(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024123832
(43)【公開日】2024-09-12
(54)【発明の名称】光ファイバ水素センサ、水素センサ装置、光ファイバ水素センサの製造方法、及び水素センサ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240905BHJP
【FI】
G01N21/17 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031566
(22)【出願日】2023-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
(71)【出願人】
【識別番号】515117682
【氏名又は名称】株式会社コアシステムジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関 篤志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博幸
(72)【発明者】
【氏名】山崎 大志
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB01
2G059CC01
2G059DD03
2G059EE01
2G059HH02
2G059JJ17
(57)【要約】
【課題】長期間の使用にわたる劣化が少なく、水素に対する感応性に優れた水素センサを提供する。
【解決方法】周囲の状態を感知するための感応層30として、(A)水素に反応する性質を有する水素反応微粒子31を含む水素反応層301と、(B)ポリカチオン層302又はポリアニオン層とを含み、前記水素反応層301は、該水素反応層301のイオン特性に応じて前記ポリカチオン層302又は前記ポリアニオン層を介して多重に積層されており、前記水素反応層301の複数層のうちの少なくとも1層には、更に、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子33が固着されてなるものを備えた水素センサである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を伝送する光伝送部を有する光ファイバを備え、
前記光伝送部の途中には、周囲の状態の変化に応じて前記入射した光を受けた際の応答が変化する光応答部を有し、
前記光応答部の外側表面には、前記周囲の状態を感知するための感応層が形成されており、
前記感応層は、(A)水素に反応する性質を有する水素反応微粒子を含む水素反応層と、(B)ポリカチオン層又はポリアニオン層とを含み、
前記水素反応層は、該水素反応層のイオン特性に応じて前記ポリカチオン層又は前記ポリアニオン層を介して多重に積層されており、
前記水素反応層の複数層のうちの少なくとも1層には、更に、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子が含まれ、
前記水素反応微粒子及び前記水素化触媒微粒子は同極に帯電した帯電微粒子であり、前記水素反応層のイオン特性を生じるように、前記水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積されており、
前記感応層は、前記水素化触媒微粒子による触媒作用を介して前記水素反応層に備わる前記水素反応微粒子が前記周囲に存する水素と反応することに応じて、又は該水素反応微粒子と反応した水素が前記周囲に放出されることに応じて、前記光応答部において前記入射した光を受けた際の応答に変化が与えられるように構成されている、光ファイバ水素センサ。
【請求項2】
前記水素反応微粒子として三酸化タングステン微粒子を含み、前記水素化触媒微粒子として白金ナノ粒子を含む、請求項1記載の光ファイバ水素センサ。
【請求項3】
前記光ファイバの前記光伝送部は、それぞれ所定径を有するコア及びクラッドからなる主要光伝送部と、前記主要光伝送部のコア及びクラッドに各々連なる他のコア及びクラッドからなるヘテロコア部であって、前記ヘテロコア部のコアが前記主要光伝送部のコアと異なる所定径を有してなる、該ヘテロコア部とを備え、
前記光ファイバの前記光応答部は、前記ヘテロコア部の前記クラッドの外側表面に前記感応層が形成されることにより構成される、請求項1記載の光ファイバ水素センサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光ファイバ水素センサを備える、水素センサ装置。
【請求項5】
入射した光を伝送する光伝送部を有する光ファイバであって、前記光伝送部の途中には、周囲の状態の変化に応じて前記入射した光を受けた際の応答が変化する光応答部を有する、該光ファイバの光応答部の外側表面に、前記周囲の状態を感知するための感応層を形成する工程を含む、光ファイバ水素センサの製造方法であって、
前記感応層の形成は、
(A)水素に反応する性質を有する水素反応微粒子を含む水素反応層を形成させるための水素反応層形成液と、
(B)ポリカチオン層又はポリアニオン層を形成させるためのポリカチオン層形成液又はポリアニオン層形成液と、を、
前記水素反応層が、該水素反応層のイオン特性に応じて前記ポリカチオン層又は前記ポリアニオン層を介して多重に積層されるように、前記光ファイバの光応答部の外側表面に適用することにより行い、
前記光ファイバの光応答部の外側表面への前記水素反応層形成液の適用の際、該水素反応層形成液に、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子を含有せしめて一緒に適用する、少なくとも1回の工程を有し、
前記水素反応微粒子及び前記水素化触媒微粒子は同極に帯電した帯電微粒子であり、該微粒子を、前記水素反応層のイオン特性を生じるように、前記水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積し、
前記感応層は、前記水素化触媒微粒子による触媒作用を介して前記水素反応層に備わる前記水素反応微粒子が前記周囲に存する水素と反応することに応じて、又は該水素反応微粒子と反応した水素が前記周囲に放出されることに応じて、前記光応答部において前記入射した光を受けた際の応答に変化が与えられるように構成されている、光ファイバ水素センサの製造方法。
【請求項6】
水素に反応する性質を有する物資を帯電微粒子状に調製してなる該水素反応微粒子を含む第1液と、
アニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーを含む第2液と、
感応層を形成させる表面を有する基体と、を準備し、
前記感応層を、前記第1液と前記第2液とを前記基体の前記表面に交互に適用することで、前記水素反応微粒子を含む水素反応層を、該層のイオン特性に応じて前記アニオン性ポリマーを含む層又は前記カチオン性ポリマーを含む層を介して多重に積層することにより形成し、
前記第1液の前記基体への適用の際には、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子であって前記水素反応層が有するイオン特性に相当するイオン特性を有するよう帯電微粒子状に調製してなる該水素化触媒微粒子を、前記第1液に含有せしめて適用する少なくとも1回の工程を含み、
前記水素反応微粒子及び前記水素化触媒微粒子を、前記水素反応層のイオン特性を生じるように、前記水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積し、
該感応層は、前記水素化触媒微粒子による触媒作用を介して前記水素反応層に備わる前記水素反応微粒子が周囲に存する水素と反応し、又は該水素反応微粒子と反応した水素を放出するように構成されている、水素センサ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記水素反応微粒子として三酸化タングステン微粒子を含み、前記水素化触媒微粒子として白金ナノ粒子を含む、請求項6記載の水素センサ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を検知するための水素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代エネルギーとして水素が注目されている。例えば、燃料電池自動車や水素発電などへの応用が期待されている。このような水素社会への取り組みのなか、水素の安全な利用のためには、水素ガスの漏洩を効果的に検知することができるセンサの開発が望まれている。
【0003】
従来、水素センサとして光ファイバ型のものが知られている。光ファイバ型センサでは、入射した光を伝送する光伝送部の途中に、周囲の状態の変化に応じて入射した光を受けた際の応答が変化する光応答部(感応部)を設けて、周囲の状態を検知するようにしている。
【0004】
例えば、特許文献1には、光ファイバの光伝送部の一部から湿式エッチングによりクラッドを剥離して除去したうえ、触媒金属と固体化合物半導体を含む膜で埋めて光応答部とする水素センサが記載されている。この水素センサにおいては、周囲の水素濃度が高くなると、触媒金属で生じた水素原子が固体化合物半導体を還元して、その光応答部において剥離したクラッドを埋めた部分の光吸収性が増大して、光ファイバのコア内を進行する光の光量が減少するので、これにより周囲に存する水素を検知することができる。
【0005】
また、特許文献2には、光ファイバセンサの一種として知られるFBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)センサを利用する方法が記載されている。特許文献2では、長尺の光ファイバに特定間隔でFBGを配置すると共に、該FBG部のクラッド周面に膜厚1μm以上の白金触媒担持酸化タングステン薄膜をゾルゲル法にて固定化したセンサについて記載されており、周囲環境の変化の前後でのFBG部を透過又は反射する光の波長特性が変化することから水素センサとして、またFBG部の位置を割り出すことにより、水素漏洩箇所を特定することができるものとされている。
【0006】
更に、特許文献3には、光ファイバの光伝送部の一部の外側表面に、表面プラズモン共鳴を励起することが可能な金属の膜と、その金属に膜の外周に形成された誘電体の膜と、その誘電体の膜の外周に形成された水素吸蔵金属の膜とを具備してなる水素センサについて記載されている。この水素センサにおいては、水素吸蔵金属が水素を吸蔵、放出することによる膜の誘電関数の変化によって生じる光ファイバの表面プラズモン共鳴に基づいて水素濃度を検知することによって、感応性や応答速度に優れた光ファイバ水素センサとなるものとされている。
【0007】
一方、特許文献4には、入射端から入射された光を出射端から出射する光ファイバと、 該光ファイバの周囲の水素濃度に応じて前記光を受けた際の応答が変化する光応答部とを備え、前記光応答部は、水素吸蔵物質のナノ粒子が疎である状態で固定されていることを特徴とする光ファイバ水素センサについて記載されている(特許文献4の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-329592号公報
【特許文献2】特開2005-351651号公報
【特許文献3】特開2014-59300号公報
【特許文献4】特開2019-32229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが着眼したところによると、上記特許文献1~3のように、水素に対する感応層を膜状に形成すると、長期間にわたって使用したとき、クラッキングや剥離などが生じてセンサ特性が劣化したりするおそれがあった。また、特許文献4によれば、感応層に固着させる水素吸蔵物質のナノ粒子を疎である状態とすることで、感応層の膨張や収縮が繰り返されることによるセンサ特性の劣化は防がれるものとされているが、当該ナノ粒子を疎である状態とすることで、かえって、水素に対する感応性が十分とはいえないケースがあった。
【0010】
よって、本発明の目的は、長期間の使用にわたる劣化が少なく、水素に対する感応性に優れた水素センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、水素に反応する性質を有する水素反応微粒子を含む水素反応層を、そのイオン特性に応じてポリカチオン層又はポリアニオン層を介して多重に積層したうえ、水素化触媒微粒子による触媒作用を介してその水素反応微粒子に水素を反応させるようにすることで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、その第1の観点においては、
入射した光を伝送する光伝送部を有する光ファイバを備え、
前記光伝送部の途中には、周囲の状態の変化に応じて前記入射した光を受けた際の応答が変化する光応答部を有し、
前記光応答部の外側表面には、前記周囲の状態を感知するための感応層が形成されており、
前記感応層は、(A)水素に反応する性質を有する水素反応微粒子を含む水素反応層と、(B)ポリカチオン層又はポリアニオン層とを含み、
前記水素反応層は、該水素反応層のイオン特性に応じて前記ポリカチオン層又は前記ポリアニオン層を介して多重に積層されており、
前記水素反応層の複数層のうちの少なくとも1層には、更に、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子が含まれ、
前記水素反応微粒子及び前記水素化触媒微粒子は同極に帯電した帯電微粒子であり、前記水素反応層のイオン特性を生じるように、前記水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積されており、
前記感応層は、前記水素化触媒微粒子による触媒作用を介して前記水素反応層に備わる前記水素反応微粒子が前記周囲に存する水素と反応することに応じて、又は該水素反応微粒子と反応した水素が前記周囲に放出されることに応じて、前記光応答部において前記入射した光を受けた際の応答に変化が与えられるように構成されている、光ファイバ水素センサを提供するものである。
【0013】
本発明により提供される光ファイバ水素センサによれば、光ファイバ型センサの光応答部において、その光応答部の外側表面に形成する感応層を構成する水素反応層には水素に反応する性質を有する水素反応微粒子が含まれ、また、水素反応層の少なくとも1層には水素との化学的な反応性を高めることができる水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子が含まれているので、その水素化触媒微粒子を介して周囲に存する水素が水素反応微粒子と反応することに応じて、又は該水素反応微粒子と反応した水素が周囲に放出されることに応じて、入射した光を受けた際の応答に変化が与えられる。これにより、入射した光を受けた際の応答の変化から、周囲に存する水素を検知することができる。また、水素反応微粒子と水素化触媒微粒子とは同極に帯電した帯電微粒子であり、これを、水素反応層の1層あたりに該1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積させたので、ポリカチオン層又はポリアニオン層との間の静電的相互作用により固定されている。よって、水素に対する感応層を膜状に形成したときに問題となる、クラッキングや剥離などが生じることによるセンサ特性の劣化が防がれる。更に、上記水素反応層は、該水素反応層のイオン特性に応じてポリカチオン層又はポリアニオン層を介して多重に積層されているので、感応層において、上記水素反応微粒子の固着量を増やすことができる。よって、これにより、水素の有効量を即応的に上記水素反応微粒子と反応させることができ、ひいては水素センサとしての感度を高めることができる。
【0014】
上記の光ファイバ水素センサにおいては、前記水素反応微粒子として三酸化タングステン微粒子を含み、前記水素化触媒微粒子として白金ナノ粒子を含むことが好ましい。
【0015】
これによれば、汎用の素材を用いて光ファイバ水素センサを得ることができる。
【0016】
上記の光ファイバ水素センサにおいては、
前記光ファイバの前記光伝送部は、それぞれ所定径を有するコア及びクラッドからなる主要光伝送部と、前記主要光伝送部のコア及びクラッドに各々連なる他のコア及びクラッドからなるヘテロコア部であって、前記ヘテロコア部のコアが前記主要光伝送部のコアと異なる所定径を有してなる、該ヘテロコア部とを備え、
前記光ファイバの前記光応答部は、前記ヘテロコア部の前記クラッドの外側表面に前記感応層が形成されることにより構成されることが好ましい。
【0017】
これによれば、主要光伝送部のコア内を進行する光が、上記ヘテロコア部においてクラッド側へ漏洩されるので、上記ヘテロコア部のクラッドの外側表面に形成した感応層に到達する光の光量が高められ、ひいては周囲の水素濃度に応じた応答変化の感度を高めることができる。
【0018】
本発明は、その第2の観点においては、上記の光ファイバ水素センサを備える、水素センサ装置を提供するものである。
【0019】
本発明により提供される水素センサ装置によれば、上記した光ファイバ水素センサを備えるので、その水素センサは、水素に対する感応性に優れ、装置の使用が長期間にわたっても劣化が少なく、そのセンサ特性が維持される。
【0020】
本発明は、その第3の観点においては、
入射した光を伝送する光伝送部を有する光ファイバであって、前記光伝送部の途中には、周囲の状態の変化に応じて前記入射した光を受けた際の応答が変化する光応答部を有する、該光ファイバの光応答部の外側表面に、前記周囲の状態を感知するための感応層を形成する工程を含む、光ファイバ水素センサの製造方法であって、
前記感応層の形成は、
(A)水素に反応する性質を有する水素反応微粒子を含む水素反応層を形成させるための水素反応層形成液と、
(B)ポリカチオン層又はポリアニオン層を形成させるためのポリカチオン層形成液又はポリアニオン層形成液と、を、
前記水素反応層が、該水素反応層のイオン特性に応じて前記ポリカチオン層又は前記ポリアニオン層を介して多重に積層されるように、前記光ファイバの光応答部の外側表面に適用することにより行い、
前記光ファイバの光応答部の外側表面への前記水素反応層形成液の適用の際、該水素反応層形成液に、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子を含有せしめて一緒に適用する、少なくとも1回の工程を有し、
前記水素反応微粒子及び前記水素化触媒微粒子は同極に帯電した帯電微粒子であり、該微粒子を、前記水素反応層のイオン特性を生じるように、前記水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積し、
前記感応層は、前記水素化触媒微粒子による触媒作用を介して前記水素反応層に備わる前記水素反応微粒子が前記周囲に存する水素と反応することに応じて、又は該水素反応微粒子と反応した水素が前記周囲に放出されることに応じて、前記光応答部において前記入射した光を受けた際の応答に変化が与えられるように構成されている、光ファイバ水素センサの製造方法を提供するものである。
【0021】
本発明により提供される光ファイバ水素センサの製造方法によれば、上記した光ファイバ水素センサを好適に製造することができる。特に、その製造は、いわゆるレイヤー・バイ・レイヤー(Layer-by-Layer)法による層状構造体の形成過程によって、簡便に行うことができ、例えば、常温、大気下に行うことができる。
【0022】
本発明は、その第4の観点においては、
水素に反応する性質を有する物資を帯電微粒子状に調製してなる該水素反応微粒子を含む第1液と、
アニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーを含む第2液と、
感応層を形成させる表面を有する基体と、を準備し、
前記感応層を、前記第1液と前記第2液とを前記基体の前記表面に交互に適用することで、前記水素反応微粒子を含む水素反応層を、該層のイオン特性に応じて前記アニオン性ポリマーを含む層又は前記カチオン性ポリマーを含む層を介して多重に積層することにより形成し、
前記第1液の前記基体への適用の際には、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子であって前記水素反応層が有するイオン特性に相当するイオン特性を有するよう帯電微粒子状に調製してなる該水素化触媒微粒子を、前記第1液に含有せしめて適用する少なくとも1回の工程を含み、
前記水素反応微粒子及び前記水素化触媒微粒子を、前記水素反応層のイオン特性を生じるように、前記水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積し、
該感応層は、前記水素化触媒微粒子による触媒作用を介して前記水素反応層に備わる前記水素反応微粒子が周囲に存する水素と反応し、又は該水素反応微粒子と反応した水素を放出するように構成されている、水素センサ構造体の製造方法を提供するものである。
【0023】
本発明により提供される水素センサ構造体の製造方法によれば、その水素センサ構造体の製造を、いわゆるレイヤー・バイ・レイヤー(Layer-by-Layer)法による層状構造体の形成過程によって、簡便に行うことができ、例えば、常温、大気下に行うことができる。そして、得られる感応層において、水素に反応する性質を有する水素反応微粒子が含まれ、また、水素反応層の少なくとも1層には水素との化学的な反応性を高めることができる水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子が含まれているので、その水素化触媒微粒子を介して周囲に存する水素が水素反応微粒子と反応し、又は該水素反応微粒子と反応した水素を放出するように構成されている。これにより、感応層における水素反応の前後の変化から、その水素を検知することができる。また、水素反応微粒子と水素化触媒微粒子とを同極に帯電した帯電微粒状に調製して、これを、水素反応層の1層あたりに該1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積させるので、ポリカチオン層又はポリアニオン層との間の静電的相互作用により固定される。よって、水素に対する感応層を膜状に形成したときに問題となる、クラッキングや剥離などが生じることによるセンサ特性の劣化が防がれる。更に、上記水素反応層は、該水素反応層のイオン特性に応じてポリカチオン層又はポリアニオン層を介して多重に積層されているので、得られる感応層において、上記水素反応微粒子の固着量を増やすことができる。よって、これにより、水素の有効量を即応的に上記水素反応微粒子と反応させることができ、ひいては水素に対する感応性を高めることができる。
【0024】
上記の水素センサ構造体の製造方法においては、前記水素反応微粒子として三酸化タングステン微粒子を含み、前記水素化触媒微粒子として白金ナノ粒子を含むことが好ましい。
【0025】
これによれば、汎用の素材を用いて水素センサ構造体を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、長期間の使用にわたる劣化が少なく、水素に対する感応性に優れた水素センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明にかかる光ファイバ水素センサの一実施形態を表す構成図であり、
図1(A)は光ファイバ水素センサの長手方向の断面図であり、
図1(B)は
図1(A)のB-B線における第2の光ファイバの断面図であり、
図1(C)は
図1(A)のA方向から見た第2の光ファイバの断面図であり、
図1(D)はエバネッセント波の挙動を図解した概要説明図である。
【
図2】本発明にかかる光ファイバ水素センサを備える水素センサ装置の一実施形態を表す構成図である。
【
図3】本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の一実施形態を表す構成図であり、囲い(A)で示す図は感応層の長手方向の断面を模式的に表した図であり、囲い(B)で示す図は感応層を上から見た平面を模式的に表した図である。
【
図4】本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の他の実施形態を表す構成図であり、囲い(A)で示す図は感応層の長手方向の断面を模式的に表した図であり、囲い(B)で示す図は感応層を上から見た平面を模式的に表した図である。
【
図5】本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の別の実施形態を表す構成図であり、囲い(A)で示す図は感応層の長手方向の断面を模式的に表した図であり、囲い(B)で示す図は感応層を上から見た平面を模式的に表した図である。
【
図6】試験例1において、本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察したときの観察像の一例である(倍率:30000倍)。
【
図7】試験例1において、本発明にかかる光ファイバ水素センサを使用して周囲に存する水素を検知したときのセンサ出力光の強度変化を示すグラフであり、
図7(A)は周囲の雰囲気を空気から4%水素/N
2希釈ガスに入れ替えた場合の出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)を示し、
図7(B)は4%水素/N
2希釈ガスを空気に戻した場合の出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)を示す。
【
図8】試験例2において、本発明にかかる光ファイバ水素センサを使用して周囲に存する水素を検知したときのセンサ出力光の強度変化を示すグラフであり、
図8(A)は周囲の雰囲気を空気から4%水素/N
2希釈ガスに入れ替えた場合の出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)を示し、
図8(B)は4%水素/N
2希釈ガスを空気に戻した場合の出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明について更に詳細に説明する。
【0029】
図1には、本発明にかかる光ファイバ水素センサの一実施形態が示される。この実施形態かかる水素センサは、以下に説明するヘテロコア構造を備えた光ファイバを利用するものである。
【0030】
図1に示される光ファイバ水素センサ1は、第1の光ファイバ10をヘテロコア部として備え、その両端には主要光伝送部として第2の光ファイバ20(図中、20A、20Bで示される。)が連なる構造をなしている。これにより、入射した光を伝送する光伝送部の途中に設けられた、当該へテロコア部を、周囲の状態の変化に応じて入射した光を受けた際の応答が変化する光応答部としている。
【0031】
図1(A)には長手方向の断面図が示される。この断面図に例示されるように、光ファイバ水素センサ1においては、主要光伝送部を構成する第2の光ファイバ20の途中が切断されて、その切断部分に第1の光ファイバ10が挿入されるようにしてヘテロコア部が形成されている。より詳細には、このようなヘテロコア構造の製造方法としては、限定されないが、例えば、第1の光ファイバ10の端面と第2の光ファイバ20の端面とを対向させて融着することなどである。
【0032】
第1の光ファイバ10は、例えば、石英ガラスで形成されてよく、その基本構成は、第1コア11と、その外周に形成された第1クラッド13とを備えてなるものである。第1の光ファイバ10は、限定されないが、例えばコア径の細さの観点からは、シングルモードファイバを用いて形成されることが好ましい。
【0033】
第2の光ファイバ20(20A、20B)は、例えば、石英ガラスで形成されてよく、その基本構成は、第2コア21A、21Bと、その外周にそれぞれ形成された第2クラッド23A、23Bを備えてなるものである。第2の光ファイバ20(20A、20B)は、限定されないが、例えばコア径の太さの観点からは、マルチモード光ファイバを用いて形成されることが好ましい。
【0034】
図1(A)~
図1(C)に示されるように、第1の光ファイバ10の第1コアの直径φ11が、第2の光ファイバ20の第2コア21A、21Bの直径φ21より小さくなるよう構成されている。すなわち、φ11<φ21であり、例えば、φ11=3μm、φ21=50μmなどである。
【0035】
このように構成することで、第1の光ファイバ10と第2の光ファイバ20との境界において、主要光伝送部を構成する第2の光ファイバ20(図中、20A側)のコア21A内をクラッド23Aで全反射しつつ伝送された光は、ヘテロコア部においては、その大部分が、第1の光ファイバ10のコア11には導光されずに、その第1クラッド13側に導光される。すなわち、ヘテロコア部において、光波は、第1クラッド13からなる層を擬似的なコア層とし、また外界環境を擬似的なクラッド層として伝搬する。その後、ヘテロコア部を伝搬した光波は、第2の光ファイバ20(図中、20B側)との境界面に到達し、コア21Bに導光されて伝送路に再結合される。
【0036】
図1(D)に示されるように、上記のような構成において、第1の光ファイバ10の第1クラッド13の外側表面に感応層30が形成されると、第1クラッド13内を伝搬する際に光のエネルギーが境界面から波長程度わずかに感応層30側に染み出す。この現象のように、異なる媒質の境界面において全反射条件を満たした環境下で、その境界面近傍に励起されるエネルギーは、一般にはエバネッセント波として知られている。
【0037】
図1に示される光ファイバ水素センサ1では、入射した光を伝送する光伝送部の途中に設けた光応答部において、その外側表面に形成した感応層30が周囲の状態の変化に応じて物質的に変化したとき、物質的な変化を起こした感応層30に染み出すエバネッセント波と相互作用して、その相互作用によって生じる光エネルギーの吸収や散乱といった情報が、受光側(図中、20B側)で受光される伝搬光に反映されるようにしている。
【0038】
以上説明したように、
図1に示される光ファイバ水素センサ1では、光ファイバの光伝送部のコア内を進行する光を、その途中でコア内からクラッド側に効果的に漏洩させて、その漏洩させた光波を利用して水素を検知する方式を採用したので、これにより検出感度を確保することができる。また、そのための構造としてヘテロコア構造を採用したことで、光ファイバを伝送される光を効果的にクラッド側に漏洩させながらも構造強度が確保された、実用性が高い水素センサとなる。
【0039】
一方、光ファイバの光伝送部のコア内を進行する光を、その途中でコア内から漏洩させるための構造としては、クラッド層をコア層近接まで除去する、いわゆるアンクラッドファイバ構造や、熱延伸による光ファイバテーパ構造などを採用してもよい。
【0040】
図2には、本発明にかかる水素センサ装置の一実施形態が示される。この水素センサ装置100は、光ファイバ水素センサ1を備え、更に、その光ファイバ水素センサ1に接続されるように延出した2本の光ファイバ20A、20Bと、光ファイバ水素センサ1の入射側の一方の光ファイバ20Aに所定波長の光を入射させる光源102と、光ファイバ水素センサ1の出射側の他方の光ファイバ20Bからの射出光に応じで電気信号を出力する光検出器104と、光検出器104からの電気信号を取り込むデータ処理装置106とが備わる。光源102としては、例えば、LED、LDなどを用いることができる。光検出器104としては、例えば、フォトダイオードを用いることができる。データ処理装置106としては、例えば、例えば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータ、あるいは、CPU等を含む電子回路ユニットにより構成される。なお、光検出器104を光スペクトルアナライザに代えることもできる。
【0041】
このように構成された水素センサ装置100では、その光源102から光ファイバ20Aを介して光ファイバ水素センサ1に光が入射し、光ファイバ20Bを介して光ファイバ水素センサ1から出射された光が光検出器120により検出されるようになっている。例えば、
図1に例示した光ファイバ水素センサ1を適用する場合には、その第2の光ファイバ20A、20Bを介して、光源102、光検出器104に接続して使用される。
【0042】
具体的には、これに限定されないが、一態様においてデータ処理装置106では、光検出器104の出力により示される出射光の強度の計測値と、入射光の既定の強度との比率等を指標値として、光ファイバ水素センサ1における光の伝送損失(以下、単に「光損失」という場合がある。)が評価されてもよい。この場合、入射光の強度に対する出射光の強度の比率が小さいほど、光ファイバ水素センサ1における光損失が大きいと評価される。
【0043】
(感応層 その1)
図3には、本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の一実施形態が示される。
【0044】
この実施形態においては、まず、光ファイバ水素センサ1(
図3中、符号1aで示される)のヘテロコア部を構成している第1の光ファイバ10において、その第1クラッド13を構成するガラス表面35のシラノール基には、シランカップリング剤を用いた処理によりアミノ基が導入されている。これにより第1の光ファイバ10の第1クラッド13の外側表面は正に帯電している。
【0045】
使用し得るシランカップリング剤としては、限定されないが、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0046】
次に、正に帯電した第1クラッド13の外側表面には、水素に反応する性質を有する水素反応微粒子31が固着し、当該微粒子の複数個よりなる第1の水素反応層301が形成されている。このとき、水素反応微粒子31は、その微粒子を調製する方法や調製後のコーティング処理等に依拠して、表面が負に帯電している。よって、正に帯電した第1クラッド13の外側表面には静電的相互作用を介して固着し、上記水素反応層301が形成される。更に、その第1の水素反応層301には、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子33が固着されている。この水素化触媒微粒子33の固着についても第1クラッド13の外側表面との静電的相互作用であり得る。
【0047】
使用し得る水素反応微粒子31としては、限定されないが、例えば、三酸化タングステンなどが挙げられる。
【0048】
また、使用し得る水素化触媒微粒子33としては、限定されないが、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、ニッケルなどが挙げられる。なかでも、水素化触媒としての反応性の観点からは、白金ナノ粒子が好ましい。
【0049】
ここで、水素反応微粒子31の粒子径としては、平均粒径が10~1000nmであることが好ましく、平均粒径30~500nmであることがより好ましい。感応層に用いる水素反応微粒子31の粒子径が、上記範囲内であると、当該微粒子を、水素反応層の1層あたりに該1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積させやすい。
【0050】
また、水素化触媒微粒子33の粒子径としては、平均粒径が1~100nmであることが好ましく、平均粒径10~50nmであることがより好ましい。感応層に用いる水素反応微粒子31の粒子径が、上記範囲内であると、水素反応微粒子31とともに、当該微粒子を、水素反応層の1層あたりに該1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積させやすい。
【0051】
次に、上記第1の水素反応層301の上に、正に帯電した第1のポリカチオン層302が形成されている。この場合も、静電的相互作用を介して付着している。
【0052】
ポリカチオン層を形成するのに使用し得るポリカチオンとしては、限定されないが、例えば、ポリジクロロジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリリジン、ポリクオタニウム-11、ポリエチレンイミン、キトサン、デキストランヒドロキシプロピルトリモニウムクロライド、DEAE-デキストランなどが挙げられる。
【0053】
次に、第1のポリカチオン層302の上には、静電的相互作用を介して、上記した、その表面が負に帯電している水素反応微粒子31が複数固着して、第2の水素反応層401が形成されている。そして、第2の水素反応層401にも、上記した水素化触媒微粒子33が固着している。
【0054】
更に、第2の水素反応層401の上には、上記したポリカチオン層又は上記した水素反応層と同様の構成であってよい、第2のポリカチオン層402と第3の水素反応層501とが、その順に形成されている。そして、第3の水素反応層501には、第1の水素反応層301及び第2の水素反応層401と同様、水素化触媒微粒子33が固着されている。
【0055】
なお、水素反応層を構成する成分もしくはポリカチオン層を構成する成分は、各層間で同じ種類のものを用いてもよく、もしくは各層間で異なる種類のものを用いてもよい。
【0056】
このようにして、本実施形態においては、水素反応層がポリカチオン層を介して多重に積層されている。ここでその積層数としては、典型的に、例えば、上記水素反応層の層数にして2~50層などであってよい。また、水素反応層がポリカチオン層を介して多層に積層してなる全体の層厚さとしては、典型的に、例えば、1~100μmなどであってよい。積層数を十分に確保することで、感応層には水素反応微粒子31の多数を固着させ、水素に対する感応性や即応性を高めることができる。また、全体の層厚さを上記範囲とすることで、感応層の層厚さを厚くし過ぎることなく、水素に対する感応性や即応性を発揮させることができる。
【0057】
なお、
図3中の囲い(A)で示す図においては、水素反応微粒子31と水素化触媒微粒子33とは、別異に、互いにひとかたまりに固着しているように表されているが、より詳細には、
図3中の囲い(B)で示す図のように、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が、互いに微粒子表面を残しつつ集合して微粒子集積体を形成して、それによって水素反応層が構成されている。
【0058】
(水素との反応)
以下には、三酸化タングステンを水素反応微粒子31として用いたときの水素との反応の一例を示す。
・式A:WО3+H2→H2WO3
・式B:H2WO3→WО3+H2
【0059】
上記式Aによれば、三酸化タングステンの水素化反応が表されている。また、上記式Bによれば、三酸化タングステンの脱水素化反応が表されている。
【0060】
光ファイバ水素センサ1が所定の雰囲気下に暴露され、このとき、感応層30が接する周囲の状態が、水素を含む状態もしくは水素が所定濃度を超えて存する場合には、上記式Aに従い、当該水素は三酸化タングステンと反応して感応層30に取り込まれる。そして、その影響としては、光ファイバ水素センサ1に入射した光が、主要光伝送部を構成する第2の光ファイバ20の20A側からヘテロコア部を通って第2の光ファイバ20の20B側に向かって伝送されるとき、ヘテロコア部の第1クラッド13から染み出したエバネッセント波について、そのエネルギーが吸収される向きに働く。よって、センサの光ファイバに入射した光がどの程度減衰するかを測定することにより、周囲に存する水素を検知することができる。また、ここで、光損失の程度と周囲に存する水素の濃度とを予め関係付けておくことにより、測定により得られた光損失の程度から水素濃度を求めることができる。
【0061】
一方、感応層が接する周囲の状態が、水素を含まない状態もしくは水素が所定濃度以下の場合には、三酸化タングステンの水素化は起こらないか又はその程度は低くなる。また、水素が感応層に取り込まれていた場合には、上記式Bに従い、当該水素は周囲に放出される。そして、その影響としては、光ファイバ水素センサ1に入射した光が、主要光伝送部を構成する第2の光ファイバ20の20A側からヘテロコア部を通って第2の光ファイバ20の20B側に向かって伝送されるとき、ヘテロコア部の第1クラッド13から染み出したエバネッセント波について、そのエネルギーが吸収されずに、維持される向きに働く。よって、センサの光ファイバに入射した光がどの程度減衰せずに維持されるかを測定することにより、周囲に水素が存しないか又はその濃度が所定値より低いことを検知することができる。また、上記同様、光損失と水素濃度を予め関係付けておくことにより、得られた光損失から水素濃度を求めることができる。
【0062】
白金ナノ粒子等の水素化触媒微粒子33によれば、上記式Aにより表される水素化反応、及び上記式Bにより表される脱水素化反応の、そのいずれの方向にも促進する。よって、感応層における水素化触媒微粒子33の存在により、水素センサとしての感応性や即応性に寄与する。一方で、白金ナノ粒子等の水素化触媒微粒子33がないか又はその量が不十分であると、水素との反応がいずれの方向にも進みづらい。
【0063】
(感応層 その2)
図4には、本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の他の実施形態が示される。ここで、
図1~
図3において説明した実施形態における構成要素と類似あるいは同様の構成要素についは同じ符号を用いて説明する。
【0064】
この実施形態においては、まず、光ファイバ水素センサ1(
図4中、符号1bで示される)のヘテロコア部を構成している第1の光ファイバ10において、その第1クラッド13を構成するガラス表面35にはシランカップリング剤による処理を行っていない。よって、
図2において説明した実施形態とは異なり、第1の光ファイバ10の第1クラッド13の外側表面は、そのガラス表面のシラノール基により負に帯電している。
【0065】
次に、負に帯電した第1クラッド13の外側表面には、正に帯電した第1のポリカチオン層302が形成されている。この場合、使用し得るポリカチオンとしては上述に例示したのと同様であり、該ポリカチオン層は静電的相互作用を介して付着している。
【0066】
次に、第1のポリカチオン層302の上には、水素に反応する性質を有する水素反応微粒子31が固着し、当該微粒子の複数個よりなる第1の水素反応層301が形成されている。また、その第1の水素反応層301には、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子33が固着されている。この場合、これら微粒子として使用し得るものの種類や、好ましい粒子径、固着の態様等については、上述に例示したのと同様である。
【0067】
更に、第1の水素反応層301の上には、上記したポリカチオン層又は上記した水素反応層と同様の構成であってよい、第2のポリカチオン層402と、第2の水素反応層401と、第3のポリカチオン層502と、第3の水素反応層501とが、それぞれその順に形成されている。そして、第2の水素反応層401に及び第3の水素反応層501のそれぞれには、第1の水素反応層301と同様、水素化触媒微粒子33が固着されている。
【0068】
ここで、
図3で説明した形態と同様に、
図4中の囲い(A)で示す図において、水素反応微粒子31と水素化触媒微粒子33とは、別異に、互いにひとかたまりに固着しているように表されているが、より詳細には、
図4中の囲い(B)で示す図のように、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が、互いに微粒子表面を残しつつ集合して微粒子集積体を形成して、それによって水素反応層が構成されている。
【0069】
また、その積層数としては、典型的に、例えば、上記水素反応層の層数にして2~50層などであってよい。また、水素反応層がポリカチオン層を介して多層に積層してなる全体の層厚さとしては、典型的に、例えば、1~100μmなどであってよい。
【0070】
なお、水素反応層を構成する成分もしくはポリカチオン層を構成する成分は、各層間で同じ種類のものを用いてもよく、もしくは各層間で異なる種類のものを用いてもよい。
【0071】
(感応層 その3)
図5には、本発明にかかる光ファイバ水素センサに備わる感応層の別の実施形態が示される。ここで、
図1~
図4において説明した実施形態における構成要素と類似あるいは同様の構成要素についは同じ符号を用いて説明する。
【0072】
この実施形態においては、まず、
図2において説明した実施形態と同様にして、光ファイバ水素センサ1(
図5中、符号1cで示される)のヘテロコア部を構成している第1の光ファイバ10において、その第1クラッド13を構成するガラス表面35のシラノール基には、シランカップリング剤を用いた処理によりアミノ基が導入されている。これにより第1の光ファイバ10の第1クラッド13の外側表面は正に帯電している。
【0073】
次に、正に帯電した第1クラッド13の外側表面には、水素に反応する性質を有する水素反応微粒子31が固着し、当該微粒子の複数個よりなる第1の水素反応層301aが形成されている。このとき、水素反応微粒子31は、その微粒子を調製する方法や調製後のコーティング処理等に依拠して、表面が負に帯電している。よって、正に帯電した第1クラッド13の外側表面には静電的相互作用を介して固着し、上記水素反応層301aが形成される。この場合、水素反応微粒子31として使用し得るものの種類や、好ましい粒子径等については、上述に例示したのと同様である。ただし、この実施形態においては、
図2において説明した実施形態とは異なり、第1の水素反応層301aに水素化食水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子は固着されていない。
【0074】
次に、第1の水素反応層301aの上には、正に帯電した第1のポリカチオン層302が形成されている。この場合、使用し得るポリカチオンとしては上述に例示したのと同様であり、該ポリカチオン層は静電的相互作用を介して付着している。
【0075】
次に、第1のポリカチオン層302の上には、静電的相互作用を介して、上記した、その表面が負に帯電している水素反応微粒子31が複数固着して、第2の水素反応層401aが形成されている。この場合、水素反応微粒子31として使用し得るものの種類や、好ましい粒子径等については、上述に例示したのと同様である。ただし、この第2の水素反応層401aにも、上記した水素化触媒微粒子は固着されていない。
【0076】
次に、第2の水素反応層401aの上には、上記したポリカチオン層と同様の構成であってよい、第2のポリカチオン層402が形成されている。この場合も、静電的相互作用を介して付着している。
【0077】
更に、第2のポリカチオン層の上には、上記した、その表面が負に帯電している水素反応微粒子31が複数固着して、第3の水素反応層501が形成されている。また、その第3の水素反応層501には、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子33が固着されている。この場合、これら微粒子として使用し得るものの種類や、好ましい粒子径、固着の態様等については、上述に例示したのと同様である。
【0078】
ここで、
図3、
図4で説明した形態と同様に、
図5中の囲い(A)で示す図において、水素反応微粒子31と水素化触媒微粒子33とは、別異に、互いにひとかたまりに固着しているように表されているが、より詳細には、
図5中の囲い(B)で示す図のように、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が、互いに微粒子表面を残しつつ集合して微粒子集積体を形成して、それによって水素反応層が構成されている。
【0079】
また、その積層数としては、典型的に、例えば、上記水素反応層の層数にして2~50層などであってよい。また、水素反応層がポリカチオン層を介して多層に積層してなる全体の層厚さとしては、典型的に、例えば、1~100μmなどであってよい。
【0080】
また、
図5に示す第3の水素反応層501は多層形成の途中の層として表されているが、水素化触媒微粒子33が固着されてなる水素反応層が最も外側の最外層を構成していてもよい。
【0081】
なお、水素反応層を構成する成分もしくはポリカチオン層を構成する成分は、各層間で同じ種類のものを用いてもよく、もしくは各層間で異なる種類のものを用いてもよい。
【0082】
(感応層 その4)
本発明に適用される感応層としては、
図3~
図5において説明した実施形態の構成のもの以外にも、適宜、他の形態を採用し得る。ここで、上述の例示では、三酸化タングステン微粒子や白金ナノ粒子等の金属微粒子は、通常、負に帯電した微粒子状に調製される場合が多いため、介在するポリイオン層としてはポリカチオン層を例示して説明したが、これをポリアニオン層に代えてもよい。この場合、各微粒子のイオン特性としては、適宜、適当なコーティング処理や調製法により、正又は必要に応じて負に帯電させて用いることができる。
【0083】
この場合、ポリアニオン層を形成するのに使用し得るポリアニオンとしては、限定されないが、例えば、ポリアクリル酸及びその塩、ポリグルタミン酸及びその塩、ポリビニル硫酸及びその塩、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルセルロース、デキストラン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン硫酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩などが挙げられる。
【0084】
また、水素反応微粒子や水素化触媒微粒子を正に帯電させるためのカチオン化コーティング剤としては、限定されないが、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。また、水素反応微粒子や水素化触媒微粒子を負に帯電させるためのアニオン化コーティング剤としては、限定されないが、例えば、アルカンチオール誘導体(11-Amino-1-undecanethiol, hydrochlorideなど)、スルホン酸誘導体、カルボン酸誘導体などが挙げられる。
【0085】
これらのうちの1種又は2種以上を溶液の形態に調製したうえ、これに微粒子を懸濁した後、遠心により沈殿させて上清を除き、必要であればそのコーティング剤による処理の操作を繰り返す。その後、純水を加えて懸濁して、同様に、遠心により沈殿させて上清を除いて、必要に応じてその洗浄の操作も繰り返す。このように懸濁と遠心の操作を繰り返すことにより、表面がカチオン化又はアニオン化した水素反応微粒子又は水素化触媒微粒子を調製することができる。あるいは、例えば、白金ナノ粒子では、塩化白金酸水溶液にシステアミンを加える工程を有するが、ここに水素化ホウ素ナトリウムを加えて調製すると、表面にアミノ基が導入されて、正に帯電した白金ナノ粒子が得られる。
【0086】
本発明に適用される感応層の形態としては、限定されないが、
図3~
図5において説明した実施形態の構成のものも含め、例えば、以下のとおり例示することができる。
【0087】
(1)シランカップリング剤による処理を施さないガラス表面に、正に帯電した水素反応微粒子を適用することで第1の水素反応層となし、その上に、負に帯電した第1のポリアニオン層が形成され、その上に、第1の水素反応層と同様の構成であってよい、第2の水素反応層が形成され、その上に、第1のポリアニオン層と同様の構成であってよい、第2のポリアニオン層が形成され、その上に、第1又は第2の水素反応層と同様の構成であってよい、第3の水素反応層が形成されている。ここで、水素反応層には水素反応微粒子が該層の1層にわたって所定のイオン特性(この場合、カチオン性)を生じるよう集積されている。また、水素反応層の複数層のうちのいずれか1層には、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されているか、もしくいずれの水素反応層にも、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されている。なおこのとき、水素化触媒微粒子及び水素反応微粒子は、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が互いに接触して微粒子集積体が形成されてもよく、一方で微粒子同士が互いに接触せずに、ポリアニオン層に固着された状態の部分が水素反応層の1層の一部又は全部を占めてもよい。
【0088】
(2)シランカップリング剤による処理を施さしたガラス表面に、負に帯電した第1のポリアニオン層が形成され、その上に、正に帯電した水素反応微粒子を適用することで第1の水素反応層となし、その上に、第1のポリアニオン層と同様の構成であってよい、第2のポリアニオン層が形成され、その上に、第1の水素反応層と同様の構成であってよい、第2の水素反応層が形成され、その上に、第1又は第2のポリアニオン層と同様の構成であってよい、第3のポリアニオン層が形成され、その上に、第1又は第2の水素反応層と同様の構成であってよい、第3の水素反応層が形成されている。ここで、水素反応層には水素反応微粒子が該層の1層にわたって所定のイオン特性(この場合、カチオン性)を生じるよう集積されている。また、水素反応層の複数層のうちのいずれか1層には、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されているか、もしくいずれの水素反応層にも、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されている。なおこのとき、水素化触媒微粒子及び水素反応微粒子は、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が互いに接触して微粒子集積体が形成されてもよく、一方で微粒子同士が互いに接触せずに、ポリアニオン層に固着された状態の部分が水素反応層の1層の一部又は全部を占めてもよい。
【0089】
(3)シランカップリング剤による処理を施さしたガラス表面に、負に帯電した水素反応微粒子を適用することで第1の水素反応層となし、その上に、正に帯電した第1のポリカチオン層が形成され、その上に、第1の水素反応層と同様の構成であってよい、第2の水素反応層が形成され、その上に、第1のポリカチオン層と同様の構成であってよい、第2のポリカチオン層が形成され、その上に、第1又は第2の水素反応層と同様の構成であってよい、第3の水素反応層が形成されている。ここで、水素反応層には水素反応微粒子が該層の1層にわたって所定のイオン特性(この場合、アニオン性)を生じるよう集積されている。また、水素反応層の複数層のうちのいずれか1層には、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されているか、もしくいずれの水素反応層にも、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されている。なおこのとき、水素化触媒微粒子及び水素反応微粒子は、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が互いに接触して微粒子集積体が形成されてもよく、一方で微粒子同士が互いに接触せずに、ポリカチオン層に固着された状態の部分が水素反応層の1層の一部又は全部を占めてもよい。
【0090】
(4)シランカップリング剤による処理を施さないガラス表面に、正に帯電した第1のポリカチオン層が形成され、その上に、負に帯電した水素反応微粒子を適用することで第1の水素反応層となし、その上に、第1のポリカチオン層と同様の構成であってよい、第2のポリカチオン層が形成され、その上に、第1の水素反応層と同様の構成であってよい、第2の水素反応層が形成され、その上に、第1又は第2のポリカチオン層と同様の構成であってよい、第3のポリカチオン層が形成され、その上に、第1又は第2の水素反応層と同様の構成であってよい、第3の水素反応層が形成されている。ここで、水素反応層には水素反応微粒子が該層の1層にわたって所定のイオン特性(この場合、アニオン性)を生じるよう集積されている。また、水素反応層の複数層のうちのいずれか1層には、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されているか、もしくいずれの水素反応層にも、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されている。なおこのとき、水素化触媒微粒子及び水素反応微粒子は、同じ微粒子同士もしくは両方の微粒子が互いに接触して微粒子集積体が形成されてもよく、一方で微粒子同士が互いに接触せずに、ポリカチオン層に固着された状態の部分が水素反応層の1層の一部又は全部を占めてもよい。
【0091】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの形態において、周囲の雰囲気に接する表面側の水素化触媒作用を促進する観点から、少なくとも最表面側の水素反応層には、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに、該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されている。
【0092】
(6)上記(1)~(4)のいずれかの形態において、周囲の雰囲気に接する表面側の水素化触媒作用を促進する観点から、少なくとも最表面側の水素反応層と次に表面側に近い水素反応層の2層には、水素化触媒微粒子が水素反応微粒子とともに該層の1層にわたって所定のイオン特性を生じるよう集積されている。
【0093】
(感応層の調製方法)
以下、本発明により提供される光ファイバ水素センサ又は水素センサ構造体に共通して備わる、当該感応層の調製方法について、更に具体的に説明する。ただし、これらの説明は、本発明にかかる当該感応層を調製する方法の範囲を限定するものではない。
【0094】
第1に、水素に反応する性質を有する物資を帯電微粒子状に調製してなる該水素反応微粒子を含む第1液を調製する。
【0095】
使用し得る水素反応微粒子としては、上述したとおりであり、限定されないが、例えば、三酸化タングステンなどが挙げられる。また、粒子径としては、平均粒径が10~1000nmであることが好ましく、平均粒径30~500nmであることがより好ましい。また、微粒子の帯電状態は、その微粒子を調製する方法や調製後のコーティング処理等に依拠している。
【0096】
この第1液において、水素反応微粒子を含む媒質としては、浸漬、塗布、スプレー等の処理によって所望する基体の表面や形成させた各層の表面に適用することが可能とされた性状であればよい。典型的に、例えば、水性溶液からなる媒質あるいは水による懸濁液であってもよい。ここで、水素反応微粒子は所望のイオン特性を有するよう正又は負に帯電している。これにより、正又は負に帯電した基体表面に適用したとき、静電的相互作用を介して水素反応層が形成される。また、水素反応微粒子は所定の粒子径に調製されている。これにより、基体に適用したとき、静電的相互作用を介する固着により、適用された水素反応微粒子が粒子径をほぼ保ったままの状態で水素反応層が形成されるので、例えば、該微粒子が媒質中で有していた表面の一部を残す状態に固着させやすい。
【0097】
第2に、アニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーを含む第2液を調製する。第1液と同様に、浸漬、塗布、スプレー等の処理によって所望する基体の表面や形成させた各層の表面に適用することが可能とされた性状であればよい。典型的に、例えば、水性溶液からなる媒質あるいは水による水溶液であってもよい。ここで、アニオン性ポリマー又はカチオン性ポリマーを含む第2液溶液状であれば、所望する基体の表面や形成させた各層の表面に適用したとき、均一な性状のポリカチオン層又はポリアニオン層を形成させやすい。
【0098】
第3に、上記第1液と上記第2液を適用して、その表面に感応層を形成させる基体を準備する。ただし、上記した各層を静電的相互作用により多層に形成するには、上記第1液又は上記第2液を最初に適用する基体の表面についても正又は負に帯電していることが好ましい。このため、必要であれば、上述したように基体がガラスであればシランカップリング処理によりシラノール基にアミノ基を導入してカチオン化することができる。また、その他の材質であっても、もともとの性状が正又は負に帯電していたり、必要に応じて、適宜、適当なコーティン剤による処理より、正又は負に帯電させたりすることができる。そのための、正に帯電させるためのカチオン化コーティング剤、又は負に帯電させるためのアニオン化コーティング剤としては、限定されないが、例えば、水素反応微粒子や水素化触媒微粒子のイオン特性を調整するのに用いたものを、好ましく例示することができる。
【0099】
第4に、上記第1液及び上記第2液を、交互に、基体表面に適用する。このとき、適用手段は、浸漬、塗布、スプレー等の処理によればよく特に限定されない。操作の簡便さの観点からは、基体を第1液又は第2液に浸漬し、それを引き上げて余分な媒質を除いて、形成させるべき層を固定してから、基体を次の第1液又は第2液に浸漬して、それを引き上げて余分な媒質を除いて、上記層の上に形成させるべき層を固定して、このような操作を繰り返すことにより、基体に適用することが好ましい。各操作を繰り返すときの雰囲気としては、常温、大気下で行えばよい。具体的に、例えば、浸漬するときの温度条件としては4~50℃であってよく、あるいは15~27℃であってよい。液を切って乾かすときの温度条件としては4~50℃であってよく、あるいは15~27℃であってよい。
【0100】
第5に、上記第1液には、形成させる層あたりに水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子を固着させる必要に応じて、水素化触媒作用を有する水素化触媒微粒子を含有せしめる。このとき、水素化触媒微粒子の帯電状態を水素反応微粒子と同じくしておく。すなわち、水素反応微粒子として正に帯電したものを用いるとすれば、水素化触媒微粒子についても正に帯電したものを用い、水素反応微粒子として負に帯電したものを用いるとすれば、水素化触媒微粒子についても負に帯電したものを用いる。これにより、形成される水素反応層が有するイオン特性と適合させることができ、水素化触媒微粒子をより安定的に水素反応層に固着させることができる。また、水素化触媒微粒子は所定の粒子径に調製されている。これにより、基体に適用したとき、静電的相互作用を介する固着により、適用された水素反応微粒子が粒子径をほぼ保ったままの状態で水素反応層が形成されるので、例えば、該微粒子が媒質中で有していた表面の一部を残す状態に固着させやすい。
【0101】
使用し得る水素化触媒微粒子としては、上述したとおりであり、限定されないが、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、ニッケルなどが挙げられる。なかでも、水素化触媒としての反応性の観点からは、白金ナノ粒子が好ましい。また、粒子径としては、平均粒径が1~100nmであることが好ましく、平均粒径10~50nmであることがより好ましい。
【0102】
本明細書において、微粒子について「水素反応層の1層あたりに該1層にわたって集積」とは、微粒子が3次元的な構造体を形成する意味に限らず、2次元的に参集して、ポリカチオン層又はポリアニオン層に静電的相互作用を介して固定されて水素反応層を構成する場合をも含む意味である。また、微粒子同士が接触する場合だけでなく、接触せずとも、各微粒子が個別にポリカチオン層又はポリアニオン層に静電的相互作用を介して固定されて水素反応層を構成する場合をも含む意味である。
【0103】
本明細書において、「微粒子集積体」とは、微粒子を、所定の媒質を用いて懸濁液状に調製して光ファイバ等の基体表面やポリカチオン層又はポリアニオン層に固着させた際、その微粒子が、懸濁液状に調製したときに微粒子が有していた表面の一部を残しつつ集合している状態をいう。上記のような状態で固着しているかどうかは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたイメージングなどにより確認することができる。
【0104】
本明細書において、光ファイバ水素センサの光応答部の外側表面に形成させる感応層、又は水素センサ構造体の基体の表面に形成させる感応層の層厚さは、限定されないが、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた断面のイメージングなどにより測定することができる。
【0105】
本明細書において、光ファイバ水素センサ又は水素センサ構造体に用いる水素反応微粒子もしくは水素化触媒微粒子の粒子径は、限定されないが、例えば、懸濁液に調製したうえ動的光散乱法による粒子径分布測定装置により測定することができる。また、微粒子を含む懸濁液を固体基盤上に滴下し、乾燥後、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたイメージングなどにより測定することも可能である。
【実施例0106】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0107】
(調製例1)
0.5Mタングステン酸ナトリウム水溶液10mLを、ベット体積17mLのイオン交換樹脂(「SP-トヨパール」、東ソー株式会社)を詰めたカラム(内径25mm、長さ23cm)に通し、タングステン酸(H2WO4)を含む溶出液を回収した。これを、常温下、3日間以上放置し、三酸化タングステン(WO3)の微粒子を含む懸濁液を得た。
【0108】
(調製例2)
沸騰水200mLに1%クエン酸カリウム水溶液15mLと1.7%塩化白金酸水溶液2mLを加え、1時間反応させ、白金ナノ粒子を含む懸濁液を得た。
【0109】
(調製例3)
調製例1で得られた懸濁液の1質量部と、調製例2で得られた懸濁液の2質量部とを混合して、以下、試験例において第1液として使用した。
【0110】
〔試験例1〕
・第1液:調製例3で得られた懸濁液
・第2液:20mMポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液
・光ファイバ:コア径3μm、クラッド径125μm、長さ2cmのシングルモード光ファイバの両端に、コア径50μm、クラッド径125μmのマルチモード光ファイバを融着して構成した。
【0111】
1%酢酸水溶液に、濃度が1%になるように3-アミノプロピルトリメトキシシランを加えて撹拌して、シランカップリング剤溶液を調製した。ここに光ファイバ(シングルモード光ファイバのクラッド表面はガラスがむき出しであり、マルチモード光ファイバクラッド表面は樹脂で被覆されている。)を2分間浸した後、引き上げて余分な液体を除いたうえ、乾かして、ガラス表面のシアノール基にアミノ基を導入した。
【0112】
ヘテロコア部の外周表面にアミノ基を導入した光ファイバを、第1液に1分間浸した後、引き上げて余分な液体を除いたうえ、乾かした。次に、第2液に1分間浸した後、引き上げて余分な液体を除いたうえ、乾かした。更に、第1液に浸して処理するといった工程を繰り返して、水素反応層とポリカチオン層とをその順で合計15層になるまで積層して、
図3において説明した実施形態と同様の構成からなる光ファイバ水素センサを作製した。
【0113】
なお、上記した浸漬と乾燥の工程の繰り返しは、いずれも常温、大気下に行った。
【0114】
図6には、得られた光ファイバ水素センサの感応層の表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した観察像の一例を示す(倍率:30000倍)。
【0115】
図6に示されるように、微粒子が、その微粒子状の表面を残したまま複数個集積して、水素反応層を構成していることがわかる。なお、粒子径200~700nm程度の比較的大きな微粒子が三酸化タングステン微粒子であり、その三酸化タングステン微粒子による集積体の表面上にちりばめられるように配された、粒子径10~50nm程度の比較的小さな微粒子が白金ナノ粒子であるものと考えられた。
【0116】
図7には、この光ファイバ水素センサを使用して周囲に存する水素を検知したときのセンサ出力光の強度変化を示す。
【0117】
図7(A)に示されるように、センサ周囲の雰囲気を空気から4%水素/N
2希釈ガスに入れ替えると、センサからの出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)は、ガス入替の時間も含めて、ほぼ1~2分間で応答し、周囲の水素を検知できた。
【0118】
図7(B)に示されるように、センサ周囲の雰囲気を入れ替えて4%水素/N
2希釈ガスから空気に戻すと、センサからの出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)は、ガス入替の時間も含めて10分間で応答を完了しており、常温下に感応層から水素が放出されてセンサが再生した。
【0119】
以上から、本実施形態の構成によれば、水素に対する感応性や即応性に優れた、実用性の高い光ファイバ水素センサを提供できることが明らかとなった。
【0120】
〔試験例2〕
試験例1で使用した第1液として、三酸化タングステン(WO3)の微粒子のみを含む懸濁液を用いて、試験例1と同様にして、最終層の1層前までを形成し、最終層には、試験例1で使用した第1液と同じく白金ナノ粒子を一緒に含む懸濁液を用いて、その他は試験例1と同様にして、ヘテロコア部の外周表面に感応層を形成し、光ファイバ水素センサを構成した。
【0121】
図8には、この光ファイバ水素センサを使用して周囲に存する水素を検知したときのセンサ出力光の強度変化を示す。
【0122】
図8(A)に示されるように、センサ周囲の雰囲気を空気から4%水素/N
2希釈ガスに入れ替えると、センサからの出力光の強度変化(波長700nmにおける伝搬光強度変化)は、ガス入替の時間も含めて、ほぼ1~2分間で応答し、周囲の水素を検知できた。ただし、応答が完了するまでの時間は、試験例1で使用したセンサ構造より延長した。
【0123】
図8(B)に示されるように、センサ周囲の雰囲気を入れ替えて4%水素/N
2希釈ガスから空気に戻したとき、センサからの出力光の強度(波長700nmにおける伝搬光強度)は、そのレベルが減少傾向となるものの、ベースラインまでは低下しなかった。
【0124】
以上から、本実施形態の構成によれば、水素に対する検知能力は十分に備えるものの、センサの再生化の点では、試験例1で使用したセンサ構造に比べてやや劣っていることが明らかとなった。これは、センサの感応層に固着させた水素化触媒微粒子の量の違いによるものであると考えられた。
1、1a、1b、1c…光ファイバ水素センサ、10…第1の光ファイバ、11…第1コア、13…第1クラッド、20、20A、20B…第2の光ファイバ、21A、21B…第2コア、23A、23B…第2クラッド、30…感応層、31…水素反応微粒子(負に帯電)、33…水素化触媒微粒子(負に帯電)、35…ガラス表面、100…水素センサ装置、102…光源、104…光検出器、106…データ処理装置、301、301a…第1の水素反応層、302…第1のポリカチオン層、401、401a…第2の水素反応層、402…第2のポリカチオン層、501…第3の水素反応層、502…第3のポリカチオン層