイヤの定常輸送解析が行われる。本実施形態では、スタンディングウェーブ現象がシミュレートされるが、その他の現象がシミュレートされてもよい。図1は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法が実行されるコンピュータ1(シミュレーション装置1A)を示すブロック図である。
【0011】
[シミュレーション装置]
本実施形態のコンピュータ1は、タイヤのシミュレーション装置(以下、単に「シミュレーション装置」ということがある。)1Aとして構成されている。このシミュレーション装置1A(コンピュータ1)は、入力デバイスとしての入力部2、出力デバイスとしての出力部3、及び、空気入りタイヤ(以下、「タイヤ」ということがある。)の定常輸送解析を行う計算する演算処理装置4を有している。
【0012】
[入力部・出力部・演算処理装置]
入力部2には、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3には、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
【0013】
[記憶部]
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5、及び、プログラム部6が設けられている。
【0014】
[データ部]
本実施形態のデータ部5は、シミュレーション方法を実行するために必要なデータ等を記憶するためのものである。本実施形態のデータ部5は、初期データ入力部5A、タイヤモデル入力部5B、路面モデル入力部5C、境界条件入力部5D、及び、物理量入力部5Eが含まれる。
【0015】
初期データ入力部5Aには、評価対象のタイヤ及び路面に関する情報(例えば、CADデータ等)が記憶されている。境界条件入力部5Dには、例えば、タイヤモデルを路面モデルに接地させるための条件や、タイヤモデルを定常輸送解析するための条件等が記憶されている。その他、データ部5に記憶されるデータは、後述のシミュレーション方法において説明される。また、データ部5は、このような態様に限定されるわけではなく、必要に応じて、その他のデータを記憶させるためのデータ入力部が含まれてもよいし、これらの一部が省略されてもよい。
【0016】
プログラム部6は、シミュレーション方法の実行に必要なプログラム(アプリケーション)である。プログラム部6は、演算部4Aによって実行される。本実施形態のプログラム部6には、第1計算部6A、第2計算部6B、第3計算部6C、第4計算部6D、第5計算部6E及び第6計算部6Fが含まれている。各プログラム部6の機能は、後述のシミュレーション方法の各工程において説明される。また、プログラム部6は、このような態様に限定されるわけではなく、必要に応じて、その他のプログラムが含まれてもよいし、これらの一部が省略されてもよい。
【0017】
[タイヤ]
図2は、本実施形態の解析対象のタイヤ11を示す断面図である。本実施形態では、乗用車用のタイヤが例示されるが、特に限定されない。例えば、トラックやバスなどの重荷重用のタイヤや、二輪自動車用のタイヤ等であってもよい。また、タイヤ11は、実在するか否かについては問われない。
【0018】
本実施形態のタイヤ11には、トレッド部12からサイドウォール部13を経てビード部14のビードコア15に至るカーカス16と、このカーカス16のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12の内部に配されるベルト層17とが設けられている。
【0019】
[カーカス]
カーカス16は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ16Aで構成される。本実施形態のカーカスプライ16Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。
【0020】
[ベルト層]
本実施形態のベルト層17は、ベルトコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して例えば10~35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ17A、17Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ17A、17Bは、ベルトコード(図示省略)が互いに交差する向きに重ね合わされている。
【0021】
[トレッドゴム、サイドウォールゴム]
本実施形態のタイヤ11には、路面(地面)に接地するトレッドゴム18Aと、タイヤサイド部11b(サイドウォール部13)を形成するサイドウォールゴム18Bとが含まれる。
【0022】
トレッドゴム18Aは、トレッド部12において、ベルト層17のタイヤ半径方向の外側に配されている。本実施形態のトレッドゴム18Aは、ベースゴム18Aaと、ベースゴム18Aaのタイヤ半径方向の外側に配されたキャップゴム18Abとが含まれる。
【0023】
トレッドゴム18A(キャップゴム18Ab)の接地面12sには、トレッドパターンが形成されていてもよい。本実施形態のトレッドパターンには、例えば、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝19と、周方向溝19と交差する向きに延びる横溝(図示省略)とが含まれるが、特に限定されない。
【0024】
サイドウォールゴム18Bは、タイヤ11のサイドウォール部13において、カーカス16のタイヤ軸方向の外側に配されている。本実施形態のサイドウォールゴム18Bは、トレッドゴム18A(キャップゴム18Ab)とともに、タイヤ11の外表面11sを構成している。
【0025】
本実施形態のタイヤ11には、ビードエーペックスゴム18Cと、クリンチゴム18Dと、インナーライナーゴム18Eとが含まれる。ビードエーペックスゴム18Cは、ビードコア15からタイヤ半径方向外側に延びている。クリンチゴム18Dは、サイドウォールゴム18Bのタイヤ半径方向内側(本例では、ビード部14)に配されている。これらのビードエーペックスゴム18C、クリンチゴム18D及びインナーライナーゴム18Eと、上記のトレッドゴム18A及びサイドウォールゴム18Bとによって、タイヤ11のゴム部材18が構成される。
【0026】
タイヤ11のビード部14は、リム20に装着される。本実施形態のリム20には、リム組み時にビード部14を落とし込むためのウェル部(図示省略)と、このウェル部のタイヤ軸方向両外側に配置される一対のリム片20A、20Aとを含んで構成されている。一対のリム片20A、20Aは、タイヤ11のビード底面14aに接触するリムシート面20Aaと、タイヤ11のビード側面14bに接触するフランジ面20Abとを有している。
【0027】
[タイヤのシミュレーション方法]
次に、本実施形態のシミュレーション方法が説明される。図3は、本実施形態のタイヤ11のシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0028】
[タイヤモデルを入力(第1工程)]
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、タイヤモデルが、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(第1工程S1)。
【0029】
本実施形態の第1工程S1では、先ず、図1に示された初期データ入力部5Aに記憶されているタイヤに関する情報(例えば、図2に示したタイヤ11の輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、プログラム部6に含まれる第1計算部6Aが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。第1計算部6Aは、タイヤモデルを入力するためのプログラムである。この第1計算部6Aが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、タイヤモデルを入力するための手段として機能させることができる。図4は、本実施形態のタイヤモデル21及び路面モデル33の斜視図である。図5は、タイヤモデル21の部分斜視図である。図6は、タイヤモデル21の断面図である。図4では、タイヤモデル21が簡略化して表示されており、周方向溝が省略されている。図6では、キャップゴムモデル28Ab、及び、サイドウォールゴムモデル28Bが色付けして示されている。さらに、図4図6において、一部の節点31、34が「●」を用いて強調して表示されている。
【0030】
図6に示されるように、本実施形態の第1工程S1では、図2に示したタイヤ11に関する情報に基づいて、タイヤ11が、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化される。これにより、タイヤ11をモデリングしたタイヤモデル21が設定される。本実施形態では、トレッドゴムモデル28Aと、サイドウォールゴムモデル28Bとが含まれるように、タイヤモデル21がモデリングされる。
【0031】
トレッドゴムモデル28Aは、図2に示したタイヤ11のトレッドゴム18Aをモデリングしたものである。本実施形態のトレッドゴムモデル28Aには、ベースゴム18Aaをモデリングしたベースゴムモデル28Aaと、キャップゴム18Abをモデリングしたキャップゴムモデル28Abとが含まれる。トレッドゴムモデル28A(本例では、キャップゴムモデル28Ab)は、後述の第4工程S4において、路面モデル33(図4に示す)に接地される。
【0032】
サイドウォールゴムモデル28Bは、図2に示したタイヤ11のサイドウォールゴム18Bをモデリングしたものである。このサイドウォールゴムモデル28Bにより、タイヤモデル21のタイヤサイド部21b(サイドウォール部23)が形成されうる。
【0033】
本実施形態のタイヤモデル21には、ビードエーペックスゴムモデル28Cと、クリンチゴムモデル28Dと、インナーライナーゴムモデル28Eとが含まれている。ビードエーペックスゴムモデル28Cは、図2に示したビードエーペックスゴム18Cをモデリングしたものである。クリンチゴムモデル28Dは、図2に示したクリンチゴム18Dをモデリングしたものである。インナーライナーゴムモデル28Eは、図2に示したインナーライナーゴム18Eをモデリングしたものである。トレッドゴムモデル28A、サイドウォールゴムモデル28B、ビードエーペックスゴムモデル28C、クリンチゴムモデル28D及びインナーライナーゴムモデル28Eにより、ゴム部材18(図2に示す)をモデリングしたゴム部材モデル28が構成される。
【0034】
本実施形態のタイヤモデル21には、図2に示したカーカスプライ16A、及び、各ベルトプライ17A、17Bをそれぞれモデリングしたカーカスプライモデル26A、及び、ベルトプライモデル27A、27Bが含まれる。
【0035】
本実施形態の第1工程S1では、例えば、二次元のタイヤモデル21A(図6に示す)が設定された後に、それらの二次元のタイヤモデル21Aが、図5に示されるように、予め定められた角度ピッチでタイヤ周方向に複写されて、三次元展開されてもよい。これにより、タイヤ周方向に分割された三次元のタイヤモデル21が設定されうる。
【0036】
三次元のタイヤモデル21は、タイヤ周方向に配置された節点31、31が辺32によって連結されるため、側面視において多角形状に形成される。また、三次元のタイヤモデル21のトレッド部22には、周方向溝29が形成されており、横溝が省略されている。
【0037】
各要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法、又は、境界要素法が適宜採用されうる。本実施形態の数値解析法には、有限要素法が採用されている。各要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。
【0038】
図4ないし図6に示されるように、各要素F(i)は、複数の節点31を有している。これらの各要素F(i)には、要素番号、節点31の番号、及び、節点31の座標値などの数値データが定義される。タイヤモデル21のモデリングには、例えば、市販のメッシュ作成ソフトウェア(ANSYS社の「ICEM CFD」等)が用いられる。タイヤモデル21は、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に記憶される。
【0039】
[タイヤモデルの要素に物性を定義(第2工程)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図4ないし図6に示したタイヤモデル21の要素F(i)に物性が定義される(第2工程S2)。
【0040】
本実施形態の第2工程S2では、先ず、図1に示したタイヤモデル入力部5Bに記憶されているタイヤモデル21が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、プログラム部6に含まれる第2計算部6Bが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。第2計算部6Bは、タイヤモデル21の要素F(i)に物性を定義するためのプログラムである。この第2計算部6Bが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、物性を定義するための手段として機能させることができる。
【0041】
本実施形態の第2工程S2では、先ず、図6に示したタイヤモデル21のゴム部材モデル28を除くモデル(例えば、カーカスプライモデル26Aやベルトプライモデル27A、27Bなど)の各要素F(i)に、物性が定義される。これらの物性は、上記特許文献1など従来と同様に、図2に示したカーカス16やベルトプライ17A、17Bの材料特性(例えば、密度、ヤング率、減衰係数、熱伝導率、及び、熱伝達率等を含む物性)に基づいて定義される。
【0042】
次に、本実施形態の第2工程S2では、タイヤモデル21のゴム部材モデル28を構成する各要素F(i)に、物性が定義される。これらの物性は、減衰特性を除く材料特性(例えば、密度、弾性特性(ヤング率)、熱伝導率、及び、熱伝達率等を含む物性)が定義される。これらの材料特性は、図2に示した各ゴム部材18に基づいて定義される。
【0043】
次に、本実施形態の第2工程S2では、ゴム部材モデル28のうち、トレッドゴムモデル28A(本例では、キャップゴムモデル28Ab)及びサイドウォールゴムモデル28Bを構成する各要素F(i)に、減衰特性が定義される。この減衰特性は、図2に示したトレッドゴム18A(本例では、キャップゴム18Ab)及びサイドウォールゴム18Bに基づいて定義される。
【0044】
本実施形態では、トレッドゴムモデル28A(キャップゴムモデル28Ab)及びサイドウォールゴムモデル28Bに、弾性特性と、減衰特性とが定義される。これにより、トレッドゴムモデル28A及びサイドウォールゴムモデル28Bは、図2に示した実際のトレッドゴム18A及びサイドウォールゴム18Bと同様に、粘弾性として定義される。弾性特性及び減衰特性は、従来と同様に、例えば、一般化Maxwellモデル等に基づいて定義されうる。このような定義には、市販の有限要素解析アプリケーションソフト(Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNASTRANなど)が用いられうる。
【0045】
一方、トレッドゴムモデル28A(キャップゴムモデル28Ab)及びサイドウォールゴムモデル28Bを除くゴム部材モデル28には、減衰特性が定義されていない。本実施形態において、減衰特性が定義されていないゴム部材モデル28は、ベースゴムモデル28Aa、ビードエーペックスゴム18C、クリンチゴムモデル28D、及び、インナーライナーゴムモデル28Eが含まれる。これらのゴム部材モデル28は、変形によって体積が変化せず、かつ、負荷を取り除くと元の形状に戻る超弾性体として定義される。超弾性体モデルは、例えば、Mooney-rivlin材や、Ogden材等に基づいて定義されうる。タイヤモデル21の要素F(i)に定義された物性は、タイヤモデル21とともに、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に記憶される。
【0046】
[路面モデルを入力(第3工程)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図2に示したタイヤ11が接地する路面(図示省略)をモデリングした路面モデル33(図4に示す)が、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(第3工程S3)。本実施形態では、台上試験装置(ドラム試験機)に設けられる円筒状の路面がモデリングされるが、タイヤ11が接地可能であれば、特に限定されない。
【0047】
本実施形態の第3工程S3では、先ず、図1に示した初期データ入力部5Aに記憶されている路面に関する情報(例えば、図示しない路面の輪郭データ等)が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、プログラム部6に含まれる第3計算部6Cが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。第3計算部6Cは、路面モデル33(図4に示す)を入力するためのプログラムである。この第3計算部6Cが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、路面モデル33を入力するための手段として機能させることができる。
【0048】
本実施形態の第3工程S3では、路面に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、路面モデル33が設定される。本実施形態では、台上試験装置の円筒状の路面がモデリングされるため、円筒状の路面モデル33が設定される。
【0049】
本実施形態の路面モデル33の外面は、平滑なスムース路面として設定されている。なお、路面モデル33の外面は、例えば、走行騒音試験に用いられる路面(ISO路面)や、アスファルト路面に基づいて、凹凸(図示省略)が設定されてもよい。
【0050】
要素G(i)は、変形不能に定義された剛平面要素として定義される。要素G(i)には、複数の節点34が設けられている。要素G(i)は、要素番号や、節点34の座標値等の数値データが定義される。路面モデル33は、図1に示すコンピュータ1(路面モデル入力部5C)に記憶される。
【0051】
[タイヤモデルを路面モデルに接地(第4工程)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図1に示したコンピュータ1が、図4に示されるように、タイヤモデル21を路面モデル33に接地させる(第4工程S4)。
【0052】
本実施形態の第4工程S4では、先ず、図1に示したタイヤモデル入力部5Bに記憶されているタイヤモデル21、及び、図1に示した路面モデル入力部5Cに記憶されている路面モデル33が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、図1に示した境界条件入力部5Dに記憶されているタイヤモデルを路面モデルに接地させるための条件が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この接地させるための条件には、例えば、内圧条件、荷重負荷条件L、キャンバー角(図示省略)、及び、路面との摩擦係数が含まれる。
【0053】
次に、図1に示したプログラム部6に含まれる第4計算部6Dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この第4計算部6Dは、タイヤモデル21を路面モデル33に接地させるためのプログラムである。この第4計算部6Dが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、タイヤモデル21を路面モデル33に接地するための手段として機能させることができる。図7は、本実施形態の第4工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【0054】
[リムモデルを入力]
本実施形態の第4工程S4では、先ず、図2に示したタイヤ11がリム組みされるリム20をモデリングしたリムモデル30が、図1に示したコンピュータ1に入力される(工程S41)。図6に示されるように、本実施形態のリムモデル30は、図2に示した一対のリム片20A、20Aをモデル化した一対のリム片モデル30A、30Aを含んで構成されている。各リム片モデル30A、30Aは、タイヤモデル21のビード底面24aに接触するリムシート面30Aaと、ビード側面24bに接触するフランジ面30Abとを含んで構成されている。
【0055】
リムモデル30は、図2に示した実際のリム20の変形が微小であることに鑑み、例えば、変化しない剛体表面として定義される。リムモデル30とタイヤモデル21との接触面35には、予め定められた摩擦係数(以下、「第1摩擦係数」ということがある。)が設定されている。本実施形態の第1摩擦係数は、例えば、図2に示した実際のタイヤ11とリム20との間の摩擦係数に基づいて設定される。リムモデル30は、タイヤモデル21とともに、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に記憶される。
【0056】
[リムモデルにタイヤモデルを装着]
次に、本実施形態の第4工程S4では、図1に示したコンピュータ1(第4計算部6D)が、リムモデル30に装着されたタイヤモデル21を計算する(工程S42)。工程S42では、先ず、内圧が零に設定された状態において、タイヤモデル21のビード部24を、リムモデル30のフランジ面30Abよりもタイヤ軸方向内側に変形させる。次に、タイヤモデル21のビード底面24a及びビード側面24bを、リムモデル30のリムシート面30Aa及びフランジ面30Abに接触させる。これにより、リムモデル30に装着(仮組み装着)されたタイヤモデル21が計算される。
【0057】
次に、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。これにより、リムモデル30に装着された内圧充填後のタイヤモデル21が計算される。内圧条件は、例えば、評価対象のタイヤ11(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
【0058】
タイヤモデル21の変形計算は、タイヤモデル21の各要素F(i)の形状及び材料特性などに基づいて、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1(図1に示す)が、各種の条件を当てはめて、力のつり合い方程式を作成し、これらをシミュレーションの各増分(インクリメント)毎にタイヤモデル21の変形計算を行う。変形計算には、上記の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。
【0059】
[すべりが生じないような接触条件を定義]
次に、本実施形態の第4工程S4では、タイヤモデル21とリムモデル30との接触面35で、すべりが生じないような接触条件が定義される(工程S43)。接触条件は、後述の定常輸送解析において、接触面35ですべりが生じなければ、適宜設定されうる。本実施形態では、上述の第1摩擦係数よりも大きい摩擦係数(以下、「第2摩擦係数」ということがある。)が設定される。このような第2摩擦係数により、接触面35には、実際のタイヤ11とリム20との間の摩擦係数よりも大きな摩擦係数が定義され、接触面35でのすべりを抑制しうる。このようなすべりを確実に防ぐために、第2摩擦係数は、第1摩擦係数の2.0倍以上が好ましい。
【0060】
接触条件は、第2摩擦係数に限定されるわけではなく、例えば、タイヤモデル21とリムモデル30との相対移動を固定する拘束条件であってもよい。これにより、接触面35ですべりが生じるのを確実に防ぐことが可能となる。
【0061】
[タイヤモデルを路面モデルに接地]
次に、本実施形態の第4工程S4では、図1に示したコンピュータ1(第4計算部6D)が、図4に示されるように、タイヤモデル21を路面モデル33に接地させる(工程S44)。本実施形態の工程S44では、路面モデル33に接地した荷重負荷後のタイヤモデル21が計算される。このようなタイヤモデル21の計算には、荷重負荷条件L、キャンバー角及び摩擦係数が用いられる。
【0062】
荷重負荷条件Lには、例えば、図2に示したタイヤ11が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定める荷重が設定される。キャンバー角は、タイヤ11が車両に装着される条件に基づいて適宜設定される。摩擦係数は、タイヤが接地する路面等に応じて定義される。
【0063】
本実施形態の工程S44では、先ず、摩擦係数及びキャンバー角に基づいて、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル21と、路面モデル33との接触が計算される。次に、タイヤモデル21の回転軸21sに、荷重負荷条件Lが設定される。これにより、路面モデル33に接地した荷重負荷後のタイヤモデル21が計算される。路面モデル33に接地したタイヤモデル21は、図1に示したコンピュータ1(タイヤモデル入力部5B)に記憶される。
【0064】
[タイヤモデルの転動を解析(第5工程)]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、接地させたタイヤモデル21(図4に示す)の転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う(第5工程S5)。
【0065】
本実施形態の第5工程S5では、先ず、図1に示したタイヤモデル入力部5Bに記憶されている路面モデル33に接地したタイヤモデル21、及び、路面モデル入力部5Cに記憶されている路面モデル33が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、図1に示した境界条件入力部5Dに記憶されているタイヤモデル21を定常輸送解析するための条件が作業用メモリ4Cに読み込まれる。この定常輸送解析するための条件には、例えば、走行速度、キャンバー角、スリップ角、及び、路面との摩擦係数等が含まれる。本実施形態の走行速度には、解析対象のタイヤ11(図2に示す)において、スタンディングウェーブ現象が発生すると予測される走行速度が設定(例えば、150~230km/hから選択)される。
【0066】
次に、図1に示したプログラム部6に含まれる第5計算部6Eが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。この第5計算部6Eは、路面モデル33に接地させたタイヤモデル21の転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行うためのプログラムである。この第5計算部6Eが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、定常輸送解析手法を用いて転動状態を模擬するための手段として機能させることができる。
【0067】
定常輸送解析手法(SST:Steady State Transport)は、陰解法に基づく解析手法である。本実施形態では、定常輸送解析手法に基づいて、図4に示した路面モデル33に接触したタイヤモデル21(要素F(i))を静止させたまま、タイヤモデル21の各要素F(i)において材料がタイヤ周方向に流れる状態が計算される。これにより、例えば、陽解法に基づいて、路面モデル33をタイヤモデル21が転動している状態を計算しなくても、路面を転動しているタイヤ11の変形が計算される。各要素F(i)に材料が流れる状態は、定常輸送解析するための条件(本例では、走行速度、キャンバー角、スリップ角、及び、路面との摩擦係数等)に基づいて計算される。
【0068】
本実施形態の第5工程S5では、予め定められた条件に達するまでの間、シミュレーションのインクリメント毎に、タイヤモデル21の定常輸送解析が行われる。条件は、例えば、解析の目的(本例では、スタンディングウェーブ現象の解析)に応じて、適宜設定されうる。定常輸送解析では、タイヤモデル21の各節点31において、タイヤモデル21に作用する物理量が計算される。このような定常輸送解析には、上記の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。
【0069】
物理量は、図2に示したタイヤ11の性能評価に用いられるものが採用されうるが、特に限定されない。タイヤモデル21の軸方向の変位量等が求められてもよい。これにより、タイヤモデルの周方向の位置と、タイヤモデルの軸方向の変位との関係を示すグラフや、タイヤモデル21のタイヤ軸方向の変位の大きさを示すコンター図等が計算されうる。また、内圧条件や、走行速度等を異ならせた複数の条件ごとに、物理量がそれぞれ計算されてもよい。本実施形態では、スタンディングウェーブ現象が計算されるまで、走行速度を徐々に大きくしながら、タイヤモデル21の転動状態が、走行速度ごとに計算される。計算された物理量は、図1に示した物理量入力部5E(コンピュータ1)に記憶される。
【0070】
本実施形態では、タイヤモデル21の転動解析が、定常輸送解析手法を用いて行われるため、例えば、陽解法に基づく転動解析を行う場合に比べて、計算の収束性が向上し、計算コストが低減される。さらに、定常輸送解析手法では、タイヤモデル21の転動が計算されないため、多角形状のタイヤモデル21の転動に起因する振動が計算されない。このような振動は、実際のタイヤ11には生じないシミュレーション特有のものであるため、スタンディングウェーブ現象の計算精度が向上する。
【0071】
ところで、実際のスタンディングウェーブ現象では、臨界速度を超えた時点で、図2に示したトレッド部12に非収斂性のタイヤ半径方向の振動(変形)が発生し、それが加振となってサイドウォール部13の共振振動現象(タイヤ軸方向の変形)が起きる。これらの振動現象により、サイドウォール部13には、タイヤ軸方向外側に突出した凸部と、タイヤ軸方向内側に凹んだ凹部とが、タイヤ周方向に交互に形成され、ウェーブ状(波状)に変形する。
【0072】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、図6に示したトレッドゴムモデル28A(キャップゴムモデル28Ab)及びサイドウォールゴムモデル28Bの要素F(i)に減衰特性を定義することで、上記の振動現象や、ウェーブ状の変形を再現できることを知見した。
【0073】
本実施形態では、このような知見に基づいて、トレッドゴムモデル28A(キャップゴムモデル28Ab)及びサイドウォールゴムモデル28Bを構成する各要素F(i)に減衰特性が定義されている。これらのトレッドゴムモデル28A及びサイドウォールゴムモデル28Bを含むタイヤモデル21の転動解析が、定常輸送解析手法に基づいて計算されることで、スタンディングウェーブ現象を高い精度でシミュレートすることが可能となる。
【0074】
本実施形態では、トレッドゴムモデル28Aのうち、上記の振動現象に影響が大きいキャップゴムモデル28Abに減衰特性が定義される。これにより、例えば、ベースゴムモデル28Aa及びキャップゴムモデル28Abの双方に減衰特性が定義される場合に比べて、計算の収束性が向上し、計算コストが低減される。
【0075】
また、ベースゴムモデル28Aa、ビードエーペックスゴム18C、クリンチゴムモデル28D及びインナーライナーゴムモデル28Eには、減衰特性が定義されない超弾性体モデルとして定義される。これにより、例えば、全てのゴム部材モデル28に減衰特性が定義される場合に比べて、計算の収束性が向上し、計算コストが低減される。
【0076】
図8は、タイヤモデル21の周方向の位置と、タイヤモデル21の軸方向の変位との関係を示すグラフである。このグラフでは、図4に示したタイヤモデル21のサイドウォール部23に定められた任意の測定位置36(二点鎖線で示す)において計算される。このグラフの横軸の「0」は、タイヤモデル21の周方向において、接地中心を示している。このグラフの縦軸の「0」は、路面モデル33に接地前(荷重負荷条件Lが設定される前)のタイヤモデル21の軸方向の位置を示している。縦軸の値が大きいほど、タイヤ軸方向外側への突出していることを示している。
【0077】
図8に示したグラフでは、実際のスタンディングウェーブ現象と同様に、サイドウォール部23において、タイヤ軸方向外側への突出と、タイヤ軸方向内側への凹みとが、タイヤ周方向に交互に形成されており、ウェーブ状(波状)に変形している。したがって、スタンディングウェーブ現象が高い精度でシミュレートされうる。
【0078】
図9は、タイヤモデル21のサイドウォール部23のタイヤ軸方向の変位の大きさを示すコンター図である。このコンター図では、タイヤ軸方向内側への凹み量が大きい箇所が、濃い色で表示されている。図9では、実際のスタンディングウェーブ現象と同様に、サイドウォール部23において、タイヤ軸方向内側に凹んだ凹部37と、タイヤ軸方向外側に突出した凸部38とが、タイヤ周方向に交互に形成されており、ウェーブ状(波状)に変形している。したがって、本実施形態では、スタンディングウェーブ現象が高い精度でシミュレートされうる。
【0079】
上述のサイドウォール部23の凹凸は、例えば、速度、空気圧、タイヤサイズ及びタイヤ構造によって異なるが、おおよそ100~1000個/secで発生する傾向がある。なお、ゴム材料由来の振動は、ほとんど発生しない。このため、図6に示したトレッドゴムモデル28A(キャップゴムモデル28Ab)及びサイドウォールゴムモデル28Bの要素F(i)に定義される減衰特性は、例えば、100~1000Hzで減衰が強くなるように、弾性緩和率や、緩和時間が設定されるのが好ましい。これにより、スタンディングウェーブ現象が高い精度でシミュレートされうる。
【0080】
タイヤモデル21は、タイヤ周方向において120以上に分割されているのが好ましい。タイヤモデル21がタイヤ周方向に120以上に分割されることで、図2に示した実際のトレッド部12及びサイドウォール部13での振動現象や、サイドウォール部13のウェーブ状の変形を再現することができる。一方、タイヤモデル21のタイヤ周方向の分割数が必要以上に大きくなると、計算対象の節点31の増加により、計算コストが増大するおそれがある。したがって、タイヤモデル21は、タイヤ周方向において、180以下に分割されるのが好ましい。
【0081】
定常輸送解析手法に基づいてタイヤモデル21が高速で転動する状態(例えば、スタンディングウェーブ現象)が解析された場合、図4に示したタイヤモデル21と路面モデル33との間に、大きな前後力が計算される。このような大きな前後力により、図6に示したタイヤモデル21とリムモデル30との間にすべりが計算されると、計算の収束性が悪化する場合がある。この結果、計算コストの増大を招くおそれがある。本実施形態では、タイヤモデル21とリムモデル30との接触面35で、すべりが生じないような接触条件が定義されているため、接触面35でのすべりに起因する計算の収束性の悪化が抑制され、計算コストが低減されうる。
【0082】
また、図4に示したタイヤモデル21と路面モデル33との間の大きな前後力により、路面モデル33からタイヤモデル21が浮き上がる現象が計算される。このような現象は、計算の収束性の悪化や、計算の発散を招き、計算コストを増大させるおそれがある。このような現象が計算されるのを抑制するために、タイヤモデル21を路面モデル33に接地させる第4工程S4(図3に示す)の後、タイヤモデル21が路面モデル33に接地した状態を維持するための拘束条件が定義されてもよい。
【0083】
上記の拘束条件が定義されることで、タイヤモデル21と路面モデル33との接触面(接地面)において、タイヤモデル21が路面モデル33に拘束される。これにより、定常輸送解析手法に基づいて、タイヤモデル21が高速で転動する状態が解析されたとしても、路面モデル33からタイヤモデル21が浮き上がる現象が計算されるのが抑制され、計算コストの増大を防ぐことが可能となる。
【0084】
拘束条件は、タイヤモデル21が路面モデル33に接地した状態が維持されれば、適宜定義されうる。本実施形態の拘束条件は、例えば、上記の有限要素解析アプリケーションソフトに含まれる機能(例えば、表面がいったん接触した後は, それらが離れなくなる)等に基づいて容易に定義される。
【0085】
[タイヤの性能を評価]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、図1に示したコンピュータ1が、タイヤ11(図2に示す)の性能を評価する(工程S6)。
【0086】
本実施形態の工程S6では、先ず、図1に示した物理量入力部5Eに記憶されている物理量が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。次に、プログラム部6に含まれる第6計算部6Fが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。第6計算部6Fは、タイヤ11の性能を評価するためのプログラムである。この第6計算部6Fが、演算部4Aによって実行されることにより、コンピュータ1を、タイヤ11の性能を評価するための手段として機能させることができる。
【0087】
タイヤ11の性能の評価は、適宜評価されうる。例えば、スタンディングウェーブ現象が計算された走行速度の下限値が、予め定められた閾値以上である場合に、タイヤ11の高速耐久性が良好であると評価されうる。閾値は、タイヤ11に求められる高速耐久性に応じて、適宜設定されうる。
【0088】
タイヤ11の性能が良好であると評価された場合(工程S6で「Yes」)、タイヤ11の設計因子に基づいて、タイヤ11が設計及び製造される(工程S7)。一方、タイヤの性能が良好でないと判断された場合(工程S6で「No」)、タイヤ11の設計因子の少なくとも1つが変更されて(工程S8)、第1工程S1~工程S6が再度実施されうる。これにより、本実施形態では、タイヤ11の性能(例えば、高速耐久性)が良好なタイヤ11を確実に設計及び製造することが可能となる。
【0089】
これまでの実施形態では、図6に示したトレッドゴムモデル28Aのうち、キャップゴムモデル28Abに減衰特性が定義されたが、このような態様に限定されない。例えば、図2に示したトレッドゴム18Aが、ベースゴム18Aa及びキャップゴム18Abに区分されていない場合には、トレッドゴムモデル28Aの全体に、減衰特性が定義されてもよい。これにより、スタンディングウェーブ現象のシミュレートが可能となる。
【0090】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0091】
[実施例A]
図3に示した処理手順に基づいて、タイヤのシミュレーションが行われた(実施例1~4)。実施例1~4の第2工程では、ゴム部材モデルのうち、キャップゴムモデル及びサイドウォールゴムモデルを構成する要素のみに減衰特性が定義された。これにより、キャップゴムモデル及びサイドウォールゴムモデルを除くゴム部材モデルは、超弾性体として定義された。
【0092】
次に、実施例1~4の第4工程では、実施例1~4のタイヤモデルのそれぞれに、異なる内圧条件が定義されて、路面モデルに接地するタイヤモデルが計算された。これらのタイヤモデルとリムモデルとの接触面で、すべりが生じないような接触条件が定義された。そして、実施例1~4では、第4工程の後、タイヤモデルが路面モデルに接地した状態を維持するための拘束条件が定義された。
【0093】
次に、実施例1~4の第5工程では、定常輸送解析手法を用いて、スタンディングウェーブ現象がシミュレートされた。この第5工程では、タイヤモデルの予め定められた測定位置において、タイヤモデルの周方向の位置と、タイヤの軸方向の変位との関係が取得された。
【0094】
また、評価対象のタイヤを台上試験装置(ドラム試験機)に転動させて、タイヤにスタンディングウェーブ現象を発生させた(実験例1~4)。実験例1~4のタイヤには、実施例1~4のタイヤモデルと同様に、異なる内圧条件が設定された。そして、実験例1~4のタイヤの予め定められた測定位置において、タイヤモデルの周方向の位置と、タイヤの軸方向の変位との関係が取得された。実施例1~4及び実験例1~4の共通仕様等は、次のとおりである。
タイヤサイズ:205/65R16
荷重:5.42kN
走行速度:210km/h
実施例1~4:
タイヤモデルのタイヤ周方向の分割数:120
内圧:
実施例1:280kPa
実施例2:220kPa
実施例3:250kPa
実施例4:310kPa
実験例1~4:
内圧:
実験例1:280kPa
実験例2:220kPa
実験例3:250kPa
実験例4:310kPa
【0095】
図10は、実施例1~4のタイヤモデルの周方向の位置と、タイヤモデルの軸方向の変位との関係を示すグラフである。図11は、実験例1~4のタイヤの周方向の位置と、タイヤの軸方向の変位との関係を示すグラフである。
【0096】
テストの結果、図10に示した実施例1~4のタイヤモデルの軸方向の変位は、図11に示した実験例1~4のタイヤの軸方向の変位と近似した。さらに、実施例1~4は、定常輸送解析手法に基づいて、タイヤモデルの転動解析が行われるため、陽解法に基づく転動解析を行う場合に比べて、計算の収束性が向上した。その結果、実施例1~4の計算コストは、陽解法に基づく計算コストの5~10%となり、低減することができた。したがって、実施例1~4は、計算コストを低減しつつ、スタンディングウェーブ現象を高い精度でシミュレートすることができた。
【0097】
[実施例B]
図3に示した処理手順に基づいて、タイヤのシミュレーションが行われた(実施例5~8)。実施例5~8の第1工程では、評価対象のタイヤに基づいて、タイヤ周方向の分割数がそれぞれ異なるタイヤモデルがそれぞれ入力された。
実施例5の分割数:60
実施例6の分割数:90
実施例7の分割数:120
実施例8の分割数:180
【0098】
そして、実施例5~8では、第5工程において、実施例Aと同様に、定常輸送解析手法を用いて、スタンディングウェーブ現象がシミュレートされた。この第5工程では、タイヤモデルの予め定められた測定位置において、タイヤモデルの周方向の位置と、タイヤの軸方向の変位との関係が取得された。共通仕様は、実施例5~8の内圧が280kPaに設定された点や、上記の分割数が設定された点を除いて、実施例Aの記載のとおりである。
【0099】
図12は、実施例5~8のタイヤモデルの周方向の位置と、タイヤモデルの軸方向の変位との関係を示すグラフである。テストの結果、分割数が120以上に設定された実施例7~8は、分割数が120未満に設定された実施例5~6に比べて、タイヤモデルの軸方向の変位を、図11に示した実験例1のタイヤの軸方向の変位に近づけることができた。したがって、実施例7~8は、実施例5~6に比べて、スタンディングウェーブ現象を高い精度でシミュレートすることができた。
【0100】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0101】
[本発明1]
空気入りタイヤのシミュレーション方法であって、
前記空気入りタイヤを複数の要素でモデリングしたタイヤモデルを、コンピュータに入力する第1工程と、
前記タイヤモデルの前記要素に物性を定義する第2工程と、
前記空気入りタイヤが接地する路面をモデリングした路面モデルを、前記コンピュータに入力する第3工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデルに接地させる第4工程と、
前記コンピュータが、前記接地させたタイヤモデルの転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う第5工程とを含み、
前記第1工程は、前記路面モデルに接地させるためのトレッドゴムモデルと、タイヤサイド部を形成するサイドウォールゴムモデルとを含むように前記タイヤモデルをモデリングし、
前記第2工程は、前記トレッドゴムモデル及び前記サイドウォールゴムモデルを構成する前記要素に減衰特性を定義する、
タイヤのシミュレーション方法。
[本発明2]
前記タイヤモデルは、タイヤ周方向において120以上に分割されている、本発明1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明3]
前記第4工程の後、前記タイヤモデルが前記路面モデルに接地した状態を維持するための拘束条件を定義する、本発明1又は2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明4]
前記第4工程は、前記タイヤがリム組みされるリムをモデリングしたリムモデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記リムモデルに装着された前記タイヤモデルを計算する工程と、
前記タイヤモデルと前記リムモデルとの接触面で、すべりが生じないような接触条件を定義する工程とを含む、本発明1ないし3のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。
[本発明5]
空気入りタイヤのシミュレーションを実行するための演算処理装置を有する装置であって、
前記演算処理装置は、
前記空気入りタイヤを複数の要素でモデリングしたタイヤモデルを入力する第1計算部と、
前記タイヤモデルの前記要素に物性を定義する第2計算部と、
前記空気入りタイヤが接地する路面をモデリングした路面モデルを入力する第3計算部と、
前記タイヤモデルを前記路面モデルに接地させる第4計算部と、
前記接地させたタイヤモデルの転動解析を、定常輸送解析手法を用いて行う第5計算部とを含み、
前記第1計算部は、前記路面モデルに接地させるためのトレッドゴムモデルと、タイヤサイド部を形成するサイドウォールゴムモデルとを含むように前記タイヤモデルをモデリングし、
前記第2計算部は、前記トレッドゴムモデル及び前記サイドウォールゴムモデルを構成する前記要素に減衰特性を定義する、
タイヤのシミュレーション装置。
【符号の説明】
【0102】
S1 タイヤモデルを入力(第1工程)
S2 タイヤモデルの要素に物性を定義(第2工程)
S3 路面モデルを入力(第3工程)
S4 タイヤモデルを路面モデルに接地(第4工程)
S5 定常輸送解析手法を用いてタイヤモデルの転動解析を実施(第5工程)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12